デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.2.19

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
1款 東京商法会議所
■綱文

第17巻 p.723-784(DK170057k) ページ画像

明治14年10月9日(1881年)

八月廿六日当会議所、太政官法制部ヨリ農商務省ヲ通ジテ商法編纂ノ参考ニ供スル為メノ商事慣習調査ヲ依頼セラレ、爾来之ガ調査ニ従事ス。調査成ルニヨリ、是日栄一、会頭トシテ之ヲ商務局長河瀬秀治ニ提出ス。


■資料

東京商法会議所要件録号外・第一―一一頁 明治一四年八月刊(DK170057k-0001)
第17巻 p.723 ページ画像

東京商法会議所要件録 号外・第一―一一頁 明治一四年八月刊
  第五委員総会 明治十四年八月十日午後第六時卅分開会
此日委員中来会セラレタル者ハ渋沢栄一・益田孝・丹羽雄九郎・野中万輔・林徳左衛門之五名ニシテ其他ハ病気又ハ事故アルニ依リ不参ヲ告ケラレタリ
○中略
次ニ渋沢君ハ此度政府ニ於テ民法編纂ニ着手セラルヽニ就キ、法制部ノ某官吏ヨリ民間商業ノ慣習其他苟クモ民法編纂上参考ニ供スベキ事項ノ調査方ヲ相談セラレタリシガ、余ハ此等ハ総テ東京商法会議所ヘ御下問アル方ト一個ノ意見ヲ以テ之ニ答ヘタリ、此事ヤ公達アリタルニ非ズト云トモ予メ各委員諸君ノ考案ヲ問フ、若シ他日下問アリタル時ハ之ニ応ズベキヤ否ヤト述ベラレタルニ、各員ハ皆異議ナク之ヲ賛成シ終ニ此議ハ御下問ニ応スベシト云フニ決ス


東京商法会議所要件録 第三三号・第一―六頁 明治一四年九月一〇日刊(DK170057k-0002)
第17巻 p.723-724 ページ画像

東京商法会議所要件録  第三三号・第一―六頁 明治一四年九月一〇日刊
  臨時委員小集会 明治十四年九月三日午後七時開場
明治十四年九月三日臨時委員小集会ヲ開ク、此日招集ニ応シテ来会シタル者ハ渋沢栄一・益田孝・大倉喜八郎・丹羽雄九郎・柴崎守三・松尾儀助・井上安右衛門・後藤庄吉郎・鳥海清左衛門・野中万輔・原六郎・山中隣之助・清水誠・喜谷市郎右衛門ノ十四名ニシテ其他ハ病気事故アル等ニテ不参ヲ告ク、即チ午後七時ヨリ議事ヲ開キ会頭渋沢君ハ各員ニ向ヒ、此度太政官法制部ニ於テ商法編纂セラルヽニ方リ之ガ参考ニ供センガ為メニ商業上ノ習慣ヲ本会ニ下問セラレタキ旨嘗テ其筋ヨリ内意ノ次第モアリタルニ付去月十日委員総会ニ於テ其応否ヲ諸君ニ謀リタルニ皆之ニ応スベシト決議シタリシガ、去月廿六日ニ至リ同部ヨリ農商務省商務局ヲ経テ別紙ノ通リ照会(全文ハ之ヲ参考ニ付ス)アリタリト、即チ其全文ヲ朗読シ且ツ曰ク、本件ハ素ト内国商業事務委員等ニ於テ専ラ其調査ノ手続ヲ定メテ然ル後之ヲ総会議ニ付スルノ筈ナリト雖トモ、想フニ右御下問条目ノ如キ一般商業ニ関スルモノニシテ其習慣ヲ調査スルニハ広ク諸商業ニ渉ラザレバ其目的ヲ達スルヲ得ス是レ即チ便宜委員外ノ諸君ニ向テ来会ヲ煩ハシタル所以ナリト、依テ各員ノ意見ヲ問ハレタルニ益田君ハ今謹テ御下問条項ヲ通読
 - 第17巻 p.724 -ページ画像 
スルニ其字句甚タ商尚《(高)》ニシテ、殊ニ民事ト商事ノ区別ヲ公認スベキ要件云々ノ如キ尋常商人ニ在リテハ其字句ダニ猶且ツ之ヲ解スルニ苦シムノ情アリ、況ンヤ直チニ之ニ荅フルニ於テヲヤ、且ツ夫レ其下問ノ条項ノ如キハ甚タ簡草《(単)》ニ過クルモノヽ如シ、苟クモ一国ノ法典ヲ編纂スルノ参考ニ供スヘキモノ果シテ如此ナルヘキヤ、今夫レ商業ノ慣習ヲ詳悉セントセハ豈僅々二三葉紙ヲ以テ之ヲ述ベ尽クスヲ得ンヤ、是故ニ余ガ見ル所ル以《(ヲ)》テセハ本会ニ於テ委員ヲ撰ンテ法制部ヘ出頭セシムルカ若クハ総会ヲ開テ主任官吏ノ臨場ヲ請ヒ、御下問ノ要旨ニ就キ質問ヲ遂グルハ勿論直接応答ノ際猶口頭ヲ以テ十分ニ商業ノ慣習ヲ詳説セン事ヲ望ムト述ヘラレ、野中・井上其他諸君ノ賛成アリ、又大倉君ハ此御下問書ノ如キ実ニ翻訳体ノ文章ニテ余輩未開商人等ノ十分了解シ難キ廉少シトセズ、且ツ其条目ノ如キ今夕初メテ閲覧スルモノナレハ之ニ即答スル蓋シ亦軽忽ノ譏ナシトセス、故ニ本件ニ就テハ余輩ニ向テ十分熟慮ノ猶隊《(予)》ヲ与ヘラレ他日更ニ会議ヲ開キ主任官吏ノ臨場ヲ請ヒ其節之ヲ討議スヘシトノ説ヲ発セラレ、又丹羽君ハ諸君中此御下問条目ニ拘ラス商業ノ慣習ヲ調査スベシトノ説アレトモ余ガ考フル所ニテハ各条項ニ就キ逸々答書ヲ作リテ可ナリトス、例之ハ商人非商人ノ区別ノ如キ利益ヲ得ルノ目的ヲ以テ物品ヲ買売スル者ヲ以テ商人ト公認スルトカ、若クハ又営業税ヲ納ムル者ヲ以テ商人ト見做トスカ斯ク本会ガ見ル所ヲ以テ逸々之ニ答ヘハ格別難事ニモアラサルヘシトノ説アリ、其他猶柴崎・井上・後藤・山中・鳥海君等ノ間ニモ又説アリ、満場議論紛然一決セサリシガ、会頭渋沢君ハ更ニ各員ニ向ヒ諸君ノ御下問ノ要旨ニ就キ了解シ難キ廉アレハ他日主任官吏ノ臨場ヲ請ヒ質問会ヲ開クヘシトノ説アリ、是一応尤ノ説ナリ、然レトモ今御下問ノ条目ヲ通覧スルニ更ニ質問ヲ求メスシテ解シ得ヘキ条項亦多シトス例之ハ「有夫ノ女独立商業ヲ為ス事アリヤ否ヤ」ノ如キ、又商業帳簿ノ種類用方等ノ如キ、其他直チニ之ニ答申シ得ヘキ件々猶少シトセス左レハ官吏ノ説明ヲ必要トスル条項ハ暫ラク之ヲ措キ、自余ノ諸項ニ就テハ今夕諸君出席ノ序ヲ以テ一応其答案ヲ打合セタラハ如何ト述ヘラレタリシカ、猶各員ノ間種々論議アリ、終ニ本月十日更ニ臨時総会ヲ開キ、同日ハ主任官吏ノ臨場ヲ請ヒ、先ツ質問会ヲ開キ、次ニ答案ニ就テ討議スルニ決シタリ、而シテ柴崎君ノ注意ニテ、同日ハ先ツ質問会ノミニ止メ、猶重テ会議ヲ開キ答案書ヲ作クルベシト述ヘラレシカ、衆議之ヲ不可トシ、但タ当日ハ勉メテ議事ノ混雑セサラン事ニ注意シ、質問委員ヲ定ムルカ、若クハ一名宛出張官吏ト問答スヘシ、ト云フニ決シ、右終テ会頭ハ各員ニ散会ヲ命ス、時ニ午後九時三十分ナリ


東京商法会議所要件録 第三三号・第七―一八頁 明治一四年九月一〇日刊(DK170057k-0003)
第17巻 p.724-727 ページ画像

東京商法会議所要件録  第三三号・第七―一八頁 明治一四年九月一〇日刊
 ○参考部
今般別紙法制部照会之通商業上慣習諮問及候条、審案ヲ遂ゲ詳ニ御回荅有之度、猶右ニ付太政官奏任御用掛児玉小介其他属官一両名直ニ其所ニ出張致シ可及協議候間、取調手続等御打合不都合無之様致度候、此旨及御通達候也
 - 第17巻 p.725 -ページ画像 
               商務局長 河瀬秀治代理
  明治十四年八月廿六日   農商務権大書記官 富田冬三
  東京商法会議所
    渋沢栄一殿
当部ニ於テ商法編纂参考ノ為メ別冊商事慣習之件々東京商法会議所ヘ諮問致度候ニ付、貴局ニ於テ右達シ方御取計被下、且ツ又該件取調方法協議ノ為メ並問目中不了解之廉説明ノ為メ太政官奏任御用掛児玉小介其他属官一両名会議所ヘ出張為致候条、此段併セテ会議所ヘ御通知被下置度候、右及御照会候也
  明治十四年八月廿三日            法制部
    商務局 御中
商事慣習問目
    商人商業及ヒ商業帳簿ノ事
第一 商人ト商人ニアラサル者トノ区別ヲ公認スヘキ要件アリヤ
第二 事業及ヒ契約ノ性質ニ由リテ民事ト商事トノ区別ヲ為ス事アリヤ
第三 有夫ノ女独立シテ商業ヲ為ス事アリヤ、若シ之アルトキハ財産上夫トノ関係ハ如何
第四 商業帳簿ノ種類幾多アリヤ、其各種類ノ名称用方及ヒ保存ノ期限等ハ如何
  其帳簿ハ凡ソ一定ノ書式アリヤ、又商業ノ性質ニ由リ帳簿ノ種類ヲ異ニスルヤ
  欧米各国ニ用ユル所ノ単復《(複)》ノ記簿法ニ傚ヒ簿冊ヲ記スル事ハ追々盛ニ行ハルノ景況ナルヤ
第五 商業帳簿ハ他人ニ対シテ証拠トナル効力アリヤ
第六 商業簿冊ノ整頓セルト否ラサルトヲ以テ実際裁判上ノ便不便アリヤ
  商業上ニ於テ帳簿取締ノ為メ一定ノ法則ヲ希望スル事アリヤ、若シ之アルトキハ如何ナル条件ナルヤ
    商事上ノ抵当及ヒ其特権ノ事
第一 商事上ノ抵当ハ民事上ノ抵当ト異ナル所アリヤ
第二 義務者抵当ヲ以テ保証シタル負債ヲ期限ニ至リ償却セサルトキハ権利者ニ於テ其抵当物ノ価格、元金及ヒ利息ノ高ヲ踰ルトキト雖モ其弁償トシテ其物品ヲ直ニ己ノ所有ト為スノ慣習ナリヤ、又ハ之ヲ売却シ其代価ヲ以テ元利ノ弁償ヲ得、其剰額ハ義務者ニ返スノ慣習ナリヤ
第三 義務者分散ヲ為シタルトキハ抵当ヲ有スル債主ノ外ニ先取特権ノ附着シタル者アリヤ(例ヘハ地代家賃雇人ノ給料又ハ食料供給者ノ受取ルベキ代価等ハ他ノ一般債主ニ先チ之ヲ受取ルノ慣習アリヤ)
第四 甲商人ハ乙商人ヨリ差入レタル抵当物ヲ乙商人ノ承諾ヲ得スシテ丙商人ニ復抵当ト為スヲ得ルヤ
    売買ヲ媒介スル者ノ事
第一 問屋ト仲買人トノ業体ノ区別ハ如何
 - 第17巻 p.726 -ページ画像 
第二 問屋仲買人ト公ケニ称スル者ノ外手数料ヲ受ケ他人ノ仲間ニ居テ商品ヲ売買スルノ媒介ヲ為ス者アリヤ、若シ之レアルトキハ其種類ハ如何
第三 媒介人ハ依頼ヲ受ケタル売買ヲ為スニ自分ノ名前ヲ以テ他人ト契約ヲ為スヤ、又ハ自分ハ名代人トナリテ依頼者ノ名前ヲ以テ契約ヲ為スヤ
第四 媒介人ハ売払ヲ託セラレタル商品ニ付其依頼者ニ前貸金ヲ為シ其売払代金ニ付先取特権ヲ有シ弁償ヲ受クル事ヲ得ルヤ
第五 媒介人ニ頼ラサレハ為シ得サル売買アリヤ
第六 商品運送方ニ付媒介人アリヤ、即チ荷主ニ代リテ船主又ハ車馬持主ト契約ヲ為ス者ノ如キ是ナリ
    売買ノ事
第一 商事上ノ売買ハ民事上ノ売買ニ比シテ別段ノ慣習ハ有ラサルヤ
第二 売買ノ約束ハ何ヲ以テ証拠トナスヤ、必ス証書ヲ要スト要セザルトノ差別アリヤ
第三 売買ハ手付金ニ因テ其約束ノ確定不確定ヲナス事ナキヤ
第四 売買契約ヲナシタルトキハ何レノ時ヨリ商品ノ所有権ハ買主ニ移転スルヤ、又何レノ時ヨリ其商品ノ損失ヲ買主ニ於テ負担スヘキモノトスルヤ
  此場合ニ於テ其商品確定物此物品ト現ニ指定シタルモノ、例ハ此馬此反物ト定ムルカ如シナルトキト不確定物前ノ反対ノ語ニシテ現ニ此物品ト指定セサルモノ例ヘバ反物幾干ト云フ如シナルトキニ由リ区別アリヤ
第五 商品買主ハ未タ現品到着セスト雖トモ、売主ノ積荷目録又ハ運送状等ヲ以テ他ノ商人ニ復売スル事アリヤ
第六 売買約束ノ時ニ商品ノ直段ヲ定メス引渡ノ後ニ於テ之ヲ定ムル事アリヤ、然ルトキハ如何シテ之ヲ定ムルヤ
第七 売買約束ノ時ニ物品引渡シノ期限又ハ代金払入レノ期限ヲ定メサル事アリシトキハ其引渡シ又ハ払入レハ何レノ時ニ為スヤ
第八 借用証書買受証書等ヲ有スル者其証書ニ裏書ヲ為シ、己レノ債主権ヲ他人ニ移転スル事アリヤ、若シ之レアルトキハ其書式ハ如何、又其慣行ノ経験ニ因テ確認シ得タル利害ハ如何
第九 商業上ニ付用ユル手形又ハ切手ト称スル類ハ幾種アリヤ
  其手形切手官許ヲ得タルモノト私ニ発スルモノトアリヤ
第十 商事ノ負債ニ付普通ノ払期限ハ如何、其期限ノ最モ長キハ何ケ月ナルヤ、又最モ短キハ何ケ日ナルヤ
第十一 商事上ノ売買又ハ貸借ニ於テ一ノ負債ニ付数人ノ羞務者《(義)》アルトキハ其義務ヲ連帯シテ担当スルノ慣習アリヤ
第十二 商業上ノ取引ナル語ハ売買ノ契約ヲ結フ事ヨリシテ物品及ヒ代金ヲ授受スル迄ヲ含ムカ、又ハ物品若クハ代金受渡ノ時ヲ指スカ
第十三 卸売ト小売トノ区別ハ如何、又卸売商ノ種類ニヨリテハ小売者ニ売ルノ外通常人トハ直取引ヲ為サヽル者アリヤ
    破約ノ事
第一 売買手附金流ルヽトキハ其売買ハ破約トナルヤ
 - 第17巻 p.727 -ページ画像 
第二 違約金ノ約束ニ其額ヲ定メサリシトキハ違約ノ場合ニ臨ミ何ヲ以之ヲ定ムルヤ
第三 約束ノ期限ヲ過ルモ売主物品ヲ引渡サヾルカ、又ハ買主之ヲ引取ラサルトキハ其売買ハ破約トナルヤ、又ハ尚ホ成立ツヤ
    売主ノ事
第一 約束ニ物品ノ性質品位等ヲ詳細ニ定メ置カサリシトキハ、其引渡ニ売主ハ何等ノ品柄ヲ以テスルヤ
第二 買主見本又ハ本品ヲ撿閲ノ上買入ントノ申込ヲ為シ、売主之ヲ承諾シタルトキハ、其撿閲ヲ経サル内ニ勝手ニ其品ヲ他ニ売ル事ヲ得サルヤ
第三 買主違約ヲ為シタルトキ手附金ヲ流スニ於テハ売主ハ別ニ償金等ヲ求ムルヲ得サルヤ
第四 売品ハ其用方ニ供スルニ不良ノ所ナキトノ請合ハ自ラ売主ニ存スルモノナルヤ、又別段其約束アルトキニ限ルヤ
第五 売主己レニ所有権ナキ物品例ヘバ盗賍品又ハ追テ買入ルヘキ見込ノ物品等ヲ売リタルトキハ其売買ハ成立ツヤ
    買主ノ事
第一 見本ヲ以テ定メタル売買ナルニ現品ヲ受取ルニ及テ見本ト異ナリタルトキハ、買主ハ何時ニテモ之ヲ取替又ハ破約スル事ヲ得ルヤ
第二 買主確定物ヲ買ハント売主ニ申込ミ、未ダ其返答ヲ得サル内ニ其売主ニ断リナク他ヨリ之ヲ買ヒ取リ、追テ前ノ売主ニ断リヲ為ス事ヲ得ルヤ
第三 買主代金払ヒ約束ノ期日ヨリ延引シタルトキハ利息ヲ生スルヤ然ルトキハ何レノ時ヨリ計算スルヤ
第四 売主ニテ請合タル品若シ不良ノ所アリシトキハ、買主ハ何時ニテモ之ヲ取替ヘ又ハ破約スル事ヲ得ルヤ
    運送ノ事
第一 運送ニハ必ス物品到着ノ期限ヲ定ムルヤ、若シ然ルトキハ運送人ノ責任如何、又之ヲ定メサルトキハ其責任如何
第二 運漕船已ム事ヲ得サル事由アリテ途中ニテ他ノ船ニ積替ヘ運送シタルトキハ後ノ船ノ義務ハ如何
第三 到着ノ物品ヲ買主ニテ受取ル事ヲ拒ムニ際シ、売主又ハ運送人其場ニ居合ハサヾルトキハ其品物ハ如何処置スルヤ
                         畢


東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 四(DK170057k-0004)
第17巻 p.727-728 ページ画像

東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 四
                   (東京商工会議所所蔵)
(案)
今般農商務省商務局長ヲ経テ御下問相成候商業慣習之義ニ就キ不取敢去三日委員会議相開衆議ニ付シ候処、右御諮詢条項中意味不可解之廉も不少候ニ付、来十日午後第四時ヨリ十分御質問ヲ遂ゲ候ハヾ猶篤ト討議ヲ尽シ度様衆議一決致候ニ付、右御下問之条項御取調相成候御主任之方同日御臨場相成候様致度、此段御照会申上候也
 - 第17巻 p.728 -ページ画像 
  十四年九月四日
                      東京商法会議所
    太政官法制部御中


東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 四(DK170057k-0005)
第17巻 p.728 ページ画像

東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 四
                   (東京商工会議所所蔵)
 (案)
兼テ農商務省商務局ヲ経テ御下問相成候商事慣習調査之為メ来十日午後四時ヨリ臨時総会相開候ニ付、右事項御調御主任之方説明委員トシテ御出張被下度旨、去四日ヲ以テ御照会申上置候処、右総会之義ハ此度御下問之条項御質問之為メ特ニ相開候義ニシテ已ニ夫々手配致置候事故、万一差支空シク解散候様之事有之候テハ甚ダ遺憾奉存候ニ付、何卒当日御臨場可相成方之御姓名等予メ御通知被成下度、此段再応御照会申上候也
                      東京商法会議所
    太政官法制部御中


東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 四(DK170057k-0006)
第17巻 p.728 ページ画像

東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 四
                   (東京商工会議所所蔵)

法制部第六十号《(太字ハ朱書)》
商事慣習問目御取調之為メ来ル十日午後四時ヨリ臨時総会御開相成候ニ付右事項調査主任ノ者臨場有之度旨照会之赴致了承候、当日御用掛児玉少介外壱人臨場為致候、此段及回答候也
  明治十四年九月九日
                      法制部
    東京商法会議所御中


東京商法会議所要件録 第三四号・第一―三一頁 明治一四年九月一七日刊(DK170057k-0007)
第17巻 p.728-735 ページ画像

東京商法会議所要件録  第三四号・第一―三一頁 明治一四年九月一七日刊
  第十五臨時会議 明治十四年九月十日午後第六時開場
    議員出席スル者 〇二十二名
会頭(渋沢栄一)ハ各員ニ向ヒ今会ハ去三日ノ委員小集会ニ於テ議決シタル通リ兼テ太政官法制部ヨリ商務局ヲ経テ御下問アリシ商事慣習ニ就キ質問会ヲ開クベキ旨ヲ述ベ、且曰ク、今夕法制部ヨリ番外説明委員トシテ奏任御用掛児玉少介、属官立木頼三ノ両氏臨場セラレタレバ右質問科目ニ就キ不審ノ事項ハ十分質議セラレタシ、而シテ今夕臨場ノ説明委員ヨリ過日下付セラレタル科目ヲ更ニ解シ易キ様書キ改メ示サレタレバ先ツ之ヲ朗読スベシ、但此書面ハ過日ノ御下問書ヲ取消シテ更ニ発セラレタルニ非レバ只其訓解迄ト心得ラレタシト、即チ書記ヲシテ全文ヲ朗読セシメ、且各員ヲシテ逐条ニ就キ質問セシメ兼テ答按ヲ審議セシム
    商人商業及ヒ商業帳簿ノ事
(問題)第一 商人ト商人ニアラザル者トノ区別ヲ公認スヘキノ要件アリヤ
大倉問テ曰ク、本条商人・非商人区別云々トアルモノハ例ヘハ地代家
 - 第17巻 p.729 -ページ画像 
賃等ヲ収入シ、若クハ公債証書ノ利子ヲ以テ生計ヲ立ツルガ如キ者ヲ商人ニ非ズトシ、其他貨物ノ売買ノミニ従事スル者ヲ以テ商人ト見做スノ類ヲ謂フカ
番外(立木)答テ曰ク、今故サラニ他国ノ例ヲ引用スルマデモナケレトモ、西洋諸国ニ於テハ登録ノ法アリ、之ニ由テ以テ商人・非商人ノ区別ヲ公認スル事アリト雖トモ、我邦曾テ其法ナシ、故ニ商人・非商人ノ身分ヲ定ムルハ甚ダ難キヲ以テ之ヲ容易ニ区別スルノ仕来リアリヤト問フニ過キザルナリ
大倉曰ク、果シテ然ラハ其要件ハコレナシト答ヘンノミ
益田孝曰ク、商人・非商人ノ区別ヲ公認スベキ要件ノ如キハ大倉君ノ説ノ如ク、我国ニ於テハ全クコレナキガ如シ、只不得止バ東京府下抔ニ於テハ営業税賦課ノ有無ヲ以テ之ヲ区別シ得ヘキカ
益田克徳曰ク、例ヘハ商人ナル者ハ貨物売買ノ媒介ヲ為ス者、産地ヨリ貨物ヲ市場ヘ運出スル者、為換金貸ノ業ヲ営ム者、此等ハ総テ商人ト見做シタル慣習ナリト云フヘシ
益田孝曰ク、然レトモ只此等ハ商人・非商人ノ性質ニ於ケル区別ニ過キズシテ、其区別ヲ公認スベキノ要件ハ全クコレナキニ非スヤ
会頭曰ク、御下問ノ要旨ヲ按スルニ、例ヘハ嘗テ某氏ガ著述シタル商人録ノ如キ若シ之ヲシテ十分商人・非商人ノ区別ヲ公認スルノ効力アラシメバ、之ニ其姓名ヲ登録スル者ヲ以テ商人トシ、否ラザレバ之ヲ非商人トスル事ヲ得ベシト答フルモ不可ナキガ如シト雖トモ、然レトモ其商人録ノ如キハ未ダ以テ其区別ヲ公認スルノ効力アラス然ラバ本条ニ向テハ其区別ヲ公認スル要件ナシト答申セザルヲ得ザルベシ、但シ戸籍面ニハ必ス其職業ヲ届出ツルノ成規モヤアラン、不得止ハ之ニ依テ其区別ヲ見定メ得ベキカ
益田孝曰ク、会頭ノ云ハルヽ如ク区役所ニ於テハ従来人民ノ営業ヲ取調ル事アレハ、不十分ナガラモ之ニ依リタラバ或ハ又之ヲ見定メ得ベキカ
原曰ク、益田君ノ説ノ如ク区役所ニ於テハ各人民戸籍面ニ必ズ属籍営業ヲモ記載スルモノナレバ、其肩書ニ依ラバ其身分ト職業トハ容易ニ見定メ得ベキナリ
益田克徳曰ク、抑モ御下問ノ趣旨ハ只ニ商人・非商人ノ性質上ノ区別ヲ謂フカ、将タ否ラサルカ番外曰ク、性質ノ区別ヲ謂フニアラス、例ヘハ玆ニ甲乙二人ノ間訴訟ヲ起サンニ甲ハ乙ヲ商人ナリト云ヒ、乙ハ自ラ商人ニ非スト云ハヽ法官タル者何ヲ以テ其商人・非商人ノ区別ヲ判断センカ、若シ実際ニ就テ之ヲ糺サヾレバ之ヲ判定シ難シト云ハヽ夫迄ナリト雖トモ、或ハ暖簾・看板等ノ有無ニ依リ容易ニ其身分ヲ判定シ得ルノ仕来アリヤト云フニ過ギサルナリ
井上曰ク、抑モ竹一本ニ細工ヲ加ヘ売買スル者ト雖トモ、因テ利益ヲ得ルガ為メナレバ是商人ト公認シテ可ナルニアラズヤ
会頭曰ク、井上君ノ述ヘラルヽ所ハ性質ノ区別ナリ、抑モ御下問ノ要旨ハ只其区別ヲ公認スベキ要件アリヤト云フニ在ルナリ
松尾曰ク、従来工商ノ如キ其業体ノ区別スラ実ニ難シトス、況ヤ商人
 - 第17巻 p.730 -ページ画像 
非商人ノ区別ノ如キ我邦今日ニ於テ決シテ之ヲ見定メ得ルノ手段ナキナリ
益田克徳曰ク、商人ナリトテ黒キ衣服ヲ着スルト云フガ如キ仕来モナケレハ、一見以テ直チニ商人・非商人ヲ区別シ得ルノ要件ハ蓋シナシト云ハサルヲ得ザルナリ
後藤曰ク、過刻諸君ノ中人別云々ノ説アリタルガ、今日人民ガ各自ノ営業ヲ区役所ニ届クルニ於テ華士族会社役員等ヲ除クノ外其職業ヲ掲クト雖トモ概ネ皆雑業ト認ムルヲ以テ常例トス、是ニ由テ之ヲ考フレバ戸籍面ニ依リテ之ヲ見定ムルガ如キモ亦其実際ヲ得難シトス
右ノ外猶各員ノ間ニ討議アリタルガ、衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ単簡ニ商人・非商人ノ区別ヲ別ニ見定ムヘキ仕来リコレナク、但タ本会ノ意見ニテハ暖簾・看板・戸籍面、其他営業税賦課ノ有無等ニ依リ之ヲ区別スルノ外無之ト答申スヘシト云フニ決ス
(問題)第二 事業及契約ノ性質ニ由リテ民事ト商事トノ区別ヲ為ス
     事アリヤ
番外(立木)曰ク、本会ノ要旨ハ例ヘハ為換割引、若クハ運送ノ如キ此等ノ事業ハ総テ商事トシテ、其契約ニ於テモ之ヲ他ノ民事即チ常人ノ契約ト特別ナル扱方ヲ為ス慣習アリヤト云フノ意ナリ
益田克徳曰ク、抑モ民事トハ如何ナルモノヲ謂フカ
番外曰ク、民事トハ商事ニ対スル語ニシテ例ヘハ売買ノ如キ利益ヲ得ルノ目的ヲ以テスル者ハ商事ニ属ス、否ラザルモノハ民事ニ属スルガ如シ
益田孝曰ク、地面ノ如キハ如何ン、之ヲ売買スル者ハ民事ト云フベキヤ
番外曰ク、然リ
益田克徳曰ク、只今番外ノ説明ニ拠レハ民事・商事ノ区別甚タ解シ易シ、果シテ此説明ノ如クナレバ敢テ御下問ヲ要スル迄ニモアラザルベシ
会頭曰ク、民事・商事ノ区別ノ如キ世間之ヲ解スル者甚タ多シ、然レトモ今御下問ノ要旨タルヤ只其区別ヲ問ハルヽニ非スシテ、我国ニ於テ商事ト民事ト其事業契約上ニ於テ別段扱方ヲ異ニスル事アリヤト云フニ在ルナリ
大倉曰ク、然ラハ余ハ本条ニ対シテハ只単簡ニ如此慣習ナシト答申センノミ、何トナレハ従来我国ニ於テハ只民事裁判所ノミニシテ未タ商法裁判所ノ開設ナシ、故ニ人民ガ訴フル所ノモノハ其民事ト商事トヲ問ハス均シク同一ノ取扱ヲ受レハナリ
益田克徳曰ク、其実際ヲ以テセハ大倉君ノ説ノ如シト雖トモ、是レ裁判所ニ於テ其区別ヲ云フニアラスシテ慣習ノ有無ヲ答フルニ在リ、余ヲ以テ之ヲ考フレハ蓋シ民事ト商事トハ自ラ其之ヲ区別スルノ慣習アリツラン、例ヘハ民事上ノ貸借ノ如キハ其契約ヲ鄭重ニスルモ商事上ニ於ハ之ヲ単簡ニスルガ如キ是レナリ
大倉曰ク、現ニ商人ノ売掛代金ノ如キハ其要求ノ期限ヲ五ケ月トシ、而シテ預ケ金ニ至テハ其期限ヲ二十ケ年トシ、貸借ハ之ヲ五ケ年トス、此等ノ点ヨリ考フレハ民事商事ノ契約ニ於テ自ラ其振合ヲ異ニ
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スルノ実例アルガ如シ
会頭曰ク、大倉君ノ述ヘラルヽ所ハ是法律ナリ、慣習ニ非ルナリ、何トナレハ現行ノ法律ヲ以テ売掛代金要求ノ期限ヲ五ケ月トシ、貸借期限ヲ五ケ年ト定メタルヨリ此ニ至リタルモノニシテ、若シ此法律ニシテ一朝変更セラルヽニ逢ハヽ其期限モ亦タ随テ改メザルヲ得サレハナリ、今此御下問ノ要旨ニ就キ之ヲ考フルニ、商人ノ仕事又ハ約束ト常人トノ事ニ異ナル見分ケハ人々ノ考察迄ニテ別ニ其扱方ノ異ナルベキ慣習アリトハ云ヒ難シ、故ニ本条ニ対シテモ亦コレナシト答申スルノ外ナカルベキナリ
時ニ益田孝君ハ番外委員ニ向ヒ、斯ク余輩ガ討議スル所ニ就キ、説明委員ニ於テ猶悉クサヾル所アリト思ハルヽ廉々ニ就テハ十分其意見ヲ陳述セラレン事ヲ望マレタルニ
番外(立木)ハ更ニ本条ヲ単簡ニ説明シテ曰ク、例ヘバ為換ノ業及運送ノ業ノ如キ是レハ商事、彼ハ民事ト視テ各々其扱ヲ異ニスル事アリヤト云フノ意ニ過キサルナリ
是ニ依リテ猶討議ヲ尽クシタルニ、衆説多クハ前ニ論スルガ如クニシテ終ニ本条ニ対シテハ今日世人ガ各々商人ノ事業又ハ約束ト常人ノ事即チ民事トニ異ナル見分アレトモ、之レハ是レ人々ノ考察迄ニテ之レガ為メ別段其扱方ヲ異ニスルガ如キノ慣習ハ嘗テ無之ト答申スベシト云フニ決ス
(問題)第三 有夫ノ女独立シテ商業ヲ為ス事アリヤ、若シ之アル時ハ財産上夫トノ関係如何
益田克徳曰ク、我国今日ニ於テハ有夫ノ女特立《(独)》シテ商業ヲ営ム事決シテ其例ナシト信ス、何トナレハ戸籍面ニ女戸主ト掲クル者ハ本夫ナキヲ証スルモノニシテ、密夫ノ如キハ此限ニアラザレバナリ
会頭曰ク、船宿待合茶屋ノ如キ婦人ノ特立商業《(独)》スルノ例ハ其数不少ト雖トモ、是蓋シ婦人戸主トシテ自カラ営業スル者ニシテ、有夫ノ者ニアラザルベシ、左レハ有夫ノ女ニシテ真ニ独立商業スル者世間其例アリヤ、余未タ嘗テ其之レアルヲ聞カザルナリ
大倉曰ク、余頃日友人ニ聞ク所ニ拠レハ某ノ所ニ一婦人アリ、夫ト別居独立シテ商業ヲ営ミシガ、一朝失敗ノ為メ身代限ノ所分ヲ受ケントスルニ方リ、債主ハ之ヲ婦人ノ本夫ニ迫リ要償シタルニ、其夫債主ニ答フルニ、彼ハ独立商業ヲ営ム者ニシテ現ニ其財産ヲ流用セサルハ勿論、諸張簿類《(帳)》ハ判取張《(帳)》ヲ始トシ、皆彼レノ名前ヲ付スレバ余ニ於テ固ヨリ之ヲ弁償スルノ義務ナシト云ヒリ、而シテ裁判所モ亦其之ヲ弁償スルノ義務夫ニ及ハザルモノト為セリト、果シテ然ラハ是レ本条御下問ニ対スルノ適例ニ非スヤ
益田克徳曰ク、有夫ノ女独立商業ヲ為スノ例ハ決シテ之ナシト信ス、西洋諸国ノ如キ女権ヲ重ンスルノ国ト雖トモ猶婦人婚姻スルノ後ニ於ケ《(テ)》ハ其所有ノ財産ハ総テ本夫ノ管理ニ属スルモノトス、況ンヤ我国ノ如キ女権ヲ軽ンスルノ国ニ於テヲヤ、且ツ日本ノ法律ニ於テハ夫婦ノ別居スルハ為シ能ハサルノ事トス、左レハ我国人ハ条理上ニ於テモ習慣上ニ於テモ有夫ノ婦別居独立シテ商業ヲ営ムガ如キハ決シテ実際ニコレナキ筈ナレハ、本条ニ対シテ断然ナシト答申スヘキ
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ナリ
丹羽曰ク、例ヘハ長崎ノ商人ガ東京ヘ出稼キスルノ留主中、其妻独立シテ商業ヲ為スガ如キ事、実際ニ於テ其例蓋シ不少ト信ス、而シテ財産上其夫トノ関係ニ至リテハ夫妻互ノ約束ニ在リ、敢テ一定ノ慣習其間ニ成立セザル事ト思惟ス
原曰ク、官吏ノ妻ニシテ特立商業《(独)》ヲ為ス者亦世間ニ其類多シトス、左レハ有夫ノ女独立商業ヲ為ス例ハ決シテ無シト云フベカラザルナリ
前橋曰ク、有夫ノ婦人其夫ノ商業ニ疎濶ナルカ、若クハ他ニ事故アルヨリ之ニ代ハリテ商業ヲ為ス者世間其例少シトセスト雖トモ、是レ別戸特立《(独)》ト云フニアラズシテ其戸主ハ即チ其夫タラザルヲ得ズ、或ハ別戸シテ商業ヲ営ム者アリト雖トモ是レ多クハ妾ニシテ本条ノ限ニアラズ、左レハ本妻ノ特立《(独)》シテ商業ヲ営ム者ニ至リテハ余未タ其例ヲ聞カザルナリ
益田孝曰ク、過刻大倉氏ノ述ベラレタル有夫ノ女云々ノ例ハ是レ法律ヲ以テ公認シタル夫婦ナルカ、若クハ未タ法律ヲ以テ公認セザルモノカ
大倉曰ク、其点ニ於テハ未タ穿鑿ヲ遂ケザリシ故ニ他日之ヲ明悉スヘシ
益田克徳曰ク、試ニ番外ニ問フ、本条有夫ノ婦トアルハ無論法律ヲ以テ公認シタル者ヲ云フト信ス、如何ン
番外曰ク、然リ
於是猶衆議ノ末、本条御下問ニ対シテハ先ツ大倉君ノ有夫ノ女云々ト述ベタルモノハ已ニ法律上公認シタルモノナルカヲ詳悉シ、果シテ然リトナラハ有夫ノ女独立商業ヲ為スモノハ稀ニアリト答申シ、而シテ財産上夫トノ関係ハ只夫妻互ノ約束上ニ依ルモノニシテ一定ノ慣習無之、其婦人ノ負債ヲ本夫ニ於テ償却スヘキヤ否ヤニ於テハ一般ノ仕来リナシト云フノ意ヲ以テ答申スベシト云フニ決ス
(問題)第四 商業帳簿ノ種類幾多アリヤ、其各種類ノ名称用方及保存ノ期限等ハ如何
柴崎曰ク、問商業帳簿《(マヽ)》ノ種類ハ各商業ニ依リ一定ナラスト雖モ、各業ニ通シテ最モ必要ナルモノハ、当坐帳・金銀出入帳・大福帳ノ三種是レナリ
会頭曰ク、夫レ商業帳簿ノ多種ナル逸々枚挙ニ遑アラザルヘシ、蓋シ本条御下問ノ要旨タル各商業ニ就キ尽ク其種類ノ調査ヲ要セラルヽニアラズシテ、先ツ重立チタル商業ニ要スル帳簿ノ種類如何ヲ問ハルヽニ在ルナラン、而シテ彼ノ当坐帳ノ如キ即チ銀行ノ所謂日記帳ト殆ント其用ヲ同フスルモノナリト雖トモ、已ニ今朝本会議員某氏ノ説ク所ニ拠レハ、各商業ニ依リ大ニ其記載方並ニ用方ヲ異ニスルモノアリト云フ、左レハ本条御下問ニ対シテハ他日篤ト調査ヲ尽クシ答申スル方ナランカ
赤井曰ク、問屋向ニ於テ要スル帳簿ノ種類ハ概ネ一定ニシテ荷物判取帳・金銀判取帳・倉敷帳・金銀出入帳・水揚帳・仕切帳ノ類即チ是レナリトス
大倉曰ク、余ガ頃日調査シタル所ニ拠レハ本町薬種問屋ニテ要スル帳
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簿ノ種類ハ当座帳附込帳ナリ・水揚帳荷物送状ノ写ナリ・仕入帳・仕切帳・金銀判取帳・荷物判取帳・大福帳・金銀出入帳ノ八種ニシテ其他横山町辺ノ問屋向ニ用フル帳簿ハ当坐帳・仕入帳・荷物判取帳・水揚帳・金銀判取帳ノ六種トス、而シテ保存ノ期限ハ伝馬町辺ニ於テハ十三年或ハ二十年ヲ一期トスルノ仕来ナレトモ、多クハ十三年ヲ以テ通常ノ期限ト為スモノヽ如シ、而シテ西洋記簿法ハ近来漸ク其便益ヲ知ルト雖トモ従来ノ記簿ヲ変シテ全ク洋式ヲ用フルガ如キ急進ハ到底行ハレ難シト思惟ス
赤井曰ク、帳簿ノ改正ハ真ニ望マシキ事ナリト雖トモ、従来ノ帳簿ヲ一時改正スルハ実ニ容易ノ業ニ非ス、之ヲ行フニ漸ヲ以テセザレバ其目的ヲ達スル事能ハザルナリ、已ニ弊店ノ如キ前年ヨリ此改正ニ着手シタリト雖トモ、其目的ヲ達スルハ実ニ数年ノ後ニアルベシ、左レハ今日銀行諸会社ヲ除キテ真ニ洋式簿記法ヲ用フルモノハ其数実ニ僅少ニシテ、両三年中ニハ中々其盛行ヲ期スベカラサルナリ
柴崎曰ク、帳簿保存ノ期限ハ従来二十年内外ノ仕来ナリシガ近来ニ至リテハ十年ヲ以テ通例トスル者多シ、而シテ簿記法ノ如キモ其効能ヤヽ世人ノ感スル事トナリタレトモ一般之ヲ実施スルハ甚タ容易ニアラザルベキナリ
会頭曰ク、已ニ昨年大蔵省ヨリ下問ニ係ル五十ケ年間物価調査ノ時、大伝馬町辺ノ旧家ニ就キ旧帳簿ヲ求メタルニ紙商小沢清左衛門ノ如キハ三十年前ノ旧記ヲ保存スト云ヘリ、由是観之従来帳簿ヲ保存スル規限ハ概ネ二三十年ノ間ニ在リトス、而シテ帳簿上一定ノ書式アルハ他ニ聞カザル所ナリ、但シ帳簿種類ノ如キ保存期限ノ如キ及ヒ一定ノ書式等ノ事ニ関シテハ能ク実際ヲ調査シ答申スル方ナランカ
丹羽曰ク、商家ニ糶帳《セリ》ト称スル一種ノ帳簿アリ、其用タル甲商ガ乙商ヨリ貨物ヲ買ハントスルニ方リ、甲商ハ其糶帳ニ其買ハントスル貨物ノ員数月日自店ノ印判等ヲ記シテ之ヲ乙商ニ示サンニ、之ヲ齎ス所ノ人物ハ何人ナルニ拘ハラス乙商ハ其糶帳ヲ証拠トシテ直チニ要求ノ貨物ヲ之ニ添テ甲商ニ送ルノ仕来ナリ、抑モ此糶帳ナルモノハ売主ノ利益ヲ保護スルノ効力ニ乏シク甚タ不完全ナルモノナリト雖トモ、慣用ノ久シキ相怪シマザルニ至ル、今商業帳簿ノ種類ヲ調査スルニ於テハ此等モ亦商人普通ノ帳簿ニ属ス可キモノトシテ可ナランカ
番外問テ云ク、中等以下ノ商人ニテ普通必須トスル所ノ帳簿ハ凡ソ幾種位ナリヤ
大倉曰ク、先ツ八種内外ナリ
柴崎曰ク、中等以下ノ商人ニ在リテハ其業体ノ何タルヲ問ハス、仕入帳・出入帳・売上帳ノ三種ハ共ニ欠クベカラザルモノトス、若シ此三種ナクンバ決シテ商業ヲ営ム事能ハザルナリ
鳥海曰ク、仲買小売商ニ於テ必須トスル帳簿ハ大福帳・当坐帳・荷物判取帳・出入帳・金銀判取帳・売上帳・仕入帳ノ七種トス、而シテ此七種ハ蓋シ実際欠クヘカラサルモノナルヘシ
大倉曰ク、質屋ノ帳面ハヤヽ一定ノ書式アリト思惟ス、果シテ如何ン
会頭曰ク、銀行ノ如キモ亦一定ノ書式アリト雖トモ是レハ之レ其業ニ
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就テノ一定ニシテ、未タ以テ普通ト云フヘカラサルナリ
右ノ外猶衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ其帳面ノ種類・用方等ハ此ニ答議スルカ如ク大店ハ十一種、中店以下ハ六種トスト雖トモ猶実際ヲ調査ノ上答申シ、而シテ其記載方ハ銀行・質屋等ノ如ク商業ニ依リ一定ノ書式アリト雖トモ各業相通シテ一定ノ式ナク、或ハ同業中ト雖トモ其書式区々一ナラス又簿記法ハ世間其望ナキニハアラサレトモ、其改正ノ繁雑ニ苦シムノ情アルガ故ニ一般ニ其気向アリトハ云ヒ難シト云フノ意ヲ以テ答申スヘキニ決ス
(問題)第五 商業帳簿ハ他人ニ対シテ証拠トナル効力アリヤ
井上曰ク、倒《(例)》ヘバ売掛ケヲ取ランガ為メ買客ハ書出シヲ送クリ、偶々間違フ事アル時ハ元帳ヲ以テ証拠トナス事アリ、左レハ本条ニ対シテハ効力アリト答申セン事ヲ望ム
益田孝曰ク、裁判上証拠タルノ効力アリトスルト否トハ法官ノ見ル所ニ在リ、然レトモ我ハ商人ナリト信用ヲ重ンスルノ商人仲間ニ於テハ十分証拠タルヲ得ルト云ハザルヲ得ザルナリ
丹羽曰ク、注文帳ノ如キ十分証拠トナシ難キモノアリト雖トモ糶帳・判取帳・仕入帳・売上帳ノ如キハ十分証拠タルノ効力アリトス、已ニ前年弊店ニ於テ時計ヲ商フタル時、偶々盗人ガ其所持ノ時斗ヲ弊店ヨリ買入レタリト申供シタル事アリシガ、其際弊店ヨリ当日ノ売上帳ヲ其筋ノ参考ニ供シタル事アリキ、此等ハ即チ証拠タルノ効力ヲ有スルノ一例ナリト云フヘシ
於是衆議全ク尽キタルヲ以テ会頭ハ本条ニ対シテハ商業帳簿ハ商人仲間ニ於テハ証拠タルノ効力アリ、譬ヘハ仕切帳・判取帳・糶帳等ノ如キ是レナリト云フノ意ヲ以テ答申スベシト云フニ決ス
(問題)第六 商業簿冊ノ整頓セルト否ラザルトヲ以テ実際裁判上ノ便不便アリヤ
     商業上ニ於テ帳簿取締ノ為メ一定ノ法則ヲ希望スル事アリヤ、若シ之アル時ハ如何ナル条件ナルヤ
益田孝曰ク、余ハ訴訟ノ事ヲ知ラズト云トモ思フニ簿冊ノ整頓シタルガ為メ裁判上ノ便ヲ得タル者モアルベク、又整頓セザルガ為メ却テ便利ヲ得タル者モアルベシ、左レバ簿冊ノ整頓セルト否トニヨリテ必ズシモ裁判上便不便アリトハ一概ニ断定スヘカラザルナリ
益田克徳曰ク、簿冊整頓ノ為メ不便ヲ感ズルト云フガ如キハ是正道ニ非ルナリ、苟モ正道ヲ守ルノ人ナラバ整頓セルト否トニヨリ便不便アル事当然ノ事ナリト信ズ
 又曰ク、本条第二項ノ要旨ハ蓋シ政府ニ於テ商業簿冊ヲ一定シタシトノ精神ナラン、抑モ第二項ノ御下問ニ答申スルハ実ニ容易ナラザレバ篤ト熟慮ヲ要スベキナリ
丹羽曰ク、試ニ番外ニ問ハン、第二項ノ要旨ハ第一項ニ於テ果シテ簿冊ノ整頓セルト否トニヨリテ裁判上ノ便不便アリトナラバ、一定ノ法則ヲ以テ此便利ヲ進捗セントノ意ナルヤ如何ン
番外曰ク、例ヘバ帳簿不整頓 ルガ為メ訴訟ヲ起コス事モ出来ズ、売掛ヲモ得ル事ノ出来ヌト云フガ如キ不便アリヤ、若シ之アラバ之ヲ改正セン事ヲ望ムノ意アリヤト云フニ在リ
 - 第17巻 p.735 -ページ画像 
益田孝曰ク、然ルトキハ第二項ノ御下問ハ実ニ全国商業ニ至大ノ関係ヲ及ボスモノナレバ、直チニ之ヲ答申スルヲ止メ、本件ハ他日更ニ本会ノ問題トナシ、篤ト審案討議ヲ尽クシ、其意見ヲ別段ニ上申セン事ヲ望ム
会頭曰ク、自余ノ諸項ハ尽ク既往又ハ現在ニ属スルモノニシテ、特ニ熟慮ヲ要スル程ニモアラザレトモ、独リ第二項ノ御下問ハ将来ニ属スベキモノナレバ、益田君ノ説ノ如ク別問題トナシテ之ヲ討議スル至極適当ナルベシト思ハル、例ヘバ余輩ガ銀行帳簿ノ周密ナルヲ見テ之ヲ世間ニ通用セバ甚ダ便利ナルベシト思フモ、実際ニ於テハ却テ甚ダ其不便ヲ述ブル者モ亦之ナシト云フベカラザレバナリ
丹羽曰ク、余嘗テ某氏ニ聞ク所ニ拠レバ英国ニ於テ嘗テ商業簿冊ヲ一定ナラシメントノ企アリ、初ニハ普通商人ノ容易ニ遵守シ得ベキ広濶ナル制限ヲ置キ、他ヲシテ可成此範囲外ニ出デザラシメ、漸次年ヲ逐フテ此制限ヲ縮小シ、終ニ其目的ヲ達シタルコトアリト、我国ニ於テモ当初ヨリ厳法ヲ設ケズ漸ヲ以テ之ガ改正ヲ望マバ其目的ヲ達スル難キニ非ルヘシ
於是衆議ノ末本条御下問ニ対シ第一項ニ向テハ商業簿冊ノ整頓セル時ハ裁判上便利ヲ得ルハ正当ノ理ナルベケレトモ、或ハ亦否ラサル事ナシトセス、要スルニ其便不便ハ時ノ場合ニ関スルヲ以テ一概ニ其整頓セルヲ以テ便利ト言ヘガタシト答申シ、第二項ニ向テハ直チニ答申セス他日議場ノ問題トナシ、十分審案討議ヲ尽クシテ其意見ヲ更ニ政府ニ上申スヘシト云フニ決ス、而シテ猶次項ニ渉リテ論議セントスルニ当リ益田孝君ノ発議ニテ今会ハ此ニテ止メ、他日更ニ会議ヲ開キ重テ自余ノ諸項ヲ論議スヘシトノ説アリ、会頭ハ衆議ニ問フタルニ皆之ヲ可トシ、終ニ次回会日ハ来十五日ト定メ、午後正四時ヨリ開議スル事トシ、併テ当日モ亦法制部官吏ノ臨場ヲ請フニ決ス


東京商法会議所要件録 第三五号・第一―四〇頁 明治一四年九月二九日刊(DK170057k-0008)
第17巻 p.735-744 ページ画像

東京商法会議所要件録  第三五号・第一―四〇頁 明治一四年九月二九日刊
  第十六臨時会議 明治十四年九月十五日午後六時開場
    議員出席スル者 ○十三名
    説明委員
    児玉小介  立木頼三
    以上十五名其他ハ病気旅行及事故アルニヨリ不参ヲ告グ
会頭(渋沢栄一)ハ各員ニ向テ曰ク、今夕来会ノ諸君ハ定数未満ニテ議事規則ニヨレバ開会スルヲ得サル筈ナレトモ、此度御下問ノ答申案ヲ議スルハ只事実ノ吟味ニ過ギズシテ思想上是非得失ノ論議ノ如ク必ズシモ多数ニヨリテ議決ヲ要スルモノニ非ズ、且ツ外ニ遅延ナガラ参会スベシト申越サレタル議員モアレハ便宜開会シ、先ツ商事上ノ抵当云々ノ項ヨリ議事ヲ始ムヘシ、而シテ今会臨場セラレタル法制部児玉小介君ヨリ前会議事ノ始末ヲ其部中ヘ伝話セラレタルニ、我々議事ノ懇到ナルヲ感謝セラレ、本日ハ主事周布公平君モ臨場セラルベキ筈ナリシガ所労ノ為メ其義ヲ得ザルハ遺憾ナリトノ事ニテ、且ツ今会ニ於テモ逐条討議ノ際懇ロニ実際ヲ討議セン事ヲ望マレ、書面ヲ贈ラレタリトテ之ヲ朗読シ、且ツ曰ク、今会モ其筋ヨリ臨場ヲ請ヒタル事ナレ
 - 第17巻 p.736 -ページ画像 
バ不審ノ件々ハ就テ質問セラルベシト
    ○商事上ノ抵当及其特権ノ事
(問題)第一 商事上ノ抵当ハ民事上ノ抵当ト異ナル所アリヤ
会頭曰ク、本条ハ前章第二条トヤヽ聯絡スルモノヽ如シ果シテ然ルヤ
番外(立木)曰ク、已ニ前章第二条ニ於テ事業及契約ニ依リ民事・商事ヲ区別スルノ仕来アリヤト問フタル時、諸君ハ無シト答ヘラレタリ、而シテ猶本条ニ於テ民事ノ抵当ト商事ノ抵当ト其差入方及期限後之ヲ処分スルニ異ナル事アリヤト問フニ過ギザルナリ
会頭曰ク、本条ニ対シテモ無ト答ンノミ、夫レ質屋ノ如キ其抵当処分上ニ於テ稍尋常ノ抵当ト異ナル事アリト雖トモ、其他ハ別ニ民商ニヨリ抵当ノ処分ヲ異ニスル事ナシト思惟ス
赤井曰ク、地券家屋ノ書入ニ戸長ノ奥印ヲ受ケサレハ公証ノ効力ナシ然レトモ尋常ノ抵当ニ於テハ如此ノ事ナシ、是民商ノ抵当各其処分ヲ異ニスルモノニ非スヤ
会頭曰ク、赤井君ノ述ベラルヽ所ハ未ダ以テ民商其抵当ヲ異ニスルノ慣習トナスヘカラス、何トナレハ是寧ロ法律ノ結果ニシテ特立《(独)》ノ慣習ニ非ザレハナリ
稲田曰ク、質屋ニ下質ナル事アリ、是ヤヽ尋常ノ抵当ト其趣ヲ異ニスルモノニアラサルカ
益田 ○益田克徳曰ク、問屋ガ荷主ヘ金ヲ貸スガ如キハ証文ヲ要セサル等、特別ノ仕来アラサルカ、若シコレアリトセハ是民商各其抵当ノ処分ヲ異ニスルト云フモ可ナリ、果シテ如何ン
会頭曰ク、是蓋シ問屋ノ種類ニヨルナラン、現ニ横浜生糸売込問屋ノ如キ従来ノ仕来及仲間ノ申合ニヨリ荷主ヨリ殆ト全権ヲ委托セラレタル有様ニシテ全ク荷主ノ代理者ナリ、故ニ其荷主トノ間ニハ特別ノ慣例存スルアリ、然レトモ商事上普通ノ約束ナラハ問屋荷主ノ間ト云ヘトモ貸借ニハ必ス証文ヲ要スルノ仕来ナラン
清水曰ク、従来余輩問屋ガ荷主ノ貨物ヲ抵当トシテ預リ置ク時ハ通常証文ヲ要セサルノ仕来ナリ
益田曰ク、然ラハ本条ニ対シテハ民事上ノ抵当ニハ通常証文ヲ要スト云トモ商事上ノ抵当ニハ証文ヲ要セザル事間々コレアリト云位ヲ以テ答申シテハ如何
右ノ外猶衆議ノ末、終ニ本条ニ対シテハ単ニ民事上ノ抵当ト商事上ノ抵当トハ別段異ナル所ナシト答申シ、猶但シ書ヲ以テ問屋ガ荷主ヨリ貨物ヲ預リ之ニ貸金スル時ハ、従来証文ヲ要セザル等ノ慣例モアリト云フヲ付記スベシト云フニ決ス
(問題)第二 義務者抵当ヲ以テ保証シタル負債ヲ期限ニ至リ償却セザル時ハ権利者ニ於テ其抵当品ノ価格、元金及利息ノ高ヲ踰ユルトキト雖トモ其弁償トシテ其物品ヲ直チニ己ノ所有ト為スノ慣習ナリヤ、又ハ之ヲ売却シ其代価ヲ以テ元利ノ弁償ヲ得、其剰額ハ義務者ニ返スノ慣習ナリヤ
会頭曰ク、熟々案ズルニ従来貸金ニ向テ差入レタル抵当ニシテ期限後ニ至ル時、権利者ハ其抵当貸金及利息金高ニ踰ユルノ価格ヲ有スルニモ拘ラズ直チニ之ヲ己ノ所有トスルノ仕来ナリシト覚ユ、而シテ今日
 - 第17巻 p.737 -ページ画像 
ニ至リテ質屋ヲ除クノ外ハ抵当物ヲ売却シ、剰額ヲ義務者ニ返スノ慣習成立スルガ如キモノハ是明治二・三年頃発布セラレタル法律ノ結果ニシテ、従来成存シタル仕来ニハ非ルナリ
益田曰ク、抵当ハ保証ノ義ヲ含ム、故ニ其所有権ハ負債者ニ在リ、而シテ質物ハ売物ノ如ク其所有権先ツ権利者ニ移ツルガ如シ、但ダ尋常売物ト異ナル所以ハ質物ニ在リテハ期限内負債者ガ再ヒ之ヲ買戻スノ権ヲ有スルニ在リ
会頭曰ク、実ニ益田君ノ述ヘラルヽカ如シ、質物天災等ニ罹リ損傷スル時両損トナルハ是従来ノ慣例ナリ、然レトモ尋常ノ抵当品ニシテ天災ニ罹ル等ノ事アルモ負債者ハ之ガ為メ毫モ其義務ヲ免カルヽ事能ハサルナリ
丹羽曰ク、抑モ民事上ノ貸借ナレハ格別、商事上ノ貸借ニ於テハ例ヘハ貨物ヲ委托シテ其被托者ヨリ金ヲ借ルガ如キ、其貨物損傷ノ責ハ固ヨリ被托者ノ免カレサル所ナリト信ス
会頭曰ク、問屋ノ如キハ如何ン、例ハ荷主カ産地ヨリ赤穂塩ヲ送リ出シ問屋ガ之ニ対シテ貸金スル時ニ当リ、其貨物天災ニ罹ル等ノ事アラバ其損失誰ニ帰スルノ慣例ナリヤ
清水曰ク、仮令其貨物ノ天災ニ罹ル事アルモ、猶貸金返済ヲ要求スルハ問屋仲間ノ慣例ナリ
柴崎曰ク、例ヘハ深川瓢箪蔵ニ千俵ノ米ヲ所有シ、之ヲ抵当トシテ金員ヲ借リタル事アランニ、偶々火災若クバ水害ノ為メ烏有トナリタル事アラハ其損果シテ誰ニ帰スルヤ、此場合ニ於テハ権利者ハ猶義
務者ニ対シテ貸金ヲ要求スルヲ得ルヤ
会頭曰ク、其貯蔵米ニシテ保険ヲ付シタルモノニ非レハ其損失ノ帰スル所負債者ニ在リ、而シテ現行ノ法律ニ拠レハ無論権利者ニ要求ノ権アリト信ス
右ノ如ク討議ノ末本条ニ対シテハ現今ニ於テハ質物ヲ除クノ外ハ其貸金ノ期限ニ至リ返済ヲ得サル時ハ、権利者ハ其抵当品ヲ売却シ元利ヲ引去リテ剰額アレハ之ヲ義務者ニ返シ、若シ不足アル時ハ義務者ニ向テ之ヲ要求スルノ慣例ナリト答申スルニ決ス
(問題)第三条 義務者分散ヲ為シタル時ハ抵当ヲ有スル債主ノ外ニ先取特権ノ附着シタル者アリヤ(例ヘハ地代・家賃・雇人ノ給料又ハ食料供給者ノ受取ルヘキ代価等ハ他ノ一般債主ニ先チ之ヲ受取ルノ慣習アリヤ)
本条ハ衆議ノ末本条ノ如キハ全ク法律ニ依テ支配セラルヽモノニシテ別段ノ慣習ナク現今先取特権ノ有無ハ一ニ法律ノ裁定ニ従フノミト答申スルニ決ス
(問題)第四条 甲商人ハ乙商人ヨリ差入レタル抵当物ヲ乙商人ノ承諾ヲ得スシテ丙商人ニ復抵当ト為スヲ得ルヤ
会頭曰ク、甲ヨリ乙ヘ差入レタル抵当ヲ其承諾ヲ得ズシテ之ヲ丙ヘ復抵当トナスノ例ハ多クコレアリト信ズ、現ニ余ガ銀行創設ノ頃ニハ未ダ公債証書売買書入等ニ委任状ノ制限ナク、之ヲ抵当トシテ差入ルヽ者ニハ臨時金員ヲ貸付シタルノ例多カリシト覚ユ
柴崎曰ク、他ノ貨物ハ知ラズ古金銀類ハ復抵当トスル事一般ノ例ナリ
 - 第17巻 p.738 -ページ画像 
会頭曰ク、古金銀ノ類ハ所謂普通流用品ナル者ナレバ固ヨリ差支ナシ是本題ノ御下問限ニ非ズ、余ガ甞テ前年大蔵省ニ奉任シタル頃職務ヲ以テ当時ノ為換会社ノ営業ヲ撿査シタリシニ、貸金ニ対シテ差入レタル抵当品ノ中、物品ノ預手形ノ類甚ダ多カリシヤニ覚ユ、抑モ此等ハ本題ノ所謂復抵当ノ的例ナラズヤ
野中曰ク、質屋ノ下質ノ如キモ亦復抵当ノ一種ニ非ズヤ
益田曰ク、深川蔵米ノ如キ之ヲ抵当トシテ取リ置キタル者、其所有主ノ承諾ヲ得ズシテ之ヲ復抵当トスルノ例アリト信ズ
丹羽曰ク、抑モ甲ヨリ乙ニ差入ルヽ抵当ノ如キハ、其所有権全ク甲ニ存ス、然ルニ乙ハ甲ノ承諾ヲ得ズシテ之ヲ復抵当トスルハ道理上ニ為シ得ベカラザル事トス、例ヘバ甲ヨリ乙ヘ貸金返済期限ヲ九月卅日ト約シテ此烟草入ヲ抵当ニ差入レ、其後丙ヨリ金員ヲ借リ、返済期限ヲ十月十五日ト定メ、之ヲ復抵当ニ差入レタリト仮定セヨ、甲ガ九月卅日ニ至リ乙ニ向ヒ金員ヲ返済シ、抵当ヲ受取ラント引合フタラバ乙ハ果シテ之ニ応スル事ヲ得ルカ、夫レ甲乙ノ約束期限ハ九月卅日ニ在リト雖トモ、乙丙ノ約束期限ハ十月十五日ニ在ルニ非ズヤ、左レバ乙ノ位地ニ立ツ者ハ丙ニ対シテ約束ヲ遂ゲントセバ甲ニ向テ之ニ背カザルヲ得ズ、甲ニ対シ約束ヲ全フセント欲セバ丙ニ向テ之ヲ破ラザルヲ得ズ、豈如此ノ慣習成存スルノ理アランヤ
会頭曰ク、丹羽君ノ述ベラルヽ所ハ慣習ニ非ズシテ寧ロ法理ナリ、抑モ甲ガ初メ乙ニ掛合フニ当リ、乙更ニ丙ニ掛合フテ抵当品ヲ受取リ、之ヲ甲ニ渡ストセバ甲ニ於テ分毫ノ損ナシ、而シテ乙ハ甲ヨリ受取リタル金員ヲ以テ直チニ丙ニ弁償シテ可ナリ、返金期日ノ早ニ過グルハ通常我国人ノ之ヲ喜ブ慣習ナレバ之ガ為メ乙丙ノ間ニ葛籐《(藤)》ヲ生ズル恐ナシトス
柴崎曰ク、従来所有主ノ承諾ヲ得ズシテ復抵当トスルノ慣習アル物品ハ米・油・干鰯等ニ其例多シトス
右ノ外猶衆議ノ末本条ニ対シテハ所有主承諾ヲ得ズシテ復抵当トスルノ慣習ハ前年一般ニ成存シタリ、而シテ今日ニ於テモ米・油・干鰯若クハ生糸等物品ニ依リテハ此慣例間々コレアリト答申スルニ決ス
    ○売買ヲ媒介スル者ノ事
(問題)第一 問屋ト仲買人トノ業体ノ区別ハ如何
柴崎曰ク、抑モ問屋ナル者ハ他人ヨリ送付セラレタル貨物ノ直段ヲ仕切リ、即チ之ニ相当ナル価格ヲ付スルモノヲ云フ
会頭曰ク、夫レ我国ニ於テ従来問屋ト称シ来リタル者ハ荷主ノ委托ヲ受ケ、己レ相当ノ手数料ヲ得テ其貨物ヲ売捌クモノヲ云フカ、将タ己レ自ラ貨物ヲ仕入レ、専ラ損益ヲ負担シテ商売スル者ヲ謂フカ
赤井曰ク、是レ両方共ニ問屋ト云フノ仕来ナリ、縦ヘバ仕入問屋・委托問屋ト云フカ如シ
小西曰ク、商売ニ依テハ問屋・仲買ノ区別アリト雖トモ概ネ問屋ニシテ仲買ヲ兼ル者多ク、判然区別アラサルカ如シ
清水曰ク、塩商売ニ於テハ判然問屋・仲買ノ区別アリ
柴崎曰ク、問屋・仲買ノ間判然タル経界ナシト云トモ只問屋ハ仲買ノミニ貨物ヲ売リ、小売商ニハ之ヲ直売セサルヲ常トス、而シテ仲買
 - 第17巻 p.739 -ページ画像 
ハ之ヲ問屋ヨリ受ケテ大売商ニ直売スルヲ例トス、油・塩等ノ商売共ニ皆然リトス
丹羽曰ク、夫レ問屋ナル者ハ自ラ仕入ヲ為シ、損益ヲ負担スル者ヲ云ハズシテ市場ニ於テ人ノ委托ヲ受ケ手数料ヲ得テ貨物ヲ売買スル者ノ名称ナリト思ハル
会頭曰ク、仮令明著ナル経界ナキニモセヨ例ヘハ株式取引所ノ如キ手数料ヲ得、損益ヲ負担セザル者ヲ問屋ト称スルトカ将タ産地ヨリ貨物ヲ仕入レ之ヲ売捌ク者ヲ問屋ト称スルトカ一般ノ称ヒ来リナカリシヤ
野中曰ク、問屋ノ文字ハ門内ニ口字ヲ含ムトテ、昔日ハ人ノ間ニ立チ売買ヲ媒介スル者ヲ一般問屋ト称セシヤニ聞キシガ、今日ニ至リテハ殆ド巨商ノ別号ノ如クナリ来タルカ如シ
益田曰ク、問屋・仲買ノ業体ハ之ヲ小別セハ猶数種アルベケレトモ暫ラク余カ知ル所ヲ以テセハ、産地ヨリ直チニ貨物ヲ仕入ルヽ者ヲ問屋ト称シ、問屋ヨリ仕入ルヽ者ヲ仲買ト称スル事是一般ノ仕来ナリト信ス
吉田曰ク、諸君ノ所謂問屋ナル者ハ是余カ視テ以テ仲買トスル所ノモノナリ、試ニ看ヨ奥州ノ問屋ヨリ桐生ノ問屋ヘ生糸ヲ送クル者ノ如キ世間之ヲ仲買ト適称スルニ非ズヤ、且ツ夫レ諸君ノ所謂仲買ハ是余輩ガ才取ト称スル所ニシテ真ノ仲買ナル者ニ非ルナリ
右ノ外猶衆議ニヨリ終ニ本条ニ対シテ問屋・仲買業体ノ区別ハ従来ノ仕来ニ拠レバ問屋ハ自ラ損益ヲ負担シ、産地ヨリ貨物ヲ直買シテ売捌ク者ト他人ノ委托ヲ受ケ口銭ヲ取リテ之ヲ売捌ク者トノ通称ニシテ、仲買ハ問屋ニ就テ買入レ、之ヲ小売商ニ売捌ク者ト、産地ヨリ直買シテ之ヲ市場ノ問屋ニ売捌ク者トノ通称ナリト答申スルニ決ス、時ニ番外説明委員ヨリ旧江戸問屋仲間ニ施行シ来リタル申合規則ノ類ハ、本条ニ至切ノ関件ヲ有スルモノナレバ重立チタル商業ニ就キ其問屋仲買ノ売買契約書等ノ調査ヲ会頭ニ請ハレタリシガ、会頭ハ之ヲ諾シ、先ツ米・塩・油・綿・太物ノ営業ニ就キ其問屋仲買旧来ノ規則ヲ調査スル事ニ決シ、会頭ヨリ直チニ柴崎守三(油・綿)清水九兵衛(塩)吉田丹兵衛(太物)ノ三人ヲ指名シテ之ガ調査委員ト定メ、而シテ米ニ就テハ追テ議員竹中邦香君ニ其調査ヲ依頼スルニ決ス
(問題)第二 問屋・仲買人ト公ニ称スル者ノ外手数料ヲ受ケ他人ノ中間ニ居テ商品ヲ売買スルノ媒介ヲ為ス者アリヤ、若シコレアルトキハ其種類ハ如何
丹羽曰ク、問屋・仲買人ト公称スル者ノ外才鳥ナル者アリテ貨物ノ買売ヲ媒介スル者アリ、而シテ此才鳥ナル者ハ通例商店ノ信用ヲ得テ貨物ヲ転売シ、其利益ノ幾分ヲ収入スル者最モ多シトス
柴崎曰ク、此才鳥ナル者ハ材木・干鰯・葉茶・生糸ノ商業ニ最モ多シトス
益田曰ク、世間ニ所謂「ケーアン」ト称シ能ク地所・家屋ノ売買ヲ周旋スル者アリ、是寧ロ民事ニ属スベシト云トモ亦仲買ト公称スル者ノ外売買ヲ媒介スル者ナリ、且ツ糶売所ト称スル者モ亦此内ニ加フベキモノナリ
会頭曰ク、才鳥ナル者ハ大阪ノ所謂鳶《トンビ》ナリ、是才鳥ノ二字ヲ合成シタ
 - 第17巻 p.740 -ページ画像 
ル隠語ナラン、而シテ問屋仲買ト公称スル者ノ外ニ売買ノ媒介ヲ為スモノヲ挙クレハ今日東京ニ在ル所ノ米商会所・株式取引所・魚鳥会社青物市場・古着市場ノ如キモ亦此内ニ加フヘキモノナリ
於是衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ問屋・仲買人ト公称スル者ノ外手数料ヲ受ケ他人ノ中間ニ立テ商品ノ売買ヲ媒介スル者ハ多クコレアリ、其種類ハ米商会所・株式取引所・魚鳥市場・青物市場・古着市場・糶売所等及一人一個ノ業ニ於テハ才鳥ト云フモノ是ナリ、ト答申スルニ決ス
(問題)第三 媒介人ハ依頼ヲ受ケタル売買ヲ為スニ自分ノ名前ヲ以テ他人ト契約ヲ為スヤ、又ハ自分ハ名代人トナリテ依頼人ノ名前ヲ以テ契約ヲ為スヤ
野中曰ク、媒介人ハ他人ノ依頼ヲ受ケタル商品ヲ売買スルニ総テ自分ノ姓名ヲ用ユルノ例ナリト思ハル
赤井曰ク、才鳥ノ如キハ時トシテ自分ノ姓名ヲ用ヰサルノ例多シ
会頭曰ク、才鳥ノ如キハ手数料ヲ取ル者カ
柴崎曰ク、一定ノ慣例ナシ、時ニヨリ自ラ損益ヲ負担スル者モ不少トス
益田曰ク、糶売所ノ如キハ売買主双方ノ姓名ヲアラハスヲ例トス
右ノ外猶衆議ノ末本条ニ対シテハ通常問屋・仲買ハ自分ノ姓名ヲ以テ契約スルヲ例トス、然レトモ才鳥ノ如キハ時トシテハ自分ノ姓名ヲ用ヰ、時トシテハ依頼人ノ姓名ヲ用ヰ、従来一定ノ慣例コレナシト答申スルニ決ス
(問題)第四 媒介人ハ売払ヲ托セラレタル商品ニ付其依頼者ニ前貨金《(貸)》ヲ為シ其売払代金ニ付先取特権ヲ有シ弁償ヲ受クル事ヲ得ルヤ
柴崎曰ク、是ハ其時ノ約束ニヨリ一定ノ慣例ナシト信ス
会頭曰ク、試ニ清水君ニ問ハン、例ヘハ荷主カ問屋ニ塩二百俵ノ売払ヲ托シ、問屋ハ之ヲ抵当ト見做シテ之ニ金千円ヲ貸渡シタル時偶々荷主カ身代限ノ処分ニ遭フ事アラハ、問屋ハ此委托商品ヲ先取スルノ仕来ナリヤ
清水曰ク、余輩問屋ニ於テハ之ヲ先取スルノ仕来ナリ
会頭曰ク、横浜生糸問屋ノ如キモ委托品ニ対シテ金員ヲ貸渡ス事アル時ハ、其委托品タル尋常抵当ト称スルヨリハ寧ロ殆ト己レノ所有物タルノ姿アリ、左レハ此等ハ先取リシ来レル事勿論ナルヘシト雖トモ一般ニ就テ之ヲ云ハヽ果シテ先取スルノ慣例ナリト云フ事ヲ得ヘキカ
赤井曰ク、三菱会社ノ引換証書ノ如キ貨物ノ仕切ヲ為スニ至ル迄ハ問屋カ常ニ掌握スル所ナリ、左レハ此場合ニ於テハ先取権アルハ甚タ明カナル所ナリ
丹羽曰ク、数年前発布ノ法律ニテ前貸之者先取権ヲ有スル事ニ定メラレタリト覚ユ、然ラハ今日ト雖トモ猶先取権ヲ有スルノ慣例ナルヘシ
野中曰ク、甞テ長崎人所有ノ船ニシテ東京某商人カ之ヲ抵当ト見做シテ金員ヲ貸シタルニ、偶々義務者ガ身代限ノ処分ヲ受ケタル事アリ当時東京商人カ法庭ニ於テ先取権ヲ争ヒタリシガ、其前該船ノ甞テ
 - 第17巻 p.741 -ページ画像 
兵庫ニ於テ書入レトナリ居リシガ為メ遂ニ負ケ公事トナリタリキ、由是観之先取権ヲ有スルノ慣例成立スルトハ明言シ難シトス
会頭曰ク、是尋常商品ニ非レハ此例ヲ引用シテ商品ニ対シ先取特権ヲ有スル慣例無ト云ノ証拠トスルニ足ラサルヘシ
右ノ如ク衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ売払ヲ托セラレタル商品ニ就キ其依頼者ニ前貸金ヲ為シタル者ハ其売払代金ニ就キ先取権ヲ有スルノ慣例ナリト答申スルニ決ス
(問題)第五 媒介人ニ頼ラザレバ為シ得ザル売買アリヤ
本条ニ対シテハ衆議ノ末終ニ媒介人ニ頼ラザレバ為シ得ザル売買ハコレナシ、但シ媒介人ニ頼ルト否トニヨリ売買ノ便否有之ト答申スルニ決ス
(問題)第六 商品運送方ニ付媒介人アリヤ、即チ荷主ニ代リテ船主又ハ車馬持主ト契約ヲ為ス者ノ如キ是ナリ
野中曰ク、所謂周旋屋ナル者荷主ニ代リテ船主ト契約ヲ為ス事アリ、其他孵宿《(艀)》ニシテ之ト同様ナル事ヲ斡旋スル者コレアリ
会頭曰ク、周旋屋ナル者ハ荷主船主トモ各々之ヲ代理スル者ナルカ
野中曰ク、然リ
益田曰ク、周旋屋ナル者ハ損害アルノ際責任ヲ有セズシテ只手数料ヲ収入スルニ過ギサルカ如何
野中曰ク、船主及荷主ニ対スル契約ニ署スルニ自分ノ姓名ヲ以テシ十分責任ヲ有スルノ姿ナリ、然レトモ実際ニ於テハ荷主直チニ船主ニ掛合フテ要償スル者多キハ、抑モ周旋屋ナル者能ク其責任ヲ尽クスヲ得ザルノ場合少カラザレハナリ
柴崎曰ク、艀宿ナル者アリ、此等モ亦媒介者ノ一種ナリ
小西曰ク、所謂艀宿ナル者ハ積問屋ノ別名ナラン
番外曰ク、破損ノ害アル時ハ弁償ノ義務果シテ誰ニ帰スルヤ
柴崎曰ク、貨物ヲ水揚スル迄ハ其責廻漕問屋ニ帰ス、是従来ノ慣例ナリ
益田曰ク、抑モ破損等ノ事ニテ荷主ガ訴訟ヲ起ス時ハ周旋屋ヲ以テ被告トスルカ将タ船主ヲ以テ被告トスルカ、例ヘバ三菱会社ニ於テ運送貨物ノ盗難ニ罹ルガ如キ事アラバ、荷主ハ之ヲ直チニ本社ニ掛合フカ、或ハ周旋屋ニ向テ之ヲ掛合フカ
赤井曰ク、引換証書ヲ受取ル迄ハ其責周旋屋ニ帰スル事当然ナルヘシ
会頭曰ク、河舟廻漕ノ場合ニ於テハ果シテ如何ン
柴崎曰ク、所謂艀宿ハ荷主ノ代理者ナリ、左レバ此場合ニ於テ沈没等ノ事アレバ其損失全ク荷主ニ帰スルナリ
会頭曰ク、然ラバ此艀宿ナル者ハ全ク彼ノ周旋屋ナル者ト異ナルガ如シ、抑モ御下問ノ要旨ハ此艀宿ノ如キモノヲモ含ムノ意カ敢テ番外ノ説明ヲ請フ
番外曰ク、苟クモ媒介者タル者ハ尽ク之ヲ含ムノ意ナリ
益田曰ク、廻船問屋ナル者ハ船主ノ代理ニシテ媒介人ノ限ニ非ズ、真ニ媒介者タル者ハ周旋屋ニ止ルナリ
番外曰ク、陸運ニハ従来周旋屋アリヤ
柴崎曰ク、陸運ニモ周旋屋ノ如キモノアリ、現ニ余ハ陸運ノ事ニ関係
 - 第17巻 p.742 -ページ画像 
アリ、常ニ荷主ノ依頼ニヨリ運送ノ事ヲ斡旋ス、是亦周旋屋ノ一種ト云ハザルヲ得ズ
原曰ク、是陸運会社ノ代理ニシテ媒介者ニ非ズ、海運ノ所謂周旋屋トハ全ク異ナルモノナリ
番外曰ク、水運ノ場合ニ於テ若シ船主ノ名前ヲ知ラズシテ周旋屋ニ貨物ノ運送ヲ依托シ、若シ破損アル時ハ其責誰ニ帰スルヤ
野中曰ク、通常委托人ハ先ヅ周旋屋ニ掛合ヒ、然シテ後周旋屋ヨリ問屋ニ掛合フヲ例トス、然レトモ稀ニハ直チニ問屋ニ掛合フ事アリ
右ノ外猶衆議ニヨリ終ニ本条ニ対シテ海漕ニ於テハ所謂周旋屋ト称シ運送ヲ媒介スル者アリ、而シテ別ニ廻船問屋ナル者アリテ船主ノ代理者トナリ荷物ノ廻漕ヲ引受クル事アリ、又積問屋・艀宿ノ如キ荷主ノ代理者トナリテ船主ト契約ヲ為ス者アリ、然レトモ陸運ニ於テハ別段媒介者ナシト答申スルニ決ス
    ○売買之事
(問題)第一 商事上ノ売買ハ民事上ノ売買ニ比シテ別段ノ慣習ハアラザルヤ
会頭曰ク、商人ガ糶帳《セリ》ヲ以テ売買スルガ如キ、是別段ノ慣習ナリト云フモ可ナランカ
益田曰ク、商事ノ売買ニハ所謂手付金ノ効能ヲ重ンズルト云フガ如キ自ラ別段ノ慣習存スル事ナラン
原曰ク、商事ノ売買ニ割引ノ法アルハ是亦別段慣習ノ一ナラン
会頭曰ク、大伝馬町辺ノ卸売商店ヨリ商品ヲ講求《(購)》センニ他ニ転売スル為メナリト云フ時ハ特ニ割引スル等ノ事アリト覚ユ、是原君ノ説ノ如シ
稲田曰ク、通常書肆仲間ニ行ハルヽ割引ハ五掛ケ若クバ七掛ケヲ例トス、甚シキニ至リテハ十掛ト云フガ如キ事モコレアリ
右ノ外猶衆議ニヨリ終ニ本条ニ対シテハ商事上ノ売買ニ別段ナル慣習アリ、例ヘバ糶帳ヲ以テ売買スルガ如キ、或ハ仲間ノ売買ニ割引法ヲ用ユルガ如キ即チ是ナリ、而シテ其他猶商業ニヨリテ仲間ノ売買ニ別段ノ慣習存スル事モアルベケレトモ、或ハ秘事ニ渉ルモノモアルベケレバ此等ハ一々上申シ難シト答申スルニ決ス
(問題)第二 売買ノ約束ハ何ヲ以テ証拠トスルヤ、必ズ証書ヲ要スルト要セサルトノ差別アリヤ
原曰ク、売買ニヨリテハ証書ヲ要スルモノモアルベク、又之ヲ要セザルモノモアルベケレバ之ヲ概言スル事能ハズ
清水曰ク、余輩同業中ニテハ直書《ネガキ》ヲ証トシテ約束スル事多シ
本条ニ対シテハ衆議ノ末終ニ売買ノ約束ハ時トシテ証書ヲ要スル事アリ時トシテハ全ク之ヲ要セザル事アリ、従来一定ノ慣習ハコレナシト答申スルニ決ス
(問題)第三 売買ハ手付金ニ因テ其約束ノ確定・不確定ヲナス事ナキヤ
丹羽曰ク、手付金ヲ以テ必ズシモ約束ヲ確定スル事ハ敢テ其慣例ナキヤニ思ハル
会頭曰ク、試ニ番外ニ問フ、此売買トハ消費者ニ対シテ云フカ将タ仲
 - 第17巻 p.743 -ページ画像 
間ニ対シテ之ヲ云フカ
番外曰ク、仲間ニ対スル事ト承知セラレタシ
右ノ外猶衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ一定ノ極リコレナシト答申スルニ決ス
(問題)第四 売買契約ヲ為シタル時ハ何レノ時ヨリ商品ノ所有権ハ買主ニ移転スルヤ、又何レノ時ヨリ其商品ノ損失ヲ買主ニ於テ負担スベキモノトスルヤ
     此場合ニ於テ其商品確定物此物品ト現ニ指定シタル者例バ此馬此反物ト定ムルガ如シナル時ト不確定物前ノ反対ノ語ニシテ現ニ此物品ト指定セザル者例ヘバ反物幾干ト云フガ如シナル時トニ由リ区別アリヤ
柴崎曰ク、現品ノ受渡ナケレバ其所有権ハ買主ニ移ラザルベシ
原曰ク、然ラズ、已ニ売買ヲ約定スル上ハ其所有権直チニ買主ニ移ツルト云フベシ
丹羽曰ク、所有権ハ現物ヲ受渡シセザレハ買主ニ移ラズ、然レトモ其相場昂低ニ就テノ損失ハ結約ノ時ヨリ直チニ買主ノ負担スル所ナルベシ
益田曰ク、理論上所有権ノ移ルト否トヲ判断スルハ法律上ノ問題ナレハ暫ラク之ヲ措キ実際上ヨリ之ヲ述ベンニ、抑モ現品ヲ受渡サヽル時ノ損失ハ果シテ誰ノ負担スル所ナリシカ、売主ニ於テ之ヲ負担シ来リタルハ是従来ノ慣例ナリシニ非ズヤ、然ラバ此間ニ於テ所有権ノ買主ニ移ラザルハ実ニ視易シト謂フベシ
原曰ク、益田君ノ述ベラルヽ所ハ確定物ノ場合ヲ謂フナリ、余ガ論ズル所ハ初ヨリ不確定物ノ場合ヲ云フナリ
益田曰ク、不確定物ト雖トモ固ヨリ之ト異ナラズ、例ヘバ甲ヨリ乙ヘ米五十石ヲ売ラン事ヲ約シ、乙ヨリ猶丙ヘ売ラン事ヲ約スル場合アランニ、乙ニ於テ所有権ヲ有スルモノト為スヲ得ルカ、現品ヲ受渡シスルニ非レバ其所有権ハ決シテ買主ノ手ニ移ラザルナリ
柴崎曰ク、従来商業社会ニ庭離《ニワハナ》レナル慣例アリ、例ヘバ甲ヨリ乙ヘ売渡ス物品ニシテ其一タビ甲ノ商店ヨリ離ルヽノ瞬間時ヨリ其損失ハ乙ノ負担スル所トセリ
稲田曰ク、旧来ノ慣習ニ拠レバ産地ヘ注文シテ取リ寄セル物品ノ如キハ注文主其損失ヲ負担シ、売捌ノ為メ他ニ運送スル物品ハ其損失売主ノ負担スル所ニシテ是余ガ商業書籍渡世ノ慣例ナリ
丹羽曰ク、相場上ノ損失ハ現品受渡前ニ在リト雖トモ是買主ノ負担スベキ事ナラン
原曰ク、受渡セザレバ所有権ノ買主ニ移ラザル事或ハ然ラン、但シ損失ヲ負担スルハ其前已ニ買主ニ帰セリト云フベシ
会頭曰ク、敢テ外国ノ例ヲ引用スル迄モナケレトモ英国ニ於テハ商品ノ場所ヲ転ズルト同時ニ其損失ハ直チニ買主ガ負担スル処トナリ所有権モ亦買主ニ移ツルト云フ、但シ相場上ノ損失ハ其前ヨリ買主ノ負担スベキモノナルベシ
於是衆議ヤヽ一決シ、終ニ本条ニ対シテハ其貨物ノ確定・不確定ニ拘ラズ其所有権ハ受渡スルニ非ザレバ買主ニ移ラズト雖トモ、相場昂低ニ就テノ損失ハ売買約束ノ時ヨリ買主之ヲ負担スルノ慣例ナリト答申
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スルニ決ス
 (問題)第五 商品ハ未ダ現品到着セズト雖トモ売主ノ積荷目録又ハ運送状等ヲ以テ他人ニ復売スル事アリヤ
本条ハ衆議ノ末、従来商業社会ニ於テハ如此ノ慣例多シト答申スルニ決ス
(問題)第六 売買約束ノ時ニ商品ノ直段ヲ定メズ引渡ノ後ニ於テ之ヲ定ムルコトアリヤ、然ル時ハ如何シテ之ヲ定ムルヤ
丹羽曰ク、糶帳ヲ以テ同業仲間ヨリ買入ルヽ所ノ商品ハ、初メ直段ヲ取極メズシテ十五日若クハ卅日払ノ節ニ至リ双方相対シテ、其売買当日ニ於ケル相当ノ直段ヲ定メテ決算スルヲ例トス
赤井曰ク、所謂市場売買ニハ如此ノ例間々コレアリ、現ニ四日市ニ於テ五十集物《イサバモノ》ノ市価未ダ立タザル事アル時ニ当リ、其売買ハ現品受取リタル後ニ於テ当日ノ競リ相当ヲ以テ価ヲ定ムルヲ常トス
柴崎曰ク、塩ノ売買ニモ亦如此ノ慣例多クコレアリト覚ユ
右ノ外猶衆議ニヨリ終ニ本条ニ対シテハ糶帳ヲ以テ売買スルノ場合ニ於テハ十五日若クハ三十日ニ至リ、其仕払ノ期ニ於テ相対ニテ相当ノ直段ヲ定メテ之ヲ決筭シ、又塩・五十集物等ノ売買ニ於テハ現品受渡ノ後仲間同士ニ於テ競リ極メタル当日ノ相場ヲ以テ其価ヲ定ムルノ慣例多クコレアリト答申スルニ決ス
(問題)第七 売買約束ノ時ニ物品引渡ノ期限又ハ代金払入ノ期限ヲ定メザル事アリシ時ハ其引渡又ハ払入ハ何レノ時ニ為スヤ
柴崎曰ク、石油・塩等ヲ産地ヨリ買入レン事ヲ約スル時ハ、予シメ受渡ノ期限ヲ定メズシテ到着ノ時直チニ之ヲ受渡スノ慣例アリ
丹羽曰ク、代金払入レ期限ノ如キ仮令予メ之ヲ定メザルモ商人仲間ニテハ通例毎月十五日若クハ三十日ヲ以テ払入ノ期限トスルヲ常トス
益田曰ク、売買約束後六ケ月ヲ過グレバ流ガレトナルガ如キ慣例ハナキヤ
小西曰ク、如此ノ慣例ハナシト覚ユ、但シ代金払入ノ期限ヲ定メサルモノハ従来ノ仕来ニ拠レバ月末若クバ五節句ヲ以テ其期限ト為スモノヽ如シ
番外曰ク、商家ニ普通一定ノ払期限アリヤ
会頭曰ク、払期限ハ土地ニヨリ同シカラズ、例ヘバ大阪ニ於テハ一年六回ノ払期限アリ、即チ二月・四月・六月・八月・十月・十二月ノ末日是ナリ、而シテ東京ニ於テハ毎年六月・十二月ヲ以テ大勘定日トシ毎月十五日・三十日ヲ以テ小勘定日トス、然レトモ先ヅ毎月ノ小勘定日ハ只三十日ノミト云フモ可ナリ
右ノ外猶衆議ニヨリ終ニ本条ニ対シテハ、物品引渡ハ通例約束後直チニ之ヲ行ヒ(但シ運送ニ必要ナル日時ヲ除ク)代金ノ払入ハ所謂五節句或ハ毎月十五日若クバ三十日ニ之ヲ行フヲ常トス、ト答申スルニ決ス
於是各員猶次項ニ論及セントセシガ会頭ハ此ニテ議事ヲ止メ、自余未決之条々ハ猶来十九日午後六時ヨリ開会シ之ヲ議了スベシト述ベ、且ツ説明委員ニ向ヒ当日重テ臨場セラレン事ヲ請ヒ、各員ニ散会ヲ命ズ時ニ午後九時十五分ナリ
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東京商法会議所要件録 第三六号・第一―三九頁 明治一四年一〇月十四日刊(DK170057k-0009)
第17巻 p.745-753 ページ画像

東京商法会議所要件録  第三六号・第一―三九頁 明治一四年一〇月十四日刊
  第十七臨時会議 明治十四年九月十九日午後六時四十分開場
    議員出席スル者 ○十三名
    説明委員
   児玉小介  立木頼蔵
    以上出席スル者十四名其他《(マヽ)》ハ病気旅行又ハ事故アリテ不参ヲ告グ
会頭 ○渋沢栄一ハ各員ニ向ヒ今会モ出席議員定数ニ満タザレトモ前会ノ例ニ拠リ開会スル旨ヲ述ベ且ツ売買ノ章第八条ヨリ討議スベキ旨ヲ告グ
(問題)第八 借用証書・買受証書等ヲ有スル者其証書ニ裏書ヲ為シ己レノ債主権ヲ他人ニ移転スル事アリヤ、若シ之アル時ハ其書式ハ如何ン、又其慣行ノ経験ニ因テ確認シ得タル利害ハ如何
原曰ク、此借用証書ノ譲渡ハ蓋シ明治九年前ニ於テヤヽ民間ニ行ハレタルガ如シト雖トモ、同年第九十九号ノ布告ヲ以テ禁止セラレタリ而シテ今日ニ在テハ借用証書譲渡ノ限ニハアラザレトモ、ヤヽ之ニ類シ債主権ヲ他人ニ移転スル者アリ、現今銀行ニ用ユル割引手形即チ是ナリ、其書式ハ一定ナラズト雖トモ概ネ
   金若干円
   右金額正ニ受取候ニ付(何月何日限リ)此手形引替ニ何之誰又ハ其代理人ヘ御渡被下度云々
                        取組人姓名
    名宛人姓名
 等ニシテ必ズ三人称ニ記載スルノ例ナリ、而シテ此手形ハ名宛人ノ承諾ヲ得サル前ニモ其債主権ヲ猶乙丙戊己ヘ移ス事ヲ得ベキ習慣ナリ、蓋シ此法タル商業上ニ至大ノ便利ヲ与フルモノナリト云トモ若シ彼ノ借用証書譲渡ノ如ク同一ノモノトシ、此布告ニ当テヽ之ヲ処分セラルルガ如キ事アラバ実ニ商業上言フベカラザル損害ヲ被ムルベキニ、今ヤ幸ニ其障碍ナク流通スト雖トモ猶将来ニ其掛念ナシト云フベカラサルナリ
会頭曰ク、抑モ買受証書トハ如何ナル類ヲ云フカ
番外曰ク、払手形トモ云フベキモノヲ云フ例ヘバ甲ヨリ乙ヘ商品ヲ売リタル時乙ヨリ其代金ヲ払フベキ事ヲ約シ之ヲ甲ニ与フル者是ナリ
原曰ク、然ラバ玆ニ所謂買受証書トハ取モ直サス我々ノ割引手形ヲ云フモノナリ
井上曰ク、借用証書ニハ従来間々譲渡ノ慣例アリタリ、然レトモ其書式ニハ一定ノ極リナシ
会頭曰ク、明治七・八年ノ交ニ当リ一時借用証書譲渡ノ風流行シタリ然レトモ是多クバ不良ノ訟師者流ガ射利ノ計策ニ出ヅルヲ以テ、其譲渡ス者概ネ古証文類ニシテ甚シキハ数百年前ノ借用ニ係ルモノヲ提出シテ法庭ヲ煩スニ至リ、之ガ為メ良民ノ禍害ヲ被ムル者実ニ少カラザリキ、由是之ヲ追想セバ其証書ノ譲渡ハ商業上ニ関セザルモノニシテ所謂一時ノ弊風ナレバ彼ノ明治九年ノ御布告タル抑モ此等ヲ防止セラ
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ルヽノ精神ニ出デタルナランカ
吉川曰ク、借用証書ノ譲渡ハ債主・負債主トモ相対ノ上ニテ甚ダ稀ニハアリト云トモ先ヅ如此ノ慣習ハナシト云フテ可ナリ
丹羽曰ク、従来ヨリ借用証書譲渡ノ慣例存スルガ如クナレトモ、是皆債主ガ負債主ニ向テ要求スルノ全権ヲ他人ニ委任スルニ過ギズ、真ノ譲渡ニハ非ルベシ
鳥海曰ク、借用証書ノ譲渡トハ異ナレトモ荒物商業抔ニテハ一般勘定期日ニ至リ甲ガ乙ヘノ払ニ向テ丙ヘ対スル債主権ヲ移ス事其例不少
丹羽曰ク、負債主ガ初ヨリ其債主権ノ移転ヲ承諾シ、故ラニ乙債主ニ向テ払手形面ニ乙債主ノ名宛ヲ書カズシテ之ヲ与ヘ、乙債主ハ此手形ヲ差引勘定又ハ其他ノ都合ニヨリ丙ニ与ヘ、丙ハ其手形面ニ更ニ己レノ姓名ヲ記入シ、以テ乙ノ債主権ヲ己レニ移スノ慣例取引上間間コレアリト信ズ
番外曰ク、例ヘバ甲ヨリ乙ヘ羅紗百反ヲ千円ニテ売ル場合ニ於テハ、甲ハ乙ニ対シテ千円ノ権利者ナリ、乙ハ甲ニ対シテ百反ノ権利者ナリ、如此時ハ其手形ハ売主ヨリ出ダスカ将タ買主ヨリ之ヲ出ダスカ
会頭曰ク、是ハ互ノ約束ニ依リテ買主之ヲ出サバ売主之ヲ出サヾルヲ例トス、蓋シ売掛代取立証書ハ銀行ノ所謂代金取立手形ニシテ例ヘバ壱ケ月目若クバ二ケ月目ニ其貨物ノ代金ヲ取立ツル約束ニテ之レヲ銀行等ニ依頼スルノ手形ナリ、若シ又其期限前ニ銀行ヨリ其代金ヲ受取ルトキハ銀行ニ於テハ之ヲ割引手形ト云フ
右ノ如ク衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ従来借用証書ヲ譲渡スノ慣習コレナク、尤明治七・八年ノ交古証書類ノ譲渡流行シタル事アリシト云トモ是一時ノ悪風ニシテ自然ニ成立シタル仕来ニハコレナシ、而シテ御下問ニ所謂買受証書即チ余輩ガ代金取立手形ト通称スル所ノモノヽ譲渡ハ従来ヨリ其慣例コレアリ、其書式ニ一定ノ定メナシ、而シテ慣行ノ経験ニヨレバ至極便利ニシテ毫モ其害ナキモノナリト答申スルニ決ス、時ニ会頭ハ説明委員ニ向テ曰ク、明治九年九十九号ノ御布告ヲ以テ借用証書ノ譲渡ヲ禁セラレタリシガ、今日ニ於テ手形ノ譲渡ハ民間猶其例多クコレアリ、抑モ今日我国ニ於テ手形ノ為メニ特定セラレタル法律ナキヲ以テ手形ハ借用証書ノ限ニ非ズト云ハヾ可ナリト云トモ貸借ノ性質上ヨリ其権利義務ヲ論ズル時ハ手形ト云トモ敢テ借用証書ト異ナル事ナシ、左レバ若シ借用証書ノ譲渡ヲ禁ズルノ法律ヲシテ併テ手形ノ譲渡ヲモ禁ズルニ至ラシメハ其禍害果シテ如何ゾヤ、サスガニ御下問書中ニ於テハ借用証書ト手形ヲ同視セラレザルガ如クニシテ少シク心安シト云トモ、猶今般商法ヲ編纂セラルヽニ当リ最モ此点ニ御注意アラン事ヲ切望ス、此事ヤ本議ニ必用ノ件ニアラズト云トモ其関係スル所亦少カラザレハ敢テ因ミニ一言スト
(問題)第九 商業上ニ用ヰル手形又ハ切手ト称スル類ハ幾種アリヤ其手形切手官許ヲ得タルモノト私ニ発スルモノトアリヤ
会頭曰ク、本条中私ニ発スルモノト云フハ如何ナルモノヲ指シテ云フカ、鰹節屋・菓子屋等ニテ発スル切手ノ類ヲ謂フカ
番外曰ク、然ラズ、商業上流用スル重立チタル手形ノ類ニ就テ之ヲ云フナリ
 - 第17巻 p.747 -ページ画像 
会頭曰ク、手形切手ノ類甚ダ多シ、近来東海道ニ人力車ノ切手アリ、又地方ニヨリテハ小銭払底ナルヨリ小切手ヲ発シテ流通ヲ助クルモノモアリト云フ、然レトモ今日商業上ニ成立スル重ナル手形ヲ云ハヽ先ツ振出手形・為換手形・約束手形・割引手形・代金取立手形・当座預金取付ノ小切手等ノ類是ナリ、此他諸会社ニ於テ業務上必要トシテ発スルモノモ多カルベケレバ本条ハ追テ調査ヲ悉クシ上申スル方ナラン且ツ夫レ官許ヲ得タル手形ハ別ニコレアラザル事ト信ズ、尤現今銀行其他ノ会社ニ於テ発スル手形ハ公許セラレタルモノナリト云トモ是只営業ヲ許可セラレ其業務ニ必要ナルガ為メ各自発行スル所ニシテ、其手形ハ銀行紙幣ヲ除クノ外特ニ官許ヲ経タルモノトテハアラザルナリ
鳥海曰ク、砂糖商売ニ用ヰ来リタル手形アリ、此手形ハ大阪ニテ発スルモノニシテ例ヘバ三十日受渡ノ約束ヲ以テ砂糖千俵ヲ買入ルヽ時ハ買主ヨリ差金ヲ入レ、売主之ニ向テ内金収入証書所謂小手形ナルモノヲ出シ追テ総代金ヲ払入ルヽ時ハ更ニ大手形ト称スルモノヲ出シ而シテ此大手形ト引換ヒ荷物ヲ引取ルノ慣行ナリ、是蓋シ商業上ニ使用スル手形ノ一種トシテ可ナラン
清水曰ク、塩商売ニモ手形ヲ用ユルノ慣例アリ
会頭曰ク、米商会所・株式取引等ヨリ発スルモノハ蓋シ其営業上ニ就キ官許ヲ経テ発行スルモノナラン、其他猶各商ニ就キ之ヲ調査スレバ其種類頗ル多カルベシトテ終ニ衆議ノ末本条ハ追テ銀行諸会社ニ用ユル手形、並ニ従来各商業ニ用ヰ来リタル各種ノ切手ヲ調査シテ之ヲ上申スルニ決ス
(問題)第十 商事ノ負債ニ就キ普通ノ払期限ハ如何、其期限ノ最モ長キハ何ケ月ナルヤ、又最モ短キハ何ケ日ナルヤ
井上曰ク、払期限ノ長キモノハ毎年盆暮ヲ以テシ、短キモノハ毎十四日・三十日ヲ以テス
吉田曰ク、最モ短キモノハ三ケ日、長キモノハ七ケ月ヲ以テ常トス
丹羽曰ク、現今ニテハ通例月勘定最モ多ク盆暮ヲ以テ払期限トスルハ甚ダ稀ナルベシ
会頭曰ク、現今ニ於テモ猶商売柄ニヨリテハ盆暮ヲ以テ払期限トスル者多シト思ハル
井上曰ク、今日ニ於テモ盆暮五節句若クバ六十日ヲ以テ払期限トスル者往々コレアリ
右ノ如ク衆議ノ末本条ニ対シテハ普通ノ払期限ハ本章第七条ニ答申スルガ如シ、而シテ其長キモノハ所謂盆暮ヲ以テシ、短キモノハ十四日及三十日《(五)》ヲ以テスト答申スルニ決ス
(問題)第十一 商事上ノ売買又ハ貸借ニ於テ一ノ負債ニ付数人ノ義務者アル時ハ其義務ヲ連帯シテ担当スルノ慣習アリヤ
野中曰ク、此例ハ多クコレアリト信ズ
井上曰ク、本条ハ御下問アル迄モナク此慣習ノ存スル事勿論ノ義ト思ハル
会頭曰ク、例ヘバ金巾一反ヲ三人シテ買入ルヽ時ハ其義務ヲ連帯シテ担当スル事通常ノ事ナルベシ
番外曰ク、連帯ノ字義ニ就テ一言セン、例ヘバ甲乙丙連帯シテ丁ヨリ
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金巾若干反ヲ代金三百円ヲ以テ買入レタル事アランニ、偶々甲乙逃亡シタルガ如キ事アラバ丁ハ丙一人ヨリ代価ノ全額ヲ要求スルヲ得ルノ仕来ナルカト云フニ在リ
会頭曰ク、今説明委員ノ弁セラレタル如クナレバ連帯ノ字我々カ解釈ト少シク異ナル所アリ、而シテ其事柄ニ於テハモシ借者三人ノ間ニ別ニ制限スヘキ約束ナキニ於テハ一人ニテ償ハサルヲ得サルモノナリト信ス、是レ現行ノ法律ニテモ然カアルベキ事ハ勿論従来ノ慣習トテモ必ズ如此ニテアリタルナラン
右ノ外衆議ニヨリ終ニ本条ニ対シテハ固ヨリ如此ノ慣習之アリト答申スルニ決ス
(問題)第十二 商業上ノ取引ナル語ハ売買ノ契約ヲ結ブ事ヨリシテ物品及代金ヲ授受スル迄ヲ含ムカ、又ハ物品若クバ代金受渡ノ時ヲ指スカ
井上曰ク、抑モ取引ナル語ハ物品若クバ代金受渡ノ時ヲ指ス事ト信ズ
会頭曰ク、通常得意先キト云フ者ト取引先キト称スル者トハ其異ナル所如何
井上曰ク、得意先キト取引先キトノ異ナル所ハ只其売買ニ大小ノ差アルニヨルナラン
会頭曰ク、余ガ見ル所ハ之ニ異ナリ、抑モ得意先キハ所謂御客ニシテ取引先キハ商売仲間ノ義ナリト思惟ス、且ツ取引ナル語ハ従来ノ称ヒ来ニ拠レバ一物ニ就キ即チ現品受渡ノ時ノミヲ指シテ云フ事アレトモ亦広ク数年来ノ売買ヲ総称シテ其意義ノ区域甚ダ大ナル事アリ
右ノ如ク衆議ノ末本条ニ対シテハ商業上ノ取引ナル語ハ一物ニ就テ之ヲ云フ時ハ単ニ現品受渡ノ時ヲ指ス事アリト雖トモ、亦甲乙間ニ数年行ヒ来ル売買受渡ヲ総称シテ云フノ場合モ多クコレアリト答申スルニ決ス
(問題)第十三 卸売ト小売トノ区別ハ如何、又卸売商ノ種類ニヨリテハ小売者ニ売ルノ外通常人トハ直取引ヲ為サヾルモノアリヤ
吉田曰ク、卸売商ノ通常消費者ト直取引ヲ為ス者其例甚ダ多シト信ズ
井上曰ク、総テ現今問屋ニシテ自ラ小売スル者甚ダ多シトス
清水曰ク、是商売柄ニヨルベシ、現ニ塩商売ノ如キハ全ク小売セザルヲ例トス
丹羽曰ク、近来卸売ニシテ小売ヲ兼ヌル者多シ、例ヘバ看板ニ卸・小売ト記スルノ類是ナリ、而シテ卸ハ商人ニ売ル事ヲ表シ、小売ハ消費者ニ売ル事ヲ表スルモノナリ、猶其区別ヲ云フ時ハ、卸売ハ包装ノ儘数個ノ商品ヲ売リ渡シ、小売ハ一個ヅヽ包装ヲ開テ売渡ス等ノ差異アルナリ
右ノ外猶衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ卸売ト小売トノ間明著ナル区別ナシト云トモ、従来一般ノ称ヒ来リニ拠レバ卸売ハ商人ニ売卸スルノ通称ニシテ小売ハ消費者ニ直売スルノ通称ナリ、然レトモ商売ニヨリテハ卸売商ニシテ小売商ヲ兼ネ即チ通常人ト直取引ヲ為ス者多クコレアリト答申スルニ決ス
    ○破約之事
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(問題)第一 売買手付金流ルヽ時ハ其売買ハ破約トナルヤ
会頭曰ク、本条ノ要旨ハ如何ン、例ヘバ「甲ガ乙ヨリ商品ヲ買入レン事ヲ約シ手付金ヲ差入レ置キ期限ニ至リ其手付金ヲ流ス時ハ乙ハ之ヲ拒ミ得サルノ慣習ナリヤ」ト云フノ意カ
番外曰ク、本条ハ之ヲ二様ニ分カチ即チ一ハ「売買破約トナル時ハ売主ハ買主ガ差入レ置キタル手付金ヲ流スノミヲ以テ満足スルカ」一ハ「売買手付金ヲ流ス時ハ其売買ヲ破約シタルモノト公認スルカ」ニ就キ討議ヲ尽クサレン事ヲ望ム
井上曰ク、初メ追敷金ヲ数度ニ差入ルベシトノ約束ニシテ其追敷金ノ滞ル事アラバ無論破約トナルノ例ナリ
丹羽曰ク、商売中間ノ約束ニ於テ手付金流レ期限ニ至リ、買主猶其代金ヲ払ハザル時ハ売主ハ一応買主ニ掛合フヲ常トス
会頭曰ク、手付金ハ寧ロ内金ノ義ニシテ証拠金ノ義ニ非ルベシ、例ヘバ米一石ヲ七円ニ買ハン事ヲ約シ、小額ノ手付金ヲ差入ルヽ事アランニ偶々期限内ニ其相場ノ変動ヨリ己レニ非常ノ損失ヲ来タサントスル時買主ハ自由ニ破約スル事ヲ得ルカ、若シ果シテ然リトセバ売主タル者豈小額ノ手付金ヲ得ルヲ以テ足レリトセンヤ、由是観之如此ノ慣習ハ従来商事上成立セザルト云フベキナリ
井上曰ク、追敷金ノ場合ニ於テハ如何
会頭曰ク、今日株式取引所ニ行ハルヽ追敷金ノ性質ハ大ニ内金ト異ナル所アリ、是買主ガ其差入方ヲ遅滞スル時ハ他ニ之ヲ転売シテ其損失ヲ免レン為ニシテ売主ニ取リテハ損失受合金トモ云フベキモノナリ、豈尋常ノ所謂手付金ト之ヲ同視スベケンヤ
野中曰ク、内金ト証拠金トハ全ク異ナルモノニシテ内金ノ場合ニ於テハ買主ハ自由ニ破約スル事ヲ得ベカラザルナリ
番外曰ク、手付金ト証拠金ハ商売ニヨリテ区別アリヤ
会頭曰ク、製造品ノ如キ注文主ヨリ予メ差入ルヽ所ノ金員ハ是通常原価ノ一部分ヲ前払シタルモノト見做シテ可ナルモノナラン
平野曰ク、果シテ然リ、然レトモ猶此内金ヲ流ガシテ破約セントスル者頗ル多シ
丹羽曰ク、商品ハ所謂普通品ナレバ其手付金ヲ流カシテ破約スル事アルモ、売主ニ取リテハ格別ノ迷惑ナカルベシト云トモ製作品ノ如キハ大ニ之ト異ナルモノナリ、例ヘバ甲ガ別段ニ乙ニ注文シテ価十円ノ箪笥ヲ作クラシメ、其手付金トシテ五十銭ヲ渡シタルノ場合アランニ、甲ガ中途ニシテ此五十銭ヲ流ガシテ乙ニ破約セン事ヲ申入レタラバ乙果シテ之ヲ承諾スベキカ、由是観之手付金ヲ流ガシテ破約シ得ルノ慣例ハ蓋シ成立セズト思ハル
番外曰ク、抑モ手付金ノ意義ハ如何
会頭曰ク、手付金ノ意義ニ就テ御尋アラバ余輩ハ一定ノ意義ナク時トシテハ注文品ノ内金ヲ指シテ云フ事アリ、又或ル場合ニ於テハ前貸金若クバ証拠金ヲ云フ事モコレアリト答ヘンノミ、而シテ手付金ヲ流ガシテ破約シ得ルノ慣習アリヤトノ御下問ニ対シテハ仮令或ル場合ニ於テ売主ガ手付金ノ流レノミヲ以テ買主ノ破約ヲ勘弁スル事アリトハ云ヘトモ、是相対ノ承諾ニシテ一概ニ之ヲ言ヘバ斯ル慣習ハコレナシト
 - 第17巻 p.750 -ページ画像 
答申スベシ
番外曰ク、例ヘバ甲ガ乙ヨリ一万円ノ価ヲ以テ羅紗百反ヲ買入レン事ヲ約シ、手付金千円ヲ差入レタルニ、丙ガ同品位ノ羅紗ヲ七千円ニ売ラントスルヲ聞キ、甲ハ之ヲ買入レ丙ニ対シテ破約シ得ルノ慣例ナキヤ
会頭曰ク、如此ノ事ハ甲乙ノ間格別ノ約束アルニアラザレバ決シテコレナシト信ズルナリ
右ノ如ク衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ買主ガ手付金ヲ流ガシテ売買ヲ自由ニ破約シ得ルノ慣例ハコレナシ、但シ或ル場合ニ於テ手付金ヲ流ガシテ破約スル事ナキニ非レトモ、是皆売主ノ勘弁ニヨルモノナリト答申スルニ決ス
(問題)第二 違約金ノ約束ニ其額ヲ定メザリシ時ハ違約ノ場合ニ臨ミ何ヲ以テ之ヲ定ムルヤ
井上曰ク、違約金ノ約束ニ其額ヲ定メザルノ事ハ実際コレナキ事ト信ス
会頭曰ク、蓋シ然ラン、然レトモ若シ相当ノ額ト記スル事アラバ何ヲ以テ之ヲ定ムルヤ
丹羽曰ク、若シ之アリトセバ先ヅ原価一割位ヲ以テ相当トセンカ
右ノ外猶衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ如此ノ事実際全クコレナシト答申スルニ決ス
(問題)第三 約束ノ期限ヲ過ルモ売主物品ヲ引渡サヾルカ、又ハ買主之ヲ引取ラザルトキハ其売買ハ破約トナルヤ、又ハ尚ホ成立ツヤ
本条ニ対シテハ衆議ノ末如此場合ニ際シテハ仮令双方共法庭ニ訴エ一方ヲシテ必ス其約束ヲ履行セシムルヲ得ベシトハ云ヘ従来商業上ニ於テ破約トナルハ一般ノ慣例ニコレアリト答申スルニ決ス
    ○売主ノ事
(問題)第一 約束ニ物品ノ性質品位等ヲ詳細ニ定メ置カザリシ時ハ其引渡ニ売主ハ何等ノ品柄ヲ以テスルヤ
井上曰ク、約束ニ性質品位ヲ定メ置カザルノ場合ハ蓋シ決シテアルマジキ事ト信ス
番外曰ク、例ヘバ単ニ米何石、石炭何俵ノミト云フテ売買ヲ約定スル時ハ、従来取引シ来リタル品位ニ従フト云フガ如キ例ハアラザルヤ
会頭曰ク、単ニ米何石、石炭何俵ト云フテ約束スル事ハコレナシ、必ズヤ契約ノ際不十分ナカラモ肥前米若クハ唐津石炭等ト指名シテ約束スルノ慣例ナリ
右ノ外猶衆議ノ末本条ニ対シテハ従来商品ノ性質品位等ヲ定メザルノ場合ハ実際ニコレナシト答申スルニ決ス
(問題)第二 買主見本又ハ本品ヲ撿閲ノ上買入ントノ申込ヲ為シ売主之ヲ承諾シタル時ハ、其撿閲ヲ経ザル内ニ勝手ニ其品ヲ他ニ売ル事ヲ得ザルヤ
吉田曰ク、本条ノ場合ニ於テハ売主ハ一タヒ買主ニ通知セズシテ勝手ニ他ニ売ルヲ得ザルノ慣例ナリト信ズ
会頭曰ク、余ハ他ニ之ヲ売ルノ慣例実際甚ダ多シト信ズ
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井上曰ク、余ガ見ル所ヲ以テセバ本来売主ハ買主ノ承諾ヲ得ズシテ之ヲ他ニ売ル事能ハザルノ慣例ナリト思惟ス
丹羽曰ク、尋常商人ニ於テハ自店ニ景気ヲ付ケンガ為メ心ニモナキ買入レノ気勢ヲ為ス事其例不少トス、故ニ口約タリトモ其売買ノ事ヲ取究メザルノ前ニ於テハ都合ニヨリ他ニ之ヲ転売スル事一般ノ慣例ナリト云フベシ
右ノ外猶衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ未タ其売買ヲ約束セザルノ前ニ在テハ之ヲ他ニ売ルノ例甚ダ多クコレアリト答申スルニ決ス
(問題)第三 買主違約ヲ為シタル時、手付金ヲ流スニ於テハ売主ハ別ニ償金等ヲ求ムルヲ得ザルヤ
野中曰ク、従来ノ仕来ニテ買主ガ売主ニ向テ破約ヲ申入ルヽ時ハ、売主ハ買主ヨリ手付金一倍ノ高ヲ求メ其破約ヲ承諾スルノ例アリ
会頭曰ク、商売仲間ニ於テハ此場合ニ於テ売主ガ別ニ償金ヲ求ムルノ慣例アリヤ
神田曰ク、如此事ハ決シテコレナシ
野中曰ク、仲間ニ於テハ拍手売買ノ結約ヲ表スル迄ニテ端書ヲ以テ約束ヲ鞏固ナラシムルニ過ギズ、手付金ヲ差入ルヽノ慣習ナシ、但シ才鳥ノ如キハ手付ヲ以テ約束ヲ確実ナラシムルガ故ニ破約ノ時ハ只手付金ヲ流スヲ以テ止ムノミ
右ノ外衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ或ル場合ニ於テハ買主ハ破約ノ時手付金ヲ流スヲ以テ止ムヲ例トス、然レトモ又之ノミニテ売主ノ承諾セザル場合モコレアリト答申スルニ決ス
(問題)第四 売品ハ其用方ニ供スルニ不良ノ所ナキトノ請合ハ自ラ売主ニ存スルモノナルヤ、又別段其約束アル時ニ限ルヤ
井上曰ク、商品ノ出来合物ハ之ヲ請合ハスト云トモ、誂ヘ物ハ之ヲ請合フ事ハコレアリ
清水曰ク、問屋向ニテ売捌ク商品ハ其品ニ相当スル品位ハ自ラ之ヲ請合フノ慣習ナリト云トモ別段ノ請合ハ又別段ノ約束ニ依ルヲ常トス
右ノ外猶衆議ニ依リ終ニ本条ニ対シテハ通常商品ノ品位ハ其品名ニ相当スル丈ハ売主之ヲ請合フヲ例トス、但シ其用方等精確ノ請合ハ別段ノ約束アルニ非レバ売主之ヲ為サズト答申スルニ決ス
(問題)第五 売主己レニ所有権ナキ物品例ヘバ盗賍品又ハ追テ買入ルヽベキ見込ノ物品等ヲ売リタル時ハ其売買ハ成立ツヤ
会頭曰ク、謹デ本条ヲ通読スルニ、己レニ所有権ナキ物品ノ割註ニ、例ヘバ盗賍品又ハ追テ買入ルベキ見込ノ物品等トコレアリ、是果シテ如何ナル要旨ニ出テタルモノカ、夫レ追テ買入ルベキ見込ノ物品タリトモ既ニ買ヒ得ラルヘキモノナラハ之ヲ売リタルトテ其売買ノ成リ立タザル事モアルマジ、然ルニ之ヲ全ク己レノ所有権ナキ盗賍品ト同視スルハ蓋シ甚ダ不都合ナランカ、之ヲ要スルニ単ニ己レニ所有権ナキ物品ヲ売リタル時ハ其売買成立ツヤ否トノ御下問ナリトセバ無論成立タスト答申センノミ
番外曰ク、只今会頭ノ演説セラルヽガ如ク此割註ノ追テ買入ルベキ見込ノ物品云々ハ甚タ不都合ナルベケレバ、之ハ全ク塗抹シタルモノト見做シテ答申セラレン事ヲ望ム
 - 第17巻 p.752 -ページ画像 
右ノ外猶衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ、己レニ所有権ナキ物品ヲ他ニ売リタル時ハ其売買ハ成立タズト答申スルニ決ス
    ○買主之事
(問題)第一 見本ヲ以テ定メタル売買ナルニ現品ヲ受取ルニ及ンデ見本ト異ナリタル時ハ、買主ハ何時ニテモ之ヲ取替又ハ破約スル事ヲ得ルヤ
本条ニ対シテハ衆議ノ末、終ニ売主ヨリ見本ト異ナリタル商品ヲ渡ス場合ニ於テハ、買主ハ何時ニテモ之ヲ取替又ハ破約スル事ヲ得ルノ慣例実際ニコレアリト答申スルニ決ス
(問題)第二 買主確定物ヲ買ハント売主ニ申込ミ、未タ其返答ヲ得ザル内ニ其売主ニ断リナク他ヨリ之ヲ買ヒ取リ追テ前ノ売主ニ断ヲ為ス事ヲ得ルヤ
本条ニ対シテハ衆議ノ末終ニ如此場合ニ於テ双方ニテ確実ニ売買ヲ約定セザル限ハ買主ハ売主ニ断リナク他ヨリ之ヲ買取リ追テ前ノ売主ニ断ヲ為ス事ヲ得ルノ慣例コレアリト答申スルニ決ス
(問題)第三 買主代金払ヒ約束ノ期日ヨリ延引シタル時ハ利息ヲ生ズルヤ、然ル時ハ何レノ時ヨリ計筭スルヤ
吉田曰ク、期日ヨリ延引シタル時ハ其時ヨリ利息ヲ付スルノ慣例ナリト信ズ
会頭曰ク、銀行ニ於テハ割引手形ノ仕払方其期限ニ後クルル時ハ利息ヲ生スルノ例アリト云トモ、商人仲間ノ取引ニ於テハ果シテ如此ノ例アリヤ、若シ其期限ヨリ直チニ利息ヲ要求スルモノトセバ自ラ仲間ノ気配ヲ損スルノ虞ナシトセザルナリ
丹羽曰ク、是双方ノ協議ニヨルベシ、例ヘバ売主ヨリ期限ニ至リ買主ヘ催促シ返済セザル時更ニ再三催促ノ上初メテ当日ヨリ利息ヲ付スル事ニ協議ヲ遂グルノ例多シト思ハル
吉川曰ク、商人仲間ノ取引ニ於テハ決シテ利息ヲ要求スルノ慣例ナキナリ
於是終ニ本条ニ対シテハ相対格別ノ約束アルニ非ザルヨリハ利息ヲ生ズルノ慣例コレナシト答申スルニ決ス
(問題)第四 売主ニテ請合タル品、若シ不良ノ所アリシトキハ買主ハ何時ニテモ之ヲ取替ヘ又ハ破約スル事ヲ得ルヤ
本条ニ対シテハ本章第一条ニ答申シタル如ク、買主ニ於テ十分之ヲ取替又ハ破約スルヲ得ルノ慣例コレアリト答申スルニ決ス
    ○運送之事
(問題)第一 運送ニハ必ス物品到着ノ期限ヲ定ムルヤ、若シ然ル時ハ運送人ノ責任如何、又之ヲ定メザル時ハ其責任如何
赤井曰ク、滊船ニハ到着期限ヲ定ムル事アリ
会頭曰ク、滊船ト云トモ雇切リハ格別積合ナラバ到着期限ヲ定ムル事アルマジ
野中曰ク、初メ急達ヲ要シ尋常期限ヨリ若干日速カニ到着セン事ヲ定メ、之ガ為メ運賃割増ヲ約シタル事アランニ偶々其到着此約束期限ヲ過クル事アル時ハ割増運賃ヲ給セザル丈ニシテ止ム等ノ例ハ全クナキニ非ズト云トモ其他運送人ニハ別ニ責任ナシト信ズ
 - 第17巻 p.753 -ページ画像 
右ノ外猶衆議ノ末終ニ本条ニ対シテハ、通例運送ニハ水陸トモ到着期限ヲ定メズ随テ運送人ニハ責任ナシ、但シ或ル場合ニ於テハ運賃割増ヲ以テ別段ニ到着期限ヲ定ムル事アリ、而シテ此期限内ニ到着セザル時ハ只約束ノ割増運賃ヲ給セズシテ止ムノ例コレアリト答申スルニ決ス
(問題)第二 運送船已ム事ヲ得ザル事由アリテ途中ニテ他ノ船ニ積替ヘ運送シタル時ハ後ノ船ノ義務ハ如何
井上曰ク、無論後ノ船ノ義務ハ前ノ船ト同シキ事ナラン
会頭曰ク、試ニ番外ニ問ハン、本条不得已ノ事由トアルモノハ如何ナル場合ヲ指シテ云フカ、例ヘバ難破船ノ場合ノ如キハ一旦必ズ破約セザルヲ得ザルモノナレバ、後ノ船ノ義務前ノ船ト同シトモ云ヒ難シ、果シテ如何
番外曰ク、難破船ノ場合ハ本条ノ問フ限ニ非ズ
野中曰ク、例ヘバ甲ガ乙船ヲ雇ヒ長崎ヨリ東京迄貨物ヲ運送セントシタルニ、偶々乙船中病人アルカ若クバ機関ノ損スル等ノ為メ神戸ニ於テ丙船ニ積替ヘル事アル時ハ該地ヨリ東京迄ノ運賃其他ノ取極ハ総テ乙丙相対ノ約束ニヨルベク、甲丙ノ権利義務ハ毫モ甲乙ノ権利義務ト異ナラザルナリ
右ノ外猶衆議ニヨリ終ニ本条ニ対シテハ、難破等ノ場合ヲ除キ運送船ノ途中ニテ其載貨ヲ他船ヘ積替ユル場合ニ於テハ後ノ船ノ義務ハ前ノ船ノ義務ト同様ナリト答申スルニ決ス
(問題)第三 到着ノ物品ヲ買主ニテ受取ル事ヲ拒ムニ際シ、売主又ハ運送人其場ニ居合ハサヾル時ハ其品物ハ如何処置スルヤ
本条ニ対シテハ到着ノ物品ヲ買主ニ於テ受取ル事ヲ拒ムニ際シ、売主又ハ運送人其場ニ居合ハサヾル時ハ荷預リ問屋ニ於テ之ヲ保護シ、其事由ヲ売主ニ通シ其返答ヲ待テ之ヲ処分スト答申スルニ決ス
次ニ会頭ハ前会委員ヲ指名シテ各商業問屋規則等ノ調査ヲ依頼シタリシガ、委員中吉田丹兵衛君ハ其担当セラレタル太物問屋ノ沿革並ニ規則書ヲ調成シテ今夕差出サレタル旨ヲ述ベ、書記ヲシテ之ヲ朗読セシメタリ、時ニ番外ヨリ売主之章第五条ノ割註追テ買入ルベキ見込ノ物品云々ハ過刻注意ノ如ク不都合ナレバ、兼テ商務局ヲ経テ下付シタル書面ヨリ之ヲ塗抹スベキ旨ヲ述ベ、且ツ此度下問ニ係ル商事慣習件々ノ外猶商法編纂上参考トモナルベキモノハ十分調査ノ上開申アリタキ旨ヲ述ベラレタリシニ、会頭ハ之ヲ諒シ、猶今夕討議シタル件々ノ中売買之章第八条手形之種類等ハ理事本員ニ於テ調査ヲ悉クスベク、而シテ答申案ハ会議ノ都度議事筆記ト共ニ其筋ノ内覧ニ供シ、追テ御下問之件々調査全成ヲ期シ更ニ商務局ヲ経テ之ヲ答申スベキ旨ヲ説明委員ニ打合セ、次ニ商法講習所教科書編纂ノ事ニ孰《(就)》キ府知事ヨリ公達ノ次第アリタル旨ヲ報告シ、其全文(参考部ニ付ス)ヲ朗読シ、且ツ不日秋季懇親会ヲ開クベク其会日及場所ハ追テ各員ニ通知スベキ旨ヲ告ゲ終リテ各員ニ散会ヲ命ズ、時ニ午後九時三十分ナリ


東京商法会議所要件録 第三七号・第二―三頁 明治一四年一〇月二〇日刊(DK170057k-0010)
第17巻 p.753-754 ページ画像

東京商法会議所要件録  第三七号・第二―三頁 明治一四年一〇月二〇日刊
  第二十二定式会 明治十四年九月廿八日午後四時三十分開場
 - 第17巻 p.754 -ページ画像 
    議員出席スル者 ○二十名
会頭 ○渋沢栄一ハ各員ニ向ヒ、今会ハ嘗テ諸君ニ通知シタルガ如ク法制部ヨリ御下問ノ条項調査之顛末報告ノ件、右条項中商業帳簿一定云々ノ件及新潟県遠藤吉平氏ヨリ寄書アリタル俵造改良ノ件ヲ議スベキ筈ナルガ、理事本員ニ於テ答申案ヲ調成シタル事ナレバ先ヅ御下問ノ条項調査ノ顛末ヨリ報告スベシ、但シ議事規則ニ拠レバ此答申案ヲ印刷ニ付シ逐条審議ヲ尽クシ加除修正スル方ナルベシト云トモ、其要旨ハ兼テ諸君ト討論議決シタル所ニ外ナラズ、且ツ已ニ其筋ノ内覧ヲ経十分下タ打合セモ終リタル事ナレバ、其手数ヲ略シテ全文ヲ朗読セシムベケレバ気付キノ所ハ其時々発言セラレタシトテ書記ヲシテ其全文ヲ朗読セシメタリシガ、全篇ノ中、商人商業及帳簿之章第六条第一節、売買ヲ媒介スル者之章第一条、売買之章第六条及第九条ノ答案ニ就キ一二修正説アリ、其他ハ悉ク之ヲ可決シタルヲ以テ、其案文ハ理事本員ニ於テ再調シ直チニ之ヲ答申スルニ決ス(答申書ハ本号ノ附録トシテ頒布スベシ)
次ニ会頭ハ商人商業及帳簿ノ章第六条第二節、商業上ニ於テ帳簿取締ノ為メ一定ノ法則ヲ希望スル事アリヤ云々ノ一項ハ兼テ去十日ノ臨時会議ニ於テ益田孝君ノ発議ニテ別ニ本会ノ一問題トシテ之ヲ議スベシト一決シタリシガ、今会右問題ニ就テ諸君十分意見ヲ陳述セラレタシト述ベラレタルニ、衆議ノ末本件ハ甚ダ重要ナル問題ニ付此度直チニ答申スル事ヲ止メ他日ノ臨時会ニ譲ルヘシト云フニ決ス
○下略


東京商法会議所要件録号外附録 第一―四七頁 明治一四年一〇月二八日刊(DK170057k-0011)
第17巻 p.754-765 ページ画像

東京商法会議所要件録号外附録  第一―四七頁 明治一四年一〇月二八日刊
今般御局ヲ経テ太政官法制部ヨリ御諮問相成候商事慣習之件々ニ就キ九月十日・十五日・十九日三回ノ臨時会ニ於テ別冊之通リ審案調査仕候間此段不取敢答申仕候也
                東京商法会議所会頭
  明治十四年十月九日           渋沢栄一
  商務局長
    農商務大書記官 河瀬秀治殿

  答申書
    商人商業及商業帳簿ノ事
      第一条
商人ト商人ニ非ル者トノ区別ヲ公認スベキ要件アリヤ
 説明委員ノ弁明ニ拠レバ商人ト常人トハ何ヲ以テ区別シ来レルヤト云フニ在リ、即チ此要点ニ就キ本会之ヲ審案スルニ従来別ニ商人非商人ヲ見定ムベキ仕来コレナシ、但本会ノ考案ニ拠レハ暖簾・看板ノ有無、営業税ノ納否、若クバ戸籍面ノ肩書ニ依ラバ或ハ之ヲ公認シ得ベキカ
      第二条
事業及契約ノ性質ニ由リテ民事ト商事トノ区別ヲ為ス事アリヤ
 凡ソ事業及契約ニ就キ民事ト商事トノ見解ヲ付クルハ世人ノ考察迄
 - 第17巻 p.755 -ページ画像 
ニシテ、之ガ為メ別段ニ民事ト商事トノ区別ヲ為スガ如キ慣習ハコレナシ、今更ニ本条説明委員ノ弁解ニ対シ之ヲ簡易ニ答申スレバ凡ソ今日世ノ仕事又ハ約束ノ性質ニ依リ、之ハ常人ノ仕事彼ハ商人ノ約束ト云フハ只人々ノ思ヒ入迄ニ止リ、其見分ケヲ異ニスルガ如キノ仕来ハ実際ニコレナキナリ
      第三条
有夫ノ女独立シテ商業ヲ為ス事アリヤ、若シ之アル時ハ財産上夫トノ関係ハ如何
 有夫ノ婦人別居独立シテ商業ヲ営ム者往々之アリ、而シテ説明委員ガ本条ヲ更ニ解釈セラレタル其夫之ガ金主トナルカ、又ハ財産資金等ヲ夫婦協合シテ営業ヲ為スヤノ問ノ如キハ、是夫妻互ノ約束上ニ依ルモノニシテ、若シ其婦分散スル時債主ガ要求スル所、其夫ノ物品ニ及ブト否トニ就テハ敢テ一定ノ慣習ナシト信ズルナリ
      第四条
第一節 商業帳簿ノ種類幾多アリヤ、其各種類ノ名称用方及保存ノ期限等ハ如何
第二節 其帳簿ハ凡ソ一定ノ書式アリヤ、又商業ノ性質ニヨリ帳簿ノ種類ヲ異ニスルヤ
 凡ソ商業ノ帳簿ハ取引ノ摸様及商売柄ニ依リ其要スル所ノ種類一様ナラズ、其数亦無慮数十種アリト云トモ今玆ニ其商売柄ノ何タルヲ問ハズ、苟クモ問屋ノ業ヲ営ムニ於テ普通欠クベカラザル帳簿ヲ挙レハ概ネ左ノ九種トス、当坐帳・大福帳・仕入帳・仕切帳・蔵入帳水揚帳・金銭判取帳・荷物判取帳・金銭出入帳是ナリ、而シテ其名称ノ如キハ各商店ニ依リ一定ノ極リナシ、例ヘバ当坐帳ヲ注文帳若クハ諸用帳ト称スルガ如キ、大福帳ヲ懸ケ帳若クハ本帳ト名付ルガ如キ、仕入帳ヲ買付帳ト云フガ如キ、蔵入帳ヲ蔵出入帳ト呼フガ如キ、金銭出入帳ヲ両替出入帳ト称フルガ如キ即チ是ナリ、然レトモ其用方ニ至リテハ共ニ皆一ナリトス、又其帳簿ニハ一定ノ書式ナシ質屋・銀行ノ如キ其帳簿ニヤヽ一定ノ書式アリト云トモ是レ特例ニシテ一般ノ常例ト云ヒ難シ、今玆ニ此九種ニ就キ各其用方ノ概略ヲ記スレバ即チ左ノ如シ
一当坐帳
 又注文帳若クバ諸用帳ト称ス、抑モ此帳簿ハ取引ノ日記トモ云フベキモノニシテ苟クモ売買ニ係ルモノハ其貨物ノ品位・数量・価格、現品受渡ノ月日、相手ノ姓名等必ズ先ヅ之ニ登記セザルハナシ、而シテ商店ニヨリテハ之ヲ甲乙二部ニ分カチ一ハ東京市内ト取引ニ係ル件々ヲ記シ、一ハ地方ト取引ニ係ル件々ヲ記スルモノアリ、又更ニ売日記ト名付ル帳簿ヲ製シ此当坐帳ノ中ヨリ貨物売上代金払入ノ要件ヲ抜萃スル者アリ、此帳簿ハ西洋諸国ニ行ハルヽ単式記簿法ノ所謂日記帳ナルモノト全ク其用ヲ同フスト云トモ、其用紙ハ通常古キ帳面紙ノ裏面ヲ以テ之ニ宛テ、其編綴極テ粗末ナルモノ多シ、且ツ其記載方モ甚ダ不規則ニシテ貨物品位ノ如キハ符標ヲ以テ之ニ代用スルノ例アリ、左レバ素人ニテハ中々之ヲ解シ得ザル事甚ダ多シトス
 - 第17巻 p.756 -ページ画像 
一大福帳
 又懸帳或ハ本帳ト名ク、其用専ラ売懸ヲ明記スルニ在リ、其記載方ハ各商一様ナラズト云トモ例ヘバ其取引ノ広ク地方ヘ渉ル者ノ如キハ帳簿ノ小口ニ見出シヲ付シ国々ニ依リテ其売先ヲ分カツアリ、或ハ単ニ府内ト地方ト二様ニ分ツアリ、而シテ売先即チ自店ニ対シテ負債者タル者ノ姓名ハ右ノ部類ニ従テ猶之ヲ細別シ、若シ日々ノ取引ニシテ先ツ当坐帳ヘ記入シタル後其現金払ニ非ズシテ売懸トナルベキモノハ貨物ノ代価ハ勿論諸懸リ入用ニ至ル迄一旦仕切帳(後ニ記ス)ニ登記シタル後、総テ其売先ノ部類ニ従テ夫々之ヲ書キ込ミ函館ノ商人某ニハ若干ノ勘定アリ、秋田ノ商人某ニハ若干ノ勘定アリト云フ事ヲ一目ノ下瞭然見出シ易カラン事ヲ主トス、而シテ追テ決筭期日前ニ至レバ各売先ニ就キ逸々其売懸代金ヲ〆括リ、夫々書出シヲ送クリ、其勘定済ノ分ハ帳面ノ上ニテ之ヲ塗抹シ爾後ノ売懸ハ更ニ復タ其次ニ之ヲ認メ、前同様ノ手続ヲ以テ之ヲ決筭スルヲ例トス、又商店ニヨリテハ大福帳ノ外更ニ懸帳ナルモノヲ製シ地方ト取引ニ係ルモノハ之ニ登記シ、大福帳ニハ只東京市内ト取引ニ係ルモノヲ記スル事アリ、或ハ単ニ大福帳ヲ二部ニ分カチ之ヲ弁スルモアリ、又都合ニヨリテハ之ヲ数部ニ分ツテ之ニ番号ヲ付スルアリ、然レトモ此等ハ取引ノ摸様各人ノ便宜ニ従フベキモノニシテ、敢テ普通一定ノ法トハ認ムベカラザルナリ、抑モ此大福帳ナルモノハ西洋単式記簿法ノ所謂大帳ナルモノト全ク其用ヲ同フスルモノニシテ其編綴方ハ通常極上端切ラズ(紙名)ノ白紙ヲ以テ細長形ニ作リタルモノ最モ多ク、表紙面ニハ一種異様ノ書体ヲ以テ記スルヲ例トス是蓋シ我国商業帳簿中ノ翹楚ナルモノナリ、近来ニ至リ半紙罫紙ヲ以テ之ヲ製シ、稍々洋式ヲ折衷シテ専ラ軽便ヲ旨トスルモノモアレトモ、是レ甚ダ稀ニ見ル所ナリ、中ニハ大福帳ヲ以テ只帳場ノ粧飾物トナシ、仕切帳(後ニ記ス)等ヲ以テ之ニ代用スルモノアリト云トモ、此等ハ甚ダ稀ニシテ常例ニ非ズ、之ヲ要スルニ此大福帳タル普通商家ニ取リテハ最モ必要ナル帳簿ノ部類ニ属スベキモノナリ
一仕入帳
 又ハ買付帳ト云フ、其用貨物ノ買付方ヲ明記スルニ在リ、即チ買先姓名ヲ国々ニヨリテ類別スルカ、若クバ遠国地廻リノ二部ニ分カチ其貨物ノ品位・数量・原価・取引約定ノ月日等詳細之ニ登記スルヲ例トス、而シテ其記載方ハ一定ノ極リナク商店ニヨリテハ或ハ符標ヲ以テ貨物ノ品位ヲ表スルモノアリ、例ヘバ水油ノ舎ニ於ケル、醤油ノニ於ケルガ如キ是ナリ、然レトモ其用方ニ至リテハ各商共ニ一ナリトス、抑モ此仕入帳及仕切帳(次ニ記ス)ナルモノハ商家ガ因テ以テ其損益ヲ計較スルノ原拠タルベキモノニシテ、其必要ナル事遠ク他ノ帳簿ノ右ニ出ツルモノト謂フベシ
一仕切帳
 此帳簿ノ用ハ貨物売上ノ事ヲ明記スルニ在リ、即チ売先姓名・貨物ノ品位・数量・諸懸リ入用高・売渡月日等ヲ詳記シ、然シテ後売懸トナルベキモノハ必ズ之ヲ大福帳ニ登記スルヲ例トス、商店ニヨリテハ更ニ此帳簿ニ貨物ヲ積入レタル船名、東京積込問屋ノ姓名等ヲ
 - 第17巻 p.757 -ページ画像 
記載スルモノアリ、又之ヲ直チニ大福帳ニ代用シ決算期日前ニ至リ之ニ因テ売懸ヲ調査スルモノアリ、然レトモ此等ハ皆商家普通ノ法ニ非ズ、蓋シ此帳簿タル西洋単式記簿法ノ所謂売上帳ナルモノト全ク其用方ヲ同フスルモノニシテ、商家ニ取リテハ前ノ仕入帳ト均シク甚ダ必用ナルモノナリ
一蔵入帳
 又蔵出入帳トモ云フ、即チ貨物ノ出入帳ニシテ其用専ラ現品ノ出入ヲ明記スルニ在リ、例ヘバ大阪ヨリ仕入貨物ノ到着スル事アランニ之ヲ点撿シテ一々之ヲ水揚帳(次ニ記ス)ニ詳記シ、送状ト突キ合セ之ヲ蔵入スルニ際シ某月某日何品幾個入ト記シ、或ハ北海道ヘ向ケ売上貨物ヲ運出スル事アランニ、先ヅ此蔵入帳ニ某月某日何品幾個出ト記シ、然ル後此貨物ヲ積込問屋ニ渡シ、荷物判取帳(後ニ記ス)ニ其領収ヲ証記セシムルガ如シ、其他苟クモ貨物ヲ出入スル事アル時ハ必ズ之ヲ記載シ、以テ貨物ノ現在高ヲ容易ニ知リ得ン事ヲ期ス、而シテ各商土蔵配置ノ都合ニヨリ数部ノ蔵入帳ヲ作クル事多シ、例ヘバ西河岸蔵入帳、小網町河岸蔵入帳ト云フガ如キ是ナリ、抑此帳簿タル其用唯現品出入ノ数量ヲ記スルニ止マレバヤヽ他ノ諸帳簿ヨリ必要ナラザルガ如シ
一水揚帳
 此帳簿ノ用ハ仕入貨物到着ノ事ヲ明記スルニ在リ、例ヘバ大阪ヨリ仕入貨物到着スル事アランニ先ヅ送状ヲ得タル時直チニ其貨物ノ数量・積込船名等ヲ詳記シテ之ヲ積付帳ト名付ケ、追テ其貨物ノ到着シタル時ハ之ヲ点撿シ送状ト突合セ、然シテ其詳細ヲ此水揚帳ニ記載スルモノトス、而シテ其記載方ハ一定ノ極リナシト云トモ先ヅ仕入貨物積出到着ノ月日其数量及東京引取問屋ノ姓名等ヲ記載スルヲ例トス、若シ偶々此貨物中破損物等ヲ発見スル時ハ先ヅ之ヲ引取問屋ヘ引合フ事トス、而シテ此引取問屋ハ産地積込問屋ヘ引合ヒ、此積込問屋ヨリ買先ヘ引合ヒ夫々従来ノ仕来リ若クバ相対ノ約束ニ依リ此破損ヲ弁償スルモノトス、又初メ買先ヨリ貨物一千個ヲ一纏メニ買入レタルニ運送ノ都合ニヨリ積込問屋ニ於テ之ヲ数艘ノ船舶ニ分載スル事アリ、如此時ハ其船舶ノ到着時日ヲ同フセザルガ故ニ此水揚帳ニ号ヲ分テ記載スル事アリ、例ヘバ第一号ヲ以テ五百個、第二号ヲ以テ五百個云々ト記スルガ如シ、夫レ仕入帳(前ニ記ス)ハ買入ヲ約束シタルモノヲ総テ記入スルモノニシテ、此水揚帳ハ其約定貨物ノ中到着シタルモノ而已ヲ記載スルモノナレバ、此二帳ヲ以テ恰モ西洋単式記簿法ノ所謂送状扣帳ナル者ノ用ヲ弁スルモノト謂フベシ、要スルニ是亦商家ニ取リテ最モ欠クベカラザル帳簿ノ一ナリ
一金銭判取帳
一荷物判取帳
 共ニ金銭貨物請取人ノ証印ヲ受クルノ帳簿ナリ、而シテ金銭判取帳ハ概ネ仕入貨物ノ代金ヲ払フタル時之ガ売主ノ証印ヲ受ケ及運賃ヲ払フタル時積込問屋ノ証印ヲ受クル等ニ用ユト云トモ、其他小買物ノ代金ヲ払フノ時モ亦此帳簿ニ受取人ノ証印ヲ受クル事アリ、又商店ニヨリテハ別ニ為替判取帳ナルモノヲ製シ、地方ニ向テ為替ヲ振
 - 第17巻 p.758 -ページ画像 
出ス時ニ当リ、此帳面ニ取組人ノ証印ヲ受クル事アリ、然レトモ此等ハ通例金銭判取帳ニテ之ヲ弁スル者多シトス、而シテ荷物判取帳ハ府内ヘ貨物ヲ売渡ス時ハ直チニ其買主ノ証印ヲ受ケ、地方ヘ之ヲ売捌ク時ハ積込問屋ノ証印ヲ受クルヲ例トス、要スルニ此二帳ハ金銭貨物ノ受取帳タルニ過キス、其記載方モ一定ノ極リナク甚ダ簡略ナルモノナリ、例ヘバ荷物判取帳ニハ貨物ノ数量・地方買主姓名・月日・受取人即チ積込問屋ノ姓名ヲ記スルガ如キ是ナリ、或ハ商店ニヨリテハ更ニ船付帳ナルモノヲ製シ、貨物ヲ地方ヘ売捌クニ当リ貨物ノ種類・買先ノ姓名・積込船名・売渡月日・積込問屋ノ姓名等ヲ詳記シ以テ索引ニ便スル者アリト云トモ、是実ニ稀ニ見ル所ニシテ通常単ニ荷物判取帳ヲ以テ弁ズルモノ最モ多シトス、且ツ此判取帳ハ常ニ数部ニ分ツヲ例トス、是蓋シ金銭ヲ払ヒ荷物ヲ渡スベキ所諸方ニ渉リ実際数部ヲ要スル事アルガ為ナリ、其編綴方ハ端切ラズ紙四ツ折ヲ以テ作クルモノ多ク、常ニ箱ヲ以テ蔽ヲ製シ、絛ヲ結ヒ以テ小厠《(厮カ)》ノ携帯ニ便ス
一金銭出入帳
 又両替出入帳ト云フ、日々ノ仕入売上等一々金銭ノ出納ヲ明記スルノ帳簿ナリ、而シテ毎夜精筭差引シテ其日ノ勘定ヲ確実ニスルヲ例トス、是亦商家ニ在リテハ実ニ欠クベカラザルノ帳簿ナリ、其記載方一定ノ極リナシ、概シテ不規則ナルモノ最モ多シ
右ノ外糶帳ナルモノアリ、商家ガ自店ニ所有セズシテ急ニ要スル貨物アル時ハ此糶帳ニ其品名並ニ数量ヲ記載シ、小厠ヲシテ同業仲間中ニ奔走セシメ、要求ノ品ヲ発見スル時ハ其所有主ノ印判ヲ受ケ代価ヲ払ハズシテ直チニ之ヲ持帰ル事アリ、又相場帳ナルモノアリ、例ヘバ石油商ガ毎日洋銀ノ相場ヲ記シ、石油ハ勿論之ニ関係アル物品等ノ相場ヲ隔日ニ記スル等ノ事アリ、又為替帳ナルモノアリ、取組月日・為替金高・番号・振出人姓名・払人姓名・受取日限等ヲ詳記スル事アリ、其他給金帳アリ、雇人ノ姓名・雇入月日・給金払高等ヲ記載スルアリ又運送通帳等アリ、此等ハ皆其商売ノ摸様ニ依リ甚ダ必要ナルモノナリト云トモ、是普通商家ニ欠クベカラザルノ帳簿ト謂フベカラズ、要スルニ以上ニ掲記スル九種ノ帳簿ハ問屋向ニ於テ必要ナルモノニシテ其他仲買小売商ニ至テモ右ノ内当坐帳・大福帳・仕入帳・仕切帳・金銭判取帳・荷物判取帳・金銭出入帳ノ七種ハ商業上必ズ要スベキモノトス
帳簿保存期限ハ古来ヨリ一定ノ仕来ナシ、蓋シ大伝馬町其他ノ問屋向ニ於テハ旧記ヲ蓄フル者甚ダ多ク、中ニハ五十ケ年以前ノ帳簿ヲ保存スルモノ間々コレアリト云トモ是敢テ一定ノ仕来ト云フニ非ズ、要スルニ各商家ノ便宜ニ出デタルモノナリ、而シテ維新ノ後ニ至リテハ帳簿ヲ保存スルモノ十年ヲ越ス者甚ダ少ク、近年ニ至リテハ二三年間之ヲ保存シ其上ハ漉返シ若クハ紙屑トシテ之ヲ売却スル者多シト云フ
第三節 欧米各国ニ用ユル所ノ単複ノ記簿法ニ傚ヒ、簿冊ヲ記スル事ハ追々盛ンニ行ハルヽ景況ナルヤ
 現今国立私立各銀行及諸会社等ハ概ネ洋式記簿法ヲ専用スト云トモ他ノ商業者ニ於テハ未ダ其法盛ニ行ハルヽヲ聞カズ、是其法式ノ便
 - 第17巻 p.759 -ページ画像 
ナラザルカ為メナラズ、只旧慣ヲ破ブリテ新法ニ移ルノ難キニ苦シムノミ、自今商業ノ益々隆盛ナルニ趨キ取引ノ愈々綿密ナルニ随ヒ必ズヤ漸次記簿法ノ世ニ行ハルヽニ至ルハ本会ガ信ズル所ナリ
      第五条
商業帳簿ハ他人ニ対シテ証拠トナル効力アリヤ
 商業帳簿ハ相対上ニ於テ他日ノ証拠トナルノ効力ヲ有スル者多シ、即チ第四条ニ答申スル所ノ諸帳簿ノ内特ニ荷物並ニ金銭判取帳・当坐帳・仕切帳又ハ糶帳等ノ如キハ其効力ヲ有スルモノニシテ或ハ又注文帳ノ如キニ至リテハ其効力乏シキモノトス、故ニ商業用ノ帳簿ハ悉皆他日ノ証拠トナルノ仕来アリトハ云ヒ難キナリ
      第六条
第一節 商業簿冊ノ整頓セルト否ラザルトヲ以テ実際裁判上ノ便不便アリヤ
 説明委員ハ更ニ本条ヲ解釈シテ商用帳面其整頓ノ完全ナルトナラザルトニ依テ裁判ヲ仰キ候者ニ便不便アリヤト問ハル、熟ラ本会ガ審案スル所ニ拠レバ帳簿ノ整頓セル時ハ裁判ヲ仰クニ当リ便利ナル事固ヨリ正当ノ理ナリト云トモ、抑モ我国ニ於テハ未ダ商業帳簿上ニ一定ノ法式アラサルヲ以テ、或ル場合ニ於テハ仮令其簿冊ハ完ク整頓スルモ之ガ為メ裁判上ニ必ズシモ十分ノ便利ヲ与フルトハ確言シ難キナリ
第二節 商業上ニ於テ帳簿取締ノ為メ一定ノ法則ヲ希望スル事アリヤ若シ之アル時ハ如何ナル条件ナルヤ
 按スルニ本節御下問ハ既往若クバ現在ノ事実ヲ云フニ非ズシテ其事将来ニ関シテ我々ノ思想ヲ述ブルモノニシテ、而モ其事ヤ至大ノ関係ヲ全国商業ニ及ボスベキモノナレバ本按ハ他日更ニ審案ヲ遂ゲ上申スル所アルベシ
    商事上ノ抵当及其特権之事
      第一条
商事上ノ抵当ハ民事上ノ抵当ト異ナル所アリヤ
 民事上ノ抵当ト商事上ノ抵当トハ別段異ナル所ナシ、但シ問屋ガ荷主ヨリ貨物ヲ預リ之ニ貸金スル時ハ従来証書ヲ要セザルノ慣例多シトス
      第二条
義務者抵当ヲ以テ保証シタル負債ヲ期限ニ至リ償却セザル時ハ権利者ニ於テ、其抵当品ノ価格元金及利息ノ高ヲ踰ユルトキト云トモ其弁償トシテ其物品ヲ直チニ己ノ所有ト為スノ慣習ナリヤ、又ハ之ヲ売却シ其代価ヲ以テ元利ノ弁償ヲ得、其剰額ハ義務者ニ返スノ慣習ナリヤ
 従来貸金ニ対スル抵当物ハ期限ニ至リ其貸金ノ返済ヲ得サル時、権利者ハ其抵当品ノ価格貸金ノ元利ニ超越スル時ト云トモ之ヲ義務者ニ返サヾルノ仕来ナリシガ、現今ニ於テハ特例ノ存スル質物ノ場合ヲ除クノ外、総テ貸金ニ対スル抵当物ハ期限ニ至リ貸金ノ返済ヲ得ザルトキ、権利者ハ之ヲ売却シ元利ヲ引去リ剰額アレバ之ヲ義務者ニ返シ、不足ヲ生スレバ更ニ之ヲ要求スルヲ例トス
      第三条
 - 第17巻 p.760 -ページ画像 
義務者分散ヲ為シタル時ハ抵当ヲ有スル債主ノ外ニ先取特権ノ附着シタル者アリヤ(例ヘバ地代家賃雇人ノ給料又ハ食料供給者ノ受取ルベキ代価等ハ他ノ一般債主ニ先チ之ヲ受取ルノ慣習アリヤ)
 本条ノ如キハ全ク法律ニ依リテ支配セラルベキモノニシテ、従来特ニ定リタル慣習コレナシ、左レバ現今ニ於テ本条ノ如キ場合コレアル時ハ其先取特権ノ有無ヲ決スル事一ニ法律ノ裁定スル所ニ従フ耳
      第四条
甲商人ハ乙商人ヨリ差入レタル抵当物ヲ乙商人ノ承諾ヲ得ズシテ丙商人ニ復抵当ト為スヲ得ルヤ
 甲商人ガ乙商人ヨリ差入レタル抵当物ヲ乙商人ノ承諾ヲ得ズシテ丙商人ニ復抵当ト為スノ慣習ハ前年一般ニ成存スル所ナリ、而シテ今日ニ於テモ米・油・干鰯若クバ生糸等ノ商品ニハ之ヲ復抵当ト為スノ例多シトス
    売買ヲ媒介スル者ノ事
      第一条
問屋ト仲買人トノ業体ノ区別ハ如何
 従来ノ称ヒ来リニ拠レバ問屋ハ自ラ損益ヲ負担シ、産地ヨリ貨物ヲ直買シテ売捌ク者ト、荷主ノ委托ヲ受ケ口銭ヲ取リテ之ヲ売捌ク者トノ通称ニシテ、仲買ハ問屋ニ就キ之ヲ買入レ小売商ヘ売捌ク者ト産地ヨリ直買シテ之ヲ市場ノ問屋ニ売捌ク者トノ通称ナリ、今玆ニ米・塩・油・綿・太物ノ営業ニ就キ其問屋仲買旧来ノ規則並ニ沿革ヲ別冊ニ調査シテ以テ御参考ニ供ス、庶幾クバ亦其業体ノ区別ヲ知ルニ足ラン乎
      第二条
問屋仲買人ト公ケニ称スル者ノ外、手数料ヲ受ケ他人ノ中間ニ居テ商品ヲ売買スルノ媒介ヲ為ス者アリヤ、若シ之アル時ハ其種類ハ如何
 問屋仲買人ト公称スル者ノ外手数料ヲ受ケ他人ノ中間ニ立テ商品売買ヲ媒介スル者ハ多クコレアリ、其種類ハ米商会所・株式取引所・魚鳥会社・青物市場・古着市場・其他糶売所及一人一個ノ業ニ於テ才鳥ト称スル者是ナリ
      第三条
媒介人ハ依頼ヲ受ケタル売買ヲ為スニ自分ノ名前ヲ以テ他人ト契約ヲ為スヤ、又ハ自分ハ名代人トナリテ依頼者ノ名前ヲ以テ契約ヲ為スヤ
 通常問屋仲買ト称スル者ハ皆己レノ姓名ヲ以テ契約スルヲ例トス、然レトモ才鳥ノ如キハ時トシテハ己レノ姓名ヲ用ヰ、時トシテハ依頼者ノ姓名ヲ用ヰ従来一定ノ慣例コレナシ
      第四条
媒介人ハ売払ヲ托セラレタル商品ニ付其依頼者ニ前貸金ヲ為シ、其売払代金ニ付先取特権ヲ有シ弁償ヲ受クル事ヲ得ルヤ
 売払方ヲ托セラレタル商品ニ就キ其依頼者ニ前貸金ヲ為シタル者ハ其売払代金ニ付先取権ヲ有スル事従来一般ノ慣例ナリ
      第五条
媒介人ニ頼ラザレバ為シ得ザル売買アリヤ
 媒介人ニ頼ラザレバ為シ得ザル売買ハコレナシ、但シ媒介人ニ頼ル
 - 第17巻 p.761 -ページ画像 
ト否トニヨリ売買ノ便否コレアル耳
      第六条
商品運送方ニ付媒介人アリヤ、即チ荷主ニ代リテ船主又ハ車馬持主ト契約ヲ為ス者ノ如キ是ナリ
 海漕ニ於テハ周旋屋ト称シ運送ヲ媒介スル者アリ、而シテ別ニ廻船問屋ナル者アリテ、船主ノ代理者トナリ荷物ノ廻漕ヲ引受クル者アリ、又積問屋若クバ艀宿ト称シ、荷主ノ代理者トナリテ契約ヲ為ス者アリ、然レトモ陸運ニ於テハ別段媒介者コレナシ
    売買之事
      第一条
商事上ノ売買ハ民事上ノ売買ニ比シテ別段ノ慣習ハアラザルヤ
 商事上ノ売買ハ民事上ノ売買ニ比シテ別段ノ慣習アリ、例ヘバ糶帳ヲ以テ売買スルガ如キ或ハ仲間ノ売買ニ割引法ヲ用ユルガ如キ即チ是ナリ、而シテ其他猶商業ニヨリテハ仲間ノ売買ニ別段ノ慣習存スル事モアルベケレトモ、或ハ秘事ニ渉ルモノモアルベケレバ此等ハ一々上申シ難シ
      第二条
売買ノ約束ハ何ヲ以テ証拠トナスヤ、必ズ証書ヲ要スルト要セザルトノ差別アリヤ
 売買ノ約束ハ時トシテ証書ヲ要スル事アリ、時トシテハ全ク之ヲ要セザル事アリ、従来一定ノ慣例コレナシ
      第三条
売買ハ手付金ニ因テ其約束ノ確定不確定ヲナス事ナキヤ
 本条ニハ一定ノ極リ之ナシ、只相互ノ約束ニ依ルベキ耳
      第四条
売買契約ヲナシタル時ハ何レノ時ヨリ商品ノ所有権ハ買主ニ移転スルヤ、又何レノ時ヨリ其商品ノ損失ヲ買主ニ於テ負担ス可キモノトスルヤ
此場合ニ於テ其商品確定物(此物品ト現ニ指定シタルモノ例ヘバ此品此反物ト定ムルガ如シ)ナルトキト不確定物(前ノ反対ノ語ニシテ現ニ此物品ト指定セザルモノ例ヘバ反物幾干ト云フガ如シ)ナルトキトニ由リ区別アリヤ
 其商品ノ確定・不確定ニ拘ラズ其所有権ハ受渡スルニ非レバ買主ニ移ラズト雖トモ、相場昂低ニ就テノ損失ハ売買約束ノ時ヨリ買主之ヲ負担スルノ慣例ナリ
      第五条
商品買主ハ未ダ現品到着セズト雖トモ、売主ノ積荷目録又ハ運送状等ヲ以テ他ノ商人ニ復売スル事アリヤ
 従来商業社会ニ於テハ如此ノ慣例甚ダ多シトス
      第六条
売買約束ノ時ニ商品ノ直段ヲ定メズ引渡ノ後ニ於テ之ヲ定ムル事アリヤ、然ル時ハ如何シテ之ヲ定ムルヤ
 糶帳ヲ以テ売買スルノ場合ニ於テハ毎月十五日、若クバ三十日ニ至リ其仕払期ニ於テ相対ニテ其売買当日ノ直段ヲ定ムルアリ、或ハ又顧主ニ売渡シタル代価ヲ以テ之ヲ定ムル事アリ、又塩・五十集物等
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ノ売買ニ於テハ現品受渡以後ノ立相場ヲ以テ定ムル事アリ、又ハ仲買ナル者問屋ヨリ荷物ヲ引取ルノ際其価ヲ定メズ追テ之ヲ諸国ヘ売捌キタル直段ヲ以テ仕切ヲ為ス事、五十集物ノ売買ニ於テハ特ニ多シトス
      第七条
売買約束ノ時ニ物品引渡ノ期限、又ハ代金払入ノ期限ヲ定メザル事アリシ時ハ其引渡又ハ払入ハ何ノ時ニ為スヤ
 本条ノ場合ニ於テ物品ノ引渡ハ通例約束後直チニ之ヲ行ヒ(但運送ニ必要ナル日時ヲ除ク)代金ノ払入ハ所謂五節句若クバ東京ノ如キハ毎月十五日或ハ三十日ニ之ヲ行フヲ常トス
      第八条
借用証書・買受証書等ヲ有スル者其証書ニ裏書ヲ為シ、己レノ債主権ヲ他人ニ移転スル事アリヤ、若シ之アル時ハ其書式ハ如何ン、又其慣行ノ経験ニ因テ確認シ得タル利害ハ如何
 従来借用証書ヲ譲渡スノ慣習コレナシ、但シ明治七・八年ノ交古証文類ノ譲渡流行シタル事アリシト云トモ、是一時ノ悪風ニシテ自然ニ成立シタル仕来ニハコレナシ、而シテ本条ニ所謂買受証書即チ銀行ガ代金取立手形ト通称スル所ノモノ及為換手形ノ受授ハ商人仲間ニ於テ従来ヨリ行ハルヽ所ノ慣例ナレトモ、其書式ニハ敢テ一定ノ極ナシ、而シテ慣行ノ経験ニ因レバ毫モ其害ナクシテ大ニ商業上ニ便益ヲ与フルモノトス
 本会熟々案スルニ明治九年第九十九号ノ御布告ヲ以テ借用証書ノ譲渡ヲ禁セラレタリシガ、現今手形ノ譲渡ハ民間ニ於テ実際其例少シトセズ、抑モ今日我国ニ於テ手形ノ為ニ特ニ制定セラレタル法律ナキヲ以テ、手形ハ借用証書ノ限ニ非ズト云ハヽ可ナリト云トモ苟クモ貸借上ノ性質ヨリ其権利義務ヲ論ズル時ハ手形ト雖敢テ借用証書ト異ナル事ナシ、左レバ若シ借用証書ノ譲渡ヲ禁ズルノ法律ヲシテ併テ手形ノ譲渡ヲモ禁ズルノ精神ニ出デシメバ、私カニ玉石一火ノ嘆ナキ能ハズ、謹テ本条ヲ通読スルニ借用証書ト手形ト同視セラレザルガ如ク亦本会ノ顧慮ヲ要セザルベシト云トモ、猶今般商法御編纂ノ際最モ以テ此点ニ御注慮アラン事本会ガ切望スル所ナリ
      第九条
商業上ニ就キ用ヰル手形又ハ切手ト称スル類ハ幾種アリヤ
其手形切手官許ヲ得タルモノト私ニ発スルモノトアリヤ
 従来鰹節屋・菓子屋抔ニ於テハ其売物ニ代用スベキ切手ヲ発行スルモノアリ、近来ニ至リテハ種々ノ手形切手ノ類行ハレ已ニ東海道ニハ人力車ノ切手ヲ発行シ、又或ル地方ニ於テハ小銭払底ナルヨリ小切手ヲ発シテ流通ヲ助クルモノアリト云フ、其他此類ヲ挙クレバ数十種ニ下ラザルベシ、然レトモ本条ニ所謂手形又ハ切手ノ商業上ニ於テ必要ナル重立チタルモノヲ挙グレバ為換手形・代金取立手形・荷為換手形・割引手形・振出手形・当坐預金取付切手等ノ類ニシテ此等ハ甲乙彼此ノ間債主権ヲ移シテ流通スベキモノトス、又米商会所・株式取引所等ニ於テ証拠金ニ向テ発スル手形其他滊船会社ヨリ発スル荷物引換証書ノ如キモ亦手形ノ一種ト為スベシト雖トモ、此
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等ハ債主権ヲ移転シ得ルノ性質ヲ帯ビザルモノトス
      第十条
商事ノ負債ニ付普通ノ払期限ハ如何、其期限ノ最モ長キハ何ケ月ナリヤ、又最モ短キハ何ケ日ナルヤ
 商事上ノ負債ニ付普通ノ払期限ハ本章第七条ニ於テ粗々答申スルガ如シ、而シテ其長キモノハ所謂盆暮ヲ以テシ、短キモノハ毎月十五日及三十日ヲ以テスルヲ例トス
      第十一条
商事上ノ売買又ハ貸借ニ於テ一ノ負債ニ付数人ノ義務者アルトキハ其義務ヲ連帯シテ担当スルノ慣習アリヤ
 商事上ノ売買又ハ貸借ニ於テ一ノ負債ニ付数人ノ義務者アルトキハ其義務ヲ連帯シテ担当スルハ今日ノ慣習ニシテ、法律ニ於テモ亦然カアルベシト信ズルナリ
      第十二条
商業上ノ取引ナル語ハ売買ノ契約ヲ結フ事ヨリシテ物品及代金ヲ授受スル迄ヲ含ムカ、又ハ物品若クハ代金受渡ノ時ヲ指スカ
 商業上ノ取引ナル語ハ一物ニ就テ之ヲ云フ時ハ単ニ現品受渡ノ時ヲ指ス事アリト云トモ、亦甲乙間ニ数年行ヒ来ル売買受渡ヲ総称シテ云フノ場合モ少シトセザルナリ
      第十三条
卸売ト小売トノ区別ハ如何、又卸売商ノ種類ニヨリテハ小売者ニ売ルノ外通常人トハ直取引ヲ為サヾル者アルヤ
 卸売ト小売ノ間明著ナル区別ナシト云トモ、従来一般ノ称ヒ来リニ拠レバ卸売ハ商人ニ売卸スルノ通称ニシテ、小売ハ専ラ消費者ニ直売スルノ通称ナリ、然レトモ商売ニヨリテハ卸売商ニシテ小売ヲ兼ネ、即チ通常人ト直取引ヲ為ス者ナシトセザルナリ
    破約之事
      第一条
売買手付金流ルヽ時ハ其売買ハ破約トナルヤ
 買主ガ手付金ヲ流ガシテ売買ヲ破約シ得ルノ慣例ハコレナシ、但シ或ル場合ニ於テハ手付金ヲ流ガシテ破約スル事ナキニ非サレトモ、是皆売主ノ勘弁ニヨルモノニシテ従来ノ慣行ニ非ルナリ
      第二条
違約金ノ約束ニ其額ヲ定メザリシトキハ違約ノ場合ニ臨ミ何ヲ以テ之ヲ定ムルヤ
 違約金ノ約束ニ其金額ヲ定メザル事ハ本会嘗テ実際ニ其例アルヲ見ザルナリ
      第三条
約束ノ期限ヲ過グルモ売主物品ヲ引渡タサヾルカ、又ハ買主之ヲ引取ラザル時ハ其売買ハ破約トナルヤ、又ハ尚ホ成立ツヤ
 本条ノ如キ場合ニ際シテハ仮令双方共一方ニ向テ必ズ其約束ノ履行ヲ求ムルヲ得ベシトハ云ヘ、従来商業上ニ於テハ破約トナル事一般ノ慣例ナリトス
    売主之事
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      第一条
約束ニ物品ノ性質品位等ヲ詳細ニ定メ置カザリシトキハ、其引渡ニ売主ハ何等ノ品柄ヲ以テスルヤ
 従来ノ慣行ニ拠レバ商品売買ニ其性質品位等ヲ定メザルノ場合ハ全ク実際ニコレナシトス
      第二条
買主、見本又ハ本品ヲ撿閲ノ上買入レントノ申込ヲ為シ、売主之ヲ承諾シタル時ハ、其撿閲ヲ経ザル内ニ勝手ニ其品ヲ他ニ売ル事ヲ得ザルヤ
 未ダ其売買ヲ約束セザルノ前ニ在リテハ之ヲ他ニ売渡スハ商家ノ常ニシテ所謂売主ノ勝手ト云フガ如シ
      第三条
買主、違約ヲ為シタル時、手付金ヲ流スニ於テハ、売主ハ別ニ償金等ヲ求ムルヲ得ザルヤ
 或ル場合ニ於テハ買主ハ破約ノ時其差入レ置キタル手付金ヲ流スノミニテ止ムヲ例トス、然レトモ時トシテハ売主ハ手付金ノミニテ満足セザル場合モ亦実際ニ之ナシトセズ
      第四条
売品ハ其用方ニ供スルニ不良ノ所ナキトノ請合ハ自ラ売主ニ存スルモノナルヤ、又別段其約束アル時ニ限ルヤ
 通常商品ノ品位ハ其品名ニ相当スル丈ハ売主之ヲ請合ヲ例トス、但シ其用方等精確ノ請合ハ別段ノ約束アルニ非ザレバ売主之レヲ為サザルヲ例トス
      第五条
売主、己レニ所有権ナキ物品(例ヘバ盗贓品ノ如シ)ヲ売リタル時ハ其売買ハ成立ツヤ
 本条ニ所謂盗贓品ノ如ク己レニ所有権ナキ物品ヲ売リタル時ハ、商人間ニ於テハ其売買ハ決シテ成立タザルノ慣例ニコレアリ、蓋シ法律上ニ於テモ亦其然ルベキヲ信ズルナリ
    買主ノ事
      第一条
見本ヲ以テ定メタル売買ナルニ現品ヲ受取ルニ及ンテ見本ト異ナリタル時ハ、買主ハ何時ニテモ之ヲ取替ヘ又ハ破約スル事ヲ得ルヤ
 売主ヨリ見本ト異ナリタル商品ヲ渡ス場合ニ於テハ何時ニテモ之ヲ取替ヘ又ハ破約スル事ヲ得ルハ買主ニ属スル権利ニシテ、売主ニ於テハ之ヲ拒ム事能ハザルノ慣行ナリ
      第二条
買主、確定物ヲ買ハント売主ニ申込ミ、未ダ其返答ヲ得ザル内ニ其売主ニ断リナク他ヨリ之ヲ買取リ、追テ前ノ売主ニ断リヲ為ス事ヲ得ルヤ
 本条ノ場合ニ於テ双方売買ヲ確実ニ約定セザル限リハ、買主ハ売主ニ断リナク他ヨリ之ヲ買取リ追テ断リヲ為ス事ヲ得ルモノトス
      第三条
買主代金払約束ノ期日ヨリ延引シタル時ハ利息ヲ生ズルヤ、然ル時ハ
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何レノ時ヨリ計算スルヤ
 相対格別ノ約束アルニ非ザレバ利息ヲ生ズル事コレナシ
      第四条
売主ニテ請合タル品若シ不良ノ所アリシ時ハ、買主ハ何時ニテモ之ヲ取替ヘ又ハ破約スル事ヲ得ルヤ
 本条ノ場合ニ於テハ本章第一条ニ答申スルガ如ク買主ニ於テ之ヲ取換又ハ破約スルヲ得ルモノトス
    運送之事
      第一条
運送ニハ必ズ物品到着ノ期限ヲ定ムルヤ、若シ然ル時ハ運送人ノ責任如何、又之ヲ定メザル時ハ其責任如何
 通常運送ニハ水陸トモ到着期限ヲ定メズ、随テ運送人ニハ責任コレナシ、但シ或ル場合ニ於テハ運賃割増ヲ以テ別段ニ到着期限ヲ約定スル事アリ、而シテ此ノ場合ニ於テハ期限内ニ到着セザル時ハ只割増運賃ヲ給セズシテ止ムヲ例トス
      第二条
運送船已ムヲ得ザル事由アリテ途中ニテ他ノ船ニ積替ヘ運送シタル時ハ、後ノ船ノ義務ハ如何
 難破等ノ場合ヲ除キ運送船ノ途中ニテ載貨ヲ他船ニ積替ユル場合ニ於テハ、後ノ船ノ義務ハ全ク前ノ船ト同様ナルモノトス
      第三条
到着ノ物品ヲ買主ニテ受取ル事ヲ拒ムニ際シ、売主又ハ運送人其場ニ居合ハサヾル時ハ其物品ハ如何処置スルヤ
 到着ノ物品ヲ買主ニ於テ受取ル事ヲ拒ムニ際シ、売主又ハ運送人其場ニ居合ハサヾル時ハ荷預リ問屋ニ於テ先ツ之ヲ保護シ、其事由ヲ売主ニ通シ其返答ヲ待テ之ヲ処分スルヲ例トス


東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 四(DK170057k-0012)
第17巻 p.765-783 ページ画像

東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 四
                   (東京商工会議所所蔵)
米・塩・油・木綿問屋仲買沿革並ニ申合規則別冊之通取調候間此段上申仕候也
  十四年十一月              東京商法会議所
  太政官
    法制部
      御中
(別紙)
    米穀問屋仲買之事
米穀商業ハ古来ヨリ問屋・仲買・小売之組織アリ、皆株式ヲ擁シ、各人随意ニ之ヲ営ム事能ハザルハ勿論仲間ノ承諾ヲ経サレバ此三業中二業ヲ兼営スル事能ハサルノ制ナリ、而シテ旧記ヲ案ズルニ、旧江戸ノ頃問屋ニ上方米問屋・関東奥州筋三組問屋(即チ地廻リ米問屋之義ナリ)ノ二種アリ、初メ産地ヨリ米穀ヲ市場ニ運出スル時ハ必ズ先ツ此等ノ問屋ノ手ニ達シ(関西地方ヨリ運出スル米穀ハ上方米問屋之ヲ扱ヒ、関東並奥州筋ヨリ運出スル米穀ハ地廻リ米問屋之ヲ扱フ)然シテ後米河岸八町(解後ニ出ヅ)ノ仲買商ハ米穀ヲ此等ノ問屋ヨリ
 - 第17巻 p.766 -ページ画像 
買受テ、復タ之ヲ脇店十二ケ所(解後ニ出ツ)並ニ江戸中玄米屋及小売商ヘ売却スルモノトス、今米穀ノ初メ問屋ノ手ヲ経、終ニ消費者ノ手ニ達スル迄ノ順序ヲ示ス時ハ即チ左図ノ如シ
上方米問屋九軒
 ○甲圏中ハ上方米問屋三組米穀問屋ノ住スル所ナリ、所謂三組トハ堀組・上総組・新組ノ謂ニシテ、堀江町・小網町・小舟町ヲ三組問屋三町ト称ス
 ○乙圏中ハ川岸八町米仲買商ノ住スル所ナリ、八町トハ本舟町・長屋町・八軒町・上伊勢町・下伊勢町・堀留町・小舟町・小網町一丁目即チ是ナリ
 ○丙圏中ハ脇店十二ケ所米屋共ノ住スル所ナリ、蓋シ旧時ハ鎌倉町飯田町・白銀町・大伝馬塩町・神田旅籠町・湯島町・浅草御蔵前同駒形町・芝口町・三十間堀町・水谷町・数奇屋町ノ十二ケ所アリシガ、後組合減シテ八町トナリ、終ニ又減シテ神田湯島町・鎌倉町・飯田町・芝口町・三十間堀町・数奇屋町ノ六町トハナリタリ
 ○圏外ハ川辺米屋共ノ住スル所ナリ、蓋シ川辺トハ神田川辺・浅草花川戸・本所竪川通・霊岸島町・亀島町・芝口辺ヲ謂フナリ
然ルニ維新ノ際諸問屋株式ノ制全ク崩解シ、売買各人ノ自由トナリタルヨリ商売上在来ノ分業攪乱シ、市価其常度ヲ失シ、製産者並ニ消費者ノ不便亦不少、終ニ明治十三年三月同業有志者協議シテ米穀三業会社ヲ創立シ、即チ規約書ヲ作クリ、復タ其売買ヲ検束スル事トハナリタリ、蓋シ此組織方ハ稍々旧制ヲ折衷参酌シタルモノニシテ、現今米商ノ仍テ以テ営業スル所ノモノナリ、而シテ是規約書ノ如キハ別ニ之ヲ上呈スベシ

    廻船下リ塩問屋同仲買営業鑑札御下附願
                廻船下リ塩問屋
                 日本橋区北新堀町十四番地喜多村富之助下総住宅ニ付
                  出店主 榎本小兵衛
                 同区同町七番地
                      東条与三兵衛
                 同区堀江町壱丁目壱番地
                      清水九兵衛
                 京橋区南新堀町弐丁目弐番地
                      今木藤兵衛
 - 第17巻 p.767 -ページ画像 
                同仲買
                 日本橋区北新堀町三番地
                      遠山市郎兵衛
                 同区小網町三丁目廿七番地浜口吉右衛門紀州住宅ニ付
                  出店主 浜口仁兵衛
                同区箱崎町二丁目三番地
                     遠藤万助
                同区小網町三丁目十七番地
                     鈴木茂兵衛
                同区同町二丁目九番地
                     清水嘉兵衛
                同区同町三丁目二番地
                     藤井平助
                同区同町二丁目十三番地
                     前橋九兵衛
                同区本船町十四番地
                     村井嘉右衛門
                深川区西大工町四十八番地
                     小野沢幸三郎
                日本橋区箱崎町壱丁目一番地
                     山本幸七
右廻船下リ塩問屋同仲買一同奉上申候、私共従来播摩国赤穂塩ヲ初メ備前・備中・備後・安芸・周防・阿波・讃岐・伊予右国々ヨリ出産之塩下リ塩ト唱、一般取扱営業相続罷在候処、追々営業懶惰ニ押移リ、人民片時モ不可欠之物品活物トハ乍申業体更ニ一定不仕、各自之永続目的ヲ失ヒ一同痛心苦慮仕、今般集会協議之上更ニ一層勉励仕売直段不公平ナク各人民之弁利ヲ得セシメ、同業和熟親睦シ今新ニ規約ヲ確定シ隆盛ニ致サン事ヲ冀望シ、府内輸入出等ヲ計算シ以テ営業取締之タメ諸国廻船下リ塩問屋同仲買営業鑑札御下附組合之儀御許可被成下度、則別紙規約書相添奉懇願候
   明治十二年一月       右廻船下リ塩問屋
                 喜多村富之助出店主
                    榎本小兵衛
                    東条与三兵衛
                    今木藤兵衛
                    清水九兵衛
                       〆四名
               同仲買
                    遠山市郎兵衛
               同浜口吉右衛門出店主
                    浜口仁兵衛
               同
                    遠藤万助
               同
                    鈴木茂兵衛
               同
                    清水嘉兵衛
               同
                    藤井平助
               同
 - 第17巻 p.768 -ページ画像 
                      前橋久兵衛
                 同
                      村井嘉右衛門
                 同
                      小野沢幸三郎
                 同
                      山本幸七
                       〆拾名
    東京府知事 楠本正隆殿
右出願ニ付奥印候也
  明治十二年二月三日       京橋区長江塚庸謨代理
                   書記 島崎義喬
                  日本橋区長館興敬代理
                   書記 吉川平哲
                  深川区長
                      大木良房
 第九百七十四号
 書面情願之趣聞届候事
   但鑑札之儀ハ追テ下渡候事
  明治十二年二月十日      東京府知事 楠木正隆

   廻船下リ塩問屋業則
    第一条
一御法律は勿論時々御布告之趣堅ク相守可申事
    第二条
一問屋組合各自営業之基ヲ規約確定之上は頭取年番壱名撰挙上申致置可申事
  附リ新規加入亦は休業共一同協議之上懇切ニ取扱可申事
    第三条
一下リ塩廻船入津之節問屋銘々年番方エ相届ケ入船之順番相定置候事
附 品海ヨリ荷物瀬取之儀入船順ヲ以船明之定
    尤商事之時宜ニ寄商内順モ有之候事
    第四条
一商内方之儀は問屋方江仲買立合次第入船の順番ヲ以日毎午前九時ヨリ直段取組相場落合不申共正午限リ市引可申候、尤船間乗致入船有之節は不限何時仲買両三名ニテモ出頭次第直組可致事
  附 入船分不残俵員惣仲間ニ割付候は手板商内ト相唱候事
    数艘入船の節先船ヨリ一艘毎入用丈ケ直組致スヲ売行商内ト相唱候事
    第五条
一問屋ヨリ仲買江買受候後艮時ニ直段如何程高下致候共変替不相成事
    第六条
一塩荷物取切リ水揚次第俵員相改メ代金相渡可申候、尤為手数料金高百分之五同屋方江受取右之内半数仲買方江相分ケ営業相続致候事《(問カ)》
  附 本文手数料ヲ見込足シ商内相互ニ有間敷事
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    月三度運金之分手数料金高百分ノ五ノ内壱分六厘六毛六糸相分候事
    第七条
一組合塩問屋ニテハ仲買之外他江販売一切致間敷事
    第八条
一該組合永続ノタメ各身元金トシテ金五百円宛出金イタシ、四名合金弐千円也第一国立銀行江預クヘシ、漸次ニ利金ヲ増加シ組合一同永久之基礎取斗可申事
  但 自己ノ都合ヲ以廃業等ヲ為ストキハ元利計算返却スヘシ、猶非常の災害等ニテ破業ニ至ル時ハ一同協議の上有金額之内ヲ以相続方取斗可申事

    下リ塩仲買業則
    第一条
一前書廻船下リ塩問屋業則相違無之事
  附 仲買ニテモ年番頭取壱名副頭取壱名組内ニテ撰挙上申致置可申事
    第二条
一諸塩売捌方之儀は時相場ヲ以仲間一同廉直無不公平販売可致候、尤買附為手数料金壱円ニ付金壱銭宛受取可申事
  但 口銭ヲ見込足シ、商内致候者ヨリ自然直段不公平ヲ生シ、破産之基ト相成候ニ付各注意可有之候、尤荒高下の節は此限ニアラス
    第三条
一諸塩売渡荷物高瀬船江相渡候節、船積問屋立合貫目相改積渡候後、目欠有之候共可為損買主候事
  附 万一難破船之災害有之候共是又可為損買主事
    第四条
一諸塩販売者総テ現金取引可致事
  附 不得止事情ニテ貸商内致自然代金差滞候仁は仲買一同張紙ニ差出置候事
    第五条
一廻船塩荷物は仲買ニテ直ニ引請一切致間鋪事
    第六条
一該組合永続ノタメ各身元金トシテ金三百円宛出金イタシ、拾名合金三千円也第一国立銀行江預クヘシ、漸次ニ利金ヲ増加シ組合一同永久ノ基礎取斗可申事
  但 自己ノ都合ヲ以廃業等ヲ為ストキハ元利計算返却スヘシ、猶自然非常之災害ニテ破業ニ至ル時は一同協議之上右金額の内ヲ以相続方取斗可申事
右之条々廻船下リ塩問屋同仲買一同集会協議の上規約確定仕、猶良則固有シ可奉上申候、然ル上は右業則違犯致スニオイテハ、一同協議之上鑑札返納之儀上申仕、組合退除各互ニ異論有間敷、為後証規約書如件
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                廻船下リ塩問屋
                 喜多村富之助出店主
                 〃     榎本小兵衛
                 〃     東条与三兵衛
                 〃     今木東兵衛
                 〃     清水九兵衛
                         〆四名
                廻船下リ塩問屋加入
                 京橋区南新堀二丁目壱番地
                       尾崎嘉兵衛
                 深川区佐賀町壱丁目十四番地
                       松本信太郎
                同仲買
                       遠山市郎兵衛
                 浜口吉右衛門出店主
                       浜口仁兵衛
                       遠藤万助
                       鈴木茂兵衛
                       清水嘉兵衛
                       藤井平助
                       前橋久兵衛
                       村井嘉右衛門
                       小野沢幸三郎
                       山本幸七
                同仲買加入
                 日本橋区本船町十七番地
                       島金兵衛
                 京橋区東港町壱丁目十番地
                       大村五左衛門
                 日本橋区北新堀町十一番地
                       榎本八蔵
                 同区南茅場町十二番地
                       樋口新吾
                 同区小網町三丁目廿四番地
                       岩崎儀兵衛
東京油問屋油仲買油小売商従来区別之事
一油問屋ハ油産出之地方より其時之相場ヲ引合買入、又ハ産出地方同業者或ハ絞リ油屋より送リ荷物ヲ引受ケ、該荷物差直有之モノハ其直段出合次第仲買人エ売渡、又差直無之其時ノ相場ヲ以テ売捌キ、依頼之分ハ当時相当之相場ヲ以売捌キ、何レも売捌代金高之内口銭トシテ三歩ヲ請取、尤送荷物之外産地ニテ直段取極メ仕入之分ハ口銭ヲ要セス
一仲買人ハ油産出地方より直仕入又ハ送リ荷物ヲ引受ル事能ハス、又油問屋之外ヘハ各地同業者ヨリ送荷物等一切無之候
一油小売商之者ハ仲買人ヨリ荷物買取問屋より直買不仕、尤問屋ニテ小売或ハ仲買兼業之向も有之候得共、必ス小売油屋ハ油問屋より直買出
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来サル従来之慣習ニ有之、且往古ヨリ水油売買所設立有之、隔日右売買所ヘ問屋仲買限立会相場糶合売買仕、則チ此ノ売買所ニテ売買スル直段平均ヲ以時ノ小売相場ヲ相定メ候、油問屋油仲買之外右売買所ヘ立会売買難出来慣習ニ有之候
右之通ニ付問屋仲買小売之区別判然罷在候
    但石油ハ此ノ限ニ無之候

    綿問屋之事
一東京ニ綿問屋有之候得共、同仲買商無之、問屋ハ綿産出地方ヘ引合荷物買取又ハ偶々送荷物有之、此送リ荷物ニ限リ仕切金高之内弐歩口銭領収ス、且問屋ヨリ各地方ヘ卸売致シ、又ハ自分ニテ小売兼業仕候慣習ニテ、問屋営業外之モノ産地ヨリ直買又ハ送荷物等引受候慣習無之候

    大伝馬町木綿店履歴
一慶長年間常盤橋内ヘ宅地ヲ賜リ木綿売買営業ヲ創ム
一元和年間今ノ大伝馬町一丁目ヘ替地ヲ賜リ、寛永三年同地ニ於テ開業シ始テ木綿問屋ノ株ヲ免許セラル
一貞享年間諸国産木綿類ノ専買ヲ大伝馬町木綿問屋ニ特許セラレ、無株者ノ産地直買ヲ禁ゼラル
一永《(元)》禄九年大坂回船菱垣《ヒガキ》船積仲間十組ト定ル
一宝永二年町奉行坪内能登守殿木綿問屋株式ヲ改定セラル
一享保年間船積十組中紛議ヲ生シ両派ニ分ル
一元文年間両派熟議調ヒ合併シテ菱垣船トナル
一宝暦年間問屋類似ノ者多キニヨリ町奉行所ニ訴ヘ無株者ノ直仕入ヲ禁止セラレン事ヲ出願ス、奉行依田越前守殿之ヲ審糺ノ上更ニ他住者十八名ニ木綿問屋ヲ許可ス、之ヲ白子組ト称ス、於玆木綿問屋両分シテ伝馬町組・白子組ト称ス
一文化年間無株直仕入ヲナスモノ有リ、奉行所ニテ審糺ノ上伝馬町組ヘ加入ヲ許ス、依之伝馬町ヘ出店スルモノ六名皆組ニ編入シテ営業セリ
一十組ト唱フル船積問屋ハ都テ六十四組有テ年々冥加金壱万弐百円ヲ上納ス、復木綿問屋両組ヨリ同断金弐千円ツヽヲ上納ス
一天保十二年冥加金上納ヲ廃止セラル
一同年閣老水野越前守殿諸問屋株式ヲ廃セラル
一嘉永四年町奉行遠山左衛門殿諸問屋株式ヲ再興セラレシモ幾程モナク廃セラル
一安政年間町奉行井戸対馬守殿諸問屋株式ヲ興サレ総テ旧格ニ復ス
一明治元年諸株式廃セラレテヨリ問屋ノ名称無シト雖モ、従来同業者共同シテ仲間規則ヲ定メ肝煎二名ヲ選ミ両期交代ニ公私ノ事務ヲ弁理セラル
一同十二年三月勧業課ヨリ当組合ノ履歴及ビ取扱フ諸国産木綿等ノ御尋問ニ付取調書ヲ呈ス
一同十二年十二月両組総代大村和吉郎ヲ以木綿問屋組合設立ノ願書別
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紙ノ如ク府庁ヘ差出シ、同十三年二月朱書ノ如ク指令セラル、依之組合ヲ設ケ大伝馬町二丁目廿四番地ヘ集会所ヲ設ケ事務ヲ弁理ス
  ○日本橋区
  通壱丁目八番地         頭取  大村和吉郎
木 駿河町七番地          副頭取 三越得右衛門
綿 本町四丁目十九番地       取締  柏原孫左衛門
呉 大伝馬町壱丁目十四番地     取締  長谷川次郎兵衛
服 同町廿三番地          取締  田中次郎左衛門
問 通油町十六番地         取締  阪江吉右衛門
屋 堀留町弐丁目二番地       取締  小林吟次郎
之 通旅籠町七番地         取締  下村正右衛門
部 本石町四丁目廿三番地          杉浦三郎兵衛
  長谷川町二十六番地           村越庄左衛門
  本石町二丁目十三番地          森五郎兵衛
  元浜町八番地              菊池長四郎
  新大坂町五番地             外村宇兵衛
  大伝馬町壱丁目二番地          小津清左衛門
  大伝馬町壱丁目十番地          長谷川次郎兵衛
  大伝馬町壱丁目十五番地         長井九郎左衛門
  大伝馬町壱丁目十五番地         長井惣兵衛
  大伝馬町壱丁目十七番地         川喜田久太夫
  大伝馬町壱丁目十八番地         長谷川六郎次
  大伝馬町一丁目十八番地         長谷川武右衛門
  大伝馬町一丁目廿四番地         吉田丹兵衛
  本町二丁目十七番地           田中四郎左衛門
  本町二丁目十四番地           田中三四郎
  通油町四番地              辻新兵衛
  富沢町十五番地             大久保源兵衛
  元浜町十番地              奥田藤八
  長谷川町九番地             柴田忠兵衛
  大伝馬町一丁目廿一番地         久須木七左衛門
  村松町十七番地             中川喜三郎
  馬喰町二丁目十一番地          橋本喜左衛門
  本石町四丁目五番地           上田利兵衛
  新大坂町九番地             佐久間嘉七
  長谷川町十番地             平岩佐吉
  堀江町三丁目三番地           関根かね
  本町一丁目十三番地           水島三右衛門
  本町二丁目十七番地           駒井七兵衛
  富沢町四番地              藤居甚兵衛
  大伝馬町一丁目六番地          伊藤利助
  大伝馬町一丁目廿番地          丸山藤助
  富沢町六番地              外村与左衛門
  室町一丁目九番地            大鐘善蔵
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  久松町十四番地             小高清兵衛
  長谷川町六番地             建石三蔵
  新大坂町四番地             中村吉兵衛
  元浜町九番地              外山弥助
  横山町一丁目十八番地          丸山伝兵衛
  本船町廿五番地             植村和吉
  橘町一丁目九番地            中村磯八
  通旅籠町十四番地            堀越角次郎
  通油町十八番地             竹村嘉之輔
  元浜町七番地              内田庄兵衛
  橘町二丁目八番地            大塚宗七
  富沢町十番地              菊池次郎兵衛
  橘町二丁目七番地            野口幸吉
  伊勢町五番地              野本八郎兵衛
  本材木町一丁目十番地          村越徳太郎
  本町四丁目十二番地           野田林兵衛
  本町四丁目十二番地           武島伊兵衛
  田所町廿五番地             深田清八
  伊勢町八番地              野本茂兵衛
  橘町一丁目五番地            成沢善兵衛
  元浜町六番地              青木勘兵衛
  橘町一丁目三番地            石川もと
  大伝馬町二丁目十二番地         菊本市兵衛
  本町一丁目十二番地           小野里喜左衛門
  通塩町十三番地             岡本卯兵衛
  富沢町十九番地             前川太郎兵衛
  元浜町十二番地             新井半兵衛
  本石町二丁目十五番地          桂藤左衛門
  小網町二丁目五番地           植草甚助
  伊勢町八番地              塚本定次郎
  同町四番地               塚本くの
  堀留町二丁目十九番地          山下忠七郎
  堺町一番地               高松伊輔
  堀江町一丁目六番地           奥川利平
  長谷川町十二番地            滝川松兵衛
  伊勢町七番地              森孝輔
  本船町廿三番地             野本豊吉
  長谷川町十五番地            松本太兵衛
  新大坂町四番地             宮田幸兵衛
  元浜町十一番地             奥田小三郎
  長谷川町九番地             中村与吉
  長谷川町二番地             秋本市兵衛
  新大坂町一番地             槙島祐八
  大伝馬町一番地             山口富蔵
 - 第17巻 p.774 -ページ画像 
  通油町三番地              小泉久次郎
  小網町四丁目三番地           衣川房太郎
  橘町二丁目五番地            新良清兵衛
  橘丁二丁目三番地《(町)》        町田直次郎
  高砂町八番地              津田与右衛門
  新大坂町十番地             池上弥右衛門
  富沢町一番地              横山五兵衛
  長谷川町十四番地            山下忠七郎
  橘町一丁目八番地            中村治平
  横山町一丁目十一番地          根本すゝ
  ○麹町区
  麹町七丁目九番地            加太八兵衛
  麹町五丁目二番地            岩城九右衛門
  ○下谷区
  下谷上野町一丁目一番地         伊藤利兵衛
  ○小石川区
  小日向水道町十六番地          丸山平助
  ○麻布区
  飯倉町二丁目十七番地          森田勘兵衛
  ○芝区
  松本町九番地              宮沢治平

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   東京木綿呉服問屋組合規則 全   



                   東京府下木綿呉服問屋頭取元締之印
    東京木綿呉服問屋組合設立願
倩ラ現今ノ実況ヲ考察仕候ニ世ノ万緒万端ノ改良ニ進ムハ実ニ迅速ノ度ヲ占メタル者ト云フヘシ、就中其第一緊要ナル商法上ニ至リテモ赤輙改良《(亦)》ニ趣ムクカ如シト雖モ、独リ其各国貿易ノ際常ニ我邦輸入超過ノ莫大ナルハ到底之ヲ予防スルヲ以テ急務ト為サヽルヘカラサル儀ト奉存候、而シテ其常ニ超過シタル源因ノ最大ナル部分ヲ占メタルモノハ概シテ木綿呉服類ニ及フモノハ無カルヘシ、然ラハ則此木綿呉服類ノ輸入ヲ除却スルヲ以テ今日ノ一大急務ナリト奉存候
抑モ我邦ノ木綿呉服類ニテ内国一般ノ需用ニ応スルニ足ラサル道理アラサレハ我木綿呉服商ヲシテ互ニ同心協力以テ之ヲ繁盛ナラシムレハ自然西洋舶載ヲ仰クニ及ハサルニ至ルヤ必セリ、然ルトキハ我邦ノ一大患タル輸入超過ノ一大部分ヲモ除却スルヲ得ルハ蓋必然ノ理ト奉存候、然ラハ則我国ノ木綿呉服商タルモノ豈奮発激励以テ其業ニ従事セスンハアルヘカラサルナリ、因テ今般私共乃木綿呉服商集会協議仕候処終ニ懇望止ム能ハサル者ハ則問屋組合設立ノ儀也、何卒私共ヲシテ之レヲ御許可下サレ候ハヽ為ニ人民ノ便利ヲ増シ我商運ヲシテ繁盛ナラシムルモ敢テ得カタシト云フヘカラサルナリ、且近来我木綿呉服類ヲ販売ナスモノ、其品質ノ良否ヲモ撰ハス、其尺巾ノ長短ヲモ一定セス、猥リニ一己ノ利潤ヲ貪ラントシ、終ニ各人ノ不信用ヲ増セシノミ
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ナラス随テ我木綿呉服類ヲ厭棄スルノ情態アルニ至ラシメハ、職トシテ是レ売買取引ノ不実不正ニシテ之レカ取締ヲ為スモノナキニ由ルモノナレハ、今問屋組合設立ヲ以テ之レカ弊害ヲ除却スルヲ得ハ亦以テ各人民ノ一大幸福ヲ得ルニ至ラント奉存候
且我木綿呉服類ノ如キハ之ヲ西洋舶載ノモノト比較スルニ其質ノ強弱相違アルハ既ニ世人ノ知ル所ナレハ、追々我木綿呉服類ヲ盛大ニシ之レヲ廉価ニ売捌カハ世人ノ我木綿呉服類ヲ求メテ西洋舶載ヲ仰クニ及ハサルニ至ルハ是又必然ノ理ト奉存候、然ルトキハ前述ノ如ク輸入超過ノ一大部分ヲ占メタルモノモ除却スルヲ得ルハ云フヲ待タサル所ニシテ、其木綿呉服商即チ私共ノ如キモ亦 皇恩万分ノ一ヲ報スルニ至ランカト奉存候、因テ私共ヲシテ木綿呉服問屋組合設立ノ儀ヲ御許可被下度偏ニ奉懇願候、将其組合ノ規則タルヤ至公至平ニシテ少シモ偏頗ノ弊害ナカラン事ヲ希望仕候ニ付、則別冊規則書相添此段上申仕候也
                木綿呉服問屋
                 頭取
                 日本橋区通壱丁目八番地
  明治十二年十二月            大村和吉郎
    東京府知事 楠本正隆殿

 前書之通出願ニ付奥印候也
               東京府日本橋区長 館興敬
第千三百三十八号《(朱書)》
 書面情願之趣聞置候事
  明治十三年二月十日
                  東京府知事 松田道之
    東京木綿呉服問屋組合設立願
一                                      私共同業
先般木綿呉服問屋組合設立ノ儀出願仕候処、規約書中第一章第八条第二章第八九条不都合ノ廉今般御口達ノ趣奉謹承候、依テ右三ケ条別冊之通訂正仕候間前願之通御聞届被成下度此段更ニ奉懇願候也
                    右頭取
  明治十三年二月             大村和吉郎
    東京府知事 松田道之殿

    東京木綿呉服問屋組合規則
  第壱章
    第壱条
木綿呉服問屋組合ノ者ハ 皇国一般産出ノ木綿呉服類当地ヘ廻着スル物ヲ引受其売捌ヲナシ、又ハ廻着ノ物品ヲ買入各人ノ需用ニ応シ之ヲ積送リ各自利便ニ任セ卸売営業ナス者ヲ問屋トス、最モ問屋ニシテ小売ヲ兼ルモ妨ケナシ
    第二条
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当組合ノ者ハ府庁ニ願ヒ各自組合鑑札ヲ受ク可シ
    第三条
組合中互ノ投票ヲ以テ頭取一名、副頭取一名、取締六名撰挙スヘシ
    第四条
組合集議ノ場所大伝馬町二丁目二十四番地ニ設ケ之ヲ木綿呉服問屋集会所トス
    第五条
組合中新加入・休止・業代換・転住其他商業上ニ関シ、官府エ差出ス諸願伺届等ノ文書ハ、必ス頭取副頭取或ハ取締ノ奥印ヲナスモノトス
    第六条
組合ニ於テハ輸入輸出ノ貨物ノ数ヲ六ケ月毎ニ各自取調、翌月(一月七月)十五日迄ニ集会所取締ヘ報告シ、頭取副頭取ヨリ府庁ヘ上申スヘシ
    第七条
組合タルモノハ世上ノ信用ヲ厚クセンカ為メ、且規則ヲ確守スルノ証トシテ信認金ト称シ左ノ如ク積金ヲナス可シ、而シテ該金額ハ協議ノ決ヲ取リ公債証書或ハ信用スヘキ国立銀行ニ預ケ置、利子ヲ以テ集会所ノ諸費ヲ仕払、除金アルトキハ積置モノトス
 但シ往々止業者或ハ事故アリテ仲間ヲ除名スル者アルトキハ該信認金ノ元金ノミヲ返却ス
     第壱等             金弐百円
     第二等             金百五十円
     第三等             金百円
    第八条
信認金ノ額数ハ前条ノ如クト雖モ仲間中ノ会議ニ附シ各々権ヲ有スル事信認金ノ等級ニ応シ其分限アルモノト定ム
    第九条
組合中ヘ売買スル物品代価ハ凡テ三十日限リ払渡スモノトス
 但シ組合外ヘ販買《(売)》ナス物品代価ハ即日タルハ勿論ナリト雖トモ格別ニ信用ヲ得タル間柄ノ者ハ此限ニ非ズ
    第拾条
京阪尾三勢及ヒ其他産出ノ地ヨリ当組合ヘ物品輸送スル者ハ、当組合エ定約ヲ結ヒ、信用ヲ得タル者ヲ当組合買継ト唱ヘ、互ニ懇切ヲ主トシ府下輸入品ノ増加セン事ヲ勉ムベシ、若シ不信義ノ所業ヲナスモノハ集議ノ上除名シ、一般取引ヲナスベカラズ
 但シ新ニ買継営業ヲ望ム者アルトキハ組合一同協議ノ上諾否決スベシ
    第拾壱条
組合ニ於テ諸国買継ヘ物品代金渡方ヲ怠リ、或ハ売先ヘ対シ不信義ノ所業ヲナスモノハ見聞ノ儘頭取・副頭取ヘ申告スヘシ、頭取ニ於テハ篤ト之レヲ聞糺シ、猶時宜ニ依リ組合ヲ除名スル事モアルヘシ
    第拾二条
諸国買継、並売先若シ組合ニ於テ貸金亦ハ差引不決算ノ儘其償却示談ノ局ヲ結ハスシテ組合中ヘ取引ヲ申出ル者アルトモ、組合ニ於テハ其買継並売先トモ取引ヲ為サヽルモノトス
 - 第17巻 p.777 -ページ画像 
 但シ其人名ハ被害者ヨリ取締ヘ報告スベシ
    第拾三条
組合中ニ於テ取扱フ所ノ木綿呉服類ハ、其産出ノ地ト品質ノ上下ニ依リ尺巾一定シ難キモノナレトモ、通常一定ノ規ニ不足スルモノハ之ヲ売買ナスベカラス
 但シ諸国買継ノ者ニ対シ当組合ヨリ厳重ニ契約ヲ結フヘシ、然ルニ其買継ニテ右尺巾通常一定ノ規ニ不足スル品ヲ積送ル節ハ、相当ノ違約金ヲ出サシメ猶時宜ニ依リ取引ヲナサヽル事モアルヘシ
    第拾四条
当組合ニ於テ取引スル諸国買継ハ当組合外ノ者ヘ直ニ荷物ヲ積送ル事ヲ為サヽル契約ヲ結ブヘシ、若シ此契約ニ違フ者アルトキハ当組合ニ於テ一切取引ヲ為サヽルモノトス
    第拾五条
組合中事故アリテ止業スル者アルトキハ頭取ヨリ組合中ヘ通知シ、差閊ナキニ於テハ信認金ヲ差戻シ之ヲ除名スベシ
    第拾六条
組合ニ於テハ一名ノ鑑札ヲ以テ出店ト唱ヘ、別戸分店スルヲ禁ス、亦親族ノ者ト雖モ鑑札貸渡ス事ヲ禁ス、若シ二三男或ハ傭人等ヲシテ分店セシメ同業ヲ営マシメント欲スル者ハ更ニ鑑札ヲ受ケ、相当ノ信認金ヲ積立ル事トス
    第拾七条
組合ニ加入セント欲スルモノハ、組合協議ノ上故障ナキニ於テハ何人タリトモ加入セシムヘシ
    第拾八条
組合規則ニ背ク者アルトキハ成ルヘク丈ケ之ヲ説諭改心セシムベシ、而シテ猶改心セサルニ於テハ該事由ヲ取締ヘ申告スベシ
    第拾九条
凡組合ニ於テ規則ニ背キ、或ハ一般ノ信用ヲ害スベキ不信義ノ所業ヲナス者アルトキハ集議ノ上其事柄ノ軽重ニ応シ相当ノ違約金ヲ出サシメ、最モ右違約ヨリ生シタル損害等有之節ハ信認金ヲ以テ之レヲ弁セシメ、猶時宜ニ依リ組合ヲ除名シ、一同取引ヲナサヽルモノトス
    第廿条
組合ヲ除名セラレタル者ハ決シテ取引ヲナスヘカラサルハ勿論、譬ヘ止ヲ得サル事情アリトモ名前ヲ貸シ或ハ代理人ノ名義ヲ以テ取引ナスヲ禁ス、若シ之レニ背ク者ハ違約ノ最モ甚タシキ者トシテ相当ノ違約金ヲ出サシムル上、第拾九条ニ照準シ之レヲ取扱フベキモノトス
    第廿一条
組合中ノ総集会ハ一ケ年一回トシ、其期日ハ頭取・副頭取協議ノ上之ヲ組合中ヘ広告スベシ、又連月定式会議ヲ開キ商業上ノ隆盛ヲ謀リ、或ハ組合中凡テ緊要ナル事ヲ議スヘキモノトス
    第廿二条
組合中ノ決議ニヨリ便宜ノタメ府庁ニ請フテ規則ヲ改正増加スル事アル可シ
 但シ組合中ノ利害得失ニ関セシ事ヲ思立候モノハ議案ヲ以テ取締ヘ
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申告スベシ
  第二章 組合役員事務取締之事
    第壱条
組合ニ於テ撰挙セラレタル頭取ハ組合一切ノ事務ヲ総理スヘシ、副頭取ハ頭取ノ職務ヲ助ケ、頭取病気其他ノ事故アリテ欠勤スル時ハ之ヲ代理ナスヘシ、取締ハ頭取及ヒ副頭取ニ属シテ一切ノ事務ヲ調理ス可シ
    第二条
頭取・副頭取及ヒ取締ノ在職年限ハ何レモ一ケ年ト定ム、而シテ其満期或ハ欠員アル時ハ後任者撰挙ノ方法モ凡テ組合一般ノ投票ニ拠ルヘシ、又其投票ニ於テ従来ノ役員ヲ指ス者多キ時ハ引続キ其職務ニ就カシムル事ヲ得ベシ
 但シ役員在職中年限同期ナルトキハ事務ノ引続ヲナスニ差閊アルヲ以テ、初年ハ其中一名一ケ年半在職スルモノトス
    第三条
頭取・副頭取及ヒ取締ハ組合一般ノ為メ営業上ニ便利ヲ注意可シ、而テ譬ヘ小事ト雖トモ組合規則ヲ変更新設スルニハ此章程ニテ専行ヲ許スノ外ハ必ス組合一同協議ノ上ニテ施行スヘシ、若シ此定規ニ背ク時ハ一切其効ナキモノトス
    第四条
頭取・副頭取ハ組合中違約者アリテ之ヲ報告スル者アル時ハ猶実際ヲ探索シ、之ヲ組合中ノ会議ニ付テ第壱章ノ第十九条ニ定ムル所ニ拠リテ其所置ヲ為スヘシ、其違約者ヲ申告セシ者ノ姓名ハ頭取・副頭取ノ外ニ決シテ漏スヘカラズ
 但シ其事柄ノ重キカ或ハ事ノ決シ難キハ組合中ノ協議ヲ経テ頭取・副頭取之ヲ所置スルモノトス
    第五条
頭取・副頭取ハ組合タル者ノ積立テタル信認金ヲ規則ニ拠リテ之ヲ保存スルモノトス、取締ハ集会所ノ諸費常ニ節倹ヲ主トシ其遣払ヲ明細ニ記載シ、六ケ月毎ニ一覧表ヲ作リ組合中ニ報告スヘシ
    第六条
組合タル者ヨリ違約ニ因リテ差出シタル違約金等ハ組合集会所ノ費用金ニ差加フベシ、而シテ其計算ハ集会所費用ノ帳簿ニ事由ヲ記シ、猶遣払ヲ明瞭ナラシムヘシ
 但シ違約ニ依リ違約金ヲ出サシムルニ之ヲ淹滞スル者ハ信認金中ニ於テ其高ヲ引去リ置キ、追テ之ヲ償却セシムベシ
    第七条
組合集会所ノ帳簿ハ組合中ノ者ニテ請求スルトキハ何時ニテモ之ヲ一覧セシム可シ
    第八条
組合中ノ規則ヲ守リテ新規加入ヲ請フモノハ異儀ナク奥印ヲナシ、府庁エ届ケ出タル上人名ヲ組合中ニ広告スベシ
    第九条
当組合ニ入ラスシテ各地ヨリ荷物ヲ直受シ、自然商業上区々ノ憂ヲ醸
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スカ如キ者有之節ハ当組合ヘ加入ノ儀ヲ精々示談ニ及フベシ、而ルニ猶本人承諾セサルトキハ之ヲ組合中ニ協議シ、其決議ヲ経テ之ヲ取扱フモノトス
    第拾条
組合ノ連名簿ヲ調製シ、開業ノ人名ヲ簿中ニ記載シ、転住名前換等ヲ貼リ紙ヲ以テ之ヲ更正スベシ
    第拾一条
組合中止業為ス者ハ其手続ヲ経テ後第十条ノ連名簿中ナル其人名ヲ刪除スヘシ、而テ何年何月止業ノ事故ヲ記シ置クヘシ
    第拾二条
組合中開止業者ハ其時々取締ヘ申告スベシ、取締ハ連月之ヲ取纏メ頭取・副頭取ヘ申告シ、頭取・副頭取ヨリ組合一同ヘ広告スベシ
    第拾三条
頭取・副頭取及ヒ取締ハ其職務上規則ニ従ヒ決シテ権力ヲ縦マヽニシ抑圧ヲ旨トスルハ勿論私意ヲ狭ミ偏頗ノ所為アルヘカラス、若シ之ヲ背犯スルトキハ直ニ其職務ヲ止メ、且其事柄ニ依リ第一章第十九条ニ定ムル所ニ準シ違約金ヲ出サシムヘシ、而テ事由ヲ述ヘ組合一同ノ協議ヲ逐《(遂)》ケンカ為ニ臨時会ヲ開キ衆議ノ決スル所ニ随フベキモノトス
    第拾四条
若シ役員何レモ規則ヲ背クト認ムルトキハ組合一同協議ノ上其決スル所ヲ以テ所置スルモノトス
    第拾五条
頭取・副頭取及ヒ取締ト雖トモ其営業上ニ関シ規則ヲ破ル者ハ総テ組合一般ノ者ト同シ
    第拾六条
組合鑑札ハ各自之ヲ貴重ニ保持センガ為メ別ニ鑑札ヲ製シテ其営業名目ヲ記載シ、取締ヨリ撿印ヲ附与スルモノナレハ各自之ヲ店頭ニ掲クベシ
 但シ竪三尺幅七寸檜板ヲ用フベシ
前条之通規則確定候也
                     頭取
                      大村和吉郎
                     副頭取
                      三越得右衛門
                     取締
                      柏原孫左衛門
                     取締
                      長谷川次郎兵衛
                     取締
                      阪江吉右衛門
                     取締
                      小林吟次郎
                     取締
                      下村正右衛門
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                     取締
                      田中次郎左衛門
(表書)
明治十四年一月調
      中国木綿呉服買継問屋人名録

   西京木綿呉服買継問屋組合人名記
○○商標略 室町二条北エ入町        三越則兵衛         三条通烏丸角        遠藤弥三郎
○○商標略 東洞院御池北エ入町       下村正太郎         室町三条北エ入町      尾崎勇助
○○商標略 三条柳馬場東エ入町       杉浦三郎兵衛        三条通高倉東エ入町     河村清七
○○商標略 新町竹屋町南エ入町       村越庄左衛門  ○○商標略 錦小路室町東エ入町     松村甚右衛門
○○商標略 柳馬場三条北エ入町       田中四郎左衛門 ○○商標略 松原通烏丸西エ入町     野村清太郎
○○商標略 四条通新町東エ入町       岩城九右衛門        室町二条上ル町       矢代庄兵衛
○○商標略 問屋町五条南エ入町       柏原孫左衛門        室町二条南エ入町      矢代仁兵衛
○○商標略 新町六角南エ入町        伊藤次郎左衛門       室町姉小路北エ入町     矢代壮太郎
      堺町御池北エ入町        池上弥右衛門        室町六角南エ入町      江村善兵衛
      五通条間《(条通)》ノ町東エ入町 田川甚七          東洞院六角上ル町      森次郎八

   大阪木綿呉服買継問屋組合人名記
○○商標略 東区備後町壱丁目        杉原勝助    ○○商標略 同区南本町壱丁目      小沢権兵衛
○○商標略 同区北久太郎町弐丁目      今西彦三郎   ○○商標略 同区南久宝寺町二丁目    梅本武兵衛
○○商標略 西区靱下通壱丁目        信豊太郎    ○○商標略 同区本町二丁目       藤野嘉市
○○商標略 南区塩町二丁目         長谷川長十郎  ○○商標略 東区南本町壱丁目      栗田弥太郎
○○商標略 東区南本町二丁目        津田太平    ○○商標略 同区安土町壱丁目      黒川常助
○○商標略 同区今橋二丁目         多田慶太郎   ○○商標略 南区塩町壱丁目       仲田伊兵衛
○○商標略 東区安土町壱丁目        川喜田久太夫  ○○商標略 東区南久太郎町二丁目    村井源助
○○商標略 同区上難波北ノ町        田村儀兵衛   ○○商標略 西区土佐堀裏町       大谷卯右衛門
○○商標略 同区本町二丁目         九里庄治郎

   伊勢国木綿呉服買継問屋組合人名記
○○商標略 飯南郡松坂平生町        浜田伝右衛門  ○○商標略 同             山辺吉兵衛
 - 第17巻 p.781 -ページ画像 
○○商標略 同郡鍜治町           川口平三郎   ○○商標略 同郡八町          内藤半右衛門
○○商標略 同郡日野町           板倉善右衛門  ○○商標略 河芸郡豊野村        今井源右衛門
○○商標略 同郡新町            岡田叉兵衛   ○○商標略 同郡小川村         西井甚兵衛
○○商標略 同郡仲町            富山常八    ○○商標略 同郡上野          中条万次郎
○○商標略 同郡松坂西町          藤村文兵衛   ○○商標略 三重郡内堀村        野崎所左衛門
○○商標略 安濃郡津伊予町         小谷喜平    ○○商標略 同             高橋伝平
○○商標略 同              谷川文四郎   ○○商標略 同郡浜田村         川喜田幸七
○○商標略 同郡立町            藤井吉右衛門  ○○商標略 桑名郡桑名堤原       小林儀兵衛
○○商標略 同郡東町            前川幸助    ○○商標略 伊賀国阿山郡上野      古川専助
○○商標略 同郡古川            富田謹三

   三河国木綿呉服買継問屋組合人名記
○○商標略 幡豆郡平坂村          長谷川治郎兵衛 ○○商標略 同郡連尺町         稲岡佐吉
○○商標略 額田郡岡崎十王町        杉原新十郎   ○○商標略 碧海郡大浜村        千賀又左衛門
○○商標略 幡豆郡荻原村          糟谷縫右衛門  ○○商標略 三河国渥美郡野田村     林彦左衛門
○○商標略 同郡一色村           太田伊八    ○○商標略 尾張国愛知郡大沢村     伊藤半兵衛
○○商標略 碧海郡新堀村          深見藤十    ○○商標略 三河国碧海郡大浜村     亀島与吉
○○商標略 額田郡岡崎投町         深田三太夫   ○○商標略 同郡小望村         原田吉兵衛
○○商標略 幡豆郡西尾横町         深谷半十郎   ○○商標略 同             神谷豊蔵
○○商標略 同郡矢田村           坂田吉郎    ○○商標略 加茂郡三好村        原田重助
○○商標略 幡豆郡酒手島村         島山清吉    ○○商標略 碧海郡一ツ木村       酒井滝右衛門
○○商標略 碧海郡桑子村          野村伴吉    ○○商標略 幡豆郡熱池村        青山仁平
○○商標略 額田郡岡崎連尺町        千賀伝三郎   ○○商標略 尾張国知多郡半田      浜島伝右衛門
○○商標略 碧海郡苅谷           石原市兵衛   ○○商標略 三河国西加茂郡挙母村    成田安次郎
○○商標略 尾張国愛知郡大久伝村      中島金右衛門

   尾張国知多郡木綿呉服買継問屋組合人名記
○○商標略 知多郡半田           浜島伝右衛門  ○○商標略 同郡岡田          竹之内源助
 - 第17巻 p.782 -ページ画像 
○○商標略 知多郡岡田           中島七右衛門  ○○商標略 横須賀           松田太助
○○商標略 同郡大野            榊原千助    ○○商標略 知多郡大野         平野宗太郎
○○商標略 同               鈴木藤右衛門  ○○商標略 同郡北条港         滝田幸治郎

   尾張国有松木綿呉服買継問屋組合人名記
○○商標略 知多郡有松村          久田伊左衛門  ○○商標略 同             山中源七
○○商標略 同               服部孫兵衛   ○○商標略 同             五十鈴彦蔵
○○商標略 同               河村弥平    ○○商標略 同             平野佐太郎
○○商標略 同               竹田庄九郎   ○○商標略 同             三宅弥七
○○商標略 同               服部清兵衛   ○○商標略 同郡旧近崎村改正北崎村   鈴置善左衛門
○○商標略 同               山田与吉    ○○商標略 愛知郡旧牛毛荒井村改正鳴尾村久野卯兵衛
○○商標略 同               竹田嘉平    ○○商標略 同郡大久伝村        中島治左衛門
○○商標略 同               五十鈴兵四郎

   尾張国佐織縞買継問屋組合人名記
○○商標略 中島郡勝幡新田築切       角田市郎兵衛  ○○商標略 海東郡津島         佐藤嘉四郎
○○商標略 同               角田庄五郎   ○○商標略 同             富永新六

   尾張国名古屋木綿呉服買継問屋組合人名記
○○商標略 名古屋区泉町二丁目       吹原九郎三郎  ○○商標略 名古屋区下園町二丁目    服部与右衛門
○○商標略 同区東万町二丁目        武山勘七    ○○商標略 同区古渡町二丁目      水野平助
○○商標略 同区車町二丁目         浜島与市    ○○商標略 同区橋詰町         伊藤政蔵
○○商標略 同区本町四丁目         藤田孫郎九   ○○商標略 同区玉屋二丁目       山中小兵衛
○○商標略 同区泉町二丁目         森井半兵衛   ○○商標略 同区伊勢屋通鶴重町     宮木利左衛門
○○商標略 同区下園町二丁目        岡田彦兵衛   ○○商標略 同区泉町壱丁目       梶原治助

   美濃国木綿呉服買継問屋組合人名記
○○商標略 北方              渡辺佐左衛門  ○○商標略 笠松            金屋甚右衛門
○○商標略 竹ケ鼻             野々村久七
 - 第17巻 p.783 -ページ画像 
   大和国木綿呉服買継問屋組合人名記
○○商標略 葛上郡名柄村          中野長平

   紀伊国木綿呉服買継問屋組合人名記
○○商標略 和歌山             吉田平兵衛   ○○商標略 同             松居善助


東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 四(DK170057k-0013)
第17巻 p.783 ページ画像

東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 四
                   (東京商工会議所所蔵)
雑第弐百六号《(朱書)》
過般旧法制部ヨリ当局ヲ経テ其会議所ヘ商事慣習諮問相成候節格別尽力有之候ニ付、今般参事院法制部ヨリ右手当トシテ金百五拾円也下附相成候旨照会有之、則以封中差進候条落手之上同上法制部宛領収証当局ヘ向ケ被差出候様致度、右金円相添此段申進候也
            商務局長心得
  明治十四年十二月三日  農商務権大書記官 南保(花押)
    東京商法会議所会頭 渋沢栄一殿
(案)              渋沢
過般旧法制部ヨリ御局ヲ経テ当会議所ヘ商事慣習御諮問相成候節格別尽力仕候ニ付、今般参事院法制部ヨリ右手当トシテ金百五拾円下付相成旨ヲ以テ即チ右金券御廻送被下正ニ落手仕候、此段別紙領収証相添御回報申上候也
              東京商法会議所会頭
  明治十四年十二月三日        渋沢栄一印
  商務局長心得
    農商務権大書記官 南保殿

    記
一金百五拾円也
右ハ当会議所ヘ御下問相成候商事慣習調査手当トシテ今般商務局ヲ経金券ヲ以テ御下附相成正ニ領収仕候也
  明治十四年十二月三日          東京商法会議所
  参事院
    法制部御中

去ル三日商務局雑第弐百六号ヲ以法制部ヨリノ下附金百五拾円及御転送領収証御差出相成候様申進候得共、未タ御回送無之、右ハ法制部ヘ回報之都合モ有之候ニ付、本日直ニ御差出相成候様致度、此旨及御照会候也
  十四年十二月六日          商務局
                     調査課
  東京商法会議所会頭
    渋沢栄一殿
 - 第17巻 p.784 -ページ画像 


東京商法会議所要件録 第四一号・第一〇頁 明治一五年二月二八日刊(DK170057k-0014)
第17巻 p.784 ページ画像

東京商法会議所要件録  第四一号・第一〇頁 明治一五年二月二八日刊
 ○明治十四年東京商法会議所事務報告
    政府ヨリ下問  五件
○上略
商事慣習ノ儀ニ付太政官法制部ヨリ御下問
 本件ハ八月廿六日太政官法制部ヨリ商務局ヲ経テ御下問ニ係ル乃チ九月三日委員会ニ於テ之ヲ承諾スヘシト決シ、玆ニ其調査手続ヲ議定シ更ニ同月十日第十五臨時会ニ於テ同部ヨリ説明委員ノ臨場ヲ請ヒ先ツ御下問書ニ対シ逐条質問ヲ遂ゲ、然シテ後其荅案ニ就キ討議ヲ始メ爾後両度ノ臨時会議ニ於テ全ク討議ヲ終ルヤ理事本員ハ之ガ荅申案ヲ作クリ、終ニ十月九日商務局ヲ経テ之ヲ同部ニ復申シタリ


東京商法会議所要件録 第四一号・第三一頁 明治一五年二月二八日刊(DK170057k-0015)
第17巻 p.784 ページ画像

東京商法会議所要件録  第四一号・第三一頁 明治一五年二月二八日刊
 ○明治十四年東京商法会議所事務報告
    本会会計上ニ関スル事項  五件
○上略
太政官法制部ヨリ商事慣習調査費下付之件
 御下問ノ部ニ於テ報告スルカ如ク本年八月廿六日太政官法制部ヨリ商事慣習ノ御下問ハ十月九日ヲ以テ商務局ヲ経テ調査ノ顛末ヲ復申シタリシカ、更ニ同部ヨリ十二月三日商務局ヲ経テ該調査費トシテ金百五十円下付セラレタリ
○下略
  ○我国ニ於ケル商法典ノ編纂ハ明治九年司法卿大木喬任ニヨツテ提唱サル。当初ハ商法典全部ノ編纂ノ大事業ナル故ヲ以テ、先ヅ応急的ニ会社法・海商法等ヲ単行法トシテ制定スル方針ナリシガ、明治十四年此方針ヲ変更シ法典全部ノ編纂ヲ急グコトニ廟議一決セリ。依テ政府ハ太政官法制部ニ商法典草案ノ立案ヲ命ジ、法制部ハ同年四月原案起稿ヲ独逸人ヘルマン・ロエスレルニ委嘱ス。ロエスレルハ爾来精励能ク原案作成ニ尽力シ、明治十七年一月ヲ以テ原案並ニ逐条ノ理由書ヲ完成セリ(「日本商法典の編纂と其改正」第七―八頁、第二五―二六頁)。本会議所ガ本諮問ヲ受ケシハロエスレルガ法制部ヨリ原案起稿ヲ委嘱サレシ時ヨリ間モナキ時ニシテ、蓋シ該案作成ノ一資料トナリシモノナラン。