デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
1款 東京商法会議所
■綱文

第17巻 p.542-556(DK170041k) ページ画像

明治13年12月22日(1880年)

当会議所、東京府下船主仲間年行事野中万輔等ノ建案ニ係ル運輸貨物送状面ニ原価並ニ運賃ヲ記入スルノ儀ヲ審議シ廃案トナス。栄一之ニ与ル。


■資料

東京商法会議所要件録 第一八号・第八―一三丁 明治一三年一一月二九日刊(DK170041k-0001)
第17巻 p.542-544 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一八号・第八―一三丁 明治一三年一一月二九日刊
  第九臨時会議 明治十三年十一月九日午後第六時十分開場
    議員出席スル者 ○二十名
○上略 会頭○渋沢栄一ハ更ニ各員ニ向ヒ引続キ野中万輔氏外二名ヨリ当会議所ヘ寄贈ニ係ル運輸貨物送状面ニ其原価並ニ運賃ヲ記入スルヲ要望スル建議ヲ衆議ニ附スルノ旨ヲ告ゲ、書記ヲシテ原案ヲ朗読セシムルノ後、右ニ関スル明治八年十二月四日太政官第百八十四号並ニ第二百一号ノ布告ヲ朗読シ、且ツ曰ク、原案ノ首部ニ於テ運賃記載方ノ義ニ付布告アリタル旨ヲ記スレトモ右廻漕条例ヲ案ズルニ故ラニ此条ナシ、是レ建諸者《(議)》ノ該条例ヲ熟読セザルニ先ツ此書面ヲ製シタルニ由ル、諸
 - 第17巻 p.543 -ページ画像 
君此意ヲ諒シテ之ヲ討議セラルベシト、時ニ建議者野中君ハ本議ヲ発シタル所以ヲ陳述シテ曰ク
 現今廻漕事業ノ形状ヲ観察スルニ、三菱会社ノ如キ其勢ヲ強大ニ張ルモノハ格別従来一二ノ和船ヲ以テ営業スル者ニ至リテハ旧慣ノ然ラシムル所送状ヲ以テ貨物ヲ運送スルヲ例トシ、恰モ此送状ヲ以テ無上ノ約定証トスルノ姿アリ、如此ク約定証ニ充ツベキ大切ナル送状ナルモ其貨物ノ運賃原価ヲ記載セザル者多ク、之ガ為メ貨主ガ某貨物《(其)》ヲ運送スルニ方リテ取継人ナル者貨主船主ノ間ニ在リテ此原価運賃ノ記載ナキヲ奇貨トシ法外ニ利ヲ貪ル事少カラズ、此事タル啻ニ取継人ヲシテ私利ヲ逞フセシムル而已ニ止ラズ其弊ヤ貨主船主ノ手代ニ至ル迄不良心ヲ攪起シ其極終ニ貨主船主ノ間ニ信義ヲ失ハシメ廻漕ノ事業ヲ衰頽スルノ恐ナシトセズ、故ニ今之ヲ政府ヘ建議シテ自後此送状ニハ必ズ原価並ニ運賃ヲ記スベシトノ厳達ヲ得バ、只ニ取継人ノ悪弊ヲ矯正スル而已ナラズ貨主船主ノ信義ヲ厚フシ其功蓋シ少々ナラザルベシ、是レ余ガ同業者ニ謀リ本議ヲ此ニ発シテ諸君ノ賛成ヲ求メント欲スル所以ナリ
佐藤 ○佐藤礼三曰ク本議ノ如キ最モ以テ可ナルベシ、而シテ其原価ノ如キ貨主能ク之ヲ記入シ得ベシト云トモ独リ其運賃ヲ記スルノ事ニ至テハ貨主予メ之ヲ知ルニ由ナキヲ如何セル《(ン)》、然ルニ今之ヲ記載セシメントス無乃《ムシロ》難事ナランカ
朝吹 ○朝吹英二曰ク、従来我国ニ行ハルヽ所ノ送状ナルモノハ甚ダ不完全ナルモノナリ、若シ夫レ貨物引換切手《ビルヲフレージング》ノ法ヲ行フモノトセバ建議者ガ苦慮スル所ノ弊ヲ矯正スルヤ蓋シ難事ニ非ルベシ
野中 ○野中万輔曰ク、従来ノ慣習ヲ以テセバ専ラ此送状ニ依テ貨物ヲ委托スルモノナリ、然ルニ今強テ引換切手ヲ要スルガ如キ事アラバ取継人ハ其之ヲ要セザル所ヲ択ンデ貨物ヲ委托スルニ至リ、他ニ先ンジテ其事ヲ挙行シタル船主ハ為メニ商売上損害ヲ来タスノ恐レアリ、要スルニ此法タル従来和船ヲ以テ営業スル者ノ間ニ於テハ決シテ実行シ難キモノナリ
朝吹曰ク、送状ノ制ハ甚ダ完全ナラズ、引換切手ノ法ハ最モ以テ、完全ナルモノナリ、今商法会議所ハ府下商業ノ開進ヲ図ルヲ以テ自ラ任スルモノナリ、然ルニ完全ナルモノヲ措テ不完全ナルモノヲ要求セバ、其体面ニ於テ少シク欠クル所ナシトセズ、況ンヤ引換切手ノ法タル能ク送状ノ用ヲ兼ネ得ルニ足ルモノヲ乎、故ニ余ハ当会議所ノ名目ヲ以テ此引換切手ノ法ヲ行ハン事ヲ政府ニ要望スルハ、遥カニ本議ニ愈ルト信ズルナリ
益田曰ク、廻漕条例ノ如キ別ニ罰則ノ明示ナシ故ニ政府ガ一タビ引換切手ノ法ヲ制定セラルヽモ之ガ為メ必ズ廻漕営業者ノ迷惑ヲ生ズル事ナカルベシ、何トナレバ若シ実際引換切手ノ行ハレザルニ当リ別ニ罰則ノ制定ナケレバナリ、由是観之当会議所ガ引換切手ノ法律ヲ要望スルモ亦分外ノ事ニ非ルベシ
大倉 ○大倉喜八郎曰ク、夫レ運賃ハ才ヲ以テ定ムルモノアリ、量ヲ以テ定ムルモノアリ
 各種異同ナキ能ハズ然ルニ今貨主ナル者各々自家ニ運賃ヲ記入スル
 - 第17巻 p.544 -ページ画像 
モノトセバ仮令取継人ノ奸曲ヲ防クノ効能アルモ、或ハ貨主ノ煩ヲ償フニ足ラザル事ナキヲ得ズ到底此事タル実行シ難キノ恐アラン歟
益田曰ク、余ヤ貨物ヲ運送スルニ当リ、常ニ引換切手ヲ要求セザル事ナシ、送状ノ制ノ如キハ甚ダ危険ニシテ自ラ得テ做シ能ハザルノ実アリ、然レトモ従来和船ヲ以テ営業スル者ハ送状ノ法却テ適当スルモノヽ如シ、故ニ和船ニ至リテハ或ハ引換切手ヲ行ヒ難キノ事情ナキニ非ズ、復タ能ク実際ノ如何ヲ考究セザルベカラズ
朝吹曰ク、送状ヘ原価運賃ヲ記入スルノ法ヲ当会議所ヨリ政府ヘ要望スルノ不可ナルハ余ガ前説ノ如シ、然ラバ則チ本議ハ政府ヘ建議スルヲ暫ク措キ船主ノ申合セニ止メシメバ如何ン
野中曰ク、単ニ船主ノ申合ニ任スル時ハ或ハ恐ル十分ニ其効ヲ奏セザラン事ヲ、是レ余ガ政府ヘ建議セント欲スル所以ナリ
益田曰ク、先ツ当会議所ヨリ政府ニ向テ貨物引換切手ノ法ヲ行ハン事ヲ要求シ、若シ実際行ヒ難シトナラバ責メテハ従来ノ送状ニ其原価運賃ヲ記入スルノ一条ヲ追加セラレタシト云フノ意ヲ以テ建議セバ第一発議者ノ精神ヲ失ハス、又当会議所ノ体面ヲ汚ス事ナク所謂一挙両全ノ策ナラン歟、諸君以テ如何トナス
会頭曰ク、本議ニ就テハ各員其所見ヲ発議シ、殊ニ益田君ノ折衷説モアリ、至極穏当ナルガ如シト云トモ抑モ建議者ノ精神タル送状ニ原価運賃ヲ記入セン事ヲ望ムノ一途ニアリ、然ルニ今当場ノ議決ヲシテ之ヲ別途ニ渉ラシムル時ハ建議者ノ失望果シテ知ルベシ、故ニ本議ハ軽忽ニ之ヲ議了セズ猶之ヲ熟考スルヲ要ス
益田曰ク、会頭ノ演述ノ如ク会外者ヨリ当場ヘ建議スルモノハ世人ガ漸ク当会ノ効能ヲ知リタルニ因ル、故ニ軽々之ヲ排議スル事ナク次会ニテ猶其利害ヲ論シ鄭重ニ之ヲ議了スルトセバ如何
会頭ハ衆議稍々尽クルヲ見テ更ニ各員ニ向テ曰ク、当会議所ガ本議ニ向テ斯ク熱心討議スルモノハ其要建議者ノ美ヲ成ンガ為メナレバ、本議ハ此ニ之ヲ議了セズ猶次会ニ於テ十分討議ヲ尽クシ、鄭重ニ其可否ヲ決スルヲ要ス、又建議者ハ今会議事ノ顛末ヲ同業者ニ通告シ、若シ一歩ヲ進テ引換切手ノ法ヲ以テ果シテ実行シ得ルトスル歟将タ原案ヲ維持スルヲ要スル歟、其考案ヲ貯ヘテ之ヲ次会ニ提出シ、猶十分衆議ヲ尽クサルベシト、各員之ヲ諒ス ○下略


東京商法会議所要件録 第一八号・第一七―一九丁 明治一三年一一月二九日刊(DK170041k-0002)
第17巻 p.544-545 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一八号・第一七―一九丁 明治一三年一一月二九日刊
○参考部
    貨物送状面ヱ原価並運賃記載方ノ儀ニ付政府ヨリ再御布達ヲ要スル儀ニ付願
 府下船主仲間年行司野中万輔等爰ニ具陳仕度儀ハ従来東京ヨリ各地ヘ輸出運漕品ハ其送状面ヘ原価並ニ運賃等ヲ記載可致規則ニシテ去ル明治八年中御布達ノ趣モ有之、荷主タル者ハ勿論苟モ回漕業ヲ相営ミ居候者ハ固ク相守リ犯則之所業等無之様各自注意可致筈之処兎角古来ノ習慣ニ泥ミ今日ニ至ル迄猶之ヲ記載セザル者甚ダ多ク、夫ガ為メ積荷取継人中狡智ニ長シタル者ハ送状中偶々原価等ノ記載ナキヲ奇貨トシ巧ニ荷主ト船主トヲ欺キ仲間ニ在テ不当ノ運賃ヲ領収
 - 第17巻 p.545 -ページ画像 
シ、私利ヲ逞スル者不少、其弊ヤ自ラ荷主ト船主トノ間ニ不信用ヲ惹キ起シ、為メニ法庭ヲ煩ハス等ノ事往々ニシテ有之如此弊習ヲシテ今日ニ流行セシメバ自然貨物運漕上ニ渋滞ヲ生ジ回漕業ノ衰頽ヲ醸スノ基トモ可相成儀ニ付、今般船主仲間ニ於テ右等ノ弊習ヲ防ガンガ為メ、前顕御布達ニ違犯セザル様荷主並ニ積荷取継人等ヘ忠告可致事ニ協議決定致候得共、沿襲ノ久シキ一片ノ忠告書而已ヲ以テ之ヲ矯正候儀ハ万無覚束儀ト深ク苦慮痛心罷在候、然ル処東京商法会議所ニ於テハ是迄商業上ニ関スル法律規則等御改正又ハ追加ヲ要スル儀ニ付屡々御建白等モ有之、本議ノ如キモ亦商業上緊切ノ関係ヲ有スル儀ニ付、幸ニ前陳ノ事情其筋ヘ御上申ノ上兼テ御布達ノ趣固ク可相守様更ニ厳達ヲ蒙ルヲ得バ、船主並ニ回漕営業者ハ此機ニ乗シ精々之レガ矯正ニ力ヲ竭クシ、自今以後送状面ニハ必ズ其貨物ノ原価等ヲ詳細ニ記載セシメ、其取継人等ヲシテ不正ノ所業ヲ施スノ道ヲ絶タシメバ、府下商人ハ勿論他国ヨリ仕入等ノ為メ出京ノ商人ニ至ル迄今日ノ如ク取継人ノ奸計ニ陥ルノ虞ナク、自今互ニ相信シテ貨物ヲ委托運搬スルニ至リ、大ニ海運ヲ隆起スルノ裨補トモ可相成儀ト奉存候間、何卒右御衆議ノ上其筋ヨリ至急御厳達有之候様御上申相成度、此段奉懇願候也
               府下船主仲間年行司
 明治十三年十一月二日          野中万輔
               同     同行司
                 川崎新二郎代理
                     大竹重助
               同     同行司
                 運漕社代理
                     林吉兵衛
  東京商法会議所会頭
    渋沢栄一殿

渋沢栄一書翰 梅浦精一宛 (明治一三年)一二月五日(DK170041k-0003)
第17巻 p.545 ページ画像

渋沢栄一書翰  梅浦精一宛 (明治一三年)一二月五日   (土肥脩策氏所蔵)
拝啓今日是非出勤之積ニ候処昨夜より風邪気ニて夜ニ入寒風ニ冒され候ハ実ニ難渋ニ付残念なから欠席仕候
○中略
送状ニ原価運賃記載之論ハ前会ニ聢と議定無之ニ付此草案ニて御決議を乞候様可被成候
○中略
  十二月五日                  栄一
    梅浦様


渋沢栄一書翰 福地源一郎宛 (明治一三年)一二月五日(DK170041k-0004)
第17巻 p.545-546 ページ画像

渋沢栄一書翰  福地源一郎宛 (明治一三年)一二月五日   (土肥脩策氏所蔵)
○上略
議事ハ曾而会議所より申上候通ニ候得共運賃記載之件ハ前会ニハ擯斥之説多き様ニ相見ヘ今会ニ延し候義ニ候
○中略
 - 第17巻 p.546 -ページ画像 
  十二月五日
                     渋沢栄一
    福地老兄


東京商法会議所要件録 第一九号・第一―九丁 明治一四年一月三一日刊(DK170041k-0005)
第17巻 p.546-549 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一九号・第一―九丁 明治一四年一月三一日刊
  第十臨時会議 明治十三年十二月九日第六時三十分開場
    議員出席スル者 ○十八名
会頭(渋沢栄一)ハ各員ニ向ヒ今夕臨時会ヲ催ス旨ヲ以テ諸君ニ報シ置キタレトモ前月来定式事務ノ報告ヲ要スベキモノ多ヲ以テ曾テ臨時会議ノ為メ報道セシ議案ヲ決議シテ尚余暇アレバ更ニ定式会議ヲ執行スベキ旨ヲ陳述シ先ツ書記ヲシテ野中万輔外二名ヨリ差出シタル貨物送状面ヘ運賃ノ記載ヲ要望スル建議案(参考部ニ附ス)ヲ朗読セシメ且ツ曰ク本案ニ就テハ各員ノ討議スル所其説一ニ帰セズ、或ハ引換切手《ビルヲフレーヂング》ノ方法ヲ実施セン事ヲ望ム者、或ハ本案ノ賛成説ヲ唱フル者モアリタルガ、猶建議者ニ覆考ノ便ヲ与ヘンガ為メ今会迄其決議ヲ遷延シタリ且ツ前会已ニ陳述シタルガ如ク本案ノ文面ニ拠レバ送状ニ貨物ノ原価等ヲ記載スルハ法律ノ指命スル所ナルガ如シト雖トモ、熟々明治八年ノ発布ニ依ル廻漕条例ヲ案ズルニ特ニ此明文アルヲ見ズ、諸君先ヅ此意ヲ諒シ之ガ討議ヲ尽サレヨト
益田孝曰ク 抑モ送状ニ運賃ヲ記載セントスルヤ先ヅ船主ニ就カザレバ之ヲ明記スル能ハザルノ場合ナシトセズ、是レ余ガ前会ニ於テ其実行ヲ難ンスル所以ナリ而シテ余ガ此説ヲ発スルモノハ中央政府ノ布告ナキヲ信ジテノ故ナリ、然ルニ今建議者ノ説明スル所ニ拠レバ実ニ此布告アリシト云フ、若シ果シテ中央政府ガ此布告ヲ発シタルモノナラバ之ヲ遵奉スルハ固ヨリ被治者ガ当然ノ義務ニシテ之ヲ背クハ則チ被治者ノ罪ナリ、然ルヲ今中央政府ニ向テ已ニ一タビ布達シタル布告ノ再発ヲ請願スルハ無乃其道ヲ得ザル者ナラン乎、故ニ本議ハ先ヅ中央政府ニ向テ之ヲ要望スル事ナク、暫ラク東京府ノ諭達ヲ請フニ止ラバ何如
会頭野中ニ問テ曰ク、実ニ此布達アリシヤ
野中曰ク、然リ、明治七年中送状ニ原価ヲ記載シ、其価額十円以上ナル時ハ一銭印紙ヲ貼用スベシトノ公布アリシト記臆セリ
会頭曰ク、是ハ之レ送状ニ必ズ原価等ヲ記スベシトノ意ニ非ズシテ只印紙貼用規則ヲ示シタルモノナラン歟
益田克徳曰ク、本員ハ甞テ送状ヘ運賃ヲ記載スベシト云フノ法律アルヲ聞カズ、恐ラクハ野中君ノ説明スル所謬ナラン歟
平野 ○平野富二曰ク、益田孝君ノ説ノ如ク仮令東京府ヘ諭達ヲ請フトモ此事タル東京府下而已ニテ行ハルベキモノニ非ラズ、何トナレバ東京ヘ出入スル船舶ハ其船籍ヲ一地方ニ有セザレバナリ、故ニ果シテ此事ヲ実行センニハ中央政府ヘ請願セザルベカラズ
益田孝曰ク、若シ如此布達ナシトセバ此事タル須ラク先ヅ運輸船舶並ニ内国商業事務ノ両委員ニ托シテ能ク実際ノ景況ヲ調査セシメ、然ル後建白ノ可否ヲ決スベシ、仮令引換切手ノ如キ完全ナル方法ト云トモ実際果シテ適切ナラザル所アラバ之ヲ望ムモ亦本意ニ非ズ、故
 - 第17巻 p.547 -ページ画像 
ニ本会ハ能ク実際施行ノ難易ヲ調査シ他日商人ノ苦情ヲ惹キ起サヾラン事ヲ望ムベキナリ
会頭曰ク、甞テ聞ク横浜ニ於テ生糸売込問屋ガ其生糸ヲ外商ノ店内ニ仮托シテ之レガ売込ミヲ為スノ弊ヲ制セン事ヲ望ミシガ、若シ一人之レニ背ク者アレバ其協議終ニ遂グル能ハズト、想フニ今建議者ガ周旋人ノ悪弊ヲ矯正セントスルニ当リテ、殊ニ之レヲ法律ニ望ムハ船主ノ相共ニ悖戻セザラン事ヲ謀ルニ出ルナルベシ
野中曰ク、誠ニ然リ、而シテ今実際ノ景況如何ヲ観察スルニ送状ニ原価運賃等ヲ記載セザルガ為メ其ノ損害ヲ被ル者独リ荷主ニ在ルガ如シト雖トモ、其害ノ及ブ所決シテ荷主而已ニ止ラザルナリ、若シ周旋人ナル者ガ荷主ニ対シテ貪利ヲ逞フスル時ハ、荷主ハ直チニ船主ニ向テ其苦情ヲ訴フベケレバ其弊終ニ荷主船主間ノ交誼ヲ破リ不和ヲ醸シ共ニ言フベカラザルノ損害ヲ受クルモノトス、是故ニ今公布ノ力ヲ仮リテ此原価運賃記載ノ方法ヲ実施スルニ至ラバ周旋人ヲシテ私利ヲ逞フスルノ道ヲ絶タシメ、必ズヤ今日ノ弊害ヲ芟除スルノ効ヲ奏スルニ至ラン、余輩同業者ノ要望スル所此ニ外ナラズシテ会頭ノ推察セラルヽガ如シ
益田孝曰ク、送状ニ必ラズ原価等ヲ記載セシムルノ法律ヲ設クルハ其事タル甚ダ重大ナリ、顧フニ此等ノ事ハ別ニ政府ノ布達ヲ要セズ、船主荷主ノ間能ク其協議ヲ尽サバ其実効ヲ見ルニ至ラン歟、如此ク其所用スル方法ニ大小アリテ其望ム所ノ目的一ナリ、今小事ヲ措テ大事ヲ採ルハ得策ニ非ズ、故ニ余ハ委員ヲシテ先ツ実際ノ景況ヲ調査セシメ此弊ヲ矯正スル果シテ政府ノ布達ヲ必須トスルカ否其適否ヲ熟察シ、而シテ後前顕二法ノ取捨ヲ決セン事ヲ欲スルナリ
会頭野中ニ問テ曰ク、前会ニ於テ若干ノ議員中ニ引換切手《ビルヲフレーヂング》ヲ専用セン事ヲ要スルモノアルヲ以テ、船主仲間ニ於テ果シテ其所見ノ如ク一歩ヲ進メテ此改良ヲ企図スルニ至ルカ否更ニ其意見ヲ聞カレ度旨ヲ述ベタリ、其熟議ノ結局如何ン
野中曰ク、爾後更ニ船主仲間ノ会議ヲ開キ其ノ意見ヲ問ヒシニ、皆曰ク引換切手《ビルヲフレーヂング》ノ方法ノ如キ可ハ則チ可ナリト云トモ、僅カニ一二艘ノ船舶ヲ所有スル者ノ間ニ於テハ実際之ヲ行フベカラズト、而シテ其之ヲ行フベカラザルノ理由ニ至テハ余ガ前会ニ陳説シタル所ニ外ナラザルナリ
丹羽 ○丹羽雄九郎曰ク、果シテ送状ヘ必ズ運賃等ラ記載スルモノトセバ若シ東京ヨリ長崎ヘ貨物ヲ運送スル時、一タビ神戸ヘ其貨物ヲ陸上ゲシ然ル後更ニ他船ニ搭シテ之レヲ長崎ニ運送センニ、東京ノ荷主ハ神戸マデノ運賃ヲ詳知スル事ヲ得ルモ、神戸ヨリ長崎マデノ運賃ニ至リテハ予メ之ヲ知ル事能ハズ、果シテ如此ナル時ハ如何シテ之ヲ記載スベキヤ
野中曰ク、如此時ハ神戸ヨリ長崎マデノ運賃ハ神戸ノ問屋仮リニ荷主ノ地位ニ立チ之レヲ記入スルモノトス、且ツ夫レ原価等ヲ記載セザル時ハ難破紛失等不慮ノ災害生スル毎ニ荷主・船主ノ間ニ紛議ヲ生スルノ恐ナシトセザルナリ
平野曰ク、送状ニ運賃ヲ記載スルハ実際得テ行フベカラザルノ事ナラ
 - 第17巻 p.548 -ページ画像 
ン、今其ノ一例ヲ挙クレバ余甞テ所有ノ貨物ヲ他方ヘ運送スルニ臨ミ船主ト若干ノ運賃ヲ約シタルニ之ヲ搭載スル時ニ方リ予約ノ運賃外猶三倍ノ多額ヲ要求セラレタル事アリタリ、当初船主ト約束アルモ猶如此キ事アリ、以テ運賃ノ記入難キ事知ルベキナリ、故ニ此等ノ事ハ別ニ政府ヘ請願スルヲ要セズ、宜ク船主仲間ノ協議ニ任スベキナリ、聞ク前年当地ヨリ某船ニ托シテ一個ノ「カバン」ヲ輸送シ其運賃金二十銭ヲ払ヒシニ船中其紛失シタルヲ以テ荷主ハ該「カバン」中鼈甲其他貴重ノ品物ヲ包蔵セリト某船主ニ向テ百円ノ償金ヲ要求セリト、如此ハ全ク船主ノ其撿査ヲ忽ニスルニ坐スベキモノニシテ、若シ撿査宜ヲ得、更ニ船主ノ責任ヲシテ重カラシメバ此弊自ラ其跡ヲ絶ツベキナリ
野中曰ク、船主仲間ニ於テハ一タビ申合ヲ以テ此弊ヲ矯正スルニ決シタレトモ、今日ノ現状ヲ以テスレバ周旋人ナル者ハ其権頗ル強大ニシテ、只船主ノ申合ヲ以テ能ク其目的ヲ達シ難キノ恐アリ、依テ更ニ政府ノ厳達ヲ仰ガン事ニ決シタルナリ
益田克徳曰ク、抑モ海上保険ノ漸ク盛ンナルニ随ヒ引換切手《ビルヲフレーヂング》ハ甚ダ必用ナルモノトス、若シ夫レ此ノ切手ノ如ク貨物ノ原価等ヲ明記スルモノナキ時ハ平均法ヲ行フニ於テ其不都合少シトセズ、此方法ハ最モ冀望スベキナリ
大倉 ○大倉喜八郎ハ野中ニ向テ此建議ヲ要望スル者ハ総テ風帆船所有者ナルヤヲ問ヒ、且ツ曰ク、此ノ建議ノ果シテ風帆船所有主ニ出ヅルモノトセバ益々今日ノ慣習ヲ改良シテ一般引換切手《ビルヲフレーヂング》ヲ採用スルニ若カザルナリ、何トナレバ今東京ヨリ貨物ヲ山形若クハ庄内ヘ輸送スルニ方タリ風帆船所有主ノ如キハ各港各々支店ヲ設クルガ故ニ引換切手《ビルヲフレーヂング》ヲ専用スルモ実行上障碍ナキモノト信ズレバナリ
会頭曰ク、今送状面ニ原価運賃等ヲ記載セン事ヲ要望スル所ノ建議者ニ向テ其目的ヲ転シ、之ニ引換切手《ビルヲフレーヂング》ヲ専用セン事ヲ勧ムルハ抑モ亦建議者ノ本意ニ違フモノナリ、故ニ諸君夫レ之ヲ諒シ討議セラレン事ヲ要ス
益田克徳曰ク、引換切手《ビルヲフレーヂング》ト云ヒ送状ト云ヒ孰ヅレガ果シテ実際ニ適切ナルカ余ハ今之ヲ明証スルノ鑑識ナシト云トモ仄カニ聞ク所ニ拠レバ方今政府ハ保険船難救助等ニ関シ規則ヲ調査セラルヽト云フ、果シテ然ラバ当会ニ於テ実際ノ景況ヲ調査シテ之ヲ政府ニ具申セバ其開進ヲ補翼スルニ於テ或ハ意外ノ結果ナシトセザルナリ
小西 ○小西義敬曰ク、益田孝君ノ説ノ如ク委員ヲ撰定シテ実際ノ景況ヲ調査セシムル事最モ以テ可ナリトス
佐藤 ○佐藤礼三曰ク、送状ニ運賃ヲ記スルハ容易ナラズ、故ニ先ツ運賃一覧表ヲ製シテ之ヲ広告スルニ至ラバ或ハ裨補ナシトセザルナリ
野中曰ク、運賃表ノ如キ奥州地方ヘノ分ハ已ニ仲間中調査ヲ了シ其他各地方ヘノ分ハ現今已ニ着手中ナリ、其ノ之ヲ広告スル其期近キニ在ルベシ
平野曰ク、前ニモ述ベタルガ如ク運賃ヲ記載スルハ容易ナラズ、何トナレバ□□ノ如キハ気候ニ寄リ航海ノ難易ニ随テ一様ナラズ、実際必ズシモ予定スベカラザレバナリ、例ヘバ仙台地方ヘ貨物ヲ輸送セ
 - 第17巻 p.549 -ページ画像 
ンニ仮令当初定ムル所ノ運賃百円ナルニモ拘ラス、若シ此貨物該地ヘ到着スル時ニ方タリ降雪ニ遭逢スルガ如キ事アレバ船主ハ更ニ荷主ヨリ数十円ノ増賃ヲ要スルガ如シ、由是観之運賃ハ気候ト航海ノ模様ニヨリテ定ムルモノト云フモ可ナリ、決シテ之ヲ予定スル事能ハザルナリ
松尾 ○松尾儀助曰ク、運賃ヲ記入スル事能ハザルニ非ズ、只其記スル所其実ヲ得難キヲ如何セン
原 ○原六郎曰ク、熟々実際ノ景況ヲ察スルニ、荷主ガ船主ニ払フモノハ只運賃ノミニ止ラズシテ猶此外ニ船積諸雑費ト云フガ如キモノアリ、故ニ荷主自ラ之ヲ記入スル頗ル難シトス、且ツ夫建議者ノ望ム所ハ周旋人ノ弊ヲ矯ルニ在リ、故ニ今船主ヲシテ貨物ノ運賃ヲ自記セシムルノ便法ヲ用ヒバ一ハ以テ周旋人ノ悪弊ヲ防ギ一ハ以テ荷主ヲシテ運賃ヲ記入セシムルノ困難ヲ免カレシメ、所謂一挙両全ノ策ナラン歟
丹羽曰ク、原価ヲ記スルニ於テ之ヲ一円トスルモ又ハ十円トスルモ皆是レ荷主ノ自由ニ在ルガ故ニ、別ニ制限ヲ立ツルニ非ルヨリハ原価ヲ記スルハ敢テ要用ナラザルニ似タリ
会頭曰ク、否ラズ若シ荷主ガ一円ノ原価ヲ十円ト記サンカ高貴ノ運賃ヲ払ハザルヲ得ズ、若シ又十円ノ原価ヲ一円ト記サンカ難破紛失等アリテ之ヲ償還スル時ニ於テ荷主損毛ヲ受ケザルヲ得ズ、是ヲ以テ原価記載ノ事タル自ラ制限アリ、荷主タル者決シテ法外ノ原価ヲ記載スル事能ハザル也
佐藤曰ク、船主ヨリ予メ周旋人ヘ通ヒ帳ヲ附与シ、其運賃ヲ之ニ記載スルノ申合ヲ為サバ或ハ此弊矯正スルニ足ラン歟
野中曰ク、其法或ハ其弊ヲ防グニ足ルベキガ如シ雖《(ト雖)》トトモ実際行ヒ難キヲ如何セン、已ニ前年東京府ヨリ廻漕業仲間設立ノ事ヲ達セラレタルニ終ニ之ヲ実施スル事能ハザリキ以テ其申合ノ難キヲ知ルベキナリ
益田孝曰ク、引換切手《ビルヲフレーヂング》ノ方法ヲ取用スルモ亦此弊ナキヲ保セズ、抑モ今日ノ弊風ヲ醸成シタルモノハ周旋人ノ収益僅カニ五分ニ過ギザルヨリ致ス所ニシテ亦不得已ノ情勢ナシトセズ、深ク周旋人ノミヲ咎ムベカラザルナリ
福地 ○福地源一郎曰ク、余甞テ貨物ヲ京都ヘ運送スルニ方タリ、其船ニ委托シテ神戸迄ノ運賃ヲ払ヒ即チ引換切手ヲ受取リ之ヲ京都ヘ向ケ郵送シタルニ、何ゾ図ラン其貨物ハ神戸ニ滞留シテ大ニ不便ヲ生シタル事アリキ、若シ夫レ此時ニ当リ其貨物ノ運送ヲ以テ周旋人ヘ委托セバ豈如此ノ扞格ヲ致サンヤ、由是考之周旋人ナル者亦荷主ノ便益ヲ補翼スル事少シトセズ、一概ニ之ヲ責ムベカラザルナリ
於是会頭ハ議論稍々尽キタルヲ見テ各員ニ向テ曰ク、諸君ノ間種々ノ討論アリタルガ、要スルニ其帰着スル所益田君ノ運輸船舶並ニ内国商業事務両委員ニ托シテ実際ノ景況ヲ調査セシムルノ説ト、大倉・平野両君ノ本案ヲ賛成スベカラザルノ説ニ止ルガ如シ、故ニ今二説ニ就キ逐次起立ヲ以テ之ヲ決セントス、先ヅ益田君ノ説ニ同意ノ者ハ起立セラレヨト云フニ起立者多数ナルヲ以テ乃チ之ニ決ス
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東京商法会議所要件録 第二〇号・第一―一〇頁 明治一四年二月三日刊(DK170041k-0006)
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東京商法会議所要件録  第二〇号・第一―一〇頁 明治一四年二月三日刊
  第十一臨時会議 明治十三年十二月廿二日午後第七時開場
    議員出席スル者 ○十六名
会頭(渋沢栄一)ハ各員ニ向テ曰ク、今夕臨時会ニ於テ議ス可キ件ハ第一ニ野中君ノ建議ニ係ル送状面ヘ原価等記入ノ事、第二ニ商法講習所教則等調査ノ事ナリ、而シテ此第一野中君建議ノ件ハ前会ニ於テ委員ヲシテ実際ノ景況ヲ調査セシムルニ決シ、即チ其大要議案ニ記載スルガ如シ(参考部ニ付ス)諸君先ツ委員ノ調査スル所ニ就テ意見アラバ之ヲ益田君ニ質問セラルベシト
佐藤 ○佐藤礼三曰ク、送状面ヘ貨物原価ヲ記入スルハ望ム所ナリト云トモ其運賃ヲ記入スルノ事ニ至テハ其之ヲ実行スル最モ難シトス、是ヲ以テ前会ニ於テ鄙見ヲ陳述シテ建言ノ不可ナルヲ云ヘリ、今ヤ委員ノ調査セラルヽ所ヲ見ルニ、其要蓋シ此ニ在ルモノヽ如シ、故ニ余ハ之ヲ賛成ス
大倉曰ク、委員ガ調査スル所先ヅ実際ノ便否ヲ察シ、然シテ後建言ノ当否ニ論及ス、而シテ其考査スル所余ニ於テハ一モ間然スル所ナシ
会頭建議者野中君ニ向テ曰ク、已ニ二三ノ議員ハ両委員ノ調査報告セシ趣旨ヲ賛成スレトモ、此間異見アラバ決議ノ前十分之ヲ陳ベラルベシト
野中曰ク、抑モ今日送状ノ制タル仮令完全ナラザル所アルニモセヨ是レ則チ契約書タルノ実アルモノナリ、而シテ契約書ニ運賃ヲ記スルハ最モ有要ナルニ非ズヤ、余輩船主仲間ハ敢テ周旋屋ヲ擯斥スル者ニ非ズ只其弊ヲ矯正セン事ヲ欲スル者ナリ、夫レ周旋屋ナル者ハ恰モ船主ノ代理タルガ如キモノナルニ、此代理者ガ貨主ニ向テ不当ノ運賃ヲ要求スル事アラバ之ヲ禁ズルハ固ヨリ船主ノ義務ナルニ非ズヤ、況ンヤ運賃ノ記載ハ法律ノ力ニヨリテ容易ニ之ヲ断行シ得ルニ於テヲヤ
益田曰ク、従来送状ヲ以テ船頭ニ托スルハ猶貨幣貸渡証書ヲ他人ニ委托スルガ如キノ看アリト云トモ是レ多年習慣ノ然ラシムル所ニシテ今遽カニ之ヲ改ムベカラズ、運賃記載ノ事モ亦然リ、然ルニ今法律ヲ以テ必スシモ之ヲ実施セシメントスルハ頗ル難事ナルニ非ズヤ、抑モ周旋屋ノ悪弊ヲ矯正スルハ法律ノ外ニ其道ヲ求ムベシ、若シ法律ヲ以テ必ズシモ運賃ノ記載ヲ実行セシメントスルモ全ク其弊ヲ芟除スル事能ハズシテ却テ貨主ノ困難ヲ生ズルノ恐ナキヲ保セズ、試ニ看ヨ三菱会社ノ如キ常ニ引換切符ヲ用フルト云トモ猶周旋屋ノ悪弊ヲ全除スル事能ハザルニ非ズヤ、之ヲ要スルニ一弊ヲ除カントシテ更ニ一害ヲ生ゼントス、是レ豈当会ガ甘ンジテ要望スベキ所ナランヤ、蓋シ其理由ノ詳細ニ至テハ委員ノ報告書ニ縷述スルガ如シ、復タ更ニ弁明ヲ要セザルナリ
福地曰ク、委員ノ調査スルガ如ク其原価記入ノ事ヲ政府ニ建言シテ其採用ヲ得ルニ会セバ始テ運賃記入ノ要用ナルト否トヲ判スルニ至ラン歟、何トナレバ、今一般原価ヲ記入スルノ制トナルニ至ラバ其運賃ハ原価ニ依リテ定ムベキガ故ニ、此時ニ方タリ若シ偶々同一ノ貨
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物ニシテ甲乙其運賃ヲ異ニスルガ如キ事アラバ自ラ貨主ヲシテ運賃記入ノ必用ナルヲ発見セシムルニ至レバナリ、故ニ当会ハ全ク建議者ノ望ム所ヲ排斥シタリト云フベカラザルナリ
会頭曰ク、当会ハ政府ニ向テ只原価記入ノ一事ヲ要スルモノナリト雖トモ焉ゾ知ラン運賃記載ノ事モ亦自ラ此間ニ行ハレン事ヲ、由是観之当会ニ於テ建議者ノ意ヲ擯斥スルニ非ザルハ猶福地君ノ陳述セラルヽガ如シ
益田曰ク、建議者ガ原価記入ヲ望ム所以ハ只周旋屋ノ悪弊ヲ矯正センガ為メナリ、而シテ当会ガ之ヲ望ム所以ハ一般ノ公益ヲ進捗センガ為メナリ、故ニ其要望スル所一ナリト雖トモ之ヲ望ム所以ハ同ジカラザルナリ
柴崎 ○柴崎守三問テ曰ク、原価ヲ記入セザル時ハ貨物ヲ紛失スルニ臨ミテ弁償ノ途ヲ得難キ事アルベシ、従来ノ慣行如何ン
野中答テ曰ク、従来送状ニ原価運賃等ヲ記載セザル習慣ナルヲ以テ周旋屋ナル者貨主船主ノ中間ニ立テ不当ノ私利ヲ謀ルノ弊アリ、是故ニ事故アリテ一タビ周旋屋ヲ経テ船主ニ伝托シタル貨物ヲ貨主ニ還戻スル等ノ事アル時ハ両主ノ間ニ紛紜ヲ来タス事其例少シトセズ、此等ハ皆送状ニ原価等ヲ記入セザルヨリ致タスモノニシテ即チ余輩ガ其矯正ヲ要スル所以ナリ
益田曰ク、今日引換切手ヲ専用スルヲ苦シム者独リ日本船ヲ所有スル者ノミ、其他風帆船若クバ西洋形船ヲ所有スル所ノ船主ハ専ラ引換切手ヲ用フルニ至ラン事其日遠ニ非ルベシ、此等ノ事ハ政府ノ干渉ヲ望マズシテ可ナラン、且ツ夫レ船主ガ周旋屋ノ弊ヲ矯正セントスル自ラ奮テ其途ヲ求ムベキナリ、若シ船主ニシテ直接ニ貨主ニ交通スルノ道ヲ開キ専ラ其貨主ノ便益ヲ図ルモノトセバ、仮令周旋屋ガ如何ナル奸策ヲ施サントスルモ豈其目的ヲ達スル事ヲ得ンヤ、然ルニ自ラ奮テ周旋屋ヲ制スルノ策ヲ講セズシテ法律ノ力ニ資リテ之ヲ制セントス、是レ本ヲ顧ミズシテ末ヲ憂フルノ法耳、豈其策ノ宜シキヲ得タルモノト云フベケンヤ
野中曰ク、只僅カニ一二隻ノ和船ヲ所有スル者ノ如キハ、船長モナク会計方モナク、決シテ堂々タル会社ヲ習フベカラザルヲ如何センヤ
益田曰ク、余ガ原価ノ記入ヲ望ム所以ハ已ニ述ブルガ如ク、決シテ周旋屋ノ弊風ヲ矯正スルノ為ニ非ズシテ海上平均法ヲ行フニ方タリ其標準ヲ得ンガ為メナリ、聞ク此平均法ノ事タル往時北条義時ノ時代ニ於テ已ニ内国ニ行ハレタリト、蓋シ其難破ノ事アルニ際シ此法ノ有望ナル今更ニ喋々ヲ待タザルナリ
後藤 ○後藤庄吉郎曰ク、今日ノ景況ヲ観ルニ多ク貨物ヲ運送スル者ハ必ズ先ヅ其運賃ヲ船主ニ問ヘ而シテ後ニ其廻送ヲ為サヾルナシ、而シテ之レヲ為サヾルハ小貨物ヲ廻漕スルノ時ニ止ルモノヽ如シ、且其小貨物ヲ廻漕スルニ当タリテハ周旋屋ノ手ヲ経ザレバ貨主ニ於テ実ニ不可言ノ不便アリトス、故ニ野中君建議ノ精神ハ最モ嘉ミスベシト云トモ之ヲ実行スル時ハ或ハ却テ貨主ニ困難ヲ与フルノ恐ナシトセズ況ンヤ是只船主ノ私益而已ヲ保庇スルノ嫌ナキニ非ルオヤ
吉川 ○吉川長兵衛曰ク、往時ハ船主ト周旋屋ノ間更ニ廻漕問屋ナル者アリ、
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然ルニ現今ノ周旋屋ナル者ハ其実廻漕問屋ノ業務ヲ兼営スル者ニシテ貨主ニ便益ヲ与フル事亦不尠トス、故ニ此間或ハ多少ノ弊害ヲ生スル事アルモ深ク周旋屋而已ヲ咎ム可ラザルナリ
松尾曰ク、野中君ノ建議ハ取ル可ラズ、余ハ委員ノ調査スル所最モ実際ニ適切ナルヲ信ズルナリ
条野 ○条野伝平ハ野中君ノ建議全ク廃棄セラレタルニ非ル旨ヲ述ベテ、且委員ノ報告書ヲ賛成シテ会頭ニ決ヲ取ラレン事ヲ望ム
是ニ於テ会頭ハ委員ノ説ヲ賛成スル者ニ起立ヲ命シタルニ、建議者ヲ除キ総起立ナルヲ以テ本議ハ此ニ決ス


東京商法会議所要件録 第二〇号・第一五―二六頁 明治一四年二月三日刊(DK170041k-0007)
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東京商法会議所要件録  第二〇号・第一五―二六頁 明治一四年二月三日刊
 ○参考部
    ○内国商業並ニ運輸船舶両委員ニ於テ貨物送状面ヘ運賃等之記載ヲ要スル義ニ付政府ヘ建言ノ当否調査之顛末報告
貨物送状面ヘ原価並運賃記載ヲ要スル義ニ付政府ヘ建言スルノ当否ハ去ル九日ノ臨時会議ニ於テ衆議之末、内国商業並運輸船舶事務ノ両委員ヲシテ之ヲ調査セシムルニ決シタルヲ以テ、余輩委員ハ実際弊害ノ存スル所其之ヲ矯正スルノ方策並ニ其之ヲ実施スルノ難易得失等ヲ調査シ、而シテ之ヲ政府ニ建言スルノ当否ヲ論定セリ、今其要旨ヲ此ニ報道シテ以テ更ニ議員諸君ノ可否ヲ問ハントス
蓋シ建議者野中万輔君ガ送状ニ原価運賃等ヲ記載スルノ事ヲ以テ之ヲ政令ノ力ニ資リテ実施セン事ヲ望マルヽ所以ノモノハ、要スルニ廻漕周旋屋ナル者ガ従来船主貨主ノ間ニ在テ射利専横ノ弊ヲ矯正スルハ能ク船主中間ノ協議ヲ以テ之ヲ断行スベカラズト云フノ意ニ出デタルモノニシテ、其弊害ヲ匡正スルノ精神ニ至リテハ固ヨリ之ヲ賛成スル所ナリト云トモ、其政令ノ力ニ資リテ之ヲ匡正スルノ方法ニ至リテハ余輩委員其間ニ異議ナキ能ハズ、此一事ニ於テハ当会議所ハ遺憾ナガラモ之ニ同意スベカラザル事ト信ズ、請フ其理由ヲ述ベン
抑モ周旋屋ナル者ハ船主ト貨主トノ間ニ立チ東西各地貨物運搬ノ事ヲ斡旋スル者ニシテ、譬ヘバ某地ニ向テ廻漕スベキ貨物ヲ其貨主ヨリ委托セラルヽ時ハ之ヲ受ケテ船主ニ謀リ相当ノ運賃ヲ約シ、船主ヨリ其金額五分ノ手数料ヲ収入スルノ例ニシテ其位置タル船主ト貨主ノ間ニ在リ船主ヲ代理スル者ニシテ、貨主ヨリ之ヲ観レバ彼レ自ラ回漕ノ業ヲ経営スルモノヽ如シ、故ニ其一タビ委托セラレタル貨物ノ某地ニ達スル迄ノ間ハ己レ貨主ニ対シテ其責ヲ負担セザルヲ得ズ、是レ独リ海運ニ於テ而已ニ非ズ陸送ニ至テモ亦然リトス、如此海陸運ノ上ニ於テ周旋屋ナル者ノ欠クベカラザルヨリ漸ク此業ヲ営ム者増加シ運送諸般ノ取扱ヲ自任スルノ慣行ヲ来タシ其ノ回漕問屋若クハ飛脚問屋ノ位地ニ立チ能ク貨物運搬之事ヲ幹旋《(斡)》シ運輸ノ開進ヲ幇助シ社会ニ便益ヲ与ヘタルノ成蹟アリシハ誠ニ蔽フベカラザルナリ、然ルニ近今ニ至リ此等ノ周旋屋ノ中一種ノ弊風ヲ生ジ貨主ニ対シテ、不当ノ運賃ヲ要求シ或ハ窃カニ貨主ノ手代等ト謀リ不正ノ所為ヲ行フ者往々ニシテ有之是畢竟貪利之情ヨリ発シタルモノニシテ其所業ハ甚ダ憎ムベシト云トモ熟々其実際ニ就テ其弊害ノ因テ生ズル所ヲ討究スル時ハ亦或ハ恕スベ
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キモノナシトセズ、何ゾヤ、曰ク周旋者ナル者ガ一タビ貨主ヨリ受取リタル貨物ヲ船主ニ伝送スルニ方タリ、其貨主ノ仕出シ地ニ在ルト否トヲ問ハズ其運賃ヲ払フニ仕出シ地直払ト仕向先払トノ二様アルモノトス、而シテ其運賃先払ノモノニ至リテハ大抵皆其次第ヲ送状面ニ記入スルノ例ニシテ其運賃ハ仕出地貨物差出人ヨリ直受スベキモノニ非ザルガ故ニ周旋屋ニ向テ奸策ヲ施スベキ好機ヲ与フル事ナシト云トモ仕出直払ナルモノニ至テハ周旋屋ハ貨物差出人ヨリ直接ニ運賃ヲ受取ルモノナルヲ以テ、此際往々周旋屋ヲシテ奸曲ヲ行フノ便地ヲ占有セシムルノ間隙ナシトセズ、且ツ従来ノ慣習ニ拠レバ周旋屋ハ常ニ各地ノ貨主ノタメニ其運賃ヲ立換フルノ恒例アリ、然ルニ此等ノ貨主ノ中周旋屋ガ立換ヘタル運賃ヲ直チニ皆済スル者ハ十中一二ニ過ギズシテ其他ハ概ネ多少ノ時日ヲ遷延シ、甚シキハ二三ケ月ヲ経テ猶之ヲ弁償セザル者アリト云フ、如此ノ情実アルヲ以テ周旋屋ハ仮令ヒ船主ヨリ五分ノ手数料ヲ収入スルモ以上立換金ノ利子等ヲ計算スル時ハ常ニ其相償ハザルヲ苦シムノ情ナシトセズ、況ンヤ貨物取継ギ積込等ニ於テ公然貨物ニ求ムベカラザル費用ヲ要スル事多キニ於テオヤ、由是観之周旋屋ガ此等ノ費途ヲ増賃ニ仰ガントスルハ不得已ノ情勢ニ出ヅルモノト云ハザルヲ得ザルナリ
又実際上ニ就テ之ヲ観察スルニ、数多ノ貨物ヲ運送スルニ当リテハ運賃ノ成ルベク低下ナラン事ヲ欲シ、貨主自ラ船主ニ謀リ之ヲ予約シ、而シテ小貨物ニ至テハ大抵皆直チニ之ヲ周旋屋ニ委托スル是レ今日ノ慣行タルガ如シ、而シテ周旋屋ハ貨主ヨリ其貨物ヲ委托セラルヽヤ恰モ荷物運送請負人ノ性質ヲ有スルガ如キモノニシテ此等ノ小貨物ニ至リテハ其面積ノ大小斤量ノ軽重ヲ計較スルニ於テ非常ノ煩労ヲ要スルヲ以テ、当初貨主ニ向テ先ツ胸算ヲ以テ運賃ヲ要求シ、然シテ後此等数個ノ貨物ヲ包装シテ一捆トナシ之ヲ船主ニ伝托スル時ニ方タリ始テ運賃ヲ精算スルヲ常トス、而シテ周旋屋ガ貨主ニ受クルノ賃額ヲ以テ船主ニ払フノ賃額ニ比スレバ一割若クハ二割ノ高貴ヲ致スベシト云トモ、此差額タル周旋屋ガ取扱ノ襍費ニ供スルモノニシテ一方ニ於テハ船主ニ向テ数多小貨物ノ包装等ニ要スル手数ヲ免カルヽノ便ヲ与ヘ又一方ニ於テハ貨主ニ向テ其貨物ヲ保護スルノ益ヲ与フルモノナレバ周旋屋ガ要求スル所ノ運賃ニ於テ高貴ヲ致タスモ自ラ其然ラシムル所ノ理由ニ因スル者ニシテ亦深ク咎ムベカラザルナリ
抑モ周旋人ガ貨主ヨリ増賃ヲ要求スル事タル貪利ノ情ヨリ出デタルニモセヨ、余輩委員ガ考査スル所ニ拠レバ却テ貨主ト船主トニ便利ヲ与フルノ実アル事上ニ陳述スルガ如シ、試ニ看ヨ夫ノ三菱会社ガ海運ノ進歩ニ其力ヲ尽クシ、苟クモ其事業ニ関シテ弊害ノアルアレバ之ヲ改良スルニ最モ鋭意ナルハ世人ノ知ル所ナリ、然ルニ此会社ガ周旋屋ヲ擯斥スル事ナク今猶之ヲ使用スルモノハ是レ豈ニ周旋屋ガ両主ニ便利ヲ与フルノ実アルニ因ラザルヲ得ン乎、然ルニ今強テ政府ノ厳達ニ資リテ其送状面ニ運賃等ヲ記載セシメントスル時ハ貨主ハ其貨物ヲ積出スノ前ニ於テ必ズ先ツ船主ニ就テ其運賃ヲ問ハザルヲ得ズ、夫レ周旋屋ノ要用ナル所以ハ直接ニ交通セザル両主ノ間ニ立テ貨物ノ授受ヲ媒介スルニ在リ、然ルニ如此ク貨主ハ其運賃ヲ問ハンガ為メ必シモ船主
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ト直接ニ交通セザルヲ得ザルモノトセバ何ヲ苦ンデカ一タビ船主ニ直接相謀ルヲ得テ復タ更ラニ周旋屋ニ依頼スルノ煩ヲ求メンヤ、由是観之此事タル之ヲ実施スル時ハ貨主ニ向テ非常ノ不便困難ヲ生ズルニ至ルベシト信ズ、試ニ今日実際ノ景況ヲ看ヨ、貨主タル者貨物運送ノ急遽ヲ要スルニ方リ或ハ其手続等ヲ詳知セザル者ナシトセズ、或ハ其貨物ノ種類ニ依リテハ船主ガ予約ノ運賃外更ニ増額ヲ要求スルノ場合ナシトセズ、其他此間ニ於テ生ズベキ不便ハ決シテ一二ニ止ラザルベシ良シヤ此等ノ不便ハ実ニ之レナシトスルモ此運賃ノ記載ヲ実施セシムルニ方リテハ周旋屋ハ其雑費ヲ償フベキノ途ヲ失フヲ以テ勢船主ニ迫リテ手数料ノ増額ヲ要求スルニ至ルベシ、若シ船主ニシテ之ヲ許ストセンカ船主ハ復タ運賃直上ゲノ手段ヲ以テ此損毛ヲ償ハザルヲ得ズ、而シテ此運賃直上ゲノ事タル最モ其痛痒ヲ感ズル者ハ貨主ナルニ非ズヤ、果シテ如斯ナル時ハ此方策タル周旋屋ノ悪弊ヲ矯正スルノ目的ヲ達セザル而已ナラズ却テ貨主ヲシテ一層ノ損毛ヲ受被セシムルノ実ナシトセズ、余輩委員其得策タルヲ発見スル能ハザルナリ
若シ夫レ如斯廻漕周旋屋ナル者ガ射利ノ弊ヲ憎クンデ強テ其矯正ヲ求ムル時ハ因テ生ズル所ノ損害更ニ之ヨリ太シキモノアラン、蓋シ周旋屋或ハ貨主ヨリ不当ノ運賃ヲ要求スル者アルニモ是レ其二三不良ノ徒カ作為スル所ニ止マリ、一般如斯シト云フニ非ラズ、若シ一歩ヲ譲リテ周旋屋ナル者一般此弊アリト仮定スルモ其弊実ニ不得已ニ出ヅルモノニシテ其之ヲ禁ゼントシテ其間ニ生ズル諸般ノ弊害ニ比スレバ其軽重果シテ如何ンゾヤ、故ニ余輩委員ハ政令ノ力ニ資リテ此弊害ヲ駆除スルノ方策ヲ立テズシテ更ニ船主ノ協議ヲ以テ此弊害ヲ矯正スルノ最モ得策タルヲ信ズ、蓋シ送状ニ原価ヲ記載セン事ヲ要スルノ事ニ至テハ、是レ独リ運賃ヲ算スルガ為メ而已ナラズ、海上難破濡沾等不慮ノ天災ニ遭逢シタル時平均法ヲ行フニ当タリ須ラク無カルベカラザルモノニシテ、聞クガ如クンバ政府ニ於テモ目下此等ノ調査ニ従事セラルルトノ事ナレバ其発表蓋シ遠キニ非ルベシ、果シテ然ラバ当会議所ハ建議者ノ要望ヲ容レ他日其方法ヲ調査シ更ニ政府ヘ上陳セバ一般ノ益ヲ補翼スル亦少ナカラザルベシ
余輩委員ガ考究スル所ノ要旨ハ已ニ前ニ述ブルガ如シ、猶之ヲ此ニ約言センニ野中万輔君ガ政府布達ノ力ニ資リテ周旋屋ノ悪弊ヲ矯正セントスルノ建議ハ、其精神甚ダ可ナリト云トモ其方法ニ至リテハ或ハ止ダ船主ノ私益ヲ保庇スルノ嫌ナキニ非ラズ、又之ヲ断行シ得ルモ或ハ其実効ヲ見難キノ恐ナシトセズ、是故ニ其弊ヲ矯正スルハ総テ之ヲ船主ノ協議ニ任シ、当会ノ名目ヲ以テ之ヲ政府ヘ建言スルガ如キハ最モ以テ不可ナリトス、而シテ送状面ヘ原価ヲ記入スルノ一事ニ至テハ他日其方法等ヲ調査シテ之ヲ政府ヘ上陳セン事ヲ欲スルモノナリ、今此ニ実際ノ景況ヲ調査シ其可否ヲ質ス事如此爾カリ
  明治十三年十二月           内国商業事務委員
                     運輸船舶事務委員



〔参考〕法令全書 明治八年 内閣官報局編 明治二二年一二月刊 ○第百八十四号 (十二月四日輪廓村) ○太政官布告(DK170041k-0008)
第17巻 p.554-556 ページ画像

法令全書 明治八年 内閣官報局編  明治二二年一二月刊
○第百八十四号 (十二月四日輪廓村) ○太政官布告
 - 第17巻 p.555 -ページ画像 
今般回漕貨物取扱条例左ノ通相定候条此旨布告候事
  回漕貨物取扱条例
    第一条
一回漕貨物ノ荷造リハ濡沾減損或ハ漏脱等ノ難ヲ防クヘキ様務メテ堅固ニシテ其品柄又ハ荷造リノ模様ニヨリテハ錠鎖或ハ封印スヘシ
    第二条
一穀物塩類等ノ俵物、酒醤流液ノ樽物等総テ減損漏脱シ易キモノハ積入ノ時必ス船主貨主ノ間ニ特殊ノ約定ヲナスヘシ
    第三条
一船主ハ荷造ノ粗糙ナルカ錠鎖或ハ封印ナキヲ以テ第一条ノ難ヲ防キ難シト思惟スルトキハ貨主ヘ其趣ヲ通知シテ之ヲ堅固ナラシメ或ハ錠鎖封印セシメ又第二条ノ物品ヲ托セラルヽトキハ特殊ノ約定ヲナスヘキヤ否ヤヲ訊問スベシ
    第四条
一貨主ハ第三条ノ通知或ハ訊問ヲ得ルモ之ヲ堅固ナラシメス或ハ錠鎖封印セス又其約定ヲ為サヽルトキハ、濡沾減損或ハ漏脱等ノ難ヲ運漕中ニ生スルトモ船主ニ対シ其弁償ヲ要スル権利ナカルヘシ
    第五条
一回漕運賃ハ発船ノ甲地ニ於テ、波戸場或ハ船主ノ倉庫等船主ノ其貨物ヲ受取ルヘキ適当ノ地ト定メタル場所ヨリ、着船ノ乙地ニ於テハ波戸場或ハ其船主ノ倉庫等ノ其貨物ヲ引渡スヘキ適当ノ地ト定メタル場所迄ノ運送費ヲ称スルモノニシテ甲乙地ニ於テ其定メタル場所ノ外之ヲ取集及ヒ配達スルノ費用ヲモ合スルモノニアラス、故ニ其取集及ヒ配達ヲモ船主ニ托スルトキハ貨主ハ回漕本賃ノ外ニ相当ノ取集及ヒ配達賃ヲ払ハサルヘカラス
    第六条
一前条乙地ニ着船スルトキハ船主ヨリ貨主ニ其貨物ヲ渡スヘキ適当ト定メタル場所ニ於テ、何日何時ヲ限リ其貨物ヲ渡スヘキ旨ヲ報告スヘシ、若シ貨主ノ都合ニ依リ其時日ヲ過キテ之ヲ受取ラサルトキハ其後ニ至リ危険損害ヲ生スルトモ船主ハ其責ニ任セサルヘシ
  但其報告スヘキ日時ハ、必ラス貨主ノ受取得ヘキ適宜ノ時間ヲ以テスヘシ、若シ不適宜ノ時間ヲ以テスルトキハ之ヲ報告セサルト同般ト做スヘシ、然ルトキハ之ニ生スル危険損失ハ船主ノ責ヲ免カルヘカラス
    第七条
一前条ノ如ク其報告時限ヲ過ルトキハ船主ハ之ニ生スル危険損失ハ其責ニ任セスト雖モ、必ス危険損失ヲ生セサル様之ヲ倉庫ニ納メ、或ハ番人ヲ附ケ、或ハ雨覆等ノ備ヲナシ勉メテ保護ノ手立ヲナスヘシ然ルトキハ相当ノ倉敷料番人賃其他之ニ属スル費用ヲ貨主ヨリ払ハシムヘシ
    第八条
一回漕運賃ハ第五条ニ記載セル甲乙約定地ノ全運航賃ナルニ因リ、其全運航ヲ畢ヘサル間ハ貨主ハ之ヲ払フ事ヲ拒ムノ理アリ、又幾百何千斤ニ付此運賃若干ト約定セシニ其全量中幾分ノ不足ヲ生スルトキ
 - 第17巻 p.556 -ページ画像 
ハ貨主ハ其全運賃ヲ払フ事ヲ拒ミ得ヘシ然レトモ其全量幾百俵何千箇ヲ運送セシムルモ其一俵一箇ニ付運賃幾許ト約定セルトキハ其全量ノ如何ヲ問ハス之ヲ受取リタル俵数箇数ニ就テ約定運賃ヲ払ハサルヘカラス又封印ヲ検シ外包ノ異状ナキヲ以テ之ヲ受取、後其包中ノ物品ニ不足或ハ損傷アルトモ其弁償ヲ船主ニ責ムルヲ得ヘカラス
    第九条
一船主ハ其約定ヲ履テ安全ニ其貨物ヲ運送スルヲ本分ノ義務トス、故ニ第一条及ヒ第二条ニ遵ヒタル貨物或ハ正ニ請取シ旨ヲ証シタル貨物ノ全数中ニ損害不足ヲ生スル等ノ事アルトキハ、其貨物ノ原価ニ従テ之ヲ弁償スヘシ
  但海上難船ノ災阨ニ罹ルモノハ危険受負法或ハ海上平均法ノ別種ニ属シテ此限ニアラス
    第十条
一運賃ハ船主貨主ノ協議ニ依リテ甲地又ハ乙地ニ於テ受払フヘシ、然レトモ之ヲ乙地ニ於テ受払フ時ハ其貨物ト引換ヲ以テスヘシ、若シ貨物ヲ受取リタル後其払方ヲ受取ルヘキ賃額ヘ対シ相当ノ利息ヲ課シテ要請スルヲ得ヘシ