デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

8章 政府諸会
1節 諮問会議
6款 農商工高等会議
■綱文

第23巻 p.492-534(DK230044k) ページ画像

明治29年10月23日(1896年)

是日第一回第五日及ビ二十四日第六日ノ会議ニ於テ、職工保護取締法ニ関スル諮問案審議サレシガ、議終了セズ継続委員ニ附託セラル。栄一第六日ノ会議ニ於テ、外国直訳風ノ職工条例ノ制定ニハ反対ナル旨ヲ主張シ、継続委員ニ指名セラル。


■資料

第一回農商工高等会議議事速記録 第二七九―三二〇頁 明治三〇年四月刊(DK230044k-0001)
第23巻 p.492-517 ページ画像

第一回農商工高等会議議事速記録  第二七九―三二〇頁 明治三〇年四月刊
明治二十九年十月二十三日(金曜日)午前九時五十分開議
          出席者
            議長  伯爵 佐野常民君
            一番     大倉喜八郎君
            二番     藤田四郎君
            三番     藤田伝三郎君
            四番  男爵 鈴木大亮君
            五番     原善三郎君
            七番     益田孝君
            八番     安藤太郎君
            九番     山本亀太郎君
            十一番    渋沢栄一君
            十三番    近藤廉平君
            十四番    金子堅太郎君
            十五番    浜岡光哲君
            十六番    益田克徳君
            十七番    藤井三郎君
            十八番    森村市左衛門君
            十九番    土居通夫君
            二十一番   添田寿一君
          欠席者
            十番     中上川彦二郎君
            二十番    広瀬宰平君
○中略
○議長(伯爵佐野常民君) 是レヨリ第七諮問案ニ移リマス
   〔織田幹事朗読〕
  第七諮問案
    職工ノ取締及保護ニ関スル件
本邦工業ノ発達ニ伴ヒ、旧来ノ毎戸製造ハ漸次工場製造ニ変遷スルハ勢已ムヲ得ザルノ情況ナリ、而シテ今ヨリ傭主・職工間ノ関係ヲ円滑ニシ、資本ト労力トノ権衡ヲ維持シ、以テ相互ノ利益ヲ永遠ニ保全シ以テ諸般ノ紛擾ヲ未然ニ防遏スルノ目的ヲ以テ必要ナル法令ヲ制定スルハ、工業発達上ノ緊要事件ナルヲ認メ、玆ニ其区域・程度及方法ヲ諮問ス
 - 第23巻 p.493 -ページ画像 
〔左ノ参照書ハ朗読ヲ経サレトモ参考ノ為メニ掲グ〕
 参照第一号
    職工保護法ノ要領
 一本編ハ欧米各国ニ行ハルヽ職工保護法ノ要領ヲ示スモノニシテ、専ラ簡約ヲ趣旨トシ細項ニ至テハ尽ク之ヲ省略セリ
 一本編記述スル所ハ主トシテ千八百九十年頃及其以前ノ著書ニ依リタルヲ以テ、現行ノ法令ト多少ノ差異ナキヲ保セス
    目次
  一 幼年職工ノ保護
   一 年齢ノ制限
   二 日曜日ノ労働及夜業禁止又ハ制限
   三 危険ナル労働又ハ健康ヲ害スル労働ニ関スル制限
   四 労働時間ニ関スル制限
   五 普通教育ニ関スル制限
  二 少年職工ノ保護
   一 日曜日ノ労働及夜業ノ禁止又ハ制限
   二 労働時間ノ制限
   三 危険ナル業務又ハ健康ヲ害スル業務ニ関スル制限
   四 補習教育ニ関スル制限
  三 女工ノ保護
   一 同上
   二 同上
   三 同上
   四 孕婦ニ関スル制限
  四 一般職工ノ保護
   一 同上
   二 同上
   三 同上
   四 危害ノ救助
   五 其他ノ場合ニ於ケル救助
   六 工場規則ニ関スル規定
   七 視察官
   八 職工帳簿
      幼年職工ノ保護
  心身共ニ発育ヲ完ウセサル幼者ヲ駆テ製造所内ノ労働ニ従事セシムルハ、其将来ニ取リ大害ヲ来タシ、延テ一般社会ニ害ヲ及ホスニ至ルノ虞アルコト深ク論弁ヲ要セス、今幼者ヲ製造所内ニ使役スルニ由テ生スル弊害ヲ考フルニ(一)身体ノ発達ヲ妨ケ健全ナル人間トナル能ハサルニ至ラシムルコト(二)普通教育ヲ受クルノ暇ヲ失ハシムルコト(三)工業的智識ヲ養フノ暇ナカラシムルコト(四)家族ノ撫育ニ由テ人倫ノ道ヲ感得シ徳義ノ種子ヲ培養スルコト能ハサルコト(五)以上ノ結果トシテ遂ニハ一国工業ノ一大要素タル労力ヲ羸弱ナラシメ、教育ト徳義ナキ賤民ヲ増シ、社会ニ害毒ヲ流スコト等ハ其重モナルモノトス、小児ヲ製造所内
 - 第23巻 p.494 -ページ画像 
ニ使役スルニハ是ノ如キ弊害ヲ伴フヲ以テ、現今欧米各国何レモ幼年ノ職工ニ向テ多少ノ保護ヲ与ヘサルモノナシ、而シテ其法規ノ各条項ニ至テハ国状ニ依リ固ヨリ千差万別ニシテ、逐一之ヲ列挙スルコト難シト雖モ、玆ニ其要点ヲ概括掲載スルトキハ凡ソ左ノ如シ
   第一 職工トシテ使役シ得ル最少年齢ヲ定ムルコト
     例ヘハ独乙・墺太利・白耳義・和蘭等ニ於テ十二歳以下、英国・匈牙利・丁抹等ニ於テハ十歳以下ノ幼者ヲ製造所内ノ労働ニ従事セシムルヲ禁スルカ如シ
   第二 日曜日ノ労働及夜業禁止又ハ制限
     何年ヨリ以下ヲ幼工ト見做スヤハ第一項ノ年齢ト等ク各国甚タ異同アレトモ、概シテ十歳ヨリ十三・四歳ノ間ヲ以テ幼工トナシ、而シテ其年齢ニ該当スル職工ハ、一般ニ夜間及日曜日並祭日ノ労働ヲ禁スルヲ普通トス
   第三 危険ナル労働又ハ健康ヲ害スヘキ労働ニ小児ヲ使用スル事ヲ禁スルコト
     例ヘハ独逸ニ於テ磨砕器・鉄槌等ニ小児ヲ使用スルコトヲ禁スルカ如キ是レナリ、其他仏蘭西・墺太利等亦同様ノ規定ヲ存セリ、又英吉利ニ於テハ、凡テ労働ノ種類ヲ問ハス其業ニ従事セシメテ健康ニ害ナキヲ証スル所ノ医師ノ証明書ヲ有スルニ非レハ、小児ヲ之ニ使役スルコト能ハサルノ規定アリ、是レ亦同一ノ趣旨ニ出テタルモノナリ
   第四 幼工一日ノ労働時間及休憩時間ニ関スル制限
     独乙・仏蘭西ハ六時間、墺太利ハ八時間、而シテ之ニ三十分ヨリ多キハ一時間半ノ休憩ヲ与フヘシトノ規定ヲ設ケタリ、其他各国類似ノ規定アリ
   第五 製造所ニ於テ幼工ニ普通教育ノ一班ヲ授クヘキ事ヲ命令シ、又ハ教育ノ為ニ特ニ時間ノ余裕ヲ存セシムルコト
     例ヘハ仏蘭西ニ於テ十二歳以下ノ幼工ニ毎日二時間ツヽノ教課ヲ与フル事ヲ命シ、又匈牙利ニ於テハ十歳乃至十二歳以下ノ小児ハ小学校ニ通学スルノ余裕アルカ、又ハ特ニ製造所ニ於テ学校ニ代ハルヘキ学育法ヲ設クルニ非レハ、職工免許状ヲ与ヘサルカ如キ是ナリ、其他英吉利・丁抹等モ亦幼工ニ教育ヲ与フヘキノ規定ヲ存セリ
      少年職工ノ保護
  少年トハ十三・四歳ヨリ十八・九歳ニ至ル迄ノ間ヲ云ヒ、心身稍発達シテ将ニ成人ノ域ニ進マントスルノ期ナリ、之ヲ以テ小児ニ比スルトキハ、其労働ニ堪フルノ力ニ於テ固ヨリ遥ニ優レルモノアリト雖モ、之ニ多少ノ制限ヲ施サヽルトキハ遂ニ其発育ヲ完ウスルコト能ハサルナリ、即チ小児ノ職工ニ於テ必要ナル保護ハ、亦或程度ニ於テ少年職工ニモ必要ナルモノト知ルヘシ
   第一 日曜日ノ労働及夜業ノ禁止又ハ制限
     例ヘハ英吉利ニ於テハ十四歳以上十八歳以下ノ職工ニ日曜日・「クリスマス」及「ゲドフライデイ」ヲ休暇トシ、夜業
 - 第23巻 p.495 -ページ画像 
ハ一般ニ之ヲ禁止シ、且一年八日ノ半休暇ヲ与ヘ、仏蘭西及独逸ニ於テハ十四歳以上十六歳以下ノ職工ニ日曜日並祭日ノ労働及夜業ヲ禁シ、墺太利ニ於テ十四歳以上十八歳以下ノ職工ニ対シ、日曜日ノ労働ヲ禁シ、祭日ノ労働ヲ制限シ、十六歳以下ノ少年職工ニハ夜業ヲモ禁スルカ如キ是レナリ、魯西亜ニ於テハ紡績及織物業ニ限リ、十五歳以上十七歳以下ノ職工ヲ夜業ニ用フルコトヲ禁セリ
   第二 一日ノ労働時間ヲ制限シ並ニ休憩時間ヲ一定スルコト
     英吉利ニ於テハ十時間乃至十時間半、独逸ニ於テハ十時間(内休憩昼一時間、午前・午後両度各三十分間)墺太利ニ於テハ十時間(内一時間半休憩)ヲ以テ各上記年齢ノ一日労働時間ト為セリ
   第三 特ニ危険ナル業務又ハ健康ニ害アル業務ニ使役スルコトヲ禁スルコト
     独乙ニ於テ磨砕器及鉄槌等ニ少年職工ヲ使役スルヲ禁スルカ如キ其一例ナリ、是種ノ禁止ハ英吉利・仏蘭西・以太利墺太利等皆之アリ
   第四 小学校ノ普通教育以上ニ於テ主トシテ実業上ノ補習ヲ為サシムルコト
     間々其例アリ、例ヘハ墺太利ニ於テ、少年職工ニハ必ス夜学校及日曜学校ニ通学スルノ余裕時間ヲ存セシムルノ規程アルカ如キ是レナリ
      女工ノ保護
  女子ヲ製造所内ニ使役スルニ就テハ種々ノ弊害アリ、蓋シ女子ハ独リ其体格ニ於テ男子ト同様ノ労働ニ服シ難キノミナラス、一家ヲ調理シ児ヲ挙ケ之ヲ撫育スルノ義務ヲ有スルヲ以テ、男子ト共ニ専ラ製造所ニ入テ労働ニ従事セシムルトキハ、為ニ其社会ニ対スル大任ヲ欠カシメ、一家団欒ノ楽破レ並ニ子孫ヲシテ羸弱ナラシムルノ憂アリ、是レ深ク恐ルヘキコトヽス、且或ル場合ニ於テ風俗上其労働ヲ禁スルノ必要ナシトセス、是等ノ理由ニ因リ女工モ亦種々ノ点ニ於テ法令ノ特別保護ヲ要スルコト論ヲ竢タス、今次ニ其要項ヲ掲ク
   第一 日曜日ノ労働及夜業ノ禁止又ハ制限
     是レ一ハ其健康ヲ保護スル為メ、一ハ一家調理ノ暇ヲ与フル為メ、又一ハ風俗壊乱ノ憂ヲ防ク為メニ設クル所ニシテ各国多ク之ヲ存セリ、例ヘバ英吉利・白耳義等ニ於テハ少年又幼年職工同様ノ制限ヲ附シ、又仏蘭西ハ十八歳以上廿一歳以下ノ女工ニ対シ日曜及祭日ノ労働ヲ禁シ、尚或種ノ工場ニ於テハ夜業ヲ禁シ、独乙ニ於テハ一般ニ日曜及祭日ノ労働及夜業共之ヲ禁シタルカ如キ是レナリ
   第二 一日労働時間及休憩時間ニ関スル制限
     是レ亦一ハ健康ヲ保護スル為メ、一ハ有夫ノ女工ニ在テハ家事ヲ調理スルノ暇ヲ得、少女ニ在テハ家事ニ慣ルヽノ暇ヲ得セシムル為ニ設クル所ノ制限ニシテ、例ヘハ瑞西ニ於
 - 第23巻 p.496 -ページ画像 
テハ女工ノ一日労働時間ヲ十一時間ト定メ、普通昼休ノ前半時聞ニ業ヲ去ルヲ許スカ如キ、独乙ニ於テハ十一時間中昼休一時間トシ、而シテ土曜日及祭日ノ前日ハ十時間トシ尚ホ午後五時以後ニ至ルヘカラサルコトヲ規定セリ、以テ其趣旨ノ一班ヲ察スヘシ
   第三 危険ナル業、健康ニ害アル業及風俗上ノ弊害ヲ生スヘキ業ニ婦女ヲ使役スルコトヲ禁スルコト
     略前段ニ述ヘタル所ニ等シキヲ以テ略ス
   第四 孕婦ノ保護
     例ヘハ瑞西ニ於テハ分娩ノ前後合セテ八週間、墺太利・仏蘭西等ニ於テハ分娩後四週間、独逸ニ於テハ三週間全ク労働ヲ禁スル如キ是レナリ
      一般職工ノ保護
  無資産ニシテ教育ニ乏シキ労働者ト、資本ヲ有シ比較的智識ニ富メル雇主ト相対抗スルニ当リ、彼ハ弱者ノ地位ニ立チ是レハ強者ノ地位ヲ占ムルハ勿論ニシテ、之ヲ全ク其自由ニ任スルトキハ職工ノ権利ハ有リテ無キカ如ク、往々ニシテ雇主ノ蹂躪セラルヽ所トナルハ亦已ムヲ得サル所トス、従テ成年ノ職工ニ対シテモ亦多少法令ノ保護ヲ要スルハ論ヲ竢タスト雖トモ、而モ之ニ関シテハ幼年者又ハ婦女ニ於ケル如ク絶対的ニ其保護ノ必要ヲ認ムルコト能ハス、是事ハ学者間最モ議論ノ存スル所ニシテ、今玆ニ逐一其論議ヲ詳説スルコト能ハサルヲ以テ暫ク之ヲ省キ、現ニ各国ニ行ハルヽ条規ノ要目並ニ之ニ関スル議論ノ要領ヲ掲ケ、以テ其一班ヲ示サントス
   第一 一日労働時間ノ制限
     現今成年職工一般ノ労働時間ヲ制限スルハ瑞西・墺太利・仏蘭西及北米合衆国中ノ或州ナリ、即チ瑞西・墺太利ハ十一時間、仏蘭西ハ十一時間、北米合衆国ノ或州ハ八時間乃至十時間ヲ以テ一日労働時間ノ制限トナセリ、而シテ他ノ諸国ハ未タ何等制限ヲ存セス(独乙ニ於テハ法律ヲ以テ一般ニ労働時間ヲ定メスト雖モ、聯邦会議ノ決議ヲ以テ特ニ長時間労働ニ由テ健康ニ害ヲ及ホスノ憂アル工業ニ就キ、労働時間ヲ制限スルコトヲ得ルコトヽナセリ)蓋シ一般ニ労働時間ヲ制限スルコトハ、一面ニ於テハ資本家ノ利益ヲ殺キ工業ノ発達ヲ阻害スルノ憂アルト同時ニ、一面ニ於テ職工其モノモ亦之カ為ニ其収入ヲ減スルノ虞ナシトセス、且既ニ成年ニ達シタルモノハ仮令個立シテハ其雇主ニ対抗スルノ力ナキモ、能ク団結ノ力(トレードユニオンノ如キヲイフ)ヲ以テ其権利ヲ伸張スルコトヲ得ルヲ以テ、暫ク之ヲ其自由ニ任シテ可ナリトイフノ理由ニ出テタルカ如シ
   第二 日曜日ノ労働及夜業ニ関スル制限
     此事ニ関シテモ亦大議論アリ、瑞西・墺太利・英吉利等ハ日曜日ノ労働及夜業ニ関シ制限ヲ附スト雖モ、是亦多数ノ取除ヲ設ケタリ、蓋シ日曜日ノ休暇並ニ夜業ノ廃止ハ固ヨ
 - 第23巻 p.497 -ページ画像 
リ職工ノ健康ヲ保ツニ必要ナリト雖モ、或工業ニ於テハ到底之ヲ応用スヘカラス、且暫ク之ヲ其自由ニ任スモ甚キ弊害ナキヲ以テナルヘシ、唯夜業ヲ為スニ当リ、各週毎ニ夜業ヲ執ル職工ハ昼業ヲ執ル職工ト相交代シ、今週夜間ノ業ヲ執リタル職工ハ来週ハ必ス昼間ノ業ヲ執ルノ方法ヲ設クルヲ必要トスルハ、一般ニ視認セラルヽカ如シ
   第三 危険及衛生上ノ弊害ヲ防ク方法
     是事ニ関シテ国家ノ干渉ヲ必要トスルコトハ一般ニ異論ヲ見ス、欧米各国何レモ皆之ニ関スル詳細ノ規程ヲ存セサルナシ、次ニ其一班ヲ掲ク
     独乙ノ規定ハ、凡テ製造主ハ其事業ノ性質上許ス限リ職工ノ生命ヲ危クシ及健康ヲ害スヘキ百般ノ危険ニ対シテ之ヲ保護スルニ足ルヘキ方法ヲ以テ工場・機械・器具其他各種ノ装置ヲ整ヘ、且之ヲ保持シ並ニ就業規則ヲ定メ、殊ニ空気ノ流通・光線・塵埃及蒸発気ノ排除ニ注意シ、又機械ニ触接スルノ危険其他事業ノ性質ヨリ来ル所ノ危険ヲ防キ、火災ニ対スル準備ヲ遂ケ、且一般危険ヲ避ケ安全ヲ保ツ様予メ工場規則ヲ設クルヲ要シ、而シテ右ノ規定ニ基キ警察署ヨリ各種工場ニ向テ諸般ノ設備ヲ促カスコトヲ得、又聯邦会議ノ議決ニ依リ該規定ノ趣旨ヲ遂行スルニ必要ナル設備ヲ規定スルヲ得ルコトトナセリ、墺太利モ亦独乙ト大同小異ノ規定ヲ存シ、英国ニ於テモ凡テ工場内ハ空気ノ流通ヲ充分ニシ、且空気ノ量ヲ充分ナラシメ、且常ニ清潔ヲ保ツ事ニ注意スルヲ要シ、又機械・モートル・調革・滑車等ニハ或ハ工場視察官ノ命ニ依リ、或ハ其命ヲ竢タスシテ障壁又ハ欄柵ヲ設クルヲ要スル等ノ規定ヲ存スル等其例ナリ
   第四 危害ノ救助
     職工就業中負傷又ハ変死シタル場合ニ於テ、其原因工場主又ハ工場管理者ノ懈怠・過失ニ出ツルトキハ、普通ノ民法ニ因リ固ヨリ賠償ヲ請求スルノ権アリト雖トモ、之ヲ裁判ニ訴ヘテ理否ヲ争フ事ハ多数職工ノ為シ得サル所ナルノミナラス、其懈怠・過失ヲ証スルコト極メテ難キヲ以テ、多数ノ場合ニ於テ賠償ヲ得ルノ途ナキハ勢ノ然ルヘキ所トス且仮令工場内ノ装置ニシテ欠点ヲ存セス、工場主又ハ工場管理者ノ行為ニ何等過誤ナク、即チ変死・負傷ハ全ク其職工ノ過誤ニ出テタル場合ト雖モ一層深ク之ヲ研究スルトキハ、是ノ如キ危険ハ元ト其業ニ附帯スルモノニシテ、之カ為ニ害ヲ受ケタル職工ハ其事業ノ犠牲ト為リタルモノトイフヘク、独リ罪ヲ職工ニ帰セシメ難キノ事由ヲ存シ、之ニ対シテモ亦賠償ヲ与フルノ已ムヲ得サルヲ認メサルヘカラス、而シテ是等罹災者ヲ救拯スルニ要スル費用ハ、寧ロ其事業ノ由テ製出セラルヽ製品ノ出産費ノ一部トシテ之ヲ需用スル公衆ノ負担ニ帰スヘキモノナレトモ、一般公衆ヨリ賠償金ヲ徴収スルコトハ固ヨリ為シ難キ所ナルヲ以テ、一
 - 第23巻 p.498 -ページ画像 
旦之ヲ雇主ヨリ徴シ其製品ノ価格ノ一部トシテ更ニ之ヲ公衆ノ負担ニ帰セシムルヲ要ス、現今欧州各国ニ於テハ職工ノ負傷・変死ニ関シテハ普通ノ賠償法理ニ依ラス、是カ為ニ特別ノ規定ヲ設ケ雇主ノ負フヘキ責任ノ範囲ヲ広メ、甚シキハ其原因ノ如何ヲ問ハスシテ其雇主ヨリ一定ノ賠償金ヲ徴セシムルニ至ルモノ即チ是理由ニ外ナラス、労働者危害保険法ハ危害賠償法ノ一層進歩シタルモノニシテ、即チ強迫的ニ雇主ヲシテ其使役スル各職工ニ対シ常時保険掛金ヲ支払ハシメ、一定ノ場合ニ於テ危害ヲ受ケタル職工ニ一時支払保険金又ハ保険年金ヲ附与セシムルノ規定ヲ設クルモノ是レナリ、次ニ此二種ノ救助法ニ関シ現ニ行ハルヽ法制ノ要領ヲ掲ク
    一 特別賠償法(雇主責任法)
     英国ニ於テハ機械・器具ノ装置ニ欠点ヲ存シタル為メ、又ハ職工ヲ指揮スル人ノ懈怠ニ由リ、又ハ諸種ノ合図ヲ管理スル人ノ懈怠ニ由リ、其他一般同一ノ雇主ニ使役セラルヽ人ノ行為ニシテ其雇主ノ定メタル工場規則ニ戻ラサルニ拘ハラス其行為ノ為ニ危害ヲ受クルトキ(千八百九十三年ニ至リ更ニ範囲ヲ広メタリ)雇主ハ其責任ヲ負フヘキコトトナシ、又瑞西ニ於テハ製造所・鉄道其他ニ使役セラルヽ職工ニシテ危害ヲ受クルトキハ、其雇主ハ其危害ノ原因カ不可抗力ニ出ルカ、又ハ職工自身ノ過失ニ出ルカ、又ハ其雇主ノ使役ニ属セサル第三者ノ行為ニ出ツルコトヲ証明スルニ非レハ、都テノ場合ニ於テ責任ヲ負フヘキコトヲ規定シタルカ如キ其例ナリ
    二 危害保険
     危害保険法ノ最モ整頓シタルハ独乙ナリ、今其規定ノ要領ヲ述フレハ各種製造所・工場及鉱山・採塩所、其他諸種ノ工業ニ従事スル職工(年二千馬以上ノ賃銀又ハ俸給ヲ受クルモノハ之ヲ除ク)トシ、其雇主ハ一般ニ職業組合ヲ組成シ其組合ニ於テ相互主義ヲ以テ保険ヲ為サシム、其保険料ハ都テ雇主之ヲ支払ヒ、凡ソ就業中危害ヲ受ケタル職工ハ自己ノ故意ニ出テタルモノヽ外都テ保険金ヲ受クルノ権ヲ有ス、其保険金額ハ負傷ノ場合ニ於テハ十四週間目ヨリ其職工ノ前年間賃銀平均、又ハ其土地ノ普通平均賃銀ノ高ニ応シ、全ク労働ニ堪ヘサルモノハ右賃銀ノ六割六分ヲ与ヘ多少ノ労働ニ堪フルモノハ其度ニ応シテ支給額ヲ定ム(十三週迄ハ疾病貯金ノ支出ニ由テ救助ヲ受クルモノトス)又死亡ノ場合ニ於テハ一日賃銀ノ二十倍ニ相当スル埋葬料ヲ与ヘ、且其寡婦及遺児ニ再婚又ハ成長ニ至ル迄死亡者ノ得タル賃銀ノ一割五分乃至二割ヲ与ヘ、其職工ノ外給養者ナキ尊族親ニ対シテモ亦賃銀ノ二割ヲ給与スル等是レナリ、而シテ特ニ帝国保険局ノ設アリテ一般労働者ノ保険ノコトヲ統轄管理セリ、墺太利ハ主トシテ独乙ニ模倣シテ労働者
 - 第23巻 p.499 -ページ画像 
ノ危害保険法ヲ制定シタルモノニシテ、大要異ナル点ヲ見スト雖トモ、保険掛金ノ一割ハ職工ノ負担ト為スコト、特別ノ保険所ヲ設置セシムルコト等ニ於テ稍其趣ヲ異ニセリ
   第五 其他ノ場合ニ於ケル救助
     職工疾病ニ罹リ又ハ癈疾トナリ、又ハ職ヲ失フテ糊口ノ途ニ苦ム場合ニ於テ之ニ救助ヲ与ヘ、並死亡シタル職工ノ寡婦・孤児ヲ救育スルコトハ甚タ必要ノ挙ナルヲ以テ、是カ為メニ特ニ保険ノ方法ヲ設クルノ必要ヲ見ルニ至レリ、但是等ノ災禍ハ寧ロ工業以外ノ原因ニ基クヲ以テ、彼危害救助ノ如ク之ヲ雇主ノ負担ニ帰スヘカラサルト同時ニ、強テ職工ヲシテ其全部ヲ負担セシムルコトハ往々彼等ノ堪ヘザル所トス、且其保険算定ニ必要ナル統計上ノ材料モ亦往々充分ナラサルカ為メニ、確然タル計算ヲ立ルコト能ハサルノ困難アリ、是等ノ理由ニ因リ強迫的ニ之ヲ遂行セシムルコトハ尚異論甚タ多シ、要スルニ是種ノ保険ニ関スル制度ハ今尚疑問中ニ在ルモノト知ルヘシ、今各国ノ法例ヲ見ルニ独乙ニ於テハ一般職工ニ関シ疾病・養病・癈疾及寡婦・孤児ノ保険ヲ強迫シ、墺太利ニ於テ疾病保険ヲ強迫スルノ外、各国未タ強迫制度ヲ取ルモノナク、保険ニ加入スルト否トハ之ヲ各人ノ自由ニ任シ、而シテ其保険ニ関シ特別ノ規則ヲ以テ其整備ヲ図リ、又ハ之カ為メニ国立ノ保険所ヲ設ケ又ハ私立ノ保険機関ニ補助金ヲ与フル等ヲ以テ普通トス、又独乙及墺太利ニテ是保険ヲ強迫スルノ方法ハ其大体ニ於テ危害保険法ト異ナル所ナケレハ玆ニ之ヲ細説セス、只独乙及墺太利ニ行ハルヽ疾病保険ノ懸金ニ於ケル雇主ノ補助金ハ三分ノ一ニシテ、他ハ職工之ヲ負担スルコトトシ独乙ニ於ケル其他ノ保険ニ付テハ職工及雇主ハ懸金ヲ折半トシテ之ヲ負担シ、而シテ政府ヨリモ各一人ニ付一時ニ一定ノ金額ヲ補給スルノ組織トス
   第六 工場規則ニ関スル規定
     凡ソ大ナル工場ニ於テハ必ス工場規則ヲ設ケ、工場内ニ於ケル就業ノ順序・雇傭契約ノ要項・賞罰ノ方法等其他職工ノ就業方法並其心得ニ必要ナル規則ヲ設クルハ固ヨリ法令ノ命ヲ竢タスト雖モ一ハ一様ニ之ヲ各製造場ニ普及セシムル為メ、一ハ職工ノ使役上不正当ノ規定ヲ設ケサラシムル為メ、又一ハ予メ其規定ヲ明確ニシ以テ他日ノ争議ヲ減スル為メ特ニ法令ヲ以テ之ニ関スル規定ヲ設ケ、工場規則内ニ掲記スヘキ事項ヲ定メ、且之ヲ制限シ並ニ之ヲ審査シテ認可スルノ必要ヲ存スルヨリシテ、欧州ノ二・三諸国ニ於テハ特ニ工場規則ニ関スル法規ヲ設ケタルモノアリ、瑞西独逸・墺太利是レナリ、独乙ノ規定ハ二十人以上ノ職工ヲ使役スル工場ニ於テハ其創業後四週間内ニ工場規則ヲ設クヘキモノトス、其規則中ニ規定スヘキ事項ハ毎日ノ始業及終業時間・賃銀支給法・解約予告期限・予告ナクシテ解約
 - 第23巻 p.500 -ページ画像 
シ得ル場合・懲罰ノ方法・過料金ノ使用方法等トス、過料金ハ普通ノ場合ニ於テハ賃銀ノ半額ヲ越ユヘカラス、其過料金ハ必ス職工ノ利益ノ為メニ使用スルヲ要ス、又工場規則ハ之ヲ実行スルノ前職工ノ意見ヲ聞クヲ要ス、而シテ凡ソ工場規則ニシテ法令ニ違反スル規定ヲ有スルトキハ下級行政庁ノ命令ヲ以テ之ヲ改正セシムル等是レナリ、端西及墺太利ノ規定モ亦大抵大同小異ナルヲ以テ之ヲ略ス
   第七 視察官
     現今職工ノ保護・工場ノ取締ニ関シ欧米各国何モ視察官ノ設ナキモノナシ、其視察官ヲ設クルノ趣旨ハ(一)職工保護ニ関スル各種法令実施ノ状態ヲ監査シ、尚進テ職工保護ニ関スル将来ノ政策ヲ定ムルノ材料ヲ蒐集シ、並(二)其法令ノ施行ニ必要ナル機関トナリ、又(三)雇主ト労働者トノ間ニ立チテ常ニ其関係ヲ調和スルコトニ注意シ、並職工ヲ救護スルニ必要ナル個人ノ施設ヲ誘発奨励スル等ノ働ヲ為スニ在リテ、職工ノ保護ニ関シ最モ必要ナル機関トナレリ、其組織ハ極テ区々ナレトモ、大要ハ中央政府又ハ地方行政機関ノ任命ヲ以テ特別ノ視察官ヲ置キ、当時各工場《(常カ)》ヲ巡覧セシメ、其法令ノ違反ヲ糺シ、工場内設備ノ欠点ヲ補充スルコトヲ命令シ、又一個人トシテ種々ノ注意ヲ工場主ニ与ヘ、並雇主・職工間ノ紛議ヲ仲裁スル等ノ事務ヲ遂ケシムルニ在リ、一例トシテ英国ニ於ケル工場視察官ノ組織ヲ概挙センニ、先ツ一名ノ視察官長ヲ置キ、直接ニ大臣ノ下ニ隷属セシメテ其下ニ五名ノ視察官ヲ置キ、更ニ其下ニ五十名ノ視察官補ヲ置キ、全国ヲ五十名ノ視察区ニ別チ各視察官ヲ部署シ、常ニ各工場ヲ巡察セシムルモノトス
   第八 職工帳簿
     職工帳簿トハ各職工ノ身分並履歴ヲ証明スル所ノ帳簿ニシテ、即当該官庁ニ於テ其原籍・身分等ヲ之ニ記入証明シ、雇傭契約ヲ取結フニ当リ之ヲ雇主ニ渡シ置キ、更ニ他ニ転職スルトキハ前ニ入場セル年月日及退場ノ年月並就職中ノ成蹟一般ヲ雇主ニ於テ記入証明シ、其職工ハ之ヲ以テ新雇主ニ示シ又同一ノ手続ヲ為スモノトス、其利益ハ之ニ由テ職工カ猥リニ契約ヲ破リ遁走流転スルノ弊ヲ防キ、且善良ナル職工ト不良ナル職工トノ区別ヲ容易ニスル等、適良ニ之ヲ履行セハ頗ル有効ナレトモ、往々雇主ノ姦策ニ由リ職工ヲ抑圧スルノ一助タルナキヲ保セス、故ニ一般ニ命令ヲ以テ是ノ如キ帳簿ヲ備ヘシムルコトニ対シテハ異論多シ、現今強迫的ニ此ノ如キ帳簿ヲ備ヘシムルノ規定ヲ存スルハ墺国・匈牙利及露西亜ノ三国トス、仏蘭西及白耳義ハ嘗テ之ヲ命令シタレトモ今ハ之ヲ廃セリ、独乙ニ於テハ単ニ少年ノ職工ニ向テノミ之ヲ強迫セリ、但職工ノ思望ニ依リ此ノ如キ帳簿ヲ携帯スルコトハ勿論其自由トス
  以上列記スル所ノ外、仲裁々判ニ関スル規定、住居ニ関スル規定
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等亦職工ノ保護上必要ナルアレトモ、之ニ関シ特ニ政府ノ法令ヲ以テ干渉ヲ為スコトハ未タ広ク行ハルヽニ至ラサル施設ナルヲ以テ暫ク之ヲ略ス
 参照第二号
  明治二十七年十二月府令第百四号
    職工雇入止並紹介人取締規則
 第一条 本則ハ紡績・織布・段通職工場ノ職工並其当業者又ハ紹介人ニ適用スルモノトス
 第二条 職工ノ紹介人タラントスルモノハ、所轄警察署又ハ分署ヲ経テ当庁ニ願出許可ヲ受クヘシ
 第三条 紹介人又ハ当業者自ラ工場所在地以外ニ出張シテ職工ヲ募集セントスルトキハ、募集着手ノ日ヨリ五日以前ニ左ノ諸項ヲ具シ所轄警察署又ハ分署ヲ経テ当庁ニ届出ヘシ
  一 募集スヘキ地方名
  二 募集スヘキ人員ノ見積数(男女ニ区別スルヲ要ス)
  三 募集ノ為メ出張スヘキ社員又ハ所員ノ族籍氏名
  四 応募者ノ旅費、雇入後ノ宿舎並ニ賄ニ関スル方法
  五 工賃額並疾病又ハ死傷者ノ保護ニ関スル方法
  六 就業契約年限・就業時間・休日並就業契約年限内解雇ニ関スル方法
  七 賞与・懲戒並貯金ニ関スル方法
  八 教育ニ関スル方法ノ設アルトキハ其方法
 第四条 職工ヲ募集シ来リタルトキハ、三日以内ニ其人員ヲ記シ所轄警察署又ハ分署ヲ経テ当庁ニ届出ヘシ
 第五条 職工雇入又ハ募集・紹介ニ関シ、紹介人ハ他人ヲ使用シ当業者ハ紹介人又ハ社員・所員ノ外使用スルコトヲ得ス
   但風俗ヲ害スル罪、身体及財産ニ対スル罪ヲ犯シ重軽罪ニ処セラレタルモノ、又ハ刑法第四百廿五条第十項ノ罪ヲ犯シ違警罪ニ処セラレタルモノハ、紹介人トナリ又ハ募集・雇入ニ関与スルコトヲ得ス
 第六条 他人ニ雇ハレ中ノモノハ、其雇主ノ承諾ヲ得ルニアラサレハ紹介又ハ雇入ヲナスコトヲ得ス
  満十六年以下ノ者ニ在テハ、後見人若クハ親族ノ承諾書ヲ所持スルモノニアラサレハ募集スルコトヲ得ス
 第七条 紹介人ハ当業者ヨリ申込ヲ受タル人員ノ外募集スルヲ得ス
 第八条 紹介人ハ何等ノ名義ヲ以テスルモ応募者ヨリ報酬ヲ受クルコトヲ得ス
 第九条 当業者又ハ紹介人ハ、職工ノ募集・雇入又ハ紹介ニ関シ騙詐・虚偽ノ言行アルヘカラス
 第十条 職工若クハ職工タラントスルモノハ、当業者又ハ紹介人ニ対シ族籍・氏名・年齢ヲ詐称シ、又ハ同盟シテ休業若クハ罷業ヲナスヘカラス
 第十一条 当業者職工ニ就業年限ヲ契約セシムルトキハ満五ケ年以内トシ、雇継ノ契約年限ハ毎回満三ケ年以内ニ限ルヘシ、但本則
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施行以前ニ既ニ契約シタルモノニ在テハ其契約満期ノ日ヨリ本条ヲ適用ス
 第十二条 当業者契約年限満期ノ職工アルトキハ、雇継ヲナスト否トニ拘ラス満期ノ日ヨリ五日以内ニ解雇証書ヲ交付スヘシ、契約年限未満ノモノト雖モ、当業者ノ都合又ハ承諾ノ上解雇シタルモノニ付テハ亦同シ
 第十三条 已ニ職工トナリ解雇セラレタル後更ニ職工トナリタルモノハ、其解雇証書ハ何レノ当業者ヨリ受ケタルモノト雖トモ雇ハレ中ハ総テ其当業者ニ預ケ置クヘシ、当業者ハ追テ解雇ノ際之ヲ本人ニ還付スヘシ
 第十四条 当業者職工ノ寄宿所ヲ設クルトキハ自ラ之ヲ管理スヘシ但其構造ニ付テハ予メ仕様書ヲ作リ所轄警察署又ハ分署ヲ経テ当庁ニ届出認許ヲ受ヘシ、増設又ハ変更セントスルトキ亦同シ
 第十五条 紹介人ニシテ本則第五条但書ニ該当スル刑ニ処セラレ、若クハ本則ニ違ヒ処分ヲ受ケタルモノハ、紹介人タルノ認許ヲ取消スコトアルヘシ
 第十六条 本則第二条・第三条・第四条・第五条・第六条・第七条第八条・第九条・第十一条・第十二条・第十四条ニ違フモノハ弐円以上拾円以下ノ罰金ニ処シ、第十条・第十三条ニ違フモノハ五銭以上壱円九拾五銭以下ノ科料ニ処ス
      附則
 第一条 職工寄宿所ハ食堂・炊事場・浴室・病室・伝染病室ヲ設ケ熱気消毒機ヲ備ヘ、寝室ハ一坪ニ付二人ノ割合ヲ超過スヘカラス但寄宿ノ職工少数ナルモノニ在テハ斟酌スルコトアルヘシ
 第二条 本則発布以前ニ設ケタル職工寄宿所(紡績ヲ除ク)ハ本年中ニ届出認許ヲ受ヘシ、若シ其寄宿所(紡績トモ)ニシテ自ラ管理セサルモノアルトキハ、本年中ニ自己ノ管理ニ移スヘシ
 参照第三号
    重要工産物同業組合其他ニ於ケル職工ニ関スル規定
 ○大坂府段通組合規約
      第九章 職工・習業者・徒弟ニ関スル規程
 第六十条 賃銀ヲ受ケ機業若クハ染業ニ従事スルモノヲ職工ト云ヒ技術ヲ修ムルヲ目的トシ機業若クハ染業ニ従事スルモノヲ習業者又ハ徒弟ト云フ
 第六十一条 職工ヲ雇入レ又ハ習業者・徒弟ニ授業契約ヲ為スニハ先ツ其本人ノ住所・氏名・年齢ヲ詳記シテ組合長ニ申請シ、組合ヨリ差支有無ニ係ル証明ヲ受クヘシ
 第六十二条 前条差支ナキノ証明ヲ得タルトキハ組合ニ於テ定ムル書式ニ依リ契約書ヲ領置シ、之ヲ組合長ニ提出シ名簿ノ登記ヲ受クヘシ
 第六十三条 前二条ノ手続ヲ為シタル上ニアラサレハ、之ヲ雇入又ハ業務ニ従事セシムルコトヲ得ス
 第六十四条 組合員ハ職工・習業者・徒弟ニ対シテハ撫育ノ精神ヲ以テ毫モ苛酷ノ行為アルベカラス
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 第六十五条 職工・習業者・徒弟ニシテ執業上負傷シ又ハ疾病ニ罹リ業務ニ堪ヘサル者ニ対シテハ、其全癒ニ至ルマデ執業セシムルヲ得ス
  前項負傷者及病者ニハ相当ノ医療ヲ加フベシ
 第六十六条 組合員ハ他人ニ契約アル職工並ニ習業者・徒弟ハ何等ノ事情アルモ雇使スルコトヲ得ス
 第六十八条 契約期間ハ左ニ記載スル制限ヲ超ユルヲ得ス
  一 職工ハ三ケ年
  二 習業者・徒弟ハ五ケ年
    但シ通勤習業者・徒弟ニシテ年齢十三歳以上ノモノハ三ケ年ヲ超ユルヲ得ス
 第六十九条 契約ヲ更改シタルトキハ、其旨組合ニ届出更ニ登記ヲ申請スヘシ
 第七十条 契約期間中正当ノ理由アリテ左ニ掲クル日数以上引続キ休業シタル職工・習業者・徒弟ニ対シテハ、期間満了后更ニ補足ノ業務ニ服セシムルコトヲ得
   但六十五条ノ場合ハ此限リニアラス
  一 習業者・徒弟ハ三十日間
  二 職工ハ十日間
 第七十一条 雇主ノ許諾ヲ得ス又ハ第七十条ノ理由ナクシテ休業シタル者ハ、其職工・習業者・徒弟ヲ問ハス其休業シタル日数ハ期間満了後補足ノ業務ニ服セシムルコトヲ得
 第七十二条 組合員ハ職工・習業者・徒弟休業シタルモノアルトキハ、其休業セシ日ヨリ五日以内ニ其事由ヲ取調之レヲ組合ニ届出ツベシ
   但復業シタルトキモ本条ノ期日内ニ届出ツベシ
 第七十三条 前条ノ届出ヲ為サヽルモノハ、期間満了后補足セシムルノ効ヲ失フヘキモノトス
 第七十五条 組合員ニシテ廃業又ハ転業シタルトキハ、其職工・習業者・徒弟ニ関スル契約ハ消滅スルモノトス
 第七十六条 一人ニシテ被雇契約ヲ重複ニ為シタル者ハ第一以外ノ契約ヲ無効トスヘシ
 第七十七条 左ニ掲クル事実ノ生シタルトキハ、被雇人若クハ其父兄又ハ権利アル関係者ノ申出ニ依リ、雇主ハ其契約ヲ解クヘキモノトス
  一 雇主カ十日以上休業セシメタルトキ
  二 雇主ニ於テ苛酷ノ所為アリタルトキ
  三 雇主又ハ其家族ノ不品行ニヨリ職工・習業者・徒弟ノ身上害ヲ加ヘ又ハ害ヲ加フル虞アルトキ
  四 工場ニ異動ヲ生シタル為メ通勤シ能ハサル場合
  五 嫁娶又ハ家督相続ニ依リ業務ニ従事シ能ハサルトキ
    但本条ノ趣旨ヲ以テ解約ヲ得タルモノ他日同業ニ従事セントスルトキハ、前雇主ニ相当ノ手続ヲ為シ之カ承諾ヲ得ヘキモノトス
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 第七十八条 左ニ掲クルモノハ其雇主ニ於テ三ケ月以内賃銀三分ノ一ヲ減殺スルヲ得
  一 被雇期間中重複ノ被雇契約シタルモノ
  二 同盟罷工ヲ幇助シ若クハ之ニ応シタルモノ
  三 業務ヲ怠リ工場取締ノ秩序ヲ乱シタルモノ
 第七十九条 左ニ掲クル者ハ雇主ニ於テ五ケ月以内賃銀三分ノ一ヲ減殺スルヲ得
  一 同盟罷工ヲ企テタルモノ
  二 職工・習業者・徒弟間ニ苛酷ノ行為ヲ加ヘタルモノ
 第八十条 組合員ハ前二ケ条ノ数項ニ記載スル事実ノ生シタルトキ若クハ遭遇シタルトキハ、速ニ其次第ヲ組合長ニ申告スヘシ
      第十章 職工・習業者・徒弟紹介ニ関スル規程
 第八十一条 組合員ノ使雇スベキ職工・習業者・徒弟ノ紹介ハ、官許ノ営業人ニ限ルモノトス
 第八十二条 組合員ハ、組合地域外ノ同業者又ハ同業ヲ開始スルモノニ対シ職工及習業者・徒弟ノ紹介ヲ為シ、或ハ組合員ノ契約者ヲ誘導スル等ノ行為アルヘカラス
 第八十三条 紹介人職務上ニ付取調ヲ請求スルトキハ、左ノ事項ニ限リ許諾スルコトアルヘシ
  一 組合員ノ住所・氏名
  二 紹介スヘキ当人カ組合内ニ於テ差支ノ有無
  三 職工・習業者・徒弟ノ契約期間ノ満了及休業・復業ノ事項
 第八十四条 紹介人ニシテ、組合員ノ契約者タルコトヲ知リ又ハ詳細ノ取調ヲ為サスシテ、他ニ紹介又ハ誘導シタルコトヲ発顕シタルトキハ、其者ニ対シ組合一般ノ紹介ヲナサシメザルモノトス
  此場合ニ於テハ組合長役員会ノ議決ヲ経テ之ヲ執行スベシ
 ○静岡県引佐郡麁紙業組合規約
      第八章 職工・徒弟ノ方法
 第四十三条 職工及ヒ徒弟ハ期間ヲ定メ使役スルモノトス
   但臨時雇入ノ場合ハ此限ニアラス
 第四十四条 職工・徒弟甲主ニアル間乙主競争シテ雇入ノ約ヲナシ又ハ増給ヲ以テ強ヒテ誘フベカラス
   但甲乙二者合意ノ場合ハ此限ニアラス
 第四十五条 職工・徒弟ニシテ雇ハレ期間中甲主ヲ偽リ出テタルモノハ乙主、乙ヨリ出テタルモノハ甲其情ヲ知リテ互ニ使役スヘカラス
 ○静岡県周智郡紙業組合規約
      第八章 職工・徒弟ノ方法
 第三十八条 職工及徒弟ハ予メ期間ヲ定メ使役スヘキモノトス
   但臨時雇入ノ場合ハ此限ニアラス
 第三十九条 甲主ニ雇ハレ期間中ノ職工・徒弟ヲ乙主ニ於テ雇入レントスルトキハ、甲ノ承諾アルニアラサレハ之ヲ雇入ルヽコトヲ得ス
 第四十条 職工・徒弟ニシテ雇ハレ期間中、甲主ヲ偽リ出デタルモ
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ノハ乙主、乙ヨリ出デタルモノハ甲其情ヲ知リテ互ニ使役スヘカラス
 ○富山県絹織物業組合規約
      伝習生及職工
 第四十八条 常職工ニシテ製造家ニ雇ハレントスルモノハ、満一ケ年以上ノ年限ヲ定メ雇主ト約定ヲ取結フヘシ
 第五十二条 常職工ニシテ契約年限中他ヘ移転スルトキハ、残余ノ月数ニ応シ相当ノ義務ヲ尽サシムルモノトス
 第五十三条 勤務時間ハ組合会ノ決議ニ依リ定ムルモノトス
 第五十四条 伝習生及諸職工ノ休日ハ一ケ月二日トス
   但官祭祝日等アルトキハ此限ニアラス
 第五十五条 他ノ伝習生或ハ諸職工ヲ雇入又ハ伝習セシムルトキハ其師家或ハ雇主ノ許諾ヲ受ク第三号書式ニ準シ組合事務所ニ届出ツヘシ
 第五十六条 伝習生又ハ諸職工ニシテ雇主ノ指揮ニ従ハサルカ、或ハ他人ヲ煽動シ又ハ先キ借賃銀ノ義務ヲ尽サヽル等、其他不都合ノ所行ヲ為スモノハ速ニ解放シ、其趣組合事務所ニ申出ツヘシ、事務所ハ之ヲ本組合内ヘ一般ニ報告スルモノトス
 ○和歌山県 黒江漆器板物蒔絵木地同業組合規約
      職工及徒弟
 第四十五条 年期ヲ約定シタル徒弟其年期中ノモノ、又ハ詐欺ノ手段ヲ以テ約定ヲ解キタルモノハ、他ノ営業者ニ於テ其習業ヲ約スルコトヲ得サルモノトス、若シ事実ヲ知ラス約定シタルモノハ、其事実ノ通知ヲ受ケタルトキハ速ニ解約スルモノトス
   但本条ノ徒弟・職工人ノ附子トナリ習業セントスルモ之ヲ拒絶スルモノトス
 ○西松浦郡有田町陶磁器錦手組合規約
 第三十七条 新ニ職工ヲ雇入ルヽモノハ旧雇主ニ照会シ、其承諾ヲ得テ定約ヲナスモノトス
 第三十九条 職工・賃業者都テ雇入定約ヲナシタル組合員ハ其住所姓名・年齢及日給額ヲ記シ事務所ニ届出ルモノトス
 第四十条 雇主・被雇者既ニ約定整ヒ組合事務所ニ届出タル上ハ、其期間ハ互ニ其組合員中ノ職工ヲ籍ニ使用スルコトヲ得ズ
 第四十二条 組合員ハ職工ノ居宅ニ生地ヲ遣シ就業セシムルコトヲ得ス
   但事情ヲ組合事務所ニ具シ許諾ヲ得タルモノハ此限ニアラス
 第四十三条 将来我地ノ職工ハ徒弟学校卒業シタルモノニ限リ雇用スヘシ
   但普通教育ヲ受ケタル職工モ事務所ニテ調査ヲ遂ケ雇用ニ便ナラシムヘシ
 ○西松浦郡伊万里町南波多村陶磁業組合規約
      目的及方法
 第十三条 本組合員ハ自今新タニ職工ヲ雇入ルヽトキハ、尋常小学科以上ノ教育ヲ受ケタル者ヲ撰用スヘシ
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   但シ品行端正ニシテ独特ノ伎倆ヲ有スル者ハ此限ニアラズ
 第十四条 本組合員ハ其使用スル職工ヲ雇入ルヽトキハ、其都度族籍・氏名・教育ノ有無及年期ヲ記載シタル届書ヲ事務所ヘ差出スヘシ、事務所ハ其被雇人カ普通教育ヲ受ケタルヤ又ハ品行端正、独特ノ伎倆アルヤヲ取調ヘ、若シ否ラサレハ其旨届主ニ通知ス、此通知ヲ受ケタル者ハ之ヲ雇入ルヽヲ得ス
 ○佐賀県三養基郡陶磁業組合規約
      職工撰用方法
 第八条 組合員ニシテ職工ヲ聘用スル時ハ、事務所ニ届出ツヘシ
 第九条 事務所ハ前条ノ申出ヲ受ケタルトキハ、可成普通教育ヲ受ケタルヤ否ヤ及品行等ニ就キ証明ヲ与フヘシ
 第三十三条 職工ハ互ニ濫用スルヲ得ス
 第三十四条 賃業者ハ甲雇主解約ニ非サレハ乙ヨリ妄リニ之ヲ使役スルヲ得ス
 ○陶磁業組合規約
 第十九条 製造者ハ常ニ一名以上ノ職工ヲ養成スヘシ、但養成年期ハ七ケ年トシ、特別ノ事情アルトキハ組合長ノ承認ヲ得テ更ニ二ケ年ノ範囲内ニ於テ之ヲ短縮スルヲ得
 第二十六条 組合員ハ職工就業時間ノ均一ヲ計ル為メ、一日ノ執行時間八時間以下トス
 第二十七条 組合内ノ賃業ニ係ルモノハ各地トモ之ヲ一定シテ事務所ニ届出、濫リニ増賃銭ヲ為スコトヲ得ス
   但土地ノ状況ニ依リ一定シ難キ場合ニハ組合長ニ届出増減スルコトヲ得
 ○佐賀県藤津郡吉田村西嬉野村陶磁業組合規約
 第十六条 職工及賃業者ノ賃金ハ、組合ト職工及賃業者ト双方協議ニ依リ一定シ、賃金表ヲ調製シテ組合員ニ配付ス、組合員ハ其規定ヨリ過大ノ賃金ヲ支払フヘカラス
 第十七条 自家雇入職工ニハ毎月一回期日ヲ定メ正確ニ計算シ遅滞ナク賃金ヲ支払ヘシ
 第十八条 他人ノ定約セル職工人ハ猥リニ使用スヘカラス
   但シ雇主ノ承諾アルトキハ此限ニアラス
 第十九条 陶磁製造者ハ可成普通教育ヲ受ケタル者ヲ選ヒ、各自職工見習生ヲ養成スヘシ
 第二十条 前条ノ場合ニ於テハ、養成者ハ見習生或ハ其父兄ト期限ヲ定メ厳重ナル契約ヲナシ、契約証ノ写ヲ添ヘ双方連印ニテ事務所ニ届出ツヘシ
 第二十二条 他人ノ養成シタル細工職工見習生ハ満期後七ケ年ヲ経サレハ養成者以外ノ者ヨリ雇入又ハ使用スヘカラス
 ○奈良県肥料業組合規約
 第三十五条 組長ハ組合員ニ於テ使用スル職工人賃銭ヲ定ムルモノトス
   但シ職工ニ於テ不信用ノ所為アリタルトキハ届書ニ其旨詳細附記スヘシ
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 第三十七条 組合員ハ職工誘拐及賃銭ノ競争ヲナサヽルモノトス
 ○伊勢崎織物商工業組合規約附則
 第四条 職工又ハ使用人ヲ雇入ルヽトキハ、必ス雇傭者間ニ於テ給料其他当業ニ関スル要務ヲ契約スヘシ
 ○福井県絹織物業組合規約
      染織学校織物伝習部及職工使用人ニ関スル規程
 第六十八条 職工使役中正当ノ事故ナクシテ十日以上雇主ニ於テ休業ニ至ラシムルコトヲ得ス
 第六十九条 甲家ニ於テ雇使スル職工ハ、如何ナル業務ト雖モ乙家ニ於テ雇使スルコトヲ得ス
   但甲家ノ承諾書ヲ得タルモノハ此限ニアラス
 第七十条 職工ニ於テ止ムヲ得サル事故アリ解雇ヲ求ムルトキハ、正当ノ理由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス、若シ解雇ノ諾否ニ関シ職工ヨリ事務所ヘ申出ツルトキハ、組長ニ於テ双方ノ事実ヲ取糺疑議ニ渉ルモノハ常議員会ニ諮リテ之ヲ処分スルモノトス
 第七十一条 使役スル職工不実不正ノ所為アルニヨリ解雇スルトキハ速ニ其旨事務所ニ届出ツヘシ、事務所ニ於テハ事実ヲ取糺シ、疑議ニ渉ル者ハ常議員会ニ諮リ、職工ノ所為不当ニシテ他ニ之ヲ雇使スルニ於テ弊害ヲ醸成スル者ト認ムルトキハ、組合一般ニ報告スル者トス、其職工ハ組合員ニ於テ他ノ業務ト雖トモ雇使スルコトヲ得ス
 ○大日本綿糸紡績同業聯合会規約
      職工
 第六十一条 左ノ職工ハ最終傭主ノ許諾ヲ得ルニ非サレハ之ヲ傭使スルコトヲ得ス
  一 現ニ他ノ会員ノ傭使約定期限内ニシテ、執業最終日ヨリ満一ケ年ヲ経過セサルモノ
  二 違約・犯則其他不都合ナル所為アリタル為メ他ノ会員ニ於テ解傭セラレ、未タ一ケ年ヲ経過セサルモノ
  三 他ノ会員ノ工場ニ於テ同盟罷工ヲ為シ満二ケ年ヲ経過セス、且同盟罷工後其傭主ニ於テ傭使セサルモノ
 第六十二条 会員新ニ職工ヲ傭入レ又ハ満期後更ニ傭継キヲ為ストキハ、其都度本人ノ署名シタル傭入証書ヲ取リ満期迄之ヲ保存スヘシ、傭入証書ニハ職工ノ姓名・住所・年齢及約定期限ヲ記入スヘシ
   但シ本人自署スル能ハサルトキハ、其事由ヲ附記シテ他人代書スルコトヲ得
 第六十三条 会員ハ左ノ帳簿ヲ備フヘシ
   一 職工名簿
   二 職工勤怠簿
   三 職工賃金勘定帳
 第六十四条 職工取扱ハ深切懇篤ヲ旨トシ、苟モ不法苛酷ノ所為アルヘカラス
 第六十五条 職工傭使約定期限ハ満五ケ年ヲ超過スルヲ得ス、満期
 - 第23巻 p.508 -ページ画像 
ニ際シ更ニ満五ケ年ヲ超過セサル傭使継続約定ヲ為スヲ得ヘシト雖モ、強行ケ間敷所為アルヘカラス
 第六十六条 幼年ノ職工ハ、父兄若クハ他ノ親族ノ承諾書ヲ受クルニアラザレハ傭入ルヽコトヲ得ス
 第六十七条 職工ニハ食事休憩時間ノ外、其前後ニ少ク共一回宛ノ休憩時間ヲ与フベシ
  又毎月少クトモ二日ノ休業ヲ与フベシ
 第六十八条 昼夜兼業ヲ為ス工場ニ於テハ昼夜職工ヲ交代セシメ、尚一週間内外ニハ昼夜業者ノ交代ヲナサシメ、久シク同一職工ヲシテ夜業ノミニ従事セシムヘカラス
 第六十九条 工場ニハ医師ヲ雇入レ若クハ医師ト予メ約束ヲ為シ職工ノ衛生ニ注意セシメ、負傷者・発病者ニ対スル手当方法ヲ設ケ置クヘシ
 第七十条 職工寄宿舎衛生方法ハ、職工自家ノ生活平常ノ程度ヨリ優等ナラシムヘシ
 第七十一条 職工ヲ寄宿舎内ニ寄宿セシムルトキハ、勉メテ読書・算術・習字・裁縫等相当教育ノ方法ヲ設クヘシ
 第七十二条 伝染病流行ノ際ハ其予防ニ注意スルハ勿論、少クモ二週間ニ一回職工ヲ集メ、伝染ノ恐ルヘキコト及衛生方法ヲ説諭スヘシ
 第七十三条 職工ノ業務勉励・半季皆勤・品行端正及業務上有益ナル発明ニ対スル賞与方法ヲ設ケ、予メ其大要ヲ工場ニ掲示スヘシ
 第七十四条 職工貯金奨励法ヲ設ケ、通常貯金銀行預ケ入ルヽヨリモ幾分カ便利ニ且ツ幾分カ利益アル取扱ヲ為スヘシ
 第七十五条 約定期限内特ニ業務ニ勉励シ、満期ニ際シ更ニ傭継ヲ約定スル職工ニハ、傭主ニ於テ保険料ヲ支払ヒ生命保険ヲ受ケシメ若クハ恩給料ヲ与フヘシ
 第七十六条 職工業務ノ為メ負傷シタルトキハ傭主ニ於テ其治療費用ヲ負担シ、全快後負傷ノ為メ通常業務ヲ取ル能ハサル者ハ、別ニ相当扶助ノ途ヲ設クヘシ
 第七十七条 重禁錮三ケ月以上ノ刑ニ処セラレ満期後一ケ年ヲ経過セサル者及重罪ノ刑ニ処セラレ満期後五ケ年ヲ経過セサル者ハ、職工トシテ傭使スルコトヲ得ズ
 第七十八条 会員中職工ノ同盟罷工若クハ其他非常事故ノタメ職工ノ欠乏ヲ告ケ営業ニ差支ヱル者アリテ幇助ヲ請求スルコトアルトキハ、理事ハ正当ノ理由アリヤ否ヤヲ決定シ、適宜他ノ会員ニ協議シ六ケ月ヲ超ヘサル間職工ノ傭替ヲ為サシムヘシ
 第七十九条 新タニ営業ヲ開始シ本会ニ加盟シタル会員ニテ熟練ナル職工ヲ要スルトキハ、本会ニ申出テ他ノ会員中ヨリ職工ノ傭替ヲ受クルコトヲ得
 第八十条 前条ノ申出アリタルトキハ、理事ハ其事由ヲ審査シ、適宜他ノ会員ニ協議シ、六ケ月ヲ超ヘサル間職工ノ傭替ヲ為サシムヘシ
 第八十一条 第七十八条及第七十九条ノ傭替職工ノ往復旅費ハ傭替
 - 第23巻 p.509 -ページ画像 
ヲ受クル会員ノ負担トス
 ○京都陶磁器商工業組合規約
 第六条 第八項 傭主相互ノ間ニ於テ恣ニ他ノ職工・雇人ヲ直接間接ニ勧誘シテ自己若クハ他家ニ転セシメ、為メニ自己ヲ利シ又ハ職工・雇人ニ私利ヲ営マシメ、前傭主ニ害ヲ与フカ如キコトヲ為スヘカラス
 第五十七条 傭主ニ於テ職工ヲ雇入レント欲スルトキハ、其以前ニ其職業・族籍・姓名及ヒ前傭主ノ解約証明アル職工証票ヲ副ヘ取締所ヘ届出認許ヲ受クヘシ、但雇入中職工証票ヲ預リ置クヘシ
 第五十九条 職工雇入レニハ傭主ト職工ノ協議ニ依リ時間或ハ日当或ハ月俸ヲ以テ契約スルモ妨ケナシ、但傭主ニ於テ職工其者ノ技術ニ対シ正当ノ賃銀ヲ取定ムルヲ要ス
 第六十条 傭主ハ自家雇入ノ職工労務時間或ハ日数ハ正確ニ之レヲ計算シ、契約ノ賃銀ヲ遅滞ナク仕払フ義務アルモノトス
 第六十二条 傭主ハ職工ノ品行ヲ善良ニ誘導シ、職業ヲ奨励シ、尚本人ニ貯金ヲ為サシメ、疾病或ハ災厄ノ用ニ備ヘシム方針ヲ取ルヘシ
 第六十九条 職工傭主ノ許諾ヲ得ズ擅ニ一週間以上休業シ、又ハ他ノ職工ヲ煽動教唆シテ賃銀ノ増加ヲ強請シ、若クハ同盟罷工ヲ企タテシムル如キ其他不正ノ所為アリ、傭主ヨリ其理由ヲ取締所ニ届出タルトキハ、取締所ニ於テ事実ヲ審査シテ、果シテ相違ナキトキハ其姓名・事由ヲ組合内ニ報告シ、組合員ニ於テハ爾後ノ雇入ヲ停止スルコトアルヘシ、但前傭主ニ於テ職工本人行状悔悟ノ保証書ヲ差出ストキハ停止ヲ解除スルモノトス
 第七十二条 授業師ト徒弟トノ契約ニハ双方共ニ之レヲ確守シ、互ニ不実ノ所為アルヘカラス
 第七十六条 授業師ハ自家習業ノ徒弟ニ筆算修習ノ為メ休業時間外ニ相当ノ時間ヲ与ヘ、専ラ勤倹篤実ノ精神ヲ涵養スルヲ勉ムルモノトス
 第八十条 徒弟若シ授業師ノ待遇苛酷ニシテ堪ヘサルノ事実アレハ取締所ニ申告シテ解約ヲ請求スルコトヲ得
 ○京都染業組合規約
 第五十条 傭主職工ヲ七日以上休職セシムルトキハ、七日目ヨリ相当ノ日給ヲ給スヘシ
  頭取ハ傭主日当ヲ給セサル時ハ職工ヲ解雇シタルモノト見做シ、職工ヨリ傭主ニ預ケタル職工証票ヲ徴シ職工ニ還付シ、職工名簿ノ登記ヲ取消スヘシ
 第五十一条 職工傭主ノ許諾ヲ得ス一周間以上他出シ、又ハ職工・徒弟ヲ煽動シ教唆シテ賃銭ノ増加ヲ強請スル等其他不正ノ所為アリテ解雇シタルトキハ、雇主其事由ヲ明記シ頭取ニ申出テ組合中雇入ノ停止ヲ請求スル事ヲ得、但傭主ハ其職工ノ職工証票ヲ頭取ニ預ケ置クヘシ
 第六十一条 授業師ハ業務ノ余暇ヲ以テ徒弟ヲシテ修身・読書・算術・習字等ノ学科ヲ教修セシムヘシ
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 第六十三条 組合員ノ徒弟トナリタルモノ事故ヲ申立テ、強テ解約ヲ求メ染業ヲ営ムトキハ、前授業師ノ得意先ヲ奪フ等ノコトヲ為ス可ラス
 ○京都刺繍工業組合規約附則
 第五条 職工人ノ就業時間ハ一日通常十二時間トス、但臨時々間ヲ伸縮スルトキハ其割合ヲ以テ手間料ヲ増減スヘシ
 第六条 職工人ハ手間料ヲ前借スルヲ得ザルモノトス
   但止ムヲ得サル事情ニ依リ雇主ノ承諾ヲ得テ前借スルトキハ証票ヲ雇主ヘ預ケ置キ、雇主ヨリ預書ヲ乞受ケ之ヲ携帯スベシ、尤モ此場合ニハ雇主・職工人双方ヨリ其事由ヲ取締所ヘ申告スヘシ
 第七条 職工人ノ行為不都合ニシテ之ヲ解雇セントスルトキハ、雇主ヨリ其由申出ズルトキハ取締所ニ於テ其事実ヲ調査シ、頭取ヨリ地区内一般ヘ過怠解雇ノ事由ヲ通告スベシ、然ルトキハ組合員ニシテ右解雇ノ報告アル迄決シテ該人ヲ使用スベカラズ
   但職工人ニ於テ雇主ノ待遇苛酷ナルカ又ハ其申出ヲ正当ナラストスルトキハ、之ヲ取締所ヘ陳告シ再調査ヲ乞フコトヲ得ベシ
 第十一条 職工人ノ就業中ハ取締所ヨリ時々役員ヲ出張セシメ、此規定実行上ノ利害ニ付キ篤ト監査セシムルモノトス
      授業師ト徒弟ニ関スル規定
 第三条 受業徒弟ハ、卒業後少クトモ一ケ年間ハ教育ヲ受ケタル報酬ノ為メ師家ヘ報勤スベキモノトス
 第七条 甲家ニアリシ徒弟乙家ノ徒弟タラシメント欲スルトキハ、先甲家ヘ不都合ノ有無ヲ問合セ、其不都合ナキニアラサレバ之ヲ使傭スベカラズ
   但甲家ノ不都合トスル所ノ徒弟ヲ乙家ニ於テ不都合ト認メサルトキハ、取締所ニ其事実ノ調査ヲ乞フコトヲ得、此場合ニ於テ頭取ハ役員会ニ諮リ之ヲ処置ス
 第九条 授業徒弟ニハ修業時間外ニ就学時間ヲ与ヘ普通学ニ就カシムベシ
 ○京都漆器商工組合規約
      雇主ト職工ニ関スル取締
 第五十条 雇主ニ於テ契約中ト雖トモ都合ニ依リ解雇ナストキハ其旨雇入人ニ示シ、以テ二週間已内ノ日給ヲ与ヘ解雇スルモノトス
 第五十一条 職工人ニ於テ解雇ヲ乞フトキハ、一週間已前ニ其承諾ヲ得ルモノトス
   但事実至急ノ場合ハ此限ニアラズ
      授業師・徒弟ニ関スル取締
 第五十七条 授業師ハ徒弟ニ対シ工作ノ伝習ヲナシ、且授業時間ノ余暇ハ普通教育上ノ智識ヲ発達セシメ之ガ練習ヲナサシムベシ

○十五番(浜岡光哲君) 第七諮問案ニ就キマシテハ、土地ノ異ナルト慣習ノ異ナルトニ依ツテ余程斟酌シナケレバナリマセヌカラ、是非事業家ニ聴カナケレバナラヌ箇条モアリマスルシ、尚ホ能ク取調ベ
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ナケレバナラヌ事情モアリマス、此取締及ビ保護ニ関スル件ニ就キマシテハ、継続委員ヲ置カレマシテ十分ニ取調ベヲ致シタ上ニ答申ヲ致シタイト考ヘマス、既ニ京都商業会議所ナドハ此為メニ特別ノ委員ヲ置キマシテ取調ベニ掛ツテ居リマスルガ、十分ニ実際ノコトヲ取調ベル場合ニモ至ツテ居リマセヌ、殊ニ海外ノ事ニ附キマシテハ十七番ノ通商局長ヲ煩シマシテ海外ノ材料ヲ集メテ頻リニ取調ベニハ掛ツテ居リマスルガ、余程是レハ鄭重ニ致シマセヌト、実況ニ適セズシテ為メニ吾製造業ノ発達ヲ妨グルヤウナコトニ至リマスルカラ、継続委員ニ附託セラレンコトヲ希望致シマス
○二十一番(添田寿一君) 煩ハシマシテ恐入リマスガ、此問題ハ私ハ従来必要ヲ確信致シテ居リマスル者デゴザリマス、成程継続委員モ宜ウゴザリマセウ、十分ニ御調査ヲ煩ハスコトハ必要ト思ヒマスガ先ヅ委員ニ附託スルヤ否ヤノ採決ノ前ニ、一応此取締規則ノ最モ必要デアルト云フコトニ付テハ御承知ノ方モゴザリマセウガ、此問題ニ私ハ熱心デアルト云フコトニ愛デラレマシテ、少シク御話ヲ御許シヲ願ヒタイノデゴザリマス、幾分カ委員説ガ成立チマシテ御調査ノ御参考ニモナラウト存ジマスルカラ、成ルベク短ク要点ダケヲ申上ゲルコトニ致シタウゴザリマス、此所謂職工ノ取締リ及ビ保護ニ関シマシテハ、既ニ各製造国ト云フモノハ色々ナル苦心ヲ致シマシテ、今日デハ随分喧マシイ問題デアリマスルケレドモ、殆ンド確定シタル問題ト申上ゲテ宜イノデアリマス、凡テ此職工ガ機械ノ間ニ立ツテ働キマスルト云フ今日ノ工場組織ト云フニナリマスレバ、余程社会上ヨリ又ハ衛生上ヨリ道徳上ヨリ、種々ナル弊害ヲ見ルヤウニ至リマシタノデ、即チ国家ノ自衛ト云ヒマスルカ、国家ハドウシテモ棄置カレヌト云フ弊害ヲ見ルニ至ツタノデアリマス、例ヘバ未ダ発育ノ十分ナラザル幼者ヲ使フトカ、或ハ将来母トナリマスル所ノ婦女子ヲ使ヒマスルトカ、或ハ青年者ト雖モ人間ノ体力ノ及バザル時間ヲ使役シマスルトカ、是レハ雇主ガ使役スルノミナラズ、本人ガ進ンデ使役サレルノデアリマスガ、併シ国家ガ健全ナル国民ノ発育ヲ計ラネバナラヌト云フ所カラ見マスルト、軽々シク棄置カレヌ種々ナル弊害ガ生ズルノデアリマス、即チ国家ノ自衛上カラ、ドウシテモ職工ノ上ニ多少ノ保護監督ヲ加フルト云フコトハ、今日デハ先進国ハ最早ヤ必要デアルト認メテ居ルノデアリマス、夫レデ先ヅ国法ト申シマスカ国ノ法律ヲ設ケマスル上カラ、即チ是レハ国家ニ種々ノ必要カラ、ドウシテモ之ニ付テハ多少ノ法律ガ必要デアルト云フコトガ最モ重キ理由ニナツテ居ルノデゴザリマス、夫レカラ又経済上カラ申シマシテモ、随分此労働時間ト云フヤウナコトヲ制限シマスレバ一見大変損ノヤウデゴザリマスルガ、人間ノ働キノ分量ト云フモノハ大概極ツテ居ルモノデアツテ、夫レ以外ニ使役シマシタ所ガ或ハ費ス所ガ多クシテ、其結果之ヲ補フニ足ラヌト云フコトニナリマスルノデ、多少此制限ト云フコトハ経済上利益スル場合ガアルモノデ、経済上カラ見テモ相当ノ工場ノ取締ト云フコトハ必要デアルト云フ議論ヲ唱ユルモノモアルニ至ツタノデゴザリマス、又衛生上カラ申シマスレバ、前ニモ既ニ申シタ通リデ発育ノ十分ナ
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ラザル者ヲ使フトカ、或ハ婦女子ヲ使フトカ云フ為メニ、第一人種ト云フモノガ大変弱クナツテ仕舞マシテ、国民ノ発達ヲ妨害スルノミナラズ、余程此工場ト云フモノニ付キマシテハ衛生上ニ於ケル注意ヲ怠リマスレバ非常ニ身体上ニ種々ナル疾病其他ノ弊害ヲ生ズルヤウニナルノデアリマスカラ、衛生上カラ殊ニ此必要ヲ今日認メラレテ居ルヤウニ考ヘマスノデアリマス、又道徳上カラモ例ヘバ男工女工ノ区別ヲ密ニシナケレバナラヌトカ、其他多少ノ注意ガ必要デアルト云フコトモ認メラレテ居ルヤウニ存ジマスルノデアリマス、併シ最モ此工場ノ取締リニ付キマシテ事実問題ヲ喚起シマスル所以ノモノハ、社会上ノ理由デゴザリマシテ、即チ雇主ト被雇人トノ関係ニ付テドウシテモ国家ガ多少干渉スル所ガナクテハ、詰マリ此被雇人ノ利益ト云フモノヲ保全スルノ途ガナイ、夫レガ為メニ種々ナル社会上ノ病気ヲ起シ社会上ノ擾乱紛争ヲ喚起スト云フ事ガ屡々アリマスノデ、詰マリ其弊害ハ各国共ニ実ニ甚シキニ苦シンデ、現ニ一部ノ反対ガアルニ拘ハラズ、工場ノ取締ガ必要デアルト云フコトヲ、今日ハ先進国ハ認メテ相当ノ法律ヲ制定致シテ居ルノデアリマス、夫レデ、成程時ニ依リ処ニ依リ場合ニ依リマシテ、必ラズ他ノ国ニ在ル法律デアルカラ吾国ニ必要デアルトハ申シマセヌガ、我邦ニ於テモ追々工場製造ノ域ニ進ンデ参リマシテ、今日ニ於キマシテハ又多少ノ弊害ヲ目撃致シマスカラ、ドウシテモ我邦ニ適スル範囲ニ於テ国家ニ法律ヲ設ケルノ必要ガアルト存ズルノデゴザリマス、夫レデ御諮問案中ノ区域ト云フヤウナコトハ、随分国ニ依ツテハ広ク及ボシテ居リマスルガ、蒸汽機関ヲ備ヘルトカ、又百人以上ノ職工ヲ使役スル者トカ云フコトニ、区域ヲ限ラレテ宜カラウト思ヒマス、其辺ハ実際上ノ御考ヲ煩ハシテ、相当ノ区域ニシナケレハナラヌ、又程度ト云フモノモ先ヅ衛生上又ハ道徳上ト云フ辺ノ保護ニ止メテ置カレテ、強チニ時間ハ八時間労働ニ是非シナケレバナラヌト云フコトハナイノデゴザリマス、尚ホ其辺ハ取捨ヲ加ヘタラ差支ナカラウト思ヒマス、何レニシテモ衛生上・道徳上ニ於テハ規定ガ必要デアルト信ズルノデゴザリマス、又方法ニ至リマシテハ或ハ行政命令デモ宜イト云フ説モゴザリマスガ、左様ナ軽々シイモノデハナイ、国家ノ法律トシテ成ルベク、多少地方ニ依ツテ取捨ノ出来ル余地ヲ設ケテ置カナケレバナリマセヌガ、国家ノ規定ヲ以テ定メテ置クト云フコトハ其性質ニ於テ必要ナルノミナラズ、人民ノ権利義務ニ関係シテ居リマスカラ、我帝国憲法ノ上カラ云フテモ法律ヲ以テ定メルノ必要デアルノデゴザリマス、ケレドモ随分一方ニ於テハ反対ガゴザリマス、是レハ何レノ国デモ左様デハアリマスカラ我邦モ其例ニ漏レマセヌ、随分反対ノ声ガ高クナツテ、第一ノ反対ハ法律上ノ反対デ契約ノ自由ニ何故ニ国家ガ携ハルカト云コトデゴザリマス、然ルニ契約ト云フモノハ対等ノ間ニ行ハレルモノデ、双方共ニ能ク其結果ヲ知リ双方ニ弊害ノナイト云フ場合ニ於テ云フベキコトデ、ソレニ反スル場合ハ契約ノ自由ト云フコトヲ称スルコトハナラヌノデゴザイマス、又経済上ノ反対ガ余程強イノデ、要ラザル干渉シ要ラザル制限ヲ設クル為ニ生産ニ妨害ヲ与ヘ、或ハ傭主ノ利益ヲ
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害スルト云フヤウナ反対ガ余程強イノデゴザイマス、此傭主ガ傭ハレ人ノ衛生・道徳ト云フコトヲ奨メ之ヲ保護シマスルコトハ、結局傭主ノ利益ニナルノデゴザイマス、唯一時ノ眼ヲ以テ見マシタナラバ、出来ルダケ長ク使ツタラ大変利益ノヤウデゴザイマスケレドモ左リナガラ長イ間ノコトヲ御考ヘニナレバ決シテ左様デゴザイマセヌ、現ニ先進国ノ発見シマシタ所デハ、日曜ノ休ミト云フモノヲ設ケルノハ非常ニ利益ガアルト云フケレトモ、独逸アタリデハ随分日曜ノ休ミヲセヌ、左リナガラ日曜ノ休ミヲ厳粛ニ守ツテ居ル英国ノ実験ニ徴スレバ、却ツテ日曜ノ休暇ヲ厳ニ守ツテ居ルト、職工ノ製造力ノ方ガ富ンデ居ルコトハ経済学者ノ研究上証拠立ラレマス、又独逸ニ於テモ月曜ノ一日ノ働キト云フモノハ余程減ツテ参リマスルノデ、段々唯今ハ独逸デモ或ハ休ミノアリマス時カラ計算シテ参リマスト、其先キニナル程生産力所謂労力ノ結果ト云フモノガ、減少スルト云フコトヲ証拠立テ居ルノデ、必ズシモ労働者ノ衛生・道徳ニ付イテ注意ナサルト云フコトハ、傭主ガ製造者ノ利益ヲ害スル事ハナイノデゴザイマス、コヽハ余程此熟考ヲ煩ハシタイノデアリマス、唯一時ノ算盤玉カラ見マシタナラバ不利益ト云フ事ガアリマセウガ、永久ノ事ヲ打算シマスルト必ズシモ損失バカリデナイト云フ事ハ此内ニ含マレテ居ルノデゴザイマス、ソレカラ或ハ幼工若クハ女工ニ制限ヲ設ケレバ、其奴等ノ食ヒ所ガナイデハナイカトカト云フ反対ガゴザイマセウケレドモ、是モ一時ノ利益ニ迷ツタ話デ、発達ノ充分ナラザルトキニ、例ヘバ工場ヘ集リマシタ其結果トシテ発育ノ妨害ヲナシ、或ハ夭死ヲスルト云フヤフナコトニナルカラ、其奴等ノ為ニ永久ノ利益デナイノデアリマス、ソコニ於テハ余程、永久ノ利益ヲ見ルカ一時ノ利益ヲ見ルカト云フ問題ヲ、先ヅ研究シナケレバナラヌノデゴザイマス、ソレカラ沿革上カラ反対サレル此方《(御)》ガアリマスノデ、ソレハ我邦ニハ左様ナ法律ハナイノデアル、ソレハ其通リデゴザイマシテ、ナカツタノハ当リ前デアルガ、ソレト同時ニ御考ヲ願ハナケレバナラヌノハ、我邦ニ蒸汽機関ト云フモノガ元トアリマシタカ、我邦ニ大工場ト云フモノガ元トアリマシタカ、是等ガ新ニ起リ新ニ輸入セラレタモノデアルカラ、ソレニ付イテドウシテモ必要欠クベカラザルモノデ、我邦ニナカツタト云ツテ是ヲ拒ム事ハ出来ナイ、既ニ新タナル組織ヲ設ケテ居リマスレバ、自ラソレニ必要ナル新タナル立法ガ又必要ニナルノデゴザイマス、ソレカラ是ハ先ヅ事実上ノ反対デゴザイマス、随分是マデ実業家ニ諮問サレタ場合ニ、皆不必要デアルト云フコトヲ御唱ヘナサル所ノ反対デアル、併シ是ハ或ハ一時ノ利益バカリ御図リニナルカラデハナイカ、宜シク広ク御考ヘニナツタナラバ、実業家所謂資産家ノ職人ヲ使用セラルヽ御方ト雖モ私ハ強イテ反対ナサルコトハナイト思ヒマスノデ、良シ多少其御反対ガアツテモ宜シイ、ソレガ必要アルコトヲ御認メニナリマシタナラバ、幾分カ其点ニ於テハ犠牲ニ供セラルル外ナイト信ズルノデゴザイマス、ソレカラ又我邦デハ既ニ旧幕以来余程下ヲ憐ムト云フ法律ノ立テ方デアリ、又人ガ憐愍心ニ富マレテ居ルカラ、左様ニ憂フルニ及バヌト云フコトガアルケレドモ、是
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ハマタ我邦ニハ機械製造ト云フ組織ヲ用ヰヌ今日マデノ有様ニ於テハ成程左様デゴザイマセウケレドモ、段々此機械使用ト云フコトガ烈シクナリ、又人間ノ競争的所謂自由競争ト云フ方ノ域ニ踏込ミマシテ、段々営利ト云フコトヲ以テ互ニ争フト云フコトニナリマスレバ、必ズシモ国民ガ慈善心ニ富ンデ居ルト云フコトヲ以テ安心ハ出来ナイ、殊ニ若シ条約改正施行ノ後ニ於キマシテ他ノ人種ガ傭主ニナルト、決シテ仁心ガアルカラト云フコトハ有効ニ推立テルコトハ出来ナイ、其場合ヲ御考ニナリマシタナラバ、他ノ人種ト云フモノガ加ハツテ参リマスレバ、決シテ此点ニ於テハ左様ニ安心シテ居ル訳ニハナリマセヌト信ズルノデゴザイマス、或ハ我邦ノ職工ハ柔順デアルカラ左様ニ御憂慮ニハ及バヌ、同盟罷工ナドハナイデハナイカト云フコトガゴザイマセウガ、是ハ必ズシモナイデハナイ、随分起ラントシテ居ル場合ガアルデ、今起ラヌニシテモ早晩起ルニ違ヒナイノデゴザイマスカラ、其点ハ安心シテ居ル訳ニハナルマイト思ヒマス、ソレデ反対ノ理由ハ一理アルガ如クニシテ、ドウモ能ク御考ヘニナリマスト、左様ニ有力ナル反対ト云フコトハ私ノ見ル所デハナイト信ズルノデゴザイマス、今日一日ヲ緩フシマスレバ一日ノ弊害ト云フモノガ増ス訳デゴザイマスカラ、又是ハ段々害ガ広クナツテ法立ヲサレルノガ最早晩イノデ、例ヘバ改正条約ガ実施ニナリマシタナラバ、随分外国人ナドガ反対スルト云フヤウナ時期ニ至ツテ見ルト、反対ノ分子バカリ殖ヱテ来テ詰リ此コトガ行ハレヌト思フ、サウシタナラバ社会上実ニ言フベカラザル弊害ヲ我邦ニ見ルニ至ラウト云フコトハ免レヌト思フノデゴザイマス、良シ又此害ガ甚ダシカラザルニ方ツテ相当ノ立法ヲセラレテ置クト云フコトハ、是ハ私ハ国家ノ義務デアルト深ク信ジテ居ルノデゴザイマス、ソレデ今日相当ノ立法ヲ設ケマシテ、傭主ノ利益ヲ考ヘ傭ハレ人ノ利益ヲ考ヘ、双方調和スルト云フ点ニ於テ相当ノ立法ヲナサレルト云フコトハ、私ハ少シモ反対スベキ理由ハナイト思ヒマス、唯傭主ノ便宜バカリ御覧ニナツテハ、ドウモ国家ガ国民ヲ治メル上ニ於テ甚ダ公平ヲ欠キハセヌカト思フノデゴザイマス、随分立法ヲナサル御方ノ内ニハ下情ニ御通ジノ御方モアルノデゴザイマス、又傭ハレ人ノ側カラ御考ヲ願フノデアリマス、実ニ傭ハレ人ト云フモノハ、親ガ食ヘヌカラト云フテ未ダ発育ノ充分ナラザル、小学教育ヲモ受ケナイ者ガ随分工場ニ這入ルノデ、又女子ガ少シモ自分ガ家内仕事ナドヲ覚エヌ前ニ工場ヘ参ツテ一日機械ノ間ニ交ハリマシテ労働ヲ執リマシテ、剰ス所ハ幾許アルカト云フト衣服若クハ小使銭位ヲエンヤラヤツトデゴザイマス、是等ハ随分場合ニ依リマシテハ一週間太陽ノ光ヲ見ナイ、夜バカリ続ケテヤルカラ、又一週間ハ昼休メバ宜カラウト云フコトガアリマスガ、人間ハ昼寝ルト云フコトハ出来ナイ、夜寝ベキ人間必要ナル休息ヲ奪ハレテ居ル、自ラ奪ツテ居リマスケレドモ、サウ云フ人間ニ必要ナル時ヲ欠カレテ居ルコトガ随分我邦ニ今日アルノデゴザイマス、是等ノ顔色ヲ御覧ニナルト憔悴シテ実ニ憐ムベキ者ガ多イノデゴザイマス、是等ノ状況ヲ能ク御考ヘ下サイマシテ、憐ムベキモノハ其状況ヲ御推察下サイマシテ、強チ目前
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ノ利益ノミヲ思ハズ、斯ノ如キ立法ノ必要ナルコトヲ篤ト御考ヘ下サルコトヲ偏ニ希望致シマス、願クハ此コトハ先ヅ継続委員デモ宜シウゴザイマスガ、ナラウナラバ成ルベク速カニ御調査ニ着手アラムコトヲ希望致シマス
○八番(安藤太郎君) 唯今二十一番カラシテ明細ナル御弁明ガゴザイマシタカラ、私ハ喋々スル必要モナイト思ヒマスガ、十五番ノ御説ニ、今進歩シテ行ク所ノ工業ヲ妨ゲル場合モアルカラシテト云フ御話ガゴザイマシタカラシテ、或ハ御諮問案ノ趣意ヲ誤解スルト言ツテハ失礼デゴザイマスガ、能ク翫味遊バサヌデサウ云フ御説ガ出タデハナイカト思ヒマス、諮問案ハ傭主ト職工トノ間ヲ調和シテ、双方ノ利益ヲ保全スルノデゴザイマス、ソレハコヽニ御出デニナル所ノ議員諸君ハ御承知デ、私ガ玆ニ喋々弁ズルマデモゴザイマセヌガ此問題ハ既ニ明治二十四年ニ各地ノ商業会議所ニ諮問サレタ問題デゴザイマス、其節ニハ堺一ケ所ヲ除クノ外ハ悉ク不賛成ノ答申ガ出テ居リマス、ケレドモソレカラ今日ニ至ルト六年間モ星霜ガ経テ居リマス、当時ノ工業ハ異常ノ進歩ヲシテ、工業社会ノ形勢ト云フモノハ一変シテ居リマス、是ハ私ガ申サヌデモ御案内ノ通リ、商工業ハ即チ毎戸製造カラ大工業タル所ノ蒸汽力水力ヲ用ヰルコトガ、工芸製造ニマデ及ンダノデゴザイマス、ソコデ私共ノ観察シマス所デハ、今日ハ既ニ前ニ不同意ヲ唱ヘラレタ所ノ方々ノ中デモ、ドウカ是ハ適当ナル所ノ法律ヲ拵ヘルナリ、規則ヲ発スルナリシテ、此間ニ処スル所ノ便宜方法ヲ計画セヌケレバナラヌト云フ所ノ議論モ大分アルヤウニ承ツテ居リマス、ケレドモ又ドウシテモ更ニ条例ヲ発布スルナリ規則ヲ立テルガ宜イケレドモ、今日古来日本ノ傭主ト職工トノ間ニ成立ツテ居ル所ノ主従同様ノ情誼ガアルトカ、或ハ武士道様ノ関係ニナツテ居ル所ヘ、イキナリ殆ト其儘外国ノ規則ヲ輸入シソレヲ適用スルヤウナコトガアラレテハ、ソレデハドウモ工業社会ニ由々シキ大事デアルカラシテ、サウ云フヤウナコトガアラレテハ困ルト云ツテ、今日ノ有リノ儘ノ有様ヲマア此位デ宜カラウト云ツテ、懸念ノ余リ黙止スルコトヲ好ンデ居ル人ガアルノデゴザイマス、トコロガ此諮問案中ニゴザイマスル通リ、元ト両方ノ便宜ヲ図リ両方ノ利益ヲ進メルト云フノ趣旨デゴザイマスカラシテ、農商務省ニ於テ今日此諮問案ヲ出シテ議員諸君ノ御意見ヲ問フト云フノデ敢テ憐レナモノデアルトカ貧苦ノ者ハ助ケナケレバナラヌ、撫育セヌケレバナラヌト云ツテ、職工ノ一方バカリニ考ヲ傾ケタト云フ趣意トハ私ハ決シテ存ジマセヌ、爾来各地方ノ知事若クハ勧業課ナドニ居ラレル所ノ人達ヲ会集シマシテ、其意見ヲ徴シタコトモゴザイマス、又主務省カラシテ各地方ヘ工業ヲ視察ニ出シマシタ視察官ノ実地見聞シタ所ノ報告、若クハ其実際ノ仕事ヲシテ居リマス所ノ人達カラノ報道ニ拠リマシテモ、職工トソレカテ傭主ノ両方ニ、実ニ今日ハ云フベカラザル所ノ不都合・不便ガ沢山アリマス、ソレハ此処デ余リ諸君ノ清聴ヲ煩ハシマスノモ如何デゴザイマスカラ、一・二例ヲ挙ゲテ申シマスレバ、傭主ノ側ニナツテ見ルト、職工ヲ高イ給金デ傭ツテ置キマシテ、サウシテ是カラ使ハウト云フ時分ニ競争
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ノ結果デ他ヘ取ラレテ仕舞フガ、之ヲ抑ヘルコトガ出来ナイ、或ハ又業務多端ノ時分ニ自由勝手ニヅン々々他ヘ往ツテ仕舞フ、又其工場ノ日傭デアルトカ云フ様ナ其職工ヲ他ヘ奪ヒ去ル、併ナガラ之ニ対シテ何ノ処分モ出来ナイ、又僅カナコトガアリマスト不平ヲ鳴ラシマシテ、相集合シテすとらいきノヤウナコトヲシマシテ、異常ナル迷惑ヲ傭主ニ掛ケルコトガアリマス、最モ此競争上職工ノ取締ニ附テ傭主ガ大層迷惑シテ居ルコトヲ処々デ承ハリマス、ソレカラ又今度職工ノ方ノ側ニナツテ見マスルト、只今二十一番カラシテ懇々ト御話ニナリマシタカラ是ハ私ガ申上マセヌデモ宜シウゴザイマスガ、高イ給金デ傭ヒマシテモウ用ガナクテ要ナイト云フト之ヲ出シテ仕舞ヒマシタリ、又ハ時間ト云フモノヲ勝手気儘ニ伸長致シマシタリ、或ハ食物供給上ニ不充分デアリマシタリ、又ハ女ダノ若イモノダノト云フ様ナモノヲ、倔強ナル処ノ男子ト同様ニ使役致シマシテ、時間モ同ジ様ナ間働ラカセル様ナコトガアツタリ、或ハ危険ナル処ノ仕事ヲ此弱イモノヤ小供ナドニ遣ラセタリスル、最モ甚シイコトニ至リマスルト職工ノ口入ト云フヤウナ、丁度人買ヒ同様ニ、曚昧無智ナル処ノ女ダノ或ハ子供ト云フモノヲ引張ツテ来テ、是ヲ工場ニ傭ハセルト云フヤウナ弊害モ随分沢山アルヤウニ聞ヘマス、右ノ傭主・職工等ニ致シマシテ是等ノ弊害ヲドウシテモ排除スルコトガナケレバ、今日此長足ノ進歩ヲシテ行ク処ノ工業社会ニ於テハ実ニ容易ナラザル処ノ不利益ガアルカラ、傭主ト職工ト両方ノ便宜ノアルヤウニ、又両方ニ利益ノアルヤウニト云フコトヲ計ツテ、一ツ此所ニ省令ナリ何ナリヲ設ケテ充分ニ工業ヲ進歩サセテ行キタイト云フ、所謂事実ニ附キ永年ノ間ノ経験ニ附イテ此諮問案ヲ出シタコトヽ私ハ存ジマス、此コトハ已ニ金子次官ガ、先達テ地方長官ノ諮問会ガゴザイマシタトキニ懇ロニ話サレタ処ノ御演説ガゴザイマス、是ハ昨日議員ノ吾等ニ配布ニナリマシタノデゴザイマスカラ、諸君ハ充分御承知ノコトデゴザイマセウガ、アレラニ依ツテ能ク御覧ニナリマシタナラバ、強テ此法案ハ総テノ工業ニ持ツテ行ツテ条例ヲ適用シ、又翻訳的ト云フヤウナモノヲ持ツテ行ツテ、ヲツパメテ仕舞ハウト云フ意デハナイ、小工業ニ不必要デアルナラバ、蒸汽力ヲ用ヰ水力ヲ用ヰ又百人ナリ弐百人以上ヲ使役スル工場ニ適用スルモノニシヤウ、或ハ土地ニ依リ風俗ニ依テハ何トカ方法ヲ設ケルト云フヤウナ、極ク穏カナル利益アル処ノ方法ヲ攻究シタイト云フ精神デアルト私ハ存ジマスカラ、今ノ二十一番ノ御説ニ同意致シマス、ドウカ是ハ充分ニ御審議アルコトヲ偏ニ希望致シマス
○議長(伯爵佐野常民君) 諸君、モウ十二時ハ大分過ギマシタカラ、未ダ御論旨モアルヤウデゴザイマスガ、是デ会ヲ止メマシテ明日ニ致スガ宜カラウト思ヒマス
○十五番(浜岡光哲君) 少シク八番ハ十五番ノ意ヲ誤解シテ居ルト思ヒマス、十五番ハ大ニ此職工条例ニ附テハ熱心ノ人間デゴザイマス只今八番ガ御述ベニナリマシタ処ヲ伺ヒマスト、本員ノ意トハ相違致シテ居リマス、本員ノ意見ニ依リマスレバ、其方法ニ依テハ弊害ヲ起スヤウナコトガ随分アル、ソレデ宜シク取調ベヌケレバナラヌ
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ト云フ意味デアリマシテ、唯弊害トカ或ハ衰頽トカ云フノデハアリマセヌ、詰リ此職工取締規則ニ依ツテ……
○八番(安藤太郎君) 私ハハツキリ誤解トハ申マセヌ、誤解デモアリハセヌカト申タデアリマス
○二番(藤田四郎君) 私ハ二十一番ノ御話ニ付イテチヨツト申上ゲマス、実ハ此コトニ付キマシテハ十五番カラ議論ガ出マシタノデ、畢竟此案ニ書イテアル所ノ取締・保護ノ必要ト云フコトハ今日ニ於テハ論ヲ俟タナイコトヽ思ヒマス、唯コヽニ「其区域・程度及方法ヲ諮問スル」ト斯ウアリマス、此事柄ハ多少箇条ニ拠リマシテハ、御承知ノ通リ独逸ナドノ法律ハ百条以上モアリマス、又英吉利ナドモ随分沢山アリマスヤウデゴザイマスカラ、其模様ヲ幹事カラ能ク御説明ヲ下サイマシテ、而シテ後委員ヲ選バレタラバ委員ハ其諮問ノ趣意ニ依ツテ何レニモ直グ調査ガ出来ル、答ガ出来ルト云フコトデアリマスカ、其処ヲ一応……
○議長(伯爵佐野常民君) 明日ニナサイマセ ○下略


第一回農商工高等会議議事速記録 第三二一―三四四頁 明治三〇年四月刊(DK230044k-0002)
第23巻 p.517-532 ページ画像

第一回農商工高等会議議事速記録  第三二一―三四四頁 明治三〇年四月刊
明治二十九年十月二十四日(土曜日)午前九時四十分開議
          出席者
            議長  伯爵 佐野常民君
            一番     大倉喜八郎君
            二番     藤田四郎君
            三番     藤田伝三郎君
            四番  男爵 鈴木大亮君
            五番     原善三郎君
            七番     益田孝君
            八番     安藤太郎君
            九番     山本亀太郎君
            十番     中上川彦二郎君
            十一番    渋沢栄一君
            十三番    近藤廉平君
            十四番    金子堅太郎君
            十六番    益田克徳君
            十七番    藤井三郎君
            十八番    森村市左衛門君
            十九番    土居通夫君
            二十番    広瀬宰平君
            二十一番   添田寿一君
          欠席者
            十五番    浜岡光哲君

○議長(伯爵佐野常民君) 昨日討議中デゴザリマシタ第七諮問案、引続キノ会議ヲ開キマス
○十一番(渋沢栄一君) 第七諮問案職工取締及保護ニ関スル件ニ附キ
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マシテ、昨日廿一番ヨリ其必要ヲ縷々御陳弁ノゴザリマシタコトハ条項ヲ悉ク記臆致シマセヌケレドモ、其大要ハ了承仕リマシタ、又本案ノ必要ニ対シテ世間ノ景況ヲ御取調ベニ相成ツタ趣ヲ、八番議員ヨリ御申述ベガゴザリマシタ、故ニ其要領モ承知ヲ仕リマシタ、又此案ニ対シテハ殆ンド御説明トモ申スベキ十四番金子君ノ曾テ地方官ノ御集会デ御申述ベノゴザリマシタコト、又此案ニ就イテ爾来御本省ノ御方針若クハ御考案ヲ縷々御述ベニナリマシタ演説ノ筆記モ拝見仕リマシタシ、既ニ斯様ニ学問ニ実験ニ御富ミナサルヽ方々ノ、十分ニ御調査モアリ、又御意見モアルコトデゴザリマスカラ、私共更ニ弁論ヲ費ス必要ハ無カラウト思ヒマスケレドモ、私共ニ於キマシテハ、廿一番ノ昨日斯ル点此点ニ付テドウ云フ必要ガアルト御申聞ケノ如クニハ、一々御尤ト拝承仕リ兼ネマス点ガアルノデゴザリマス、彼ノ様ニ御陳述ガゴザリマシテ、大体ニ於テハ御同意ヲ申上ゲマスガ、或ハモウ少シ鄭寧ニ調査ヲシテ貰フトカ、或ハ尚ホ早シトカ申上ゲル者ハ、殆ンド人類ノ生計モ能ク知ラヌトカ、人ノ衛生・健康ナドト云フコトニハ頓ト構ハヌトカ、若クハ徳義モ後ニシテ利益ノミヲ先ニスルトカ、或ハ従来ノ職工ノ類ハ虐待ヲ防グ法律ガ無イ為メニ、夫レヲ奇貨トシテ事業ヲ営ムヤウニ聞ヘル、決シテサウ云フ意味デ仰ツシヤツタノデハナイガサウ聞ヘル、私共今日マデ現ニ己レ自身ガ其事業ニ就イテ居リマスルカラ、其経過ヲ申上ゲマスト云フト、世ノ中ハ毎戸ノ工業ヨリ移ツテ工場工業ニナルト云フコトハ、金子君ガ御卓見ノ通リ、是レカラ先ハサウナルダラウ又サウナルノハ官ニ於テモサウナシタイト望ム所デアツテ、御互ニ力ヲ入レテ居ル、ナゼナレバ其方ガ国家ノ工業ヲ進メルニ於テ利益デアル、道理正シク仕事ガ出来ルヤウニナリ、其出来タ製品モ甚ダ精良且ツ多クナルト云フヤウニ、総テ国ノ為メニナル所ノコトガ多イノデアラウト思ヒマス、実ニ私共工業ニ従事シテ居リマス年数モ決シテサウ短クハゴザリマセヌ、私ハ工業家ト玆ニ乗出シテ大キナ顔ヲ致ス訳ニハ参リマセヌガ、例ヘバ王子ノ製紙会社、若クハ大阪ノ紡績工場ヲ起ストカ、三重ニ紡績工場ヲ起ストカ、又ハ彼処ニ織物会社ヲ造ルトカ、肥料会社ヲ起ストカ云フコトハ、殆ンド十ヲ以テ数ヘル程関係致シテ居リマス、総テ工業会社ニハ渋沢ハ関係ガ多イト申シテ宜イ、五年・七年ノ短カイノモアリマスガ、永イノハ明治七年カラ掛ツテ、殆ント二十三年間ニナリマス、職工モ多イノハ三千人、少ナイノハ百人以上使フテ居リマス、皆工場製造ヲ主トスル事業ニ資本ヲ投ジ、精神ヲ注イデヤツテ居リマスルガ、職工ノ使役方ニ付テ例ヘバ幼者ノ衛生・健康ヲ妨ゲル程ノ程度デ使フトカ云フヤウナコトハ、吾々ノ工場デハ先ヅナイト思ヒマス、或ハ時間ノ事ニ付テモ欧羅巴人ナドハ、極ク健康ヲ重ンズル風習ガアリ、又サウ云フ法律モ行ハレテ居ル国カラ比較致シマシタナラバ、働ク時間ガ長イト云フコトハゴザリマセウ、左リナガラ大抵其職工ガ堪ヘラルヽ時間ト申シテ宜イ、又夜業ハユカヌト云フコトハ、如何様人間トシテハ鼠トハ性質ガ違ヒマスカラ、昼ハ働イテ夜ハ寝ルノガ当リ前デアル、学問上カラ云フトサウデゴザリマセウガ、併シ一方カラ
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云フト成ルベク間断ナク機械ヲ使ツテ行ク方ガ得デアル、之ヲ間断ナク使フト云フニハ、夜業ト云フコトガ経済的ニ適ツテ居ルト云フコトモ、云ヒ得ルト思ヒマス、為メニ夜業ニ当ル者ハ何時カラ何時マデト、時間ハ同ジデアリマシテモ、或ハ夜ノ仕事ハ平均昼ノ仕事ヨリモ、吾々ノ経験ニ依リマスルト、一割五分トカ二割トカ少ナイト云フ或ハ損ハアルカ知レマセヌ、蓋シ人類ハ夜ノ方ガ働ガ足リナイト云フノハ、自然ノ数ニ制セラルヽノデゴザリマセウケレドモ、時ヲ早メタイト云フノト、又暖度ヲ節約シタイト云フ経済上カラ、夫レ等ニモ拘ハラズ夜間ノ仕事ヲサスル方ガ算盤ノ上デ利益デアルカラヤツテ居ル、為メニ衛生ノ上カラ云フト、害ガアツテ職工ガ段段衰弱シタト云フ事実ハ、能ク調査ハ致シマセヌガ、マダ私共見出サヌノデゴザリマス、若シ玆ニ極ク精密ナ法ヲ設クルト認メ得ルナラバ、先ヅ自カラ他ノ振合ヲ以テ、或ハ学術上ノ道理ヲ玆ニ並ベ、幼年ニシテハ斯ル年限ハユカナイ、或ハ時間ハ是レヨリハ相成ラヌ其場所モ是レ程ノ面積ニハ是レ程ノ人員ホカ入レナイ、或ハ斯ル空気ニナレバ労働スルコトハナラヌ、或ハ何度以上ノ熱ヲ持ツ時ハ職工ヲ入レラレナイト云フコトニナルハ、必然ト思フ、又夫レヲナサナケレバ廿一番ノ衛生上・道徳上ニ付テ縷々御述ベニナツタ要旨ハ貫カレヌダラウ、果シテ夫レヲスルトスルナラバ、例ヘバ何年以上ノ者デナケレバ工場ニハ入レラレヌト云フコトニナリ、昨日十五番ガ学理一方ニ傾イテ立法スルナラバ、俗ニ云フ贔負ノ引倒シデ、工業ニ大ナル害ヲ及ボスト云フコトハ免カレナイト云ハレタノヲ、八番ハ誤解デアラウト仰ツシヤツタガ、夫レハ誤解デハナイ、私ハ十五番ノ云フコトヲ事実ト思ヒマス、現ニ二十年ノ間例ヘバ王子ノ製紙会社ナドノ職工ノ待遇、職工ノ経過ヲ見マスルト、ドウモ夜業モズツト致シテ居リマスル、時間モ十二時間位働イテ居リマスガ、彼処ノ工場ナドニ就イテノ職工ノ有様ハ平均数カラ斯様デアルト断言ハ出来マセヌケレドモ、決シテ他ノ通常裏店住居ノ人若クハ車ヲ挽ク人ト、健康ノ度合、生活ノ度合モ殆ンド差別ガナイト申得ラルヽダラウト私ハ思ヒマス、結局行末ヲ考ヘテ見マシタナラバ、国ノ進ムト共ニ衛生ノ道理モ上摺ツテ参リマスコトハ喜ブコトデゴザリマスケレドモ、如何ニ衛生ヲ貴ブカラト云フテモ、今日極ク上等ノ人ノ平常頼ム所ノ医者ニ就イテ尋ネマシタナラバ、一身ノ身体ト云フモノハ斯ル有様ニ致シテ行クガ宜イ、例ヘバ朝ハ何時ニ起ルガ宜イ夜ハ何時ニ寝ルガ宜イ、夏ノ日ハ海水浴スルガ宜イ、冬ハドウスルガ宜イ、食事ハ斯様ニスルガ宜イト申シマセウ、是レハ衛生上宜イニ相違ナイ、人ハ生レ出ヌ前ニ胎内デハ斯ウスルガ宜イ、胎内教育ハ斯様スルガ宜イト衛生上カラ細カク論ズレバ、今日ノ労働社会ト聊カ反スルニ相違ナイ、道理上カラ云フタラサウデアラウガ、決シテサウデハナイ、此世ノ中ニ生レテ居ルカラ夫程ニセヌデモ宜イ、又出来得ナイ、例ヘバ職工ノ如キニマデ其論法ヲ以テヤルト云フコトハ決シテ廿一番モ御述ベナサルデハナカラウガ、又為シ能ハザルコトデアル、要スルニ是レマデノ有様デハ、廿一番ノ御説ノ如ク真ニ工場ニ於テ使用スル職工、幾ラカ左様ノ傾キガ有ルカ無イカト云
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フコトハ、余程鄭寧ニ御調査ナラナケレバナラヌカト思ヒマスルシ果シテ有ルト見タ所ガ、是レハドノ辺ノ程度デアルカト云フコトヲ調ベナケレバナラヌ、又果シテ之ガ区域ヲ立ツルト云フテモ是レハ余程考ヘモノデ、夫レガ十分ニ行ハレテ為メニ工場経済ニ或ハ一ノ制肘スル如キ有様ガアツタナラバ、丁度一昨日カ申シタ、一方ニ氷ヲ持タセ一方ニハ温石ヲ持タスヤウナ嫌ヒガナイトハ申サレマセヌ故ニ此法度ノ立ツト云フコトニ反対ハ致シマセヌガ、唯一遍ノ道理ニ拠ツテ、欧羅巴ノ丸写シノヤウナモノヲ設ケラルヽト云フコトハ絶対的ニ反対ヲ申上ゲタイ、故ニ今日発議者タル十五番ハ御出ハゴザリマセヌガ、此案ニ付テハ委員ヲ御立テニナツテ、本会ノミデナク、復タ次ノ会マデニ余程実際ノ調査ヲ致シテ見ルヤウニ致サレタイト希望致シマス
○一番(大倉喜八郎君) 第七ノ諮問案ニ付キマシテハ、唯今十一番ハ縷々実況ヲ述ベラレマシテゴザリマスルガ、吾々モ殊ニ同感デゴザリマス、殊ニ工人ヲ使役致シマスルコト、夫レニ関聯シタ営業モ致シテ居リマスルカラ、皆サンノ御参考ノ為メニ実況ヲ申述ベタイト思ヒマス、一体工人ヲ保護致シマスルト云フコトハ、幼者ナドヲ使役致シマスルト、殊ニ是レハ人類総体ノ上デハ必要ナコトデアラウト思ヒマスカラ、強チ一図ニ反対ハ致シマセヌガ、此法律ヲ組ミマシテ之ヲ実施スルト云フコトニ付キマシテハ、大ニ時ト場合ガアラウト思ヒマスルノデアリマス、欧羅巴ノ数百年工業ノ発達シタ国ノ法律ヲ、是ヨリ稍発達セントスル東洋ノ島国ノ此日本ニ持ツテ来テ直グニ制定スルト云フコトハ、余程考ヘナケレバナラヌ、且ツ危険ガ多イト私ハ考ヘマス、其証拠ハ、是レマデ随分大勢ノ職人ヲ或場合ハ五万人モ六万人モ使役スル事ガゴザリマス、其度毎ニ屡々斯ウ云フコトニ苦シミマスカラ、実際上ノ必要カラ大勢ノ人ヲ集メテ相談致シタコトガ幾回モゴザリマス、其中ニ雇主ノ利益バカリノ為メニ相談スルノハ宜シクナイ、土方・職人・肝煎・年行司・用人ナドガ夫レ夫レ立ツテ居リマスカラ、此奴等ノシツカリシタ力ノアル者ヲ集メテ意見ヲ聞カウト思フテ、随分腕ノ強イ重立チマシタ者ヲ集メマシテ、職人バカリデナク頭取・肝煎ナドヲ特ニ集メマシテ、サアドウダ実際斯ウ云フ法律ガアル方ガ宜イカ、無ケレバドウ云フコトニナルカト云フ相談ヲ致シマシタガ、異口同音ニ旧幕時代ノ有様デアツタナラバ法律ガナケレバ行キマセヌ、親方ト云フモノガゴザリマシテ、生殺与奪ノ権マデモ持ツテ居リマスカラ法律モ入リマスルケレドモ、今日ノ開化シタル御世ニナリマシテハ、誠ニ工人モ職人モ皆自由デゴザリマス、決シテナマジイ法律ガ出マシタナラバ、其為メニ却ツテ彼等ハ困難ヲ致シマスト、斯ウ云フコトハ間々申シマスノデゴザリマス、又日本ノ工人ハ実際上カラ吾々ガ考ヘマスルト、欧羅巴ノ工人ヨリハ大層利巧ト思ヒマス、手モ書ケマスルシ道理モ弁ヘテ居リマス、少シ違ヒデモアルト直キニ理屈ヲ言ツテ来ルソレハ不思議ナコトニハ職人或ハ人夫ノ団体ガゴザイマス、少シ大キナ団体デゴザイマスト、日本デハマア玆ニ賤シイ言葉デ言ヒマスルト、三百代……言人、アノ法律家ガ何時デモ付イテ居リマスル、
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アンマリ法律家ガ多ク出来マシタ為メニ常ノ業ガナイト見ヘマシテ職人ノ大キナ張場ニハ必ズ是ガムクリ込ンデ、ドウダ何カナイカト云フテ仕事ヲ買ヒニ来ル、ソレデ雇主ガ若シ少シデモ虐遇デモ致シマスルト直グニ法律ニ訴ヘタリ、取締役ヤ何カガ間違ガアルト、靴デ蹴ツタリ打ツタリスルト云フト、直グニ頭ヲ幾ツブツタトカ云ウテソレヲ法律ニ訴ヘマスルノデ、斯様ニ自然ノ制裁ガ出来テ居リマスル、ソレデ日本ノ文明ガ浅ウゴザイマスルカラ、欧羅巴ノ文物デ善イモノモ沢山這入ツテ来マシタガ悪ルイモノモ亦沢山這入ツテ来マシタ、其中ノ「すとらいき」抔ハ余リ善イモノデハナイ、昨日二十一番ハ「すとらいき」ガ始マルダラウト言ハレマシタガ、ソレハ疾ウニ始ツタノデ、我々共ハ年中苦シメラレテ居リマス、中々職人ノ虐待ドコロデハナイ、雇主ガ虐待サレテ居ル今日ノ有様ニナツテ来マシタ、極早イ話ヲ言ヒマスルト、此農商務省ヲ拵ヘマスル時ニ屋根ヲ葺上ゲナケレバナラヌ、此屋根ヲ葺キ上ゲルニ東京ニハ其職人ガ二十一人シカナイ、此二十一人ノ職人ヲ雇入レテ屋根ヲ葺カシテ居リマシタ所ガ、農商務省ノ役人ガ是ハ気ガ利カナイ話デアリマスガ、コチラノ取締人ニ向ツテ貴様ノ方ノ仕事ハ甚ダ遅イ、ソレデ十月三十一日マデニ之ヲ仕上ゲナケレバ一日三百円ノ罰金ヲ取ラレルゾヨ、モウ一週間シカ日ガナイヂヤナイカ、早ク拵ヘ上ゲナケレバナラヌ、怪カラヌ話ダト小言ヲ云ツタ、是ハ尤モ千万ナ話デアリマスガ、之ヲ職人ガ聞イテ一週間デ此屋根ヲ葺上ゲナケレバ日ニ三百円ノ罰金ヲ取ラレル、是ハ面白イト言ツテ此奴等ガ徒党ヲ起シテ翌日ハ出テ来ナイ、トコロガ東京府下ニ職人ガナイカラ、已ムヲ得ズ三拝九拝シテ、モウ頼ミニ頼ンデ、一円ノ職工ハ三円モヤルト云フヤウナ有様デ酷イ目ニ逢ツタ、サウスルト其職人ハ其金ヲドウスルカト云フト、深川ノ洲崎ヘ往ツテ酒ヲ飲ンデ居ルト云フヤウナコトデ、ドウモ日本ハ職人ノ方ガ余程利口デ中々智恵ガ廻ツテ居リマス、決シテ唯其雇主ニ虐待サレテ甘ンジテ居ルコトハナイ、併ナガラ実験上カラ尚ホ時ト場合ニ依テ考ヘナケレバナラヌト云フコトハ先日外務大臣ノ御演説ノ中ニ、日本ハ維新後人口ノ殖ヱタコトハ千万人モ増殖シテ居ルト云フヤウナコトデアル、僅カ二・三十年ノ間ニ一千万人モ殖エテ居ル、殊ニ東洋ノ島国デハ是カラ工業ヲ発達サセテ行カナケレバナラヌ、ソレデ成タケ発達セラルニハ品物ヲ拵ヘルヤウニ、工業ノ利ヲ計ラナケレバナラヌ、色々ノ品物ガ安ク売レナケレバ国ノ生産ハ起ラナイ、斯ウ云フ場合ニ沢山人ガナイ事柄ニ向ツテ、殊更苦ンデ工場条例ノヤウナモノヲ拵ヘルニ及ビマスマイト思ヒマス、マダ中々早イト思ヒマス、若シ是ガ出来マシタナラバ害ガ七分デ利益ガ三分カモ知レナイ、先ヅ利害相半バスルマデノ実況デアラウトハ思ヘナイ、斯様ナ有様デ又土方抔ニ至リマシテ少シモ御心配ハ要ラナイ、彼等ニ不利益ナコトカアルト、直グニ九寸五分ナゾヲ呑ンデ来タリ団体ヲ組ンデ参リマス、中々強イ、又先刻申シマシタル通リ法律家ガ付イテ居ルト云フヤウナ、自然ニサウ云ウ制裁ガ付イテ居ルカラ、先ヅ此取締法ノコトハ今日尚早シト思ヒマスカラ、十分篤ト調ベテ詮議ノ上御発シニナルコトヲ希望致シマス
 - 第23巻 p.522 -ページ画像 
ノデ、丁度十五番・十一番カラ御話ノ通リデゴザイマス
○廿番(広瀬宰平君) 私ハ昨日拠ロナイ用事ガアリマシテ欠席致シマシタノデ、此職工取締ノ御諮問案ニ対シテドウ云フ議論ニナツテ居ルヤラ、昨日ノ景況ハ存ジマセヌガ、唯今十一番ノ渋沢君ガ衛生上ノコトノ御話モゴザイマスシ、尚一番議員ノ縷々陳述セラルヽ所ハ極同感ヲ懐キマスルノデ、一応私ノ意見ヲ陳ベマス、私ニ申シマスレバマダ早シト言ハナケレバナラヌ、併ナガラ国ノ進歩ト伴ウテ行ハナケレバナラヌト云フコトデアレバ、ドウゾ今日マデ仕来リノ工業者ニ害ノ起ラヌヤウニ祈リマス、ナゼソレヲ祈ルカト言ヘバ、追追進ンデ往ク工業ニ対シテ若シモソレニ伴ハヌ所ノ工業条例抔ガ出来マシタナラバ、此位進ンデ往ク工業ニ害ヲ与ヘマスノミナラズ、生産物ト今日ノ輸出品ニ大変ナ害ヲ及ボスカト思ヒマス、ソレデ今承ハリマスル御議論ニ拠ルト衛生上ノ御話ガゴザイマス、衛生ノコトハ独リ職工ニ関スルノミナラズ、有リタケノ日本人民ガ残ラズ重ンゼナケレバナラヌ、此職工ト云フ人数ヲ普通ノ人民ニ比較シマスレバ誠ニ僅々タルモノデアル、コチラデ夜業ガ悪イト云ヘバ、百姓ガ夜ノ仕事ヲスルコトモ出来ヌ、大阪アタリノ人民ヲ見ルト、夜業ヲスルコトハ強イテ言ハヌデモ、自分自ラガ皆夜業ヲ望ミマシテ、十二時マデモ仕事ヲシナケレバ一日ノ生活ガ出来マイト云フノデ皆ヤツテ居ル、衛生上ノコトハ衛生会ガゴザイマシテ、十分注意ヲサセテ居リマスカラ立派ニ成立ツテ行クト思ヒマス、水ガ悪ルイカラ善イ水ヲ使ウテヤラウト云フコトハ、追々日本ノ人民ガ衛生ヲ重ジテ注意スルヤウニナツタ、其事ガ明ニナツテ参ジマスレバ、此職工ニ対シテ大変虐待ダト云フコトノ種々ノ証拠ノ挙ツタル後デナケレバ言ハレナイ、僅々一人ガ虐待シタカラト言ツテ、他モ皆虐待サレタト云フコトハ出来ナイ、今日職工ヲ百人以上モ使フテ居ル所ハ、皆徳義上ニ依テ職人ヲ使役致シマシテ、衛生上ニ係ルコトハ十分ヤラセテ居ルコトハ聞及ンデ居ル、其職工ニ注意サセルダケノコトハ徳義ノ上デヤラセテ居リマス、即チ此中ノ医者ヲ雇フタトカ、夜業ヲヤラセルニハ斯ウシナケレバナラヌト云フコトハ、皆夫レ々々大ナル工業会社ニ於テハヤツテ居ル、職人ガナケレバ決シテ工業ト云フモノガ出来ナイ、即チ職人ト企業主ト相須ツテシナケレバナラヌドウシテモ職人ハ大切ニシナケレバ業ガ進ンデ行カヌト云フコトハ少シク頭ノアル資本家ノ言フ説デ、皆サウヤツテ居リマス、私ハ衛生ノコトヲ主眼トスレバ尚早シ、虐待スルトスレバ其数ガドノ位ノモノデアルカ、例ヘバ工場ガ百工場ト見マシテ其半バ以上虐待シテ職工ガ苦ムト云フ証拠ガ挙レバ、考ヘ物デ、此規則ヲ施行セラレナケレバ、却テ国ノ富ノ度ヲ縮少スルダラウト思ヒマス、又鉱山デ論ヂテ見マシテモ大キイ鉱山ハ徳義ノ上其位ナコトハ皆ヤツテ居ル、之ニ学校ヲ置クノミナラズ、或ハ小学校デハイカヌト申シテ中学校マデモ設ケ、或ハ病院ヲ建テタリ大キナ工業場デハ皆サウシタ、之ニ対シテ小サイ工業場ヲ見ルト何ニモナシニヤツテ居リマスル、ソレデモ相当ニ雇主カラ工夫ニ対シテ待遇ガナクテハ、今日人ハ使ハレマセヌカラ、ソレ丈ノ待遇ヲヤツテ居ル、先ヅ生糸ノコトニ付テ
 - 第23巻 p.523 -ページ画像 
論ジマスルト、大キイ工場デアレバソレダケノコトヲヤツテ居リマスルガ、小サイ工場デハヤツテ居リマセヌデアリマシテ、之ヲ若シ法律カラ一般ニ進メテ行カナケレバナラヌト云フコトニナレバ、其業ハ止メニナル、総テノ糸ガ十万梱出ルモノガ九万ニナリ、八万ニナルト云フコトハ無論出テ来ルダラウト私ハ思フ、私ノ存ジマスル所ハ衛生ナドト云フコトハ、一般ノ人民ニ其感触ヲ与ヘテ自ラソレニ従ツテ職工取締上ニ及ボスモノト存ジマス、無論衛生ノ方ハ内務省デ、即チ地方ニ於テハ地方庁ニ衛生会ト云フモノガ設ケテアツテ其方ガ注意シテ居ル、水ガ悪ルケレバ悪病ガ出ルカラ、斯ウシタナラバ宜イト云フコトハモウ三歳ノ童子マデモ知ル位ニナツテ居ル、誠ニ職工ノ方ガ現今強クナリマシタカラ、所謂共同致シテ「すとらいき」トカ何トカ云フ弊害ヲ生ズルヤウニナリマシタ、昨日ノ議場ニハ私ハ居リマセヌガ、私ノヤリマシタ製糸場事業ヤ鉱山事業ノ種種ノコトニ付キマシテ、自分ノ行ヒ知ツタル試験上ノ方カラ、尚早シト云フ議論デアリマス、併ナガラ之ヲ取調ベニナリマスルニハ斯ク斯クト云フコトヲ御調ニナリマシテ、商業会議所ニ御問ヒニナリマスナリ、或ハ企業者ニ御問ヒニナリマスナリシテ、其上デ今一応此議場ニ出マスル所デ、能ク其根拠ヲ固メマシタナラバ、我々ノ意見モ定マルダラウト思ヒマス、尚其方法ヲ御問ヒニナリマスルナラバ広ク問ウテ貰ヒタイノデ、決シテ此三府五港ト云フ所ニノミ限ラズ、各県ノ地方地方ノ現時ニ於キマシテモ、幾ラモ業ガ多ウゴザイマス、製紙業ノ如キモノモアリマス、鉱山ハ又鉱山ニ種々ノ方法モアリマスノデ、一方ノ職人ハドウ云フ工合デドウ云フコトニナツテ居ルト云フコトガアリマスカラ、各県ノ知事ニ御問ヒニナリマシタナラバ、ソレ等ノ事情ガ分ラウト思ヒマス、即チ当局者ガ其下々ニ使ウテ居ル企業者ニ十分御諮問ニナツタ上、日本現今ノ企業者カラノ意見ガ出テヽ、ソレヲ取纏メタ上ニ御ヤリニナリ、能ク実際ノ挙リマシタ上ニ猶ホ我々モ念ヲ入レタ上ニ念ヲ入レタナラバ宜カラウト思ヒマス、今日ニハ二分ノ利益デ八分ノ害デアルト考ヘマシテ、私ハ尚早論ヲ主張致シマス
○十九番(土居通夫君) 第七諮問ニ対シテ諸君ノ御意見ガゴザイマシテ、今更喋々スルニ及ビマセヌガ僅ニ一言ヲ呈シマス、工業ノ発達ニ伴ヒ工業ヲ奨励致シマシテ保護ヲ与ヘルト云フコトハ、最モ必要ノコトデアリマス、去リナガラ其法律如何ニ因テハ、或ハ其法律ノ為メニ大キニ迷惑ヲスルト云フコトモ免レマセヌコトデゴザイマシテ、急速ニ御取極メニナラズシテ、篤ト取調ベネバナラヌト考ヘマス、殊ニ大阪ノ如キハ現ニ御承知ノ通リ、近年非常ニ工業ガ増殖致シマシテ、今日ニ至リマシテハ商工業ノ中心トモ言ハレル位ナ実況ヲ現ハシテ、大阪ノ市場ハ工場ノ烟デ取廻ハサレテ居ルヤウナ有様デアルカラ、此使用サレル所ノ職工ト云フモノハ、一工場ノ大ナル所ハ千人以上ヲ使ウテ居ルト云フコトデアリマス、私ハ工業会社ニ聊カ関係ガゴザイマスルガ、其工場ノ状況ヲ見マスルニ職工ノ有様ハ不都合千万ナコトガアリマスカラ、尚更此法令ヲ設ケルノハ必要ダラウト考ヘマスル、大阪ニ紡績聯合会ト申シマスルモノガゴザイ
 - 第23巻 p.524 -ページ画像 
マス、其方ヨリモ今回職工条例ヲ設ケルニ就テハ、親シク御諮問ヲ受ケタイト云フ電報ヲヨコシマシタ、皆此工業ニ従事シテ居ル者ハ此条例ノ起ルト云フニ就テ、種々心配シテ居ルモノト見ヘマス、特ニ此点ニ付キマシテハ是マデ御取調ニナツテ居リマセウガ、尚十分ニ各地方ノ状況ヲバ取調ニナリマシテ、是ガ御議決ノ成立ツヤウニ希望致シマス、就キマシテハ昨日十二番《(五)》ノ陳ベラレマシタ通リ、継続委員トカ或ハ宿題トシテ、次回ニ陳ベルトカ云フコトニ致シタイト考ヘマス
○十四番(金子堅太郎君) 段々本案ニ就テハ御陳述ニナリマシテ、大体ハ皆サンハ承知ノコトヽ思ヒマスガ、昨日以来伺ツタ所ニ拠レバ或ハ二十一番ノ説ハ衛生ノ点カラ及ビ使役ノ苛酷ナル点カラト云フヤウナル御考ニナツタカノヤウデゴザイマス、又一方カラ工業ヲ発達サスル奨励ヲサセル、或ハ工業ガ萎縮スルト云フヤウニ、大体ヲ摘ンデ申シマスレバ議場ノ景況ニナツテ居ルヤウデアリマス、一体此農商務大臣ノ御諮問案ハ、此手続方法ヲ諮詢スルノデ、程度ノ如何・方法ノ如何ニアルコトデアラウト思フ、我々ガ此職工ノ取締保護ニ就テ意見ヲ一々長ク申シマスレバ、モウ今日ハ連日ノ会議デ、諸君ノ欠伸ヲ催スノミデゴザイマスカラ、私ハ職工保護及取締法ニ関スル大体ノ意見ヲ御話申シテ諸君ノ御参考ヲ請フノデアリマス、若シ継続委員ニ御托シニナリマスルナラバ、尚更十分陳ベタイト思ヒマス、私ハ徒ラニ慈善家ノ唱ヘ宗教家ノ称ヘル工女工男ノ無制限ノ方トカ、或ハ偏頗的ノ方ヲ弁護スルト云フ論デハナイ、又あんぐるさくそんノ人種ノ如キ、貧者・劣等ノ地位ニ居ル者ハ十分使ツテ資本家ノ利益ヲ目的トスルト云フ論者デモアリマセヌ、唯私ハ眼中ニハ国家アル者デ、此国家ト云フモノヲ論ジマスレバ、私ハ此第一回ニ於テ諸君ノ御参考ニ供シ置キマシタル如ク、此日本ハ工業国デアル、又工業ヲ以テ立国ノ基礎トスルニアラザレバ、日本ノ将来ハ成立タナイト云フ論者デアル、故ニ此工業ヲ萎縮スルト云フコトハ眼中ニナキノミナラズ、ドコマデモ工業ヲ発達サセテ、倍々資本ヲ大キクシ、加ユルニ工業者ヲ養成シ、工業国トシテ亜細亜ハ勿論、宇内ニ競争スル位ノ考ヲ有ツテ居ル、其眼力ヲ以テ工業条例ト云フモノヲドウカ立テタイト云フコトハ、熱心ニ希望スルノデアル、然ルニ中々此事ハ政府ニ於テ計画スル訳ニイカヌカラ、幸ヒ此会議ノ如キハ工業ニ数十年ノ御経験アル諸君ガ御集リデアルカラ、此会ヲ措イテ適当ナル程度・区域及方法ヲ決メル会議ハナイト云フ考カラ幸ニ一言申シタイト思フノデス、私ハ工業ヲ以テ立国ノ基礎トスルト云フ考デ、各種ノ事実ヲ調ベ、各種ノ書籍ヲ調ベマシタ、又明治廿二年・二十三年及二十五年ニ欧米ヲ廻ハリマシタ時ニ、公務ノ余暇ニ始終工場ヲ廻ハリ、又工業ニ経験アル人ノ意見ヲ聴キ、或ハ経済家ノ考モ聞キマシテ、我日本ノ立国ノ基礎ハ工業ニ在ルト思ウテソレニ就テ一ツ将来研究スベキ考デアルカラ、御前方ノ意見ヲ聴キタイト云ウテ、段々欧米ノ人ニ聞イタノデアリマス、毎戸製造ハ文明ノ進ムニ従ツテ或ル工業ガ起リマスケレドモ、先ヅ一般宇内ノ形勢ニ依テ工業ヲ発達サセナケレバナラヌト云フコトハ、我々ガ喋々
 - 第23巻 p.525 -ページ画像 
言ハヌデモ分リ切ツタコトデアリマス、ソコデ今日大阪ノ如キハ確カ私ハ昨年調ベマシタトキニ、機械ヲ据エテ居ル工場丈ガ五百バカリアル、近頃名古屋デモ起リ、京都デモ起リ、又九洲ノ如キハ工産国ト言ウテモ宜イ、斯ノ如ク機械的ノ工業ガ続々起ツテ来ル今日ノ有様デアレバ、此数多ノ人ガ集ツテヤツテ居ル資本ヲ若シ瑕ツケルヤウナ法律デアレバ、政府トシテモ反対シナケレバナラヌ、又其機械工芸ノ仕事ヲスル機械場ニモ必ラズ人馬ガ要ル、若シ其人馬ガ弱ハクナレバ人馬ノ働キガ減ルト云フコトハ、是ハ資本家モ防ガナケレバナラヌ、又政府トシテモ防ガナケレバナラヌ、ソコデ資本家ノ資本ヲ永久安全ニ維持スルニ於テ、国家経済ニ至著スル目的ヲ執ラナケレバナラヌ、又一方ニハ此資本家ヲ保護スルト同時ニ、工女工男ナドモ保護シナケレバナラヌ、此保護スル点ハ此ニ二ツニ分レテ居ル、唯賽ノ河原ノ地蔵菩薩ガ小供ヲ愛スルヤウナ涙弱イコトデモイカヌ、資本家ガ工女工男ヲ自由ニ己ノ工場ニ使フコトガ出来ルガ之ヲ長ク使ウテ工女工男ノ健康・体格・智識ハ何時マデモ空乏ニナラヌヤウニト云フコトヲ私ハ希望スルノデゴザイマス、ソコデ先ヅ例ヲ申シマスレバ、私ガ若シ工業条例ヲ作ルナラバ、今マデノヤウニ日本ノ家デ幟ヲ織ルトカ、或ハ段通ヲ織ルト云フヤウナモノト、西洋館ノ煉瓦造デ僅カ三尺ノ窓ノ中デ昼夜七・八十度ノ温度ノ中デ十二・三歳カラ二十歳位ノ発育ニ注意ヲ最モ要スル者トハ、同様ニ使フコトハイクマイト思ヒマス、日本ノ家ノ如ク空気ノ流通ガ宜イ所ト、密蔽シタル西洋館ノ中デ機械ヲ以テ何十度ト云フ熱度ノ昇ガツテ居ル所トハ同様ニ論ズルコトハ出来ヌ、先キニ一番ガ陳ベラレタ土方ノ如キハ十分空気ヲ戸外デ呼吸シテ居ルカラ、ソレ丈ノ営養ガアル、戸外デ働ク者ト西洋流儀デ西洋館ノ中デ働ク者トハ違ハナケレバナラヌ、是ガ則チ程度・区域デアラウカト思ヒマス、又年齢ノ上ニ於テハ十二・三歳ノ者ト、二十七・八歳ノ者ト同様ナ訳ニハイカナイ、ソレモ程度・区域デアル、然ルニ今日徒ラニ法令ヲ出シテ取締ヲスルト云フコトハ、所謂警察的ノ考ノミヲ持ツテ往ツテ、又衛生的ノ考ノミヲ持ツテ往ツタナラバ、先キニ一番ガ陳ベラレ二十番モ御陳ベニナツタ通リ、今日ノ工業ノ有様ハ私ガ言ハヌデモ分ツテ居リマスガ、実ニ安イ労働者ヲ使ツテ十分ニ利益ガアルカラ、今マデ少シク家ニ居ツテ公債証書ノ利子ヲ持テ居ツタ者ガ、工業ニ資本ヲ出シテ儲ケルト云フ方ガ、利益デアルト云フヤウニナツタノハ、是ハ工業家ノ人等ガ熱心ニ御尽力ニナツタ結果デアル、又工女工男ガ非常ニ働イテ居ル結果デアルト思ヒマス、若シ今十時間モ使ツタモノガ八時間ニスルト云フコトニナツタナラバ、甚ダ工業ヲ萎縮シ国力ノ増進ヲ幾クラカ止メルダラウト思ヒマス、我々ハ今日ハ工業経済ノ点カラ徒ラニ発達ヲ妨ゲルト云フヤウナコトハ希望シナイ、又一方カラ考ヘテ見マスレバ、此工場ニ従事シテ居ル工女工男モ矢張リ人間デ、ソレダケノ空気モ吸ハナケレバナラヌ、又休ムコトモシナケレバナラヌ、若シ之ヲ一時ノ利益ニ迷ツテ工業ノ発達ヲ顧ミズシテヤツタナラバ、五年カ十年ノ後ニハ、日本ノ大事ノ工業ノ原動力タル工業ノ人種ガ弱ハクナル、必ズ十年ノ後ニハ蹉跌ヲ来
 - 第23巻 p.526 -ページ画像 
シ頓挫ヲ来シハセヌカト思ヒマス、ソレニ就テハ今カラ工業ニ関係アル又其事ニ十分御経験アル諸君ハ、能ク其考ヲ定メテ工業百年ノ計ヲ眼中ニ置イテ、徐ロニ将来ニ害ノナイ位ノ方法ヲ立テヽ貰ヒタイト思ヒマス、即チ其区域・程度等ニ就テハ諸君ト共ニ議シタイト思ヒマス、則チ此区域・程度ノ論デアリマス、夫レカラ又一ツニハ私モ工業地ヲ段々廻ツテ見マスルト、此頃ノ欧羅巴ニ見ヘヌ一ツノ悪弊ガアル、是レハ或ハ諸君モ其為メニハ御苦心デアラウト思ヒマスガ、日本ニハ工女工男ノ世話人ガアル、是レガ地方ヲ廻ツテ鹿児島ナリ青森等カラ貧者・幼者ヲ集メテ来テ、何百人ト云フモノヲ京都地方・大阪地方ニ連レテ行ツテ、私ガ是レダケノ人ヲ集メテ来タ宜シイ、何程ノ手数料ヲ遣ツテ其職工ヲ貰ラフ、夫レガ安ケレバ他ニ行ツテ契約スル、先ヅ人間ノ数ヲ前以テ契約シテ置イテ、地方カラ買集メテ来テ、夫レヲ資本家ニ売ツテ自分ガ利益ヲ得ヤウトスル者ガアル、是レハ私ハ国家ノ為メニ憂慮スベキモノデアルト思フ、抑モ欧羅巴ノ工業ノ円滑ニ行クノハ、資本家ト労働者トノ関係ハ直接デアル、此間ニ手数料ヲ取ルノ何ノト云フモノハナイ、其高低ニ依リ所謂カスリ取ツテ営業シテ居ル者ガアルノハ、誠ニ工業ノ発達上憂慮スベキモノデアル、是等ノ者ハ工女工男ノ仕事ガ出来ヤウガ出来マイガ、夫レ等ハ少シモ構ハナイ、唯手数料ノ多イノヲ望ムノデアル、斯ノ如キ眼ヲ以ツテ世話ヲシテ居ルカラ、甲ノ会社ノ者ガ少シク実地ニ馴レテ来レバ、他ノ所ニ行ツテ大変良イ工女ガアルガオ前ノ方ニハ入ラナイカト云フテ、其処ガ五銭カ十銭高ケレバ直グ其方ニ連出シテ行クト云フヤウナコトガ、今起リ掛リツヽアルト思ヒマス、是レハ誠ニ憂慮スベキコトデアツテ、実業ニ従事セラルヽ御方ハ、今日ハ御心配ハ少ナイカ知ラヌガ将来余程御心配ガ多クナラウト思フ、己レノ工場ニ三ケ年ノ目的ヲ以テ最初ガ十銭、二年掛ツテ二十銭、段々給料モ増シテ十分一廉ノ用立ヲ為シ、伍長ナリ監督トモナルマデニ養成シタ者ガ、夫レガ遁出シテ隣リノ工場ニ雇ハルヽ、新タニ起ツタ工業家ハ、他人ガ数年養成シテ五銭・十銭ノ給料ヨリ段々高ク取ルヤウニナツタ職工ヲ雇入ルレバ、大変宜イデハゴザリマセウガ、工業全体ノ上ニハ宜シクナイ、此職工横奪ノ弊ヲ防ギ、之ヲ監督シテ資本家ヲ保護スルト云フコトハ、今日法律ノ力ニ依ルニ非ザレバ出来マイト思ヒマス、夫レカラ工場建築場所ノ撰定ニ付テモ、其場所ヲ考ヘナケレバナラヌ、唯々ムヤミニ工場ヲ起セバ宜イト云フテ何処デモ工場ヲ起サズ、国ガ発達スルニ付テハ、工業地ト商業地ノ地区ガ広マル、東京ノ真中ニ石鹸製造所ガアルノハ将来議論ノ起ル基ヒ、大阪ノ心斎橋筋ノ真中ニ牛骨ヲ粉ニシテ肥料ヲ造ル会社ガアレバ、是レハ衛生上カラモ議論ノ起ルノハ当然デアル、是レハ商業地トシテ其地区ニシナケレバナラヌ、又工業ノ種類ニ依ツテ、人家稠密ノ所ニハ工場ヲ起スコトハナラヌト云フノハ是レハ成ル程警察デハ取締リマスルガ、斯ノ如キ工業ノ種類ハ斯ノ如キ所デスルト云フヤウナコトハ、一地方長官バカリニ任セテ置クコトハ出来ヌ、其実例ヲ挙ゲマスレバ、倫敦ノ五十年間ノ歴史ヲ読ンデ見マスルト、最初ハ何モ無ツタ処ニ大陸ノ工業ヲ移シテ倫敦ニ
 - 第23巻 p.527 -ページ画像 
工業ヲ起シタ、初メハ発達シナカツタガ、段々発達スルニ随ツテ夫レヲ他ニ移サナケレバナラヌヤウニナツタ、所ガ人民ノ所有デアルカラ没収スルコトモ出来ズ、容易ニ遠イ所ニ移スコトガ出来ヌカラトウトウ国家ノ力デ非常ナ金ヲ出シテ、ヤツト他ニ移シタノデアリマス、夫レデ今日工業ノ種類ニ依テ其地区ヲ限ルト云フコトハ、最モ必要デアル、昨日十五番ハ議場デハ御話ガナカツタガ、京都市ニ煙突ヲ立ルコトハ一切出来ヌト云フ府令ガ出タ、夫レデ京都市ニハ烟突ヲ建ルコトハ出来ヌト云フコトデゴザリマシタガ、是レモ亦余リ極端デハナイカ、然ルニ東山ノ絶景ノ処ニ持ツテ行ツテ温泉ノ為メニ烟突ヲ建テタ、温泉ハ必ラズ煉化ノ煙突ヲ建ルニモ及バヌ、夫レデ西洋人ガ色々批評シタコトガアル、夫等ノ事ヲ以テ、京都ニハ総テ煙突ヲ建ルコトハ出来ヌト云フノハ少シク酷ナ話デ、織物・陶磁器其他京都ノ美術工芸ニ影響スルカモ知レマセヌ、是等工業ノ種類ニ依ツテ場所ヲ極メルト云フノハ、国家ノ観念ヲ以テヤラナケレバナラヌト思ヒマス、故ニ吾々ハ此工業条例ヲ悉ク行ヒタクハナイガ、毎戸製造ヨリ工場製造ニ移ル時ニ、機械的ノ工業ノ種類ニ依ツテ、地区ヲ限リ、年齢ヲ限リ、時間ヲ限ルコトハ必要デアラウト思ヒマス、夫レ故ニ法律デヤルコトハ、国家ノ観念ヲ以テ国家ノ工業経済ヲ以テヤルナラバ、資本家ヲイヂメルコトモ労働者ヲイヂメルコトモナイ、但シ此法律ヲ制定スルニハ、吾々如何程外国ノ状況ヲ調ブルモ、如何程ノ例ヲ調ベルモ、是レハ工業家諸君ト相談シタ上デナケレバ其区域ハ極メラレナイ、夫レデ詰ル所法律問題ト云フモノハ、工業ノ上カラ三分、社交及経済上ノ関係ガ七分デアルト思フ若シ工業条例デモ立ツルナラバ、法律ガ三分位デ、アトハ職工ト資本家トノ関係ヲ定メルト云フコトニ、是レヨリ諸君ナリ政府ノ方針ヲ採ツテ行キタイト思ヒマス、其例ヲ申スト、現ニ英吉利デハ七十年前カラ職工条例ノコトヲワイワイ云フタノハ已ムヲ得ナイ、是レハ最初法律ガ無ツタカラ、資本家ガ非常ニ労働者ヲ虐待シタ、夫レデ政治家モ宗教家モ囂々ト迫ツテ遂ニ法律ヲ以テ制限スルコトニナツタ、欧羅巴ノ工業条例ノ起リハ、殊ニ不幸ナル憐ナル歴史ヲ持ツテ居ルガ、我邦ハ斯ノ如キ憐ナル歴史ヲ持タセナイヤウニ、後進国ノ利益ハ先進国ノ歴史ヲ鑑ミテ其過ヲ再ビセヌ、即チ覆轍ヲ踏マヌヤウニ完全ナルコトニシタイカラ、日本ノ如キ後進国ハ、先進国ノ覆轍ヲ再ビセヌヤウナ地位ニ立テ居ル、幸ニ英吉利ノ例ガアリマス故ニ、英吉利ノヤウナコトヲセズ、資本家ト職工トノ間ニ高等会議ノヤウナモノガ立ツテ、両者ノ関係ヲ円満ニシタイト思フ、今日ハ工業ノコトハ法律問題トシテ極ク区域ガ狭クナツテ居ルガ、曾テ私ガ「らんかしや」・「まんちゑすたー」ヲ廻ツテ工場ヲ持ツテ居ル人ニ就イテ段々聴クト、数代其家ハ営業シテ居ル、君ノ工場ニハ彼ノ工業条例ハ影響ヲ及ボシタカト云フト、曾テ及ボサナイ、私ノ方ハ法律ノ制裁ヲ受ケル必要ハナイ、是レハ奇怪ナ言葉デゴザリマス、ナゼ関係ヲ及ボサナイカト云フト、私ノ方ハ祖父ノ代カラ三代工業ヲヤツテ居ル、祖父ノ手帳ヲ見ルト最初ハ大変困難デアツタガ、段段ト養成シテ此地方ニ居ル何千人ノ人民ハ、皆私ノ職人デアル、決
 - 第23巻 p.528 -ページ画像 
シテ遠方カラ雇フテハ来ナイ、祖父ノ代カラ使ツテ居ル職工デ、彼ノ子供ハ其孫デアル、今此処ニ使ツテ居ル職工ハ凡ソ三代使ツテ居ル、故ニ吾々ハ資本家トシテ此村ノ第一寺ノ費用ノ多分ハ自分ガ金ヲ出シテ居ル、夫レデ日曜日ニハ彼ノ職工ト共ニ彼ノ寺ニ行ツテ耶蘇ヲ礼拝スル、決シテ資本家モ職工モ耶蘇ノ前デハ異ナラヌト云フテ、職工ト共ニ礼拝シテ、サウシテ社交的ノ関係ヲ円滑ニスル、又七・八歳ノ小供ハ職工場ニ這入ルマデハ学校ニヤル、其学校モ多数ノ金ヲ出シテ自分デ維持シテ居ルカラ村ノ費用ハ少ナイ、夫レデ職工モ決シテ他ノ工場ニ行クヤウナコトハシナイ、又病院ノ費用モ大抵私ガ持ツテ居ル、彼ノ病院ハ私ノ建テヽ居ルノダト申シテ居ル、此病院ト学校ト寺トノ三ツヲ以テ社交的ノ感情ヲ円満ニシ、所謂極端ナル封建時代ノ如ク、私ト職工トノ間ハ主従ノ如キ有様デ途デ逢ヘバ皆礼ヲスル、又子供ノ可愛ノガ居レバヤサシイ言ナド云フテ、成ルベク人心ヲ収攬シテ居ル、又毎季ニ家庭ノ奇麗ナル時ハ園遊会ヲ催シテ、皆職工ヲ我庭ニ呼ブト云フヤウニ、総テ社交的ノ関係ガ滑カニアレバ、如何ナル法律ヲ御出シニナルモ、私共必要モナケレバ又影響モセヌト云フテ居ル、是レハ余程味フベキコトデアルト思フ、其事ヲ聴イテ後ニ段々日本ノ有様ヲ見ルニ、地方ニ人ヲ出シテ取調ベサセ、又自カラモ出テ見マスルト、少シ言ヒ悪イガ別所ノ銅山ハ稍々サウ云フ方針ヲ立テヽ居ルト云フコトヲ聞キマシタ、近頃ハ三池ノ坑山モ段々サウ云フ方針ヲ採ツテ経営シテ居ル、余程日本モ英吉利ノ「まんちゑすたー」・「らんかしや」ノ最モ利益ナル、最モ円満ニ行キ居ル所ノ有様ニ工業家ガ眼ヲ着ケテ居ラレルヤウニナツテ来タ、是レハ即チ工業上将来ノ為ニハ先ヅ其精神ヲ養成シタイト思ヒマス、故ニ吾々ハ若シ職工条例ヲ立ツルナラバ、法律ヲ三分社交的組織経営ハ七分位ニシタイト思フテ居リマス、或ハ三分位ガ法律デ資本家ト職工トノ間ニ立ツテ、両方ヲ繋合シテ円満ニ行ク途ガアルダラウ、夫レヲ日本デ発見シテ日本ノ工業ニ適用シテ行ツタナラバ、残虐ナル欧米ノ歴史ヲ再ビセズ、立派ナル工業ノ歴史ヲ日本ニ立テタナラバ、工業歴史トシテ宇内ニ誇ルベキコトデアラウト思ヒマス、是レハ高等会議員タル者ガ深思熟考シテ、其途ガアルナラバ探シテ見タイ、到底無イモノナラバ仕方ハナイガ、私ハ此事ハ諸君ノ力ヲ以テ研究サレタナラバ、アルダラウト思フ、私ノ考ヘハ今申スヤウナ理由デ、此職工ノ取締ト其保護法ヲ立テタイト云フ希望デゴザリマス、或ハ私ノ希望ハ空中ノ画楼デ、真理デハナイカト思マセヌガ、併シ工業経済ニ対スル一箇ノ私見ト見テ、兎モ角モ今日国家ノ一問題ト思ヒマスカラ、サウ急速ニ議スルコトハ私ハ好マナイ、又政府ニ於テハ地方官ニモ今諮問ニナツテ居リマスガ、採レルダケノ途ハ採ツテ、地方ノ状況モ聴キ、又当業者諸君モ御帰県ノ後各々従事セラルヽ所ノ事業ニ付テ御取調ベヲ願ヒタイ、サウシタナラバ、是レダケハ資本家モ是非法律ノ力デヤラナケレバナラヌト云フコトガアルダラウ、又是レダケハ職工トシテ保護シナケレバナラヌト云フコトガアラウト思ヒマス、其両者ノ希望ヲ全フシ、国家ノ工業ノ基礎ヲ確立シタイト思フノデゴザリマスカラ、一言諸君ノ
 - 第23巻 p.529 -ページ画像 
御参考マデニ申シテ置キマス
○二十一番(添田寿一君) 此問題ハ唯々金銭是レ富ナリト云フ考ヘカラ見タナラバ、余リタイシタ問題デナイノデアリマセウガ、真正ナル経済ノ上カラ見マスレバ、此御諮問案中ニ於テ之ガ一番重大ナル問題デアル、是レガ一番国民ノ利益ノ上ニ影響ヲ及ボスコトノ大ナル問題デアル、故ニ諸君ヲ煩スコトハ甚ダ私モ心外デゴザリマスルケレドモ、昨日申上ゲマシタ所ヲ少シク補ヒ、且ツ幾分カ誤解セラレテ居ル点ヲ弁解致シマシテ、此問題ハ必ズシモ資本家ノ害物デアルト云フコトニ御見傚ニナラザルコトヲ願ヒタイト思フノデゴザリマス、此問題ハ決シテ資本家ヲ害スルモノニアラズシテ、永久ニハ資本家ノ利益デアルト云フコトヲ御了解ヲ願ヒタイノデアリマス、夫レデ十一番ハ誠ニ私モ御同意デアル、大賛成デアル、唯々方法ガ如何デアルカ、方法ニ依ツテ賛否ヲ決セネバナラヌト云フコトヲ述ベラレマシタ、是レハ私モサウ思フノデ、決シテ私ハ八時間労働トカ云フヤウナ突飛ナル外国ノ制度ヲ、直グ我邦ニ持ツテ来ルト云フコトハ宜シクナイト思フノデ、資本家ヲ批難スル為メニ私ハ昨日ノコトヲ申上ゲタノデハナイ、我国ニ今虐待ガアルト云フコトハ申上ゲモシナケレバ又サウモ思ハナイノデ、実ハ十番議員カラ昨日議場外ニ於テ承ハリマシタ所ニ依リマスレバ、今十四番ガ述ベラレマシタル如ク、雇主ガ労働者ヲ愛スルト云フヤウナコトガ我邦ニ行ハレテ居ルヤウニゴザリマス、夫レハ我国民ノ人情トシテ下ヲ憐レム義侠心、所謂慈愛主義カラ行ハレテ居ルコトガアルト思ハレルカラ、必ラズ我邦ノ労働者ガ総テ酷ヒ目ニ逢フテ居ルト云フコトカラ、法律ヲ出シテ諸君ヲ煩ハスト云フノデハナイ、又七番ノ御説ニ土方ノ御話ガゴザリマシタケレドモ、是レハ少シク問題ガ混ジテ居ラウカト思ヒマス、工業条例ト云フモノト、職工使用条例ト云フモノハ、全ク問題ガ別デゴザリマス、今日問題トスベキモノハ工業条例デアツテ、蒸汽機関ヲ備ヘ例ヘバ数百人ノ職人ヲ使用スルモノニ向ツテ適用スベキ条例デアリマシテ、欧羅巴ニ於ケル労働者使役条例トモ云フベキモノヽ如ク、土方ナド総テ労働者ヲ使用スルニ戸内戸外ヲ問ハズ其法律ニ従ハシムルノデゴザリマセヌ、斯ル使用条例ハ日本ニ於テハ必要ハナイト思ヒマス、今日諸君ト講究シナケレバナラヌト云フノハ、工業条例ノコトデゴザリマスカラ、農商務省建築ナドニ与リマシタ土方ノコトナドハ、今日ノ問題外ニ置カレテ然ルベキモノデアラウト信ジマス、又左様ナル所マデ立法ノ範囲ヲ及ボス必要ハナカラウト信ズルノデアリマス、詰マリ私ガ諸君ヲ屡々労シマスル所以ハ、双方ヲ調和スル利益ガアルノデ、ドウカ資本家ノ永久ノ利益ト労働者ノ永久ノ利益ヲ調和サセタイト云フノガ、私ノ希望デアリマス、唯々翻訳法律ヲ東洋ニ持ツテ来ルコトハ宜クナイ、私ハ夫レニハ絶対的ニ反対デアリマス、余言デハアリマスガ、市町村制ノ如キハヤリソコナツタト思フテ居ル位デ、私ハ余程保守主義デアルカラ翻訳立法ハ大反対デアリマス、彼ノ勧業銀行条例ナドハ外国ノ例ハ少シモ入ツテ居リマセヌ、私ハ外国ノモノニハ極ク反対デス、併シ此問題ニ就キマシテ、外国ノ歴史ヲ能ク研究致シマシタ所
 - 第23巻 p.530 -ページ画像 
ガ、ドウシテモ歴史ト云フモノハ同ジ事実ガ起レバ再ビ同ジ結果ヲ生ズルモノデアル、若シ今日ノ儘ニホツテ置イタナラバ、英国ガ此世紀ノ初メニ於テ陥ツタル如キ非常ナル社会上ノ病気ヲ惹起スト云フ経過ガ今日ハ見ヘルノデアル故ニ、此問題ヲホツテ置キマシタナラバ、我邦モ色々社会問題タル同盟罷工ト云フヤウナ、社会ニ害ヲナス問題ガ続々起ルニ違ヒナイト云フ事ヲ恐レル、夫等ハ起ラナイ前ニ相当ノ労働者・資本家ノ利益ニナルコトヲ設ケテ、其問題ヲ未発ニ防キ、彼ノ欧羅巴先進国ノ受ケタ病気ヲ救ヒタイト云フノガ私ノ満腔ノ望デアル、故ニ此区域ヲ狭ク致シ、又極ク簡略ニ致シマシテ、サウシテ漸次拡張シテ行カウ、初メハ我邦ノ実況ニ適スルト云フコトヲ以テ、成ルベク資本家ノ利益ヲ害セナイヤウ、殆ンド両方ノ利益ヲ害セナイト云フ目的ヲ以テ此法律ヲ造ルト云フニ過ギナイノデ、夫レハ私ハ別段ムツカシイコトハナイト思ヒマス、夫レデ此点ハ余程御考ヘニナリマセヌト、政治問題ガ済ムト必ラズ社会問題ガ起リマス、政治問題ハモウ大概済ミマシタ、国会ノ開設トカ又ハ三大自由トカ、既ニ政治家ノ食物ガ無クナリマシタ、詰マリ政治家ノ食物ガナクナルト、今度ハ社会問題ヲ食物ニスル、是レハ何処ノ国ノ歴史ヲ見テモ免レヌコトデゴザリマス、夫等社会問題ヲ喚起シ社会ノ病気ヲ喚起サス前ニ、適当ナル立法ヲ設ケテ、是レハ資本家ノ利益デモアリ労働者ノ利益デアルカラ、私ガ必要ヲ唱ヘルノデアル、唯々資本家ニ反対スルトカ批難スルノデナク、資本家ノ御味方ヲシタイ、又資本家ノ利益ヲ謀リタイノデアルカラ、ドウゾ資本家ノ敵デアルヤウニ御覧ノナイヤウニ願フノデアリマス、此問題ニ付キマシテハ随分欧羅巴ノ実際家モ学者モ困ツタ問題デス、ナゼ困ツタカト云フト、害ヲ未発ニ防ギ双方ノ利益ヲ調和スルコトヲ怠ツタカラ、殆ンド救済ノ出来ナイヤウニ至ツタノデゴザリマス、今十四番モ云ハレタ通リ先進国ノ覆轍ガゴザリマスカラ、其覆轍ヲ避ケテ立派ニ此問題ヲ我邦ニハ為逐フセタト云フ名誉ヲ、学者トシテモ得タイノデアリマス、私ハ此事ニ付テハ日本ハ落胆スルニ及バナイ、十一番ハ御承知ノ通リ、国立銀行ノ問題ノ如キハマダ亜米利加ナドモ能ク始末シ得ナイノデゴザリマス、然ルニ我邦ニ於テハ十一番ナドノ御心配デ易々ト始末シテ仕舞フタノデアリマス、我邦ハ此大問題ハ決シテ成遂ゲラレナイト云フモノデモアルマイト思フノデアリマス、又是レハ資本家ノ栄誉、又我邦ノ名誉ヲ博スベキ学術上ノ問題デゴザリマスカラ、十分此事ハ永久ノ利益ヲ御考ヘニナツテ賛成ヲ得タイノデ、已ヲ得ズ私ハ此事ヲ述ベテ諸君ノ御熟考ヲ煩ハシタイノデアリマス
○七番(益田孝君) 大分御論モ尽キマシタヤウデゴザリマスガ、詰マリ雇主ト被雇者ノ円満ナル関係ヲ定メタイト云フカラ此法律ガ入用デアルト云フコトガ、即チ法律ヲ入用トスル人ノ説、又今日ノ事情ニ徴シテ之ヲ設クルハ尚早シト云フニ付テ、其不用ヲ説イテ頻リニ其法律ノ設ケラルヽコトヲ攻撃サルヽ人、詰マリ現況夫程ノ必要ハナイト云フ所カラデゴザリマセウ、私モ現況ニ於キマシテハ尚早シト云フ説ヲ持ツテ居リマス、尤モ之ヲ設ケタイト云フ方ノ御論者ハ
 - 第23巻 p.531 -ページ画像 
矢張リ今日此必要ヲ説カルヽカラシテ、之ヲ設ケタクナイト云フ者カラ承ハル時ハ、アー云フモノヲ設ケテ資本家ノ妨ケニナラヌト云ハルヽガ、其法律ガ大イニ妨ケニナルカラ詰マリ設ケタクナイ、又一方カラハ之ヲ設ケテ貰ヒタクナイト云フノハ、之ヲ極論スルト詰マリ資本家ガ勝手ナコトヲシテ職工ヲ自分ノ自由ニ使ヒタイカラ、之ヲ拒ムノデアルト云フヤウニ、双方互ニ極端ニ走ツテ、双方ノ趣意ガ大ニ欠ケルト甚ダ遺憾ニ思ヒマス、詰リ尚早シト云フ方デ現在設ケタイト云フノハ、禍ヲ未然ニ防ギタイト云フノデアル、如何ニモ双方共ニ承ツテ甚ダ感服ノ外ゴザイマセヌ、詰リ是ハ行々ドウシテモ起ラナケレバナラヌコトデアルノニ相違ナイ、始終資本家ト労働者間ノ関係ハ申スマデモナク余リヤカマシイモノデアルカラ、ソレヲ未然ニ防ゲルダケノコトガアルナラバソレニ若クハナイ、唯併ナガラ是ヲ嫌フナドト云フノハ、是マデ拵ヘタ法律ガ始終立法者ハソレ程害ヲシヤウト思フデハナイ、必ズ其法律ヲ以テ其仕事ヲ助ケ殊ニ此商工業ニ付テハ別シテ唯拡張進歩ト云フコトヲ希望サレテ拵ヘルノデゴザイマセウガ、其結果ハ何時モ妨害バカリデ、詰リ実業社会デ云フト法律ハドノ法律モ取除ケテ貰フト云フノガ、概シテ実業上ノ進歩ト見テ居ル位ナコトデゴザイマス、ソレデ之ヲ執行スル上ニ於テハ余程妨害ヲ実業上ニ受ケルモノモアルカラ、先ヅ総テ法律ト云フト震ヒ慄ク、ソレデ二十一番ノ御精神、十四番ノ御精神若クハ農商務大臣ノ御諮問モ大体ノ御趣意ハ尤モ千万デ、即チ此工業ノ発達ヲ希望スル外ナイノデスガ、如何ニモソレダケノコトニ止メヤウト思フテ書イテモ、扨テ之ヲ執行セシムルトキハ苦シイコトノアルハ始終是マデノ実験ニ徴シテ明カデゴザイマスカラ、先ヅ防ゴウト云フ了簡ニナラウト思フノデゴザイマス、尤モ今日我々日本人民ノ養成サレタル教育ニ於テハ、決シテ虐待ハゴザイマスマイ、皆現ニ今日ノ人間ガ生キテ居ル間、又此一・二代ノ所ハ、或ハ従来ノ教育ヲ以テ決シテ其職工ナドヲ虐待スルコトハナイ、実ニ不用デアルト思フ、ソレデ今日ノ血ノ温イ人間ノ居ル間ハ要用ヲ見ヌ位デアル、トコロガ血ノ冷カナ先生達ガヤツテ来ルト云フト、二十一番・八番ノ述ベラレタコトニナラナケレバナラヌ、又我々日本人モ今日欧羅巴ノ教育ヲ輸入シ、段々アチラノ習慣ヲ見テ、唯資本家即チ資力ト云フモノガ非常ノ勢力ヲ持ツ場合ニ臨ンデハ、唯利益是レ計ルカラシテ、詰リ前ニ養成サレタル所ヲ失ツテ仕舞フカラ、ドウシテモ先々ニ至ツテ血ガ冷クナル傾キガアルコトモ考ヘテ置カナケレバナラヌ、ソコデドウシテモ双方ヲ保護シヤウト云フ所ノ法律モ、進ム度合ヲ計ツテ行カナケレバナラヌト思ヒマス、先ヅ未然ニ能ク其害ヲ防グ、即チ正理ト云フモノヲ空想シテ居ルモノハ詰リ又職工保護ト云フコトニ恐ロシイ力ヲ持チ、却ツテ資本家ヲ悩マスト云フコトガ起ルト云フ二十一番ノ御説モアリマシタガ、ソレハ御尤モ千万ト思フカラ、ドウシテモ皆サンモ仰セラレタル通リ特別委員ヲ置イテ、来年御開キナサルカ、此次ニ御開キニナル時マデニ決シテ資本家モ別ニ恐レ慄ク法律デナイ、今日ノ程度若クハモウ少シ先キニ進ンデ外国人ガ日本ヘ来テ日本人ト等シク職工ヲ使フ上ニ於テノ場合
 - 第23巻 p.532 -ページ画像 
等ヲ能ク斟酌セラレテ、資本家ヲシテ悩マシ恐レ慄カシメザル所ノ取締規則、即チ双方ノ便宜ヲ図ルモノガ出来得ルナラバ、随分是ハ今ノ内ニサウ云フ妨ゲノナイモノヲ拵ヘテ置ク方ガ、先ヅ此資本家ノ為ニモ打壊レヲ求メナイデ、却ツテ大ニ利益ニナルカモ知レヌ、詰リ特別委員ヲ御拵ヘナサツテ其法アルヤ否ヤ、即チ双方ノ論者ガ申ス所ノ意ヲ含ンデ、委員会ニ於テ精細ニ取調ヲ為スト云フ外ナカラウト存ジマス、最ハヤ大体議論モ尽キテ居リマスカラ、ドウゾ委員ヲ設クルノ可否ヲ御採リ下サイマシテ、他ノ問題ニ移ルコトヲ望ミマス
○二十番(広瀬宰平君) 賛成
○議長(伯爵佐野常民君) 第七諮問案ニ付キマシテハ、追々御論述ニナリマシテ、モウ大抵御論旨ハ尽キマシタカト思ヒマス、昨日十五番ノ御意見ガ一番始メデゴザイマシタヤウデ、ソレハ委員ニ附託致ス、其委員ハ継続委員ニシテ次会マデ能ク取調ベルト云フ御趣意ト思ヒマシタガ、十五番如何デス
○十五番(浜岡光哲君) 左様デゴザイマス
○議長(伯爵佐野常民君) ソレニ御同意ノ御方ガ、追々ゴザイマスカラ……
○十五番(浜岡光哲君) 唯今議長ノ御宣告通リ、矢張継続委員ニ附シタイト考ヘマス、尚ソレニ決シマスル以上ハ、人員ハ七名程ニ致シテ置キタイト思ヒマス、選出方ハ議長ニ御任ヲスル見込デゴザイマス
○議長(伯爵佐野常民君) 宜シウゴザイマス、唯今十五番ノ御建議ハ諸君御聴キノ通リ、継続委員七名ヲ設ケテソレニ附託スル、其委員ハ議長デ選ブガ宜イト云フコトデアリマス、ソレニ御同意ノ諸君ハ御起立ヲ願ヒマス
  起立者  多数
 全会一致デゴザイマス


東京経済雑誌 第三四巻第八四九号・第七六〇―七六一頁 明治二九年一〇月三一日 ○高等農商工会議の結果(DK230044k-0003)
第23巻 p.532 ページ画像

東京経済雑誌  第三四巻第八四九号・第七六〇―七六一頁 明治二九年一〇月三一日
    ○高等農商工会議の結果
本月十九日以後農商務省に於て開会せし第一回高等農商工会議は、会議を累ぬること七回にして、去廿六日を以て閉会せり、今其の会議の結果を査察するに ○中略 第七項職工の取締及保護に関する件に就ては、賛成者・反対者互に熱心なる討論ありたるも、結局同件は速決すべきものに非ず、充分なる調査を遂ぐる為め来期の開会期迄継続委員七名を選挙して之を附托すべしとの説ありて、遂に之に可決し、其継続委員として藤田・益田(孝)・安藤・渋沢・浜岡・土居・添田の七氏を挙げたり
○下略



〔参考〕工場法論 岡実著 第一〇―一二頁 大正六年九月刊(DK230044k-0004)
第23巻 p.532-534 ページ画像

工場法論 岡実著  第一〇―一二頁 大正六年九月刊
○上略
 明治二十九年地方長官ヲ招集シテ、職工ノ保護及取締ニ関スル事項
 - 第23巻 p.533 -ページ画像 
ヲ諮問シタルニ、其ノ後ニ至リ答申書ヲ提出シタル一府十九県中、法令ノ制定ヲ希望シタルモノ一府十四県ニシテ、爾余ノ五県ハ概ネ其ノ制定ヲ否認セリ、又同年第一回農商工高等会議ヲ開キ、職工ノ保護及取締ニ関スル件ヲ諮問シタル結果、同会ハ特別委員ヲ選ヒ之ヲ調査スルコトトナレリ。
 明治三十年六月再ヒ工務局ヲ設ケ、志村源太郎氏局長トナリ、工場及汽缶ノ構造、職工ノ保護・取締ニ関スル法令ヲ規定スルノ目的ヲ以テ、親シク各地方ノ工場ヲ視察シテ法案ヲ起草セリ。而シテ該案ハ当初工場法案ト為セシモ之ヲ職工法案ト改メ、法律適用ノ範囲ヲ五十人以上ヲ使用スル工場トセシヲ三十人以上トシ、又原動力ヲ使用スル工場ニ限リタルヲ一般ノ工場ニ適用スルコトト為シタル等、種々ノ改訂ヲ加工漸ク之レカ完成ヲ見ルニ至レリ。該案ノ趣旨ハ最初ヨリ精密ノ法令ヲ布クトキハ工業界ニ激変ヲ来スノ虞アルヲ以テ、成ルヘク法文ヲ簡略ニシテ緊切事項ノミヲ規定シ、工場内危険予防ノ如キ職工保険問題ノ如キハ或ハ之ヲ他日ニ譲リ、或ハ之ヲ細則トシテ勅令ヲ以テ規定スル方針ヲ採レリ、従テ該案ハ総則・職工・徒弟・監督及罰則ノ五章ニ別チ、之ヲ三十五条ニ細別セリ。此ノ法案ハ三十二年農商工高等会議ニ諮詢シタル法案ノ前身ニシテ、重ナル相違ノ点ハ諮問案ニ於テハ法ノ適用範囲ハ五十人以上ノ職工・徒弟ヲ使役スル工場ト為セルモ本案ハ三十人ナルコト、又諮問案ハ其ノ名称ヲ工場法案トシテ、更ニ一章ヲ加ヘテ工場ノ建築・改築・増築・危害予防、寄宿舎・社宅、其ノ他ノ工場附属建物ノ取締ニ関シ規定セルモ、本案ニ之ヲ欠ケルコト等ニシテ、職工・徒弟ノ取締ニ関スル規定ハ略ホ同一ナリ。
 此ノ法案ハ第十一回帝国議会ニ提出セントシタルモ、議会ハ十二月二十五日ヲ以テ解散セラレタル為メ廃案ニ帰シタリ、其ノ規定事項ヲ見ルニ当時諸工業勃興シタル為メ、職工・徒弟争奪ノ弊甚シク、官民共ニ之カ矯正ノ緊切ナルコトヲ認メタルモノヽ如ク、又一般ノ規定事項カ理論ニ馳セ、或ハ外国法令ニ傚フコトナク我邦ノ実状ニ近ツキタルノ観アリ、而シテ此ノ外、擬職工条例工場法案・工場法草案及工場条例等数種ノ草案相踵テ立案セラレタリ。
 又同年十月内務省ニ於テ労働者疾病保険法案ヲ起草シテ之ヲ農商務省ニ廻附セリ、該案ハ労働者ノ病災救済ニ関シ作業主及労働者ノ義務疾病保険資金ヨリ労働者ニ給与スヘキ場合、資金ノ管理法及監督等ニ関スル事項ヲ規定シタルモノナリ。
 要スルニ第一期ニ於テハ調査ニ調査ヲ重ネ、屡々法案ヲ編纂シタルモ、官民ノ之ニ対スル意向・改案ノ事情等当時ノ情勢ニ付詳細ナル記録ノ徴スヘキモノナク、其ノ経路ヲ索ムルコト甚タ困難ニシテ隔靴掻痒ノ感尠カラス。
   ○工場法ト栄一トノ関係並ニ工場法成立ノ沿革ニ就イテハ、本資料第十七巻所収「東京商法会議所」明治十三年十一月十五日、第十八巻所収「東京商工会」明治十七年五月二日、第十九巻所収「東京商業会議所」明治二十四年八月二十九日、第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十一年五月二十日、同年十月二十二日、同三十六年三月二十八日、第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治三十五年十二月八日、本款明治三十一年二月二十八日、第二部第五章学術及其他ノ文化事業中「社会政策学会」明治四十年十
 - 第23巻 p.534 -ページ画像 
二月二十二日ノ各条参照。