デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第20巻 p.552-560(DK200058k) ページ画像

明治28年1月12日(1895年)

是日栄一当会議所会頭トシテ、先ニ当会議所ヨリ第三回商業会議所聯合会ヘ提案セシ商法修正ノ件ヲ、農商務大臣子爵榎本武揚・司法大臣芳川顕正ニ建議シ、且ツ貴族院議長蜂須賀茂韶・衆議院議長楠本正隆請ニ請願ス。


■資料

第四回東京商業会議所事務報告 第三―八頁 明治二八年四月刊(DK200058k-0001)
第20巻 p.552-559 ページ画像

第四回東京商業会議所事務報告  第三―八頁 明治二八年四月刊
一商法修正ノ儀ニ付農商務、司法両大臣ヘ建議及ヒ貴族・衆議両院ヘ請願ノ件
 本件ハ本会議所ヨリ第三回商業会議所聯合会ヘ提案シ同会ノ議決ヲ経タルモノニ係リ、其要旨ハ、現行商法ノ規定中実際ニ適セザル条項アルニ付、各商業会議所ヨリ其修正方ヲ農商務・司法両大臣ヘ建議シ、且ツ貴族・衆議両院ヘ請願スベシト云フニ在リ、依テ之ヲ同年 ○明治二七年九月十八日第三十八回ノ臨時会議ニ附シタルニ、全会ノ可決ヲ得タルニ付、明治二十八年一月十二日附ヲ以テ左ノ如ク榎本農商務大臣及ヒ芳川司法大臣ニ建議シ、且ツ蜂須賀貴族院議長及ヒ楠本衆議院議長ヘ請願シタリ(本件ノ処分ハ明治二十八年ニ渉ルト雖トモ便宜ヲ以テ玆ニ連記ス)
    商法中修正ヲ要スル儀ニ付建議
明治二十六年三月四日法律第九号ノ結果ニヨリ商法及商法施行条例中ニ改正ヲ加ヘラレ、商法第一編第六章、第十二章及第三編並ニ商法施行条例中ノ数ケ条ハ同年七月一日ヨリ施行セラレタルカ、爾来本会議所ノ実地ニ就テ経験スル所ニ拠レハ右施行ノ部分中我国商業ノ現状ニ適応セスシテ当業者ノ大ニ不便ヲ感スルノ条項少シトセス、依テ本会議所ハ玆ニ其中差向修正ヲ必要ト信スルモノ数ケ条ヲ調査シ、別紙ノ通リ修正案ヲ具シテ以テ閣下ニ上呈ス、仰キ願ハクハ閣下本会議所ノ意見ヲ採納セラレンコト切望ノ至リニ堪ヘス、此段本会議所ノ決議ニ依リ建議仕候也
  明治二十八年一月十二日
            東京商業会議所会頭 渋沢栄一
    農商務大臣 子爵 榎本武揚殿
                   (各通)
    司法大臣     芳川顕正殿
   帝国議会ヘノ請願書ハ右ノ中建議ノ文字ヲ請願ト改メ、閣下ヲ貴院ト改ムル外全ク同文ナルニ付之ヲ略ス
(別紙)
    商法修正案
 (一)財産目録及貸借対照表ノ調成ニ関スル規定ノ修正
   第三十二条(第二項)中総テノ財産ニノ下「価直ヲ附ス其価直ハ」ノ九字ヲ加ヘ市場価直ノ下「ヲ附ス」ノ三字ヲ「ニ超過スルコトヲ得ズ」ノ十字ニ改ム
  (理由)商法第三十二条第二項ニ「財産目録及ヒ貨借対照表ヲ作ルニハ総テノ商品・債権及ヒ其他総テノ財産ニ当時ノ相場又ハ
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市場価直ヲ附ス」トアリテ、此規定ニ拠ルトキハ各商人又ハ会社カ財産目録及ヒ貸借対照表ニ掲記スル財産ニハ其種類ノ何タルヲ問ハス必ス当時ノ相場又ハ市場価直ヲ附セサルヘカラサルカ如シ、然ルニ例ヘハ株式又ハ債券ノ如キ常ニ市況ノ冷熱ニヨリテ其価格ノ高低定マラサル財産ヲ掲記スルニ当リ、必ス当時ノ相場又ハ市場価直ヲ目安トシテ其価額ヲ表示スレハ、其相場又ハ価直ノ騰貴スル時ハ仮令ヒ営業上損失アルモ貸借表ニハ意外ノ利益ヲ生スルヲ以テ、会社ノ如キハ一時株主ノ歓心ヲ得ンカ為メ悉ク之ヲ配当シテ他日ノ低落ニ備ヘサル弊ヲ生スルノ恐アリ、是豈確実ノ計算法ナランヤ、蓋シ此規定ハ畢竟各商人又ハ会社カ財産ニ過当ノ価直ヲ附シ以テ資産ヲ実価以外ニ誇示スルノ弊害ヲ予防スルノ精神ニ外ナラスシテ、計算ヲ確実ナラシメンカ為メ其価直ヲ低度ニ見積ルコトノ如キハ決シテ之ヲ禁遏スルノ趣旨ニアラサルヘシ、果シテ然ラハ財産目録及ヒ貸借対照表ニ掲記スル財産ノ価直カ当時ノ相場又ハ市場価直ニ超過セサル限リハ之ヲ低度ニ見積ルノ余地ヲ設クルハ最モ策ノ得タルモノト信ス、是本条ノ修正ヲ必要トスル所以ナリ
 (参照)
 第三十二条(第二項)財産目録及ヒ貸借対照表ヲ作ルニハ総テノ商品・債権及ヒ其他総テノ財産ニ当時ノ相場又ハ市場価直ヲ附ス、弁償ヲ得ルコトノ確ナラサル債権ニ付テハ其推知シ得ヘキ損失額ヲ控除シテ之ヲ記載シ、又到底損失ニ帰ス可キ債権ハ全ク之ヲ記載セス
 (二)株式会社ノ発起及設立ノ認許ニ関スル規定ノ廃止
 第八十一条ヲ第七十条ニ、第八十二条ヲ第七十一条ニ改メ、第七十条以下第八十条マテ順次二条ツヽ繰下ク
 第百五十六条中七人以上ノ下「ヲ以テシ且政府ノ免許ヲ得ル」ノ十三字ヲ削ル
 第百五十九条 削除
 第百六十条中発起人ハノ下「前条ノ認可ヲ得タルトキハ」ノ十二字ヲ削リ其公告中ニハノ下「法律ニ規定シタル云々以下ノ末文」ヲ「各株式申込人ニ仮定款ヲ展閲セシムル旨ヲ附記ス」ニ改ム
 第百六十六条 削除
 第百六十七条中「会社設立ノ免許ヲ得」ノ九字ヲ「創業総会ヲ終リ」ノ七字ニ改ム
 第百六十八条中「及ヒ設立免許書」ノ七字及第八号ヲ削リ「第九」ヲ「第八」ニ改ム
 第百七十条 削除
 第二百五条中「然レトモ以下ノ末文」ヲ削ル
 第二百十一条 削除
 第二百二十二条中「設立免許書」ノ五字ヲ削ル
 第二百二十七条 削除
 第二百三十四条中各株主ニ通知ノ下「シ且地方長官ヲ経由シテ主務省ニ届出ツルコトヲ要ス」ノ二十四字ヲ「スルコトヲ要ス」ノ七
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字ニ改ム
 第二百五十五条(第二項) 削除
   (理由)現行商法ノ規定ニ拠レバ合名・合資会社ハ多額ノ資本ヲ以テ大事業ヲ営ム者ニテモ行政官庁ノ干渉ヲ要セズシテ随意ニ之ヲ発起設立シ得ルニ拘ハラズ、株式会社ニ至リテハ仮令其資本極メテ小額ナリトスルモ之ヲ発起設立スルニハ必ズ行政官庁ノ認許ヲ請ハサル可カラス、而シテ若シ偶々不認可・不免許トナルニ際シテハ全ク之ヲ抗告スルノ途ナクシテ、之ヲ要スルニ此規定ハ株式会社ヲシテ啻ニ無用ノ手数ト費用トヲ負担セシメ、其極遂ニ折角発達セントスルノ事業ヲ阻碍スルノ恐アリ、夫レ合名・合資会社ト云ヒ株式会社ト云ヒ均シク共同シテ商業ヲ営ム者ナリ、然ルニ其行政監督上二者ノ間ニ斯ノ如キ寛厳ノ区別ヲ附スルハ啻其権衡ヲ得タル者ナランヤ、故ニ株式会社モ合名・合資会社ト同シク全ク其監督ヲ裁判所ニ一任スル者トシ以テ之ヲシテ行政上無用ノ干渉ヲ免カレシムルヲ至当トス、是前記ノ修正ヲ必要トスル所以ナリ
  (参照)
 第八十一条 会社ハ登記前ニ事業ニ着手スルコトヲ得ス、之ニ違フトキハ裁判所ノ命令ヲ以テ其事業ヲ差止ム、但其命令ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得
 第八十二条 会社其登記ノ日ヨリ六ケ月内ニ事業ニ着手セサルトキハ其登記及ヒ公告ハ無効タリ
 第百五十六条 株式会社ハ七人以上ヲ以テシ、且政府ノ免許ヲ得ルニ非サレバ之ヲ設立スルコトヲ得ス
 第百五十九条 発起人ハ会社ヲ設立ス可キ地ノ地方長官ヲ経由シテ目論見書及ヒ仮定款ヲ主務省ニ差出シ、発起ノ認可ヲ請フコトヲ要ス
 第百六十条 発起人ハ前条ノ認可ヲ得タルトキハ目論見書ヲ公告シテ株主ヲ募集スルコトヲ得、其公告中ニハ法律ニ規定シタル発起ノ認可ヲ得タル旨、及ヒ其認可ノ年月日ト各株式申込人ニ仮定款ヲ展閲セシムル旨トヲ附記ス
 第百六十六条 創業総会ノ終リシ後発起人ハ地方長官ヲ経由シテ主務省ニ会社設立ノ免許ヲ請フ、其申請書ニハ左ノ書類ヲ添フヘシ
   第一 目論見書及ヒ定款
   第二 株式申込簿
   第三 発起ノ認可証
 第百六十七条 会社設立ノ免許ヲ得タルトキハ発起人其事務ヲ取締役ニ引渡ス可シ
  取締役ハ速ニ株主ヲシテ各株式ニ付キ少ナクトモ四分一ノ金額ヲ会社ニ払込マシム
 第百六十八条 会社ハ前条ニ掲ケタル金額払込ノ後十四日内ニ目論見書・定款・株式申込簿及ヒ設立免許書ヲ添ヘテ登記ヲ受ク可シ登記及ヒ公告ス可キ事項ハ左ノ如シ
   第一 株式会社ナルコト
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   第二 会社ノ目的
   第三 会社ノ社名及ヒ営業所
   第四 資本ノ総額、株式ノ総数及ヒ一株ノ金額
   第五 各株式ニ付払込ミタル金額
   第六 取締役ノ氏名・住所
   第七 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期
   第八 設立免許ノ年月日
   第九 開業ノ年月日
  裁判所ハ会社ヨリ差出シタル書類ヲ登記簿ニ添ヘテ保存ス
 第百七十条 設立ノ免許ヲ得タル後遅クトモ一ケ年内ニ登記ヲ受ケザルトキハ其免許ハ効力ヲ失フ、第八十一条及ヒ第八十二条ノ規定ハ株式会社ニモ亦之ヲ適用ス
 第二百五条 会社ハ定款ニ定アルトキ又ハ総会ノ決議ニ依リテ定款ヲ変更スルコトヲ得、然レトモ法律ノ規定又ハ政府ヨリ免許ニ附シタル条件ニ違背スルコトヲ得ス
 第二百十一条 会社定款ノ変更ノ登記ヲ受ケタルトキハ地方長官ヲ経由シテ主務省ニ其変更ヲ届出ツルコトヲ要ス
 第二百二十二条 会社ハ其本店及ヒ各支店ニ株主名簿・目論見書・定款・設立免許書・総会ノ決議書・毎事業年度ノ計算書・財産目録・貸借対照表・事業報告書・利息又ハ配当金ノ分配案及ヒ抵当若クハ不動産質ノ債権者ノ名簿ヲ備置キ、通常ノ取引時間中株主及会社ノ債権者ノ求ニ応シ展閲ヲ許ス義務アリ
 第二百二十七条 主務省ハ何時ニテモ其職権ヲ以テ地方長官又ハ其他ノ官吏ニ命シテ第二百二十四条ニ掲ゲタル検査ヲ為サシムルコトヲ得
 第二百三十四条 会社ハ破産ノ場合ヲ除ク外、決議後七日内ニ解散ノ原由、年月日及ヒ清算人ノ氏名・住所ノ登記ヲ受ケ之ヲ裁判所ニ届出テ、又何レノ場合ニ於テモ之ヲ各株主ニ通知シ且地方長官ヲ経由シテ主務省ニ届出ツルコトヲ要ス
 第二百五十五条(第二項)其清算ノ結果ハ亦清算人ヨリ地方長官ヲ経由シテ主務省ニ届出ツルコトヲ要ス
 (三)株金払込ノ期節及ヒ方法ニ関スル規定ノ修正
 第二百十二条中「株金払込ノ期節及ヒ方法ハ定款ニ於テ之ヲ定ム」ノ二十一字ヲ「株金ノ払込ハ定款ノ定ムル所ニ従フ」ノ十六字ニ改ム
  (理由)商法第二百十二条ニ株金払込ノ期節及ヒ方法ハ定款ニ於テ之ヲ定ム云々トアリ、此期節ナル文字ノ解釈ニ就テハ従来諸説区々ニシテ一定セス、或ハ曰ク此期節トハ必スシモ何年何月何日ト云フ如ク特定ノ時日ヲ指スモノニアラズ、之ヲ要スルニ法文ノ旨趣ハ払込ノ時期並ニ方法ハ法律ヲ以テ之ヲ定メス、株主ノ決議ニ任スヘシトノ意ナリト、或ハ曰ク此期節トハ或ル時期又ハ其時期ハ確定セサルモ必ス到来スヘキ期限ヲ指示スル語ニシテ、之ヲ要スルニ本条ノ規定ニ拠レハ定款中ニ何年何月何日ト云フカ知ク払込時期ノ予メ確足セルモノハ勿論、当初不確
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定ナルモ早晩必ス到来スヘキ払込ノ時期ヲ掲ケザル可ラスト、然リ而シテ現ニ主務省ノ如キハ固ク後説ヲ支持セラルヽト云フ若シ果シテ後説ヲ以テ正解ヲ得タルモノトセバ之カ為メ我商業上ニ非常ノ影響ヲ及ホスヘシト信スルナリ、蓋シ会社営業ノ種類ニヨリテハ事実上其存立時期中ニ必スシモ資本ノ全額ヲ払込マシムルノ要用ナキモノアリ、然ルニ斯ノ如キ会社ヲシテ実際必要ナラサル株金ヲ必スシモ存立時期中ニ払込マシムルトキハ会社ハ其運用ニ苦ミ、看ス々々営業上ノ不利ヲ蒙ルカ、否ラサレバ其実払込時機ノ予知スベカラザル株金ヲ特定ノ時日ニ必ス払込ムモノヽ如ク明言シテ故ラニ虚偽ノ定款ヲ作リ、以テ人ヲ欺キ己レヲ欺クノ已ムヲ得サルニ至ルヘシ、是本条ノ修正ヲ必要トスル所以ナリ
 (参照)
 第二百十二条 株金払込ノ期節及ヒ方法ハ定款ニ於テ之ヲ定ム、其払込ヲ催告スルニハ其払込ノ日ヨリ少ナクトモ十四日前ニ各株主ニ通知スルコトヲ要ス、其通知ニハ払込ヲ為サヽル為メ株主ノ被フル可キ損失ヲ併示ス
 (四)利益配当ニ関スル規定ノ修正
 第二百二十一条ニ左ノ但書ヲ加フ
  但定款ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラズ
  (理由)商法第二百二十一条ニ拠ルトキハ所謂優先株ノ如キハ敢テ其発行ヲ禁止スルノ精神ニアラザルベシト雖トモ本条中平等云々ノ文字アルヨリ之ヲ見レバ、或ハ其趣旨之ヲ禁止スルニアルヤノ疑アリ、夫レ会社資本ノ中ニ区別ヲ設ケ利益配当ノ割合ニ等差ヲ立テ、又ハ其分配ニ先後ヲ定ムル如キハ会社営業上ノ情況ニヨリテハ極テ必要ノ手段ニシテ、是従来各会社カ往々之ヲ実行シテ大ニ其便利ヲ感スル所以ナリ、然ルニ今法律ヲ以テ之ヲ禁止スルハ決シテ穏当ノ策ト云フヲ得ス、故ニ前記ノ如ク本条ニ但書ヲ加ヘ会社カ必要ノ場合ニ於テハ随時優先株ノ類ヲ発行スルヲ得ルノ意ヲ明ニセンコトヲ望ム、是本条ノ修正ヲ必要トスル所以ナリ、蓋シ英・仏・独・伊・澳ノ諸国ニ於テモ会社資本ノ中ニ区別ヲ設ケ、利益配当ノ割合ニ等差ヲ立テ、又ハ其分配ニ先後ヲ定ムルコトノ如キハ別段法律ヲ以テ之ヲ禁止スルコトナク、学説裁判例共ニ之ヲ是認セリト云フ、今試ニ英国ノ実例ヲ左ニ挙示シテ以テ参考ニ資ス
      英国株式会社株式一斑
   現今英国ニ於テ行ハルヽ株式会社ノ株式ニ就テ見ルニ一会社発行ノ株式中種々性質ノ異ナル者アリ、決シテ我国ニ行ハルヽ株式ノ如ク画一ナル者ニアラス、就中利益配当方法ニ於テ著シキ差異アルヲ見ル、又株式ノ分割・併合ノ如キモ実際上行ハルヽガ如シ、蓋シ此事ノ事実上行ハルヽハ英国法ニテハ株(Shares)ヲ変更シテ資金(Stock)ト為シ、此資金権利者カ自己ノ持分ヲ第三者ニ譲渡スルハ、会社ノ定款ニ依リ定リタル一磅若クハ十磅等ノ額一磅以下ノ端数ハ大抵之ヲ許サス、然レトモ西南グラスゴー鉄道会社ノ如キハ、二磅十シルリングノ倍数ノミハ端数ニテモ之
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ヲ許セリヲ以テ任意ニ之ヲ行フコトヲ許容スレバナリ、故ニ取引上甚タ便宜アルコト我国株式制度ノ比ニ非スト云フ、今左ニ英国諸般会社ガ発行セル株式ノ種類ヲ掲ケ、其異同ノ大要ヲ示サム通常株又ハ資金(Ordinary shares or stock)ハ、会社ノ利益配当ヲ受クルニハ諸般ノ利益取先株又ハ資金(Preference shares or stock)従来我国ニテ優先株ト称シ来リシモ優先ノ字義妥当ナラサル場合ナキニシモ非ス、依テ利益取先株又ハ資金トセリ、以下傚之ニ対スル配当ヲ結了セルノ後ナラザルヘカラス、但シ下ニ示スガ如ク、一定額ノ配当金支払ヲ利益取先株又ハ資金ニ対シテ為セル後ノ、会社利益金ノ残余配当方法ニ付テハ、或ハ之ヲ通常株又ハ資金ニノミ分配シ、或ハ通常株又ハ資金ニ対スル配当額ニシテ利益取先株又ハ資金ノ確定配当額ニ達セシトキハ、其残余ハ通常株又ハ資金及ヒ利益取先株又ハ資金ニ対シテ平等ニ分配スルモノアリ、諸会社採ル所ノ方法一ナラス、通常株又ハ資金中ニ、利益譲先通常株又ハ資金(Deferred ordinary shares or stock)ナル者アリ、凡ソ分テ二種トス、第一種ノ者ハ英国グレート、ノルス、ヲブ、スコツトランド鉄道(Great North of Scotland Railway Co.)ニテ行ハル、名ケテ利益譲先通常資金ト称ス、此資金ニ在テハ、年々配当スヘキ利益金ヨリ他ノ通常株又ハ資金ニ対シテ年三朱ノ配当ヲ為セル後、其ノ残余ヲ之ト共ニ平等ニ分配セラルヽ者ナリ、第二種ノ者ハ、ピーオー汽船会社(Peninsular & Oriental Steam Ship Co.)ノ発行スル所ノ者ナリ、同会社ニテハ全体ノ資金ヲ、利益取先資金及ヒ利益譲先資金(Preferred & deferred Stock)ノ二ニ区別シ、取先資金ニ対シテ予メ定メタル配当額ヲ与ヘタル後、其残余ハ凡テ之ヲ此譲先資金ニ割賦スル者ナリ、故ニ此種ノ譲先株又ハ資金ニ於テハ、会社利益ノ増加ト共ニ其配当額ヲ増加シ得ル者ナリ、マンチエスター、シヱフヰルド、エンド、リンコルシヤイア鉄道会社(Manchester,Sheffield & Lincolnshire Railway Co.)ニ於テモ亦タ譲先及ヒ取先資金二種ノ区別ヲ設ケ、従来ノ通常資金所有者ヲシテ任意ニ此二者ト変換スルヲ望マシメタリ、此会社ニテハ取先資金ニ六朱ノ配当ヲ為スヘキモノト定メタリ
   又、保証付通常株又ハ資金(Guaranteed ordinary shares or stock)ナルモノアリ、此種ノ株又ハ資金ニハ其種類甚タ多シ、而シテ其差異ノ生スルハ保証者ノ異ルニ由ルモノナリ、即チ政府カ保証ヲ与フルハ主トシテ、国家全体ノ利益ニ関スル事業ヲ営ムノ会社組織ニ対シテ之ヲ為シ、地方団体カ保証スルハ主トシテ、地方区画内ノミノ利益ニ関スル会社ノ事業ニ対シテ之ヲ与ヘ、個人又ハ法人其他ノ団体ガ保証ヲ為スハ主トシテ、株式募集ノ便宜ヲ増進スルヲ以テ目的トス、会社自己ニテ保証スルモノアリ、他ノ会社其他ノ保証ヲ受クルモノアリ、以上三種ニ通シテ同一ナルハ、一定ノ配当ヲ為スコトヲ保証者ニ於テ担保スルニ在リ
   利益取先株又ハ資金(Preference shares or stock)ノ通常株又ハ
 - 第20巻 p.558 -ページ画像 
資金ト異ナル主要ナル点ハ、会社ノ利益配当ヲ為スニ当リ、通常株又ハ資金ニ対スル配当前ニ必ラス取先株又ハ資金ニ対シテ之ヲ為サヽルヘカラサルニ在リトス、此レ各種ノ取先株又ハ資金ニ通シテ一様ナリ、而シテ此株又ハ資金所有者ハ通常株又ハ資金所有者ト総会投票権ヲ享クル割合異ナルコトアリ、或ハ全ク同一ナルコトアリ、又ハ全ク此権ヲ有セサルコトアリ、各会社定款ニ依リ種々ノ差異アルモノトス、英国ニ行ハルヽ取先株又ハ資金ノ種類大抵左ノ如シ
   ロンドン、ヱンド、サウス、ウヱルステルン鉄道会社四朱利益取先資金(London & South Western Rail.Co.s4% perpetual non-cumulative preference stock)ニ在テハ、第一、此資金ヲ有スルモノハ通常株又ハ資金カ利益配当ヲ受クル前ニ、一定ノ利益配当ヲ受クルコト、第二、会社一年度ノ利益金此資金ニ配当スヘキ予定額ニ達セサルモ、次年度ノ利益金ヲ以テ之ヲ補償セサルコト等ノ諸点、同会社ノ発行スル通常株又ハ資金ト異レリ
   ミツドランド鉄道会社(Midland Railway Co.)ノ取先資金ハ之ヲ三種ニ分チ、甲種ニ於テハ一年ノ配当額ヲ六朱トシ、其先取ノ順次ハ会社債券(Debenture or debenture Stock)ノ次ニ在リ、乙種ハ一年ノ配当額四朱ニシテ、会社自ラ之ニ保証ヲ付セリ、其先取ノ順次ハ甲種ノ次ニ在リ、丙種ノ取先株ハ年四朱ニシテ、乙種ノ如ク保証ナシ、而シテ其先取順次ハ乙種ノ次ニ在リ、ピー、オー汽船会社ノ取先資金ニテハ、若シ当該年度ノ会社利益金ニシテ取先資金ニ対スル予定ノ配当額ヲ支払フニ足ラサルトキハ、次年度ノ利益金ヲ以テ之ヲ補充スヘキモノトセリ
   又予メ消還期限ヲ付シテ取先株又ハ資金ヲ設定スルコトアリ、英国フオルス、エンド、クライド、ジヤンクシヨン鉄道会社(Forth and Clyde Junction Rail.Co.)発行ノ取先株ハ此種ニ属ス
   又タ英国グラスゴウ、サウス、ウエステルン鉄道会社(Glasgow South Western Railway Co.)ニテハ、四種ノ取先資金ヲ採用セリ、其第一種ハ年四朱ノ配当ヲ受ク、但シ此配当ハ当該年度ノ利益金ヨリ之ヲ為スヘキモノニシテ、次年度ノ利益金ヲ以テ補充スルヲ得ス、第二種、第三種、第四種取先資金ハ共ニ年四朱ノ確定配当ヲ受ク、而シテ不足ハ、次年度ノ利益金ヲ以テ補充スルコトヲ得ルモノナリ、先取ノ順次ハ第二種ハ第一種ノ次ニ、第三種ハ第二種ノ次ニ、第四種ハ第三種ノ次ニ在ルモノトス
   或ハ又利益配当ノ最下額ヲ定メタル取先株又ハ資金アリ、例之ハ、ランカシヤイア、エンド、ヨルクシヤイア鉄道会社(Lancashire & Yorkshire Railway Co.)ノ最下額六朱取先資金ノ如シ、此取先資金ハ年六朱ノ配当ヲ先取スルノ外、尚ホ残余ノ利益配当ニ付テハ予定ノ率ニ遵テ配当ヲ受クルモノナリ、此会社
 - 第20巻 p.559 -ページ画像 
ニ行ハルヽ第二種ノ取先資金ハ年四朱五厘ノ取先配当ヲ受クル外、残余ノ配当金ニシテ通常株又ハ資金ニ四朱五厘ノ分配ヲ為シ、尚ホ余リアルトキハ二者ニ平等割賦スルモノナリ
   以上ヲ以テ英国現行ノ通常取先株又ハ資金ノ主要ナル種類トス英国諸会社ノ実際ニ付テ見ルニ大抵以上両種ヲ交ヘ用ヒ、会社ノ大ナルニ従ヒ種々ノ細別アルヲ知ル、決シテ我国ノ如ク一種類ニノミ限定サルヽコトナシ、左ニ掲クル所ノモノハ英国大鉄道会社ノ一タルロンドン、サウス、ウヱステルン鉄道会社(London South Western Rail. Co.)ニ行ハルヽ各種ノ資金ナリトス
     ロンドン、サウス、ウヱステルン鉄道会社資金類別
   第一、整理通常資金(Consolidated ordinary Stock)
   第二、ロンドン、サウス、ウヱステルン会社変改譲先通常資金(London South Western deferred converted ordinary Stock)
   第三、ロンドン、サウス、ウヱステルン会社変改取先通常資金(London South Western preferred converted ordinary Stock)
   第四、四朱保証付整理資金(Consolidated 4% guaranteed ord. stock)
   第五、四朱取先整理資金(4% consolidated preferential stock)
   第六、永世四朱取先資金(Perpetual 4% preferred stock)
   此他、三朱利付債券(3% debenture stock)並ニ整理三朱債券(Consol 3% D.S.)等アリ、是等ハ其名称ニ於テ我国ノ債券ニ等シキモ其実殆ント他ノ株又ハ資金ト同性質ノモノニテ、之カ債主タルモノヽ感情上ニ就テ見ルモ恰モ株主又ハ資金所有者ノ株又ハ資金ニ対スルト同一ニシテ、債券ヲ純乎タル会社ノ借財視スルコトナシ、此点ハ甚タ我国現行ノ債券ト異レリ、然レトモ是等債券ハ尚ホ我国ニ行ハルヽモノヽ如ク固ヨリ利益配当ヲ受クヘキモノニアラス、只タ年々一定ノ利子ヲ支払ハルヘキモノニシテ、之レガ所有者タルモノモ総会ニ於テ何等ノ権利ヲ有セサルモノトス
 (参照)
 第二百二十一条 利息又ハ配当金ノ分配ハ、各株ニ付キ払込ミタル金額ニ応シ、総株主ノ間ニ平等ニ之ヲ為ス
   ○本資料第十九巻所収「東京商工会」明治二十三年五月二十四日、同二十三年八月十二日、同二十三年八月二十七日、同二十三年九月四日、同二十三年十二月十三日、同二十四年九月二十一日ノ各条、本巻所収「東京商業会議所」明治二十五年六月六日、同二十六年九月二十二日、同二十六年十二月二十五日、同二十七年六月二十七日、同二十七年十二月二十日ノ各条、並ニ第二十一巻所収「東京商業会議所」明治二十九年九月十四日、同三十年六月二十八日、同三十年十二月二十七日、同三十一年十二月二十四日、同三十二年二月十日ノ各条参照。



〔参考〕渋沢栄一書翰 穂積陳重宛 (明治二八年)九月二八日(DK200058k-0002)
第20巻 p.559-560 ページ画像

渋沢栄一書翰 穂積陳重宛 (明治二八年)九月二八日    (穂積男爵家所蔵)
 - 第20巻 p.560 -ページ画像 
○上略
御申越被下候商法修正ニ付商業会議所より意見差出候事ハ、各地ハ其用意も無之とハ存候得共、一同へ篤と打合各帰郷之上申合心配候様可為致、又東京之方ハ帰京之上尽力可仕候、民法之方も調査員会相開き毎週打寄居候得共、何分了解ニ丈ニても不容易程ニ付、意見提出迄ニ相運不申義ニ候、乍去商法ハ幾分か身ニ切なる様被存候ニ付、向後一層勉励可致と存候、梅君 ○謙次郎よりも同様一書を以被申越候、未タ回答書差出不申候得共、貴処より宜敷御伝声被下度候、何れ近日帰京拝眉ニて東京之都合ハ御打合可仕、又各地へ之申談ハ明日ハ幸ひ金子次官抔も臨席ニ付、其席ニ於て充分ニ一同と相談可仕と存候、此段御答如此御座候 草々不一
  九月念八                    栄一
    陳重殿
○下略
   ○栄一、明治二十八年九月二十六日、第四回商業会議所聯合会ニ参会ノ為メ名古屋ニ赴キ、十月五日帰京ス。右書翰ハソノ間ニ発シタルモノナラン。