デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.129-136(DK190017k) ページ画像

明治21年12月28日(1888年)

是日栄一、当会会頭トシテ東京市区改正ノ実施ニ就イテハ尚一層ノ慎重ナル審議ヲ希望スル旨、内務大臣伯爵松方正義ニ建議ス。


■資料

東京商工会議事要件録 第三六号・第八―二四頁 (明治二二年一月)刊(DK190017k-0001)
第19巻 p.129-133 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三六号・第八―二四頁 (明治二二年一月)刊
  第三十三臨時会  (明治二十一年十二月廿二日開)
    会員出席スル者 ○三十九名
○上略
時ニ十六番(益田克徳)ハ会長ノ許可ヲ得テ建議ヲ提出シテ曰ク
 余ガ玆ニ建議シテ諸君ノ賛成ヲ請ハントスルモノハ市区改正実施ノ方法ニ関シ本会ヨリ其筋ヘ建議スル事是ナリ、抑モ市区改正事業ノ商業上ニ至大ノ関係ヲ有スル事ハ既ニ諸君ノ承知セラルヽ所ニシテ此事ニ就テハ曩ニ本会ヨリ其筋ヘ建議ノ上臨時委員二名ヲ出シテ委員会ヘ参席セシムル迄ノ運トナリタレバ先ツ安心スベキニ似タレトモ、世上ノ事ニハ随分間違アルモノニテ此市区改正事業ノ如キモ百年ノ大事業ニシテ能ク一朝ニ其成功ヲ期スベキモノニアラザレバ左程心配スルニ及バズト我モ思ヒ人モ信ジ得タルニ、今ヤ愈々其実施ノ場合ニ至リ始メテ其安心スベカラザルヲ発悟シタリ、蓋シ市区改正委員会議ノ摸様ハ之ヲ窺知スルヲ得ザルニ付今ヤ此事業ヲ実施セラルヽニ当リ果シテ如何ナル場所ヨリ始メ如何ナル設計ニヨリテ起工セラルヽヤハ固ヨリ之ヲ知リ難シト雖トモ、先ツ差向キ浅草広小路人形町若クハ上野黒門町ノ如キ往来頻繁ニシテ通行不便ナル場所ノ道路ヲ取拡グル事ヲ以テ第一着手トセラルヽナラン、而シテ之ヲ取拡グルニハ必ズ営業者ノ私有スル土地建物ノ買上ヲ要スル場合少カラザルベシ、扨テ此等ノ土地建物ヲ買上グルニハ果シテ如何ナル標準ヲ以テ其価ヲ定メラルヽヤ、若シ是迄ノ例ノ如ク土地ハ比隣ノ相場ニ準シ建物ハ其搆造ノ種類ニ拠リテ例ヘバ煉瓦造ナラバ一坪何円木造ナラバ一坪何円ト云フガ如ク、要スルニ只実物ノ価ノミヲ標準トセラルヽ時ハ之ヲ所有スル営業者ハ非常ナル困難ヲ蒙ラザルヲ得ス、特ニ多年ノ辛苦ニヨリテ漸ク売出シタル小売商ノ如キハ其困難一層甚シキモノアリ、夫レ営業地ノ建物ト非営業地ノ建物トハ同種ノ搆造ニテモ其価ニ甚シキ高低アル場合アリ、現ニ日本橋区ト麻布区トハ同一ノ建物ニテ其価ニ五倍以上ノ差異ヲ生ズル事アリ、又営業者ノ建物ニハ其営業ノ情態種類ニヨリテ積年来信用上ニ得タル特別ノ利益之ニ附着シ以テ一種ノ無形財産ヲ形チツクル場合不少、然ルニ今営業者ノ土地建物ヲ買上ゲラルヽニ当リ前陳ノ評価法ヲ用ヒラルヽ時ハ之ガ為メ営業者ハ貴重ナル無形ノ財産ヲ失ヒ小売商ノ如キハ生活ノ道ヲ離レ路頭ニ彷徨スルノ結果ヲ見ルヤモ知ルベカラザルナリ、夫レ市区改正ノ如キ公共ノ事業ヲ決行セラルヽニ当リ一私人ガ多年住ミ馴レタル土地建物ヲ立退カシメラル事アルハ亦已ム
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ヲ得ザル所ナルベシト雖トモ、之ヲシテ金銭上大ナル損害ヲ蒙ラシムルハ実ニ忍ビザル所ナリ、故ニ今営業者ノ私有スル土地建物ヲ買上グルニハ相当ノ方法ヲ設ケ可成之ヲシテ損害ヲ蒙ラシメザル様注意セザルベカラズ、扨其方法ニ就テハ別ニ名案アルニアラズト雖トモ先ツ差向キ事業ニ着手サルベキ毎区内ニ於テ最モ信用アル者数名ヲ特撰シテ委員ヲ嘱托セラレ、其区内ニテ改正ノ衝ニ当ル営業者毎戸ニ就キ精細ノ調査ヲ遂ゲシメ其買上グベキ土地建物ノ価ヲ定ムルニハ、只ニ実物ノ価ノミヲ標準トセズシテ之ニ密附スル無形ノ財産ヲモ充分ニ参酌セラレ、例ヘバ土地ノ価ハ比隣ノ相場ヨリ幾割ヲ増シ建物ノ価ハ其営業ノ情態種類ニヨリテ相当ニ其額ヲ定ムルト云フガ如ク可成営業者ニ損害ヲ及ボサヾルノ方法ヲ用ヒラレン事ヲ望ム而シテ余ガ何故ニ唐突ニ此建議ヲ提出シタルカト云フニ今ヤ第一着手ノ際ニ当リテ実施スル所ハ他年ノ例トナリ、其影響スル所容易ナラザルガ故ナリ、願ハクバ諸君ノ賛成ヲ得本会ノ意見トシテ此趣旨ヲ其筋ヘ建議セン事ヲ
会長(益田孝)ハ先ヅ此建議説ヲ議題トスベキヤ否ヤニ就キ全会ノ意見ヲ問フタルニ、満場一致ヲ以テ之ヲ議題トスルニ決シタルニ付会長(益田孝)ハ更ニ各員ニ向ヒ、本案ニ就キ充分意見ヲ陳述スベキ旨ヲ告グ
二十五番(丹羽雄九郎)曰ク、余ハ本案ヲ賛成ス、抑モ市区改正ニ就キ道路ヲ拡グルハ恰モ倉庫内ニ在ル貨物ヲ取出ス為メ路ヲ設クルガ如シ、元来倉庫ハ貨物ヲ積入ルヽヲ主トスルモノニテ路ヲ設クルヲ主トスルモノニアラス、其路ヲ設クル所以ハ只貨物ヲ満積シテ其間ニ余地ヲ置カザル時ハ之ヲ取出スニ不便アルガ為メナリ、今市区改正ニ就キ道路ヲ拡グルモ之ト同様ニシテ其要旨ハ只通行ノ不便ヲ避クル迄ニ過ギザレバ之ガ為メ損害ヲ蒙ラシメラルヽハ営業者ノ甚ダ迷惑トスル所ナリ、且ツ凡ソ品物ノ価ハ売ルト買フトニテ自然ニ高低アルベキモノナレバ今営業者ノ私有スル土地建物ヲ買上ゲラルヽニハ相当ノ方法ヲ設ケ可成之ヲシテ損害ヲ免カレシメン事ヲ希望ス
二十番(大倉喜八郎)問フテ曰ク、土地建物ノ買上法ニ就テハ必スヤ其筋ニ於テモ心配中ノ事ナラント想察ス、此等ノ事ニ就テハ是迄市区改正委員会ニテ議定セラレタル事ナキヤ
十六番(益田克徳)荅テ曰ク、其筋ニ於ケル内議ノ摸様ハ未ダ之ヲ窺ヒ知ラズト雖トモ仄ニ伝聞スル所ニ拠レバ官有ノ土地建物ニ就テハ別ニ精細ノ処分法ヲ定メラルヽ趣ナレトモ、民有ノ土地建物ハ是迄ノ如ク理事者ノ見込ニテ土地ハ比隣ノ相場ニ準ジ建物ハ其搆造ニ拠リテ評価セラルヽヤニ聞ケリ、然リ而シテ若シ幸ニ其筋ニ於テ心配中ナラハ猶更本会ヨリ之ヲ建議シテ御参考ニ供シタシ
二十番(大倉喜八郎)曰ク、抑モ市区改正ハ文明ノ一大事業ニシテ之ヲ実行スルニ当リテハ例ヘバ鉄道起リタル為メ人力車夫ガ其営業ヲ失フト云フガ如ク多少府民ノ不便ヲ醸ス場合ナキニアラザルベシ、故ニ其改正着手ニ際シ可成府民ノ迷惑ヲ生ゼザル方法ヲ講究シテ改正委員ノ参考ニ供スル如キハ素ヨリ本会ノ本分ナリ、然リ
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ト雖トモ市区改正ハ兼テ本会ノ熱心ニ賛成シタル事業ナレバ今瑣末ノ事柄ニ付喋々シ却テ市区改正ノ大目的ヲ渋滞セシムルガ如キハ余ノ私ニ憂フル所ナリ、発議者ノ云フガ如ク此事業ヲ実施スルニハ道路ヲ拡ゲザルベカラス、既ニ道路ヲ拡グルモノトセバ随テ私有ノ土地ヲ買上ケサルベカラス、然レトモ私有ノ土地ヲ買上グルニ地券面ノ価ヲ目安トシテ価ヲ定ムルガ如キ事アラハ余輩ハ飽迄不当ノ所為ナリトシテ之ニ反対スヘキナレトモ、相当ノ相場ヲ標準トシテ価ヲ定ムルニ於テ決シテ之ヲ不都合ナリト云フヘカラス、是蓋シ文明的ノ事業ヲ遂グルニハ相当ノ好方法ナリト云フヘシ、又是迄モ政府ガ私有土地ヲ買上グルニ所有者ヨリ過当ノ請求ヲ為シタル実例往々有之、依テ土地買上ノ件ハ其所有者ト改正掛ノ示談ニ任スルモノトシ全ク之ヲ本案中ヨリ除キ置キタシ、而シテ本案ハ家屋買上ノ際営業ノ種類ヲ識別シテ評価スルモノトシ、其人ニ迷惑ヲ感ゼサラシメントノ主意即チ発議案ニヨリテ建議シテ可ナリ
三番(梅浦精一)曰ク、余モ十六番(益田克徳)ヲ賛成ス、而シテ猶其趣旨ヲ玆ニ敷衍スヘシ、抑モ市区改正ノ事ニ就キ是迄耳ニシタル苦情一ニシテ足ラス、現ニ前年三田ニ於テ火災アリタル節道路拡張ノ為メ或ル住居人ニ家屋ノ引込ミヲ命ゼラレタル事アリシニ此人ノ所有地ハ従来其奥行六間位ノ処更ニ五間程ノ引込ミヲ命ゼラレタル為メ、不得已其裏手ニ接スル隣地ノ所有者ニ敷地買入ノ事ヲ談判シタルニ其所有者ハ一坪四拾円ニアラサレハ之ヲ売ラス若シ之ヲ買ハサル時ハ両地ノ経界ニ墻塀ヲ築クヘシト云フテ大ニ此住居人ヲ苦シメタリト聞ケリ、今後此大事業ヲ実施スルニ当リテハ必ス此ノ如キ実例多カルヘシト信ス、又営業者ノ建物ニ無形ノ財産ノ密附スル事ハ十六番(益田克徳)ノ述ブル通リニテ現ニ頃日聞キ得タル処ニ拠レハ大根河岸ニ於テ土蔵六坪ヲ千七百ニテ買フタル者アリト云フ、此土蔵ノ如キ実物ノ価多クモ三四百円ニ過ギサルモノヲ斯ク高価ニテ買フ者アルハ無形財産ノ建物ニ密附スルノ証拠ナリト云フヘシ、然ルニ今此等ノ建物ヲ買上グルニ当リ只ニ実物ノミヲ標準トシテ其価ヲ定ムル時ハ営業者ノ迷惑果シテ如何ゾヤ是余ガ熱心ニ十六番(益田克徳)ヲ賛成スル所以ナリ
二十九番(山中隣之助)曰ク、余モ十六番(益田克徳)ヲ賛成ス、而シテ余ハ猶他ニ望アリ、市区改正ノ問題一タビ成立チタル以来府下職工輩ハ大ニ其職業ヲ縮小シタルノ実況アリト聞ケリ、蓋シ府民ノ中ニハ市区改正ノ設計着手ノ順序ヲ聞知シ難キガ為メ何時立退ヲ命セラルヽヤヲ恐レテ建築ヲ見合ス者少カラサレハ其設計着手ノ順序ノ如キハ可成速ニ之ヲ公示シ、府民ヲシテ一日モ早ク安心ヲ得セシメタシ、故ニ余ハ本案中ニ此一事ヲ追加セン事ヲ望ム
三番(梅浦精一)曰ク、建議者ノ所謂嘱託委員ハ彼ノ所得税調査委員ト其性質ヲ同フセスシテ恰モ他人ノ財産ヲ左右スルノ全権ヲ掌握スル者ナレハ仮会公平無私《(令)》ノ人ヲ撰挙スルモ其間自ラ徳義心ヲ破ルノ弊害起ルヘシト懸念ス、故ニ例ヘハ此委員中ニ官吏ヲ立会ハスト云フガ如ク要スルニ此等ノ弊害ヲ予防スルノ道ヲ尽シタシ
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二十番(大倉喜八郎)曰ク、土地ノ事ハ本案中ヨリ除カン事ヲ望ム、其訳ハ是迄政府ガ私有ノ土地ヲ買上ケラルヽニ当リ所有者ヨリ過当ノ請求ヲ為ス事往々其例アリ、現ニ前年政府ガ手向山ノ近傍ヘ鎮守府ヲ置カレントスルニ当リ其辺ノ地主ハ一同申合セ一反歩四拾円位ノモノヲ三百円ト申出デタル事アリト云フ、左レバ土地ヲ買上ケラルヽニ地券面ノ価ヲ目安トスルハ固ヨリ不当ナルヘシト雖トモ、比隣ノ相場ヲ標準トシテ其価ヲ定メラルヽハ決シテ不都合ニアラスト信ス
十六番(益田克徳)曰ク、市区改正ノ設計着手ノ順序等ヲ府民ニ公示セサルハ是恰モ府民ノ建築ヲ禁スルト同一ノ結果アリ、故ニ余ハ更ニ二十九番(山中隣之助)ノ追加説ヲ賛成ス
二十六番(石関利兵衛)曰ク、余ハ十六番(益田克徳)並ニ二十九番(山中隣之助)ヲ賛成ス、蓋シ府民ヲシテ市区改正ノ設計着手ノ順序等ヲ可成速ニ知ラシメタシト云フ事ハ去ル明治十八年中本会ヨリ其筋ヘ建議シタリト記臆ス、而シテ此等ノ事項ハ着手ノ時ヨリ三ケ年前ニ之ヲ予告セラル事トシタシ
七番(雨宮綾太郎)曰ク、余モ本案ヲ賛成ス、而シテ嘱託委員ノ事ニ就テハ三番(梅浦精一)ノ懸念スルガ如ク多少ノ弊害アルベシト雖トモ猶委員ヲ設クルハ之ヲ設ケザルヨリ勝ル事万々ナルヘシ、蓋シ土地建物買上法ノ如何ハ有力者ヨリ微力者ニ於テ特ニ其利害ヲ感スルノ傾アルニ付可成微力者ノ利益ヲ保全スル事トシタシ
十六番(益田克徳)曰ク、三番(梅浦精一)ノ懸念スルガ如ク嘱託委員ニハ随分弊害ナキニアラサルヘシ、然レトモ此等ノ委員ハ所得税調査委員ノ如ク各区ニ常置スルモノニアラスシテ事業着手ノ摸様ニヨリ毎区臨時ニ之ヲ置ク見込ナレハ左迄ノ弊害アラサルヘシト信ス
会長(益田孝)問フテ曰ク、過刻三番(梅浦精一)ハ委員中ニ官吏ヲ立会ハシムベシト云ヘリ、十六番(益田克徳)ハ此説ニ賛同スルヤ如何ン
十六番(益田克徳)荅テ曰ク、嘱託委員ハ可成区内ニテ信用アル者ニ止メ度見込ナリ
三十四番(森島松兵衛)曰ク、只今諸君ノ中ニ土地建物ヲ買上グルニハ無形ノ財産ヲ参酌スベシトノ説アリ、又市区改正ノ設計並ニ着手ノ順序ハ可成速ニ公示スベシトノ説アリ、抑モ此等ノ説ハ共ニ余ガ嘗テ去ル明治十八年中ニ建議シタル所ナリシガ今ヤ三ケ年ノ後ニ於テ斯ク諸君ノ賛成ヲ得タルハ余ノ私ニ満足スル所ナリ、而シテ過刻三番(梅浦精一)ハ無形ノ財産ヲ調査スル事ノ困難ナル事ヲ述ベシガ余ガ当時懐抱セル見込ニヨレバ一区ヲ凡ソ二十小区ニ小分シ、毎小区ニ各々数名ノ熟練ナル委員ヲ置キ其区内ニテ改正ノ衝ニ当ル土地建物ノ価ハ例ヘバ先ヅ甲小区ノ委員ヲシテ調査セシメタルモノヲ乙小区ノ委員ニ閲覧セシメ、乙小区ノ委員ヲシテ調査セシメタルモノヲ甲小区ノ委員ニ閲覧セシムルト云フガ如ク彼此互ニ之ヲ覆査セシムル時ハ庶幾ハクバ適当ノ価格ヲ得ルニ至ルベシト信ズ
 - 第19巻 p.133 -ページ画像 
八十四番(金沢三右衛門)曰ク、設計並ニ着手ノ順序等ヲ可成速ニ公示スル事ハ最モ必要ナリト信ズ、故ニ余ハ二十九番(山中隣之助)ヲ賛成ス
二十八番(渋沢栄一)曰ク、十六番(益田克徳)ノ建議説ハ余モ其大体ヲ賛成ス、而シテ市区改正ノ設計並ニ着手ノ順序ヲ速ニ公示スベシトノ説モ固ヨリ余ノ同意スル所ナレトモ、抑モ市区改正ノ事業ハ二十二年ヨリ実施セラルヽ事ニ決シ居レバ今必ズシモ三ケ年前ニ之ヲ予告スベシト云フハ委員会ノ決議ヲ侵スノ嫌アリテ少シク穏当ナラズト思考ス、蓋シ此市区改正ハ百年ノ大事業ニシテ一朝ニ其成功ヲ期スベキモノニアラズ、随テ今後社会ノ情況変遷ノ摸様ニヨリテハ今日ニ適当ナリトシテ議定シタル所モ他年実施ノ際ニ至リ或ハ如何ナル不都合ヲ生ズベキヤモ知ルベカラズ、故ニ一旦今日ニ議定シタル設計ト雖トモ他年実施ノ際ニ至リ社会ノ情況変遷ノ摸様ニヨリテ事実上ニ不都合ヲ生ズル時ハ相当ノ手順ヲ経テ之ヲ変更シ得ルノ余地ヲ設ケ置キタシ、依テ今本案ヲ其筋ヘ建議スルニ当リテハ前陳ノ趣旨ヲモ追加セン事ヲ望ム
二十九番(山中隣之助)曰ク、予告年限ヲ定ムル事ハ実際ニ於テ不都合アルニ付、余ハ二十五番《(六)》(石関利兵衛)ニ向テ前説ノ引戻シアラン事ヲ希望ス
二十五番《(六)》(石関利兵衛)曰ク、二十九番(山中隣之助)ノ注意モアレバ予告年限ヲ定ムルノ説ハ之ヲ引戻スベシ
右ノ外猶各員ノ間ニ多少ノ議論アリシガ本案ハ衆議ノ末遂ニ之ヲ可決シ、其建議案ニ設計並ニ着手ノ順序等ヲ可成速ニ公示スヘシ(二十九番山中隣之助ノ発議)及一旦議定シタル設計ト雖トモ実施ノ際ニ至リ不都合ヲ生ズル時ハ之ヲ変更シ得ルノ余地ヲ設ケ置クヘシ(二十八番渋沢栄一ノ発議)トノ意味ヲ加ヒ、理事本員ニ於テ之ヲ調成シ直チニ内務大臣ヘ建議スヘシト云フニ決ス(建議案ハ其後理事本員ニ於テ調成シ十二月二十八日附ヲ以テ之ヲ松方内務大臣閣下ヘ進達シタリ依テ其全文ハ参考部第三号ニ掲グ)
   ○是日栄一、遅参セルヲ以テ副会頭(益田孝)会長席ニ着ケリ。


東京商工会議事要件録 第三六号・第四七―五三頁 (明治二二年一月)刊(DK190017k-0002)
第19巻 p.133-135 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三六号・第四七―五三頁 (明治二二年一月)刊
 ○参考部
(第三号)
    ○市区改正実施ノ方法ニ付建議
東京市区改正ノ挙タル数年来輿論ノ切望スル所ナリシカ曩ニ勅令第六十二号ヲ以テ其条例ヲ公布セラレ、尋テ東京市区改正委員会ヲ開キテ設計ヲ議了セラレ今ヤ漸ク将ニ実施ヲ見ントスルニ至リタルハ本会ノ深ク之ヲ慶賀スル所ナリ、然リ而シテ委員会ノ組織ニ於テモ殊ニ其用意ヲ周密ニセラレ凡ソ此挙ニ重要ノ関係ヲ有スル諸官衙及東京区部会又ハ本会等ヨリ其議員ヲ撰出シ審思熟案シテ之ヲ決定セラレタレハ其方法ノ完全ニシテ議決ノ正確ナルハ本会ノ信シテ疑ハザル所ナリ、然リト雖トモ此市区改正ノ挙ハ実ニ遠大ノ事業ニシテ其施設ノ如何ニヨリテ直ニ府下ノ住民ニ非常ノ痛苦ヲ感セシムルノミナラス、所謂百年ノ後ニ其成功ヲ期スヘキモノナレハ縦令智識経験ニ富ム所ノ委員諸君
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ト云トモ能ク将来ヲ予知シテ遺策ナキノ設計ヲ定ムルハ蓋シ甚ダ難事ナリト謂ハザルヘカラズ、左レハ今後社会ノ情況変遷ノ摸様ニヨリテハ委員ガ今日適当ナリトシテ議定シタル所モ他年実施ノ際ニ至リ或ハ如何ナル不都合ヲ生ズルヤモ知ルヘカラズ、然ルニ今若シ予メ百年ノ後ニ実施スヘキ設計ヲ尽ク議定シ置キテ其施設ハ単ニ理事者ニ一任シ其間如何ナル事情アルモ全ク之ヲ変更スルヲ得ヘカラザルモノトセハ或ハ満足ノ成果ヲ期シ難キノ恐アルベシ、故ニ今日審議セラレタル設計ハ先ヅ其大体ノ方針ヲ確定スルモノトシ細目ノ事項ニ至リテハ社会ノ情況変遷ノ摸様ト事業進歩ノ程度トヲ察シテ、三年乃至五年間ニ更ニ委員会ノ審議ニ附シ始メテ之ヲ確定スルト云フガ如ク、要スルニ其間幾分ノ余地ヲ設ケラレ度是本会ガ市区改正ノ実施ヲ慶賀スルト同時ニ前途ニ深ク希望スル所ナリ
今ヤ愈々市区改正ノ事業ニ着手セラルヽニ当リ本会ガ特ニ御注意ヲ請ハント欲スルモノアリ試ニ其事項ヲ挙グレハ即チ左ノ如シ
 一市区改正ノ衝ニ当ル営業者ノ私有スル土地建物ヲ処分セラルヽニハ可成之ヲシテ損害ヲ蒙ラシメザル様特別ニ其方法ヲ定メラレ度事
  夫レ営業地ノ建物ハ非営業地ノ建物ト同種ノ搆造ナルモ其価ニ於テハ四倍若クハ五倍以上ノ差異ヲ生ズル場合アリ、又其営業ノ情態種類ニヨリテハ積年来信用上ニ得タル特別ノ利益之ニ附着スル場合不少、此等ハ皆営業者ノ財産中ニ算入スヘキ一種ノ無形財産ト謂ハザルヲ得ズ、然ルニ今営業者ノ私有スル土地建物ヲ処分セラルヽニ当リ毫モ此等無形ノ財産ヲ参酌スル事ナクシテ只実物ノ価ノミヲ標準トシ、例ヘハ土地ノ価ハ比隣ノ相場ニ準ジ建物ノ価ハ其搆造ノ材料等ニ拠リテ之ヲ評定スルガ如キ方法ヲ施行サルヽ時ハ、之ガ為メ営業者ハ多年ノ苦心ヲ以テ収得シタル無形ノ財産ヲ失ヒ、殊ニ小売商ノ如キハ生活ノ道ヲ離レ路頭ニ彷徨スルノ不幸ニ陥ルヤモ知ルヘカラザルナリ、左レハ迚若シ只営業者ノ望ム所ニ一任シテ其価ヲ定ムルモノトスル時ハ或ハ過当ノ請求ヲ為ス者アリテ理事者ハ其適当ノ標準ヲ得ルニ苦シムノ事情ナキニアラズ、故ニ市区改正ノ実施ニ際シ営業者ノ私有スル土地建物ヲ買上ゲラルヽニハ、先ヅ差向キ改正ヲ着手サルヘキ毎区内ニ於テ最モ信用アル者五名若クハ七名ヲ特撰シテ委員ヲ嘱託セラレ、此等ノ委員ヲシテ其区内ニテ改正ノ衝ニ当ルヘキ営業者毎戸ニ就キ精細ノ調査ヲ遂ゲシメ、理事者ニ於テ其買上グヘキ土地建物ノ価ヲ定メラルヽニハ充分委員ノ調査スル所ヲ参酌セラレ、例ヘハ土地ノ価ハ比隣ノ相場ヨリ幾割ヲ増シ建物ノ価ハ其営業ノ情態種類ニヨリテ相当ニ其額ヲ定ムルト云フガ如ク、要スルニ営業者ヲシテ可成損害ヲ蒙ラシメザルノ方法ヲ施行セラレ度希望仕候
 一市区改正ニ就キ実施セラルヘキ設計並ニ其着手ノ順序等ハ確定セラレ次第可成速ニ公示セラレ度事
  市区改正ノ事業一タビ委員会ノ問題トナリタル以来府下ノ営業者ハ何時其土地建物ノ引払ヲ命ゼラルヽヤヲ顧慮シ戦々競々トシテ実ニ其堵ニ安ンゼザルノ情況アリ、現ニ営業者ノ中家屋建築ノ必要ニ迫ルモ其着手ヲ見合ハセ既ニ着手シタル工事ト雖トモ之ヲ中
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止スル者不少、是独リ其営業者ノ損害ニ帰スルノミナラズ職工輩ノ如キモ之ガ為メ職業ヲ縮小シタルノ実況アリテ要スルニ其ノ全府ノ繁昌上ニ影響スル所少シトセズ、蓋シ市区改正ノ如キ百年ニ渉ル大事業ノ設計ヲ議定セラル、ニハ最モ陳重周密ヲ要スル事勿論ニシテ、随テ愈々之ヲ確定セラルヽ迄ニハ多少ノ時日ヲ要スル事亦固ヨリ不得已所ナリト雖トモ、若シ万一ニモ今日ニ其設計ヲ公示シ明日直チニ之ニ着手セラルヽガ如キ事アル時ハ営業者ノ困難実ニ不少、故ニ例ヘハ何町ノ市街ハ如何ナル区画ニ改正シ道路ハ何間ニ拡張スルト云フガ如ク、若クハ何町ハ何年ヨリ着手スルト云フガ如ク其設計並ニ其着手ノ順序等ハ既ニ一旦之ヲ確定セラレタル以上ハ一日モ早ク之ヲ公示セラレ度希望仕候
夫レ東京市区改正ノ如キ公共ノ事業ヲ決行スルニ当リ、一私人ヲシテ多少ノ不便ヲ感ゼシムルハ蓋シ避クヘカラサル所ニシテ、其改正ノ衝ニ当ル営業者ガ多年占有シ来リタル土地建物ヲ公用ノ為メニ引上ゲラルヽモ亦固ヨリ不得已所ナルヘシト雖トモ、此等ノ輩ヲシテ金銭上大ナル損害ヲ蒙ラシメ或ハ突然ニ引払ヲ命ゼラルヽハ本会ノ特ニ憂慮スル所ナリ、抑モ輿論ガ市区改正ヲ賛成シタルモノハ畢竟之ニ因テ以テ全府ノ福利ヲ増進センガ為メナリ、然ルニ其設計ハ仮令如何程善良ナルモ若シ万一其実施ノ方法宜ヲ得ズシテ大ニ営業者ノ損害ヲ来スガ如キ結果ヲ生ズルニ於テハ、輿論ハ之ヲ嫌忌スルノ余リ或ハ曩ニ賛成シタル事業モ遂ニ其全廃ヲ切望スルニ至ルヤモ知ルヘカラザルナリ、故ニ今ヤ市区改正ヲ実施セラルヽニ当リテハ深ク玆ニ注意セラレ可成営業者ノ利益ヲ保全スルノ道ヲ尽サレ候様致度、依テ此段建議仕候也
                東京商工会々頭
  明治廿一年十二月廿八日        渋沢栄一
    内務大臣 伯爵 松方正義殿


東京商工会議事要件録 第三七号・第四―九頁 (明治二二年三月)刊(DK190017k-0003)
第19巻 p.135-136 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三七号・第四―九頁 (明治二二年三月)刊
  第十九定式会  (明治廿二年二月廿三日開)
    会員出席スル者 ○三十二名
○上略
次ニ会長(渋沢栄一)ハ是ヨリ本議ヲ開クベキ旨ヲ告ゲ、先ヅ規程第五章第二十二条ニヨリ明治二十一年下半季定式事務ノ成跡ヲ報告ス
  自明治廿一年七月至同年十二月 半季間事務報告
○中略
    政府ヘ建議   四件
○中略
○市区改正実施ノ方法ニ付内務大臣ヘ建議
  本件ハ十六番会員益田克徳ノ建議ニ係リ其要旨ハ市区改正実施ニ際シ私有土地建物ヲ買上ゲラルヽニ当リ、若シ是迄ノ例ノ如ク只実物ノ価ノミヲ標準トシテ其価ヲ定メラルヽ時ハ之ヲ所有スル営業者ハ非常ノ困難ヲ蒙ラザルヲ得ズ、故ニ今営業者ノ私有スル土地建物ヲ買上ゲラルヽニハ只ニ実物ノ価ノミヲ標準トセズ之ニ密附スル無形ノ財産ヲモ充分ニ参酌シテ其価ヲ定メラレ、可成営業
 - 第19巻 p.136 -ページ画像 
者ニ損害ヲ及ボサヾルノ方法ヲ用ヒラレタシト云フニ在リ、即チ明治二十一年十二月二十二日第三十三臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ全会異議ナク之ヲ可決シタルガ、猶会員中ニ「市区改正ノ設計並ニ着手ノ順序等ハ可成速ニ公示スベシ」「一旦議定シタル設計ト雖トモ実施ノ際ニ至リ不都合ヲ生ズル時ハ之ヲ変更シ得ルノ余地ヲ設ケ置クベシ」トノ修正説アリテ共ニ全会ノ可決ヲ得タルニ付其建議案ハ理事本員ニ於テ此二項ノ意味ヲ加ヘテ調成シ同月二十八日附ヲ以テ之ヲ松方内務大臣閣下ヘ進達シタリ