デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治32年10月16日（1899年）

是日第八回定期会第四日ノ会議ニ於テ、名古屋商業会議所ノ提出ニ係ル印紙税法中改正ノ儀上程サレ、委員附託トナル。十八日第五日ノ会議ニ委員会報告上程サレ可決サル。栄一会長トシテ議事ヲ司宰ス。

明治三十二年十月開設
第八回商業会議所聯合会議事速記録　　第二九九―三〇三頁　刊
　　　　○第四日
明治三十二年十月十六日午前十時二十分開議
　　出席委員　　　　　四十七名　○氏名略
○上略
○会長（東京、渋沢栄一君）　○中略　議案第二十二号ヲ議事ニ附シマス、議案ヲ朗読致サセマス
　　　〔書記議案ヲ朗読ス〕
　○議案第二十二号
　各商業会議所ハ左記ノ趣旨ニ依リ政府ニ建議シ、議会ニ請願スル事
　　　　印紙税法中改正ノ件
一印紙税法第二条中「但シ印紙税額五拾円トナルトキハ五拾円ニ止メ云々」トアルヲ「但シ印紙税額拾円トナルトキハ拾円ニ止メ云々」ト改正スル事
一同法第五条第七号「一金高五円未満ノ為換手形・約束手形」ノ下ニ「貯金通帳」ノ四字ヲ挿入スル事
　　　　　理由
　　理由ハ口頭ヲ以テ開陳スベシ
　　　　　　　　　　　　　　　　提出者　　名古屋商業会議所
　　　　　　　　　　　　　　　　賛成者　　津商業会議所
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　岡山商業会議所
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　桑名商業会議所
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　豊橋商業会議所
○十一番（名古屋、鈴木摠兵衛君）　本案ヲ提出致シマシタ理由ヲ述ベマスルガ、此印紙税法第二条中ノ印紙税ハ昨年迄ハ金高四千円ヲ以テ金一円ノ印紙ヲ貼ツテ、ソレヨリ上ハ幾ラノ金額ニ達シテモ一円ヲ最高トシテアリマシタ、然ルニ十三議会ニ印紙税法ガ改正ニナツテ一躍五十円ノ金額ニ上ボリマシタ、実ニ驚入ツタ話デアリマス、其当時委員会ニ於テモ吾々実業者ヲ代表シタ委員ハ異論ヲ唱ヘテ、五十円ハ過税デアル十円ハ正当デアルト種々議論ガアリマシタ末、三十円迄ニ折合フト云フコトニナツテ、衆議院ハ三十円ニ通過シマシタガ、貴族院ヘ廻ツテ又五十円ニ復活シマシタ、ソコデ協議会ヲ開ク事ニナツタガ増税ノ目的ガ達セヌコトニナツテハイカヌト云フノデ、終ニ一瀉千里ノ経過ヲ以テ五十円ト云フコトニ確定シタノデアリマスガ、是等不当
 - 第22巻 p.542 -ページ画像 
ナ過当ナコトデアリマスカラ是非トモ十円ト云フ税額ニ改正シナケレバナラヌ、第二貯金通帳ノコトニ付キマシテハ是モ免税説ガアリマシタガ、ソレデハ印紙ノ法モ行ハレヌト云フヤウナ反対論モアリ、旁々シテ是モ詳細ナル討論モナク一瀉千里ノ勢デ矢張通過シテシマツタノデアリマス、此貯金通帳ト云フモノハ――第一貯金奨励ノ目的ハ営利的ノ事業ト看做ス事ハ出来ヌ、又送状ナリ或ハ受取書又ハ売買仕切状トカ云フモノハ金高五円未満デアレバ免税デアル、然ルニ此貯金通帳ト云フモノハ学校ノ生徒或ハ職工ガ月ニ十五銭カ二十銭貯ヘルモノニ便ナノデアル、ソレニモ矢張二銭貼ルト云フコトハ営業者タル銀行モ迷惑、又手数モ尠カラヌコトデアリマス、ソレデ玆ニ為換手形、約束手形ト同ジク矢張五円未満デアルトキニハ免税スルガ至当デアリマスカラ、ソレヲ改正スル斯ウ云フ趣意デアリマスカラ一言……
○四十九番（横浜、左右田金作君）　只今十一番ノ述ベラレタ所ハ至極御尤モノヤウニ承リマスカラ、本員ハ直チニ此案ヲ賛成致シマス
○六番（仙台、遠藤敬止君）　大体ハ賛成デアリマスガ、是ハ七名位ノ委員ヲ議長ノ指名ニ依ツテ御設ケアランコトヲ希望致シマス
○六十二番（東京、中野武営君）　兎ニ角是ハ法律トナツテ居リマスルモノヲ改正スルノデアリマスカラ、十分一ツ本ヲ調ベテヤツタガ宜カラウト思ヒマス
　　　（「賛成、々々」ノ声起ル）
○会長（東京、渋沢栄一君）　此二十二号議案ニ対シ委員説ガ出マシテ七名ノ委員ヲ議長ノ指名デ選ンデ附託スルガ宜カラウト云フ六番ノ説ガゴザイマス、是ニハ段々御賛成ガアルヤウデゴザイマス、是ガ先決問題デアリマスカラ、然ラバ六番ノ委員説ヲ以テ決ヲ採リマス、七名ノ委員ヲ議長指名デ挙ゲルト云フ委員説ニ同意ノ諸君ノ御起立ヲ請ヒマス
　　起立者　　　多数
○会長（東京、渋沢栄一君）　多数デゴザイマス、委員ハ後ニ御指名仕リマス　○中略
○会長（東京、渋沢栄一君）　○中略　只今ノ印紙税ノ調査委員七名ノ御指名ヲ仕リマス、天野伊左衛門君・鈴木摠兵衛君・平野美純君・宮里正静君・香川真一君・三島佐次右衛門君・三浦碧水君、此七名サンニ委員ヲ御願ヒ申シマス

明治三十二年十月開設
第八回商業会議所聯合会議事速記録　　　第二七七―三八〇頁　刊
　　　　○第五日
明治三十二年十月十八日午前十時十分開議
　　出席委員　　　　　五十名　○氏名略
○上略
○会長（東京、渋沢栄一君）　○中略　ソレカラ一昨日委員ニ附託ニナツテ居リマシタ印紙税法改正ノ件ノ調査報告ガゴザイマスル、菎蒻版ガ間ニ合ヒマセヌガ、至ツテ短カイ報告デアリマスカラ朗読シテ御聞ニ達シマス
　　　〔書記議案ヲ朗読ス〕
 - 第22巻 p.543 -ページ画像 
　　　　印紙税法中改正ノ件調査報告
　全会ノ決議ニ依リ其調査ヲ附託セラレタル印紙税法中改正ノ件審議ヲ遂ケ候処、委員会ノ意見ハ別記ノ如ク相決シ候間、此段及御報告候也
　　明治三十二年十月十八日　　　　　委員長　鈴木摠兵衛
　　　　第八回商業会議所聯合会々長　渋沢栄一殿
　（別記）
　各商業会議所ハ左記ノ趣旨ニ依リ政府ニ建議シ、議会ニ請願スル事
　　　　印紙税法中改正ノ件
　　本年法律第五十四号ヲ以テ公布セラレタル印紙税法中、左ノ如ク改正ヲ加ヘラレンコトヲ望ム
　　　其一　印紙税法第二条中「但シ印紙税額五十円トナルトキハ五十円ニ止メ」トアルヲ「但シ印紙税額十円トナルトキハ十円ニ止メ」ト改正スル事
　　　其二　同法第五条「小切手」ノ次ニ「貯金通帳」ノ一項ヲ挿入スル事
　　抑モ印紙税新法実施前ニ在テハ、証書ニ関スル印紙税最高一円ニ止リ、金高四千円以上ハ幾十万円ニ上ルモ之ニ貼用スル印紙ハ一円ニテ足レルニ、一躍之ヲ五十倍ニ騰ラシメタルハ不当ト謂フベシ、故ニ之ヲ改正シテ十円ヲ最高限度ト為サント欲ス、又印紙税法第四条ニ拠レバ総テノ通帳ニハ、毎年二銭ノ印紙ヲ貼用セサルヲ得ス、然レ共貯金通帳ヲ他ノ総テノ通帳ト同一視スルハ少シク不穏当ノ嫌アリ、貯蓄銀行ハ他ノ銀行トハ異ニシテ其責任重キガ故ニ、之ニ対シテ相当ノ便宜ヲ与フベキハ一方ニハ細民ノ貯蓄ヲ奨励スルコト必要ナリ、特ニ貯金主ノ中労働者ノ如キニ対シテハ吏員ノ通帳印紙撿査ヲ受ケルノ煩累ヲ避ケシムルヲ要ス、是レ第五条中「小切手」ノ次ニ「貯金通帳」ノ一項ヲ挿入セラレンコトヲ望ム所以ナリ
○十一番（名古屋、鈴木摠兵衛君）　只今書記ニ於テ朗読ニナリマシタ事ニ付イテ尚ホ詳細此処デ弁ジマスガ、原案ニ五円未満トアリマスルガ、委員会ニ於テ審議ノ上是レハ出シ入レ等ノ頻繁ノ時ニ印紙ヲ貼付スルコトヲ忘レタ銀行ガアルトソレガタメニ大キニ迷惑ヲスル、抑モ貯蓄銀行ハ他ノ普通ノ銀行ト違ツテ責任ガ非常ニ重イノデアリマス、依テ金額ノ多少ニ拘ハラズ印紙ヲ貼ルコトハ宜クナイト云フノデ、是ハ全廃ト云フコトニ致シマシタ、尚ホ労働者云々ト云フコトハ報告書ニアリマス通リデゴザイマス
○三十八番（大阪、今西林三郎君）　チヨツト伺ヒマスガ、是ハ貯蓄銀行ト云フ名称ノ銀行カラ出ス通帳デアルカ、若クハ一般銀行ガ貯蓄的ノ預リヲシテ居ル特別ナ極ク少サイ預リヲシテ居ルノガアルデス、ソレハ矢張リ此中ニ這入ルノデアリマスカ、ソレヲ伺ヒマス
○十一番（名古屋、鈴木摠兵衛君）　御答ヘ致シマスガ、尤モ文字ノ如クニ貯蓄ト云フコトハ、今日一般営業的ノモノトハ違ツテ居リマスルデ、貯蓄ト云フコトヽ小口当坐預金ナドヽ云フコトハ適例シテ居リマセヌ、尚提出者ノ方ハ折合ツテ之ニ一致シマシタカラ左様御承知ヲ願
 - 第22巻 p.544 -ページ画像 
マヒス
○会長（東京、渋沢栄一君）　本案ハ別ニ御議論モゴザイマセヌヤウデス、是ハ三読会ヲ兼テ決議シヤウト思ヒマス
　　　（「異議ナシ」ト呼ブ者アリ）
○会長（東京、渋沢栄一君）　委員ノ報告ニ御同意ノ御方ノ御起立ヲ請ヒマス
　　起立者　　　多数
○会長（東京、渋沢栄一君）　全会一致デゴザイマス
　　○右建議ノ趣旨ハ実現セズ。（明治財政史第六巻第五一六頁以下）
　　○本資料第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十二年十二月二十一日ノ条参照。