デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第21巻 p.428-436(DK210073k) ページ画像

明治32年2月22日(1899年)

是日栄一当会議所会頭トシテ、印刷料紙輸入税廃止ヲ意図スル関税定率法改正案ハ内地ノ製紙業ヲ衰頽セシムル虞アルヲ以テ、政府ハ之ニ同意セザランコトヲ、大蔵大臣伯爵松方正義・農商務大臣曾禰荒助ニ建議シ、之ヲ否決センコトヲ貴族院議長公爵近衛篤麿・衆議院議長片岡健吉ニ請願ス。


■資料

渋沢栄一 日記 明治三二年(DK210073k-0001)
第21巻 p.428 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治三二年     (渋沢子爵家所蔵)
二月二十日
○上略 四時商業会議所ニ於テ臨時会ヲ開ク ○中略 輸入紙税廃止ヲ非トスルノ事ヲ議決ス ○下略


東京商業会議所月報 第七九号・第八頁 明治三二年三月 【○同月 ○二月二十日…】(DK210073k-0002)
第21巻 p.428-429 ページ画像

東京商業会議所月報  第七九号・第八頁 明治三二年三月
○同月 ○二月二十日、本会議所ニ於テ第八十一回臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者ハ左ノ如シ
 八尾新助君 ○外十七名氏名略
午後五時開議、会頭渋沢栄一君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ午後五時三十分閉会ス
○中略
 一印刷料紙ノ無税輸入ヲ非トスル件 (会員提出)
本件ハ会員藤山雷太君ノ提議ニ係リ、其要旨ハ、目下印刷料紙ノ輸入税ヲ廃止セントスルノ議アリ、万一実行セラルヽニ於テハ内地ノ製紙業ヲ衰頽セシムル恐レアルニ付、右輸入税ヲ廃止スルガ如キコト無キ
 - 第21巻 p.429 -ページ画像 
様政府ニ建議シ、議会ニ請願スヘシト云フニ在リ、審議ノ末之ヲ可決シ、建議・請願書ノ起草並ニ提出方ハ役員会議ニ一任スルニ決ス


東京商業会議所月報 第七九号・第九頁 明治三二年三月 【○同月 ○二月二十二…】(DK210073k-0003)
第21巻 p.429 ページ画像

東京商業会議所月報  第七九号・第九頁 明治三二年三月
○同月 ○二月二十二日、印刷料紙ノ無税輸入ヲ否トスル件ニ付大蔵・農商務両大臣ニ建議書ヲ、貴族・衆議両院ニ請願書ヲ進達ス(建議書・請願書ノ全文ハ参照ノ部第四号ニ掲載ス)


東京商業会議所月報 第七九号・第一一―一二頁 明治三二年三月 【○参照第四号 明治三十二年二…】(DK210073k-0004)
第21巻 p.429-430 ページ画像

東京商業会議所月報  第七九号・第一一―一二頁 明治三二年三月
○参照第四号
 明治三十二年二月二十日第八十一回臨時会議ノ決議ニ依リ、印刷料紙ノ無税輸入ヲ否トスル義ニ付、同月二十二日附ヲ以テ大蔵・農商務ノ両大臣ニ進達セシ建議書、貴族・衆議両院ニ呈出セシ請願書全文ハ左ノ如シ
    印刷料紙ノ無税輸入ヲ否トスル義ニ付建議(請願)
頃者印刷料紙輸入税ノ廃止ヲ主張スルモノアリ、之ニ関スル関税定率法改正案ハ已ニ衆議院(衆議院ヘ提出ノ分ハ、貴院)ニ提出セラレタリト聞ク、今ヤ我国ノ製紙業ハ頗フル発達シ、其製出スル所ノ紙類ハ独リ輸入品ト拮抗シ得ルノミナラス、進テ輸出重要品タラントスルノ実況アルモ、尚時ニ低廉ナル原料ニ依リテ製造セラレタル外国品ノ輸入ニ遇ヒ、大ニ我製産業ノ妨ケラルヽ事実アル為メ、近時我製紙業者ハ彼ト同一ナル原料及製法ヲ採用シテ、以テ市場ノ競争ニ耐ヘント勉メツヽアリ、若シ是時ニ当リ之カ輸入税ヲ廃止スルカ如キアラン乎、其結果内地製紙業ハ忽チ衰頽シ国家経済上少カラサル不利ヲ被ムルニ至ルヘキヤ多言ヲ須ヒスシテ明ナリ、蓋シ原料品ニ在テハ特ニ輸入税ヲ免除スルヲ必要トスル場合ナキニ非サルモ、原料ニ非サル製品ニ向テハ相当ノ輸入税ヲ課シ、以テ内地工業ノ発達ヲ助クルハ、我国ノ現況ニ於テ当然取ルヘキ方針ナリ、例ヘハ輸入棉花ノ税ヲ廃シテ綿糸ニ相当ノ課税ヲ為セシカ如キ畢竟此方針ニ出テタルニ外ナラス、然ルニ此際印刷料紙ニ対シテ其輸入税ヲ廃止セントスルハ、従来ノ方針ニ矛盾スルノ甚シキモノト謂ハサル可ラス、抑モ税権ノ回復スルコトハ多年我国ノ熱望シタル所ニ非スヤ、新関税率実施ニ従ヒ各種輸入税ノ従前ニ比シテ稍高率トナリシハ固ヨリ其所ニシテ、唯印刷料紙ノ一種ノミ高率ノ課税トナリシニハ非サルナリ、事情是ノ如クナルニ関セス、既得ノ税権ヲ抛棄シ、延テ内地製産業ノ発達ヲ阻害スルモ顧ミス、妄ニ其輸入税ヲ廃止セントスルカ如キハ、本会議所ノ断シテ取ラサル所ナリ(願クハ閣下斯ル無謀ノ法案ニ対シテハ同意セラルヽナカランコトヲ)(願クハ貴院速ニ之ヲ否決セラレンコトヲ)
右本会議所ノ決議ニ依リ建議(請願)仕候也
  明治三十二年二月廿二日
             東京商業会議所会頭 渋沢栄一
    大蔵大臣  伯爵 松方正義殿
    農商務大臣    曾禰荒助殿
    貴族院議長 公爵 近衛篤麿殿
 - 第21巻 p.430 -ページ画像 
    衆議院議長    片岡健吉殿



〔参考〕東京経済雑誌 第三九巻第九六六号・第二七六―二七七頁 明治三二年二月一八日 ○印刷料紙の輸入税は廃止すべし(DK210073k-0005)
第21巻 p.430-431 ページ画像

東京経済雑誌  第三九巻第九六六号・第二七六―二七七頁 明治三二年二月一八日
    ○印刷料紙の輸入税は廃止すべし
本年一月より実施せられたる新輸入税目、即ち関税定率法・同輸入物品従量税目・日英協定税目・日独協定税目に於ては印刷料紙に対し左の輸入税を課せり

                         割
 関税定率法     (従価)         一・五
                         円
 同 輸入物品従量税目(百斤に付)       一・七五七
                         割
            従価          一・〇
 日英協定税目
                         円
            百斤に付        一・一六三
                         割
            従価          一・〇
 日独協定税目     一枚千八十六方「インチ」より少からさるもの五百枚毎に二十四「ポンド」以下の重量を有する者百斤に付
                         円
                         ・八〇〇
            其他各種の印刷料紙百斤に付
                         円
                        一・一六三

従量税は従価税を換算したるものにして、実際施行せられつゝあるは此の従量税なり、而して朝鮮・支那等の如く我が邦に於て最恵国均霑の特権を有せざる国より輸入せらるゝ印刷料紙を除き、欧米各国産の印刷料紙は専ら日独協定税率を適用せらるべし、何となれば日英協定税率に於ては印刷料紙量目の軽重を問はず、均しく百斤に付一円十六銭三厘と定めたりと雖も、日独協定税率に於ては軽量品は百斤に付八十銭、重量品は百斤に付一円十六銭三厘と定めたれば、英国産の印刷料紙も軽量品は日独協定税率に均霑して八十銭を納税するに過ぎざるべく、又米国其他の如く協定税率を有せざる国の印刷料紙も、日独協定税率に均霑すべければなり、然らば日独協定税率を欧米産印刷料紙に適用するの結果果して如何、今試みに既往二年間に就きて印刷料紙の輸入高を見るに左の如し

           数量              元価
                斤           円
 三十年    九、九四五、二四八    八五六、九五七・一〇〇
 三十一年  三一、七六一、九六九  二、二八三、二一四・五八〇

此の印刷料紙の輸入数量中幾何は百斤に付八十銭を課せらるべき軽量品にして、幾何は一円十六銭三厘を課せらるべき重量品なるやは今之を知るに由なきを以て、一は悉く重量品と見て百斤に付一円十六銭三厘を課し、一は軽量品と重量品と相半はすと見て八十銭と一円十六銭三厘との平均額を課すれば其収税額左の如し
                             斤
 印刷料紙輸入数量           三一、七六一、九六九
                           円
 此の輸入税(百斤に付一円十六銭三厘) 三六九、三九一・六九
 同    (百斤に付九十八銭一厘)  三一一、六六三・三九
即ち昨年の輸入高にて三十一万一千円乃至三十六万九千円の輸入税を徴収せらるゝものにして、将来我が邦文運の進歩と共に、印刷料紙の輸入高は益々増加すべきを以て、其の収税額も亦益々増加せずんばあらず、右の税額を以て昨年徴収せし従価五分税額に比すれば左の如し
 - 第21巻 p.431 -ページ画像 

                            円
 印刷料紙昨年収税額           一一四、一六〇・七二
              円
         百斤に付一・一六三   三六九、三九一・六九
 同 仮定収税額
         百斤に付 ・九八一   三一一、六六三・三九

夫れ印刷料紙に対する旧輸入税率は従価五分にして、日英・日独協定率は従価一割なるを以て、旧税率を倍加せしものに過ぎずと雖も、従量税に換算せし結果は右の如く三倍の増税となるべきなり、而して此の増税額丈け我が邦の紙価は騰貴すべきを以て、印刷料紙増税の結果は学問教育に課税して内地の洋紙製造業を保護することとなるべき也然れども学問教育に課税して洋紙製造業を保護するが如きは、悖道理の甚しきものと謂はざるべからず、思ふに協定税則を締結せし当局者と雖も、決して学問教育に課税しても、内地の洋紙製造業を保護せんとの精神にはあらざるべし、然れども其結果は則ち然るを以て、是れ宜しく印刷料紙を関税定率法有税品中より削除し、以て英・独各国産の印刷料紙をして之に均霑せしむべきなり、若し内地の洋紙製造者にして之に反対せば是れ即ち国家富源の根元たるべき学問教育に反対するものたるを以て、国家の公敵として之を攻撃すべきのみ



〔参考〕東京経済雑誌 第三九巻第九六八号・第三八五―三八六頁 明治三二年三月四日 ○印刷料紙の輸入税免除論(DK210073k-0006)
第21巻 p.431-432 ページ画像

東京経済雑誌  第三九巻第九六八号・第三八五―三八六頁 明治三二年三月四日
    ○印刷料紙の輸入税免除論
印刷料紙の輸入税は従前は百分の五の従価税なりしが、今や関税定率法に因り百分の十五となり、日英追加条約及び日独追加条約に因り上中下平均和百斤に付一円十六銭三厘となり、英百斤に付大凡そ九十銭となりしかば、百斤五円の印刷料紙に対しては大凡そ一割八分となれり、是に於て乎全国新聞社・雑誌社・書籍店等は挙りて之に反対し、之を全廃せんことを希望し、衆議院に運動することとなれり
昨年に於ては印刷料紙の輸入したるもの三千百七十余万斤なり、是れ全く本年より関税の増加すべきを見込み、之に先ちて輸入したるものにて、其紙類現に横浜商館の庫中に累積せりとの事なれば、之を以て平時の輸入高と見るべからざるなり、思ふに平時の輸入高は大約一千万斤と見て可なるべし、然らば則ち輸入税の国庫に入るもの一ケ年九万円に過ぎざるべきなり
輸入税の国庫に入るものは此の如く小額なりと雖も、国民の紙価騰貴に由り損失する金額は極めて巨額なりとす、試みに此新税の為に外国の輸入紙は悉く排斥せられたりと仮定せよ、輸入税は一銭も国庫に入らざるべし、然れども国民は尚ほ紙価騰貴に損失すべし、故に此高価は政府に払ふものにあらずして、製紙会社を補助するものなりとす、製紙会社の報告によれば、一ケ年の産出額は大約一億七千万斤なりと云へり、然らば則ち日本国民の紙価騰貴に損失する金額は百五十三万円なりとす、実際に於ては固より之より小額なるべし、然れとも外国輸入紙の競争は其以上に於て行はるゝことにて、其以下に於ては製紙会社は競争を免るゝことなり、国民をして租税以外に更に製紙会社の補助金を負担せしむるは良制度にあらざるべし
殊に昨年一月文部省第六十一号の告示に依れば、今後は小学読本と雖も西洋紙を使用すべき事なり、然らは則ち最も紙価の高貴に苦むもの
 - 第21巻 p.432 -ページ画像 
は小学児童の父兄なるべし、抑も小学校の教育費に関しては国庫補助論さへあることにして、既に衆議院を通過せり、其金額は幾何なるやは未定の問題なりと雖も、今日の国庫は決して巨額の支出を許さゝるや論なきなり、然るに其父兄に対して巨額の貨幣を徴収し、製紙会社を補助せしむるとは抑も何等の理由ぞや
又た地図・海図及其の他学術図・書籍・習字本・習画本及新聞雑誌等は免税品の部類に属せり、故に此制度の下に於ては、或ひは海外に於て書籍・習字本となして、而して輸入するを利ありとすることなしと云ふべからず、是れ豈に非常の欠典にあらずや
或ひは此関税を免除するときは製紙会社は営業を為す能はざるに至るべしと論するものあり、然れとも余輩を以て之を見れは是杞憂なり、抑も今日諸会社の困難を感するは戦後経営の結果として諸物価賃銀騰貴したるに基くことなり、現に数年前に於ては二割を配当したるの会社ありしにあらずや、去れは我兌換券の収縮し、物価の平準に帰するに至らば、我製紙会社は決して外国の輸入紙を恐るゝものにあらず、余輩は其時機の既に到達せるを見るものなり、何ぞ海外万里の外より輸送し来る所の製紙と競争する能はざるの理あらんや



〔参考〕第十三回帝国議会衆議院議事速記録 第三五号・第五一六―五一八頁 明治三二年二月刊(DK210073k-0007)
第21巻 p.432-436 ページ画像

第十三回帝国議会衆議院議事速記録  第三五号・第五一六―五一八頁 明治三二年二月刊
  関税定率法附属輸入税表中改正法律案(田口卯吉君外一名提出) 第一読会
    関税定率法附属輸入税表中改正法律案
 明治三十年法律第十四号関税定率法中左ノ通改正ス
  附属輸入税表第一種第十一類中、「二九二 印刷料紙 一、五」ノ九字ヲ削リ、第二種中四九八号ノ次ニ左ノ一号ヲ加フ
   四九八ノ一 印刷料紙
○田口卯吉君(百四番) 議長
○議長(片岡健吉君) 田口卯吉君
   〔田口卯吉君演壇ニ登ル〕
   〔「長ケレバ反対ダ」ト呼フ者アリ〕
○田口卯吉君(百四番) 満場ノ諸君、本案提出ノ理由ヲ述ベマスルガ此案ハ随分関係ノ広イコトデゴザイマスルカラ、簡短ニ述ベマス積デゴザイマスルガ併シ暫ク御清聴ヲ請ハネバナリマセヌ(「委員付託」、「長ケレバ否決」ト呼フ者アリ)一体此外国ヨリ這入リマス印刷料紙ト云フモノハ、是マデハ御承知ノ如ク五分税デゴザイマシタ、然ルニ関税定率ノ定メラレタトキニ、之ガ一割五分トナリ、日英条約及ビ日独条約ニ依ツテ之ガ一割デ、従量税ニ改メマシテ、凡ソ百斤ニ附キ九十銭バカリノ税ニナリマスノデゴザリマス、此税ノ結果国庫ニ這入リマスノハ、平均一千万斤ノ輸入ガアルト見マスレバ、凡ソ一箇年ニ九万バカリノモノガ、国庫ニ這入ルモノト信ジマスル、又時ニ盛衰ガゴザリマスルガ、併シソレハ別トシテ、平年ニ致シマシタラバ、其位ノモノト思フ、併ナガラ此税ノ結果、国民ノ負担ト云フモノハ、余程ヒドイモノデ、此紙ノ価ノ騰貴ノ結果ト致シマシテ、紙ヲ使フ所ノ人ノ費用ト云フモノハ、非常ナモノデアル、此案ニ附キマシテハ、御承知
 - 第21巻 p.433 -ページ画像 
ノ如ク既ニ製紙会社ハ、頻ニ反対ヲ致シタリ――ソレハ反対ヲ致シマスルノハ、無理モナイコトヽ信ジマスルガ、併ナガラ私ハ此処デ諸君ニ訴ヘテ見タイト思ヒマスルノハ、日本国民ハ租税ヲ納ムル義務ハ持ツテ居ルガ、製紙会社ヲ補助セネバナラヌ義務ヲ持ツテ居ルカドウカト云フノデ(「理窟ヲ云フヨリハ委員付託」ト呼フ者アリ)例ヘバ製紙会社――今日製紙会社ガ製造致シマスル紙ノ数ト云フモノハ、凡ソ一億七千万バカリデアルサウデゴザイマス、此紙ガ凡ソ百斤ニ附キ唯今申シマシタ如ク九十銭モ掛リマスルト、年々紙ヲ需要スル人ノ損失ト云フモノハ、百四十万円以上ノ損失ニナルノデス、国庫ニハ僅ニ九万程ゴザイマスルガ、全国ノ此紙ヲ消費スル人ノ損失ハ、百四十万程ノ損失ニナル、而シテ是ハドウ云フ者ガ利益スルカト云フト、僅ニ十社バカリノ製紙会社ガ得ヲスルノデ(「外国カラ余計這入ツテ来タラドウシマス」ト呼フ者アリ)而シテ特ニ私ハ諸君ニ申ゲテ見タイト申シマスルノハ、是ハ教育上ニ大関係ヲ持ツノデ、昨年ノ十月文部省ハ教育上ニ於テ紙ヲ改良シナケレバナラヌト、六十一号ノ告示ヲ以テ、今後ノ教科書ノ標準ト云フモノヲ定メラレマシテゴザイマス、此標準ニ拠レバ今後ハ小学校ノ教科書ト云フモノハ、大概西洋紙ヲ用フル訳ニナル訳デゴザイマス、而シテ見マスレバ、今後ノ此教科書ト云フモノハ、皆此租税ヲ負担スル訳ニナル、前ニモ此小学校ノ生徒ニ向ツテ国庫補助ヲナサルト云フマデニ、諸君ハ此小学児童ニ対シテ、国民教育ヲ奨励スルコトニハ、御熱心デゴザイマスルガ、小学ノ此教科書ノ価ヲ騰貴スル法案ト云フモノニハ、如何デゴザイマセウ、此小学ノ教科書ト云フモノハ、即チ国民ニ向ツテ税ヲ掛ケタト同ジコトナンデ、其税モ宜イ――税モ宜シイガ、此税ハ国庫ニ這入ルノデハナクテ、而シテ製紙会社ニ這入ルト云フ(「ヒヤヒヤ」ト呼フ者アリ)負担ヲ此教科書ヘ向ツテ掛ケラレルト云フコトハ、実際私共先刻諸君ガ御議決ナサレタ決議トモ大反対ナ決議ト私ハ信ジマスル、加之ナラズ此新聞ノ事業ノ如キハ、諸君モ随分多年政府ニ向ツテ自由ナラシメント、御反対ニナツタコトデゴザイマセウガ、新聞事業ニ向ツテ一番ノ妨害ハ何デアルカト云フト此紙デアル、圧制ヲ行ハウトナラバ、新聞ヲ発行停止、其他ヨリハ一番強イノハ、西洋紙ノ輸入税ヲ高クスレバ、新聞社ハ必ズ衰零スル――衰ヘルノデアリマスル、諸君ガ民権自由ヲ主張セラレルナラバ、此紙ノ輸入税ヲ免除スルヨリ外ハナイ、マタ其外モツト述ベタイコトモゴザイマスルガ、斯ノ如ク免除致シマシタ所ガ、然ラバ此製紙会社ニ向ツテ、ドノ位ノ影響ガアルカ、百斤ニ附イテ九十銭、決シテ之ガ製紙会社ニ向ツテ大ナル打撃ト云フノデハナイノデス、製紙会社ニ向ツテ百斤ニ附イテ九十銭ト云フコトハ、ソレ程大シタコトデハナクツテ、而シテ一方ニ小学児童並ニ新聞社其他書籍屋ニ向ツテハ、之ガ非常ノ重荷ニナル、諸君ヨ、彼ノ製紙会社ト新聞社ト孰レガ富ミ且ツ貧シキカ、彼ノ小学児童ト製紙会社ト、孰ガ富ミ且ツ貧シキカ、私ハ多弁ヲ要サス、而シテ製紙会社ガ斯ノ如キ負担ト云フモノハ、今日製紙会社ガ営業ニ苦ンデ居ルト云ヒマスルケレドモ、此位ノコトニ苦ム理由ハナイト考ヘマスル(「製紙会社ノ株主ノ外ハ皆賛成ダ」ト呼フ者アリ)サウ云フ訳デゴザイマスルカラ是ガ若シ此金
 - 第21巻 p.434 -ページ画像 
ガデス、国庫ニ総テ這入ル訳ナラバ、私共何ゾ苦情ヲ言ハン、併シナガラ一方ノ人民ニ課税ノ如キモノヲシテ、サウシテ製紙会社ニ御奉公ヲサスルト云フ如キ結果ニナル制度デゴザイマスルカラ是ハ速カニ免除シタイト思ヒマス、併ナガラ随分関係ノ多イコトデゴザイマスカラ何卒委員ヲ御選ミナスツテ、審査セラレンコトヲ希望致シマス
○神鞭知常君(二百九十三番) 議長
○議長(片岡健吉君) 神鞭知常君
  〔「討論終決」ト呼ヒ、又「片方バカリデハ討論ニナラヌ」ト呼フ者アリ〕
  〔神鞭知常君演壇ニ登ル〕
  〔「是デ後トハ討論終結ダ」ト呼ヒ、又「反対演説ハカミムチ君ガヤルノカ」ト呼フ者アリ〕
○神鞭知常君(二百九十三番) 輸入税ノ廃止ノコトニ附キマシテハ、前年来丁度栗原君抔ト一緒ニ此輸入税則ノ調ヲ年々引続イテ致シマシタ関係モゴザリマスシ、旁々ドウシテモ是ハ一応御聴ヲ煩ハサネハナラヌト思ツテ登ツテ参リマシタ、是ハ私ハ田口君ノ御説ノ如ク、小学児童ニモ新聞ニモ気ノ毒、殊ニ多数ノ新聞ガ聯合シテ斯ノ如キコトヲ請求シテ居ル場合ニ、私等ガ反対スルノハイヤナコトデアリマスケレドモ、断然反対セネバナラヌト思フ(恒松隆慶君「ソレガ議員ノ議員タル所ダ、ソンナコトニ構フモノカ」ト呼フ)全国デマダ紙屋ハ田口君ノ御説ノ如ク十幾軒ヨリアリマセヌ、デ総資本額ハ千二・三百万円ダサウデアリマス、其内実際募集シテヤツテ居ル金高ハ千万ソコソコ製造ノ紙モ一年ニ千万ソコソコシカ内地デハ出来ヌサウデゴザイマス而シテ新聞雑誌ニ使フノガ年々凡ソ二百幾万、先ヅ三百万、二百万カラ三百万ノ間ダサウデゴザイマス、其点カラ申シマスト云フト、金高ハ多イヤウダガ、四千二百万人ノ人口ノアル国ノ新聞雑誌ノ総高トシテハ、至ツテ少イモノデアリマスカラ、ソレ程心配スルヤウニハ思ヒマセヌガ、他ノ一面カラ考ヘルト云フト、丁度是ガ外国カラ学ンデ日本デ業ヲ行ウテ居ル中デハ、紡績所其次ニハ製紙ト云フ位ノ地位ニ至ツテ居ル、凡ソ三万以上四万近イ人ガ、是ニ掛ツテ居ルコトニナツテ居ルサウデアリマス、デ、若シ斯ノ如キ事業ニシテ、此国定ノ方デハ一割五分ノ税デアツタノヲ協定税率ニ依ツテ一割マデ下ゲラレテ居ルノニ、此協定税率デ下ゲラレタニモ拘ラズ、尚ホ内デ之ヲ廃スルト云フヤウナコトヲ致シテ、此成立ヲ危ク致シマスルト云フコトナラバ、此国ニ漸次誘導セネバナラヌ所ノ事業ハ、到底発達ノ見込ハナカラウト思ヒマス、デ小学児童実ニ一銭ナリトモ一厘ナリトモ、教科書ノ値ヲ下ゲテヤリタイ、併シ響ク所ハドノ位響クカト云フト、聞クニ此税率ノ割合ヲ以テ和斤一斤、即チ百六十目ニ附イテ一厘何毛、即チ百斤ニ附イテ一円十六・七銭負フコトニナツテ居ル、サウスルト何デモ八頁ノ新聞デ一箇月分デ税ヲ負担スル所ガ、一銭ニ満タナイトカ申スコト(田口卯吉君「一箇年百四十万」ト呼フ)金額ハ総額ニ致シマスレバ、百四十万ト云フト、千何百万ノ製産額ニ対シテヾアリマスガ、御気ノ毒ナガラ新聞雑誌ノ使フ所ハサウ使ハナイ、漸ク二・三百万デアリマスカラ、一向サウ使ハナイ、ソレカラシテモウ一ツ比例ヲ取ラネ
 - 第21巻 p.435 -ページ画像 
バナラヌ、御承知ノ如ク輸入税ト云フモノハ「インキ」ニモ掛ケテアレバ、其他紙・製紙ノ原料ニ掛ケテアレバ、日本デ一番今我工業ノ発達シテ居ルト称ヘル棉製糸ニモ掛ケテアル、其棉製糸ノ如キハ、御承知ノ通極貧民ト雖モ著ナケレバナラヌモノデアル、是モ税ハ僅デアルガソレヲ掛ケテ内地デ発達スルヤウニシナイト云フト、遂ニ此貧民ニ至ルマデ買ハネバナラヌモノヲ外国カラ買ハネバナラヌヤウニナリマス、紙ノ如キモ又然リ、是等ノ事業ハ他ノ新聞紙ニ近来見エマスガ、木材製ニスルト云フトヤスク附ク、其木材製ト云フコトニ附イテハ一二ノ紙会社デハ既ニ著手シテ居ルサウデアル、ソンナノモ引合ハヌト云フコトカラ成立タナクナルト、外国カラ買ハネバナラヌヤウニナリマス、既ニ昨年ノ如キハ二百万円以上ノ輸入モアリマス、二百万円以上ノ既ニ輸入ガアルカラハデス、此上トテモ少シ相場ガ狂ツテ参リマスト云フト、随分輸入ハ多ク出来テ来ル、サウスルト僅ニ今修業中ニアル此業ト云フモノガ成立タナクナリマス、成立タナクナルト云フト遂ニ外国カラ高イ物デモ買ハネバナラヌト云フコトガアリマスカラ、小学児童構ハヌ、教育ニ関スル、又智識ノ発達ニ関スル新聞紙モ構ハヌト云フ訳デハナイケレドモ、新聞紙ニ附イテ云フ日ニナレバ、実ハ郵便ノトキニモ議論ガゴザイマシタガ、此新聞雑誌等ニ附イテハ、特ニ処分モアリサウダト云フ議論ハ間々アツタデ、必シモ紙ノ製造会社ヲ保護スルト云フ訳デナクシテ、此国ノ事業ノ発達ヲ期スルト云フ点カラ云ヒマスレバ、斯ノ如キ此国デ発達スル見込ノアル事業デアル、サウシテ今当ニ成立チ掛ケントシテ居ルモノハ、ドウカ此儘ニシテ置キタイ、且ツハ我外務省ハ或ル点カラ言ヒマスレバ、非常ニ不十分ナ働ヨリ見エヌヤウデアリマスケレドモ、散々骨ヲ折ツテ、漸ク協定税率デ一割ニ極メタモノヲ又容易ク破壊スルト云フコトハ、前年国定税率ヲ此議場デ極メタ其次第ヲ括ラレテ、多少ノ小言ヲ言ハント感ジテ居ルモノニ対シテ、物ニ取リマシテハドウシテモ賛成ノ出来ナイ点デゴザイマスカラ、ドウカ是ハ反対ニナルヤウ致シタウゴザイマス
  〔政府委員大蔵次官法学博士男爵田尻稲次郎君演壇ニ登ル〕
○政府委員(男爵田尻稲次郎君) 此法案ニ附キマシテハ、政府モ神鞭君ト共ニ反対デゴザイマス、神鞭君ト政府トノ説ガ一緒ニナルコトハ容易ニアリマセヌガ、此コトニ附イテハ誠ニ神鞭君ト同説デゴザイマス、理窟ヲ申シマストコヽニ沢山書類ヲ持ツテ居リマスケレドモ、最早明瞭ニアリマスカラ、ドウモ反対ノ位地ニ立ツノデゴザイマス
○西村淳蔵君(六十二番) 討論終結ノ動議ヲ出シマス
  〔「賛成々々」ト呼フ者多シ〕
○山田武君(二百九十一番) 本案ハ一応取調ノ必要ガアルト考ヘマスカラ、玆ニ委員付託ノ動議ヲ提出致シマス
  〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕
○議長(片岡健吉君) 委員付託ノ動議ガ出マシタガ、定規ノ賛成ガナイト認メマス
  〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕
○議長(片岡健吉君) 定規ノ賛成ガアリマスカラ、採決致シマス、委員付託ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
 - 第21巻 p.436 -ページ画像 
   起立者  多数
○議長(片岡健吉君) 多数ト認メマス、九名ノ委員ヲ議長ガ指名シテ御異議アリマスマイカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ、其通致シマス ○下略