デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治33年5月19日（1900年）

是日第九回定期会第三日ノ会議ニ於テ、前定期会ヨリノ継続協議案タル同業組合法ニ関スル儀上程サレシガ、是ヨリ先三月七日法律第三十五号ヲ以テ重要物産同業組合法制定サレ本件審議ノ必要ナキニ至リシタメ、提案者タル名古屋商業会議所ヨリ撤回セラル。栄一会長トシテ議事ヲ司宰ス。

明治三十三年五月開設
第九回商業会議所聯合会報告　　第三〇―三二頁　刊
○継続協議案第二号　　　　　　　　　（名古屋商業会議所提出）
　　　　同業組合法ニ関スル意見書
　明治三十年我政府ハ重要輸出品同業組合法ヲ発布スルニ当リ、明治
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十七年十一月農商務省達第三十七号同業組合準則第四条ヲ削除セラレシカ為メ其制裁力消滅シ、準則モ又其効力ヲ失ヒ、全国ニ於ケル四千有余ノ同業組合ハ忽チニシテ無能力ノ団体トナリ、準則ノ目的タル営業上ノ弊害ヲ矯メ同業者ノ利益ヲ永遠ニ謀ルノ計画ハ全ク画餅ニ帰スルニ至レリ、玆ニ於テカ一時ノ暴利ニ眩惑セラレ、或ハ粗製濫造ヲナシ或ハ旧時ノ弊風ヲ再演シテ、以テ商事百年ノ大計ヲ誤マルモノ比々トシテ輩出スルニ至リ、害毒ノ波及スル所小ニシテハ着実ナル商估ヲ苦メ、大ニシテハ商業ノ進運ヲ阻碍スルニ至レリ、斯クノ如クンハ今日既ニ改正条約ヲ実施シ内地ヲ開放シテ以テ外人ト商業上ノ輸贏ヲ争フニ当リ、何ンソ能ク勝ヲ制スルコトヲ得ンヤ夫レ今日ノ競争者ハ亦昔日ノ競争者ニ非ス、今日ニ於ケル商業上ノ秘訣ハ又昔日ノ秘訣ニアラス、之レ正ニ起ルヘキ競争ニ備ヘンカ為メ同業者相結托シテ完全ナル組合ヲ組織シ、互ニ和衷協同シテ同気相通シ、相共ニ粗製濫造ヲ戒メ、信用ヲ重ンシ商業ノ刷新ヲ図リ、以テ新状態ニ処シ外商ニ対スル方針ヲ定ムルノ已ムヘカラサル所以ニシテ、殊ニ主務省ヨリ屡々要求セラルヽ統計材料ノ如キ之ヲ組合ニ就テ蒐集セスンハ他ニ方便ナキヲ以テ、同業組合ト之ヲ保護スル法律ノ我国ニ必要ナル蓋シ今日ヨリ急ナルハ莫シ、然ルニ組合準則ハ既ニ死文ニ属スルヲ以テ同則ニ依リ前述ノ目的ヲ達スル能ハス、又重要輸出品同業組合法ハ其第十九条ニ於テ（輸出ニ属セサル物品ト雖トモ同業者ニ於テ必要ト認ムルトキハ尚本法ヲ準用スルコトヲ得）トアルカ故ニ、宛モ同法ニ依リ有効ナル組合ヲ組織スルヲ得ルカ如シト雖トモ、当局者ハ組合ヲ以テ反テ各個商人ノ自由ヲ覊束シ商工業ノ発達ヲ妨クルモノト為シ、極力消極的ノ方針ヲ執リ、重要輸出品ニアラサレハ最モ著名ナル内地品ニ対シテノミ本法ヲ適用シ組合ヲ認可スルノ方針ナルカ故ニ、邦内千百ノ営業ハ本法ノ保護ヲ受クル能ハス、従ツテ緊急ノ必要アル同業組合ヲ成立セシムルコトヲ得サルナリ、是レ豈論者カ我商業ノ進運ヲ旺盛ナラシメント欲シテ反テ之ニ頓挫ヲ与フルモノニ異ナランヤ、若夫レ組合ノ行為ニシテ各個商人ノ自由ヲ覊束シ商工業ノ発達ヲ妨クルノ虞アリトセハ、具サニ其定款ヲ吟味シ弊害ヲ未発ニ予防スルニ若カサルナリ、何ソ一枝葉ノ醜キヲ悪ンテ全幹ヲ截除スルコトヲ要セン、又論者ハ組合法ノ不必要ヲ論シテ云フ、若シ夫レ組合ニシテ果シテ必要ナリトセハ商人相互間ノ自由契約ニ依テ之ヲ成立セシムルコトヲ得ヘシ、何ソ特別法ヲ制定シ殊更ニ之ヲ保護スルヲ要セント、是レ理論上至当ノ説ナリト雖モ未タ以テ我国状ニ通シ時勢ニ適中スルモノト云フ可ラス、蓋シ我商人ハ合同一致ノ精神ニ欠クル所アリ、未タ永遠ノ利益ヲ画策スルノ経験ニ乏キカ故ニ、到底自由契約ニ拠リテ同業組合ヲ成立セシムルコト克ハス、仮リニ成立シ得ルトスルモ、我邦人ハ往々情実ニ纏綿シ定款ニ定ムル制裁ヲ決行スルノ勇気ニ乏シキカ故ニ、自由契約ニ依リテ組合ノ目的ヲ達センコト蓋シ至難ノ策タルヲ免カレス、是レ特別法ノ必要ナル所以ニシテ、重要輸出品同業組合法第十九条ヲ百般ノ営業ニ適用スルノ方針ヲ以テ改定セラルヽ歟、将又同業組合準則第四条ヲ復活セラレンコト刻下ノ急務ナリト信ス
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ルナリ

明治三十三年五月開設
第九回商業会議所聯合会議事速記録　　第八六―八七頁　刊
明治三十三年五月十九日午前十時十五分開議
　　出席委員　　　　　四十九名　○氏名略
○上略
○会長（東京、渋沢栄一君）　○中略　ソレデハ此ノ第二号ニ移リマス、継続協議案第二号同業組合法ニ関スル意見書デ……
○三番（名古屋、上遠野富之助君）　此継続協議案第二号ノ同業組合法ノコトハ、之ハ本年三月七日ニ法律第三十五号ヲ以テ重要物産同業組合法ト云フコトニナツテモウ発布サレテゴザイマスルデ、大抵此趣意ハ既ニ法律ニナツテ出マシタンデゴザリマス、之ハ撤回スルコトニ……
○会長（東京、渋沢栄一君）　提出会議所カラ此案ハ御撤回ニナリマシテゴザリマス
　　　○本巻明治三十二年十月十八日ノ条参照。

法令全書　明治三三年　内閣印刷局編　　第七五―七九頁　刊
法律第三十五号（官報三月七日）
　　　　重要物産同業組合法
第一条　重要物産ノ生産・製造又ハ販売ニ関スル営業ヲ為ス者ハ、同業者又ハ密接ノ関係ヲ有スル営業者相集リテ本法ニ依リ同業組合ヲ設置スルコトヲ得
　重要物産及密接ノ関係ヲ有スル営業ノ種類ハ、農商務大臣ノ認定ニ依ル
第二条　同業組合ハ組合員協同一致シテ営業上ノ弊害ヲ矯正シ、其ノ利益ヲ増進スルヲ以テ目的ト為ス
第三条　同業組合ヲ設置セムトスルトキハ、予メ地区ヲ定メ其ノ地区内ノ同業者三分ノ二以上ノ同意ヲ得テ創立総会ヲ開キ、定款ヲ議定シ農商務大臣ノ認可ヲ受クヘシ、但シ二種以上ノ営業者相集リ組合ヲ設置セムトスルトキハ、各種営業毎ニ三分ノ二以上ノ同意ヲ要ス
第四条　同業組合設置ノ地区内ニ於テ組合員ト同一ノ業ヲ営ム者ハ其ノ組合ニ加入スヘシ、但シ営業上特別ノ情況ニ依リ農商務大臣ニ於テ加入ノ必要ナシト認ムル者ハ此ノ限ニ在ラス
第五条　同業組合ハ組合相互ノ気脈ヲ通シ、其ノ目的ヲ達スル為同業組合聯合会ヲ設置スルコトヲ得
　同業組合聯合会ヲ設置セムトスルトキハ、其ノ創立総会ヲ開キ、定款ヲ議定シ、農商務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第六条　同業組合及同業組合聯合会ハ法人トス
　同業組合及同業組合聯合会ハ営利事業ヲ為スコトヲ得ス
第七条　同業組合及同業組合聯合会ノ定款ノ変更ハ、各其ノ定款ノ規定ニ従ヒ之ヲ議定シ、農商務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第八条　同業組合及同業組合聯合会ハ左ノ役員ヲ置クヘシ
　　一組長　　一名
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　　一副組長　　若干名
　　一評議員　　若干名
　前項ノ役員ノ外定款ノ規定ニ依リ他ノ役員ヲ置クコトヲ得
　役員ハ同業組合ニ於テハ組合員中ヨリ、同業組合聯合会ニ於テハ聯合会ヲ組織スル同業組合ノ組合員中ヨリ、之ヲ選挙シ、農商務大臣ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
第九条　組長ハ其ノ同業組合又ハ同業組合聯合会ヲ統轄シ、其ノ事務ヲ担任ス
　副組長ハ組長ノ事務ヲ輔佐シ、組長故障アルトキ之ヲ代理ス
　評議員ハ組長ノ諮詢ニ応シ及業務施行ノ状況ヲ監査スルモノトス
　副組長及評議員ハ定款ノ規定ニ依リ組長ノ担任スル事務ノ一部ヲ分掌スルコトヲ得
　組長・副組長共ニ故障アルトキハ評議員之ヲ代理ス
第十条　同業組合及同業組合聯合会ハ各其ノ定款ニ於テ検査規定ヲ設ケ、組合員ノ営業品ヲ検査スルコトヲ得
　同業組合及同業組合聯合会ハ各其ノ定款ニ於テ、違約者ニ関スル規定ヲ設ケ、違約者ニ対シ過怠金ヲ徴シ、違約物品ヲ没収スルコトヲ得
第十一条　同業組合及同業組合聯合会ノ経費ノ予算並徴収法ハ各其ノ定款ノ規定ニ従ヒ之ヲ議定シ、農商務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
　経費ノ決算及業務成蹟ハ毎年少クトモ一回組合員ニ公示シ、農商務大臣ニ報告スヘシ
第十二条　同業組合及同業組合聯合会ハ其ノ事務ニ関シ行政庁ニ建議スルコトヲ得、又其ノ諮問アルトキハ答申スヘシ
第十三条　同業組合及同業組合聯合会ハ農商務大臣又ハ地方長官ノ命シタル官吏ノ臨検ヲ拒ムコトヲ得ス、又其ノ質問ニ対シ確実ニ答弁スヘキモノトス
第十四条　農商務大臣ハ必要ト認ムルトキハ同業組合及同業組合聯合会ヲ設ケシムルコトヲ得
　農商務大臣ハ必要ト認ムルトキハ同業組合ノ地区ノ範囲ノ種類又ハ定款ノ変更ヲ命スルコトヲ得
第十五条　同業組合若ハ同業組合聯合会ノ決議又ハ其ノ役員ノ行為ニシテ法律命令ニ違背シ、又ハ公益ヲ害シ、又ハ其ノ目的ニ違背シ、又ハ監督官庁ノ命シタル事項ヲ執行セサルトキハ、農商務大臣ハ左ノ処分ヲ為スコトヲ得
　一　同業組合若ハ同業組合聯合会ノ解散又ハ其ノ業務ノ停止
　二　役員ノ解職
　三　決議ノ取消
第十六条　同業組合若ハ同業組合聯合会解散ヲ為サムトスルトキハ、組合員三分ノ二以上ノ同意ニ依リ、其ノ事由ヲ具シ農商務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第十七条　地方長官ハ其ノ管内ニ於ケル同業組合及同業組合聯合会ヲ監督シ、必要アルトキハ意見ヲ具シ農商務大臣ノ処分ヲ請フヘシ
第十八条　農商務大臣ハ同業組合及同業組合聯合会ニ関シ其ノ職権ノ
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一部ヲ地方長官ニ委任スルコトヲ得
第十九条　第四条・第十三条ノ規定ニ違背シタル者ハ二円以上百円以下ノ過料ニ処ス
　前項ノ過料ニ付テハ非訟事件手続法第二百六条乃至第二百八条ノ規定ヲ準用ス
第二十条　同業組合又ハ同業組合聯合会ノ証票若ハ検査証ヲ営業品ニ偽リテ附シタル者、又ハ偽造・変造ノ証票若ハ検査証ヲ営業品ニ附シタル者ハ、十五日以上六月以下ノ重禁錮又ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
　　　　附則
第二十一条　本法ハ明治三十三年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
　重要輸出品同業組合法ハ之ヲ廃止ス
第二十二条　重要輸出品同業組合法ニ依リテ設立シタル組合及聯合会ハ、本法施行ノ日ヨリ之ヲ本法ニ依リ設立シタルモノト看做ス
第二十三条　他ノ法律中重要輸出品同業組合法ヲ準用スヘキモノト定メタル場合ニ付テハ、本法施行ノ日ヨリ本法ノ規定ヲ準用シ、重要輸出品同業組合法中ノ規定ニ依ルヘキモノト定メタル場合ニ付テハ之ニ相当スル本法ノ規定ヲ準用ス