デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治32年10月16日（1899年）

是日第八回定期会第四日ノ会議ニ於テ、東京商業会議所ノ提案ニ係ル、清国ヘ専門ノ技師ヲ派遣シ鉄道鉱山ノ技術的調査ヲ為サシムルノ儀上程サレ可決セラル。栄一会長トシテ議事ヲ司宰ス。

明治三十二年十月開設
第八回商業会議所聯合会議事速記録　　第一三九頁　刊
　　　　○第二日
明治三十二年十月十二日午前十時五十分開議
　　出席委員　　　　　五十六名　○氏名略
○上略
○副会長（東京、中野武営君）　ソレカラ一寸御報告ヲ致シマス、東京商業会議所ノ委員ノ提出者デ、大坂・京都ノ委員ノ御賛成デ、議案ヲ一ツ提出ヲ致シマシタノヲ御報告ヲ致シマス、目下印刷中デゴザイマスカラ追テ出来次第配付致シマスガ、清国ヘ専門ノ技師ヲ派遣スルコトヲ政府ヘ建議シ、議会ニ請願スルト申スコトナンデ、是丈ケ御報告致シマス

明治三十二年十月開設
第八回商業会議所聯合会議事速記録　　第二九三―二九九頁　刊
　　　　○第四日
明治三十二年十月十六日午前十時二十分開議
　　出席委員　　　　　四十七名　○氏名略
○上略
○会長（東京、渋沢栄一君）　協議案ニ今ノ議案二十一号・二号ガゴザイマスガ、之ヲ一ツ議ニ附シマシテ、サウシテ若シ之ヲ御討議ニナサルナラバ明後日デモ宜シウゴザイマスガ、委員ニ附託ニナレバ今日委員ヲ設ケテ置イタナラバ宜カラウト思ヒマス、故ニ協議案ノ方デナイ議案二十一号・二十二号ヲ御議シヲ願ウヤウニ致シタウゴザイマス
○六十二番（東京、中野武営君）　簡単ニ此提出ノ次第ヲ申述ベマス、之ハ予メ申上ゲ置カナケレバナラヌノハ、実ハ東京商業会議所ノ決議ヲ経テ提出致シタ問題デハナイノデゴザイマス、渋沢君並ニ私ノ了簡
 - 第22巻 p.545 -ページ画像 
デ提出ヲ致シテ諸君ニ御協賛ヲ得タイト云フ考デ出シタノデ、商業会議所ノ議ヲ経マスル暇ガゴザイマセヌノデスカラ、此段ヲ予メ御辞リヲ致シテ置キマス、之ハ実ニ其常ニ遺憾ヲ感ジテ居リマスルノデアルノハ、今朝モ商工局長カラ段々此支那ニ対スル所ノ貿易上ノ事、将来ノ事ヲ大ニ憂ナスツテ仰シヤルヤウデゴザイマシタガ、又ソレガタメニ派出員ナドモ年々御出シニナツテ居ル、終始見習ノ人間ヲ出シテ居リマスガ、中々ソンナ事デハ追附カズ、此支那ノ事ト申シマスルノハ列国中今日ハモウ支那ヘ皆眼ヲ着ケテ種々ナ事ニ金ヲ使ウテ、種々ナ事ニ手ヲ入レツヽアル、之ハ諸君御承知ノ通リデアル、ソレ故ニ我国ニモ実業家ガドンドン金ヲ出シテヤツテ呉レヽバ政府ハ宜イト斯ウ言ハレルノデゴザイマスケレドモ、余所ノ国ノヤウニ日本ノ実業社会ガサウ目的モ立タヌ事ニドンドン金ヲ入レテ十分ニ調査視察ヲスルト云フコトハ言フベクシテ甚ダ行ハレヌノデアル、仮リニ其心持ガアツタ所ガ茫漠タルモノデ効ガナイノデアリマス、是マデ段々実業家中ニハ此志ヲ持ツテ彼方ラニ視察ニ行ク人ガアル、公使館ニ行ツテモ公使ハ日常ノ諸事ヲシテ、何処ノ鉱山ニドウ云フ物ガアルヤラ、ドウ云フ実際ニヤツテ居ルヤラ、事実ノ問題ノ上ノ事ニ領事ハ自分ノ職分ガアリマスカラ、其人ニ就テ尋ネタ所ガ一向分ラヌノデ、ソレデ偶々奮発シテ行ク人ニシテ見タ所ガ、唯ダ向フノ人間ヲ見テ戻ツタ位ノ話デ何ノ役ニモ立タヌ、依ツテ是カラ先ハ一ツ十分引立テヽ便利ヲ与ヘテ呉レルト云フ途ヲ先ヅ政府ガ開イテ呉レナケレバナラヌ、今迄ノヤウニ唯政府ノ役人ヲ廻シテ報告サスヤウナコトデハ、ドウモ悪ルイトハ申シマセヌガ、ソレハソレデ善イトシテ、別ニ支那地方ヲ幾分カニ別ケマシテ、サウシテ相当ナル人間ヲ派出サス、技術員ヲ派出シテ鉱山ノ模様・地形ナドヲ二・三年派出サセテ調査サセル、サウスルト実業者ハ今日デモ往ツテ見レバ、是ハ斯ウナツテ居ル、アレハアヽナツテ居ルト専門ノ取調アル人ガ彼地ニ在ツタナラバ、ソレヲ便リニシテ往ツテ大ニ奮発力モ起ツテ来ルノデアリマス、到底今ノヤウナコイデハ致方ガナイ、而シテ愈々時勢切迫、此支那問題ニ付テハ大事ナ場合ニ今日ハナツテ居ル、此場合ニ荏苒斯様ナ事ヲシテ居ツテハ実ハ済マナイ、ソレデ現在私ノヤウナ此方ニ居ツテ向フノ事ヲ想像シテ言フノミデナイ、現ニ彼方ハ領事ヲシテ居ル人ガ嘆息シテ居ルノデス、今迄ノヤウナ視察員ヲ寄越シテ呉レテハイカヌ、何ンニモ役ニ立タヌ、実ニ支那問題ハ大事ナ場合ニナツテ居ルト支那ニ居ル領事ガサウ言ツテ居ルノデゴザイマス、ドウゾ一ツ斯ウ云フヤウナ方法ヲ立テタイト云フヤウナコトヲ、現在彼方ニ居ル領事ノ人カラ話ヲ聞イタ位デアル、デ固ヨリ斯ウ云フ事ヲスルニハ多少ノ金ハ必要カ知レマセヌガ、政府モ今日各国ガ彼所ニ目ヲ注ケテ居ル場合デアリマスカラ、多少ナ金ハ要シテモ斯ウ云フ事ニ注意ヲシテ呉レ、サウシテ向フニ往ツテ詳シイ事情ノ分ルヤウニ御膳立ヲシテ呉レナケレバナラヌ、実業家モ亦国家ノタメデアリマスカラ、支那問題ニ付テハ他日大ニ為ス所ノ途ヲ開キタイト云フ希望ナンデス、其意ニ外ナラヌノデアリマスカラドウゾ……
○会長（東京、渋沢栄一君）　マダ議案ヲ朗読サセマセヌデシタカラ、議案ヲ朗読サセマス、朗読前ニ説明ガ先キニナリマシタ
 - 第22巻 p.546 -ページ画像 
　　　〔書記議案ヲ朗読ス〕
　○議案第二十一号
　一各商業会議所ヨリ左記ノ趣旨ヲ以テ政府ニ建議シ且ツ帝国議会ニ請願スル事
　　清国ヘ専門ノ技師ヲ派遣シ、其鉄道・鉱山ニ就キ技術的ノ調査ヲ為サシメン事ヲ望ム
　　　　理由
　　　従来政府ガ清国ヘ視察員ヲ派遣セラレタル事一再ニ止マラズト雖モ、其調査ハ概ネ一時ノ概観的ニ属シ、鉄道・鉱山ノ如キ特種ノ事業ニ就キ技術的ノ調査ヲ為サシメタル例ハ絶無ト云フモ誣言ニ非ズ、抑モ清国ニ於ケル鉄道及ビ鉱山ハ欧州列国ノ夙ニ属目スル所ニシテ、現時専ラ力ヲ其経営施設ニ致シツツアルニ拘ハラズ、利害ノ関係最モ密接ナル我国ニシテ却テ之ヲ等閑ニ附スルハ豈ニ遺憾ノ甚シキニアラズヤ、依テ政府ハ此際専門ノ技師ヲ清国ニ派遣シテ精細ニ此等ノ事業ヲ調査セシメ、以テ我国民企業上ノ参考ニ資セラレ、特ニ今後当業者ガ右等実況ヲ視察スル為メ渡清スルガ如キ際ニハ、可成調査ノ資料ヲ給シ充分ノ便利ヲ与ヘラレン事ヲ望ム、果シテ然ルトキハ之ガ為メ国民ノ智見ヲ啓沃シ、我国実業ノ発達ニ裨補スル所少カラザルヲ信ズルナリ、蓋シ此事タル固ヨリ一事ノ成効ヲ期スベキニアラズ故ニ先ヅ調査期間ヲ少クモ二・三年トシ、其区域ノ如キハ土地ノ情況ニヨリ数部ニ分チ、各部ニ一人若シクハ数人ノ技師ヲ派遣シ、各技師ヲシテ此期間中其担当区域内ニ属スル事情ニ就キ常ニ詳密ノ視察ヲ遂ゲシメ、猶必要ノ場合ニ於テハ臨機其調査ノ結果ヲ報告セシムルヲ要ス
右提出候也
　　明治三十二年十月十二日
　　　　　　　　　　　　　　　　　東京商業会議所委員
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中野武営
　　　　　　　　　　　　　　　賛成者
　　　　　　　　　　　　　　　　　大阪商業会議所委員
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　土居通夫
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　今西林三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　京都商業会議所委員
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大沢善助
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　児島定七
　　　　　　　　　　　　　　　　　横浜商業会議所委員
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　若尾幾造
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　左右田金作
○五十一番（宇都宮、村上浜吉君）　五十一番ハ今此提出者ノ六十二番ヨリ詳細ナル御説明ガアツテ了解致シマシタ、依ツテ本案ニ賛成致シマスガ、読会ヲ省略シテ直チニ確定セラレムコトヲ希望致シマス
○二十四番（函館、伊予田徳次郎君）　原案賛成
 - 第22巻 p.547 -ページ画像 
○二十七番（熊本、下田耕造君）　二十七番モ是ハ別ニ委員モ設ケルニ及バズ、直チニ三読会迄ノ決議ヲシタラ宜カラウト思ヒマス
　　　（「採決、々々」ノ声起ル）
○会長（東京、渋沢栄一君）　別ニ御異議モゴザイマセネバ是ハ三読会ヲ兼テ採決致シマス、第二十一号議案ニ御同意ノ御方ノ御起立ヲ請ヒマス
　　起立者　　　総員
○会長（東京、渋沢栄一君）　全員一致デゴザイマス
　　○本資料第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十二年十二月二十一日ノ条参照。