デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第21巻 p.543-551(DK210098k) ページ画像

明治33年6月5日(1900年)

是ヨリ先当会議所、国家経済ノ方針ニ関スル儀ニツキ調査ヲ為シ、五月十五日商工業者大会ヲ開催シテ該件ヲ討議セシガ、是日栄一当会議所会頭トシテ、政府ハ速カニ国家経済ノ方針ヲ確立シ官民事業ニ権衡ヲ保タシメ、民業ノ発達ヲ促ガス諸方策ヲ実施センコトヲ内閣総理大臣侯爵山県有朋・
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大蔵大臣伯爵松方正義・逓信大臣子爵芳川顕正・農商務大臣曾禰荒助ニ建議ス。


■資料

東京商業会議所月報 第九三号・第三―四頁 明治三三年五月 【○明治三十三年四月二…】(DK210098k-0001)
第21巻 p.544 ページ画像

東京商業会議所月報  第九三号・第三―四頁 明治三三年五月
○明治三十三年四月二十五日、本会議所ニ於テ第九十一回臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者左ノ如シ
 末延道成君 ○外二十九名氏名略
午後五時開議、渋沢会頭事故アリテ遅参ニ付、副会頭大倉喜八郎君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後八時三十五分閉会ス
○中略
 一 経済界ノ状況ニ付政府ノ注意ヲ促カシ、社会ノ輿論ヲ徴シ、以テ其方針ヲ確立スノ件(会員提出)
本件ハ審議ノ末議長指名ノ委員九名ニ其調査ヲ附託スルニ決シ、議長ハ左ノ諸君ヲ委員ニ指名セリ(建議書ノ全文ハ参照ノ部第一号ニ掲載ス)
                   末延道成君
                   井上角五郎君
                   吉田幸作君
                   大橋新太郎君
                   朝吹英二君
                   雨宮敬次郎君
                   渋沢喜作君
                   益田孝君
                   田口卯吉君


東京商業会議所月報 第九三号・第五―六頁 明治三三年五月 【参照 ○第一号 経済界ノ現状ニ…】(DK210098k-0002)
第21巻 p.544-545 ページ画像

東京商業会議所月報  第九三号・第五―六頁 明治三三年五月
    参照
○第一号
 経済界ノ現状ニ付政府ノ注意ヲ促カシ、社会ノ輿論ヲ徴シ、以テ其方針ヲ確立スル為メ、臨時総会ヲ要求スルノ議
我経済界刻下ノ状態ヲ観察スルニ酷タ憂慮ニ堪ヘサルモノアリ、惟フニ、日清戦役ハ国威ヲ海外ニ宣揚シ、国民ノ元気ヲ鼓舞スルノ点ニ於テハ実ニ千載ノ盛事タリシト雖トモ、一利一害ハ数ノ免レサル所ニシテ、今日経済上ニ於ケル憂患ハ蓋シ之ヨリ胚胎シ来リタルモノヽ如シ夫ノ所謂戦後ノ経営ハ八千万円ノ国費忽チ二億円已上ニ暴進シ、随テ各般ノ事業ヲ膨脹セシメタレトモ、其膨脹ハ生産的事業ト不生産的事業ト適度ニ相並行セスシテ、不生産的事業ノ為メ海外ノ物品ヲ需要シ国民ノ財嚢ヲ糜ヤスコト甚シキニモ拘ハラス、生産的民間事業ノ不振ヲ速キ、戦後計画シツツアル事業スラ今ヤ殆ント中止セントスルモノ多キヲ観ルニ至レリ
然ルニ日本銀行ハ或ハ自衛已ムヲ得サルノ策ニ出ルニアルカハ知ラサレトモ、近来動モスレハ頗リニ金利引上ケヲ断行スルノ結果ハ遂ニ民間ノ事業ヲ縮少セシメ、以テ商工業ノ発展ヲ沮碍シ、生産力ヲ減殺スルニ至ラントス、是レ豈袖手傍観スヘキノ秋ナランヤ
 - 第21巻 p.545 -ページ画像 
国家経済ノ泰否ハ実ニ其方針ノ確立如何ニ存ス、而シテ其方針タル固ヨリ朝野ニ依リテ別ツヘキモノニアラス、然ルニ朝ニ対シテハ積極ノ方針ヲ執リ、即チ海陸軍備ノ拡張ヲ首メ其他各般ノ事業ヲ継続シナカラ、之ヲ維持スルノ財源ヲ作ルヘキ野ニ対シテハ消極ノ方針ニ傾キ、只管事業ヲ縮少シ貿易ノ逆勢ヲ支ヘ金貨ノ流出ヲ防カントスルカ如キ跡アルヲ観ル、国家経済ノ方針ニ於テ消極ヲ可トセハ、朝タリ野タルヲ問ハス其方針ヲ以テ一貫スヘク、積極的方針ヲ是トセハ、亦奈何ナル方面ニ対シテモ其主義方針ヲ枉クヘカラサルナリ、天下儆懼スヘキモノ尠カラス雖トモ、経世家ノ主義方針ノ糢糊ナルヨリ惨ナルハナシ故ニ苟モ局ニ当ル者ハ常ニ其確定セル方針ヲ以テ其事ノ貫徹ヲ期セサルヘカラス、若シ夫レ反覆表裏ノ挙措ヲ以テ敢テ非トナサヽルニ於テハ、我国家ハ果シテ何ニ因テ立ツヘキ乎、之ヲ要スルニ、積極的方針ニヨツテ計画セハ仮令半途之カ支障ヲ見ルモ断シテ之ヲ行ヒ、生産ノ発達ヲ計ルハ当然ノ責務ナリト云フヘシ、而シテ其発達ヲ計ルノ道ハ外資輸入ニアリ、其法タル簡易ニシテ多々アルヲ信ス、又消極的方針ニ確定セハ、先ツ大英断ヲ以テ継続事業タル海陸軍拡張ノ設備ヲ縮少シテ以テ各般ノ事業ニ及ホスモ可ナリ、然ルニ一刀両断ノ果決ニ出テス、一時ヲ糊塗スル曖昧ノ政策ヲ施スノ不可ナルハ啻ニ政府ノ大ニ注意スヘキ事ナル而已ナラス、個人ニ於テモ亦一日モ黙過スヘカラサル事タリ、故ニ自然ノ趨勢ニ放任シテ循環ノ期ヲ待タントスルカ如キハ甚タ取ラサル所ナリ、須ク刻下応急ノ良策ヲ建テ奮テ国家ノ進運ヲ計ラサルヘカラス、乃チ一面ニ於テハ政府ニ注意ヲ促シ、一面ニ於テハ社会ノ輿論ヲ徴スルノ手段ヲ採リ、果シテ積極ヲ以テ可トセハ其方針ヲ以テ一貫スヘク、消極ヲ以テ是トセハ亦其方針ヲ以テ首尾ヲ全フセンコトヲ望ムカ為メ、玆ニ連署シテ臨時総会ノ召集ヲ要求スル所以ナリ
  明治三十三年四月二十五日
                   提出者
                      渋沢喜作
                      小野金六
                      雨宮敬次郎
                      田中平八
                      井上角五郎
                   賛成者
                      横山孫一郎
                      青木正太郎
                      森清右衛門
                      北村英一郎
                      長尾三十郎
                      梅浦精一
                      野中万助


東京商業会議所月報 第九三号・第四頁 明治三三年五月 【同月 ○四月二十六日午…】(DK210098k-0003)
第21巻 p.545-546 ページ画像

東京商業会議所月報  第九三号・第四頁 明治三三年五月
○同月 ○四月二十六日午後一時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、経済
 - 第21巻 p.546 -ページ画像 
界現状調査ノ件ニ付、委員長ヲ選挙シ、併テ本件ヲ審議シ、午後三時閉会ス
               委員長 渋沢喜作君
 尚ホ委員会議ノ決議ニ依リ、本問題ヲ講究スル為メ委員ノ外更ニ役員ノ参加ヲ需メ、且左記ノ諸君ニ調査ノ助成ヲ依頼セリ
   星野錫君    田中平八君
   池田謙三君   青木正太郎君
   福原有信君   藤山雷太君
   森清右衛門君  梅浦精一君
   長尾三十郎君
○同月二十七日午後四時二十分、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、経済界現状調査ノ件ヲ審議シ、午後五時閉会ス


渋沢栄一 日記 明治三三年(DK210098k-0004)
第21巻 p.546 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治三三年     (渋沢子爵家所蔵)
四月二十五日 雨
○上略 午後 ○中略 東京商業会議所ニ抵リ臨時会ヲ開ク、夜十時兜町ニ帰宿ス
四月二十六日 雨
○上略 商業会議所ノ委員会ニ出席ス ○下略


東京商業会議所月報 第九四号・第二―三頁 明治三三年六月 【同月 ○五月二日午後…】(DK210098k-0005)
第21巻 p.546-547 ページ画像

東京商業会議所月報  第九四号・第二―三頁 明治三三年六月
○同月 ○五月二日午後三時三十分、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、経済界ノ現状調査ニ関スル件ヲ審議シ、五時二十分閉会ス
○同月九日午後四時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、経済界ノ現状調査ニ関スル件ヲ審議シ、五時三十分閉会ス
○同月十三日午後一時二十分、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、経済界ノ現状調査ニ関スル件ヲ審議シ、二時三十分閉会ス
○中略
○同月 ○五月十五日午前十一時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、経済界ノ現状調査ニ関スル件ヲ審議シ、午後一時閉会ス
○同月十六日午前十一時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、経済界ノ現状調査ニ関スル件ヲ審議シ、午後一時閉会ス
○同月十七日午前十時三十分、帝国「ホテル」ニ於テ委員会議ヲ開キ経済界ノ現状調査ニ関スル件ヲ審議シ、十一時三十分閉会ス
○同月十八日午前十時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、経済界ノ現状調査ニ関スル件ヲ審議シ、午後三時閉会ス
○同月廿一日午後二時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、経済界ノ現状調査ニ関スル件ヲ審議シ、五時閉会ス
○同月廿三日午後三時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、経済界ノ現状調査ニ関スル件ヲ審議シ、六時閉会ス
  因ニ記ス、経済界現状調査ノ件ニ関シ広ク輿論ヲ徴スルカ為メ同月十五日午後一時本会議所ニ於テ商工業者大会ヲ開ク、当日案内状ヲ発シタルハ実業団体八通、市内組合十四通、地方組合三十通府下銀行会社七十三通、地方諸会社十通、各地商業会議所五十六
 - 第21巻 p.547 -ページ画像 
通、合計百九十一通ニシテ、召集ニ応シテ来会セル実業団体・組合・会社ノ代表者合計百十二名ナリ、本会議所会頭渋沢栄一君座長席ニ着キ、種々協議ノ末座長指名ヲ以テ十八名ノ委員ヲ挙ケ、本会議所委員ト合同シテ本問題ヲ審議セシムルニ決シ、即チ座長ハ左ノ諸君ヲ委員ニ指名シ、午後六時閉会ス
         東京銀行集会所   豊川良平君
         同         波多野承五郎君
         日本工業協会    有賀長文君
         同         細野次郎君
         経済研究会     岡田治衛武君
         同         安藤謙介君
         東京銅鉄物組合   浅井半七君
         東京商工相談会   服部金太郎君
         日本郵船株式会社  岩永省一君
         東洋汽船株式会社  浅野総一郎君
         下野製麻株式会社  小久保六郎君
         深川実業会     谷崎安太郎君
         第三銀行      小川為次郎君
         東京電灯株式会社  佐竹作太郎君
         東京紡績株式会社  田村利七君
         横浜五品取引所   若尾幾造君
         東京製絨株式会社  宮部久君
         伊勢崎織物同業組合 下城弥一郎君
右諸君ノ中東京銀行集会所豊川良平・波多野承五郎ノ両君ハ都合ニ依リ委員ヲ辞サレタリ


東京商業会議所月報 第九四号・第一―二頁 明治三三年六月 【○同月 ○五月二十八…】(DK210098k-0006)
第21巻 p.547 ページ画像

東京商業会議所月報  第九四号・第一―二頁 明治三三年六月
○同月 ○五月二十八日午前十一時、本会議所ニ於テ役員会議ヲ開キ、経済界ノ現状調査委員ヨリ報告ノ件、並ニ第九回商業会議所聯合会参会委員ヨリ報告ノ件、外数件ヲ審議シ、午後一時三十分閉会ス


渋沢栄一 日記 明治三三年(DK210098k-0007)
第21巻 p.547-548 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治三三年     (渋沢子爵家所蔵)
四月九日《(五月)》 晴
○上略 午後 ○中略 商業会議所経済ニ関スル調査委員会ニ参列シテ二・三ノ意見ヲ陳述ス ○下略
   ○中略。
五月十五日 曇
○上略 午後一時東京商業会議所ニ抵リ、経済救済ニ関シテ開キタル大会ニ列シ、議長トナル、午後五時頃委員撰挙ノ決議アリテ其会ヲ閉チテ六時銀行集会所ニ抵ル ○下略
   ○中略。
五月二十八日 曇
○上略 十時東京商業会議所役員会ヲ会議所ニ開ク、同姓喜作・雨宮敬次郎・小野金六諸氏来会ス ○下略
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   ○中略。
六月一日 曇
○上略 午後四時東京商業会議所ニ抵リ、臨時会ヲ開ク、夜十時帰宅ス


東京商業会議所月報 第九五号・第一頁 明治三三年七月 【○明治三十三年六月一…】(DK210098k-0008)
第21巻 p.548 ページ画像

東京商業会議所月報  第九五号・第一頁 明治三三年七月
○明治三十三年六月一日、本会議所ニ於テ第九十四回臨時会議ヲ開ク当日ノ出席者左ノ如シ
 井上角五郎君 ○外十六名氏名略
午後六時開議、渋沢会頭議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後九時閉会ス
 一 経済界ノ現状ニ関スル調査報告ノ件 (委員提出)
本件ハ第九回商業会議所聯合会参会委員ノ報告中第九号国家経済ノ方針ニ関スル意見ト一括シテ議題ト為シ、多少修正ノ上委員報告ノ如ク可決シ、猶全会一致ノ決議ヲ以テ委員長渋沢喜作君其他委員諸君ノ労ヲ謝セリ(報告ノ全文ハ参照ノ部第一号ニ掲載ス)
  附記 内国債一億円償却ノ件ハ別ニ之ヲ建議スルコトヽシ、其起草並提出方ヲ役員会議ニ一任スルニ決ス


東京商業会議所月報 第九五号・第二―三頁 明治三三年七月 【○参照 ○第一号 明治三十三年六…】(DK210098k-0009)
第21巻 p.548 ページ画像

東京商業会議所月報  第九五号・第二―三頁 明治三三年七月
 ○参照
○第一号
 明治三十三年六月一日、第九十四回臨時会議ニ提出セシ経済界ノ現状調査委員ノ報告書全文ハ左ノ如シ
    経済界現状ニ関スル件調査報告
兼テ全会ヨリ附託セラレタル経済界現状調査ノ件ニ関シテハ、其後委員ハ去十五日ノ大会ニ於テ選挙セラレタル委員ト合同審議ノ上、本会議所ヨリ別紙意見書ノ趣旨ヲ以テ其筋ヘ建議候方可然ト議決致候間、此際至急臨時会議ヲ召集シテ右御提出相成度希望仕候、此段及御報告候也
  明治三十三年五月二十五日
                経済界ノ現状調査委員長
                      渋沢喜作
    東京商業会議所会頭 男爵 渋沢栄一殿
   ○別紙意見書ノ内容ハ次掲ノ建議文ト大同小異ナルニツキ略ス。


東京商業会議所月報 第九五号・第二頁 明治三三年七月 【○同月 ○六月五日、…】(DK210098k-0010)
第21巻 p.548 ページ画像

東京商業会議所月報  第九五号・第二頁 明治三三年七月
○同月 ○六月五日、国家経済ノ方針ニ関スル義ニ付内閣総理・大蔵・逓信・農商務四大臣ヘ建議書ヲ進達ス(建議書ノ全文ハ参照ノ部第四号ニ掲載ス)


東京商業会議所月報 第九五号・第八―一〇頁 明治三三年七月 【○参照 ○第四号 明治三十三年六…】(DK210098k-0011)
第21巻 p.548-551 ページ画像

東京商業会議所月報  第九五号・第八―一〇頁 明治三三年七月
 ○参照
○第四号
 明治三十三年六月五日、国家経済ノ方針ニ関スル義ニ付内閣総理・
 - 第21巻 p.549 -ページ画像 
大蔵・逓信・農商務四大臣ヘ進達セシ建議書全文ハ左ノ如シ
    国家経済ノ方針ニ関スル義ニ付建議
凡ソ国家ノ健全ナル発達ヲ期図スルヤ、必ス先ツ国家経済ノ方針ヲ確立シ、施シテ悖ラス行ヒテ愆ラサルノ成案ナカルヘカラス、若シ其成案ナカランカ、政府ノ期スル所国民之ヲ成ス能ハス、国民ノ為ス所政府之ヲ助クル能ハス、両者自ラ相和スルヲ得スシテ、終ニ共ニ事ヲ破ルニ至ル、豈ニ猛省セスシテ可ナランヤ
熟々政府事業ノ実蹟ヲ視ルニ、其画策頗ル急劇膨大ニシテ、往々民力ト並行セサルモノアリ、特ニ戦後経営ニ於テ最モ然リトス、本会議所モ亦各国交際ノ現状ニヨリ我軍備ヲ拡張スルハ勢已ヲ得サルモノアルヲ信スルト雖トモ、国家経済上其緩急軽重ノ点ニ至リテハ多少其所見ヲ異ニセリ、然レトモ遂事ハ追フ可ラス、徒ニ政府ノ措置ヲ批難シ国内ノ物議ヲ惹クハ憂国ノ本旨ニ非ス、故ニ自今政府事業ノ経営ハ勤メテ民業発達ノ程度ニ応シ、両々相和シ相助ケ、以テ其権衡ヲ保タサルヘカラス
然リ而シテ民業ノ発達政府事業ト相応シ、共ニ倶ニ充分ナル成蹟ヲ収メント欲セハ、民業ノ発達セサル原因ヲ研究シテ、之ヲ矯正スルノ策ヲ取ラサルヘカラス、今玆ニ其原因ヲ列挙スレハ
 一、資本ノ充実セサルコト
 二、商工業経営ノ適良ナラサルコト
 三、貿易機関ノ整頓セサルコト
 四、運輸交通機関ノ完備セサルコト
以上四項ハ目下ノ経済ノ変調ヲ呈シ逆境ニ陥リタル原因ニシテ、戦後経営ノ漸ク完備シ政府事業ノ緒ニ就クト共ニ、就中資本ハ匱乏シテ金利ハ高貴トナリ、之ヲ此儘ニ放任スルトキハ根柢ヲ枯燥シテ樹木ノ繁茂ヲ望ムカ如ク、国家ノ健全ヲ希フモ豈ニ得ヘケンヤ、故ニ国民一般ニ協心戮力シテ、此等ノ原因ニ対シ矯正スヘキハ論ヲ俟タスト雖トモ政府タルモノ豈ニ之ヲ庇護シ助成セサルヲ得ンヤ、請フ、左ニ之ヲ矯正スルカ為ニ施設スヘキ策ヲ述ヘン
第一 資本ノ充実ヲ期スルコト
 一 興業銀行ノ設立ヲ迅速ニシ工業資金ヲ疏通スルコト
 二 日本銀行見返リ担保品中ニ確実ナル工業株券ヲ追加スルコト
 三 金庫ノ制ヲ改正シテ国庫金ノ運用ヲ敏活ニシ、其出納ヲ簡明ニスルコト
 四 小切手ヲ納税ニ使用シ、且ツ広ク商業手形ノ流通ヲ発達セシメ信用取引ノ伸張ヲ奨励スルコト
 五 会計法ヲ改正シ、買上品ニ対シ政府ノ支払ヲ迅速ニスルコト
 六 貯蓄奨励ノ為メ特種ノ貯蓄銀行ヲ設立シ、抽籤割増ノ制ニ由ツテ民間零砕ノ資ヲ集メルコト
 七 土地所有権・鉱山開掘権ヲ外人ニ許可シ、及ヒ外人ヲシテ我カ公債・株式其他有価証券ヲ所有セシムル便ヲ与ヘ、以テ自然外資輸入ノ途ヲ開クコト
 八 外人ノ我カ国ニテ起業シ及共同事業ヲ開クコトヲ誘致スルニ必要ナル手段ヲ尽スコト
 - 第21巻 p.550 -ページ画像 
第二 商工事業経営ノ適良ヲ期スルコト
 一 実業学校ヲ増設シ、商工業者ノ智識ヲ啓発スルコト
 二 商工業練習ノ為メ有為ノ青年ヲ海外ニ派遣シ、及ヒ視察ノ為メ渡航スルモノヲ保護シ、特ニ其取締ヲ完全ニシ、海外ノ事情ヲ熟知シ、商工ノ事業ニ練達セシムルコト
 三 清国語其他必要ナル外国語ノ練習ヲ奨励スルコト
 四 工業試験場及ヒ商品陳列館ヲ拡張シ、且ツ新ニ工産品模範工場ヲ設立シ、技術ヲ練磨シ、製造ノ発達ヲ奨励スルコト
 五 特別ノ事情アル輸入物品ト同一物品ノ製造者ニ対シ、免税其他適当ノ保護ヲ与フルコト
 六 政府需要ノ物品ハ力メテ内国産ニ取リ、内国産奨励ノ精神ヲ助長スルコト
第三 貿易機関ノ完備ヲ期スルコト
 一 神戸ニ東亜貿易ノ機関銀行ヲ設立シ、横浜正金銀行ト相応シ共ニ通商貿易ノ利便ニ供スルコト
 二 通商貿易ノ発達ヲ図ル為メ必要ノ地ニ領事館ヲ置クコト
 三 日本銀行及正金銀行ヲシテ生糸其他重要輸出入品ノ工業原料ニ対シ資金ノ便ヲ得セシムルコト
 四 重要物産同業組合ヲ督励補助シ、其業務ヲ釐革シ、其弊害ヲ矯正スルコト
 五 現行通商条約上実行シ得ル範囲ニ於テ関税率ヲ改正シ、内国産ノ産出ヲ保護スルコト
第四 運輸交通機関ノ完備ヲ期スルコト
 一 鉄道其他運輸交通ノ機関ヲ速成シ、以テ各部ノ統一ヲ保チ、海陸ノ連絡ヲ謀リ、且ツ特別運賃ノ制ヲ立テ、内国製品ノ運搬ニ便ヲ与フルコト
   本項ノ目的ヲ達スル為メニ必要ナル鉄道ヲ買収スルコト
以上開陳シ来レルモノハ国家ノ経営上必ラス施設セサル可ラサル目下ノ重要事件ナリトス、若シ夫レ官民事業ノ積極的方針ヲ取ルノ日ニ当リテハ、自ラ一般人民ノ不生産的消費ヲ増進スルコトアルヲ免カレ難シ、是レ本会議所ノ前段ニ於テ貯蓄奨励ノ方法ヲ設ケタル所以ニシテ単ニ資本ノ充実ヲ計ルノ主旨ノミニ出テタルニアラサルナリ、且ツヤ民間事業ノ創設又ハ拡張スヘキモノ多々アルノ今日ニ於テハ、人民ヲシテ安心シテ起営スルコトヲ得セシメサルヘカラス、於是乎本会議所ノ政府ニ希望シ特ニ日本銀行ニ注意ヲ請ハントスルハ、彼ノ金利ヲ高低スルニ当リテヤ、成ルヘク経済ノ実況ニ鑑ミ勉メテ急劇ノ変動ヲ避ケ、従来動モスレハ実業家ヲシテ不安危懼ノ念ヲ懐カシメタルカ如キ行動アリシモノ之ヲ後来ニ戒シメラレンコト是レナリ、本会議所ハ以上ノ意見ヲ具シテ之ヲ当路ノ参考ニ供ス、切ニ望ムラクハ快断明裁速ニ之ヲ実行シ、経済ノ現状ヲシテ官民事業倶ニ共ニ発達拡張セシムルヲ期センコトヲ
右本会議所ノ決議ニ依リ建議候也
  明治三十三年六月五日
          東京商業会議所会頭 男爵 渋沢栄一
 - 第21巻 p.551 -ページ画像 
    内閣総理大臣 侯爵 山県有朋殿
    大蔵大臣   伯爵 松方正義殿
                    (各通)
    逓信大臣   子爵 芳川顕正殿
    農商務大臣     曾禰荒助殿


渋沢栄一 日記 明治三三年(DK210098k-0012)
第21巻 p.551 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治三三年     (渋沢子爵家所蔵)
六月廿八日 晴
○上略 午後四時三井集会所ニ抵リ、有楽会ノ例会ニ出席ス、幹事トシテ五月以後取扱フタル事務ヲ報告ス、井上伯ヨリ商業会議所ニ於テ建議セシ経済救済意見ニ付駁議アリタルモ、丁寧ニ之ヲ弁解シテ、稍領意セラレタリ ○下略
   ○明治三十三年五月十六日ヨリ東京商業会議所ニ於テ開催セラレタル第九回商業会議所聯合会ニ於テモ本建議ト殆ンド同様ノ儀議決セラレタリ。此ノ決議ニ基キ同月二十五日、栄一ハ阿波・長崎・金沢・大阪・岡山・京都・東京ノ各商業会議所代表ト共ニ、総理大臣山県有朋・大蔵大臣松方正義・逓信大臣芳川顕正・農商務大臣曾禰荒助ヲ歴訪シ、国家経済ノ方針ニ関スル儀其他ノ決議事項ニツキテ会談セリ。此会談内容ニヨリ本建議ニ対シテ政府当局ガ如何ナル意見ヲ有シタリシヤヲ知リ得ルト雖モ、之ハ本資料第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治三十三年五月二十五日ノ条ニ収録セリ。
   ○本巻明治三十三年三月二日、同三十四年二月六日、同年九月九日ノ各条、並ニ本資料第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治三十三年五月十七日同三十四年一月二十三日ノ条参照。