デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第21巻 p.410-419(DK210068k) ページ画像

明治32年1月24日(1899年)

是ヨリ先当会議所、衆議院議員選挙法改正案ニ就キ委員ヲ選ビテ調査中ナリシガ、是日栄一当会議所会頭トシテ、右選挙法ヲ改正シ商工業者ヨリ選出スル代議士ヲ多カラシメンコトヲ内閣総理大臣侯爵山県有朋・内務大臣侯爵西郷従道・農商務大臣曾禰荒助ニ建議シ、貴族院議長公爵近衛篤麿・衆議院議長片岡健吉ニ請願ス。


■資料

東京商業会議所月報 第七八号・第一頁 明治三二年二月 【○明治三十二年一月十…】(DK210068k-0001)
第21巻 p.410-411 ページ画像

東京商業会議所月報  第七八号・第一頁 明治三二年二月
○明治三十二年一月十四日、本会議所ニ於テ第七十八回臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者左ノ如シ
 河村隆実君 ○外三十一名氏名略
 - 第21巻 p.411 -ページ画像 
午後三時開議、会頭渋沢栄一君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ午後六時四十分閉会ス
 一衆議院議員選挙法改正ノ義ニ付建議ノ件 (会員提出)
本件ハ会員岡部広・長尾三十郎両君ノ提議ニ係リ、其要旨ハ、衆議院議員選挙法ヲ改正シ商工業者ヨリ選出スル代議士ノ数ヲ多カラシメラレンコトヲ政府ニ建議シ、議会ニ請願スヘシト云フニ在リ、審議ノ末議長指名ノ委員九名ニ其調査ヲ附託スルニ決シ、議長ハ左ノ諸君ヲ委員ニ指名セリ
                   岡部広君
                   町田徳之助君
                   八尾新助君
                   岡田来吉君
                   大江卓君
                   加藤正義君
                   北村英一郎君
                   中沢彦吉君
                   田口卯吉君


東京商業会議所月報 第七八号・第三頁 明治三二年二月 【○同月 ○一月十六日…】(DK210068k-0002)
第21巻 p.411 ページ画像

東京商業会議所月報  第七八号・第三頁 明治三二年二月
○同月 ○一月十六日午前九時、本会議所ニ於テ衆議院議員選挙法改正ノ件調査委員会議ヲ開キ、左ノ如ク委員長ヲ選挙シ、引続キ報告案ヲ審議決定シテ、午後一時閉会ス
               委員長 加藤正義君


渋沢栄一 日記 明治三二年(DK210068k-0003)
第21巻 p.411 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治三二年    (渋沢子爵家所蔵)
一月十四日 晴
○上略
午後 ○中略 東京商業会議所ニ抵リ、議事ヲ開ク、夜九時過帰宅ス
   ○中略。
一月廿三日
○上略
此夜商業会議所臨時会ニ出席シ、大江氏ニ托シテ帰宅ス


東京商業会議所月報 第七八号・第二頁 明治三二年二月 【○同月 ○一月二十三…】(DK210068k-0004)
第21巻 p.411 ページ画像

東京商業会議所月報  第七八号・第二頁 明治三二年二月
○同月 ○一月二十三日、本会議所ニ於テ第七十九回臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者左ノ如シ
 河村隆実君 ○外二十八名氏名略
午後五時開議、渋沢会頭事故アリ退席ニ付、副会頭大江卓君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後六時十分閉会ス
○中略
 一衆議院議員選挙法改正ノ義ニ付調査報告 (委員会議提出)
本件ハ一・二修正ヲ加ヘシ外委員報告ノ如ク可決ス


東京商業会議所月報 第七八号・第三頁 明治三二年二月 【同月 ○一月二十四日、衆…】(DK210068k-0005)
第21巻 p.411-412 ページ画像

東京商業会議所月報  第七八号・第三頁 明治三二年二月
 - 第21巻 p.412 -ページ画像 
○同月 ○一月二十四日、衆議院議員選挙法改正ノ義ニ付、内閣総理・農商務・内務三大臣ニ建議書ヲ、貴族・衆議両院ニ請願書ヲ進達ス(建議・請願書ノ全文ハ参照ノ部第二号ニ掲載ス)


東京商業会議所月報 第七八号・第四―五頁 明治三二年二月 【○参照第二号 明治三十二年一…】(DK210068k-0006)
第21巻 p.412-413 ページ画像

東京商業会議所月報  第七八号・第四―五頁 明治三二年二月
○参照第二号
 明治三十二年一月二十三日第七十九回臨時会議ノ決議ニ依リ、衆議院議員選挙法改正ノ義ニ付内閣総理・内務・農商務三大臣ニ進達セシ建議書、貴族・衆議両院ニ呈出セシ請願書ノ全文ハ左ノ如シ
    衆議院議員選挙法改正ノ儀ニ付建議(請願)
現行衆議院議員選挙法ハ不備ノ点一ニシテ足ラス、中ニ就キ市郡代議権其平衡ヲ得サルカ如キハ最モ甚シキ欠点ナリ、政府又此ニ見ルアリ曩ニ其改正法案ヲ第十二議会ニ提出セラレタリト雖トモ、当時衆議院解散セラレシカ為メニ通過ヲ見ルニ至ラスシテ止ミシハ本会議所ノ深ク遺憾トスル所ナリ、聞クカ如クンハ、政府ハ本期議会ニ向テ再ヒ同改正法案ヲ提出セラレントスト、於是乎本会議所ハ同法改正ニ対シテ抱ク所ノ希望ヲ披陳シ、以テ閣下(貴院)ノ採択ヲ乞ハントス
 第一、市ヲ一ノ選挙区トシ、各一名ノ議員ヲ選出セシメ、市郡人口ノ割合ニ差等ヲ設ケ、郡部十二万人毎ニ一人ヲ出スニ対シ、五万人以上ノ市ハ五万人毎ニ一人ヲ出スヲ得ルモノト定ムヘキ事
 第二、一府県ヲ以テ一選挙区トシ、投票ハ単記無記名ノ制ヲ採ルヘキ事
 第三、選挙人ハ原籍地ノ如何ヲ問ハス住所(民法第二十一条ノ住所ヲ云フ)ニ於テ其権利ヲ行使スルコトヲ得セシメ、以テ失権者ナカラシムルヲ期スヘキ事
以上ハ則チ本会議所カ選挙法改正ニ対シテ抱ク所ノ希望ナリ、蓋シ一国ノ富強ヲ謀ラント欲セハ、農業ヲ保護スルト共ニ大ニ商工業ヲ保護シテ以テ其発達ヲ助ケサルヘカラス、而シテ商工業ヲ保護シテ其発達ヲ助ケント欲セハ、相当ナル議員ヲ選出セシメ、之ヲシテ平等ニ国政ニ参与スルノ権利ヲ得セシムルヲ要ス、然ルニ現行選挙法ノ不備ナルヤ、農民ヨリ選出シタル議員ノミ独リ多クシテ商工業者ヲ代表スヘキ議員ハ其数甚タ少シ、之ヲ人口ノ割合ヨリ算スルモ、之ヲ国税負担ノ割合ヨリ観ルモ、商工業者ノ選出ス可キ議員ハ少クトモ議員総数ノ四分一ヲ占メサルヘカラサルニ、現在市部ヨリ選出セラルヽ議員ハ其数凡ソ二十分一ニ過キス、是豈代議政体ノ本旨ナランヤ、況ヤ市街宅地租五分ニ増加セラレテ、市街地ノ負担特ニ重キヲ加ヘタルノ今日ニ於テヲヤ、義務ヲ負フコト多ケレハ権利ヲ得ル事亦多カラサル可ラサルハ普通ノ道理ナリ
市部選出議員ノ数ヲシテ郡部選出ノ議員ト平衡ヲ得セシムルノ要益々切ナリト謂フヘシ、願クハ閣下(貴院)本建議(本請願)ヲ採納シ、前記ノ趣旨ニ依リテ同法ニ改正ヲ加ヘラレン事ヲ、切望ノ至リニ禁ヘス
右本会議所ノ決議ニ依リ建議(請願)仕候也
  明治三十二年一月二十四日
 - 第21巻 p.413 -ページ画像 
             東京商業会議所会頭 渋沢栄一
    内閣総理大臣 侯爵 山県有朋殿
    内務大臣   侯爵 西郷従道殿
    農商務大臣     曾禰荒助殿
    貴族院議長  公爵 近衛篤麿殿
    衆議院議長     片岡健吉殿
   ○明治三十二年一月九日衆議院議員選挙法改正期成同盟会組織セラレ、栄一ソノ会長タリ。第二編第二部第六章政治・自治行政中所収「衆議院議員選挙法改正期成同盟会」明治三十二年一月九日ノ条参照。
   ○明治三十二年十月十一日ヨリ東京ニ於テ開カレタル第八回商業会議所聯合会ニハ、東京・大阪・京都・博多・高岡ノ各商業会議所ヨリ同一趣旨ノ選挙法改正案提出セラレ、可決セラレタリ。本資料第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治三十二年十月十一日ノ条参照。
   ○当会議所ハ明治三十二年十二月十二日再ビ同件ニツキ建議・請願セリ。本巻同日ノ条参照。



〔参考〕東京経済雑誌 第三七巻第九一四号・第二八一―二八三頁 明治三一年二月一二日 ○選挙法改正せざるべからず(DK210068k-0007)
第21巻 p.413-415 ページ画像

東京経済雑誌  第三七巻第九一四号・第二八一―二八三頁 明治三一年二月一二日
    ○選挙法改正せざるべからず
我邦財政紊乱の根元を察するに、選挙法の不完全なること亦与りて力あるものなり
試みに第九議会に於て伊藤内閣をして地租を増徴して軍備を拡張せんと企てしめたらんには、自由党は決して之を賛成せざりしならん、又第十議会に於て松方内閣をして地租を増徴して台湾鉄道の補助等を給与せんと企てしめたらんには、進歩党は必ず之と提携せざりしならん唯々夫れ営業税・酒税・登録税・葉煙草専売等を以て之に充てしが為に、政党も之に与みし、議会も之を可決せしのみ
蓋し現今の衆議院は地租に関係なき限に於て盲従するものなり、若し錙銖にても地租を増徴せんとするか、彼等は決して盲従せざるなり、其事実は第十議会に於て之を明証するを得べし、松方内閣は進歩党盲従の景況を見て、以為らく「以て地租を増徴するを得べし」と、即ち罹災基金法と云へる一案を提出せり、是れ備荒貯蓄金の消尽したるが為めに、別に此法を設けて地租若干を増徴し之を積みて以て救災の費に充てんと欲したるなり、然るに盲従に慣れたる議会も此点に至りては忽ち反抗の気性を示し終に之を否決したり、夫れ救災の費用の如きは仮令ひ之を租税として徴収したればとて災害ある場合には直に下付せらるゝものにして、殆んど貯蓄金の如きものなり、然るも尚ほ此の如し、衆議院が地租増徴に反対すること以て知るべし
事の地租に関係するものは如何に必要なるものも之を否決し、事の地租に関係せざるものは台湾鉄道・茶業組合の補助の如きものと雖も之に盲従す、是れ殆んど政治意見なきに均し、我衆議院をして此の如き弊害に陥らしめたるは、実に撰挙法の地主に偏するか為めなり、故に撰挙法は速に改正せざるべからざるなり
余輩が従来主張せし所は世に所謂実業派の意見と投合するもの多かりき、是れ故らに地主の利益を侵害して実業を保護せんと欲するにあらず、偏に地主の専横は国家の利害と相容れざるの程度にまで及びたる
 - 第21巻 p.414 -ページ画像 
を信ずればなり、故に余輩は従来衆議院に列したる所謂実業派に対しては概して同情を表する能はざりき、彼等は大約先天的吏党なりき、彼等は伊藤内閣にも賛成し、松方内閣にも賛成するものなり、是れ殆んと無主義に均しからずや、然れば彼等は所謂実業的問題に関して確乎たる意見を主持するやと尋ぬるに、是れ又然らざりしが如し、試みに農工銀行の問題に就いて之を証せんに、彼等の或者は特に議論に於て之に反対せしのみならず、其利害に於ても之を不利としたるものなりしか、結局之れを賛成したりき、何を以て従来の実業派たるものは此の如く薄志弱行者多かりし乎、畢竟彼等は直接に間接に日本銀行の勢力を受くればなり、余輩は英国の実業家が多く撰挙権を有して、而して其議員が常に強硬なる志操を有するを欽す、抑も大英の衆議院は六百五十二名の議員を以て組織するものにして、其各区の撰出する所左の如し
 英国
  四十の郡《カウンテー》に於て  百七十一員
  ウワイト島に於て           一員
  百八十四市・区に於て     二百八十二員
  三大学に於て             五員
   合計            四百五十九員
 ガール公国
  十二郡に於て            十五員
  租税を納むる市十四及区四十五に於て 十五員
   合計               三十員
 蘇格蘭国
  三十三郡に於て          三十二員
  七府・市に於て           十一員
  十五区に於て            十五員
  四大学に於て             二員
   合計               六十員
 愛爾蘭国
  三十二郡に於て          六十四員
  三十一市に於て          三十七員
  一大学に於て             二員
   合計               百三員
故に以上を総計すれば左の如し
  郡に於て           二百八十二員
  府・市・区に於て        三百六十員
  大学に於て              九員
  一島に於て              一員
   総計            六百五十二員
府・市・区の撰出する所亦多数ならずや、而して区に於ては家屋所有者にして救貧税を払ふものは勿論、借家人と雖も一ケ年十磅以上の貸家に居るものは撰挙権を有するなり、然るに日本現今の撰挙法の下に於て純粋に市区の代表者と見るべきものは
 - 第21巻 p.415 -ページ画像 
  東京市               十人
  京都市               二人
  大阪市               三人
  横浜市               一人
  神戸市               一人
  名古屋市              一人
   合計               十八人
に過ぎず、其他十万以上の人口を有する市区ありと雖も、皆な郡と連合区たるが為に、郡の有権者の数多くして凡て其抑制を受くることなり
故に余輩を以て之を見るに、選挙法を改正し大に市町の住民の権利を拡張することは、実に焦眉の急なり、蓋し此事にして行はれざれば財政整理は結局に於て行ふべからざるなり



〔参考〕東京経済雑誌 第三七巻第九三二号・第一三〇一頁―第一三〇二頁 明治三一年六月一八日 ○衆議院議員選挙法改正案(DK210068k-0008)
第21巻 p.415-416 ページ画像

東京経済雑誌  第三七巻第九三二号・第一三〇一頁―第一三〇二頁 明治三一年六月一八日
    ○衆議院議員選挙法改正案
政府の提出に係る衆議院議員選挙法改正法律案は、衆議院に於て修正可決せられ、貴族院に於て特別委員に附托中、衆議院解散せられたるが為に消滅に帰したりと雖も、早晩改正せざるべからざるものたるを以て、余輩は同案議事の景況を観察して読者の参考に供せんとす
衆議院議員選挙法改正案は、衆議院に於て略々特別委員会修正の通り可決確定せられたり、今其の要点を示せば左の如し
 第一 原案に拠れば選挙権は二十五歳以上、被選挙権は三十歳以上にあらざればこれを有するを得ざるの規定なれども、衆議院は之に向て選挙権は二十歳以上被選挙権は二十五歳以上に修正したり
 第二 原案に拠れば国務大臣・法制局長官・各省次官及び各省勅任参事官の如きも、衆議院議員を兼ぬることを得ざるの規定なりしが、衆議院に於ては之を改め、右国務大臣以下の四官吏は議員を兼ぬるを得ることと為せり
 第三 原案第三十五条には選挙人は投票所に於て投票用紙に自ら被選挙人一名の氏名を記載し云々とありて、所謂単記投票なれども衆議院は此一名の二字を削り連記投票に修正したり
 第四 原案によれば市は総て独立選挙区と為し、東京市は二十八人の代議士を、京都市は七人、大阪市は十一人、横浜市は四人、長崎市二人、其他堺・姫路等の如き小市にありても、市制実施の地にありては一人の代議士を選出し得るの規定なりしか、衆議院にては全国中東京・大阪・京都・横浜・神戸・名古屋・金沢・広島の八大市を除くの外は市の独立を非認し、総て郡部と合併の上一県を通じて一選挙区に修正したるのみならず、前記八大市にありても東京の代議士数二十八人を十七人に、大阪市の十一人を九人に、以下夫々減員したると同時に、千葉・埼玉・福島外二・三県の代議士は一名宛原案よりも増加し、全国を通じて四百四十人となれり
故に衆議院修正の要点は第一単記投票法を改めて聯記投票法と為した
 - 第21巻 p.416 -ページ画像 
るに在り、利光鶴松・岸小三郎・田口卯吉・奥繁三郎・並河理二郎・前川槙造・薬袋義一・本間源三郎・斎藤信太郎の諸氏は、特別委員少数者の意見として、聯記投票法を単記投票法の原案に復活せんことを発議したれども採用せられざりき
原案は議員総数三百人を四百七十二人に増加せんとしたるものにして修正案は之を減じて四百四十人と為せり、原案は農民撰出の議員をも固より増加すと雖も、大に市の議員即ち商工撰出の議員を増加せんとするに在り、即ち郡部に於ては人口十万に付議員一人の割合を執ると雖も、市部に於ては人口五万に付議員一人の割合となし、五万以下の市と雖も、尚一人の議員を選出せしむることと為せり、然るに修正案に於ては郡部は人口十万に付議員一人と為すも、市部は人口八万に付議員一人と為し、八万以下は郡部と合併して議員を選挙せしむることと為せり、而して政府は此の商工の代表者を減少したる修正案に反対し、又単記投票法を改めて聯記投票法と為したる点に対して、絶対的反対を為し、此の二点が原案に恢復せられざる以上は、之を法律と為すことに対し反対せざるを得ずと云へり、余輩は此の二点に於ては政府の意見に賛成を表するものなり



〔参考〕東京経済雑誌 第三九巻第九六八号・第三九〇―第三九二頁 明治三二年三月四日 ○衆議院議員選挙法案の修正(DK210068k-0009)
第21巻 p.416-418 ページ画像

東京経済雑誌  第三九巻第九六八号・第三九〇―第三九二頁 明治三二年三月四日
    ○衆議院議員選挙法案の修正
政府の提出に係る衆議院議員選挙法改正法律案は、衆議院の特別委員会に於て修正し、更に本会議に於て修正可決し、以て之を貴族院に送付せり、今衆議院修正の要点を摘記すれば左の如し
 選挙資格 原案は地租五円、其他は三円とありしを、均しく五円に改めたり
 投票 は制限聯記にして記名、且つ代書を許す、其制限聯記の割合は左の如し
  三人以上の議員を選出すべき選挙区に於ては其選出すべき議員数の三分の二を記載して投票すべし、若し三分の二に端数を生じたる時は尚一人を加へて記載すべし
  二人を選出すべき選挙区に於ては一人を記載して投票すべし
 市郡の割合 原案には郡は十二万人につき一人、市は五万人以下一人、八万人を加ふる毎に一人を増すことなりしを改めて郡市共に十万人につき一人を出す事、而して市は総て独立する事、又四捨五入の法を採り五万人以上を増す事とせり
 議員数 原案は総数四百四十五人、其内市九十八人なりしが、之を改めて総数を四百七十人とし、市を七十六人とせり
 北海道・琉球及び島嶼 北海道議員は原案に三名とありしが、之を修正して六人を出すことゝせり、即ち左の如し
  全道を三区に分ち札幌・小樽・岩内・増毛・宗谷・上川・空知・室蘭・浦河を一区として三人、函館・松前・亀田・檜山・寿都を一区として二人、根室・姫路・川西、網走を一区として一人を選出せしむ
 琉球本島よりは二名の代議士を出す事とし、五島と佐渡と隠岐とは
 - 第21巻 p.417 -ページ画像 
人情風俗を異にするを以て特に一選挙区となす
 新市 現在市制を施行せざるも、四月一日より市制を実施すべき丸亀・若松・門司には特に独立選挙権を与へたり
投票の方法と、市郡に於ける議員数の割合とは、修正要点中の最なるものなり、依りて此の二点に就て議事の経過を査察するに、特別委員会に於ては多数を以て投票は制限聯記にして記名と決し、其の制限の割合は十名の議員を選挙する時は五名を聯記し、十一名の場合に於ては六名を聯記するに在りしが、少数委員は悉皆聯記するの意見を報告せり、前者は自憲党の党議にして、後者は進憲党の党議に基けるものなり、而して本会議に於ては右の二説を賛成するものと、原案即ち単記にして無記名を賛成するものとありしかば、順次に採決したるに、少数委員の意見は百五十一に対する百十七の少数にて否決せられ、委員会の説は百五十に対する百五の少数にて否決せられ、原案亦少数にて否決せられたり、是に於て星亨・西原清東・山口熊野・永江純一・田口卯吉・武市彰一・堀田連太郎・加藤政之助、浜口吉右衛門の九氏を起草委員に挙げて更に原案を起草せしめたるに、三分の二の制限聯記と為すことに決し、聯記説に反対したるは独り田口氏のみなりき、而して本会議は大多数にて之を可決せり
又特別委員会に於ては、多数を以て市郡共に人口十万に付議員一名を出すこと、市は凡て独立の選挙区と為し、十万未満の市と雖も、苟も市たる以上は少なくも一名の議員をば出すことと決したるに、少数委員は五万以上の市に限り独立の選挙区として議員一名を出すの意見を報告せり、是亦前者は自憲党の意見にして、後者は進憲党の説なり、而して本会議に於て少数委員の意見は否決せられ、委員会の修正は可決せられ、原案には田口氏賛成の演説を為したれとも採決するに至らざりき、以上の修正に依りて生すべき議員の数を以て原案と比較すれば左の如し

       修正案   原案     比較
 市部議員   七六   九八  (-)二二
 郡部議員  三九四  三四七  (+)四七
  合計   四七〇  四四五  (+)二五

即ち修正案は原案に比し議員総数に於て二十五名を増加したるにも拘らず、市部議員は原案に比し二十二名を減少せり、故に修正案は市に減して郡に加へたるものなり、抑々議会は議員より成立するを以て、選挙法の改正案は即ち議会改革案ならざるべからず、前記の修正案に依りて果して改革の目的を達し得べきや否や、改革の点は固より一にして足らずと雖も、最大要点は市部の議員数を増加するに在り、即ち市部議員の数をして少くも三分の一を占有せしめざるへからず、然るに原案に於ては九十八名に対する三百四十七名と為せるを以て、余輩は其改革に大利なきを憂ひたり、況や七十六名に対する三百九十四名と為せる修正案に於てをや、政府は制限聯記にして記名の投票法には反対を表明したれども、市部の議員を減少することに対しては敢て不同意を表明せざりき、故に今後貴族院の修正を経るも、余輩は之に依りて議会改革の目的を達すべからざることを断定せざるへからざるな
 - 第21巻 p.418 -ページ画像 
り、嗚呼地主議会の弊亦大ならずや



〔参考〕東京経済雑誌 第三九巻第九七〇号・第四九七―四九八頁 明治三二年三月一八日 ○衆議院議員選挙法改正法律案の不成立(DK210068k-0010)
第21巻 p.418-419 ページ画像

東京経済雑誌  第三九巻第九七〇号・第四九七―四九八頁 明治三二年三月一八日
    ○衆議院議員選挙法改正法律案の不成立
政府の提出に係る衆議院議員選挙法改正法律案を衆議院に於て修正したる事、及び其修正要旨は前々号の紙上に於て報道したるが如し、而して貴族院は之を政府の原案に復活して衆議院に廻付したるに、衆議院は之を承諾せざるを以て、協議会を開きたるに、双方の委員各々自院の意見を確執して譲らず、終に本案は不成立となれり、今や議会は政府の操縦と御用商人の請托とに依りて左右せらるゝに至りたりと雖も、選挙法改正の必要なることは依然たるべし、如何となれば選挙法の改正案は即ち議会の改革議案たらざるべからざればなり、依りて余輩は貴衆両院意見の衝突及び其の確執に関する議事の経過を観察して他日の参考に供せんとす
貴族院に於る本案特別委員会に於ては、選挙人の年齢資格は満二十五年以上、納税資格は直接国税十円以上と修正し、北海道の議員は政府案の通り札幌・函館・小樽の三区各々一人と為し、衆議院の加へたる沖縄県の議員は削除し、議員と人口との割合は市部は五万以上八万までの市は一人、其以上は八万毎に一人と為し、郡部は十万毎に一人とし、而して投票は政府案の通り無記名単記と為せり、此の修正に対し子爵曾我祐準氏等の少数委員は衆議院修正の通り沖縄県の議員を加ふべしとの意見を報告し、又三崎亀之助氏等の少数委員は政府案復活の意見を報告せり
斯くて多数にて二読会を開くことに決し、第一条議員の数を規定せる別表を以て議題と為し、松岡康毅氏は修正案を提出し、市部は人口十万に付議員一人とし、其の以下は四捨五入に依り、五万以上の市は一人を出し、五万以下は郡部と合して一選挙区とし、郡部は人口十三万人に付議員一人とせり、然れども松岡氏の修正説は少数にて否決せられ、委員会の修正も亦消滅し、三崎氏少数委員の意見通り政府案に復活し、三条以下の各条も亦大抵政府案を復活し、斯くて三読会を経て可決確定せり、今試みに衆議院の加へたる修正にして存するものを挙れば、第三十一条に投票管理者は投票の期日より少くとも三日前に投票所を其の投票区内に告示すべしとある三日を五日に修正したると、別表中に加へたる沖縄県の議員とあるのみ、而して該県の議員を削除せざるは他の条に沖縄県には当分議員の選挙を行はざる旨を規定せるを以て、存するも差支なしと云ふに在りしなり
衆議院は殆ど全会一致の有様にて貴族院の議決を否認し、両院より各各十名宛の協議委員を出して協議会を開き、更に三名宛の委員を出して商議せしめたるに、結果を見ず、依りて再び協議会を継続し、貴族院の議決案を以て議題として採決したるに、衆議院の委員十名は之に反対し、貴族院の委員九名は賛成し、他の一名たる黒田侯爵は議長席に在りて議決の数に加はらざりしかば本案は否決せられたり、是に於て其の結果を衆議院に報告したるに、該院に於ては衆議院の協議会《(マヽ)》の成案として可決し、以て之を貴族院に通知せり、即ち左の如し
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    衆議院議員選挙法改正法律案
 右本院に於ては衆議院決議案を成案として可決せり、因て議院法第五十六条に依り及送付候也
  明治三十二年三月九日    衆議院議長 片岡健吉
    貴族院議長 公爵 近衛篤麿殿
近衛貴族院議長は之を議場に報告するに当り、議員の注意を喚起して曰く、衆議院の決議案を成案とするには協議会に於て更に其決を採らさるへからず、然るに其の決を採らずして置きなから、直ちに右決議案を成案として送付し来りたるは不穏当と謂はさるへからず、依りて衆議院の議決を否認せは可なるべしと、而して賛成と呼ふもの多かりしかば、議長は更に衆議院の送付に係る成案は自然否決と看做して異議なきやと問ひて其の異議なきを確めたり
是より先き協議会に於て衆議院の委員は、投票方法は単記無記名の貴族院の議決に譲歩すへきに付、議員数は衆議院の議決を容るべしと交渉したるに、貴族院は之を拒絶したりと云ふ、是に於て衆議院は本案不成立の責を以て貴族院に帰すと雖も、議会改革即ち市の議員を増加するの点より云へば、貴族院の修正は成功に近きを以て、余輩は貴族院か之を拒絶したるを以て適当の処置と認めさるへからず、即ち将来選挙法改正の目的を達せんとするには、貴族院よりは衆議院を説得せさるへからず、英国に於て勅諭を以て貴族院を説得し、玆に始めて改革の目的を達したるとは正反対なり