デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第19巻 p.664-685(DK190073k) ページ画像

明治24年12月22日(1891年)

是ヨリ先東京銀行集会所ヨリ私設鉄道買収ニ関シ建議アリシヲ以テ、当会議所ハ栄一外九名ノ委員ヲ挙ゲ審議中ナリシガ、是日同件ニ就キ当会議所会頭トシテ貴衆両議院ニ請願ス。


■資料

第一回東京商業会議所事務報告 第三―五頁 明治二五年四月刊(DK190073k-0001)
第19巻 p.665 ページ画像

第一回東京商業会議所事務報告  第三―五頁 明治二五年四月刊
一私設鉄道買収ノ儀ニ付貴族衆議両院ヘ請願ノ件
 本件ハ明治二十四年十一年三十日東京銀行集会所ヨリノ建議ニ起因シ其要旨ハ鉄道ノ延長貫通ハ方今ノ急務ナルニ現時ノ状態ヲ以テスレバ其目的ヲ達シ難キニ付、此際政府ニ於テ私設鉄道ヲ買収シ其利用ヲ完全ナラシム可シ云々ノ趣旨ヲ本会議所ノ意見トシテ帝国議会ヘ請願アリタシト云フニ在リ依テ同年十二月十二日第十回ノ臨時会議ニ附シタルニ時期頗ル切迫スルヲ以テ委員十名ヲ撰ヒ之ニ請願書起草ノ全権ヲ托スルニ決シ即チ投票ヲ以テ左ノ諸君ヲ撰挙シタリ
                   益田孝君
                   渋沢栄一君
                   太田実吾《(太田実君)》
                   大倉喜八郎君
                   益田克徳君
                   山中隣之助君
                   中野武営君
                   梅浦精一君
                   小林義則君
                   伊井吉之助君
 其後委員ハ(中野武営君ハ事故ヲ以テ委員ヲ辞シタリ)審議ノ末原建議案ノ趣旨ヲ参酌シテ請願書案ヲ草シ報告シタルニ付、同月廿二日ヲ以テ貴族院及衆議院ヘ請願シタリ
一私設鉄道買収ノ儀ニ付会員大倉喜八郎君外二名ヨリ建議ノ件
 本件ハ明治廿四年十一月二十五日、会員大倉喜八郎・徳田孝平・伊井吉之助諸君ヨリノ建議ニ係リ其要旨ハ私設鉄道ノ買収ハ国家ノ大問題ニ付キ調査委員ヲ設ケテ之ヲ調査セシム可シト云フニ在リ、然ルニ前記銀行集会所ヨリ提出シタル私設鉄道買収ヲ希望スルノ建議可決シタルヲ以テ、本件ノ建議者ハ之ヲ撤回シタリ


東京経済雑誌 第二四巻第六〇三号・第九一〇頁 明治二四年一二月一九日 東京商業会議所臨時総会(DK190073k-0002)
第19巻 p.665-666 ページ画像

東京経済雑誌  第二四巻第六三号・第九一〇頁 明治二四年一二月一九日
    ○東京商業会議所臨時総会
去る十二日午後五時廿分より坂本町銀行集会所に於て開きたる臨時総会は、出席者三十三名にして会頭渋沢栄一氏、先つ第一号議案輸出税全廃を希望する建議に就き衆員の意見を諮ひしに、別に異議なく原案に可決し、暫時休憩後再ひ開議、会頭は第二号議案私設鉄道買上に関する調査委員撰挙の建議を後廻はしとし、直に第三号議案銀行集会所より提出したる私立鉄道買上の建議案に移ることに決し、渋沢氏は意見ありとて副会頭奥氏代て議長席に就き、書記議案を朗読し、渋沢栄一氏先つ銀行集会所が此建議案を東京商業会議所に提出したる所以の大要を述へ、尋で益田孝・益田克徳・梅浦精一・大倉喜八郎・山中隣之助の諸氏各々其説を述べられしが、遂に東京商業会議所は政府民有の鉄道を収買して其延長貫通を励図するを希望し其拡張買上の方法等は全権調査委員に委托して帝国議会に建議案を呈出することに議決せ
 - 第19巻 p.666 -ページ画像 
り、次て全権調査委員には益田孝・渋沢栄一・太田実・大倉喜八郎・益田克徳・山中隣之助・中野武営・梅浦精一・小林義則・伊井吉之助の諸氏当撰し、次いて第四号議案綿糸輸出関税蠲税請願の建議は全会一致にて可決し、其調査委員は会頭の指名にて益田孝・奥三郎兵衛・梅浦精一・辻粂吉・菊池長四郎の諸氏に任し、次に商業会議所条例改正案の建議は討議の末、其調査を建議者に委托するに決し、十時十分頃散会せり


鉄道意見全集 小谷松次郎編 第九九―一〇四頁 明治二五年二月刊(DK190073k-0003)
第19巻 p.666-668 ページ画像

著作権保護期間中、著者没年不詳、および著作権調査中の著作物は、ウェブでの全文公開対象としておりません。
冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。

鉄道意見全集 小谷松次郎編 第三五七―三六一頁 明治二五年二月刊(DK190073k-0004)
第19巻 p.668-670 ページ画像

著作権保護期間中、著者没年不詳、および著作権調査中の著作物は、ウェブでの全文公開対象としておりません。
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日本鉄道史 鉄道省編 上篇・第九一五―九五二頁 大正一〇年八月刊(DK190073k-0005)
第19巻 p.670-685 ページ画像

日本鉄道史 鉄道省編  上篇・第九一五―九五二頁 大正一〇年八月刊
  第八章 鉄道敷設法ノ公布
    第一節 鉄道政略ニ関スル議
明治二十三年度末ニ於ケル鉄道ノ延長ハ官私線合計一千三百九十九哩ニシテ敷設確定ノ未成線〔未測量線ヲ含ム〕ヲ合算スレハ約二千三百哩ニ達シタリ、然ルニ国家将来ノ大計上如何ナル程度ニ尚ホ之カ拡張大成ヲ図ルヘキ乎ニ就テハ政府ニ於テ未タ之カ方針ヲ確定セズ、此方針ニシテ確定セザル間ハ将来ニ於ケル官設線ノ建設ニ関シ又ハ私設線ノ許否取扱ニ関シ支障ナキヲ得ザレハ先ツ其根本ヲ定ムルノ必要アリトシ、井上鉄道庁長官ハ明治二十四年七月ヲ以テ『鉄道政略ニ関スル議』ヲ建テタリ、其趣旨トスル処ヲ約スルニ我国ノ鉄道ハ将来ニ於テ尚ホ三千五百五十哩ノ拡張敷設ヲ必要トシ、其工費一哩六万円トスレハ二億千三百万円ヲ要ス、此拡張ハ資本ノ巨額ナルニ相伴随シテ容易ナラザル大業ナルノミナラズ線路ノ大半ハ収益乏シキモノナルカ故ニ私設会社ノ経営ニ委スルコト能ハズ、故ニ政府宜シク自ラ之カ施設ニ当ラザルヘカラズ、而シテ其将来敷設スヘキ三千五百五十哩ノ中ニ就テ最モ緊急トスル線路ヲ選択シ、第一期ニ起工スヘキモノハ八王子・甲府間、三原・馬関間、佐賀・佐世保間、福島・青森間、敦賀・富山間、直江津・新発田間ノ六線ニシテ、其哩数約八百哩、工費約三千五百万円ヲ要ス、之ヲ七箇年ニ亘ル継続費ト為シ、半途ノ縮弛ヲ防カンカ為単一ナル予算案ト為スニ止メズ、一ノ法律案トシテ帝国議会ノ協賛ヲ経ルヲ要スヘシ、又鉄道ハ本来国家的事業ナルカ故ニ現在ノ私設鉄道ハ之ヲ買収シテ国有ト為スノ必要アリ、蓋シ我邦ノ私設鉄道ニシテ計画ノ目的ヲ誤ラズ能ク敷設ノ功ヲ奏シ運輸ノ利用上稍々鉄道ノ面目ヲ具備スト認メラルルモノ太タ尠ク、其多クハ未タ満足ノ効果ヲ収
 - 第19巻 p.671 -ページ画像 
メザルモノト謂フヘク、而モ是等ノ私設鉄道ハ首尾環聯ヲ要スル基本線中ニ属スルモノナルヲ以テ、今政府ニ於テ之カ拡張ヲ実行セントセハ先ツ之ヲ買収セザルヘカラズ、依テ私設鉄道買収法トシテ議会ノ議ヲ経ルヲ要スト謂フニ在リ、其全文ヲ左ニ録ス
      鉄道政略ニ関スル議
 鉄道ハ運輸交通ノ利ヲ発達シテ国防施政上ヨリ殖産興業上ニ至ルマテ社会百般ノ事業ニ便益ヲ与ヘ、所謂富強ノ要具開明ノ利器タルヘキモノナルヲ以テ之ヲ布設スル為メニ放下セル資本ニ対シ収得スル直接利益ノ多寡ハ鉄道ノ価値ヲ判定スル唯一ノ標準トスルニ足ラズ鉄道ノ開通ニ依テ起ルヘキ間接ノ利益コソ其得失ヲ査覈スル基本トセサルヘカラサルモノタルハ固ヨリ論ヲ竣タス、而シテ此間接ノ利益ヲ十分ニ発達スルハ鉄道ヲシテ可及的全国枢要ノ地ニ普及セシメ首尾環聯幹支接続シ其利用ヲ完全ナラシムルニ如クハナキモ亦多弁ヲ要セスシテ瞭然タリ
 今本邦ノ大体ニ就キ首線環聯幹支接続略々利用ノ完全ヲ期スヘキ鉄道線路ヲ考察スルニ(北海道ヲ除キ)其延長概計五千二百哩ニシテ既成官私設鉄道及ヒ目下布設竣功ノ見込確定ノ分合計千六百五十哩ヲ控除スルモ、今後布設ヲ要スル線路ハ三千五百五十哩ノ延長ニシテ、其工費ハ一哩金六万円トスレハ合計金二億千三百万円ナリ、之ニ官私設線千六百哩ニ要セル費額概計金七千八百万円ヲ加算スレハ通計殆ント三億万円トナル、実ニ莫大ナル金額ナリト雖モ、之ヲ人口若クハ土地ノ面積等ニ比例シ欧米諾邦《(諸)》ノ鉄道ノ利用十分ニ発達セルモノニ対照スレハ僅カニ其ノ十分乃至二十分ノ一ニ上ラス、之ヲ吾国家ノ事業トスレハ国民ノ敢テ負担スル能ハサルモノト謂フヲ得サルヘシ、由是観之鉄道既成ノ事業ハ僅ニ其全部ノ半途ニモ達セサルモノナレハ国家ノ大計上漸次其拡張大成ヲ謀ラサル可ラス
 此鉄道拡張ノ完成ハ其資本ノ巨額ナルト相伴随シテ容易ナラサル大業ナルノミナラス、線路ノ大半ハ固ヨリ直接ニ資本ニ対スル収益ハ甚タ小額ニシテ専ラ間接ノ便益ヲ主眼トスヘキモノナルヲ以テ、之ヲ私設会社ノ経営ニ放任シテ其成功ヲ望ムカ如キコトアラハ、所謂木ニ縁テ魚ヲ求ムルノ迂ニ類スルモノト謂フベシ、故ニ国家的事業トシテ政府自ラ其施設ノ責ニ当ルヲ当然ノコトナリトス、若シ然カラスシテ単一ニ営利ヲ目的トスル私設会社ノ経営ニ委ヌル時ハ或ル一小局部ニ在テハ稍鉄道ノ便ヲ得ルノ状ヲ呈スルコトアルモ決シテ首尾環聯幹支接続ノ大成ヲ期ス可カラス、況ヤ孤立短線ノ鉄道ハ建設営業共ニ費用ハ之ヲ長大ノモノニ比スレハ常ニ割合ニ多キノ不利ヲ免レスシテ一小局部ノ利用スラ亦完全ナルヲ得サルヲヤ、之ニ反シテ長大ナル線路ヲ延長合併スレハ其管理経営上総テ供救流用ノ便ヲ得テ甲乙線ノ余裕ハ以テ丙丁線ノ欠損ヲ補ヒ孤立シテ維持スル能ハサルモノモ亦鉄道タルノ利用ヲ完クスルヲ得ヘシ
 前陳ノ如キ理由アルヲ以テ鉄道拡張ノ目的ハ一日モ速ニ之ヲ確定セサル可カラス、而シテ之ヲ拡張スルニハ政府自ラ其事業ヲ経営スルノ責ニ当ラサル可ラサルモノトシ、先速ニ著手スヘキ事項ヲ掲レハ左ノ如シ
 - 第19巻 p.672 -ページ画像 
  一 全国鉄道布設見込線路調査及測量ノ事
  二 拡張布設スヘキ線路ヲ選定シ其工事ヲ起ス事
  三 私設鉄道ヲ政府ニ買収スル事
 第一項ハ曩ニ廿五年度予算ヲ提出スルニ当リ既ニ詳悉具陳セルヲ以テ之ヲ略シ、第二項ヨリ順次具陳セントス
 今後布設ヲ要スル見込線路ハ凡三千五百余哩ニ亘ルト雖モ其中ニ就テ国防上ノ必要ニ依リ布設ヲ緊急ナリト認ムルモノ及ヒ既ニ線路ヲ実測シ、若クハ技術者ノ踏査ヲ経テ略其地形ノ険夷ヲ調査シタル等ニ依テ布設工費ハ格外ノ多額ニ上ラス、且竣功ノ後幾分ノ収益ヲ得ル見込アリテ維持ニ困難ナキト認ムヘキモノ等ヲ選択シテ之ヲ第一期ニ起工スヘキ分トシ、左ニ列叙スヘシ
 八王子甲府線 本線ハ延長凡五十六哩ニシテ東京・名古屋ヲ聯絡スヘキ中央鉄道ノ一部分ナリトス、抑国防上ノ必要如何ニ依テ布設ノ緩急ヲ考査スル時ハ、東京・名古屋ノ両所ヲ聯絡スル中央鉄道ヲ以テ最大緊急ナリトスルハ軍人社会ノ定論ニシテ輿論モ亦是認スル所ナリ、而シテ其線路ノ由ル所ヲ考フルニ信州上田ノ近傍ヨリ松本ニ出テ、所謂木曾街道ヲ経テ名古屋ニ達スルモノ、或ハ八王子ヨリ甲府ニ出テ夫ヨリ松本ノ平原ニ由リ木曾街道ニ入ルカ、又ハ伊那地方ヲ経テ名古屋ニ至ルモノ等ノ数線アリ、之カ大体ニ就テ其得失ヲ比較スルニ甲府ニ出テ伊那地方ヲ経過スル線路ハ最モ直線ニ近キモノナレハ、距離随テ最モ短カク、且ツ物産豊饒ナル甲信ノ要地ニ運輸ノ便ヲ開通スルモノナレハ鉄道ノ収益モ随テ少ナカラサルヘク、軍事経済兼用ノ利アリテ将来維持上ノ見込最モ多キモノナルベシ、尤モ何レモ地形絶険ナル部分多キカ故ニ精密ナル実測ヲ施シタル後ニ非レハ其線路ヲ確定ス可ラサルハ勿論ナレトモ此中央鉄道ハ前述ノ如ク緊急ナルモノナレハ今ヤ鉄道布設ノ拡張ヲ謀ルノ時機ニ遭遇スルニ於テハ其布設ハ必ス之ヲ決行セサル可ラス、依テ玆ニ其一部分トナルヘキ八王子甲府線ヲ掲出シ之ヲ第一期ニ起工スルモノトシ其工費ハ姑ク金三百九十二万五千円ト概算セリ、尚本議実行ノ日ニ至レハ実地測量ノ上全線路ヲ確定シ工費総額ヲ調査シ之ヲ提出スヘシ
 三原馬関線 本線ハ延長凡百五十九哩ニシテ山陽鉄道会社カ布設ノ権利ヲ得タルモノナレトモ、同社ハ三原以西ノ工事ヲ中止セルヲ以テ後条ニ論スル私設鉄道買収策ヲ実施スルモノトスレハ直チニ布設ノ起工ヲ要ス、而シテ本線中三原広島間ハ山陽鉄道予定線ヲ取ルヲ得ヘキモ広島以西ハ国防上ノ関係大ナルモノナルニ付已ニ山陽鉄道会社ニ布設ヲ免許スル時ニ当リ、其予定線ハ海岸ニ接近スルヲ以テ更ニ実測ノ上政府ノ認許ヲ経ヘキ旨ヲ令セラレタルモノナレハ固ヨリ別ニ線路ヲ測量シタル後確定スヘキモノトス
 佐賀佐世保線 本線ハ延長凡四十一哩ニシテ九州鉄道会社ノ布設免許ヲ得タルモノナリトス、然レトモ同社ハ佐賀以西ノ工事ヲ中止セルヲ以テ、私設鉄道買収ヲ実行シ得ル上ハ速カニ起工シテ佐世保ノ軍港マテ鉄道ノ便ヲ及ホスハ最モ緊要ナリ
  前記三原馬関及佐賀佐世保ノ両線ハ山陽・九州両私設線買収ヲ実施セサルニ於テハ、別ニ両会社ヨリ該区間工事廃止ノ申請ヲ為シ
 - 第19巻 p.673 -ページ画像 
テ其権利ヲ放棄シタル後ニアラサレハ起工スルコトヲ得サルモノトス
 敦賀富山線 本線ハ延長凡百二十六哩、所謂北陸線ト称シ、敦賀線ヨリ福井・金沢ヲ経テ富山ニ達スルモノトス、曩ニ私設ノ発起者アリテ仮免状ヲ下付セラレタレトモ到底私設ヲ以テ成功スルノ望ナキノミナラス、全国ノ基本線ヲ国有トスル以上ハ本線ノ如キ人口稠密物産饒多ナルモ、冬期船舶航行ノ便ヲ欠ク地方ニ通スルモノハ最モ速ニ布設ヲ要スルモノトスヘシ
 福島青森線 本線ハ日本鉄道会社白河仙台間線路ヨリ米沢・山形・秋田・弘前ヲ経テ青森ニ達スルモノニシテ延長凡三百九哩、山形鉄道ト称シ曾テ仮免状ヲ下付セラレタルモノハ本線ノ一部分ナリト雖モ既ニ其有効期限ヲ経過セリ、本線ハ北陸線ト稍其趣ヲ同クセル人口稠密土壌肥沃ナル地方ニ運輸交通ノ便ヲ与フルモノニシテ且国防上ニモ日本鉄道会社ノ線ト相待テ極メテ必要ナリトス、而シテ本線ハ其地形上其両端ヨリ起工スルノ便アルモノトス
 直江津新発田線 本線ニ付テハ曩ニ廿五年度予算書提出ニ当リ詳カニ具陳セシ通リナリ
 前記各線ヲ布設スルノ外軍事上既成鉄道ノ利用ヲ可成完全ナラシムルノ準備トシテ、東京・大阪・名古屋・仙台等ノ如キ師団所在地若クハ其他分営所在地ニ於テ或ハ軍用停車場ヲ設備シ、且ツ之ヲ本線ニ接続スル支線ヲ布設シ、或ハ在来ノ停車場ヲ取拡ケ軍隊輸送ノ便ニ供スルハ今後著手スヘキ緊急ノ工事ナリトス、現ニ新橋停車場ノ如キ全ク普通ノ旅客乗降・貨物積卸ニ対スル便益ヲ謀リ設備セルモノナレハ、多数ナル軍隊輸送ヲ要スル場合ニハ大ニ不便ヲ感スルハ固ヨリ当然ナリ、故ニ東京近郊適当ノ地ニアル停車場ヲ拡張シテ軍事普通兼用ノモノトスルカ、或ハ別ニ軍事専用ノ一停車場ヲ設備スルハ甚タ緊要ナリ、是等ノ工事ハ第一期拡張布設ト同時ニ起工スルノ目的ヲ以テ其工費ヲ概算スヘシ
 右六線ノ哩程及布設工費ヲ概計スレハ左表ノ如シ
      第一期ニ布設ヲ要スル線路並ニ工費予算

  線区       哩数       工費          記事
            哩           円
 八王子甲府線    五六   三、九二〇、〇〇〇  一哩七〇、〇〇〇円ノ割但概算中最モ概略ナルモノナリトス
 三原馬関線    一五九   七、一五五、〇〇〇  一哩 四五、〇〇〇円ノ割
 佐賀佐世保線    四一   一、六四〇、〇〇〇  一哩 四〇、〇〇〇円ノ割
 福島青森線    三〇九  一二、三六〇、〇〇〇  一哩 四〇、〇〇〇円ノ割
 敦賀富山線    一二六   五、六七〇、〇〇〇  一哩 四五、〇〇〇円ノ割
 直江津新発田線  一一〇   三、八五〇、〇〇〇  一哩 三五、〇〇〇円ノ割
  合計      八〇一  三四、五九五、〇〇〇

  外ニ軍用停車場及接続支線建設費四〇五、〇〇〇円
   工費通計金三千五百万円
    平均一哩工費凡金四万三千九十円ニ当ル
 前記新設線路ノ内八王子甲府間即チ中央線・福島青森線・三原馬関線ハ所謂縦貫幹線ニシテ、軍事上最重至要ナルモノナルヲ以テ到底単線ニテハ十分ニ其目的ヲ達ス可ラス、然レトモ当初ヨリ複線ヲ布
 - 第19巻 p.674 -ページ画像 
設セムトスレハ多額ノ資金ヲ要シ経済上又必スシモ得策ナリトセス依テ此三線ハ用地ノ幅員ハ初メヨリ複線ノ見込ヲ以テ之ヲ買収シ、隧道橋梁等ノ如キモ他日複線布設ノ時ヲ待テ別ニ築設スルニ困難ナルモノハ予メ複線布設ノ計画ヲ以テ施工シ置クノ見込ナリトス
 各線布設総額金三千五百万円ハ之ヲ廿五年度ヨリ三十一年度迄七ケ年間毎年度各金五百万円ノ割ヲ以テ支出セハ工事施行上最モ便利ナルヘシ、尤モ局部々々工事ノ難易ニ依リ一年度中ノ支出金三四百万円ニ止マル時モアルヘシト雖モ、之ニ反シテ工程ノ進歩迅速ナレハ一年度中ニ金七八百万円ノ支出ヲ要スルコトアルヘキニ付、大体前述ノ如ク毎年度金五百万円ヲ支出スルモノト予定シ置キ、甲年度ヨリノ繰越金額ハ常ニ之ヲ乙年度ニ支出シ得ルモノトスルヲ要ス
 各線ノ延長ハ合計凡八百哩ナルカ故ニ第二年ヨリ漸次竣功スルモノトスレハ毎年平均凡百三十余哩ノ新線ヲ開業シ得ル割合ナリト雖モ地形ノ険夷、工事ノ難易ニ随ヒ甲年ニ於テハ僅ニ四五十哩ヲ竣功シ乙年ニ於テハ二百哩ヲ開業スルコトモアルヘシ、是等工事ノ順序等ハ各線ニ就テ精密ナル実測ヲ施シ詳細ナル設計ヲ定メタル後ニ非レハ予定シ難キモノトス
 此拡張布設ノ資金ハ七ケ年間ニ渉ルノ継続費トシテ支出セントスルヲ以テ半途ニシテ伸縮張弛ノ異議ヲ生セサル様確乎タル大体ノ計画ヲ定ムルヲ要スヘシト信ス、故ニ単一ナル予算案ヲ発スルニ止マラスシテ別紙(第一号)ノ如キ一ノ法律案ヲ以テ帝国議会ノ協賛ヲ経ル方可然トノ意見ナリ
 次ニ第三項ノ私設鉄道買収ニ就テ詳陳セムニ抑鉄道ハ其性質上郵便電信ノ二業ト斉シク最モ公共一般ノ用ニ供スルモノニシテ、所謂国ノ脈絡ナルヲ以テ営利ヲ主眼トスル私設会社ニ放任セスシテ国家的事業トスルノ最モ其性質ニ適合セルハ殆ント疑ヲ容レサル所ナリ、且国防上ニ鉄道ヲ利用スルノ目的ヲ以テ観察スルトキハ私設ノ此利用ニ適当ナラサルハ別ニ論者アルヲ以テ今玆ニ贅弁ヲ費サスト雖モ輓近欧陸諸邦ニ於テ私設鉄道ヲ買収シ之ヲ国有トシ、政府自ラ経営スルモノ多キノ実例ニ徴スルモ蓋シ瞭然タルベシ、更ニ進テ吾鉄道ノ現況ニ就テ其実際ノ得失ヲ考覈スルニ、吾邦ニ於テ当初計画ノ目的ヲ誤ラス布設ノ功ヲ竣成シ、運輸ノ利用上略ホ鉄道ノ真面目ヲ具備スルモノト称スヘキハ、官設鉄道ト日本鉄道会社ノ二者アルノミニシテ、其他ノ私設鉄道ハ概ネ当初ノ目的ヲ貫徹スルヲ得スシテ或ハ全ク工事ニ著手セサルモノアリ、或ハ布設工事半途ニシテ逡巡敢テ進ム能ハサルモノアリ、或ハ已ニ大略竣功シテ営業ヲ開クモ収益意外ニ小額ニシテ維持ニ困難スルモノアリ、左ニ其実例ヲ挙クレハ総武・甲信両鉄道ノ如キハ未タ工事ニ著手セス、大阪鉄道ハ官線ト聯絡ノ工事ヲ起スノ景況ナク、関西鉄道ハ桑名線ヲ無期限ニテ遷延シ、讃岐鉄道ハ営業ノ収得甚タ少クシテ将来維持ノ見込殆ント立チ難キノ実況ニシテ、殊ニ私設鉄道工最モ重要ナル線路ヲ占有セル山陽・九州両鉄道ノ如キモ前者ハ備後三原以西ノ布設ヲ中止シ、後者ハ熊本以南佐賀以西ノ工事ヲ中止スルノ厄運ニ際会セリ、故ニ今日ノ勢ヲ以テ見レハ到底是等私設鉄道カ当初ノ目的ヲ貫徹シ鉄道ノ真
 - 第19巻 p.675 -ページ画像 
面目ヲ具備スルハ殆ント望ミ難キモノナルヘシ、然ルニ其線路ハ彼ノ首尾環聯幹支接続ヲ要スル基本線中ニ組入ルヘキモノナルヲ以テ今政府ニ於テ鉄道ノ拡張ヲ実行セントスレハ、第一ニ此私設鉄道ヲ利用完全ナルモノトスルノ処分ヲ施サヽル可ラス、而シテ其処分法ヲ求ムルニ蓋シ政府ニ於テ之ヲ買収スルヲ策ノ最モ得タルモノトス今ヤ私設鉄道会社中ニハ其許可セラレタル線路ニ在テモ先営業上最モ収益多カルヘキ部分ノミヲ布設シ、其他ハ布設ヲ見合セントスルモノアルノ実況ナルヲ以テ之ニ接スル線路ニシテ収益一層小額ナルヘキ見込ノモノハ容易ニ布設ヲ企図スルモノアラサルベシ、是レ営利ヲ目的トスル私設会社ニ在テハ固ヨリ当然ノコトナリトス、然ルニ政府ニ於テ如此線路ノ延長若クハ聯絡ヲ施行スルモノトセハ、此延長若クハ聯絡ニ依リ私設会社既成ノ部分ニ対スル収益ヲ増加スルノ結果アルヲ期スヘキ場合ト雖モ其収益ノ増加ハ単ニ私設会社ノ所得ニ帰シ、政府カ放下スル資本ニ対スル利益ハ甚タ小額ニ止ルベシ是レ小数ナル私設会社ノ株主ニ特殊ノ恩恵ヲ与ヘ国民一般ノ負担ヲ増加スルノ不公平ナル弊ヲ免レサルモノナリ、例ヘハ目下施工中ナル碓氷峠ヲ開鑿シ高崎線ト信越線ヲ接続スル工事ノ如キ、其成功ノ日ニ至レハ日本鉄道会社ハ其第一区線ニ於テ収益ノ増加ヲ見ルハ殆ント疑ヲ容レズト雖モ之ヲ碓氷峠線ノ収入トナス可ラサルノ類是ナリ、故ニ今政府ニ於テ鉄道ヲ全国ニ普及セシムル為メニ之カ拡張ヲ謀ルモノトスレハ先既成私設鉄道ト経済上供救ノ道ヲ得ルノ策ヲ立ツルヲ要スベシ、是私設鉄道ヲ買収スヘキ一ノ理由ナリ
鉄道所有主ノ異ナルカ為メニ旅客貨物ノ運搬上公衆ノ不便ヲ受クルモノ少カラス、鉄道営業ノ当局者ニ於テハ固ヨリ可成此不便ヲ避クルニ汲々タリト雖モ所有主ヲ異ニスル以上ハ彼我計算上ノ便ヲ謀リ自然運輸ノ実施ニ種々ノ覊束セラルヽ所アルヲ免レス、例ヘハ大阪岡山間ヲ往来スル旅客カ神戸ニ於テ列車ノ移乗ヲ要スルカ如キ、若クハ甲所有主ノ線路ト乙所有主ノ線路トニ跨ル貨物ノ運賃額ハ其距離長遠ニ渉ル場合ニモ同一ナル所有主ノ線路ノ同距離ニ於ケル賃額ヨリハ高カラサルヲ得サルコトアル如キ、実際公衆ニ不便不利ヲ被ラシムルモノト謂ハサルヲ得ス、是等ノ支障ハ鉄道ノ利用ヲ拡充スルニ当リ速カニ除却スヘキモノニシテ、要スルニ鉄道ノ所有権一途ニ帰スル時ハ自然排除スルヲ得ヘシ、是レ私設鉄道ヲ買収スヘキ一ノ理由ナリ
 線路ノ延長僅カニ数哩ニ過キザルモ既ニ一箇ノ私設会社ヲ独立セシムレハ、鉄道ノ管理経営上ニ係ル費途、即チ本社費ト称スルモノノ如キハ勿論車輛器械ノ修理ニ必要ナル器械場ノ設備保全ニ係ル費用等総テ格外ニ営業費ヲ膨脹スルカ故ニ、仮令収入ハ相当ノ金額ニ上ル線路ト雖モ純益トシテ株主ニ配当スルヲ得ル金額ハ甚ダ減少セサルヲ得ス、随テ旅客貨物ノ賃額ヲ低廉ニシ又車輛其他ニ改良ヲ加ヘテ大ニ公衆ノ便ヲ謀ルカ如キコトハ短線薄資ノ私設会社ニ望ムコト難シ、之ニ反シ是等線路ヲ合併シ経済ヲ合一ニスル時ハ著シク営業費ヲ減省スルヲ得テ自ラ公衆ノ便益ヲ謀リ鉄道ノ利用ヲ完全ナラシムルニ至ラン、是私設鉄道ヲ買収スヘキ一ノ理由ナリ
 - 第19巻 p.676 -ページ画像 
 右ノ如ク私設鉄道ノ買収ハ鉄道拡張ノ一著手トシテモ鉄道ヲ国家ノ事業トスル大体上ニ於テモ緊要ナル政略ニシテ、殊ニ目下鉄道株式価格ノ低落ハ之ヲ実施スルノ好時機ナルヘシ、而シテ此買収ヲ実施スルニハ左ノ三方法アルベシ
  第一 鉄道会社ヨリ其鉄道ノ買上ケヲ望ムヲ待チテ政府之ヲ買上クル事
  第二 法律ヲ以テ政府ニ買上権ヲ有セシメ何時ニテモ買上ケヲ為ス事
  第三 政府ト会社トノ間ニ合意契約ヲ結ヒテ之ヲ買取ル事
 第一ノ方法ハ穏当ナルカ如キモ全国ノ鉄道ヲ国有ニ変スルマテニハ幾多ノ年数ヲ要シ、加之会社ノ希望ヲ待ツモノナレハ政府ハ予メ之ニ充ツヘキ金額ヲ準備セサルヘカラス、議会アルノ今日ニ於テハ買上金ヲ準備スルハ甚タ困難ニシテ支出額ノ未定ナル買上費ヲ予メ議決スルコトハ議会ニ於テモ亦困難ヲ感スベシ、要スルニ此方法ハ議会ニ向テ買上金ヲ請求スヘキ道ナキニ苦ムノ短処アリ、若シ又会社ノ申請アルニ当リ其都度議会ノ承諾ヲ求ムル如キ手段ヲ取ルトキハ議会ノ議ハ毎年変換シテ或ハ国有主義ニ傾キ、或ハ私設主義ニ傾キ竟ニ鉄道国有ノ大目的ヲ達スル能ハサルノ恐レナキヲ得ス
 第二ノ方法ハ簡便ナレトモ法律ヲ以テ権利ヲ圧制スルノ嫌アリ、現行私設鉄道条例ニ拠レハ鉄道買上権ハ営業期限ノ満ル後ニ政府之ヲ有スト約束シタリ、然ルニ今此約束ヲ変シテ何時ニテモ政府ニ買上権アリト定ムルハ法律上ハ不可ナキモ徳義上甚穏当ナラス、且又之ヲ為スモ特約アル日本鉄道会社・両毛鉄道会社等ニ向テハ其権ヲ行フコトヲ得ス、依テ此方法ハ採用セサルヲ良トス
 第三ノ方法即チ政府ト会社トノ合意契約ヲ以テ買収スルハ前陳ノ故障ナキ最モ穏当ナル道ナリ、即チ政府ハ予メ会社ト内協議ヲ為シテ仮条約ヲ結ヒ(其条約文中ニ本条約ハ議会ノ協賛ヲ経テ勅裁ヲ得タル後始メテ有効トストノ一条ヲ置ク)此仮条約ヲ以テ一定ノ金額又ハ公債額ノ募集ヲ議会ニ請求スルモノニシテ、欧陸諸国ニ於ケル普通ノ私設鉄道買上ノ方法是レナリ、然レトモ議会開設ノ日既ニ切迫シタル今日ニ於テ政府ト私設鉄道会社ト内協議ヲ始メ契約書按ヲ草シテ之ニ示シ会社ヲシテ株主ニモ相談セシメ、且ツ日限ヲ定メテ諾否ノ回答ヲ為サシムルハ実際行ハレ難キノ虞アルモノトス
 前記三方法ノ内第一項ヲ採用スレハ別紙(第二号)ノ私設鉄道買収条例甲案ノ制定ヲ要シ、若シ第三項ヲ採用スルヲ得ル時ハ別紙(第三号)乙案ノ制定ヲ要スベシ、何レニシテモ買収ノ価格ヲ定ムルハ実際最モ紛雑困難ナル事項ナルヘク、現ニ其株式ハ其払込高ヨリ遥カニ低落セルモノアルヲ以テ是等ハ其時価ト略相斉シキ価格ヲ以テ買収スルヲ適当ナリトスルノ論アルベシト雖モ、一旦買収ノ議ヲ決セラルルニ於テハ株式ノ価格ハ昇騰スヘキニ付大体鉄道ヲ国有トスルノ主義ヲ確定シタル上ハ是等モ払込価格迄ハ支払ノ決意ナカル可ラス、要スルニ買収スヘキ線路ハ即チ布設スル価値アリト認定スルモノナルヲ以テ新タニ布設スルト同一ノ費額マデハ之ヲ支出スルモ敢テ不当ノコトニ非ルヘシ
 - 第19巻 p.677 -ページ画像 
 目今迄ニ布設ノ許可ヲ得タル私設会社ノ総数ハ十七ナレトモ、其内日本鉄道会社ハ特別ノ保護アリ、水戸鉄道会社ハ既ニ日本鉄道会社ニ其財産ヲ売渡シ解社セントスルニ際セリ、甲信・総武・豊州・参宮ノ四鉄道会社ハ未タ布設ヲ起工セサルカ又ハ僅ニ著手セントスルノミ、又北海道炭礦鉄道ハ炭礦事業ト鉄道ト合併セルノミナラス北海道ニ於テハ殖民政略トノ関係アル等一種特色ノモノタリ、而シテ阪堺・伊予ノ両鉄道ハ全ク一小局所ノ運輸ニ供スル目的ノモノニシテ規模狭小ナリ、是等ノ事由アルヲ以テ以上九会社ハ姑ク之ヲ除キ其余ノモノ即チ山陽・九州・大阪・関西・両毛・甲武・讃岐・筑豊興業ノ八私設鉄道会社ノ鉄道財産ヲ買収スルト仮定シ、現今マテニ株主ノ払込タル資金及社債金ヲ概算スルニ合計金二千二百万円(別表第四号ノ如シ)ニシテ、其線路ハ不日開業スヘキ分ヲ合セ延長五百十哩ナリトス、而シテ其営業上収支ノ計算ハ何分開業後日尚浅キヲ以テ確実ナル見込ヲ立ルコト難シト雖モ、総体ヲ合併統一シテ営業スルモノトシ、之ヲ概算スルニ凡後段ニ掲ルカ如シ
 日本鉄道会社ノ線路ハ東北ノ縦貫線ニシテ重要ノ位置ヲ占ムルモノナレハ国有ニ移スノ必要アルハ勿論今ニシテ早ク買収ノ処分ヲ施ササレハ将来福島近傍ヨリ山形・秋田ヲ経テ青森ニ聯絡スル線路、若クハ其他同社ノ線路ニ聯絡スル鉄道ヲ延長布設スルニ随ヒ、之カ為メニ生スル同社利益ノ増加ハ唯手ヲ拱シ枕ヲ高フシテ之ヲ収得シ、益買収シ難キニ至ルヘシ、依テ買収スルモノトシテ考フルニ同社ハ特別ノ保護アルヲ以テ従来其純益配当概ネ一割乃至其以上ニ達スルニ付株金払込額ヲ以テ買収スルカ如キハ固ヨリ株主ノ応諾スル所ニ非ルヘシト雖モ、其特別ノ保護ハ全線ノ通算法ニ非スシテ五区各別ノモノトシ、最モ会社ニ利益多キノ規定ニ依ルヲ以テ近来輿論ノ之ヲ攻撃スルモ亦此点ニアリ、特許条約ハ政府ヨリ破毀スルノ理由ナキハ無論ナルヘキモ会社ノ前途ヲ熟考スレハ徳義上ニ於テ会社カ此輿論攻撃ノ衝ニ当ルハ頗ル苦慮スヘキコトニシテ、且ツ今ヤ青森迄全線竣功シタルヲ以テ従前ニ比シ補給ヲ受クヘキ資金ハ増加シテ全体ノ資金額凡三分ノ二ニモ当ルヘキカ故ニ純益配当ノ割合自然減少セサルヲ得ス、又保護金ハ年限アルモノナレハ若シ払込額以上ニテ相当ノ価格ヲ定ムルヲ得ル時ハ或ハ売却スルノ合意ヲナスニ至ルヘキ歟、今仮リニ此価格ヲ予定セムニ会社株式五十円払込ノモノヲ金八十円(五十円ニ対スル八分ノ利子ト八十円ニ対スル五分ノ利子トハ同ク金四円トナルカ故ニ此ノ如ク予定セリ)ノ価格トスレハ総額金千八百万円ノ払込額ハ金二千八百八十万円ヲ以テ買収スルヲ得ヘシ、此外日光支線及此回同社ガ買受ケントスル水戸線等ヲ合併スレハ大略金三千万円ヲ払渡スモノトスレハ大差ナカルヘシ、此買収資金ニ対シ政府カ得ル所ハ今後十五年間会社ニ交付スヘキ補給金凡一千万円(一ケ年凡金七十万円ノ割)ト営業上ノ純益金毎年凡金百万円ニシテ此純益ハ幾分カ逓増ノ見込アルヘキニ付、三千万円ハ巨額ナルカ如キモ敢テ政府ノ損失ヲ生スルニ至ラサルヘシ
 鉄道拡張ノ為メニ第一期ニ起工スル布設費及私設鉄道買収費ヲ支弁スルカ為メニ募集ヲ要スル資金総額ハ金五千七百万円ナリト雖モ、
 - 第19巻 p.678 -ページ画像 
新線布設ニ要スル資金ハ漸次募集スルモノナレハ先初年ニ支出スヘキ金額ハ私設鉄道ノ買収ニ要スル金二千二百万円ト新線敷設ニ要スル金五百万円ト合計金二千七百万円ニシテ、爾後六箇年間毎年金五百万円ノ支出ヲ要スルモノトス、而シテ現在官設線ノ純益金ハ悉皆之ヲ鉄道ニ関スル国債利子ノ支払ニ充ツルモノトシ、之ニ買収スル私設線路及新設スヘキ線路ノ漸次開業スルモノヨリ生スル純益金ヲ加ヘ国債利子ト収支ノ概略ヲ予計スルニ凡左表ノ如シ
  但シ日本鉄道ハ買収予算ニ加ヘス、故ニ同社ト合意ノ協議ヲ遂ケ買収スルヲ得ルトキハ、国債ノ総額随テ増加スルト雖モ、前述ノ通リ別ニ国庫ノ損失ヲ生セサルヲ以テ此収支ニ直接ノ影響ナシトス
       収入之部

 年次   既設官線純益      新設線純益     買収線純益       合計
             円         円         円          円
 初年  二、〇〇〇、〇〇〇        ナシ   六〇六、九〇〇  二、六〇六、九〇〇
 二年  二、〇二〇、〇〇〇        ナシ   六一二、九六九  二、六三二、九六九
 三年  二、〇四〇、二〇〇   一五三、三七五   六一九、〇九九  二、八一二、六七四
 四年  二、〇六〇、六〇二   三〇八、二八四   六二五、二九〇  二、九九四、一七六
 五年  二、〇八一、二〇八   四六四、七四二   六三一、五四三  三、一七七、四九三
 六年  二、一〇二、〇二〇   六二二、七六四   六三七、八五八  三、三六二、六四二
 七年  二、一二三、〇四〇   七八二、三六七   六四四、二三七  三、五四九、六四四
 八年  二、一四〇、二七〇   九四三、五六六   六五〇、六七九  三、七三八、五一五
       支出之部
 年次   旧鉄道公債利子     新鉄道公債利子      合計    差引 超過+ 不足-
             円          円          円          円
 初年  一、一〇〇、〇〇〇  一、三五〇、〇〇〇  二、四五〇、〇〇〇  + 一五六、九〇〇
 二年  一、一〇〇、〇〇〇  一、六〇〇、〇〇〇  二、七〇〇、〇〇〇  -  六七、〇三一
 三年  一、一〇〇、〇〇〇  一、八五〇、〇〇〇  二、九五〇、〇〇〇  - 一三七、三二六
 四年  一、一〇〇、〇〇〇  二、一〇〇、〇〇〇  三、二〇〇、〇〇〇  - 二〇五、八二四
 五年  一、一〇〇、〇〇〇  二、三五〇、〇〇〇  三、四五〇、〇〇〇  - 二七二、五〇七
 六年  一、一〇〇、〇〇〇  二、六〇〇、〇〇〇  三、七〇〇、〇〇〇  - 三三七、三五八
 七年  一、一〇〇、〇〇〇  二、八五〇、〇〇〇  三、九五〇、〇〇〇  - 四〇〇、三五六
 八年  一、一〇〇、〇〇〇  二、八五〇、〇〇〇    三九五、〇〇〇  - 二一一、四八五
        備考

  既設官線ノ純益ハ凡一ケ年ニ付金二百万円ナレトモ、私設線買収及新設線開業ノ為メニ、一ハ運輸収入ヲ増加シ、一ハ営業諸費ヲ省減スルヲ得ヘキヲ以テ、其純益ハ第二年ヨリ一ケ年ニ付百分ノ一ツヽ逓増スル見込ナリトス
  新設線ハ第二年ニ幾分カ運輸開業ニ至ルヘキモ収支差引ノ上純益ヲ得ルハ第三年ニ始マルノ見込ニシテ、其純益ハ平均一ケ年ノ開業哩数即チ百二十四哩ノ布設ニ要スル資金五百十一万二千五百円ニ対スル百分ノ三ト予算シ、此純益モ既設官線ノ如ク毎年百分ノ一ツヽ逓増スル見込ナリ
   但八王子甲府間即チ中央線ハ仮ニ収支相償ニ止マリ純益ヲ生セサルモノトセルカ故ニ、此純益計算中ニ加入セス、是レ本項ニ於テ一ケ年開業哩数ヲ百二十四哩ト減算セシ所以ナリ、又軍用
 - 第19巻 p.679 -ページ画像 
停車場設備ノ工費モ無論純益計算中ヨリ之ヲ控除セリ
  買収線ノ純益ハ総延長五百十哩ノ収入総額ヲ金百六十七万五千三百五十円、即チ平均一哩ニ付金三千二百八十五円トシ、営業費総額ヲ金百六万八千四百五十円、即チ一哩ニ付金二千九十五円ト算出シタリ、而シテ此純益モ既設官線ノ如ク一ケ年百分ノ一ツヽ逓増スルノ見込ナリ
  旧鉄道公債ト称スルモノハ中山道鉄道公債及鉄道補充公債ニシテ即チ既設官線ニ附帯スル公債ナルカ其利子ハ前者百四十万円後者十万円ナレトモ前者ノ分一ケ年七分ヲ五分ニ整理シ得ルモノト予計シ利子総額ヲ金百十万円ト算セリ、故ニ若シ依然七分ノ利子ヲ支払フモノトスレハ一ケ年ニ付金四十万円ノ差ヲ生スヘシ
  新設鉄道公債ト称スルモノハ今後募集ヲ要スル総額金五千七百万円ニシテ、初年ハ買収ノ用ニ供スル金二千二百万円ト新線布設費ニ充ル金五百万円トシテ合計金二千七百万円トシ、二年ヨリ七年迄新線布設ノ為メニ年々金五百万円ヲ増募スルモノトシテ其利子ヲ計算セリ
 本表ノ如ク実施スルヲ得レハ初年ハ鉄道純益ヲ以テ公債ノ利子ヲ支払ヒタル上尚金十五万六千九百円ノ余剰アリ、二年ヨリハ之ニ反シテ毎年不足ヲ生シ、八年迄ノ分ヲ加算スレハ金一百六十三万千八百八十七円ノ不足ニシテ差引金百四十七万四千九百八十七円ノ不足ヲ生スル割合ニシテ、十三年目マテニハ尚凡金五十万円ノ不足アル割合ナレトモ、十四年目ニ至レハ純益ハ公債利子ヲ支払ヒタル上幾分ノ残余アルヘキ額ニ達シ、其後尚逓増スルトキハ年々超過余剰アルヘキノミナラス既設官線ノ如キ往年ノ実験ニ拠ルモ世上一般ノ商況活溌ナルトキハ其純益金二百二三十万円ニ上ルコトアリシニ拘ハラス、収益ハ力メテ多キニ過キサルノ意ヲ以テ予算シタルカ故ニ、実際ニハ全ク鉄道純益ヲ以テ公債ノ利子ヲ悉皆支払ヒ得ルノ好結果ヲ得ルモ亦未タ知ル可ラストス
 鉄道国有ノ議ヲ決セラルルニ於テハ差向キ私設鉄道条例ヲ改正スルノ必要アルハ別ニ詳説ヲ竢タス、依テ別紙(第五号)改正案ヲ調製シテ玆ニ添付セリ
 終リニ臨ミ尚一言セムト欲スルコトアリ、他ナシ果シテ私設鉄道ヲ買収シ同時ニ拡張布設ニ著手スルモノトスレハ、其業務タル固ヨリ頗ル巨大ナルヲ以テ煩冗遅緩ノ弊ヲ避ケ簡易敏捷ノ利ヲ謀リ、力メテ事業ノ活用ヲ発達スルノ必要ハ今日ニ倍蓰スルヲ以テ現行鉄道庁ノ組織ハ勿論会計上其他ノ規定ニモ多少変更ヲ要スルモノアルヘシ是等ハ本議高裁ヲ経ル上ハ著々之ヲ調査具申スヘシ
 以上開陳スル所ハ鉄道ヲ国家ノ事業トシテ漸次全国ニ普及セシメ、其利用ヲ完全ナラシムルニ緊要ナル条件ニシテ実ニ永遠ノ大計ヲ確定セムトスルモノナレハ、玆ニ別紙五通ヲ付シ進達スルニ付深ク其得失ヲ窮メ高裁アランコトヲ請フ
  明治二十四年七月    鉄道庁長官 子爵 井上勝
  〔別紙〕
  第一号
 - 第19巻 p.680 -ページ画像 
    官設鉄道拡張ニ関スル法律案
 第一条 日本帝国鉄道ノ幹線ヲ完成スル為メ政府ハ明治二十五年度ヨリ七年間ヲ期シテ左記ノ鉄道ヲ布設シ及軍用停車場ヲ設備スヘシ
  第一 神奈川県下八王子ヨリ山梨県下甲府ニ至ル鉄道
  第二 広島県下三原ヨリ山口県下下ノ関ニ至ル鉄道
  第三 佐賀県下佐賀ヨリ佐世保港ニ至ル鉄道
  第四 日本鉄道会社鉄道白河仙台間線路ヨリ山形県下山形秋田県下秋田ヲ経テ青森県下青森ニ至ル鉄道
  第五 官設敦賀線ヨリ福井県下福井石川県下金沢ヲ経テ富山県下富山ニ至ル鉄道
  第六 新潟県下直江津ヨリ新発田ニ至ル鉄道及本線ヨリ岐レテ新潟若クハ其近傍ニ至ル鉄道
  第七 既成官私設線ニ係ル軍事専用ノ停車場及其接続支線
 第二条 第一条ノ費用ニ充ツル為メ鉄道公債三千五百万円ヲ限リ七ケ年以内漸次公債証書ヲ発シテ之ヲ募集スルモノトス
 第三条 鉄道公債利子ノ割合ハ一ケ年百分ノ五トス
 第四条 鉄道公債ニ関シ本法ニ規定ナキモノハ総テ明治十九年勅令第六十六号整理公債条例ニ依ル
 第五条 鉄道公債ヲ以テ募集シタル金額ハ継続費トシテ七年度間ニ支出スルモノトス
  但毎年度ノ支出額ハ五百万円ニ前年度ノ支払残額ヲ加ヘタル高ヲ超過スルコトヲ得ス
  第二号
    私設鉄道買収条例(甲案)
 第一条 鉄道会社ニ於テ其所有ノ鉄道線路ヲ国ノ所有ニ移サンコトヲ請求スルトキハ政府ハ其会社ノ興業費支出額又ハ株券払込現額以内ノ金額ヲ以テ其鉄道及之ニ属スル一切ノ財産ヲ買収スヘシ
 第二条 前条ノ請求アルニ当リ既往三ケ年間ノ株券価格ヲ平均シテ払込現額ヲ超過スル為メ株券払込現額以内ノ金額ヲ以テ買収スルコトヲ得サルトキハ政府ト会社トノ協議ニ依リ買収価格ヲ定ム
 第三条 第一条ノ買収金額ニ充ツル為メ国債ヽヽヽ万円ヲ起ス
   此国債ハ公債証書ヲ発行シテ買収ヲ約シタル鉄道会社ノ株券ト交換スルモノトス
   但現金ヲ会社ニ払渡スノ必要アルトキハ募集スル事ヲ得
 第四条 第二条ノ買収金額ハ支出ノ必要アルニ当リ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ
  第三号
    私設鉄道買収条例(乙案)
 第一条 政府ハ左ニ掲クル鉄道会社ト特約ヲ結ヒ其会社ノ所有ニ属スル鉄道及付属物件ヲ買収スル為メ新ニ国債ヽヽヽ円ヲ起ス
   何々鉄道会社   何々鉄道会社
 第二条 前条ノ国債中ヽヽヽ万円ハ公債証書ヲ発行シテ左ニ価格ヲ示定シタル鉄道会社株券ト交換スルモノトス
 - 第19巻 p.681 -ページ画像 
   何々鉄道会社株券   ヽヽヽヽヽヽ円
   何々鉄道会社株券   ヽヽヽヽヽヽ円
   其他ノヽヽヽ万円ハ公債証書ヲ発行シ内国ニ於テ募集シヽヽヽノ費用ニ充ツルモノトス
 第三条 此国債利子ノ割合ハ一ケ年百分ノ五トス
 第四条 此国債ニ関シ本条例ニ規定セサル事項ハ総テ明治十九年勅令第六十六号整理公債条例ニ依ル
  第四号
    買収見込ノ鉄道会社株金払込額及興業費額調書

図表を画像で表示買収見込ノ鉄道会社株金払込額及興業費額調書

 社名       区間               哩数      株金払込額      社債             興業費額                               哩鎖          円           円               円 九州鉄道会社   門司、熊本 鳥栖、佐賀      一三六・六一  五、七〇〇、〇〇〇                  五、七〇〇、〇〇〇・〇〇〇 山陽鉄道会社   神戸、三原            一四七・六四  七、〇二〇、〇〇〇  一、一六四、〇〇〇・〇〇〇   六、九四六、五〇〇・九二五 讃岐鉄道会社   丸亀、琴平             一〇・一五    二八四、二五五     二八、七二一・一八五     二七六、一〇六・九〇五 両毛鉄道会社   小山、前橋             五二・一六  一、五〇〇、〇〇〇                  一、三七八、四四六・八八五 筑豊興業鉄道会社 若松、直方及飯塚、伊加里      三四・〇〇    五四二、二二五    二五〇、〇〇〇・〇〇〇     四二二、九八七・七七一 甲武鉄道会社   新宿、八王子            二二・七七    八一〇、〇〇〇                    七一四、五八四・二七七 大阪鉄道会社   湊町、桜井及奈良          三八・七二  二、〇〇〇、〇〇〇     五〇、〇〇〇・〇〇〇   二、〇五〇、〇〇〇・〇〇〇 関西鉄道会社   四日市、草津亀山、津 四日市、桑名 六七・〇四  二、七〇〇、〇〇〇                  二、七二八、五三八・九六三 計                         五〇九・六九 二〇、五五六、四八〇  一、四九二、七二一・一八五  二〇、二一七、一六五・七二六 



  第五号
    私設鉄道条例改正案〔略〕
鉄道庁長官ハ鉄道政略ニ関スル議ヲ建ルト同時ニ該建議ノ摘要並補遺トシテ一書ヲ提出シタリ、其要ニ曰、私設鉄道買収ニ係ル計算ノ要領ヲ摘記スレハ下ノ如シ、〔一〕私設鉄道会社総数十七ノ内日本鉄道会社ハ特別保護アルカ為別段ノ方法ニ拠リテ処分スルモノトシ、其他モ種々ノ事由アリテ買収見込ヨリ取除キタルモノ八会社アリ、依テ残余ノ八会社ニ係ル線路車輛等ノ財産ヲ悉皆買収スルモノトスレハ其資金総額凡金二千三十九万円ト為ル、是即チ買収価格トシテ仕払ヲ要スルモノトス、而シテ此財産ノ営業収支見込高ハ一箇年収入総額金一百七十七万三千五百三十五円、同支出総額金一百九万二千百七十八円ニシテ差引益金六十八万千三百五十七円ナリ、故ニ前記買収資金ノ利子ヲ五分トスレハ金三十三万八千百四十三円ハ利子補充トシテ仕払ヲ要スル年額ナリトス、而シテ鉄道庁ヨリ納入スル官設鉄道益金ハ凡金二百万円ノ年額ナルヲ以テ其内ヨリ中山道鉄道及鉄道補充両公債ノ利子合計金一百五十万円ヲ差引クモ其残額ハ右利子ノ補充ニ十分ナル見込アリ、〔二〕日本鉄道会社資本総額金一千八百万円ヲ一株八十円ノ割ニ引上ケ買収スルモノトスレハ此金二千八百八十万円ニシテ、外ニ日光線及水戸線モ同時ニ同会社ヨリ買収スルモノトスレハ其価格総計ハ凡金三千万円ヲ要スヘシ、而シテ之ニ対シテ政府ノ得ル所ハ凡金一千万円(今後十五箇年間会社ニ交付スヘキ補給利子)ト営業純益凡金一百万円ノ年額ニシテ即チ金一千万円ヲ差引キタル残額二千万円ニ対スル五分ノ利子ニ当レリ、故ニ政府ニ於テハ差引損失ナクシテ後年鉄道営業上逓増スル利益ハ全ク政府ノ所得トナルヘシ、〔三〕鉄道買収及新線敷設工費ニ充用スル資金ヲ鉄道公債トシテ募集スルニ当リ下ノ如キ
 - 第19巻 p.682 -ページ画像 
二方法ヲ用ヰルモノトセハ仮令利子ノ定率ハ低キモ応募者ヲ増加スルノ効果アリテ或ハ便利ナルヘシト思考セラルルヲ以テ参考ノ為ニ玆ニ附記ス、其一鉄道公債ノ利子ハ一箇年百分ノ四トス、但シ鉄道公債ヲ以テ募集シタル資金ハ之ヲ私設鉄道買収及新線路敷設費ニ充用スルヲ以テ是等財産ヨリ生スル益金資本ニ対シ一箇年百分ノ四ヲ超過スルトキハ百分ノ七マテハ其超過額ヲ公債所有者ニ配当スヘシ、其二前項ノ益金一箇年分百分ノ七ヲ超過スルトキハ其超過額ヲ以テ元金ノ償還ニ充ツヘシ、〔四〕若シ本議ヲ採用セラレ全国ノ基本線ヲ挙ケテ国家的事業ト為スノ方針ヲ定ムルニ於テハ之ヲ一時ノ政略タラシメズ、永久不抜ノモノトシ其施行順序等ハ法律ヲ以テ之ヲ制定シ政海ノ波瀾ヲ鉄道事業ニ及ホス無カラシメンコトヲ要スヘシ、而シテ鉄道事業中重要ナル事項ハ軍務・財政ノ如キ鉄道ニ関係アル要路ノ人々ヲ以テ組成シタル鉄道会議ナルモノヲ設ケ其裁決ヲ経テ施行スルコトニ定メ其他日常普通ノ事務ハ鉄道専任ノ当局者ニ於テ処理決行スルモノトセハ可ナラント思考ス、〔五〕会計上ノ規定モ現行ノママニテハ計算ノ結果ヲ世界一般ノ鉄道事務者ニ示スモ或ハ解決シ得ザルモノアルヲ免レザルカ故ニ、之ヲ鉄道事業ニ適合ス如ク修正スルヲ要スヘシ、〔六〕全国ニ渉ル基本線ヲ国家的事業トシテ政府自ラ経営スル以上ハ、将来私設ヲ許スヘキ鉄道ハ全ク一小局部特別ノ用ニ供スルモノニ限ルヘキヲ以テ、私設鉄道条例ノ如キハ此主義ニ背馳セザル如ク修正スルヲ要スヘシ、〔七〕私設鉄道買収ノ議ヲ決セラルルニ於テハ買収ニ関スル順序方法ヲ調査制定シ実際施行ニ支障ナカラシムルノ準備ヲ必要トス、然ルニ此コトタル財政及法制上ニ大ナル関係ヲ有シ、独リ鉄道庁ノミ其調査ノ任ニ当リ難キカ故ニ実行ノ内決アルニ至ラハ速ニ大蔵省・法制局等ヨリ選定シテ委員ヲ設ケ之カ調査ニ従事セシメ、且ツ帝国議会ニ提出スヘキ議案ノ如キモ併セテ調製セシムルハ最モ緊要ナルヘシト
明治二十四年十一月十八日、品川内務大臣ハ鉄道庁長官ノ提議ニ係ル第一号案・第二号案ニ修正ヲ加ヘ、之ヲ新鉄道公債法案・私設鉄道買収法案トシ左ノ如ク閣議ヲ請ヘリ
      鉄道政略ニ関スル件
 鉄道政略ニ関シ別紙ノ通鉄道庁長官ヨリ上申有之、依テ之ヲ稽査スルニ抑モ鉄道ハ軍事上、経済上其他百般ノ関係ニ於テ国有ヲ得策トスルハ今更贅弁ヲ要セサルノミナラス今ノ時ニ当リ大ニ鉄道ヲ拡張シ国内枢要ノ地ハ此利器ヲ以テ之ヲ連絡シ、兼テ又現ニ私立会社ノ経営ニ係ル縦貫鉄道ヲ国有ニ移シ、以テ其効用ヲ完成セシムルハ最モ須要ノ事項ナリトス、依テ該庁提出ニ係ル第一号法案及第二号法案共ニ其大体ニ於テ採用スヘキモノトシ、而シテ其第二号法案タル鉄道ノ買収ヲ実行スルノ方法ニ就キ考量スルニ法律ヲ以テ強制ノ買上ヲナスハ其法最モ簡便ナルカ如シト雖モ、之カ実行ハ容易ノ業ニアラサルノミナラス政府ハ公義上非難ヲ免レ難キ所尠ナカラサルハ既ニ該庁提議ニ詳悉スルカ如シ、故ニ此ノ方法ハ到底之ヲ排斥セサルヲ得サルモノトシ、而シテ合意ヲ以テスル二様ノ方法ニ就キ其得失ヲ考フルニ第三方案タル協議買上ハ妥当ハ則チ妥当ナリト雖モ徒ラニ時日ト煩労トヲ増シ、容易ニ協議ノ決定ヲ得ルコト能ハサルヲ
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以テ此方法ハ之ヲ実施スルニ困難ナルノミナラス或ハ之ヲ実施スルノ日ナカラントス、要スルニ会社ノ請求ヲ待テ買上ルノ前二者ノ短所ナキニ若カサルヲ信ス、依テ鉄道庁起草ニ係ル第一号法案及第二号法案ハ大体之ヲ採ルヘキモノトシ、其条目ニ至リテハ理勢ト便宜トニ従ヒ、多少修正ヲ加ヘ即別紙天号新鉄道公債法、地号私設鉄道買収法ヲ以テ確定セラレンコトヲ欲ス
 将タ又私設鉄道条例改正ノ件ハ其改正ヲ要スル各条ニ就キ之ヲ案スルニ其第一条ノ如キハ纔ニ現行条例第一条ヲ解明スルニ過キス、夫ノ礦山製造其他工業用等ニ供スル鉄道ニシテ一般運輸営業ヲ兼ネルモノノ如キハ現行条例ノ下ニ在リテ尚ホ之カ布設ヲ見ルヲ得ヘク、其第二条乃至第四条ノ如キハ他日商法ノ実施ト共ニ勢ヒ変更ヲ来スヘク第三十五条・第三十六条・第三十七条ノ追加ノ如キハ之ヲ免許状ニ掲クルモ尚ホ同一ノ効ヲ保ツヘク、其条項ニ至リテモ多クハ現行条例ノ範囲内ニ於テ処理シ得ヘキヲ以テ此際殊更ニ之カ改正ヲナスヲ必要トセサルナリ
 依テ参考ノ為メ鉄道庁ノ意見書ヲ付シ玆ニ閣議ヲ請フ
  明治二十四年十一月十八日 内務大臣 子爵 品川弥二郎
  〔別紙〕
    天号 新鉄道公債法〔略〕
    地号 私設鉄道買収法〔略〕
該請議ノ件ハ閣議之ヲ可決シタルモ新鉄道公債法案ニ修正ヲ加ヘ、即チ公債三千五百万円ヲ十箇年間ニ募集スルノ原案ナリシヲ三千六百万円ヲ九箇年間ニ募集スルモノトシ、又私設鉄道買収法ハ内務大臣請議案ノ主義ヲ変シテ鉄道会社ノ請求ヲ待タズ直ニ協議ヲ以テ買収スルモノトシ、十二月十四日ヲ以テ左ノ二法案ヲ第二回帝国議会ニ提出シタリ
      鉄道公債法案
 第一条 鉄道公債ハ左ニ記載スル鉄道ヲ敷設シ並ニ軍用停車場及其接続支線ヲ設備スル費用ニ充ツル為メ三千六百万円ヲ限リ明治二十五年度ヨリ九箇年間ニ漸次募集スルモノトス
  一 神奈川県八王子ヨリ山梨県甲府ニ至ル鉄道
  一 広島県三原ヨリ山口県下ノ関ニ至ル鉄道
  一 佐賀県佐賀ヨリ長崎県佐世保ニ至ル鉄道
  一 日本鉄道会社鉄道白河仙台間線路ヨリ山形県山形秋田県秋田ヲ経テ青森県青森ニ至ル鉄道
  一 官設鉄道敦賀線路ヨリ福井県福井石川県金沢ヲ経テ富山県富山ニ至ル鉄道
  一 新潟県直江津ヨリ新発田ニ至ル鉄道及本線ヨリ分岐シテ新潟若クハ其近傍ニ至ル鉄道
  一 既成官私設鉄道ニ要スル軍用停車場及其接続支線
 第二条 此公債ノ利子ハ一箇年百分ノ五トス
 第三条 此公債ニ関シ本法ニ規定ナキモノハ総テ明治十九年勅令第六十六号整理公債条例ニ依ル
 第四条 此公債ヲ以テ募集シタル金額ハ継続費トシテ明治二十五年
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度ヨリ九箇年間ニ支出スルモノトス
      私設鉄道買収法案
 第一条 凡テ公共ノ用ニ供スル鉄道ハ国ノ所有トスルノ必要ヲ認ムルニ依リ既成私設ノ鉄道ハ第二条以下ノ方法ニ依リ其会社ト協議シテ漸次政府ニ買収スルモノトス
 第二条 私設鉄道ヲ政府ニ買収スルニハ其会社ノ興業費支出額又ハ株券払込現額ヲ超過セサル価格ヲ以テス
  鉄道会社ノ株券前三箇年間ノ価格ヲ平均シ其興業費支出額又ハ株券払込現額ヲ超過スルカ為メニ、前項制限ノ価格ヲ以テ買収スルコトヲ得サルトキハ政府ト会社トノ協議ニ依リ買収価格ヲ定ム
 第三条 私設鉄道買収ノ費用ニ充ツル為メ政府ハ五千万円ヲ限リ鉄道買収公債ヲ起スコトヲ得
  此公債ハ買収ノ都度之ヲ起シ公債証書ヲ発行シテ買収ヲ約シタル鉄道会社ニ其買収代価トシテ額面価格ヲ以テ之ヲ交付ス
 第四条 鉄道買収公債ノ利子ハ一箇年百分ノ五トス
 第五条 鉄道買収公債ニ関シ本法ニ規定ナキモノハ総テ明治十九年勅令第六十六号整理公債条例ニ依ル
以上両法案ハ二十四年十二月十七日衆議院ノ議ニ上リ鉄道公債法案ハ議員武富時敏外十七名ノ特別委員ニ附託セラレ私設鉄道買収法案亦議員松田正久外十七名ノ特別委員ニ附託セラレタリシカ、鉄道公債法案ハ特別委員会ニ於テ之ヲ否決スヘキモノトシ私設鉄道買収法案亦否決スヘキモノトセリ、而シテ私設鉄道買収法案ハ二十三日ノ議場ニ報告セラレタリシカ、特別委員中野武営委員長ニ代テ之カ否決ノ理由ヲ述ヘタリ、其要ニ曰、政府ハ屡々国有民有ノ方針ヲ変スルヲ以テ本案亦確定不動ノ方針ナリトハ信セズ、其必ス再ヒ民有ニ転スルノトキアルヘキヲ信ス、抑々原案ノ理由ニ依レハ私設鉄道ハ軍用ニ不便ナリト謂フモ有事ノ際ニ処センニハ徴発令ノ規定アリ、平時ニ在リテモ亦特別ノ法令アルヲ以テ不便ト謂フヲ得ズ、且ツ私設鉄道ハ収益寡ク維持困難ナリト謂フモ斯ル理由ニテ買収スルハ私設会社ヲ偏愛シテ一般国民ノ負担ヲ重クスルモノナリ、尚ホ国有民有相交錯スルハ不便ナリト謂フモ私設会社ニシテ買収ヲ甘諾セザル場合ニ於テ之ヲ強制スルコト能ハズトセハ此不便ハ依然トシテ除カレズ云々、翌二十四日ノ議場ニ於テ議員石田貫之助ハ特別委員会ノ否決ヲ賛シ本案ニ反対シ意見ヲ陳ヘテ曰、政府ノ本旨ハ鉄道ハ交通機関トシテ郵便電信ト同一ナルカ故ニ国有タルヲ要スト謂フニ在ルモ郵便電信ハ通信ノ秘密ヲ要素トシ鉄道ニハ此要素ナキヲ以テ同一ト見做スコト能ハズ、又国有民有ノ得失ヲ比較スルニ工事費、営業費共ニ民有ハ国有ヨリモ廉ニシテ貨客取扱亦民有ヲ優トス、且ツ政府ハ今年ニ至ルモ鉄道私設ヲ許可シツツアリ、是レ国有論ノ研究日尚ホ浅キヲ証明スルモノニシテ根拠未タ強固ナラズト謂フヘシ、又大蔵大臣ノ説明ニ拠レハ民有ノ純益ハ平均三分二厘ナリト謂フ、然ルニ発行公債ハ五分利ナレハ一分八厘ノ損失アリ、要スルニ買収ノ理由認メ難シト、斯テ議場ハ遂ニ本案ヲ否決シタリ、而シテ鉄道公債法案ハ未タ特別委員長カ其審査ノ報告ヲ為スニ至ラズシテ衆議院解散セラレタリ
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  ○明治二十五年五月七日政府ハ第三回帝国議会ニ再ビ鉄道公@法案及私設鉄道買収法案ヲ提出シタリ。サレド特別委員会ノ審査ニ附サレタル結果右二案ハ否決サレ、之ガ修正案トシテ立案セル鉄道敷設法案ヲ議場ニ報告シタリ。該案ハ多数ノ賛成ヲ得テ可決サレ、同年六月二十一日法律第四号鉄道敷設法公布セラレタリ。
   詳細ハ「日本鉄道史」(上篇第九五三―九六三頁 大正十年八月刊)参照。

渋沢栄一伝記資料 第十九巻 終