デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.2.19

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.282-360(DK190044k) ページ画像

明治23年5月24日(1890年)

是ヨリ先三月二十七日商法公布セラレ二十四年一月一日ヨリ施行サレントス。同法ニハ修正ヲ要スルモノ少カラザルニ鑑ミ、栄一東京銀行集会所ト相謀リ是日ノ会議ニ於テ商法質議会設立ノ儀ヲ提案シ可決セラル。七月十日第一回質議会開催セラレ、爾来数十回ニ亘リ質議ヲ継続セリ。栄一会頭トシテ質議ニ参加ス。


■資料

法令全書 明治二三年下巻 内閣官報局編 刊 【○朕商法ヲ裁可シ之ヲ…】(DK190044k-0001)
第19巻 p.282-283 ページ画像

法令全書 明治二三年下巻 内閣官報局編 刊
     ○
朕商法ヲ裁可シ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十四年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
 - 第19巻 p.283 -ページ画像 
 御名 御璽
  明治二十三年三月二十七日
       内閣総理大臣兼内務大臣 伯爵 山県有朋
              海軍大臣 伯爵 西郷従道
              司法大臣 伯爵 山田顕義
              大蔵大臣 伯爵 松方正義
              陸軍大臣 伯爵 大山巌
              文部大臣 子爵 榎本武揚
              逓信大臣 伯爵 後藤象二郎
              外務大臣 子爵 青木周蔵
              農商務大臣   岩村通俊
   ○商法ノ全文ハ長文ニ亘ルヲ以テ省略ス。


中外商業新報 第二四三九号 明治二三年五月一一日 商工会幹事と同盟銀行委員との相談会(DK190044k-0002)
第19巻 p.283 ページ画像

中外商業新報  第二四三九号 明治二三年五月一一日
    商工会幹事と同盟銀行委員との相談会
曾て記載せし如く東京商工会幹事と同盟銀行委員との相談会は昨日午後三時より木挽町商工会議事堂に於て開きたり、当日の出席者は渋沢益田の正副会頭及び幹事にては大倉・益田(克徳)・梅浦・阿部・山中丹羽の六氏、其他同盟銀行委員にて西村虎四郎・原善三郎・安田善次郎の三氏にして先つ商法の研究会を創設する事に就て協議ありしか、此事たる一朝に其全部を研究し了る能はさるものなれば仮令一の研究会を設くるとも其結果に至る迄持耐へる能はざるべく忽ち中絶するの患ひあるにより暫く研究会の創設を見合せ更に双方とも各々委員を撰定し委員をして充分に研究せしめ、而後若し適応せざる処あれば憚らず其筋へ具申し以て之か改竄を乞ふ迄の権限を与ふるに決したり、尤も主務大臣に於ても商法中実地に適応せざる明文あらば之を改むるに吝ならざるべしとて曾てその内意を伝へられたることさへあるにより旁々以て充分其適否を攻究する都合なるにより何れ近々双方ともに臨時会を開きて更らに委員撰挙の方法等を協議したる上之を撰定することに決議したるが、尚此他田尻銀行局長よりの諮問にかゝる商業手形の事に就て其結末を附くる事及び日本銀行が貸越根抵当の株券を定め愈々之を実施することに決したるにより、其方法等に就て銀行員諸氏は序に協議する筈なりしも処用ありて退席せしものもありしにより竟に次会に譲ることとなし午後五時頃散会せり


中外商業新報 第二四四一号 明治二三年五月一四日 商法質疑会の事(DK190044k-0003)
第19巻 p.283-284 ページ画像

中外商業新報  第二四四一号 明治二三年五月一四日
    商法質疑会の事
我が実業社会には最も直接の関係を有せる一大新法典たる商法の発布ありしに就ては、其の実施の日に達せざるうち早く今より其の法文の意義を熟読翫味し置かざるべからずとて、東京商工会員及同盟銀行員等は一の研究会を設けて周到綿密に其の精神を究め置かんとの意にて既に過日東京商工会正副会頭幹事及同盟銀行委員の人々は商工会議事堂に集合して其の研究会創設の手続を協議したる処、何分日夜業務に多忙なるの身を以て浩澣なる法典を逐条研究し了はらんは実際迚も出
 - 第19巻 p.284 -ページ画像 
来かたきとなれば、寧ろ各自の随意に任じて研究するに如かざるべし抔云へる意見もありしかども、元来同会創設の趣意とする処は一に法文の質疑研究に止らずして、事実適切ならざる箇条のあるあらば充分其の利害得失を熟議して其の削除更正を其の筋に向て要請せんとするに在れば其の時に到り大に事情の其の辺に存する処もある可れば、宜しく双方より質疑委員を撰出し而して同委員か其の質疑研究の任に当たり、毎月幾回と日を期して其の会を設け之れには同法典の編纂に参りたる一の編纂委員を請して其の説明を請ひ、愈々其の説明にして到底其の法文の箇条我が実業社会の利害消長に関して打捨て置くべからざるものあれば其の関係の広きものは東京商工会之れを討議し、若し又た其の関係銀行社会に止まる如きものは同盟銀行之れを熟議して其の削除更正を要することと為さば幾分か便利なる処あらんとのことに決したるに就き、東京商工会にては近日臨時総会を開て該委員(七名)を撰定し尚ほ同盟銀行にても本月の月次会に於て同じく其の撰定の手続きを為す筈なりと聞けり


東京商工会議事要件録 第四四号・第一〇―一七頁 (明治二三年六月)刊(DK190044k-0004)
第19巻 p.284-286 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四四号・第一〇―一七頁 (明治二三年六月)刊
  第二十四定式会
           (明治二十三年五月二十四日開)
  第四十臨時会
    会員出席スル者 ○三十八名
○上略
次ニ会長(渋沢栄一)ハ是ヨリ第二号議案ヲ議スヘキ旨ヲ告ゲ書記ヲシテ之ヲ朗読セシム
○第二号
    商法質議会設立要目
 一本会及銀行集会所ニ於テ各々数名ノ委員ヲ撰ビ商法質議会ヲ組織セシメ、此等ノ委員ニ商法ノ質議並ニ其修正ヲ要スル事項ノ調査ヲ委托スル事
 一本会ヨリ出スベキ委員ハ幾名ト定メ投票ヲ以テ撰挙スル事
 一各委員ハ当分ノ中毎月少クモ三回以上会同シ、其筋ヘ稟請シテ法律取調委員ノ出張ヲ請ヒ商法中ノ疑義ヲ質問スル事
 一各委員ハ数回ノ会同ヲ経質議ヲ終リタル後商法中修正ヲ必要ト認ムル事項アルニ於テハ之ヲ調査シテ其意見ヲ全会ニ提出スル事
   但シ銀行営業ニ関スル事項ノ調査ハ銀行集会所ノ委員之ヲ担当シ、其他ノ事項ノ調査ハ本会ノ委員之ヲ担当スル事
 一各委員ハ必要ノ場合ニ於テ顧問トシテ適当ノ法律家ニ請フテ質議会ニ参与セシメ、且ツ其調査ヲ幇助セシムルヲ得ル事
 一質議会開設ノ順序・日限・場所其他取扱方ハ総テ委員ノ協議ニヨリテ之ヲ定ムル事
 一質議会ニ要スル費用ハ開会ノ度数時刻場所等未ダ定マラザルガ故ニ随テ精細ノ予算ヲ示シ難シト雖トモ、先ヅ速記者雇料・講師ヘノ謝儀・集会費其他質議会ヲ終ル迄一切ノ費用ヲ合シ少クモ金三百円ヨリ五百円位迄ヲ要スル概算ニシテ、是ハ本会及銀行集会所ニテ折半ノ上分担スル見込ノ事
 - 第19巻 p.285 -ページ画像 
    商法講義会設立要目
 一本会々員ノ便利ヲ図リ適当ノ講師ヲ聘シ商法講義会ヲ設クル事
 一講義会ハ当分ノ中毎週少クモ一回本会議場ニテ之ヲ開ク事
 一本会々員ハ毎会随意ニ聴講スルヲ得ル事
 一本会々員ハ各其友人二名迄ヲ紹介シテ講義ヲ聴カシムルヲ得ル事
 一開会ノ日限其他講義会ニ関スル取扱方ハ幹事ニ托シテ之ヲ定ムル事
 一講義会ニ要スル費用ハ開会ノ度数定マラザルガ故ニ随テ精細ノ予算ヲ示シ難シト雖トモ、先ツ一切ノ費用ヲ合シ凡ソ金百五拾円内外ヲ要スルノ概算ニシテ是ハ本会経費ノ中ヲ以テ支弁スル見込ノ事
会長(渋沢栄一)曰ク、今玆ニ本案ヲ提出シタル理由ヲ一言センニ今般発布セラレタル商法ハ来年一月ヨリ実施セラルヘキモノナルガ今試ニ之ヲ一読スルニ中ニハ大ニ従来ノ習慣ニ相違シテ余輩商工業者ガ到底之ニ服従シ難ク思ハルヽケ条ナキニアラズ、然ルニ其本文中往々見慣レザル新熟字多クシテ啻ニ其文面上ニ疑義アルノミナラズ其要項モ千余条ノ上ニ出デ、中ニハ或ル事柄ニシテ甲条ニ禁ジナガラ乙条ニ許スガ如キモノモアリテ其趣意ノ何レニ在ルカヲ了解シ難キモノ不少、故ニ今ニ於テ其意義ヲ討尋シ置キ余輩商工業者ガ果シテ之ニ服従スルヲ得ヘキヤ否ヲ査察スル事極メテ緊要ナリトス、是銀行集会所ヘモ協議ヲ遂ゲ本案ヲ提出シタル所以ナリ、蓋シ余ガ曩ニ大坂ヘ出発スルノ前此事ニ就キ副会頭益田氏ニ謀リタル事アリシガ、其後余ガ不在中同氏ハ偶々法律取調委員長タル山田伯ニ面謁ノ序ヲ以テ同伯ニ此事ヲ話シタルニ、同伯ハ若シ商工会ノ如キ団体ニ於テ斯ノ如キ会同ヲ起スニ於テハ其望ニ依リ説明員ヲ派スルモ可ナル旨ヲ申サレタリトノ事ニテ、余ガ帰京早々此事ヲ同氏ヨリ聞タルニ付其後日ヲ期シ本会幹事及銀行集会所委員共ニ会同シテ此事ヲ相談シタルニ、中ニハ多人数ニテ聴講会ヲ兼ネタル質義会ヲ起シテハ如何トノ説モアリタレトモ、通例ノ講義ヲ聴クニハ他ニ手段ナキニアラザレバ矢張リ小人数ノ委員ニテ質義会ヲ起スモノトシ、此等ノ委員ニ調査ノ事ヲモ委托スヘシトノ説ニ一致シタルニ付遂ニ本案ニ掲グルガ如キ方法ニ依リ質義会ヲ起スノ案ヲ定メタリ、然ルニ其後会員中ノ或部分ヨリ今般発布ノ商法ハ商工業者全体ニ容易ナラザル関係ヲ有スルニ付右質義会ノ外更ニ講義会ナルモノヲ起シ、各会員ヲシテ普ク講義ヲ聴聞スルヲ得セシメタシト申出デタル人アリ、蓋シ前陳質義会ノ議事ハ相当ノ書林ニ引合ヒ之ヲ筆記シテ出版セシメ各会員ヘ一部ヅヽ配附シ度見込ニシテ商法全体ノ意味ハ大抵此議事録ニテ分ルベキニ付此講義会ノ方ハ左迄ノ必要ナカルベキカトモ思ヘドモ折角ノ要望ニ付玆ニ併テ議案トシテ提出シタルナリ
本案商法質義会設立要目ハ各員異議ナク原案ニ可決シタルガ、猶衆議ノ上左ノ件々ヲ議決ス
 一質義委員ハ十名トシ正副会頭之ヲ指名スル事
  但シ正副会頭ハ職務ヲ以テ質義会ヘ参席スル事
 - 第19巻 p.286 -ページ画像 
 一質義会ニ要スル費用ハ金二百円ヨリ三百円迄トシ原案ニ定ムルガ如ク本会及銀行集会所ニテ折半ノ上分担スル事
但シ三番(梅浦精一)ハ本年度ノ予算ハ頗ル切リ詰メタルモノニシテ余裕ナキニ付此質義会ニ要スル費用ハ別途ニ徴収スベシトノ説ヲ発シタルガ賛成ナクシテ消滅ス、又三番(梅浦精一)及三十四番(森島松兵衛)ハ会員中商法ニ疑義ヲ抱ク者ハ質義委員ヲ経テ之ヲ質義スルヲ得ル様ニシタシトノ説ヲ発シタルガ是モ同意者少クシテ消滅ス
 其後会頭ハ会員中ヨリ質義委員トシテ左ノ十名ヲ指名シタリ念玆ニ附記ス
               二番     阿部泰蔵
               三番     梅浦精一
               四番     林賢徳
               十六番    益田克徳
               二十番    大倉喜八郎
               二十九番   山中隣之助
               三十番    吉川泰二郎
               五十番    渡部温
               五十三番   奥三郎兵衛
               七十番    矢嶋作郎
又本案商法講義会設立要目モ各員異議ナク原案ニ可決シタルガ、其講義ハ頗ル参考ヲ要スルモノニ付若シ書林ヨリ之ヲ発売セント望ム者アルニ於テハ相当ノ約束ヲ設ケ之ヲ筆記印刷シテ各会員ニ配附スベキニ決ス、但シ十四番(永井松右衛門)ハ講義会ノ規模ハ今少シク之ヲ大ニシ公衆ニ聴講ヲ許シ、且ツ其議事ハ之ヲ筆記印刷シテ一般ノ望ニヨリ実費ヲ以テ之ヲ配附シタシトノ説ヲ発シタルガ賛成ナクシテ消滅ス


銀行通信録 第五四号・第一〇―一一頁 明治二三年五月二八日 ○録事 ○明治二三年五月一五日(DK190044k-0005)
第19巻 p.286 ページ画像

銀行通信録  第五四号・第一〇―一一頁 明治二三年五月二八日
    ○録事 ○明治二三年五月一五日
○上略
又法律第二十九号《(マヽ)》ヲ以テ商法ヲ発布セラレ、其実施ノ期モ近キニアレハ我同業者ニ於テモ充分之ヲ研究セサルヘカラサルニ際シ、頃日商工会副会頭益田孝氏カ山田司法大臣ト面話ノ次同会ニ於テモ其研究会ヲ起サント欲スルトノ意ヲ陳ヘシニ、大臣ハ若シ実業者ノ組織シタル公会ニ於テ此研究会ノ如キ挙アラハ相当ノ法律家ヲ撰ミ特ニ講義質問等ノ要ニ当ラシムヘシトノ事ナルヲ以テ我同盟銀行ハ東京商工会ト聯合シテ其研究会ヲ設クルハ如何トノ議ヲ発シ、衆皆同意ヲ表シ東京商工会ニ協議ヲ経速ニ開設スヘク、而シテ其講究ヲ為スニ当リ同盟銀行一同ヨリ出席スルカ如キハ却テ煩冗ニ渉ルノ恐レアレハ我集会所ヨリハ十名ヨリ多カラサル質義委員ヲ撰ミテ之ニ委托シ、実際上差支ノ事項ハ該委員ノ査考ヲ以テ別ニ熟議ヲ為シ其修正アランコトヲ当路ヘ建議スルカ或ハ請願スヘキ事トナシ、又其研究会ニ関スル経費ハ大略参百円ト予定シ之ヲ切半シテ東京商工会ト均一ニ負担スヘキ事ニ決議セリ


東京商工会々外諸向往復文書 第四号(DK190044k-0006)
第19巻 p.286-287 ページ画像

東京商工会々外諸向往復文書 第四号
                 (東京商工会議所所蔵)
 - 第19巻 p.287 -ページ画像 
去ル四月二十六日法律第三十二号ヲ以テ御発布相成候商法ノ義ハ実ニ我ガ商工業ノ利害ニ不容易関係有之、殊ニ其実施期限モ頗ル切迫候ニ付各当業者ハ今ニ於テ予メ其意義ヲ討尋シ置キテ之ニ応ズルノ準備ヲ尽シ候義ハ極メテ緊要ト奉存候、然ルニ右商法ノ義ハ我国未曾有ノ大法典ニシテ従来見慣レザル字句頗ル多ク、啻ニ其成文上ニ疑義有之候ノミナラズ其要項極メテ繁多ニシテ中ニハ彼此互ニ錯綜連繋シ、其精神ノ何レニ在ルカヲ了解仕兼候ケ条モ不少、依テ今般東京商工会及銀行集会所ノ聯合ヲ以テ双方ヨリ各々委員ヲ撰挙シテ商法質義会ナルモノヲ組織シ、当分ノ中時々開会シテ先以テ其意義ヲ討尋シ兼テ右新定法典ノ前途我ガ商工業ニ影響スベキ効果如何ヲモ篤ト研究致度、就テハ右商法ノ疑義ニ関スル件ハ主務員ニ就キ質義致度存候ニ付、何卒説明ノ為メ適当ノ吏員御差向被下候様仕度此段稟請仕候也
                 東京商工会々頭
                 銀行集会所委員総代
  明治二十三年六月十日           渋沢栄一
    法律取調委員長 伯爵 山田顕義殿


東京商工会々外諸向往復文書 第四号(DK190044k-0007)
第19巻 p.287 ページ画像

東京商工会々外諸向往復文書 第四号
                  (東京商工会議所所蔵)
今般東京商工会及銀行集会所之聯合ヲ以テ商法質義会ナルモノヲ組織シ、商法研究可有之ニ付キ説明員派遣可致旨御依頼之趣了承致候、然ルニ右説明員之義ハ法律取調委員会ヨリ派出為致候様之取計ハ難致候得共、同法之取調ニ従事致タル者之中ニテ右質義会エ出席之義承諾致候者一己人之資格ニテ公務之余暇臨会可致候間此段御承知相成度候、就テハ兼テ御談話致置候通リ同法質義上説明員ト会員ト討議論駁致候義決シテ無之様御注意相成度、又説明員臨会之時日・度数其他之条件ハ総テ同員エ御直談相成度候、此段及御回答候也
  明治二十三年六月十二日

        法律取調委員長 伯爵 山田顕義
    渋沢栄一殿
 二申、本文質義会之質義ハ印刷発売致候カ又ハ新聞紙上ニ登録致候計画ニ有之候ハヽ断然御差止相成度此段為念申添候也


東京商工会議事要件録 第四五号・第二―四頁 (明治二三年八月)刊(DK190044k-0008)
第19巻 p.287-288 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四五号・第二―四頁 (明治二三年八月)刊
  第四十一臨時会  (明治二十三年七月二十一日開)
    会員出席スル者 ○三十二名
会頭渋沢栄一ハ差支アリテ欠席シタルニ付副会頭益田孝会長席ニ着ク
○中略
会長(益田孝)ハ先ヅ開会ノ趣旨ヲ告ゲ左ノ件々ヲ報告ス
○中略
 一前会ニ於テ商法質義会ヲ設立スルコトニ決シタルニ付、其後説明員出張ノ事ヲ山田法律取調委員長ヘ願出デタルニ兼テ商法ノ編纂ニ従事セラレタル司法省参事官本尾敬三郎及ヒ控訴院評定官長谷川喬ノ両君一個人ノ資格ニテ出張セラルヽコトトナリ、即チ本月
 - 第19巻 p.288 -ページ画像 
十日第一回ノ質義会ヲ開キタリ、右質義会ノ議事ハ山田委員長ノ御達モアリ公然発売シ難シト雖トモ参考ノ為メ各会員ヘ配附スルハ差支無之趣ニ付、目下各会員ニ就キ問合中ニテ其部数定マリ次第印刷シテ之ヲ各会員ヘ配附スル筈ナリ
 一前会ニ於テ商法講義会ヲ設立スルコトニ決シタル処、其後新法典講修会ヨリ本会ノ議場ヲ借入度然ル上ハ其報酬トシテ民法及商法ノ講義ニ限リ本会々員ヘ無料ニテ聴講券ヲ送リ、且ツ其講義録ヲモ配附スベキ旨照会アリタルガ右ハ最モ便利ナル方法ト信ズルニ付態々本会ニテ商法講義ヲ設クル事ハ之ヲ見合ハセ右講修会ノ望ニ応ズル事トシタリ
○下略


東京商工会議事要件録 第四六号・第二―一七頁 (明治二三年九月)刊(DK190044k-0009)
第19巻 p.288 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四六号・第二―一七頁 (明治二三年九月)刊
  第二十五定式会
           (明治二十三年八月二十六日開)
  第四十二臨時会
    会員出席スル者 ○二十八名
会長(渋沢栄一)ハ開会ノ趣旨ヲ報シ先ヅ定式会ヲ開クベキ旨ヲ告ゲ規程第五章第二十二条ニ拠リ明治二十三年上半季間定式事務ノ成跡ヲ報告ス
  自明治二十三年一月至同年六月 半季間東京商工会事務報告
○中略
    雑事   八件
○中略
○商法質義会設立ノ件
  本件ハ理事本員ノ発案ニ係リ、其要旨ハ本会及銀行集会所ニ於テ数名ノ委員ヲ撰ビ商法質義会ヲ組織セシメ此等ノ委員ニ商法ノ質義並ニ其修正ヲ要スル事項ノ調査ヲ委托スベシト云フニ在リ、即チ明治二十三年五月二十四日第四十臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ異議ナク原案ニ可決シ、即チ衆議ニヨリ会長ハ委員トシテ左ノ十名ヲ指名シタリ
               二番     阿部泰蔵
               三番     梅浦精一
               四番     林賢徳
               十六番    益田克徳
               二十番    大倉喜八郎
               二十九番   山中隣之助
               三十番    吉川泰二郎
               九十番    渡部温
               五十三番   奥三郎兵衛
               七十番    矢島作郎
  此等ノ委員ハ銀行集会所委員ト協議ノ上爾後数回ノ会議ヲ開キ、目下質義中ニ付其成跡ハ追テ次季ヲ期シ報告スベシ
○下略
 - 第19巻 p.289 -ページ画像 

竜門雑誌 第二四号・第四四頁 明治二三年五月 ○民法及商法の発布(DK190044k-0010)
第19巻 p.289 ページ画像

竜門雑誌  第二四号・第四四頁 明治二三年五月
○民法及商法の発布 兼て出る出ると噂のありたる民法及商法は去月廿一日廿六日《(マヽ)》に発布せられたり、吾人実業家にハ直接の関係あるか故に勉めて研究せさるへからさるものなり、已に東京商工会及銀行集会所ハ連合して新法講談会を催さんとて去る十日協議会を催し、先つ商法質義会を組織して法律取調報告委員に講演を嘱托し同法中銀行其他商工業の為め修正を要する箇条あらは、更に其筋へ意見書を上呈する事もあるへしとの目的にて熱心に研究せらるゝ筈なりといふ


中外商業新報 第二四六二号 明治二三年六月七日 商法説明員(DK190044k-0011)
第19巻 p.289 ページ画像

中外商業新報  第二四六二号 明治二三年六月七日
    商法説明員
今回東京商工会と同盟銀行とが聯合して商法質義会を設け愈々不日開会すべき運びに立至りしを以て、昨六日渋沢栄一氏には山田法律取調委員長を司法省に訪問し、法意説明員出席の儀に就き請願する処ありしかば同委員長には速に之れを聞届けられ、多分其の説明員は本尾参事官に命ぜらるべしといふ


中外商業新報 第二四六二号 明治二三年六月七日 同盟銀行方の商法質疑委員(DK190044k-0012)
第19巻 p.289 ページ画像

中外商業新報  第二四六二号 明治二三年六月七日
    同盟銀行方の商法質疑委員
同盟銀行員諸氏は先頃の総会に於て議定せし如く質疑委員を撰定することとなし、愈々十名の委員を撰挙せしに其当撰者は豊川良平・西村虎四郎・肥田景之・安田善次郎・高田小次郎・佐々木慎思郎・原善三郎・渋沢栄一・渡辺治右衛門・園田孝吉の十氏当撰せしに、此内園田孝吉氏は事務多忙のため到底其任に当りかたしとて辞退したるにより其補欠として佐々木勇之助氏当撰し委員は何れも承諾せりといふ


中外商業新報 第二四八〇号 明治二三年六月二八日 商法質疑委員会の決議(DK190044k-0013)
第19巻 p.289-290 ページ画像

中外商業新報  第二四八〇号  明治二三年六月二八日
    商法質疑委員会の決議
同盟銀行及ひ東京商工会員より成立ちたる商法質疑会にては既に夫々委員も定り山田法律取調委員長よりは司法参事官本尾敬三郎・控訴院評定官長谷川喬の両氏を説明員として出席せしむる事と相成りたるに就ては、尚其開会期日及ひ手続等の事に関して協議の為め全委員会を開き本尾・長谷川の両氏には一昨二十六日午後五時より日本橋区坂本町銀行集会所に会合して協議を遂けたり、今其摸様を聞くに右委員の方にては可成的質疑会の度数多きを欲し先つ毎週一回位は開会し且つ可成的速に着手致度き様子なりしも、説明員の方にては土用休暇後より初めんとの事なれど何分にも最早其実施期限も近きに在れは猶予致し難しとの事にて、詰り来月より委員諸氏は毎月第一第三の木曜日に会合して逐条研究したる上不明の箇条丈けに付き説明を乞ふ筈にて、其箇条をば前以て説明員の許に通報し毎月第二第四の木曜日を期して双方会合の上委しく説明を与へらるゝ事に決定したり、尤も其説明の次第は何故か公然新聞紙上に記載せしめざるようとの注意ありし趣なれど同盟銀行なり商工会なり其会員も甚だ少なからざれは、此等の人々に対し一々又伝へに説明することも自然行届かざる場合もあれば之を
 - 第19巻 p.290 -ページ画像 
印刷若くはコツピーに写し取りて非売品とし関係者に配布するは敢て差支なかるべしとの事なりしも、之を更に弘く同好者に頒つと云ふの一段に至ては追て何分の沙汰に及ぶべしとの事にて散会したりと云ふ


商法質義筆記稿本 第一―一六四頁 明治二四年刊(DK190044k-0014)
第19巻 p.290-355 ページ画像

商法質義筆記稿本  第一―一六四頁 明治二四年刊
 (表紙)
                    禁売買

    商法質義筆記稿本   (加印)
                下野栃木町
                第四拾壱国立銀行
昨年四月政府ガ法律第三十二号ヲ以テ商法ヲ発布セラルヽヤ東京商工会及東京銀行集会所ハ聯合ノ上各委員若干名ヲ撰定シテ商法質義会ナルモノヲ組織シ、法律取調委員長ノ紹介ニヨリ説明員ノ出張ヲ請ヒ前後数十回会同シテ本法ノ疑義ヲ質問シタリシカ此稿本ハ即チ右委員及説明員ノ問答ヲ筆記シタルモノナリ、蓋シ此質義会ノ目的タル只商法ノ大意ヲ知了スルニ止マリ敢テ法理ノ適否ヲ究極スルカ為メニアラズ随テ其問答ノ如キ随聴随筆要スルニ大綱ヲ摘記スルニ過キズシテ其躰裁完備ヲ欠クノ憾アリ、又其答案ニ至リテモ未タ説明員ノ校閲ヲ経サルカ故ニ万一ノ誤脱ナキヲ保セス、然リト雖トモ元来此稿本ハ只参考ノ為メ会員ノ私見ニ供スルニ止マリ敢テ世上ニ公示スルモノニアラサレバ暫ク筆記ノ儘之ヲ印刷ニ附スル事トナセリ、若シ夫レ他日之ヲ公刊スルノ機会ニ遭逢スル事モアラハ更ニ充分ノ校訂修補ヲ加ヘン事ヲ期ス、今ヤ之ヲ会員ニ頒ツニ当リ玆ニ一言ヲ附スル事爾カリ
  明治二十四年七月
商法質義会筆記稿本
問第一条ニ「民法」トアルハ明治二十六年ヨリ施行セラルベキ民法ヲ指ス乎
答否、民法施行前ト雖モ現行ノ成文不成文ノ民法アルヲ以テ之ヲ適用スルナリ
問第二条ニ「特種ノ商事又ハ商人ノ為メ」云々ノ文字ニ付キ二種ノ説アリ、第一説ニハ特種ノ商事トハ現ニ設立シアル一般ノ私立会社ヲ指スニアラスシテ政府ヨリ特ニ命令書ヲ与ヘラレタル日本鉄道会社又ハ日本郵船会社ノ如キモノナリト云ヒ、又一説ニハ日本鉄道会社日本郵船会社ノ如ク特許状ヲ得タルモノヲ指スニアラズシテ広ク私設鉄道条例・国立銀行条例等ニ依リ設立シタル会社ニ適用スベキモノナリト云フ、此二説中孰レカ是ナルヤ
答第二説ヲ以テ妥当トス、元来特種ナル文字ハ解スルニ困ム所アルカ如シ、立法ノ精神ハ唯「或ル商事」云々ト云フカ如ク手軽キ意味ナルヲ以テ其意ニ解スルコソ妥当ナラン、而シテ法律命令及規則ナルモノニハ彼ノ日本郵船会社・日本鉄道会社等ニ交付セラレタル命令書ハ含有セザルナリ、斯ノ如キ命令書ハ一定ノ会社ニ向テ交付セラレタルモノニシテ一般ニ発布セラレタルモノニアラス、是レ本条ノ「発布シタル」ト云ヘル文字ニ就キ見ルモ自ラ然ラサルヲ得サルナリ、本条ノ法律命令及ヒ諸規則ノ内ニ包含スルモノハ日本銀行条例国立銀行条例・古物商取締規則・質屋取締規則等ノ如キ一般ニ発布
 - 第19巻 p.291 -ページ画像 
セルモノニシテ、或ル一二ノ者ニ交付セラレタルモノ、即チ今日ノ郵船会社又ハ日本鉄道会社ニ交付セラレタル命令書ノ如キモノニアラサルナリ
問若シ其命令書ニシテ本法ノ規定ト抵触スル所アラハ無効ニ帰スルヤ否
答敢テ無効ニ帰セサル可シ、如何トナレハ追テ商法施行条例ナルモノヲ発布セラレ既ニ特許又ハ免許ヲ得テ設立シタル株式会社ノ為メ特例ヲ設ケラル可ケレハナリ、然ラサルニ於テハ郵船会社・日本銀行正金銀行ノ如キ特許ヲ得タル会社ト雖トモ其命令書ヲ以テ本法ノ規定ニ対抗スル事ヲ得サルベシ、是ヲ以テ政府ハ商法施行条例ナルモノヲ発布シテ、特許又ハ免許ヲ得タル既設ノ会社ヲシテ相当ノ手続ヲ履ムニ於テハ商法ノ規定ノ為メ妨ヲ受クル事ナク従前ノ儘ニテ営業ヲ為ス事ヲ得セシムルナラン
問然ラハ其条例ハ既設ノ会社ノミニ限リテ適用スベキモノナリヤ
答然リ、既設ノ会社ニ限ルナリ、故ニ将来新タニ設立スル会社ノ如キハ総テ商法ニ由ラサレハ設立スル事能ハサルナリ、尤将来ニ於テモ鉄道会社・郵船会社・日本銀行等ノ如キ重大ノ会社ヲ設立セントスルノ際、実地商法ニ由テ設立セシムルノ頗ル困難ナル事之ナシトセサル可シ、斯ノ如キ場合ニ於テハ政府ハ必ス特別法ヲ設ケテ之ニ依ラシムベキナリ、是レ欧洲ニ於テモ例トスル所ナリ、故ニ将来起設スル会社ニシテ実地商法ニ由テ起設セシムル事能ハス勢ヒ商法外ニ立タシメサルヲ得ザル場合ニ於テハ、特別法ヲ設ケテ其目的ヲ達セシムル事ヲ得ルナリ
問既設会社ノミニ限ルトスレハ、将来新ニ或ル事業ヲ興スノ必用ヲ感シ会社ヲ起設セントスルモ商法ニ由ル事ハ不都合ノ事情アルヲ以テ其発起人カ欧洲ニ行ハルヽノ例ニ傚ヒ政府ニ対シ特許状《チヤーター》ヲ与ヘラレン事ヲ出願セハ如何、蓋シ政府ノ発布セル商法ニ由ルモノナラハ別段ニ特許状ヲ要スル事ナシ、又特許状ヲ与ヘラルヽモノトスレハ幾分カ他ノ法律ト異ナラザルヲ得ス、斯カル場合ニ於テ一切特許状ヲ与ヘサルモノトスレハ会社ニ於テ大困難ヲ生セシムルモノアラン、是等ノ場合ハ如何ニ処分スヘキヤ
答如何ナル場合ト雖モ命令書ヲ以テ法律ノ規定ヲ破ル事ヲ得ス、故ニ商法ノ規定ニ由ラシメサラントスルトキハ必ス法律ヲ以テ特例ヲ設ケザルベカラス、既ニ述ヘタル如ク其例ヤ欧羅巴ニ在テハ屡々見ル所ナリ、商法実施ノ後ニ於テ或ル事業ヲ起スノ国益ヲ増進スルモノタル事ヲ知リ、且ツ商法ノ規定ニ由ラシムル能ハザル事ヲ知ラハ政府ハ特別法ヲ制定シテ其目的ヲ達セシムルナル可シ
問然ラハ将来ニ於テ従前ノ如ク郵船会社・鉄道会社ニ対シテ命令ヲ発スル事ヲ得ルヤ否
答命令ヲ発スルハ決シテ妨クル所ニアラズ、然レトモ法律ノ範囲内ニ於テセサル可ラズ、故ニ従前ノ如ク容易ナルニハアラザルナリ、既設会社ニ付テハ商法施行条例ニ於テ充分ノ猶予ヲ与ヘタリ、該条例発布ニ至ラハ諸君ニ於テモ大ニ安心セラル可シト信ス
問第四条ノ文意ハ全躰ニ明瞭セザルモノナルカ故ニ願クハ総躰ニ御説
 - 第19巻 p.292 -ページ画像 
明アリタシ
答本条ノ解釈ニ付テハ我同僚中ト雖モ意見ヲ異ニスル者ナキニアラス是レ全ク文章簡約ニシテ意義深遠ナルニ因ルナリ、本条中ニハ新奇ナル文字多シ、即チ「権利行為」「取捌」「転換」ノ如キ是レナリ、其他「利益ヲ得又ハ生計ノ為メニスル」等ノ語ハ解釈ニ苦ム所ナリ、先ツ文字ノ点ヨリ説明ス可シ、「取捌」トハ報償ヲ得テ有形無形ノ物ヲ他人ニ使用又ハ需用ニ委ヌルノ義ニシテ、或ハ取換ユルト云フ意ナリトスルモ不可ナキナリ、売買・賃貸モ亦取捌ノ方法ナリトストノ《(コ)》二ツハ如何ナルモノカト云ハヽ、所謂私ノ所有スル物ヲ他人ニ渡シ他人之ヲ使用スルヲ得ルハ是レ売買ナリ、又賃貸モ之ニ類シ、所謂甲者其物品ヲ乙者ニ貸シタルトキ乙者ノ之ヲ使用スルヲ得ル、是レ賃貸ナリ、左レハ売買ト賃貸トノ二ツハ其意味誠ニ明瞭ナルモ尚ホ其他ニ種々ナルモノアルカ故ニ別ニ取捌ナル文字ヲ加ヘタルモノナリ、仮ヘハ彼供給契約ノ如キハ売買ニモアラズ一種異ナルモノナレバ、之ヲ以テ取捌ノ一部分トスルモノナリ、即チ玆ニ甲乙両者アリ、甲ハ乙ニ向テ曰ク「予ハ米千俵ヲ買入レタシ」而シテ乙者ニ於テハ未タ千俵ノ米ヲ所有スルニハアラザレトモ直ニ之ニ答テ「然ラハ米千俵ヲ君ニ売ルベシ」ト曰フ、是所謂供給契約ニシテ売買契約ニアラズ、何トナレハ売買トハ乙者ガ米千俵ヲ所有シタル場合ニ甲者ノ求ニ応シテ之ヲ売ラントスルヲ言フモノナレハナリ、故ニ供給契約ハ売買ノ中ニハ入ラサルモ尚取捌ノ一部分タル事ハ疑ヲ容レス、又劇場ノ如キモ一ノ取捌ニ属スルモノニシテ、我々ハ切符ヲ買ヒ銭ヲ払フテ其演劇ヲ観ルノミ、別ニ得ル所ノ実物トテハアル事ナシ、唯タ耳目ヲ娯メ心思ヲ慰ルヲ以テ足レリトスルナリ、又或ル書物ヲ店前ニ陳列シ相当ノ賃銭ヲ取ツテ衆人ノ閲覧ニ供スルカ如キ等シク取捌ノ中ニ属スルモノニシテ、己カ払フタル賃銭ニ対シテ別ニ持帰ルベキモノハ無ク、単ニ之ヲ観タリト云フ一ノ虚空物ヲ脳中ニ止ムルマデナリ、故ニ広ク之ヲ解スルトキハ取捌トハ単ニ売買賃貸ノミヲ指スニアラズ、其他貨物ヲ運転スルガ如キ所作ニ現ハレタルモノハ凡テ取捌ノ中ニ属スベキモノトス、左レハ此取捌ナル文字中ニ包含スルモノハ売買ト賃貸トハ勿論ノ事前陳述セル種類ニ属スルモノハ凡テ包含セラルヽモノト謂フテ可ナリ
問然ラハ甲者ノ乙者ニ対シテ米千俵ヲ買入タシト言ヒタルトキ、乙者ニ於テ現ニ千俵ノ米ヲ有セズシテ売ラント約シタルガ如キハ売買契約トナサヽルモノナリヤ
答如何ニモ左様ナリ、凡ソ契約ノ中ニ於テ現在実物ヲ所有スル者ガ他ニ向テ売買ノ約束ヲ結ヒタルカ如キハ之ヲ売買契約ト謂ヒ、之ニ反シテ注文ヲ受ルモ現在其品物ヲ所有セズ他ヨリ買入ルヽカ将タ是ヨリ製造シテ送ラントスル場合ニ在テ之ヲ売ラント約シタルガ如キハ所謂供給契約ナリ、例セバ乙者ガ甲者ヨリ鉄砲一万挺ノ注文ヲ受ケタリトシ、現ニ其品物ナキモ直チニ之ガ売約ヲ為シタルガ如キハ供給契約ニ属スルモノナリ、故ニ是等ノ契約ヲ以テ直チニ売買契約ト混スベカラス
問若シ所有権アル品物ニシテ今現ニ目前ニハ之ナキモ他ヨリ運送シ来
 - 第19巻 p.293 -ページ画像 
ラハ其場ニ備ハルガ如キハ如何、必竟所有権アルモ尚目前ニ之ナキ時ハ売買契約ヲ為ス能ハザルモノナルヤ
答仮ヘハロンドンニ米一万石ヲ所有シ居ルモ未タ着荷セズト云フガ如キ場合ハ所謂猶予《ユトリ》ノ中ニ属スルモノニシテ、仮令目以テ之ヲ見ルヲ得ザルモ尚ホ全ク其物ヲ所有スルモノナラハ所有ノ権アリトスルヲ得ルナリ
又答凡ソ売買上ノ区別ヲ四トス、曰ク売買契約・供給契約・競売・取戻権是ナリ、故ニ大躰ノ上ヨリ之ヲ括約スルトキハ何レモ売買タルニ相違ナキモ、之ヲ細別スルトキハ本尾氏ノ答ヘタル如ク売買契約供給契約等ノ区別ヲ生スルナリ
問第四条ノ末ニ「権利行為」云々ノ文字アリ、若シ権利ノ二字ヲ受ケテ権利行為ト読マスルトキハ少ク奇妙ナリ、唯タ行為トノミ云フモ敢テ不都合ナカルベシト考フ、果シテ如何ナルモノカ
答順序ヲ追ヒ先ツ取捌ノ点ヨリ述ヘンニ、本条中「有価証券ノ転換」ナルモノハ最本条ノ眼目トスベキ所ナリ、而シテ此転換トハ凡テ貨物ガ所有人ノ手ニ入ルマデノ運転ヲ指スモノニテ、例ヘハ製造者ガ或品物ヲ製出シテ之ヲ売ルカ如キハ既ニ転換ノ初ヲ成セルモノナリ又予ガ麦酒ヲ呑マントテ之ヲ買フガ如キハ是亦転換ト称スベキナリ
問「産物商品又ハ有価証券ノ転換ヲ以テ」云々ト云ヘルハ如何ナル場合ヲ指スモノカ
答一ト口ニ之ヲ言ヘハ産物商品又ハ有価証券ノ転換ヲ以テ利益ヲ得、又ハ生計ノ為ニ云々トハ例ヘハ玆ニ人アリ、壱万円ノ資本ヲ投シテ一ノ事業ヲナシ壱万五千円乃至弐万円ノ高額ト為サントスルガ如キハ即チ利益ヲ得ルモノナリ、之ニ反シテ已ニ自ラ資本ヲ働カスルノ目的ナク重モニ労力ヲ費ヤシテソノ業ヲナサントスルガ如キハ即チ生計ノ為ニスルモノナリ、尚此他ニ生計ノ為メニスルモノヽ二三ノ例ヲ挙レバ例ヘバ予ガ紡績所ヲ買フガ為メ拾万円ヲ出シタリトセン乎、若シ予ガ拾万円ノ金ヲ出シテ之ガ利益ヲ計リ拾弐万円乃至拾五万円ニモナサントノ目的ナラバ是レ利益ノ為メニスルモノナリ、然レドモ左ニアラズシテ若シ予ガ人ノ依頼ヲ受ケテ商売ノ媒介ヲスルカ如キハ仮令資本ハ之ヲ要スルトスルモ主トスル所ノ目的ハ専ラ予ノ労力ヲ費ヤスニアルカ故ニ生計ノ為メニスルノ旨趣ニ帰スルモノナリ、而シテ是例ハ唯ニ大事業ノ上ノミニ限ラスシテ仮ヘハ人力車夫ガ己レノ労力ヲ費ヤシテ其賃銭ヲ得ルガ如キモ亦然リ、次キニ直接間接ノ転換トハ仮ヘハ予カ玆ニ紡績所ヲ有スルトセンニ日々其紡キ得タル糸ヲ以テ他ニ売渡スハ是レ直接ノ転換タルベク、之ニ反シテ其糸ヲ製スル為メ或機械ヲ購入シ職工ヲ傭ヒ若クハ職工ノ食スル米ヲ購入シ及職工ノ寝臥スル小屋ヲモ建テザルベカラス、是等ノ仕事ハ凡テ間接ノ転換タルヘキナリ、更ニ一例ヲ挙ケンニ予ハ靴商ナリ而シテ己ノ製シタル靴ヲ売ルガ如キ直接ノ転換ニシテ其靴ヲ製スルガ為メ針糸ノ類ヲ購入セザルベカラズ、亦時トシテハ職工モ傭入レザルベカラズ、即チ如此ハ是レ間接ノ転換ニ属スルモノナリ、次ニ「権利行為」ノ事ナリ、之ニ付テ予ノ考フル所ニ拠レバ単ニ之ヲ称シテ行為ト言フモ其義ニ於テ相違ハアラザルヘシト雖、単ニ行為
 - 第19巻 p.294 -ページ画像 
トノミ云ハヽ権利義務ニ関係セザル行為ヲモ含有スルノ嫌アリ、故ニ此場合ニ於テハ重ニ権利義務ヲ生スベキ行為ノミニ制限シタルモノナリ、必竟権利義務ヲ生セシムヘキ行為ナラザルベカラスト云フノ意ニ過キザルナリ、先ツ以上ノ説明ニ依リ文字ノ解釈ハ終リタリト雖扨其大意如何ト云フニ至テハ未タ釈然タル事能ハス、想フニ此転換ト称スルモノヽ範囲ハ貨物ガ所有者ノ手ニ移ルマデノ所作ヲ言フモノニシテ取モ直サズ商事ナリ、然レトモ此所作ニ於テハ他ニ種種ノ関係ヲ有スルモノアリ、即チ己レ自ラ資本ヲ投シテ営業スルカ将タ資本ヲ投セスシテ労力ヲ主トスルカヲ論セス、亦直接ト間接トノ場合ヲ問ハス、等シク是レヲ所作ト謂フ、故ニ其所作ニシテ売買賃貸其他売買賃貸ノ目的アル所作ナラハ皆悉ク此商取引ニ属スベシト斯ク外部ヨリ附ケタルモノナリ、而シテ今此条ニ於テ斯ノ如ク広ク其意味ヲ定メ何事ニテモ之ニ属セシメタルハ何故ナルヤト云フニ元来商取引ナルモノハ斯ク斯クノ次第ナリト単ニ解釈スルトキハ一目シテ瞭然タルヘシト雖、商業社会ノ千種万様ナル出来事ヲ一々挙示シテ是々ヲ以テ商取引ト為スト定メン事ハ到底企及フベキニアラズ、為メニ此条ニ於テハ広ク大躰ノ原則ヲ定メ置キ之ニ対スル重要ナル所作ヲ摘記シタルモノナリ、而シテ又若シ此条ノ解釈ニ付キ疑アラン事ヲ慮リ第五条ニ至テ復タ更ニ列挙シタルモノアルナリ
問間接ノ転換ニ付キ家ヲ建テ職工ヲ傭フカ如キハ誠ニ左モアルベシト雖、地面ヲ購入スルカ如キハ少ク判然セス、必竟是モ亦間接ノ転換ニ属スベキモノナリヤ
答本条ニ於テハ固ヨリ商取引ノ一部分即チ間接ノ転換ニ属スベキモノナリ、併シナカラ第八条ニ於テハ別ニ不動産ノ取除キアリ
問紡績所ニ於テ紡キタル糸ヲ売出ストキニ之ヲ直接ノ転換トスレハ右ノ糸ヲ買ヒタル人ニ於テハ之ヲ何ト云フベキヤ
答之ヲ売出ス方ヨリ云ハヾ直接ノ転換ナルモ、之ヲ買入ル方ヨリ云ハハ間接ノ転換トナルナリ
又答唯今本尾氏ヨリ第四条ノ解釈ニ付テハ種々ノ異説アル旨ヲ弁セラレタル如ク余亦タ別ニ意見アリ、就中「利益ヲ得又ハ生計ノ為メニスル」云々ノ解釈ニ至テハ全ク本尾氏ノ解釈ト異ナレリ、乍併开ハ予ガ曾テ著述シタル書中ニ於テ詳ニ記述シタルモノナレバ玆ニ之ヲ贅セス
問湯屋・料理屋ノ如キハ商人ノ側ニ属スルモノニアラズト思ハルレトモ尚ホ商取引ノ中ニ入ルヘキヤ否
答第五条ノ意ニ依ルトキハ所謂「公ナル共歓場及遊娯場ノ営業」トアリテ、湯屋・料理屋・待合茶屋ノ如キハ此中ニ包含セラルヽモノナリ、而シテ此共歓場及遊娯場ト云ヘル中ニハ許多ノ種類ヲ包含スルモノナリ
問商法ノ字義ニ於テ作業ト取引トハ如何ナル相違アリヤ
答此字義ニ付テハ英語ノ所謂アンダーテーキングハ作業ニ当リ、トランサクシヨンハ取引ニ相当スルモノナリ、而シテ此作業ナルモノヽ中ニ種々ナル事件ヲ包有スルモノニシテ、之ヲ一括シテ作業ト称スルナリ、例ヘハ鉄道営業ト云フカ如キ其中ニハ人夫ヲ傭ヒ石炭ヲ購
 - 第19巻 p.295 -ページ画像 
フガ如キ種々雑多ノモノヲ含有スルモ、一括シテ鉄道営業ト云フノ類ナリ、而シテ取引トハソノ中ノ一部分ニ附スル名義ニシテ例ヘバ石炭ヲ購入シ若クハ切符ヲ売渡スガ如キ是ナリ
問作業トハ俗ニ「仕事」ト云フ字ニ相当セルモノト解スルハ如何
答最適当ナラン
問第五条ノ第二項ニ於テ「新聞紙及其他ノ定期印刷物ノ発行」ヲモ取引ノ一部分ニ加ヘタルガ、所謂定期印刷物トハ彼地学協会ニ於テ会員ニ頒ツカ為メ発行スル定期印刷物ノ如キ、又ハ其他凡テ印刷物ニシテ定期ニ刊行スルモノハ皆取引ノ中ニ入ルベキモノトスルヤ
答単ニ文字上ノ解釈ニ依レハ然カ見ユレドモ立戻テ第四条ノ定則ニ照応スルトキハ、彼地学協会ノ如キ毎月一回印刷シテ会員ニ頒ツハ決シテ定刊ノ仕事トハ云フヘカラス、故ニ是等ノ如キハ第五条ノ二項ニ於テハ取除トナルナリ
問銀行集会所通信録及商工会報告ノ如キハ第二項ノ定刊ニ属スルモノナルヤ
答然リ
問店舗ト帳場ノ区別ハ如何
答店舗トハ三井呉服店ノ如キモノヲ謂ヒ、帳場トハ商人ガ前ニ箱ノ如キモノヲ扣ヘ帳面ヲ記載シ居ル場所ニハアラズシテ人々ノ仕事ヲ為スノ場所ヲ謂フ、即チ俗ニ事務所ト称スルモノニシテ、例ヘハビールヲ商フ如キ桜田ビール店ニ於テハ決シテ店頭ニテ品物ヲ販売スル事ナク唯タ是々ノ品ヲ今日中ニ運送アリタシ又ハ運送スベシト約スルガ如キモノナリ、故ニ帳場ハ事務所ノ如キモノト謂フモ可ナリ
問第七条第一項ニ「所有地又ハ借地ヨリ収穫シタル産物ヲ売ルコト但営業ノ目的ヲ以テセザルモノニ限ル」トアリ、此意義タル例ヘハ小生ノ庭園ニ桃樹ノ実ヲ結ブアリト雖之ヲ食スル児童アラザレバ他人ニ向テ之ヲ売リタルガ如キハ是ヲ商取引ト看做サヾルハ固ヨリ明白ナリ、然レドモ玆ニ一大百姓アリ己レノ所有スル用地ニ沢山ナル資本ヲ入レソノ収穫ヲ増加セシメテ己レノ利益トシ己レノ生計トナスアラバ無論商取引ニ属スルモ可ナラン、之ニ反シテ小百姓ガ昨年ノ収穫ニ依リ余ス所ノ米ヲ売リタランニハ何レニ属セシムルモノニヤ
答右ノ場合ハ商取引ト看做サス、例ヘハ予ガ己レノ所有スル地面ヲ茶畑トナシ、是ヨリ収入スルモノニシテ幾分カ利益ヲ得タリトスルモ決シテ之ヲ以テ商取引ト看做ス事能ハザルカ如シ、然レトモ若シ予ガ此地面ヲ以テ悉皆茶畑トナシ、之ニ依テ一ト商売ヲナサントスル目的ニテアリシナラバ則チ商取引ノ部ニ入ルベキナリ
問第九条中農作以下ノ業ヲ以テ商業ト看做サヾルハ如何ナル理由ナリヤ
答農作・養蚕・狩猟・捕魚及採藻業ノ如キハ必竟商業ヲ営ムモノニアラザルガ故ニ之ヲ取除タルニ過ギズ
問農作業ノ如キハ或ハ然ラン、然レトモ農作物ヲ売ルニ至テハ自ラ其区別ナクバアラズ、例ヘハ外国ノ如キ地主ナルモノアツテ許多ノ田地ヲ有シ之ヲ他ニ作ラシメテ其収穫物ヲ売ル事アリ、所謂此フアーマー(大農)ヲ以テ商人トスルハ固ヨリ当然ナリトスルニアラズヤ
 - 第19巻 p.296 -ページ画像 
答之ニ付テハ種々異説アリト雖予ノ解釈ニ依ルトキハ仮令其種類ハ幾何ナルモ其所作ニシテ農業ニ関スルモノナラハ決シテ之ヲ商人ト認ル事能ハザルハ明白ナリ、尤モ之ニ付キ米一万俵余モ収穫シ之ヲ売リタルガ如キハ無論商人トスベシトノ説アリ、即チ我立法ノ精神ニ於テモ斯カル場合ニ於テハ之ヲ商取引ト認ルナリ、左レドモ今一反歩ノ田地ニ於テ農夫カ二十俵ノ米ヲ収穫シ、之ヲ家内眷族挙ツテ食スルモ尚余リアル場合ニ或ハ之ヲ売リテ衣服トナシ器具トナス事アルノ場合ハ、到底之ヲ以テ初ヨリ利益ヲ得ルノ目的アルモノト看做シ商取引ノ中ニ入ルヽ事能ハザルモノナリ
問第十三条ノ末ニ於テ「但夫ノ承諾ヲ得テ商ヲ為ス場合ニ於テ夫婦間ニ財産共通ノ存スルトキハ共通財産モ亦其責任ヲ負フ」トアリ、此文面ニ拠ルトキハ若シ夫ノ承諾ヲ得スシテ商ヲ為ス場合ニハ共通財産ニ対スル責任ヲ負ハザルモノヽ如シ、蓋シ夫ノ承諾スルトセザルトハ別ニ登記シタル事ナキニ於テハ本ヨリ之ト取引スル者ニ於テ知ル由ナキナリ、必竟承諾ヲ得テ取引シタルモノヽ如クニシテ案外ニ承諾ヲ得ザリシモノアリ、斯ノ如クンバ始終不都合ヲ生ズルモノアラン、如何
答第十八条ニ至テ「商号後見人未成年者婚姻契約代務及会社ニ関スル商業登記簿ハ」云々トアツテ、愈々婚姻ノ契約整ヒタル時夫婦ノ一方ガ或ル商業ヲ為サントスル場合ニ在テ財産ヲ共通セザルニ於テハ商業登記簿ニ其旨ノ登記ヲ受ケザルベカラズ、故ニ財産ノ共通ナルヤ否ヤハ登記ノ有無ニ依テ之ヲ定メ、承諾シタルト否トハ事実上ノ問題ニ属シ裁判官ノ判定ニ任スベキモノナリ
問時トシテハ初メ婚姻セシ時ヨリ財産ヲ共通セル事アリ、而シテ初ハ己レカ商売ヲスルノ念ナカリシモ後ニ至テ承諾ヲ得テ商業ヲ営ム事アルベシ、斯カル場合ニハ如何ニシテ承諾ノ有無ヲ判知スベキカ、殆ト其術ナカラン、或ハ之ヲ黙示セシモノトスルヤ
答元来婦ナルモノハ無能力ノモノナレバ夫ノ承諾ヲ得ザレバ商売ヲ為ス事能ハザル程ノモノナリ、故ニ若シ夫ノ承諾ヲ得ズシテ商売ヲ為シタル場合ハ婦ヲ独立ノ者ト認メテ債務ヲ負担セシムル事ヲ得サルナリ、故ニ婦ガ自ラ商売ヲ為スハ夫ノ承諾ヲ得タル場合ニ限ルヲ通例トスルナリ、又黙示トハ現ニ夫婦同居シ且婦ノ商売ヲ為スヲ黙々看過シタル場合ヲ謂フナリ
問然ラハ婦タルモノハ凡テ夫ノ承諾ノ上登記ヲ受ケザル限リハ商人トナル事能ハザルモノナリヤ
答曰ク、然リ
問第十四条第二項ニ「夫婦ハ共ニ同一商事会社ノ無限責任社員タルコトヲ得ス」トアルハ如何ナル趣意ヨリ之ヲ設ケタルモノナルヤ
答同一ト云フ文字ト無限責任ト云フ文字ガ此項ノ眼目ナリ、例ヘハ合名会社ノ如キハ其社員タル者ハ同等ノ権利ヲ有スル者ナレバ、其商業ニ付テハ婦ト言ヒ夫ト言フガ如キ前後ノ差異ナク皆同等ノ権利ヲ有スルコトヽナルベシ、然レトモ夫婦ナル者ノ性質ヲ考フル時ハ婦ハ夫ノ下ニ立テ救護ヲ受ケサル可ラザル者ナリ、其救護ヲ受クルニ付テハ夫ハ婦ヲ恵ミ婦ハ又其夫ニ対シテ従順ノ義務ヲ尽サヽル可ラ
 - 第19巻 p.297 -ページ画像 
ズ、然ルニ今此ノ夫婦ガ一会社ノ社員トナリ同等ノ権利ヲ有スル時ハ夫婦間ノ契約ニ齟齬スル事アルベシ、是レ本条ガ之ヲ許サヽル一ノ理由ナリ、第二ノ理由ハ婦ハ其夫ニ対シテ従順ノ義務ヲ尽スヘキ者ナルガ故ニ常ニ夫ニ制セラルコトアリテ、同等ノ権利ヲ有スル商社ノ社員トナルニ拘ハラス却テ夫ノ為メニ婦ノ財産ヲ自由ニサルヽ事アルベシ、故ニ若シ之ヲ許ストキハ婦ヲ保護スル上ニ於テ欠点ヲ生スルヲ以テ同一商社ノ社員タルヲ許サヽルコトニ為シタリ、故ニ若シ夫ハ甲ノ商社ノ社員トナリ婦ハ乙ノ商社ノ社員トナルハ決シテ妨ケナキナリ
問第二十二条ノ終リニ「権利関係」ト云フ文字アリ、之ハ前ノ権利行為ト云フ文字ト同様ニ権利義務ノ生スル関係ト解シテ可ナルヤ
答然リ、権利関係トハ即チ法律ニ適シタル所為ト云フ意味ナリ
問第二十三条ノ末ニ「若シ一人ニシテ資本ヲ分チ数箇ノ営業ヲ為ス時ハ其各営業ニ付キ各別ノ商号ヲ有スルコトヲ要ス」トアリ、此ノ資本ヲ分ツト云フ文字ハ単ニ一家内ノ都合上分ツト云フ事ナリヤ又ハ之ヲ二ツニ分ツ為メニ権利モ分レテ一方ノ利益ハ一方ノ利益一方ノ損失ハ一方ノ損失ト云フガ如ク法律上資本ヲ分ツト云フ意味ナリヤ
答後段解釈ノ通リナリ、其営業ヲ分ツニ付テハ別々ニ確カナル帳簿ヲ設ケ置カザルベカラズ、今一例ヲ挙ケテ之ヲ言ヘバ一人ニシテ布袋銀行ト又タ恵比寿屋ト云フ呉服店ヲ有シ、銀行ノ方ニハ百万円ノ資本ヲ出シ、呉服店ノ方ニハ五十万円ノ資本ヲ出シ、其資本ヲ以テ各別ニ異ナリタル営業ヲナス場合ニハ、一ハ布袋銀行、一ハ恵比寿屋ト云フ如ク商号ヲ定メ、又タ帳簿ヲ設ケ置カザルベカラズ、此必要ハ如何ナル場合ニ於テ生スルカト云フニ、此ノ如キ商人ガ破産シタル場合ニ生スルナリ、例ヘハ一人ニシテ銀行ト呉服屋トヲ有スル者ガ若シ其銀行ノ破産シタル場合ニハ他ノ呉服店モ亦破産スベシ、然ルニ此商号ノ定マレル場合ニハ銀行ノ債主ハ銀行丈ケニ対シ其財産ノ分配ヲ受クベク、又タ呉服店ノ債主ハ呉服店ノ方ヨリ其財産ノ分配ヲ受クベキモノトス、而シテ若シ呉服店ノ分ニ剰余ノ財産アリタルトキハ之ヲ銀行ノ債主ニ分配スルナリ、要スルニ資産モ商業モ各別ナル上ハ各別ノ商号ト各別ノ帳簿トヲ必ス有セザルヘカラズ、然ラザレバ独立ノ営業ト看做ス事ヲ得ス
問御説明ノ点ハ了解シタレトモ、商号ガ屋号ニ属セズシテ人ニ属スル場合・例ヘハ浅野ナル人ガ浅野石炭商店・浅野回漕店ト云フ如キ名称ヲ以テ営業ヲ各別ニシタル場合ハ如何
答此ノ如キ場合モ資本ガ各別ナル上ハ矢張リ其商号ヲ二ツニ分タサルヘカラズ、而シテ両商店ニ用ユル浅野ト云フ名称ハ同一ナルモ、浅野石炭商店・浅野回漕商店ト謂フカ如キ全商号ノ同一ナラザルニ於テハ之ヲ各別ノ商号ヲ用ヒタルモノトスルナリ
問第二十五条ニ「商号ノ登記ヲ請ハントスル者ハ商業登記簿ニ登記ヲ受クルコトヲ得」トアリ、然ラハ必スシモ登記ヲ受ケネハナラスト云フ次第ニハ之レナキヤ
答然リ、之ヲ受クルト受ケサルトハ其人ノ勝手ナリ、然レトモ若シ法律ノ保護ヲ受ケント欲セバ登記ヲ受クルニ如カズ
 - 第19巻 p.298 -ページ画像 
問然ラバ登記ヲ受ケタル時ハ其登記ニ因リ専有ノ権利ヲ有スルモノトナルガ故ニ同町内ニ於テ同シ商業ヲ営ミ、同シ商号ヲ用ヒ居ル者ハ営業ヲ為ス事能ハザルベシ、例ヘハ伊勢屋ナル者ガ東京ニ百人アリトスレバ其内一人ガ商号ノ登記ヲ受クレバ他ノ九十九人ノ伊勢屋ハ営業ヲ為スコト能ハザルモノナルヤ
答其制限ハ余程寛ナリ、追テ其辺ノ事ハ商法施行条例ヲ以テ規定サルベケレトモ、本条ノ眼目トモ言フベキ一地域内ト云フ文字ハ市町村ノ一区域ヲ謂フト云フ如ク広キ意味ニ解スルモノトス、例ヘハ東京トカ横浜トカ市町村ノ一区域ヲ指シテ一地域内ト云フ、況ンヤ又商法第二十六条ニ「但シ本法施行以前ヨリ有スル商号ハ従前ノ営業ヲ変セサルモノニ限リ一地域内ニ於テ同一ナルモ妨ケナシ」トアレバ現今ノ営業者ハ毫モ苦慮スルニ及ハザルベシ
問問屋又ハ仲買ノ屋号ヲ売買スルモ差支ナキモノナルヤ
答売買シテモ差支ナシ
問第二十七条ニ「第七十五条ニ規定シタル場合ヲ除ク外従前ノ商号ヲ続用スルコトヲ得」トアリ、此場合ニ於テ譲渡シ人ハ信用アル者ナリシカ続用者ハ信用ナキ時ハ取引者ニ於テ迷惑ヲ蒙ムルコトアルベシ、斯カル場合ハ如何スベキヤ
答其事ハ第二十八条第一項ニ営業《(「脱カ)》ト商号トヲ併セテ譲渡ストキハ其商号ヲ続用スルト之ヲ変更スルトヲ問ハス取引ノ仕残債務得意先及ヒ商業帳簿モ共ニ譲渡スモノト看做ス但シ特約アルトキハ此限リニ非ス」トアリテ要スルニ譲渡シ人ノ責任ハ譲渡シ以前ニ取引シタル事ハ責ヲ負フモ譲渡シ後ノ取引ニ付テハ責ヲ負ハサルモノトス、故ニ譲渡シ人ハ単ニ其信用ヲ続用者ニ譲渡シタルニ過キザレバ続用者ノ取引ニ関係ナキヲ以テ信用ニ付テノ損害モ亦タ責ヲ負ハズ
問第二十九条ノ末ニ十ケ年トアルガ十ケ年ニテハ余リ短クハナキヤ如何
答一躰人ト云フ者ハ営業ヲ自由ニナシ得ルト云フヲ原則トス、然ルニ其権利ヲバ他人ニ売リタルガ為メニ其営業ヲナス能ハザルニ至リシモ其売主ハ単ニ自己ノ利益ヲ捨テタルニ止マルト雖、社会ノ経済上ヨリ之ヲ見レバ大ナル損害アリト言ハサルベカラズ、例ヘバ精巧ナル技術師ガ拙劣ナル技術師ニ此営業権ヲ譲渡シタルトキハ精巧ナル技術師ハ営業ヲナス事ヲ得ス、故ニ自然社会ニ精巧ノ技術師ヲ存セシメザル結果ヲ生ス、故ニ此精神ヨリ年限ヲ短クシ且ツ十ケ年間モ継続者ヲシテ其営業ヲ専行セシムルニ於テハ遂ニ自己ノ技倆ヲ逞シクスル事ヲ得ヘキモノトシ、為メニ斯ク短クナシタルナリ
問第三十一条ノ終ニ「又月々其家事費用及ヒ商業費用ノ総額ヲ記入ス」トアリ、月々ト云フ字ハ何カ必要ノ意味アルヤ、或ハ毎日ニテモ宜シキ訳ナルヤ
答毎日ニテモ宜シケレトモ家事費用ノ如キハ日々明細ニ記入スルノ必要アルモノニモ非レハ、単ニ一ケ月ノ総額ヲ百円トカ二百円トカ為シ置ケハ可ナルナリ、畢竟月々ト云フハ猶予ヲ与ヘ置キタルモノニテ、若シ此ノ家事費用迄モ日々記入セザル可ラサル事トナラハ頗ル面倒ナルベシ、抑モ商業帳簿ノ規定ニ違フトキニハ破産ノ場合ニ一
 - 第19巻 p.299 -ページ画像 
ノ制裁ニ触ルヽ事アルベシ、故ニ之ヲ日々ト云ハズシテ月々トナシタルハ全ク余裕ヲ与ヘタルニ過キズ
問第三十二条ニ「各商人ハ開業ノ時及ヒ爾後毎年初ノ三ケ月内ニ又合資会社及株式会社ハ開業ノ時及ヒ毎事業年度ノ終ニ於テ」ト云フ事アリ、此中ニ合名会社ノ字見ヘズ、是レハ各商人ト云フ中ニ含蓄セルモノナリヤ
答然リ、第十七条ニ「会社及ヒ其他ノ法人カ商業ヲ営ムトキハ亦商業ニ付キ設ケタル規定ヲ遵守スルコトヲ要ス」トアリ、会社ハ特別ノ取除ケナキ以上ハ商人ト見做スモノトス
問次ニ「動産不動産ノ総目録」ト云フ文字アリ、総目録ト云フハ大抵何ノ位ノ者ヲ指スヤ
答其商品ノ種類ヲ統轄シテ挙グル名称ニテ可ナリ
問動産不動産ト言ヘバ商品ノミナラス自己ノ所有品ヲモ含蓄スルモノナリヤ
答然リ
又曰、余ガ独国留学中商法ニ付テノ講究ヲナシタル事アリシカ、此財産目録抔ト云フ者ハ左程詳密ノ者ニハ非ス、其財産目録ノ書方ニ依テ見ルニ先ツ債権ノ総額ヲ挙ゲ、次ニ債権ノ種類ヲ分クル位ノ極ク簡単ナル者ナリ、又タ家事費用ノ如キモ之ヲ詳密ニ書クヘキ者トスレハ、家ノ婦ノ釵迄モ記入セサルヘカラス、然レトモ此ノ如キハ寧ロ冗長ニ流レテ其必要ヲ見ズ、要スルニ最初商売ヲナス時分ニ是丈ケノ財産ヲ有スト云フ事ガ分レバ善シト云フ事ヲ標準トスレバ善シ本条ノ精神モ亦然リ
問財産目録ニ付テ尚疑義ノ点アリ、例ヘハ鉄道会社ノ如キハ其鉄道ニ要スルレール・土地・機関車・荷車等アリテ之ガ財産目録ヲ造ルニ困難ナリ、殊ニ倉庫ノ如キハ数百ノ雑物ヲ貯蔵スルモノナレバ之ヲ目録トナスニハ頗ル困難ナリ、何レ位ノ程度ヲ以テ記入スヘキヤ
答只此条ノ趣意ハ商人ノ資産ヲ明カニスルニ有レバ何番ノ倉庫ニハ何何ノ物品ガ貯蔵シアルト云フ其種類サヘ明瞭ナレバ宜シ、必スシモ一カラ十迄瑣末ノ者モ記入セヨト云フ精神ニハ非ズ、又タ鉄道ノ如キハ其会社ニ於テ鉄道ノ為メニ使用スル品物ノ金額ヲ見積リ置キ、財産目録ヲ作ラバ可ナリ、要スルニ資産ノ確実ナル事ヲ明瞭ニ知ル事ヲ得レバ足レリ
問署名ノ責ハ単ニ何々鉄道会社トスレバ宜キカ、又ハ重役ノ名前モ署名スルモノナリヤ
答其物ノ責任ヲ担当セル者ガ署名スレバ可ナリ、会社ノ如キハ三人以上ノ取締役アルニ非レバ全躰ノ事ヲ行フ能ハサル旨規定シアルモ其内一人ガ他ノ二人ヲ代表スル事モ為シ得ルナリ
問斯ル場合ニ其責任ハ他ノ取締役ニ於テモ同一ニ負担スヘキモノトスレハ権利義務モ亦タ同一ナリヤ
答然リ、其内一人ノ所為ハ他ノ者ニモ及ブモノトス、例ヘバ其一人ガ会社ノ為メニ百万円ノ負債ヲ起シタルトキハ他ノ二人ノ者モ亦其責任ヲ免ル事能ハザルナリ、即チ此二人ハ第三者ニ対シテ義務ヲ免ル事ヲ得ス
 - 第19巻 p.300 -ページ画像 
問第三十二条ノ第二項ニ「当時ノ相場又ハ市場価値ヲ附ス」トアリ、之ハ其時ノ相場ヲ参考ノ為メニ附シ置ケハ可ナルヤ
答是レハ畢竟財産目録ノ確実ナル事ヲ明瞭ナラシムル為メニナスモノナレハ只当時ノ相場ヲ附シ置ケバ可ナリ、故ニ公債証書ノ如キハ単ニ何種何枚ト目録ニ記載シ置キテ其総額ニ対スル相場額ヲ付ス可キノミ
問只今説明セラレタル場合商品ナレバ甚ダ計算上ニ都合宜ケレトモ、鉄道会社ノ重モナル財産ハ土地ナルガ此土地ノ価格ハ時々変更スルモノニテ之ヲ記載スルニ困難ナリ、是ノ如キ場合ハ如何スヘキ
答矢張リ其当時ノ価格ニ見積リ置ケバ可ナリ
問第三十九条第一項ノ終ニ「自己ノ帳簿ニ於ケル反対ノ記入ヲ以テ之ニ対抗シ能ハザルトキ」トアリ、如何ナル場合ヲ指スヤ
答例ヘハ甲者ガ自己ノ帳簿ヲ証拠トシテ乙者ニ向テ米ノ売掛代金ヲ請求シタル場合ニ在テ、乙者若シ米商人ナルトキハ甲者ガ何月何日ニ乙者ニ米ヲ売リタリト云フト雖、自己ノ帳簿上ニ於テハ一切此ノ如キ記載アル事ナシトカ又ハ該代金ハ既ニ支払ヒタリトカ云フ如ク自己ノ帳簿ヲ以テ反対ノ事実ヲ証スルヲ得サルヲ云フ、是レ商人ハ第三十一条ニ依リ右帳簿ヲ有セサル可ラザルノ義務アルニ因ルモノニシテ則チ相手方ノ商人タル場合ニ限ルモノナリ
問同条第二項ニ「之ト連絡セル記入アルトキモ亦同シ」トアルト如何ナル意味ナルヤ
答原告人カ売掛代金ヲ請求シタルトキニ其売渡シニ付テ必要ナル原告人ノ帳簿ニ付被告ヨリ異議ヲ述ヘス、即チ被告カ其記入ヲ援用シタル場合ニ於テ仮令適切ニ争点ニ関スル事実ノ記載ナキモ之ト関係セル事実ノ記載アル場合ニ於テハ、該帳簿ヲ以テ十分ナル証拠トスルヲ得ルヲ云フナリ
問第五章ニ代務人及商業使用人ナル文字アリ、此代務人ト使用人トハ如何ナル区別アリヤ、予ノ見ル所ニ拠レハ商業上代務人ナルモノハ本人同様ノ権限ヲ有スルモノニシテ使用人ハ幾分カ代務人ヨリ狭キ権限ヲ有スルモノナリ、殊ニ又代務人ノ使用人ト異ナル点ハ第五十一条ニ在テハ「使用人カ主人ノ為メニ訴訟ヲ為シ又ハ裁判所ニ出テ或ル行為ヲ為スハ特別ノ委任ヲ受ケタルトキニ限ル」トモアリ、又「使用人署名スルトキハ主人ノ代理タル旨ヲ書添フルコトヲ要ス」トモアリテ権限ノ狭キモノタル事ハ明白ナリ、然ルニ五十三条又ハ五十七条ニ在テハ大ニ其権限ノ広キヲ覚フ、故ニ大躰上代務人ト使用人トノ区別ニ付説明ヲ乞ヒ更ニ逐条ニ於テ質疑セントス
答代務人トハ主人ノ全権代理者タルモノヲ謂ヒ使用人トハ主人ノ命令ニ応シテ事務ヲ執行シ時トシテハ代理ヲモ為スモノヲ謂フ、故ニ代務人ハ明文ニモアル如ク主人ノ委任ニ依テ事務ヲ処スルモノニシテ使用人ハ契約上主人ヨリ傭レタル雇人ナリ、例セバ従来我国商家ノ慣習トシテ家々皆大番頭支配人又ハ手代ナルモノアリ、乃チ詳細ノ点ニ於テハ尚ホ他ニ異ナル所アルベシト雖、大躰上代務人ト使用人トノ別ハ大番頭支配人ト手代トノ間ノ区別ノ如クナルベシ、故ニ実際為ス所ノ仕事ニ於テハ代務人使用人トモニ差シタル相違ナシトス
 - 第19巻 p.301 -ページ画像 
ルモ其権限ニ於テ自ラ範囲ノ広狭ナキ能ハズ、例ヘバ彼使用人ニシテモ現在主人ノ目前ニ於テ己レガ為シタル事ニ付キ主人ヨリ別ニ咎モナク黙々看過シタル場合、若クハ主人ヨリシテ使用人ノ所業ヲ咎メ是ハ汝ノ権限外ニ亘ルモノナリト云フベキ時ニ於テ之ヲ言ハザレバ則チ特ニ主人ヨリ委任シタルモノトナルベシ、此場合ニ於テハ使用人ハ特別ニ許サレタル権限ヲ有スルモノナリト雖、之ニ反シテ大躰上代務人ト使用人トノ区別ヲ為ストキハ一ハ先刻陳述セル如ク全権代理者タルモノニシテ一ハ命令ニ依テ事務ヲ為スモノタルノ区別アルヲ至当トス
問第四十二条ノ末文ニ「但其委任ハ別ニ定式ヲ要セズ」トアルハ必竟書面若クハ口頭ニテ委任スルモ可ナリ、必ズシモ定式ヲ履ンデ委任スルヲ要セズトノ意味ナリヤ
答概シテ之ヲ云ヘバ明示ト黙示トノ区別アリ、而シテ其区別ハ後ニ契約ノ篇ニ規定シアルガ如ク明示トハ必ズシモ書面ヲ要スルモノナラズ、或ハ之ヲ口頭ニテスルモ可ナリ、又ハ唯タ首肯《ウナツキ》シタルノミニテモ可ナリトス、乃チ本法第二百七十六条ニ「明示ノ契約ハ書面口頭又ハ容態ニテ之ヲ結ブコトヲ得」トアルヲ見ルモ本条ノ意味タル別ニ代理人規則ト云フガ如キ格別ニ委任状ヲ要スルモノニアラザル事知ルベシ
問説明ニ依テ考フレバ所謂本条ノ代務人ナルモノハ商家ノ所謂支配人又ハ支店主ト云フモノヽ如シ、而シテ此支配人又ハ支店主ガ公然手形ヲ発行シ証書ヲ出ス場合ニハ其手形面又ハ証書面ニハ「代務人」トシテ記載スベキモノカ、或ハ又「支配人若クハ支店主」トシテ記載スベキモノカ、此点ニ於テ頗ル議論アレバ一応御説明ヲ煩シタシ
答或国ニ於テハ必ズ「代務人」ト書クベシト法律ニ規定シアリト雖、本邦ノ如キハ即チ然ラス、例ヘバ予ガ渋沢君ノ代務人タル事ヲ吩付ラレタルトキハ直ニ予ノ名前ニテ本尾敬三郎ト記載スルヲ可トス、而シテ此本尾敬三郎ナル者ガ渋沢君ノ代務人タル事ハ登記広告ニ依テ知ラルヽモノナレバ、登記ニ於テ其代務人ナルコトヲ認メタランニハソレニテ足レリ、故ニ本条ノ意味ハ敢テ代務人若クハ支配人支店主等ト書クヲ要セズシテ直ニ其人ノ名前ヲ記載スベキニアリ、之ニ反シテ使用人ハ別ニ記載スルヲ要スルナリ
問第四十四条ニ「数人共同ニ委任ヲ受ケタル代務ハ総員共同ニ非サレバ之ヲ行フ事ヲ得ス此代務ハ其一人ニ付テ消滅シタルトキハ他ノ各人ニ付テモ亦消滅ス」トアリ、此中「数人共同ニ委任ヲ受ケタリ」ト云フハ例ヘハ会社ニ於ケル取締役ノ如キヲ指スニアラズトスルカ又ハ是等ノ類ヲ指シタルモノトスルカ、予ヲ以テ之ヲ見レハ玆ニ一ノ会社ナル商業主人アリテ其会社ノ事務ヲ処弁スルガ為メニ社員中ヨリ撰バレタル取締役ノ如キハ仮令ヘバ五人ナリ七人ナリ皆其仕事ヲ為スモノナレハ即チ之ヲ代務人トスルモ可ナルベシト信ズ、果シテ然ルヤ
答否、会社ナルモノハ元来無形人ナルガ故ニ決シテ人ノ如ク手足ヲ有スル筈ナシ、故ニ玆ニ撰バレタル五人ノ取締役ハ即チ商業主人トナルナリ、然ルニ此五人ノ取締役各箇独立シテ会社ノ為ヲ計ルトスル
 - 第19巻 p.302 -ページ画像 
トキハ勢ヒ多忙ノ為メニ事務進捗セザル事ナシトモ云ヒ難シ、此場合ニ於テ始メテ玆ニ代務人ヲ置クモノトス、例ヘバ合資会社ノ如キ七人ノ社員アツテ会社ヲ代表ス、是レ商業主人ナリ、而シテ此人々ハ自ラ事務ヲ弁スル能ハザル時ニ於テ代務人ヲ撰ムモノニシテ、株式会社ノ如キモ亦之ニ同ジ、此代務人ナルモノハ全権代理者ナルガ故ニ主人ノ信任スル所ノモノヲ以テ之ニ吩付ル事ハ勿論ナリ、又其代務人タルヤ一人ニテモ独立スベシト雖、尚ホ之ニ一人ヲ加ヘテ仕事ヲ行ハシメナバ大ニ事業ヲ進捗スベシト考フルトキハ即チ二人ノ代務人ヲ命スル事アルナリ、是レ本条ニ規定シタル場合ナリ
問第四十六条中「代務ハ無期ニテモ又或ル時期ニ達シ若クハ或事件ノ生スルヲ限トシテモ又有期ニテモ」云々此中「或時期ニ達シ」ト謂ヒ「或事件ノ生スルヲ限トシテモ」ト謂フハ必竟有期無期ノ内訳トシテ数ユベキヤ、将タ全ク別モノトシテ之ヲ四ツニ数ユベキモノナリヤ如何
答是ハ四ツニ別ツ方然ルベシ、例ヘハ「予ノ悴ガ二十一歳ニ至ルマデ代務アレ」ト言フガ如キハ即チ「或時期ニ達シ」ト云ヘル文字ニ当ルモノニシテ、結局ハ有期ニ属スルモノナリ、何トナレバ若シ其悴ニシテ死亡スルコトナキ以上ハ他日必ズ二十一歳ニ達スルハ敢テ疑ヲ要セザルコトナリ、即チ其何レノ日ニ来ルヤハ判知セズトスルモ其期ニ至ルハ確然タル事実ナレバ是レヲ有期ノ中ニ置クモ可ナリ、今更ニ一例ヲ挙グレバ「予ノ老父ガ死去スルマデ代務アレ」ト云フガ如キモ固ヨリ有期トスルヲ得ベシ、何トナレバ例令其何レノ日ニ於テ死去スルヤハ預メ判知シ難シト雖、他日必ズ其期ノ至ルハ必定ナレバナリ、之レニ反シテ「或事件ノ生スルヲ限トシテモ」ト云フハ是レゾ純粋ノ無期ニシテ有期ナルモノナリ、何トナレバ若シモ如此事件ノ出来スル事アラバ其際ニ至テ代務ヲ解クベキモ、其事件ノ生セサル限リハ何時マデモ代務ヲ委任スルト云フ意味ナレバナリ、以上ノ二ツハ多少有期無期ト類スルアルモ直チニ有期若クハ無期ト云ヘル文字ト混スベカラザルガ故ニ之ヲ別立シテ四ツトスルハ誠ニ適当ナル事ナルベシ
問第四十九条第二項ニ「相手方ニ於テ代務委任ノ欠点ヲ知テ為シタル取引ハ双方ニ在テ無効タリ」トアリ、此双方ナル文字ノ意味ハ本条第一項ニ拠ルトキハ代務人ガ委任ヲ踰越シテ取引ヲ取結ビタル場合云々トアリ、又第四十五条ノ二項ニ従ヒテ商業主人其義務ヲ負フベキトキハ主人モ亦之ガ責ニ任セサル事ヲ得ズトアリ、果シテ然ラバ此双方ナル文意ハ相手方ト商業主人トノ間ヲ指シタルモノカ、将タ商業主人ト代務人トノ間ヲ指シタルモノニヤ、此点ニ付キ御説明ヲ乞フ
答勿論第三者ヘ対スルモノハ商業主人ト代務人ナレバ商業主人及代務人ヲバ之ヲ一方ト看做シ之ニ第三者ヲ加ヘテ双方ト別ケタルモノナリ、且ツ其取引ノ結果ニ於テモ先方ニテ其事情ヲ知リツヽモ尚ホ其間ニ契約ヲ結ビタルモノハ無効ナリトノ意ナリ
問第五十一条「使用人ガ営業ノ全部若クハ一分ノ為メニ置カレタルト否ト又ハ或種ノ取引若クハ一箇ノ取引ノ為メニ置カレタルト否トヲ
 - 第19巻 p.303 -ページ画像 
問ハズ其取引及行為ニ因リテ主人独リ権利ヲ得義務ヲ負フ」トアリ例セバ主人ヨリ総躰ノ仕事ヲスルガ為メ又ハ一部分ノ仕事即チ帳簿ヲ記載シ金銭ヲ受取ルガ為メニ使用人ヲ置カレタルトキハ、其取引及ヒ行為ニ対シテハ主人独リ権利ヲ得義務ヲ負フベシトノ意ナリ、然ルニ若シ此金銭ヲ受取ルガ為メ置カレタル使用人ニシテ其他ノ仕事ヲ行ヒ或ハ帳簿ニ記入シ或ハ物品ヲ売ル等ノ事アルモ尚ホ主人ニ於テ其権利ヲ得、義務ヲ負フベキモノトスルヤ如何
答例セバ予カ商業主人トナリテ使用人ヲ置クトセンニ、仮令全部ノ為メニ之ヲ置クモ一部ノ為メニ之ヲ置クモ又ハ一箇ノ取引即金銭ナラバ金銭ヲ受取ル為ノミ置クト否トヲ問ハズ使用人ノ為シタル事ニ付テハ主人ニ権利義務ヲ帰スルモノナリ、故ニ其使用人ニシテ単ニ一部ノ事ノミ為スベシト命セラレタリト雖敢テ其事ノミニ拘泥スルヲ要セザルナリ、之ニ反シテ全部ノ為メニ置カレタル使用人ニシテ一部ノ事ヲ為スモ決シテ差支ル所ナシ、而シテ本条中「通常其担当職分ノ範囲内ニ属スベキ」云々トアリ、此範囲ハ何レヨリシテ定ムルカト云フニ特別ニ之ガ委任ヲ受ケザルモ通常使用人タルノ職分ニ属スルモノナリ、即チ主人ト使用人トノ間ニ於テ是々ノ事ノミ行フベシ、是々ノ事ハ為スベカラズト命セラレタリト雖元来使用人ノ職分タル範囲内ニ於テ其他ノ事ヲ行フハ決シテ不都合ナシ、但此範囲外ニ亘ル事ハ一切為スマジキナリ、然而シテ此使用人ノ通常担当職分トシテ見ラルベキ範囲ヲ定ムルハ何ニ依テスルカト云フニ是等ハ決シテ法律ニ依テ定ムベキモノニアラズ、旧来ノ慣習ニ依テ定ムルヲ可トス、例ヘバ旧来ノ慣習ニ於テ手代ノ為スベキ職分ハ是々ノ範囲内ト定メ其範囲内ニ於テ為シタル事ハ凡テ有効トナスガ如ク今後ト雖其範囲内ニ於テ職分ヲ行フ事ハ決シテ差支ナキモノトスルナリ
問御説明ニ依テ考フルニ全部ニ在テモ一部ニアツテモ之ヲ行フ事ヲ得ルトスルトキハ恰カモ其制限ナキモノヽ如ク、亦此条中殊更ニ「全部若クハ一分ノ為メニ置カレタルト否ト又ハ或種ノ取引若クハ一箇ノ取引ノ為メニ」云々ト記シタル文字ヲ打消シタルモノヽ如シ、如此ナレバ其範囲ノ内外定マラザルモノニテ人ヲシテ此点ニ疑団ヲ生セシムルノ恐アリ
答否決シテ範囲不定ナルニアラズ、既ニ是々ノ範囲アリ、其範囲内ニ於テハ仮令金銭ヲ受取ルガ為メニ置カレタル使用人トスルモ尚他事ヲ取扱フモ敢テ不都合ト称ス可ラズ、即チ其範囲外ニ逸セザル限リハ仮令一部ノ事ヲナスモ全部ノ事ヲナスモ敢テ問フ所ニアラザルナリ、唯本条ニ於テ最其解釈ニ苦ム点ハ職分ノ範囲ト云フ事ナリ、然レトモ予ノ見ル所ヲ以テスルニ此範囲タル理論上之ヲ定ムルコトハ甚タ困難ニシテ且法律上之ヲ定メズト雖トモ深ク其実際ニ付テ観察スレバ亦最覩易キモノナルベシ、例セハ越後屋ノ店ニ於テ売買ヲ為スニ当リ、手代ノ為スベキ仕事ハ是々ノ範囲内ニ居リ大番頭ノ為スベキ仕事ハ是々ノ範囲内ニ居ルト定マリタル以上ハ容易ニ其範内《(囲)》ヲ超越スルコトナカルベシ、例ヘバ彼小僧ガ得意先又ハ其他ノ場所ヨリ持参シタル金子ヲ請取リ之ニ請取証ヲ送ルガ如キ事務ハ決シテ通常ノ丁稚ニテハ為シ能ハザル所ニシテ、夫レ夫レ其事務ヲ受持ツモ
 - 第19巻 p.304 -ページ画像 
ノアルガ如ク旧来ノ慣習ニ於テ整然其職務ノ範囲ヲ知ルヲ得ベキナリ、是ヲ以テ本法ニ於テハ斯カル職務ノ範囲ヲ定ムルコトナク旧来ノ慣習ヲ適用スベシトノ主意ニ外ナラズ
問成程店先ニ於ケル職務ノ範囲ハ右ノ説明ニ依テ差支ナカルベシ、然ルニ若シ他出セル場合ニ於テ予ハ某店ノ手代ナリト称シテ或売買ノ取引等ヲ為シタリトセバ如何、勿論其者ハ某店ノ手代ニハ相違ナキモ如此ノ取引ヲ為シ又ハ取引ノ契約ヲ為スガ如キハ未ダ本店ノ命スル所ニアラズ、亦本店ノ知ラサル所ナリ、然ルニ一方即チ第三者ニ於テハ直ニ右取引ノ契約ニ対シ本店ニ向テ其実行ヲ促シタルモノトセバ其間大ナル不都合ヲ生ズベシ、乃チ是等ノ場合ト雖尚其第三者ニ対スル取引ヲ有効ノモノト認ムベキヤ
答斯カル場合ト雖トモ第三者ハ必ズ其取引ヲ有効ノモノト認メザルベカラズ、但此場合ハ単ニ是マデ双方取引ヲ為シタル得意先ニ対スルモノト看做スベシ、例セバ予ガ店ニ一人ノ手代アリ、此者平生ノ得意先ヨリ注文ヲ受ケ品物ヲ納メントテ往キタル時先方ニテハ品物ノ代価ヲ払ヒ且其手代ニ向テ尚ホ此他ニ注文スベキモノアリ、幸ヒ汝ニ其注文ノ向ヲ告グベケレバ右ノ注文ヲ承諾スベシト命シタル場合ニ其注文ヲ受ケタルガ如キハ是レ有効ナリ、又其時手代ニ向ヒ幸ヒ汝ノ来ルアリ此金ヲ渡スベケレバ直ニ持帰ルベシト命ジタル場合ニ之ヲ持帰リタルガ如キ是亦有効ナルベシ、以上ノ如ク平生取引ヲ為シタル得意先ニ於テ其契約又ハ取引ヲ為シタル如キハ決シテ之ヲ無効トスベキモノニアラズ、之ニ反シテ若シ其手代ガ主人ノ命ニ依テ或官省ニ往キタル途中他ノ関係モナキ家ニ立寄リ己レノ意ヲ以テ取引若クハ契約ヲ結ビタリトセンカ、是等ノ取引ハ無論効ナキモノタルベク亦其契約ハ必ズシモ実行スルヲ要セザルモノナルベシ
問第五十二条中「又ハ他所ニ送遣セラレタルトキ」トアルハ如何ナル場合ヲ指シタルモノニヤ、漠然トシテ解シ難ケレバ御説明ヲ乞フ
答単ニ他所ニ送遣セラレタルトキト云フトキハ或ハ銀行ノ手代ガ他ノ掛リニ往キテ手形ヲ請取ルガ如キモ他所ニ送遣セラレタルモノト謂フベク、亦某店ノ手代ガ近隣ニ掛取リニ往クガ如キモ等ク他所ニ送遣セラレタルモノト謂フヲ得ベシ、然レトモ本条ノ意タル単ニソレノミニ止ラズ或ハ越中富山ノ薬店ヨリ年々手代ヲ全国ニ向ケテ発スルガ如キモ之ヲ称シテ他所ニ送遣セルモノトスルナリ、其他尚一二ノ例ヲ挙レバ或地方ニ反物市ノ立タルニ付キ仕入ノ為メ手代ヲ送遣セルガ如キ、或ハ又会社ニ於テ機械仕入ノ為メ人ヲ欧羅巴ニ送遣セシガ如キハ皆悉ク他所ニ送遣セラレタル場合ナリ
問若シ其場合例ヘバ大阪紡績会社ガ其糸ヲ販売スルガ為メ人ヲ東京ニ送遣シタルトキ、其人ハ自己ノ意ヲ以テ悉ク其糸ヲ廉価ニテ販売シ尚其販売シタ相場ニテ注文ヲ受ケ取引ノ契約ヲ為シタル場合ニハ、此契約此取引ヲ以テ直ニ紡績会社ノ為シタル契約取引ト看做スベキヤ如何
答然リ
問若シ其契約セシ高ニシテ些少ナラバ兎モ角モ苟クモ会社ガ一年中ノ出来高ニ当ルモノヲ廉価ニテ取引セント約シタルガ如キ場合ハ会社
 - 第19巻 p.305 -ページ画像 
ノ損失甚シキモノナリ、故ニ此際右ノ手代ニ於テハ斯カル大取引ノ契約ヲ為スベキ権利ヲ与ヘタルモノニアラズト主張スルモ其効ナキヤ如何
答其効ナシ、然レトモ唯第三者良心ニ訴ヘテ幾何カ其間ニ猶予否相談ノ附クベキモノト考フ
問若シ第三者ニ於テ不良心ナルトキハ如何
答此場合ハ結局主人ノ善ク手代ヲ吟味シテ送遣セザリシ過失トナリ、第三者ニ対シテハ其契約ヲ実行セザルベカラズ、然レトモ若シ其手代ニシテ不良心ヲ以テ為シタルノ証跡アラバ主人ハ其手代ニ対シテ充分ニ損害賠償ヲ請求シ得ベシト雖、必竟其主人ガ深ク手代ヲ信用スルノ余リ斯カル珍事ヲ起スニ至リタルモノトシテ自ラ警メザルベカラザルナリ
問凡テ何事ニ限ラズ確然信用スルニ足ルノ人物ヲ撰ンデ己レノ為スベキ事務ヲ代理セシムベキハ勿論ナルガ、今若シ主人ガ或品物ヲ仕入レン為メ人ヲ遠方ニ送遣シタル場合ニ其人ハ全ク其品物ヲ仕入タルニハ相違ナキモ、中途ニシテ利益ノ為メ之ヲ主人ニ計ラズシテ売リタランニハ其為シタル事ヲ以テ其人ノ為スベキ職分ノ範囲内ト看做スベキヤ
答其事柄ガ明白ニ分リタルトキハ是レヲ範囲外トスルヲ得ベシ、然レトモ若シ其人ニシテ之ヲ言ハズ、又其事柄ノ分明ナラザルニ於テ強ヒテ咎ムル事能ハズ
問第六十三条第二項ニ「自己ノ計算又ハ第三者ノ計算ニテ取引ヲ為シタルトキ但些少ノ取引ハ此限ニ在ラズ」トアリ此中「些少ノ取引」トハ如何ナルモノヲ指スヤ
答「些少」ノ範囲ハ何人ニモ容易ニ解シ難キ所ナレト、必竟スルニ其時ノ状況ニ依テ些少ノ取引タルト否トヲ判別スルノ外ナシ、例セバ同シ一反ノ浴衣地ヲ取引スルモ之ヲ越後屋・大丸ノ如キ呉服店ヨリ見ルトキハ小取引ニ属スベキモ、九尺二間ノ呉服店ヨリ見ルトキハ決シテ小取引トハ称スベカラズ、之ト同ク其取引ノ些少ナルト否トハ其店ノ地位若クハ其時ノ状況ニ依テ判別スルニアルナリ
問本条ニ対シテ予ノ恐ルヽ所ハ彼米屋糸屋ノ如キ委托販売ヲ受ケテ商売スル店ニ於テハ可成ク其使用人ノ自己ノ計算ヲ以テ取引スル事ヲ禁スルコソ取締上ニ大切ナル事ナルベシ、而シテ是等ノ事ハ少シク手堅キ家ニ於テハ常ニ定メ置ク事ナレトモ若シ此法律ニ於テ自己ノ計算ヲ以テ取引スルヲ許スガ如キ事アラバ大ヒニ旧来ノ慣習ト抵触スルモノナリ、苟クモ如此ナラバ寧ロ旧慣ノ此法ニ優レルナキヤノ感ヲ生ズベシ如何
答本条ニ対スル議論ハ頗ル面倒ナルモノニテ最初此条目ヲ削除セシ事アレド、若シ全ク之ヲ削除スルニ於テハ或ハ酷ニ失スルノ恐レアルガ為メ遂ニ此条ヲ設ケタルモノナリ、例セバ何万石ト云多量ノ米ヲ売買スル店ノ手代ニシテ僅カニ五升六升ノ米ヲ自己ノ計算ニ依テ売買スルモ之カ為メ直ニ解任スルハ甚タ酷ニ失スルモノナラン、左リトテ強チ此法律ニ依テ自己売買ヲ許スト云フニハアラズ、乃チ此場合ハ主人ト手代トノ間ノ契約ニ依リ仮令一俵ナリトモ自己ノ計算ニ
 - 第19巻 p.306 -ページ画像 
テ売買スル事ヲ禁シ万一之ヲ犯ス事判然セバ是々ノ処分ニ及ブベシト兼テ定メ置クコソ当然ナレ、即チ此ノ契約サヘ守ルニ於テハ万々本条ニ掲ケタルガ如キ事ハ起ルマジト信ズ
問本条第四項ニ「不当ノ挙動、又ハ不品行ノ為メニ指斥ヲ受ケタルトキ」トアリ、此中不当ノ挙動ト云フハ例ヘバ主人ニ向テ逆言スルガ如キヲ言フカ、又ハ其他ニ含蓄スベキモノアリヤ、而シテ「不品行ノ為メニ指斥セラレタルトキ」トハ或一二ノ人ノ為ニ指斥セラレタルヲ云フヤ否、御説明ヲ乞フ
答之ヲ換言セハ人ノ擯斥ヲ受ケタルトキト云フ意味ニ過キズ、而シテ其擯斥タル単ニ一二ノ者ノ擯斥シタルガ如キハ指斥シタリト云フ部内ニハ属セザルナリ、例セバ店ノ丁稚等ガ一二名ニテ某番頭ハ近来夜遊ヲ為シテ不品行ヲ極ムルガ故ニ彼ノ言フ所ハ少シモ信ズルニ足ラズ抔喋々スルモ是ヲ以テ直ニ某番頭ヲ解任スベキ理由トハセザルナリ、又不当ノ挙動ト云ヘル文字ノ範囲ハ予輩ト雖之ヲ解スル事能ハズ、兎ニ角ニ不当ノ挙動ト云ヒ不品行ト謂ヒ法文ノ上ヨリ見ルトキハ甚タ漠然タルモノナレトモ実際ニ付テ考フルトキハ多クハ其前ノ判決例ニ拠テ決スルモノヽ如シ、乃チ我邦ニ於テモ善ク実際ニ付テ調査ヲ遂ケタランニハ必ス其拠ルベキモノナクンバアラズ、但シ欧羅巴ノ所謂判決例ノ如キ採テ以テ標準トスル程ノモノニハアラジ左レバ其場合ニ於テハ宜シク之ヲ酌量スベキノミナラズ我国ノ如キハ古来ノ慣例モアル事ナレバ適宜ニ之ヲ解釈シテ正当ナル判決ヲ下ス事ヲ要ス、如此ニシテ漸次施行シ居ル間ニハ必ズ最良最正ノ判決例ヲ得ル事アルベシト信ズルナリ
問第六章ノ全躰ニ於テ商事会社ト云ヘル文字ハ如何ナルモノヲ指スカ或ハ銀行ノ如キモノヲモ含蓄スルヤ否
答商事会社ハ商業ヲ営ム為ニ設立シタル会社ナリ、而シテ商業ヲ営ムトハ本法第九条ニ規定シタル如キヲ云フ、例セバ合名銀行・合資銀行・株式銀行ノ如キハ皆商事会社ノ内ニ属スルモノナリ、但シ国立銀行ハ特ニ定メラレタル条例ニ拠ルヘキモノナリ
問然ラバ其私立銀行(合名銀行・合資銀行・株式銀行等)ニ於テハ凡テ本法ニ由テ施行スルトキハ別ニ私立銀行条例ヲ要セズシテ差支ナキヤ如何
答例ヘバ合名ナリ株式ナリ凡テ私立銀行ノ営業上ヨリ之ヲ見ルトキハ強チ此法ニ由ルノ可否如何ハ判定セスト雖トモ、若シ此法ニ由ラシムル事ノ不都合ナルトキニハ別ニ私立銀行条例ヲ設ルノ必用アリ、故ニ予ノ考ニテハ銀行ノ組織上ニ付テ幾分カ別ニ条例ヲ要スル場合モ起ルベシ、然リト雖若シ此条例ノ起ラザリシ時ハ如何ト云ハヾ此場合ニハ無論本法ニ由ルノ外ナカルベキナリ
問第七十条ニ「会社ハ商号ヲ設ケ社印ヲ製シ定マリタル営業所ヲ設クルコトヲ要ス」トアリ、此中社印ノ事ニ関シテハ第七十一条以下ニモ規定シアレド、要スルニ社印ハ会社ノ権利義務ニ関係スルモノナリ、然ラバ其社印ニシテ若シ会社ノ代理人若クハ頭取ノ名前トナリ居リタランニハ、彼公債証書等ニ対スル社印ノ効力ハ全ク其会社ヨリ代理人若クハ頭取ニ委任シテ事務ヲ行ハシメタルモノト看做スベ
 - 第19巻 p.307 -ページ画像 
キヤ如何
答社印ノ用ヰ方ニ付テハ第七十二条ニ規定シアル如ク、官庁ニ宛テタル文書又ハ報告書・株券云々即チ是等ノモノニ対スル場合ニ於テ用ユベキモノトスルナリ、此中「会社ニ於テ権利ヲ得義務ヲ負フベキ一切ノ書類ニ之ヲ用ユ」トアルハ如何ナル義ナリヤト云フニ、将来若シ会社ト称スル法人ヲ以テ第三者ニ向ハントスル場合ニハ必ズ此社印ヲ用ユベキヲ云フナリ
問第七十三条ノ場合ハ或ハ会社ノ代表者タル人ニアラザレバ「特立《(独カ)》ノ財産ヲ所有シ又独立シテ権利ヲ得義務ヲ負フ云々」ノ効力ナシトスルカ、或ハ又会社ガ一ノ無形法人トシテ右等ノ権利義務ニ於テ効力ヲ有スベキモノトスルカ如何
答従来ハ会社ヲ以テ一ノ法人ト認メザリシガ故ニ会社ノ権利義務ニ関スル事ハ皆其会社ノ代表者ニ帰シタルモノナルガ今日ニテハ既ニ市町村ノ如キ公ケノ法人アリ其他凡テ一団体ヲ法人ト看做ス事トナリタルガ故ニ会社ノ如キモ法人トシテ権利義務ヲ有スル事ヲ得ルナリ即チ切言スレバ会社ヲ以テ一己人ノ如ク看做シ得ルニ至レルナリ
問然ラバ其会社ヨリ訴証《(訟)》ニ関スル事件ヲ他人ニ向テ委任状ヲ発シ、之ガ処置ヲナサシムル事ヲ得ベキヤ
答然リ
問或場合ニ於テ会社ガ代表者ヲ立テヽ事務ヲ処分スルモ差支ナキヤ
答然リ、通常人ガ代理人ヲ立ルト些シモ異ナル所ナシ、是ハ必竟人事上ニ於ケルモ裁判上ニ於ケルモ同一ナリ
問既ニ会社ヲ以テ一ノ法人トナキストキハ、仮令一己人ニ於テハ実印又ハ認メ印アリトスルモ、会社ニ於テハ本ヨリ単ニ会社ノ実印一ツニ限ルヲ至当トスベキヤ如何
答通常ハ一印ナリ、即チ此一印ハ市町村役場ノ証明ヲ経テ裁判所等ヘモ届置クモノナレバ成可ク此一印ヲ用ユルヲ当然トス、然レトモ或場合ニ於テハ便宜上認印ヲ用ユルモ法律上差支アル事ナシ
問第七十二条ノ文中「又ハ報告書」ト云フ事アリ、此「報告書」ナル三字ハ上ノ「ニ宛テタル」ノ数字トハ全ク関係ナキモノナラン如何
答然リ、全ク別物ナリ
問第七十三条ニ「動産不動産ヲ取得シ」トアリ、然レトモ取得ノミナラズ他人ニ之ヲ譲渡スコトモ出来得ヘキ者ナルヤ
答出来得ルナリ
問第七十四条ニ「二人以上七人以下」トアルハ二人モ七人モ総テ数ノ中ニ入ルベキモノナルヤ
答解釈ノ通リナリ
問同条ノ末ニ「責任其出資ニ止マラサルモノヲ合名会社ト為ス」トアリ、然ラバ合名会社ハ無限責任ノ如ク考ヘラルヽガ如何
答然リ、無限ノ責任ヲ負フ者ナルニ付キ負債償却ノ場合ニハ悉皆ノ財産ヲ其債主ニ差出サヽル可ラズ
問第七十五条ニ「商号ニハ総社員又ハ其一人若クハ数人ノ氏ヲ用ヒ之ニ会社ナル文字ヲ附ス可シ」トアリ、今日世間ニテハ合名商社トモ言フ可キ者ハ或ハ双方ノ文字ヲ取テ之ヲ用ヒル者アリ、例ヘハ井上
 - 第19巻 p.308 -ページ画像 
ナル人ト佐々木ナル人ガ組合ツタ時分ニハ井佐商店ト云フガ如キ者アリ然レトモ今後ハ井上トカ佐々木トカ云フ様ニナスベキ者ナリヤ
答合名会社ニテハ必ズ氏ヲ用ヒザルベカラズ
問第八十二条ニ「六ケ月内ニ開業セザルトキ」トアルハ普通ニ従来用ヒ来レル開業ノ文字ハ店ヲ開キテ商売ヲ始ムルコトニナリ居ルカ、本文ノ意味ハ然ラズシテ単ニ仕事ニ着手スルト云フ意味ナリヤ
答然リ斯ク解セラレテ差支ナシ、例ヘハ鉄道会社ナラバ鉄軌ヲ布設スレバ運転ヲナサヾルモ開業ナリ、工業会社ナラバ其工場ヲ建築スレバ則チ開業ナリ
問然ラバ開業ノ文字ハ工業会社ノ場合ニハ起工ト解シテ可ナルガ如シ如何
答解釈ノ通リナリ
問第八十四条ニ「会社契約規定ニシテ会社ノ施行セサリシ者ハ社員又ハ第三者ニ対シテ其効用ヲ致サシムルコトヲ得ス」トアルハ、一例ヲ挙レバ会社ハ其傭人ヨリシテ若干ノ身元金ヲ取ルベキ事ヲ会社契約ニテ定メタリシニ、会社ガ之ヲ取ラサリシ時ハ其雇人ガ不良ノ所行ヲナシテ会社ニ損失ヲ与フルモ社員又ハ第三者ニ対シテ其効用ヲ致サシムル事ヲ得ズト云フガ如キモノナルヤ
答然リ、其適例ノ如シ
問第八十六条ニ「会社ノ目的ニ反セサルモ之ニ異ナル業務及ヒ事項ニ付テハ業務担当ノ任アル総社員ノ承諾ヲ要ス」トアルハ、社員全躰ヲ指スニ非スシテ業務担当ノ任アルノミヲ指ス事ハ明カナレトモ其意味ハ如何
答其著ルシキ区別ヲ言ヘバ会社ノ目的ハ元来郵船会社ヲ起スノ目的ナリシモ之ヲ改メテ鉄道会社ニナスト云フガ如キ場合ハ其社員全躰ノ承諾ヲ要セザル可ラス、何トナレバ会社ノ目的ニ反スレハナリ、然レトモ本条ノ場合ハ目的ニハ反セサルモ之ニ異ナル業務及ヒ事項トアルヲ以テ、例ヘバ郵船会社ガ日本ノ沿海ノミヲ航海スル事ニ定メタリシニ之ヲ延長シテ朝鮮又ハ魯西亜ニ迄航路ヲ開クト云フ場合ハ則チ本条適例ノ場合ナリ、何トナレバ此ノ如キハ業務ニ属スル者ニシテ会社ノ目的ニ反スル者ニ非レバナリ
問御説明ニヨリ一応瞭解セリ、然レトモ異ナルト云フ文字ハ頗ル解シ難シ、例ヘバ米ヲ買フ場合ニ委托販売ヲナス者ガ仕切リヲナシタルトキハ是レ異ナル目的ナリ、又石炭商ガ山ヲ採掘シテ石炭ヲ売出スガ如キ是レ亦異ナル目的ナリ「目的ニ反セサルモ之ニ異ナル」ト云フ文字ノ区域ハ何レ迄ニ及ブモノナルヤ
答畢竟是ハ事実ノ問題ナルガ、大躰ハ質問ノ如ク異ナルト云フ文字ニ重キヲ置カズシテ、例ヘバ石炭ヲ掘テ之ヲ内地ニ於テ売ルト云フ目的ナリシニ之ヲ上海ニ於テ売ルトキノ場合ノ如シ、詰リ売ル所ノ目的ハ異ナルモ事業ガ同一ナレガ《(バ)》可ナリ
問第九十一条ニ「業務担当ノ任アル各社員ハ代務ノ委任又ハ解任ヲ為ス権利アリ」トアリ、然ラバ例ヘバ業務担当ノ任アル社員ガ二人アリトスレバ其一人ノ社員ガ代務ノ委任又ハ解任ヲ為スコトヲ得ルヤ
答然リ
 - 第19巻 p.309 -ページ画像 
問然ル時ハ一人ノ社員ハ之ヲ解任セントシ、他ノ一人ノ社員ハ解任セザラントスルガ如キ場合起ルベシ、其時ハ如何
答左ル場合モ起ル可ケレド、畢竟本条ノ精神ハ之ヲセヨト命令スルニ非スシテ為スノ権利アリト云フニ止マルナリ、故ニ各社員ノ意見異ナルトキハ其会社ノ重立タル役員ノ決定ニ任スレバ可ナリ
問第九十二条ニ「各社員ハ会社ニ対シ」云々トアリ、此各社員トハ総躰ノ社員ヲ指スモノナリヤ答然リ
問既ニ業務担当ノ社員ヲ定メ置キ乍ラ、自分モ亦之ト同様ノ勉励注意ヲ為ス責務アリトスレバ、担当セザル社員ノ責務ハ割合ニ重キ者ノ如シ如何
答否ナ本条ノ精神ハ第三者ニ対シテ同一ノ責務ヲ負フニ非スシテ会社ニ対シテ負フ者トス、抑モ総社員ハ会社ノ為メヲ図ルガ原則ナリ、故ニ其会社ノ不利益ヲ知リ乍ラ之ヲ放任シ置キタル場合ハ同一ノ責任ヲ負フト云フノ精神ナリ
問第九十五条ニ「年百分ノ七ノ利息ヲ払ハシムル」云々トアリ、年利百分ノ七ハ普通ノ利ヲ標準トシタル者ナルヤ、外国ニテモ百分ノ七位ノ利ナルヤ
答是ハ民法ニ百分ノ六ト云フ事アルニ付其比較ヲ以テ商事ハ百分ノ七トナシタルナリ、外国ノ例ヲ以テ言ヘバ外国ノ利息ハ我邦ヨリモ余程低廉ノ者ナリ、併シ百分ノ七ノ利息ハ我邦ニテハ決シテ高キ者ニ非ズ、本条ノ場合ノ如キハ別段約束ナキ場合ニ此利息法ニ依ル者ナレバ別ニ約束ヲナシ置カバ此ノ制限ニ依ラザルモ可ナリ
問第九十八条第二項ノ「社員ノ相続人又承継人」トアルハ如何ナル意味ナリヤ
答通常承継人ト言ヘバ自己ノ所有財産ヲ他人ニ譲渡ス時ヲ謂フ者ナレトモ、本条ノ所謂承継人ハ狭キ意味ニ解シテ死亡シタル社員ノ財産ヲ相続シタル者ヲ相続人ト言ヒ、遺言ニ因テ他ノ者ガ相続スル場合ヲ指シテ承継人ト言ヒシナリ
問「承諾ヲ得ルニ非レバ」トアル其必要ハ如何
答合名会社ノ社員ハ相互ニ其人ヲ信シテ成立ツ者ナレバ、若シ他人ノ入社スル場合ハ其人ノ信用上ニ付キ総社員ノ承諾ヲ要スルノ必要アルナリ
問然ラバ次ノ第九十九条ノ如キハ承諾ヲ得ズシテ譲受ケタル場合ヲ謂フ者ナルヤ
答然リ
問第百三条ニ「社員カ会社ノ為メニ受取リタル金銭ヲ相当ノ時日内ニ会社ニ引渡サス又ハ会社ノ金銭ヲ自己ノ用ニ供シタルトキハ」云々トアリ、大躰ハ明瞭ナレトモ其精神ニ付テ少シク疑義アリ、何トナレバ若シ社員ガ使ヒ込ミヲナシテ会社ニ引渡サヾルモ百分ノ七ノ年利ヲ払ヘバ善トナストキハ少シク緩慢ニ流ルヽノ恐レナキヤ、勿論下ニ「如何ナル損害ヲモ賠償スル義務アリ」トアレトモ此辺ニ少シク懸念ナキ能ハズ如何
答本条ハ社員ガ金銭ヲ勝手ニ使用シテモ善シ会社ニ引渡サヽルモ善シ
 - 第19巻 p.310 -ページ画像 
ト云フコトヲ定メタル者ニ非ス、例ヘハ刑法ニ「人ノ所有物ヲ窃取シタル者ハ窃盗ノ罪ト為シ二月以上四年以下ノ重禁錮ニ処ス」トアルモ、重禁錮トナレバ窃取ヲ為スモ善シト云フノ意味ニ非ズ、畢竟引渡ヲナサヾル時ハ是丈ケノ処分ヲ為スト云フニ止マルナリ、故ニ百分ノ七ノ利息ヲ払ハシムルハ自己ノ用ニ供スル為メ使用シタル罰金ト見為スベク、尚ホ夫レガ為メニ損害ヲ蒙リタル場合ハ賠償ヲ請求スル事ヲ得ベシ
問第百十一条ニ「業務担当ノ任アル社員ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ第三者ニ対シテ其効ナシ」トアルハ如何
答此ノ代理権ナル者ハ其社員ガ総社員ヨリ撰ハレテ業務担当人トナリタル者ナレバ宛モ主人ノ如キ者ナリ、故ニ社員ノ全躰ガ業務担当ノ任ヲ其者ニ与ヘタル以上ハ仮令ヒ其代理権ニ対シ制限ヲ加フルトモ第三者ニ対シテ此制限アリシ事ヲ主張シテ会社ガ其責ヲ免ル事能ハズト云フ意味ナリ
問第百十二条ニ「会社ノ義務ニ付テハ先ツ会社財産之ヲ負担シ次ニ各社員其全財産ヲ以テ不分ニテ之ヲ負担ストアリ」不分ノ意味ハ如何
答之ハ連帯ト云フ意味ナリ、例ヘバ会社ガ一万円ノ負債ヲ払フニ当リテ会社ノ財産ハ五千円ナリシトキハ、残リ五千円ハ社員総躰ガ連帯ニテ五千円ヲ払ハサルヘカラズト云フ意味ナリ
問第百十三条ニ「社員ニ非スシテ商号ニ其ノ氏ヲ表スル事ヲ承諾シ若クハ之ヲ表スルニ任セ」云々トアルハ、前第七十六条ノ末項ニ「但退社員ノ氏ヲ商号中ニ続用セントスルトキハ本人ノ承諾ヲ受クルコトヲ要ス」トアル場合トハ異ナルヤ、又タ商号ヲバ譲リ渡スト云フ事ハ此中ニ含マザルモノナリヤ
答商号ヲ譲リ渡ス事ハ此中ニ含蓄シ、又初メヨリ全ク関係ナキ者モ亦含蓄シ居レリ
問第二十八条第一項ノ規定ニ依レバ一己人ガ商号ヲ他人ニ譲リ渡シタル時特約ナキ場合ハ其営業ノ事ニ付テハ関係ナシトアルニ合名会社ハ無限ノ責任ヲ負フトハ責任ニ軽重アルモノヽ如シ、其理由如何
答一己人ノ場合ハ其人ノ信用ヲ必要トセザレバナリ、例ヘバ三井ナル者ガ越後屋ノ商号ヲ用ヒルモ又ハ三河屋ノ商号ヲ用ヒルモ随意タリト雖モ、合名会社ニ於テハ例ヘハ三井会社ト云フ時ハ三井ナル者ガ此会社ヲ組織スルト云フ事ヲ公衆ガ認メ其人ヲ信用シテ取引ヲ為ス者ナルカ故ニ責任ガ重キ訳ナリ
問同条ノ末文ニ「又ハ事実社員タルノ権利義務ヲ有スル者ハ社員ト同シク連帯無限ノ責任ヲ負フ」トアル第九十九条ノ「社員ヨリ他人ニ為シタル持分ノ譲渡ハ会社及ヒ第三者ニ対シテ其効ナシ」トアルニ抵触ノ恐レナキカ如何
答第九十九条ハ権利ノ無効ナル事ヲ規定シタル者ニテ、例ヘバ甲者ガ乙社員ノ持分ヲ譲受ケタルヲ以テ会社ノ純益金ヲ貰ヒタシト云フ時ニ会社及ヒ第三者ハ之ヲ防クコトヲ得ルト云フニアリ、本条ノ場合ハ全ク譲渡等ノ関係ナク其社員ニ非サル者ナレトモ、事実其会社ト種々ノ取引ヲナシ社員タルノ権利義務ヲ有スルトキハ、第三者ヨリシテ迫ラレタル場合ニハ此会社ニ尽スベキ責任ハ尽サヾルベカラズ
 - 第19巻 p.311 -ページ画像 
ト云フノ意味ナリ、故ニ一ハ第三者ニ対シテ権利ノ無効ナル場合ヲ言ヒ一ハ第三者ニ対シテ責任ヲ負担スル場合ヲ言フモノナリ
問第百十六条ノ「会社財産ニ属スル物」トアルハ金銭物品等ヲ指スヤ
答然リ
問第百二十条ニ「事業年度」トアルハ一年ヲ指スヤ、又ハ会社ニ依リ六ケ月・三ケ月ノ所アリ、是等ヲモ指スモノナルヤ
答事業年度ハ一年ニ限ラズ三ケ月ニテモ半年ニテモ可ナリ、第三十三条ニ「毎半ケ年又ハ毎半ケ年内ニ利息又ハ配当金ヲ社員ニ分配スル会社ハ毎半ケ年ニ前条記載ノ責ヲ尽ス可シ」トノ規定アリ
問第百二十一条第四項ノ「能力ノ喪失」トハ如何ナル場合ヲ言フヤ
答追テ民法人事篇ニ掲ケラルベキモ、現今治罪法ノ制ニ依レバ白痴・瘋癲・未丁年者・有夫ノ婦等ナリ
問第百二十四条第二項ノ「会社ト共ニ終止スル出資」トハ如何ナルモノヲ指スヤ
答民法ノ財産篇ニ用益権ナル者アリ、是ハ例ヘバ親ガ子ノ為メニ家ヲ使用スル事ヲ許シタル場合、又ハ田地ヨリ米ヲ収穫スル事ヲ許シタル場合ニハ住居権若クハ収実権ヲ有ス、之ヲ用益権ト云フ、其権利ヲ会社ニ入レ置ク場合ノ如キ即チ本条ノ適例タリ、然レトモ其用益権ハ一身ニ止マル者多キニ依リ之ヲ他人ニ譲ル事ヲ得ス、因テ其会社ヲ退キタル時ハ其権モ亦従テ会社ノ出資トナラズ、是レ其終止スル所以ナリ
問第百三十条ノ終リニ「且会社ノ為メ和解契約及ヒ仲裁契約ヲ為スコトヲ得」トアリ、其和解契約ト仲裁契約トノ区別如何
答例ヘハ甲ト乙ト関係アルトキニ其二人ノ間ニテ和解スルヲ和解契約ト云ヒ、即チ同志相寄テ示談スルト云フ義ナリ、仲裁契約トハ例ヘハ甲ト乙トノ関係アルトキニ当リ更ニ第三者即チ丙ニ依頼シテ事ヲ処分スル場合ヲ云フナリ
問併シ清算人トハ後ノ始末ヲ為スモノヽ様ニ考フ、然ラハ仲裁契約トハ後ノ始末ヲ為ス人ガ仲裁ヲ為スト云フノ義ナルカ
答自分カ仲裁スルニ非ス人ニ依頼スル方ノ義ナリ
問其前ニ立戻リテ第百二十九条ニ「清算人一人又ハ数人ヲ任シ」トアリ、是レハ詰マリ撰挙スルト云フノ意味ナルヤ
答然リ、多数ヲ以テ任スルコトナレハ詰リ撰挙スルコトニナルナリ
問社員ヲ用ヰテモ差支ナキヤ
答差支ナシ、欧羅巴ノ例ヲ見ルトキハ清算人ノミヲ以テ営業ト為シ居ル者アリ、例ヘハ恰モ日本ニテ代言人ヲ依頼スルカ如ク今度会社ヲ解散スルニ就テハ誰某ニ依頼シ様ト云フ事ニナルナリ、夫故ニ社員ナリトモ一向差支ナシ、詰リ斯ノ如キ仕事ハ最モ事務ニ熟練シタル人ナラデハ出来ザルナリ
問第百三十六条第二項ニ「合資会社ノ社員ノ数ハ之ヲ制限セス」トアレトモ、是レハ詰リ二人ニテモ出来得ルト云フノ意味ナルヤ
答元来此規定ノ起ル所以タル第七十四条ニ「二人以上七人以下」ト云フコトアリ、而シテ第百三十七条ニ「本節ニ定メタル規定ノ外総テ合名会社ノ規定ニ従フ」ト云フコトアルヲ以テ或ハ合資会社モ七人
 - 第19巻 p.312 -ページ画像 
以下ナラサル可ラザル乎トノ疑ヲ生スルナリ、夫故ニ本条ニ於テ合資会社ハ七人以上ナリトモ決シテ差支ナシトノ注意ヲ加ヘタルニ過キサルナリ、勿論二人ニテモ一向差支ナシ
問此合資会社ハ実際大ニ弊害ヲ生スヘシト思ハルヽナリ、何トナレハ一人ニテ義務ヲ帯ブルトキハ無限責任ナルカ故ニ全財産ヲ以テ其責ニ当ラサル可ラサレトモ、之ヲ二人以上ノ合資会社ト為ストキハ其憂ナキヲ以テ(第百三十六条)二人若クハ三人相寄テ一六売買ヲ為ス者続々出ツヘシト信スルナリ
答質問ハ左ルコトナカラ第百六十八条ニ会社ハ登記公告ヲ受クヘシト云フ規定アレハ、第三者カ其登記ヲ見ルトキハ幾何程迄信用ヲ置キ得ヘキカヲ知ル故ニ左迄弊害ハナカルベシト思ハルヽナリ
問併シ一六商売ニ依リ一万円ノ資本ヲ以テ十万円ノ利益ヲ得ルヤモ測ラサレハ、始ヨリ其一万円ヲ棄ツル覚悟ニテ商売ヲ始ムル者モ或ハ有ルヘシト思ハルヽナリ
答左リナカラ第三者カ登記公告ニ依リ一万円ノ資本ノ外ナキコトヲ知リタルトキハ、其等ノ奸計ニ陥ルコトナカルヘキナリ、且余ノ考フル処ニ依レハ合名会社ハ表面上幾何程ノ金額ヲ有スルト云フモ、或ハ実際夫レ丈ノ金額ヲ有セサルヤモ知ル可ラス、然レトモ合資会社ニ於テハ明カニ公告シアル故ニ此点ニ於テハ合資会社ノ方却テ確カナル可シト思ハルヽナリ
問本条ハ諸外国ニモ行ハルヽ規則ナルヤ
答英国ハ此規則通リナリ、独逸ノ如ク総テ仏国ノ法律ニ摸倣シタル国ハ此法律ト異ニシテ此ノ如キ場合ニハ必ラス無限責任ヲ帯ブルナリ且此外ノ場合ト雖トモ有限責任会社ノ業務ヲ採ルニ必ラス無限責任社員ヲ以テスルナリ、併シ夫レハ甚タ究屈ナル故ニ我邦ニ於テハ英国ニ依リ、且大陸ノ法律ヲ折衷シテ斯ノ如ク規定シタルモノナリ
問登記公告ハ第百三十八条ニ列記シタルモノニ限ルヤ否ヤ
答第百三十八条ノ列記及其前ノ第七十九条第二号乃至第六号ヲ登記公告セヨト云フコトアレバ是ハ制限的ノモノニアラス、詰リ是レ丈ハ必要ノモノナレハ是非登記セヨ此他ニモ必要ノモノアラハ幾ラモ登記セヨト云フノ意味ナリ
問第百四十四条ニハ「善意ヲ以テ之ト取引ヲ為シタル第三者ニ対シテ其効ナシ」トアリ、第百十一条ニハ善意ノ二字ナシ、是レニハ何カ理由ノアルコトニヤ
答責任ニ差違アル故ナリ、即チ合名会社ノ方ハ無限責任ナルカ故ニ何レノ場合ヲ問ハス充分ノ責任ヲ帯ヒサル可カラス、夫故ニ第百十一条ニ於テ「業務担当ノ任アル社員ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ第三者ニ対シテ其効ナシ」ト規定シタル所以ニシテ縦令詐偽ニ出テ悪意ニ出テタリトモ自ラ其責ニ任セサル可ラザルナリ、之ニ反シテ合資会社ハ有限責任ナルカ故ニ其点迄ニハ行カサルナリ、是レ此区別ヲ為シタル理由ナリ
問第百四十六条ノ規定ハ業務担当社員ハ失策モ自分ニテ引受クルト云フノ義ナルヤ
答元来業務担当社員ナリ、或ハ取締役ナル者ハ必スシモ尽ク無限責任
 - 第19巻 p.313 -ページ画像 
ナリト云フニ非ス有限責任タリトモ一向差支ナキナリ、故ニ本条ノ規定スル業務担当社員或ハ取締役ハ有限責任ニテ一向差支ナケレトモ、若シ其会社ニ於テ社会ノ信用ヲ厚クスルカ為メニ殊更ニ会社ノ業務担当ノ社員或ハ取締役ハ其業務施行中ニ生シタル権利義務ハ無限ノ責任ヲ帯フルト云フコトヲ定ムルモ亦差支ナシト云フノ義ナリ
問第百五十五条「株式会社ハ其目的カ商業ヲ営ムニ在ラサルモノモ亦之ヲ商事会社ト看做ス」トハ如何ナル訳ナルカ
答本条ハ第六十六条ノ例外ヲ規定シタルモノナリ、即チ第六十六条ハ商事会社ハ商事ヲ営ム場合ニアラサレハ之ヲ設立スルコトヲ得ストアリ、然ラハ株式会社モ商事ヲ営ム場合ニアラサレハ商事会社ト云フ事能ハサル乎ト云フニ決シテ然リト云フ事能ハス、縦令民事々業ヲ為ストキト雖トモ商事会社トセサル可ラザル理由アリ、何トナレハ其株式会社ノ発行スル処ノ株券ナルモノハ商業上流通スヘキモノニハ非サルカ、商業上流通スヘキモノナルトキハ即チ商業ニアラスシテ何ソヤ、然ルトキハ民事々業ト雖トモ均シク商事会社トセサル可カラサレハナリ
問第百六十条「発起人ハ前条ノ認可ヲ得タルトキハ目論見書ヲ広告シテ株主ヲ募集スル事ヲ得」トアリ、此「得」ト云フ文字ハ「ベシ」ト云フノ意味ナリヤ
答認可ヲ得タルトキハ株主ヲ募集スルコトヲ得、然レトモ其反対即チ認可ヲ得サル迄ハ株主ヲ募集スルコト能ハスト云フノ意味ナリ、目論見書ヲ広告スル理由ハ此目論見書ニ依ツテ認可ヲ得タレハ加入シタキ人ハ加入セラルベシト云フ其手続ヲ示シタルモノナリ
問然ラハ目論見書ハ広告セサル可ラスト云フノ意義ナルカ
答然リ
問第百六十一条第二項ノ委任者ト云フコトニ付、既ニ委任者ト云フ以上ハ委任状ヲ要スト言ヘ或ハ委任状ヲ要セス只余ハ委任者ナリト云ヘバ夫レニテ可ナリトノ両説アリ、其当否如何
答本条ノ規定ハ即チ株式ノ申込ヲ為スニ本人自ラナルトキハ本条第一項ノ規定シタル如ク申込簿ニ記入シテ之ニ署名捺印スレハ可ナリ、併シナカラ代人ヲ以テ申込ヲ為ス場合ハ右ノ如ク為スコト能ハサルヲ以テ本条第二項ニ於テ申込人何某ト記シ代人何某ト附記シテ捺印スヘシト規定シタリ、凡ソ商法全部ニ就テ云フトキハ委任状ヲ必要トスル場合ニハ必ス之ヲ明記セリ例ヘハ登記公告ノ場合ニ於テ第二十条ニ自己又ハ委任状ヲ受ケタル代理人云々ト規定シタルカ如キ是ナリ然ルニ本条ニハ単ニ委任者ノ氏名云々ト云フニ止マルヲ以テ委任状ヲ要スルヤ否ヤ判然タラス、然ラハ何レノ条ニ依テ之ヲ決ス可キカト云フニ即チ第三百四十一条以下代理ノ項ニ於テ規定セリ同条ニ依レハ代理人ハ必ス委任状ヲ有セサレハ代理人ト看做スコト能ハスト云フノ意味ヲ有セス、故ニ本条第二項ノ場合ニ於テモ決シテ委任状ヲ必要トセス、只代理人タルノ説明ヲ為セハ夫レニテ足ルナリ
問第百六十八条第九号ノ「開業」トハ従来ノ開業ト云フ文字ト意味ヲ異ニスルヤ
答成程一寸疑ハシキ様ナレトモ併シナカラ従来ノ開業ト云フ文字ノ意
 - 第19巻 p.314 -ページ画像 
味ハ斯々、今度ノ開業ト云フ文字ノ意味ハ如々ト解スルコト能ハサルナリ、寧ロ従来ノ如ク事業ニ取掛リタル日ヲ以テ開業トスルヲ穏当トスヘシ
間然ラハ紡績会社ノ開業ト云ヘハ糸ヲ繰リ始ムルト云フコトニ非スシテ工場ヲ建ツルニ着手スルコトヲ云フカ
答然リ、仕事ニ着手スル事ナリ
問開業ヲ為シタル後始メテ会社ノ名義ヲ用ユルコトヲ得ルヤ
答会社ノ名義ヲ用ユルヲ得ルハ登記シタル後ナリ
問第百七十四条第一項ヨリ第四項迄ノ事項ハ必ス一冊ノ帳簿中ニ記載セサル可ラサルモノナルカ
答法律上ハ之ヲ一冊ニ記載スルモ又四冊ニ分載スルモ差支ナシ、併シ西洋ノ例ヲ見ルトキハ便利上之ヲ一冊ニ纏メタリ、其書込方ハ或ハ番号ヲ主トシ或ハ名前ヲ主トスル所アレトモ多クハ番号ヲ主トスル仕組ナリ、例ヘハ先ツ一冊ノ帳簿ニ欄ヲ設ケ「イ」ノ「一号」ト見出シヲ附ケ置キ、甲某カ乙某ニ売渡シタルトキハ其乙某カ取得ノ欄内ニ書込ム仕組ナリ、斯ノ如クスルトキハ四ツノ事抦ヲ一処ニ片附クル事ヲ得ルナリ
問第百七十六条ニ「株式ハ一株毎ニ一通ヲ作リ」トアリ従来ノ習慣ニ依ルトキハ或ハ一株ヲ一通トシ或ハ百株ヲ一通トシ殊ニ大会社ノ如キハ之ヲ以テ便利トシタリ、然ルニ之ヲ一株一通ト限リタル理由及同条ニ取締役ノ氏名トアルハ取締役一名ニテ可ナルヤ、或ハ他ニ制限アルヤ
答一株ニ付キ必ス一通ヲ作ラザル可ラスト規定シタル所以ハ、詰リ株券ノ性質ニ基クモノナリ、元来株券ナル物ハ商事上売買ノ目的物トナルモノニシテ即チ「ブールス」ニ於テ日々売買セラルヽモノニ今百株若クハ五十株ヲ以テ一通ト為ストキハ其以下ノ売買ヲ為ス毎ニ之ヲ書替ヘサルヘカラス、加之計算上ニ於テモ利益配当抔ノ場合ニハ大ニ不都合ヲ感スルナリ、若シ株券ノ性質ニシテ世襲財産ノ如キモノナラシメハ幾株ヲ以テ一通トスルモ不可ナカルベシト雖モ、右ノ如キ理由アルヲ以テ之ヲ一株一通ニ限ルト規定シタル所以ナリ、取締役ノ氏名ノ事ニ就テハ法律上只「取締役ノ氏名」トアリテ人数ノ事ヲ規定セス、故ニ一人ノ氏名ナリ全部ノ氏名ナリ定款ノ定ムル所ニ依リテ可ナリ
問第百八十二条「株金半額払込前ノ株式ノ譲渡人ハ会社ニ対シテ其株金未納額ノ担保義務ヲ負フ」トアリ、併シナカラ吾々普通ノ考ヘヲ以テスレバ例ヘハ四分ノ一迄払込ミタルモノヲ譲渡シタル者ハ株金ノ半額マテ担保義務ヲ負ハシメタランニハ最早其義務ヲ免レシメテ不可ナカルヘシト思ハルヽナリ
答成程理屈上或ハ然カラン、併シ元来草案ニハ全額払込ヲ為ス迄ハ其譲渡ヲ為シタル者ニ担保義務ヲ負ハシムトアリタリ、去レトモ斯クスルトキハ或ハ鉄道会社ノ如キ数年間ヲ期シテ株金ノ払込ミヲ為ス場合ニ於テハ最初義務ヲ負ヒタル者ヘ中途ニシテ之ヲ譲渡スモ依然トシテ数年間其義務ヲ負ハザル可ラザルニ至ルベシ、故ニ半額迄払込ミヲ為シタル者ハ最早担保義務ヲ免レシメテ可ナルベシトノ趣意
 - 第19巻 p.315 -ページ画像 
ニテ斯ク修正シタルモノナリ、要スルニ草案ノ如クナルトキハ四分ノ一ノ払込ヲ為ストキハ売買シテ差支ナシト云フモ其実全額ノ払込ミヲ為サヾルトキハ売買ス可ラスト云フニ均シキ結果ヲ生スルニ至ルベシ、故ニ之ヲ半額ト下ケタルナリ
問第百八十七条ハ従来ノ習慣ト異ナル所アルカ如シ、従来ハ取締役ノ在任中ハ其株券ヲ会社ニ預リ置キ、而シテ会社ヨリ預リ証ヲ出シ其預リ証ニハ必ス融通ヲ禁スルト云フ旨ヲ記載シタルモノナルカ、本条ノ規定ニ依ルトキハ其「株券ニ融通ヲ禁スル印ヲ捺シ」トアリ、然ルトキハ通例取締役ナル者ハ一年毎ニ交代スルモノナレバ其株券モ其度毎ニ書換ヘサル可ラサルモノト思ハルヽカ如何
答本条ハ畢竟取締役ノ私利ヲ営ムコトヲ防クニ在リ、何トナレハ取締役ハ株券ヲ会社ニ預ケ置クト雖トモ之ヲ保管スル者モ亦取締役ナレバ取リモ直サス自分ノ物ヲ自ラ預ルト同様ナリ、去レハ窃カニ其株券ヲ売却スルカ如キハ決シテ為シ難キコトニ非ス、故ニ是等ノ弊ヲ防ガントスルニハ其株券ニ印ヲ捺シ一見其不融通物ナルコトヲ知ラシムルニ如クハナシ、是レ本条ノ規定アル所以ナリ、而シテ其ノ印ノ捺シ方ハ例ヘハ株券ノ一端ニ禁売買ノ印ヲ捺シ、若シ取締役ノ改撰シタルトキハ之ヲ書替ルニ及ハス、其禁売買ノ脇ニ消印ヲ捺スヲ以テ足レリトスレバナリ、尚一ノ理由トスベキハ取締役ヲ年々撰挙スルハ表面上ノ規則ニテ其実大概決定シ居ルモノナレハ年々改正スル程ノ必要ハナカルベシト云フニアリ
問第百八十八条末文ニ自己ニ其責任ヲ負フトアリ、其自己ト云フ字ハ連帯ニ在ラスト云フノ意味ナルヤ、又責任ヲ負フト云フコトニ就テ或ル人ノ説ニハ不行届ノ罪ヲ謝スレハ可ナリト云ヒ、又或ル説ニハ商法上ノ責任ハ不行届ヲ謝スルノミニテ止ムベカラズ、損害ノアル場合ニハ必ス賠償セサル可ラスト、此二説ノ当否如何
答取締役ノ責任ハ株主ト異ナルナシトノコトハ次条ニ於テ規定スル処ナリ、併シナガラ夫レハ株券ニ対スル責任ヲ云フノミ、取締役トナリテ其職務ヲ採ル場合ニハ職務上ヨリ生スル責任ハ一切自己ノ責ニ任セサル可カラザルナリ
問然ラバ自己ニ其責任ヲ負フトハ、自己ノ財産ヲ以テ其責任ヲ負フト云フノ意味ナルヤ
答然リ
問第百九十五条ノ規定ハ監査役ニ甚タ重キヲ負ハシムル様ニ思ハルヽナリ、何トナレハ元来監査役ナル者ハ必スシモ毎日出勤セサル可カラサル職分トモ思ハレサルニ、第百九十二条ノ規定ニ依リテ取締役ノ為シタル行為ガ法律命令ニ違ヒシ事ヲ発見シ能ハザルガ為メ、或ハ過愆不整ヲ撿出スルコト能ハサルガ為メニ会社又ハ債権者ニ損害ヲ加ヘタルトキハ自己ノ全財産ヲ以テ其責ニ当ラサル可ラズト云フニアレバナリ、斯ノ如キ厳重ノ規定ヲ為ストキハ殆ント監査役トナル者ナキニ至ル可シト思ハルヽナリ
答凡テ自己ノ所為又ハ過失ニヨリ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ之ヲ賠償セザル可カラザルハ民法ノ一大原則ニシテ何ノ場合ニモ適用セラルヽモノナリ、故ニ監査役ハ勿論取締役ト雖モ亦債権者ニ対シテ損
 - 第19巻 p.316 -ページ画像 
害ヲ生セシメタルトキハ其責ヲ負ハサル可ラザルヤ明カナリ、第百九十五条ノ規定ハ監査役ハ第百九十二条ニ規定シタル責任アリ、若シ其責任ヲ尽サヾルカ為メニ会社又ハ第三者ニ損害ヲ生セシメタルトキハ其責アリ、其他ニハ責任ナシト云フノ意味ナリ
問併シナガラ取締役ノ過愆及不整ヲ撿出スル事能ハサル為メニ、自ラ其責ヲ負フト云フハ少シク酷ナルカ如シ
答自己カ尽スベキノ義務ヲ尽シテ居リタルトキハ其責ヲ負ハサルナリ例ヘハ監査役ガ普通ノ注意ヲ為シ居リタルニモ拘ハラス巧ミニ其目ヲ潜リテ為シタル故ニ之ヲ発見スルコトヲ得ザリシコトヲ証明スルトキノ如キハ其責ヲ帯ヒザルナリ、語ヲ換ヘテ言ヘハ過愆不整ヲ知リナカラ之ヲ顧ミサル為メニ会社又ハ其債権者ニ損害ヲ生セシメタル者ハ自己ニ其責任ヲ負フト云フニ過キサルナリ
問第百九十二条第三項ノ場合ニ於テ総会ヲ招集セントスルニハ監査役総員一致ノ上ニ非サレハ招集スルコト能ハサルカ、又ハ一人ニテモ招集スルコトヲ得ルカ
答法律ハ其点ニ付キ何等ノ規定モ為サヾルナリ、併シナガラ総員一致ノ上ニ非サレバ総会ヲ招集スルコト能ハスト解釈スルヲ穏当ト信スルナリ、何トナレハ若シ然ラズトセバ第百九十四条ノ明文ヲ掲グルニ及ハザレバナリ
問第二百六条会社資本ノ増加ハ株券ノ金額ヲ増シ、又ハ新株券ヲ発行シテ之ヲ増加スルコトヲ得ルハ已ニ知ル処ナレトモ、債券ヲ発行シテ資本ヲ増加シ得ルトハ如何ナル故ナルカ
答債券ヲ発行シテ資本ヲ増加スルトハ、詰リ他ヨリ借金スルモ可ナリト云フノ意味ナリ
問借金ガ資本トナルヤ
答例ヲ挙ゲテ言ヘハ会社ヲ設立スルニ当リ、資本金ヲ百万円ト定メ、其七十万円丈ハ株券ヲ発行シ其余ノ三十万円ハ債券ヲ発行スルナリ然ルトキハ共債券ハ即チ資本ナリ、然ラハ債券ヲ減シテ資本ヲ減スルコトヲ得ベキカト云フニ、株券ナルモノハ会社ノ有ラン限リハ何時マテモ存スルモノト看做セドモ債券ハ然ラズ、二十ケ年継続ノ会社ニシテ五ケ年目ニ債券ヲ発行シテ資本ヲ増加シ、更ニ五ケ年目ニ至リテ債券ヲ償却スルヤモ知ルベカラズ、然ルトキハ債券ナルモノハ株券ノ如ク常ニ会社ト共ニ存在スルモノニ非ス、故ニ若シ債券ヲ発行シテ資本ヲ減スル事ヲ得ト云フトキハ其実ハ資本ヲ減少スルニ相違ナキモ債券ヲ償却スルト云フコトニナルナリ
問同上ノ場合ニ於テ債券トハ借用証券ヲ発行シテ借入ヲ為スガ如キコトヲ云フナラント思ハル、其借入金ヲ資本ト看做ストキハ或ル一定ノ期限ニ至レハ之ヲ返済セサル可ラス、去レハ彼ノ定期預リノ如キモ亦同様ノモノナルヲ以テ均シク資本ト看做シ得ベキカ
答定期預リハ資本ト看做スベカラス、何トナレハ債券ヲ発行シテ資本ヲ増スト云フノ目的ハ、例ヘバ従来五十万円ノ資本ニテアリシモノヲ更ニ百万円ニ増加セントノ目的ヨリ出テタルモノナレトモ定期預リハ資本ヲ増加スルノ目的ニアラズシテ営業上ノ結果ヨリ来リタルモノナレバナリ
 - 第19巻 p.317 -ページ画像 
問如何ナル場合ニ於テ債券ヲ発行スルモノナルヤ
答資本ノ不足ヲ感スル故ニ之ヲ増加セント欲スレトモ株券ノ金額ヲ増ス事モ亦新株券ヲ発行スル事モ共ニ思ハシカラス、社会ノ人気独リ債券ニ応スルコトヲ見込ミタル場合ニ於テ多クハ債券ヲ発行スルナリ
問資本ヲ減スルノ場合ニ当リ債券ヲ先キニ減セズシテハ不可ナルカ答法律上其等ノ制限ハ更ニナキナリ
問第二百十一条会社定款《(「脱カ)》ノ変更ヲ受ケタルトキハ地方長官ヲ経由シテ主務省ニ其変更ヲ届出ズルコトヲ要ス」トアリテ認可ノ事ヲ言ハズ第百九十五条ト甚タ権衡ヲ得サル様ニ思ハルヽナリ
答成程一見スルトキハ或ハ権衡ヲ失ヒタル様ニ見ユレトモ、併シ会社ヲ創設セル場合ト後ニ至リ之ヲ変更スル場合トハ大ニ異ナレリ、且ツ届放シトナシ置クモ若シ法律ニ触ルヽ如キ事アルトキハ撿査ノ節之ヲ罰スルコトヲ得ヘキヲ以テ毫モ不都合ヲ感セサルナリ、加之若シ定款ニ少シバカリノ変更ヲ加フル度毎ニ認可ヲ経サル可ラズトセバ随分不都合ヲ感ズベシト思ハルヽナリ
問第二百十二条ノ末文ニ「株主ノ被フル可キ損失ヲ併示ス」トアリ、其損失トハ催告ヲ受ケナガラ尚ホ払込ヲ為サヽルトキハ株主ノ権利ヲ失フベシト云フノ意ナラント考フ、然ルニ又或ル人ノ説ニハ夫ノミナラズ払込ミヲ怠リタルガ為メニ会社ニ損失ヲ生ゼシメタルトキハ其損失ヲ賠償スルコト迄モ包含スルモノナリト伝フ、其当否如何
答本条ノ損失トハ次条即チ第二百十三条ニ規定シタル遅延利息ノ事ヲ言ヒタルモノナリ
問遅延利息ハ年百分ノ七ト限リタルモノニハ非サルカ
答然リ
問第三百三十四条ニハ遅延利息其他ノ利息ニシテ法律又ハ契約ニ於テ歩合ヲ定メサルモノハ年百分ノ七トストアリ、而シテ本条(第二百十三条)ニハ単ニ「年百分ノ七ノ遅延利息」トアリテ法律又ハ契約ニ於テ歩合ヲ定メザル云々ノ文字ナシ、殊ニ同ジ事ナルモ其断ハリ前ニナクシテ後ニ在リ、故ニ本条ノ場合ハ法律ニ於テ百分ノ七ト決定セラレタルモノヽ如クニ思ハルヽナリ
答恰度質問ノ反対ナリ、例ヘハ第七章商事契約ノ中ニ契約ノ種類、契約ノ取結ヒ、契約ノ履行等ノ事アレトモ是等ハ商法全部ニ適用セラルヽモノナリ、是レト同シク第三百三十四条ノ規定モ亦本条ノ場合ニ適用セラル可キナリ
 尚ホ一言シ置ク可キハ民法・商法ニ於テハ禁示法・命令法丈ヲ除キ其他ノ場合ニ於テハ総テ反対ノアル場合ハ此限リニアラスト看做シテ差支ナキナリ
問第二百二十二条ノ末文ニ「何人ニモ其求ニ応ジ」トアリ、其債権者若クハ株主ニ限ラス何人ニモ展閲ヲ許スト云フトキハ若シ会社中ニ事ノ起リシ時抔ハ新聞社員或ハ壮士抔ガ頻リニ来リテ展閲ヲ請求スルニ至ル可シト思ハル、尤モ施行条例ニ於テ手数料五十銭ヲ収ムルコトヽ定メラレタレトモ五十銭ノ手敷料《(数)》ニテハ甚タ軽キニ過ルト思ハルヽナリ
 - 第19巻 p.318 -ページ画像 
答施行条例起草ノ際ニ普通手数料ヲ十銭宛徴収スルコトヽ為シタリ、然ルニ或人ノ説ニテ夫レハ余リ廉過キテ不都合ナリ一円トスヘシト主張セラレタレトモ、夫ニテハ又余リ高キニ失スルトノ事ニテ其中ヲ取リ五十銭ト為シタルナリ
問第二百四十二条ニハ「会社ノ債権者ノ相当ノ理由ヲ以テ為シタル申立ニ依リ」トアリ、前ノ第二百四十一条ニハ「清算人ノ職分ノ践行ニ付テハ総会ヨリ又ハ株主若クハ債権者ノ申立ニ因リ」トアリテ相当ノ理由ト云フ文字ナケレトモ事実ニ違ヒナキヤ
答事実ニ差別ナシ
問第二百五十条清算《(「脱カ)》ノ終リタル後清算人ハ総計算書及ヒ一般ノ事務報告書ヲ総会ニ差出シテ卸任ヲ求ム」トアリ、此卸任ヲ求ムルトハ如何ナル時ニ於テスルモノナルカ、債務及ヒ株主ヘノ支払ハ卸任ノ後ニ後ニ於テスヘキカ
答卸任ノ前ナリ、総テ総計算書及一般ノ事務報告書ノ出来上リタル処ニテ卸任ヲ求ムルコトヽナルナリ
問然ラハ一向金ノ支払抔ナキ前ナルヤ
答「清算ノ終リタリ」トハ某ニ幾何、某ニ幾何ト支払ヲ為シ夫レ々々片ヲ附ケタルコトナリ、而シテ夫レニ就テノ報告書ヲ出シ、是レニテ余ノ会社ニ対シ尽スベキ責任ヲ終ヘタレバ解任セラレタシト申出ヅルコトナリ
問第二百五十二条ニ清算人《(「脱カ)》ハ卸任ヲ得タル後商業登記簿ニ清算結了ノ登記ヲ受ケ且之ヲ公告ス、其公告ニハ清算ニ付キ生シタル会社ニ対スル請求アレハ之ヲ三ケ月ノ期間ニ主張ス可キ旨ノ催告ヲ附ス、其請求アリタルトキハ清算人ニ於テ之ヲ弁了ス」トアリ、即チ是等ノ金ノ支払ヲ為サヽル前ニ卸任スルヲ得ベキカト云フ意ナリ、要スルニ斯々ノ勘定ニテ株主ニ配当スヘキ金額斯々アリシトノ勘定サヘ出来タランニハ卸任シテ可ナル様ニ思ハルヽナリ
答第二百五十二条ハ卸任ヲ得タル後ノ手続キニシテ其卸任ヲ得ル迄ニハ総テノ支払ヲ終ハラザル可ラザルナリ
問第二百五十三条第二項ニ「此場合ニ於テ既ニ債権者又ハ株主ニ支払ヒタルモノアルトキハ之ヲ取戻スコトヲ得云々」トアリ、固ヨリ清算人ハ精算ノ済サル中ニ株主ニ支払ヒヲ為スヘキモノニ非サレバ之ヲ取戻シ得ヘキハ当然ナレトモ「清算人カ貸方借方ノ此ノ如キ関係ナルコトヲ知リテ為シタル支払ヒニシテ其受取人ヨリ取戻シ得サルモノニ付テハ債権者ニ対シテ其責任ヲ負フ」ト云フトキハ貸方借方ノ斯ノ如キ関係アルコトヲ知ラスシテ為シタルトキニハ其責任ナシト云フコトニナルヘシト思ハルヽナリ、果シテ然ルトキハ清算人ハ債権者ト申合セテ精算ノ済マザル中ニ支払ヲ為シ後ニ至リ罰金サヘ出サハ済ムト云フ如キ不都合ナル結果ヲ生スベシト思ハルヽナリ
答清算人ガ債権者或ハ株主ト共謀シテ支払ヲ為シタルトキハ、既ニ破産ノ関係アルコトヲ知リテ為シタモノナル故ニ勿論本項末文ノ規定ヲ適用スベク、若シ又知ラスシテ支払ヒヲ為シタルトキハ之ヲ取戻スコトヲ得ル故ニ不都合モナカルベシト思ハル
問清算人ハ縦令知サルニモセヨ精算ノ済マサル中ニ株主ニ支払ヲ為シ
 - 第19巻 p.319 -ページ画像 
得ヘキ理由ナシト思ハル
答勿論清算人ハ其等ノ事ヲ為シ得ヘキ権利ナシ、然ルニ若シ其為ス可ラザルコトヲ知テ為シタルトキハ既ニ悪意ヲ以テ為シタルモノナレバ民事上自己ノ財産ヲ以テ其責ニ当ラサル可ラズ、若シ又知ラズシテ之ヲ為シタルトキハ縦令悪意ナシト雖トモ自己ノ職務ヲ怠リタルモノナレバ罰則ニ因リテ罰セラル可ク、且其支払ヲ受ケタル者ヨリ之ヲ取戻スコトヲ得ルト規定シタルモノナリ
問第二百六十七条ニ先訴ノ抗弁ト云フコトアリ、其意味ハ「何故ニ吾ヲ先キニ訴ヘタルカ」ト云フ抗弁ナルカ、或ハ「先ツ吾ヲ措テ乙ヲ訴ヘ呉レヨ」ト云フノ抗弁ナルカ
答何レニスルモ詰マリ同ジ意味ニシテ最初ニ乙ヨリ訴ヘラルベシト云フコトヲ請求スル抗弁ナリ
問第二百六十六条ニ二人以上共通ノ計算ヲ以テ一時ノ商取引又ハ作業ヲ為スヲ当坐組合トシ」トアリ、其一時ノ取引ナルモノハ何年モ継続スルコトヲ得ルモノナルヤ
答始メヨリ継続スルノ目的ニ非スシテ一ノ取引ハ済ミタルモ、亦他ノ取引ヲ為スト云フガ如キ性質ノ組合ナルトキハ何年継続スルモ矢張リ一時ノ取引ナリ
問第二百七十九条末文ニ「覊束スル意思ナクシテ」トアルハ、書クコトハ書クカ実際左様ナルコトハアルマジト云フノ意味ナルカ
答先ヅ其通リナリ、例ヘハ借家証文ニ御入用ノ節ハ何時ニテモ明ケ渡シ申ベクト記スルガ如キ、実際明ケ渡ス趣意ニ非ザルモ之ヲ記載スルガ如キ事ヲ云フ也
問第二百八十一条ニ「又ハ為サヾルニ因リテ」云々トアリ、例ヲ挙クルトキハ如何ナル場合ヲ云フカ
答例ヘハ甲商乙商ニ向テ糸ヲ売ランコトヲ申込ミタリ、此場合ニ於テ乙其入用アラサルトキハ入用ナラサル旨ヲ答ベキ商ノ慣習アルニ其答ヲ為サヾリシトキハ是レヲバ為サヾルニ因テ生スル義務ト云フ、何トナレバ乙ハ為スベキコトヲ為サヾルニ因リ黙示ノ承諾ナルモノ成立シタレバナリ
問第二百八十七条ノ規定ハ債権者モ亦連帯且無条件ナリト看做スベキヤ
答然リ、是ヲ以テ第二百八十七条ノ場合ニ於テハ債権者ハ委任状ヲ受ケズト雖モ一人ニテ全権ヲ行フコトヲ得ルナリ、故ニ民事上ニテハ連帯ハ推測セズトアリテ其連帯タルコトヲ明記セサル以上ハ縦令連帯ナリト云フモ之ヲ認メサルナリ
問例ヘハ十万円ヲ二人ニテ借リタルトキハ其実一人ニテ五万円宛ヲ借リタルモノナレトモ、尚ホ債権者ハ連帯且無条件ナルカ
答内訳ノアルトキハ無論連帯ニハ非ザルナリ、只十万円借用致候、甲殿乙殿ト記載シタルトキノ如キハ連帯ナルヲ以テ甲乙何レヨリスルモ全額ヲ請求スルコトヲ得ルナリ
問甲乙連名ニテ十万円ノ債務ヲ負フト云フモ其実甲ハ六万円乙ハ四万円ノ債務ヲ帯ブモノナルトキハ連帯ト云フ可ラザルカ
答甲幾何乙幾何ト証文ニ明記シタルトキハ無論連帯ニハ非ザルナリ、
 - 第19巻 p.320 -ページ画像 
総テ商法ニ於テハ連帯ニ非サル事ヲ明示セザル以上ハ連帯且無条件ト看做サヾルヲ得サルナリ
問第二百八十八条ノ規定ニ依ルトキハ商事上ニテハ保証人モ亦連帯責任ナルガ如シ、果シテ然ルヤ
答然リ、民事上ニテハ第二ノ義務者ナレトモ商事上ニテハ通常連帯ナリ、故ニ債権者ハ直チニ保証人ニ向テ請求スルコトヲ得ルナリ
問同条末文ニ一人ノ為メニスル保証人ニ関シテモ之レヲ適用ストアリ例ヘハ証書中甲ノ保証人トシテ調印スルコトヲ明記スルモ亦本条ノ規定ヲ適用セラル可キヤ
答然リ、只甲一人ノ保証人ト為ル旨ヲ記シタルノミニテハ本条ノ規定ヲ適用セラルベキナリ、併シナガラ甲ノ為メニ保証人トナルモノニシテ乙ノ債務ヲ保証セザル旨ヲ明記シタルトキハ此限ニ非サルナリ
問保険会社ニ於テ預リタル金額ヲ貸附クルカ如キハ矢張リ商事ト看做サルベキカ
答勿論営業ノ為メニナシタル事ナレハ商事ナリ
問然ラハ玆ニ呉服屋アリ、金貸ハ其営業ニアラザルモ身富有ナルヲ以テ抵当ヲ取テ金ヲ貸付ケタル場合ノ如キハ如何
答其所為ニシテ営業ニ出テタルモノナルトキハ勿論商事ナレトモ友義上ニ出テタルモノナルトキハ然ラザルナリ
問第二百九十九条末文ニ送達ノ為メ利益ヲ受クル者其責ニ任ズト云フコトアリ、例ヘハ売買ノ如キ場合ニ於テハ何レヲ送達ノ為メ利益ヲ受クル者ト看做スヘキカ
答本条ノ規定ハ民法トハ異ナレリ、民法ニ於テハ通信ノ事ハ一般ニ差出人ノ代理人ト看做セリ、故ニ例ヘハ甲ガ乙ニ向テ手紙ヲ差出シタルニ郵便局ニ於テ之ヲ紛失シタルトキハ甲ノ代理人ガ之ヲ紛失シタルモノト見做サルヽヲ以テ甲其責ヲ負ハサル可ラス、然ルニ商法ニ於テハ送達ノ為メニ利益ヲ受クル者其責ニ任スト規定シタレバ事実ニ依リテ決スルノ外ナキナリ、例ヘハ甲ナル商人アリ乙ナル非商人ニ向テ呉服ヲ売ランコトヲ申込ミタリトセン、此場合ニ於テ非商人ハ呉服ヲ買入ルヽノ必要ナキトキハ其旨ヲ答ヘラルベキナレトモ、原ト其通信ハ誰ノ為メニ為シタルカト云フニ即チ甲自ラノ利益ノ為メニナシタルモノナレハ、此場合ニ於テハ甲責ニ任セサル可ラサルナリ、併シナガラ甲乙共ニ商人ナルトキハ何レニ利益アリト断ズル事能ハザルヲ以テ、此場合ニハ民法ノ規定ニ従フノ外ナキナリ
問第三百条ニ「被提供者ノ方ニ留マルヲ通例トス」トアリ、詰リ被提供者ノ物トナルト云フノ意ナルカ
答然リ、併シ反対ノ証拠ヲ挙ゲテ来ルトキハ何レニテモナルナリ
問少シク前ニ立戻リテ第二百七十七条ニ「主タル目的物」ト云フコトアリ、例ヘハ器械ノ修繕ヲ依頼スル中ニ当リ其修繕料ノ五十円ヲ超ユルトキ書面ニ作成スベシト云フ事ナルカ、或ハ又其器械ノ価格五十円ヲ超ユルトキト云フノ意味ナルカ
答其場合ニ於テハ修繕ト云フコトガ主ニナルナリ、故ニ物品ハ幾何ノ価額アルモ其修繕料ニシテ五十円ヲ超過セザレハ書面ニ作成スルニ及バサルナリ、又借金ノ場合ノ如キ元金ト利子トヲ合シテ五十円以
 - 第19巻 p.321 -ページ画像 
上ト為ルモ、主タル目的物即チ元金ニシテ五十円以上ニ上ラサルトキハ又書面ニ作成スルニ及バサルナリ
問第三百三条ノ「履行地ニ行ハルヽ定例」ト「商慣習」トハ如何ナル点ニ相違アリヤ
答商慣習トハ其地ニ自然ニ発生シタルモノヲ云フ、履行地ニ行ハルヽ定例トハ之ト少シク異ニシテ、例ヘハ商法会議所ノ申合セ規則、即チ自治躰ノ申合セ規則ノ如キモノニシテ未ダ慣習ト為ラザルモ商家一般ニ用ヰラルヽモノヲ云フ
問第三百二十五条ニ「但義務ノ性質及範囲ニ因リテ債務者カ不履行ニ付キ責任ヲ負フトキニ限ル」トアリ、其責任ヲ負フトキ及負ハザルトキハ如何ナル場合ヲ云フカ
答例ヘハ雨ニ湿レザル為メニ相当ノ注意ヲ為スベキ筈ナルニ其注意ヲ為サヾリシトキノ如キハ即チ義務ノ性質ニ因ル不履行ナリ、又夜中ニ二度宛見回ハリヲ為サヾル可ラサル筈ナルニ一度ホカ見回ハリヲ為サヾリシトキノ如キ即チ義務ノ範囲ニ因ル不履行ナリ、要スルニ為スベキ事ヲ為サヾル場合ヲ云フナリ、又責任ヲ負ハザルトキトハ天災ノ如キ場合ヲ云フ
問第三百三十一条ニ損害賠償ヲ査定スルニハ偶然推測云々トアリ、其意味明瞭ナラズ説明ヲ乞フ
答例ヘハ米ヲ買置キシニ俄ニ戦争起リ為メニ代価ノ増加若シクハ減少シタルガ如キ即チ偶然ニ生スル利益若クハ損失ナリ、又当年ハ虎列剌病流行スルナラント思惟シ石炭酸ヲ買置キタルニ、其推測図ニ当リ石炭酸騰貴シ、若クハ其推測当ラスシテ下落シタルカ如キ是レ即チ推測ニ因ル利益若クハ損失ナリ
問併シ夫レハ損害ノ生シタル後ノコトナルヤ
答然リ、例ヘハ甲ハ乙ニ向テ何月幾日ニ米ヲ引渡スベキノ義務アリタルニ其義務ヲ履行セザリシ、此時ニ当リテ乙ハ損害賠償ノ訴ヲ為スニ最初約束シタルトキハ七円ナリシモ俄ニ戦争ノ起リタルガ為メニ十円ト為リタル場合ノ如キ即チ偶然ノ出来事ニシテ、此偶然ノ出来事ノ為メニ其増額ヲ請求スルコトヲ得スト云フコトナリ
問併シナガラ前ノ第三百三十条ノ規定ニ依ルトキハ「此取得ハ予見シ得ヘカリシモノト否ト又ハ通常ナリシモノト否トヲ問フ事ナシ」トアリ、去レハ乙ハ縦令偶然ナルニモセヨ又通常ナラザルニモセヨ甲ガ契約通リ米ノ引渡ヲ為シタランニハ当然其利益ヲ受クルベキモノナレバ、甲ニ向テ請求シ得ベキモノト信スルナリ
答前条ニ於テ予見シ得ベカリシモノト否ト、又ハ通常ナリシモノト否トヲ問フ事ナシト普通ニ之ヲ看做シタレトモ、其中極メテ偶然ノ場合即チ夢ニダモ見ザリシ場合ハ之ヲ取除ケザルベカラズ、本条ハ其趣意ヨリ取除ケヲ規定シタルモノト思ハルヽナリ
問併シナガラ米ナリ何ナリ甲者ガ引渡シサヘスレバ、縦令偶然ニモセヨ推測ニモセヨ其利益ヲ得ベキモノナレバ之ヲ請求シテ可ナルベキナリ
答熟々考フルニ、第三百三十一条ハ総テ将来ノ事ヲ言ハルヽモノナルヘシ、例ヘハ是レカラ先キ虎列剌病ガ流行セハ斯々ノ利益ヲ得ラル
 - 第19巻 p.322 -ページ画像 
ベク、是レカラ先キ戦争ガ始リタランニハ如々ノ利益ヲ得ラルヽニ相違ナシ、故ニ其見込ミタル利益迄モ賠償スベシト云フコト能ハズトノ意味ナルベシ、本条ノ「将来ノ利益」或ハ「生スルコトアルベキ」ト云フ点ヨリ考フレバ斯ク解釈スルノ外ナキナリ、要スルニ本条ハ将来ノコトハ勘定ニ入ルヽコト能ハズト云フノ規定ト見レバ可ナルベシ
問第二百二十八条「故意又ハ怠慢ノ行為ニ因テ不適法ニ損害ヲ加ヘタル」ト云フコトアリ、其不適法ノ損害トハ如何ナル意味ナルカ
答故意ニセヨ或ハ怠慢ニセヨ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ即チ不適法ノ損害ニシテ、自分ガ賠償ノ責アリト云フノ義ナリ
問同条ニ云フ処ノ「十分ノ賠償」トハ如何
答十分ノ賠償トハ価額賠償ニ対シタルモノナリ、併シナガラ第三百二十四条ニ制限アリ
問第三百三十三条ニ権利者ト云フ文字アリ、債権者ト異ナルカ
答同シ意義ナリ
問第三百九条ノ規定ニ依ルニ九十日ト定メタルトキハ詰リ九十一日ト云フコトニナルヤ、利息ノ事ニ付キ大ニ関係ヲ有スルナレバ説明ヲ乞フ
答同条ハ全ク期限ヲ定ムル丈ノコトヲ云ヒタルニ過キザルナリ、故ニ金ヲ借リ九十日間ニ返済スベキコトヲ約シタランニハ其日ヨリ算ヘテ九十一日目ニ返済スルノ義ナリ、利息ノ事ハ本問ノ外ニ在ルナリ
問第三百三十七条ノ末文ニ「損害賠償ノ要件ニ関係ナキモノトス」トアリ、違約金ト損害賠償ト両方取得ルト云フノ意味ナルヤ
答本条ハ夫レ程重ク解釈スヘカラス、只幾何ノ損害アリタルヤ等ノ事ヲ調査スルニ及バスシテ予メ定メタル違約金ヲ求ムル事ヲ得ベシト云フニ止マルナリ
問第三百三十八条末文ニ「疑ハシキトキハ違約金ト共ニ損害賠償ヲ求ムル事ヲ得ズ」トアリ、如何ナル意味ナルカ
答履行又ハ賠償ヲ求ムル権利ハ違約金ヲ取リタル為メニ廃止セズト雖モ、若シ疑ハシトキ《(キ脱)》即チ事実ノ明瞭ナラザル中ニ違約金ト賠償ト両方請求スル事ヲ得ルト為ストキハ一方ニ向テ酷ニ失スルノ恐アリ、依テ斯ノ如キ場合ニハ両方共ニ請求スルコトヲ得ズト規定シタルモノナリ
問第六節ノ代理中ニハ前ニ掲ケタル代務人或ハ商業使用人オモ含有スルモノナルヤ
答代務人・商業使用人等別ニ項目ヲ掲ゲタルモノハ、本節ノ規定中ニ入ラザルベシ
問第三百四十六条「代理ハ委任者又ハ代理人ノ死亡ニ因リテ解除スルモノニ非ス」トアリ、若シ然ルトキハ何人ガ其後ヲ承継スベキヤ、且又代理ナルモノハ固ト委任者ト委任ヲ受ケタルモノトノ間ニ成立チタル契約ナレバ、委任者又ハ代理人ノ死亡ニ因リテ解除シテ然ルベキ様ニ思ハルレトモ如何ニヤ
答民法ニテハ其通リナリ、併シナガラ商法上ニ於テ委任者又ハ代理人ノ死亡スル毎ニ代理ヲ解除スル事ト為ストキハ将ニ成ラントスル契
 - 第19巻 p.323 -ページ画像 
約ヲ取消サヾル可カラザル等ノ不便アリ、殊ニ商法上ニテハ多クハ屋号ヲ以テ商取引ヲ為スモノナレバ、委任者又ハ代理人ノ死亡スルモ屋号ノ存スル以上ハ承継人ヲ以テ之ニ代ヘシムルモ実際差支ヘナキノミナラズ却テ便利ナレバ即チ本条ノ如ク規定シタルモノナリ
問第三百四十七条ニ「其承諾ヲ得ヘキモノト推定スベキ情況アルニ非サレハ」云々トアリ、推定トハ如何ナル場合ニ用ヰラルヽモノナルヤ
答例ヘバ遠方ニ在ル者代理ヲ受ケタルトキニ当リ疾病ノ為メ其代理ノ任ヲ尽ス能ハザル場合ノ如シ、若シ其代理ノ任ヲ抛擲スルトキハ委任者ノ不利ナレバ第三者ニ自分ノ代理ヲ委任スルモ委任者又異議ナカルベシト思惟セラルヽ場合ヲ云フナリ
問第三百五十一条受取証ヲ記シ、又ハ記セサル計算書ノ送付ノミニテハ之ヲ催告ト看做ス事ヲ得ストアリ、普通ノ考ヘヲ以テスレバ支払ヲ受ケサル中ニ受取証ノ先方ニアルヘキ理由ナキ様ニ思ハルヽナリ若シ是レ有リトスレバ既ニ受取リタル証拠トナルヘキモノナルニ非スヤ
答第三百五十一条ノ場合ハ実際能ク行ハルヽ所ナリ、例ヘバ甲書肆ヨリ乙書肆ニ書籍ヲ送付スルニ当リ其書籍ト共ニ計算書或ハ代金受取証ニ捺印シテ持チ来ル事往々アリ、斯ノ如キ場合即チ受取証ヲ記シ又記セサル計算書ノ送附ノミヲ為シタル場合ニテハ之ヲ催告ト看做ス事ヲ得ルヤ否ヤ時効ヲ中断スルヤ否ヤト云フニ本条ニ於テ催告ト看做ス事ヲ得スト規定シタルモノナリ、元来民法ニ於テハ時効ヲ中断スルノ手続キ較面倒ナレトモ商法ニ於テハ欠催告ヲ為シタル事実サヘアラハ直ニ時効ヲ中断スルナリ、故ニ受取証若クハ計算書ヲ送付シタル如キモ亦催告ト看做ス事ヲ得ヘキヤト云フノ疑ヒヲ生スヘキヲ以テ即チ本条ノ規定ヲ設ケタルモノナリ
問第三百五十七条異議ヲ起サス又ハ異議ヲ起シタルモ留保ヲ為サス云云トアリ、留保ヲ為ストハ如何ナル場合ヲ云フ乎
答留保ヲ為ストハ一時計算ハ為スモ此計算ニハ間違ヒアルヤモ計リ難ケレバ或ハ後日ニ至リテ之ヲ取消スコトアルヘシト一ノ条件ヲ附シテ計算ヲ為スヲ云フナリ、例ヘハ税関ニ於テ此荷物ハ百円ノ税ヲ払フベシト命セラレタルトキニ方リ、如何ニモ百円ノ税ヲ払フヘシ併シナガラ自分ハ百円ノ税ハ過当ト信ズレハ能ク調ベタル上更ニ取戻ヲ請求スル事アル可シト云フカ如キ即チ是レナリ
問第三百五十八条末文ニ各箇ニ之ヲ主張スルヲ得ストアリ、各箇トハ一人々々ト云フノ意味カ、将タ交互計算ヲ為ス所ノ一方ヲ云フカ
答一人々々ト云フノ意味ナリ
問総テ利息ハ翌日ヨリ之ヲ計算スヘキガ普通ノ原則ナリト思考ス、然ルニ三百六十三条ニ交互計算ニ繰込ミタル債権ハ契約上ノ定ナシト雖モ其繰込ノ日ヨリ之ニ相当ノ利息ヲ付スベシトアリ、如何ナル故ナルカ
答利息ニ関スル時日ノ数ヘ方ハ通常一般ノ場合ニ於テハ其契約ノ翌日ヨリト定メラレタルヲ以テ従ツテ利息モ翌日ヨリニ非サレハ之ヲ附スル事能ハサルヤ明カナリ、併シナガラ交互計算ノ場合ノ如キハ交
 - 第19巻 p.324 -ページ画像 
互ノ間頻々出入スルヲ以テ其日々々ニ相当ノ利息ヲ附スベシト規定シタルモノナリ
問然ラバ日々出入ヲ為ス場合ニハ本条ノ利息法ニ依ルモノナルカ
答交互計算ノ行ハルヽ間ハ其日々々ニ利子ヲ付スルナリ、併シナガラ契約ニ依リテ一方ガ翌日ヨリ利子ヲ付スルトキハ他ノ一方モ亦其法ニ依ラザル可カラス、要スルニ両方同一ノ利息法ニ依ルモノナレバ其日ヨリスルモ亦其翌日ヨリスルモ帰着スル所ハ同一ナリ
問第三百六十五条ノ説明ヲ乞フ
答例ヘハ甲乙ノ間ニ交互計算ノアリタル場合ニ於テ甲ハ其交互計算ニ組込ミタル債権若クハ債務ヲ乙ニ向ツテ丙ニ請求シ、若クハ之ニ支払フベキ事ヲ主張スルヲ得ベキヤト云フニ本条ニ於テ交互計算ニ繰込ミタル債権若クハ債務ハ第三者ニ対シテ其効ナキ事ヲ定メラレタルモノナリ
問第三百六十七条ニ其契約ハ担保セラルヘキ債権ノ年月日云々トアリ例ヘハ金ヲ借リタル当時ニハ抵当ナカリシモ後日ニ至リ其抵当ヲ入レタル場合ノ如キハ其ノ金ヲ借リタル日ガ即チ債権ノ年月日ニシテ後日ニ至リ質入レヲ為シタル日ガ即チ質権設定ノ日ナルカ
答然リ
問同条ノ合法ノ原因トハ如何ナル事ヲ云フヤ
答合法ノ原因トハ例ヘハ甲カ乙ヨリ一万円ノ金ヲ借リ之ニ対シ或ル質物ヲ入レタリトセン、此場合ニ於テ甲ガ乙ヨリ金ヲ借リ入レタルハ乙ヨリ米ヲ買入レ其代金ヲ払ハザルカ為メナルカ或ハ消費借トシテ米ヲ借入タルガ為メナルカ、如何ナル原因ニ因ツテ其貸借ガ成立チタルカヲ記載スベシト云フニ在リ、其他貸金ナルトキハ貸金、預リ金ナルトキハ預リ金ト記載スルガ如キ即チ合法ノ原因ナリ
問第三百七十条ノ指図証券ナルモノハ記名証券ナレバ中ニハ株券・公債証書ノ如キモノモ含有スベシト云フ説アリ、如何
答商法実施ノ暁ニ指図証券ト看做サルベキモノハ、倉荷証書・積荷証書・船荷証書・冒険貸借証書・質入シタル船舶ヲ抵当ト為シタル証書ノ如キ要スルニ裏書譲渡ヲ為シ得ベキモノヲ云フナリ、故ニ株券公債証書ノ如キハ記名証券ニハ相違ナキモ指図証券ノ中ニハ入ラサルナリ
問第三百七十三条ノ場合ニ於テ仲立人・競売人ノ無キトキハ如何スベキカ
答爾ル場合ハ実際ニ於テハ万ナカルベシト雖モ、併シナカラ理屈上之レナキ場合ヲ考フレハ仲立人・競売人ノ無キ場合ニ於テハ之ニ托スル事能ハサルヲ以テ其近傍ノ仲立人又ハ競売人ノ有ル地ニ持チ行ク事ヨリ外ニ道ナカルヘシ、要スルニ其レ等ハ実際ノ成リ行キニ任スルヲ以テ好シト信スルナリ
問第三百七十九条二人以上ノ質債権者中一人ハ現物ヲ占有シ他ノ者ハ其物ニ付テノ処分証券ヲ占有スルトキハ、孰レニテモ其占有ヲ先キニ得タル者売却ノ優先権ヲ有ストアリ、本条ノ処分証券トハ如何ナル証券ヲ云フカ
答処分証券トハ第三百六十九条ニ規定シタル如ク裏書ヲ以テ処分権ヲ
 - 第19巻 p.325 -ページ画像 
移転スル事ヲ得ル証券ヲ云フナリ
問処分証券ナルモノハ倉荷証書トカ船荷証書トカ云フモノヽミニ限ルカ、或ハ又普通ノ預リ証書ノ如キモノモ其中ニ含有セラルベキカ、若シ然リトスレバ二人以上ノ債権者中ニ各自ニ同一物ノ処分証券ヲ質入シ、又他ニ現物ヲ質入シタル如キ場合ニ於テ債権者其現物ヲ占有シタルモ若シ其レニ先チテ処分証券ノ占有ヲ為シタル者アルトキハ更ニ其効ナカルベシ、斯ノ如クナルトキハ遂ニ物ノ占有ハ殆ンド無効ナルニ至ルベシト思ハルヽナリ
答処分証券ノ範囲ハ商法上ニ於テハ下ノ如ク認ムルナリ、即チ本法ニ所謂処分証券ナルモノハ重モニ倉荷証書・積荷証書・船荷証書・冒険貸借証書・船舶抵当ノ証書ノ如キモノヲ指シタルモノニシテ、即チ其証券ヲ有シサヘスレバ其紙面ニ記載セル商品ヲ処分シ得ルノ証書ナリ、而シテ其他ノ証書ハ如何ト云フニ実際ノ慣習ニ任セ一般ニ物品ヲ処分シ得ヘキ証券ト認メラルヽモノハ皆此部類ニ加ヘラルヽナリ、次キニ第二ノ問題ニ移リ今甲一商品ヲ有シ之ヲ乙ナル者ニ質入シタリトセン、此場合ニ於テ本条ノ規定ニ依ルトキハ其物品ナリ証券ナリ同一ノ効力ヲ有スルモノナレハ、孰レニテモ先キニ之ヲ占有シタル者即チ勝ヲ占ムル事ヲ認メタルモノナリ
問我々ハ倉荷証書トカ船荷証書トカ云フモ其実ハ運賃又ハ倉敷位ノ債権ニシテ処分証券ト物品ト二重ニナルガ如キ事ハ実際起ラザルベシト考ヘ居タリ、併シナガラ只今説明セラルヽ処ニ依レハ処分証券ト物品ト二重ノ働キヲ為シ、加之其証券ノ範囲モ広ク認メラルヽトノ事ナリ、果シテ其ノ如クナルトキハ今玆ニ甲者質物トシテ或ル物品ヲ占有シタリトセンニ、乙者甲者ガ其物品ヲ占有シタルニ先チテ既ニ其物品ノ処分証券ヲ得タルトキハ甲者ノ物品占有ハ毫モ其効力ナキニ至ルベク、殆ンド物品ニハ信用ヲ置ク事能ハサルニ至ルベシト思ハルヽナリ
答民法上ニ於テハ証券ト物品ヲ占有シタル者アルトキハ物品ヲ占有シタル者勝ヲ制ス、併シナガラ本法ニ於テハ前陳ヘタル如ク両者孰レニテモ先キニ占有ヲ為シタル者優先権ヲ有スルナリ、而シテ其処分証券ハ一枚ニ限ルカト云フニ請求ニ因リテハ三枚モ四枚モ出ス事ヲ得ルナリ、又手形ノ場合ニ於テモ同シク数通ヲ出シテ之ヲ流通スル事ヲ得ルナリ、故ニ此場合ニ於テハ大ニ信用ノ必要ヲ感スルニ至ルベク、若シモ其人ニ対シテ充分ノ信用ヲ置クニ非ズンハ其証券若クハ手形ハ流通セサルベキナリ
問手形ノ信用ニ因リテ流通スルハ好マシキ事ナレトモ本条ノ規定ノ如ク善意ニテ物品ヲ占有シタル者ガ之ニ先ツテ其処分証券ヲ占有シタル者ノ為メニ優先セラレ、加フルニ処分証券ノ範囲モ広シト云ヘバ債務者悪意ヲ以テ処分証券ヲ出シタル事ヲ隠蔽シ、以テ債権者ヲ欺罔スルニ至ルベシト思ハルヽナリ
答併シナガラ質物ヲ受取ラントスル者ハ其物ニ就テ幾何ノ倉荷証書或ハ積荷証書ガ出テ居ルヤヲ充分吟味シタル上ナラデハ之ヲ承諾セサルベキナリ、故ニ一通リノ注意ヲ為スニ於テハ債務者ニ欺カルヽ如キ事ナカルベシ
 - 第19巻 p.326 -ページ画像 
問併シ二重抵当ハ刑事上ノ制裁アリヤ
答民事上ノ制裁ニ止マリ刑事上ノ制裁ナシ
問西洋各国ノ商人ハ最モ廉直ヲ尊ビ一タビ二重抵当ヲ為スガ如キ事アルトキハ商業社会ノ譴責ヲ受ケ再ビ世ニ立ツ事能ハサルニ至ル、然ルニ我邦ノ法律ハ此点ニ於テ反対ナルヤ
答否西洋各国ニ幾ラモ其例アル事ニシテ倉荷ナリ船荷ナリ之ヲ質入シ又ハ二通三通ノ処分証券ヲ出ス事一向差支ナキナリ
問其処分証券ハ第一・第二・第三ト出スモ其趣意タル之ヲ一通ニ限ルトキハ途中ニ於テ紛失シ若クハ毀損スル等ノ憂アルヲ以テ、第一ノ届カサル時ニ第二ヲ出シ、第二ノ無効ト為リタル時ニ第三ヲ出スト云フニ止マリ、一ツノ影法師ヲ三ツニ使用スルト云フノ趣意ニハ非サルベシト考フルナリ
答趣意ハ如何ニモ其通リナリ、併シナガラ実際之ヲ使用スルナリ、只我邦ノ法律ガ西洋各国ノ法律ト少シク趣キヲ異ニスル処ハ、証券ナリ実物ナリ孰レニテモ先キニ占有シタル者ガ勝ヲ占ムルト云フノ点ナリ
問ソワ容易ナラザル事ナリ、小生等ハ広ク外国人ト取引ヲ為スト雖モ未タ二重抵当ヲ許スカ如キ法律アルヲ見ス、勿論手形ハ三通出スト雖トモ之ヲ出スハ第一ノ届カサル場合ニ第二ヲ出スト云フニ止マリ第一・第二ガ箇々別々ニ効力ヲ有スルモノニアラス、故ニ裏書ナキトキハ三通ノ手形ノ内、第一・第三ノミ帰着スルアルモ第二ノ帰着セサル限リハ引替ヲ為サヾルナリ
答処分証券ハ三通出シタル場合ニ第一・第三ニ対シテ引替ヲ為スモ差支ヘナキナリ、何トナレバ始メ甲ナル者裏書ナキ処ノ証券第一・第三ヲ以テ引替ヲ請求シ来リタルトキニ方リ、債務者ハ之ニ向テ此証券ハ三枚出デ居レバ之ヲ纏メテ来ルカ然ラズンバ相当ナル保証金ヲ出スベシト主張シ、然ル後ニ引替ヲ為スヲ得ベケレバナリ
問例ヘバ或ル物品ノ処分証券ヲ以テ甲ナル銀行ニ抵当トシ、更ニ又同一物ノ処分証券ヲ以テ乙ナル銀行ニ抵当ニシタル事ノ発覚スルモ刑事ニ触レザルカ
答刑事上ノ制裁ナキノミナラズ二通三通ノ処分証券ヲ抵当ト為スハ普通ノ事ナリ
問処分証券ヲ二通三通出スハ畢竟信用ニ基クモノナレハ左程ノ心配モナカルベシト雖モ、物品ヲ占有シタル者ガ処分証券ヲ有シタル者ノ為ニ優先セラルヽモノナルトキハ後来物品ヲ質ニ取ル事ハ殆ンド為シ能ハザルニ至ルベシ、実ニ質物ヲ受取ルトキニ当リテ何ヲ以テ其以前ニ処分証券ノ出デタルヲ知ルヲ得ベキヤ、既ニ之ヲ知ル事ヲ得ズトスレバ質物ハ殆ンド有名無実ト言ハザル可ラズ
答倉荷証書或ハ船荷証書ヲ二通三通出スハ普通ノ事ナリ、又二通三通ノ証書ヲ各自ニ融通スル事モ毫モ不思議ノ事ニアラザルナリ、併シナガラ打明ケテ之ヲ言ハヾ只終リノ一点即チ紙片ヲ有スル者ガ物品ヲ有スル者ニ先ツト云フノ点ガ如何ナルベキカ、此点余モ多少ノ疑ナキ能ハザルナリ
問併シ今日ノ習慣ニ因リテ見ルモ又小生等ガ今日迄外国人ト取引ヲ為
 - 第19巻 p.327 -ページ画像 
シタル上ニ就テ徴スルモ、処分証券ナル物ハ通常一枚ニ限ルナリ、但シ必要アリテ一枚以上ニ出ス事アルモ決シテ之ヲ二重ニ使用セザルナリ、若シ此成規ニ背反スルガ如キ事アルトキハ忽チ商業社会ノ擯斥ヲ受ケ其資産ヲ蕩尽スルニ至ルベク、加之其事発覚スルニ於テハ刑事ノ制裁ヲ免ル能ハザルナリ、故ニ小生ハ今日迄ノ実際ニ徴シテ二重抵当ノ如キハ決シテ為スベカラザルモノナリト信スルナリ
答併シナガラ全ク二通ナリ三通ナリ処分証券ヲ出シ、又之ヲ質入スル事ヲ得ルナリ、又西洋ニモ其例決シテ少ナカラサルナリ
問玆ニ米千五百石アリ、之ヲ三人ニ分割シテ五百石宛質入スル事ハ為シ得ベケレトモ、之ヲ分割セスシテ同一物ヲ三人ニ質入スル事ヲ得ルハ実ニ疑ナキ能ハズ
答各三人ニ質入スルヲ得ルノミナラズ、四人五人ニ質入スルモ差支ナキナリ
問小生ノ考ヘハ二通三通ノ手形ガ各別ニ融通スルハ信用ニ基クモノナレバ深ク憂フルニ足ラズト信ズレトモ、若シ果シテ影法師ヲ有シタル者ガ現品ヲ占有シタル者ニ先ンズルトキハ、小生等ノ如ク銀行営業者ニ於テハ株券スラ安心シテ受取ル事能ハサルニ至ルベシト信スルナリ
答株券ハ処分証券ニ非サレバ差支ヘナシ
問元来処分証券ナルモノハ、自分ノ庫ニ米千俵アレハ此証書ト引替ニ渡スベシト云フ処ノ証券ナリト信スレトモ如何ニヤ
答処分証券トハ、例ヘバ甲カ乙ノ倉庫ニ米ヲ預ケタルトキニ、乙ヨリ甲ニ対シテ出ス処ノ倉荷証書ヲ云フナリ、故ニ我物品ニ対シ我レ自ラ処分証券ヲ出ス事ハ能ハザルナリ
問果シテ説明セラルヽ如クナルトキハ庫敷料・保管料・運賃等ノ債権ノ外決シテ処分証券ノ出ツル事ナカルベシト思ハルヽナリ、何トナレハ自分ヨリ処分証券ノ出サヽルニ於テハ他ヨリ出スベキ謂ハレナケレバナリ
答然ラバ此点ニ就テ申陳ブベシ、元来庫荷証書ナルモノハ寄托ヲ営業ト為シ居ル者ヨリ出スモノナリ、既ニ寄托ト言ヘバ自分ノ物品ニ非ラサル事明カナルベシ、例ヘバ甲ナル者米千俵ヲ所有シ之ヲ深川ノ倉庫ニ預ケタルトキハ、倉荷証書一枚ヲ受取ルベキハ勿論ナレトモ其他尚ホ二通三通ヲ請求シテ之ヲ融通スル事ヲ得ルナリ、然ルニ今ノ質問ニ依ルトキハ自分ノ倉庫ニ物品ヲ入レ置キ、其処分証券ヲ出スモノナリト解セラルヽガ如シ、元来処分証券ナルモノハ他人ノ物品ナレトモ自ラ処分スル事ヲ得ルモノナリトノ意味ニテ始メテ其用アルモノナリ、然ルニ自分ノ倉庫ニ自分ノ物品ヲ入レ置キタル場合ノ如キハ毫モ処分証券ヲ出スノ必要ナシ、何トナレバ其物品ヲ売却スルナリ質入スルナリ自分ノ勝手ナレバナリ、去レバ処分証券ナルモノハ必ズ他人ノ手ニ渡シタル物品ノ影ナラザル可カラズ
問併シナガラ処分証券ト現物トハ孰レニテモ先キニ占有シタル者勝ヲ制スルトハ本条ニ明記スル処ナレバ、処分証券ナルモノハ他ヨリ出スモノニ非ラザル事ヲ証拠立ツル事ヲ得ベキナリ、何トナレバ或ル物品ヲ深川ノ倉庫会社ニ預ケントスルモ其物品ヲ持チ行ク事ハ実際
 - 第19巻 p.328 -ページ画像 
為シ能ハザル処ナルベシ、再言スレバ銀行ニ米ヲ質入レタリトスルモ銀行ニ米ヲ持チ行クト云フ訳ニハ行カザルベシ、果シテ然ラバ自分ノ米ヲ自分ノ倉庫ニ収メ置キ、其代表者ヲ出シテ之ヲ融通スルノ外ナカルベシ、本条ハ即チ一方ニ於テハ代表者ヲ出シテ融通ヲ為シ又他ノ一方ニ於テハ実物ヲ質入レシタル場合ニ孰レカ先キニ占有ヲ為シタル者勝ヲ制スル事ヲ規定シタルモノナリト思ハルヽナリ、若シ然ラズンバ処分証券ト現物ト両方質入レセラルベキ謂ハレナケレバナリ
答夫レハ見込ミ違ヒナリ、今一層詳シク説明スレバ左ノ如シ、例ヘバ余ガ一万俵ノ米ヲ有シ、之ヲ深川ノ倉庫ニ預ケタリトセン、此時ニ方リ深川ノ倉庫ハ余ニ対シ倉荷証書一通ナリ二通ナリヲ出ス、是レ即チ処分証券ナリ、我邦ニ於テハ此場合ハ如何ナル仕組ミト為リ居ルヤ詳シク承知セサレトモ、元来他人ノ寄托ヲ受クル者ハ多クハ富有ナレバ此処ヨリ金ヲ借ル事ヲ得ルナリ、例ヘハ余ガ寄托営業者ニ一万俵ノ米ヲ預ケ、三通ノ倉荷証書ヲ得タリ、然ルニ尚ホ其人ニ言ツテ曰ク、貴倉ニ一万俵ノ米ヲ積ミ入レタレハ之ヲ抵当トシテ若干ノ金ヲ貸与セラルマジキヤト、若シ其人ニシテ余ヲ信用セサルニ於テハ曰ハン、余ガ手元ヨリ出シタル三通ノ庫荷証書ヲ持チ来ルニアラズンバ貸与シ難シト、然レトモ之ニ反シ余ヲ信用スルニ於テハ異議ナク之ヲ承引スルナラン、玆ニ於テ余ハ現物ヲ質入シタル上ニ更ニ又処分証券ヲ三方ニ質入レスル事ヲ得ルナリ、尚ホ一例ヲ挙レハ上州ヨリ横浜ニ向ツテ生糸ヲ輸送シタルトキニ当リ、未ダ取引ノ整ハサル間ハ孰レニカ寄托シ置クニ相違ナカルベシ、此場合ニ於テ其物品ノ預リ主ニ非サル者其物品ノ確実ナル事ヲ認ムルトキハ若干ノ金ヲ貸与スル事ヲ猶予セサルベシ、而シテ此他ニ尚ホ倉荷証書ナルモノアレバ之ヲモ他ニ質入スル事ヲ得ルナリ
問孰レガ先キニ占有シタルカト云フノ点ニ就キ、日ノ前后ヲ分ツ事難カルベシト思ハルレトモ如何ニヤ
答日ノ前後ヲ別ツニハ公証人ノ確定日付ケ若クハ事実ノ推定ニ依ルモノナレバ其憂ナカルベシ
問只今二重抵当ノ事ニ付キ引証セラレタル事ハ今日迄実際ナキ処ノ事ナリ、若シ有リトセバ是レ即チ違法ト認メラルヽモノナリ
答実ハ委員会ニ於テモ本条ハ二重抵当・二重転売ニ触ルヽモノニハ非サルカトノ議論起リタリ、然レトモ外国ノ法律中ニモ其例ナキニ非ズ、且ハ融通ヲ自由ナラシメントスルニハ斯ノ如クセサルベカラズトノ趣意ニテ遂ニ本条ノ規定ヲ設ケタルモノナリ
問果シテ説明セラルヽ如ク数通ノ預リ証書ヲ得テ之ヲ質入シ又其実物ヲ質入スル事ヲ本法ニ於テ許シタリトスレバ、何レニカ判然ト明言シタル処ナカル可カラズト思惟スルナリ、然レトモ其事ニシテ全ク誤リナシトスレハ現物ヲ質入スルガ如キ事ハ勿論処分証券ヲ出シタル人ノ外債権ナルモノハ殆ンド其跡ヲ絶ツニ至ルベシト信スルナリ
答併シナガラ現在処分証券ヲ出シタル物品ニ金ヲ貸与シ置クニ非ズヤ又彼ノ質ハ民法ノ規則ニ依ルトキハ占有ニ依ラザレバ成立セズ、故ニ倉庫ニ預ケタル物品ヲ質入スル事能ハザルナリ、何トナレバ質入
 - 第19巻 p.329 -ページ画像 
ノ契約ヲ為スモ占有ナケレバナリ、之ニ反シテ商法上ニ於テハ占有ノ必要ナク契約サヘアラバ直ニ質ハ成立スルナリ
問占有セザルトキハ此条文ニ適合セザルニ非ズヤ
答物品ヲ占有セザレバ質ニ取ル事ヲ承諾セズト云フトキハ其者ノ占有ニナルヤモ知ル可カラス、此場合ニ於テ民法ノ規定ニ依ルトキハ物品ヲ占有シタル者勝ヲ制スレトモ本法ニ於テハ孰レカ先キニ占有シタル者勝ヲ制スルナリ
問併シナガラ既ニ出シタル処分証券ト引替ヘズシテ物品ヲ他ニ移スト云フ事ハ出来マジキ様ニ思ハルヽナリ
答曰ク、否、元来本条ハ平ラタク申陳ブレバ委員会ニ於テモ一問題ト為リタル箇条ニシテ、其時余ハ本条ノ場合タル固ト信用ニ基クモノナレバ質ニ取ラザラント欲セバ夫レマデノ事ニシテ別ニ不都合ノ点モナカルベク、且又我国ニ於テ事新ラシク始ムルモノナリトセバ或ハ不可ナルベキモ、既ニ各国ノ法律中ニモ之ヲ認ムル事ナレバ本条ヲ設ケタレバトテ敢テ不可ナカルベシ、併シナガラ本条末文ノ規定即チ「孰レニテモ其占有ヲ先キニ得タル者売却ノ優先権ヲ有ス」トノ規定ハ如何アルベキカトノ趣意ヲ陳ベタル事アリシ、去レバ兎ニ角研究ヲ要スルノ点ナリト思考ス、依ツテ斯々ノ場合ハ斯々ノ不都合アリト其不都合ナル点ヲ列挙シテ示サルレハ幸甚ナリ、何トナレバ独リ説明上ノ複雑ヲ免ルヽノミナラズ余ガ研究ノ好材料トナルベケレバナリ
問只今ノ御説明ニ依ルトキハ各国ノ法律モ之ヲ認ムルトノ事ナレトモ小生等ノ考ヘニテハ失礼ナガラ然カ認ムル事能ハサルナリ
答各国尽クトハ言ハズ、仏蘭西ノ法律ハ此場合ニ刑事ノ制裁アリ、独逸ノ法律ハ刑事ノ制裁ナシト覚ユ
問例ヘバ東京ニ於テ若干ノ米ヲ長崎ノ商人ニ売渡シタリトセン、此場合ニ於テ其米ヲ買受ケタル商人ハ又東京ニ於テ売払フ事モアルベケレバ態々長崎迄輸送スルノ必要ナカルベシ、是レ即チ処分証券ノ起ル所以ニシテ、此場合ニ倉荷証書第一号ヲ郵送シ若シ途中ニテ紛失シタル等ノ事アルトキハ第二号ヲ出シ第二号ノ紛失シタルトキハ第三号ヲ出スト云フ如ク処分証券数通ヲ出スハ斯ノ如キ趣意ナラザル可カラズト信ズルナリ、故ニ倉荷証書ナルモノハ実際一枚ヨリ外アルベキ筈ナシト思ハル
答如何ニモ処分証券ハ一枚ニ限ルベキ道理ナリ、併シナガラ従来商人ナル者ハ資本ヲ要スル事多キモノナレバ、不道理ナルニモ拘ラズ信用ニ依頼シテ一時ノ融通ヲ付ケル為メ数通ノ倉荷証書ヲ質入シタル事アリタルナリ、然ルニ今日ニ至リテハ此事遂ニ慣例トナリ毫モ怪ム事ナキニ至リタリ、扨此場合ニ於テ法律ハ之ヲ如何ンスベキカト云フニ、実際行ハルヽ処ノ事ナラバ之ヲ許容シテ不都合ナキ丈ノ処分ヲ為シ置カサル可カラス、玆ニ於テ欧羅巴ノ法律ハ此慣例ヲ採用シ法律ニ規定シタルモノナリ、而シテ我邦ノ法律ハ之ヲ模傚シタルニ過ギザルモノナレバ畢竟本条ハ為スベキモノヲ為サシメタルニ非ズ、欧羅巴ニ於テ現在認メラレタルモノニ傚フタルニ過ギザルナリ
問原ト一物ナルベキニ之ヲ二箇所三箇所ニ使用シテ差支ヘナシトハ如
 - 第19巻 p.330 -ページ画像 
何ニモ解セザルノ規定ナリ
答夫レノミナラズ二重転売スラ刑事ニ触レザルナリ
問倉荷証書ヲ以テ金ヲ借ルトキニ方リ、此外ニモ倉荷証書ヲ出シタリト言ハヾ誰モ金ヲ貸ス人ナカルベシ、故ニ倉荷証書ヲ質入シテ金ヲ借ラントスル者ハ勢ヒ他ニ出シタル事ヲ隠蔽スベシ、果シテ然ラバ金ヲ貸サントスル者ハ何ヲ以テ其倉荷証書ニ信ヲ置ク事ヲ得ベキヤ
答其場合ハ我邦ノ商法ニハ規定ナケレトモ欧羅巴ニ於テハ其倉荷証書ヲ出シタル所ニ就テ幾通ノ倉荷証書ヲ出シタルカヲ調ブル事ヲ得ルナリ、故ニ其倉荷証書ト其人ノ資産トヲ対照シテ信ヲ置クニ足ラズト考フルトキハ決シテ其請ヲ容レザルベキナリ
又玆ニ一言申シ置キ度キハ議論ノアル点ト条文ノ解釈トヲ混同セザラン事是レナリ、即チ議論ノアル点ハ議論ノアル点トシテ本条ノ意味ハ前陳ヘタル如ク、二通三通ノ処分証券ヲ融通スル事ヲ得ベク又現物ト処分証券ヲ占有スル者トアリタル場合ハ何レニテモ其占有ヲ先キニ得タル者勝ヲ制スルト云フニ相違ナケレバ此区別ヲ混ゼサラン事ヲ望ム、尚ホ又前ニモ陳ベタル如ク議論ノアル点ヲ聴キ之ヲ研究ノ材料トスルニハ最モ必要ノ事ナリト信ズレバ斯ク不都合ナリ云々ノ不便アリト其点ヲ記載シテ質問セラレン事ヲ切ニ希望スル処ナリ
問第三百八十四条ニ「質権ハ将来ノ債権ノ為メ予メ之ヲ設定スルコトヲ得ズ」ト規定シアリ、然ルニ理由書ニ依ツテ見ルトキハ予メ抵当ヲ受取リ置キ後ニ至リ債権ノ生ジタル場合モ或ハ有効ナルガ如ク思ハル、此点ニ付キ説明ヲ乞フ
答是ハ根抵当ノ事ニ就キ六ケ敷議論ノアル所ナリ、併シ元来根抵当ハ質物ナリトハ言ヒ難シ、何トナレハ始メ根抵当ヲ入レタル時分ニハ未タ債権成立セズ、手形ヲ振リ出シテ其手形ヲ銀行ガ支払ヒタルトキニ始メテ債権ガ成立ツモノナレバナリ、即チ其根抵当ヲ入ルヽ時ニハ或ハ将来ニ債権ガ成立ツコトモアラント云フ位ニ止マルナリ、果シテ然ラバ之ヲ質権ト云フコト能ハザルヤ明ナリ、然ラバ始メ根抵当ヲ入ルヽ時ニハ銀行ト如何ナル契約ヲ結ビタルモノカト云フニ是ハ質契約ヲ結ヒタルニアラズシテ即チ信用契約ヲ結ビタルモノナレバ此場合ニハ信用契約ノ外成立ツ可キ筈ナシ、尚一歩ヲ進メテ然ラバ其振出シタル手形ヲ銀行ガ支払ヒタルトキハ如何ント云フニ、此場合ニハ債権ノ成立タルヤ明カナリ、已ニ債権ノ成立チタル以上ハ質権ハ成立ツヤ否ヤト云フニ此ノ問題ニ対シテハ質権ハ成立タズト答ヘザルヲ得ス、何トナレバ信用契約ハ始終継続スヘキモノニシテ後ニ至リ設ヒ如何ナル契約ガ成立ツト雖モ質権ノ成立スベキ謂ハレナケレバナリ、然ラバ銀行ハ其受取リタル根抵当ヲ売却シテ自分ノ債権ヲ満足セシムルコト能ハザルニ付根抵当ヲ受取ルモ何ノ役ニ立タザル様ナレトモ、此ノ場合ニ於テハ質権ハ勿論成立セスト雖トモ彼ノ普通ノ留置権ニ依リ債権ノ弁済又ハ担保ヲ受クル迄、其抵当物ヲ留メ置ク事ヲ得ルガ故ニ結局自分ノ債権ヲ満足セシメ得ルコトトナルナリ
問根抵当ト雖モ留置権ヲ適用シテ之ヲ売却シ、自分ノ債権ヲ満足セシムルコトヲ得ヘキヤ
 - 第19巻 p.331 -ページ画像 
答否、根抵当ハ質物ト同様ニ之ヲ売却スル事ヲ得ザレトモ債権ノ弁済又ハ担保ヲ受クル迄之ヲ留メ置ク事ヲ得ルガ故ニ債権者ニ危険ヲ及ボス事ナシ
問第三百八十六条ニ所謂「無記名証券」ト称スルモノヽ中ニハ無記名公債抔モ包含スベキモノナルヤ、将タ然ラズシテ全ク所持人ニ渡ス手形丈ヲ指シタルモノナルヤ
答無記名公債ガ若シアリトスレバ此ノ無記名証券ノ中ニ包含スヘキモノナリ、即チ指図証券ニテモ無記名証券ニテモ総テ信用証券ヨリ生ジタル債権ヲ質入スルトキハ本条ノ規定ヲ適用セラルヽモノト知ルベシ
問第三百八十条ノ末文ニ於テ「但無記名証券ヲ除ク外其物ガ盗品又ハ紛失品ナルトキハ此限リニ在ラス」トアリ、已ニ無記名証券ヲ其例外ニ加ヘラレタル以上ハ他ノ代替物モ亦取リ除ケラレテ然ルヘキヤウニ考ヘラルヽナリ
答無記名証券ハ成程代替物ト同様ナルガ如クナレトモ其中ニ少シク区別ヲ設クルコトヲ得ベシ、例ヘバ代替物ナラバ敢テ確定物タルコトヲ要セザレトモ無記名証券ナルトキハ「イ」ノ百番ト云フガ如ク確定シタルモノナラザル可カラス、尤モ僅々タル場合ニ於テハ代替物タルコトナキニアラザルベシト云トモ多クハ確定シタルモノナリ、然ラハ何故ニ無記名証券ヲ例外ニ加ヘタルカト云フニ畢竟無記名証券ハ裏書転売ヲ為サヾルモノニシテ、盗品又ハ紛失品ノ如ク自由自在ニ其性質ヲ現ハスコト能ハザルニ依ルナリ
問盗品タリ紛失品タルコトノ一向分ラザルモノハ質権ヲ設定スルコトヲ得ルヤ
答然リ
問例ヘハ米若シクハ麦ヲ占有シタル者ガ其米若クハ麦ガ或ハ盗品ニハ非ザルヤト疑フモ、其確証ナキ限ハ質権ヲ設立スルコトヲ得ルト云フノ意ナルヤ
答然リ、即チ盗品タリ紛失品タルコトノ判然シタルトキハ設ヒ質権ヲ設定スルモ無効ニ帰スルナリ、然ラバ如何ナル物タルヲ問ハス盗品又ハ紛失品タルトキハ之レニ設定シタル質権ハ無効ニ帰スルカト云フニ、無記名証券丈ハ其例外タルコトヲ規定シタルモノナリ、而シテ斯ク無記名証券ヲ例外ニ置キタル所以ハ其流通ヲシテ自在ナラシメントスルノ精神ニ外ナラサルナリ
問本条ニ「質債権者ノ善意ナルトキニ限リ云々」トアレバ、設ヒ盗品タリトモ一人ノ正当者ノ手ヲ経テ得タルトキニハ後ニ至リ取リ戻サルヽノ憂ヒナキヤ
答例ヘバ甲ガ乙ヨリ正当ニ或ル物品ヲ得タリトスルモ、後ニ至リ其物品ハ丙者ガ盗取シタルモノナルコトノ発覚シタルトキハ甲ノ有セル物品取得ハ無効ニ帰スルナリ
問無記名証券ハ取戻サルヽノ憂ナキカ
答然リ、故ニ無記名証券ノ流通ヲシテ一層活溌ナラシムルコトヲ得ルナリ
問第三百九十八条ニ「指図証券ノ裏書譲渡ハ白地ニテモ之ヲ為スコト
 - 第19巻 p.332 -ページ画像 
ヲ得」トアリ、此白地ト称スル文字ノ意味ハ何事モ記載セザルニアリト云フノ説ト、譲渡人ノ姓名年月日丈ハ記載スヘキモノナリト云フノ説アリ、当否如何
答譲渡人ノ名前ト年月日ノアル場合ガ白地ナリ、但シ其裏書ノ記載方ニ関シ二説アリ、第一説ハ始メ甲ヨリ年月日某ト記載シテ乙ニ渡シタルトキハ乙ハ之ニ「表面ノ金額何某ニ御渡被下度候」ト記載シ之ヲ丙ニ譲渡サヾル可ラズト云フニ在リ、又第二説ハ然ラズ、始メニ甲ガ年月日何某ト記載シタル以上ハ其後三人五人ニ転々スルモ毫モ書入ヲ為スニ及ハスト云フニ在リ、而シテ草按ノ意味ハ孰レヲ採ルモ決シテ問フ所ニアラザルナリ
問例ヘバ或人ヨリ裏書ナシニテ指図証券ヲ受取リ、又之ヲ他人ニ譲渡スルトキニ当リ自分ノ所丈指図式ノ裏書ト為シテ可ナルカ
答可ナリ
問第四百六条ノ第一項ト第二項即チ代弁人ト代弁店トノ差違如何
答代弁人ナル者ハ何人ノ委托タルヲ問ハズ世間一般ヨリノ委任ヲ引受クルヲ以テ営業トスルモノナリ、然ルニ代弁店ト称スルモノニ至テハ之ニ反シテ或ル定マリタル者ニ限リ委托ヲ受クルモノヲ云フ、例ヘハ横浜ノアーレンスハ独乙ノクルツプノ代弁店ニシテ、クルツプノ仕事ノミノ代弁ヲ為スガ如シ、併シ代弁店ハ或ル場合ニ於テハ他ノ委任ニヨリ更ニ他ノ代弁ヲモ兼ヌルコトアルベシ、即チクルツプノ代弁店ガ英国ノピーオー会社ノ代弁ヲ兼ヌルガ如キ是レナリ、要スルニ其区別ハ一般ノ代弁ヲ為スト或ル定マリタル代弁ニ限リ為ストニ在リ
問第四百八条ノ末文ニ「過失ニ出ヅル解除」ト云フコトアリ、其意義ハ過ツテ契約ヲ結ビタルニ依リ解除スト云フニアルカ将タ其代弁ヲ引受ケタル中ニ過失アリ、夫レガ為メ解除ヲ来シ損害ヲ被ラシメタル場合ヲ指シタルモノナルカ
答例ヘバ甲ナル者代弁ヲ引受ケタルトキニ当リ充分注意ヲ為スヘキ責アルニ幾分カ其意注ヲ怠リ之ガ為メニ其委托者ニ損害ヲ被ラシメタル如キ場合ヲ云フナリ、此場合ニ解除ヲ主張スルノ権利ハ民法ニ於テモ亦許ス所ナリ
問然ラバ解除ト為ルヘキ過失ヨリ起リタル損害カ
答然リ
問過失ト称スルハ代弁人ニ係ルカ将タ委任者ニ係ルカ
答普通ノ契約ノ場合ハ委任者ト代弁人トヲ問ハズ孰レニテモ一方ニ過失アリタルトキハ一方ノ過失ナキ方ヨリ契約ノ解除ヲ申立ツルコトヲ得ルナリ、是レ即チ民ノ原則ナリ、併シナカラ本条ノ場合ニ於テハ委任者ニ過失アルコト殆ト稀ニシテ(尤モ委任者ガ代弁人ニ渡スベキ金ヲ渡サヾリシ等ノ場合モアルベケレハ全ク是レナシトハ断言スルコト能ハザレトモ)先ツ重ニ義務ヲ引受ケタル方ノ過失アル場合ヲ指シタルモノナリ、然レトモ本条ニ「何時ニテモ一方ヨリ之ヲ解クコトヲ得」トアル以上ハ委任者代弁人孰レニテモ適用スルコトヲ得ルナリ
問第四百十二条ニ「取引ノ取結ヲ為スノミノ委任ヲ受ケタル代弁人ハ
 - 第19巻 p.333 -ページ画像 
支払ノ金銭若シクハ差戻ノ商品ヲ受取リ又ハ異議ヲ承諾スル権利ナシ」トアリ、此ノ取結ト称スル文字ハ他ノ場合ヨリ考フルトキハ取引ノ約定ト云フガ如クニ思ハルヽナリ、果シテ取引ノ約定トスレバ差戻ノ商品ヲ受取リ、又ハ異議ヲ承諾スルハ兎ニ角支払金ヲ受取ルコト丈ハ委任ヲ受ケタル者ノ権利ニ帰セシメテ然ルベシト思ハル、又一説ニハ取引ノ取結ト称スルハ取引ノ約定ニアラズシテ履行ト云フノ意味ナリト、当否如何
答本条ハ「契約ノ取結」ト「取引ノ取結」トノ区別ヲ明カニセバ自ラ明瞭トナラン、即チ「契約ノ取結」ト云フトキハ契約ノ全部ヲ包含スレトモ「取引ノ取結」ト云フトキハ契約ノ一部分ニ限ルナリ、例ヘバ甲者乙者ノ委任ヲ受ケテ麦酒一ダースヲ買フ処ノ契約取結ノ権利ヲ得タルトキハ、其注文方・受取方・代金支払方等一切ノコトヲ包含スルナリ、之ニ反シテ取引ノ取結ヲ為ス委任ト云フトキハ、例ヘバ麦酒一ダースヲ買フコトノ契約ハ已ニ成リ、只其受取方ノミ委任セラレタルガ如キ場合ヲ云フナリ、尚ホ一例ヲ挙クレバ甲者乙者ヨリ一石五円ノ相場ニテ若干ノ米ヲ買入ル可キ契約ヲ結ビタリトセン、然ルニ其後米価非常ニ下落シタルニ依リ一石四円五十銭宛ニ引下ケンコトヲ乙者ニ向テ談判センコトヲ委任セラレタル場合ノ如キ是レナリ、此場合ノ委任ハ即チ取引ノ取結ニシテ契約ノ取結ニアラザルナリ、要スルニ本条ノ規定ハ一分ノ委任ヲ受ケタルニ止マルトキハ支払ノ金銭若シクハ差戻ノ商品ヲ受取リ、又ハ異議ヲ承諾スルコト能ハス、若シ其等ノ事ヲ為サント欲セバ之ガ為メニ特ニ委任ヲ受ケザルベカラズト云フニアルナリ
問第四百二十条ニ規定シタル「部類」ノ意義如何
答米ナラバ米、油ナラバ油ト云フガ如キ一種類ヲ部類トナシタルナリ併シナガラ雑穀屋ニシテ米・麦・豆等ヲ販売スルトキニハ其種々ナル物ヲ併セテ一部類ト見做ス、即チ普通商ヒ上ニ於テ一部類ナリト認メラレタルモノヲ指シタルニ過ギザルナリ
問第四百三十条ニ「仲立人ハ自己又ハ他人ノ計算ノ為メニスルモ」云云トアリ、本条ノ規定ハ仲立人ハ自己ノ計算ノ為メニ取引ヲ為スコト能ハスト云フニアルヤ
答本条ハ自己ノ利益ノ為メニ中立営業《(仲)》ヲ為スコト能ハザルコトヲ規定シタルモノナリ、即チ甲ガ仲立入ト為リテ乙ト丙トノ取引ヲ媒介シタル時ニ当リ、仲立人ハ直接ニモ間接ニモ自分ノ利益ヲ図ルコト能ハズト云フニアルナリ
間本条ノ「自己ノ名義ヲ以テスル」場合トハ如何ナル場合ヲ云フカ
答此コトハ今日間々行ハルヽ処ナリト聞ク、即チ仲立人ガ他ニ匿名ノ委任者アルガ如キ観ヲ装ヒ、自己ノ名義又ハ自己ノ計算ヲ以テ契約ヲ取結ビ、自己ノ利益ヲ図ラントスルガ如キ場合是レナリ
問同条第二項ニ「仲立人ハ他人ノ為メニ支払若クハ保証其他ノ担保云云」トアリ、此ノ保証ト担保トノ差異如何
答担保トハ広キ意味ナリ、即チ金銭ナリ物品ナリ認証ナリ何レニテモ可ナリ、保証ニ至テハ之ニ反シ人ニ関スルコトナルヲ以テ其意味狭シ、故ニ本条ハ設ヒ保証ノ文字ナキモ「其他ノ担保」トアル以上ハ
 - 第19巻 p.334 -ページ画像 
意味ニ於テ欠クル処ナキナリ
問第四百三十二条ニ「仲立人ハ委任者ノ求メニ応シテ事ヲ秘スル義務アリ」トアリ、然ルニ第四百三十一条ニハ「仲立人ハ委任者ニ対シテ詳悉完全及ヒ誠実ニ必要ノ申告ヲ為ス可シ云々」トアリ、然ルトキハ一方ハ誠実ニ申告ヲ為ス可シト云ヘ一方ハ其ノ事ヲ秘スヘシト云フニ同シキ様ニ思ハル、此ノ点ハ如何
答取引上ノコトニ就テハ仲立人ハ委任者ニ誠実ナル報告ヲ為サヾル可ラズ、併シナガラ或ル場合ニ於テハ官吏ニシテ米千俵ヲ買入レンコトヲ委托シ之ト同時ニ他ニ泄サヾランコトヲ依頼スル者アラン、即チ前条ニ於テハ取引ノ裏実ヲ両方ニ誠実ニ申告セザルベカラザルコトヲ規定シ、本条ハ其例外ノ場合ヲ規定シタルモノナリ
問第四百三十五条ノ末文ニ「弁済又ハ報償云々」トアリ、弁済又ハ報償トハ如何ナル意味カ
答一石五円ノ米百石ヲ買ヒ五百円ヲ払フト云フ場合ハ即チ弁済ナリ、麦ト米トヲ交換スルガ如キ場合ガ即チ報償ナリ、要スル《(ニ脱)》本条ハ「金銭ノミニアラズ其他ノ物ニテモ」ト云フノ意味ヲ示シタルモノナリ
問第四百四十条第一項ノ末文ニ「但其謄本ハ指図式ト為スコトヲ得」トアリ、仲立人ガ取引ヲ為シタル謄本ヲ指図式ト為シ置クコトヲ得ルヤ
答仲立人ハ謄本ニ号ヲ記載シテ委任者ニ送附ス、是レ即チ契約ヲ為シタル証拠ト為ルナリ、而シテ委任者ハ其受ケタル謄本ヲ以テ直チニ質入スルコトモ亦売却スルコトヲモ為シ得ルナリ
問第四百四十九条ニ「或ル商品ヲ小売ノ外ハ取引所ニアラザレハ商フヲ得ザルコトヲ官ヨリ規定スルコトヲ得」トアリ、例ヲ挙クレバ如何ナル物ガ取引所外ニ於テ商フヲ得ザルモノナルベキヤ
答例ヘバ米・生糸・茶ノ如キ総テ通常人ガ一手買占メヲ為シテ一般ノ相場ニ非常ナル影響ヲ与フルノ掛念アルモノハ、ブールスニ於テ商フヲ可トスルノ論アリ、即チ生活上ノ必要品或ハ外国貿易品ノ主タル物ニ就テハ、成ル可ク乱高下ナカラシメンコトヲ規スルノ精神ナラン
問併シナカラ買占メノ弊害ハブールスニ於テモ実際行ハルヽニ非ズヤ
答然リ、併シナガラ多少弊害アルニモセヨ一己人ノ買占メニ任ズルヨリハブールスニ於テ取引ヲ為サシムル方其害少ナカラント云フニ在リ、然レトモ本条ノ規定ハ利用如何ニ依テハ最良ノ結果ヲ生ジ又最悪ノ結果《(衍)》ヲヲモ生ズルニ至ルベシ
問仏蘭西ニ於テハブールスニ於テ取引ヲ為スモノハ手形ノミニアラズヤ
答否、独リ手形ノミナラス其他ニモアリ、併シナガラ我邦ノ如ク法律ニ権力ヲ与ヘザルナリ、又独乙ニ於テモ通例ノ証券及ヒ無記名ニテ売買スル一二ノ証券書類ニ過キズ、而シテ其種類ハ皆法律ヲ以テ定メラレタリ
問若シ米ヲモブールスニ於テ取引ヲ為サヾルベカラザルコトヽ為リ、十俵若シクハ二十俵ノ取引ヲ為ス者ニマデ此ノ法律ヲ適用サルヽコトヽナラバ非常ナル迷惑ヲ感スルニ至ル者アラン、如何
 - 第19巻 p.335 -ページ画像 
答田舎ノ百姓ガ十俵ナリ二十俵ナリ車ニ載セテ持チ来リタルモノヲ買フノ類ハ小売ニ属スルナリ、小売外即チブールスニ於テ取引ヲ為スベシト云フモノハ商業ノ為メニ売買スルモノヲ指シタルモノナリ
問当地ノ米問屋ナル者ハ遠方ヨリ千俵二千俵ノ買出シヲ為シ来リテ、深川佐賀町ニ市場ヲ設ケテ販売ヲ為シ居レリ、是等ハ小売ト云フコト能ハサルベキカ
答政府カブールス外ニ於テ販売スルコトヲ禁ジタルトキハ小売ト云フコト能ハサルナリ
問仲立人ト仲買人トノ区別如何
答仲立人ハ両方ノ取引人ヲ媒介シテ取引ヲ為サシムルニ止マリ、自カラハ其取引ニ毫モ関係セザルナリ、之ニ反シ仲買人ハ自分ノ名ヲ以テ取引ヲ為シ、自分ノ利益ヲ計ルヲ以テ主ト為スナリ、現今ノ問屋ナル者多クバ之ニ相当スルト思フ
問第四百六十六条末文ニ「其責任ハ第三者ガ責ニ任スベキマテヲ以テ限トス」トアリ「第三者ガ責ニ任スベキマテ」トハ第三者ガ支払得ベキ迄ト云フノ意味ナルヤ
答然リ、即チ第三者ハ当然百円ヲ払フベキ筈ナルニ破産ヲ為シタルガ為メ其清算上七十五円丈ケヨリ払フ事能ハザルガ如キ場合ニ方テハ之ガ仲買人ハ七十五円マテノ責ニ任ズルト云フノ意ナリ
問同条ニ「支払資力ニ付キ委任者ニ対シテ責ニ任ズ」トアリ、其意味ハ彼ノ人ハ必ス百円丈払ヒ得ルナラント思惟シテ売却シタルトキヲ云フニ在ルヤ、若シ「破産シタル時ニハ」ト云フ意味ナルトキハ仲買人ハ毫モ其責ニ任ゼザル様ニ思ハルヽナリ
答仲買人ニ委任シ置キ、若シ第三者ガ払ヒ能ハザルトキハ仲買人ガ払フ可シト云フガ如キ彼ノ特別保証トハ異ナレリ、特別保証ニ於テハ第三者ガ破産ヲ為スト否トニ拘ハラズ千円払フベキ事ヲ約シタルトキハ仲買人ヨリ之ヲ払ハザルベカラズ、即チ第四百七十六条ニ於テ「仲買人ニ於テ資力保証ヲ負担シタルトキハ云々」ト規定シタル場合ノ如キ是レナリ、本条ハ然ラスシテ第三者ガ責ニ任スベキマテ仲買人ガ其責ニ任ズル場合ヲ規定シタルモノナリ
問第四百八十条ニ「書籍其他器械ヲ以テ複製スル学芸技術上ノ製出物ノ発行引受ハ仲買営業ノ原則ニ依ルベシ」トアリ、書籍抔ヲ発行シテ発売スルハ発行引受ナリヤ
答欧羅巴ニ於テハ本条ノ規定ノ如キ場合多シ、即チ著者自ラ其書籍ヲ発売スルコト能ハザルニハ非サレトモ大抵他ニ発行引受営業者アリテ之ヲ引受発行スルナリ、単リ書籍ノミナラズ写真ナリ絵画ナリ皆斯ノ如シ、故ニ我邦ニ於テモ例ヘハ博聞社ガ余ノ著書ヲ引受ケテ発行スルトキハ本条ノ所謂発行引受ナリ
問同条ノ製出物トハ如何ナル意味ナルヤ
答著書ハ学芸上ノ製出物、写真ハ技術上ノ製出物ナリ
問第四百七十条ニ「買主売主又ハ其他ノ者トシテ云々」トアリ、其他ノ者トハ如何ナル者ヲ云フヤ
答例ヘバ船ニ積ンデ呉レトカ質ニ置イテ呉レトカ云フ者ノ地位ニ立ツガ如キ場合ヲ云フ
 - 第19巻 p.336 -ページ画像 
問運送取扱人ト運送人トノ区別如何
答運送人トハ自ラ運送ヲ以テ営業トスル者ヲ云フ、運送取扱人トハ自分ハ運送ヲ以テ営業トセサル者ヲ云フ、例ヘハ余カ一個ノ荷物ヲ大坂マテ差出ス事アリトセン、此時ニ当リ其荷物ヲ船宿ニ持行キ、此荷物ヲ大坂ノ何某マテ届ケ呉レヨト依頼スルナリ、然ルトキハ船宿ハ直チニ之ヲ承諾スルナラン、併シナカラ其船宿ハ決シテ自分ノ運送具ヲ以テ運送スル者ニアラズ、或ル場合ニ於テハ或ハ運送スルコトナキニアラザルベシト雖トモ、通例ノ場合ニ於テハ決シテ自カラ運送ヲ為サズシテ依頼ヲ受ケタル荷物ヲ直チニ新橋ノ停車場ニ持行キテ之ヲ大坂ノ何某マテ届ケンコトヲ委托スルナリ、此船宿ノ如キハ玆ニ所謂運送取扱人ナリ、故ニ荷物中立人或ハ荷物世話人等ノ名称ガ此ノ船宿ニ適応スルナリ、之レニ反シテ運送人ナル者ハ依頼人ヨリ委托ヲ引受ケ直接ニ甲地ヨリ乙地ニ運送スルコトヲ営業トスルモノヲ云フナリ、故ニ日本鉄道会社ノ如キ若クハ郵船会社ノ如キハ皆此ノ部類ニ属スルナリ
問海上ヲ運送スル荷物ハ御説明ノ如ク船宿若クハ俗ニ周旋屋ト称スル者之レカ取継キヲ為スト雖トモ、陸上ノ送運ニ至テハ多クハ会社自身ガ直接ニ其委托ヲ受クルカ如シ、去レハ通運会社ハ運送取扱人ノ如クニモアリ亦運送人ノ如クニモアリ、此点ハ如何
答通運会社モ例ノ運送人ニ属スルモノナリト思ハルヽナリ、何トナレハ自分自カラ運送ヲ営業トスル者ナレバナリ、尤モ海ヲ越エテ運送ヲ為ストキニ当テハ通運会社ヨリ他ニ委托スルコトアリト雖モ、其場合ハ自己カ運送人ト為リ他ノ運送人ニ委托スルモノナレハ決シテ取扱人ト云フコト能ハサルベシ、是尚ホ通運会社カ神戸迄荷物ヲ運送スルニ当リ、横浜マテハ自分ノ名ヲ以テスルモ、横浜ヨリ神戸マテハ自分モ運送人トシテ他ノ運送人トノ間ニ契約ヲ結ヒ之ニ委托スルガ如シ、故ニ其運送人ノ間ニハ共算商業組合第二ノ種類ノ契約カ通例成立シ居ルヤウニ思ハルヽナリ、尚ホ之ヲ再言スレバ運送営業人トハ陸海ヲ問ハス運送ヲ営業トスル者ヲ総称シ、運送人トハ単ニ陸地ノミノ運送ヲ営業トスル者ヲ指シテ云フナリ、而シテ此ノ区別ヲ為ス必要ハ例ノ海運ノ事ハ海上法ニ於テ之ヲ規定シ、其船長及ヒ海員ノ如キハ均シク運送人ナルニ商法ニ於テ陸地運送ニ限リ運送人ノ名称ヲ用ヒ、双方ヲ同時ニ言ヒ表ハサントスルトキニ至ツテハ之レヲ表明スルノ言葉ナキヲ以テ斯ク運送営業人ナル名称ヲ用ヒタルナリ、左レバ運送営業人トアルハ要スルニ海陸運送人ト云フト同一ナリ
問第四百八十一条第二項ニ「運送取扱人ハ其営業ノ外亦自己ノ計算又ハ他人ノ計算ヲ以テ他ノ商取引ヲ為スコトヲ得」トアリ、運送取扱人ハ運送取扱営業ノ外何商売ヲ為スモ差支ナシト云フノ意味ナルヤ
答然リ、即チ第四百三十条ニ「仲立人ハ自己又ハ他人ノ計算ノ為メニスルモ云々」ト云フノ規定ナルカ故ニ、運送取扱人ノ営業ハ中立人ニ似タル所ヨリ或ハ他ノ営業ヲ為スコトヲ能ハサルヤトノ疑ヒ起ルヲ以テ、本条ノ規定ヲ設ケ他ノ営業ヲ為スモ決シテ妨ケナキコトヲ明示シタルモノナリ
 - 第19巻 p.337 -ページ画像 
問第四百八十四条第二項ニ「運送営業人ノ氏名及ヒ住所」ト云フコトアリ、例ヘハ遠方ニ荷物ヲ発送スルニ当リテハ或ハ鉄道或ハ滊船ト種々ノ手ヲ経ルコトアラン、此ノ場合ニモ運送営業人ノ氏名ハ尽ク記載セサル可カラサルヤ
答本条ハ確定シタル後チ頗ル議論アリシ箇条ナリ、要スルニ遠方マテ発送スル荷物ヲ取扱フヘキ運送営業人ヲ其ノ運送状ニ漏サス記載スヘキコトハ到底為シ得サル所ナリ、何トナレハ近キ所ハ運送営業人ノ名ヲ知ルコトヲ得レトモ遠方ニ至テハ如何ナル会社ニ托スルモノナルカ予メ知ル可カラザレバナリ、依テ本条第二項ハ運送営業人ノ名ハ書キ得ル丈ケ書ク可シト云フ解釈ト為リ居ルナリ
問同条第一項ニ運送状ノ事ヲ規定セリ、従来船舶ニテ運送スル荷物ニハ送リ状ナルモノ(引換切手トモ云フ)ヲ出シタリ、又通運会社ノ如キハ普通ノ受取状ヲ差出シ、而シテ其ノ荷物ガ先方ニ到着シタル後受取帳ニ署名調印ヲ取リ置クコトヽナリ居ルナリ、今本条第一項ノ規定ヲ見ルニ運送状ナルモノハ或ハ荷物ト引換ヘルモノヽヤウニモ見ユルガ、又第五百十一条ノ規定ニ依テ見ルトキハ単ニ荷物ヲ受取ルモノヽヤウニモ見ユルナリ、果シテ何レノ性質ニ属スルモノナルヤ
答運送状ナルモノハ即チ運送営業人之レヲ作リ、一通ハ取継人ニ於テ記名調印シ荷物差出人ニ渡シ、一通ハ依頼人ノ調印ヲ受ケ其ノ荷物ニ附ケテ発送スルナリ、而シテ荷物差出人ハ別ニ其受取リタル運送状ヲ荷物受取人ニ宛テ送附スルコトヽナルナリ、故ニ其荷物ノ先方ニ到着スルヤ、受取人ハ荷物ニ附ケアル運送状ト兼テ差出人ヨリ送リタル運送状トヲ引合ハセ相違ナキ事ヲ知ルヲ得ベシ、要スルニ従来ノ慣習ト多少異ナル所アリト思フ
問従来ノ慣習ニ依レハ運送営業人カ殊更ニ運送状ヲ作リ委托人ニ渡ス事ナク、多クハ荷物差出人ヨリ運送状ヲ作リ其ノ荷物ニ附ケテ行クナリ
答本条ノ規定モ其主義ニ於テ異ナルコトナシ、只運送状ヲ取扱人カ作ル丈ケノ差アルノミ、即チ一方ニ於テハ取扱人カ運送状ヲ作リ、差出人ノ捺印ヲ得テ荷物ト共ニ之ヲ持チ行キ一方ニ於テハ取扱人ノ捺印シタル運送状ヲ差出人ヨリ受取人ニ宛テ送ルナリ、然ルトキハ先方ニ於テハ其ノ二通ノ符合スルヲ見テ相違ナキヲ知ルヲ得ヘシ
問運送取扱人ガ荷物ト共ニ送附スル所ノモノハ、受取人カ差出人ヨリ受取リタル所ノ運送状ト引合ハス為メノ控ヘトナルモノナルヤ
答然リ、即チ東京ヨリ長崎ニ向ケテ荷物ヲ発送シタルトキハ、取扱人ノ発シタル運送状ハ荷物ト共ニ受取人ニ交附ス、然ルトキハ別ニ東京ノ差出人ヨリ郵便ヲ以テ送リタル運送状ト符合スルコトヽナルナリ
問然ルトキハ一方ハ運送状ト引換ヘテ荷物ヲ受取ル可シト云ヘ、一方ハ運送状ト引換ヘテ荷物ヲ渡ス可シト云フニアルヤ
答運送状ニハ別ニ「渡ス」「受取」等ノコトハ記載シテナキナリ、即チ甲乙ノ荷物運送ヲ引受ケタルトキハ運送営業人ハ何某ノ運賃ガ幾何ト即チ第四百八十四条ニ列挙シタル箇条丈ケノ事ヲ記載シ、「此
 - 第19巻 p.338 -ページ画像 
ノ証書ト引換ヘ渡スベシ」ト云フカ如キコトハ記載セザルモノト信スルナリ
問然ラス、荷物ノ先方ニ到着スル前ニ荷主ヨリ受取人ニ通知スベキモノナルヤ
答然リ
問然ラバ第四百八十四条ニ列記シタル箇条丈ヲ記載スレハ、其ノ他ノコトハ各自ノ勝手ニテ差支ナキヤ
答然リ
問本法ニ於テ運送状ヲ斯ク規定シタル趣意ハ如何
答抑モ運送状ノ規定ヲ設ケタル趣意ハ一ハ融通ヲ助クルニアルナリ、例ヘハ余ガ荷物ヲ運送取扱人ニ委托シタル後、俄カニ金銭ノ必要ヲ感ジ其荷物ヲ引当ニ金ヲ借ラント欲スルコトアラン、此場合ニ於テハ其運送状ハ指図証券ナレハ之ヲ質入スルカ又ハ売却シテ以テ融通ヲ為ス事ヲ得ベシ、若シ従来ノ運送状ノ如ク荷物ニ附ケテ置クノミナルトキハ荷主ハ其荷物ヲ処分スルコトヲ得ザルベキナリ
問第四百八十九条第一号ニ「運送取扱人ヨリ運送品ニ対シテ為シタル前貸及ヒ其立替タル運送賃ノ償還」トアリ、「前貸」ト云フ場合ハ運送取扱人カ荷為替デモ組ミタルトキノコトヲ云フヤ
答荷為替ト云フ程テモナケレトモ併シ契約上デ荷為替ヲ組ムモ決シテ差支アラサルナリ、例ヘハ千円ノ価額アル荷物ヲ差出シタルトキニ当リ、取扱人カ富者ニシテ荷主ト契約整ヒタルトキハ信用ノアル限リ支払ヲ為スモ可ナリ、夫レカ即チ前貸トナルナリ
問第四百九十一条ニ「運送取扱人ノ責任ニヨリテ生スル請求又ハ抗弁ニ対シテハ云々」トアリ、抗弁トハ如何
答例ヘハ運送取扱人ヨリ此ノ荷物ニ就キ若干円ノ運賃若クハ其ノ他ノ立替金ヲ申受ケタシト請求シ来タリタリトセンニ、此ノ場合ニ於テ荷物受取人ハ曰ク、其ノ請求ハ去ルコトナカラ此ノ荷物ニ対シテハ運送人ハ相当ノ注意ヲナスヘキ責アルニ其注意ヲ怠リタルガ為メニ現ニ十行李ノ中二行李ヲ毀損シタルニ非スヤ、或ハ不注意ノ為メ定期ノ日限ヲ経過シタルニ非スヤ、故ニ請求ノ金額ヲ払フコト能ハサルナリト、是レ即チ抗弁ナリ
問運送中立人ナル者ニモ本条ノ規定ヲ適用スヘキモノナルヤ
答要スルニ本条ノ規定ハ総テ運送取扱人ト同視スベキ者ニハ之ヲ適用シ同視スヘカラサル者ニハ適用セズト云フガ大躰ノ趣意ナリ、而シテ運送中立人ハ運送取扱人ト同視スベキモノナルカ否ヤト云フニ中立人ナル者ハ前ニモ説キタルガ如ク自分ニ責任ナクシテ取引人ノ間ニ立テ引合セヲ為スニ止マレハ決シテ自分ニ責任ヲ負フ所ノ運送取扱人ト同視スベキニアラス、随テ本条ノ規定ハ運送中立人ニ適用セラレザナリ《(ル脱)》
問第四百九十七条ニ「運送品ノ各部又ハ各箇喪失若クハ毀損ノ場合ニ於テ毀損セザル各部又ハ各箇ヲ其儘使用シ、若クハ売却シ得ヘカラサルトキハ其喪失若クハ毀損ニ因テ運送品全部ニ付減シタル価額ヲ賠償ス可シ云々」トアリ、又第四百九十六条ニハ「運送品ガ遅延又ハ一分ノ喪失若クハ毀損ニ因リテ云々」トアリ、一分ノ喪失ト云フ
 - 第19巻 p.339 -ページ画像 
トキハ一物品アリテ其一部分ガ破損シタル如キヲ云ヒ各部又ハ各個ノ喪失ト云フトキハ六行李アル荷物ノ中ニテ一行李カ喪失若クハ毀損シタル如キ場合ヲ云フヤ
答最モ睹易キ例ヲ挙ケテ云フトキハ一箇ノ器械アリテ其ノ螺釘ガ損シタト云フカ如キ場合ハ前条ノ場合ニシテ之ニ反シ茶碗十箇(一組)アリシトキニ其ノ一箇カ損シタル場合ハ第四百九十七条ノ場合ナリ
問第四百九十七条ニ「各部又ハ各箇ヲ其ノ儘使用シ、若シクハ売却シ得ヘカラサルトキハ其ノ喪失若クハ毀損ニ依リテ運送品全部ニ付キ減シタル価額ヲ賠償スヘシ云々」ト云フコトアリ、然レトモ若シ売却シ得ヘカラサルモノナルトキハ全部ニ付キ減シタル価額ニアラズシテ全価額ヲ賠償セサル可カラザル様ニ思ハルヽナリ
答減シタル価額トハ十箇(一組)アリシ茶碗中一箇ヲ毀損シタルカ為メニ残余ノ茶碗ハ十箇揃ヒタル時ノ如ク、売レサルトキニ減シタル其ノ価額ヲ賠償スベシト云フ意味ナリ
問第五百三条ニ「運送人ハ甚シキ怠慢云々」ト云フコトアリ、去レトモ強チ甚シキ怠慢ニアラサルモ運送人ハ其責ヲ負フテ然ルベキヤウニ思ハルヽナリ
答此ノ甚シキ怠慢ト云フコトニ就テハ一言シ置クベキモノアリ、元来運送人ハ其運送品ニ就テノ怠慢ヨリ生スル損害賠償ノ責ニ任ズヘキハ当然ナレトモ、其中ニ就キ責任ノ重キ場合ト軽キ場合トアリ、例ヘハ寄托ヲ受ケタル場合ノ如キハ至重ノ注意ヲナサヽル可カラス、去レハ此場合ニ於テハ仮令甚シキ怠慢ニ非スシテ軽微ナル怠慢ヨリ出ツルト雖其責ニ任セサル可カラス、故ニ本法中ニ至重ノ注意ナル文字ナキ以上ハ普通ノ注意丈ケニテ可ナリ、即チ甚シキ怠慢ト悪意トノ外責ヲ負事ニ及ハザルナリ、今本条ノ場合ヲ考察スルニ運送人ハ他人ノ物品ヲ預カル次第ナレハ或ハ至重ノ注意ヲ為サヽル可カラサルヤ、換言スレハ軽微ナル怠慢ニテモ其責ヲ負ハサル可カラザルヤトノ疑ヲ生スルコトナキヲ保セズ、玆ニ於テカ本条ノ規定ヲ設ケ運送人ハ甚シキ怠慢ト悪意トヨリ出ズルモノニアラサレハ其責ニ任セサルコトヲ示シタルモノナリ
問第五百二十一条ニ「手荷物ニ付テハ旅客運送人ハ過失ノ罪ノ自己ニ帰スル場合ニシテ其手荷物カ現実且相当ノ旅行需用ヲ充スニ必要ナルモノニ限リ賠償責ニ任ス」トアリ、此現実且相当トハ如何
答本条ノ場合ハ例ヘハ余ガ旅行中ニ於テ旅客運送人ノ過失ニ依リ手荷物ヲ紛失シタリトセンニ此ノ場合ニ於テ余ハ其手荷物中ニ一万円ヲ入レ置キタリトハ主張スルモ旅客運送人ハ其ノ責ニ任セザルナリ、何トナレハ余ガ自分ニシテ旅行ヲ為スニ一万円ヲ携帯シタリトハ現実且相当ノ旅行需用ヲ充スニ必要ナラサレハナリ、之ニ反シテ二百円ヲ入レ置キタリト云フトキハ現実且相当ノ費用ナレハ其責ニ任セサル可カラサルナリ
問旅用行李ト手荷物トノ区別如何
答其区別ハ少シク六ケ敷ヤウナレトモ実際ニ就テ見ルトキハ自カラ明瞭ナリ、手荷物ト称スルモノハ自分ノ手許ニ存スルモノニシテ日々使用スルモノヲ云フ、又日々使用セザルモ遠方ヲ旅行スルニ就テ必
 - 第19巻 p.340 -ページ画像 
要品ニシテ荷物部屋ニ積ミ入レタルモノハ即チ旅用行李ナリ
問売買契約ト供給契約トノ区別ハ遠隔ノ地ニ於テ取引ヲ為スニ当リ、運送中其危険ノ受持方ニ就テ設ケラレタルモノヽ如クニ思ハル如何
答幾分カ其等ノ結果モナキニアラサル可シト雖トモ、今此ノ区別ヲ約言スレハ売買契約ハ現存シタルモノヲ売ル契約ヲ云ヘ供給契約トハ注文ヲ受ケタル後ニ拵ヘテ売ルト云フノ契約ナリ、例ヘハ米千俵ヲ甲ヨリ買入レントスルニ当リ其米千俵カ甲ノ手ニアルモ将タ其他ノ人ノ手ニ存スルモ甲ニ処分権ノアリタル場合ハ即チ売買契約ナリ、之ニ反シテ甲ガ乙ニ米千俵ヲ売ランコトヲ約シアルモ其ノ実甲ノ手ニ処分権モナク、只丙ノ所有セル米ヲ目的ト為シテ契約ヲ結ヒ後ニ至リ丙ニ就テ乙ト契約ヲ結ヒタル旨ヲ陳ヘテ其米ヲ買受ケ以テ乙ニ引渡ス如キ場合ハ即チ供給契約ナリ
問仮令処分権ヲ有スルトモ遠隔ノ地ニアルモノヲ引キ取テ売買スルカ如キ場合ハ供給契約ト思ハル、如何
答否ナ、矢張リ売買契約ナリ
問併シ運送中ハ供給ノ部内ニ在リト思ハル、如何ン
答幵ハ処分権ノ無キ場合ナリ、例ヲ挙ケテ之ヲ言ヘハ甲ガ乙ニ向テ香港ニ船積ミシアル荷物ヲ売ランコトヲ約シタルトキハ其荷物ハ仮令香港ニアルト雖トモ処分権ハ売買ノ際直チニ甲ヨリ乙ニ移転スルモノナレハ、即チ売買契約ナリ、之ニ反シテ甲ガ乙ニ対シ香港ニ米千俵アリ、他日余ノ所有ニ帰スルニ於テハ若干円ヲ以テ売却スヘシト約シタルトキハ、甲ト乙トノ間ニ成立シタル契約ハ供給契約ナリ、何トナレハ其ノ契約ヲ為ス当時ハ未タ甲ノ手ニ所有権モ処分権モアラサレハナリ、即チ従来ノ所謂「注文ヲ受クル」ト云フ事ガ此供給契約ニ該当スルナリ
問供給契約ニ於テハ運送中ノ危険ハ供給者之ヲ引受ケ、売買契約ニ於テハ買主之ヲ引受クルモノナルヤ
答然リ、併シナカラ其ノ場合ハ代替物ト特定物トニ依テ異ナルナリ
問第五百二十六条ニ「他人ノモノト雖、其占有ヲ正当ノ方法ヲ以テ取得シタルモノハ所有権移転ノ時ニ於テ買主善意ナルトキハ之ヲ売買スルコトヲ得」トアリ、併シナカラ此ノ場合ハ買主ノ善意ニアラサル様思ハルヽナリ、如何
答例ヘハ甲ガ金策ニ窮シ質物ヲ売却シタリトセン、然ルニ乙ハ其質物タル事ヲ知ラス甲ガ他ヨリ譲リ受ケタルモノナラント信ジテ買受ケタル折ニハ其売買ハ有効契約ト言ハサル可カラス、之ニ反シテ乙ガ其質物タル事ヲ知ツテ甲ヨリ買受ケタルトキハ乙ニ於テ其ノ責ニ任セサル可カラサルナリ、併シナカラ甲ガ其質物ヲ有効ニ売却シ能フヤ否ヤト云フノ点ハ此法律ニ於テ毫モ明言セサル所ナレハ質物ヲ売却シタル甲ハ乙ニ対シテ充分ノ責任ヲ負フモノナリ
問本条ノ「所有権移転」ト云フハ、所有権ガ買主ノ方ニ移リタルヲ云フニ在ルカ
答然リ
問第五百二十八条ノ説明ヲ乞フ
答本条ハ例ヘハ甲ノ所有セル船ガ香港ニ航シタル場合ニ於テ甲ガ金策
 - 第19巻 p.341 -ページ画像 
ノ必要ニ迫リ其船ヲ乙ニ売渡スノ契約ヲ結ビタリトセン、而シテ此時甲ノ所有セル船舶ハ其ノ実暴風ノ為メニ海底ニ沈没シテ契約ノ当時既ニ存在セザリシナリ、然ルニ所有者タル甲モ亦買受人タル乙モ共ニ其事実ヲ知ラスシテ契約ヲ結ビタル時ハ有効ナリト云フニ在リ之ニ反シテ若シ孰レカノ一方ガ其事実ヲ知ツテ契約ヲ結ヒタルトキハ其性質賭博的ニ渡ルヲ以テ無効ト規定シタルナリ
問売主ハ実際売却スル積リニテ契約ヲ結ビタルニ、其船舶ノ沈没シタガ為メ引渡シヲ為スコト能ハズシテ之ガ為メニ其契約ハ無効ニ帰スル事ナキヤ
答本条ハ其場合ニハ只契約ノ有効ナルコトヽノ云ヒノミナレバ買主ハ矢張リ代価ヲ払ハサル可カラサルコトヽナルナリ
問第五百三十条ニ「初ヨリ履行ノ意思ナクシテ取結ヒ云々」トアリ、其意義如何
答要スルニ空相場ヲ為ス可カラズト云フニ在リ
問第五百五十七条ニモ規定アルヤウナレトモ前ノ第五百五十二条ノ規定ニ依ルトキハ「供給契約ハ契約取結ビノ時未タ現存セサルモノ又ハ売主ニ処分権ノ属セサルモノ又ハ仍ホ運送中ニ在ルモノ又ハ指図証券無記名証券ヲ以テ若クハ必要ナル名前書替ヲ以テ引渡スヘキ物ノ売買契約タリ」トアリ、然ルトキハ株券ノ売買ノ如キハ名前ヲ書替テ引渡ス可キモノナレバ現物ハアルモ尚ホ供給契約ニ属スルモノナルヤ
答其間ニ二種ノ区別アリ、即チ甲ガ乙ノ所有セル株券ヲ百枚買フカ如キ場合ハ売買契約ナリ、又乙ハ自分ニ株券百枚ヲ所有セザルモ甲ト契約シタル後ニ於テ他ヨリ株券百枚ヲ譲リ受ケ以テ其契約ヲ満足セシムルカ如キ場合ハ、即チ供給契約ナリ
問第五百六十八条ノ末文ニ「然レトモ競売ノ為メニ委托セラレタル物ヲ競売スル以前ニ其物ニ対シテ売主ニ前貸ヲ為ス権利ナシ」ト規定セラレタリ「此ノ権利ナシト云フ文字ヨリ見ル時ハ競売人ハ前貸ヲ為ス可カラズト云フ意味ノ如ク解セラル、然ルニ又後ノ第五百七十条ノ末文ニ「前貸ノ為メ競売物又ハ其ノ代価ニ付キ留置権ヲ有ス」トアリ、去レハ前貸ハ勿論差支ナキヤウニモ思ハル、此ノ点ノ説明ヲ乞フ
答第五百六十八条ノ「以前」ト云フコトヽ第五百七十条ノ「適法」ト云フ事ニ区別アルナリ、即チ前条ノ規定ニ由ルトキハ競売人ハ競売ヲ為サヾル以前ニ前貸ヲ為ス権利ナシト云フニアリ、而シテ後条ノ場合ハ競売ヲ為シタル後ニ為シタル前貸ノコトヲ規定シタルモノニシテ即チ「適法」ノ前貸ナリ
問第五百七十四条ヲ案ズルニ売主ガ為替手形ヲ振出シ、又ハ手形其他ノ信用証券ヲ買主ヨリ受取リ代価全額ノ支払ニ充テタル場合ニ於テ此等ノ証券ニ義務者トシテ買主若シクハ其代人ノ外第三者署名アルトキハ取戻権ヲ失フトアリ、其説明ヲ乞フ
答本条ハ例ヘハ甲ガ乙ヨリ米ヲ買入レ、其代価トシテ乙ニ手形ヲ渡シ其手形ニ甲ガ義務者トシテ署名シタルトキハ甲ハ乙ニ手形ヲ渡シ、支払ニ充テタルモノナリト雖トモ、其実ハ未ダ真正ノ支払ヲ了セザ
 - 第19巻 p.342 -ページ画像 
ルモノナレハ乙ニ対シテ米代価ヲ払ハサルモノト看做スヘシト云フニ在リ、尚ホ再言スレハ買主カ義務者トシテ手形ニ掲ケアル以上ハ其買主ハ金ヲ払ヒタルニ非ス、手形ヲ渡シタルニ止マルモノナレハ真正ニ支払ヲナシタルモノトハ認メズト云フニアルナリ
問第五百七十八条ニ「又ハ之ヲ第三者ニ売リタルトキト雖モ委任者ヨリ其仲買又ハ其代人ニ対シテ之ヲ行フコトヲ得」トアリ、実際第三者ニ売渡シタルトキハ取戻スコト能ハサルヘキヤウニ思ハル如何
答売却シタルトキハ最早取戻スコト能ハサルハ当然ナリ、本条ノ場合ハ仲買人又ハ其代人カ只ダ約束ヲ為シタルニ止マルトキハ取戻スコトヲ得ルト云フニアルナリ
問既ニ売却シタル物ト雖モ未タ運送中ニアルモノハ取戻権アリヤ
答然リ、運送中ノ物若シクハ他人ノ倉庫中ニアル物ハ猶取戻権アルナリ
問掛売ヲ為シ又ハ一分ノ支払ヲ受クルモ尚ホ取戻権ヲ失ハスト云フヤ
答既ニ代価ヲ支払ヒタル以上ハ取戻権ナキヤ明カナリ、然ラハ掛売ヲ為シタル場合ハ如何ニト云フニ或ハ此場合ハ売主買主ノ協議上ニテ其代価支払ヲ延ベタルモノナレハ既ニ支払済ト為リタルモノト看做スモ不可ナキニ非スヤト云フモノアラン、然レトモ是レ決シテ然ラザルナリ、何トナレハ信用ヲ置キタルカ為メニ取戻権ノ消滅スヘキ理由ナケレバナリ、又一分ノ支払ヲ受ケタルモノハ其一分丈ハ取戻権ヲ失フヘキニ非スト云フノ疑起ルヤモ知ルヘカラサレトモ是亦決シテ然ラズ、即チ全部ニ対シテ取戻権ヲ有スルモノナリ
問第五百七十四条ノ規定ハ物品ハ既ニ買主ニ送附シタレトモ未タ代金ヲ受ケ取ラサルカ如キ場合ニモ亦適用サルベキヤ
答同条ハ其点マテ及ホスモノニアラス、即チ其物品ガ買主ノ手ニ入ルト入ラザルトノ間ニアルナリ、而シテ普通ノ場合ニ於テハ其物品ガ先方ノ手中ニ帰シタルトキハ最早取戻スコト能ハサレトモ仲買契約ニアリテハ先方ノ手中ニ帰シタルモノヲ取戻シ得ルノミナラス、更ニ第三者ニ売却スルノ契約成立スルモ未タ其手中ニ入ラサル中ハ取戻スコトヲ得ルナリ
問第五百七十四条ハ普通ノ場合ニ規定シタルモノナルヤ
答然リ
問普通ノ場合ニ於テ掛売ヲナシタルトキハ品物ハ買主ノ手ニ渡ツテ居ヘキモノナルカ
答然ラズ、掛売ヲ為スモ其物品ノ途中ニアル場合アルナリ
問掛売トハ物品ヲ渡シテ金ヲ受取ラザルモノトノミ思フ、如何
答然ラス、第五百七十二条ノ原則ハ何処マテモ守ラサルヘカラサルナリ
問然ルトキハ只約束ニ止マルモノナルヤ
答然リ
問掛売トハ信用売ノ如キモノナラント思ハル、何トナレハ代価ヲ受取ラスニ物品ヲ渡スコトヲ以テ信用売ニアラズトセバ他ニ信用売ナルモノアラザルベケレバナリ
答店頭ニテ物ヲ売却スルトキニ於テハ信用売ト云フベケレトモ本条ノ
 - 第19巻 p.343 -ページ画像 
場合ハ物自ラ倉庫中ニアリ、或ハ運送中ニアル場合ヲ云フナリ、例ヘハ余ニ一万俵ノ米アリ之ヲ売却スルニ当ツテ物品ハ直ニ運送スルモ代価ハ一ケ月ヲ猶予スベシト云フガ如キ場合多シ、即チ本条ハ是等ノ場合ニ適用セラルヽモノナリ
問其物品ガ運送中ニアラズシテ最早先方ニ到着シ、而シテ代価ヲ受取ラスニ若干ノ猶予ヲ為スガ掛売ナルヤ
答然リ
問代価丈カ猶予シアル事ナレハ支払停止等ノコトアル場合ニハ取戻シテ請求スルコトヲ得ベキヤウニ思ハル、如何
答最早買主ノ手ニ入リタルモノハ取戻スコト能ハサルナリ
問併シ第五百七十二条ニ「買主若クハ其代人ガ有効ニ転売シ若クハ質入セサルモノニ限ル」トアレハ、若シ有効ニ転売セズシテ買主ノ手ニアルトキハ取戻シヲナシ得テ然ルベキヤウニ思ハル
答取戻権ハ買主ノ占有ニ帰シタル上ハ其効力ヲ失フコトハ一般ノ原則ナリ、而シテ第五百七十二条ニ二三ノ取戻ヲ得ル場合ヲ規定シタルハ其例外タルニ過キサルナリ
問第五百七十九条第一ニ「手形其他ノ信用証券ニ関シテハ或人カ他ノ者ノ債務者ニ非スシテ交互計算ノ為メ又ハ貯蔵取立若クハ保証ノ為メ又ハ支払ヲ為サシメンガ為メ之ヲ他ノ者ニ送リ云々」トアリ、此ノ「又ハ貯蔵取立」ノ為トハ如何ナルコトヲ云フヤ
答例ヘハ甲ガ乙ニ手形ヲ預ケ他日甲ガ乙ニ対シ義務ヲ負フ場合アラハ之ヲ以テ其担保ト為スモ可ナリト云フガ如キ場合ヲ云フ、併シナカラ既ニ債務者ナルトキハ本条ノ規定ニ依ルコト能ハサルナリ
問第五百八十四条ニ「債務者其金額ヲ償還スル義務アルトキニ限リ」云々トアリ、義務ナキ場合アリヤ
答極メテ僅カナル場合ニ是レアリ、例ヘハ公債証書若干円ヲ借受ケ其代価ヲ十ケ年賦ニ償還センコトヲ約シタルトキノ如キ学者社会ニ於テハ之ヲ償還ト言ハズ、即チ年賦済シ崩シハ借リタルモノヲ返スニアラスシテ返リタルモノハ返リタルモノトシテ存シ、別ニ同性異質ノモノヲ与フルモノナリト解釈スルナリ、既ニ年賦済シ崩シハ償却ニアラズト解スルトキハ信用証書モ亦此中ニ入ラサルヤノ疑ヒ起ル故ニ本条ノ規定ヲ設ケテ之ヲ明カニシタルモノナリ
問第五百九十二条ニ「総テ消費貸又ハ他人ノ為メニスル資本ノ交付若クハ使用ニ付テハ取引ノ性質ニ依リテ定マリタル慣習上ノ利息ヲ求ムルコトヲ得、但明示ノ契約又ハ前条ノ規定ニ反スルトキハ此限ニアラズ」トアリ「前条ノ規定」ト云フモ第五百九十一条ニハ少シク適当セザルヤウ思ハルヽナリ、如何
答前条ニ「債権者ト債務者トノ間ニ存スル契約関係ニ準拠シテノミ債権ヲ主張スルコトヲ得」ト云フコトアリ、若シ契約ニ関係アリテ其契約ノ関係ニ依リテ反対ノ現ハルヽトキハ此ノ限ニ在ラズト云フノ意味ナリ
問第五百九十七条ニ「他ノ契約ノ附従トシテモ云々」トアリ、例ヘハ物ヲ売リタルニ就テ若干ノ金ヲ貸与スルト云フガ如キ場合ヲ云フヤ
答然リ、即チ第五百九十九条ノ場合ハ附従ナリ
 - 第19巻 p.344 -ページ画像 
問第六百二条ノ「処分シ得ベキ額」ト云フノ意義如何
答例ヘハ甲ト乙トノ間ニ交互計算ノアル場合ニ於テ甲ガ乙ヨリ若干円ノ借分ト為リ居ルトキハ即チ甲ガ借分トナリタル丈ニ対シテ信用契約ト看做スノ意義ナリ
問然ラバ信用ノ出来得ル丈ケト云フノ意味ナルヤ
答然リ
問第六百九条ニ「客ニ自身ノ注意ヲ促スモ又此等ノ者」云々トアリ、又ト云フ文字不用ナルカ如ク思ハル、如何
答「客ニ自身ノ注意ヲ促スモ」又「此等ノ者又ハ其使用人ノ過失アルトキハ契約ヲ以テモ」之ヲ免カルヽ事ヲ得ズト云フノ意味ナリ
問第六百十八条ニ規定シタル「当事者ノ意思」トハ何ニ依テ之ヲ見ルコトヲ得ベキヤ
答契約ノ模様ニ依リテ見ルヨリ外ナキナリ
問第六百二十一条ノ「寄托物受取証書」ト第六百二十三条ノ「寄托証書」トハ相異ナルヤ
答同一ナリ
問第六百二十二条ニ「交付若クハ還付ノ時」トアリ「交付」トハ「渡ス」コト「還付」トハ「還ス」コトヲ云フヤ
答然リ
問然ルトキハ其土地ニ依リテ相場ニ関係ヲ及ホシ為メニ紛紜ヲ生スルコトナカルヘキヤ
答交付ノ時及地ニ於ケル市価ヲ主トシ、若シ明カナラザルトキハ還付ノ時及地ニ於ケル市価ニ依ルト信ズルナリ
問第六百二十六条第三項ニ「保険ハ別段ノ契約アルニ非サレハ保険料支払期間ニ生スル諸般ノ危険殊ニ相次デ生ズル危険ニ及フモノトス云々」トアリ、其意味如何
答例ヘハ火災保険ノ場合ニ於テ其保険期限中ハ被保険人ガ何度火災ニ罹ルモ皆其保険ノ中ニ含ミタルモノナリト云フノ意味ナリ
問第六百三十条ニ「被保険物ノ価額ハ使用ニ供スル動産ニ在テハ修繕又ハ新調ノ費用ニ依リ云々」トアリ、少シク奇異ノ感ナキ能ハサルナリ、如何
答本条ハ矢張損害ノ価額ヲ賠償スルコトニ当ルナリ、例ヘハ保険ニ付シ置キタル家ガ損害ヲ生ジタル場合ニ於テハ仮令其家ガ保険ニ付スル当時古ビタルモノナルニモセヨ、其損害ハ新シキモノトシテ見積ラサルヲ得サルナリ、又一部分ノ毀損ナルトキハ其修復ハ幾何ヲ要スヘキヤト云フノ点ヲ見積リテ賠償スルコトヽナルナリ
問第六百三十七条ノ終リニ「其契約ヲ解除スル事ヲ得」トアリ、何故ニ通知ヲ為サヾレハ契約ヲ解除セラルヘキヤ
答同一ノ物ニ二人以上ノ保険ヲ付スルトキハ大ニ不公平ノ結果ヲ来スナリ、何トナレハ若シ其物品ガ危険ニ罹リタルトキハ甲乙両者ヨリ若干円ヲ受取ルコトヽナレハナリ、論者或ハ曰ク、甲乙両者ニ保険料ヲ払ヒタルモノナレバ之ニ対スル償金ヲ甲乙両者ヨリ受取ルモ差支ナキニ非スヤト、理或ハ然ラン、然レトモ元来保険ノ性質上ヨリ云フトキハ決シテ然ルモノニ非ス、若シ論者ノ云フガ如キ事ヲ許サ
 - 第19巻 p.345 -ページ画像 
ハ保険ニ於テ最モ忌ムベキ賭博ニ陥ルコトヲ免カレザルベキナリ
問第六百四十八条ニ「白地」ト云フコトアリ、義務者ノ名ヲ掲ケザル者ヲ白地ト云フヤ
答然リ
問第六百六十条第三項ニ「所有者又ハ其他ノ者ノ損害賠償ノ要求ニ充テンカ為メ、保険ニ付シタル場合ニ於テハ第六百三十九条ニ依リ自己ノ保険者ト看做スヘキトキト雖トモ、其被保険額ヲ限トシテ保険者独リ全部ノ損害ヲ負担ス」トアリ、第六百三十九条ノ場合ニ於テハ例ヘハ一万円ノ価額アル物ヲ五千円ト保険シ置ク時ハ残余ノ五千円ハ被保険者ヲ自己ノ保険者ト看做スガ故ニ、若シ其物ニシテ半分毀損シタルトキハ保険者ハ五千円ノ半額即チ二千五百円ヲ負担スレハ可トル訳トリ、然ルニ本条ノ場合ニ於テハ「自己ノ保険者ト看做スヘキトキト雖モ其被保険額ヲ限トシテ保険者独リ全部ノ損害ヲ負担ス」トアリテ保険者ハ実際毫モ其事ヲ与カリ知ラサルニ余計ノ賠償ヲ為サヾル可カラサル訳トナルトリ、少シク酷ニ失スルカ如ク思考セラル、如何
答本条ノ意味ハ下ノ如シ、例ヘハ余ノ家ハ製造場ニシテ日々火ヲ焚クガ故ニ若シ過ツテ火ヲ失シ隣家ニ損害ヲ及ボシタルトキハ之レニ賠償ヲ為スノ義務アリ、依テ其義務ニ保険ヲ附シ若シ火ヲ失シタルトキハ果シテ隣家ニ幾何ノ損害ガ及フヘキヤハ予メ知ル所ニアラサルモ、兎ニ角之ヲ保険スヘシト契約ノ整ヒタルトキハ仮令保険者ガ過分ノ負担ニ任セザル可カラザルコトアルモ余カ隣家ニ対シテ払フヘキ丈ハ最早法律上ニテ保険者カ引受ケタルモノト認メラルヽナリ、併シナカラ特別ノ契約ヲ以テ賠償ノ価額幾何ニ上リタルトキハ保険者ニ於テ負担セサル旨ヲ約シタルトキハ格別ナリ、而シテ若シ特別ノ契約ヲ為サヾル以上ハ実際生シタル丈ケノ損害ヲ保険者ヨリ賠償スルト云フノ意味トリ
問第五百六十二条第二項ノ終リニ「保険ノ存続間其包括中ノ各部分ヲ増減シ、又ハ他ノ物ヲ以テ其全部若シクハ一分ニ代フルトキト雖モ保険ニハ影響ヲ及ホスコトナシ」トアリ、元来保険者ニ於テ最初百円ノ保険ヲ附シ置クモ後ニ至リ其物品ガ減スルトカ、或ハ其価額カ減シテ五十円ト為リタルトキハ其物品ノ毀損シタルトキニ五十円丈ケ賠償スルヲ以テ普通ノ方法ナリトス、然ルニ本条ニ「影響ヲ及ホスコトナシ」トアル以上ハ仮令其物品ノ価額ハ五十円トナルモ矢張リ百円丈ケノ賠償ヲ為サヾル可カラサルモノナルヤ
答本条ハ重ニ家ノ内ノ諸道具ヲ保険ニ附シタル場合ヲ規定シタルモノナリ、即チ茶碗トカ机トカ云フ如キモノハ破損シヤスキモノナレハ最初諸道具ヲ何百円ト見積リテ保険シタルトキハ仮令百箇ノ茶碗カ二十個ヲ減スルモ五脚ノ机カ二脚ヲ減スルモ決シテ之カ為メニ保険料ニ影響ヲ及ホスモノニアラストノ意ナリ、併シナカラ明カニ減シタリト云フ事実ノ証明サヘ出来得レハ此ノ限リニアラズ
問第六百八十二条第二号ニ「生命若シクハ健康ヲ保険ニ附シ、又ハ附セシメタル者ガ契約上負担シタル義務ニ違反シ又ハ放蕩粗暴其他故意ノ所為ニ依リテ生命ヲ短縮シ若クハ健康ヲ毀損シタルトキ」トア
 - 第19巻 p.346 -ページ画像 
リ、一説ニハ契約上負担シタル義務ニ違反シタルトキハ保険料ヲ払ハスト云ヘ、又一説ニハ生命ヲ短縮シ若クハ健康ヲ毀損シタルトキハ保険料ヲ払フヘキモノニアラスト云フ、何レカ是ナルヤ
答此ノ「又ハ」ト称スル文字ハ大抵並ヘタル場合ニ用ユルモノニシテ即チ保険ハ契約上負担シタル義務ニ違反シタル時モ無効トナリ、又放蕩粗暴其他故意ノ所為ニ因リテ生命ヲ短縮シ若クハ健康ヲ毀損シタル時モ無効トナル訳ニテ、即チ其無効ノ場合カ二段ニ分カルヽナリ
問第六百八十三条ニ「貯金」ノ文字アリ、其意味如何
答保険者ハ各被保険人ヨリ年々払込ミタル所ノ金額ヲ帳簿上ニ於テ予メ貯蓄シ置カザル可カラズ、貯金トハ即チ其金額ヲ云フナリ
問第六百八十八条第一項ニ「第六百八十三条ニ従ヒ自己ニ属スル償還金ヲ受ケテ契約ヲ解除スル権利ヲ有シ云々」トアリ、然レトモ年金償還ノ場合ニ於テハ第六百八十三条ニ依リ得ヘカラザル様ニ思ハル如何
答年金償還ノ場合ト雖トモ第六百八十三条ニ依ルコトヲ得ルナリ、何トナレハ年金保険ノ場合ト雖トモ償還額ヲ約定シ置ク事ナシトセザレバナリ
問併カシナカラ償還額ヲ約定シ置カザルトキハ誠ニ不都合ヲ感スベシト思ハル、如何
答償還額ヲ約定シ置カザルトキニハ被保険者ノ為ニ既ニ積立テタル貯金ノ半額ヲ償還スルコトヽナルナリ
問併シナカラ積立ヲ為サスシテ最初一度ニ多ク出金シ、夫レヨリ段々減シテ行クモノアルナリ
答後ヨリ段々減シテ行クモ年金保険ノ一ツ又漸次年金ヲ払フノ場合ハ純粋ノ保険ト異ナラザルナリ
問年金保険ノ場合ニ第六百八十三条ヲ適用スルコトハ随分困難ナルコトヽ思ハル、如何
答年金保険ノ契約ハ最初ノ払込ミヲ為シタルトキヨリ始マリ居ルナリ故ニ十年間年々百円宛ノ積立ヲ為シ、十年ノ後ニ至リテ之ヲ引戻ストキハ其引戻ストキヨリ保険ガ成立ツモノニアラスシテ最初積立ヲ為シタルトキヨリ成立ツモノナリ、故ニ五年目若クハ六年目ニ至リテ保険契約ノ無効ト為リタル場合ハ其間ニ成立チタル貯金ハ何ニ依リテ処分スベキヤト云フニ、第六百八十三条ノ規定ニ依リ特別ノ約束アルトキハ夫レニ依リ否ラザルトキハ貯金ノ半額ヲ被保険者ニ償還スルナリ、又他ノ場合即チ最初千円ヲ積立テ更ニ十ケ年ヲ経タル後若干円宛ヲ支払フコトヲ約シタル場合モ亦前ノ場合ト異ナルコトナク均シク第六百八十三条ニ依リテ処分スルコトナリ
問第六百九十四条ニ「現支払期間」ノ文字アリ、火災保険若クバ震災保険ノ如キ場合ニハ一年ヲ期間トスルガ故ニ差支ナカルベキモ生命保険ノ如キ場合ハ本条ノ規定ニ依ルコト難カラント信ス、如何
答生命保険ノコトニ就テハ別ニ特別ノ規定アリ
問第六百九十四条ノ規定ニ拠レバ生命保険ノ場合ニ於テ十ケ年間払込ミヲ為シタルトキハ其総額ノ二分ノ一丈ケハ取戻サルヽモノナルヤ
 - 第19巻 p.347 -ページ画像 
答然リ
問第七百条ニ「商ヲ為スコトヲ得ル各人ハ云々」トアリ「商ヲ為スコトヲ得ル」トハ第十条ニ規定シタルモノナリヤ
答然リ
問同条ニ「為替義務ヲ負フ」トアルハ手形ノ振出人トカ或ハ其裏書名宛人トカ、総テ之ニ関係シテ義務ヲ負フ意味ナリヤ
答然リ、裏書支払等ノ義務ヲ負フコトヲ云フ
問第七百一条ニ「為替無能力者」トアルハ如何
答是ハ即チ第十条ノ規定以外ノ者ニシテ例ヘバ独立シテ義務ヲ負フコトヲ得ザル者ヲ云フ、而シテ「其他ノ署名ノ効力ハ云々」トアルハ無能力者ノ署名ノミ無効トナリテ為替其物ハ無効トナラザルヲ云フ
問商法草案ニ盲人ノ為換能力ニ就テハ云々トアリ、盲者ハ果シテ無能力者ナルヤ
答普通盲者ト云ヘバ無能力者ナリ、然レトモ悉ク無能力者ナリトハ断定スルコトヲ得ス、談少シク学理上ニ渉レドモ盲者ト雖トモ明者ト同様ノ所作ヲ為ス者アリ、又唖者ニシテ手振手真似ヲ以テ己ノ意思ヲアラハシ其所為毫モ通常人ニ異ナラザル者アリ、我邦ニ於テモ既ニ盲唖学校アリ、其薫陶ヲ受ケタルモノハ通常人ト同様ノ所作ヲ為スコトヲ得ベシ、是等ハ無能力者ト称スル事能ハス、草案ニ云々トアルハ民法上ノ事ナレドモ是等ノ不具者ハ商法上無能力者ト見做スト云フノ意ナルガ如シ
問第七百四条ニ「手形ノ受取人ハ云々又其後ノ各所持人ハ其前者ヲ経由シテ云々」トアリ、是ハ手形既ニ転々シテ甲ヨリ乙、乙ヨリ丙ト云フ如ク譲渡サレタル場合ニ於テ最後ノ所持人ヨリ順次前者ニ送戻シ、而シテ数通ヲ求メ得ル意味ナルカ如シ、此事タル実際手続ノ上ヨリ見レバ大ニ困難ナルガ如ク思惟セラル、如何
答多数ノ手ヲ経テ数通ヲ請求スル事ハ至ツテ僅々ニシテ、其場合ニハ大抵謄本ヲ用フ、然レトモ若シ請求スル事ヲ得スト断定スルトキハ場合ニヨリ大ニ差支ヲ生スルコトアリ、例ヘバ手形ヲ英京倫敦ニ送ルニ当リ航海ノ途中ニ於テ紛失ノ憂ナキヲ保セズ、斯ノ如キ場合ニ於テ数通ヲ請求スルナリ、其他ノ場合ニ於テ請求スル事ハ甚稀ニシテ殆ド無シト謂フモ可ナリ
 又其手形ニシテ非常ノ信用アリ、何処ニ行クモ通用セザルコトナク或ハ期限後ニ至リテモ通用スルカ如キ手形ナラバ数通ヲ請求シ一枚ノ手形ヲ以テ数ケ所ニ働カシムルコトアリ、例ヘハ此手形ノ裏書人ニハ三井モアリ岩崎モアリ、充分確実ナルモノニシテ期限後ニテモ通用スト云フ如キ場合ニハ数通ヲ請求シ、百円ノ手形一枚ヲ以テ数百円ノ働キヲ為スコトアリ
問丙者ガ第三ノ譲受人ニシテ手形ヲ所持シ、数通ヲ請求スルニ当リ乙甲ヲ経由シテ一々之ヲ示シ、之ヲ書換フルトキハ手数甚ダ煩ハシキニ過グルガ如シ、丙者ヨリ直ニ振出人ニ対シ要求スルコトヲ得ザルヤ
答丙者ガ数通ヲ求ムルニ当リ乙甲ヲ経由スル必要ハ何所ニアルカ、又丙者ガ直ニ請求スル能ハサル理由ハ如何ント問フニ、元来一枚ノ手
 - 第19巻 p.348 -ページ画像 
形ナルヲ格別ノ信用アルニ依リ数通ヲ求ムル者ナレハ固ヨリ同文同番号ニシテ本手形ト同様ノ効力アル者ナラザルベカラズ、而シテ振出人ト丙者トノ間ニ在ル譲受人即チ乙甲ナル者ガ其数通ヲ以テ自己ノ損害ヲ生セザルモノト認ムルモノナラザルベカラズ、故ニ必乙甲ヲ経由シ丙者之ヲ認メテ然ル後振出人ニ至リ数通ヲ製セザルベカラズ、若シ否ラズシテ乙甲ヲ経ズ丙者ガ直ニ請求シタルトキニハ乙甲ノ両者ハ毫モ之ヲ知ラズ、従テ之ヲ知ラサル所ノ丙者ニ義務ヲ負ハシムルカ如キ不都合ナル結果ヲ生スヘシ、是前者ヲ経由スルノ必要アル所以ナリ、斯ノ如キ手続ハ極メテ煩ハシキカ故ニ実際ハ之ヲ請求スル者ナシ、唯タ其手形ガ格別ノ信用アル場合ニ限リ適用セラルルノミ
問同条第二項ニアル謄本ハ全ク控ニ供スルノミノモノナリヤ、将タ他ニ効用アリヤ
答左ノ如キ効用アリ、甲者ヨリ手形ヲ振出シ乙丙丁ト順次譲渡シタル場合ニ最終ノ丁者ガ其手形ヲ汚穢スル事アリ、又此手形ニハ既ニ引受人アルガ故ニ之ヲ紛失スル時ハ差支ヲ生スル事アリ、又其手形ヲ二枚若クハ三枚ニシテ流通セシメント欲スル場合ニ当リ、数通ヲ請求セントスレバ前項ニ規定シタル手続ニ拠リ乙丙ヲ経由セザルヲ得ス、其手数ノ煩ナルヲ避クルガ為ニ最終ノ所持者ハ自身ニ於テ原文ノ通リ之ヲ写シ二枚若シクハ三枚ノ写ヲ製シテ之ヲ発行シ、他人ニ引渡シ世間ニ流用スルコトヲ得、而シテ其謄本ノ所持人ヨリ裏書人ニ掛リタルトキ乙丙各人ハ義務ヲ負ハズ、何トナレバ此謄本ハ真ノ手形ニアラズシテ真ノ手形ナラサルモノニ義務ヲ負フ所以ナケレバナリ、要スルニ謄本ヲ製スル重ナル場合ハ手形ガ汚穢シタル故ニ金庫中ニ蔵シ置ク場合、手形ニ引受アル故ニ紛失スルヲ恐ルヽ場合、信用アル手形ニシテ二三ケ所ニ通用セシメントスルニ当リ数通ヲ請求スル手数ヲ省ク場合、以上ノ三ナリ、而シテ謄本ハ既ニ製セラレタル後ニ於テハ真ノ手形ト同様ノ効力アリ、但既往ニ遡リテ乙丙者ニ義務ヲ負ハシムルコトナシ
問支払人ハ謄本ニ対シテ義務ヲ負フコトナシヤ
答是ハ二段ニ分チテ説明スヘシ、第一項ノ数通ノ場合ハ後ニ規定アリ謄本ノ場合ニ於テハ之ヲ払フノ義務ナシ、既ニ本書ト引替ニ記載ノ金額ヲ渡シタル後更ニ謄本ヲ以テ請求セラレタルトキハ「本書ヲ持参スベシ」或ハ「本書ト共ニ持参スベシ」ト云フテ之ヲ謝絶スルコトヲ得ルナリ、又謄本ノミヲ持来リタルトキ担保ヲ請求シ保証金ヲ取リテ之ヲ渡スコトアリ、此場合ニ於テハ後ニ本書ノ来リタルトキハ其担保ニテ之ヲ支払フナリ
問第七百五条ニ法律又ハ商慣習ニ依リテ例外トナスベキモノトアルハ如何
答法律ニ依リテ例外トナスベキモノトハ第七百一条及第七百二条ノ如キ場合ナリ、右等ノ如キ場合ニ於テハ其手形ニ義務ヲ生セズ、又商慣習ニ依リテ例外トナスベキモノトハ第七百六条及第七百七条ノ如キ場合ナリ、第七百六条ヲ案ズルニ法律上ノ要件ヲ掲ケザル手形又ハ仮令要件ヲ掲グルモ其要件ト共ニ違法ノ事抦ヲ掲ゲタル手形、又
 - 第19巻 p.349 -ページ画像 
ハ其主意互ニ抵触シテ法律ノ許セル方法ヲ以テ取除クヲ得サル手形ハ無効ナル旨ヲ明示セリ、斯ル手形ハ其契約無効トナリ縦令券面ニ記載セルモ慣習上義務ヲ生スルコトナシト云フノ意ナリ、又第七百七条ニ手形ノ重要ナラザル附記ハ法律上ノ要件ニ適スル手形ノ旨趣ノ効力ヲ妨クルコトナシトアリ、一例ヲ挙クレバ某ガ手形ニ「此券ハ既ニ支払ヒタルモノナリ」ト記載シアリト仮定センニ斯ノ如キ記載ハ法律上無用ノ事ニシテ此記載ハ慣習ニ尋ヌルニ如何ナルモノナルカ如何ニ看做スヘキカト云フニ、従来ノ仕来リニ依レハ斯ノ如キ記載ハ之アルモ之ナキモ其効力ニ於テ差異アルコトナシ、是即チ手形ノ旨趣ノ効力ヲ妨クルコトナク、又為替上ノ義務ヲ生セシムルコトナキ所以ナリ、因ニ云フ独逸ノ為替法ニハ券面ニ手形ト云フ文字ヲ記セサレバ無効ナリトノ規定アリ、我邦ニハ其規定ナシ、斯カル場合ニ於テモ必其文字ヲ記セサレバ果シテ無効トナルヤ否ヤノ点ニ就テハ大ニ議論アルコトナリ、斯ノ如キ場合ニハ慣習ヲ尋ヌルコト最肝要ナリ、之ヲ要スルニ商慣習ニ依リテ例外云々トアルハ手形条例以外ノモノヲバ慣習ニ依ラシムルノ主意ナリ
問第七百九条第二項ニ「但手形ニ其他ノ地ヲ記載シタル時ハ此限ニアラズ」トアリ、其意味如何
答一ノ手形ヲ振出シ、此手形ノ引受ハ某所ニ於テ為サレタシトカ或ハ某所ニ於テスルガ最適当ナルニ付其所ニ於テ為スベシト記載スルコトアリ、斯カル場合ニ於テハ其記載シタル地ニ従ハザルベカラズト云フノ意ナリ
問第七百十条ニ「手形又ハ小切手ノ占有者ニシテ(中略)引渡ノ請求ニ応スル義務ナシ」トアリテ又但書ノ中ニモ「占有者ガ云々」トアリ、其意義如何
答本条ハ頗ル解シ難シ、手形又ハ小切手ノ占有者ニシテ(中略)請求ニ応スル義務ナシト云ヘルハ原則ニシテ、但書ニ於テハ例外ノ場合ヲ規定シタルモノナリ、而シテ前ニ記セル占有者ト但書ニアル占有者トハ全ク別物ナリ、此区別ヲ混同スルトキハ本条ヲ解スル事能ハズ、此区別ヲサヘ了解セバ本条ノ意義ヲ悟ルハ易々タルノミ、例ヘバ占有者甲ガ正当ノ方法ニヨリ元所有者乙ノ手形ヲ取得シタリトセンニ、此場合ニ於テ乙ヨリ其手形又ハ小切手若クハ代金ノ引渡ヲ甲ニ求ムルモ甲ハ乙ノ請求ニ応スル義務ナシ(以上原則以下但書)然レトモ之ニハ例外ノ場合アリ、例ヘバ此ニ前ノ甲乙両人ノ外ニ占有者丙及元所有者丁ナル両人アリトセンニ、丁ヨリ其手形ノ引渡ヲ丙ニ請求シタルニ丙ハ請求ニ応スベキ義務ナシトテ之ヲ拒ミタリ、然ルニ丁ノ方ニ正当ノ理由アリテ丙ヨリ請求ヲ拒マルヽモ之ニ対シテ抗弁ヲ為シ得タル事実アリト仮想スヘシ、而ジテ若シ甲乙ノ間ニモ斯ノ如キ事実即チ丙丁間ノ如キ事実アリテ其事実ニ因リテ請求セラレタルトキハ此限リニアラズ、即チ甲ハ乙ノ請求ニ応セサルヘカラズトノ意ナリ、尚質入ノ例ヲ以テ反覆説明セシニ《(ン)》質取主乙ガ甲ノ手形ヲ所持シ、既ニ丙ニ譲渡シタル後、甲ヨリ其手形ノ引渡ヲ請求セラルヽモ之ニ応スル義務ナシ、然レトモ若シ他ニ之ト同様ナル質入事件アリテ、其質置主(丁)ガ質取主(戊)ノ請求ヲ拒ムニ対シ、
 - 第19巻 p.350 -ページ画像 
抗弁ヲ為シ得タル事実ト同一ノ事実アルトキハ此限ニアラズシテ、乙ハ甲ノ請求ニ応セザルヲ得ズトノ意ナリ
 抗弁ヲ為シ得ル事実トハ手形引渡ノ請求ニ対スル抗弁ナリ、例ヘバ丁ガ自己ノ手形ヲ質物トシテ戊ヨリ若干ノ金ヲ借リタル場合ニ於テ(此場合ニ於テ借金ハ主ナリ質物ハ従ナリ、既ニ主タル借金ノ義務ヲ果セハ従タル質物ノ義務ハ自然消滅スヘキ理ナリ)丁ハ其借リタル金ヲ既ニ戊ニ返済シ、即チ負債弁償ノ義務ヲ畢ヘタリ、然ルニ戊ハ既ニ貸金ヲ返済セラレタルニモ拘ラズ其質物即チ抵当タル手形ヲ己ニ引渡サレンコトヲ請求スルノ訴訟ヲ起シタリ、斯カル場合ニ於テハ丁ハ戊ニ対シテ「既ニ借金ハ返済シタリ故ニ手形ハ引渡スヘキモノニアラズ」トノ理由ヲ以テ法庭ニ於テ立派ニ抗弁ヲ為シ得ベシ要スルニ本条ハ文章ノ硬渋ナルヨリ解釈ヲ誤リ易シ、若シ之ヲ修正シテ左ノ如ク改ムル時ハ一目瞭然タルベシ
  手形又ハ(中略)請求ニ応スル義務ナシ、但其請求者ガ占有者ヨリモ多クノ権利ヲ有スル場合ニハ此限ニアラス
 本条但書ノ意ハ右ノ文章ト毫モ異ナルコトナシ
問第七百十四条ニ「手形ヨリ生スル請求権ヲ時効ニ因リ云々」トアリ本条ノ大躰ハ解シ得ラルレドモ時効ノコトニ付疑ナキ能ハズ、既ニ第七百十二条ニ規定セル三ケ年ノ時限ヲ過去リ、即チ時効ニ罹リタル後ニ至リテモ己ヲ利シタル限度ニ於テ請求権ヲ主張シ得ラルヽモノトセバ、何ケ年ヲ経過シテモ請求権ヲ失フノ期ナキガ如ク思惟セラル、此請求権ハ無期限ナリヤ、将タ若干ノ年限アリヤ
答是民法上ノ原則ニ外ナラズ、民法上ノ原則ニ何人ト雖不義ノ富ヲ為セル者ハ何時ニテモ云々ト云フコトアリ、手形上ニ於テハ手形ノ義務ハ三年ヲ経過スレバ消滅スルモノナルガ故ニ、其結果ハ直ニ想像シ得ラルベクシテ手形所有者ノ損失トナルハ言ヲ俟タズ、然ルトキハ所有者ニ対シテハ気ノ毒千万ナリ、又一方ニ於テハ不義ノ富ヲ為シタル者アルコト必セリ、若シ振出人ガ支払人ニ未タ為替資金ヲ送ラザルナラバ己ヲ利シタル者ハ振出人ナリ、若シ既ニ之ヲ送リタルナラバ支払人ガ己ヲ利シタルニ相違ナシ、仮令為替義務ハ消滅スルモ己レノ利シタルモノニ就テノ義務ハ消滅セズ、故ニ手形所有者ハ振出人ニテモ又ハ支払人ニテモ斯ク不義ノ富ヲ為シタル者ニ対シテ請求権ヲ主張スルコトヲ得サルヘカラズ、本条ノ規定ハ斯ノ如キ場合アルガ為メナリ
問然レドモ時効ノ規定ナキトキハ三十年過グルモ五十年過グルモ請求権ヲ主張シ得ラルヽノ結果ヲ生スルモノヽ如シ、普通貸金ノ事ニ就テハ六ケ年位ノ時効アリト覚ユルガ、貸金ニ於テモ負債主ガ借リタル金ヲ返サヾレハ債主ハ為メニ損失ヲナシ、負債主ハ己ヲ利スルニ相違ナクシテ、此点ニ於テハ敢テ手形ノ場合ト異ナル事ナシ、然ルニ貸金ニハ時効ノ規定アリナガラ手形ニ限リテ時効ノ規定ナキハ如何ニモ権衡ヲ得ザルガ如シ、如何、又「ロイスレル」氏ハ此場合ニ於テモ其時効ヲ三ケ年ト限ルノ意見ヲ有スルガ如シ、此説ノ当否ハ如何
答是事ニ就テハ三個ノ問題アリ、第一ニ此場合ニ於テ第七百十二条ニ
 - 第19巻 p.351 -ページ画像 
規定スル三ケ年ノ時効ヲ猶適用スベキヤト云フ事是ナリ、第二ニ此場合ニ於テ手形ハ第七百十二条ニ規定スルガ如ク既ニ時効ニ掛リテ其義務消滅シタルガ故ニ更ニ普通民法上ノ理法ニ依リテ己ヲ利シタル者ニ対シテ請求権ヲ主張スベキヤト云フ事是ナリ、又第三ニハ己ヲ利シタル者ニ対シテ請求スルノ権ハ無窮ニ有シ得ラルヽモノナリヤト云フ事是ナリ、此等ノ問題ニ対シテハ左ノ如ク答ヘンノミ、手形上ノ義務既ニ消滅セルガ故ニ民法上ノ原則ヲ適用シテ己ヲ利シタル者ニ請求スベシ、然ラハ其時効ハ如何ント云フニ是亦普通民法上ノ理法ニ依ラサルベカラズ、然リ而シテ民法上ノ理法ニ依ル時ハ其時効ハ即チ三十年トナルナリ
 或ル論者ハ己ヲ利シタル者ノ義務ニ就テハ時効ナクシテ之ニ対シテハ永久請求権ヲ主張シ得ベシト論スレドモ此説ハ不可ナリ
 只今質問者ハ「ロイスレル」氏ハ三ケ年ト限ルノ意見ヲ持スル様ニ申サレタレトモ、此説モ不可ナルガ如シ、何トナレバ既ニ為替上ノ義務ハ消滅シテ民事上ノ義務トナレル以上ハドコ迄モ民事上ノ規定ヲ適用セサルベカラザレバナリ、其他此問題ニ付テハ種々ノ説アレドモ、要スルニ民法上ノ理法ニヨリテ其時効ヲ三十ケ年トスルノ説ヲ以テ最可ナリトス
問第七百十六条為替手形ニハ左ノ諸件ヲ明瞭詳密ニ記載スル事ヲ要ストアリ、是ハ重ニ外国ノ為替手形ヲ規定シタルモノニハアラズヤ
答内国外国ヲ問ハス一般ノ規定ナリ
問第七百三十一条ニ「担保ノ為ニスル裏書譲渡(中略)然レトモ各為替債務者ハ云々」トアリ、然レトモ以下ノ意義如何ン、又為替債務者ト云フハ如何ニ解スヘキカ
答為替手形ヲ質入シタルトキハ表面上真ノ裏書ト見做ス、故ニ乙ガ甲ヨリ手形ヲ質ニ取リタル時ハ其手形ヲ何処ヘナリトモ転々スル事ヲ得ベシ、而シテ乙ガ之ヲ他ニ譲渡シタルトキ甲ヨリ貸金ヲ受取ラサル場合ナラバ則可ナリ、然レトモ既ニ貸金ヲ受取リタル場合ニ於テハ乙ハ甲ヨリ貸金ト手形トヲ併セ取リタル結果ヲ生ス、故ニ「然レトモ」以下ニ記載スルガ如ク為換債務者ヲシテ裏書譲受人ニ対シ抗弁スル事ヲ得セシムルナリ
 乙ヨリ手形ヲ譲受ケタル者ハ総テ為替債務者ナリ、質取主乙ヨリ丙ヘ丙ヨリ丁ヘ丁ヨリ戊ヘト転々シタルトキハ丙丁戊ハ各皆債務者ナリ、而シテ此最後ノ所有者即チ戊ガ支払人ノ方ニ至リ其手形面金額ノ仕払ヲ請求シタルニ、支払人ノ云フニハ此為替手形ハ固ヨリ支払ハザルベカラザル性質ノモノナレトモ元来此手形ハ初メ乙ガ甲ヨリ若干金ノ抵当トシテ質ニ取リタルモノニシテ、其後甲ハ其若干金ヲ乙ニ返済シタルニ乙ハ此手形ヲ甲ニ返付セスシテ之ヲ丙ニ譲渡シ、丙ヨリ丁ヲ経テ遂ニ貴殿ノ手ニ入リタルモノナレバ、此手形ハ仕払フコトヲ得ズトテ支払人ハ戊ノ請求ヲ謝絶シタリトセンニ、此場合ニ於テ戊ハ止ムコトヲ得ス裏書譲受人タル乙ニ掛リテ請求セザルベカラス、本条「然レトモ」以下ハ要スルニ斯ノ如キ場合ニ於テ各為換債務者ハ裏書譲受人タル乙ニ対シ抗弁ヲ為スコトヲ得ルト云フノ意味ナリ
 - 第19巻 p.352 -ページ画像 
 又所持人ト書カズシテ為替債務者ト記シタルハ元来所持人即チ甲ト区別スルガ為メニ過ギザルナリ
問第七百三十条及第七百三十一条ハ要スルニ第七百廿九条ノ内訳ト解シテ可ナリヤ
答然リ、第七百二十九条ニ於テハ代理ノ為メ又ハ担保ノ為メト記シ、第七百三十条及第七百三十一条ニハ其代理ハ云々其担保ハ云々ト書キ分ケテ解釈シタルモノナリ
問第七百三十八条ニ所持人ハ之ヲ拒ミタリト見做スコトヲ得トアリ、然ラバ之ヲ拒ミタリト見做サヾルモ可ナリヤ
答然リ
問拒ミタリト見做サヾル場合ニハ其権利ハ如何ナルカ
答第七百三十八条ニ示スガ如ク即日ニ引受ケヲ為サズ又ハ条件其他制限ヲ以テ引受ヲ為《(サ脱)》シメル時ハ引受人ハ之ガ為メ覊束セラレテ義務ヲ負ハザルベカラズト雖トモ、所持人ハ之ヲ以テ全ク引受ヲ拒マレタルモノト見做シ、拒証書ヲ作製シテ裏書譲渡人又ハ振出人ニ通知スルヲ得ベシ、然レトモ若シ所持人ガ前陳ノ引受不完全ナルニモ拘ラズ之ヲ拒マレタルモノト看做サヾル場合ニハ其権利如何ント云フニ此場合ニ於テハ所持人ハ仕払人ノ引受ニ対シテノミ権利ヲ有スベシト雖トモ、初メ引受ヲ拒マレタルモノト看做サズシテ随テ拒証書ヲ作製シ之ヲ裏書譲渡人又ハ振出人ニ通知スルノ手続ヲ為サヾリシ為メ裏書譲渡人又ハ振出人ニ対シテ償還請求権ヲ失フ事トナルベシ
問第七百四十九条ノ如キ場合ニ於テ営誉引受人ハ拒証書ヲ作リタル後ニ起ルモノナリヤ
答二様アリ、一ノ場合ニ於テハ予メ引受人ヲ定メ置キテ拒証書ヲ作ルナリ、他ノ場合ニ於テハ拒ミタリト云フ時ニ至リテ引受人出来ルナリ
問第七百四十九条ニ「遅クトモ拒証書作成ノ翌日云々」トアリ、若シ拒ミタルノ後引受人ノ出来タル場合ニ於テモ猶拒証書作成ノ翌日中ニ栄誉引受通知等ノ手続ヲ為サヾルヲ得ザルヤ
答拒証書ヲ作成スルハ拒マレタル翌日ニアリ、故ニ拒証書ヲ作成スル迄ノ間ニハ熟談ノ上愈引受ケルト云フコトヲ定メ引受人ノ出来ルコトアルベシ、若シ然ラズシテ遅引スルトキハ其栄誉引受ハ無効トナルベシ、何トナレバ支払人ガ拒証書ヲ作リタル後他ニ行クコトアルベケレバナリ
問然ラバ愈引受ヲ為スハ拒マレタル日ノ翌々日ナルヤ
答然リ、夫ヨリ延ビレバ無効ニ帰ス
問第七百五十九条ニ「危険」トアルハ如何ナルコトナルカ
答期日前ニ既ニ支払ヲ為シタルニ後満期日ニ至リテ正当ノ所有者カ出来ルコトナキヲ保セズ、此場合ニ於テハ二重ニ支払ヲ為サヾルベカラズ、此等ノ事ヲ危険ト云フナリ
問第七百六十二条ニ「為換手形ヲ数通ニシテ振出シタル時ハ債務者ハ其中ノ孰レニ依リテ支払ヲ為スモ此ニ依リテ其責ヲ免カル」トアリ此手続ハ頗ル紛雑ヲ惹起シ易キガ如シ、如何
答既ニ一通ヲ払ヘバ仮令後ヨリ三通出デ来タルモ五通出デ来タルモ之
 - 第19巻 p.353 -ページ画像 
ニ対シテ支払ノ責ヲ免ル、然レドモ後ヨリ出テ来タル手形ニ裏書又ハ引受アル場合ニ於テハ仮令二重払トナルモ支払ハザルヘカラス、何トナレハ引受ナキ手形ヲ支払フニハ必ズ担保ヲ請求シ置カザルベカラザルニ、斯ク為サズシテ支払ヒタルハ自己ノ過失ナレバナリ
問第七百六十三条ニ「引受ヲ記シタル為替手形数通アル場合ニ在ラハ云々」トアリ、支払ナルモノハ一通ヨリ外ニハセザルモノト思ヒ居リシカ何通ニテモスルモノナリヤ
答支払人ノ望ニヨリテハ何通引受ヲ記スモ随意ナリ、但義務トシテ之ヲ為スノ必要アルニアラズ、唯其裏書人ガ自己ノ得意先等ニテ其得意ニ対シ懇情ヲ破ラザル為ニ数通ニ引受ヲ記スルコトアルナリ、是ハ若シ間違アリタルトキハ得意先ヘ掛ルト云フ見込アリテ到底自己ノ損失トナラザルガ為メナリ、故ニ手形其物ニ信用ナキ場合ニ於テハ之ヲ記スルコトナシ
問而シテ支払人ハ一通ノミ支払ヒテ可ナリヤ
答三通ニ引受ヲ記シ、甲乙丙ノ三者ガ各一通ヲ有セル場合ニ甲ガ現金ヲ受取リニ来リタルトキハ支払人ハ甲ニ向テ三通揃ヘテ持来ランコトヲ要求シ、若クハ担保ヲ供スルノ請求ヲ為スコトヲ得、然レトモ支払人ニ於テ担保ヲ要用ト認メザル場合、即チ此裏書ニハ岩崎アリ岩崎ガ必支払ヲ引受クルニ相違ナシ、故ニ自己ノ損失トナルノ憂ナシ、手形上ニテハ既ニ支払ヒタル上ハ夫ギリノ事ナレドモ裏書人タル取引先ニ信用アル場合ニハ担保ノ請求ヲ為サズシテ支払フモ可ナリ、是等ノ事ハ支払人ノ随意ニ任セタルモノナリ
問第七百六十七条ニ「支払人ガ正当ノ理由ナクシテ満期日ニ為換金額ノ支払又ハ寄託ヲ拒ムトキハ云々」トアリ、然ラバ之ヲ反対ニ見テ正当ノ理由アリテ拒ミタル場合ニハ拒証書ヲ作ラザルモ可ナリヤ
答左様ナル意味ニハアラズ、仮令如何ナル場合ニ於テモ拒証書ハ作ラザル可カラズ、但支払人ガ支払フコトハ支払フベケレドモ未ダ資金ヲ受取ラザル故三日ノ猶予ヲ与ヘヨ其間ニ資金ヲ請求シテ渡スベシト云フガ如キ場合ニ於テハ或ハ双方ノ考ニテ猶予スルコトナキニシモアラズ、然レトモ支払人ガ三日ヲ過ギタル後違約スルノ恐アリト認メテ所持人ガ猶予ヲ与ヘザルトキハ固ヨリ本条ノ規定ニ従ハザルヘカラズ
問第七百六十七条ノ末文ニ「為替手形ニ明記アルニ因リテ云々」トアルハ如何
答手形ノ上ニ拒証書ヲ要セサル旨ヲ記スルコトアリ、初メ手形ヲ作ルニ当リ之ヲ記スルコトハ許可セラルヽナリ、但是ハ金額ノ少キ手形ヲ作ル場合ニ限ル事ニテ、其訳ハ僅カ五円カ十円ノ手形ニ拒証書ヲ作ルトセバ之ガ為メニ義務ヲ増スニ付之ヲ作ラサルナリ、而シテ直ニ手形ヲ持来ルベシ何時ニテモ其金額ヲ支払フベシトテ拒証書作成ノ義務ヲ免ルヽコトヲ得ルナリ
問振出人ノ考ニテ多額ノ手形ニテモ拒証書作成ノ義務ヲ免カレシムルコトヲ得ルカ
答否小額ナル手形ノ場合ニ限ルナリ
問第七百七十条ニ「栄誉支払若クバ其拒絶又ハ其提供ハ何レノ場合ニ
 - 第19巻 p.354 -ページ画像 
於テモ之ヲ支払拒証書又ハ其附箋ニ記載スベシ」トアリ、是ハ元来何人ガ記載スベキモノナリヤ、公証人若クハ裁判所ノ官吏ガ之ヲ記載スルモノニハアラザルカ
答既ニ拒証書ヲ作リタル後ニ栄誉支払人ノ出来タル場合ニアラザレバ公証人若クハ裁判所ノ官吏ガ之ヲ記載スルノ必要ナシ、拒証書ヲ作ルトキハ栄誉支払ヲ提供シタル者、若クハ拒絶シタル者ニ於テ之ヲ記シテ可ナリ、若シ既ニ拒証書ヲ作リタル後ナレバ其権利者ノ面前ニ於テ之ヲ記セザルヘカラス
問第七百七十八条ニ「他所払人ノ記載ナキ時ハ云々」トアルハ如何ナル意味ナルヤ
答甲カ支払人ニシテ横浜ニ於テ支払フト云フ場合ニ、横浜ニテ何人ガ之ヲ支払フト云フ事ヲ記載セザルトキハ横浜ニ於テ甲ニ呈示スベシト云フノ意ナリ
問然レトモ甲ガ必ズ横浜ニ行クコトヲ保シ難シ、若シ他所ニ居ルトキハ呈示ヲ為スニ由ナキガ如シ、如何
答他所払手形ハ概ネ市場手形ナリ、例ヘハ桐生ニ生糸市場アリ、今甲某ナル者ハ京都人ニシテ乙某ナル者ハ東京人ニテ共ニ桐生ノ市場ニ於テ取引ヲ為ス者ナリ、乙ハ甲ニ対シテ払フベキ金アリ、甲ハ桐生ニ行クニ当リ金ノ有合セザルガ故ニ金ヲ持行クコト能ハス、其時ハ乙ニ請求シテ乙ヲ以テ振出人トシテ乙ノ手代ヲ以テ支払人ト為シ置キ、而シテ桐生ニハ必ズ乙ノ居ルコトヲ知レルガ故ニ桐生ヲ以テ他所払地トナス、斯クスレバ若シ乙ガ居ラザルモ乙ノ全権ハ即チ其手代之ヲ代理スベキガ故ニ其手形ハ桐生ニアリテ支払フヘケレハナリ他所払手形ノ出ツルハ通例此ノ如キ場合ナリ、若シ乙某ガ今年ハ桐生ヘハ行カズ、然レトモ丙某ガ行ク故彼ヲ以テ他所払人トセントテ斯ク定メ置ケバ丙某ガ必ズ桐生ニアルヲ以テ毫モ差支ヲ生ズルコトナシ
 右ノ外ニ他所払手形ヲ作ルコトアリ、例ヘバ大坂人甲某ハ京都人乙某ニ貸アリ、而シテ乙ハ大坂ニ居ラザルモ、丙某ハ大坂ニ来タル者ニシテ乙ト取引ヲナシ乙ニ借アルコトヲ甲ガ知リテ丙ヲ他所払人トナスコトアリ、要スルニ他所払人ガ其地ニ来ルコトハ明ニ知レ居ル場合ニアラサレバ此手形ヲ作ルコトナシ
問第七百八十八条及第七百八十九条ノ両条ヲ連帯シテ説明アラムコトヲ望ム
答償還義務者ト云フハ後戻リヲナシテ裏書人ヨリ振出人ニ遡ホリテ之ヲ指シ、為替義務者ト云フハ振出人ヨリ支払人マデヲ指シタルモノニシテ、一方ニ於テハ義務ナシト規定シ一方ニ於テハ権利アリト規定シタルナリ、普通ニ云ヘバ為替義務者ハ為替手形拒証書及受取証ヲ記シタル計算書ヲ受取ラザレバ金ヲ払フニ及バズ、是支払人ニ対シタル語ナリ、然レドモ尚一層深ク言ヘバ支払人ノミナラズ総テ為替義務者ハ支払証書ヲ取リタル上ニアラザレバ支払フノ義務ナシ
 為替手形云々トアル第七百八十八条ノ規定ハ償還義務者ニ対シテノミ必要ニシテ其ノ他ノ者ニ対シテハ関係ナシ
 第七百八十九条ハ重ニ支払人ニ関スル規定ナレドモ栄誉支払人等モ
 - 第19巻 p.355 -ページ画像 
此中ニ入ル、前条ハ償還義務者ノミノ規定ニシテ本条ハヤヽ広ク関ハルナリ
問第七百九十一条ニ「住居ノ内若クハ傍ニ於テ之ヲ作ル可シ」トアリ傍トハ如何ナル所マデヲ指シタルカ
答屋敷内ナラバ宜シト云フ位ノ事ニ解スベシ、又家屋ノ密接セル場所ナラバ隣家ノ廂ノ下位迄トノ見解ニテ差支ナシ、門構ヘノ家ナラバ門外位ハ宜シ
問第七百九十五条ノ第五号ノ意味ハ如何
答支払期日ニ至リ取附ニ行キタルニ支払人ガ支払フコト能ハザル時ハ拒証書ヲ作ルベシ、而シテ其時ニハ栄誉支払人某々アリタリト云フコトヲ書キ置クナリ
問第八百二十条第二項ニ「其小切手帳ヲ裁判所ニ差出ス義務アリ」トアレドモ小切手帳ハ証拠トハナラザルベシ、如何
答是ハ本条ノ一項ニノミ掛ケテ見ルベカラズ、第八百十七条ニ「小切手ニハ(中略)振出ノ方或ハ之ヲ遵守スルコトヲ要ス」ト規定シアレドモ通例ハ小切手帳ニ約束ヲ記シ置クナリ、故ニ総テ小切手ニ付テ争ノ起リタルトキハ小切手帳ヲ以テ証拠トナスコトアリ、本条第一項ニ限ラズ総テ小切手上ノ争ニ付証拠ト為スタメニ裁判所ヨリ命セラレタルトキハ之ヲ差出サヾルベカラズ、又故ラニ本項ノ規定ヲナシタル故ハ小切手帳ハ己ノ所有物ナルニ付裁判所ノ命令ニ背キ差出ヲ拒ムコトナキヲ保セズ、夫ヲ避ケンガ為メナリ
問第八百十九条ニ「送付」トアルハ呈示ト同意義ナルヤ
答然リ、呈示ハ自ラ持行キ送付ハ郵便ニテ送ルダケノ差アルノミ
 信用アルトキハ可ナレドモ信用ナシト思ヘバ直ニ呈示スベシ、呈示シテ承諾ヲ得レバ最早確乎タルモノナリ
問第八百十九条ノ末文ニ「遅延ノ結果ヲ負担ス」トアレドモ是ニ付キ別段ニ処分ハナキカ
答我邦ノ商法ニ拠レバ瑣末ノ事抦ハ総テ法律ニ規定セズシテ相互間ノ契約ニ任スルノ精神ナリ、故ニ夫等ノ規定ヲ設ケザルナリ
問第九百九十条ノ「変躰支払」トハ如何
答金ノ代リニ品物ヲ払ヒ品物ノ代リニ金ヲ払フノ類ナリ
問第千十九条ノ第五号ニ「相続又ハ遺贈ヲ拒絶スルコト」トアリ、実際之ヲ拒絶スル場合アリヤ
答拒絶スルコトアリ、相続シテ利益トナルコトアリ又不利益トナルコトアリ、而シテ貸方多キトキハ利益トナレドモ借方多キトキハ不利益トナルガ故ニ相続シテ不利益トナル場合ニハ拒絶スルヲ得ルコト勿論ナリ


渋沢栄一書翰 萩原源太郎宛 (明治二三年)一二月一日(DK190044k-0015)
第19巻 p.355-356 ページ画像

渋沢栄一書翰  萩原源太郎宛 (明治二三年)一二月一日   (萩原英一氏所蔵)
梅博士へ嘱托之書案及役員会委員会案内状案とも小印返上仕候、明日梅氏之都合御聞合之上時日御取究可被下候、且当日之会合ハ色々と用事も数多ニ付時間も其見斗を以て役員会ハ何時、商法修正委員会ハ何時、輸出税廃止委員会ハ何時と聊差別相立通達之方可然と存候、左も無之候ハヽ大勢混雑之恐も有之候哉ニ付、御注意可被下候 匆々不一
 - 第19巻 p.356 -ページ画像 
  十二月一日                         渋沢栄一
    萩原源太郎様


渋沢栄一書翰 萩原源太郎宛 (明治二三年)一二月一四日(DK190044k-0016)
第19巻 p.356 ページ画像

渋沢栄一書翰  萩原源太郎宛 (明治二三年)一二月一四日   (萩原英一氏所蔵)
○上略
明夕も商法之会同有之候、時刻ハ四時と存候、然時ハ弁当之用意弊屋ニ申付可申ニ付、其段岡本ヘ御打合可被下候、右申上候 匆々
  十二月十四日                          栄一
    萩原様



〔参考〕日本商法典の編纂と其改正 志田鉀太郎著 第五―四六頁 昭和八年四月刊(DK190044k-0017)
第19巻 p.356-360 ページ画像

日本商法典の編纂と其改正 志田鉀太郎著  第五―四六頁 昭和八年四月刊
 ○第一章 旧商法典の編纂
    第一節 旧商法典編纂以前の状態
 明治維新以後最初に伝来した西洋の法律は仏蘭西法律であつて(1)其法典は夙に翻訳の上研究されたのみならず(2)、司法省は所管の法学校を設け明治五年七月より仏語を以て仏蘭西法律を教授して居つた(3)。之が我邦の法律の体系を仏蘭西法律通り法典中心主義に決定する一大原動力と成つたことは当然である。
 明治の維新が成るや明治二年十月勅命に依つて刑部省は従来各藩が区々に行つた刑事政策を劃一にする為め律書(刑法)の編纂に着手し(4)、明治三年十二月二十日新律綱領の名称を以て之を公布し施行し(5)次で之を補足する目的を以て明治六年六月改定律例を公布して同年七月十日より之を施行したのである(6)。然るに一方に西洋の法律の知識も進み他方に社会の情勢も変化したので、明治九年一月司法卿大木喬任氏は刑法改正の議を奏上し(7)、次で治罪法(現今の刑事訴訟法)・民法・商法等の編纂の議をも上奏したので(8)之を御採用になり明治十三年七月十七日刑法及び治罪法の公布となり(9)明治十五年一月一日より施行せらるゝことゝ成つたことは民法・商法等の諸法典を完備する前駆を為したのである。
 明治十年以前の法典即ち新律綱領及び改定律例は全然日本人に依つて編纂せられたのに其以後の法典即ち刑法及び治罪法は仏蘭西人「ボアソナード」氏の起案したものである。之は西洋の法律を継受する当初の方法として已むを得ぬところであつた。我邦で最初に出来た民法典は是れ亦た「ボアソナード」氏(10)、商法典は独逸人「ロエスレル」民(11)、氏事訴訟法典(単に訴訟法と称した)は独逸人「テヒヨー」氏(12)のそれぞれ起草であつたことは異とするに足らぬ。但し仏蘭西法律を学びたる者の多かりし時代に商法典及び民事訴訟法典を独逸人に起案せしめたのは蓋し仏蘭西人としては「ボアソナード」氏の外に適当の人がなかつたのみならず、商法・民事訴訟法の如きものは何れも最新式の法律を模範として起草するを必要と認め、仏蘭西法律よりは遥か後に編纂された更新独逸の最新立法を模範とする趣旨にて独逸人を起草者と定めたのである。
 商法典の編纂は明治九年に既に大木司法卿に依つて提唱せられ政府の方針は一定して居つたのである。然しながら明治十年の西南戦役は
 - 第19巻 p.357 -ページ画像 
一時此種の立法事業を中止するの已むを得ざるに至らしめたけれども戦役も二月に始まり九月に平定したので、一方に戦役の善後策遂行と共に他方では立法事業も進捗し始めたところ、商法典全部の編纂は大事業なれば先づ応急的に其一部たる会社法や海商法を単行法として制定する方針に改めたのである。
 会社法に付ての経過を述べれば既に明治四年頃より各種の会社及び組合を設けて営利事業を営まんとする気運盛んとなり政府も其取締上種々の苦心を重ね(13)銀行に付ては国立銀行条例(明治五年十一月十五日布告第三百四十九号)(14)、株式取引所に付ては株式取引条例(明治七年十月十三日布告第百七号)(15)、米穀取引所に付ては米穀取引会社規則(明治八年五月二十八日大蔵省甲第十六号)(16)等を制定しそれぞれ特種の営業を行ふ会社の取締を為したにも拘はらず、一般の会社に対して一々条例又は規則を制定して取締を為すこと到底不能なるを以て会社並に組合条例を制定することを急務と認め(17)、西南戦役の後其原案が出来たので明治十三年九月会社並組合条例の審査員を任命し審査局を置かれ(18)、逐条審査の末会社並組合条例を併せて単に会社条例と名づけた草案(三編百四十三条より成る)を作り(19)、明治十四年四月十四日審査総裁より之を太政大臣へ上進したのである(20)。
 次に海商法に付て経過を述ぶれば明治維新の大業成るや明治二年十月七日を以て「西洋形風帆船蒸気船百姓町人ニ至ルマテ所持差許サル」と布告し(21)、同時に商船規則の編成を終り同年十二月之を決定し翌三年一月二十七日民部省及び外務省より布達を発して之を施行した(22)。以来海運に関する数多の規則が制定され(23)、殊に海軍省は一般海上法律(商法典の一部たる海商法に止まらず)の制定を急ぎ西南戦役後間もなく明治十一年二月二十日任命したる海上法律取調掛は同十二月二十八日(原案六編六百四条)を脱稿し日本海令草案の名を附し(24)、別に船籍規則(六則五十六条及び書式十一号)、船量規則(十条)、救助規則(二則四十七条)臨問捜査規則(二則二十六条)及び戦利分配規則(二則十六条及び表一葉)を副へて之を海軍卿へ呈したのである(25)。海軍省に於ては更に海上裁判所訴訟規則(十四章六十八条)及び聴訟規則(十四章五十五条)の原案を作りて先づ之を太政大臣に上呈し海上裁判所設置の急務なるを具陳したので(26)、明治十三年六月五日太政官より審査委員を任命し(27)同月七日元老院にては前後二回審査局を開設し第一回の審査局で訴訟規則審査修正案を作りて上進し(28)、又た第二回の審査局では聴訟規則と同上の訴訟規則修正案をも審査の上両者の修正案(訴訟規則に付ては再修正案)を作りて上進したのである(29)。是に於て海軍省は明治十三年十一月二十四日附を以て海上裁判の準則たるべき海上法律の原案即ち日本海令草案及び附録を太政大臣へ上呈し其審査修正を求めた為め(30)二月二十八日太政官より審査委員を任命し元老院に審査局を開設し日本海令草案の審査に当らしめたのである(31)。此の如く先きに会社条例の草案も既に決定し居り日本海令草案も将に決定せられんとする際(即ち明治十四年四月)政府は再び方針を改め商法典草案の起草を独逸人「ロエスレル」氏に命じたので、一方には同年四月四日附を以て海令審査局に対し「海令審査ノ儀都合有之
 - 第19巻 p.358 -ページ画像 
ニ付中止可致此旨相達候事」と達し(32)、海軍省が尚ほ海上裁判所の設置を促進せんとして其管理庁の決定を上申したに対し(33)其創設事務を司法省の所属とする旨を達したので(34)海軍省の海上法律の制定並に海上裁判所の設置に関する計画は全然廃棄せらるゝことゝ成り(35)、他方には会社条例を単行法として制定するの議を変更し商法典の一部として編纂せらるゝ以上審査局の必要なきに至つた故、明治十五年三月十一日審査委員を免じ同月十三日審査局を閉鎖したので会社条例の制定に関する計画は挫折することゝ成つたのである(36)。 ○註略ス
    第二節 旧商法典草案の確定
 明治十四年に至り太政官(現今の内閣に該当す)が会社条例や海令の如き単行法を逐次制定する立法主義を抛棄して法典を編纂する主義を採用することゝ成つたのは、一つには法律の制定上各官省の割拠状態が一変して太政官を中心とする統一状態に進んだ為めと、又た一つには英米法の如く単行成文法を逐次制定するとせば長年月を要し領事裁判の急速なる撤廃に役立たしむること困難なるのみならず、明治維新当初よりの立法精神たる法律を統一完備(統一策)して時勢の更新を促進(更新策)せんとするの趣旨に悖ることを覚り、欧洲大陸就中独仏両国の如く法典を編纂せんとした為めとである(1)。
 此の如く太政官で商法典の編纂を急ぐことに廟議一決したので、太政官法制部に商法典草案の立案を命じ、法制部より独逸人「ヘルマンロエスレル」氏に其原案の起稿を委嘱したのである(2)。同氏は大蔵省の「御雇」として財政政策及び国民経済政策上種々の献策を為し、東京大学の教師として行政や経済の講義を担当する多忙の身でありながら精励能く法案起稿の大任を果たしたことは特筆すべき事実で、明治十七年一月を以て原案並に逐条の理由書を作成し畢つたのである(3)原文は勿論独逸文で其翻訳は世上に流布された「ロエスレル」氏商法草案と題する二冊の仮綴本である(4)(5)。「ロエスレル」氏の商法草案の原案が未だ完成せぬ間に財界の気運は急進し一方に於て会社の濫設あり破産も亦頻発の勢を示したと同時に他方に於て多数国立銀行の創設に伴ひ手形の取引愈々亦盛んとなつたにも拘はらず会社・手形及び破産に関する法律を欠き近き将来に於て商法典中は此等の詳細なる規定を設くべきこと勿論なれど其原案すら未だ脱稿するに至らず(6)、依つて応急の施設として商法編纂局を設け(7)、「ロエスレル」氏の指導の下に至急を要するものゝ大要を暫行の意味にて制定施行し置き商法典の完成を俟たんと企て(8)、先づ総則と会社の部丈け百六十条より成る草案として明治十五年九月一日同局より太政官へ上達したけれども之は結局其儘握り潰《(し脱)》となつた(9)。之に反して手形の部分の草案(太政官へ上進の月日不詳)は明治十五年十月二十六日元老院の議に附せられ同年十一月二十五日議了の後上奏御裁可あつて、同年十二月十一日太政官布告第五十七号を以て公布され為替手形約束手形条例と成つたのである(10)、又た破産の部分の草案は商法編纂局では未了である間に明治十七年を迎へ其一月「ロエスレル」氏が商法典草案の原案全部を脱稿進達したるに依り最早起案の必要なきに至つたのである。然るに明治十五年より同十七年に亘り日本銀行を初め大阪紡績会社(資本金二
 - 第19巻 p.359 -ページ画像 
十五万円)共同運輸会社(資本金百二十万円)大阪倉庫会社(資本金二十万円)電灯会社(資本金二十万円)大阪商船会社(資本金百八十万円)大日本鉄道会社(資本金二千万円)等の大会社が開業する気運と成つたので(11)、兼て憲法取調の為め欧洲へ派遣せられ明治十六年八月四日帰朝した伊藤博文氏(参議)が制度取調局長官として翌十七年五月二十日会社法を急速に制定するの必要なる所以を上申した結果(12)改めて取敢へず会社条例の編纂をすることに廟議急変し同月二十四日商法編纂局を閉鎖すると共に会社条例編纂委員を任命し、「ロエスレル」氏の脱稿した原案に基づき起案せしめたのである(13)。然るに会社条例編纂委員は会社条例の制定に伴ひ破産法の制定を必要と認め、委員長寺島宗則氏より太政官へ其旨を上申した結果(14)、太政官では更に破産法編纂委員(会社条例編纂委員長及委員兼任し唯農商務省より一人加はつたのみである)を任命し(15)是れ亦た「ロエスレル」氏の脱稿した商法典草案の原案中破産の部分に基づき起案せしむることゝ成つたのである。
 明治十八年十二月二十二日政府の組織が根本的に改正され太政官を廃して内閣とし(16)内閣に法制局を置き其中に行政・法制及び司法の三部を設けたれば、商法典及び之に関する命令の起草並に審査は法制部の掌どる所となり(17)会社条例編纂委員及び破産法編纂委員も内閣の所管に属しつゝ起草を進め、明治十九年三月十七日に会社条例の全部を議了し更に進んで破産法を起案すべき場所に立到つた所で委員は次の如き意見を立てたのである。即ち「為替手形約束手形条例は既に制定施行され今又た会社条例次で破産法が制定されるとしても尚ほ商法典の他の部分の制定施行を欠けば実績を挙げ難い。此点に付き「ロエスレル」氏よりも商法典全部の制定を必要とする旨の懇話ありたれば破産法の編纂を止め改めて商法編纂委員を設けて商法典全部の制定に当らしめることを至当と信ずる」と謂ふのであつて、委員長より之を内閣へ上申したので(18)内閣は再三方針を変更して明治十九年三月二十三日商法編纂委員を任命し、会社条例編纂委員及び破産法編纂委員を罷免したのである(19)。
 此の如き曲折波瀾を経た上商法典の編纂を命ぜられた商法編纂委員も亦た其使命を果たすに至らざる間に明治二十年四月十九日附で罷免せられ、商法典編纂の任務は外務省所管の法律取調委員に引継がれ、商法典と民法典とは共に此委員の手にて編纂せらるゝことゝなり(20)、次て此法律取調委員は外務省所管より司法省所管に移され(21)、明治二十年十一月四日附を以て、司法大臣山田顕義氏は法律取調委員会略則(十条)を定め(22)此規則に従ひ「ロエスレル」氏の脱稿した原案を基礎とし審議を進め、遂に殆んど原案通りに草案の確定を見るに至つたものである(23)。 ○註略ス
    第三節 旧商法旧商法典の制定、施行延期及び施行
 旧商法典草案は「ロエスレル」氏の起案せるものを原案として法律取調委員会に於て審議の上決定したものであつて、内閣は之を元老院の議に附し、元老院総会に於て之を可決したのは明治二十二年六月七日である(1)。政府は翌年即ち明治二十三年四月二十七日法律第三十二
 - 第19巻 p.360 -ページ画像 
号として之を公布し、其翌年即ち明治二十四年一月一日より施行することヽ定めたのである(2)。 ○下略
   ○明治二十三年八月十二日(本巻第三九四頁)、同年八月二十七日(第四〇二頁)、同年九月四日(第四二九頁)、同年十二月十三日(第四三四頁)、同二十四年九月二十一日(第四六六頁)、本節第三款東京商業会議所明治二十五年六月六日、同二十六年九月二十二日、同年十二月二十五日、同二十七年六月二十七日、同年十二月二十日、同二十八年一月十二日、同二十九年九月十四日、同三十年六月二十八日、同年十二月二十七日、同三十一年十二月二十四日、同三十二年二月十日ノ各条参照。