デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第18巻 p.291-306(DK180030k) ページ画像

明治18年6月9日(1885年)

先ニ当会、栄一並ニ益田孝ヲ東京市区改正審査委
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員ニ推薦セシガ、更ニ七名ノ調査委員ヲ撰ミテ同問題ニ就キ審議ヲ重ヌ。是日栄一当会会頭トシテ東京市区改正審査会長芳川顕正ニ市区改正ニ関スル建議書ヲ提出ス。


■資料

東京商工会議事要件録 第九号・第五六―五八頁 明治一八年三月一四日刊(DK180030k-0001)
第18巻 p.292 ページ画像

東京商工会議事要件録  第九号・第五六―五八頁 明治一八年三月一四日刊
  第五定式会  (明治十八年二月廿七日午後四時三十分開会)
    会員出席スル者 ○七十一名
○上略
次ニ会長(渋沢栄一)ハ市区改正審査会ノ景況ヲ報告シ、且ツ各員ニ向ヒ本会ニ於テハ曩ニ府知事閣下ノ公達ニ基キ市区改正審査委員二名ヲ撰挙シ、即チ本員及五十九番(益田孝)其推薦ニ応ゼシガ、抑モ市区改正ノ事タル全府ニ関スル至大ノ事業ニシテ固ヨリ軽忽ニ議定シ得ベキモノニ非ズ、就中土木ノ事ノ如キハ元来本員等ノ最モ短所トスル所ナレバ其摸様ニヨリテハ予メ各員ニ詢ルベキモノ実ニ少シトセズ、然ルニ審査会長ニ於テハ敢テ本件ヲ秘セラルヽト云フニハ非ザレトモ若シ審査未定ノ事項ヲ公衆ニ流伝スル時ハ之ガ為メ或ハ世上ヲ誤ラン事ヲ深ク懸念セラルヽニ付、今委員ニ下附セラレタル議案ヲ問題トシテ公然全会ノ意見ヲ問フ事ハ聊カ其筋ニ対シテ憚ル所ナキニ非ズ、故ニ此際更ニ本会ニ於テ最モ信任スベキ委員数名ヲ撰ンデ審査委員ノ顧問ニ応ゼシメタシトノ議ヲ発シタルニ、全会異議ナク之ヲ賛成シ、猶衆議ノ上終ニ会長ヨリ追テ七名ノ委員ヲ指名スベキニ決ス
  (会長ハ其後委員トシテ左ノ七名ヲ指名シタリ、依テ参考ノ為メ玆ニ附記ス)
              十六番    益田克徳
              二十番    大倉喜八郎
              四十三番   梅浦精一
              四十五番   渡辺治右衛門
              六十三番   柿沼谷蔵
              八十二番   山中隣之助
              八十四番   荘田平五郎


渋沢栄一書翰 萩原源太郎宛 (明治一八年)三月二三日(DK180030k-0002)
第18巻 p.292-293 ページ画像

渋沢栄一書翰  萩原源太郎宛 (明治一八年)三月二三日   (萩原英一氏所蔵)
拝啓然者市区改正ニ付、商工会全体より審査会へ可差出意見書案ハ粗末なから小生立案之上さし上可申積之処、何分諸事取込居候ニ付執筆之間合無之候間先日御打合之趣意ニて御起草被下度候、尤も最初ニハ此市区改正ハ重大之事件ニ付我々商人へ之関係も亦容易なるさる次第《(ら)》と存候間、本会ニ於て企望之要項ハ左ニ列記具申致スと申意味ニて緒言様之ものを記載し、其他ハ築港を第一着手とすへし、丸ノ中を区別して諸官衙地又ハ公園等を見込之外ハ市街ニ組込むへし、道路之巾ハ審査会御議定之如く可成広きを好むといえとも将来家屋改良之度も察知せす只道路さへ広くせハ可なりと申趣意ニハ不相成様致度、又此道路広伸ニ付而ハ町地之摸様変換可相生ニ付、右等ニ充分之注意有之度河川ハ可成丈必要之ものニ止メ其分ハ相当之巾ニいたし他ハ見合申度
 - 第18巻 p.293 -ページ画像 
河岸地ハ払下ニいたし度、物揚場ハ橋之近傍ニいたし度、川と沿岸之地形ニ注意有之度抔と申件々を一打書ニて取調候方可然と存候、其積ニ御草案可被下候
別紙ハ先日清書之分御受取申候ニ付返上仕候
右要用如此御坐候 匆々不宣
  三月廿三日
                     渋沢栄一
    萩原様

渋沢栄一書翰 萩原源太郎宛 (明治一八年)四月七日(DK180030k-0003)
第18巻 p.293 ページ画像

渋沢栄一書翰  萩原源太郎宛 (明治一八年)四月七日   (萩原英一氏所蔵)
此程御申越相成候市区改正之案ニ付、荘田氏之建議草案ハ委員之意見書ニ追加するニ無之、本会之建議ニ追加之見込と存候、然時ハ来ル十一日之会議ニ附し候件ニ付、兎ニ角原案へ御差加相成置候而可然と存候、且十一日之通達ハ既ニ御発し被成候哉、余り延引ハ不都合ニ付、もし右議案丈ケ延引候ハヽ跡廻しに被成其断を申添他之議案相添早々通知御取斗可被下候、此段申進候也
  四月七日               渋沢栄一
    萩原様
尚々荘田氏見込書ハ今日益田と面会之筈ニ付打合候上尚御答可申進と存候


東京商工会議事要件録 第一一号・第一二―三八頁 明治一八年六月二二日刊(DK180030k-0004)
第18巻 p.293-299 ページ画像

東京商工会議事要件録  第一一号・第一二―三八頁 明治一八年六月二二日刊
第六定式会
         (明治十八年五月廿六日午後六時開会)
第十臨時会
    会員出席スル者 ○五十一名
○上略
会長(渋沢栄一)ハ是ヨリ第一号議案即チ市区改正ノ儀ニ付建議ノ件ヲ議スベキ旨ヲ告ケ、書記ヲシテ之ヲ朗読セシム
    ○市区改正ノ義ニ付建議
兼テ其御筋ニ於テ御計画被為在候市区改正ノ義ハ、畢竟我東京ヲシテ遂ニ東洋ノ一大市場タラシムルノ御趣意ニシテ、是本会ニ於テ熱心賛成仕候処ニ御座候、而シテ其方案ニ就テハ目下御会ニ於テ専ラ御審査中ノ趣ニ御座候ヘハ、必ス完全至良ノ規模御議定可相成ハ本会ニ於テ深ク確信仕候得共、右ハ元来全国ノ利害ニ関係仕候重大ノ事業ニシテ殊ニ今日府下ニ棲息罷在候我々商人ニ取リテハ実ニ不容易関係有之候義ニ付、本会ニ於テモ篤ト審議ヲ遂ケ其希望ノ要項別紙ニ列記シ敢テ上呈仕候間、若シ万一御参考ノ一助トモ相成候ハヽ、本会ノ幸栄不過之奉存候、此段別紙意見書相添具陳仕候也
  明治十八年四月           東京商工会々長
    市区改正審査会長宛

    市区改正ニ付意見
一市区改正ヲ御実行相成候ニハ事業ノ難易ヲ量リ徐々ニ御着手相成、可成急劇ノ御処置無之様仕度候事
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  市区改正ハ実ニ全国ニ関スル重大ノ事件ニシテ若シ其成効ヲ一朝ニ期スル時ハ之ガ為メ莫大ノ費用相懸リ可申ト想察仕候、依テ先ヅ全体ノ規模御計画相成候上ハ、全府ノ中偶々火災ニ罹ル街区カ或ハ丸ノ内ノ如キ民設ノ建物無之場所ヨリ徐々ニ御着手相成、可成急劇ノ御処置無之様仕度希望仕候
一市区改正ヲ御実行相成候ニハ、先ヅ第一ニ港湾修築ニ御着手相成度候事
  市区改正ノ規模ヲ相定メ候ニハ全府ノ商勢ヲ観察仕候事最モ肝要ナルハ今改メテ申上候迄モ無之、然ルニ元来全府ノ商勢タル港湾ノ位地ニヨリテ大ニ其趣ヲ変更スヘキモノニシテ、若シ在来ノ隅田川ヲ利用シテ其河口ニ港湾ヲ築造仕候時ハ府下ノ繁昌ハ亀島川及日本橋川等ニ近接スル土地ニ集合可仕奉存候得共、若シ在来ノ隅田川ヲ利用セス別ニ築地海岸ニ沿フテ之ヲ築造仕候時ハ其繁昌ハ次第ニ南漸シテ遂ニ京橋以南ノ土地ニ相移リ可申ハ勢ノ最モ見易キ処ニ御座候、依テ今市区改正ヲ御実行相成候ニハ先ツ第一ニ港湾ノ修築ニ御着手相成度希望仕候
一若シ築地海岸ニ沿フテ港湾ヲ築造スルニ決スル上ハ、新橋以南高輪迄ノ海岸ヲ多少埋築シ、将来市区ノ益々繁昌スルニ従ヒ船渠及倉庫其他新街区建設ノ予備地トシテ御取設相成度候事
  市区改正ノ為メ道路ヲ広伸仕候ニハ勢市街地ノ面積ヲ縮小セザルベカラズ、左レバ他年府下ノ人口漸ク増殖スルニ従ヒ現在ノ区域狭隘ヲ感スベキハ亦必然ト奉存候、而シテ今全府ノ如何ナル部分ヲ広張スベキヤト云フニ港湾ニ近接スルノ場所最モ之ニ適スルモノト謂フベシ、依テ若シ築地海岸ニ沿フテ港湾ヲ築造スルニ決スル上ハ新橋以南高輪迄ノ海岸ヲ多少埋築シ、将来船渠及倉庫其他新街区建設ノ予備地トシテ御取設相成度希望仕候
一丸ノ内ハ諸官衙又ハ公園ノ敷地ニ必要ナル部分ヲ除キ、其他ハ総テ市街地ニ御編入相成度候事
  丸ノ内ハ府下ノ中心ニ位シ地形上至便ノ要地ナルニ付、若シ街路ヲ四通シ現在ノ外濠ヲ利用シテ運河ニ供スル時ハ将来一大繁栄地タルベキハ必然ト奉存候、依テ諸官衙又ハ公園ノ敷地ニ必要ナル部分ヲ除キ、其他ハ総テ市街地ニ御編入相成度希望仕候、而シテ若シ他日市区改正ニ御着手ノ時ニ当リ先ツ適当ノ制限ニヨリ玆ニ他ノ標目タルヘキ新街区ヲ御開設相成候ハヽ、事業御実施上或ハ幾分ノ御便宜モ可有之奉存候
一旧本丸ノ土手ヲ毀チ濠ヲ埋立テ、且ツ桜田御門ヨリ日比谷・馬場先和田倉・辰ノ口ノ土手ヲ毀チ濠ヲ埋立テ度候事
  市区ノ広キニ過グルハ便利上経済上共ニ甚ダ不利ナル所ナレバ、旧本丸及西丸下ハ之ヲ官省又ハ兵営ノ敷地及宅地ニ供スルニ屈竟ナル場所ト奉存候ヘドモ、何分現今ノ儘ニテハ之ヲ利用シ難キニ付、旧本丸ノ中西南皇城ニ接スル部分ヲ除キ其他ハ尽ク土手ヲ毀チ濠ヲ埋立テ度希望仕候
一道路ノ幅員ハ広濶ナル方最モ便利ト奉存候得共、将来家屋改良ノ度ヲ御参酌ノ上甚シキ不権衡不相生様御注意相成度、且ツ道路ノ広狭
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ハ可成各街区ノ地積ニ適応候様御注意相成度候事
  街路狭隘ニ失スル時ハ車馬雑遝ヲ極メ、通行人ノ危険実ニ不少、現ニ府下日本橋通リ及浅草須賀町通リノ如キハ即チ其一例ニ御坐候、依テ街路ノ幅員ハ成可之ヲ広クシ、車馬ノ来往ニ充分ノ余地ヲ与ヘン事最モ肝要ト奉存候、然リト雖トモ我国ニ於テハ従来平家若クハ二階家ニ住居致候者最モ多ク、仮令今ヨリ後数十年ヲ期スルモ尽ク之ヲ五層若クハ六層ノ家屋ニ改造為致候義ハ中々無覚束奉存候、依テ先ヅ将来家屋ニ改良ノ度ヲ御参酌ノ上甚シキ不権衡不相生様御注意相成度、且ツ道路ヲ広濶ナラシムルニハ勢各街区ノ地積ヲ縮小セザルヲ得ズ、而シテ各街区ニシテ若シ甚シク縮小ニ失シ候時ハ仮令道路ノ布置其宜ヲ得ルモ到底完全ノ市街ト難申奉存候間、此辺併テ御注意相成度希望仕候
一数線ノ道路交会シテ車馬最モ雑遝ヲ極メ候場所ニハ可成適当ノ余地ヲ御取設相成度候事
  市街要衝ノ地ニシテ各路線ノ縦横交叉致候場所ハ車馬輻輳シテ通行人ノ妨害不少、現ニ府下日本橋際及室町ヨリ石町ヘ右折スル場所ノ如キハ即チ其一例ニ御座候、依テ此等要衝ノ場所ニハ土地ノ模様ニヨリ適当ノ空地ヲ御取設相成度希望仕候
一河川ハ可成必要ノモノニ止メ、其他ハ新鑿ヲ御見合セ相成度、而シテ総テ運河ノ用ヲ達スベキ河川ノ幅員ハ少クモ十五間ニ下ラサル様御経画相成度候事
  欧米諸国ノ都府ニ於テハ多クハ陸運ニ依頼スルノ状況アリ、殊ニ従来利用シタル運河モ追々之ヲ塡塞致候モノモ不少趣承及候、是蓋シ水運ニ依頼スルニハ之ガ河岸ノ修築橋梁ノ修繕及淤泥ノ浚渫等ノ為メ時々多分ノ費用ヲ要スルニ因ル義ニシテ、我カ府下ニ於テモ他年市区改正ノ後ハ水運ニ依頼セズシテ可成陸運ニ依頼候方経済上最モ得策ト奉存候、依テ河川ハ差向必要ノ分ニ止メ、其他ハ新鑿ヲ御見合セ相成度、尤八間乃至十間巾ノ河川ハ殆ド運河ノ用ヲ達シ難ク奉存候ニ付、総テ水運ヲ弁スベキ河川ノ幅員ハ少クモ十五間ニ下ラザル様御経画相成度希望仕候
一河岸地ハ人民ニ御払下相成、橋ノ両側毎ニ官有河岸地ヲ設ケ置キ、之ヲ共同物揚場ニ御充用相成度候事
  河岸地ヲ私有シテ自ラ荷蔵等ヲ建設仕候義ハ各商人ノ最モ便利トスル所ニ御座候間、河岸地ハ人民ヘ御払下相成候様仕度、尤尽ク民有ニ帰シ候テハ或ハ公共ノ便利ヲ相欠キ候恐モ有之候ニ付、橋ノ両側毎ニ官有河岸地ヲ御取設ノ上之ヲ共同物揚場ニ御充用相成度希望仕候
一河水ノ深浅及沿岸ノ高低ニハ充分御注意相成度候事
  河水ノ深浅ハ通船ノ便否ニ関係シ沿岸ノ高低ハ橋ノ勾配如何ト着船ノ便否ニ関係スルガ故ニ此二件ハ共ニ緊要ノ事項ト奉存候依テ其辺充分ニ御注意相成度希望仕候、尤此等ノ義ニ就テハ固ヨリ深ク御注意被為在候事ト奉存候得共為念併テ上陳仕候
会長(渋沢栄一)曰ク、曩ニ府知事ノ公達ニヨリ本会ヨリ市区改正審査委員二名ヲ撰出セシガ、抑モ審査会ノ議案ハ兼テ該会長閣下ヨ
 - 第18巻 p.296 -ページ画像 
リ口達アリテ之ヲ公議シ難キニ付、今本会ニ於テ審議スベキ事項ハ固ヨリ其細目ニ渉ルヲ得ズ、是本案ニ掲グル所ノ事項稍ヤ詳密ヲ欠ク所以ナリ、而シテ本案載スル所ノ事項ニ就テハ調査委員中ニ於テモ猶其所見ヲ異ニスル程ナレバ各員若シ異論アラバ充分ニ之ヲ陳述セラレタシ
百九番(森島松兵衛)問フテ曰ク、本案第一条中火災ニ罹ル街区トハ如何ナル場所ヲ指スヤ
会長(渋沢栄一)答テ曰ク、是レ別段場所ヲ指シタルニ非ズ、蓋シ火災ニ罹リタル場所ノ如キハ市区ヲ改正スルニ別段転料ヲ要スル事ナケレ只之《(バ脱)》ヲ引例シタル迄ニシテ、要スルニ本条ニ説明スル所ハ急劇ノ処置ヲ厭フノ趣旨ニ過ギザルナリ
百九番(森島松兵衛)問フテ曰ク、本案第五条中桜田門ヨリ日比谷・馬場先・和田倉・辰ノ口ノ土堤ヲ毀チトアリテ、一言ノ鍛冶橋辺ニ及バザルハ如何ン
会長(渋沢栄一)答テ曰ク、鍛冶橋辺ノ土堤ハ無論之ヲ毀ツノ見込ナリ、蓋シ審査会ノ議案ニヨレバ鍛冶橋辺ヘ停車場ヲ設ケ土堤ヲ毀ツノ見込ニシテ本件ハ同会ニ於テ既ニ之ヲ可決シタルニ付、本条ニハ別ニ之ヲ掲記セザリシナリ
九十八番(吉田幸作)曰ク、本案ハ過刻会長ノ説明セラレタル如ク稍ヤ詳密ヲ欠クガ故ニ之ヲ審議スルニ当リ隔靴掻痒ノ感ナキ能ハズ抑モ本案ノ趣意ハ先ツ市区ノ一部分ヲ改正シテ雛形ヲ示スノ意カ将タ市区ノ全部ヲ尽ク改正スルノ意カ如何ン
会長(渋沢栄一)答テ曰ク、本案ハ敢テ雛形ヲ示スノ意ニアラス、要スルニ只予備ノ考案トシテ之ヲ建議セントスル迄ナリ、蓋シ市区改正ノ事業ニ二様ノ工事アリ、街区改正及港湾ノ修築即チ是ナリ抑モ街区改正ノ要目ハ道路ヲ新設シ又ハ其幅員ヲ広ムル事、遊園地又ハ広小路ノ類ヲ新設スル事、橋梁ヲ新架シ、又ハ之ヲ改築スル事、運河ヲ新鑿シ又ハ之ヲ浚渫スル事等ノ数項ニシテ此分ハ既ニ審査会ノ審議ヲ終リタレトモ、港湾修築ノ要目ハ船渠ヲ鑿ツ事河口ヲ浚渫スル事、突堤又ハ〆切ヲ築造スル事等ノ数項ニシテ、此分ハ今猶該会ノ審議中ナリ、而シテ此等ノ細目ニ就テハ固ヨリ本会ノ論議シ得ベキ所ニアラスト雖トモ、本案ニ掲グ 諸件ノ如キハ共ニ皆本会ノ審議シ得ベキ所ナリ、是委員カ斯ク立案シタル所以ナリ、又市区改正ニ就キ幾許ノ費用ヲ要スルヤハ未タ之ヲ確知スルヲ得スト雖トモ、今暫ク余カ推測スル所ニヨレハ街区ノ改正及港湾ノ修築ニ要スル費用ノ合計ハ凡金三千五六百万円ノ見積リナレトモ、其方案ノ如何ニヨリテハ或ハ猶一千万円ノ増費ヲ要スル事モアルベシ、聊カ各員ノ参考迄ニ敢テ玆ニ一言ス
二十番(大倉喜八郎)曰ク、今日ノ有様ニテハ全府ノ地積ハ寧ロ広キニ失スルカ如シ、故ニ本案中土堤ヲ毀チ濠ヲ埋立ツベシ等ノ字句ハ総テ之ヲ刪除セン事ヲ望ム
百九番(森島松兵衛)曰ク、規摸ノ大小定マラサレバ実施ノ緩急ヲ議決スルニ不便アリ、故ニ余ハ先ツ第二項以下ヲ逐条議決シタル上更ニ第一項ヲ審議セン事ヲ望ム
 - 第18巻 p.297 -ページ画像 
二十番(大倉喜八郎)曰ク、問題外ナレトモ玆ニ質問ヲ要スヘキ件アリ、抑モ港湾ノ修築ハ幾許ノ費用ヲ要シテ且ツ其支弁ノ方法ハ何レカ之レヲ負担スヘキヤ
会長(渋沢栄一)曰ク、此等ノ事ハ審査委員ト雖トモ詳知スルヲ得ス蓋シ此事業ノ為メ直接ニ利益ヲ蒙ル者ハ府民ナレハ其幾分ハ府民自ラ負担スルノ覚悟ナカルヘカラス
二十番(大倉喜八郎)曰ク、仮リニ我々府民ニ於テ築港費用ノ全額ヲ負担スルモノトシテ其利害ヲ考究スル時ハ自ラ適切ナル考案ヲ得ヘシ、故ニ先ツ此築港ニ付テハ其得失ヲ調査シテ精細ノ見積リヲ立テ然ル後其考案ヲ建議セン事ヲ望ム
会長(渋沢栄一)曰ク、現ニ本会ニ於テハ東京湾ヲ出入スル貨物ノ数量等ヲモ目下調査中ニ付、諸荷物艀賃等有形ニ属スルモノハ固ヨリ見積リ得ベシト雖トモ其無形ニ属スル者ノ如キハ何分其見積リヲ立ツルヲ得ザルベシ、左レハ今此港湾修築ニ就テ得失上精細ノ見積リヲ立ツル事ハ蓋シ容易ニ為シ能ハサル事ナリト思ハル
五十九番(益田孝)曰ク、審査会ノ決議ハ確定ニ至ル迄猶多少ノ時日ヲ要スベキカ故ニ仮令此建議ヲ延バスモ固ヨリ其効力ヲ減スルコトナカルヘシ、蓋シ本会ハ審査委員撰出ノ栄誉ヲ得、殊ニ此事業ニ就テハ一層適切ニ利害ヲ感スルカ故ニ、仮令細目ヲ論議スルヲ得ザルモ責メテハ大体ニ関スル意見ヲ建議セン事ヲ要ス、果シテ然ル時ハ審査委員ノ決議上ニ与フル効力蓋シ少々ナラザルベシ
百九番(森島松兵衛)曰ク、余ハ一日モ早ク之ヲ建議セン事ヲ望ム
拾三番(岩橋静彦)曰ク、二拾番ノ説最モ可ナリ、抑モ本件ハ至大ノ事業ニシテ軽忽ニ之ヲ議決スヘカラサルハ固ヨリ論ヲ待タズ、今夫レ現今ノ市区ニシテ如何程壮観ヲ呈スルモ若シ我国ノ富之ニ適応セサル時ハ到底其効能ヲ保全スル能ハス、故ニ先ツ充分ノ調査ヲ悉シ然ル後着実ニ之ヲ議決セン事ヲ望ム
二拾四番(松木平吉)曰ク、市区改正ノ細目ニ就テハ元来我々会員ノ詳知セサル所ナレハ只委員諸君ノ調査シタル議案ニ就テ充分ノ信ヲ置クノ外ナシ、但シ本案中本丸ノ土堤ヲ毀チ濠ヲ埋立テ云々ノ字句アレトモ抑モ府下本所区ノ如キ場所ヲ追々改正シテ市街地ニ充ツル時ハ、全府ノ地積狭小ヲ告クル事ナカルヘキカ故ニ此等ノ字句ハ削除シテハ如何ン、而シテ其事業ヲ実施スルニハ可成徐々ヲ要スト雖トモ此建議ハ一日モ早ク之ヲ上呈セン事ヲ望ム
四十三番(梅浦精一)曰ク、市区改正ノ事ハ既ニ其筋ニ於テ確定セラレタル上ナレバ本会ニ於テハ其大体ノ得失ヲ論ズルヲ要セズ只事業実施ノ順序等ヲ議シテ可ナラン、又市区改正ノ規摸ヲ定ムルニ今日我国ノ富ヲ参酌スヘシトノ説ハ一応其理ナキニ非ザレトモ、抑モ市区改正ハ所謂百年ノ計ナレバ、敢テ必ズシモ現当ノ状況ヲ目安トスルヲ要セサルベシ、又我々府民ハ工費ヲ負担スルモノトシテ其事業ノ得失ヲ議スベシトノ説ハ甚ダ深切ナルガ如シト雖トモ、工費支弁ノ事ニ就テハ其筋ニ於テ別ニ相当ノ経画アルベキニ付、今本会ニ於テ之ヲ議スルハ寧ロ越権ノ恐ナキニ非ズ、要スルニ本会ハ此事業ニ就キ商業上ノ利害如何ヲ考究スルヲ以テ足レリ
 - 第18巻 p.298 -ページ画像 
トス
二十番(大倉喜八郎)曰ク、只今四十三番ハ現当ノ情況ハ参酌スルヲ要セスト云ヘドモ、余ハ之ヲ参酌スルハ最モ以テ必要ナリト信ス又四十三番ハ費用ヲ議スルハ越権ノ恐アリト云フト雖トモ、只築港ヲ賛成スルト云フノミニテハ甚タ不親切ナルカ故ニ、先ツ府民ニ於テ自ラ其工費ノ幾分ヲ負担スル者トシテ、着実ニ其利害ヲ講究セン事ヲ要ス、是余カ飽ク迄前説ヲ主張スル所以ナリ
会長(渋沢栄一)曰ク、二十番ハ築港ニ就テ利用ノ調査ヲ要スルト云ヘリ、市区改正ニ就テハ別段其調査ヲ要セザルノ見込ナルヤ
二十番(大倉喜八郎)曰ク市区改正ノ利アルハ別段調査ヲ待タズシテ明カナリト雖トモ独リ築港ニ至リテハ其得失判定シ難キモノアリ是特ニ後者ニ就テ調査ヲ要スル所以ナリ
四十三番(梅浦精一)曰ク、聞ク処ニ拠レハ嘗テ審査委員カ該会長ニ工費支弁ノ方法ヲ問ヒタルニ、該会長ハ其方法ニ就テハ別ニ考案アルモノトシテ議案ヲ議スベキ旨ヲ命セラレタル趣、左レハ今本案ヲ議スルニ当リテハ其費用如何ンニ就キ別ニ顧慮スルヲ要セサルナリ
会長(渋沢栄一)曰ク、本案ノ主意ハ説明中ニモ述フルカ如ク元来全府ノ商勢ハ港湾ノ位地ニヨリテ変更スベキカ故ニ、若シ港湾ヲ修築スルモノトスル時ハ先ツ其方ヨリ着手スヘシト云フニ在リテ要スルニ事業実施ノ順序ヲ示スニ過キス、然ルニ二十番ハ一方ハ費用ノ見積リヲ要セサレトモ一方ハ特ニ之ヲ要スト云フ、是少シク権衡ヲ失スルニ似タリ、抑モ築港ノ得失ヲ考定スルニハ無形ニ属スル利益ヲモ精査セサルヲ得サルカ故ニ、普通営業ノ予筭ヲ立ツルガ如ク元金ニ対シテ何分ノ利益ヲ生スルト云フノ調査ハ到底為シ能ハサル所ナリ
五十九番(益田孝)曰ク、輸出入貨物ノ数量等ハ固ヨリ本会ノ調査シ得ヘキ所ナレトモ、工費ニ対シテ精細ニ其損益ヲ査定スルカ如キハ決シテ本会ノ為シ得ベキ所ニアラス、抑モ築港ノ事タル百年ノ大事業ニシテ殊ニ水利上ノ一大問題ナレハ、仮令一旦審査会ノ可決ヲ得ルトスルモ内務卿ハ更ニ専門ノ技術士ヲ招集シテ鄭重ノ審査ヲ遂クルニ非サレハ容易ニ着手セラレサルハ勿論、其工費支弁ノ方法等ニ就テハ必ス其筋ニ於テ精密ノ調査ヲ悉クサルベケレハ本会ニ於テ別段其費用ニ対シテ損益ヲ精査スル等ノ事ヲ要セス、只一応ノ所見ヲ建議スルヲ以テ足レリトス
四十二番(松尾儀助)曰ク、工費ニヨリテ損益ヲ精査スルカ如キハ到底本会ノ為シ能ハサル所ナレトモ、出入貨物ノ数量等ヲ調査スルハ固ヨリ本会ノ本分ナレハ此等ハ精査ヲ遂ケ参考ノ為メ併テ之ヲ上呈スベシ
二十六番(石関利兵衛)曰ク、審査会ノ決議ハ追テ議事結了スルノ日ニ至リ我々ニ於テ直チニ之ヲ確知スルヲ得ベキモノナルヤ
会長(渋沢栄一)曰ク、其筋ニ於テハ正当ノ手続ヲ経テ之ヲ確定スルニ非ザレハ容易ニ之ヲ公示セラレサルヘシ
二十六番(石関利兵衛)曰ク、果シ然ラバ時日ヲ延スモ詮ナキカ故ニ
 - 第18巻 p.299 -ページ画像 
本案ハ先ツ採否ヲ決シ、之ヲ採ルヘシト決スル上ハ在来ノ委員ニ数名ヲ増シテ充分文案ヲ調査セシメ直チニ之ヲ其筋ヘ建議スヘシ
九十九番(浅野彦兵衛)曰ク、工費ニ就テハ別ニ論議スルヲ要セストノ説モアリシカ、抑モ本件ハ至大ノ事業ナレハ其得失ヲ議スルニ当リ充分其費用ヲモ参酌セン事ヲ望ム
十二番(熊谷吉兵衛)曰ク、市区改正並ニ築港ノ事業ハ既ニ其筋ニ於テ可決セラレタル所ナラン、左レバ今本会ニ於テ仮令此挙ヲ非難スルモ以テ其筋ノ決議ヲ動カスニ足ラサルヘシ、且ツ曩キニ本会ニ於テ審査委員二名ヲ撰出シタルモノモ畢竟此挙ヲ賛成シタルカ故ナリ、然ルニ今本案ニ就キ異論ヲ主張スルハ恰モ総代委任ノ主意ニ反スルニ似タリ、故ニ本件ノ如キハ暫ク原案ニ従フモ可ナラン
会長(渋沢栄一)曰ク、我々審査委員両名ハ素ヨリ全会ノ委托ヲ受ケタルモノナレトモ、事抦ニヨリテハ両名ノ委員各々意見ヲ異ニスル事ナシトセズ、故ニ必ズシモ総代ノ性格ニ拘泥セズ各員ニ於テ異見アラバ充分ニ陳述セラレタシ
右ノ外各員ノ間多少ノ討論アリシカ、八十二番(山中隣之助)ヨリ先ツ総体ニ就キ速ニ可否ヲ決シタキ旨ヲ建議シタルニヨリ、遂ニ会長ハ先ヅ本案ノ全体ヲ可トスル者ニ起立ヲ命ジタルニ満場総起立ニ付、会長ハ更ニ本案ニ就テ直チニ逐条議ヲ開クベキヤ将タ別ニ議案ヲ調査シテ之ヲ議スベキヤヲ問ヒシニ、衆議ノ末本案ニ就キ直チニ逐条議ヲ開クヘシト云フニ決セシカ、会長ハ本案ノ外猶今夕議了スベキ議目数件アレトモ既ニ定例ノ時刻ヲ過ギタレバ此等ハ来六月四日臨時会ヲ開キテ之ヲ議スヘキ旨ヲ告ゲ、且ツ今般農商務卿閣下ヨリ目下各地農商工業上非常ノ衰運ニ陥リタル実況如何ヲ諮問セラレタルカ、是亦後会ニ於テ審議スベキ旨ヲ告ケ一同退散ヲ命ス、時ニ午後十時五十分ナリ


渋沢栄一書翰 萩原源太郎宛 (明治一八年五月)三一日(DK180030k-0005)
第18巻 p.299 ページ画像

渋沢栄一書翰  萩原源太郎宛 (明治一八年五月)三一日   (萩原英一氏所蔵)
○上略
先日御取調之市区改正ニ付本会建案之廉書ハ委員中一覧相済候哉、然時ハ是又印刷ニ付し候方と存候
○中略
  三十一日                渋沢栄一
    萩原様


東京商工会議事要件録 第一二号・第四―二二頁 明治一八年六月二九日刊(DK180030k-0006)
第18巻 p.299-303 ページ画像

東京商工会議事要件録  第一二号・第四―二二頁 明治一八年六月二九日刊
  第十一臨時会  (明治十八年六月四日午後六時三十分開会)
    会員出席スルモノ ○四十四名
○上略
会長(渋沢栄一)ハ是ヨリ本議ヲ開キ第一号議案ノ逐条議ヲ始ムベキ旨ヲ告ゲ、書記ヲシテ順次之ヲ朗読セシム
    市区改正ノ義ニ付建議
 兼テ其御筋ニ於テ御経画被為在候市区改正ノ義ハ、畢竟我東京ヲシテ遂ニ東洋ノ一大市場タラシムルノ御趣意ニシテ、是本会ニ於テ熱
 - 第18巻 p.300 -ページ画像 
心賛成仕候処ニ御坐候、而シテ其方案ニ就テハ目下御会ニ於テ専ラ御審査中ノ趣ニ御坐候ヘバ、必ス完全至良ノ規模御議定可相成ハ本会ニ於テ深ク確信仕候得共、右ハ元来全国ノ利害ニ関係仕候重大ノ事業ニシテ殊ニ今日府下ニ棲息罷在候我々商人ニ取リテハ実ニ不容易関係有之候義ニ付、本会ニ於テモ篤ト審議ヲ遂ゲ、其希望ノ要項別紙ニ列記シ敢テ上呈仕候間、若シ万一御参考ノ一助トモ相成候ハハ本会ノ幸栄不過之奉存候、此段別紙意見書相添具陳仕候也
  明治十八年四月           東京商工会々長
    市区改正審査会長宛
本条ニ就テハ二十四番(松木平吉)ヨリ本文中御審査中ノ下ノ趣ノ二字ヲ刪除スベシトノ説ヲ発セシガ、賛成者ナクシテ遂ニ本条ハ原案ニ可決ス
    市区改正ニ付意見
 一市区改正ヲ御実行相成候ニハ事業ノ難易ヲ量リ徐々ニ御着手相成可成急劇ノ御処置無之様仕度候事
   市区改正ハ実ニ全国ニ関スル重大ノ事件ニシテ、若シ其成功ヲ一朝ニ期スル時ハ之ガ為メ莫大ノ費用相懸リ可申ト想察仕候、依テ先ヅ全体ノ規模御経画相成候上ハ全府ノ中偶々火災ニ罹リシ街区カ、或ハ丸ノ内ノ如キ民設ノ建物無之場所ヨリ徐々ニ御着手相成、可成急劇ノ御処置無之様仕度希望仕候
本条ニ就テハ百九番(森島松兵衛)ヨリ本条ノ説明中火災ニ罹リシノ六字ヲ延焼シ易キノ五字ニ修正スベシトノ説ヲ発セシガ、賛成ナクシテ遂ニ本条ハ原案ニ可決ス
 一市区改正ヲ御実行相成候ニハ先ヅ第一ニ港湾修築ニ御着手相成度候事
   市区改正ノ規模ヲ相定メ候ニハ全府ノ商勢ヲ観察仕候事最モ肝要ナルハ今改メテ申上候迄モ無之、然ルニ元来全府ノ商勢タル港湾ノ位地ニヨリテ大ニ其趣ヲ変更スベキモノニシテ、若シ在来ノ隅田川ヲ利用シテ其河口ニ港湾ヲ築造仕候時ハ、府下ノ繁昌ハ亀島川及日本橋川等ニ近接スル土地ニ集合可仕奉存候得共若シ在来ノ隅田川ヲ利用セズ別ニ築地海岸ニ沿フテ之ヲ築造仕候時ハ、其繁昌ハ次第ニ南漸シテ遂ニ京橋以南ノ土地ニ相移リ可申ハ勢ノ最モ見易キ処ニ御座候、依テ今市区改正ヲ御実行相成候ニハ先ツ第一ニ港湾ノ修築ニ御着手相成度希望仕候
本条ニ就テハ二十番(大倉喜八郎)ヨリ原案ニ拠レバ築港果シテ成ラザル時ハ市区改正ヲ止メヨト云フノ意ナルガ如シ、故ニ本条ノ主意ヲ改メ先ツ築港ハ精確ノ見込ミ定マリタル上ニテ着手スベシ、而シテ市区改正ハ築港ノ成否ニ拘ラズ必ズ之ヲ実行スベシトノ意ヲ述ベタシトノ説ヲ発シタルニ、各員ノ間多少ノ議論モアリシガ遂ニ五十九番(益田孝)ノ本条ノ主意ヲ改メ、先ツ第一ニ市区改正ト共ニ築港ノ企業ヲ望ムノ意ヲ述ベ、次ニ市区改正ハ築港ノ方案定マリタル上ニテ着手セン事ヲ望ムノ意ヲ述ブベシトノ修正説ニ同意者多ク、依テ本条ハ書記ヲシテ更ニ此趣意ニ基テ字句ヲ修正セシムルニ決ス
 一若シ築地海岸ニ沿フテ港湾ヲ築造スルニ決スル上ハ新橋以南高輪
 - 第18巻 p.301 -ページ画像 
迄ノ海岸ヲ多少埋築シ、将来市区ノ益々繁昌スルニ従ヒ船渠及倉庫其他新街区建設ノ予備地トシテ御取設相成度候事
   市区改正ノ為メ道路ヲ広伸仕候ニハ勢市街地ノ面積ヲ縮小セザルベカラズ、左レバ他年府下ノ人口漸ク増殖スルニ従ヒ現在ノ区域狭隘ヲ感ズベキハ亦必然ト奉存候、而シテ今全府ノ如何ナル部分ヲ広張スベキヤト云フニ港湾ニ近接スルノ場所最モ之ニ適スルモノト謂フベシ、依テ若シ築地海岸ニ沿フテ港湾ヲ築造スルニ決スル上ハ新橋以南高輪迄ノ海岸ヲ多少埋築シ将来船渠及倉庫其他新街区建設ノ予備地トシテ御取設相成度希望仕候
本条ニ就テハ五十九番(益田孝)ノ本条ハ余リ細目ニ立入ルノ嫌アルヲ以テ之ヲ刪除スベシトノ説ニ同意者多ク、遂ニ本条ハ之ヲ刪除スルニ決ス
 一丸ノ内ハ諸官衙又ハ公園ノ敷地ニ必要ナル部分ヲ除キ其他ハ総テ市街地ニ御編入相成度候事
   丸ノ内ハ府下ノ中心ニ位シ地形上至便ノ要地ナルニ付、若シ街路ヲ四通シ現在ノ外濠ヲ利用シテ運河ニ供スル時ハ将来一大繁栄地タルベキハ必然ト奉存候、依テ諸官衙又ハ公園ノ敷地ニ必要ナル部分ヲ除キ其他ハ総テ市街地ニ御編入相成度希望仕候、而シテ若シ他日市区改正ニ御着手ノ時ニ当リ先ヅ適当ノ制限ニヨリ、玆ニ他ノ標目タルベキ新街区ヲ御開設相成候ハヽ、事業御実施上或ハ幾分ノ御便宜モ可有之奉存候
本条ニ就テハ八十四番(荘田平五郎)ハ而シテ以下ノ末文ヲ刪ルベシト云ヘ二十番(大倉喜八郎)ハ之ヲ存スヘシト主張セシガ、衆議ノ末遂ニ而シテ以下ノ末文ハ之ヲ刪除スルニ決ス
 一旧本丸ノ土手ヲ毀チ濠ヲ埋立テ、且ツ桜田御門ヨリ日比谷・馬場先・和田倉・辰ノ口ノ土手ヲ毀チ濠ヲ埋立テ度候事
   市区ノ広キニ過グルハ便利上経済上共ニ甚ダ不利ナル所ナレバ旧本丸及西丸下ハ之ヲ官省又ハ兵営ノ敷地及宅地ニ供スルニ屈竟ナル場所ト奉存候得共、何分現今ノ儘ニテハ之ヲ利用シ難キニ付、旧本丸ノ中西南皇城ニ接スル部分ヲ除キ其他尽ク土手ヲ毀チ濠ヲ埋立テ度希望仕候
本条ニ就テハ二十番(大倉喜八郎)ハ現在ノ市区決シテ狭小ナラサルニ付、本条ハ全ク之ヲ刪除スベシト主張シ、八十四番(荘田平五郎)ハ土堤及濠ヲ存スルハ経済上、便利上得策ナラザルニ付、本条ハ之ヲ除クベカラズト主張シ、二十八番(西宮新七)ハ土堤ヲ毀ツハ可ナルモ濠ハ之ヲ存スベシトノ説ヲ発シ、九十四番(峰島茂吉)及二十五番(丹羽雄九郎)ハ共ニ二十番ノ刪除説ヲ賛成シ、十六番(益田克徳)ハ原案ヲ賛成シ、百九番(森島松兵衛)ハ土堤ハ之ヲ毀チ濠ハ之ヲ改鑿シテ運河ニ供スベシトノ説ヲ発シ、議論紛々タリシガ、会長ハ先ヅ二十番ノ刪除説ニ起立ヲ命ジタルニ多数ニ付遂ニ本条ハ全ク之ヲ刪除スルニ決ス
 一道路ノ幅員ハ広濶ナル方最モ便利ト奉存候得共、将来家屋改良ノ度ヲ御参酌ノ上甚シキ不権衡不相生様御注意相成度、且ツ道路ノ広狭ハ可成各街区ノ地積ニ適応候様御注意相成度候事
 - 第18巻 p.302 -ページ画像 
   街路狭隘ニ失スル時ハ車馬雑遝ヲ極メ通行人ノ危険実ニ不少、現ニ府下日本橋通リ及浅草須賀町通リノ如キハ即チ其一例ニ御坐候、依テ街路ノ幅員ハ可成之ヲ広クシ車馬ノ往来ニ充分ノ余地ヲ与ヘン事最モ肝要ト奉存候、然リト雖トモ我国ニ於テハ従来平家若クハ二階家ニ住居致候者最モ多ク、仮令今ヨリ後数十年ヲ期スルモ尽ク之ヲ五層若クハ六層ノ家屋ニ改造為致候義ハ中々無覚束奉存候、依テ先ヅ将来家屋改良ノ度ヲ御参酌ノ上甚シキ不権衡不相生様御注意相成度、且ツ道路ヲ広濶ナラシムルニハ勢各街区ノ地積ヲ縮小セザルヲ得ズ、而シテ各街区ニシテ若シ甚シク縮小ニ失シ候時ハ仮令道路ノ布置其宜ヲ得ルモ到底完全ノ市街ト難申奉存候間、此辺併テ御注意相成度希望仕候
本条ハ各員異議ナク原案ニ可決ス
 一数線ノ道路交会シテ車馬最モ雑遝ヲ極メ候場所ニハ可成適当ノ余地ヲ御取設相成度候事
   市街要衝ノ地ニシテ各路線ノ縦横交叉致候場所ハ車馬輻輳シテ通行人ノ妨害不少、現ニ府下日本橋際及室町ヨリ石町ヘ右折スル場所ノ如キハ即チ其一例ニ御坐候、依テ此等要衝ノ場所ニハ土地ノ摸様ニヨリ適当ノ空地ヲ御取設相成度希望仕候
本条ハ各員異議ナク原案ニ可決ス
 一河川ハ可成必要ノモノニ止メ其他ハ新鑿ヲ御見合セ相成度、而シテ総テ運河ノ用ヲ達スベキ河川ノ幅員ハ少クモ十五間ニ下ラザル様御経画相成度候事
   欧米諸国ノ都府ニ於テハ多クハ陸運ニ依頼スルノ状況アリ、殊ニ従来利用シタル運河モ追々之ヲ塡塞致候モノモ不少趣承及候是蓋シ水運ニ依頼スルニハ之ガ河岸ノ修築橋梁ノ修繕及淤泥ノ浚渫等ノ為メ時々多分ノ費用ヲ要スルニ因ル義ニシテ、我ガ府下ニ於テモ他年市区改正ノ後ハ水運ニ依頼セズシテ可成陸運ニ依頼候方経済上最モ得策ト奉存候、依テ河川ハ差向必要ノ分ニ止メ其他ハ新鑿ヲ御見合セ相成度、尤八間乃至十間巾ノ河川ハ殆ド運河ノ用ヲ達シ難ク奉存候ニ付、総テ水運ヲ弁ズベキ河川ノ幅員ハ少クモ十五間ニ下ラザル様御経画相成度希望仕候
本条ハ各員異議ナク原案ニ可決ス
 一河岸地ハ人民ニ御払下相成、橋ノ両側毎ニ官有河岸地ヲ設ケ置キ之ヲ共同物揚場ニ御充用相成度候事
   河岸地ヲ私有シテ自ラ荷蔵等ヲ建設仕候義ハ各商人ノ最モ便利トスル所ニ御坐候間、河岸地ハ人民ヘ御払下相成候様仕度、尤尽ク民有ニ帰シ候テハ或ハ公共ノ便利ヲ相欠キ候恐モ有之候ニ付、橋ノ両側毎ニ官有河岸地ヲ御取設ノ上之ヲ共同物揚場ニ御充用相成度希望仕候
本条ニ就テハ百九番(森島松兵衛)ハ河岸地ヲ設クルニハ河幅十間以上ノモノニ限ルベシトノ説ヲ発シ、二十番(大倉喜八郎)ハ、先ヅ家屋建築ニ制限ヲ置キ、此制限ニ従フ者ニ限リ河岸地ヲ払下グル事ニ致シタシトノ説ヲ発シ、八番(大塚藤平)ハ官有河岸地ハ必ズシモ橋ノ両側ニノミ限ルベカラズトノ説ヲ発セシガ、猶衆議ノ上本条ハ原案ニ
 - 第18巻 p.303 -ページ画像 
可決ス
 一河水ノ深浅及沿岸ノ高低ニハ充分御注意相成度候事
   河水ノ深浅ハ通船ノ便否ニ関係シ、沿岸ノ高低ハ橋ノ勾配如何ト着船ノ便否ニ関係スルガ故ニ此二件ハ共ニ緊要ノ事項ト奉存候、依テ其辺充分ニ御注意相成度希望仕候、尤此等ノ義ニ就テハ固ヨリ深ク御注意被為在候事ト奉存候得共為念併テ上陳仕候
本条ニ就テハ八十三番(阿部泰蔵)ヨリ河水ノ深浅及沿岸ノ高低等ハ固ヨリ当局者ノ充分注意アルベキ筈ニ付之ヲ刪除スベシトノ説ヲ発セシガ、賛成者ナクシテ遂ニ本条ハ原案ニ可決ス
次ニ会長(渋沢栄一)ハ百九番(森島松兵衛)ヨリ兼テ本案ニ就キ追加説三条ヲ提出シタルニ付、逐条其可否ヲ決スベキ旨ヲ告ゲ書記ヲシテ順次之ヲ朗読セシム
 一市区改正ノ義ハ再ビ動カスベカラザル至大ノ事業ナルニ付、仮令其御着手ハ数年若クハ数十年ノ後ニ在ルモ其規模ハ御確定次第直チニ府民ニ御告示相成度候事
本条ハ各員異議ナク之ヲ可決ス
 一市区改正御実行ノ場合ニ於テ火災ニ罹ラザル居住者ニ立退又ハ家屋切詰等ヲ達セラルヽニハ少クモ其実施ノ三年前ニ予告セラレ度候事
本条ニ就テハ多少ノ異議ナキニ非ザリシガ衆議ノ上遂ニ之ヲ可決ス
 一市区改正御実行ニ際シ居住者ニ立退又ハ家屋切詰等ヲ達セラルヽニハ、商工業者ト通勤者又ハ隠居人トノ間ニ区別ヲ立テ商工業者ニハ特別ノ買上料ヲ御下附相成度候事
本条ニ就テハ五十九番(益田孝)及八十四番(荘田平五郎)ハ共ニ無形財産ノ貴重ナル所以ヲ切論シテ熱心ニ原案ヲ賛成シ、二十五番(丹羽雄九郎)二十番(大倉喜八郎)二十六番(石関利兵衛)等亦共ニ原案ヲ賛成シ、八十二番(山中隣之助)ハ本条ニ掲グル件ノ如キハ決シテ之ヲ実施スルヲ得ザルモノニ付本会ヨリ之ヲ建議スルハ非ナリトノ説ヲ主張シ、四十三番(梅浦精一)ハ無形ノ財産ハ元来之ヲ定ムルノ標準ナキモノニ付、仮令之ヲ建議スルトスルモ若シ其筋ヨリ之ヲ実施スルノ方法ヲ本会ニ諮問セラルヽ時ハ本会ニ於テハ蓋シ其答案ニ苦シム事アラン、故ニ本条ハ之ヲ廃棄スベシトノ説ヲ主張シ、十六番(益田克徳)ハ無形ノ財産ノ如キハ実際之ヲ定ムルノ標準ナク、且ツ斯ヽル大事業ヲ実行スルニ当リ公共ノ為メ多少私益ヲ損スルハ蓋シ免カレ難キ所ナレバ、此等ノ件ハ寧ロ顧慮スルニ足ラストノ説ヲ発シ、会長(渋沢栄一)ハ元来本条ニ掲グル件ハ審査会長ノ権限外ニ在ルモノナレバ其事ノ当否ハ暫ク置キ之ヲ建議スルハ不可ナリトノ説ヲ発シ、其他猶多少ノ議論アリシガ会長(渋沢栄一)ハ先ツ之ヲ廃棄スベシト云フノ説ニ起立ヲ命ジタルニ多数ニ付遂ニ本条ハ之ヲ廃棄スルニ決ス
  (市区改正ノ建議案ハ其後理事本員ニ於テ字句ヲ修正シ、六月九日附ヲ以テ之ヲ審査会長ニ進達セリ、依テ其全文ヲ本号ノ参考部ニ附ス)


東京商工会議事要件録 第一二号・第四一―五一頁 明治一八年六月二九日刊(DK180030k-0007)
第18巻 p.303-306 ページ画像

東京商工会議事要件録  第一二号・第四一―五一頁 明治一八年六月二九日刊
 - 第18巻 p.304 -ページ画像 
 ○参考部
    ○市区改正ノ義ニ付建議
兼テ其御筋ニ於テ御経画被為在候市区改正ノ義ハ、畢竟我東京ヲシテ遂ニ東洋ノ一大市場タラシムルノ御趣意ニシテ、是本会ニ於テ熱心賛成仕候処ニ御座候、而シテ其方案ニ就テハ目下御会ニ於テ専ラ御審査中ノ趣ニ御座候ヘハ、必ズ完全至良ノ規模御議定可相成ハ、本会ニ於テ深ク確信仕候得共、右ハ元来全国ノ利害ニ関係仕候重大ノ事業ニシテ、殊ニ今日府下ニ棲息罷在候我々商人ニ取リテハ実ニ不容易関係有之候義ニ付、本会ニ於テモ篤ト審議ヲ遂ゲ、其希望ノ要項別紙ニ列記シ、敢テ上呈仕候間、若シ万一御参考ノ一助トモ相成候ハヽ、本会ノ幸栄不過之奉存候、此段別紙意見書相添具陳仕候也
  明治十八年六月九日         東京商工会々頭
                      渋沢栄一
    市区改正審査会長芳川顕正殿

    市区改正ニ付意見
一市区改正ヲ御実行相成候ニハ事業ノ難易ヲ量リ徐々ニ御着手相成、可成急劇之御処置無之様仕度候事
  市区改正ハ実ニ全国ニ関スル重大ノ事件ニシテ、若シ其成功ヲ一朝ニ期スル時ハ、之ガ為メ莫大ノ費用相懸リ可申ト想察仕候、依テ先ヅ全体ノ規模御計画相成候上ハ、全府ノ中偶々火災ニ罹ル街区カ、或ハ丸ノ内ノ如キ民設ノ建物無之場所ヨリ徐々ニ御着手相成、可成急劇ノ御処置無之様仕度希望仕候
一市区改正ノ義ハ再ビ動カスヘカラザル至大ノ事業ニ付、仮令其御着手ハ数年若クハ数十年ノ後ニ在ルモ、其規模ハ御確定次第直チニ府民ニ御告示相成度候事
  頃日市区改正ノ風説流布仕候以来、府民ハ其規模果シテ如何ンヲ顧慮シテ、自ラ居住ニ安ンゼザルノ情況有之、家屋建築ノ如キハ之ヲ見合セ候者最モ多ク、既ニ着手シタル工事ト雖トモ為メニ中止致候者亦不少、殊ニ職工ノ如キハ此影響ニヨリテ大ニ其職業ヲ縮小シタルノ実況相見ヘ候、依テ一旦市区改正ノ規模御確定相成候上ハ、市街ノ区画・溝渠道路ノ位置及幅員・家屋ノ制限等ハ勿論、路次庇間ノ制限等ニ至ル迄、一日モ早ク府民ニ御告示相成度希望仕候、果シテ然ル時ハ府民大ニ安堵シ其改正スヘキ部分ハ時期ヲ待タズ自ラ進ンテ着手スルニ至リ、事業ノ成就ハ予想外ニ相運ビ可申奉存候、且ツ之ガ為メ全府ノ経済宜ヲ得テ職工ノ如キモ自然ニ其余沢ヲ蒙リ、結局府民一般ノ便利ヲ進捗スル事、実ニ不少ト奉存候
一市区改正御実行ノ場合ニ於テ、火災ニ罹ラザル居住者ニ立退又ハ家屋切詰等ヲ達セラルヽニハ、少クモ其実施ノ三年前ニ予告セラレ度候事
  凡ソ火災ニ罹ラザル者突然立退又ハ家屋切詰等ヲ命ゼラレ候時ハ其営業上ノ損害実ニ容易ナラズ、依テ火災ニ罹リ候場合ハ格別、苟クモ平時ニ在リテ立退又ハ家屋切詰等ヲ達セラルヽニハ、少ク
 - 第18巻 p.305 -ページ画像 
モ其実施ノ三年前ニ其旨ヲ予告セラレ、以テ居住者ヲシテ其準備ニ必要ナル猶予ヲ得セシメ度希望仕候
一市区改正ト共ニ築港ノ義モ併セテ御企業相成度、而シテ右市区改正ノ義ハ先ヅ築港ノ方案定マリタル上ニテ御着手相成度候事
  市区改正ノ規模ヲ相定メ候ニハ、全府ノ商勢ヲ観察仕候事最モ肝要ナルハ今改メテ申上候迄モ無之、然ルニ元来全府ノ商勢タル港湾ノ位地ニヨリテ大ニ其趣ヲ変更スヘキモノニシテ、若シ在来ノ隅田川ヲ利用シテ其河口ニ港湾ヲ築造仕候時ハ、府下ノ繁昌ハ亀島川及日本橋川等ニ近接スル土地ニ集合可仕奉存候得共、若シ在来ノ隅田川ヲ利用セズ、別ニ築地海岸ニ沿フテ之ヲ築造仕候時ハ其繁昌ハ次第ニ南漸シテ、遂ニ京橋以南ノ土地ニ相移リ可申ハ勢ノ最モ見易キ処ニ御座候、依テ今市区改正ヲ御実行相成候ニハ先ヅ第一ニ港湾ノ修築ニ御着手相成度希望仕候
一丸ノ内ハ諸官衙又ハ公園ノ敷地ニ必要ナル部分ヲ除キ、某他ハ総テ市街地ニ御編入相成度候事
  丸ノ内ハ府下ノ中心ニ位シ地形上至便ノ要地ナルニ付、若シ街路ヲ四通シ現在ノ外濠ヲ利用シテ運河ニ供スル時ハ、将来一大繁栄地タルヘキハ必然ト奉存候、依テ諸官衙又ハ公園ノ敷地ニ必要ナル部分ヲ除キ、其他ハ総テ市街地ニ御編入相成度希望仕候
一道路ノ幅員ハ広濶ナル方最モ便利ト奉存候得共、将来家屋改良ノ度ヲ御参酌ノ上甚シキ不権衡不相生様御注意相成度、且ツ道路ノ広狭ハ可成各街区ノ地積ニ適応候様御注意相成度候事
  街路狭隘ニ失スル時ハ車馬雑遝ヲ極メ通行人ノ危険実ニ不少、現ニ府下日本橋通リ及浅草須賀町通リノ如キハ即チ其一例ニ御座候依テ街路ノ幅員ハ可成之ヲ広クシ車馬ノ来往ニ充分ノ余地ヲ与ヘン事最モ肝要ト奉存候、然リト雖トモ我国ニ於テハ従来平家若クハ二階家ニ住居致候者最モ多ク、仮令今ヨリ後数十年ヲ期スルモ尽ク之ヲ五層若クハ六層ノ家屋ニ改造為致候義ハ中々無覚束奉存候依テ先ヅ将来家屋改良ノ度ヲ御参酌ノ上、甚シキ不権衡不相生様御注意相成度、且ツ道路ヲ広濶ナラシムルニハ勢各街区ノ地積ヲ縮小セザルヲ得ズ、而シテ各街区ニシテ若シ甚シク縮小ニ失シ候時ハ仮令道路ノ布置其宜ヲ得ルモ到底完全ノ市街ト難申奉存候間此辺併テ御注意相成度希望仕候
一数線ノ道路交会シテ車馬最モ雑遝ヲ極メ候場所ニハ、可成適当ノ余地ヲ御取設相成度候事
  市街要衝ノ地ニシテ各路線ノ縦横交叉致候場所ハ、車馬輻輳シテ通行人ノ妨害不少、現ニ府下日本橋際及室町ヨリ石町ヘ右折スル場所ノ如キハ即チ其一例ニ御座候、依テ此等要衝ノ場所ニハ土地ノ模様ニヨリ適当ノ空地ヲ御取設相成度希望仕候
一河川ハ可成必要ノモノニ止メ其他ハ新鑿ヲ御見合セ相成度、而シテ総テ運河ノ用ヲ達スベキ河川ノ幅員ハ少クモ十五間ニ下ラザル様御経画相成度候事
  欧米諸国ノ都府ニ於テハ多クハ陸運ニ依頼スルノ状況アリ、殊ニ従来利用シタル運河モ追々之ヲ塡塞致候モノモ不少趣承及候、是
 - 第18巻 p.306 -ページ画像 
蓋シ水運ニ依頼スルニハ之ガ河岸ノ修築、橋梁ノ修繕及淤泥ノ浚渫等ノ為メ時々多分ノ費用ヲ要スルニ因ル義ニシテ、我カ府下ニ於テモ他年市区改正ノ後ハ、水運ニ依頼セズシテ可成陸運ニ依頼候方経済上最モ得策ト奉存候、依テ河川ハ差向必要ノ分ニ止メ、其他ハ新鑿ヲ御見合セ相成度、尤八間乃至十間巾ノ河川ハ殆ド運河ノ用ヲ達シ難ク奉存候ニ付、総テ水運ヲ弁ズヘキ河川ノ幅員ハ少クモ十五間ニ下ラザル様御経画相成度希望仕候
一河岸地ハ人民ニ御払下相成、橋ノ両側毎ニ官有河岸地ヲ設ケ置キ、之ヲ共同物揚場ニ御充用相成度候事
  河岸地ヲ私有シテ自ラ荷蔵等ヲ建設仕候義ハ、各商人ノ最モ便利トスル所ニ御座候間、河岸地ハ人民ヘ御払下相成候様仕度、尤尽ク民有ニ帰シ候テハ或ハ公共ノ便利ヲ相欠キ候恐モ有之候ニ付、橋ノ両側毎ニ官有河岸地ヲ御取設ノ上、之ヲ共同物揚場ニ御充用相成度希望仕候
一河水ノ深浅及沿岸ノ高低ニハ充分御注意相成度候事
  河水ノ深浅ハ通船ノ便否ニ関係シ、沿岸ノ高低ハ橋ノ勾配如何ト着船ノ便否ニ関係スルガ故ニ、此二件ハ共ニ緊要ノ事項ト奉存候依テ其辺充分ニ御注意相成度希望仕候、尤此等ノ義ニ就テハ固ヨリ深ク御注意被為在候事ト奉存候得共為念併テ上陳仕候
   ○本資料第二部社会公共事業第六章政治自治行政中「東京市区改正審査会」ノ条参照。



〔参考〕東京市区改正並品海築港審査議事筆記 第一二号(DK180030k-0008)
第18巻 p.306 ページ画像

東京市区改正並品海築港審査議事筆記  第一二号
    明治十八年六月三十日午後第一時二十分開議
         井上工部大輔 長与内務省三等出仕 品川農
      闕席 商務大商書記官 小野田二等警視 渋沢栄一
         益田孝
○会長曰 一事諸君ニ告ク、玆ニ商工会ヨリノ建議アリ、即チ朗読セシムヘシ
  書記朗読、左ノ如シ
    市区改正ノ儀ニ付建議 ○略ス
○会長曰 右聞カルヽ如ク大体此会ニ於テ討議セシコトヽ差異ナク、概ネ然ルヘキ事ナリト考フルナリ
○桜井内務大書記官曰 山崎君ノ建議説ハ自ラ起草セラルヽヨウ致シタシ
○会長曰 是ハ左様ニナスヘシ、是レニテ今日ハ散会セン
  時ニ午後第二時