デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第20巻 p.691-696(DK200084k) ページ画像

明治28年12月28日(1895年)

是日栄一、当会議所会頭トシテ株式会社ノ増資ニ就イテハ成ル可ク各社ノ自営ニ任スルノ方針ヲ採用センコトヲ内閣総理大臣侯爵伊藤博文ニ建議ス。


■資料

第五回東京商業会議所事務報告 第一三―一六頁 明治二九年四月刊(DK200084k-0001)
第20巻 p.691-696 ページ画像

第五回東京商業会議所事務報告  第一三―一六頁 明治二九年四月刊
一株式会社ノ増資方法ニ関スル内閣総理大臣ヘ建議ノ件
 本件ハ役員会議ノ提案ニ係リ、其要旨ハ、株式会社ノ増資方法ニ就テハ政府ハ成ル可ク各会社ノ自営ニ任スルノ方針ヲ定メラレンコトヲ内閣総理大臣ニ建議ス可シト云フニ在リ、依テ之ヲ明治二十八年十二月二十三日第四十九回ノ臨時会議ニ附シタルニ其趣意ヲ可認シ其建議文案ノ起草ハ之ヲ役員会議ニ全任スルコトニ決シタルニ付、其後役員会議ニ於テ之ヲ起草シ、同月二十八日附ヲ以テ左ノ如ク伊藤内閣総理大臣ニ建議シタリ
    株式会社ノ増資方法ニ関スル建議
謹テ惟ミルニ、近時株式会社ノ増資ヲ図ルモノ日ヲ追テ多キヲ加フルニ至リシハ要スルニ国力伸張ノ一兆候ト謂フヘシ、然ルニ聞クカ如クンハ各省ニ於テハ、目下株式会社カ増資方法ヲ規画シテ定款ノ改正ヲ届出テ若クハ其認可ヲ申請スルニ当リ、極メテ窮屈ニ法文ヲ解釈スルノ方針ヲ執リ、其方法ノ種類ニヨリテハ裁判所ニ於テ登記ヲ許サルヽ所ト雖モ容易ニ之ヲ是認セラレス、其結果大ニ事業ノ拡張ヲ阻止スルノ傾キアリト、抑モ今日実業ノ振興スルハ国力伸張ニ伴フ必然ノ理勢ニ外ナラス、故ニ株式会社カ其資本ヲ増シテ事業ノ拡張ヲ図ラントスルニ当リテハ、其方法ノ如キ成ル可ク会社ノ自営ニ放任シ其事業ヲシテ自然ノ発達ヲ遂ケシメサル可ラス、是実ニ政府ノ本分ナリト信ス、然ルニ其動作ニ拘束ヲ加ヘ国力伸張ノ大勢ニ抵抗スルカ如キハ豈ニ経
 - 第20巻 p.692 -ページ画像 
済上ノ長計ト謂フヘケンヤ、是ヲ以テ本会議所ハ特ニ株式会社増資方法ニ関スル意見ヲ具シテ敢テ閣下ノ垂鑑ヲ乞フ、仰キ願クハ閣下速ニ本会議所ノ意見ヲ採納セラレ、株式会社ノ増資方法ハ法律ノ禁止セサル限リ成ル可ク之ヲ各会社ノ自営ニ任スルノ方針ヲ定メラレンコトヲ此段本会議所ノ決議ニ依リ別紙意見書ヲ添ヘ建議仕候也
  明治二十八年十二月二十八日
            東京商業会議所会頭 渋沢栄一
    内閣総理大臣 侯爵 伊藤博文殿
(別紙)
    株式会社ノ増資方法ニ関スル意見書
近来株式会社ノ増資ヲ図ルモノ著シク多キヲ加ヘシハ国力伸張ノ一現象ナリ、然ルニ或省ニ於テハ或種ノ増資方法ニ対シ法律ニ牴触スルヤ否ヤノ議論アリ、為メニ其方法ヲ採リタル株式会社ノ改正定款ハ容易ニ認否ヲ決スルヲ為サスト、例ヘハ東京株式取引所ノ如キハ曩ニ三十万円ノ資本ヲ六十万円ニ増加シ、旧株一株ニ付新株一株ヲ引受ケシメ旧株ノ払込金五十円ヲ分チテ新旧両株ニ割当テ各二十五円払込ト為シ更ニ各株ニ付即時ニ五円ヲ払込マシムルノ決議ヲ為シ、之ニ従テ定款ヲ変更セシモ未タ主務省ノ認可ヲ得ルニ至ラス、又髙松運輸株式会社モ亦東京株式取引所ト同一ノ増資方法ヲ執リタルタメ主務省ノ認可ヲ得サリシト云フ、又石川島造船所ハ百円株(半額払込)ヲ分チテ五十円株二個トシ、其一個ニ対シテハ分割前ノ株ニ対スル払込金ヲ割当テ他ノ一個ニ対シテハ新株ト同時ニ払込マシムル決議ヲ為シ、登記広告ノ手続ヲ終リテ定款改正ノ届出ヲ為セシニ、主務省ハ之ヲ不法ナリトシテ更ニ其改正ヲ諭示セラレタリト聞ク、本会議所ハ今ヤ此ノ如キ増資方法ニツキ主務省カ認可ノ方針ヲ取ルコトヲ希望スルカ故ニ、玆ニ聊カ其理由ヲ開陳セントス
東京株式取引所ノ採レル如キ増資方法ヲ不法ト為スノ根拠ハ、旧株ノ払込金五拾円ノ内二拾五円ヲ割キテ新株ニ割当ツルハ一旦旧株ノ株金ヲ払戻シテ更ニ新株ニ払込ムニ均シキヲ以テ、商法第二百十六条ノ「会社ハ株金ノ全部又ハ一部ヲ株主ニ払戻スヲ得ス」ト云ヘルニ牴触スト云フニ在ル可シ、然レトモ是レ商法ニ所謂払戻ナル用語ヲ誤解シタルモノナリト信ス、払戻トハ一タヒ払ヒタル金銭ヲ其支払主ニ返還スルヲ意味スルコトハ何人モ疑議ヲ挟マサル所ナリ、左レハ払戻ト云フモ一ノ払渡ノ行為ヲ指スモノニシテ、前ニ払渡ヲ受ケタル者カ前ニ払渡ヲ為シタル者ニ対シテ支払フヲ以テ是ヲ払戻ト名ツクルノミ、之ヲ約言スレハ払戻モ亦一種ノ払渡タルニ過キス、而シテ払渡ハ支払フノ意志ヲ以テ実際金銭ヲ授クルコトヲ指スハ明白ナリ、何トナレハ支払フノ意志ナクシテ金銭ヲ他人ニ授クルトキハ其行為或ハ預クルコト若クハ貸スコトトナリテ、決シテ之ヲ払渡ト云フヲ得ス、又支払フノ意志アリト雖モ実物ヲ引渡サヽルトキハ亦決シテ之ヲ払渡ト云フヲ得サレハナリ、然ルニ会社カ旧株ニ対シテ払込ミタル五拾円ヲ折半シテ新旧両株ニ二拾五円ツヽヲ割当ツル場合ニハ、唯会社ト株主トノ間ニ已ニ払込ミタル金銭ノ用途ニ関スル意志ヲ変更セシ迄ニテ現実ノ金銭ヲ払渡セシニ非ス、例ヘハ乙カ甲ニ対シ二口ノ債務ヲ負ヒ其一口ニ対シテ
 - 第20巻 p.693 -ページ画像 
弁済セシニ、後ニ至リ前ニ弁済セシ金額ノ一半ヲ以テ他ノ一口ノ債務ニ対スル弁済金ニ充当センコトヲ合意セシ如シ、此場合ニ於テ甲ハ決シテ乙ニ払戻ヲ為セリトハ云フ可ラス、一旦甲カ支払ヒタル金銭ハ依然乙ノ所有ニ存セルナリ、若シ会社カ増株ヲ株主以外ヨリ募集シテ前記ノ如キ処分ヲ施シタリトセハ、即チ会社ハ新株ヲ引受ケタル新株主ニ弐拾五円ヲ払込マシメ、其得タル金額ヲ以テ旧株主ニ弐拾五円ヲ払戻ス処分ヲ為サヽル可カラサルヲ以テ、現実ニ払戻アリタリト云フヲ得ヘケレトモ、若シ其増株ハ総テ旧株主ヲシテ之ヲ引受ケシメ、而シテ斯ノ如キ処分ヲ施シタリトセハ、已ニ払込ミタル株金ハ毫モ株主ニ払戻ス事ナクシテ処分ヲ終ル事ヲ得ヘシ、商法第二百十六条ヲ以テ株金ノ払戻ヲ禁スルノ主意ハ欧米諸国ニ行ハルヽカ如ク株式ノ償還ト称シ或ル株式ヲ会社ニ於テ償還シテ之ヲ消滅セシメ、若クハ会社ノ取締役カ独断ニテ或ル株主ニ株金ヲ払戻ス等、為ニ資本ヲ減シテ会社債権者ヲ害スルハ勿論、兼テ他ノ株主ヲモ損スルノ処置ヲ禁止スルニ在リシコトハ商法草案ノ説明ニ明言スル所ニ依リテ疑フ可ラサルノミナラス、同条第二項ニ株金ヲ払戻シタル場合ニハ会社及ヒ会社債権者ハ直接ニ払戻ヲ受ケタル株主ニ掛リテ其全額ヲ取戻スコトヲ得ト定ムルヲ以テモ明ナリ、則チ現実ニ株主ニ払戻スニアラサレハ此商法第二百十六条ノ禁スル所ニアラサルナリ、何トナレハ現実ニ払戻シタルモノニアラサル以上ハ会社ノ債権者モ又会社自身モ之ヲ株主ヨリ取戻スノ道ナキノミナラス、斯ノ如キ場合ニ関シテ取戻ト云フハ殆ント意義ヲ為サヽルヲ以テナリ、或ハ又云ハン会社カ旧株ノ払込金五十円ノ内二十五円ヲ割キテ新株ノ払込金ニ充当スルハ少クモ帳簿上ニテハ払戻トナルナリト、然レトモ商法ニ所謂払戻トハ前述スル如ク現実ノ金銭払渡ヲ云フモノトスレハ、帳簿上ノ払渡ナルモノヲ包含セス、尤モ占有ノ改定ハ実物ノ握取ト同一ノ効力アリト云フ説アレトモ、仮令ヒ此説ヲ真理ナリト仮定スルモ此場合ニハ会社モ又株主モ占有ヲ改定セル意志ヲ表セス、則チ会社ハ従来自己ノタメニ有セル二十五円ヲ暫時株主ノタメニ有セリトノ意志ヲ表白セサルカ故ニ、現実ノ金銭払渡ト同視ス可キ占有ノ改定アリト云フヲ得ス、或ハ又云ハン、斯ノ如キ場合ニハ会社ニ対シテハ已ニ払込ミタル五十円ノ内二十五円ヲ株主ニ払戻ス義務ヲ生シ、又株主ニ対シテハ其引受ケタル新株ニ付二十五円ヲ払込ム義務ヲ生ス、故ニ会社ノ払戻ス義務ト株主ノ払込ム義務ト同時ニ生シ其双方ノ義務ハ相殺ニ依リテ又同時ニ消滅シタルモノナレハ、其結果ニ於テハ払戻ト毫モ異ナル所ナシト、此ノ如キ疑ヲ解クタメニハ先ツ其場合ニ於テ会社ニ二十五円払戻ノ債務ヲ生シ株主ニ二十五円払込ノ債務ヲ生シタルヤ否ヤノ問題ヲ決セサル可ラス、本会議所ハ此場合ニ必スシモ斯ノ如キ義務ヲ生セリト云フノ要ナシト信ス、蓋シ合意ニハ二種アリテ、一ハ物権ノ移転・創設或ハ身分ノ変更ノミヲ生ス可キモノニシテ、一ハ将来合意者間ニ義務ヲ生ス可キモノナリ、今旧株ニ対スル払込金ノ内二十五円ヲ新株ニ充当スト云ヘル合意ヲ案スルニ、唯二十五円ノ充当ニ関スル意志ヲ表白セシニ止リテ将来ニ対シ何等ノ義務ヲモ残スコトナク此合意ト同時ニ二十五円ハ其性質ヲ変シタルナリ会社ハ従来旧株ノ払込金ト思ヒシヲ改メテ新株ノ払込金ト思ヒシノミ
 - 第20巻 p.694 -ページ画像 
其間払戻若クハ払込ノ義務ナル思想ヲ容ル可キ余地ナシ、蓋シ将来ト云ヘル思想ハ義務ニ欠ク可ラサルモノナレトモ、此場合ニハ其思想ハ全ク闕如セリ、猶ホ贈与ハ契約ニ非スト云フ如ク斯ノ如キ合意モ契約ニアラス、従テ義務ヲ生スルコトナシト云フヲ得ヘシ
或ハ前記ノ如キ増資方法ヲ許ストキハ投機ヲ奨励スルノ恐アリト考フル者アリ、其説ニ曰ク、若シ前記ノ如キ増資方法ヲ許ストキハ会社ハ其営業ニ必要ナラサル程度マテ資本ヲ増シ、而シテ実際ハ僅ニ其一分ヲ払込マシムルニ止メ、唯株数ノ多カランコトノミヲ欲スルノ弊アリト、例ヘハ五十万円ノ会社ニテ更ニ五十万円ヲ増資セント欲セハ新募ノ株式ニ就テハ必ス四分ノ一即チ十二万五千円ノ払込ヲ要ス可シ、然ルニ会社ハ実際十二万五千円ヲ要セス唯株数ト資本ノ総額トヲ増シテ世間ヲ瞞着スルヲ主意トスルカ故ニ、拾万円ヲ払込メハ足レリ、左レド五十万円ノ新株ニ対シテ僅ニ拾万円ヲ払込ムモ猶増資ノ四分ノ一ニ達セサルヲ以テ、其株式ハ有効ニ譲渡スコトヲ得サル不都合アリ、是ニ於テカ旧株ニ対スル五拾万円ノ払込金ヲ新旧株式ニ割当テヽ各株ニ二十五円ノ払込アリタルモノト見做シ然ル後各株ニツキ五円ツヽヲ払込ムトキハ其目的ヲ達スルコトヲ得ヘシト、此説ハ一理アル如クナレトモ仔細ニ考察スルトキハ其杞憂タルコトヲ発見ス可シ、保険会社若クハ取引所ノ如ク専ラ資本ヲ担保ノ目的ニ使用スルモノハ之ヲ例外トシ、其他ノ会社ニ於テハ已ニ資本ヲ増加スル以上ハ其払込ヲ目的トスルコトハ勿論ニシテ、又実際ニ於テモ期ヲ定メテ順次ニ払込ムヲ通例トス、故ニ前記ノ如キ投機ノ目的ヲ以テ増資スルモノハ殆ント無クシテ稀ニアルノ例ナルヘシ、殆ント無クシテ稀ニアルノ事実ヲ懸念シテ通常ノ増資方法ヲ撿束スルハ法律ノ目的ニ反スルモノト謂ハサル可カラス、且我商法ハ素ト一般ニ四分ノ一払込前ノ株式ノ譲渡ハ無効ナリト規定セシモ、修正セラレタル現行法ハ登記前ノ株式譲渡ノミヲ無効トスルモノト解釈セサル可ラス、然リ而シテ新株ハ会社登記後ニ募集スルモノナレハ、此修正ノ結果トシテ其払込ノ金額ニ係ラス譲渡シ得ヘキモノトナレリ、左レハ新株ニ対シ四分ノ一以内ノ払込前ニ於テ譲渡スルコトヲ得スト云フハ現行法ノ解釈トシテハ許ス可カラサル所ナリ、或ハ又近来会社・取引所等ノ株式カ増資ヲ予期スル為メ空ニ価値ヲ昂騰スル傾向アリ、其結果恐慌ニ終ル可キコト必定ナレハ、今ニ於テ出来得ル限リ増資ヲ撿束スルハ経済社会ノ利益ナリト論スルモノナキニアラサレトモ、翻テ之ヲ事実ニ徴スルニ昨今株式ノ昂騰セルハ戦争ノタメ萎靡シタル経済社会ノ復活シテ更ニ進歩セントスルノ影響ニシテ取引所株式・馬車鉄道株式ノ類カ未曾有ノ高価ヲ呈シタルモノハ要スルニ其利益ノ割合ニ伴フモノニシテ、決シテ増資ノミニ原因シタルモノナラザルコトハ事実ノ証明スル所ナリ
或ハ又説ヲ為ス者アリ、曰ク、株式会社カ其資本ヲ増加セントスルニハ各株ノ金額ヲ増スヲ可トス、然ルトキハ主務省ニ於テハ直チニ之ヲ認可スヘキカ故ニ容易ニ増資ノ目的ヲ達スルヲ得ヘシト、然レトモ各株ノ金額ヲ増ストキハ市場ノ融通上ニ大ナル不便アリ、現ニ公債証書ノ如キ額面百円ノモノヲ額面五百円ノモノニ比スレハ割高ナルカ如キ以テ市場ノ趨向ヲト知スルニ足ルヘシ、是近時株式会社カ其資本ヲ増
 - 第20巻 p.695 -ページ画像 
加セントスルニ当リ概ネ各株ノ金額ヲ増スノ策ヲ取ラスシテ新株券発行ノ方法ニヨル所以ナリ、之ヲ要スルニ或者ノ説ノ如キハ実際ノ景況ヲ知ラサルモノト謂ハサルヲ得ス
若シ商法第二百十六条ヲ或者ノ如ク解釈スルトキハ、折角国力ノ進張ニ伴ハンタメ会社ノ資本ヲ増シテ事業ヲ拡張セント欲スルモノモ多クハ一時払込ノ必要ヲ恐レテ僅々ノ増資ヲ以テ満足シ、更ニ進ンテ事業ノ拡張ヲ務メサルニ至ラン、是レ頗フル憂フヘキ事ナリ、凡ソ事物ハ発達ス可キ時ニ充分ニ発達セサルトキハ更ニ気運ノ達スル迄ハ停滞スルモノナリ、今ヤ戦勝ノ余国家ニ新生面ヲ与ヘ経済社会モ亦新原動力ヲ得タリ、今ニシテ之ヲ利用発達セスンハ将タ何レノ時ヲ待タンヤ、且外ニ対シテ国家ノ体面ヲ全フセンタメニハ軍備モ拡張セサル可カラス諸般ノ制度モ其規摸ヲ広大ニセサル可ラス、故ニ現時ノ状勢ヲ顧ミレハ年々国費ノ増加スルハ又止ムヲ得サルナリ、而シテ如何ニセハ之ニ応ス可キヤハ朝野ノ心ヲ労スル一大問題ニアラスヤ、償金ハ一時ノ資ニ供ス可キモ永久経常ノ費ヲ充スニ足ラス、之ヲ為ス唯国内富力ノ増進ヲ謀ルニ在ルノミ、会社ノ新設・増資ノ如キ富力増進ノ一兆候ナレハ法律ニ触レサル限リ之ヲ許認スル方針ニ依ルヲ以テ目今ノ急務ナリト信ス、然ルヲ法律ノ明文及其精神ノ至ラサル点マテ補充シテ法律ヲ解釈シ、実業ノ発達ニ不便ヲ与フルカ如キハ策ノ得タルモノニアラサルナリ、且ツ現今経済社会ニ勃興セントスル企業心ハ或者ノ謂ヘルカ如ク有害ナルモノトスルモ、到底法律ノ力ヲ以テ防キ得ヘキモノニアラス、又其増資ヲ思止ラシムル能ハサルナリ、若シ前記ノ場合ニ於テ五十円ノ株式ヲ一時百円株(半額払込)トシ、然ル後復タ之ヲ折半シテ五十円ノ株式ト為シ、二十五円ツヽヲ各株ニ割当ツルトキハ優ニ同一ノ結果ヲ得ヘキニアラスヤ、左レハ投機ヲ制止セントシテ前記ノ如キ増資方法ヲ認メサラント欲スルモ実際何ノ効ヲ見サルナリ
又石川島造船所ノ増資方法ノ如キハ本会議所ハ更ニ其不法ナル理由ヲ発見スルニ苦ムナリ、或ハ旧来百円ノ株式ニシテ之ニ対シ払込ミタル五十円ナレハ、旧株ヲ二分シタルトキハ払込金モ亦二分スヘキモノナリト云フ説ヲ唱フルモノアランカ、是レ頗ル解シ難キ説ト云ハサル可カラス、抑モ法律ニ禁セサル事項ハ其性質上公安ヲ害シ風儀ヲ乱ルニアラスンハ、合意ヲ以テ如何様ニ定ムルモ差支ナシ、是何人モ疑ハサル所ナリ、若シ会社ニシテ旧株ヲ分割シテ其払込金ニ付キ何等ノ合意ヲモ為サヽルトキハ株式ト同様ニ株金モ亦分割セラルヽコト固ヨリ至当ナラン、然レトモ若シ当事者ノ合意ヲ以テ分割後ニ得タル二株ノ何レカニ其払込金ヲ充当スルトセハ、是毫モ商法ノ明文ニ触ルヽ所ナキノミナラス、又固ヨリ公安風儀ニ関係ナキハ明白ナリ、此点ニ至リナハ本会議所ハ全ク疑義ヲ挿ムノ余地ナシト信ス、之ヲ聞ク裁判所ハ已ニ石川島造船所ノ定款改正及東京株式取引所ト殆ント相同シキ増資方法ヲ採リタル東京製絨会社ノ定款改正ノ登記ヲ許シタリト、石川島造船所及ヒ製絨会社ノ如キハ定款ノ改正ニ認可ヲ要セサルヲ以テ已ニ其改正ヲ実施セルモ、東京株式取引所ハ取引所法ナル特別法ノ支配ヲ受ケ其定款ノ改正ハ主務省ノ認可ヲ要スルヲ以テ、同一ノ方法ニ依リ増資シタルニ拘ラス認可ヲ得サル為メ未タ実施スルニ至ラスト云フ、本
 - 第20巻 p.696 -ページ画像 
会議所ハ固ヨリ当局者ノ商法ノ明文ニ反シ若クハ商法ヲ曲解スルコトヲ望ムモノニアラサレトモ、仮リニ甲乙二個ノ解釈ヲ容ルヘキ場合アリトセハ実業ノ発達ニ利益アル解釈ヲ執ラレンコトヲ希望ニ堪ヘサルナリ


渋沢栄一書翰 萩原源太郎宛 (明治二八年)一二月二八日(DK200084k-0002)
第20巻 p.696 ページ画像

渋沢栄一書翰  萩原源太郎宛 (明治二八年)一二月二八日 (萩原英一氏所蔵)
拝啓、然者昨日御評議済之建議書一覧仕候間早々進達方御取計可被下候、議院之方ハ致方無之ニ付、新聞ニハ掲載之御手配可被下候
右申上候 匆々不一
  十二月廿八日
                      渋沢栄一
    萩原源太郎様

渋沢栄一伝記資料 第二十巻 終