デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

2部 社会公共事業

3章 道徳・宗教
5節 修養団体
1款 竜門社
■綱文

第26巻 p.106-114(DK260026k) ページ画像

明治21年4月(1888年)

是月竜門社規則ヲ改正シ、社長ニ渋沢篤二、幹事ニ尾高次郎、委員ニ斎藤峰三郎・松村五三郎ヲ推薦シ、月次会並ニ年二回ノ総会ヲ制定ス。「竜門雑誌」ハ二十年十二月ニ第九号ヲ発刊セシモ出版条例ノ改正ニ従ヒ是月改メテ第一号ヲ発行ス。栄一之レガ育成ニ尽力ス。


■資料

竜門雑誌 第一号・第一七―一八頁 明治二一年四月 社告(DK260026k-0001)
第26巻 p.106-108 ページ画像

竜門雑誌  第一号・第一七―一八頁 明治二一年四月
 - 第26巻 p.107 -ページ画像 
  社告
○上略
○我カ青淵書屋ニ於テ養成セラレタル者前後実ニ数拾人、衆皆俊才卓識、或ハ学術ヲ以テ名アル者アリ、或ハ実業ヲ以テ秀テタル者アリテ、未タ曾テ一人ノ不学遅鈍ノ輩アルナシ、是実ニ青淵先生ノ薫陶宜シキヲ得タルニ因ル、然レトモ已ニ書屋ヲ出テヽ遠ク各地ニ離散シ、各自業ニ従フニ当リテヤ、日ニ月ニ相疎絶シテ、昨日ハ知己ノ交アリシ者今日ハ恰モ不識人ノ有様アリテ、毫モ同窓同学ノ親ナキカ如シ、青淵先生ノ高志豈此ノ如キヲ望マンヤ
 此ニ於テカ余輩数人大ニ悟ル所アリ、乃チ曩キニ同窓ノ士ト謀リ一社ヲ結と、名ケテ竜門社ト称シ、以テ互ニ相助ケ将来ノ大成ヲ為ントセリ、蓋シ竜門ノ名アルヤ登竜門ノ故事ニ因ルナリ、然レトモ社員少数ニシテ規模定マラサルヲ以テ、社運未タ振興ノ域ニ達セス、此ニ於テ更ニ社則ヲ改正シ、広ク我書屋ニ人トナル諸君ヲ団結シ、益々将来ノ懇誼ヲ保チ、愈々前途ノ成業ヲ助ケ、輔車ノ勢ヲ以テ進マント欲シ、玆ニ新ニ同志ヲ募ル、賛成ノ諸君ハ速カニ報知アラン事ヲ乞フ
  竜門社規則
      第壱条
本社ハ農工商ニ関スル識見ヲ講談論議スルヲ以テ目的トシ、名ケテ竜門社ト称ス
      第弐条
社員ハ青淵先生ノ薫陶ヲ受ケタル人々ヲ以テ之レヲ組織ス
      第三条
社員ハ毎月第三土曜日午後七時ヲ以テ本社ニ参集シ、討論演説会ヲ開キ、十時ニ閉会ス
 但シ住所遠隔ノ社員ハ此限ニ非ス
      第四条
本社ハ毎月一回竜門雑誌ナル者ヲ発兌シ、社員ノ論説ハ勿論広ク世ノ名文卓論ヲ掲載シ、之レヲ社員一同ヘ頒ツ
 但シ記事ハ専ラ商工ニ関スル経済法律上ノ論議ヲ掲ク
      第五条
社員ヲ別ツテ名誉員・特別員・尋常員ノ三種トシ、特別員ハ会費トシテ毎月金二拾銭、尋常員ハ毎月五銭ツヽヲ納ム可シ、名誉員ハ敢テ金額ヲ定メス、各員ノ志ス所ヲ納ム
 但シ社員ノ都合ニヨリ数月分ヲ前納シ、又ハ郵券ヲ代用スルモ差支ナシ、会費取立日ハ毎月一日ヨリ十日迄トス
      第六条
社員中ヨリ社長一名・幹事一名・委員二名ヲ推撰シ、幹事・委員ハ社長ノ命ヲ奉シテ一切ノ社務ヲ掌理ス
 但シ竜門雑誌発行者・編輯者・記者・印刷者・客員ハ当分従前ノ通トス
      第七条
竜門雑誌ハ時トシテハ懸賞点取文ヲ出シ、以テ社員ノ文才ヲ練磨セン
 - 第26巻 p.108 -ページ画像 
トス
      第八条
社員外ノ人ト雖トモ、文章ヲ寄送スル者ヘハ其ノ月ヨリ向フ三回分雑誌ヲ送附シ、以テ其志ヲ謝ス
                 社長 渋沢篤二
                 幹事 尾高次郎
                 委員 斎藤峰三郎
                 委員 松村五三郎
 仮リニ現員右ノ如ク定ムト雖トモ、異論アル人々ニハ速カニ通知アリテ別ニ撰当スル処アルベシ、本社ハ之レヲ投票法ヲ以テ撿査シ、多数ノ当撰者ヲ以テ役員トス

○本社員中其ノ種類申込アリシ人左ノ如シ
  名誉員 渋沢篤二君    穂積陳重君
      渋沢令夫人    同令夫人
      阪谷芳郎君    尾高惇忠君
      同令夫人     同令夫人
  特別員 大川平三郎君   諸井時三郎君
      笹瀬元明君    田中栄八郎君
尋常員
 吉岡新五郎君  芝崎確次郎君   村井清君
 岡本謙一郎君  斎藤峰三郎君   韮塚次郎君
 須永都三郎君  松村五三郎君   伊藤登喜三君
 尾高次郎君   桃井健吾君    野口半五郎君
 松本小吉君   小林恒雄君    山口荘吉君
 伊藤半次郎君  和田格太郎君   増田多郎君
 増田充夫君
未タ申込ナキ人々
 藤村久君    大亦信吉君    尾高勝五郎君
 桃井可雄君   福岡健良君    河西慶定君
 大里清吉君   西園寺猪太郎君  津田束君
 関直之君    小栗倉三郎君   大川英太郎君
 島内義雄君   須永伝蔵君
右未タ申込ナキ人々ニハ、至急御賛成ノ上社員ノ種類御報知アラン事ヲ希望ス


竜門雑誌 第一号・第一五―一六頁 明治二一年四月 竜門社員討論演説会(DK260026k-0002)
第26巻 p.108-110 ページ画像

竜門雑誌  第一号・第一五―一六頁 明治二一年四月
竜門社員討論演説会 去月第三土曜日、定日ニ付キ第十一回討論演説会ヲ開ケリ、同夜ノ弁士ハ阪谷芳郎・穂積陳重ノ両氏ヲ始メトシテ十数名ノ会員アリ、中々ノ盛会ナリシ、今其演説ノ摸様ヲ記サンニ、阪谷氏ハ「出世ノ道」ト題シテ、凡ソ人ノ身ヲ立ツルニ其ノ道二筋アリ一ハ学術ヨリスルト一ハ実業ヨリスルトナリ、而シテ学術ヨリスル者ハ先ツ小学ヨリ中学・大学ノ順序ヲ追フテ遂ニ普天ノ学術ヲ修メ、卒業ノ後之ヲ実際ニ応用スルニアリ、実業ヨリスル者ハ始メヨリ商店ノ
 - 第26巻 p.109 -ページ画像 
小僧、銀行・会社ノ小使ヨリシテ多年日月専ラ実際ノ一方ニ奔走シ、経験ト熟練トヲ以テ遂ニ支配人トナリ、番頭トナルナリ、此二筋何レヨリ進ムモ其ノ結果ニ至リテハ敢テ大差ナキカ如シト雖トモ、身ニ普通ノ学識ナク単ニ経験ト熟練トヲ以テ成リ立ツ者ハ、事務ヲ執リテ過失少シト雖モ、運転利用ノ力乏シク活溌ナル行為ハ概シテ為シ能ハサル者多シ、又学術ヨリ進ム者ハ進取ノ気象常ニ絶ヘス、一ヲ十トシ、十ヲ百トシ、例ヘハ百円ノ資本ヲ以テ直チニ千円トナサントスルカ如ク急進旨義ヲ務ムルカ故ニ、此ノ間往々過失ナキ能ハスト雖トモ、行為快活、時トシテハ大ニ事業ヲ拡張シ、世ヲ益シ国ヲ利スル事少シトセス、此ノ如ク両道何レモ一得一失アリト云フ可シ、故ニ世ノ有志者カ学業ヲ以テ人ト成リ他日実業ニ応用セント欲スル者ハ、宜シク進ンテ退クヲ知リ、退ヘテ進ヲ忘レス、小心胆大ヲ以テ心トセバ可ナリ、今我社員少壮ノ諸氏ハ現ニ商業学校或ハ共立学校等ニ入リテ専ラ学業ヲ事トスト雖トモ、常ニ渋沢君ノ挙動ヲ鑑ミ、学業ノ傍ラ実際ノ有様ニ注意シテ、学術・実業相共ニ進ムノ心掛ケアラバ即チ責雲ノ行路二道兼ネ学ブノ便アリト述ベラレタリ○穂積氏ハ「名誉ノ旅」ト題シテ我社員ノ勉学ナル今更ニ喋々スルヲ要セス、此ノ勢ニシテ止マスンバ他日瀑流ヲ溯ルノ鯉魚、化シテ竜トナラン、日一日ヨリ進ミ月一月ヨリ高ク、社員諸氏ノ行路豈楽シカラスヤ、故ニ彼ノ売僧一休禅士ノ浮言ヲ変シテ、喜ブベク祝スベキノ和歌一首ヲ得タリ、曰ク「門松や名誉の旅の一里塚、目出度もあり楽しくもあり」トノ意ヲ述ブ、次ニ渋沢篤二氏ハ「京坂漫遊録」ト題シテ、同地方工業上ノ有様ヲ委シク演説セシカ、本誌論説欄ニ詳記セルヲ以テ之レヲ略ス、次ニ尾高次郎氏ハ「老年工業者ト幼年工業者トノ争ヒ」ト題シテ、改良演戯ノ舞台ニ旧幕時代ノ俳優現ハレ仙台萩ノ幕ニ大星由良之助ノ出ツルアラハ誰レカ之レヲ笑ハサランヤ、然ルニ我国明治社会ニハ往々此ノ奇観アルハ何ンソヤ、夫レ文明ノ工業ハ文明ノ学術ヲ研究シ文明ノ志想アル者ニ非サレバ能ハサル者ナルニ、今日ノ社会ヲ見渡スニ諸々ノ工業ヲ司トル者多クハ皆頭ニ白髪ヲ戴キ、或ハチヨン髷ヲ横ヘタル連中、所謂天保ノ老翁ナレハ、事ヲ執リテ因循姑息ナル事、言フニ忍ヒサル者アリ我国工業ノ事憂フベキノ極ナラスヤ、然レトモ如何ンセン、文明事業ニ適スル幼年書生輩ハ身ニ資産ナク信用ナキヲ以テ、其ノ説用ヘラレス、其議納レラレズ、胸中ノ智識モ漏ラスニ処ナク、徒ラニ世ニ不平ヲ鳴ラシテ空シク日時ヲ消費スルノミ、之ニ反シテ天保ノ老翁ハ才ナク学ナシト雖トモ、幸ニ巨万ノ財アルヲ以テ種々ノ工業ヲ興スト雖トモ、其ノ為ス処遅疑決セス、会々書生輩ノ議論ニ感スルモ之レヲ用ユルノ勇気ナク、徒ラニ文明工業ノ益少ナキヲ嘆スル者ノ如シ、之レ実ニ今日工業社会ノ現象ナリ、嗚呼将来幼年者ト老年者トノ争ヒ果シテ何レカ勝ヲ制スルヤ、余輩ノ策ヲ以テスレハ、宜シク幼者・老翁共ニ不平ト遅疑ノ心ヲ止メ、互ニ胸襟ヲ開キテ相談シ相助クルニ如カス、此ノ策ヲ為スモノ蓋シ両者ノ交際ヲ密ニスルノ外ナシト述ベ、其他各員交々社会ノ事ヲ論シ、終リテ討論題「専売特許ノ利害如何」ニ附テ或ハ専売特許ハ天下人民ニ種々新奇便利ノ考ヲ起サシメ、智識ヲ増シ国ヲ利スルノ益アリト云ヒ、或ハ専売特許ハ利益ヲ一己人ニ壟断セシ
 - 第26巻 p.110 -ページ画像 
ムルカ故ニ、決シテ一般国ヲ利スルノ効ナシト云ヒ、甲論シ乙駁シ中中決セサルヲ以テ、遂ニ之レヲ次会ニ譲リテ会ヲ閉ツ


竜門雑誌 第一号・表紙裏 明治二一年四月 目録(DK260026k-0003)
第26巻 p.110 ページ画像

竜門雑誌  第一号・表紙裏 明治二一年四月
  目録
○社説
 商戦論                      尾高惇忠
○社員論説
 信用論                      尾高次郎
 京阪神漫遊録                   渋沢篤二
 独逸工業ノ一斑                  須永都三郎
 里昂ニ於テ和製紙類ノ景況             韮塚次郎
○寄書
 商業ノ起原                    布施藤平
 我邦法律史編纂ノ必要ヲ論ス            持田直
 十九世紀学術ノ進歩                小牧屋主人
 農業論                      山口荘吉
○雑報
 渋沢氏新館
 須崎豊鱗所
 竜門社員討論演説会ノ景況
○社告
 本誌ヲ第壱号トナスノ事由
 懸賞文ノ事
 竜門社改正規則ノ事
  本社ヘ投書セントスル者ハ月ノ十日迄ニ寄稿アリタシ


竜門雑誌 第一号・第一六頁 明治二一年四月 社告(DK260026k-0004)
第26巻 p.110 ページ画像

竜門雑誌  第一号・第一六頁 明治二一年四月
  社告
今般出版条例ノ改正アリタルヲ以テ、本誌モ更ニ第壱号トシテ発行セサル可カラサルノ事情トハナレリ、故ニ従来ノ号ヲ追ヘバ今回第十号トナルヘキ者モ、改メテ是ヨリ再ヒ第壱号トシテ発行ス、此旨社員諸君ニ告ク


竜門雑誌 第一号・奥付 明治二一年四月 明治二十一年四月七日印刷(DK260026k-0005)
第26巻 p.110-111 ページ画像

竜門雑誌  第一号・奥付 明治二一年四月
  明治二十一年四月七日印刷
          東京府深川区福住町四番地寄留
        発行者           尾高次郎
          東京深川区福住町四番地
        記者            渋沢篤二
          東京深川区福住町四番地寄留
        同             斎藤峰三郎
          東京日本橋区兜町壱番地
        印刷所           製紙分社
 - 第26巻 p.111 -ページ画像 
          東京日本橋区兜町壱番地製紙分社
        印刷者           広瀬安七

        客員            尾高惇忠
                      穂積陳重
                      阪谷芳郎
                      村井清



〔参考〕竜門雑誌 第二号・第二〇―二一頁 明治二一年五月 ○討論演説会(DK260026k-0006)
第26巻 p.111 ページ画像

竜門雑誌  第二号・第二〇―二一頁 明治二一年四月
○討論演説会 本社第十二回討論演説会ニハ、生憎雨天ナリシヲ以テ会員小数ナリシ、今演説ノ摸様ヲ記サンニ、渋沢篤二氏ハ「商人ノ勇気」ト題シ、勇気ハ何人ニモ必要ナル者ナレトモ、之レヲ用ヒ様ニ由リテハ大ナル害トナル事アリ、則チ無智ニテ勇気ニ富ム者、所謂匹夫ノ勇ノ如キハ毫モ其ノ効ナク却テ其ノ身ヲ殺グ者ナリ、又此ノ勇気ヲ悪シキ方ニ用ユルモ同様ノ害アリ、則チ勇ニ任セテ人ヲ凌キ人ヲ侮ルカ如キ之レナリ、然レトモ之レヲ善事ニ応用スレハ其ノ有益ナル論ヲ待タズ、方今商業ノ世トナリテハ商人ニ是非此ノ勇気ヲ保タシメザルベカラス、商人ハ時トシテハ如何ナル地方ニテモ利益アリト見做ストキハ、山ヲ越ヘ海ヲ渡リテ進行スル事アルベシ、此ノ時ニ当リ肝腎ノ勇気ナケレハ、充分利アリト思フ事モ成就セシムル事能ハサルベシ、其他日常此ノ勇気アリテコソ、臨機応変果断ノ商略ヲ取ル事モ得ラルレトモ、此レ無レハ一トシテ意ノ如クナルベカラス、故ニ商人ニハ是非勇気ハ必要ナリト述ベラレタリ、次ニ韮塚次郎氏ハ「商人タラント欲セバ、商人ノ心ヲ以テ心トスベシ」ト云フ長タラシキ題ナリシガ、其要ヲ摘メバ、今日学生生徒ト称スル者モ漸々ニ商業ニ非ラサレハ身ヲ立ツル路ナキヲ覚リタルカ如ク、常ニ曰フ、我レ他日日本ノ商権ヲ握ランナドヽ、例ノ書生流ノ大言ヲ為スト雖トモ、此ハ少焉ク問ハザルモ、斯カル書生青年輩ガ他日商人ヲ望ミナガラ、平常ノ心掛之レト大ニ反対ナルカ如シ、如何ントナレバ此ノ流ノ生徒等ガ平日ノ言行ヲ見ルニ、曰ク独相ビスマークハ実ニ稀代ノ豪傑ナリトカ、又曰ク日本ノ政事家ハ誰レナルヤトカ、又曰ク英国ノグラットストーンノ名誉ハ実ニ羨ムベシナトヽ、云ラ処聞ク処一トシテ商業上ノ話ナシ、斯様ノ事ノミ談論スル者ガ商人ニナリタシトハ、恰モ山野ノ獣ガ河海ニ住マントスルカ如シ、故ニ商人トナラント欲セバ斯ノ如キ日常些細ノ事々ニモ注意シテ、商業世界ニ眼ヲ注カレン事希望ノ至リナリト述ベタリ其ノ他二・三氏ノ演説アリ、討論題ハ前回ノ続キ「専売特許ノ利害」ニシテ、甲論乙駁容易ニ決セサルヲ以テ、議長須永都三郎氏立テ決ヲ取リシニ専売特許ヲ利トスル者、五ニ対スル十ノ多数ニシテ勝トナレリ



〔参考〕竜門雑誌 第六号・第二一頁 明治二一年一〇月 ○端艇の遊(DK260026k-0007)
第26巻 p.111-112 ページ画像

竜門雑誌  第六号・第二一頁 明治二一年一〇月
○端艇の遊 本月十七日は神嘗祭の休日といひ、殊に早天より一点の雲なく和暢恰かも小春日和の景色なりしかば、予て待ち構へたる第一国立銀行員及び本社々員の諸氏二十余名は、新造の「ボート」二艘に
 - 第26巻 p.112 -ページ画像 
乗り込み隅田の上流へ溯り、北豊島郡豊島村より左に音梨川に漕ぎ入りしが、折柄干潮時なりければ水は次第に減し来て、腕に覚への操艪術も施すに術べなくなりて、アヽとて上陸したるもあり、何をと勇を鼓して土俵の上の腕力を出し船を押しなどするもありて、船頭多からざるに船は山ならぬ泥上を行きて、遂に王子の製紙会社構内にまで達せり、此処より社員松村五三郎氏の案内にて一同飛鳥山なる渋沢氏の別荘に至り、園中をあちらこちらと徘徊し、終りに傍なる馬場に於て競走・巾飛等活溌なる運動を為しけるうち、時ならぬ菓物の雨の降り出しければ、吾れ先にと争ひ挑みて拾ふあり食ふあり、中にはアヽしなしたり、恥かきたりなど囁くものありし、やがて渋沢氏の厚意にて晩餐の用意しあればとの知らせに、一同スワと一目散に走せ附け、鰻飯の饗を受け、且つ食し且つ笑ひ楽む中、座の正面に顕れ出たるはかねて滑稽談を以て名高き某氏にて、一言一句に奇と珍を交へて話されければ、衆皆抱腹絶倒せり、此の時既に午後六時半にて満潮なればとて、一同辞して船に打乗り、飛竜の勢ひもて艪ををつ把り、歌ひつ笑ひつ下るほとに月出てければ、黄金白銀のきらきら水上に浮びて、得も言はれぬ気色なりきと



〔参考〕竜門雑誌 第六号・附録 明治二一年一〇月 竜門雑誌第六号附録明治廿一年十月廿五日印刷出版(DK260026k-0008)
第26巻 p.112-114 ページ画像

竜門雑誌  第六号・附録 明治二一年一〇月
    竜門雑誌第六号附録 明治廿一年十月廿五日印刷出版
  竜門社規則
      第壱条
本社ハ農工商ニ関スル学理ヲ講談論議シ、実業ノ智識ヲ発達セシムルヲ以テ目的トス
      第弐条
本社ハ竜門社ト称ス
      第三条
本社ハ青淵先生ノ薫陶ヲ受ケタル人々ヲ社員トシ、之レヲ組織スルモノトス
      第四条
本社ハ毎月一回演説討論ノ会ヲ開キ、社員各自ノ所長ヲ談論セシムベシ
 但シ時々大家ヲ招聘シテ其講説ヲ聞ク事アルベシ
      第五条
本社ハ毎月一回竜門雑誌ヲ発兌シ、社員ノ論説ハ勿論、広ク大家ノ名論卓説ヲ掲載シ、之レヲ社員ニ頒付スヘシ
 但シ記事ハ農工商ニ関スル学術上ノ事項トス
      第六条
本社社員ヲ別テ左ノ三種トナス
  名誉員
  特別員
  尋常員
      第七条
本社社員ハ本社ノ諸経費ヲ支償スル為メ、特別員ハ毎月金弐拾銭、通
 - 第26巻 p.113 -ページ画像 
常員ハ毎月金五銭ヲ支出スヘシ
 但シ名誉員ハ適意ニ出金スルモノトス
      第八条
本社ニ社長壱名・委員六名ヲ置キ、社務一切ノ事ヲ掌理セシム
 但シ竜門雑誌ノ主任者ハ、社長・委員ノ協議ヲ以テ定ムルモノトス
      第九条
本社ハ時々懸賞文ヲ募リテ之レヲ竜門雑誌ニ登録シ、社員ノ文才ヲ練磨セシム
      第十条
社外ノ人ニシテ文章ヲ寄送スル者アレハ、本社ハ之レニ三回分ノ雑誌ヲ送附シ其志ヲ謝スベシ
                  竜門社
                社長    渋沢篤二
                委員    吉岡新五郎
                同     尾高次郎
                同     山口荘吉
                同     斎藤峰三郎
                同     松村五三郎
                同会計主任 岡本謙一郎
   ○右ハ前掲社則ノ字句ヲ改正シタルモノニシテ、以後更ニ第五条但書ノ農商工云々ヲ「法律経済及ビ農工商」ト改メ、毎号竜門雑誌表紙裏ニ掲ゲテ明治二十五年三月ニ及ベリ。三十年更ニ改正シ、四十二年二月ニ至リ組織ヲ変更シテ更ニ社則ヲ制定セリ。本款明治四十二年二月十一日ノ条参照。
本社現在社員ハ左ノ如シ
  名誉員
 渋沢令夫人     渋沢篤二君          穂積陳重君
 穂積令夫人     坂谷芳郎君《(阪谷芳郎君)》   坂谷令夫人《(阪谷)》
 尾高惇忠君     尾高令夫人
  特別員(イロハ順)
 長谷川一彦君    土岐僙君           尾高幸五郎君
 尾高勝五郎君    大沢正道君          大浦佐助君
 大川平三郎君    大川英太郎君         大亦信吉君
 小栗倉三郎君    尾高次郎君          大井五郎君
 和田格太郎君    吉岡新五郎君         谷敬三君
 田中栄八郎君    玉村義子君          津田束君
 永田清三郎君    村井清君           山口荘吉君
 陽其二君      藤井晋作君          福岡健良君
 佐々木勇之助君   西園寺猪太郎君        斎藤精一君
 笹瀬元明君     斎藤峰三郎君         三俣盛一君
 広瀬安七君     隅山尚徳君
  通常員(イロハ順)
 伊藤半次郎君    伊藤登喜造君         長谷川正直君
 新原敏三君     韮塚次郎君          尾高文子君
 尾高次三郎君    太田清助君          大井幾太郎君
 - 第26巻 p.114 -ページ画像 
 大沢佳郎君     岡本謙一郎君         河村徳行君
 神原弥吉君     吉田喜三郎君         高橋褧君
 高橋波太郎君    高橋英吉君          中村藤治郎君
 村木善次郎君    野中真君           野口半之助君
 増田多郎君     増田充夫君          松本小吉君
 松川清美君     松村五三郎君         松平隼太郎君
 藤村久君      布施藤平君          小林恒雄君
 小林秀明君     小畔亀太郎君         江沢六三郎君
 朝山豊子君     佐田左一君          斎藤章達君
 岸宇吉君      宮崎律三君          三田麻太郎君
 芝崎確二郎君    渋沢元治君          桃井可雄君
 諸井時三郎君    諸井恒平君          桃井健吾君
 関直之君      須永伝蔵君          須永都三郎君
 鱸薫君



〔参考〕竜門雑誌 第八号・表紙裏 明治二一年一二月 例言(DK260026k-0009)
第26巻 p.114 ページ画像

竜門雑誌  第八号・表紙裏 明治二一年一二月
    例言
一本誌ハ農工商ニ関スル論説事項ヲ掲載シテ、実業家タルニ必要ナル学術ヲ研究スルノ資ニ供シ、兼テ社員交互ノ意志ヲ相通スルノ機関トス
一本誌ハ主トシテ竜門社員ノ起草ニ係ル論説事項ヲ登録スルモノトス故ニ社員ハ各自従事スル処ノ業務ニ関スル事項ヲ時々寄送スヘシ
  但シ会員外ヨリ寄送セルモノモ亦登録スヘシ
一本誌ニ載セタル論説記事中ニ就キ質疑ヲ求メラルヽモノアルトキハ之カ解答ヲナスコトアルヘシ
一本誌ハ毎月廿五日発兌ス