デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.60-70(DK190007k) ページ画像

明治21年5月15日(1888年)

是ヨリ先法律取調委員長伯爵山田顕義ヨリ再ビ屋号専用規則ニ関シ諮問アリ。是日栄一当会会頭トシテ之ニ答申ス。


■資料

東京商工会々外諸向往復文書 第四号(DK190007k-0001)
第19巻 p.60 ページ画像

東京商工会々外諸向往復文書 第四号
                  (東京商工会議所所蔵)
会頭栄一  副会頭《(孝)》   幹事       書記《(萩原)》
今般法律取調委員長ヨリ更ニ別紙 ○略スノ通リ諮問有之候処右ハ畢竟スルニ事実ノ諮問ニ付、先以実際ニ就キ調査ヲ遂ケ復申案ヲ作リ之ヲ議題トシテ審議候方便利ト存候、依テ右様取計可然哉
  二十一年四月


東京商工会議事要件録 第三一号・第二―三四頁 (明治二一年五月)刊(DK190007k-0002)
第19巻 p.60-67 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三一号・第二―三四頁 (明治二一年五月)刊
  第二十八回臨時会  (明治二十一年四月三十日開)
    会員出席スル者 ○三十一名
午後六時三十分一同着席、会頭(渋沢栄一)ハ差支アリテ欠席シタルヲ以テ副会頭(益田孝)会長席ニ就ク
○中略
 - 第19巻 p.61 -ページ画像 
次ニ会長(益田孝)ハ是ヨリ第四号議案ヲ議スベキ旨ヲ告ゲ書記ヲシテ之ヲ朗読セシム
(第四号議案)
 先般屋号専用ニ関スル諮問ノ答申書ヲ得候処、屋号専用規則第三条第二項ニ「屋号ハ営業者ノ氏ヲ以テスルヲ通例トス」トアルハ「営業者ノ氏又ハ氏名ヲ以テスルヲ通例トス」ト云フノ意ニシテ屋号トハ商人其営業上ニ於テ用ヰタル名称ヲ総括スルモノ即チ商号ニ外ナラズ、然ルニ単ニ「氏ヲ以テスルヲ通例トス」トアリタルヲ以テ或ハ諮問ノ趣意貫徹不致哉ニ被存候、因テ更ニ左ノ件々及諮問候条精細御討議ノ上御回報相成度致冀望候也
  明治二十一年三月廿九日
              法律取調委員長 山田顕義
  東京商工会々頭
    渋沢栄一殿
 追テ本文諮問ノ義至急ヲ要シ候ニ付可成速ニ御回答有之度候也
 第一 商人営業上ニ於テ如何ナル名称ヲ以テ取引ヲ為スヲ通例トスルヤ
 第二 同業商人ノ営業上ニ用ヰル名称ニシテ同一ナルモノアルトキハ互ニ其区別ヲ為スノ例アリヤ、若シ例アルトキハ如何ノ方法ヲ以テ其区別ヲ為スヤ
 第三 相続ニ因リ営業ヲ引受タル者ハ従前ヨリノ営業上ニ用ヰル名称ヲ続用スルノ例ナルヤ、将タ其名称ヲ変更スルノ例ナリヤ
 第四 営業ノ全部ヲ他人ニ売譲スルノ例アリヤ、又営業ノ全部ニ併セ営業上ニ用ヰル名称ヲモ他人ニ売譲スルノ例アリヤ
 第五 営業ト名称トヲ併セテ他人ニ売譲スル事アルトキハ其売譲ニ付キ如何ナル結果ヲ生ズルヲ通例トスルヤ
 第六 一人ニシテ資本ヲ分離シ数種ノ営業ヲ為ストキ、其各種営業ノ為メ名称ヲ異ニスルノ例アリヤ
 第七 各種営業ノ仲間若クバ組合ニ於テ其仲間若クハ組合員ノ名簿又ハ同種営業者ノ名簿ヲ製スルノ例アリヤ、若シ例アルトキハ氏名住所ノミニ記入ニ止マルヤ、将タ其他ノ事項ヲモ記入スルヤ、又其他ノ事項ヲ記入スルトキハ如何ナル事項ヲ記入スルヤ
 第八 各種営業ノ仲間若クハ組合ニ於テ互相間ノ申合規則若クハ定款ノ如キ規約書ノ設ケアリヤ、若シ其設ケアルトキハ如何ナル事項ヲ之ニ規定スルヤ
 第九 屋号専用規則中第三条第二項ニ「屋号ハ営業者ノ氏ヲ用ヰルヲ通例トス」トアルヲ「氏又ハ氏名ヲ用ヰルヲ通例トス」ト為ストキハ答申書ニ述ル所ト其効果ヲ異ニスル所ナキヤ
 右第一乃至第八ノケ条中維新前後ニ於テ其例ヲ異ニスルモノアルトキハ之ヲ区別シテ審議セラレン事ヲ望ム
会長(益田孝)ハ此諮問ニ対スル答案ハ兼テ理事本員ニ於テ取調ベ置キタルガ、此九項ノ問目ハ要スルニ皆事実ノ如何ニ関シ、深ク討議ヲ要スルモノニアラザルニ付直チニ此答案ヲ議案トシテ議シ度旨ヲ告ゲ書記ヲシテ之ヲ逐条朗読セシム
 - 第19巻 p.62 -ページ画像 
 第一問
  商人営業上ニ於テ如何ナル名称ヲ以テ取引ヲ為スヲ通例トスルヤ
 答
  □合茶屋《(待カ)》・料理屋等其他普通商品ヲ小売スル商人ガ消費者ニ交附スル営業品代価受取証ノ類ニハ何軒何楼何堂若クバ何屋ト云フガ如ク単ニ其屋号ノミヲ用ユルノ例モアレトモ、重立タル商人ガ地方ノ取引先ニ対スル取引上ニ用ユル重ナル書類(仕切状送状ノ類)ニハ其商人ノ氏名ヲ用ユルヲ通例トス(維新前ニアリテハ氏ノ代リ屋号ヲ用ユ)而シテ此等ノ商人ガ同業者間ニ於ケル口頭ノ取引ニ用ユル名称ニ至リテハ単ニ屋号ノミヲ呼ブ事アリ(伊勢屋源七ヲ伊勢屋ト云フノ類)或ハ屋号ノ頭字ト名前ノ頭字トヲ連称スルアリ(伊勢屋源七ヲ伊勢屋《(源カ)》ト云フノ類)或ハ其附号ノミヲ唱フルアリ(ノ類)《カネニンベンマルニイチ》或ハ其住地ヲ表示スル文字ヲ附号ニ加ヘテ用ユルアリ(芳町ニ住スル某商人ヲ[img]〓[img]〓《ヤマニ》ト云フノ類)其名称ニハ一定ノ例ナシト雖トモ、要スルニ其称ヒ方簡短ニシテ同業者相互ヲ区別スルニ最モ便利ナルモノヲ用ユルノ例ナリ
本項ハ衆議ノ末全ク原案ニ可決ス
 第二問
  同業商人ノ営業上ニ用ユル名称ニシテ同一ナルモノアル時ハ互ニ其区別ヲ為スノ例アリヤ、若シ例アル時ハ如何ナル方法ヲ以テ其区別ヲ為スヤ
 答
  第一問ノ答案ニ述ブルガ如ク重立タル商人ガ地方ノ取引先ニ対スル取引上ニハ氏名ヲ併セタル名称ヲ用ユルヲ通例トシ、而シテ同業者中同一ノ氏名ヲ有スル例ハ殆ド絶無ニ付其間毫モ紛ハシキ事ナク随テ別段ノ方法ニ拠リテ互ニ之ヲ区別スルノ必要ナシ、蓋シ同業者間ニ於ケル口頭ノ取引ニ用ユル名称ノ如キ彼此称ヒ方ニ紛ハシキ事アルトキハ固ヨリ此ヲ区別スルノ例アリト雖トモ、其方法ハ一定セズシテ或ハ屋号ノ頭字ヲ名前ノ頭字ニ添ヘテ区別スルアリ或ハ附号ノミニヨリ区別スルアリ、或ハ住地ノ文字ヲ附号ニ加ヘテ区別スルアリ、今其二三ノ実例ヲ挙示スルトキハ左ノ如シ
 ○屋号ノ頭字ヲ名前ノ頭字ニ添ヘテ区別スルノ例
    第一例 (塩物商)



屋号        附号         住地         氏名      区別シタル名称     同上ノ解説
明石屋《アカシ》[img]〓 日本橋区本材木町一丁目七番地 渡辺治右衛門   明治《アカヂ》     明石屋ノ頭字ヲ治右衛門ノ頭字ニ添ヘタモノ
明石屋     [img]〓 前同断            竹内七太郎    明七《アカシチ》    前ノ例ニ同ジ
明石屋     [img]〓 日本橋区本材木町一丁目八番地 坂本伊助     明伊《アカイ》     前ノ例ニ同ジ
明石屋     [img]〓 前同断            阿久津甚太郎   明甚《アカジン》    前ノ例ニ同ジ
明石屋     [img]〓 日本橋区青物町拾六番地    小林由蔵     明由《アカヨシ》    前ノ例ニ同ジ
明石屋     [img]〓 前同断            渡辺大次郎    明大《アカダイ》    前ノ例ニ同ジ
明石屋     [img]〓 日本橋区四日市町八番地    串田孫三郎    明孫《アカマゴ》    前ノ例ニ同ジ

        第二例  (砂糖商)

屋号        附号          住地        氏名      区別シタル名称      同上ノ解説
 - 第19巻 p.63 -ページ画像 
横田屋《ヨコタ》[img]〓 日本橋区小舟町一丁目二番地  殿木市太郎《トノキ》 横市《ヨコイチ》  横田屋ノ頭字ヲ市太郎ノ頭字ニ添ヘタルモノ
横田屋《ヨコタ》[img]〓 日本橋区伊勢町三番地     殿木善兵衛      横善《ヨコゼン》  前ノ例ニ同ジ
 ○附号ノミニテ区別スルノ例

        第一例  (薬業商)

屋号        附号          住地        氏名      区別シタル名称      同上ノ解説
いわしや    [img]〓 日本橋区本町三丁目十八番地  松本市左衛門   ドンブリ        附号ノ名
いわしや    [img]〓 日本橋区本町三丁目十七番地  青木藤右衛門   ドンパチ        前ノ例ニ同ジ
いわしや    [img]〓 日本橋区本町三丁目十四番地  岩本五兵衛    ニンベン        前ノ例ニ同ジ
いわしや    [img]〓 日本橋区本町三丁目十二番地  松本儀兵衛    ドンジウ        前ノ例ニ同ジ
いわしや    [img]〓 日本橋区本町三丁目十四番地  牧野佐兵衛    ドンサ         前ノ例ニ同ジ
いわしや    [img]〓 日本橋区本町四丁目七番地   臼井清兵衛    ドンセ         前ノ例ニ同ジ
いわしや    [img]〓 日本橋区本町三丁目十六番地  大島専蔵     ドンダイ        前ノ例ニ同ジ
いわしや    [img]〓 日本橋区本町三丁目十二番地  松本岩之助    ドンヱム        前ノ例ニ同ジ

        第二例  (薬業商)

屋号        附号          住地        氏名       区別シタル名称     同上ノ解説
伊勢屋     [img]〓 日本橋区本町三丁目六番地   島原吉兵衛    ウロコ         附号ノ名
伊勢屋     [img]〓 日本橋区本町四丁目十四番地  島田久兵衛    ウロコリ        前ノ例ニ同ジ
伊勢屋     [img]〓 日本橋区本町三丁目六番地   野田与兵衛    ウロコヨ        前ノ例ニ同ジ
伊勢屋     [img]〓 日本橋区瀬戸物町拾番地    増田金八     ウロコシヤウ      前ノ例ニ同ジ

        第三例  (薬業商)

屋号        附号          住地        氏名       区別シタル名称     同上ノ解説
富屋      [img]〓 日本橋区本町四丁目十三番地  仲善兵衛     カクトミ        附号ノ名
富屋      [img]〓 日本橋区本町三丁目七番地   円城平右衛門   カクトミイチ      前ノ例ニ同ジ
富屋      [img]〓 日本橋区本町四丁目十三番地  中川卯八     カクサン        前ノ例ニ同ジ

 ○住地ノ文字ヲ附号ニ加ヘテ区別スルノ例
        第一例  (砂糖商)

屋号        附号          住地        氏名      区別シタル名称      同上ノ解説
伊勢屋     [img]〓 日本橋区芳町二番地      山村源七     ヨヤマニ        芳町ニ住スル[img]〓ノ意ナリ
伊勢屋     [img]〓 日本橋区本町四丁目十一番地  星野清左衛門   ホンチヤウヤマニ    本町ニ住スル[img]〓ノ意ナリ
        第二例  (砂糖商)
屋号        附号          住地       氏名       別シタル名称       同上ノ解説
伊勢屋     [img]〓 日本橋区伊勢町十六番地    川名五左衛門  シホガシヤマニ      伊勢町塩河岸ニ住スル[img]〓ノ意ナリ
伊勢屋     [img]〓 日本橋区小舟町一丁目一番地  川名藤兵衛   ニンベンヤマニ      イノ附シタル[img]〓ノ意ナリ



本項ハ衆議ノ末全ク原案ニ可決ス
 第三問
  相続ニヨリ営業ヲ引受ケタル者ハ従前ヨリ営業上ニ用ユル名称ヲ続用スルノ例ナルヤ、将タ其名称ヲ変交《(更)》スルノ例ナリヤ
 答
  所謂旧家ト称シ数代同一ノ商業ヲ営ミ来リヤヽ定マリタル取引先ヲ有スル商人ハ営業ヲ相続スルニ当リ、多クバ従前ヨリ営業上ニ用ヘ来リタル名称ヲ続用スルヲ通例トス、例ヘバ酒問屋鹿島清兵衛ガ隠居シテ其嗣子ガ営業ヲ相続スル場合ノ如キ其相続人ハ己レガ是迄称シ来リタル名前ヲ改メテ更ニ父ノ名前ヲ受ケ継ギ、即チ
 - 第19巻 p.64 -ページ画像 
其取引上ニ於テハ依旧鹿島清兵衛ナル名称ヲ続用スルノ例ナリ、然レトモ是蓋シ必ズシモ其取引先ニ対シテ信用ヲ維持スル為メニアラズシテ要スルニ只便宜営業上ノ混雑ヲ避クルガ為メナリ、故ニ営業創始以来未ダ年代ヲ経ス随テ別段定マリタル取引先ヲ有セザルノ商人ニアリテハ其営業ヲ相続スル者先代ノ氏ヲ続用スル事勿論ナレトモ名前ニ至リテハ必ズシモ之ヲ続用セザルナリ
本項ハ衆議ノ末全ク原案ニ可決ス
 第四問
  営業ノ全部ヲ他人ニ売譲スルノ例アリヤ、又営業ノ全部ニ併セ営業上ニ用ユル名称ヲモ他人ニ売譲スルノ例アリヤ
 答
  維新前ニ在リテハ暖簾ヲ売ルト称シ営業ト共ニ名称ヲ他人ニ売譲シタル事其例乏シカラザリシガ、現今ニ於テハ待合茶屋・料理屋ノ如キ所謂客商売ヲ営ム者ニハ営業ト共ニ屋号ヲ売譲スル事全ク其例ナキニアラズト雖トモ、普通商品ヲ販売スル商人ニ在リテハ例ヘバ酒類商ガ廃業セントスルニ当リ是迄其営業上ニ使用セル建物並ニ附属品一式ヲ新ニ酒類営業ヲ始メントスル者ニ便宜ヲ以テ売渡スガ如キ事アレトモ営業ト共ニ名称ヲ売譲スル事ハ全ク其例ナシ、蓋シ往時幕府ノ頃ニハ商売上ニ専売ノ例アリテ例ヘバ何町ノ何屋何兵衛ガ一旦或ル諸候《(侯)》ヨリ鑑札ヲ受ケテ其御出入商人トナル時ハ、其諸候ノ需用スル商品ハ己レ一手ヲ以テ供給スルノ特例ヲ有シ、又其諸候モ何人タルヲ問ハズ此鑑札ヲ所持シ其鑑札面ニ記載セル名称ヲ冒ス者ヘハ同様ノ特例ヲ与ヘタルガ如キ風習アリテ、恰モ商人ノ名称ニハ一種ノ専売権附着セルヲ以テ自ラ名称ノ売譲行ハレ其業体ニヨリテハ加州候ノ御出入商人何屋何兵衛及越前候ノ御出入商人何屋何兵衛ト云フガ如ク一人ニシテ数個ノ名称ヲ有シタルノ例モアリシガ、維新後ニ至リテハ此等専売ノ弊風一洗シテ従来商人ノ名称ニ附着セル専売権次第ニ消滅シ、其営業ノ盛衰ハ重ニ其人自身ノ勉否ニヨル事トナリタレバ随テ今日商人ガ其営業上ノ信用ヲ博セントスルニ当リテハ其名称ノ必要ヲ感ゼザルニ至レリ、是蓋シ近来名称ノ売譲漸ク其跡ヲ減シタル所以ナリ
本項ハ衆議ノ末原案ニ「現今ニ於テハ営業ト共ニ名称ヲ売譲スル事全ク其例ナシ」ト断言シアルヲ更ニ「現今ニ於テモ営業ト共ニ屋号ヲ売譲スル事全ク其例ナキニアラズ」ノ意味ニ脩正スルニ決ス
 第五問
  営業ト名称トヲ併セテ他人ニ売譲スル事アル時ハ其売譲ニ付如何ナル結果ヲ生ズルヲ通例トスルヤ
 答
  維新前ニ在リテ或ル商人ガ営業ト共ニ名称ヲ他人ニ売渡ス時ハ売渡人ヨリ買受人ニ其営業上ニ使用セル建物ノ全部及附属品ヲ引渡スヲ通例トス、而シテ時トシテハ引渡人ハ取引先ノ名寄帳ヲ買受人ニ渡シ或ハ買受人ノ為メ厚意ヲ以テ特ニ取引先ニ紹介スルガ如キ事アレトモ其取引先ニ対スル貸借ノ如キハ別段約束アルニアラザレバ買受人ニ於テ引受ケザルノ例ナリ
 - 第19巻 p.65 -ページ画像 
本項ハ衆議ノ末原案ノ趣意不充分ニシテ徹底シ難キノ恐アルニ付今少シク之ヲ明瞭ニ脩正スルニ決ス
 第六問
  一人ニシテ資本ヲ分離シ数種ノ営業ヲ為ス時ハ、其各種営業ノ為メ名称ヲ異ニスルノ例ナリヤ
 答
  一人ニシテ資本ヲ分離シ数種ノ営業ヲ為ス時ハ、中ニハ同一ノ名称ヲ用ヘズシテ実子若クバ縁故アル者ヲ名前人トシ取引上其名称ヲ用ユルノ例ナキニアラズト雖トモ、多クハ同一ノ名称ヲ用ユルヲ通例トス、現ニ府下駿河町ノ三越得右衛門ノ如キハ呉服太物商業ノ外資本ヲ分離シテ営ム処ノ商業一ニシテ足ラズ、而シテ其本店ノ外各種ノ営業店ニハ支配人ト称シ全権ヲ委任シタル者一人ヅツヲ置キ、之ヲシテ営業上一切ノ事務ヲ管理セシムルト雖トモ其取引上ニハ総テ三越得右衛門ナル名称ヲ用ユルノ例ナリ
本項ハ衆議ノ末、原案ニ「同一ノ名称ヲ用ユルヲ通例トス」トアルヲ「同一ノ名称ヲ用ヘザルノ例モアリ或ハ同一ノ名称ヲ用ユルノ例モアリ」ノ趣意ニ脩正スルニ決ス
 第七問
  各種営業ノ仲間若クバ組合ニ於テ其仲間若クバ組合員ノ名簿又ハ同種営業者ノ名簿ヲ製スルノ例アリヤ、若シ例アル時ハ氏名住所ノミノ記入ニ止マルヤ、将タ其他ノ事項ヲモ記入スルヤ、又其他ノ事項ヲ記入スル時ハ如何ナル事項ヲ記入スルヤ
 答
  各種営業ノ仲間若クバ組合ニ於テ同種営業者ノ名簿ヲ製スルノ例ナシト雖トモ、其仲間若クバ組合員ノ名簿ヲ備ヘ置クノ例アリ、而シテ此名簿ニハ住所及氏名ヲ記入スルニ止マリ(維新前ニハ氏ノ代リニ屋号ヲ用ユ)其他ノ事項ハ別段之ヲ記入セサルノ例ナリ但シ出店主若クバ出店支配人ヲシテ営業ヲ管理セシムル場合ノ如キ其取引上ニハ営業本主ノ氏名ヲ用ユルノ例ナレトモ此名簿ニハ其出店主若クバ出店支配人ノ氏名ヲ記入スルヲ例トス、而シテ其氏名ノ傍ラニ例ヘバ何某出店主何某ト云フガ如ク営業本主ノ氏名ヲモ添記スルヲ例トス
本項ハ衆議ノ末「質商又ハ古物商組合ノ如キ特別ノ取締ヲ要スルモノハ其筋ノ令達ニヨリ住所及氏名ノ外ニ屋号及年齢等ヲ記入スルノ例モアリ」ノ意ヲ加フルニ決ス
 第八問
  各種営業ノ仲間若クバ組合ニ於テ互相間ノ申合規則若クハ定款ノ如キ規約書ノ設アリヤ、若シ其設アル時ハ如何ナル事項ヲ之ニ規定スルヤ
 答
  現今各種営業ノ仲間若クバ組合ニ於テハ多クバ規約書ノ設アリ、而シテ其規約書ハ概ネ明治十七年十一月廿九日農商務省達第三十七号同業組合準則ニヨリ即チ左ノ事項ヲ規定スルヲ通例トス
   第一項 組合ヲ組織スル業名及組合ノ名称
 - 第19巻 p.66 -ページ画像 
   第二項 組合ノ地区及事務所ノ位置
   第三項 目的及方法
   第四項 役員ノ撰挙法及権限
   第五項 会議ニ関スル規程
   第六項 加入者及退去者ニ関スル規程
   第七項 費用ノ徴収及賦課法
   第八項 違約者処分ノ方法
  蓋シ維新前ニ在リテハ申合規則ノ類ナキニアラザリシト雖トモ概ネ不完全ヲ極メ、或ハ殆ド口約ニ類スルアリ、或ハ初ヨリ一定ノ体裁ヲ為サズ只臨時申合ヲ要スル事柄起ルニ当リ其時々之ヲ追記スルアリ、要スルニ其式様区々ニシテ其事項ハ一定ノ標目ニ拠リテ之ヲ例言スルヲ得ズ
本項ハ衆議ノ末全ク原案ニ可決ス
 第九問
  屋号専用規則中第三条第二項ニ「屋号ハ営業者ノ氏ヲ用ユルヲ通例トス」トアルヲ「氏又ハ氏名ヲ用ユルヲ通例トス」ト為ス時ハ答申書ニ述ブル処ト其効果ヲ異ニスル処ナキヤ
 答
  今日同業者中ニハ氏ヲ同フスルモ名ヲ異ニスル者アリ、或ハ名ヲ同フスルモ氏ヲ異ニスル者アリ、而シテ彼此共ニ同一ノ氏名ヲ有スル事ハ殆ド其例ナシ、故ニ今仮リニ商人ヲシテ氏ノミヲ登録セシメズシテ必ズ氏ト名トヲ連接シテ登録セシムルモノトスル時ハ答申書第二項ニ述ブルガ如ク同業者中一人ガ先ヅ専用権ヲ得ルニ当リ他ノ者ガ之ニヨリテ甚ダシキ迷惑ヲ受クルガ如キ事ナク、又第三項ニ述ブルガ如ク之ガ為メ特ニ商人ノ徳義ヲ破壊スルガ如キ事モナカルベシ、蓋シ同業者中同一ノ名称ヲ用ユル者多クシテ互ニ不便ヲ来シ又ハ他人ノ名称ヲ濫用シテ其信用ヲ奪ハントスルノ弊害起ルニ当リテハ或ハ屋号専用規則ノ如キ取締法ノ制定ヲ必要トスル事情ナキニアラザルベシト雖トモ、現今各商人ガ取引上ニ用ユル名称ハ既ニ第一問ノ答案ニ記スルガ如ク必ズ氏名ヲ用ユルノ例ナレバ、実際ニ於テハ彼此ノ名称衝突シテ互ニ不便ヲ来スガ如キ事毫モナク、又現ニ氏名ハ総テ戸籍ニ登記シテ公認ヲ経ザルベカラズシテ随意ニ之ヲ変更スルヲ得サルノ制ナレバ、仮令此ノ如キ取締法ノ制定ナシトスルモ実際ニ於テ之ヲ濫用スルノ弊害起ル事ナシ、而シテ同業者間ニ於ケル口頭ノ取引ノ如キ同一ノ屋号ヲ用ユル者数人アリテ之ガ為メ偶々称呼ニ紛ハシキ事ナキニアラザルモ、第二問ノ答案ニ例記セルガ如ク之ニ住地名字若クバ附号ヲ加ヘテ適宜ニ之ヲ区別スルノ便法アリテ各商人ハ之ガ為メ取引上毫モ不便ヲ感ズル事ナシ、由是観之仮令屋号専用規則第三条第二項ニ「屋号ハ営業者ノ氏ヲ用ユルヲ通例トス」トアルヲ「氏又ハ氏名ヲ用ユルヲ通例トス」ト為スモ其実施ノ必要ナキ主点ニ於テハ答申書ニ述ブル処ト毫モ其効果ヲ異ニスル処ナシ
本項ハ衆議ノ末全ク原案ニ可決ス
次ニ猶衆議ノ末此答案ハ追テ本日議決シタル趣旨ニ基キ理事本員ニ於
 - 第19巻 p.67 -ページ画像 
テ之ヲ脩正シ直チニ之ヲ法律取調委員長閣下ヘ進達スルニ決ス
○下略


東京商工会議事要件録 第三二号・第二―三頁 (明治二一年六月)刊(DK190007k-0003)
第19巻 p.67 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三二号・第二―三頁 (明治二一年六月)刊
  第十六定式会
          (明治二十一年五月廿一日開)
  第廿九臨時会
    会員出席スル者 ○二十九名
会長(渋沢栄一)ハ開会ノ趣旨ヲ報ジ先ヅ定式会ヲ開クベキ旨ヲ告ゲ左ノ二件ヲ報告ス
 一商人名称ノ使用方等ニ関スル諮問ニ対シ法律取調委員長ヘ復申ノ件
   右諮問ニ対スル復申案ハ前会決議ノ趣旨ニ基キ其後理事本員ニ於テ修正ヲ加ヒ、本月十五日附ヲ以テ之ヲ法律取調委員長ヘ進達シタリ(復申書ハ参考部第一号ニ掲グ)
○下略


東京商工会議事要件録 第三二号参考部・第一―一九頁 (明治二一年六月)刊(DK190007k-0004)
第19巻 p.67-69 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三二号参考部・第一―一九頁 (明治二一年六月)刊
(第一号)
    (商人各称等ニ関スル復申書)
先般屋号専用規則ノ義ニ付本会ヘ御諮問有之候ニ付審議ノ上本会意見ノ次第復申仕置候処、今般猶又右ニ関シ九項ノ問目御諮問有之候ニ付去月三十日臨時会ヲ開キ各項ニ就キ遂審議候処、本会ノ意見ハ別紙ノ通リ議決仕候間此段復申仕候也
                  東京商工会々頭
  明治廿一年五月十五日           渋沢栄一
    法律取調委員長@ 伯爵 山田顕義殿
       別紙
 第一問
  商人営業上ニ於テ如何ナル名称ヲ以テ取引ヲ為スヲ通例トスルヤ
 答
○中略
 第二問
  同業商人ノ営業上ニ用ユル名称ニシテ同一ナルモノアル時ハ互ニ其区別ヲ為スノ例アリヤ、若シ例アル時ハ如何ノ方法ヲ以テ其区別ヲ為スヤ
 答
○中略
 第三問
  相続ニヨリ営業ヲ引受ケタル者ハ従来ヨリノ営業上ニ用ユル名称ヲ続用スルノ例ナルヤ、将タ其名称ヲ変更スルノ例ナルヤ
 答
○中略
 第四問
  営業ノ全部ヲ他人ニ売譲スルノ例アリヤ、又営業ノ全部ニ併セ営
 - 第19巻 p.68 -ページ画像 
業上ニ用ユル名称ヲモ他人ニ売譲スルノ例アリヤ
 答
  例ヘバ甲ガ乙ヨリ其営業上ニ使用セル建物並ニ附属品等一式ヲ買入レ其営業ヲ引続クカ如キ事ハ維新前ハ勿論現今ニ於テモ往々其例アリ、而シテ維新前ニ在リテハ前陳ノ如キ場合ニ際シ乙ガ其営業ト共ニ己レノ使用セル名称ノ全部(屋号及名前)又ハ一部(屋号)ヲ甲ニ売譲シタルノ例少ナカラサリシガ、現今ニ於テハ営業ト共ニ普通ノ名称(氏名)ヲ売譲スルコトハ全ク其例ナシ、尤中ニハ営業ト共ニ屋号ヲ売譲スルノ例全クナキニアラズト雖モ此場合ニ於テ其屋号ハ別段ニ価ヲ定メテ売譲スルニアラズ、只其価直ヲ建物並ニ附属品等ノ代価中ニ見込ミ置ク迄ナリ、蓋シ往時幕府ノ頃ニハ商売上ニ専売ノ例アリテ、例ヘバ何町ノ何屋何兵衛カ一且或諸侯《(旦)》ヨリ鑑札ヲ受ケテ其御出入商人トナル時ハ其諸侯ノ需用スル商品ハ己レ一手ヲ以テ供給スルノ特例ヲ有シ、又其諸侯モ何人タルヲ問ハズ此鑑札ヲ所持シ其鑑札面ニ記載セル名称ヲ冒ス者ヘハ同様ノ特例ヲ与ヘタルガ如キ風習アリテ、恰モ商人ノ名称ニハ一種ノ専売権附着セルヲ以テ自ラ名称ノ売譲行ハレ其業体ニヨリテハ加州侯ノ御出入商人何屋何兵衛及越前侯ノ御出入商人何屋何兵衛ト云フガ如ク一人ニシテ数個ノ名称ヲ有シタルノ例モアリシガ、維新後ニ至リテハ此等専売ノ弊風一洗シテ従来商人ノ名称ニ附着セル専売権次第ニ消滅シ、其営業ノ盛衰ハ重ニ其人自身ノ勉否ニヨル事トナリタレバ随テ今日其商人ガ其営業上ノ信用ヲ博セントスルニ当リテハ其名称ノ必要ヲ感ゼザルニ至レリ、是蓋シ近来名称ノ売譲漸ク其跡ヲ減ジタル所以ナラン
 第五問
  営業ト名称トヲ併セテ他人ニ売譲スル事アル時ハ其売譲ニ付如何ナル結果ヲ生ズルヲ通例トスルヤ
 答
  維新前ニ在リテハ所謂御出入商人ガ其名称(屋号及名前)ヲ他人ニ売譲スル場合ノ如キ其得意(即チ諸侯)ニ対スル権利義務ハ其儘買受人ニ引渡スヲ通例トセリ、然レトモ現今普通商人ニ在リテ甲ガ乙ヨリ其営業ニ使用セル建物並ニ附属品ヲ買入レ、其営業ヲ引続グニ当リテハ甲ガ乙ノ屋号ヲ譲リ受クルト否トヲ問ハズ其結果ハ同一ニシテ即チ其得意ニ対スル乙ノ権利義務ハ総テ特約アルニアラザレバ甲ニ於テ引受ケザルノ例ナリ
 第六問
  一人ニシテ資本ヲ分離シ数種ノ営業ヲ為ス時ハ、其各種営業ノ為メ名称ヲ異ニスル例ナリヤ
 答
  一人ニシテ資本ヲ分離シ数種ノ営業ヲ為ス時ハ、中ニハ同一ノ名称ヲ用ヘズシテ実子若クバ縁故アル者ヲ名前人トシ取引上其名称ヲ用ユルノ例モアリ、或ハ同一ノ名称ヲ用ユルノ例モアリ、此事ニ就テハ一定ノ慣例ナシ
 第七問
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  各種営業ノ仲間若クバ組合ニ於テ其仲間若クバ組合員ノ名簿又ハ同種営業者ノ名簿ヲ製スルノ例アリヤ、若シ例アル時ハ氏名住所ノミノ記入ニ止マルヤ、将タ其他ノ事項ヲモ記入スルヤ、又其他ノ事項ヲ記入スル時ハ如何ナル事項ヲ記入スルヤ
 答
  各種営業ノ仲間若クバ組合ニ於テ同種営業者ノ名簿ヲ製スルノ例ナシト雖トモ、其仲間若クバ組合員ノ名簿ヲ備ヘ置クノ例アリ、而シテ此名簿ニハ住所及氏名ヲ記入スルニ止マリ(維新前ニハ氏ノ代リニ屋号ヲ用ユ)其他ノ事項ハ別段之ヲ記入セザルノ例ナリ(質商又ハ古物商組合ノ如キ特別ノ取締ヲ要スルモノハ其筋ノ令達ニヨリ住所及氏名ノ外ニ屋号及年齢等ヲ記入スルノ例モアリ)但シ出店主若クハ出店支配人ヲシテ営業ヲ管理セシムル場合ノ如キ其取引上ニハ営業本主ノ氏名ヲ用ユルノ例ナレトモ、此名簿ニハ其出店主若クバ出店支配人ノ氏名ヲ記入スルヲ例トス、而シテ其氏名ノ傍ラニハ例ヘバ何某出店主何某ト云フガ如ク営業本主ノ氏名ヲモ添記スルヲ例トス
 第八問
  各種営業ノ仲間若クバ組合ニ於テ互相間ノ申合規則若クバ定款ノ如キ規約書ノ設アリヤ、若シ其設アル時ハ如何ナル事項ヲ之ニ規定スルヤ
 答
○中略
 第九問
  屋号専用規則中第三条第二項ニ「屋号ハ営業者ノ氏ヲ用ユルヲ通例トス」トアルヲ「氏又ハ氏名ヲ用ユルヲ通例トス」ト為ス時ハ答申書ニ述ブル所ト其効果ヲ異ニスル所ナキヤ
 答
○下略
   ○第一問・第二問・第三問・第八問・第九問ニ対スル答申ハ、第二十八臨時会ニ於ケル原案ト同一ナル故之ヲ省略セリ。


東京経済雑誌 第一七巻第四一七号・第五九〇頁 明治二一年五月五日 法律取調委員長の再諮問に対する東京商工会の意見(DK190007k-0005)
第19巻 p.69-70 ページ画像

東京経済雑誌  第一七巻第四一七号・第五九〇頁 明治二一年五月五日
    ○法律取調委員長の再諮問に対する東京商工会の意見
同委員長が屋号専用に関し再度まで諮問案を発せられたる理由は前号の経済雑誌に掲載したるが、右諮問案に対し東京商工会が去三十日臨時会に於て議決したる要旨なりと云ふを聞くに、同会に於ては最初の諮問案を議するに当り其の条項中「屋号ハ営業上ノ氏ヲ以テ通例トス」とありたるにより斯く氏のみを屋号とし専用規則を施設して之を保護せらるゝ時は、第一此規則を実施するも其の実効なき事、第二商売上に混乱を生ずるの弊ある事、第三商賈の徳義心を破壊するの弊ある事明白なれば此の如き専用規則は到底これを施設するの要用なしと云ふに決し其の趣を答申したることなるが、再度の諮問案に記するが如く屋号は氏のみに限るの意にあらず氏又は氏名を以て営業者の屋号として之を保護するものとする時は最初答申したる旨趣に多少の変更を生
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ずるに至るべし、即ち氏名を以て屋号とする時は商売上に混乱を生じ商賈の徳義心を破壊するが如き弊害は全く之なきに至るべし、然れども此の如くしたればとて其の専用規則の不必要なるは最初答申の趣旨に異なる処なし、何となれば今日各商賈が用ゆる処の屋号は自然種々の附号等を用ひて其の区別を明かにし決して互に相冒すが如き弊害あらざればなり、例へば屋号の頭字に名前の頭字を加へて区別する者之あり、渡辺治右衛門・竹内七太郎の両人は共に明石屋《アカシヤ》を屋号とすれども前者は之を明治《アカヂ》と唱へ、後者は之を明七《アカシチ》と唱へて区別するが如し、又住地の文字を附号に加へて区別する者之あり、伊勢屋の屋号を用ゆるものは大抵其の屋号に[img]〓《ヤマニ》の附号を添ゆれ共、芳町に住する者は之を「ヨヤマニ」と称し本町に住する者は「ホンチヤウヤマニ」と称するが如し、又単に附号のみにて区別するもの之あり、本町に於ては「いはしや」と称する屋号を用ゆるもの多数あれども松本市左衛門は丼《ドンブリ》いはしやと唱へ、青木藤右衛門は[img]〓《ドンパチ》いはしやと称するが如し、此の如く種々の方法を用ひて互に営業上の称呼を異にし更に相冒すことなきが故に今規則を設けて之を保護するも誰か其の慶を享くる者あらん、況や強て屋号を登記せしむるとする時は之が為め種々の手数を要するをや、故に屋号専用規則は仮令ひ氏名を以て屋号とするも之を施設するの必要あるを見ず」と云ふにあるが如し、実に然り、救護するほどの弊害なきに強て法律を設くるは見《(是)》れ徒法なるのみ、死律なるのみ、余輩は商工会と与に斯る法律の施設なきを希望せざるを得ざるなり
   ○明治二十一年三月七日ノ条(第三五頁)参照。