デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第21巻 p.591-595(DK210105k) ページ画像

明治33年11月26日(1900年)

是ヨリ先当会議所、京都商業会議所ヨリノ照会ニ係ル商法第百九十六条並ニ第五百三十三条修正ノ儀ニ就キ調査中ナリシガ、是日ノ会議ニ於テ京都商業会議所ノ提案ニ賛成シ難キ旨ヲ議決ス。栄一調査委員並ニ会頭トシテ之ニ与ル。


■資料

第十回東京商業会議所事務報告 第八―一一頁 明治三四年四月刊(DK210105k-0001)
第21巻 p.591-595 ページ画像

第十回東京商業会議所事務報告  第八―一一頁 明治三四年四月刊
一商法中修正ノ義ニ付京都商業会議所ヨリ照会ノ件
 本件ハ京都商業会議所ノ照会ニ係リ、其要旨ハ、商法第百九十六条第二項ノ次ニ一項ヲ加ヘ不均一ナル利息ノ配当ヲ為スコトヲ得セシメ、及同法第五百三十三条小切手ノ呈示期間一週間ヲ二週間ト改ムルコトニ関シ、其筋ヘ建議・請願シタルニ依リ賛同セラレタシト云フニ在リ、仍テ明治三十三年三月七日第八十九回ノ臨時会議ニ附シタルニ、委員五名ヲ設ケテ其調査ヲ附託シ、且ツ委員中一名ハ会頭之ニ任シ其他ハ議長指名スヘシト決シタルニ依リ、議長ハ左ノ諸君ヲ委員ニ指名シタリ
                委員長 高木豊吉君
                    末延道成君
                    加藤正義君
                    阿部泰蔵君
                    渋沢栄一君
 其後委員ハ調査ノ末左ノ如ク其意見ヲ報告シ、之ヲ同年十一月二十六日第九十七回臨時会議ニ附シタルニ其可決ヲ得タリ
    京都商業会議所ノ照会ニ係ル商法中修正ノ件調査報告
  本年三月七日第八十九回臨時会議ニ於テ調査ヲ附託セラレタル京都商業会議所ノ照会ニ係ル商法中修正ノ件(会社ノ利率及小切手ノ呈示期間ニ関スル)其後遂審議候処、本委員ノ意見ハ別紙ノ通リ決定候間、此段及御報告候也
 - 第21巻 p.592 -ページ画像 
  明治三十三年十一月十四日
        京都商業会議所ノ照会ニ係ル商法中修正ノ件
                調査委員長 高木豊三
    東京商業会議所会頭 渋沢栄一殿
(別紙)
    ○原案第一
  一商法第百九十六条第二項ノ次ヘ左ノ一項ヲ加フ
   第一項ノ利息ハ、事業ノ性質カ主トシテ公共ノ利益ニ関スルモノト認ムルモノニ限リ、政府ノ許可ヲ得テ、第一項但書第二項ノ規定ニ依ラスシテ不均一ナル利息ノ配当ヲ為スコトヲ得
  (参照)
   商法第百九十六条 会社ノ目的タル事業ノ性質ニ依リ、第百四十一条第一項ノ規定ニ従ヒ本店ノ所在地ニ於テ登記ヲ為シタル後二年以上開業ヲ為スコト能ハサルモノト認ムルトキハ、会社ハ定款ヲ以テ開業ヲ為スニ至ル迄一定ノ利息ヲ株主ニ配当スヘキコトヲ定ムルコトヲ得、但其利率ハ法定利率ニ超ユルコトヲ得ス
   前項ニ掲ケタル定款ノ規定ハ裁判所ノ認可ヲ得ルコトヲ要ス
  本案ニ対スル委員ノ意見左ノ如シ
   本案ハ第一万国普通ノ法理ニ反シ、第二現行商法ノ主義ニ反シ第三投機心ヲ助長セシメ、而シテ結局実際ニ有害ナルモノト認ムルカ故ニ、本案ニ対シテハ絶対ニ反対セサルヲ得ス、請フ其理由ヲ述ヘン
   第一 万国普通ノ法理ニ反ス
   (一)凡ソ株式会社ニ於ケル法理トシテハ、会社ノ事業ヨリ生スル利益ヲ配当スルヲ以テ大原則トス、故ニ毎年会社ノ貸借表ニ照シテ生スル所ノ純益ニ非サレハ、之ヲ配当スルコトヲ得サルモノトス
    此原則ニ拠レハ、未タ利益ヲ生セサル場合ニ於テ株金ニ対シテ利息ヲ配当スルコトハ既ニ業ニ変則タリ、然レトモ或ル事業ノ性質ニ依リ開業ニ至ルマテ一定ノ利息ヲ株主ニ配当スルコトヲ定ムルコトヲ許スノ必要アリ、乃チ我商法第百九十六条第一項・独逸新商法第二百十五条・匃牙利商法第百六十五条・瑞西商法第六百三十条ニ於テ此変則ヲ設ケタル所以ナリ
   (二)右ノ変例ニ依リテ配当スル所ノ利息(即チ建設利子Bau-zinsen)ハ事業ヨリ生スル利益ノ配当ニ非スシテ、畢竟資本金其モノヲ割テ配当スルニ至ルヘキモノナリ
    株式会社ハ資本限リノ責任ヲ負フモノナルカ故ニ、資本ヲ減少スヘキ行為ハ及フヘキ限リ之ヲ防止スルヲ以テ各国普通ノ法理トス、是レ我商法第百九十六条第一項但書ヲ以テ法定利率ニ超ユルコトヲ得スト定メタル所以ニシテ、伊太利亜・ルーマニヤ・ポルトカルノ諸国ニ於テモ五朱ノ制限ヲ設クルノミナラス、其年限亦三ケ年ヲ超ユルコトヲ許サヽル所以ナリ(参考)千八百八十九年巴里ノ万国会議(コングレー)ノ議
 - 第21巻 p.593 -ページ画像 
決ニ拠レハ、本件ノ如キ場合ニ於テ配当ヲ許スヘキ利息ノ最上額ヲ百分ノ三ト為シ、而シテ年数ヲ以テ制限セサルモ、之カ為メニ支出スヘキ金額ハ資本金額ニ対スル百分ノ十五ヲ超ルコトヲ得サルモノトセリ
   (三)配当ハ株金ニ対シテ平等ナルコトヲ要ス、故ニ多数ノ株金ヲ出資シタル者ハ多クノ配当ヲ受ケ、少数ノ株式ヲ有スルモノハ配当亦僅少ナルヘシ、然ルニ本案ノ如キ不均一ナル配当ヲ許スニ於テハ、僅々数株ヲ有スルモノニシテ反テ多数ノ株式ヲ有スルモノヨリモ多クノ配当ヲ受クルニ至リ、株式会社ノ主旨ニ反シ投機心ヲ誘起スルノ弊害アリ
    此点ニ関シテ或ハ優先株ノ例ニ依リテ反対ノ議論ヲナス者アルヘシト雖モ、玆ニ之ヲ評論スルノ遑ナク、又我商法第二百十条ニ於テ特ニ優先株ヲ発スルコトヲ許スハ会社ノ資本ヲ増加スル場合ニ限リ、或外国ニ於ケル如ク最初ヨリ優先株ヲ発行スルコトヲ許サヽルカ故ニ之ヲ評論スルノ必要ナシト信ス蓋シ資本増加ノ場合ニ限リタルハ事業ノ情況ヲ知悉スルコトヲ得ヘキカ故ニ欺罔ニ陥ルノ虞ナク、之ニ反シテ最初ヨリ其発行ヲ許ストキハ、之レカ為メニ投機心ヲ助長スルノ弊害アリト認メタルカ為ナリ
    又勧業銀行ノ例ヲ引テ論スル者モ之レアルヘシト雖トモ、這ハ畢竟債券ノ為メニ設クルモノナレハ、本件ノ問題ト関係ナキ而已ナラス、投機心ヲ誘起スル点ニ於テ等シク批難ヲ免レサル所ノモノトス
   第二 我現行商法ノ主義ニ反ス
    我商法第百九十六条ニ於テ、開業ノ前利息ノ配当ヲ許スヘキ場合ヲ限リ、且其利率ニ制限ヲ加ヘタルハ前段(一)及(二)ニ説述シタル所ノ主義ヲ定メ、其第百九十七条ヲ以テ利益又ハ利息ノ配当ハ定款ニ依リテ払込タル株金額ノ割合ニ応シテ為シタルハ前段(三)ニ説ク所ノ原則ヲ掲ケ、又其第百二十二条第三号ニ於テ特別ノ利益ヲ受クヘキモノハ発起人ニ限リタルモ、他ノ株主間ニハ平等ナルモノナルコトヲ示スノ趣意ニ外ナラス、現行商法ニ於テ採ル所ノ主義既ニ斯ノ如シトスレハ、本案望ム所ノモノハ全ク商法ノ主義ニ正反対ナルカ故ニ、苟クモ現行商法ノ主義ヨリシテ之ヲ改メサル限リハ、決シテ之ヲ許スヘキモノニ非スト信ス
   第三 投機心ヲ助長セシメ実際ニ有害ト認ム
    一般投機心ヲ助長セシムルノ実業ノ上ニ有害ナルコトハ之ヲ弁スルノ要ナシ
    本案望ム所ノ無制限不均一ナル利息ノ配当ハ前述ノ如ク元来資本其ノモノヲ配当スルニ至ルモノナルカ故ニ、結局会社ノ損失トナルモノナリ、故ニ其開業後ノ利益ヲ以テ塡補シタル後ニアラサレハ利益ノ配当ヲ得ルコト能ハス、先キニ得ル所ノモノハ後ニ之ヲ失ヒ、所謂朝三暮四ノ望ミニ過キサルノミナラス、富籤ニ類スル方法ヲ以テスルモノトスルトキハ、僅
 - 第21巻 p.594 -ページ画像 
ニ富籤者ノ得ル所ノ利益ハ全ク他ノ多数株主ノ損失ニ帰スルモノナリ、之ヲ要スルニ結局徒ニ一時ノ投機心ヲ誘起シ事実上多数株主ノ損失ヲ来シ、遂ニハ以テ事業ノ発達ヲ妨クルノ実害アルモノト認ムルナリ
    ○原案第二
  一商法第五百三十三条ノ小切手ノ呈示期間一週間ヲ二週間ト改ム
   (参照)
   商法第五百三十三条 小切手ノ所持人ハ其日附ヨリ一週間内ニ小切手ヲ呈示シテ其支払ヲ求ムル事ヲ要ス
   所持人カ前項ニ定メタル呈示ヲ為サヽリシトキハ、其前者ニ対シテ償還ノ請求ヲ為スコトヲ得ス
  本案ニ対スル委員ノ意見左ノ如シ
   小切手ノ呈示期間ニ関シテハ各国ノ立法例一ナラスト雖モ、要ハ小切手ノ支払証券タル性質ヨリ打算シ、其国経済上ノ状況如何ニ顧ミ、之ヲ規定スルノ外ナシ、今其利害ヲ攻究スルニ
   第一 小切手ハ支払証券ナリ、金銭支払ノ一方法ニ過キサルヲ以テ、其期間長キニ失スルトキハ金銭支払ノ性質ヲ失ヒ、寧ロ債務負担ノ性質ニ変スルヲ以テ、其期間ハ可成短期ナルヲ必要トス
   第二 小切手ハ資金又ハ信用ヲ担保トシテ発行スル支払証券ナリ、而シテ資金関係ハ常ニ変動スルモノナルカ故ニ、其変動ヲシテ甚シカラサラシムルニハ、其変動ヲ受クヘキ期間ヲシテ短少ナラシムルノ外ナシ、換言スレハ資金変動ノ結果早ク呈示スレハ支払ヲ受ク可カリシニ、晩ク呈示セシ為メ不幸ニモ支払ヲ受クル能ハサルニ至ルヘキ所持人ノ危険ヲ尠カラシムルニアリ
   第三 商業者間ニ行ハルヽ小切手利用ノ現況ヲ見ルニ、印紙貼用ヲ免レンカ為メ(為替手形ヲ発行スルニハ印紙法ニ従ヒ相当ノ印紙ヲ貼用セサルヘカラサルヲ以テ)為替手形ニ代ヘ小切手ヲ発行スル慣習アリ、又其他ノ源因ニ基キ頗ル遠隔ノ地ニアル人ニ対シテ小切手ヲ発行スル慣習アルカ故ニ、稍モスレハ所持人ニ何等ノ過失怠慢ナキニ拘ラス、早ク既ニ期間ノ経過シ去ルコトアリ、然レトモ斯ノ如ク甚タ遠隔ノ地ニ小切手ヲ発行スルカ如キハ寧ロ変則ノ例ニ属シ、小切手利用ノ当然ノ範囲ニアラス、且ツ其目的ヲ達スルニハ別ニ為替手形アルヲ以テ、強テ小切手ニ依ラントスルカ為ニ生スル伸長理由ノ如キハ顧ミスシテ可ナリ、殊ニ況ンヤ我国ノ面積広大ナルニアラス、且ツ交通機関ノ発達ハ数日ニシテ数百里ノ遠キニ達スヘキヲ得ルヲ以テ、与フルニ一週間ヲ以テセハ多少遠隔ニ於ケルモ、多クハ失権ノ結果ヲ生スルコトナクシテ支払ヲ受クルコトヲ得ヘシ
   第四 期間ヲ伸長セントスル他ノ重ナル理由ハ所持人ノ怠慢ニ因ス、所持人ニ遅滞ナクシテ小切手ヲ呈示ストセハ、一週間ハ決シテ短ニアラス、法律ハ怠慢者ヲ保護セス、故ニ怠慢ノ結果ヲ標準トシ期間ヲ伸長セントスルカ如キハ到底許スヘカラサル理由ナリトス
 - 第21巻 p.595 -ページ画像 
   第五 期間ノ長短ノ如キ寧ロ程度ノ問題ナリ、若シ前二項ニ掲クル小切手ノ不適法使用ヨリ生スル理由ヲ根拠トシ期間ヲ伸長スヘキモノトナサハ、二週間モ尚且ツ長シト云フ能ハサルヘク結局不当ノ長期間ヲ与フルモ亦足ラサルニ至リ、遂ニ手形法ノ精神ヲ無視スルニ至ルヘシ
  故ニ期間ハ現行法ノ儘ニシ寧ロ長期間ヲ要スルノ弊源ヲ壅塞スルニ如カスト信ス
  ○京都商業会議所ノ建議中第百九十六条修正ノ儀ハ実現セズ(現行商法第一九六条参照)。尚此点ニ就イテハ本資料第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治三十三年五月十九日並ニ本巻明治三十四年九月十五日ノ条参照。
  ○第五百三十三条ノ修正、即チ小切手呈示期間ノ延長ニ就イテハ明治四十四年法律第七十三号ヲ以テ一週間ヲ十日ニ延長スルコトトナリタリ(法令全書明治四四年)。