デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.100-112(DK190014k) ページ画像

明治21年9月13日(1888年)

是日栄一当会会頭トシテ、先ニ設置セラレシ東京市区改正委員会ニ当会ヨリモ委員ヲ出シ、会議ニ参与セシメンコトヲ内務大臣伯爵山県有朋ニ建議ス。此儀容レラレ、十月二十六日当会栄一並ニ副
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会頭益田孝ヲ臨時委員ニ推薦ス。


■資料

中外物価新報 第一九三〇号 明治二一年九月二日 建議書呈出(DK190014k-0001)
第19巻 p.101 ページ画像

中外物価新報  第一九三〇号 明治二一年九月二日
    建議書呈出
今度閣令を以て定められたる東京市区改正委員会の組織法に拠れば東京商工会ハ同委員会へ参与する能ハざれど、何様今回市区改正の挙たる商工業上に重大の関係を有するものなるを以て東京商工会々員中にハ去る十八年東京市区改正審査会を開きたる時と同様商工会の委員をも参与せしめらるゝ社至当なりとの意見を持せらるゝ人々多く、其理由を当局者へ建議せんとの相談ある由ハ兼て報道に及び置きしが、愈よ昨日益田孝・小川為次郎・丹羽雄九郎・阿部泰蔵の四氏が連署を以て会頭渋沢栄一氏へ宛て建議書を差出されたり、尤も諸官省及東京区部会よりの選出委員ハ已に夫々選定の運びにも立至りたる程にて本件ハ最も至急を要する事柄なるのみならず、建議者ハ小川氏を除くの外皆商工会の幹事なれば会頭の見込に拠り或ハ幹事会を経ずして近々直に臨時総会を開きて審議することとなるやも測り難しと云ふ


東京商工会議事要件録 第三四号・第三―二九頁 (明治二一年一〇月)刊(DK190014k-0002)
第19巻 p.101-108 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三四号・第三―二九頁 (明治二一年一〇月)刊
  第三十一臨時会  (明治廿一年九月八日開)
    会員出席スル者 ○四十一名
○上略
次ニ会長(渋沢栄一)ハ是ヨリ第一号議案ヲ議スベキ旨ヲ告ゲ書記ヲシテ之ヲ朗読セシム
(第一号議案)
 別紙ノ事項本会ノ意見トシテ其筋ヘ建議相成度此段建議仕候也
  明治廿一年九月      二番     阿部泰蔵
               十四番    小川為次郎
               廿五番    丹羽雄九郎
               五十八番   益田孝
  東京商工会々頭
    渋沢栄一殿
     (別紙)
    当会ヨリ東京市区改正委員会ヘ参席ヲ要スル建議
 今般政府カ勅令第六十二号ヲ以テ東京市区改正ノ事ヲ決行セラレタルハ我邦未曾有ノ盛事ナリ、顧フニ此業一タヒ成功スルニ至ラハ都下百世ノ禍根ヲ断チ府民ノ福祉ヲ増進スル事実ニ測ルベカラズ、特ニ某等商工者ハ之ニ因テ売買製造ノ上ニ幾層ノ便利ヲ増シ其営業ノ隆盛ニ至ラン事之ヲ燭照シテ見ルガ如シ、豈政府ニ対シ其恵賚ノ厚キヲ謝セサルヘケンヤ、然レトモ市区改正ノ事タル古来無比ノ大事業ニシテ其設計及ビ実施ノ順序ヲ定ムルニ当リ慎重周密ナル考案ヲ要スルヤ論ヲ待タズ、若シ其間ニ一点ノ遺策アラハ或ハ営業ノ秩序ヲ攪乱シ或ハ私産ノ増減ヲ生シ徒ニ府民ヲ苦シムルニ止マリテ未ダ永久ノ利便ヲ享クルニ及ハズ先ヅ其事ヲ厭忌セシムルニ至ルベシ、実ニ世上ニ困難ノ事業多シト雖トモ未ダ此ヨリ甚シタキ者ハ《(タシ)》アラサ
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ルナリ、而シテ此困難ノ事業ニ当リ巧ニ之ヲ処理スルノ責任アル者ハ則チ東京市区改正委員会是ナリ、謹テ閣令第十四号ヲ按スルニ委員会ハ各省及ヒ警視庁・東京府ノ高等官十五人、区部会議員十人ヨリ組織スルノ制トス、蓋シ其撰出組織ノ宜キヲ得タルハ亦贅弁ヲ待タサルベシ、故ニ某等商工者ハ深ク信ズ、此委員会ノ議決施行スル所ハ必ス能ク改正ノ目的ヲ達シ以テ府民ノ福祉ヲ増益スル事ヲ、然レトモ退テ窃カニ考フレバ府民中殊ニ此改正ニ就テ直接ニ利害ヲ被ルノ多キハ某等商工者ニ勝ルハナシ、又其施設ノ得失ニ通シ便不便ノ当否ヲ詳ニスル者モ、亦某等商工者ヲ舎テ之ヨリ深切ナルハアラサルベシ、是ニ於テ某等ハ委員会ノ組織ヲ称揚スルト同時ニ之ニ我商工会員ノ名称ヲ見サルヲ以テ遺憾トシテ已マサルナリ
 抑々市区改正ノ事業タル府下全体ニ重大ノ関係ヲ有スルハ勿論ナリト雖モ、其最モ利害ノ大ナルハ某等商工者ニ在リト云フベシ、是レ他ナシ府下百万ノ住民ハ過半某等商売製造ヲ以テ職業トスル者ナレバナリ、就中市区改正ノ要地タル日本橋・京橋・芝・神田・下谷・浅草・本所・深川各区ノ住民ハ之ヲ悉皆商工者ナリト謂ハンモ誣言ニアラズ、而シテ此等各区ノ地面ハ大抵某等商工者ノ私有スル所ナリ、此等各区ノ間ニ充満セル店舗・倉庫・市場・製造所ハ一トシテ某等商工者ノ便用スル所ニアラサルハナシ、某等商工者ノ府下ニ於ケルヤ此ノ如シ、其市区改正ニ如何ナル関係アル乎問ハズシテ知ルヘキナリ、蓋シ市区改正ノ事業ハ府民ノ私有スル地所家屋ノ上ニ於テ虚線ヲ画シ之ヲ標準トシテ諸般ノ工事ヲ施ス者ニシテ之ガ為メニ従来ノ地勢ヲ顛置シ財産営業等ニ意外ノ変態ヲ顕ハス事固ヨリ恠ムニ足ラス、而シテ某等商工者多数ノ中ニハ此際公益ノ犠牲ニ供セラレ多少ノ損失ヲ蒙ムル者アルヤ必セリ、況ンヤ之ヲ実行スルノ道宜キヲ得サルトキハ此等損失ノ度ハ遂ニ某等商工者ヲシテ産ヲ破リ業ヲ失ヒ凍餒ノ不幸ニ陥ラシムルニ於テオヤ、若シ此ノ如クナラバ此事業ハ遂ニ衆怨ノ府トナリ、前古未曾有ノ盛事ヲシテ却テ前古未曾有ノ暴悪ノ物タラシムルニ至ラン、実ニ之ヲ処理スルノ難キハ朽索ノ六馬ヲ御スルヨリモ甚シ、然ラハ則チ某等商工者ハ一方ニ於テハ自家ノ利益ヲ保護シ一方ニ於テハ永久ノ利便ヲ享受スル為メ其委員会ヘ列席スルノ必要ナル事亦贅言ヲ待タサルナリ、是レ某等カ我商工会員ノ市区改正委員会ヘ列席スルヲ要スト云フ所以ノ一ナリ
 且又市区改正ノ目的ヲ推案スルニ是レ全ク東京ヲ以テ商業都府タラシメント欲スルガ如シ、即チ勅令ハ其目的ヲ示シテ曰ク、東京市区ノ営業衛生防火及ヒ通運等永久ノ利便ヲ図ル為メ云々ト有リ、是レ孰レモ皆重要ナル目的ナリト雖トモ就中営業通運ノ二事ハ今日特別ニ東京ニ必要ナル事情ノ在ルアリ、何ソヤ、顧ミテ我国ノ地勢ヲ見ヨ、東ハ桑港ニ隣シ西ハ香港上海ト相望ミ実ニ東洋ノ中心市場タルニ適当セリ、而シテ我東京ハ帝国ノ首都ニシテ滄海ニ臨ミ大河ヲ控ヘ人口繁多商貨輻輳シ、若シ之ニ適当ノ改良ヲ加ヘハ他日東洋貿易ノ枢軸タラン事固ヨリ期シテ待ツベキナリ、況ンヤ近来内国ニ海運鉄道ノ便盛ニ開ケ此等ハ尽ク東京ヲ以テ中心トナスニ於テオヤ、政府ガ市区改正ノ業ヲ起ス豈ニ此ニ見ル所アルニアラズヤ、某等ガ市
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区改正ノ目的ハ東京ヲシテ商業都府タラシムルニ在リト云フモ臆言ニアラザルベシ、夫レ市区改正ノ目的ハ果シテ此ニ在リトセハ其目的ヲ達スル為メ府下ノ現在商工業ノ不便ト此不便ヲ除却スルノ方法トハ是レ第一ニ考究スヘキ問題ニシテ、而シテ此問題ニ対シ最モ善ク解釈スル者ハ某等商工者ヲ舎テ果シテ誰ソヤ、某等商工者ハ平生店舗工場ニ在リテ貨物ノ取引物品ノ製造ニ従事セリ、故ニ今日府下ノ不便闕典ヲ飽クマデ熟知スルノミナラズ又改正事業ヲ実行スルニ臨ンテモ其施設ノ得失工事ノ便否ヲ指陳スル事猶灯火ノ物ヲ照シ尺度ノ長短ヲ示スカ如クナルヲ得ルナリ、但シ此等ノ事ハ決シテ他人ノ知ル能ハサル所ト云フニアラス、唯他人ニ在リテハ某等商工者ノ実験スル所ヲ聞知シテ始メテ之ニ通暁スルヲ得ルノミ、故ニ市区改正ノ目的ヲ全クシ東京ヲシテ真ニ商業都府タラシメント欲セハ、某等商工者ノ意見ヲ聴キ其設計及ビ実施ノ参考トスルヨリ適切ニシテ且ツ便宜ナルハナシ、政府カ嘗テ審査会ヲ開クニ当リ我商工会員ヲ列席セシメタルモ蓋シ此ニ鑑ミル所アリシナラン、是レ某等カ我商工会員ノ市区改正委員会ヘ列席スルヲ要スト云フ所以ノ二ナリ
 某等ガ我商工会員ヲシテ市区改正委員会ヘ列席セシムルヲ要望スルノ理由ハ則チ前条ニ開陳スルカ如シ、其要旨第一ニハ府下商工者全般ノ利益ヲ保護セン為メナリ、第二ニハ市区改正ノ事業ニ便宜ヲ与ヘン為メナリ、某等ハ此等ノ理由ニ拠リ、又嘗テ審査会ヘ列席シタルノ事蹟ニ徴シテ当会員カ此ノ如キ要望ヲ為スハ決シテ過当ニアラサルヲ信スルナリ、而シテ又我商工会ノ地位トシテ此ノ如キ要望ヲ為スハ必スシモ僭越ニアラサルヲ知ルナリ、故ニ政府ハ某等商工者ノ情実ヲ容レ此等ノ理由ヲ察シ且既往ノ例ニ照シテ必ス之ヲ聴納セラルヽニ至ルベシ、抑モ当商工会ハ其規程第弐条ニ示スカ如ク東京府下各商工業ノ全般ニ関係スル利害得失ヲ議スルヲ以テ責任トス、而シテ従来府下ニ起生シタル事件中未ダ此市区改正ノ如ク全般ニ渉リ重大ナル関係ヲ有スルモノハアラズ、某等府下ノ商工者ヲ代表シ此会ニ列スルモノヽ宜シク深思長慮シテ一般ノ為ニ其利益ヲ保護シ其利便ヲ計図スベキ所タリ、是レ則チ某等カ敢テ本案ヲ建議スル所以トス、諸君幸ニ本案ヲ討議シ、其紕繆ヲ正シ其欠漏ヲ補ヒ速ニ其要望ヲ満足スルノ順序ヲ尽サレン事ヲ、但本案ノ文意明瞭ナラサル点及ビ論旨ノ不足スル点ハ更ニ議場ニ於テ補足スベシ、某等恐懼ニ勝ヘス
 右建議候也
七十九番(正木誓)曰ク、本会ハ畢竟スルニ有志者ノ私会ナリ、故ニ諮問ニ応ジテ意見ヲ開陳スルハ可ナリト雖トモ市区改正委員会ヘ参席ヲ望ムハ不同意ナリ、何トナレバ前年ノ審査会ハ顧問会ナレトモ今回勅令ヲ以テ定メラレタル市区改正委員会ハ施政者ニシテ本会ガ之ニ参席スルハ公私ヲ混同スルモノナレバナリ
四十九番(日下部三之介)曰ク、公私混同ノ論ハ暫ク措キ本会ガ市区改正委員会ニ参席スルハ実際ニ於テ甚ダ困難ナルモノアリ、抑モ市区改正ノ如キハ極メテ大事業ニシテ今ヨリ十数年ノ後ニアラザレバ其成功ヲ期シ難キモノナリ、然ルニ本会会員ノ任期ハ僅ニ一
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年ナレハ仮令一旦委員ヲ撰ンデ市区改正委員会ヘ参席セシムルモ次年ノ撰挙ニ於テ当撰ヲ得ザルニ於テハ更ニ其委員ヲ解任セザルヲ得ザルノ不都合アリ、左レハトテ此事業ノ如キハ固ヨリ本会ノ等閑ニ附スベキモノニアラザレハ本会ニ於テハ可成其諮問ニ接シ充分意見ヲ開陳スベキハ勿論ナレトモ、猶此際本会ノ決議ヲ以テ府下ノ商工業者ニシテ名望アリ、且ツ充分経験アル者若干名ヲ特撰シテ市区改正委員会ヘ参席セシメラレン事ヲ其筋ヘ建議セン事ヲ望ム
二十九番(山中隣之助)曰ク、曩ニ内務省ニ於テ審査会ヲ開カレタル節ニハ府会ハ別ニ委員ヲ撰出セザリシト雖トモ本会ニ於テハ特ニ其筋ノ令達ニヨリテ二名ノ委員ヲ撰出シタリ、是蓋シ市区改正事業ノ最モ営業上ニ関係スルガ為メナルベシ、然ルニ今回閣令第十四号ヲ以テ定メラレタル市区改正委員会ノ組織中ニ商工会々員ノ文字アラザルニ付、余ハ大ニ遺憾ヲ抱キ此事ニ就キ追テ建議ヲ提出シタシト思フタル位ナレハ本案ハ無論余ノ熱心ニ賛成スルノミナラス他ノ会員諸君モ定メテ余ト同意ナラント思ヒシニ、過刻来二人ノ反対者顕ハレタルハ実ニ案外ナリト謂フベシ、而シテ第一ノ反対者ハ本会ハ有志者ノ私会ナリト申シタルガ成ル程本会ハ敢テ勅令ニヨリテ組織シタルモノニハアラスト雖モ、現ニ明治十六年五月太政官第十三号ノ布達ニ基キ府知事ノ誘導ニ拠リテ之ヲ設立シタルモノニシテ其会員ノ如キモ府知事ノ認可ヲ経テ始メテ上任スル程ナレハ決シテ之ヲ普通ノ私会ト同視スベカラザルナリ、又第二ノ反対者ハ府下商工業者ノ中ヨリ一私人若干名ヲ委員ニ特撰セン事ヲ建議スベシト申シタルガ、抑モ本会ノ会員ハ多クハ会社若クハ組合ノ総代人タルノ資格ヲ以テ出席スル者ナリ、然ルニ之ヲ捨テヽ彼ヲ取ルハ是却テ公私ヲ混同スルモノニアラスヤ、又本会々員ノ任期ハ一年ナルニ付不都合ナリト申セトモ区部会議員ノ如キモ中ニハ任期僅ニ二年ナル者アルニアラスヤ、此点ヨリ観察スル時ハ本会々員ト区部会議員トノ間ニハ毫モ差違アラザルナリ、之ヲ要スルニ其委員ヲシテ真ニ商工業者ヲ代表スルノ資格ヲ有セシムルモノトセハ仮令其人ニ更代アルモ敢テ意トスルニ足ラザルナリ
七番(雨宮綾太郎)問フテ曰ク、政府ガ曩ニ市区改正審査会ヲ開カレタル節ニハ本会ヨリ委員ヲ撰出スベキ旨ヲ令達セラレタルニ、今回閣令第十四号ヲ発布セラルヽニ当リ委員会ノ組織中ニ本会々員ノ目ヲ掲ゲラレザリシハ如何ナル内情アリテ然ルヤ、又一旦定メラレタル閣令ハ之ヲ動スニ容易ナラストノ事ナルガ果シテ然ルヤ此等ノ事ニ就キ聞込マレタル事モアラハ願ハクハ垂示アリタシ
会長(渋沢栄一)荅テ曰ク、斯ノ如キ事ハ仮令聞込ミタル事アリトスルモ玆ニ公言スベキ事柄ニアラス、況ンヤ未ダ聞込ミタル事アラザルニ於テオヤ、蓋シ過刻或ル会員ハ市区改正審査会ヲ以テ私ニ置カレタルモノヽ様ニ申シタルガ元来該審査会ハ内務卿ガ東京府知事ヨリ上陳シタル市区改正ノ件ヲ聴納シ、内閣ノ裁可ヲ得テ之ヲ開設セラレタルモノナレハ決シテ私ニ設ケタルモノニハアラス
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左レハ公私ノ点ニ於テハ曩ニ開設セラレタル審査会モ今回勅令ヲ以テ定メラレタル委員会モ其間毫モ区別アラザルナリ
十四番(小川為次郎)曰ク、余ハ建議者ノ一人ナルニ付一ト通リ本案ヲ呈出シタル趣旨ヲ弁スベシ、抑モ市区改正委員ノ組織権限ハ既ニ閣令ヲ以テ定メラレタル上ノ事ナレハ今此建議ヲ其筋ヘ上呈セントスルハ固ヨリ必成ヲ期スルニ非スシテ、只本会ハ該委員会ニ参席スベキノ道理アルニ付其道理ノ在ル所ヲ上陳セントスルニ過ギザルナリ、蓋シ此建議ニ記スル所ハ只積極ノ点ナレハ消極ノ点ニ就テハ必ス駁議起ル事アルベシ、即チ第一ニハ閣令第十四号第八条ニ拠レハ委員会ハ曩ニ市区改正審査会ニ於テ議定シタル方案ニ拠リ特ニ其改正ヲ要スルモノヽミヲ議定シテ云々トアリテ、即チ今回ノ委員会ハ審査会ノ決議ヲ基本トシ只時トシテ之ニ僅々ノ修正ヲ加フルニ過ギサルナリ、而シテ本会ハ曩ニ審査会ヲ開設セラルヽニ当リテ既ニ充分其意見ヲ開陳シ置キタレハ今回ノ委員会ヘ参席スルノ必要ナシトノ駁議起ルヘシ、然レトモ当時ト今日トハ人智ノ進度モ一様ナラス随テ社会ノ状況モ亦異ナル所アルヘキニ付、委員ガ審査会ノ決議ヲ議スルニ当リテハ目下ノ必要ニ応ジテ大ニ修正ヲ加フヘキハ必然ニシテ、特ニ毎年度ニ於テ施行スヘキ事業ヲ議定スル事ノ如キハ其ノ商工業ノ利害ニ至大ノ関係ヲ及ボサヾルヲ得ス、左レハ仮令審査会ノ決議ニシテ基本タルヲ得ルモ本会ガ委員会ヘ参席スルハ決シテ其必要ナシト謂フベカラルサナリ《(サル)》、第二ニハ本会ハ法律ニヨリテ設立シタル公会ニアラサレハ委員会ヘ参席スルハ僭越ナリトノ駁議起ルベシ、蓋シ此駁議ハ畢竟スルニ本会ノ性質及ビ市区改正事業ノ性質ヲ知ラスシテ一私人ト雖トモ公会ニ参席シ得ルノ道理ヲ解セサルヨリ起ルモノナリ、抑モ本会ハ過刻二十九番(山中隣之助)ノ論ジタルガ如ク明治十六年五月太政官第十三号ノ布達ニヨリテ設立シタルモノニシテ、其権利義務ハ固ヨリ法律勅令ヲ以テ定メタルニハ非スト雖トモ、熟々従来ノ事歴ニ徴スルニ政府ハ恰モ本会ヲ以テ政治上ノ一機関ト認メタルノ実跡アリ、現ニ前年農商務大臣ヨリ不景気救済策ノ諮問アリ、又本年司法大臣ヨリ屋号専用規則ノ諮問アリ、特ニ此屋号専用規則ノ如キハ商法ノ一部ナレハ政府ガ此等ノ諮問案ヲ下附セラレタルハ是恰モ本会ニ議政ノ権ヲ与ヘタルト同一ナリ、由是観之本会ガ委員会ヘ参席スルハ決シテ僭越ニアラサルナリ、第三ニハ本会ハ永久ノ設立ニアラサルニ付委員会ヘ参席スベカラストノ駁議起ルベシ、蓋シ本会ハ固ヨリ永久ノ設立ニアラサルベシト雖トモ之ヲ法律ニヨリテ動シ得ベキモノニ比スレハ其基礎却テ堅固ナルモノアリ、例ヘハ現ニ委員会ヲ組織スル各省高等官ノ如キモ別ニ定マリタル任期ナケレハ其基礎頗ル不安固ナルニアラスヤ、又府会ノ如キモ仮令法律ニヨリテ組織シタル者ナルモ曩ニ発布セラレタル市町村制ニ拠ル時ハ其命脈ハ数年ヲ出デスシテ消減《(滅)》スベキニアラスヤ、左レハ本会ハ永久ノ設立ニアラサルニ付委員会ニ参席スベカラストノ論ハ固ヨリ取ルニ足ラサルナリ、又本会ヨリ委員ヲ出ダサスシテ府下商工業者ノ中ヨリ若干名ヲ特撰スベ
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シトノ論モアリタレトモ此等ノ事ハ此議場内ニ於テ議スベキ事ニアラスト信ス、抑モ市区改正ノ如キハ勅令ヲ以テ公布セラレタリトハ云ヘ本来一地方限リノ事業ニシテ之ヲ審議スルニ当リ、其地方ニ於ケル商工業者ノ総代人ガ其議ニ参与スルハ毫モ不都合ナキ訳ニテ斯ノ如キ事ハ欧洲諸国ニ於テモ往々其例アリ、現ニ英国マンチヱスター府ニ於テ運河事業ヲ議スルニ当リテハ同府商法会議所ハ委員ヲ撰出シテ其議ニ参与セシメタルヤニ聞ケリ、又一私人ニシテ斯カル公会ニ参席スルヲ得ル事ハ其実例ニ乏シカラスシテ現ニ明治十九年十一月六日勅令第六十九号中央衛生会官制第五条ニハ「其他医師七人獣医二人及化学家二人ヲ以テ委員トス」トアリ、又同二十年四月二十三日閣令第十号地方衛生会規則第四条委員ノ組織中ニモ「医師三人乃至五人獣医一人化学家一人」トアリ又同十六年十月二十三日太政官第三十五号布達医術開業試験規則第三条ニモ、「内務卿ハ医術開業試験ヲ挙行スル毎ニ官立及府県立医学校病院ニ従事スル者又ハ地方ニ於テ学術名望アル医師理化学者等ヲ撰ビ試験委員ヲ命スベシ」トアリ、夫レ一私人ニシテ公会ニ参席スルヲ得ル事猶且ツ然リ、況ンヤ本会ノ如キ商工業者ヲ代表スル者ノ団結ナルニ於テオヤ、由是観之前陳ノ如キ場合ニ於テ委員ヲ撰挙スルニハ実地ノ便否ヲ考察スル事最モ必要ニシテ其人ノ資格ノ公私ハ深ク論スルニ足ラサルナリ、左レハ本案ノ如キ畢竟スルニ便否ノ問題ニシテ当否ノ問題ニアラス、故ニ若シ本会ガ委員会ヘ参席スル事ヲ以テ便利ナリト知ラハ之ヲ建議スルニ於テ何ノ不可カアラン、況ンヤ曩ニ開設セラレタル審査会ノ議事録ヲ内覧スルニ当時本会ヨリ撰出シタル委員ノ説最モ多ク行ハレ之ガ為メ大ニ商工業者ノ便利ヲ保維スルヲ得タルニ於テオヤ
九十六番(渡部温)曰ク、本案ハ畢竟府下商工業者ノ利益ヲ保護スルノ趣旨ナレバ余ハ無論原案ヲ賛成ス、然ルニ之ニ異論ヲ唱フル会員アルハ余ノ解セサル所ナリ
四十九番(日下部三之介)曰ク、過刻来或会員ヨリ丁寧ナル教示ヲ蒙リタルガ抑モ本会ハ府知事ノ誘導ニヨリテ之ヲ設立シ、其会員モ府知事ノ認可ヲ得テ上任スルト雖トモ法律ヲ以テ其権利義務ヲ定メタルニアラサル以上ハ之ヲ私会ナリト云フノ外ナシ、蓋シ是迄本会ヨリ其筋ヘ建議シタル事項ノ往々実行セラレタルハ是本会ノ公会ナル故ニアラスシテ只偶々政府ノ信用ヲ得タルノ結果ニ過ギサルナリ、左レハ本会ヲ以テ区部会ト同ジク公会ナリト断スルハ抑モ謬見ナリ、又或会ハ《(会員ハ)》員一私人ト雖トモ公会ニ参席スルヲ得ベシト論ジタルガ、是恰モ余ノ説ヲ援クルモノニシテ余ガ過刻本会ヨリ委員ヲ出サスシテ府下商工業者中ヨリ数名ノ委員ヲ特撰スヘシト云ヒタルハ毫モ不都合アラサルナリ
二十五番(丹羽雄九郎)曰ク、余モ建議者ノ一人ナルガ抑モ余輩ガ本会ヲシテ委員会ニ参席セシメン事ヲ望ミタルハ、畢竟此市区改正ノ件タル余輩営業者ノ頭上ニ容易ナラサル関係ヲ有スルガ為メナリ、而シテ過刻来本会ノ性質ニ就キ種々議論アリタレトモ本会ハ太政官ノ布達ニヨリテ設立シタルモノニシテ、其会員ハ組合又ハ
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会社ノ公撰スル所ニ係リ府知事ノ認可ヲ得テ上任スルモノナレハ性質ハ決シテ彼ノ有志者随意ノ会合ト同ジカラサルナリ、良シヤ法律ノ上ニ其名目ナシトスルモ斯カル事項ヲ建議スルニ於テ毫モ不都合アラサルナリ
二十六番(石関利兵衛)問テ曰ク、曩ニ審査会ヘ委員ヲ出シタル諸官衙ハ今回ノ委員会ヘモ委員ヲ出ス様ニナリ居ルヤ
会長(渋沢栄一)荅テ曰ク、然リ
三番(梅浦精一)曰ク、此問題ハ斯ク激昂シテ議論スル程ノモノニアラス、凡ソ何事ニ限ラス苟モ余輩営業者ニ便利ナル事項ハ可成進ンデ之ニ関係セン事ヲ望ム、況ンヤ本件ノ如キハ固ヨリ権限外ノ事項ニアラサルニ於テオヤ、然ルニ只私会ナリト云フテ逡巡スルハ寧ロ愚策ト云ハンノミ、夫レ曩ニ審査会ヲ開設セラルヽニ当リ本会ヨリ委員ヲ出シタレバコソ営業者ニ便利ナル決議ヲ得タルナレ、若シ当時本会ヨリ委員ヲ出サスシテ全ク之ニ関係セサリシナラハ或ハ反対ノ決議ヲ見タルヤモ知ルベカラス、由是観之本会ガ今回ノ委員会ニ参席スル事ノ営業者ニ便利ナルハ蓋シ弁ゼスシテ明カナリ
二十九番(山中隣之助)曰ク、最早議論モ尽キタレハ速ニ決ヲ取ラレン事ヲ望ム、過刻或会員ハ本会ト区部会ト同性質ノモノニアラスト論弁シタルガ抑モ此両会ヲ同性質ノモノト信スル者ハ満場ノ会員中恐ラクハ一人モアラサルベシ、而シテ余ガ過刻本会ト区部会トノ間ニ区別ナシト論ジタルハ只会員ニ任期アルノ点ニ於テハ双方同一ナリト云フノ意ニ過ギサルナリ
会長(渋沢栄一)曰ク、余ガ予メ一言ノ説明ヲ欠キタルヨリ各員ヲシテ無用ノ疑団ヲ抱カシメタルガ如シ、抑モ当初内務省ニ於テ審査会ヲ開設セラルヽニ当リ当時内務少輔ニシテ府知事タリシ芳川君ヨリ懇篤ナル相談ヲ蒙リタルニ付、余ハ本会ヨリ委員ヲ撰出セシメタシトノ意見ヲ上陳シ置キタルニ其後府知事ヨリ委員二名ヲ撰出スベキ旨公達アリタルニ付、乃チ全会ノ議決ニヨリ余及益田君其撰ニ当リシガ、元来市区改正ノ件タル其区域頗ル広大ニシテ其事柄ニヨリテハ余等両人ノ意見丈ケニテハ利害ヲ断定シ難キモノモアルベキニ付、其後更ニ全会ニ請フテ余等両人ノ顧問ニ応スヘキ委員七名ヲ撰挙シ置キ緊要ノ事項ハ逸々此等顧問委員ニ相談シテ其見込ヲ定メ可成全会ノ委任ニ負カサル様尽力シ、又此事ニ就キ本会ヨリモ改メテ審査会長ヘ建議シタル事モアリタリ、而シテ余等両人ガ審査会ノ議事ニ列スルヤ重ニ東京ヲシテ商業都府タラシメントノ主義ヲ以テ論弁シタルニ中ニハ其意見ノ不幸ニシテ敗ヲ取リシ事ナキニアラサリシモ賛成ヲ得テ可決ヲ得タルモノ亦少カラサリキ、先刻或ル会員ハ本会ガ委員会ヘ参席スルハ僭越ナリト論シタレトモ、元来此審査会ハ内務卿ガ内閣ノ裁可ヲ得テ開設セラレタルモノニシテ敢テ該省限リニ置カレタル私会ニアラス、左レハ本会ハ既ニ此審査会ニ参席スルヲ得タル以上ハ今回ノ委員会ヘ参席シ得サルノ道理モナカルベシ、想フニ今回発布セラレタル閣令第十四号ノ委員中ニ本会々員ノ目ヲ掲ゲラレザリシハ、必
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ズシモ本会ヲ以テ参席スベカラサルモノト認メラレタルニハアラズシテ、或ハ本会ノ意見ハ曩ニ審査会ニ於テ既ニ充分詳悉セラレタルニ付必要ナシト認メテ之ヲ省カレタルニハアラサルカ、蓋シ以上陳述スル所ハ敢テ建議者ヲ弁護スル為メニアラズ、只各員ノ参考迄ニ一言スルニ過ギレザバ《(ザレ)》各員此意ヲ諒セラレタシ
七十九番(正木誓)曰ク、審査会ハ固ヨリ私ニ置カレタルモノニハアラサルヘケレトモ、恰モ司法省ニ於テ開カレタル判事諮問会ノ如ク全ク顧問会ノ性質ヲ帯ブルモノナリ、左レバ本会ガ審査会ニ参席スルハ差支ナシト雖トモ今回ノ委員会ノ如キハ全ク施政会ノ性質ヲ有スルモノニ付、本会ガ之ニ参席スルハ豈僭越ナリト謂ハサルヘケンヤ
十四番(小川為次郎)曰ク、或ル会員ハ審査会ヲ以テ判事諮問会ノ如キモノナリト申セトモ、曩ニ政府ガ審査会ヲ開設セラレタル時ノ意念ヲ察スルニ其ノ決シテ然ラサルヲ知ルニ足レリ、現ニ閣令第十四号第八条ニ「委員会ハ曩ニ東京市区改正審査会ニ於テ議定シタル方案ニ拠リ云々」トノ明文アルヲ見テモ其ノ普通諮問会ノ類ニアラサル事ヲ証スルヲ得ヘシ
七十五番(矢嶋作郎)曰ク、本員モ原案ヲ賛成ス、蓋シ熟々原案ヲ見ルニ参席ヲ要スルノ理由少シク穏カナラサルモノアリ、夫レ市区改正ニ就キ最モ多ク納税ヲ負担スル者ハ土地家屋ノ所有者ナリ、而シテ最モ多ク土地家屋ヲ所有スル者ハ商工業者ニ過グルモノナケレバ此点ヲ以テ更ニ参席ヲ要スルノ一理由トナシテハ如何ン
於是会長(渋沢栄一)ハ議論稍ヤ尽キタルヲ以テ先ツ原案ヲ可トスル者ニ起立ヲ命ジタルニ二人ヲ除クノ外総起立、依テ本案ハ之ヲ可決シ猶衆議ノ末其建議案ハ理事本員ニ於テ之ヲ調成シ直チニ内務大臣ヘ進達スルニ決ス(建議案ハ其後理事本員ニ於テ之ヲ調成シ九月十三日附ヲ以テ之ヲ内務大臣ヘ進達シタリ依テ其全文ハ参考部第一号ニ掲グ)


東京商工会議事要件録 第三四号・第五三―五八頁 (明治二一年一〇月)刊(DK190014k-0003)
第19巻 p.108-110 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三四号・第五三―五八頁 (明治二一年一〇月)刊
 ○参考部
(第一号)
    ○(東京市区改正委員会ヘ参席ヲ要スル義ニ付建議)
今般勅令第六十二号ヲ以テ公布セラレタル東京市区改正ノ義ハ、我邦未曾有ノ盛事ニシテ、一タビ其成効スルニ至ラバ府下百世ノ禍根ヲ断チ、府民ノ福祉ヲ増進スヘキハ勿論、府下商工業者ガ之ニ依リテ売買製造上ニ便益ヲ得ル事少シトセス、是本会ガ最モ翼賛スル所ニ御座候然レトモ市区改正ノ事タル至大ノ事業ニシテ其規画ノ如何ニヨリテハ府民ノ休戚ニ容易ナラサル関係ヲ有スルモノナレハ、之ガ設計及ヒ実施ノ順序ヲ議定スルニ当リテハ、最モ慎重周密ナル考案ヲ要スヘキハ勿論ノ義ニシテ、若シ一点ノ遣策《(遺)》アルニ於テハ営業ノ秩序ニ大ナル攪乱ヲ生ジ、又ハ各自ノ私産ニ非常ノ損害ヲ与フル事ナキヲ保セス、顧フニ世上困難ノ事多シト雖トモ未ダ之ヨリ甚シキ者ハアラサルナリ、而シテ此至難ノ事業ニ当リ、巧ニ之ヲ処理スルノ責任アル者ハ則チ東京市区改正委員会是ナリ、謹テ閣令第十四号ヲ案スルニ委員会ハ各省及ヒ警視庁・東京府ノ高等官十五人・区部会議員十人ヨリ組織スルノ
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制ニシテ其組織法ノ宜シキヲ得タルハ本会ノ深ク信スル所ナリ、然ルニ之ト同時ニ府下商工業者ノ代表者タル本会々員ノ名目ヲ其中ニ見サルハ本会ノ最モ遺憾トスル所ナリ
抑モ市区改正ノ事業タル府下全体ニ重大ノ関係ヲ有スルハ勿論ナリト雖トモ、其最モ切ニ利害ヲ感スル者ハ府下ノ商工業者ナルヘシ、是レ他ナシ、市区改正ノ要地タル日本橋・京都・芝・神田・下谷・浅草・本所・深川等各区ノ住民ハ多クハ商工業者ニシテ、而モ此等各区ノ地所ハ大抵商工業者ノ所有ニ属シ、其間ニ充満セル店舗・倉庫・市場・製造所ハ皆是レ商工業者ノ利用スルモノナレハナリ、蓋シ市区改正ノ事業ハ府民ノ私有スル地所家屋ノ上ニ虚線ヲ画シ、之ヲ標準トシテ諸般ノ工事ヲ実施スルモノナレハ、之ガ為メ従来ノ街路ヲ顛置シ財産及ヒ営業上ニ多少ノ変動ヲ来ス事ハ固ヨリ免カレサル所ニシテ、其方案及ヒ施行順序ノ議定如何ニ依リテハ、特ニ府下商工業者ニ非常ノ損害ヲ蒙ラシムル事ナキ能ハサルナリ、夫レ府下商工業者ガ此事業ニ就キ直接ノ利害ヲ有スル事此ノ如シ、然ルニ之ガ代表者タル本会ガ其設計及事業ノ議事ニ与カルヲ得サルハ豈甚ダ遺憾ナルニアラスヤ、是レ本会ガ市区改正委員会ニ参席ヲ希望スル第一理由ナリ
熟々市区改正ノ目的ヲ案スルニ、是東京ヲ以テ商業都府タラシメント欲スルニ在ルガ如シ、即チ勅令ニ拠レハ東京市区ノ営業・衛生・防火及通運等永久ノ利便ヲ図ル為メ云々トアリ、是皆重要ナル目的ナリト雖トモ就中営業・通運ノ二業ハ今日府下ニ於テ特ニ必要ヲ感スルノ事情アリ、案スルニ我邦ノ地勢タル東ハ桑港ニ隣シ西ハ香港・上海ト相望ミ、実ニ東洋ノ中心市場タルニ適当セリ、而シテ我東京ハ帝国ノ首都ニシテ人口繁多商貨輻湊シ、殊ニ近来海陸運輸ノ便開発スルニ従ヒ商業益々繁栄ニ進メリ、故ニ若シ其市区ニ適当ノ改正ヲ加ヘナハ他日東京ヲシテ内外貿易ノ中心市場タラシムル事固ヨリ期シ難キニアラス是レ蓋シ今般市区改正条例ヲ発布セラレタル所以ニシテ、本会ガ市区改正ノ目的ハ東京ヲシテ商業都府タラシムルニ在リト信スル所以ナリ夫レ市区改正ノ目的果シテ此ニ在リトセハ府下商工業ノ不便ト此不便ヲ除却スルノ方法トハ、是レ第一ニ考究スヘキ問題ニシテ而シテ此問題ニ対シ能ク実際ノ事情ヲ知ル者ハ府下商工業者ニ若ク者ナカラン、府下商工業者ハ平生店舗工場ニ在リテ貨物ノ取引物品ノ製造ニ従事スルガ故ニ、府下ノ現況ニ就キ能ク其不便欠点ヲ熟知スルノミナラス、市区改正事業ヲ実施スルニ当リ、其施設ノ得失及ヒ順序ノ緩急ニ就キ特ニ適切ノ意見ヲ有スルモノトス、尤モ此等ノ事ハ他人之ヲ知ラスト云フニアラス、唯他人ニ於テハ商工業者ノ実験スル所ヲ聞知シテ始メテ之ニ通暁スルヲ得ルノミ、故ニ市区ノ目的ヲ達シ東京ヲシテ真ニ商業都府タラシメント欲セハ、府下商工業者ノ意見ヲ聴キ、其設計及ビ実施ノ参考トスルヨリ適切ニシテ且ツ便宜ナルハナシ、曩キニ御省ニ於テ審査会ヲ開カルヽニ当リ、特ニ本会々員二名ヲ其席ニ列セシメラレタルモ、畢竟前陳ノ事情ニ基クモノナラン、是本会ガ市区改正委員会ヘ参席ヲ要望スル第二ノ理由ナリ
以上陳述スル所ニ由リテ之ヲ見ルニ、本会ガ市区改正委員会ヘ参席セン事ヲ望ムハ、一方ニ於テハ府下全般商工業者ヲ代表シテ其利益ヲ保
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護シ、一方ニ於テハ市区改正事業ノ実施上ニ多少ノ便宜ヲ与ヘンガ為メニシテ、特ニ本会ハ嘗テ審査会ノ会議ニ参席シタルノ慣例モアレハ亦敢僭越ニアラスト信ス、況ンヤ本会ハ規程第二条ニ示スガ如ク、東京府下各商工業ノ全般ニ関スル利害得失ヲ議スルノ責任アリテ此市区改正ノ如キ、特ニ府下全般商工業ニ重大ノ関係ヲ有スル事業ヲ議スルハ固ヨリ本会ノ本分タルニ於テオヤ、就テハ今回市区改正委員会ヲ開設セラルヽニ当リ、本会ヨリモ委員ヲ撰出シテ其会議ニ参与セシメ候様仕度、此段建議仕候也
                 東京商工会々頭
  明治廿一年九月十三日          渋沢栄一
    内務大臣 伯爵 山県有朋殿


東京商工会議事要件録 第三五号・第四―一〇頁 (明治二一年一一月)刊(DK190014k-0004)
第19巻 p.110-112 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三五号・第四―一〇頁 (明治二一年一一月)刊
  第三十二臨時会  (明治廿一年十月廿六日開)
    会員出席スル者 ○二十三名
○上略
次ニ会長(渋沢栄一)ハ是ヨリ本議ヲ始ムベキ旨ヲ告ゲ、書記ヲシテ東京府知事ノ達文ヲ朗読セシム
                   東京商工会
 東京市区改正委員会ニ於テ臨時委員ヲ要シ候条、会員ノ中ニテ該委員タルベキモノ二名ヲ撰ビ至急申出ヅベシ
  明治二十一年十月廿四日
              東京府知事 男爵 高崎五六
会長(渋沢栄一)曰ク、委員撰挙ノ方法ニ就キ各員意見アラバ之ヲ陳述セラレタシ
二十九番(山中隣之助)曰ク、委員ヲ撰挙スルニハ投票ノ手数ヲ省キ先例ニヨリ正副会頭両人ニテ直チニ其任ニ当ラレン事ヲ希望ス
十四番(小川為次郎)十六番(益田克徳)及二十五番(丹羽雄九郎)ハ共ニ二十九番(山中隣之助)ノ説ヲ賛成ス
会長(渋沢栄一)曰ク、曩ニ本会ヨリ市区改正審査会ヘ委員ヲ出スニ当リテハ可成本会意見ノ徹底セン事ヲ欲シ、会員中ヨリ更ニ委員ノ顧問ニ応スベキ者七名ヲ撰ビ置キ、其大綱目ニ就テハ逸々委員ヲシテ此等ノ顧問者ニ協議セシメタルガ、今回委員ヲ出スニ当リテモ同様ノ振合ニテ数名ノ顧問者ヲ撰定スル方便宜ナランカ、蓋シ曩ニ審査会ヲ開カレタル節ニハ余及益田君ノ両人其委員ニ推薦セラレタルガ、元来市区改正ノ事ハ余輩ノ最モ不馴レノ事業ニシテ、余輩ハ例ヘバ東京ヲ商港トスベキヤ将タ軍港トスベキヤト云フガ如キ大体ニ就テハ或ハ意見ヲ述ブルヲ得レトモ、地理若クハ土工ノ如キ細目ニ就テハ、経験ニ乏シクシテ充分ノ考案ヲ立テ難キ場合ナシトセス、故ニ今回委員ヲ撰出スルニ当リテハ可成他ノ会員中ヨリ撰挙スル事トシタシ
五十八番(益田孝)曰ク、過刻来諸君ノ中ニ先例ニヨリ正副会頭委員ノ任ニ当ルベシトノ説アリタルガ、余ノ如キハ近来営業極メテ多忙ニシテ、何分時間ニ余裕ナキヲ以テ願ハクバ今回ハ幹事若クハ
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他ノ会員中ヨリ別ニ委員ヲ撰挙セラレタシ、蓋シ正副会頭其任ニ当ルベシトノ説ハ未ダ決議シタルニハアラザレトモ、予メ玆ニ懇請シ置クナリ
十四番(小川為次郎)曰ク、正副会頭ニ於テ委員ノ任ニ当ラルヽハ定メテ迷惑ノ事情アルベシト雖トモ前年来ノ引続キモアレバ是非承諾アリタシ、蓋シ過刻会長ノ申サレタル如ク果シテ顧問者ノ撰定ヲ要スルノ事情モアラバ、是ハ更ニ一動議トシテ之ヲ議シテ可ナリ、兎ニ角余ハ是非前例ヲ継続セン事ヲ望ム
三番(梅浦精一)曰ク、正副会頭直チニ委員ニ当ル事ハ余モ全ク同意ナリ、蓋シ只今顧問者撰定ノ説モアリタレトモ聞ク処ニ拠レバ、今回ノ市区改正会議ハ余程秘密ヲ要セラルヽ趣ナレバ、今直チニ之ヲ撰定スルハ少シク不都合ナラン、故ニ此顧問者ハ今之ヲ撰定セスシテ、他日若シ市区改正会議ノ模様ニヨリ果シテ其必要起ル事アラバ、更ニ委員長ノ認可ヲ得テ臨時之ヲ撰定スル事トシタシ
九十六番(渡部温)曰ク、委員撰挙ノ手続ニ就テハ余モ全ク諸君ト同意ナリ、又顧問者ヲ置クノ説モ余ノ同意スル処ニシテ是ハ今直チニ之ヲ撰定スルモ不可ナシト信ス、何トナレバ既ニ委員ハ全会ヲ代表スルノ資格ヲ有スル者ナルニ付、之ヲシテ全会ノ意見ヲ問フ為メ顧問者ト協議セシムルハ固ヨリ妨ナキ処ナレバナリ、而シテ其顧問者ハ先ヅ衆議ニヨリテ人員ヲ定メ、会長ノ指名ニ任シテ可ナリ
右ノ外猶四十四番(米林乾吉)二十六番(石関利兵衛)其他ノ会員モ皆正副会頭ニ当任ヲ懇請シタルヲ以テ、遂ニ会頭(渋沢栄一)副会頭(益田孝)ハ共ニ其就任ヲ承諾シタリ(但シ副会頭益田孝ハ来年一月ヨリハ市区改正会議ニ参席シ難キノ事情アル旨ヲ以テ年内丈ノ就任ヲ承諾シタリ)シガ、猶衆議ノ末顧問者ハ七名ト定メ追テ市区改正委員長ノ認可ヲ得タル上、会長ヨリ直チニ指名スルニ決シタリ
時ニ十四番(小川為次郎)演述シテ曰ク、余ハ兼テ市区改正委員会ニ参席ヲ要スル建議者ノ一人トシテ今日ノ結果ニ就キ第一ニ政府ニ向テ此建議ノ趣旨ヲ採納セラレタルヲ謝シ、第二ニ会員諸君ニ向テ能ク之ヲ賛成セラレタルヲ謝シ、第三ニ正副会頭幹事書記諸君ニ向テ斡旋ノ宜キヲ得タルヲ謝ス、特ニ正副会頭ガ其後内務省ヘ出頭セラレ次官閣下ニ面謁シテ建議ノ趣旨ヲ細陳セラレタル事ノ如キハ今日ノ結果ヲ致シタル上ニ於テ大ニ与カリテ力アリト謂ハザルベカラス、又終リニ臨デ更ニ一言シタキ事ハ今日世上ニ於テハ兎角表立チタル事行ハレスシテ人情ヲ以テ事ヲ制スル事ノ行ハルヽハ蓋シ社会ノ弱所ナリト謂ハザルベカラス、而シテ正副会頭両君ノ如キハ名望モアリ地位モアリテ此建議ノ趣旨ヲ当路ヘ達スルニハ必スシモ表立チタル手段ニ頼ラザルモ能ク私交上一片ノ懇話ヲ以テ充分之ヲ弁ジ得ルノ人ナリ、然ルニ両君ガ本会役員ノ資格ヲ帯ビテ表向キ内務省ヘ出頭シ建議ノ趣旨ヲ口陳セラレタルハ是今日ノ社会ニ向テ頂門ノ一針ヲ与フルモノト云フモ可ナリ、余ハ斯ノ如キ事ノ将来追々社会ニ行ハレン事ヲ希望スルナリ、又今日ノ結果ニ由リテ之ヲ見ルニ苟モ道理ノ在ル処ハ熱心ニ之ヲ主唱スルニ於テハ、終ニ之ヲ貫徹シ得ル事敢テ難キニアラザルヲ知レ
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リ、余モ今後諸君ノ驥尾ニ附シ苟モ道理ノ在ル所ハ進デ之ヲ翼賛セン事ヲ期ス
会長(渋沢栄一)曰ク、只今十四番小川君ガ今日ノ好果ヲ得タル事ニ就キ政府並ニ会員ニ向テ謝辞ヲ述ベラレタルハ至極適当ナリト信ス、只余輩理事者ガ其謝辞ヲ受クルハ甚ダ汗顔ナリ、又同君ハ終リニ臨デ一言ノ諷詞ヲ述ベラレタルガ凡ソ人情ヲ以テ事ヲ制スル事ハ或ル場合ニ於テ全ク必要ナキニアラザルベシト雖トモ、百事尽ク之ニ依ルガ如キハ抑モ亦社会ノ流弊ト謂ハサルベカラス、故ニ今後表立チタル事ノ追々社会ニ行ハルヽハ余輩ノ共ニ欲スル所ナリ、願ハクバ余輩モ諸君ト共ニ同心協力シ苟モ道理ノ在ル処ハ可成穏和ニ且ツ正当ナル手段ニヨリテ之ヲ貫徹セン事ヲ希望スルナリ
於是会長(渋沢栄一)ハ是ニテ本日ノ議事完了シタル旨ヲ告ゲ、一同ニ退散ヲ命ス、時ニ午後四時五十五分ナリキ


東京商工会議事要件録 第三六号・第四頁 (明治二二年一月)刊(DK190014k-0005)
第19巻 p.112 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三六号・第四頁 (明治二二年一月)刊
  第三十三臨時会   (明治二十一年十二月廿二日開)
    会員出席スル者 ○三十九名
○上略
次ニ会長(益田孝)ハ左ノ三件ヲ報告ス
 一市区改正顧問委員ノ撰挙ハ其筋ノ認可ヲ得ザリシ事
  去ル十月廿六日ノ臨時会ニ於テ東京府知事ノ達ニヨリ市区改正臨時委員二名ヲ撰挙シタル際、猶追テ市区改正委員長ノ認可ヲ得テ前記臨時委員ノ顧問ニ応ズル為メ更ニ委員七名ヲ撰挙スル事ニ決セシガ、其後委員長ニ伺フタルニ市区改正委員会議ノ模様ハ追テ確定ヲ経ル迄一切他ニ洩泄セラレザル御趣意ノ趣ニシテ右委員撰挙ノ事ハ之ヲ認可セラレザリキ
○下略
   ○是日栄一差支アリテ遅参ス。
   ○東京市区改正委員会ハ明治二十一年八月ニ設置セラル。栄一ハ十月三十一日臨時委員ヲ仰付ケラレタリ。本編第二部社会公共事業第六章東京市区改正委員会明治二十一年十月三十一日ノ条参照。
   ○東京商工会解散セルニヨリ、栄一及益田孝ハ明治二十五年一月十三日臨時委員ヲ免ゼラレ、同年三月二十五日東京商業会議所ノ推薦ニヨリ個人ノ資格ニテ再ビ臨時委員ニ任ゼラレタリ。第二部社会公共事業第六章東京市区改正委員会明治二十五年一月十三日ノ条参照。