デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第18巻 p.436-450(DK180038k) ページ画像

明治18年12月28日(1885年)

是ヨリ先当会、森島松兵衛等ノ建案セル同業組合ノ設立ヲ要スルノ儀ニ就キ審議セシガ、是日栄一当会会頭トシテ、同業組合準則ヲ廃止シ新条例ヲ制定シテ同業組合ノ設立ヲ或程度強制的ナラシメンコトヲ農商務大臣子爵谷干城ニ建議ス。


■資料

東京商工会議事要件録 第一六号・第六―三一頁 明治一八年一二月刊(DK180038k-0001)
第18巻 p.436-441 ページ画像

東京商工会議事要件録  第一六号・第六―三一頁 明治一八年一二月刊
  第八定式会
          (明治十八年十一月十二日午後六時三十分開会)
  第十五臨時会
    会員出席スル者 ○三十六名
○上略
次ニ会長(渋沢栄一)ハ是ヨリ引続キ第二号議案ヲ議スベキ旨ヲ告ゲ書記ヲシテ之ヲ朗読セシム
(第二号議案)
    同業組合ノ設立ヲ要スル義ニ付建議
別紙ノ要項何卒本会ノ意見トシテ其筋ヘ建議相成度此段及建議候也
  明治十八年九月      百九番    森島松兵衛
               四十三番   梅浦精一
               十一番    犬塚駒吉
  東京商工会々頭
    渋沢栄一殿
(別紙)
    再ビ同業組合ノ設立ヲ要スル義ニ付建議
一昨十六年十二月廿七日附ヲ以テ府下ノ同業組合ニ於テ其取締規則ノ制定ヲ望ムヤ如何ノ義御諮問有之候ニ付、本会ニ於テハ其後篤ト審議ヲ遂ゲ、昨十七年五月十九日附ヲ以テ府下商工同業組合ニ於テハ其取締規則ノ制定ヲ切望仕候旨復申仕候処、猶本会ノ考案スル処ニヨレバ只既設ノ組合ヲ規正スルノ取締法ノミニテハ其効能甚ダ薄弱ト奉存候ニ付、更ニ一歩ヲ進メ其御筋ヨリ地方長官ニ凡ソ生産及商工業ノ進歩ヲ図ルニ必要ナル場合ニ於テハ、適当ノ区域ニ従ヒ其所管内ノ商工同業者ヲシテ組合ヲ設立セシムルヲ得ルト云フノ御布達ヲ発セラレ度旨併テ建議仕候処、其後同年十一月廿九日御省第三十七号ノ御布達ヲ以テ同業組合準則御発布相成、是本会ニ於テ私ニ喜ブ処ニ御座候
右準則ニヨレバ各商工同業者間ニ取結ブ所ノ規約ハ自今其御筋ニ於テ改メテ御認可相成筈ニ付、其ノ効能ハ在来私約ノ時ノ比ニアラズシテ要スルニ組合取締上一層ノ便利ヲ与フベキハ勿論ト奉存候得共、今退テ熟々実際ノ状況ヲ察スルニ府下ノ如キ右御布達御発布以来今日ニ至ル迄此準則ニヨリテ組合ヲ新設致候商工業ノ種類ハ甚タ僅少ニシテ、中ニハ偶々二三ノ篤志者ガ同業ノ公益ヲ進捗スルノ目的ヲ以テ組合設
 - 第18巻 p.437 -ページ画像 
立方熱心経画致候者有之候得共、一個ノ私利ニ汲々シテ此挙ヲ拒ム者有之候為メ未ダ各商工業ヲシテ充分此準則ノ利用ヲ感ゼシムルニ至ラズ、是或ハ当業者ガ未ダ其手続ニ慣熟セザルヨリ致ス所ニ可有之候得共、畢竟右準則ニ示サルヽ処ニヨレバ其組合ノ設立ハ毫モ其筋ノ御命令ニヨラズシテ、要スルニ之ヲ設立スルト否トハ全ク各商工業者ノ自由ニ放任セラルヽノ故ト奉存候
右準則第一条中ニ同業者組合ヲ設ケントスル時ハ適宜ニ地区ヲ定メ其地区内同業者四分ノ三以上ノ同意ヲ以テ規約ヲ作リ云々ト有之候得共斯ノ如ク一方ニ於テ其御筋ヨリ組合設立ニ就テ毫モ命令セラルヽ事ナク、一方ニ於テハ当業者ガ全ク組合ヲ設立スルノ責任ヲ有セザルガ故ニ、今篤志者ガ率先シテ組合ノ設立ヲ経画スルニ当リ若シ不幸ニシテ四分ノ三以上ノ同意者ヲ得ル事能ハザルニ於テハ、仮令其業務ノ種類ハ如何程緊要ニシテ其関係スル処ハ如何程広大ナルニモ拘ラス到底此業務ニハ全ク其組合ノ設立ヲ見ルノ期ナカルベシ、是本会ノ深ク遺憾トスル処ニ御座候
今ヤ全国商工業一般ニ衰況ヲ呈シタルハ既ニ蔽フ可カラザルノ事実ニシテ其原因固ヨリ種々可有之候得共、近来当業者ノ徳義益々衰頽シテ其取引自ラ不安固トナリタルコト蓋シ其一原因ナルベシト奉存候、故ニ此際重立タル商工業ヲシテ各々組合ヲ設立セシメ、以テ互ニ相誘掖シテ其営業上ノ弊害ヲ矯正セシムル事特ニ目下ノ急務ト奉存候間、何卒前記第三十七号御布達ノ御趣旨ヲ一層拡充セラレ自今同業組合設立ノ義ハ全ク当業者ノ自由ニ放任セラレズシテ、凡ソ重立タル各商工業ニハ先ヅ其御筋ニ於テ適宜ニ地区ヲ定メラレ此地区内ノ同業者ハ必ズ団結シテ組合ヲ設立致候様、御命令相成度切望仕候、本会ガ曩ニ同業組合ノ設立ヲ要スル義ニ付建議仕候精神モ実ニ此要旨ニ外ナラザル義ニ御座候、依テ此段再ビ建議仕候也
会長(渋沢栄一)曰ク、抑モ同業組合ノ事ハ若シ任他ニ失スル時ハ為ニ商工業ノ秩序ヲ敗頽スルノ恐アリ、若シ干渉ニ過グル時ハ或ハ小数ヲ以テ多数ヲ圧制スルノ弊ナシトセズ、故ニ本案ニ就テハ各員熟慮ノ上其意見ヲ陳述セラレタシ
四十二番(松尾儀助)曰ク、本案ノ要旨ハ命令ヲ以テ組合ヲ立テシムルノ意ナルヤ
会長(渋沢栄一)曰ク、然リ、然レトモ瑣小ナル商工業ニ至ル迄尽ク組合ヲ立テシムルノ意ニ非ズ、只重立チタル商工業ニ限ルノ意ナリ
四十二番(松尾儀助)曰ク、余輩過日嘗テ陶漆器集談会ヲ開キタルニ当リ全国ノ当業者ヲ団結シテ組合ヲ立テシムルノ方法ヲ農商務卿閣下ニ建議シタル事アリシガ、規約ニ背ク者ノ処分法ニ就テハ最モ思慮ヲ費シタリ、要スルニ命令ヲ以テ組合ヲ立テシムル事ハ重立チタル商工業ニ取リテ最モ肝要ナルベシト思考ス
六十六番(柴原武雄)曰ク、余ハ本案ヲ賛成ス
二十番(大倉喜八郎)曰ク、本案ノ要旨ハ最モ実際ニ適切ナリ、抑モ命令ヲ以テ組合ヲ立テシムル事ノ如キハ其一利一害アル事過刻会長ノ陳述セラレタルカ如シ、然リト雖トモ若シ其害ヲ恐レテ之ヲ
 - 第18巻 p.438 -ページ画像 
実施セサル時ハ以テ事業ノ進歩ヲ沮滞スルヲ恐ルヽナリ、古語ニ一利ヲ起サンヨリ寧ロ一害ヲ除クニ如カスト云フカ如キハ今日開明ノ世界ニハ不適当千万ノ套語ニシテ、寧ロ一利ヲ起シテ後チ之ニ附従スル所ノ弊害ヲ除クニ若カサルベシ、此害ヲ除ニ吝ナラザルハ欧米人ノ実際ニ施行スルノ現況ナレハ苟モ前途ニ利益アリト認メタル事柄ハ速ニ之ヲ実行スル事今日ノ場合ニハ尤モ以テ必要ナラン、現ニ余ノ関係スル茶業ノ如キ準則ニヨリテ組合ヲ組成セシ以来種々ノ故障ハアリタレトモ結局其利益アル事ヲ実験セリ、又余カ営業ノ一部ナル洋服裁縫業ノ如キ目下組合設立方経画中ナルガ往々之ニ不同意ヲ唱ル者アリ、而シテ其理由ノ如何ンヲ問ヘハ詰リ我商業社会ニ従前ヨリ行ルヽ妬心ヲ含蓄スル所ノ商売敵キト云フカ如キ極メテ浅薄ナル心情ヨリ不同意ヲ鳴ラスニ過キスシテ敢テ取ルニ足ラサルモノ多シ、是レ啻ダ洋服裁縫商ノミナラズ其他ノ営業者中ニモ亦往々如此故障ヲ唱フル者多キガ故ニ、斯ル場合ニ於テハ其筋ノ命令ヲ以テ組合ヲ設立セシメ而シテ后其弊ヲ矯正スル事実ニ必要ノ手段ナリト謂フベシ
四十五番(渡辺治右衛門)百十番(中村三郎兵衛)八番(大塚藤平)共ニ本案ヲ賛成ス
十四番(川原英次郎)曰ク、余モ之ヲ賛成ス、抑モ同業組合ノ規約中最モ必要トスル処ノ箇条ハ各自取引ノ方法ヲ一定シテ荷主ノ専横ヲ防グニ在リ、然ルニ或ル組合ノ如キハ其規約中其要点ヲ欠クガ故ニ例ヘバ地方ノ荷主ガ府下ノ甲問屋ヘ向ケ為換付ノ商品ヲ送ル場合ノ如キ、偶々其商品ノ時価大ニ低落シテ甲問屋ヨリ送金ヲ促スモ之ニ応ズル事ナクシテ其後ニ至リテハ此損金ヲ差引カレン事ヲ恐レテ更ニ他ノ乙問屋ト取引セントシ、此乙問屋モ甘ンジテ之ニ応ズルガ如キノ弊アリ、此等ノ事ハ啻ニ問屋一己ノ損毛タルノミナラズ結局一般公益ノ改進ヲ沮滞スル事亦実ニ少シトセズ、故ニ今同業組合ヲ設立スルニ当リテハ前陳ノ要旨ニ従テ規約ヲ定メシムル事最モ肝要ナリト信ズ
八十二番(山中隣之助)曰ク、余モ亦大ニ本案ヲ賛成ス蓋シ同業組合準則ニ示サル、所ハ在来ノ同業者中ニ数派ノ組合アルモ尽ク之ヲ合同スルノ精神ニシテ現ニ府庁ニ於テモ此趣旨ヲ以テ厚ク誘導セラルヽ趣ナレトモ、聞ク処ニヨレバ当府下ノ如キ同業者中新旧ノ両派アリテ互ニ協和シ難キガ為メ不得已此準則ニ拠ラザルモノアリト云ヘリ、此等ノ場合ニ於テハ必ズシモ両派ヲ合同スルヲ要セズ、各々其分立ヲ許スモ可ナリ、故ニ余ハ此意見ヲ建議書中ニ添加スルカ、否ザレバ会頭ヨリ此等ノ内情ヲ主務官ニ口陳セラレン事ヲ望ム
十六番(益田克徳)曰ク、本会ノ会員ハ多クハ組合ノ公撰ヲ以テ出席スル人々ナレバ本案ニ就テハ無論異議ヲ挟ム人ナカルベシ、然リト雖トモ命令ヲ以テ組合ヲ設立セシムル時ハ之ニ伴フノ弊害ヲ生ズルヤ必セリ、蓋シ組合ニ加盟ヲ望マザル者ハ固ヨリ一個ノ私利ニヨルモノナキニ非ザルベシト雖トモ、亦全ク一個ノ私利ニヨラズシテ組合役員ノ圧制ヲ嫌フ等ノ事情ニヨルモノ少カラザルベシ
 - 第18巻 p.439 -ページ画像 
現行ノ同業組合準則ニ拠レバ組合ヲ設立スル事ハ必ズ同業者四分ノ三以上ノ多数ニヨルベキ筈ナレバ小数ヲ以テ多数ヲ圧制スルガ如キ弊害甚ダ少ナシト雖トモ、此後若シ命令ヲ以テ組合ヲ設立セシムルニ至ラバ此弊必ズ発生スルノ覚悟ナカルベカラズ、故ニ余ハ此建議ヲ上呈スルニ当リ先ヅ充分此弊害ヲ防グノ方法ヲ案出シテ併セテ之ヲ上陳セン事ヲ望ム
二十番(大倉喜八郎)曰ク、十六番(益田克徳)ノ説一理ナキニ非ラス、然リト雖トモ同業組合ヲ設置スルニハ必ス其規約書ナカルヘカラス、而シテ此規約書ハ必ズ其筋ノ認可ヲ乞フ者ナレバ其認可セラルヽニ当リ主務官ニ於テ篤ト之ヲ審査シ、苟モ公益改進ノ目的ニ悖ルノ条款ハ堅ク之ヲ禁止スルニ於テハ以テ充分其弊害ヲ防クニ足ルベシ、故ニ余ハ此点ニ就テハ別段顧慮ヲ要セスト思考ス且ツ序デナガラ玆ニ一言シ置キタキハ是迄府下ノ同業者ガ規約ヲ作リテ府庁ノ認可ヲ請フニ当リ数月ヲ経ルモ指令ヲ附セラレザル事アリト聞ケリ、若シ斯ノ如ク其認可ノ手続キ緩漫ニ失スル時ハ為メニ同業者結合ノ精神ヲ沮喪スルノ恐ナシトセス、此等ノ辺ニ就テハ主務官ニ於テ厚ク注意アラン事ヲ望ム
二十六番(石関利兵衛)曰ク、組合規約中ノ眼目タルモノハ実ニ違約者処分法ノ一項ナリトス、而シテ此違約者中往々故意ニ出ヅル者アルガ故ニ其違約ヲ防ガントスルニハ各々身元金ヲ出シテ信憑ヲ保証スルニ若カザルナリ、故ニ此等ノ事モ参考ノ為メ其筋ヘ上陳シタシ
二十五番(丹羽雄九郎)曰ク、命令ヲ以テ組合ヲ立テシムル事ハ至極可ナリト雖トモ、其規約ハ必ズ四分ノ三以上ノ多数ヲ以テ定メン事ヲ要ス
八番(大塚藤平)曰ク、余ガ過刻本案ヲ賛成シタルモノハ其大体ヲ賛成シタルナリ、而シテ細目ニ至リテハ多少意見ヲ有スレトモ是ハ大体ノ決シタル上ニテ陳弁スベシ
五十三番(榎本保兵衛)曰ク、八十二番(山中隣之助)ノ説実ニ余ガ意ヲ得タリ、従来府庁ニ於テハ苟クモ同一ノ商業ヲ営ム者ハ可成一体ニ団結スベキ旨ヲ説諭セラルレドモ、抑モ同業組合ノ結合ヲ鞏固ニスルニハ各々身元金ヲ出シテ其信憑ヲ保証スルヨリヨキハナク、而シテ此身元金ノ割合ハ固ヨリ各自同一ナラザル可ラザルヲ以テ仮令一区域内ニ於テ同一ノ商業ヲ営ム者ト雖トモ彼此其規模ノ大小ヲ同フセザルガ為メ自ラ協和シ難キノ事情アリ、故ニ此等ハ強テ一体ニ団結セシムルヲ要セス、各々適宜ニ其分立ヲ許スヲ可ナリトス、果シテ然ル時ハ双方共ニ便利ヲ得自ラ組合ノ結合鞏固ナルヲ得ベシト思考ス
二十五番(丹羽雄九郎)曰ク、同業者中数組合ノ分立スルハ甚ダ不都合ナルニ付可成一体ニ団結セシメ、其規約ハ多数ヲ以テ之ヲ定メシムベシ、例ヘバ身元金ノ額ヲ定ムルニ当リ甲ハ二百円ヲ可トシ乙ハ百円ヲ可トスル如キ場合ニ於テハ多数ニヨリテ之ヲ決スルノ外ナシ、之ガ為メ多少不便ヲ感ズル者アルモ是蓋シ已ムヲ得ザルナリ
 - 第18巻 p.440 -ページ画像 
四十三番(梅浦精一)曰ク、十六番(益田克徳)ノ説一理ナキニ非ズト雖トモ抑モ同業者ガ組合ヲ設ケントスルニハ其規約ヲ府庁ヘ具陳シテ認可ヲ請フノ手続ナルガ故ニ、其筋ニ於テ之ヲ審査シ若シ不相当ト認ムル条款ハ之ヲ認可セザルモノトスル時ハ以テ充分其弊害ヲ防グヲ得ベシ、蓋シ此事ニ就テハ昨年建議ノ際既ニ詳説シテ漏ス所ナケレバ今改メテ之ヲ再説スルヲ要セザルベシ、且ツ現行ノ準則ニ示サルヽ所ニ拠レバ如何ナル緊要ノ商工業ト雖トモ四分ノ三以上ノ同業者ヲ得ザル限リハ到底組合ノ設立ヲ見ル可ラス是命令ヲ以テ組合ヲ立テシメン事ヲ望ム所以ナリ
十六番(益田克徳)曰ク、四十三番(梅浦精一)ガ府庁ニ於テ規約ヲ審査スルヲ以テ充分弊害ヲ防グニ足ルベシト云フハ恰モ法官其人ヲ得ル時ハ法律ヲ要セズト云フガ如シ、豈斯ノ如キ道理アランヤ蓋シ当局固ヨリ其人アルベシト雖トモ頼テ以テ弊害ヲ防ガントスルハ決シテ安全ノ策ニアラザルナリ
百九番(森嶋松兵衛)曰ク、此建議ハ曩キニ本会ヨリ建議シタルモノヲ再説スルニ過ギズシテ決シテ新奇ノ問題ニアラズ、蓋シ現行ノ準則中四分ノ三以上ノ同意ヲ以テ云々トアルハ当局者ニ於テ小数ヲ以テ多数ヲ制スルノ弊害ヲ防ガン為メ最モ注意セラレタルノ条項ナルベシト雖トモ、実際ニ於テハ此準則ノ為メ寧ロ組合団結ノ効力ヲ薄弱ニシタルノ感ナシトセズ、故ニ若シ同業者ヲシテ真正ニ組合ノ利用ヲ感ゼシメントスルニハ命令ヲ以テ之ヲ立テシムル事最モ必要ノ手段ナリト思考ス
六十六番(柴原武雄)曰ク、十六番(益田克徳)ハ余輩ガ本案ヲ賛成シタルヲ見テ恰モ速断ニ失スルモノヽ如ク申セトモ余ガ之ヲ賛成シタルハ既ニ充分ノ熟慮ヲ経タル上ノ事ナリ、抑モ十六番(益田克徳)ノ説ハ全ク一理ナキニ非ズト雖トモ若シ弊害ノ発生スル時ハ更ニ之レガ防禦法ヲ講ズルモ可ナリ、兎ニ角本案ハ直チニ之ヲ建議セン事ヲ望ム
会長(渋沢栄一)曰ク、昨年五月中本会ガ同業組合ノ義ニ付農商務卿閣下ヘ上呈シタル復申書中ニハ従来同業組合ノ規約ハ全ク私約ニシテ其効力薄弱ナルニ付、更ニ認可ノ手続ヲ鄭重ニシ之ヲシテ公約ノ力ヲ得セシメ度旨ヲ縷述シ且ツ其規約ノ要項中組合多数ノ集合力ヲ以テ害他利己若クハ専売ノ趣意ヲ包含シ又ハ巨額ノ課金ヲ以テ新ニ加盟セントスル者ヲ防拒スル等総テ公益改進ノ目的ニ悖ルノ条款ハ堅ク禁止セラレ度旨ヲ附陳セリ、而シテ其建議書中ニハ同業組合ノ設立ニ撿束法ヲ設ケザル時ハ有益緊要ノ組合ト雖トモ終ニ其成立ヲ期シ難キニ付、更ニ一歩ヲ進メ地方長官ハ凡ソ生産及商工業ノ進歩ヲ図ルニ必要ト認ムル場合ニ於テハ適当ノ区域ニ従ヒ其所管内ノ商工同業者ヲシテ組合ヲ設立セシメ得ルノ制度ヲ設ケラレ度旨ヲ陳述セリ、今本案中命令ヲ以テ組合ヲ設立セシメン事ヲ望ムノ精神ハ要スルニ以上ノ趣旨ニ外ナラザルベシト雖トモ熟々本文ノ語勢ヲ見ルニ或ハ単ニ命令ヲ望ムノ精神適切ニシテ随テ生ズル弊害ハ恰モ之ヲ顧慮セザルモノヽ如シ、故ニ本案ハ最前上陳ノ趣旨ヲ参酌シテ修正ヲ加フル時ハ十六番(益田克徳)
 - 第18巻 p.441 -ページ画像 
ノ懸念スル如キ患ナクシテ而モ充分建議者ノ希望ヲ達スルヲ得ベキカ、建議者ノ精神果シテ如何ン
四十三番(梅浦精一)百九番(森嶋松兵衛)十一番(犬塚駒吉)共ニ曰ク、建議者ノ望ム所ハ只其精神ヲ貫カントスルニ在リ、字句ノ修正ハ固ヨリ異存ナキ処ナリ
八番(大塚藤平)曰ク、本案ハ最前上陳シタル趣旨ヲ敷衍スル丈ニテ可ナリ、其弊害ニ就テハ其筋ニ於テ充分注意セラルベキニ付、本案中別段ニ之ヲ細説セザルモ可ナラン
十四番(川原英次郎)曰ク、本案中ニモ手続ニ慣熟セザルヨリ云々トアルガ是甚ダ適実ノ説ナリ、抑モ組合設立ノ目的ハ要スルニ同盟中営業上ノ弊害ヲ矯正スルニ在リテ此目的ヲ達セントスルニハ先ヅ其規約ヲ鞏固ニセザル可ラズ、然ルニ府下同業者中ニハ徒ニ手数ノ煩累ヲ厭フテ往々此規約ヲ等閑ニ附スル者アリ、是余ノ深ク遺憾トスル所ナリ、聞ク所ニ拠レバ府下酒問屋組合ノ如キハ入津樽数ニ応ジテ歩合金ヲ積立テ、若シ仲間@偶々醸造元ノ荷主ニ対シ仕切金ノ精算ヲ怠ル者アル時ハ此積立金ノ中ヨリ之ヲ弁償シ以テ組合一般ノ信憑ヲ保護スルノ法アリト云ヘリ、左レバ本会ニ於テハ此等ノ規約ヲ折衷シ凡ソ各商工同業組合規約ノ大綱領ヲ議定シテ之ヲ其筋ヘ上呈シテハ如何ン
会長(渋沢栄一)曰ク、十四番(川原英次郎)ノ説ハ一理アルニ似タリト雖トモ各商工尽ク其営業ノ模様ヲ同フセザルヲ以テ甲ノ便トスル処モ却テ乙ノ不便タル場合ナキニ非ズ、故ニ其規約ノ綱領ヲ画一ニ定ムル時ハ実際上大ニ不便アルベシ
二十五番(丹羽雄九郎)曰ク、規約ノ綱領ヲ画一ニ定ムルハ恰モ同一ノ原型ヲ以テ各種ノ器物ヲ鋳造スルニ均シ、是豈不都合ニ非ズヤ故ニ其規約ハ只四分ノ三以上ノ多数ヲ以テ之ヲ決スル事ト定メ、而シテ其要目ハ各商工同業者ヲシテ此範囲内ニ於テ適宜ニ之ヲ定メシメン事ヲ要ス
三十九番(坂本彦平)曰ク、同業者中数組合ノ分立ヲ許スベシトノ説モアリシガ斯ノ如クスル時ハ或ハ乱雑ニ流ルヽノ恐ナシトセズ、故ニ同業者ハ可成一体ニ団結セシムル方可ナラン
二十八番(西宮新七)曰ク、例ヘバ糠問屋ガ先ヅ組合ヲ設立シテ其筋ノ認可ヲ得タル後、更ニ肥料問屋組合ナルモノ起リテ別ニ糠商売ヲ営業スル如キ事アラバ取締上甚ダ不都合アラン、故ニ此等ノ件モ注意ノ為メ併セテ上陳シテハ如何ン
右ノ外猶各員ノ間ニ多少ノ議論アリシガ要スルニ前記ノ外ニ出デズ、於是会頭(渋沢栄一)ハ衆議皆本案ヲ賛成スルノ説ニ帰着セシヲ以テ更ニ衆員ニ向ヒ其草案ハ別ニ委員ヲ撰ンデ之ヲ調査セシムベキヤ如何ヲ問フタルニ、乃チ衆議ノ末遂ニ本案ハ先ヅ書記ヲシテ最前其筋ヘ上陳シタル趣旨ヲ参酌シテ充分修正ヲ加ヘシメ、正副会頭及幹事ノ審査ヲ経テ直チニ農商務卿閣下ニ上陳スルニ決ス


東京商工会議事要件録 第一七号・第八三―八五頁 明治一九年三月二〇日刊(DK180038k-0002)
第18巻 p.441-443 ページ画像

東京商工会議事要件録  第一七号・第八三―八五頁 明治一九年三月二〇日刊
 ○参考部
 - 第18巻 p.442 -ページ画像 
(乙号)
    同業組合ノ設立ヲ要スル義ニ付建議
一昨十六年十二月廿七日附ヲ以テ府下ノ同業組合ニ於テ其取締規則ノ制定ヲ望ムヤ如何ンノ義御諮問有之候ニ付、本会ニ於テハ其後篤ト審議ヲ遂ゲ昨十七年五月十九日附ヲ以テ府下商工同業組合ニ於テ其取締規則ノ制定ヲ切望仕候旨復申仕候処、猶本会ノ考案スル所ニヨレバ只既設ノ組合ヲ規正スルノ取締法ノミニテハ其効能甚ダ薄弱ト奉存候ニ付、更ニ一歩ヲ進メ其御筋ヨリ地方長官ハ凡ソ生産及商工業ノ進歩ヲ図ルニ必要ナル場合ニ於テハ適当ノ区域ニ従ヒ其所管内ノ商工同業者ヲシテ組合ヲ設立セシムルヲ得ルト云フノ御布達ヲ発セラレ度旨併テ建議仕候処、其後同年十一月廿九日御省第三十七号ノ御布達ヲ以テ同業組合準則御発布相成、是畢竟本会ノ建議ヲ幾分カ御採択被下候義ト本会ニ於テハ私ニ満足罷在候
蓋シ右準則ニヨレバ各商工同業者間ニ取結ブ所ノ規約ハ自今其御筋ニ於テ改メテ御認可相成筈ニ付、其効能ハ在来私約ノ時ノ比ニアラズシテ要スルニ組合取締上一層ノ便益有之候ハ勿論ノ義ニ御座候得共、今退テ熟々実際ノ状況ヲ察スルニ府下ノ如キ右御布達御発布以来今日ニ至ル迄此準則ニヨリテ組合ヲ新設致候商工業ノ種類ハ甚ダ僅少ニシテ中ニハ偶々二三ノ篤志者ガ同業ノ公益ヲ進捗スルノ目的ヲ以テ組合設立方熱心経画致候者有之候得共、一個ノ私利ニ汲々シテ此挙ヲ拒ム者有之候為メ未ダ各商工業ヲシテ充分此準則ノ利用ヲ感セシムルニ至ラズ、是或ハ当業者ガ未ダ其手続ニ慣熟セザルニ由ルモノモ可有之候得共、要スルニ右準則ニ示サルヽ所ニヨレバ其組合ノ設立ハ如何ナル場合ヲ問ハズ豪モ其御筋ニ於テ命令セラルヽ事ナク、之ヲ設立スルト否トハ全ク各商工業者ノ自由ニ放任セラルヽ故ト奉存候
抑モ我国ノ商工業者ガ外国ノ商工業者ニ対シテ営利ヲ競フニ当リ常ニ彼ニ一籌ヲ輸スモノハ固ヨリ智識練熟其程度ヲ同フセザリシニ根スルモノ可有之候得共、要スルニ我ニ於テハ同業者間ニ結合ノ精神乏シキ事、実ニ其重因ト奉存候、今ヤ社会ノ情況全ク昔日ノ比ニ非ズシテ我国ノ商工業者ハ世界ノ市場ニ立テ能ク万国ト営利ヲ競ハザルベカラズ左レバ今ニ於テ之ヲ指導誘掖シテ結合ノ精神ヲ養成致候事ハ実ニ一日モ忽ニスベカラザルノ急務ト奉存候、然ルニ前陳ノ如ク組合ノ設立ヲ以テ全ク各商工業者ノ自由ニ放任セラレ未ダ其放恣ヲ制シ営業ノ進歩ヲ図ルノ道アラザルハ本会ノ深ク遺憾トスル処ニ御座候、若シ夫レ此儘匡正ノ道ヲ講セズシテ荏苒経過仕候時ハ各商工業者ハ益々私情ニ制セラレテ公共ノ利益ヲ顧ミル事ナク到底我国ノ富強ハ前途ニ期シ難ク奉存候、依テ何卒右準則ノ義ハ全ク之ヲ廃止シテ更ニ条例ヲ制定セラレ、凡ソ地方長官ハ生産商工業ノ進歩ヲ図ルニ必要ト認ムル場合ニ於テハ適当ノ区域ニ従ヒ其所管内ノ商工業者ヲシテ組合ヲ設立セシムル事ヲ得ル事ト定メラレ度希望仕候、而シテ若シ一個ノ私利ニ泥テ謂レ無ク組合ヘ加盟スル事ヲ拒ムカ如キ者有之候時ハ相当ノ方法ヲ以テ之ヲ撿束セラレ、且ツ組合中公益改進ノ目的ニ悖戻スルノ所業ヲ為シ若クバ同業者間ニ妨害ヲ与ヘントスルガ如キ者有之候時ハ単ニ其組合ノ規約ニヨリテ之ヲ処分セシムルニ止メズシテ、猶行政上相当ノ方法ヲ
 - 第18巻 p.443 -ページ画像 
以テ之ヲ処罰セラルヽト云フガ如キ要スルニ同業者間ニ充分結合ノ精神発育致候様御経画相成度希望仕候、尤其組合ヲ設立セシムベキ商工業ノ種類ハ若シ一ニ地方長官ノ指定スル処ニ全任スルトキハ或ハ左迄緊要ナラザル商工業ニ至ル迄強テ組合ヲ設立セシムル様ノ懸念無之トモ難申ニ付、其種類ハ先ヅ地方長官ニ於テ充分審案調査セラレ其御筋ノ裁可ヲ経テ後之ヲ定ムル事ト致度奉存候、本会ノ曩ニ同業組合ノ義ニ付建議仕候精神ハ亦此要旨ニ外ナラサル義ニ御座候
或ハ斯ノ如キ条例ヲ制定セラルヽ時ハ小数ヲ以テ多数ヲ圧制シ若クバ害他利己専売等ノ弊ヲ生スベシトノ懸念モ可有之候得共、抑モ此等ノ義ニ就テハ条例中相当ノ取締法ヲ御取設ノ上猶規約御認可ノ際ニ当リ篤ト其要項ヲ審査セラレ、苟クモ公益改進ノ目的ニ悖リ候条款ヲ堅ク禁止セラルヽニ於テハ此等ノ弊害ヲ予防スル事蓋シ甚ダ易々ナル事ト思考仕候、依テ此段更ニ建議仕候也
  明治十八年十二月廿八日       東京商工会々頭
                      渋沢栄一
    農商務大臣 子爵 谷干城殿


東京商工会々外諸向往復文書 第二号(DK180038k-0003)
第18巻 p.443 ページ画像

東京商工会々外諸向往復文書 第二号
                   (東京商工会議所所蔵)
   (用紙中奉書半切)
謹啓陳ハ先般東京商工会ノ議題ト相成候同業組合ニ関スル建議案ノ義ハ頃日御内示被下候御草案篤ト拝見ノ上夫々修正ヲ加ヒ、本日表向御省ヘ進達仕候間何卒宜シク御差含置被下度候、此段為念拝稟仕候也
                      渋沢栄一
    品川忠道殿
         閣下
      ○
拝閲致候然ハ同業組合ニ関スル建議案ノ議ハ本日表向本省ヘ御進達相成候由御念書之趣拝承致し候、先ハ貴報申上候 草々頓首
  十二月廿八日              品川忠造
    渋沢栄一殿
        玉机下


東京商工会々外諸向往復文書 第二号(DK180038k-0004)
第18巻 p.443-444 ページ画像

東京商工会々外諸向往復文書 第二号
                   (東京商工会議所所蔵)
   (用紙中奉書半切)
謹啓陳ハ先般東京商工会々員ノ建議ニヨリテ同会ノ問題ト相成候同業組合ニ関スル建議ノ義ハ其後議決ノ趣旨ニヨリ別紙ノ通リ立案シ、本日農商務大丞ヘ進達仕候間何卒宜シク右含置被下度、此段為念別紙写一本相添拝稟仕候也
  明治十八年十二月廿八日         渋沢栄一
    渡辺洪基殿
        閣下
  ○本資料第十七巻所収「東京商法会議所」明治十二年三月十一日ノ条(第一一二頁)及ビ本款明治十七年五月十九日ノ条(本巻第一四〇頁)参照。
 - 第18巻 p.444 -ページ画像 
  ○右ノ建議ハ直チニ採可サレザレドモ、明治三十年ニ至リ重要輸出品同業組合法制定セラレ、ソノ第四条ニ「同業組合設置ノ地区内ニ於テ組合員ト同一ノ業ヲ営ム者ハ其ノ組合ニ加入スヘシ」トセラレヽ同三十三年ニハ右法ヲ拡充シテ重要物産同業組合法ヲ公布サレ、ソノ第四条ニ右ト同様ノ強制規定ヲ設ケラレタリ。(法令全書)是ニ於テ右建議ノ趣旨ハ一定範囲ニ於テ貫徹スルニ至レリ。



〔参考〕東京経済雑誌 第四一一号・第三七一―三七三頁 明治二一年三月二四日 同業組合を論ず(DK180038k-0005)
第18巻 p.444-446 ページ画像

東京経済雑誌  第四一一号・第三七一―三七三頁 明治二一年三月二四日
    ○同業組合を論ず
○上略
此準則 ○同業組合準則発布以来同業者にして組合を設け規約を定め、地方庁の認可を得て之を実行する者儘々これなきにあらざるなり、然れども此の準則の効力は不幸にして未だ全般商工業に普及せざるものゝ如し何となれば準則既に発布せらるゝと雖も緊要なる商工業にして同業者中不同意を唱ふる者あるが為め未だ組合を設くるに至らざるもの少からざるのみならず、現に公認規約を実行する組合中にも或は苦惰を唱へて脱盟を謀る者あり、或は恣に濫悪の商品を取引して顧みざるものさへ之ある趣なればなり、各地方の事情はイザ知らず現に東京府下の如きは斯る実況ありて準則の効力未だ全般商工業に普及せざるが為め東京商工会は去明治十八年十二月の頃其の筋に対して、凡そ地方長官が生産商工業の進歩を図るに必要と認むる場合に於ては適当の区域に従ひ其所管内の商工業者をして組合を設立せしむることを得ることゝ定められたし、猥りに苦情を唱へて謂れなく組合へ加盟することを拒むが如き者ある時は相当の方法を以て之を撿束するを得ることゝ定められたし、組合員中公益改進の目的に悖戻するの所業を為し若くは同業者間に妨害を与へんとするが如き者ある時は、独り其組合の規約を以て之を処分せしむるに止めずして、猶行政上相当の方法を以て之を処罰せらるゝことと定められたしと望みたりしと云へり、思ふに如此き希望を懐く者は独り東京府下の商工業者のみならず、各地方に於ても亦之と同一の希望を懐く者多かるべき也
余輩は曩きに農商務省が同業組合準則を発布せらるゝに当り、実業者が予期する如き実効は到底望むべからさることを陳べて商工業家の注意を促したることありたるが、今日に至り其の予言の稍や的中したるを見るは余輩の最も気の毒に思ふ処なり、然りと雖も今日府下の実業家が準則の力に依りて同業組合の実効を完からしめんとするは、到底無益の希望たるを免かれざるべし、何となれば此等の実業家は組合を設けて同業者の親睦を厚うし、営業上の弊害を矯正し、併せて全般同業者の福利を増進せんことを目的とするにも拘らず、其の規約中には一方に便利なるも一方に不便なるの条項あり、資本多き者に利益あるも資本少き者に不利益なるの条項ありて、結局利害を異にせる同業者を画一の規約内に撿束せんとする者なればなり、例へば白米商組合規約中に「白米相場ハ現米ノ高低ニ随ヒ現米一石ニ付金廿五銭ノ差アルトキハ之ヲ改正ス」と云ふが如き若くは肥料問屋組合規約中に「右掲示アル荷主前借シタル問屋ニ荷物ヲ送ザルモノヘ従来約束之ナキ同組合員ヨリ競ヒ入リ仕
 - 第18巻 p.445 -ページ画像 
入金・為換金等貸金ヲナシ又ハ種々ノ方便ヲ以テ同組合ノ得意ヲ奪ハントスル如キ所為及浜方出張先ニテ我組合ノ仕入荷物ヲ競ヒ取ル事ヲ厳禁ス」と云ふが如きは、豈夫れ同業者が共に便利なりとするの条項ならんや、抑も此類の条項は独り白米商組合と肥料問屋組合の規約に於て之を見るのみならず、其他の諸組合に於ても亦之に類するの条項多きを見るなり、夫れ然り、諸組合の規約に於て既に同業者が利害を同うせざる条項多きを知らば、其の同業組合の実効の完からざるは固より怪しむに足らざるなり
蓋し同業組合は商工業者に取りては素より必要の制度たるべくして、是に由りて同業者の親睦を厚うし、営業上の弊害を矯正し、併せて全般商工業の福利を増進すること敢て或は期し難きに非ざるなり、然りと雖も凡そ同業組合なる者は同業者相互の協議と相互の契約とに依りて成立つべきものにして、政府の干渉を要するが如きものにあらざるなり、若夫れ政府の干渉なければ成立つ能はざるが如き組合ならんには、折角これを設くるとも更に其の実益なきのみならず、同業者の道義心を破り延ひて商工業の発達進歩を妨ぐるに至るべし、手近く之を譬ふれば人に飲食物を強ゆるが如し、其の味ひ如何に美なるにもせよ其の滋養分は如何に多きにもせよ、人各々好悪する処あるが故に若し好まざる飲食物を之に強ゆる時ハ為めに腸胃を害し懊悩を来すことあるべし、商工業者の同業組合に於ける亦何ぞ之に異なるあらん、其の組合は仮令ひ必要の制度なりとするも規約中既に利害を同うせざる条項ありて同業者の協議調ハざる場合に当り、政府の干渉を仰ぎ若くハ其他種々の方法に依り強ひて組合を設けしむるが如きハ、豈夫れ全般商工業の発達進歩を謀るの道ならんや
然り而して各商工業者は土地の事情・資本の厚薄・取引の巧拙等によりて大に其の情況を異にするものあり、例へば取引頻繁なる土地に於ては概して諸物品を廉価に売買することを得べしと雖も、取引頻繁ならざる土地に於てハ之と同様の割合を以て廉価に売買し難きの事情あり、又資本多き者は一時に多額の物品を買入るゝが故に、其物品の原価は割合に廉なるべく其の運送費等も割合に少かるべく、随て廉価を以て諸物品を売捌き得るの便利あれども、資本少きものに至りては一時に多額の物品を買ふこと能ハざるに就き、到底資本多き者と競争し得ざるの事情あり、又取引の巧なる者は荷主に種々の便利を与へて其の歓心を買ひ、巧に諸物品を取引すると雖も、取引の拙なる者に至りてハ徒らに荷主を苦むることを知りて之を喜バしむるの道を知らず、為めに取引上に種々の不便を来すの事情あり、各商工業者の事情大略此の如く異なる者あるが故に、画一の規約を以て之を規制せんとするに当りては、勢ひ苦情を唱ふる者多からざるを得ざるなり、唯だ法律の厳なるもの、租税の重きものあるが為め営業上に至大の損失を来し若くは外国競争の為め営業上に影響を受くるが如き場合に於ては、各商工業者の利害全く一致するが故に全般同業者の結合を謀ること敢て期し難きにあらずと雖も、其他の場合に於ては此事最も困難ならざるを得ざるなり、故に余輩は同業組合を以て不必要の制度なりとは云はざれども或部分の実業家が熱望する如く、政府の干渉を仰ぎ若くは種
 - 第18巻 p.446 -ページ画像 
種の方法を用ひ強ひて之を設けしむるが如きことを好まざるなり
若し同業者にして組合を必要なりとすれば之を設くるも可なり、苟も組合を不必要なりとすれば之を設けざるも亦可なり、要するに斯ることは各同業者の随意に放任し置くこそ却て同業者の福利を増進するの道なるべしと信ずるなり



〔参考〕東京商工会議事要件録 第二七号・第三―二四頁 明治二一年二月刊(DK180038k-0006)
第18巻 p.446-450 ページ画像

東京商工会議事要件録  第二七号・第三―二四頁 明治二一年二月刊
  ○第廿五臨時会  (明治二十年十二月廿三日開)
   ○出席者三十六名
会長(渋沢栄一)ハ先ヅ開会ノ趣旨ヲ告ゲ、書記ヲシテ議案ヲ朗読セシム
    議案
  別紙ノ事項何卒本会ノ意見トシテ其筋ヘ御建議相成度此段建議致候也
   明治二十年十二月十日 九十四番会員  岩谷松平
   東京商工会々頭
     渋沢栄一殿
  追テ本文ノ儀ハ何卒至急議題トシテ御提出相成度、又本文ノ儀幸ニ議題ト相成候上猶詳細ノ義ハ議場ニ於テ口陳可仕候也
      別紙
  明治十七年十一月中農商務省第三拾七号御達ヲ以テ同業組合準則御発布以来府下商工同業者ニ於テ此準則ニ拠リテ組合ヲ設立シタルモノ不少、然ルニ右準則ニ指示セラルヽ処ニ拠レバ組合ノ設立ハ全ク各商工同業者ノ自由ニ放任セラレ、随テ其取締法ニハ別段ニ制裁力無之ガ為メ、同業者ガ折角之ニ拠リテ組合ヲ設立スルモ到底其営業上福利ヲ増進シ濫悪ノ弊害ヲ矯正スルノ目的ヲ達シ難キノ憾有之候、今試ニ各商工同業者ガ此準則ノ下ニ立チテ最モ不便ヲ感ズルノ点ヲ挙グレバ左ノ如シ
  第一 此準則ニ拠レバ各商工同業者ガ組合ヲ設立セントスルニハ必ズ其全数四分ノ三ノ同意ヲ得ザルベカラズ、故ニ各有志者ガ率先シテ同業組合ヲ設立セント尽力スルニ当リ不幸ニシテ四分ノ三ノ同意者ヲ得ザルトキハ、仮令其商工業ハ如何程緊要ニシテ且ツ其商工業ニハ如何程組合ノ設立ヲ必要トスル事情アルモ到底此等ノ商工業ハ組合ノ設立ヲ期スル能ハザル事
  第二 同業者中濫悪ノ弊害ヲ矯正セントスルニハ時々其商品ノ売価ヲ相当ノ度ニ限リ此範囲内ニ於テ各同業者ヲシテ其品質ノ精良ヲ競ハシムル事亦極メテ緊要ナリトス、若シ否ラズシテ其売価ヲ各同業者ノ撰ブ処ニ放任スルトキハ各同業者ハ只競フテ其売価ヲ低下スベキガ故ニ、勢ヒ其品質ヲシテ益濫悪ナラシメ遂ニ顧客ノ信ヲ失シテ其商品ノ声価ヲ失墜シ結局其商業全体ノ損害ヲ来ス事有之、然ルニ府下ノ商工同業者ガ此趣旨ニヨリ価格ヲ定メ其筋ノ認可ヲ請ハントスルニ当リ其筋ニ於テハ之カ準則ノ精神ニ悖戻スルモノトシテ之ヲ却下セラレ、之ガ為メ濫悪ノ弊害ヲ矯正スルノ道ヲ尽スヲ得ザル事
 - 第18巻 p.447 -ページ画像 
  第三 組合員中組合ノ協議ニヨリテ定メタル費用ヲ支弁セザル者アルモ之ヲ制裁スルノ道無之ニヨリ、其悪弊次第ニ増長シ遂ニ組合ノ効力ヲ薄弱ナラシムル事
  夫レ同業者ノ福利ヲ増進シ濫悪ノ弊害ヲ矯正セントスルニハ各同業者ヲシテ団結セシメザルベカラズ、而シテ其団結ヲシテ益々鞏固ナラシメントスルニハ其取締法ニ充分ノ制裁力ヲ附セザルベカラズ、然ルニ熟ラ現行ノ準則ヲ案ズルニ組合ノ取締法ニハ全ク制裁ノ力無之ヨリ現ニ府下商工組合ノ中ニハ其組合員中一個ノ私情ニ制セラレテ脱盟ヲ図ル者アリ、或ハ売価ノ申合ナキニ乗シ恣ニ濫悪ノ商品ヲ販売スル者アリ、或ハ取締法ニ制裁ノ力ナキヲ奇貨トシテ費用ノ支弁ヲ怠ル者アリ、此等ノ為メ充分其目的ヲ達スル能ハズシテ其団結極メテ薄弱ナルモノ有之、是我商工業前途ノ為メニ深ク憂慮スル所ナリ、就テハ何卒現行ノ準則ハ全ク之ヲ廃止セラレ更ニ左ノ要項ニ基キテ組合条例ヲ御発布相成候様致度希望仕候
  第一 重要ナル商工業ニハ其筋ノ御命令ヲ以テ組合ヲ設ケシムル事
  第二 前条ノ組合ヲ設ケシムベキ種類ハ其筋ニ於テ指定セラルヽモノトシ、例ヘバ其数府県ニ渉ルモノヽ如キハ農商務大臣ニ於テ指定セラレ、一府一県ニ止マルモノヽ如キハ地方長官ニ於テ先ヅ農商務大臣ノ允可ヲ得テ指定セラレ度事
  第三 其筋ニ於テ指定セラレタル商工業ニシテ適当ノ時限内ニ組合ヲ設立セザル者、又ハ組合ニ加入スル事ヲ拒ム者ハ行政上ノ御処分ヲ以テ相当ノ制裁ヲ加ヘラレタキ事
  第四 濫悪ノ弊ヲ矯正スル為メ売価ヲ一定スル事ノ如キ、其他苟モ組合ノ目的ヲ達スル為メ必要ノ事項ハ、甚ダシキ不都合アルモノヲ除キ総テ規約中ニ掲載スル事ヲ御許容相成度事
  第五 組合員中組合公費ノ支弁ヲ怠ル者アルトキハ組合ノ規約ヲ以テ之ヲ処分スルニ止マラズ、猶条例ヲ以テ相当ニ制裁セラレ度事
  第六 同業者ニ妨害ヲ与フル者ト認ムベキ者ハ時宜ニヨリ行政上ノ御処分ヲ以テ営業ヲ禁止若クハ停止セラレ度事
  以上ノ外猶委細ノ事項ハ総テ此要旨ニヨリ御制定相成度、或ハ斯ノ如キ条例ヲ制定セラルヽニ於テハ組合ノ集合力ヲ以テ組合外ノ者ヲ圧制スルガ如キ弊害ヲ生ズルコトナキヤトノ懸念モ可有之候得共、是等ノ事ハ条例中ニ相当ノ取締法ヲ掲ゲラレ又其規約ノ如キモ一旦認可セラレタル上ト雖トモ、苟モ前陳ノ如キ弊跡アルニ於テハ毫モ仮借スル所ナク之ニ取消ヲ命セラルベキハ勿論、或ハ其情状ニヨリテハ特別ニ其組合ヲ制裁スルガ如キ方法ヲ定メラルルニ於テハ充分ニ其弊害ヲ予防スルヲ得ベシト思考仕候、此段建議仕候也
会長(渋沢栄一)曰ク、議案ノ趣旨ハ只今朗読セシメタル如クナルガ各員猶不審ノ廉アラバ建議者ニ質問アリタシ
九番(雨宮綾太郎)曰ク、此議案中組合員四分ノ三云々ノ事ニ就テハ
 - 第18巻 p.448 -ページ画像 
嘗テ本会ヨリ其筋ヘ建議シタル事アリタリト覚ユ、右採否ノ事ニ就キ其筋ノ評議ノ模様ハ未ダ分ラザルヤ
会長(渋沢栄一)曰ク、此事ニ就キ本会ヨリ其筋ヘ建議シタルハ一昨十八年十二月廿八日ナリキ、而シテ此事ハ其後或ハ当局ノ題案トナリタルヤニ聞ケトモ其採否如何ニ就テハ未ダ其模様ヲ聞キ及バズ
九番(雨宮綾太郎)曰ク、余ハ本案ノ細目ニ就テハ少シク異見ナキニアラズト雖トモ兎ニ角大体ヲ賛成ス
九十四番(岩谷松平)ハ会長ノ許可ヲ得、本案ヲ提出シタル手続ヲ弁明シテ曰ク、余ハ現ニ府下十五区六郡烟草商組合ノ頭取ヲ勤ムル者ナルガ、元来我ガ同業者ノ取扱フ烟草ノ中ニハ所謂五匁玉ト称スルモノアリテ各地方ニテハ通例之ヲ金八厘ニ売捌クト雖トモ、当府下ニテハ各地方ニ比スレバ物価一般ニ高貴ニシテ之ヲ八厘ニ売捌ク時ハ実際不引合ナルニ付、随テ同業者中私ニ印紙税ヲ脱シ或ハ品質ヲ濫悪ニシテ之ガ損分ヲ補ハントスル者ナキニアラズ、是ヲ以テ先般府下十五区六郡ノ同業者二千五百余名会同シ衆議ヲ以テ其価ヲ一銭二厘ニ定メ之ヲ規約中ニ掲ケテ一旦府庁ノ認可ヲ得タルガ、豈計ランヤ其後同業者二千五百余名中ノ一人ガ如何ナル趣旨ニ出デタルニヤ此売価ヲ一定シタル事ヲ以テ同業組合準則ノ精神ニ悖戻スルモノトシ府庁ヘ申立テタル者アリ、依テ府庁ヨリ頭取ヲ召喚シ右売価一定ノケ条ヲ速ニ取消スベキ旨ヲ厳達セラレタリ、然ルニ元来此売価ヲ一定シタルハ決シテ専売ノ利ヲ得ル為メニアラズ、只此五匁玉ナルモノハ我同業者ニ取リテハ恰モ引札同様ノモノニシテ各自其価額ヲ異ニスル時ハ種々ノ不便アリ、殊ニ之ヲ一定セサル時ハ品質ヲ濫悪ニシ脱税ヲ謀ル等種々ノ不便ヲ生ズルノ恐アリ、故ニ我ガ組合ハ其規約第四条「当組合ハ烟草ノ売買其他本業上ノ利害得失ニ関スル弊害ヲ矯正改良シ其利益ヲ図ルヲ以テ目的トス」及其第五条「当組合ハ本業上ニ関スル弊害ヲ矯正或ハ改良セント欲スル時ハ組合一同協議ノ上之ヲ実施スルモノトス」ノ趣旨ニ基ヅキ此売価ヲ一定シタルモノニシテ、之ヲ要スルニ一方ニ於テハ濫悪ノ弊害ヲ矯正シ一方ニ於テハ官ノ手数ヲ省クノ精神ニ過キザルモノナレバ此等ノ廉ヲ以テ府庁ニ向テ種々陳弁セリト雖トモ之ヲ聴許セラレズ、依テ更ニ其取消ヲ来年一月迄猶予セラレン事ヲ請フタレトモ之ヲモ聴許セラレザリキ、於是不得已過日各区ヨリ重立チタル同業者ヲ招集シ厚生館ニ於テ臨時会ヲ開キ衆議ノ上遂ニ商工会ノ意見ヲ問フベシト云フ事ニ決シタリ、是余ガ今回此議案ヲ本会ニ提出シ以テ諸君ノ来会ヲ煩ハシタル所以ナリ、願ハクハ諸君充分本案ヲ賛成セラレン事ヲ
次ニ九十四番(岩谷松平)ハ本案中数項ヲ掲記スレトモ何レモ枝葉ニ属スルモノニシテ之ニ就キ審議スル時ハ大ニ時間ヲ費スノ恐アレバ先ヅ在来ノ準則ハ全ク之ヲ廃シ、而シテ各同業者ガ売価ヲ一定スル事ノ如キハ総テ其筋ニテ干渉セズシテ宜シク其組合ノ自由ニ放任スベシト云フノ要項ニ就キ議決アリ度旨ヲ以テ更ニ新案ヲ提出セシガ、此新案ニ就キ二十九番(山中隣之助)ハ一旦議案トシテ提出シタルモノヲ差シ措キ、新案ニヨリテ議決スルガ如キ事ハ先例モナク頗ブル不体裁ニ付此新案ハ之ヲ排斥シ原案ニ就キ議決スベシト述ベ、其他ノ会員中ニ
 - 第18巻 p.449 -ページ画像 
モ反対論アリテ議事頗ブル混雑ヲ生ジタルニ付九十四番(岩谷松平)ハ遂ニ此新案ヲ取消シタリ
三番(梅浦精一)曰ク、過刻九十四番(岩谷松平)ノ提出シタル新案ハ原案ノ趣旨ニ矛盾スルガ如シ、ソハ兎ニ角同業組合準則中四分ノ三ノ制限ヲ解キテ必要ノ商工業ニハ其筋ノ命令ヲ以テ組合ヲ設ケシムベシト云フノ一事ハ大ニ道理アル事ニテ、既ニ一昨年十二月中本会ヨリ其筋ヘ建議シタル事モアリタレバ此一事ニ就テハ固ヨリ異議ナシ、然リト雖トモ抑モ売価ヲ一定スル事ノ如キハ取締ノ区域ヲ超逸シテ弊害ノ部分ニ入ルベキモノナレバ府庁ガ烟草商組合ニ向テ取消ヲ命ゼラレタルハ実ニ至当ノ処置ナリト云フベシ、之ヲ要スルニ余ハ此売価ヲ一定スル事ニ就テハ到底同意スル事能ハザルナリ
十四番(小川為次郎)問フテ曰ク、過刻九十四番(岩谷松平)ノ弁明シタル所ニヨレバ五匁玉ノ売価ヲ一定スル事、実ニ全案ノ骨子ナルガ如シ、抑モ従前ニ在リテハ此五匁玉ノ売価ハ各同業者ノ随意ニ定ムル所ニ任シタリヤ
九十四番(岩谷松平)答テ曰ク、然リ
十四番(小川為次郎)又問フテ曰ク、本案第三項ニ行政上ノ御処分ヲ以テ相当ノ制裁ヲ加ヘラレタシトアリ、抑モ此相当ノ制裁トハ如何ナル事ヲ指スヤ
九十四番(岩谷松平)答テ曰ク、此相当ノ制裁ニ就テハ建議者ニ於テモ未ダ確定シタル考案アルニアラズ、要スルニ此等ノ事ハ行政官ノ見ル所ニ任スルノ外ナキ見込ナリ
十四番(小川為次郎)又問フテ曰ク、本案第四項ニ甚ダシキ不都合アルモノヲ除キ云々トアリ、抑モ此甚ダシキ不都合トハ如何ナル度合迄ヲ云フヤ
九十四番(岩谷松平)答テ曰ク、甚ダシキ不都合トハ例ヘバ専売ノ弊跡顕然タルモノヽ如キヲ云フナリ、但シ其度合ニ至リテハ何分之ヲ確示シ難シ
十四番(小川為次郎)又問フテ曰ク、本案第五項ニ組合公費ノ支弁ヲ怠ル者ハ組合規約ノ外猶条例ヲ以テ制裁シタシトノ趣旨アリ、抑モ本項ノ精神ハ組合公費ノ支弁ヲ怠ル事ヲ以テ公罪トシ刑法ヲ以テ処分スベシトノ意ナルヤ、将タ之ヲ私罪トシ要償ニ止ムルノ意ナルヤ
九十四番(岩谷松平)答テ曰ク、現ニ租税ノ未納者ニハ公売処分法アリ、既ニ組合ノ公費タル以上ハ責メテハ違式位ノ処分法ヲ設ケ度見込ナリ
九十三番(小松崎茂助)曰ク、余ハ現ニ洋服裁縫業ヲ営ム者ナルガ本案ノ売価ヲ一定スル事ノ如キ到底我ガ営業ニ適用スベカラザルナリ何トナレバ諸官省ヨリ我ガ同業者ニ洋服ヲ注文セラルヽ場合ノ如キ皆入札法ヲ用ヒラレ、其価格ハ一ニ各同業者ノ競争ニ任セラルヽヲ以テナリ、又同業組合準則中四分ノ三ノ制限アレトモ我ガ営業ニテハ毫モ之ニ就キ不便ヲ感ズル事ナシ、由是観之余ハ到底本案ヲ賛成スル事能ハザルナリ
三番(梅浦精一)曰ク、過刻九十四番(岩谷松平)ノ弁明シタル処ニ拠ルニ建議者ガ本案ヲ提出シタルハ府庁ガ売価ヲ一定シタル個条ノ
 - 第18巻 p.450 -ページ画像 
取消ヲ命ジタルニ起因スルモノナレハ、今先ヅ売価ヲ一定スル事ノ当否ヲ論究スルニ於テハ本案ノ可否ハ容易ニ之ヲ決スルヲ得ベシ、試ニ見ヨ建議者其人ノ如キハ常ニ率先シテ諸新聞紙ニ広告シ安売ヲ以テ天下ニ誇称スルノ人ニアラズヤ、然ルニ他ノ牽制ニヨリテ、斯カル安売ヲ為ス事ヲ得ザルモノトセバ其営業上ノ不便果シテ如何ゾヤ、若シ建議者ニ於テ少シク己レニ反省スル時ハ容易ニ其非ヲ悟ルヲ得ベシ
九十四番(岩谷松平)曰ク、本案ノ趣旨ハ各種ノ商品一般ニ皆其売価ヲ定ムベシト云フニアラズシテ只五匁玉ノ如キ引札同様ノモノニ限リテ特ニ其売価ヲ定ムベシト云フニ在リ、又今日世上ニテ盛ニ競争スル安売ノ如キハ寧ロ一種ノ商略ト云フニ過ギスシテ決シテ真成ノ競争ニアラズ、彼ノ外国商人ガ其商品ノ売価ヲ相当ノ度ニ止メ此範囲内ニ於テ其品質ノ精良ヲ競フガ如キハ是レ即チ真成ノ競争ナリ、之ヲ要スルニ余ノ希望スル所ハ我ガ商人ヲシテ区々タル売価ノ末ニ競争セシメズシテ品質ノ上ニ競争セシメ、以テ我ガ商人ノ地位ヲ高尚ニセントスルニ外ナラザルナリ
十四番(小川為次郎)曰ク、余ハ全ク原案ニ反対スル者ナリ、而シテ本案ニ列記セル各項ニ就キ多少意見ヲ有セリト雖トモ先ヅ本案ノ骨子タル売価ヲ一定スルノ事項ニ就キ一言スベシ、凡ソ商品ノ売価ハ決シテ同業者ノ規約ヲ以テ一定スベキモノニアラズ、蓋シ商品ノ種類ニヨリテハ例ヘバ蕎麦ノ如キ白米ノ如キ儘其売価ヲ一定スルモノナキニアラズト雖トモ是同業者ガ在来ノ旧慣ニヨリ便宜其呼価ヲ変ゼザル迄ニシテ其間分量ノ多少品質ノ精粗等ニ関シテハ自然ニ競争起ルモノナリ、故ニ此等ハ其売価ヲ一定スルノ実効ナキモノト云フモ可ナリ、若シ仮リニ之ヲ一定シ得ルトスルモ各同業者ハ資産ノ厚薄住地ノ繁閑ヲ同フセズシテ、随テ同一ノ商品ヲ同価ニ販売シ難キノ場合ナシトセズ例ヘバ同シク摺附木ヲ販売スル商人ニテモ日本橋通ノ如キ繁華ノ土地ニ住シ大資本ヲ有シテ日々多額ヲ取引スル者ハ之ヲ一箱八厘ニテ販売スルヲ得ルモ、本所・四ツ谷ノ如キ場末ノ土地ニ住シ小資本ヲ有シテ日々少額ヲ取引スル者ハ之ヲ一銭ニ販売セ ザレバ引合ハザルガ如キ事情アルベシ、然ルニ此場合ニ於テ強テ彼此ヲシテ其商品ヲ同価ニ販売セシメントスルハ豈不公平ニアラズヤ
廿五番(丹羽雄九郎)曰ク、抑モ商品ノ価ハ需給ノ権衡ニヨリテ定マルモノニシテ仮令其製産費ハ如何程多額ヲ要シタリトスルモ需用少キ時ハ之ヲ低価ニ販売セザルヲ得ザルノ場合アリ、是レ商業活動シテ各人ノ勉強心ヲ促ス所以ナリ、故ニ其価格ハ法律ヲ以テ定ムルヲ得ズ、況ンヤ同業組合ノ規約ヲヤ、之ヲ要スルニ此売価ヲ一定スル事ノ如キハ決シテ之ヲ実施スルヲ得ザルモノナリ
会長(渋沢栄一)ハ各員ノ議論ヤヽ尽キタルヲ以テ先ヅ本案ヲ賛成スル者ニ起立ヲ命ジタルニ起立スル者二人、即チ本案ハ賛成者少数ニシテ廃案ニ決ス ○下略