デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.72-83(DK190009k) ページ画像

明治21年5月30日(1888年)

是日栄一、当会会頭トシテ煙草税則ニ改正ヲ加ヘ和製巻煙草税ヲ免除サレタキ旨大蔵大臣伯爵松方正義ニ建議ス。


■資料

東京商工会議事要件録 第三二号・第二九―三四頁 (明治二一年六月)刊(DK190009k-0001)
第19巻 p.72-73 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三二号・第二九―三四頁 (明治二一年六月)刊
  第十六定式会
          (明治二十一年五月廿一日開)
  第廿九臨時会
    会員出席スル者 ○二十九名
○上略
次ニ会長(渋沢栄一)ハ是ヨリ第三号議案ヲ議スベキ旨ヲ告ゲ、書記
 - 第19巻 p.73 -ページ画像 
ヲシテ之ヲ朗読セシム
(第三号議案)
    烟草税則ニ改正ヲ要スル義ニ付建議
 別紙ノ事項本会ノ意見トシテ其筋ヘ建議相成度此段建議致候也
  明治二十一年五月十六日  二十三番会員 岩谷松平
               二十四番会員 千葉松兵衛
  東京商工会々頭
    渋沢栄一殿
    (別紙) ○略ス
本案ハ衆議ノ末各員異議ナク原案ニ可決セシガ猶其字句ニ少シク不充分ナル所アルニ付、追テ理事本員ニ於テ相当ニ修正ヲ加ヒ直チニ其筋ヘ進達スルニ決ス
  (本案ハ其後理事本員ニ於テ修正ヲ加ヒ、五月三十日附ヲ以テ之ヲ大蔵大臣閣下ヘ進達シタルニ付其全文ハ参考部第五号ニ掲グ)


東京商工会議事要件録 第三二号参考部・第二九―三五頁 (明治二一年六月)刊(DK190009k-0002)
第19巻 p.73-74 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三二号参考部・第二九―三五頁 (明治二一年六月)刊
(第五号)
    ○煙草税則ニ改正ヲ要スル義ニ付建議
明治十五年十二月二十七日太政官布告第六十三号ヲ以テ発布セラレ同十六年七月一日ヨリ実施セラレタル煙草税則ニヨレバ、製造人ガ巻煙草ヲ製造スルニ当リテハ別段印紙ノ貼用ヲ要セザリシガ、本年四月六日勅令第二十号ヲ以テ発布セラレ本年七月一日ヨリ実施セラルベキ改正税則ニ拠レバ右巻煙草モ刻煙草ト同ジク定価十分ノ二ノ印紙ヲ貼用セザルベカラザル事トナレリ、然ルニ本会ニ於テハ此改正税則ハ日本製巻煙草ノ製造ヲ衰頽セシメ海外製巻烟草ノ輸入ヲ増加スルノ結果ヲ生ズベシト思惟スルニ付玆ニ其意見ヲ開陳セント欲ス
蓋シ巻烟草ニハ其種類極メテ多ク随テ舶来品ト和製品トノ間ニ精確ナル比準ヲ立テ難シト雖トモ今二者ノ中最モ需用多キモノヲ標準トシテ仮ニ其価格ヲ対比センニ、舶来品(オールドゴールドト称スル種類)一本ヲ消費スルト和製品(中巻口附若クハ青天狗ト称スル種類)二本半ヲ消費スルト同一ナル時間ヲ要スルニ付舶来品ノ百本(現今ノ価百本ニ付二十五銭)ハ和製品二百五十本(現今ノ価二十五銭但シ百本ニ付十銭ノ割)ニ相当セリ、而シテ和製品ハ其風味ニ於テハ舶来品ト対峙スルヲ得ズト雖トモ其ノ今日市場ニ於テ之ト競争スルヲ得ルモノハ独リ其価ノ分量ニ対シテ割合ニ低廉ナルガ如キヲ以テナリ、然ルニ今此改正税則ニヨリ和製品ヲシテ定価十分ノ二ノ印税ヲ負担セシムル時ハ前例ニ示ス和製品二百五拾本ノ価弐拾五銭ノモノハ更ニ騰貴シテ三十銭余トナル訳ニシテ、其舶来品ニ対シテ頗ル格高トナル事一目シテ瞭然タルベキニ付消費者ガ此ヲ捨テヽ彼レヲ取ルニ至ルハ甚ダ見易キノ道理ナリ、斯ノ如ク此改正税則ニヨルトキハ和製品ハ格高トナリテ舶来品ト競争スベキ見込ナキヲ以テ現ニ製造人ノ中、此改正税則御発布以来其営業ノ引合難キヲ予期シテ廃業シタル者数多アルハ是レ其実証ニシテ、若シ愈々之ヲ実施セラルヽニ於テハ和製巻烟草ノ製造ハ大ニ減縮シテ終ニ舶来巻烟草ノミヲ以テ市場ノ需用ヲ充タスニ至ラン、果シテ然ラバ此改正税則ハ海外輸入品ヲ保護スル為メニ内国ノ製品ニ課税スルト同一
 - 第19巻 p.74 -ページ画像 
ノ悪果ヲ生ゼンモ亦測リ知ルベカラザルサリ
或ハ説ヲ為ス者アリ、曰ク、刻ミ烟草ト云ヒ巻烟草ト云ヒ同シク一種ノ烟草ニシテ既ニ一方ニ課税スル以上ハ又他ノ一方ニモ課税シテ之ト権衡ヲ得セシムルハ公平ノ所為ナラズヤト、夫レ巻烟草ニ課税シテ刻ミ烟草ト権衡ヲ得セシムル事ハ或ハ公平ノ所為ニ似タリト雖トモ、翻テ一方ヨリ観察スルニ和製巻烟草ト云ヒ舶来巻烟草ト云ヒ亦同ジク一種ノ烟草ナルニアラズヤ、然ルニ此同種ノ巻烟草ヲ販売スルニ当リ和製品ニノミ課税シテ舶来品ヲ度外ニ置クハ豈却テ不公平ノ甚タシキモノニアラズヤ、況ンヤ刻ミ烟草ハ自ラ其需用ノ趣ヲ異ニシ彼ノ巻烟草ノ如ク和製舶来ノ両品ヲ同市場ニ相競売スルモノニアラサルニ於テオヤ、由是観之今巻烟草ニ課税スルニ当リ和製舶来ノ両品ヲシテ共ニ同一ノ税額ヲ負担セシムル事ヲ得ザル以上ハ或者ノ所謂公平ナルモノハ只名義上ニ止マリテ決シテ其実ヲ得ル能ハザルナリ、且ツ夫レ凡ソ人ノ驕奢品ニ於ケル嗜好ヲ上等ヨリ下等ヘ転移スルハ人情ノ難シトスル所ニシテ特ニ烟草ニ於テハ最モ然リトス、然ルニ今此改正税則ニヨリ和製巻烟草ノ製造ヲ衰頽セシメ需用者ヲシテ悉ク舶来品ノ風味ニ慣染セシムルトキハ、他日ニ至リ仮令和製品ノ税率ヲ減ジテ舶来品ノ輸入ヲ防遏セントスルモ容易ニ其目的ヲ達スル事ヲ得ザルベシ、是本会ガ此改正税則ニ就キ深ク将来ニ憂意スル処ナリ
或ハ亦曰ク今日国費多端ノ際ニ当リ斯ノ如キ税法ヲ設ケテ歳入ヲ補フハ豈至当ニアラズヤト、蓋シ租税ヲ負担シテ国費ヲ支持スルハ国民ノ本分ニシテ今後国運進歩シテ国費益々多キヲ加フルニ従ヒ相当ノ税法ヲ設ケテ収入ノ増加ヲ希望セラルヽハ亦固ヨリ至当ノ御挙措タリ、然リト雖トモ今和製巻烟草ニ課税スルトキハ果シテ収入ノ増加ヲ必期スルヲ得ベキヤ、是本会ノ甚ダ懸念スル所ナリ、何トナレバ凡ソ高価ヲ避ケテ低価ニ就クハ世人ノ常情ニシテ今若シ和製品ヲシテ定価十分ノ二ノ印税ヲ負担セシムルトキハ、消費者ハ高価ニシテ粗悪ナル和製品ヲ需用セズシテ皆低価ニシテ精良ナル舶来品ヲ需用スルニ至ルベケレバナリ
以上陳述スル所ニ由リテ之ヲ観ルニ、此改正税則ニヨリテ和製巻烟草ニ課税スル時ハ啻ニ公平ノ実ヲ得難キノミナラズ、猶収入ノ増加ヲ必期スルヲ得ズシテ其結果タル適々和製品ノ製造ヲ退却セシメ舶来品ノ輸入ヲ奨励スルニ過ギザルベシト信ズ、蓋シ近来和製巻烟草ノ製造漸ク進歩シタルハ既ニ事実ニ於テ著明ナル所ニシテ、今後益々栽培及製法ニ改良ヲ加フルニ於テハ遂ニ全ク舶来巻烟草ヲ我市場ヨリ駆逐スル事決シテ其望ナキニアラザルナリ、然ルニ今此改正税則ニヨリテ中途其発達ヲ防止シテ終ニ衰頽ニ至ラシメントスルハ、特ニ本会ノ痛心憂慮ニ堪ヘザル所ナルニ付玆ニ其理由ヲ上陳仕候間、何卒実際ノ情況篤ト調査セラレ和製巻烟草ノ課税ハ当分御免除相成候様仕度此段建議仕候也
                 東京商工会々頭
  明治廿一年五月三十日          渋沢栄一
    大蔵大臣 伯爵 松方正義殿

 - 第19巻 p.75 -ページ画像 


東京商工会議事要件録 第三三号・第二―四頁 (明治二一年九月)刊(DK190009k-0003)
第19巻 p.75 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三三号・第二―四頁 (明治二一年九月)刊
  第十七定式会
          (明治二十一年八月二十日開)
  第三十臨時会
    会員出席スル者 ○三十二名
午後六時十分一同着席、会頭(渋沢栄一)ハ差支アリテ欠席シタルヲ以テ副会頭(益田孝)会長席ニ着ク
会長(益田孝)ハ是ヨリ定式会ヲ開クベキ旨ヲ告ゲ規程第五章第二十二条ニ依リ明治二十一年上半季間定式事務ノ成蹟ヲ報告ス
  自明治二十一年一月至同六月 半季間事務ノ報告
○中略
    政府ヘ建議   二件
○烟草税則ニ改正ヲ要スル義ニ付大蔵大臣ヘ建議
  本件ハ二十三番会員岩谷松平二十四番会員千葉松兵衛ノ建議ニ係リ、其要旨ハ今般改正セラレタル烟草税則ニ拠レバ製造人ガ巻烟草ヲ製造スルニ当リ刻ミ烟草ト同ジク之ニ定価十分ノ二ノ印紙ヲ貼用セザルベカラズ、然ルニ此税法ニ従フ時ハ和製巻烟草ノ製造益々衰微シテ舶来巻烟草ノ輸入愈々増加スルノ結果ヲ生ズベキニ付、和製巻烟草ニ課スベキ税ハ追テ其製造発達シテ充分舶来巻烟草ト競争スルヲ得ル迄ノ間全ク之ヲ免除セラレタシト云フニ在リ即チ明治二十一年五月二十一日第二十九臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ全会ノ賛成ヲ得タルニ付、其建議案ハ更ニ理事本員ニ於テ之ヲ調成シ同月三十日附ヲ以テ之ヲ松方大蔵大臣閣下ニ進達シタリ、然ルニ翌六月六日附ヲ以テ同大臣閣下ヨリ右ハ参考上有用ノモノト認ムルニ付取置ク旨ヲ達セラレタリ ○下略


東京商工会々外諸向往復文書 第四号(DK190009k-0004)
第19巻 p.75 ページ画像

東京商工会々外諸向往復文書 第四号
                     (東京商工会議所所蔵)

第二五八九号《(朱書)》
                   栄一
                 東京商工会々頭
                      渋沢栄一
烟草税則ニ改正ヲ要スル義ニ付建議書差出候処、右ハ参考上有用ノモノト認ムルニ付取置ク
  明治廿一年六月六日
            大蔵大臣 伯爵 松方正義大蔵大臣之印



〔参考〕明治大正財政史 大蔵省編 第九巻・第二―七頁 昭和一一年一一月三〇日刊(DK190009k-0005)
第19巻 p.75-78 ページ画像

明治大正財政史 大蔵省編  第九巻・第二―七頁 昭和一一年一一月三〇日刊
 ○第七編 第一章 第一節 序説
    第二款 葉煙草専売実施以前に於ける煙草税制の概要
 煙草に関する課税は明治八年十月布告第百五十号煙草税則の施行に依りて始めて起りしものにして、蓋し従来最大の税源たりし地租を軽減し、且つ無数の雑税を整理したるに当り新に設けられたる税目の一種なり。今其の大要を述ぶれば課税は之を営業税・印紙税に大別し、更に営業税を二種に分ち製造煙草を煙草商人に売渡す者を卸売人とし
 - 第19巻 p.76 -ページ画像 
消費者に売渡す者を小売人とし、卸売には十円、小売人には五円の年額を課す。卸売人は其の資格を以て直に小売を為すを得べく、小売人は卸売を行ふを得ざるものとす。印紙税は量目を問はず等級従価税となし定価五銭未満は一厘、十銭未満は五厘、二十銭未満は一銭、三十銭未満は二銭、四十銭未満は三銭、其の他は之に準じて増加せしむることとしたり。而して徴税の方法は営業税は年額を二期に分ち徴税令書を発し町村を経て納付せしめ、別に営業免許及仕入出売の鑑札を製し下附の際一定の料金を直接に徴収することとし、印紙税は営業人より消費者に売渡す際に於て之に相当印紙を貼用せしむるを以て徴収の手段と為したり。
 煙草税の収入額は初年五十五万円(営業税二十万円、印紙税三十五万円)と予定し漸次増加して二百万円に至らしむることを期待せり。然るに其の実収は初年以来年々僅に二十四五万円を出入するに止まり此の内営業税は二十万円の予定に対し実収は増減なかりしも、印紙税は三十五万円の予定に対し実収は僅に四五万円に過ぎず、即ち実施の初より既に違算を生じたり。蓋し其の賦課方法として採用したる売渡の際相当印紙を貼用せしむる方法は、素と消費者に直接に賦課し成るべく営業者をして不利と不便とを感ぜしめざるの趣旨に出でたるものなれども、営業人に在りては印紙税の立替と手数との煩労ありて成るべく之を避けんことを欲し、需要者に在りても亦其の印紙税額を購買価格より控除せしめ成るべく支払額を少からしめんことを希ひ、幸にも脱税の容易にして非行の痕跡を留めざるに乗じ、相謀りて無印紙品を授受したること実に其の原因なり。玆に於て政府は明治十年二月に至り此の課税方法を改正し、販売に充つるものには予め之を貼用せしむることとしたりしも、一旦此の脱税非行の悪慣例を生じたる後なりしを以て、規定改正の趣旨は之を遵守せしむるに由なく、其の違算は到底補正するを得ざりき。
 仍て明治十五年十二月に至り更に之を改正し、営業税の種目を製造仲買・小売の三種とし、製造及仲買は年額十五円小売は五円とし、各営業者若し兼業するときは各別に営業税を納付せしめることとし、又印紙税は量目と定価とに依り三等級として各級五匁より百匁に至り、卸売定価百匁二十五銭未満は四銭、五十銭未満は六銭、五十銭以上は八銭の割合を以て印紙を貼用せしめたり。而して貼用の方法は玉造は帯印紙を以て結束せしめ、箱詰紙包は其の封緘要部に角形印紙を貼付し、其の封緘と彩紋とに懸け製造人の印章を以て抹消せしむることとし以て前法の欠陥を補はんことを力めたり。此の改正規定は翌十六年七月より実施せられしが、而も弊害は更に新規定に就ても発生したり蓋し当時の装置方法は主として玉造に係り、箱詰紙包は稀なりしを以て、其の最も多く使用せらるるものは帯印紙なりしが、帯印紙の用法は唯刻煙草に纏繞せしむるのみにて糊著せしむるものにあらざるが故に、一旦使用済のものも数次之を利用して脱税を行ふことを得るのみならず、賃切職工は此の法規に依り賃切名義を以て原料を外部に搬出し得るの便宜あるに乗じ多く密製造を為し、其の製造したる煙草は無印紙を以て販売するを得たり。即ち此等の欠陥は遂に改正の効果を全
 - 第19巻 p.77 -ページ画像 
うせしめざりし所以にして強て之を拘束せんとせば、年々徒に犯則検挙数を七八千件に上らしむるのみにて税額の実収は年々却て減少するの事実を示したり。故に明治二十一年四月再び之を改正し、営業税は場所数に応じて之を課し、従来他の支店・出張店等に仮託して営業税を逋脱したるものを取締ると共に、印紙税率は之を改めて総て定価の二割とし、新に紙巻煙草に課税し、又従来の帯印紙は之を廃して包装は皆密封となし、印紙税は必ず之に印紙を貼用せしむるを以て賦課方法とし、其の他製造業者よりは証約状を徴し製品を授受する者の資格を制限し、賃切人就業の区域を限る等の規定を設け同年七月より之を実施したり、是れ総て脱税に備へ犯則を予防し流弊を救治する為に最も考案を尽したるものなり。
 此の改正は稍々前法に優るものありしを以て収入額は年々逓増して明治二十六年以後は二百万円を下ることなく往々三百万円に達せんとしたり。即ち初め二百万円を期待したるに比すれば已に百万円の超過を示したり。然れども是れ唯表面の計数に止まり煙草の税額は実際に於て尚ほ其の半数を逋脱せられ居りしものなり。抑々初め煙草税の収入額を二百万円と予定したる所以は創定当時に於ける全国の煙草生産額を四百万貫と見積り、百匁一斤の平均価格二十銭と為したる推算に基くものなり。爾来人口の増加と生活状態の向上とに伴ひ、煙草の需要は急劇に増加し、之と同時に生産額も千二百万貫に上り、又物価の騰貴に伴ひ百匁一斤の平均価額は二十五銭となれり。故に之より積算するときは税額収入は少くも六百万円に達せざるべからざる理なるに実収は最高三百万円弱なりしに見れば、当時其の半数以上を逋脱せられ居たるものとすべし。蓋し此の印紙税の賦課方法たる定価の二割を以て直に包裏に貼用せしむるものなるに由り、極めて正確なるが如しと雖も脱税の手段には窮極なく、密造密売の如きは勿論或は低き定価を装ひ其の割合に依り印紙を貼用し、却て其の売価を三四倍にするものあり、或は他品に仮装して全く印紙を貼用せざるものあり、或は私に包裏を切解して崩売するものあり、姦猾巧詐は殆んど之を防遏するに由なきに至り遂に此の不成績を齎したるものなり。
 斯くの如く法制一歩を進むれば巧詐偽罔も亦一歩を進め、之を防遏せんが為め検査の施行を厳密にすれば、犯則件数の累増を来すのみにて収入の増加は毫も之を認むるに由なく、結局三百万円を最高として之れ以上の増加は到底期すべからず、唯刑を免れ法を侮るの弊風日に増長するの状態なりき。
 煙草税則の不備の制度たること斯くの如く、改善の手段なきこと亦右の如し。然るに会々明治二十七八年の戦役あり、其の戦後の国政を経営せんとするに方り、従来八千万円の歳出入は一躍して二億円に達したるが、此の内臨時費に属するものは公債及償金の繰入を以て之を支弁すべしと雖も、経常費に属するものは別に補充の方法を講ぜざるべからざるに至れり。玆に於て政府は酒造税を改正し、又営業税及登録税を新設することと為せしが、煙草の如く半奢侈品にして大衆の需要最も広汎なるものに至りては、率先之が増税を計画せられしは固より其の所なりしなり。要は如何にして其の増税の目的を達すべきや、
 - 第19巻 p.78 -ページ画像 
問題は唯玆に存したり。
 是より先き明治十五年第一回税則改正に先ち当局者は従来の施行成績に徴し、現行煙草税則を以てしては徴収の目的を達することの困難なるを察知し制度改正の議を起したり。其の最先に起りたるものを会社税とす。会社税の大要は内国の耕作地を分ちて数十区域とし、一区域に一会社を置きて其の区域内の耕作人を会社に隷属せしめ会社に届出で収穫量目を確定し、会社の仲介に依りて卸売人に売渡し会社の定めたる様式に従ひて其の売渡代金を申報したる時、其の売渡代金に応じ国税を賦課せしむるに在り。然れども是れ一種の理想論に止まり実行の準備は一朝夕を以て弁ずべからざりしを以て、更に其の方法を変更して巻煙草売渡印紙税制度を採らんとしたり。即ち営業者を分ちて耕作人・直買人・小売人とし、煙草証書用紙を発行し直買人をして煙草買入の際買入量目に従ひ該用紙の定むる受取証書に煙草印紙を貼用せしむるものにして、之れ即ち大蔵卿より太政官に提出したる煙草税則改正原案なりき。然るに太政官の議は之を以て国情に適せざるものとして容れず、参事院及元老院の討議を経て全然其の精神を没却し、之に大修正を加へて確定したるもの、即ち前記明治十五年十二月の改正税則なりき。尋いで同十八年に至り更に煙草条例の起草あり、之れ即ち煙草の製造を以て官営となさんとするものにして、其の大要は政府は煙草の耕作を許否し、其の収穫量目を検査して之を買収し、又は之を製造して製造煙草となし、卸売人・小売人を経て一般に販売するに在りしものなるが、是れ亦当時に在りては創法新奇に過ぎ実施に便ならずとの理由に依り成案となるに至らずして止みたり。然れども所謂専売の議が始めて萌芽したるは正に此の際に在りとす。
 煙草条例は右の如くにして成案に至らざりしと雖も、現行の税則制度は永久に持続すべからずして、早晩根本的の改正を必要とするに至るべきは明かにして、而も其の場合に於ては結局専売制度を採るの外なきを以て、政府は一方には其の調査に従はしむると共に、他方には現行法の欠陥に改正を加へて尚ほ姑く該制度の存続を図りたり。之れ明治二十一年の税則改正なりとす。爾来当局者は専売制度の調査を継続し或は之を欧洲の制度に照し、或は之を内国の生産及消費に稽へ其の施行の必ず奏功すべきを明にしたれども、其の計画の広大にして人心を動揺せしむるを慮り暫く其の実施の決定を見るに至らざりしが、今や日清戦後の経営に方り増税の必要は断じて止むべからざるに至りたるを以て、玆に始めて専売断行の議一決したり。



〔参考〕東京商工会議事要件録 第三八号・第五―二〇頁 (明治二二年六月)刊(DK190009k-0006)
第19巻 p.78-83 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三八号・第五―二〇頁 (明治二二年六月)刊
  第二十定式会
          (明治廿二年五月廿三日開)
  第卅四臨時会
    会員出席スル者 ○五十二名
○上略
次ニ会長(益田孝)ハ是ヨリ第一号議案ヲ議スヘキ旨ヲ告ゲ書記ヲシテ之ヲ朗読セシム
(第一号議案)
 - 第19巻 p.79 -ページ画像 
    煙草税則ニ改正ヲ要スル義ニ付建議
 今般発布セラレタル改正烟草税則ノ如キハ実際ニ於テ不適当トスル処屡々之レアルモ、就中我々烟草製造営業人ノ殊ニ不便且ツ手数ノ尤モ煩ハシクシテ其商況ニ著シキ衰体ヲ顕ハシタル者ハ売品ニ夫々定価ヲ附シ(従来ヨリモ)其金高ニ対シ制規ノ印紙ヲ貼用シ且ツ順序密ニ過ギ製造人ヲシテ甚シキ手数ヲ要スル事是ナリ、抑モ売品ニ定価ヲ附スルガ如キハ我々商人社会ニ最モ大関係ヲ惹起サシムルモノニシテ仮令ハ世人贈物ノ為メニスルモ、定価アルガ故其不都合ヲ感ジ購求者ノ数ヲ減スル事明ナル而已ナラス、定価付ノ物品ヲシテ海外ニ輸送シ貿易ヲナスガ如キハ実ニ不適モ甚キト云ベシ、又製造営業者ニ於テモ前陳ノ如ク順序密ニ過キ為ニ無益ナル人員ヲ要スル等ノ如キハ我々営業者ノ商況ニ関スル事実ニ偉ナリトス、依テ本会ニ於テ拙者ノ建議討論ノ上其筋ヘ御建議相成度此段建議候也
  逐テ改正ヲ欲スル要点ハ議場ニ於テ陳述スベシ
  廿一年十月七日      二十三番会員 岩谷松平
    会頭 渋沢栄一殿
会長(益田孝)曰ク、此建議案ハ昨年十月中烟草商組合ノ会員岩谷松平氏ヨリ提出シタルモノナルガ、其後幹事会ヲ開キ同組合ヨリ撰出ノ他ノ会員千葉松兵衛氏ニモ列席ヲ請ヒ共ニ審議ヲ尽シタルニ其大体ノ趣旨ニ就キ両氏ノ意見全ク反対ニシテ幹事ハ何レノ説ニ適従スベキヤ其判別ニ苦シミタルガ、元来同一組合ヨリ撰出シタル二人ノ会員中一人ガ其営業ニ関スル建議ヲ提出スルニ当リ、他ノ一人ガ之ニ同意セズシテ攻撃ノ地位ニ立ツ様ニテハ其趣旨ノ当否ハ暫ク措キ之ヲ貫ク事甚ダ難キニ付、本案ハ更ニ建議者ヨリ其組合ニ謀リテ多数ノ同意ヲ得、千葉氏ト協和シ双方連印ニテ提出スル方可然旨ヲ勧告シタルニ、其後建議者ニ於テモ種々尽力シタル趣ナルガ此事ニ就テハ初ヨリ岩谷氏ト千葉氏トノ間ニ其見ル所ヲ異ニシ、到底双方協和シ難キ事情アルニ付キ本案ハ其儘議題トシタキ旨建議者ヨリ請求アリタリ、見本案ハ岩谷氏一個ノ名義ノ儘之ヲ議題トシテ提出シタル所以ナリ、蓋シ税法ニ関スル建議ノ如キハ可成周密ニ考慮ヲ費シ当局者ヲシテ適当ナリト信ゼシムルニアラザレバ、其趣旨ヲ貫キ難キニ付本案ニ就テハ客員充分《(各カ)》ニ対議ヲ尽サレタシ、猶本案ノ文面ニ足ラザル所ハ建議者ヨリ口頭ニテ細陳セラルヽ筈ナリ
二十三番(岩谷松平)曰ク、烟草税則改正以来営業ノ不便一ニシテ足ラズ、今逸々其枝葉ノ事ヲ論ズル時ハ細密ニ過グルノ恐アルニ付本案ハ只大体ノ企望ヲ表スルニ止メタリ、試ニ其不便ノ一二ヲ述ベンニ第一ニハ商品ニ定価ヲ附シテ之ニ応ジ印紙ヲ貼用セザルヲ得ザルガ故ニ、例ヘバ三拾銭ノ烟草ニハ何種ノ印紙何枚ヲ要シ二拾五銭ノ烟草ニハ何種ノ印紙何枚ヲ要スルト云フガ如ク営業者ノ手数容易ナラズ、而シテ若シ之ヲ誤レバ犯則ナリトシテ処分セラルヽナリ、然ルニ今此税法ヲ改メテ従量税ノ制トナシ、刻烟草ハ一斤ニ付何銭巻烟草ハ百本ニ付何銭ノ印紙ヲ貼用スルモノトスル時ハ独リ営業者ノ手数ヲ省キ得ルノミナラズ検査官ノ便利亦不少
 - 第19巻 p.80 -ページ画像 
或ハ斯ノ如クスル時ハ価ノ高低ニ拘ラズ同一ノ税ヲ課スル訳ニテ不公平ナリトノ説アルベケレトモ、当局ニ於テ下等ハ何程中等ハ何程上等ハ何程ト予メ調査ヲ遂ゲ平均ニヨリテ課税セラルヽ時ハ敢テ左迄ノ不都合アラザルベシ、第二ニハ商品ニ定価ヲ附スルガ故ニ之ヲ贈遣物トスルニ不便アリ、又東京ニテ二拾銭ノ烟草ヲ函館ニテ二拾五銭ニ売捌カントスル時ニハ更ニ印紙ノ増貼ヲ要スルガ如キ不便アリ、特ニ之ヲ海外ニ輸出スル場合ニ於テハ其不便一層甚シキモノアリ、現ニ欧米ニ於テハ烟草ニハ従量税ノ法ヲ用ユルト聞ク、願ハクバ我国ニ於テモ此例ニ依リタシ
二十四番(千葉松兵衛)曰ク、只今二十三番(岩谷松平)ハ本案ヲ以テ恰モ東京烟草商組合全体ノ同意ニ出デタルモノヽ如ク述ブレトモ、本案ハ嘗テ二十三番(岩谷松平)ヨリ議題トシテ該組合ノ会議ニ附シタルニ該組合ハ多数ヲ以テ之ヲ廃棄シタルナリ、敢テ問フ、斯ノ如ク組合ノ同意ヲ得ザル一個人ノ建議ニテモ本会ノ議題トスルヲ得ルヤ
会長(益田孝)答テ曰ク、規程ニハ之ヲ禁ズルノ明文ナキニ付敢テ差支ナシ
四十三番(松尾儀助)曰ク、建議者ハ定価ヲ附スルハ不都合ニ付従量税ニスベシト云フト雖トモ、定価ヲ附スル事不都合ナリト云フヲ以テ従量税ヲ望ムノ根拠トスルハ其当ヲ得ザルガ如シ、現ニ外国ニテモ商品ニ定価ヲ附スル事其例乏シカラズシテ却テ便利ナル事モアリ、左レバ此事ニ就テハ建議者ニ於テ充分詳査セラレン事ヲ望ム
二十三番(岩谷松平)曰ク、一ノ商品ニ二ツモ三ツモ印紙ヲ貼用スルハ甚ダ不便利ナルニアラズヤ、外国ニテ商品ニ定価ヲ附スルハ或ハ特別ノ便利アリテ然ルナラン、然レトモ余ノ取扱フ烟草ノ如キ定価ヲ附スルハ甚ダ困難ナリ
二十五番(丹羽雄九郎)問フテ曰ク、建議者ハ従価税ヲ従量税ニスベシト云ヒナガラ又個数ヲ目安トスベシト云ヘリ、抑モ建議者ハ量目ヲ主トスルカ将タ個数ヲ主トスルカ
二十三番(岩谷松平)答テ曰ク、刻烟草ハ量目ノ標準トシ巻烟草ハ個数ヲ標準トスルノ趣意ナリ
四十三番(松尾儀助)問フテ曰ク、建議者ハ只従量税《(価)》ヲ従価税《(量)》トスレバ満足スルモノヽ如シ、果シテ然ルヤ
二十三番(岩谷松平)答テ曰ク、然リ
二十四番(千葉松兵衛)問フテ曰ク、建議者ハ刻烟草百匁ニ付凡何程ノ税ヲ課スル見込ナリヤ
二十三番(岩谷松平)答テ曰ク、此等ノ事ハ別段ノ見込ナシ、唯当局ノ調査ニ全任スル見込ナリ
二十四番(千葉松兵衛)曰ク、目下定価二割ノ税スラ猶当業者ハ其負担ニ苦ムノ情ナキヲ得ズ、然ルニ今税率ノ見込ヲモ定メズ漠然之ヲ建議シ若シ定価三四割ニ当ル従量税ヲ課セラルヽガ如キ事アラバ豈当業者ノ困難ニアラズヤ、且ツ建議者ハ定価ヲ附スルハ不都合ナリト云フト雖トモ若シ此定価ヲ附セザル時ハ奸商ガ消費者ヲ
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欺テ粗品ヲ高売スルノ弊ヲ生ズベシ、況ンヤ現行ノ規則ニ拠レバ烟草ハ密封セザルヲ得ズシテ外部ヨリ現品ヲ撿定スル事能ハザルニ於テオヤ、由是視之定価ヲ附スルハ奸策ヲ防グ為メニモ亦甚ダ必要ナリト信ズ、故ニ余ハ徹頭徹尾本案ニ反対ス
二十三番(岩谷松平)曰ク、二十四番(千葉松兵衛)ハ政府ノ干渉ニヨラザレバ奸策ヲ防ギ難シト云フト雖トモ、現ニ定価ヲ附スル今日ニ於テモ決シテ奸策ヲ為スノ余地ナシト云フベカラズ、余ノ説ノ如ク従価税ノ法ヲ従量税ノ制ト為ス時ハ一収税上ニ大ナル便利アリ、且ツ之ガ為メ製造上ノ手数ヲモ省キ得ルガ故ニ当業者ノ便利少カラザルナリ
四十九番(赤阪亀次郎)曰ク、余ハ烟草ニ縁遠キ者ナルガ熟々道理上ヨリ考フルニ本案ハ之ヲ廃棄セザルベカラズト信ズ、元来此従量税ハ品質ノ粗ボ同一ナル商品ニ之ヲ行フベシト雖トモ烟草ノ如キ品質ニ著シキ懸隔アルモノニ之ヲ行フ時ハ大ナル不公平アルベシ思フニ政府ガ従価税ノ法ヲ設ケラレタルハ蓋シ実際ノ景況ヲ詳査セラレタル上ノ事ナラン、又建議者ハ定価ヲ附スル商品ハ贈遣物ニ不適当ナリト云フト雖トモ是根拠ナキノ説ナリ、現ニ余ハ書籍ヲ営業スル者ナルガ書籍ノ如キハ何レモ定価ヲ附スルト雖トモ之ヲ贈遣スルニモ又之ヲ外国ヘ輸出スルニモ毫モ不可ナル事ナク、其他専売特許品ノ如キモ多クハ定価ヲ附スルト雖トモ是亦敢テ不便ナキニアラズヤ、仮令建議者其人ニ於テ不便ヲ感スル事アリトスルモ苟モ当業者全体ノ不便タラザル以上ハ本会ヨリ其筋ヘ建議スルハ甚ダ不都合ナリ
二十三番(岩谷松平)曰ク、一斤一円ノ烟草モ一斤十銭ノ烟草モ同一ニ課税スルハ不公平ナルガ如シト雖トモ、烟草ノ最モ上等ナルハ薩摩産ニシテ是ハ百斤ニ付十四五円以上二十円以下ノモノアレトモ其他ハ概ネ十円内外ナリ、故ニ今烟草ノ税ヲ従量税トスルモ実際左迄ノ不公平ナシト信ズ、又只今四十九番(赤坂亀次郎)ハ商品ニ定価ヲ附スルモ差支ナシト述ベタルガ、抑モ書籍商ノ如キハ大ニ利潤アル営業ニシテ其書籍ニ高度ノ定価ヲ附シ置キ、取引ノ際充分割引シテ販売スルノ慣習アルカ故ニ之ニ定価ヲ附スルモ差支ナカルベシト雖モ、烟草商ノ如キハ極メテ薄利ナル商売ニシテ其烟草ハ殆ト定価通リニ販売セザルヲ得ザルガ故ニ定価ヲ附スルハ甚ダ困難ナリ、是余ガ本案ヲ提出シタル所以ナリ、然ルニ四十九番(赤坂亀次郎)ノ如ク深ク事情ヲ研究セズシテ直チニ之ヲ廃スベシト云フハ余ガ本会ノ為ニ取ラザル所ナリ、若シ本案ニシテ議場ニ成立セザルニ於テハ余ハ他ノ方法ニヨリ一個人ノ資格ヲ以テ其筋ヘ建議センノミ
二十九番(山中隣之助)曰ク、本案ハ建議者ノ説明瞹昧ナルガ故ニ到底賛成ヲ得ザルベシ、建議者ハ従量税ヲ主張シテ刻烟草ハ量目ヲ目安トシ巻烟草ハ個数ヲ目安トスベシト論ズレトモ、現ニ巻烟草ノ如キ其種類極メテ多クシテ同一ナル個数ニテモ其量目ニ軽重ノ差アレハ若シ単ニ個数ヲ目安トスル時ハ所謂従量税ノ趣旨ニ矛盾スベシ、元来此議案ハ曩ニ幹事会ノ議事ニ附シタル時幹事ハ其趣
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旨ノ当否ハ暫ク措キ一個人ニテ建議スルハ不都合ニ付同業者ノ同意ヲ以テ更ニ建議スベシト建議者ニ忠告シタルニ建議者ハ同業者ノ同意ヲ得難キ趣ヲ以テ遂ニ一個人ノ資格ヲ以テ提出シタルナリ
於是各員ノ間ニ本案ノ討議ハ後ニ譲リ先ヅ之ヲ議題トスベキヤヲ決スベシトノ論起リシガ、衆議ノ末遂ニ本案ハ是迄ノ慣例ニヨリ此儘直チニ討議スベシト云フニ決ス
九十番(橋本辰三郎)曰ク、余ハ試ニ仲裁説ヲ述ブベシ、抑モ此第一第二両号ノ議案ハ共ニ烟草税則ニ関スルモノナレバ此両号ノ議案ヲ通ジ一案トシテ討議シテハ如何ン
十四番(小川為次郎)曰ク、余ハ建議者ニ再考ヲ望ム、元来政府ノ法規類ハ細密ノ調査ニヨリテ定メラルヽモノナレバ只従量税ニスベシト云フガ如キ大体論ノミニテハ以テ廟議ヲ動カスニ足ラズ、故ニ建議者ガ此建議ヲ提出スルニハ精細ノ調査ヲ遂ゲ例ヘバ刻烟草ハ一斤ニ付何銭、巻烟草ハ百本ニ付何銭ト云フガ如ク其税率ニ就キ充分ノ見込ヲ立テラレン事ヲ望ム
九番(雨宮綾太郎)問テ曰ク、本案ハ同業者タル会員中ニサヘ反対論アル程ナレバ余ノ如キ局外者ガ之ニ可否ノ判断ヲ附スルハ実ニ甚ダ困難ナリ、試ニ問フ建議者ノ組合即チ東京烟草商組合ハ其人員何人ニシテ其内本案ノ趣旨ヲ賛成シタル者何人アリシヤ
二十三番(岩谷松平)荅テ曰ク、東京烟草商組合ノ人員ハ凡千八百人ニシテ嘗テ臨時会ヲ開キ本案ヲ議シタルニ二十四番会員タル千葉松兵衛氏一人ヲ除クノ外一同之ヲ賛成シタリ、依テ余ハ組合ノ総代トシテ此建議ヲ提出シタルナリ
三十七番(田中佐次兵衛)曰ク、只今二十三番(岩谷松平)ハ東京烟草商組合員一同本案ヲ賛成シタリト放言スレトモ是全ク無実ノ言ナリ、抑モ本案ノ如キ趣旨ハ建議者タル岩谷松平氏其人ヲ除クノ外府下ノ同業者ハ恐ラクハ一人トシテ賛成スル者ナカルベシ
三番(梅浦精一)曰ク、過刻来本案ニ就テハ仲裁説モアリ忠告説モアリタルガ、抑モ本案ハ提出以来既ニ半年余ヲ経過シ今日ニ至ル迄双方ノ間ニ充分討論モアリタル事ナレバ此上ハ起立ニヨリテ可否ヲ決シテハ如何ン
二十三番(岩谷松平)曰ク、余モ亦起立ニヨリテ決セン事ヲ望ム
十四番(小川為次郎)曰ク、本案従量税ノ説ハ甚ダ妙味アリ只惜ムラクハ詳細ノ調査ヲ欠クノミ、本案ハ若シ此儘起立ニテ決スル時ハ必ズヤ廃案トナラン余ハ建議者ニ忠告ス、本案ハ詳細ノ調査ヲ遂ゲ更ニ提出セラレン事ヲ
会長(益田孝)曰ク、最早議論モ尽キタレバ余ハ会長トシテ此上ハ決ヲ取ルベシ、但シ余ハ一個ノ会員トシテ今一応建議者ニ忠告スベシ、抑モ従量税ハ頗ル面白キ課税法ニシテ余ハ予テヨリ之ヲ研究シタク思ヘリ、依テ建議者ハ十四番(小川為次郎)ノ忠告ニ従ヒ再調ノ上提出シテハ如何ン
二十三番(岩谷松平)曰ク、余ハ多用ニテ何分詳細ノ調査ヲ遂グルヲ得ズ、但シ本会ニ於テ若シ幸ニ本案ヲ必要ト認メラルレバ願ハクハ書記ヲシテ調査セシメラレタシ
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於是会長(益田孝)ハ議論稍ヤ尽キタルヲ以テ決ヲ取ルベキ旨ヲ告ゲ先ヅ本案ヲ否トスル者ニ起立ヲ命ジタルニ多数ニ付遂ニ之ヲ廃案トスルニ決ス ○下略
   ○是日栄一差支アリテ欠席ス。



〔参考〕東京商工会議事要件録 第四〇号・第二―二〇頁 (明治二二年九月)刊(DK190009k-0007)
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東京商工会議事要件録  第四〇号・第二―二〇頁 (明治二二年九月)刊
  第廿一定式会
          (明治廿二年八月九日開会)
  第卅六臨時会
    会員出席スル者 ○二十五名
○上略
会長(渋沢栄一)ハ開会ノ趣旨ヲ報ジ先ツ定式会ヲ開クベキ旨ヲ告ゲ規程第五章第二十二条ニ拠リ明治二十二年上半季間定式事務ノ成蹟ヲ報告ス
  自明治廿二年一月至同六月 半季間事務ノ報告
○中略
    雑事    八件
○中略
○烟草税則ニ改正ヲ要スル義ニ付建議ノ件
  本件ハ二十三番会員岩谷松平氏ノ建議ニ係リ其要旨ハ烟草税則ニ拠レバ烟草税ハ従価税ナレトモ右ニテハ種々繁雑ノ手数ヲ要スルニ付之ヲ従量税ニ改ムベシト云フニアリ、即チ明治二十二年五月二十三日第三十四臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ賛成者ナクシテ遂ニ廃案トナリタリ
○下略