デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.35-51(DK190005k) ページ画像

明治21年3月7日(1888年)

先ニ法律取調委員長伯爵山田顕義ヨリ屋号専用規則ニ関シ当会ニ諮問アリ。審議ノ末、是日栄一当会会頭トシテ右規則ノ実施ナカラン事ヲ希望スル旨復申ス。


■資料

東京商工会議事要件録 第二九号・第三―六三頁 明治二一年三月五日刊(DK190005k-0001)
第19巻 p.35-48 ページ画像

東京商工会議事要件録  第二九号・第三―六三頁 明治二一年三月五日刊
  第廿七臨時会   (明治廿一年二月十六日開)
    会員出席スル者 ○四十四名
此日会頭渋沢栄一ハ病気ノ為メ欠席シタルヲ以テ副会頭益田孝代リテ会長席ニ着ク
○中略
会長(益田孝)ハ是ヨリ第一号議案ニ就キ議事ヲ開クヘキ旨ヲ告ゲ、書記ヲシテ議案ヲ朗読セシム
(第一号議案)
別紙之通及諮問候間精細討議之上回報有之度候也
  明治二十一年一月十七日
            法律取調委員長 伯爵 山田顕義
  東京商工会々頭
    渋沢栄一殿
  (別紙)
一商人中同種ノ商ヒヲ為ス者ニシテ同一ノ屋号ヲ用ヰルモノ少ナカラズ、其同一ノ屋号ヲ用ヰルカ為メ相互ニ商売上ニ差閊ヲ生スルヤ
二果シテ差閊ヲ生スルモノナルトキハ、其差閊ノ実情如何ナルモノナルヤ
三其実情ニ因テハ別紙規則ノ如ク之ガ保護ヲナスヲ必要トスルヤ
四別紙規則ヲ施行スルトキハ之ガ為メ或ハ弊害ヲ生スル事ナキヤ、若シ之アルニ於テハ其廉々如何
    屋号専用規則
第一条 各商人ハ屋号ヲ有シ之ヲ店前ニ掲示シ総テ商業取引其他業務取扱ノトキ氏名ニ代ヘ其掲示シタル文字ト同形ニ之ヲ書スベシ、若シ一人ニシテ資本ヲ分チ数箇ノ営業ヲ為ストキハ各営業ニ付キ各別ノ屋号ヲ有スル事ヲ要ス
第二条 屋号ヲ新設シ又ハ之ヲ変更シ又ハ之ヲ廃止シタルトキハ、区
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裁判所ニ備ヘタル商業登記簿ニ其登記ヲ受クベシ、他ノ地方ノ支店ニ付テモ亦此手続ヲ為ス可シ、右ノ登記ヲ受ケタル者ハ、其一地内(例ヘバ一地内トハ東京ニ於テハ十五区ノ全域西京ニ於テハ上下京ノ全域ヲ云フ)ニ於テ其屋号ヲ専用スルノ権利ヲ有ス
第三条 同一ノ営業ヲ為ス者ハ一地内ニ於テ同一ノ屋号ヲ用ユル事ヲ許サズ
 屋号ハ営業者ノ氏ヲ以テスルヲ通例トス、若シ同一ノ商業ヲ営ム者ニシテ同氏ナルトキハ其氏ニ附号ヲ加ヘテ互ニ之ヲ区別セザルベカラズ
第四条 相続ニ因テ商業ヲ引受クル者、又ハ契約ニ因テ商業ト共ニ屋号ヲ引受クル者ハ従前ノ屋号ヲ続用スル事ヲ得ベシ
第五条 屋号ハ其営業ト共ニスルニアラサレバ売買譲与スル事ヲ得ズ若シ営業ヲ廃スルトキハ屋号モ亦従テ消滅スルモノトス
第六条 営業ト屋号トヲ併セテ売買譲与スルトキハ取引ノ仕残リ、負債、得意先及ビ商業帳簿モ共ニ売買譲与シタルモノト見做スベシ、但シ別段ノ約束アルトキハ此限ニアラズ
 屋号引受ノ通知又ハ広告中ニ別段ノ約束ヲ明掲セザルトキハ其約束ハ他人ニ対シテ其効ナキモノトス
第七条 営業ト屋号トヲ併セテ売買譲与スル者、更ニ同一ナル営業ヲ為サヾルノ義務ヲ負担シタルトキハ十年間其一地内ニ於テ其義務ヲ遵守セザルベカラズ
第八条 他人ノ屋号ヲ濫用シタル者、又ハ第六条及ビ第七条ニ記載シタル義務ニ背ク者アルトキハ被害者ハ其加害所為ノ停止及ビ損害ノ賠償ヲ要求スル事ヲ得
第九条 裁判所ヨリ一回ノ督促ヲ受クルモ第二条ニ規定シタル登記ノ申出ヲ怠リタル者ハ何円以上何円以下ノ罰金ニ処スベシ
第十条 登記シタル事項ハ公ニシテ且裁判所ノ認知シタルモノトス、何人ト雖トモ己レノ過失ニアラサルヲ証明シ得ルニアラザレハ之ヲ知ラザルヲ以テ己レヲ保護スル事ヲ得ズ、然レトモ其事項ハ他ノ方法ニ因リ之ヲ知リ得タル者ニ対シテハ登記ノ前後ヲ問ハズ其効用ヲ致サシム
此時説明委員、長森・本尾ノ両君番外席ニ着ク
会長(益田孝)曰ク、今回ノ御下問ハ本会ノ最モ栄誉トスル所ナリ、本会ニ於テハ兼テヨリ商工業ニ関スル法律規則ヲ制定セラルヽニ当リテハ実際上ノ得失便否ニ就キ本会ノ意見ヲ具陳シテ其筋ノ参考ニ供セン事ヲ希望シタリシガ、今日ニ至リ法律取調委員長ガ特ニ此諮問案ヲ下附セラレタルハ本会ノ本懐ナリ、抑モ本案ハ商工業上重大ノ関係ヲ有スル問題ナレバ各員ニ於テモ十分其見込ヲ開陳セラレタシ、且本案ニ就キテ疑ハシキ廉アラバ説明委員ニ就キ十分質問セラレン事ヲ望ム
番外二番(本尾敬三郎)曰ク、本件ハ商工業上重大ノ関係ヲ有スル問題ニシテ今般之ヲ当会ニ諮問シタルハ畢竟実際上ノ得失便否ニ就キ諸君ノ意見ヲ聞カン事ヲ望ム為メナリ、故ニ諸君ニ於テモ腹蔵ナク其意見ヲ陳ベラレン事ヲ望ム、又別記第一項ヨリ第四項迄ノ問目ハ
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文字頗ル簡短ナレバ諸君ノ中或ハ其意義ノ了解ニ苦シマルヽ者モアラン、願クバ十分ニ質疑セラレタシ
十四番(小川為次郎)問フテ曰ク、玆ニ屋号ト称スルハ例ヘバ越後屋伊勢屋ノ類ニ限レルヤ、又ハ博聞社・風月堂ノ如キモノヲモ此中ニ含メルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、単ニ屋号ト称スル時ハ例ヘバ越後屋・伊勢屋ノ類ニ限レルガ如シト雖トモ彼ノ何軒・何堂・何社ト称スルモノ若クハ雁鍋・松田ノ類ノ如キ苟モ商人ノ通名タルベキモノハ皆此中ニ含ムモノト知ルベシ、尤モ会社ノ社名ノ如キモ素ヨリ一種ノ屋号ナレトモ是ハ別ニ規則ヲ施設シテ之ヲ保護スルノ見込ナリ
十四番(小川為次郎)問テ曰ク、第一条ニ「其掲示シタル文字ト同形ニ之ヲ書スベシ」トアルハ例ヘバ楷書ニテ栄太楼ト掲示シタル時ハ総テ楷書ニテ書スベシトノ意ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、字体ノ楷書ナルト草書ナルトハ本条ノ問フ所ニアラズ、唯ダ此同形ニ書スベシトアルハ例ヘバ「近江屋」ノ屋号ヲ「あふみや」ト書スベカラズト云フガ如キニ過ギザルナリ
十四番(小川為次郎)問テ曰ク、本案ハ商人ニハ必ズ屋号ヲ有セシメ既ニ屋号ヲ有スレバ必ズ之ガ登記ヲ出願セシムルノ精神ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、然リ、草案ノ精神ハ各商人ニ必ズ屋号ヲ有セシメ随テ之ガ登記ヲ出願セシムル見込ナリ、然レトモ是ハ追テ制定セラルベキ商法中ノ所謂商人タルノ義務ヲ免カルヽ者ニハ之ヲ適用セザルノ見込ナリ
十四番(小川為次郎)問テ曰ク、第三条ニ「同一ノ営業ヲ為ス者云々」トアリ、是ハ例ヘバ煙草商ノ如キ一種ノ商業中、問屋・仲買・小売ノ三種類アル場合ニ於テ問屋ハ問屋、仲買ハ仲買、小売ハ小売ヲ以テ同一ノ営業ト見做スノ意ナルヤ、又ハ此三種トモ総テ同一ノ営業ト見做スノ意ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、同一ノ営業トアルハ広ク営業上ヨリ区別シタルモノニシテ、例ヘバ煙草商ハ其業体ノ問屋・仲買・小売商タルヲ問ハズ総テ同一ノ営業者ト見做シテ之ヲ規制スルノ意ナリ
十四番(小川為次郎)問テ曰ク、第三条ニ「屋号ハ営業者ノ氏ヲ以テスルヲ通例トス」トアルハ、氏ニ限ルノ意ナルヤ、又其次ニ「同氏ナル時ハ其氏ニ附号ヲ加ヘ云々」トアルガ其附号ヲ加フルノ方法ハ如何ン
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、「屋号ハ営業者ノ氏ヲ以テスルヲ通例トス」トアルハ限ルノ意ニアラズ、例ヘバ本尾敬三郎ト称スル者ハ本尾ヲ屋号トスルヲ通例トスレトモ、時宜ニヨリテハ伊勢屋ト称シテモ差支ナシ、又「其氏ニ附号ヲ加ヘ云々」トアルハ、例ヘハ本尾ト称スル同一ノ屋号多キ時ハ、其使用者ヲシテ此本尾ノ文字ニ第一トカ若クハ第二トカ、要スルニ其屋号ヲ区別スルニ足ルノ附号ヲ加ヘシムルノ意ニ過ギズ
十四番(小川為次郎)問テ曰ク、一人ニシテ数種ノ商業ヲ兼営スル者
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例ヘバ鰹節商ニシテ鶏卵及砂糖等ノ商業ヲ兼ヌル者ノ如キハ各商業ニ就キ各別ノ屋号ヲ有セシムルノ見込ナルヤ、又ハ此等数種ノ商業ヲ一体ト見做シ一個ノ屋号ヲ通用セシムルノ見込ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、然リ、右ノ場合ニ於テハ数種ノ商業ヲ一体ト見做シ、一個ノ屋号ヲ通用セシムルノ精神ナリ、但第一条ニ記スルガ如ク一人ニシテ資本ヲ分チ数種ノ商業ヲ営ム場合ニ於テハ、各商業ニ就キ各別ノ屋号ヲ有セシムル見込ナリ
十四番(小川為次郎)問テ曰ク、此規則ヲ施設スル時ハ在来同一ノ屋号ヲ以テ同業ヲ営ミ来ル者ハ如何ニ之ヲ処分セラルヽノ見込ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、此事ハ委員ノ最モ苦心セル所ナリ今日ノ処ニテハ追テ此規則ヲ実施スルニ当リ細則ヲ設ケ穏便ニ処分スル見込ナルガ、其細則ノ草案ハ未ダ起草ノ運ニ至ラズト雖ドモ、先ヅ在来同一ノ屋号ヲ以テ営業シ来ル者ニハ例ヘバ互ニ協議ヲ遂ゲシメ、万一双方ノ協議調ハザルニ於テハ使用年月ノ最モ久シキ者ニ専用権ヲ許スト云フガ如ク、要スルニ可成営業上ニ不便ヲ与ヘサル様取扱フノ精神ナリ
九十六番(森島松兵衛)問テ曰ク、第九条ニ「裁判所ヨリ一回ノ督促云々」トアリ、右ハ屋号ノ登記ヲ督促スルノ意ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、右ハ第二条ニ記シタル手続ヲ為サザル場合ニ於テ裁判所ハ先ヅ之ヲ督促シテ其手続ヲ履マシメ、猶怠リテ其手続ヲ為サヾル時ハ之ニ罰金ヲ課スルノ主意ナリ
九十三番(小松崎茂助)問テ曰ク、蓋シ委員長ガ屋号専用規則ノ必要ヲ感ゼラレタルハ従来此規則ナキガ為メ種々ノ弊害アリシ事ヲ認メラレタルニ因ルモノナラン、果シテ然ルヤ否ヤ
番外一番(長森敬斐)答テ曰ク、此規則案ヲ起草シタルハ敢テ実際上種々ノ弊害アル事実ヲ認メタルニ因ルニアラズ、唯ダ屋号ヲ保護スル時ハ或ハ商業上ニ一層ノ便益ヲ与フル事ナキヤト思考シタルガ故ナリ、然レトモ委員ニ於テ便益ナリト考フルモ実業者ハ却テ之ヲ不便ナリトスル事モアラン、是本案ヲ諮問シテ実況ヲ聞カント欲スル所以ナリ
五十二番(浜口勝之助)問フテ曰ク、第一条ニ「若シ一人ニシテ資本ヲ分チ数個ノ営業ヲ為ス時ハ云々」トアルガ、是ハ例ヘバ問屋ガ奉公人ニ暖簾ヲ分与スル場合ノ如キハ之ニ同一ノ屋号ヲ許サヾルノ趣意ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、然リ同一ノ屋号ヲ許サヾル見込ナリ
二十六番(石関利兵衛)問テ曰ク、例ヘバ越後屋ガ他ノ地方ニ其支店ヲ設クル場合ノ如キハ如何ナル屋号ヲ有セシムルノ見込ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、例ヘバ越後屋ガ府下ニ支店ヲ設クル時ハ越後屋支店ト称セシメ、又大阪等ノ他府県ニ支店ヲ設クル時ハ同地内ニ越後屋ノ屋号ヲ有スル者ナケレバ越後屋ト称セシメ、若シ之アルニ於テハ東京越後屋支店ト称セシムルト云フガ如ク、要スルニ同地区内ニ於テハ必ズ其屋号ヲ区別セシムル見込ナリ
十六番(益田克徳)問テ曰ク、此規則ハ会社ニモ適用スルカ、又ハ会
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社ノ方ハ全ク此規則ニ関係ナキモノナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、会社ノ社名モ一個商人ノ何屋ト称スルモノモ共ニ屋号ナリ、然レトモ会社ノ屋号ハ別ニ規則ヲ設ケテ之ヲ保護スル見込ニ付、本案ハ只一個商人ニノミ適用スルモノト承知セラレタシ
此時会長(益田孝)ハ其筋ニ於テハ会社ノ屋号ハ別ニ規則ヲ設ケテ保護セラルヽトノ事ニテ、頃日其草案ノ一部ヲ参考ノ為メ廻示アリタリトテ書記ヲシテ之ヲ朗読セシム、即チ左ノ如シ
    会社総則
 第条 会社ハ家号ヲ設ケ社印ヲ製シ、事務所ヲ定ムル事ヲ要ス
   一地内ニ於ケル数個ノ会社ノ家号ハ同一ナル事ヲ得ズ
    合名会社
 第条 家号ハ総社員又ハ其一人若クハ数人ノ氏ニ会社ナル文字ヲ附スベシ
 第条 登記広告スベキ事項左ノ如シ
  第項 会社ノ家号
    合資会社
 第条 家号ニハ社員ノ氏ヲ用ユル事ヲ得ズ、但無限責任社員ノ氏ハ此限ニアラズ、又家号ニハ何レノ場合ニ於テモ合資会社ナル文字ヲ附スベシ
  若シ家号ニ社員ノ氏ヲ用ヒタル時ハ其社員ハ之ガ為メ当然会社ノ義務ニ対シ無限ノ責任ヲ負フ
 第条 登記公告スベキ事項左ノ如シ
  第項 会社ノ家号
    株式会社
 第条 家号ニハ株主ノ氏ヲ用ヒル事ヲ得ズ、又家号ニハ株式会社ナル文字ヲ附スベシ
 第条 登記公告スベキ事項ハ左ノ如シ
  第項 会社ノ家号
三番(梅浦精一)問テ曰ク、此規則施設ノ後ハ必ズ屋号ヲ登記セシムルノ意ナルヤ、将タ之ヲ各商人ノ随意ニ任ズルノ精神ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、玆ニ掲グル十ケ条ノ項目ハ要スルニ只委員ノ考案ヲ記シタル草案ニ過ギズシテ必ズシモ此通リ実施スベシト確定シタルニアラズ、諸君此意ヲ諒セラレタシ、偖唯今屋号登記ノ事ニ就キ質問アリタルガ此草案ノ主旨ニ拠レバ各商人ニハ必ズ屋号ヲ有セシメ、既ニ屋号ヲ有スレバ必ズ之ヲ登記セシムルノ精神ナリ
二十五番(丹羽雄九郎)問テ曰ク、諮問案第一・第二ノ問目ハ屋号専用規則実施上ノ得失便否ニ係ル条項ニシテ、其第三・第四ノ問目ハ同規則ノ必要ナルヤ否ヤニ関スル条項ナレバ、余ハ先ヅ第三・第四ヲ審議シテ同規則ノ必要ナルヤ否ヤヲ議定シ、然ル上ニテ第一・第二ヲ審議スルヲ便利ト思考ス、此順序ニヨルモ敢テ差支ナキヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、討議ノ順序ハ当会ノ見込ニヨリ何レニテモ差支ナシ
 - 第19巻 p.40 -ページ画像 
番外一番(長森敬斐)曰ク、諮問案第三問目ノ意義或ハ諸君ニ徹底セザラン事ヲ恐ルヽニ付為念玆ニ一言スベシ、抑モ此問目ノ意ハ要スルニ若シ屋号ノ保護ヲ必要トスルニ於テハ別紙草案ノ如キ取締法ヲ望ムヤ否ヤト云フニ過ギズシテ必ズシモ此草案ノ通リ規則ヲ定ムベシト云フニアラズ、諸君之ヲ領意セラレタシ
九番(雨宮綾太郎)問フテ曰ク、先刻番外二番ハ使用年月ノ最モ久シキ者ニ屋号ノ専用権ヲ与フルガ如ク答弁セラレタルガ、果シテ然ラバ例ヘバ彼ノ有名ナル駿河町ノ越後屋ガ二百年前ヨリ呉服商業ヲ営ミ来リタリトセンニ、若シ他ニ同業ノ小店アリテ二百一年前ヨリ同ジク越後屋ト称シ同業ヲ営ミ来リタル事明カナル時ハ前者ニ専権用ヲ与ヘズシテ後者ニ之ヲ与フルノ趣旨ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ問ク、質問ノ如キ場合ニ於ケル処分法ハ最モ困難ナル問題ニシテ此事ニ就テハ是迄委員中ニモ種々議論アリテ、或ハ此ノ如キ場合ニ於テハ先ヅ同業者ニ協議ヲ遂ゲシメ協議調ハザル時ハ使用年月ノ前後ヲ以テ専用権ヲ許否スベシトノ説モアリタレトモ、是迚モ未ダ確定シタルノ意見ニハアラズ、然リト雖トモ兎ニ角此如キ場合ニハ可成当業者ニ損失ヲ与ヘザル様処分スルノ見込ナリ
四十一番(若林清茂)問テ曰ク、是迄ハ氏名ヲ以テ其筋ヘ書面ヲ上呈シタルガ今後一般ニ屋号ヲ用ユルニ至ラバ右等ノ書面ニハ只屋号ノミヲ記シテ妨ナキヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、元来屋号ハ営業上ノ標的ニシテ普通ノ氏名ト同ジカラズ、例ヘハ三越得右衛門ガ越後屋ノ屋号ヲ以テ呉服商ヲ営ムガ如キ場合ニ於テハ、三越ハ其人ニ存スル名前ニシテ越後屋ハ其営業上ニ属スル名前ナリ、故ニ此屋号ハ営業外ニ通用スベカラザルモノト知ルベシ
四十三番(青木庄太郎)問テ曰ク、先刻ノ答弁ニヨレバ商人ハ必ズ屋号ヲ要ストノ事ナルガ、果シテ然ラバ是迄氏名ヲ以テ営業シタル者ニモ亦屋号ヲ用ヒシムル見込ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、此草案ノ趣旨ニヨレバ凡ソ商人ニハ必ズ屋号ヲ有セシムルモノトス、然レトモ従来氏名ヲ以テ屋号トナス者マヽ之ナキニアラズ、例ヘバ大坂ノ住友ガ営業上ニ住友ナル屋号ヲ用ユルガ如シ、此等ハ其名称コソ同一ナレトモ氏ナル住友ト屋号ナル住友トハ其性質全ク同ジカラズ、故ニ従来氏名ヲ以テ営業シ来リタル者ハ其儘之ヲ屋号トシテ用ユルモ不可ナル事ナシ、必ズシモ之ヲシテ改メテ何屋ト称セシムルノ趣旨ニハアラザルナリ
九番(雨宮綾太郎)問テ曰ク、或人資本ヲ合シテ天然堂ト称スル書林ヲ創設シタルニ其営業次第ニ繁栄ニ進ミタリ、依テ又其近傍ニ於テ同ジク天然堂ナル屋号ニテ同一ノ書籍業ヲ開始シタル者アリト仮定セヨ、此時只其屋号ノ上ニ一ノ附号ヲ加ヘ置ク時ハ其筋ニ於テハ此屋号ヲ認許セラルヽノ見込ナルヤ
番外二番(本尾敬三郎)答テ曰ク、然リ、固ヨリ之ヲ認許スベシ
是ニ於テ会長(益田孝)ハ質疑殆ンド尽キタルヲ以テ是ヨリ諮問案四項目ノ全体ニ就キ討議スベキ旨ヲ告グ
 - 第19巻 p.41 -ページ画像 
二十五番(丹羽雄九郎)曰ク、余ハ本案ノ大体ニ就キ余ガ意見ヲ述ベンニ、余ハ固ヨリ本案ヲ以テ必要ノ施設ナリト信ズル者ナルガ、試ニ一例ヲ挙ゲテ之ヲ証センニ玆ニ栄太楼ト称スル屋号ヲ以テ菓子商業ヲ営ム者アリト仮定セヨ、此者平生勉強シテ其商品ヲ廉価ニ売リ他日得意先増加シ営業益々繁栄ヲ来スニ及ンデ前日ノ薄利ヲ補ハン事ヲ計画シタリ、然ルニ更ニ其隣地ニ於テ同一ノ屋号ヲ用ヘテ同業ヲ営ム者起リ、頻リニ之ト競争ヲ試ムル事アル時ハ、之ガ為メ栄太楼平生ノ計画ハ全ク水泡ニ帰シ、営業上ニ非常ノ損失ヲ来ス事ナラン、蓋シ是迄ハ商人間ニ徳義ノ成立スルアリテ隠然斯ノ如キ所為ヲ防ギタル事アレトモ、元来此徳義ナルモノハ之ヲ破ルト否トハ其人ニ在ルガ故ニ苟モ人智進歩シテ人々利ヲ趁フノ今日ニ於テハ他人ノ徳義ノミニ依頼シテ其利益ヲ保護スベカラズ、是法律ヲ設ケテ屋号ヲ保護スル事ノ必要ナル所以ナリ、尤其実施ノ方法ニ就テハ多少ノ異見ナキニアラスト雖トモ全体ヨリ之ヲ見レバ余ハ固ヨリ其必要ナルヲ疑ハサルナリ
二番(阿部泰蔵)曰ク、凡法律ヲ設クルノ精神ハ社会ノ弊害ヲ予防スルニ在ル事固ヨリ弁ヲ待タザルナリ、今熟々民間ノ情況ヲ査察スルニ実際屋号ヲ侵サレテ営業上ニ損害ヲ受ケタル者極メテ稀ナルガ如シ、広ク全国中ヲ穿鑿セバ或ハ一二其実例ナキニアラザルベシト雖トモ未ダ法律ヲ設ケテ一般ニ屋号ノ保護ヲ要スル程ノ弊害アルヲ見ザルナリ、然ルニ今仮リニ此屋号専用ノ規則ヲ実施スルトセン乎、之ガ為メニハ登記局ノ如キモノヲ設ケ登録手続ニ関スル細則ヲ公布シ、在来用ヒ来リタル同一屋号ノ専用権ヲ審定シ、及同規則ノ疑ニ就キ説明ヲ要スル等其手数ト費用ヲ要スル事実ニ浅少ナラザルベシ斯ノ如ク一方ニ於テハ屋号ノ保護ヲ要スル程ノ弊害ナク、一方ニ於テハ多クノ手数ト費用トヲ要スルモノトセバ今日此規則ヲ設クルハ寧ロ法律施設ノ本旨ニ副ハザルモノト云フベシ、且夫レ今日或ル商人ノ営業益々繁栄ヲ来スニ当リ、敢テ他ニ其屋号ヲ侵サントスル者起ラザルハ商賈各々徳義ヲ重ンジ、併テ世上ノ非難ヲ恐ルヽガ為メナリ、然ルニ今此規則ヲ施設シ、府下十五区内ニ於テハ同一ノ屋号ヲ用ユル事ヲ許サズト明示スル時ハ、是恰モ十五区以外ニ於テハ勝手ニ之ヲ用ユルモ妨ゲナシト公許スルト同一ナルニ付、之ガ為メ各商賈ノ徳義心ヲ破壊シ却テ他人ノ屋号ヲ侵ス者起ルベシ、例ヘバ高輪(十五区内)ニ於テ万清楼ト称スル料理屋アリテ其商業繁栄スルトセンニ、是迄ハ各商賈ニ徳義心アルガ為メ敢テ其近傍ニ於テ同一ノ屋号ヲ使用スル者アラザリシモ、今此規則ヲ実施スルニ至ラバ僅々数町ヲ隔ツル品川(十五区外)ニ於テ公然同一ノ屋号ヲ掲ゲテ同種ノ商業ヲ営ミ、規則ノ範囲内ニ於テ可成他人ノ利益ヲ害セントスル者起ルベシ是豈ニ法律施設ノ為メ各商賈ノ徳義心ヲ破壊スルモノニアラズヤ、是故ニ余ハ本案ノ施設ヲ以テ必要ナリト信ゼザルノミナラズ却テ他日恐ルベキ弊害ヲ生ゼン事ヲ懸念スルナリ
二十番(大倉喜八郎)曰ク、今般法律取調委員長ヨリ本案ノ御下問ヲ辱フシタルハ本会ノ最モ満足スル所ニシテ、今後ト雖トモ斯ノ如キ事項ハ可成本会ニ諮問セラレン事ヲ希望ス、偖余ハ本案ニ就テ余ガ
 - 第19巻 p.42 -ページ画像 
意見ヲ陳ブルニ当リ、先ヅ屋号ノ起原ニ就テ玆ニ一言スベシ、蓋シ今日各商人ノ用ユル屋号ハ往時幕府ニ於テ民間ノ者ニ苗字ヲ用ユル事ヲ許サヾリシ為メ、各商人ガ苗字ノ代リニ之ヲ使用シ来リタルニ過ギズシテ各商人ニ取リテハ左マデ大切ナルモノニアラズ、殊ニ今日某ノ屋号ガ世上ノ信用ヲ得ルニ至リタルハ畢竟其営業者ノ拮据精勤ノ功ニ因ルモノニシテ、本来其屋号ニ価アルニアラズ、故ニ営業者ニシテ拮据精勤ノ功ヲ欠ク時ハ如何ナル屋号モ其価ヲ失フニ至ルベシ、左レバ今日法律ヲ設ケテ特ニ之ヲ保護セザルモ営業上ニ妨害ヲ受クル事ナカルベシ、殊ニ現今商標条例ノ施設アリテ十分各商人ノ商標ヲ保護セラルヽ上ハ、今又改メテ屋号ヲ保護スル程ノ必要ナカルベシト信ズ、且夫レ本案ノ如ク商人ニハ必ズ屋号ヲ有セシメ、既ニ屋号ヲ有スレバ必ズ之ヲ登記セシムルモノトスル時ハ、例ヘバ薬種商ノ鰯屋ニ於ケルガ如ク、従来同一ノ屋号ヲ以テ同業ヲ営ム者多人数アル場合ニ於テハ其中只一人ハ屋号ノ専用ヲ得ベシト雖トモ其他ノ者ハ必ズ之ニ附号ヲ加フルカ、若クハ其文字ヲ改メテ前者ト区別セザルヲ得ズ、是豈ニ営業者ノ不便ニアラズヤ、是故ニ余ハ本案ノ施設ヲ以テ到底必要ナリト信ズル能ハザルナリ
二十五番(丹羽雄九郎)曰ク、先刻来商人ニハ各々徳義心アリテ他人ノ屋号ヲ侵スガ如キ弊害少キニ付屋号専用規則ヲ設クルノ必要ナシトノ説モアリタルガ、原来此徳義心ナルモノハ太ダ頼ムニ足ラザルモノニシテ今後人智漸ク進歩シ唯ダ利是求ムルノ時ニ当リ、若シ此専用規則ノ施設ナキ時ハ祖先来多年辛苦シテ漸ク世上ノ信用ヲ得タル屋号モ一朝ニシテ他人ノ為メニ濫用セラレ、為メニ意外ノ損失ヲ受クル事アルベシ、固ヨリ此規則ヲ実施スルニ就テハ多少ノ手数ト費用トヲ要スベシト雖トモ、此等ノ損失ハ屋号ヲ保護スル利益ヨリ見レバ決シテ惜ムニ足ラザルナリ、且単ニ屋号ト称スル時ハ其区域狭キガ如クナレトモ会社ノ社名モ銀行ノ行名モ皆是一種ノ屋号ニシテ一個商人ノ屋号ト同一ナル事ヲ知ラザル可カラズ、今仮リニ正金銀行ト称スル銀行ガ盛ニ其業務ヲ経営スルニ当リ、其近隣ニ同一ノ行名ヲ以テ銀行業ヲ営ム者アリトセヨ、之ガ為メ従前ノ正金銀行ガ受クル所ノ損失ハ蓋シ少カラザルベシ、既ニ会社ノ屋号ヲ保護スルヲ必要トセバ一個商人ノ屋号ヲ保護スルモ亦同ジク必要ナルニアラズヤ、然ラバ則チ此専用規則ノ施設ハ一日モ等閑ニ附スベカラザルナリ、蓋シ此規則ヲ実施スルニ当リ全ク原案ノ趣旨ニヨルモノトセバ多少繁雑ノ恐アルベシト雖トモ是ハ畢竟細目ニ関スルモノニ付追テ大体ヲ可決シタル上相当ニ之ヲ修正セバ可ナラン
十六番(益田克徳)曰ク、此議案ニ対シ腹蔵ナク意見ヲ陳ブルハ却テ本案御下問ノ趣意ニ副フモノナレバ余ハ遠慮ナク本案ノ不必要ナル事ヲ略陳スベシ、凡法律ノ得失ヲ論ズルニ当リテハ先ヅ第一ニ必要ナルヤ否ヤ、第二ニ効能アルヤ否ヤヲ考究セザル可カラズ、夫レ法律ニシテ仮令少数ノ者ニ便利ヲ与フルトスルモ多数ノ者ヲシテ不便ヲ感ゼシムル事アラバ是法律ヲ設クルノ必要ナキモノト謂ハザルベカラズ、夫レ屋号専用規則ノ如キハ要スルニ少数者ニ便利ヲ与フルモ多数ノ者ニ迷惑ヲ与フル施設タルガ如シ、試ニ一例ヲ挙ゲテ之ヲ
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証センニ、例ヘバ府下ノ如キ伊勢屋ナル屋号ヲ以テ年来手広ク営業シ来リタル者其数少カラズ、然ルニ今此規則ヲ実施シ一人ノ商人ニ伊勢屋ノ専用権ヲ許シ、其他ノ者ニハ第一伊勢屋第二伊勢屋ト云フガ如ク必ズ其屋号ニ附号ヲ加ヘシムルモノトスル時ハ其専用権ヲ得タル者一人丈ハ之ニヨリテ便利ヲ得ベシト雖トモ、其他専用権ヲ得ザル多数ノ者ニ至リテハ皆之ガ為メ却テ不便ヲ受クベシ、是豈ニ其必要ナキモノニアラズヤ、又此規則ハ果シテ其効能アリヤト云フニ余ハ決シテ其効能ヲ認ムル能ハザルナリ、例ヘバ伊勢屋ト云ヘル者ガ盛ニ其業ヲ営ムニ当リ同町内ニ於テ同屋号ヲ用ヒ其屋号ノ上ニハ専用規則ニ基キ第一トカ第二トカ云ヘル附号ヲ加フルモ、其附号ノ文字ヲ極メテ微細ニシ容易ニ肉眼ニ触レザルガ如ク記シタランニハ専用権ヲ得タル伊勢屋ハ之ガ為メ随分妨害ヲ受クル事ナラン、是豈ニ其ノ効能ナキモノニアラズヤ、又説明委員ハ同屋号ノ専用者ヲ定ムルニハ使用年月ノ前後ヲ以テスルガ如ク答弁セラレタルガ、是等モ亦実地ノ□ニハ随分混乱ヲ惹起ス事ナラン、果シテ然ラバ余ハ本案ヲ賛成スル事能ハザルナリ
七十二番(鳥海清左衛門)曰ク、余ハ二十番(大倉喜八郎)ト殆ト同説ニシテ今日実業者ガ用ユル屋号ハ往時幕府ノ頃商人ニ苗字ヲ許サズ、去リトテ名前ノミニテ営業スルモ不都合ナルニ付国名等ヲ採リテ屋号トスルニ至リタルモノナリ、然レトモ既ニ商人ニ苗字ヲ許スノ今日ニ於テハ従来ノ屋号ハ左程価アルニアラズ、随テ法律ヲ設ケテ之ヲ保護スル程ノ必要アルベシトモ思ハレズ、且従来同屋号ヲ用ユル者ノ中ニハ一種ノ感情アル事ヲ知ラザルベカラズ、例ヘバ伊勢屋ナル者ガ分家ヲ起ス場合ノ如キ其分家ガ自ラ本家ト同一ナル屋号ヲ用ユルヲ以テ栄誉トスルハ勿論、本家ニ於テモ其分家ガ己レト同一ノ屋号ヲ用ユルヲ以テ却テ宗家ノ繁栄ヲ示スモノトシ之ヲ悦ブノ情アリ、然ルニ此場合ニ於テ本家分家ヲシテ必ズシモ同一ノ屋号ヲ用ユル事ヲ得ザラシムル時ハ双方ノ不便果シテ如何ゾヤ、是余ガ本案ノ施設ヲ賛成スル能ハザル所以ナリ
十四番(小川為次郎)曰ク、彼此屋号ノ紛ハシクシテ実際困難ヲ感ズル事世間ニ往々其例アリ、現ニ池之端ニハ軒ヲ接シテ二人ノ守田治兵衛アリ、銀坐ニハ数町ノ間ニ博聞社及博聞堂アリ、余ガ嘗テ前年国文社ニ関係セル時、余ニ宛テタル信書ガ国文堂ト称スル書林ヘ誤達シタル事アリ、又近来新聞紙ヲ見ルニ人力車製造人藤屋某ガ他人ノ為メニ其ノ屋号ヲ濫用セラレ迷惑シタル事実ヲ載セリ、凡此等ノ場合ニ於テハ全ク屋号ノ保護ヲ必要トスルノ事情ナキニアラズト雖トモ、此等ハ畢寛変例ニ属スルモノニシテ、殊ニ従来商人ガ暖簾ヲ分ツ場合ノ如キハ之ヲ与フル者モ之ヲ受クル者モ双方共ニ同一ノ屋号ヲ使用スルヲ便利トスルノ情アレバ、今一般ニ此規則ヲ実施シ各同業者ヲシテ必ズ同一ノ屋号ヲ使用スルヲ得ザラシムルハ是決シテ穏当ノ施設ト謂フベカラズ、仮令此規則ヲ実施セザルモ例ヘバ故意ニ他人ノ屋号ヲ濫用スル場合ノ如キ実地ノ損害成立スル時、若クハ従来信用ヲ得タル商人ノ隣地ニテ之ト同一ノ屋号ヲ使用シ同種ノ商業ヲ営ム場合ノ如キ、権利義務ノ混雑ヲ来スノ恐アル時ニハ他ノ規
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則ニヨリテ之ヲ救護スルノ道ナキニアラザルナリ、又一歩ヲ譲リ仮ニ此規則ヲ必要ナリトスルモ余ハ其実施ノ極メテ困難ナルヲ恐ルヽナリ、例ヘバ烟草商ノ如キ問屋・仲買・小売ヲ通ジテ同業者トスル時ハ其人員数千人ノ多キニ達スル場合アリ、且鰹節商ニシテ鶏卵商及砂糖商ヲ兼ヌルガ如ク一人ニシテ数種ノ商業ヲ兼営スル場合モアリ、然ルニ今此規則ヲ実施スル時ハ必ズヤ此等ノ商人ハ繁雑ニ堪ヘズシテ続々犯則ニ陥ル者起ルニ至ルベシ、又只附号ヲ加フルニ於テハ何人ノ屋号ヲ使用スルモ差支ナシトスル時ハ二番(阿部泰蔵)ノ説ノ如ク各商人ノ徳義心ヲ破壊シ却テ之ヲシテ他人ノ屋号ヲ濫用セシムルノ弊端ヲ開ク事アルベシ、又従来同一ノ屋号ヲ使用シテ同種ノ商業ヲ営ム者ニ対スル処分法ノ困難ナル事モ亦大ニ考察ヲ要スベキ主点ナリトス、之ヲ要スルニ此規則ヲ実施スル時ハ随テ生ズル直接間接ノ弊害少カラザルベキニ付余ハ遺憾ナガラ本案ニ同意スル事能ハザルナリ
九十六番(森島松兵衛)曰ク、過刻会長(益田孝)ヨリ示サレタル書面ニ拠レバ其筋ニ於テハ会社ノ屋号ハ別ニ規則ヲ設ケテ之ヲ保護セラルヽノ見込ナリト云ヘリ、既ニ一方ニ於テ会社ノ屋号ヲ保護シナガラ一方ニ於テ一個人ノ屋号ヲ保護セズトスルハ是其権衡ヲ得タルモノト謂フベカラズ、且過刻或ル会員ハ屋号ニハ本来価直ナクシテ其営業ノ繁昌スルト否トハ其人ノ勉強ト否トニ在リト申シタレドモ苟モ実際他人ノ屋号ヲ濫用スルノ弊跡存スル以上ハ規則ヲ設ケテ之ヲ防止スル事豈ニ適当ノ施設ナルニアラズヤ、又或ル会員ハ商人ニ徳義心アルニ付此規則ヲ要セズト論ジタルガ近来表面ニ於テハ商人ノ徳義稍ヤ進歩シタルガ如シト雖トモ裏面ニ於テハ却テ益々退歩シタルノ実況アリ、此際ニ当リ其撿束ヲ挙ゲテ徳義ニ依頼セントスルハ豈ニ甚ダ危険ナルニアラズヤ、夫レ此規則ヲ実施スベシトノ論ハ現ニ是迄ノ弊跡ヲ確認シタル実験説ナレドモ之ヲ実施スベカラズトノ論ハ未ダ其結果ヲ実見セザルノ想像説タルニ過ギズ、故ニ余ハ断ジテ此規則ノ実施ヲ切望ス、蓋シ原案第九条ノ如キハ頗ル厳密ニ過グルヲ以テ此等ハ今少シク寛裕ニセザルベカラズ、例ヘバ西河岸ノ栄太楼ガ今日ノ信用ヲ維持スルモノハ畢竟スルニ其住地ナル西河岸ト屋号ナル栄太楼トヲ併称スル為メニシテ、若シ銀座ニ於テ新ニ栄太楼ノ屋号ヲ称シ、同種ノ商業ヲ営ム者起ルモ西河岸ノ栄太楼ハ割ニ損害ヲ蒙ル事ナカルベシ、故ニ原案ニハ十五区ヲ以テ一地内トストアレトモ是ハ稍ヤ広濶ニ過グルニ付其区域ハ例ヘバ二町四方ト云フガ如ク今少シク之ヲ縮少シタシ
五十二番(浜口勝之助)曰ク、酒商及醤油商ノ如キハ問屋ト小売ト同一ノ屋号ヲ使用スルモ実際毫モ差支ナシ、其他ノ商業ト雖トモ必ズ此類多カルベシ、然ルニ今此規則ニアルガ如ク問屋・仲買・小売ヲ通ジテ同業者トシ之ヲシテ強テ同一ノ屋号ヲ有スル事ヲ得ザラシムル時ハ実ニ容易ナラザル不便アリ、故ニ余モ亦本案ニ同意スルヲ得ザルナリ
九十四番(岩谷松平)曰ク、余ガ常ニ国益ノ親玉等ノ文字ヲ使用スルヲ見、近来之ニ傚ヒ近所ニ国益会社ノ屋号ヲ掲グル者起リタルカ、
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畢竟スルニ営業ノ繁昌スルト否トハ其人ノ勉強ト否トニ由ルヲ以テ仮令同業者中同一ノ屋号ヲ使用スル者アルモ実際左迄ノ差支ヲ生ズル事ナシ、且此屋号ナルモノハ果シテ苗字ニ代用シタルヨリ起リタルモノナルヤ否ヤハ余ノ知ラザル所ナレトモ兎ニ角自由ニ姓名ヲ用ユルヲ得ルノ今日ニ於テハ、必ズシモ屋号ニ頼ラザルモ姓名ニ頼リテ彼此ヲ区別スルヲ得ベケレバ要スルニ此規則ハ実際ニ必要ナキモノト思考ス、若シ真正ニ商業ヲ保護セントナラバ此屋号専用規則ヲ実施スルヨリハ寧ロ同業組合準則ニ適当ノ改正ヲ行フ方遥カニ其効能アルベシト信ズ、併シ是ハ論題外ニ就キ敢テ玆ニ詳言セザルベシ
二十五番(丹羽雄九郎)曰ク、此専用規則ヲ原案ノ儘ニテ実施スルハ固ヨリ不同意ナレトモ、之ニ適当ノ修正ヲ加フルニ於テハ敢テ不都合ナカルベシ、現ニ商標条例ノ如キモ初メ旧商法会議所ノ問題トナリタル時ニハ種々ノ反対論アリテ之ヲ排棄セシガ、其後該条例ノ実施セラルヽニ当リテハ毫モ不都合ナカリシノミナラズ各商人ハ之ニヨリテ大ニ便利ヲ得タルニアラズヤ、左レバ此専用規則モ原案ノ如ク各商人ヲシテ必ズ其屋号ヲ登記セシムル事トナサズシテ、現行ノ商標条例ノ如ク之ヲ登記スルト否トハ一ニ各商人ノ自由ニ放任スルモノトセバ実施上別段不都合ヲ生ズル事ナクシテ商売上ニ与フル便利少カラザルベシト信ズ
九十三番(小松崎茂助)曰ク、本案ハ畢竟各商人ノ利益ヲ保護スルノ精神ナルベシト雖トモ、若シ真正ニ各商人ノ利益ヲ保護セントナラバ今日其筋ニ於テ湯屋営業ヲ撿束セラルヽノ例ニ傚ヒ、例ヘバ西河岸ニ於テハ既ニ栄太楼ナル菓子屋現存スルニ付其近傍数町内ニハ新ニ菓子屋ヲ営業スルヲ得ズト云フガ如ク、要スルニ適当ノ地区内ニ於テ同業ヲ営ム事ヲ得ズト云フノ規則ヲ実施スル方遥カニ其効能多カルベシ、然リト雖トモ斯ノ如キ規則ヲ各種ノ商業ニ適用スルハ実際為シ能ハザル所ニシテ、殊ニ目今既ニ商標条例ノ制定アリテ営業ノ信用ヲ保持スルノ道モアレバ此際別段ニ此専用規則ヲ実施スルノ必要ナカルベシ
十四番(小川為次郎)曰ク、此専用規則ノ制定ナキ今日ニ於テハ故意ニ他人ノ屋号ヲ侵サントスル事ノ如キハ、世人ガ不正ノ所為トシテ之ヲ擯斥スルヲ以テ自ラ其弊害ノ増長ヲ防止スルヲ得タレドモ、若シ此規則ヲ実施スル上ハ法律上正当ノ所為トシテ之ヲ公許スルト同一ナルニ付、之ガ為メ却テ奸商ヲシテ他人ノ屋号ヲ侵スノ念慮ヲ発生セシムルニ至ルベシ、是本案賛成者ノ為メニ敢テ一考ヲ煩ハス所ナリ
九十四番(岩谷松平)曰ク、屋号ト商標ト其軽重ヲ比較スル時ハ屋号ハ軽クシテ商標ハ重シ、然ルニ重キ商標ノ方ハ其登記ト否トヲ各商人ノ自由ニ放任シナガラ軽キ屋号ノ方ハ却テ商人ヲシテ必ズ之ヲ登記セシムルト云フハ豈ニ不権衡ノ甚シキモノニアラズヤ、且ツ屋号ノ登記ヲ出願スルニハ種々ノ手数及出費ヲモ要スベキニ付此専用規則ハ先ツ之ヲ実施セザルヲ可トス
九番(雨宮綾太郎)曰ク、余ハ同業者ニシテ同一ノ屋号ヲ使用スルモ別段差支ナキノミナラズ暖簾ヲ分ツ場合ノ如キハ双方却テ之ヲ便利
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トスルノ情アリ、現ニ余ノ同業者中ニハ同一ノ屋号ヲ使用スル者頗ル多シト雖モ之ガ為メ毫モ差支ヲ生ジタル事アルヲ聞カズ、蓋シ同一ノ場所ニ同一ノ屋号ヲ使用スル者数名アル場合ナキニアラズト雖トモ、斯ノ如キ場合ニハ商標ヲ以テ区別スルガ故ニ敢テ紛ハシト云フ程ノ事ナシ、今一例ヲ挙ゲテ之ヲ証センニ本町ニ軒ヲ接シテ数名ノ鰯屋アリ、又通一丁目及三丁目ニ二名ノ須原屋アリ、然レトモ此等ハ共ニ別様ノ商標ヲ用ヘ互ニ相区別スルヲ以テ実際毫モ差支ナシ又守田治兵衛ノ傍ニ守田治兵衛ト称シテ同業ヲ営ムガ如キハ頗ル憎ムベキノ所為ナリト雖トモ、既ニ商標条例ノ制定アル今日ニ於テハ他人ノ商標迄モ濫用スルヲ得ザルニ付、第二ノ守田ハ如何程奸策ヲ施スモ到底第一ノ守田ノ信用ヲ奪フヲ得ザルベシ、由是観之今日商標保護ノ道存スル以上ハ敢テ此専用規則ヲ実施スルノ必要アラザルナリ
九十六番(森島松兵衛)曰ク、唯今九番(雨宮綾太郎)ハ商標保護ノ道存スル以上ハ此専用規則ノ実施ヲ要セズト申セトモ、各商人ノ情況ニ依リテハ商標ヨリ寧ロ其商売ノ通名ヲ貴重トスル場合少カラズ例ヘバ守田ノ宝丹《ニンベン》ノ鰹節ノ如キハ其商標ヲ目標トシテ販売セズシテ専ラ此「守田」又ハ「」《ニンベン》ナル通名ニヨリテ販売スルモノナリ此等ノ場合ニ於テ其営業者ハ其商標ヲ盗用セラルヽヨリ寧ロ此通名即チ屋号ヲ侵サルヽヲ以テ最モ困難ヲ感ズルノ情況アリ、左レバ今洽ク各商人ノ利益ヲ救護セントスルニハ此屋号モ商標ト共ニ併テ保護スルノ道ヲ設ケザルベカラズ、又同業者ガ同一ノ屋号ヲ使用スルモ差支ナシトノ説アレトモ現ニ余ガ旧記ニ就テ調査スル所ニ拠レバ本町鰯屋ノ如キハ明暦以来屡々詞訟ヲ起シ互ニ其屋号ノ使用権ヲ争フタリト云ヘリ、以テ其差支アルノ事実ヲ証明スルニ足ルベシ
二十六番(石関利兵衛)曰ク、九十六番(森島松兵衛)ノ説ハ一応道理アルガ如シト雖ドモ現ニ本船町・安針町・小田原町ノ生魚商中ニハ「西之宮」又ハ「佃屋」《ツクダ》ナル屋号ヲ使用スル者頗ル多シト雖モ敢テ左迄ノ不便ヲ感ズル事ナシ、殊ニ此等ノ輩ニ就テ其屋号使用ノ来歴等ヲ調査スルハ極メテ困難ナリ、又旧幕ノ頃和泉町ニ伊勢屋ト称スル酒屋アリシガ、此人ハ「伊勢屋」ノ屋号ヲ通リ名トセズシテ其実名ノ「四方久兵衛」ヲ以テ通リ名トセリ、左レバ世間ニ於テハ此類ノ如ク其屋号ヲ通リ名トセズ実名若クハ其他ノモノヲ以テ通リ名トスル者少カラズシテ、此規則ヲ実施スル時ハ却テ種々ノ不便アルベキニ付、余ハ此規則ヲ実施スルノ必要ナシト信ズ、若シ仮ニ之ヲ必要ナリトスルモ其専用ノ区域ハ一府一県下若クハ始審裁判区ト云フガ如ク今少シク之ヲ広濶ニスルニアラザレバ到底其効能ヲ見難カルベシ
九番(雨宮綾太郎)曰ク、過剋九十六番(森島松兵衛)ハ本町ノ鰯屋ガ是迄屡々争訟シタルハ互ニ同一ノ屋号ヲ使用スルヲ不便トシタルニ由ルモノヽ如ク申シタレドモ、余ノ聞ク所ニ拠レバ右ノ詞訟ハ双方ニテ各々鰯屋ノ屋号ヲ専用セン事ヲ争フタルニアラズシテ、只互ニ己レノ本家タル事ヲ争フタルニ過ギズト云ヘリ、且余ガ同業者中同一ノ屋号ヲ使用スル者アルモ差支ナシト云フタルハ全ク余ノ一私
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言ニ非ズシテ余ノ同業組合中現ニ之ニ同意スル者少カラザルナリ
会長(益田孝)曰ク、唯今九番(雨宮綾太郎)ハ同業者中同一ノ屋号ヲ使用スル者アルモ差支ナシトノ説ハ組合員中ニ同意スル者多シト申シタルガ、是ハ組合員一同ノ会議ニヨリテ決シタルノ説ナルヤ如何ン
九番(雨宮綾太郎)曰ク、余ハ初メ此議案ノ配附ヲ受クルニ当リ先ヅ組合員一同ノ総会ヲ開キテ其意見ヲ問ハント欲シタレトモ、何分余日ナカリシヲ以テ不得已常員丈ヲ招集シテ其意見ヲ問フタルニ一人トシテ屋号ノ専用ヲ必要トスル者ナク、尽ク余ノ説ニ同意シタリ
十六番(益田克徳)曰ク、既ニ各員ノ議論稍ヤ尽キタルガ如シ、此上ハ直チニ決ヲ取ラレタシ
二十四番(松木平吉)曰ク、余ハ結局二番(阿部泰蔵)十四番(小川為次郎)及七十二番(鳥海清左衛門)ノ説ヲ賛成ス
三番(梅浦精一)曰ク、余モ初ヨリ本案ニ反対ノ意見ヲ抱ク者ナルガ既ニ余ノ言ハントスル所ハ大抵各員ノ議論ニテ尽クセルヲ以テ今改メテ玆ニ贅セズ、此上ハ速ニ決ヲ取ラレタシ
時ニ会長(益田孝)ハ三十九番(吉川泰二郎)ハ本日差支アリテ欠席セシガ同人ヨリ本日ノ各議題ニ就キ意見書ヲ提出シタリトテ、参考ノ為メ書記ヲシテ之ヲ朗読セシム
 拝啓来ル十六日臨時会御開会之旨御通知相成候処私儀無拠差支有之参会難致候ニ付、別紙之通リ四ケ条ノ議案ニ対スル意見以書面陳述致候 拝具
  明治二十一年二月十五日         吉川泰二郎
  東京商工会々頭
    渋沢栄一殿
  第一号議案(屋号専用規則ノ件)
第一問 然リ、商人中同種ノ商ヒヲ為ス者ニシテ同一ノ屋号ヲ用ヰルガ為メ、或ル場合ニ於テハ甚タ煩雑ナル差閊ヲ生シ且商売上不便ヲ来ス事アリ
第二問 右差閊ノ実情ハ逐一之レヲ詳述シ難シト雖トモ或ル場合ニ於テハ大ニ旧家商人ノ営利ニ関スルモノアリ、素ヨリ些々タル小商賈ニ在リテハ其屋号ヨリ便益ヲ得ル事論スルニ足ラスト雖トモ、旧家大賈ニ在リテ主トシテ各自ノ屋号ニ依リテ営業スルモノ甚タ多シ、此ノ如キ旧家大賈ニシテ一朝奸商ノ為メニ代々継続ノ屋号ヲ奪ハルヽ時ハ単ニ営業上影響ヲ蒙ムルノミナラズ実際無益ノ不便徒労ヲ免レザルナリ
第三問 屋号専用規則ヲ設ケテ商人ノ屋号ヲ保護スルハ実ニ必要ナリ蓋シ屋号ハ英国及ヒ米国ニ於テ所謂「グードウヰル」(得意)ノ部ニ属スルモノニシテ特ニ英国ノ如キハ商法律上「グードウヰル」ヲ保護シ之レニ附スルニ種々ノ権利義務ヲ以テセリ、日本ニ於テモ屋号ヲ保護シテ之レニ法律上ノ権利義務ヲ附スルハ法理上且実際上甚タ必要ノ次第ナリ
第四問 今回諮問ニ附セラレタル屋号専用規則ハ、按スルニ主トシテ英米「グードウヰル」ノ法ニ基クモノヽ如ク、通常至当ノ規定ニ
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過ギザルガ故ニ、之レヲ施行スルモ弊害ヲ生ズル事無カル可シ、唯我国ノ事情ヲ顧ミテ二三ノ修正ヲ加ヘン事ヲ発議ス、即チ左ノ如シ
    屋号専用規則修正
第一条ノ末文「若シ一人ニシテ云々」ヲ修正シテ「若シ一人ニシテ資本ヲ分チ数箇ノ営業ヲ為ス時ハ各営業ニ付キ各別ノ屋号ヲ有スルモ或ハ同一ノ屋号ヲ通用スルモ随意タル可シ」トスベシ
  (解)我国ニ於テハ数箇ノ営業ヲ以テ世間ニ併セ称セラルヽ商人甚ダ多シ、是レ本条ノ修正ヲ発議スル所以ナリ
新第三条 本文第二条ノ次ヘ更ニ左ノ如キ新ケ条ヲ挿入スヘシ、即チ第三条 他人ノ営利ヲ妨害スルノ性質ヲ有スル屋号ハ登録ヲ許サズ
   (解)此ノ規定ハ実際必要ナリ、英国ニ於テハ商標条例中是レニ類似スルノ箇条アリ、屋号専用規則ニ於テモ同シク肝要ナリト信スルカ故ニ発議ス
第三条(本文)ノ第二項ニ「屋号ハ営業者ノ氏ヲ以テスルヲ通例トス」トアルヲ修正シテ「営業者ノ氏ヲ以テ屋号トナスニ当リ若シ同一ノ商業ヲ営ム者ニシテ云々」トスベシ
  (解)我国ニ於テハ営業者ノ氏ヲ以テ屋号トナス事通例ニアラズ概ネ其氏名ニ非ラサル他ノ名称ヲ以テ屋号トナセバナリ
○中略
於是会長(益田孝)ハ各員ノ議論稍ヤ尽キタルヲ以テ先ヅ此屋号専用規則ヲ必要トセザルノ説ニ起立ヲ命ジタルニ、二人ヲ除クノ外総起立即チ多数ニ付本会ニ於テハ此規則ノ実施ナカラン事ヲ希望スルニ決シ猶其復申案ハ理事本員ヲシテ本日審議シタル趣旨ニヨリテ立案セシメ直チニ其筋ヘ進達スルニ決ス


東京商工会議事要件録 第三一号参考部・第一―一一頁 (明治二一年五月)刊(DK190005k-0002)
第19巻 p.48-50 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三一号参考部・第一―一一頁 (明治二一年五月)刊
(第一号)
    (法律取調委員長ヘ復申書)
去一月十七日附ヲ以テ御諮問有之候屋号専用ニ関スル問題ノ義去二月十六日臨時会ヲ開キ審議ヲ遂ケ候処、本会ノ意見ハ大要別紙ノ通リ帰着仕候間此段復申仕候也
                 東京商工会々頭
  明治二十一年三月七日
                      渋沢栄一
    法律取調委員長 伯爵 山田顕義殿
      別紙
一此規則ハ実施スルノ必要ナシ
  現今各商人ノ使用スル屋号ハ何屋何堂若クハ何軒ト云フガ如ク其種類一ニシテ足ラズト雖トモ、要スルニ同種ノ商業ヲ営ム者ニシテ同一ノ屋号ヲ使用スルノ例甚タ多ク、現ニ彼ノ呉服商ノ越後屋太物商ノ近江屋質商ノ尾張屋佐野屋ノ類ニ至リテハ同業者各個ヲ区別スル為メノ特称タルヨリハ寧ロ其商業ノ種類ヲ区別スル為メ殆ト同業者ニ通用スルノ総称タルカ如キ景況アリ、是蓋シ従来大
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賈巨商ニハ暖簾ヲ与フルト称シ、雇人ガ多年誠実ニ勤続スルニ当リ主人ヨリ之ニ資本ヲ分与シ己レト同一ナル屋号ヲ称セシムルノ慣例アリテ自ラ此現況ヲ馴致シタルモノナルベシ、而シテ此等屋号ノ中ニハ各商人ガ頼リテ以テ其営業上ノ信用ヲ維持スル為メニ必要ナルモノモ亦固ヨリ少ナカラザルベシト雖トモ、若シ偶々其屋号ノ同一ナル為メ同業者互ニ不便ヲ感ズル事アレバ之ニ其住地名字若クハ附号ヲ加ヘテ適宜ニ之ヲ区別スルノ便法アレバ今日同業者中同一ノ屋号ヲ使用スル者多キモ実際商売上ニ於テ甚タシキ差閊ヲ生ズル事ナシ、蓋シ時トシテ故意ニ他人ノ屋号ヲ濫用シテ自己ノ利益ヲ図ラントスル者全ク無キニアラズト雖トモ、斯ノ如キ実例ハ稀ニ見ル所ニシテ未ダ以テ一般ニ此規則ヲ実施スルノ必要ヲ促ガスニ足ラズ、況ンヤ此等特別ノ場合ニ於テハ此規則ニヨラザルモ他ニ之ヲ救護スルノ道ナキニアラザルニ於テオヤ、是本会ニ於テ此規則ヲ実施スルノ必要ナシト信スル所以ナリ
一此規則ヲ実施スル時ハ商売上ニ混乱ヲ生ジ、商人ノ不便ヲ来スノ恐アリ
  前段既ニ述ブルガ如ク現今各商人中同種ノ商業ヲ営ム者ニシテ同一ノ屋号ヲ使用スル者甚ダ多ク、時トシテハ僅ニ一地区内ヲ出ザルニ其数々十名乃至数百名ニ達スル事往々其例ニ乏シカラズ、殊ニ暖簾ヲ与フル場合ノ如キ之ヲ受クル者ハ之ヲ名誉トシ之ヲ与フル者モ亦己レト同一ナル屋号ヲ称スル者ノ増加スルヲ以テ宗家ノ繁栄ヲ示スモノトシ却テ之ヲ悦ブノ情況アリ、然ルニ今此規則ヲ実施シ此等同一ノ屋号ヲ使用スル者ヲシテ尽ク其屋号ノ文字ヲ改メ、若クハ附号ヲ加ヘテ強テ互ニ相区別セザルヲ得ザラシムルトキハ、之ガ為メ商売上ニ非常ノ混乱ヲ生シ商人ノ不便少ナカラザルベシ、蓋各個人ニ就テ云フ時ハ中ニハ従来使用シタル己レノ屋号ヲ専用スルノ権利ヲ得、他ノ同業者ヲシテ尽ク之ヲ使用スル事ヲ得ザラシメン事ヲ望ム者モアルベシ、然リト雖トモ今此規則ヲ実施スル時ハ果シテ各個人ヲシテ其望ヲ達セシムル事ヲ得ベキヤ是本会ニ於テ私ニ疑ヲ抱ク所ナリ、例ヘバ同一ノ屋号ヲ使用スル数十名乃至数百名ノ同業者ガ同時ニ其屋号ノ専用ヲ願出ヅルカ如キ場合ニハ果シテ如何ナル標準ニヨリテ之ヲ許可スベキヤ、仮ニ其使用ノ来歴年代ノ前後等ヲ以テ之ガ標準トセンカ斯ク多数ノ同業者ニ就キ数十年若クハ数百年前ニ遡ボリテ、逸々其使用ノ来歴年代ノ前後等ヲ調査スルガ如キハ容易ナラザル手数ニシテ其繁雑実ニ名状スベカラザルモノアラン、良シヤ一歩ヲ譲リ此等ノ調査ハ為シ得ベシトスルモ元来商人ニハ特ニ保守ヲ貴ブノ慣習アリテ苟モ祖先来経営シ来リタル旧例ハ何事ニヨラズ之ヲ変更スル事ヲ好マザルノ情況アリ、然ルニ偶々同業者中ノ一人ガ先ヅ其屋号ノ専用ヲ得タルガ為メ他ノ数十名乃至数百名ハ之ニヨリテ多年来差支ナク使用シ来リタル屋号ヲ一朝ニシテ改メザルヲ得ズトスル時ハ其困難果シテ如何ゾヤ、且ツ夫レ各商人ノ中ニハ例ヘハ鰹節商ニシテ鶏卵商並ニ砂糖商ヲ兼ヌルガ如ク一人ニシテ数種ノ商業ヲ兼営スル場合少カラズ、然ルニ此等ノ商人ニシテ独リ其本業ノ同
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業者ノミナラズ他ノ兼業ノ同業者ト区別スルノ屋号ヲ使用セザルヲ得ザルモノトスル時ハ其手数特ニ繁雑ニシテ因テ生ズル不便実ニ少カラザルベシ、由是観之各商人ヲシテ屋号ヲ専用セシムル事ハ仮リニ多少ノ便利アリトスルモ其便利ハ到底因テ生ズル不便ヲ償フニ足ラザルナリ、是本会ニ於テ此規則ヲ実施スル時ハ商売上ニ混乱ヲ生ジ商人ノ不便ヲ来スノ恐アリト信ズル所以ナリ
一此規則ヲ実施スル時ハ商人ノ徳義心ヲ破壊シ、却テ目的外ノ結果ヲ生ズルノ懸念アリ
  案ズルニ此規則ノ目的トスル処ハ他人ノ屋号ヲ濫用スルノ弊ヲ防ギ、以テ使用本主ノ利益ヲ保護スルニ在ルヘシ、然リト雖ドモ今若シ此規則ヲ実施スル時ハ果シテ其目的ヲ達シ得ベキヤ、本会ニ於テハ単ニ其目的ヲ達シ難キノミナラズ或ハ却テ反対ノ結果ヲ生ズル事ナキヤヲ懸念スルナリ、蓋シ今日同種ノ商業ヲ営ム者ニシテ同一ノ屋号ヲ使用スル者甚タ多キニモ拘ラズ、実際ニ於テ故意ニ他人ノ屋号ヲ濫用シテ其利益ヲ害セン事ヲ図ル者極メテ少ナキモノハ畢竟スルニ各商人ニ徳義心アリテ自ラ此等ノ所為ヲ制止スルカ為メナルヘシ、然ルニ今此規則ヲ実施シテ原案第三条ニアルガ如ク「同一ノ営業ヲ為ス者ハ一地内ニ於テ同一ノ屋号ヲ用ユル事ヲ許サズ」又「屋号ハ営業者ノ氏ヲ以テスルヲ通例トス、若シ同一ノ商業ヲ営ム者ニシテ同氏ナル時ハ其氏ニ附号ヲ加ヘテ互ニ之ヲ区別セザルベカラズ」ト定ムルトキハ、是一方ニ於テ同一ノ商業ヲ営ム者ニ向ヒ同地内ニ在ラザル時若クハ附号ヲ加フル時ハ何人ノ使用スル屋号ト雖トモ、随意ニ之ヲ使用スル事ヲ得ル旨ヲ公許スルト同一ナルニ付之ガ為メ従来各商人中ニ成立セル徳義心ヲ破壊シ之ヲシテ法律ノ許ス範囲内ニ於テ他人ノ屋号ヲ濫用シ、以テ其利益ヲ害セントスルノ情念ヲ発生セシメ結局却テ其使用本主ノ危険ヲ増スノ恐ナキカ、例ヘハ甲ガ芝ノ高輪(地区内)ニテ万清ト称シ料理業ヲ営ムニ当リ乙ガ僅ニ数丁ヲ隔ツル品川(地区外)ニテ同一ノ屋号ヲ称シ甲ト同種ノ商業ヲ営ム事アルベク、又丙ガ駿河町ニテ越後屋ト称シ呉服商業ヲ営ムニ当リ、丁ガ其隣地ニ於テ同一ノ屋号ヲ称シ只其屋号ニ目立タザル細形ノ附号ヲ加ヘテ丙ト同種ノ商業ヲ営ム事アルベシ、然ルニ此等ノ場合ニ於テ甲丙ナル使用本主ハ乙丁ナル同業者ノ為メ実地ノ損害ヲ受クル事アリトスルモ、如何セン此等乙丁ノ所為タル恰モ法律面ニ於テ公許スル処ナルヲ以テ甲丙ナル被害者ハ乙丁ナル加害者ニ向テ損害ノ賠償ヲ要求スル事ヲ得ザルヘシ、果シテ然ルトキハ甲丙ノ地位ニ立ツ者ハ仮令表面ニ於テハ其屋号ノ専用ヲ保護セラルヽトスルモ実際ニ於テハ之ガ為メ却テ奸商ニ向テ適々己レニ加害スルノ釁隙ヲ開クモノト謂ハザルベカラズ、是本会ニ於テ此規則ヲ実施スルトキハ商人ノ徳義心ヲ破壊シ却テ目的外ノ結果ヲ生ズルノ懸念アリト信スル所以ナリ
以上陳述スルガ如キ理由アルニヨリ本会ニ於テハ此規則ノ実施ナカラン事ヲ希望ス
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東京商工会議事要件録 第三三号・第二―六頁 (明治二一年九月)刊(DK190005k-0003)
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東京商工会議事要件録  第三三号・第二―六頁 (明治二一年九月)刊
  第十七定式会
          (明治二十一年八月二十日開)
  第三十臨時会
    会員出席スル者 ○三十二名
午後六時十分一同着席、会頭(渋沢栄一)ハ差支アリテ欠席シタルヲ以テ副会頭(益田孝)会長席ニ着ク
会長(益田孝)ハ是ヨリ定式会ヲ開クベキ旨ヲ告ゲ、規程第五章第二十二条ニ依リ明治二十一年上半季間定式事務ノ成蹟ヲ報告ス
  自明治二十一年一月自同六月 半季間事務ノ報告
○中略
    政府ヨリ諮問   二件
○屋号専用規則ノ義ニ付法律取調委員長ヨリ下問
  本件ハ明治二十一年一月十七日附ヲ以テ山田法律取調委員長閣下ヨリノ諮問ニ係リ、其要旨ハ当業者ニ於テ屋号専用規則ノ制定ヲ必要トスルヤ否ヤト云フニ在リ、即チ明治二十一年二月十六日第二十七臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ遂ニ之ヲ必要トセザルニ決シタルニ付、其復申案ハ更ニ理事本員ニ於テ之ヲ調成シ翌三月七日附ヲ以テ之ヲ同委員長閣下ヘ進達シタリ
○下略
  ○法律取調委員会ハ明治十九年八月ニ組織サル。当初ハ外務大臣ノ管轄ニ属セシガ後司法大臣ノ管理ニ移リ、専ラ民法及ビ商法典ノ編纂ヲ掌リ、明治二十一年末ヲ以テ其審議ヲ終了シ草案ヲ内閣ニ呈ス。詳細ハ志田鉀太郎著「日本商法典の編纂と其改正」(第三九―四五頁)参照。
  ○明治二十一年五月十五日ノ条(本巻第六〇頁)参照。
  ○屋号取締規則ハ実施サレザリシモノノ如シ。