デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
1款 東京商法会議所
■綱文

第17巻 p.237-240(DK170024k) ページ画像

明治12年12月17日(1879年)

是日栄一、定式集会ニ於テ内国商業事務委員トシテ本年度ノ金融景況ヲ報道スル筈ナリシガ、都合ニヨリ之ヲ「東京商法会議所要件録」第十号ニ掲載ス。


■資料

東京商法会議所要件録 第一〇号・第六―七丁 明治一三年一月一九日刊(DK170024k-0001)
第17巻 p.237 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一〇号・第六―七丁 明治一三年一月一九日刊
  第十一定式集会 明治十二年十二月十七日午後六時十分開場
    議員出席スル者 ○十九名
○上略
右畢リテ内外貿易事務委員ノ報告ニ移ラントスルニ当リ十五番(益田孝)ノ発議ニ依リ各委員ノ報告ハ今会尽ク之ヲ了スルノ時間ナク、且ツ今夕本会議員出席ノ寡ナキヲ以テ、此報告ハ之ヲ印刷ニ付シ速ニ各員ニ頒布スルノ優ルニ如カズト云フニ決シ、会頭ハ放会ヲ命ス、時ニ十時四十分ナリ

東京商法会議所要件録 第一〇号参考ノ部・第一―一五丁 明治一三年一月一九日刊(DK170024k-0002)
第17巻 p.237-240 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一〇号参考ノ部・第一―一五丁 明治一三年一月一九日刊
                  内国商業事務委員
                      渋沢栄一
    金融景況ノ報告
内国商業事務委員渋沢栄一謹テ本年金融ノ景況ヲ陳述シテ以テ我東京商法会議所議員足下ノ参考ニ供ス栄一親シク実験スル処ニ拠リテ之レヲ審按スルニ本年中金融ノ景況ハ之レヲ概言スレハ非常ノ変動ナシト言フヘシ、時ニ或ハ一二ノ急変ナキニアラスト雖モ唯一時ノ事ニ止マリテ久シク継続シタルモノニアラス、蓋シ通貨ノ景況ハ明治九年銀行条例ヲ改正セラレシヨリ今玆明治十二年ニ至ルマテ銀行紙幣ノ増加スルモノ殆ント三千三百万円ノ巨額ヲ致シ、又西南騒擾ノ事アリテ政府紙幣ノ増発スルモノ弐千七百万円ニ至ル、抑モ貨幣ト貨物トノ割合ニ於テ自ラ適当ノ度アルヘキハ諸君ノ明知セラルヽ所ナリ、栄一今ニシテ之ヲ思フニ明治十一年一歳ノ景況ハ西南及其他地方ニ落チタル紙幣ガ貨物ト適当ノ割合ヲ得ンガ為メニ非常ノ速力ヲ以テ各地ニ溢流シタルノ趣アリ、其余勢明治十二年ニ至リテ尚ホ未タ衰ヘスシテ恰モ行潦ノ漫々トシテ廻旋スルノ状況アルヲ見ルナリ
如斯ク貨幣ノ流動スルノ際ニ当リテ都会ト地方トノ間ニ発出シタル一事件アリ、即チ金利ノ割合漸ク相近邇セントスルノ勢アル事是ナリ、蓋シ従来都会ト地方トノ利息ハ常ニ差異アルモノニシテ、例ヘハ都会ノ利息平均一割二分ナレハ地方ノ利息ハ一割八分乃至二割ヲ以テセリ
 - 第17巻 p.238 -ページ画像 
明治十一年ニ在ツテハ前ニ陳スル景況ナリシヲ以テ地方ノ金融ハ常ニ余裕アルノミナラス、新立銀行ノ如キハ勉メテ其資金ヲ融通セン事ヲ求ムルモ尚其運転ヲ為ス能ハザルモノアリキ、是ヲ以テ其余響ハ忽チ都会ニ波及シテ現ニ明治十一年春夏ノ際ニハ東京・大坂ノ金利ハ年一割以下ニ低下シ、各地方ノ如キモ概ネ年一割二分ヲ定度ト為スニ至レリ、然ルニ明治十二年ニ至リテ都会ノ利息ハ漸ク高ク地方ノ利息ハ尚依然タルヲ以テ終ニ都鄙ノ金利ハ殆ント相均シキノ景況ヲ現出セリ、栄一今其然ル所以ノモノヲ考察スルニ第一ノ源因ハ起業公債募集ノ件ナルベシ、蓋シ公債ハ世ノ貸金資本ヲ吸入スルノ結果アルモノニシテ民間ノ資本為ニ幾分ヲ減省セズンバアラズ、起業公債募集ノ挙タル昨明治十一年ノ末ヨリ本年ニ跨ガリ其金額一千万円ニシテ各地募集ノ割合ハ左ノ如シ

 東京ヨリ               三、六八四、〇五〇円
 京摂地方ヨリ             五、一一三、五五〇円
   右合計              八、七九七、六〇〇円
 其他ノ各地方ヨリ           三、七〇二、四〇〇円
   総計              一二、五〇〇、〇〇〇円

右ノ如ク都会ノ貨幣多ク募集ニ応シタルヲ以テ、都会ノ金利為メニ大ニ騰貴シ、昨年ノ末ヨリ今年ノ始ニ懸ケテ金融漸ク繁劇ナリキ、而シテ当一週年ノ間都会金融ノ尚ホ閑ナラザリシモノハ実ニ之ニ依ラズンバアラズ、第二公債証書ノ都会ニ転入シタル是ナリ、栄一熟々東京府庁ノ報告スル所ヲ見ルニ其計算左ノ如シ

図表を画像で表示--

       管外ヨリ転入        管外ヘ転出        越高 一月    二、四八九、〇九〇円     二四七、四二五円   六六、二五七、五七五円 二月    二、六一〇、〇一五円     二〇三、六三〇円   六八、六六三、九六〇円 三月    三、九八三、五八〇円     四〇五、三二五円   七二、二四二、二一五円 四月      二二九、六七五円      一二、九七五円   七一、八二〇、三九〇円      抽籖              六三八、五二五円 五月    三、七三一、二〇五円     一七三、四二五円   七五、三六三、四四五円      抽籖               一四、七二五円 六月    一、八八八、二四〇円     一六七、九〇五円   七七、〇八三、七八〇円 七月    一、一一二、三八五円     一四六、二二五円   七八、〇四九、七九〇円      抽籖                  一五〇円 八月      八七三、二五五円     二六二、一六〇円   七八、六六〇、八八五円 九月    二、八四九、二九五円     三三一、五五〇円   八一、一七八、六三〇円 十月       七〇、四二五円      四六、五五〇円   八一、二〇二、五〇五円                                 差引管外ヨリ転入ノ多キモノ 合計   一九、八三七、一六五円   二、六五〇、五七〇円   一七、一八六、五九五円 




右之表ニ拠ルニ明治十二年一月ヨリ十月迄ノ間ニ諸公債証書ノ東京ニ転入セシモノ証書金額ニ於テ千五百万円ノ巨額ヲ為セリ、蓋シ金禄公債証書ノ士族ニ下附セラレシヨリ、此証書ハ恰モ地方ノ一産物ノ趣キヲ為シ、都会ノ商賈之ヲ売収《(買)》センガ為ニ地方ニ貨幣ヲ提携スルモノ極メテ多シ、本年六七月ノ頃ニ至リ各地銀行ガ税金預所ヲ命ゼラルヽニ及テ、其預リ金ノ抵当ニ充ツル為メ東京ニ転入スル事一時阻碍セラレタリト雖モ、東京ノ公債相場ハ為ニ其金融ノ繁忙ナルニモ拘ラスシテ
 - 第17巻 p.239 -ページ画像 
騰貴ノ気ヲ含ミタルヲ以テ又従前ノ如ク転入スルニ至レリ、是則都会ノ資本ヲ地方ニ分洩シ都会ト地方ノ金利ヲシテ漸ク相近邇セシメタルモノナリ、第三ノ源因ハ国立銀行ノ創立是ナリ、蓋シ国立銀行ニ下付セラルヽ所ノ紙弊《(幣)》ハ恰モ貸金資本ヲ増加シタルト同一ノ効績アルモノニシテ、此銀行ノ各地ニ創立スルヤ自ラ貸借ノ間利息低落スルノ勢アルヲ免カレザルナリ、現今ノ景況ヲ以テスルニ都会ノ銀行ハ之ヲ使用スルニ於テ尚ホ足ラザルガ如シト雖モ、地方ノ銀行ハ百方得意ヲ求ルノ姿アリ、是都会ト地方ノ利息ヲシテ相近邇セシメタルモノナリ
右ハ当年金融ノ概勢ナリト雖トモ若シ局所ニ就テ査察スルトキハ自ラ各種異様ノ景況アリ、蓋シ例年上半季ハ商業閑優ニシテ金利低落スヘキモノナルニ、当年上半季ニ於テ東京・大坂ノ諸銀行及商賈ガ其貨幣ヲ有利ニ運用シタルノ景況ヲ見ルモノハ実ニ前陳ノ諸源因ニ基クモノアリト雖モ、昨年米穀収穫ノ遅延シテ本年ノ始メニ至リテ出廻リタルト且ツ地方産物ノ此際ニ善ク売捌ケタルトニ因ラズンバアラズ、上半季ノ末下半季ノ始ニ至リテハ茶・生糸輸出ノ季節ニ向フヲ以テ金融漸ク繁劇ナラントシタリシニ、折リシモコレラ流行ノ事アリ通商遮断セラレ為替壅塞シタルヲ以テ其撲滅ニ就クノ後俄ニ商況急劇ニシテ金融モ亦促迫ナルノ勢アリキ、十月ノ末ニ至リ大坂堂島ニ於テ非常ノ米相場現出シテ四万石余ノ取引ニ九分金三十余万円ヲ米商会所ニ積立其受渡数日ヲ経ルモ尚決セザリシ事アリ、斯ル事件ハ恰モ大坂商賈ガ九州及ヒ中国地方ニ売捌カルベキ輸入品ヲ累積シテ其不捌ニ苦ミ貨幣ノ巨額ヲ要望スルノ時ニ発出シタリシカバ、金融俄ニ切迫シ、一時ハ其利息日分七銭月二分余ニマデ騰貴シタリ、之ガ為メニ東京モ亦其余響ヲ受ケテ聊逼迫スルニ至レリト云トモ、敢テ大坂ノ如キ否塞ハ見サルナリ、其後ニ至リテハ冬季ニ向ヒタルヲ以テ概ネ金融漸ク頻繁ナルノ勢アリト云トモ、今日ニ至ルマテ未タ甚シキ促迫ニハ至ラサルナリ、各地方ノ金融モ又冬季ニ向ヒ漸ク繁忙ニ趣クノ景況アリト雖モ、各地銀行ガ税金預所ノ命ヲ蒙リテヨリ自ラ貨幣余剰アルノ姿ニシテ殊ニ西海道ノ地方ノ如キハ其使用シ得ベキ官金サヘ之ヲ蓄蔵スルモノアルガ如シ、是レ其地方商業ノ未タ閑優ナル処アルニヨルカ、抑亦該銀行等カ其資金ヲ充分ニ使用セサルニヨルカ、栄一未タ之ヲ詳悉スルヲ得サルナリ
栄一又本年中ノ公債証書ノ相場ヲ査察スルニ益々金融ノ昨年ト今年トニ異ナルアルヲ詳知スベシ、蓋シ昨十一年九月ヲ以テ金禄公債証書ノ売買ヲ許可セラレシヨリ其価非常ニ昂騰シテ終ニ八拾五円ニマデ至リシガ、本年一月ニ至リテハ七拾八九円ニマテ下落シタリ、是レ則チ貨幣ノ昨年ニ余リアリテ本年ニ切迫シタルノ確証ナリ、其後金融益繁忙ナリシト雖モ、相場ノ非常ニ下落セザル所以ノモノハ税金預所ヲ命セラレシ銀行其他ノ商估カ臨時買収スル所アルト、各地金融ノ閑ナルトニ因リテ各地公債ノ相場大ニ下落セズシテ東京相場ト大異ナカリシガ為メナリ、是レ則公債転入ノ巨額ナリシモ相場ノ下落ヲ見ザル所以ナリ、然リト云トモ本年ノ末ニ至リテハ終ニ又低下シテ其度ハ或ハ本年一月ニ超ユル所アルカ如キハ是レ自然ノ勢ナルヘキカト思ハル
本年ニ至リ銀行事務ノ進歩ハ実ニ著ルキモノアリ、都会ノ銀行ト各地
 - 第17巻 p.240 -ページ画像 
ノ銀行トコルレスポンデンスノ約定ヲ結ヒ、互ニ為替ヲ振出スニ至リシモノ地トシテ之ナキハナシ、現ニ択善会ニ於テ調査セル報告ニ拠ルニ本年七月以降増加ノ景況左ノ如シ
              七月        八月       九月
本店並支店ヨリ各地為替取組高   二、二九五、八九八円七一一 二、六〇四、五一七円九四四 二、八五三、五七三円九五六
各地ヨリ本店並ニ支店ヘ為替取組高 二、六一九、五〇九円一四四 二、七六二、四四円五二三 二、八六二、四六二円〇三六
本店並支店ヨリ各地ヘ割引取組高    八二一、一四一円一二八 一、〇八五、一三八円三八三   九六四、八七一円四九九
各地ヨリ本店並ニ支店ヘ割引取組高   五四五、二三五円三六〇   六六三、八八八円八六九   八一一、六四三円四六四
右三ケ月ノ計算ニ於テモ尚ホ此ノ如キノ増加ヲ見ル、之ヲ数年前ニ比スレハ其増加蓋シ驚クベキモノアラン、然リ而シテ大坂ノ如キハ当年ニ至リ切手ノ使用大ニ開ケ終ニ交換所ヲ創立スルニ至レリ、其取引ノ繁忙ナル銀行ニ於テハ当年十一月中一日ノ平均高五拾枚ヨリ七拾余枚ノ切手ヲ仕払フモノアリト云フ、抑モ切手並ニ為替手形ノ如キハ貨幣代用ノ一具ニシテ其暢通広衍スルニ至ル時ハ大ニ貨幣ノ使用ヲ節減スルノ功績アルハ諸君ノ明知セラルヽ所ナリ、サレバ此法ノ開暢スルハ実ニ商業上ノ一大美事ナリト雖モ、既ニ紙幣ニ代用スル所アルヲ以テ自ラ其貨物ニ対スル割合ヲ低下セシムルノ結果ナシトスベカラズ、紙幣ノ増発アルニ当リテ又此新法ノ民間ニ開暢スルアリ、今ヤ如何ゾ紙幣ノ下落ヲ惹キ起サヾルヲ得ンヤ
我銀貨ノ本年九月ヲ以テ五港ノ法貨トナリ洋銀ト平価ヲ以テ流通スルヲ許可セラレタルハ曾テ我儕ノ企望セシ所ナルヲ以テ実ニ喜悦ニ堪スト云トモ、之レカ為メニ従来開港場ニ流通シタリシ墨銀ハ全ク其跡ヲ払ヒ、我銀貨俄ニ其跡ヲ補充スルニ至ラザリシヲ以テ其価格ノ騰貴スルハ理ノ当ニ然ルベキ所ナリ、況ンヤ其輸出入差額ヲ償ハンガ為ニ我金銀貨ノ外国ニ輸出スルモノ特ニ横浜ノ一港ヲ以テスルモ尚ホ別表ニ掲グルガ如キ巨額ヲ為スニ於テオヤ、斯ク紙幣下落シ金銀貨騰貴スルヲ以テ我金銀相場ノ横浜・東京ノ両地ニ於ルモ亦非常ノ変化アリテ、其間之レニ従事スル商估ノ景況ヲ査スレバ亦或ハ正径ノ業ト云ヒ難キノ姿ヲ現スモノアルニ至レリ、夫レ然リ、然リト雖トモ是レ亦勢ノ已ムベカラザルモノニシテ尚舟ニ覆没ノ厄アリ馬ニ奔逸ノ変アルガ如シ然バ則其弊ヲ以テ亦遽カニ其利ヲ捨ツ可カラザルナリ
栄一曩ニ明治十一年金融ノ景況ヲ報告スルニ当リテ諸君ニ約スラク我官金有高並ニ各国立銀行ノ報告ヲ調査シ金融ノ伸縮ヲ推究シ以テ一覧ヲ請フベシト、栄一爾来之ヲ挙行セント欲シ黽勉シテ敢テ怠ルアルナシ、而シテ官金有高ノ如キ未タ允許ヲ得ズト雖トモ国立銀行ノ報告ニ至リテハ既ニ之ヲ蒐集シテ調査スルヲ得タリ、此回ノ報告ノ如キモ実ニ之ニ拠リテ其概勢ヲ記述シタルモノナリ、若シ其詳細ヲ知ラント欲セバ諸君請フ東京経済雑誌ニ就テ之ヲ講究セヨ、尚ホ官金ノ如キハ大蔵省ニ就キ其許可ヲ請願シテ他日更ニ報道スル事アラント欲ス、渋沢栄一謹テ誌ス