デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第18巻 p.271-279(DK180026k) ページ画像

明治18年4月11日(1885年)

当会、浅野彦兵衛ノ建案ニヨリ質屋営業者ニ限リ利息制限法ニ改正ヲ加フルノ儀ニ就キ審議ス。是日栄一、該案調査委員トシテ中尾利兵衛外四名ヲ指名ス。


■資料

東京商工会議事要件録 第八号・第三五―五七頁 明治一八年一月二七日刊(DK180026k-0001)
第18巻 p.271-277 ページ画像

東京商工会議事要件録  第八号・第三五―五七頁 明治一八年一月二七日刊
  第四定式会
         (明治十七年十二月二十五日午後五時三十分開会)
  第八臨時会
    会員出席スル者 ○四十五名
○上略
次ニ会長(益田孝)ハ是ヨリ更ニ九十九番(浅野彦兵衛)ノ建議ニ係ル利息制限法加則ノ件ヲ議スベキ旨ヲ告ゲ、書記ヲシテ議案ヲ朗読セシム、即チ左ノ如シ
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    質屋営業者ニ限リ利足制限法ヘ御加則ヲ要スル建議
明治十年太政官第六十六号御布告ニ係ル利息制限法ノ御規則ニ利息ヲ分チテ契約上ト法律上トノ二トス、契約上ノ利息ハ人民相互ニ結約ヲ以テ定メ得ベキ利息ニシテ、元金百円未満ハ一ケ年二割、百円以上千円未満ハ一割五分、千円以上ハ一割弐分等ニシテ、此限ヲ超過スル分ハ裁判上無効ノモノトス、各制限ニマデ引直サシムベシト有之、謹テ本法ヲ按スルニ権利者、義務者ノ窮迫ニ乗シ権利者ノ高利ヲ貪ボルノ弊ヲ防キ以テ双方厚キ保護ヲ加フルノ御趣意ニ依リ御頒布ニ相成リタル義ト奉恐察候
元来質屋営業者ハ御制定ノ法規ヲ遵守スルハ勿論専ラ贓物ノ捜索ニ従事シ、質置主ニ対シテハ物品ノ災害ニ罹ラザル様厚ク保護ヲ加ヘ、其取引上ノ費用ニ至リテハ却テ質取主ニ於テ之ヲ負担シ、殆ト商估ノ得意先ニ対スル取引ト一般ニシテ、業務ノ繁労ナル啻ニ普通一片ノ証書ヲ以テ貸与スル貸金者ノ比ニ非ザル義ニ御座候
然シテ実際取引上ヲ徴スルニ十ニシテ八九ハ拾円未満、是等御制限ノ利子ニテハ実際営業為シ能ハザル義ニ付特ニ以外ノ私約ヲ為シテ取引スルノ慣例モ有之候処、近時狡猾ノ輩ニ至リ入質ノ後受戻ノ際制限法ヲ口実トシテ私約ノ義務ヲ履行セズ、之ガ為メ営業者ハ痛嘆黙止シテ損害ヲ受クル事不尠、斯ノ如ク漸次延蔓セバ平素ノ私約モ終ニ実行スル能ハズ、然ラバ法規ノ利息ヲ以テ取引センカ少額ノ質物ヨリ生ズル僅少ナル利息ニテハ殆ンド手数ヲ要スル費用ニマデ及サヽル儀ニ付、生計上営ム能ハズ爰ニ至リ営業者ノ困難容易ナラザル義ニ御座候、前陳ノ如ク屡々困難ニ遭遇スルトキハ業ヲ他ニ転セント欲スルカ、或ハ少額ノ取引ヲ停止スル如キ傾向無之モ難保候、左レバ独リ営業者ノ不幸ノミニ止マランヤ、影響ハ必ス細民ノ融通ヲ妨ケ倶ニ図ラサルノ困難免レ難キ事ニ奉存候
以上開陳ノ事実ニ付利息制限法ヘ質屋営業者ニ限リ金拾円未満年三割ト御加則相成候様単ニ希望仕候、御採択相成候ニ於テハ啻ニ営業者ノミナラズ細民ニ於テモ便融ヲ相増シ候義ニ御座候、各員衆議ノ上其筋ヘ本会ヨリ建議有之度切望仕候、此段建議致シ候也
  明治十七年十一月十七日     九十九番
                      浅野彦兵衛
  東京商工会々頭
    渋沢栄一殿
会長(益田孝)曰ク、只今朗読シタル建議案ハ意義甚ダ明瞭ナレドモ会員中質屋営業外ノ者モ多キニ付、若シ不審ノ廉モアラバ建議者ニ就テ質問セラレヨ
六十三番(柿沼谷蔵)曰ク、質渡世ニハ利息外ニ品預リ手数料ヲ取ル事ナキヤ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、府下一般ノ質屋ニテハ利息ノ外ニ品物保管料若クハ蔵敷料ト云フベキモノヲ収ムル者ナシ、而シテ其利息ノ割合ハ所在区々ニシテ年三割五分位ノモノモアリ、然ルニ法律ヲ以テ之《(ヲ)》テ低度ニ制限セラルヽガ故ニ典主ニ於テハ制限外ノ利息ヲ仕払フ事ヲ拒ム者アリ、之ガ為メ質屋営業人ハ非常ノ迷惑ヲ
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蒙ル事多シ
六十三番(柿沼谷蔵)曰ク、利息ハ制限内ニ止メ其余ハ預リ手数料トシテ之ヲ取ル事ヲ得ザルヤ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、倉敷料若クハ手数料共之ガ割合ヲ定ムルノ標準ナキニ苦ム、故ニ制限利息外ノモノヲ手数料トシテ請取ル事ハ実際行ハレザルナリ
八十一番(渋沢栄一)曰ク、利息ハ日割ナルカ月割ナルカ、若シ月割ナラバ一日ニテモ全月ノ利息ヲ収ムルヤ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、利息ハ総テ月割ナレトモ、月初三日迄ハ旧例ニヨリテ利息ヲ申請ケズ
四十三番(梅浦精一)曰ク、質物罹災ノ節其弁償法ハ如何スルヤ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、火災盗難ハ両損ニシテ鼠喰虫喰ハ典主ノ損ナリ、而シテ此等ハ皆旧慣ニ依ルモノナリ
六十三番(柿沼谷蔵)曰ク、果シテ十円以下三割ノ利息トスルトキハ十銭ノ質物ニモ三割ノ利ヲ求ムルノ意カ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、十銭位ノ質物ハ其数極メテ寡シ、故ニ其割合ハ如何ナルモ敢テ損益スル事ナシ
三十九番(坂本彦平)曰ク、十円以下三割トスル上ハ猶私約ノ行ハルル見込ナルカ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、質営業ニハ衣類ヲ預カル事最モ多クシテ此等ノ場合ニハ其利息三割位ニテ可ナリト雖トモ、夜具ノ類ハ之ヲ取扱フニ不便ニシテ実際三割以上ノ利息ヲ要スルガ故ニ仮令今十円以下三割ト制限ヲ定ムルモ猶私約ノ行ハルヽ事アルベシト思ハル
四十三番(梅浦精一)曰ク、建議者ハ質営業ヲ以テ普通一片ノ証書ヲ授受スル貸金営業ト同ジカラズト云ヘリ、然ラバ其異ナル要点ハ何処ニ在リヤ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、質屋渡世ハ適当ノ営業税ヲ払フ上ニ其筋ヨリ廻達スル品触書ニ深ク注意セザルヲ得ズ、而シテ万一不正品ヲ請取リタル事蹟発覚スルニ於テハ刑法ニ拠リテ処分セラルヽ等ノ事アリ、加之一円以上二十円迄ノ質物預札ニハ凡テ一銭ノ印紙ヲ貼用セザル可ラズ、斯ノ如ク質屋ニ於テハ煩累ノ手数ヲ要スルニモ拘ラズ質置主ニ於テハ只品物ヲ持来ルノミニテ更ニ手数ヲ要スル事ナシ、是レ普通ノ貸金営業ト異ナル所以ナリ
四十三番(梅浦精一)曰ク、建議案ヲ観ルニ十円未満ハ殊ニ煩雑ノ手数ヲ要シ、十円以上ハ左程手数ヲ要セズト云フノ主意ナルガ如シ実際果シテ然ルヤ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、十円以上ハ手数ヲ要セズト云フニハ非ズ、十円以上ニテモ口数多キ時ハ太ダ手数ヲ要スル事アリ、要スルニ其手数ヲ要スルト否トハ口数ノ多寡如何ニ因ルモノトス、然リ而シテ利息ノ制限ヲ引上グル時ハ細民却テ困窮セント思慮スル者モアルベケレトモ是甚ダ誤レリ、若シ質営業者ガ利息制限法ヲ以テ厳ク規正セラルヽニ至ラバ為メニ廃業若クハ転業スル者多ク其極終ニ細民ノ金融ヲ壅塞スルノ不幸ヲ来スベキナリ
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会長(益田孝)曰ク、質疑稍ヤ尽キタルニ付、是レヨリ本議ノ採否ニ就キ審議スベシ、蓋シ本議ハ専ラ質屋営業者ニ関係スルト雖トモ亦頗ル重要ノ問題ナルニ付各員宜ク熟議セラレン事ヲ望ム
百十番(柴原武雄)曰ク、余ハ本日始メテ出席シタルモノナレトモ本議ニ就テハ少シク実験シタル事モアレバ聊カ思フ所ヲ述ブベシ、建議者ハ頻リニ質渡世ノ困難ナル事ヲ喋々スレトモ、実際決シテ然ラザルガ如シ、曾テ我社ニ於テ下タ質ノ金主ヲ為セシ事アリシガ、其利息ハ太ダ低廉ナレトモ尚本業ナル製紙業ノ利益ヨリ大ナルモノアリ、以テ該営業ノ利益少カラザルヲ知ルベシ、且ツ夏冬ノ交ニハ十円以上ノ質物少キニ非ザルモ、平常ハ概ネ十円以下ノ質物ノミニシテ其収利甚ダ厚ク、殊ニ大工左官ノ如キハ十銭内外ノ質物ヲ預クル者最モ多ク、之ガ為メ質屋ニ於テ特ニ利益ヲ得ル事アリ、加之質屋仲間中ニハ歳末ニ迫リ一切入質ヲ断ル旨ヲ張札シ、以テ典主ノ急需ニ乗ジテ意外ノ高利ヲ貪ルノ狡猾者アリト聞ケリ、斯ノ如ク質渡世ノ利益甚ダ多キニモ拘ラズ尚斯ル希望ヲ発スルニ至リタルモノハ蓋シ両三年来ノ不景気ニテ流質多キガ為メ一時少ク困却シタルノ事情アルニ因ルモノナラン、故ニ余ハ到底本議ヲ賛成スル能ハザルナリ
八番(大塚藤平)曰ク、建議ノ主意ハ一応理ナキニ非ルモ本会ヨリ之ヲ建議スルハ少シク不可ナキヲ得ズ、蓋シ現今府下質屋ノ利息ハ概ネ一円ニ付二銭・二銭五厘若クハ三銭ノ三段ニシテ、猶場合ニヨリテハ便宜之ヲ高低スル事アリ、然ルヲ今改メテ十円未満三割ト一定スルトキハ質屋ニ於テモ此制限ニ拘泥シ自ラ活動ノ機ヲ損スル事アラン、故ニ余ハ現行ノ制限法ニテ別段差支アルマジト思惟ス
七十六番(太田次郎)曰ク、質屋営業人ハ徳義上貧民ノ融通ヲ便達スルノ義務ヲ帯ブル者ナレバ其利息ハ成ルベク低廉ナラン事ヲ望ム質屋中諸色高直ヲ以テ利息ヲ引上グル口実トスルモノアレトモ、畢竟古金ノ桜ト云ヒ今ノ紙幣ト云ヒ、其元利ノ権衡大差アルベキモノナラネバ余ハ寧ロ十五両一分カ二十両一分位ニ低下シテ貧民ノ便利ヲ謀ラレン事ヲ切望スルナリ
九十七番(笠井庄兵衛)曰ク、先刻質屋営業人ハ高利ヲ貪リ狡猾ナリトノ説アリシガ、抑モ維新後質屋営業ノ益々困難ニ陥リタルハ明白ノ事実ニシテ、殊ニ現行ノ制限法ニ拠ル時ハ例ヘバ金一円ニ付収入スベキ利息ハ一ケ月凡一銭六厘ノ割合ニシテ、此内更ニ証印条例ニ従ヒ預札ニ貼付スベキ印紙代一銭ヲ扣除スル時ハ其余ス所ハ僅ニ六厘タルニ過ギズ、然ルニ斯ク其収益極メテ僅小ナルニモ拘ラズ其手数ニ至リテハ実ニ煩累ニ堪ヘザルモノアリ、今質屋中偶々一二高利ヲ得ントスル者アルモ熟々其事情ヲ推察スレバ亦已ヲ得ザルニ出ヅルモノナリ、一概ニ之ヲ目シテ狡猾者ナリト云フハ実ニ失当ノ発言ナリト云フベシ
百十番(柴原武雄)曰ク、余ハ質屋営業人中ニモ甚ダ狡猾ナル者アリト云ヒシノミニテ一般ニ之ヲ総称シタルニ非ザルナリ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、先刻某会員ハ余ガ本議ヲ呈出シタルハ
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質屋ニ於テ両三年来不景気ノ為メ意外ノ損失ヲ蒙リシニ基因スルナラントノ説ヲ発セシガ、是レ太ダ失当ノ推測ナリ、目今質屋ニ於テハ実際三割程ノ利息ヲ取ル者多シト雖トモ、但ダ其私約ナルガ為メニ前途多少ノ掛念ナキ能ハズ、故ニ余ハ法律ヲ以テ此三割ノ制限ヲ定メ以テ質屋営業人ニ安心ヲ与ヘ併セテ貧民ノ便ヲ謀ラン事ヲ要望スルノミ
八番(大塚藤平)曰ク、唯今建議者ノ説明スル所ハ至極尤ナリ、然レトモ本会ヨリ之ヲ建議スルハ到底同意スル能ハズ、夫レ利息ニ高低アルハ自然ノ勢ニシテ或ハ同業者ノ競争ニヨリ、或ハ場所柄ノ冷熱ニヨリテ常ニ多少ノ異同アルベキモノナレバ、今法律ヲ以テ十円未満ヲ三割ト確定スルモ実際其割合決シテ一定スベキモノニ非ズ、且ツ十円以下ヲ三割ト定ムル時ハ一円以下モ亦幾許ト定メザル可ラズ、斯ル細事ハ本会ノ与リ知ルベキ所ニアラザルナリ
四十三番(梅浦精一)曰ク、質屋営業人諸君ノ熱心ハ余ノ感服スル所ナリ、然レトモ本会ヨリ之ヲ建議セントスルニ至リテハ聊カ異議ナキ能ハズ、抑モ利息ノ高低ハ専ラ通貨需求ノ権衡ニ因テ定マルモノニシテ、法律ノ決シテ左右シ得ベキモノニ非ズ、今建議者ハ十円以下ヲ三割ト定メン事ヲ希望スレトモ、現ニ質屋ノ利息取調表ニ拠レバ府下ノ質屋ハ一般ニ三割以上ノ利息ヲ収ムルモノヽ如シ、然ラバ今改メテ十円以下ヲ三割ト一定セントスルハ到底無効ノ希望タルヲ免レザルベシ、余ハ寧ロ建議者ノ精神ヲ採リ更ニ一歩ヲ進メテ利息制限法ノ廃止ヲ建議スルニ若カザルヲ思フナリ
九十七番(笠井庄兵衛)曰ク、商工業ノ隆盛ヲ期図スルハ本会ノ目的トスル処ナリ、而シテ近来質屋営業ノ困難ニ陥リタル事ハ実際争フ可ラザルノ事実ニシテ、余ハ建議者ト其感ヲ同クスルガ故ニ先刻本案ヲ賛成シタルガ、今四十三番ノ説ヲ聞クニ其言至極道理アリト信ズルガ故ニ改メテ四十三番ノ説ヲ賛成ス
十六番(益田克徳)曰ク、四十三番ハ更ニ一動議ヲ発シタルモノヽ如シ、斯ノ如クナルトキハ議論ノ結局ヲ得ル事難カルベキニ付、先ヅ速ニ建議説ニ就テ採否ヲ決セラレン事ヲ望ム
会長(益田孝)曰ク、四十三番ノ説ハ建議案ノ修正説ニ非ズシテ一個ノ動議ナルカ
四十三番(梅浦精一)曰ク、動議ナリ
九十八番(吉田幸作)曰ク、同業者ニシテ本案ヲ賛成スルハ稍ヤ偏頗ノ嫌ナキニ非ザレトモ、余ガ敢テ之ヲ賛成スルハ抑モ説アリ、先刻ヨリ追々諸君ノ説ク所ヲ聴クニ或ハ建議者ハ質屋ノ利息ヲ三割ニ一定セン事ヲ望ム者ナリト云ヒ、或ハ新ニ利息ヲ三割ニ引上ゲン事ヲ望ム者ナリト云フ者アレトモ、是レ皆建議者ノ意ヲ誤解スルモノナリ、抑モ建議者ノ主意ハ実際ノ利息ヲ引上ゲントスルニ非ズシテ只制限法ノ区域ヲ三割迄ニ拡充シテ不慮ノ損失ヲ予防セン事ヲ希望スルニ過ギザルガ如シ、果シテ然ラバ本案ハ実ニ至当ノ建議ナリト云フベシ、蓋シ現時府下ニ於テ質屋ヲ業トスル者無慮千七百戸アリ、毎戸百人前後ノ得意先ヲ有シ一年間ノ貨金高平均三千円トスル時ハ其総額五百万円ノ上ニ達スベシ、而シテ此等
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質屋ノ中所謂下質ヲ取ル者ハ甚ダ寡クシテ多クハ皆細民ノ為メ直チニ融通ヲ助クル者ナレバ、質営業ノ細民ニ欠ク可ラザルハ甚ダ明白ナル事実ナリトス、然ルニ府下質屋ニ於テハ取締条例御頒布以来其営業上一層ノ困難ヲ来シ、偶々私約ヲ以テ必要ノ利息ヲ収メントスルモ現行ノ制限ニ拘束セラレテ充分其収益ヲ必期スルヲ得ズ、此等ノ事情ニヨリテ不得已廃業シタル者其数亦少シトセザルナリ、若シ夫レ細民ノ融通ヲ助クル質屋ニシテ斯ク陸続廃業スルニ至ラバ、之ガ為メ細民ノ不便ヲ蒙ル事果シテ如何ゾヤ、是レ実ニ建議者ガ利息制限法ニ加則ヲ要望スル所以ニシテ又余ガ熱心ニ之ヲ賛成スル所以ナリ
六十三番(柿沼谷蔵)曰ク、余ハ本議ヲ賛成スルモノナリ、其故ハ三割ノ利息ハ稍々高キニ失スルガ如クナレトモ現在質営業人ハ既ニ三割ノ利ヲ収メ只之ヲ法律上公認セラレン事ヲ要望スルニ過キザレバナリ、若シ果シテ建議案ノ如クナルヲ得バ質屋ノ営業自ラ確実ヲ得テ細民ノ便利亦大ニ増進スベシ
九十七番(吉田幸作)曰ク、法律上三割ト公認スルモ実際営業者ノ競争ニヨリテ此割合ヨリ低下スル事アルハ勿論ナルベシ、果シテ然ラバ此建議ノ行ハルヽモ決シテ細民ノ利益ヲ害スル事アラザルナリ
八十一番(渋沢栄一)曰ク、本会ヨリ之ヲ建議スルハ不賛成ナリトノ説アリ、是レ尤ノ議論ナリ、然レトモ建議者ノ主張スル処モ亦全ク理ナキニ非ズ、故ニ余ハ本案ニ就キ両説ヲ斟酌シテ試ニ修正説ヲ述ベン、抑モ商工業全体ニ関スル事件ニ就テ本会ヨリ之ヲ建議スルハ固ヨリ不可ナル事ナシト雖トモ、一個ノ商工業ニ関スル利害ニ就テ本会ヨリ之ヲ建議スルハ未ダ其当ヲ得タリト云フ可ラズ且ツ夫レ質屋営業ハ印紙貼用等種々ノ手数ヲ要スルガ故ニ困難ナリト云フト雖トモ、貸金延滞ノ時ニ当リテ直チニ預品ヲ売却シ得ルノ特例アルヲ以テ見レバ其営業ハ稍ヤ安全ナリト云フモ可ナリ夫ノ普通貸金営業ノ如キ成ル程其手数ハ甚ダ簡便ナリト雖トモ、偶々負債主逃亡スルガ如キ場合ニ臨ミテハ其危険実ニ甚シトス、之ヲ要スルニ質屋営業ト云ヒ普通貸金営業ト云ヒ各々其得失ヲ乗除スル時ハ彼此ノ間敢テ大差アルモノニ非ズ、然ルヲ今単ニ営業ニ手数ヲ要スルノ一事ヲ挙ゲテ加則ヲ要望スルノ根拠トスルハ寧ロ論理ノ正鵠ヲ得ザルモノト云フベシ、況ンヤ現任大蔵卿閣下ハ夙ニ利息ノ高貴ナルヲ憂慮セラレ、遂ニ我国普通利息ノ割合ヲ年六分ニ迄低下セントノ説ヲ持セラルヽト聞ケバ余ハ仮令本会ヨリ之ヲ建議スルモ到底其希望ヲ遂ゲ得ザラン事ヲ恐ルヽナリ、故ニ余ノ見ル所ヲ以テセバ、先ヅ本案ノ立論ヲ改メテ現行利息ノ制限ハ取引ノ種類ニ応ジテ更ニ之ヲ細別セザル可ラズト云フヲ主旨トシ、而シテ夫ノ質屋営業ノ困難ナル現状ノ如キハ此主旨ヲ弁明スルノ例証トシテ附陳スル事トセバ、其理論稍ヤ正当ナルヲ得ベキ歟、尤十円未満三割ノ制限ハ他ノ数項ニ対シテ権衡ヲ得ザルニ付其割合ハ先ヅ二割四分位ニ改メン事ヲ望ム
右ノ外各員ノ間多少ノ議論アリシガ既ニ予定ノ時刻ヲ過ギタルヲ以テ
 - 第18巻 p.277 -ページ画像 
会長(益田孝)ハ今夕直チニ決ヲ取ラズ、追テ次会ニ於テ更ニ之ヲ審議スベキ旨ヲ告ゲ、衆員ニ退散ヲ命ズ、時ニ午後九時二十分ナリキ


東京商工会議事要件録 第九号・第一九―三五頁 明治一八年三月一四日刊(DK180026k-0002)
第18巻 p.277 ページ画像

東京商工会議事要件録 第九号・第一九―三五頁 明治一八年三月一四日刊
  第五定式会  (明治十八年一月廿七日午後四時三十分開会)
    会員出席スル者 ○七十一名
○上略
次ニ会長(渋沢栄一)ハ明治十七年下半季定式事務ノ成跡ヲ報告ス、即チ左ノ如シ
  自明治十七年七月至同十二月 半季間事務ノ報告
○中略
    襍事    三件
○中略
○利息制限法ニ加則ヲ要スルノ議
  本件ハ九十九番浅野彦兵衛ノ発議ニ係リ、其要旨ハ元来質屋営業ハ特ニ種々ノ手数ヲ要シ其趣全ク普通貸金営業ト同シカラザルニ付、本会ヨリ其筋ニ向テ現行利息制限法ニ質屋ニ限リ金十円未満年三割ト云フノ一条ヲ追加セラレン事ヲ建議スベシト云フニ在リ即チ十二月二十五日第八臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ種々議論アリシガ其採否ニ就テハ未ダ議決セザリシニ付、是ハ追テ明治十八年ニ至リ更ニ次会ヲ期シテ之ヲ審議スベキノ見込ナリ
○下略


東京商工会議事要件録 第一〇号・第三―一三頁 明治一八年五月六日刊(DK180026k-0003)
第18巻 p.277-279 ページ画像

東京商工会議事要件録  第一〇号・第三―一三頁 明治一八年五月六日刊
  第九臨時会  (明治十八年四月十一日午後六時三十分開会)
    会員出席スル者 ○五十五名
会長(渋沢栄一)ハ開会ノ趣意ヲ報ジ、先ヅ第一号議案利息制限法ニ加則ヲ要スル件ヲ議スベキ旨ヲ告ゲ且ツ曰ク、本案ニ就テハ前会ニ於テ原案維持説アリ反対説アリ、或ハ修正説アリテ之ヲ決セザリシニ付各員猶充分ニ其所見ヲ陳述セラレヨ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、余ハ前回ニ於テ本案ヲ提出スルニ当リ質屋ニ限リ十円以下三割ノ特制ヲ望ミシガ、熟々八十一番ノ修正説ヲ聞クニ其要旨最モ以テ穏当ナルガ如シ、故ニ八十一番ノ修正説ニ従ヒ更ニ之ヲ一般取引ニ普及シ、十円以下二割四分ト定メン事ヲ望ム
十六番(益田克徳)曰ク、敢テ建議者ニ問ハン、現今質屋ハ実際何割程ノ利息ヲ収入スルヤ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、下質ヲ取ル者ハ概ネ制限以内ノ利息ヲ収入スルト雖トモ、小質ヲ取ル者ハ三割以上ノ利息ヲ収入スル事多シ
七十四番(鳥海清左衛門)曰ク、現今府下ニ於テ下質ヲ取ル者ハ一ケ月百円ニ付六十目若クハ七十目ノ利息ヲ収入シ、小質ヲ取ル者ハ一円ニ付二銭五厘ヨリ四五銭マデノ利息ヲ収入スルヲ常トス、然ルヲ今若シ改メテ十円以下三割ノ制限ヲ定ムル時ハ下質ヲ取ル者
 - 第18巻 p.278 -ページ画像 
ハ別段不便ナカルベシト雖トモ、小質ヲ取ル者ハ之ガ為メ却テ迷惑ヲ感ズルニ至ルベシ、由是観之寧ロ現行制度ノ下ニ在リテ円滑ニ営業シ得ルニ如カザルナリ
二十番(大倉喜八郎)曰ク、抑モ建議者ハ質屋ノ利息ヲシテ高カラシメントノ意ナルヤ
会長(渋沢栄一)曰ク、建議者ノ望ム所ハ現今質屋ガ事実三割以上ノ利息ヲ収入スル事多シト雖トモ、只其制限外ニ在ルガ為メ屡々置主ニ苦シメラルヽ事アリ、故ニ此制限ヲ拡メテ其営業ヲ安全ナラシメント云フノ意ナリ
二十番(大倉喜八郎)曰ク、今会長ノ説明ニ拠レバ建議者ハ結局質屋ノ利息ヲ高カラシメン事ヲ望ムモノヽ如シ、果シテ然ラバ余ハ遺憾ナガラ之ニ反対セザルヲ得ズ、抑モ仏国ノ如キハ質屋ノ利息最モ低廉ナル趣嘗テ全権大使ノ欧米廻覧記ニテ見タル事アリ、畢竟此建議ハ細民ノ不利ヲ来スベキノ恐アレバ寧ロ本会ノ議題タラザラン事ヲ希望ス
九十八番(吉田幸作)曰ク、余ハ最前ヨリ原案ヲ賛成シタル者ナルガ猶八十一番ノ修正説ヲ聞クニ最モ余ガ意ヲ得タルモノアリ、今十円未満二割四分ノ制限ヲ定ムル時ハ細民困難スベシトノ説アレトモ、要スルニ本案ノ主意ハ余ガ前会ニモ詳述シタルガ如ク決シテ利息ヲ高メント云フニ非ズ、只制限ヲ拡メテ質屋ノ営業ヲ安全ナラシメント望ムモノナレバ結局細民ノ便利ヲ進捗スルノ精神ニ過ギザルナリ、又仏国ノ如キハ質屋ノ利息最モ低廉ナリトノ説アリシガ、抑モ同国ニ於テハ質屋ニ倉庫税免除等ノ特例アレバ低利ノ貸附モ猶引合フベシト雖トモ、我国ノ質屋ニハ全ク斯ル特例ナキハ勿論其営業上種々ノ困難アリテ、例ヘバ質屋ガ贓物ヲ質ニ取リタル場合ノ如キ之ヲ其筋ヘ届出ツル時ハ其品物ハ直チニ被害者ニ還付セラレ、而シテ質屋ガ若シ其損害ヲ補償セントスルニハ更ニ犯罪者ニ向テ刑事附帯ノ私訴ヲ起サヾルヲ得ズ、殊ニ通常ノ商売ハ其資本ヲ運転スル事一年少クモ五回ニ及ベドモ、質屋ニ至リテハ其運転僅ニ一回半ニ過ギザレバ、普通貸借ニ比シテ稍ヤ高利ヲ収入スル事アルモ蓋シ已ムヲ得ザル所ナリ、故ニ余ハ熱心ニ本案ノ成立セン事ヲ望ム
七十四番(鳥海清左衛門)曰ク、質屋同業者ヨリ実際要スル利息ノ割合ヲ警視庁ヘ届出デ其認可ヲ得ル時ハ、別段法律ニ改正ヲ請ハザルモ敢テ差支ナカルベシト思考ス、如何ン
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、実際利息ノ割合ハ相対ノ契約ニヨリテ適宜ニ之ヲ高低スルニ付、仮令質屋ヨリ利息ノ割令《(合)》ヲ警視庁ヘ届出ヅルモ以テ公約トスルニ足ラザルナリ
十六番(益田克徳)曰ク、建議者ノ望ム所ハ一般ノ取引ニ通ジテ特制ヲ求ムルノ意ナルカ、将タ質屋営業ニ限リテ特制ヲ求ムルノ意ナルカ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、余ハ最前質屋営業ニ限リテ特制ヲ望ミタレトモ猶八十一番ノ修正説ヲ聴クニ最モ穏当ナル所アルニ付、更ニ前説ヲ引キ一般ノ取引ニ通ジテ特制ヲ望ムニ決意セリ
 - 第18巻 p.279 -ページ画像 
十六番(益田克徳)曰ク、果シテ然ラバ其主意最モ穏当ナルニ付余モ亦八十一番ノ修正説ヲ賛成ス
七十四番(鳥海清左衛門)曰ク、二割四分ノ利息ハ即チ百円ニ付一ケ月百二十目ニ当ル割合ニシテ、若シ質屋営業ニ限ルモノトセバ固ヨリ適当ノ割合ナルベシト雖トモ、若シ之ヲ一般ノ取引ニ普及スルモノトセバ其割合甚ダ高度ニ失スルガ如シ、故ニ余ハ寧ロ本案ヲ廃棄セン事ヲ望ムナリ
会長(渋沢栄一)曰ク、八十一番ノ修正説ハ十円ニ付二割《(三)》ノ利息ハ一万円ニ付一割二分ノ利息ニ対シテ権衡ヲ得ザルニ付、更ニ十円未満二割四分ノ制限ヲ設クベシト云フニ在リ、而シテ只今七十四番ハ此二割四分ヲ以テ高度ニ失セリト云フト雖ドモ、現ニ銀行仲間ニ於テモ時トシテハ日歩五銭若クハ七銭ノ取引アルヲ見レバ実際決シテ高利ニアラザルヲ信ズ
七十四番(鳥海清左衛門)曰ク、成程二割四分ノ利息ハ実際決シテ高キニ非ザルベキモ余ハ只本会ヨリ之ヲ建議スルハ不適当ナリト云フノ意ヲ述ベシニ過ギザルナリ
二十番(大倉喜八郎)曰ク、今我国ノ現状ニ就テ之ヲ観察スルニ普通ノ商売ニ於テ二割四分ノ利息ヲ払フ時ハ損益固ヨリ相償フベキモノニ非ズ、故ニ此件ハ本会ヨリ之ヲ建議セズシテ質屋同業者ヨリ之ヲ建議スベシ
五十九番(益田孝)曰ク、抑モ此議題ハ未ダ諸君ノ脳裏ニ充分浸潤セザルモノニヤ之ヲ賛成スルノ説ト云ヒ之ヲ攻撃スルノ説ト云ヒ共ニ皆其熱心ヲ欠クモノヽ如シ、故ニ余ハ先ヅ委員ヲ撰ンデ篤ト実際取引ノ細況ヲ詳査セシメ然ル後深切ニ其採否ヲ決セン事ヲ望ム
四十二番(松尾儀助)曰ク、建議者ノ望ム所ハ利息ヲ高メント云フニ非ズシテ只其制限ヲ拡メント云フニ在リ、去レバ今別段ニ其実況ヲ調査スルニ及バズ直チニ採否ヲ決シテ可ナリ、而シテ過刻ヨリ二十番其他ニ於テ種々ノ議論アリタレトモ、余ノ見ル所ニテハ本会ヨリ直チニ質屋営業一個ニ就テ其筋ヘ建議スルモ毫モ妨ゲナカルベシト信ズルナリ
右ノ外八番(大塚藤平)十一番(犬塚駒吉)二十六番(石関利兵衛)等五十九番(益田孝)ヲ賛成スルノ説アリシガ、会長(渋沢栄一)ハ議論ヤヽ尽キタルヲ以テ、先ヅ五十九番(益田孝)ノ委員ヲ撰ンデ実況ヲ調査セシムベシト云フノ説ヲ起立ニ問ヒシニ、多数ナルヲ以テ即チ之ヲ可決ス、而シテ猶衆議ニヨリ会長(渋沢栄一)ハ調査委員トシテ左ノ五名ヲ指名シタリ
             三十八番   中尾利兵衛
             四十二番   松尾儀助
             四十三番   梅浦精一
             七十四番   鳥海清左衛門
             八十二番   山中隣之助