デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
1款 東京商法会議所
■綱文

第17巻 p.460-472(DK170035k) ページ画像

明治13年8月10日(1880年)

是日栄一当会議所会頭トシテ、危害品船積規則ヲ修正シ且ツ危害品船積ニ関シ一般ノ注意ヲ促スベキ旨ノ告諭ヲ発センコトヲ、内務卿松方正義・大蔵卿佐野常民ニ建議ス。


■資料

東京商法会議所要件録 第一五号・第六―一七丁 明治一三年六月二一日刊(DK170035k-0001)
第17巻 p.460-465 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一五号・第六―一七丁 明治一三年六月二一日刊
  第十五定式会議 明治十三年五月十八日午後第七時五十分開場
    議員出席スル者 ○二十二名
○上略 会頭○会頭渋沢栄一君ハ旅行中ニ付第一副会頭福地源一郎君之ニ代ルハ ○中略 於是定式会議ノ終ルヲ告ゲ、尚諸君ニ発議ノ要セラルヽモノナキ乎ヲ問フ、時ニ益田克徳氏ハ議場ニ建議セント欲スルモノアル旨ヲ述ベ、会頭ノ許可ヲ得、発言シテ曰ク
 余ガ玆ニ議員諸君ノ高論ニ質シ併セテ其賛成ヲ乞ハント欲スルモノハ則チ危害物船積予防ノ事是ナリ、抑モ此予防ノ事タル独リ我海上保険会社ガ其保険船舶ヲシテ不慮ノ災害ヲ受被セシメン事ヲ恐レテノ故而已ナラズ、其船舶ニシテ貨主ノ不注意若クハ危険物タルヲ識ラズシテ之ヲ包装シ、或ハ甚シキハ運賃ノ軽減ヲ欲シ偽テ之ヲ積載スル等ノ事アルヨリ、偶々此不幸ニ遭逢スルガ如キ事アラバ其損害ヲ被ムル豈唯ダ船主保険会社ノミナランヤ、其禍ノ広ク商業社会ニ及ブモノ実ニ軽々ニ非ルベシ、若シ夫レ屡次如此不幸ヲ受被スル事アラバ我国海運進昌ノ気運ハ自ラ萎靡衰頽シ、其ノ国力ヲ損害スル決シテ鮮少ナラサルナリ、蓋シ海上貨物運搬ノ道益々安全ナルヲ得バ愈商業ノ繁盛ヲ致シ、之ニ反シテ其道危険ナルトキハ通商ノ衰微ヲ生ズルハ敢テ余ガ言ヲ待タズ諸君ノ熟知セラルヽ所ニシテ、其ノ商業ノ隆汚ニ至緊至重ノ関係ヲ有スル、海運ノ安危ヨリ大ナルハナシ、苟クモ商估ノ名称アル者ハ豈之カ貨物運搬ノ安全ヲ祈望セザル
 - 第17巻 p.461 -ページ画像 
者アランヤ、故ニ今此海上運搬ノ事ニシテ一タビ危険ニ陥リ易キ傾向アルトキハ鋭意之レガ予防ニ力ヲ尽シ以テ益々海運ノ隆昌ヲ賛クルハ則チ商業社会ノ義務ニシテ当商法会議所ガ等閑ニ附スベカラザルモノナリト信ズ、是レ余ガ此議ヲ起シテ以テ諸君ノ賛成ヲ乞ハント欲スル所以ナリ、抑モ危害物ナルモノハ其品質一ナラズ、或ハ其性猛烈ニシテ動モスレバ発火シ易キモノアリ、或ハ蒸熱ノ為メ火気ヲ醸スモノアリ、或ハ腐蝕シ易キ性質ヲ有シ他物ヲ損害スベキモノアリ、而シテ其品類ヲ挙グレバ硝酸・硫酸・弾薬・油紙・早附木・石炭・硫黄・ボロ屑・甘薯・石油其他此類ノ悪質ヲ含有スル品物是レナリ、蓋シ船員タル者此等ノ品類ヲ船積スルニ当テハ其点撿ヲ密ニシ其運送ヲ厳ニシ勉メテ其害ノ発セザルニ注意スルハ個ヨリ之ガ職務ニシテ、其用心ノ深切ナル過失モ亦極メテ稀ナリト云トモ我国貨主ニシテ未ダ危害物ノ何物タルヲ弁知セザル者往々ニシテ之レ有リ、或ハ其貨物ノ危害性ヲ帯ブルヲ知ルモ元ト危害物ニ至テハ啻ニ其船積ノ手数ヲ要スルノ多キ而已ナラズ硝酸・硫酸・塩酸・弾薬等ノ如キ其物品ニ因リテハ通常貨物運賃ニ比スレバ更ニ二倍乃至三倍ノ高貴ナルト荷造包装ノ精粗ヲ撿査セラルヽノ厳ナルト、暴風怒濤船舶ノ危難ニ瀕スル事アレバ濡沾損傷打荷等ノ損失多キトノ数件アルニ由リ、奸智ニ長シタル者ハ巧ニ危害物ヲ包装スルニ通常貨物ノ如クシ、船員ヲ詐リテ之ガ積入ヲ謀ル者其例少シトセズ、既ニ三菱会社ニ於テ其詐偽ヲ発見シタルモノ昨明治十二年五月以降三四回ニ及ベリ、然レトモ此数回ノ航行タルヤ幸ニシテ風波平穏船舶ノ動揺極メテ少ナカリシガ為ニ、災害ヲ万一ニ免カルヽ事ヲ得タリト云トモ、住之江丸ノ如キハ其神戸港ニ着シ正ニ貨物陸揚ゲノ時ニ際シ頓ニ通常貨物中ヨリ発火シタル者アリ、之ヲ撿スレバ即チ外包ハ古着入ト表起《(記)》シタル者ニシテ其実ハ油紙ナリキ、若シ此燃出ヲシテ数時間前ナラシメバ該船ニ搭載シタル貨物ヲ挙ゲテ烏有ニ帰スル而已ナラズ、貴重ノ人命ヲ損スルノ惨状ヲ見ルモ知ルベカラズ、危害物ノ恐ルベキ夫レ如此、然ルニ区々タル私利ニ営々シ、漫リニ詐偽ヲ逞フシテ以テ法律ヲ破リ又此危害ヲ侵ス豈悪ムヘキノ所為ナラズヤ、夫レ然リ而シテ此等ノ犯則者ガ危害船積規則ニ照ラシテ処分ヲ被リタルハ別紙(告訴状並ニ宣告書ハ之ヲ参考部ニ附ス)ノ如クニシテ、其判決タル未ダ以テ其犯罪者ヲ懲ラシ将来ノ犯則ヲ防グニ足ラザルモノアルモ、該規則上ニ就テ之ヲ論ズレバ一点ノ非ヲ容ルベカラザルモノナルハ余ガ信シテ疑ハザル所ナリ、即チ明治六年八月太政官第二百九十二号該規則ニ曰ク
 危害ヲ生ズベキ物品ヲ漫リニ船積致候テハ他ノ物品ヲ傷害シ、甚シキハ全船ヲ失ヒ人命ヲ損シ不容易義ニ付、左之条件ノ法則ヲ定メ当明治六年十一月一日ヨリ全施行候条此旨布告候事
第一条 火薬硝石硫黄ノ類、及ビ発火シ易キ製薬品其他油脂醤液並腐敗シ易キ性質ニシテ他物ヲ損害スベキ物品船積致候時ハ、其品名ヲ表包ノ外部ニ書キ記シ、或ハ其送状ニ記載致、船主船長又ハ運漕会社危難請合会社等ノ承諾ヲ得テ後差出スベシ、若シ其手数無之尋常ノ荷物ト佯リ之ヲ船積致或ハ船積セント謀ル者ハ金五百円以内ノ罰
 - 第17巻 p.462 -ページ画像 
金ニ処ス可キ事
第二条 尋常ノ物品トシテ差出シタル荷物ノ内ニ前条ノ如キ危害品可有之ト見受候節ハ、船主船長運漕会社危険請合会社ハ何時ニ限ラズ何地ヲ論セズ直チニ発包シテ之ヲ視査スルノ権利可有之事
  但シ為視査発包シタル荷物中ニ危害品無之トキハ、船主会社等ノ入費ヲ以テ、故ノ如ク荷造可致、然レトモ其荷ノ中ニ危害品有之時ハ是等ノ入費都テ荷主ヨリ可払事
第三条 此危害品ヲ船積セザル以前、運漕会社又ハ危険請合会社ノ倉庫等ニ於テ見出ストキハ之ヲ安全ノ場所ニ移シ置キ、直ニ其管轄庁或ハ裁判所ヘ可届出事
  但シ安全ノ場所ニ之ヲ移スノ入用ハ荷主ヨリ弁償可致事
第四条 此危害品ヲ既ニ船積シタル後ニ見出シ、之ヲ安全ノ場所ニ保チ難キ時ハ船中ニ於テ三人以上ノ保証人ヲ立テ之ヲ海中ニ投棄シ、着港ノ上直ニ其次第書及荷主ノ姓名ヲ其地ノ管轄庁或ハ裁判所ヘ可届出事
  但シ投棄シタル荷物及ヒ是ヨリ生スル荷主ノ損失ヲ弁償スルニ不及事
第五条 船長及運漕会社等荷主ト申合、此危害品ヲ尋常ノ荷物トシテ船積シ、或ハ船積セント謀ル者ハ金五百円以内、又之ヲ見出スト雖トモ官ニ訴ヘ出ザル時ハ金二百円以内ノ罰金ニ可処事
 今此法律ヲ以テ世界第一ノ航海権ヲ有シ海運ノ隆昌ヲ以テ万国ニ誇称スル英国其国ノ法律ニ比スルモ毫モ異ナラザルモノニシテ、余輩飽迄之ニ頼テ以テ犯則者ヲ罰スルノ道ヲ求メザル可ラザルナリ、然レトモ退テ我国今日ノ情況ヲ按ズルニ一ニ此法律而已ニ依頼シテ詐偽ヲ未然ニ予防シ、犯則者ヲ懲罰スルニ足レリトスベキ乎、余ハ其懲罰予防ノ甚ダ難カランコトヲ恐ルヽナリ、其故如何トナレバ西洋諸国ニ在テハ其商估中或ハ奸智ニ長シ詐偽ニ巧ナル者多カラザルニ非ズト云トモ、偶々此類ノ悪策奸計ヲ施シテ他人ノ財産ヲシテ危害ニ陥ラシムルガ如キ所業ヲ為ス者アレバ商業慣習ノ然ラシムル所、此ノ如キハ忽チ商業社会ノ信用ヲ失ヒ他日復タ之ト取引ヲ為ス者ナキニ至リ、終ニ己レガ商業上ニ非常ノ損害ヲ来タシ自ラ社会ニ歯スル事能ハザルニ至ル、然ルニ我国商業者ノ習慣ニ至テハ大ニ之ニ異ナルモノアリ、詐偽詭計只射利ニ営々シ己レニ益スレバ他ヲ害スルモ恬トシテ顧ミザルモノヽ如ク、甚シキハ却テ詭計ヲ施シ法律ヲ犯スモ幸ニ法網ヲ免カルヽヲ得ハ之ヲ我巧手トナシ人ニ揚言誇負スル者ナシトセズ、而シテ聞ク者之ヲ屑トスルニ非ズト雖トモ亦敢テ之ヲ咎メザルノ情実ナキニ非ズ、此徒ハ暫ラク之ヲ論セザルモ或ハ我国人中前陳ノ如ク危険物ノ何物タルヲ知ラザル者多ク、或ハ之ヲ知ルモ安ヲ万一ニ頼デ険ヲ侵ス者其人少シトセズ、之ヲ外国人ガ危険ヲ侵シテ己ガ貨物ヲ失ハン事ヲ恐ルヽモノニ比スレバ其意想ノ相異ナル豈霄壌モ啻ナランヤ、夫レ如此法ヲ破リ罪ヲ犯ス者ハ蓋シ敢テ法律ノ破ブル可ラザル罪科ノ犯スベカラザルヲ知ラザルニ非ズト云トモ、究竟スルニ此徒ノ如キハ射利ニ眩惑セラレテ不知不識其法ヲ犯スモノナルガ故ニ、常ニ其犯則ノ為メニ得ル所ノ利益ハ之ガ為ニ
 - 第17巻 p.463 -ページ画像 
失フ所ノ損害ヲ償フニ足ラザルノ実ヲ知ラシメザル可ラズ、是レ他ナシ、即チ一タビ其法律ヲ犯セバ己ガ財貨ハ信用ト共ニ減少シ甚シキ損失ヲ被ラシムルニ在ルナリ、夫レ現行ノ法律ニ拠レバ犯則者ノ罰金五百円ハ其金額少ナキニ非ズト雖トモ、尚ホ己レニ利スル所アレバ或ハ万一ニ五百円ヲ賭シテ之ヲ犯ス者ナシト云フベカラズ、故ニ余ガ見ル所ヲ以テセバ現行ノ法律中更ニ其犯則貨物没収ノ一条ヲ増補シテ若シ此法律ヲ犯ス者アル時ハ其犯罪軽重ニ従ヒ五百円以下ノ罰金ヲ課シ、且ツ其偽称品物ハ不正物トシテ之ヲ没収スベシト改定セラルヽニ至ラバ、是ヨリ後偽テ多量ノ貨物ヲ船載スル者ハ随テ多量ノ損失ヲ被ルノ恐アルガ故ニ自ラ其得失相償ハザルヲ弁知シ、犯則者タラントスル者ヲシテ戒心セシムルノ効力蓋シ鮮少ナラザルベシ、是レ我ガ切ニ此法律ノ改定ヲ期望スル所ナリ、然リト雖トモ独リ此法律ニ依頼シテ自ラ之ヲ防グノ術ヲ講ゼザレバ其法ハ密ニ其律ハ厳ナルモ争デカ其効ヲ奏スルヲ得ンヤ、故ニ之ガ実業者ハ勉メテ法律ト共ニ力ヲ尽クシ予防ノ方策ヲ施サヾルベカラズ、夫レ然リ而シテ此犯罪者タル常ニ貨主ニ在ルガ故ニ貨物ヲ委托セラルヽ船主ニ於テ、之ヲ防禦スルノ計ヲ尽クスハ固ヨリ之ガ職務ニ在リト雖トモ、委托者ノ多キ貨物ノ夥キ、毎箇之ガ撿査ヲ為スガ如キハ到底望ムベカラザルナリ、況ンヤ貨主中危険物ノ何物タルヲ知ラズ多クハ皆之レヲ通常貨物ノ如ク包装シテ委托スル者アルニ於テヲヤ、夫レ其犯則ヲ識ラズシテ行フ者ハ有心故造ニ比スレバ其罪ヲ被ムル実ニ憐ム可シト雖トモ其害ノ及フ所ニ至テハ則一ナリ、今爰ニ一例ヲ挙グレバ本月七日某貨主ヨリ三菱会社ヘ委托シタル手遊品ノ包裏ヨリ発火シタルガ如キハ、是僅カニ花火ノ火薬ヲ同包シタルニ根スルモノニシテ、此類ノ如キハ其犯則タルヲ識ラザルニ出ヅルノ過失ト云フベキナリ、故ニ苟クモ船舶ヲ所有シ貴重ノ生命貨物ヲ運搬スルヲ以テ己レガ業トスル者ハ、如何ナル貨物ハ危害品ニシテ其火ヲ発スルノ原因ハ云々、其他物ヲ腐蝕損傷スルノ理由ハ云々、又其危害物ノ包装法ハ如何、其包装ニ使用スベキ物質ハ如何ト具サニ之ヲ調査シテ以テ普ク之ヲ公衆ニ告知シ、且ツ貨主ヲシテ此法律ノ主意ヲ熟知セシメバ必ズヤ此危害ヲ減少シ、又犯則ヲ予防スルノ効アラン、夫此予防タル前ニ叙述シタルガ如ク、独リ保険又ハ海運ヲ業トスル者ノ利害得喪而已ノ《(衍)》ミナラズ商業社会全般ニ関スル一大急務ナルヲ以テ余ヤ敢テ之ヲ議員諸君ニ質シ、而シテ幸ニ諸君ノ賛成セラルヽ所トナルヲ得バ一方ニ於テハ政府ニ向テ法律ノ改定ヲ乞フテ以テ更ニ一段ノ保護ヲ仰ギ、一方ニ於テハ此危害ヲ防クノ方法ヲ調査シテ以テ一般公衆ニ告知シ、以テ我国海上運搬ノ道ヲシテ益々安全ナラシメンコトヲ切望ス、是レ余ガ議員諸君ノ可否ヲ乞ハント欲スル所以ナリ
朝吹英二曰ク、夫レ危害物ノ忽ニスベカラザルハ益田君ノ説ク所ノ如シ、昨年以来三菱会社ノ船舶ガ将サニ此災ニ罹ラントシタルモノ其事数度ニ及ベリ、現ニ益田君ノ引証セル住ノ江丸ニ搭載シタル油紙発火ノ如キハ、其災害ヲ免カレタルコト万一ノ僥倖ト云ハザルヲ得ズ、夫レ此危害物中硝酸火薬其他二三ノ品物ハ其運賃尋常貨物ニ比
 - 第17巻 p.464 -ページ画像 
ス減《(衍)》レバ三倍ノ多キヲ致スガ故ニ貨主ハ一ニ運賃ノ軽ヲ欲シテ之ヲ通常貨物ト偽称スルモノ少ナカラズ、或ハ又貨物ノ性質如何ヲ知ラズシテ偶々此危害ヲ犯ス者アリ、故ニ新聞紙其他ノ方法ヲ以テ危害物ノ何タルト其規則ノ厳ナルトヲ普ク世人ニ知ラシメテ以テ此災害ヲ被ラザラン事ヲ求ムルノ外良計ナキナリ
米倉一平曰ク、危害物ノ運賃ハ尋常貨物運賃ノ三倍ヲ要スルトハ如何ナル故ゾヤ
朝吹英二曰ク、抑モ危害物タル船将ヲシテ厳密ニ之ヲ撿セシメ、又積入運送等非常ノ手数ヲ要スルガ為ナリ
米倉一平曰ク、夫レ貨主ガ其貨物ヲ偽称スルハ竟究スルニ尋常貨物ヨリ多分ノ運賃ヲ要スルニヨルモノニシテ、若シ其運賃尋常貨物ト均シキモノトセバ豈敢テ之ヲ偽称スル者アランヤ、故ニ愚考ヲ以テセバ船主タル者此等危害物ノ運賃ヲ軽減セバ其弊自ラ跡ヲ絶ツニ至ラン
朝吹英二曰ク、此等危害物中硝酸・硫酸等ノ如キハ誤テ其容器ヲ毀チ此流動物ヲシテ一タビ他物ニ触レシムル時ハ金類ト雖トモ尚ホ之ヲ腐蝕スルニ至ル、故ニ其取扱方極メテ鄭重厳密ナラザル可ラズ、是故ニ仮令ヒ三倍ノ運賃ヲ得ルモ猶未ダ満足トナス可ラズ、固ヨリ火薬ノ如キハ船中別ニ一室ヲ設ケ、此中ニ積ミ入ルヽガ故ニ仮令賃銭コソ高ケレ、貨主ニ於テ之ヲ偽称セザル時ハ決シテ危害ヲ与フルノ憂ナシ、且ツマツチノ如キ其包装十分ナル時ハ発火ノ恐極メテ稀ナルガ故ニ包装ノ堅牢ナルモノハ高貴ノ運賃ヲ要セザルモ可ナリ、現ニ新燧社製造ノマツチノ如キハ其荷造ノ堅固ニシテ、決シテ発火等ノ恐ナキヲ見認ルガ故ニ特別ノ契約ヲ為シテ其運賃ヲ尋常貨物ト均一ニス、故ニ危害物タリト雖トモ貨主之ヲ偽称セザル時ハ不慮ノ災害ヲ発スル如キハ甚ダ稀ナリ、只其恐ルベキハ貨主之ヲ偽称スルニ在ルナリ
会頭曰ク、今益田克徳君ノ説ヲ聞クニ其要旨トスル所第一ニ不正貨物没収法増補ノ件ヲ政府ニ要望シ、第二ニ危害物ノ性質等ヲ調査シテ以テ之ヲ世人ニ告示シ、此規則ヲ犯スガ如キ事ナカラシメン事ヲ要セラルヽモノヽ如シ、果シテ然ラバ政府ヘ建言スルノ件ハ外ニ手数ヲ要セザルガ故ニ今此議場ニ於テハ専ラ第二ノ事項ヲ討論シテ可ナランカ
松尾儀助曰ク、マツチノ如キ其荷造堅牢ナレバ尋常貨物ノ運賃ヲ以テ運送スル等ノ事ハ貨主ニシテ未ダ之ヲ知ラザル者多シ、而シテ此類ノモノ尚ホ一二ニ止マラザルベキガ故ニ、能ク其実際ヲ調査シテ以テ世上ニ広告スルガ如キハ又忠告ノ一部ナラン
朝吹英二曰ク、実ニ然リ、然リト雖トモ其法律モ亦共ニ厳ナラザル可ラズ、何トナレバ其危害ヲ知ルモ利ノ為メニ之ヲ犯ス者世其人少カラザレバナリ
中山譲次曰ク、已ニ罰金ヲ課スルノ法アリ、而シテ猶其貨物ヲ没入セントスルハ恰モ罪人ヲ斬シテ其首ヲ梟スルガ如ク、或ハ厳酷ニ過クルノ看ナキニ非ズ、故ニ其犯則ノ罰タル之ヲ没収ニ止メ、更ニ罰金ヲ課スルガ如キハ之ヲ廃セバ如何
朝吹英二曰ク、否ラズ、今日我国ノ形勢ヲ以テセバ之ヲ防グノ道、法
 - 第17巻 p.465 -ページ画像 
律ノ厳ナルニ如カザルナリ
益田孝曰ク、詐テ危害物ヲ積載スルガ如キハ其罪懲スベシト雖トモ、一ニ不正者ヲ懲スノ法律ヲ以テ一般ニ及ボサバ或ハ実際ノ商売ニ障碍ヲ生スルノ恐アランカ、故ニ此建議タル軽々ニ看過スル事ナク別ニ委員ヲ設ケテ以テ宜シク審案熟考スルヲ可トス
会頭曰ク、益田孝君ノ説ノ如ク其法律厳刻ニ失スル時ハ廻漕問屋ハ此機ニ乗シ運賃ヲ引上ル等、或ハ非常ノ利益ヲ貪ルガ如キ幣《(弊)》ヲ生ズルナキヲ保セズ、宜ク熟慮セザル可ラズ
益田克徳曰ク、若シ法律ニ拠テ船主ガ運賃ヲ引上グルガ如キ事アラバ其結果ハ貨主ヲ減ズベキノミ、船主ガ万如此不策ニ出デザルハ余ガ信ズル所ナリト雖トモ、若シ夫レ法律ノ厳ナルヲ奇貨トシ其運賃ヲ騰貴スルガ如キ事アラハ、当会議所ハ更ニ之ヲ討論シテ以テ其弊ヲ矯ムルノ道アルナリ、何ゾ予ジメ之ヲ苦慮スルヲ為サンヤ
会頭曰ク、此事タル実ニ緊要ノ件ナルニ付、宜シク委員ヲ撰定シテ之ヲシテ此調査ヲ担当セシムベシ、而シテ之ヲ撰定スルノ法別ニ投票ヲ以テスベキヤ、将タ会頭ヨリ之ヲ指名スベキヤ各員ノ意見ヲ問フ
益田孝曰ク、抑モ此建議タル海運営業者ニ痛痒ヲ与ル最モ多キガ故ニ専ラ此等ノ人ヲシテ其調査ヲ担当セシムル時ハ或ハ利己ヲ保護スルノ嫌ナキニ非ズ、故ニ余ハ此調査委員ナル者ハ可成該業ニ関係ナキ人ヲ撰任セン事ヲ望ムナリ、然ラバ則チ世人ノ之ヲ信スルモ亦厚カルベシ
朝吹英二曰ク、此調査タル頗ル緊要ナルモノナルガ故ニ之レガ委員タル者ハ該業ニ関係ノ者ヲ撰定セント欲ス、然レトモ若シ或ハ外聞ヲ憚ルモノトセバ責メテハ其説明者トナリテ其議事ニ参与セン事ヲ希望ス
会頭曰ク、委員ヲ撰挙スルニ二説アリ、曰ク其業ニ関係アル者ヲ以テスベシ、曰ク其業ニ関係ナキ者ヲ撰ムベシト、姑ク余ガ考案ヲ以テセバ此調査タル該業ニ関係ナキ者ニ担当セシムル時ハ夫レ或ハ至難ナラン、諸君之ヲ如何ス可キ乎ト問フニ、衆皆会頭ノ特選ニ任スベシト云フヲ以テ、会頭ハ清水九兵衛・益田孝・同克徳・渡辺治右衛門・渋沢喜作・小西九郎兵衛・朝吹英二ノ七名ヲ指名シテ該調査委員タラン事ヲ乞ヒシニ各員之ヲ諾シ、其調査成ルヲ期シ更ニ臨時会ヲ開キ之ヲ議事ニ附スルニ決ス ○下略


東京商法会議所要件録 第一五号参考部・第一―五丁 明治一三年六月二一日刊(DK170035k-0002)
第17巻 p.465-467 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一五号参考部・第一―五丁 明治一三年六月二一日刊
    危害物船積犯則ノ儀ニ付告訴状並ニ宣告書
本月十二日東京府下馬喰町壱丁目刈豆屋止宿石井作蔵ト申者ヨリ、荷物取継人坂本町大橋忠兵衛ヲ経テ靴墨並ニ石鹸入ト偽称シ、火薬八箇函館港迄運送方依頼ニ相成、則本月十七日出帆之郵便滊船蓬莱丸ニテ彼地ヘ回送仕候処、函館地方ニ於テ火薬免許商人之鑑定ニ由リ、右偽称セシ行李発覚致候旨申来候、右者明治五年第二百八十二号銃砲取締規則及明治六年第二百九十二号危害品船積条例ノ犯罪者ニ有之候、当社ノ如キモ右御規則ニ基キ火薬類ハ勿論摺附木・油紙・雨傘類ニ至ル迄多少発火ノ恐レ有之物品ヲ通常貨物ト区別シ、十分其危険ヲ予防ス
 - 第17巻 p.466 -ページ画像 
ルニ足ルヘキ場所ヘ為積入候ノミナラス其荷造リ之如キモ精密堅牢之モノニ非レバ決テ運搬不致ノ厳則ニ有之、是他ナシ船中貨物中ヨリ火気ヲ発スルトキハ多数ノ人命貴重ノ官物巨万ノ貨物船舶ヲ挙テ海底ニ委スル必然ナル故ニ有之候、然ルニ前述石井作蔵所業タル危険物品中ノ最大危険タル火薬ヲ他物ト偽称シ、外面ヲ粧飾シ、之ヲ通常荷物ト混載セシモノナルカ故ニ此船中乗組居タル多数ノ人員及巨万之貨物ハ既ニ已ニ一度禍害ニ《(罹カ)》害リタルモノニ有之、幸ニシテ航海中風波平穏船中ノ動揺甚シカラザルガ為メ脱ル可カラザル災害ヲ万一ニ脱シ得タルモノニテ、実ニ天助ト云フ可キノ外無之候、后来右石井作蔵ノ如キ者アリテ上国法ヲ犯シ、下当社ノ規則ヲ乱ル等ノ事アルトキハ独リ当社ニ於テ災害ニ罹ルノミナラズ一般人民中如何様ノ災害ヲ蒙ルモ難計次第ニ付、何卒後来懲毖スルニ足ルヘキ厳重ノ御処分被成下候様至急其筋ヘ御照会被成下度、此段上申仕候也
                郵便滊船三菱会社副長
  明治十二年五月廿二日           岩崎弥之助
   駅逓局長
    内務少輔 前島密殿

  明治十二年五月卅一日
    申渡
             開拓使石狩国札幌
                西創成通五番地平民
                      石井作蔵
其方儀本年五月十七日出帆滊船蓬莱丸ヘ火薬ヲ他物ト偽リ積込函館地方ヘ回送スル科、生害物品船積法則ニ照シ、罰金五十円申付

    告訴
明治十二年十二月廿四日神戸港出帆当社滊船社寮丸ヘ岡山県安井八三郎出、東京浅草八幡町七番地安井央行荷物三個積載仕候処、何レモ表記シハ家財ト有之候処、同廿七日同船品川着港諸荷物日本橋区錦町当社荷捌所ヘ陸揚之節三個之内一個表皮破損致居候処ヨリ、弾薬入ナル事発見仕、本品ハ直様差押ヘ置申候、然ルニ右出貨主安井八三郎ハ現今浅草区八幡町一番地ヘ寄留致居候ニ付此段告訴仕候也
                日本橋区南茅場町十六番地
                 郵便滊船三菱会社員
                       横井繁之助

    宣告書写
                東京浅草区八幡町一番地
                 岡山県士族
                       安井八三郎
 其方儀明治十二年十二月出京ノ際、弾薬ヲ尋常荷物ト同ク船積セシ科、明治六年第二百九十二号公布ニ依リ罰金五円申付ル
  明治十三年第一月廿四日
 - 第17巻 p.467 -ページ画像 
    告訴状
                日本橋区南茅場町十六番地
                 郵便滊船三菱会社員
                  願人  横井繁之助
                同馬喰町弐丁目五番地
                  相手  山村金七
右横井繁之助奉申上候、当社滊船住ノ江丸ヲ以東京ヨリ神戸迄回漕荷物之内、東京馬喰町弐丁目五番地亀屋金七事山村金七出、木村豊太郎行莚包三個ノ内二個陸上ケ之際、非常之熱度ニ付不取敢上包ヲ解キ放候処、中品油紙ニテ俄然燃出仕候ニ付水ヲ洒キ消滅仕候、抑モ危害物品ヲ船積仕候ニハ予テ明治六年太政官第二百九十二号御布告モ有之処貨主ニ於テハ右御規則ヲ犯シテ貨物ノ表面ヲ通常貨物ニ擬造シ、古着入ト詐記シ油紙ニ《(ヲ)》積入候ヨリ斯ル危難ヲ生候事ニ御座候、若是危難ヲ航海中ニ発起セバ全船ト幾数万ノ貨財トヲ挙テ烏有ニ帰シ、加之貴重ノ人命ヲ損シ不可思議之災害ヲ蒙ルハ顕然ノ場合ナルニ、発火ノ期遅ク陸上ノ際燃出シタルヲ以幸ニ其危難ヲ免ルト雖実ニ容易ナラサル事柄ニ有之候、右ハ全ク貨主ニ於テ中品ノ危害物タルヲ明示スルトキハ甲板上積ニ相成リ濡沾損傷ノ虞レ有之、通常貨物ニ偽造シ会社ヲ欺キ船積候ト被存実ニ可悪之処業ニ有之候、今後若右様ノ如キ危害物ヲ通常貨物ニ偽造シ船積候者有之、船中ニ於テ発火候時ハ前件陳述仕候通可恐非常ノ災害ヲ蒙ル儀ニ候間、屹度厳重之御処分相成リ候様仕度此段告訴仕候也
                日本橋区南茅場町十六番地
                 郵便滊船三菱会社員
  明治十三年二月廿四日           横井繁之助
  東京裁判所
   撿事局長
    撿事 犬塚成巍殿

  明治十三年三月二日
    言渡書
                東京馬喰町弐丁目五番地
                      山村金七
 其方儀危害ヲ生ス可キ物品ニ品名ヲ記載セズ船積致ス科、明治六年第百九十二号公布第一項《(二脱)》ニ依リ罰金十円申付ル
                東京日本橋区南茅場町
                 十六番地
                  三菱会社員
                       横井繁之助
  右申渡之通可相心得候事


東京商法会議所要件録 第一六号・第九―一〇頁 明治一三年九月一一日刊(DK170035k-0003)
第17巻 p.467-468 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一六号・第九―一〇頁 明治一三年九月一一日刊
  第十六定式会 明治十三年八月五日午後第七時五十分開場
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    議員出席スル者 〇二十名
○上略
右畢リテ会頭 ○渋沢栄一ハ危害物船積規則中偽称貨物没取ノ一条追加ヲ要スル義ニ付、建言書調査委員ヨリ其草案成ルヲ告ゲタルヲ以テ今会ニ於テ各員ノ決議ヲ要スル旨ヲ述ベ、書記ヲシテ之ヲ朗読セシム、右了リタル時会頭ハ更ニ各員ニ向ヒ、此文案ヲ草定スルニ方タリ委員ハ勿論理事本員モ亦与ツテ数回ノ討議ヲ尽クシタリト雖トモ、尚其質問ヲ要セラルヽモノアラバ委員中益田克徳・朝吹英二ノ二君ニ就テ問ハルベシト云フニ、只朝吹氏ノ注意ヲ以テ文按中一二ノ刪除脩正ヲ加ヘタル迄ニテ其他総テ之ヲ可トシ、之ヲ内務・大蔵両卿ニ建言スルニ決ス


東京商法会議所要件録 第一六号・第六五―七七頁 明治一三年九月一一日刊(DK170035k-0004)
第17巻 p.468-471 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一六号・第六五―七七頁 明治一三年九月一一日刊
 ○参考ノ部
    危害物船積規則中偽称貨物没取ノ一条御追加ヲ要スル儀ニ付建言
謹テ按スルニ海運ノ安危ハ内外貿易ノ盛衰ニ関スル所少々ナラズ、苟クモ貿易ノ繁盛ヲ期スルノ邦国ニ在テハ実ニ忽ニスベカラザル所ニシテ、是レ蓋シ曩キニ危害品船積規則ヲ定メ海運ノ安全ヲ保護セラルヽ所以ナリ、抑モ危害品ナルモノハ其品類一ナラズ、或ハ其性猛烈ニシテ自ラ発火シ易キモノアリ、或ハ湿気ヲ含ムガ為又ハ蒸熱ノ為火気ヲ起スモノアリ、或ハ他物ヲ腐蝕スルノ性質ヲ含有スルモノアリ、而シテ其危害ノ著シキ品類ヲ挙クレバ火薬・弾薬・雷管・酸類・揮発油・油紙・マツチ等ニシテ、益《(蓋)》シ此等ノ品物ヲ船積スルノ時ニ方リテヤ之ガ船員タル者厳密ニ之ヲ点撿シ其之ヲ運送スル時ニ於テモ特別ノ保護ヲ加フルガ故ニ貨主ニテ《(於テ)》於之《(ヲ)》テ偽称スルニ非ルヨリハ過失モ亦不多ト云トモ、若シ貨主ニシテ之ヲ尋常貨物ト詐リ屡次之ヲ船積スルガ如事アラバ、其損害ヲ被ムル者独リ船主而已ニ止ラザルナリ、蓋シ危害物中火薬・弾薬ノ如キハ之ガ船積運送ノ際特別ノ手数ヲ要セザルベカラズ、是ヲ以其運賃之ヲ通常貨物ニ比スレバ二倍乃至三倍ノ高キヲ要ス又硫酸・油紙・ボロ屑等ノ如キハ甲板積ミニ属スベキ貨物ナルガ故ニ暴風怒濤ノ為メ間々濡沽《(沾)》打荷等ノ損失アルヲ免カレズ、是故ニ奸智ニ長シタル者ハ危害物ヲ偽テ尋常貨物ト称シ船長ヲ欺テ之ヲ船積セントスル者往々ニシテ有之、既ニ三菱会社ニ於テ其詐偽ヲ発見シタル者昨年五月以降三四回ニ及ベリ、然レトモ此数回ノ航行タルヤ幸ニシテ風波平穏船舶ノ動揺極メテ少カリシガ故ニ災害ヲ免カルヽ事ヲ得タリト云トモ、就中住ノ江丸ノ如キハ其神戸ニ着港シ将サニ貨物ヲ陸揚ケセントスル時ニ際シ、佯リテ古着入ト表記シタル油紙中ヨリ発火シタルガ如キ、若シ此発火ヲシテ数時前ニ起ラシメバ該船ニ搭載シタル貨物ヲ挙ゲテ烏有ニ帰スル而已ナラズ、貴重ノ人命ヲ損スルノ惨状ヲ生ゼンモ未ダ知ル可ラズ、危害物ノ恐ルベキ夫レ如此、然ルニ只区々タル小利ノ為メニ法律ヲ犯カシ、僥倖ヲ万一ニ期セント企ツル者ノ如キハ固ヨリ現行ノ法律ヲ以テ其罪ヲ問ハルベシト云トモ、退テ我国今日ノ情況ヲ観察スルニ一ニ此法律而已ヲ以テ詐偽ヲ未然ニ防禦セントスルハ当会議所其甚ダ難ラン事ヲ恐ルヽナリ、請フ其然ル所以ヲ陳ゼン
 - 第17巻 p.469 -ページ画像 
夫レ我国商估ノ習慣ハ名誉ト信用トヲ重ンズルノ情乏シク、只射利ニ而已汲々シ苟クモ己レニ益スレバ他ヲ害スルモ恬トシテ顧ミザル者ノ如ク、甚キニ至リテハ詭計ヲ施シ法律ヲ犯スモ幸ニ法網ヲ免カルヽヲ得バ之ヲ我ガ巧手トシテ人ニ揚言誇負スルノ徒ナキニ非ズ、之ヲ欧米商賈ガ信用ヲ失ハン事ヲ恐ルヽ者ニ比スレバ其慣習ノ懸隔スル豈啻ニ霄壌而已ナランヤ、我国人民ノ慣習如此ナル時ハ復タ之ニ適応スルノ法律ナカル可ラザルナリ、夫レ現行ノ法律ニ依リ犯則者ニ五百円以内ノ罰金ヲ課スルモノ其金額小少ナルニ非ズト云トモ尚ホ己レニ利スル所アレバ或ハ此規則ヲ犯ス者ナシト云フ可ラズ、例ヘバ此ニ一貨主アリ弾薬ヲ某地方ヘ運送セントスルニ其運賃一個ニ付仮リニ金三円ナリトセバ三百個ニテ其運賃金九百円ナルベシ、然ルニ今之ヲ尋常貨物ト詐リ其運賃一個ニ付金一円ト約シテ之ヲ運送センニ、偶々此犯跡ノ発覚シタルニ当リテヤ此法律ニ拠リ罰金ノ制限五百円以内ニ在ルガ故ニ良シヤ最高ノ度則チ五百円ノ罰金ヲ課スルトスルモ犯則者ハ其貨物ヲ運送スルノ時ニ於テ之ヲ尋常貨物ト詐リタルガ為ニ全ク六百円ノ所得ヲ受クルノ理ナルガ故ニ、発覚セザルヲ万一ニ僥倖シ法律ヲ犯スノ徒ナシト云フ可ラズ、蓋シ如此ノ例ハ実際多ク有ル可ラザルベシト云トモ亦タ決シテ其無キヲ保ス可ラザルナリ、若シ夫レ此類ノ危害往々貨物運搬上ニ発現スル時ハ我国ノ海運ハ漸ク退縮シ、貿易ハ次第ニ衰頽シ終ニ国家ノ一大不幸ヲ生ズルヲ免カレザルベシ、是故ニ此患難ヲ未然ニ防ギ将来国家ニ不幸ヲ致サヾラン事ヲ期シ、其計ヲ施スハ今日ノ急務ト云ハザルヲ得ザルナリ
当会議所倩ラ其法ヲ講ズルニ、現行法律中危害ノ最モ甚シキ火薬・弾薬・雷管・其他火薬ヲ以製シタル物ヲ以尋常貨物ト偽リ之ヲ船積シ、又ハ之ヲ船積セント企ツル者、又ハ已ニ之ヲ船積運送シタル後発覚シタル者ハ現行ノ規則ニ照ラシ相当ノ罰金ヲ課スル而已ナラズ、其船積シタル貨物ハ不正物トシテ没取スベシト云フノ意ヲ以テ更ニ一条ヲ追加セラルヽニ至ラバ、是ヨリ後偽テ多量ノ貨物ヲ船積スル時ハ其損失ヲ被ルモ亦随テ多キガ故ニ貨主タル者其損益ノ相償ハザルヲ知リ各々自ラ戒慎シ、復タ偽テ火薬・弾薬等ノ如キ危害ノ最モ恐ルベキ品物ヲ船積シ肯テ危険ヲ冒サントスル者ノ如キハ自カラ其ノ跡ヲ絶ツニ至ルベキヲ信ズルナリ
夫レ然リ而シテ其危害物タルヲ知リテ偽ル者ノ如キハ此法律ノ下之ヲ防禦スルヲ得ベキハ当会議所ガ信ズル所ナリト云トモ、或ハ真ニ危害物ノ何物タルヲ知ザルヨリ誤テ法律ニ触レ、或ハ意表ノ損失ヲ被ル者蓋シ少ナカラザルベシ、此等ノ如キハ其情真ニ憐ムベキガ如シト云トモ、其害ノ及ボス所ニ至テハ偽テ為ス者ト相異ナラザルモノニシテ、復タ須ラク之ヲ防グノ道ヲ講セザル可ラザルナリ、故ニ海員及貨主其他運送ニ関係スル者ヲシテ危害品ノ何物タル其荷造ノ忽略ニ付ス可カラザル運送ノ注意ヲ要スベキ事ヲ知ラシムルハ実ニ亦今日ノ一大急務ナルヲ信ズ、故ニ政府早ク之ヲ告諭セラレ以テ一般人民ノ注意ヲ促サレン事ハ当会議所ガ併セテ切望スル所ナリ、依テ玆ニ当会議所ガ御告諭ヲ要スル危害物ノ種類、荷造方法並ニ船員ノ注意ヲ要スル件等聊カ其要ヲ別紙ニ略記シテ以テ之ヲ拝呈ス、伏テ願クハ閣下此議ヲ採択セ
 - 第17巻 p.470 -ページ画像 
ラレ、一ハ以テ此没取法ヲ追加セラレ、一ハ以テ普ネク別紙ノ条件ヲ告諭セラレテ我国海運ノ道ヲシテ益々安全ナラシメン事ヲ 頓首謹言
  明治十三年 月        東京商法会議所会頭
                      渋沢栄一
    大蔵卿 佐野常民殿
    内務卿 松方正義殿

    御告諭ヲ要スル事項
危害品類
 危害質ヲ帯ブル品物ヲ挙クレバ無慮数百種ニ下ラズト雖モ之ヲ大別スレバ三種ニ過ギズ、第一種ハ爆烈質ニシテ動モスレバ発火シ易キモノトス、火薬・弾薬・雷管其他火薬ヲ以テ製シタル物及マツチ・揮発油ノ類是ナリ、第二種ハ腐蝕性ニシテ他物ヲ損害スルモノトス硫酸・硝酸・塩酸其他ノ酸類是ナリ、第三種ハ湿気ヲ吸収スルカ若クハ蒸熱ノ為メニ火気ヲ醸スモノトス、石灰・ボロ屑・油紙ノ類是ナリ、従来ノ経験ニ由ルニ此三種中右ニ掲グル品物ハ危害ノ最モ著シキモノナルガ故ニ凡ソ此三種ニ属スベキ品物ハ之ヲ危害品トシ、船員及ヒ貨主ハ勿論苟クモ其運送ニ関係スル者ハ常ニ注意アラン事ヲ要ス
危害品荷造ノ方法
 危害品第一種中火薬・弾薬・雷管其他火薬ヲ以テ製シタル物ハ都テ焼物壷カ若クハ竹製ノ箱ニ納サメ、厚紙ヲ以テ目張リヲ為シ、更ニ之ヲ外函ニ入レ(外函ノ製造ハ厚サ一寸以上ノ松板ヲ用ヒ、裏面ニ黒「チヤン」ヲ塗リ釘ハ竹釘若クハ銅釘ヲ用ヒ、決シテ鉄釘ヲ用フベカラズ)函蓋ハ印籠ヲ用ヒ、之ニ目張リヲ為シ、更ニ毛布ヲ以テ上ハ包ミヲ為スベシ、又マツチノ如キハ成ルベク其動揺摩擦セザル様之ヲ緊束シ、堅牢ナル外函ニ納サムル時ハ容易ニ発火スル患ナシ
 又第二種中酸類ハ其品類ノ如何ニ拘ラズ他物一タビ之ニ触ルヽ時ハ尽ク腐蝕スルノ恐アルガ故ニ、可成堅牢ナル陶器若クハ藍色ナル玻璃瓶ニ入レ、器物ノ毀損セザル様注意セシムルヲ要ス、凡ソ酸類ハ水ヨリ凍ル事速カニシテ一タビ氷結スル時ハ復タ容易ニ融解セザルガ故ニ十ニ八九ハ器物ヲ毀ツニ至ル、故ニ冬季ニハ藁ヲ品物ノ周囲ニ纏ヒ寒気ヲ防グヲ肝要トス、而シテ其荷造ニハ通常籃ヲ用フレトモ桶ヲ用フルヲヨシトス
 第三種中油紙及ビボロクヅノ類ハ成ルベク内ニ熱気ヲ起サヾル様荷造ニ注意セシムルヲ要ス、若シ久シク之ヲ庫内ニ堆積シ、内ニ熱気ヲ醸シタルヲ知ラズ直チニ之ヲ船積スル時ハ更ニ船中ノ熱気ヲ受ケ陸掲《(揚)》ケ若クハ船中ニテ積替等ノ際間々発火スル事アリ、昨年六月三菱会社滊船住ノ江丸ニ搭載シタル油紙ノ発火ヲ以テ之ヲ徴スベシ、故ニ荷主ハ常ニ其荷造方ヲ忽ニスル事ナク又其品物ノ何品タルヲ明示シ海員ヲシテ其取扱方ニ注意セシムルヲ要ス
船員ノ注意
 火薬・弾薬・硝石類ハ船中火薬室アルモノハ其内ニ積ミ込ムハ勿論ナリト雖トモ、若シ火薬室ノ設ケナキ時ハ成ルベク他ノ発火質ノ物品ヨリ遠キ処ニ積ミ込ミ万一発火スル時ハ容易ニ水ヲ注ギ得ル様ニ
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用意ヲ為シ、且ツ其積入場所ニ出入スル者ハ決シテ靴ヲ穿タザル様注意スヘシ、油紙・ボロ屑ノ如キモノハ船中蒸熱ヲ受ケザル様甲板上成ルベク空気ノ流通宜シキ処ニ積入ルヽヲ肝要トス、又硫酸・硝酸・塩酸ノ類ハ必ズ其周囲ニ石灰ヲ積ミ置クベシ、若シ石灰ナキ時ハ曹達・砂・ポツタースノ類ヲ備フベシ、此等ノ品物ハ都テ酸類ノ力ヲ減殺スルノ性質ヲ有スルカ故ニ、万一其器物ノ毀損シテ他ニ漏洩スル事アルモ之ガ腐蝕ヲ防グノ効アレバナリ、若シ又船中ニテ酸類ノ漏出シテ他ノ物品ニ触ルヽヲ見テ之ニ水ヲ注グ時ハ益々腐蝕ノ力ヲ増スモノナレバ、却テ其儘着手セザルヲ良シトス、又アンモニアノ如キハ酸類ニ非ズト云トモ之ヲ銅・真鍮等ニ注グ時ハ忽チ之ヲシテ腐蝕セシメ、又人ノ呼吸ヲ壅塞シ直チニ死ヲ致サシムルモノナルガ故ニ運送ノ際其器物ヲ毀損セザル様注意スルヲ要ス


東京商法会議所要件録 第二一号・第一七―一八頁 明治二四年二月一〇日刊(DK170035k-0005)
第17巻 p.471 ページ画像

東京商法会議所要件録  第二一号・第一七―一八頁 明治二四年二月一〇日刊
○ 危害物船積予防規則ヘ追加ヲ要スル義ニ付内務大蔵両卿ヘ建議之件
 本議ハ益田克徳君ノ建案ニシテ其要旨タル、政府ヘ建議シ現行規則ノ改定ヲ得、更ニ一層海運ヲ保護セントスルニ在リ、乃チ明治十三年五月十八日第十五定式会ニ於テ始テ議場ノ問題トナシタルニ審議ノ末終ニ臨時調査委員ヲ撰定シテ能ク其実況ヲ調査シ、兼テ政府ヘノ建議案ヲ編成シ猶次会ニ於テ之ヲ衆議ニ附スベシト云フニ決シ、乃チ委員七名益田孝・同克徳・朝吹英二・清水九兵衛小西九郎兵衛・渡辺治右衛門・渋沢喜作ヲ撰定シタリ、爾後此等ノ委員ハ同月廿七日更ニ小集会ヲ開キ十分ニ審議ヲ尽クシ、終ニ内務・大蔵両卿ヘ建言シ、現行危害品船積規則ヘ偽称貨物ヲ没取スルノ一条ヲ追加シ、併テ危害物ノ性質、其荷造ノ方法並ニ船員ノ注意等ヲ布告セラレン事ヲ要スルニ決シ、乃チ委員ハ右ノ趣意ヲ以テ建議案ヲ製シテ之ヲ八月五日第十六定式会ニ於テ衆議ニ附シタルニ、一二ノ修正説ヲ除クノ外各員異論ナキヲ以テ同月十日之ヲ内務・大蔵両卿ヘ捧呈シタリ



〔参考〕竜門雑誌 第六一四号・第四四―四五頁 昭和一四年一一月 東京商法会議所に就て(五)(山口和雄)(DK170035k-0006)
第17巻 p.471-472 ページ画像

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冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。