デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2021.9.1

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

2部 社会公共事業

6章 政治・自治行政
1節 政治
4款 衆議院議員選挙法改正期成同盟会
■綱文

第27巻 p.567-577(DK270147k) ページ画像

明治32年1月9日(1899年)

是ヨリ先、政府、都市選出代議士数ノ増加ヲ目的トスル衆議院議員選挙法改正法案ヲ再ビ第十三議会ニ提出ス。是日、大倉喜八郎・安田善次郎等該案ノ実現ヲ期スルガ為メ衆議院議員選挙法改正期成同盟会ヲ組織シ、栄一会長ニ選任セラル。


■資料

東京日日新聞 第八一六九号 明治三二年一月七日 ○選挙法改正期成同盟会(DK270147k-0001)
第27巻 p.567 ページ画像

東京日日新聞  第八一六九号 明治三二年一月七日
○選挙法改正期成同盟会 大倉喜八郎氏始め実業家有力者の発起にて衆議院議員選挙法改正の必要を認め、今回政府より議会に提出せんとする同法改正案は従来農民的なるを改正して、都市商工業者に選被選権の資格を得せしめ随て都市商工業者より選出せらるべき代議士の数を増加するものなるに由り、此改正案の通過を謀るは商工業者の権利を拡張し参政権の完全を期するものにして、刻下必要の急務なりとて玆に題目の如き同盟会を起すことに決し、来る九日帝国ホテルに於て同志実業家の会合を催し其組織を為すよしに聞く


竜門雑誌 第一二八号・第五九―六〇頁 明治三二年一月 ○選挙法改正期成同盟会(DK270147k-0002)
第27巻 p.567-568 ページ画像

竜門雑誌  第一二八号・第五九―六〇頁 明治三二年一月
    ○選挙法改正期成同盟会
衆議院議員選挙法改正期成同盟会組織の為め、大倉喜八郎・安田善次郎・浅野総一郎・大江卓・若尾幾造・梅浦精一・利光鶴松・横山孫一郎其他の諸氏は、一月九日午後二時より帝国ホテルに集会し、安田氏を座長に推し、同盟会々則草案に就て大倉氏の説明あり、結局左の如く議定し、直に会長・評議員及幹事の選挙を行ひ、午後五時頃散会したり
      撰挙法改正期成同盟会々則
 第一条 本会は我商工業者の権利を拡張し、参政権を完成せしむる為め、衆議院議員選挙法改正の決行を期するを以て目的とす
 第二条 本会は本会の目的を賛成する者を以て組織す
 第三条 本会は当分事務所を内山下町台湾協会内に置く
 第四条 本会には会長一名・評議員三十五名・幹事五名を置く
   但し幹事は評議員中より選出す
 第五条 会長・評議員及幹事は発起人中より選挙す
 第六条 本会の目的を達するに必要なる方法手段は、評議員会決議の方針に依り、幹事之を決行す
 第七条 本会に書記若干名を置き幹事之を選任す
 第八条 本会員は経費として一時金三円を醵出すべし
 会長 渋沢栄一
 幹事 大倉喜八郎   安田善次郎  大江卓
 - 第27巻 p.568 -ページ画像 
    渡辺治右衛門  横山孫一郎
 評議員      今村清之助     伊藤幹一
  池田謙三    原六郎       本間英一郎
  豊川良平    利光鶴松      大倉喜八郎
  大谷嘉兵衛   小野光景      大江卓
  岡部広     渡辺治右衛門    渡辺福三郎
  加藤正義    横山孫一郎     吉田寅松
  田中平八    高田慎蔵      高橋是清
  園田孝吉    土田政次郎     中沢彦吉
  梅浦精一    安田善次郎     山中隣之助
  益田孝     馬越恭平      福地源一郎
  近藤廉平    小松正一      浅野総一郎
  雨宮敬次郎   喜谷市郎右衛門   服部金太郎
猶不日評議員会を開き、全国同志者に頒布すべき檄文を起草し、運動方針を決定する筈なり
   ○栄一ハ本会ニ出席セズ。(渋沢栄一日記)



〔参考〕渋沢栄一 日記 明治三二年(DK270147k-0003)
第27巻 p.568 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治三二年     (渋沢子爵家所蔵)
一月九日 晴
朝押川包義・本多庸一二氏ノ書状来ル、伊藤侯爵ヲ帝国ホテルニ訪ヒシモ不在面晤ヲ得サル事ヲ報シ来ル、阪谷芳郎ヨリ来書、明治五年外国人ニ関シ地所抵当ヲ禁スル事ノ布告文ノ写ヲ送リ越ス、午前十時山県侯爵ヲ訪ヒ、郵船会社特定航路ノ事、商工業者間着実ノ団体組織ノ事、興山公身上ニ関スル事等ヲ請願ス
昨日来雨夜譚ノ浄書ニ従事ス、夜沢田俊三氏来ル



〔参考〕東京日日新聞 第八一八九号 明治三二年二月一日 ○選挙法改正運動の合同(DK270147k-0004)
第27巻 p.568-569 ページ画像

東京日日新聞  第八一八九号 明治三二年二月一日
○選挙法改正運動の合同 兼て東京商工家の組織せる衆議院議員選挙法改正期成同盟会にては、其事務所を東京商業会議所内の一室に定めたるが、昨日は午後二時より京都・大阪・横浜・神戸・名古屋其他の地方より選挙法改正の運動委員として上京せる各地商業会議所委員及び商工業者と協議会を開き、結局其目的を同くすることなるに由り合同して努力する事に決し、夫れより貴衆両院議員及び各地に配布すべき選挙法改正意見書案に就き討議したり、其意見書案の主眼は
 第一 一府県を以て(市を除く)一選挙区と為し、人口十二万人毎に議員一人を選挙する事
 第二 一市を以て(郡町村を除く)別に一選挙区と為し議員一人を選挙する事、但し人口五万人以上の市は五万人毎に議員一人を出すを得るとする事
 第三 選挙には単記無記名制を採りて投票を行ふ事
 第四 選挙人は居所(原籍所在地)に於てせず、住所(住宅所在地)に於て選挙権を行ひ得ると定むる事
意見書原案は右の主眼に基き縷々切々改正の必要を説きたるものなりしが、協議の末右意見書は両院議員を除き一般に配布することゝし、
 - 第27巻 p.569 -ページ画像 
両院へは別に同一の主旨にて請願書を作くり差出すことに決し、来三日迄に其請願書を起草し、同日事務所即ち東京商業会議所内に評議員会を開き請願書其他運動上の事を協定することに決せり、又た従来東京の諸氏会長・評議員の外、幹事五名なりし処、斯く合同成りし上は更に幹事五名を増して十名とすることに決し、大阪・京都・名古屋・横浜・神戸の五地方より幹事五名を選任し、乃ち合同せる同盟会の会長・幹事は左の如き組織となりたり
 会長渋沢栄一・幹事大倉喜八郎・大江卓・横山孫一郎・安田善次郎渡辺治右衛門(以上東京)・今西林三郎(大阪)・高木文平(京都)・森本善七(名古屋)・大谷嘉兵衛(横浜)・岡崎高厚(神戸)
又た各地方出京の委員諸氏は悉皆評議員となる事に決定したり
因みに記す、本日は憲政党本部より同盟会評議員諸氏を芝紅葉館に招待せり、定めて選挙法改正の目的を達する事に付要用の会談なるへし思はる
   ○栄一ハ三十一日ノ会合ニ出席セズ。(渋沢栄一日記)
   ○明治三十二年一月二十四日、同年十二月十二日ノ両度ニ亘リ栄一ハ東京商業会議所ヲ代表シテ衆議院議員選挙法改正ニツキ当局ニ建議・請願セリ。本資料第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十二年一月二十四日、同年十二月十二日ノ両条参照。
   ○明治三十二年十月十一日ヨリ東京ニ於テ開カレタル第八回商業会議所聯合会ニハ、東京・大阪・京都・博多・高岡ノ各商業会議所ヨリ同一趣旨ノ選挙法改正案提出セラレ可決セラレタリ。本資料第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治三十二年十月十一日ノ条参照。
   ○衆議院議員選挙法改正案ハ明治三十三年三月公布セラレタリ。本資料第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十二年十二月十二日ノ条参照。



〔参考〕中外商業新報 第五一一一号 明治三二年二月二一日 選挙法改正期成同盟会及各市委員の伊藤侯招待会(DK270147k-0005)
第27巻 p.569-572 ページ画像

中外商業新報  第五一一一号 明治三二年二月二一日
    選挙法改正期成同盟会及各市委員の伊藤侯招待会
選挙法改正期成同盟会及全国各市委員集会所は、昨日午後五時より伊藤侯爵を帝国ホテルに招待し、選挙法改正に関する侯爵の意見を敲きしか来会者無慮百五十名にして、席定まるや先づ大倉喜八郎氏は起て左の挨拶をなせり
 今夕来会の諸君は選挙法改正には最も熱心家にして、之が為め遥々上京せられ相倶に其素志を貫徹することに尽力せられ居れり
 此選挙法改正案に就ては伊藤侯爵の高見を拝聴するは我々の最も有益なりとする所にして、此事を以て侯爵に請ひしに侯爵は快く我々の請を容れられ、此席に臨場して一席の演説をなさるゝに至りしは我々の大に感謝する所なり
 特に選挙法案は伊藤侯在職中に成案せしものなれは、侯の意見は一層此際に利益あるを思ひ爰に侯に向て感謝の意を表すると共に、聊か爰に開会の辞を述ぶ云爾
次に伊藤侯爵は徐ろに壇に上り、大要左の如き演説をなせり
 今夕は懇篤なる招待を蒙り選挙法の意見を述べよとのことなれば、余は自ら可と認むる所を略述せんと欲す
 先つ選挙法の歴史と意向とを述へんに、憲法発布の当時公布したる
 - 第27巻 p.570 -ページ画像 
選挙法は、実際の経験なきことゝて概略斯の如きものにて満足なるへしとの考を以て成案せしも、其応用に際し大に其不充分を認めたり、蓋し単に選挙と云ふ事に就ては各国其揆を一にするも、其方法に至りては大に差異あるを見る、我憲法発布の当時日本に於ては議会の経験は僅に府県会位に止まり、未だ一般の議会なかりしが故に其選挙に至りても可及的単純にして、混雑を避くることを目的とせしに、其実行に当り大なる欠点を発見するに至れり
 蓋し当初選挙には経験なかりしを以て、今日実際に行はるゝ如き弊ありとは実に夢想だもせざりし所、或は選挙競争の非常に激烈にして各国其比を見ざるのみか、其極腕力に訴ふるものあるに至り、従て金銭を浪費すること頗る多し、余は成るべく浪費を制するの考なりしも、実際其浪費の大なるには驚けり、顧ふに邦人の性質として勝敗の争には生命・財産を顧みずとの気象より玆に至りたるものならんも、外戦なれば兎に角、同胞の争には斯の如く激甚ならざるも亦可なるへし
 現行選挙法に記名投票を採用せしは、参政権を行ふには敢て秘密を要せずとの考と、又国に由り之を採用するものあるとに由りたり、当時余が之に反する一説を聴きたるを採用せさりしは余の誤なりとす、即ち余が英国に於て投票は秘密にすへしとの説を聴きたり、有名なるジヨン・スチユワルト・ミル氏の如きも、議員の選挙に何ぞ秘密を要すべきとの説をなしたりしが、某氏多分ローレンス氏なりしならんか、之を駁して、ミル氏は国民の義務を果すことを知りて妻子を養ふことを知らさるものなりと評せり、蓋し被傭者が若し一朝其傭主を選挙せさらんか、彼等は忽ち解傭せらるへきが故に、公平に国民の志を行はしめんとせば、必ずや投票を秘密にすへきなりと、余は当時之を心に留めざりしも、其実行を見るに及んで無記名投票の必要を悟りたり
 蓋し現行法は或は当該官吏之が励行の力なかりしに依るべきも、今や其弊害は漸く習慣とならんとせり、故に余は明治廿六年来其改正を唱へ、遂に昨年に至り現内閣の改正案と大同小異なる改正案を議会に提出せり、今左に其理由を説かんと欲す
 第一、現行法発布の当時は一般に経験なく、且多人数群衆の混雑を避くる為め選挙の資格を高め、四千万人の人口に対し選挙人を四十七万人とせり、然るに改正案に於ては、選挙人を約四倍即ち百七十万人とせり、之れ即ち民権拡張の大なるもの誰か之を不可と謂はんや、而かも之を各国に比すれは尚小なるの感あるも、暴進を避けて絶対的に資格を廃せず、選挙権に幾分の資格を設け、以て右の如くしたるなり
 第二、交通不便の当時には選挙区を小分するの要ありしも、今や交通漸く便を加へたれば、選挙区域を拡張し一国とせり、仮令此の如くするも実際は各所に投票所を設くるを以て、左迄不便を感せさるへし
 第三、選挙区大なれは被選人も議員数も増加せさるべからず、玆に於て聯記・単記の説生ず、単記ならざれは小数者の意見を代表せし
 - 第27巻 p.571 -ページ画像 
むる能はず、連記は政党に於ては便とすと雖も、己に便なるもの人亦便なるべければ結局不便なるへし、故に立法上永遠の利を計りて単記制を採用せり
 第四、社会上、農工商は何れも必要にして軽重の差あるなし、今日人口に依りて議員の選挙をなすは絶対的真理にあらず、他に好法なきを以て止を得ざるに出でたるのみ、蓋し議会は農商工共に各種の利害を代表するの必要あり、而して商工は専ら都会に於て発達するを以て市の代表者を出すべきなり、各国亦悉く然りとす
 蓋し商工業者は外国貿易上国家の盛衰と其消長を共にするものなるが故に、勢商工業者をして政治上に声を持たしめさるべからず、其商工業者の政治上に声を持たさるは又国家の不利益なり、故に商工者代表の数を増さんとせり
 選挙法改正の眼目は上述の如く、更に余か昨年選挙法に関し調査せしめたるものを一読すべし
とて、聯記の弊害及単記に依りて生ずる利益、並に制限聯記は聯記の弊害に制限を加へたるものなること、並に外国に於ても聯記より漸く単記に移りたる実跡を挙げ、更に進て余の提出したるものと現内閣の提出したる法案とは大体同しきも多少の差ありとて、其異なる点を列挙し
 而して余は『町』を採らざりしは、既に市の代表者を出せは、随て町の商工業者の利害を代表するに足るものあるを認めたればなり、今日市の人口は約一千万人にして全国の四分の一を占む、去れば議員亦た四分一若くは之に近き数を出すを可とす、瑞典の如き郡は四万人に付き一人を出すも、市は一万人に付一人を出せり、亦た市に重きを置くの一班を窺ふに足るへし云々
とて、之れより各国の議員に対する選挙人の数を挙げ
 今日本に於ける議員と選挙人との数を対照すへし
           議員数    議員一人に対する選挙人数
  現行法      三〇〇   一四〇、〇〇〇
  伊藤案      四七三    八八、九〇〇
  現内閣案     四四四    九四、六〇〇
  委員会修正案   四六四    九〇、五〇〇
 又無記名を採用するは英・仏・独・瑞及米国の二十一州なりとす
 而して余は勿論自説若くは自説に近きものは之を賛成すへし、故に現内閣案は自説に大差なしとして熱心に其通過を希望する所なり、若し夫れ該案にして通過し、次の総選挙より実行を見るに至らば、議会も玆に面目を改むべく、商工業亦た従て進暢する所あるへく、亦国家の利益たるへし
 次に余は政府(現今の政府にあらす)と云へることに就きて一言せんと欲す、蓋し日本の変革は封建より直に立憲制度に進み、其間毫も専制政治なるもの存せざりしなり、是素より異数なり、而かも立憲政治の実施以来日は尚浅きも頗る好結果を奏したり、但し今日の如く議会と政府との衝突のみ多きに於ては、或は国家の進運を害せんことを恐る
 - 第27巻 p.572 -ページ画像 
 英国憲法は八百年内外の歴史を有し、其初め議会政治より進て内閣政治となり、更に進て一個人の政府となれり(一個人の政府とは多数合して一の主動者となり合一の働きをなすと云ふものなり)蓋し同国は党派政治となりてより大に面目を改るに至れり、而して右は被選人と選挙区との関係密着せしも、今や漸く懸隔し随て議員の行為も大に変革せるに至れり、エドマンド・バーク氏の如きは曰く、議員は選挙区の命令に依りて動くものにあらず、議員を選出するは選挙区なるも、一度選挙されたる上は国家全体の代議士なり、又曰く、議員は選挙区より派遣する使節にあらず、全国の代表者なり云云と、日本も亦将来斯の如くならざるべからず、此の如くして英国は議会政治より党派政治となり、更に進て内閣政治となれり、我邦亦た将来内閣政治とならさるなきを心せさるなり、又党派も之を進歩せしむるには首領を要すべきも、今の党派には首領あるや否やを疑ふ、夫の所謂首領は議会に議席を有せず、又政党を誘導管理せず宛然黒幕と称するものに過ぎず、若し夫れ今の首領にして法律上衆議院に議席を占むる能はずとせば、宜しく上院に列して自党の統督を為すへし、若し之をなさずとせば党派も到底自己の希望を達する能はざるべきなり
 余は進歩の至て速ならんを欲するものなり、而して進歩に秩序ありと唱ふるものあるも、如何に進歩に秩序ありとは云へ、其変遷の序次なりとして他の弊害を学ぶの要なかるべし、宜しく進て英の今日の美を執るへきなり
 憲法政治実施以来、余は商工業者の意外に政治に冷淡なるを憂ひたり、蓋し政治は何事にも関係を有す、若し我は商工業者なるを以て政治に関係せずと称せば、到底商工業も発達するものにあらず、然るに近来諸君の自ら進て熱心に政治に関係し来りしは余の欣喜措く能はさる所なり、実に商工業者は政治家の如く終日狂奔する能はざるべきも、宜しく政治を度外視せざれは可なり云々
右終りて朝倉外茂鉄氏一場の挨拶をなし、夫れより宴会に移り、伊藤侯立て 天皇陛下の万歳を三唱し、衆之に和し、次に伊藤侯の万歳を唱へ、席上田口卯吉氏の演説、伊藤侯の答辞、馬越恭平氏の演説等あり、全く散会を告げたるは午後十時に垂々たる頃なりき



〔参考〕中外商業新報 第五一一六号 明治三二年二月二六日 選挙法改正に関する山県総理大臣の意見(DK270147k-0006)
第27巻 p.572-573 ページ画像

中外商業新報  第五一一六号 明治三二年二月二六日
    選挙法改正に関する山県総理大臣の意見
撰挙法改正期成同盟会副会長大倉喜八郎氏を始め同会員等数名、昨廿五日午前山県総理大臣を永田町の官邸に訪問し、目下衆議院に於て政府提出の選挙法改正案に修正を加へんとするものは、農民と商工業者の利害を代表せしむるに就て甚だ不公平なるを以て、政府は断じて之に同意せざらんことを求め、又斯る改正案に修正を加ふるものならば寧ろ遺憾ながら現行法を以て其弊害少なきものなりと認めざるべからさる旨を訴へけるに、同大臣は之に対して、政府は徹頭徹尾提出案の通過に務め、彼の不公平なる衆議院の修正説には同意することを為さざるへし、若夫同院其修正案を通過するが如きことあるも、想ふに貴
 - 第27巻 p.573 -ページ画像 
族院に於ては決して之に同意せさるへしと答へたる由なり



〔参考〕東京日日新聞 第八四四四号 明治三二年一二月二日 ○選挙法改正と商業会議所(DK270147k-0007)
第27巻 p.573 ページ画像

東京日日新聞  第八四四四号 明治三二年一二月二日
○選挙法改正と商業会議所 第十三議会の折に、全国商工業者は選挙法改正運動の為め期成同盟会を組織し、其会員は重に各商業会議所会員なりしが、商業会議所は一個の法人団体なるが故に、彼此何等の関係もなくて打過ぎしに、該運動は遂に失敗に帰したるより、今期議会には是非共目的を貫徹するの覚悟にて、期成同盟会は近日中再び起つて運動を開始せんとするに至りしが、さるにても前期の運動に経験を得たれば、本期は方法を換へて激烈なる運動を執らんとし、其第一着として各地商業会議所を糾合し公然改正の斾を挙げんと目下寄々相談中なりと云ふ
   ○明治三十二年十二月十二日、各地商業会議所委員東京商業会議所ニ集会シ衆議院議員選挙法改正全国商業会議所聯合委員会ヲ組織セリ。大倉喜八郎委員長タリ。改正期成同盟会ハ此聯合委員会ノ成立ト共ニ消滅シタルモノト推定セラル。本資料第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治三十二年十月十一日ノ条参照。



〔参考〕大日本憲政史 大津淳一郎著 第五巻・第九八―一〇六頁 昭和二年一一月刊(DK270147k-0008)
第27巻 p.573-577 ページ画像

大日本憲政史 大津淳一郎著  第五巻・第九八―一〇六頁 昭和二年一一月刊
 ○第十二篇 第二章 山県内閣と第十四議会
    九 衆議院議員選挙法改正案
 第十四議会は議員買収・選挙干渉等、幾多の醜聞、秕政之に伴はざるにあらざりしと雖も、但た憲政史に特筆せざるを得ざるものは、第十二議会以来の宿題にして、市独立を主とし、選挙権拡張を目的とせる衆議院議員選挙法改正案の、本期議会を通過したること、即ち是れなり。
 蓋し衆議院議員選挙法の改正を図り、選挙権拡張し、市の独立選挙区たるを認め、市部議員を増加し、市民商工業者の権義を伸暢し、農商工業各種代表者の均衡を得せしめ、以て憲政済美の目的を達するは時代の要求にして、輿論の夙に之を識認する所なり。明治三十年五月伊藤内閣の衆議院議員選挙改正案を第十二議会に提出するや、全国市民の同志は、時機漸く到来せりと為し、之れが成立を翹望せしに、該法案は衆議院を通過せしも貴族院の議事に上らずして止みたりき。此時に当り新潟市代表委員斎藤己三郎玆に見る所あり、同志を糾合し全国五十三市の聯合を図り、選挙法改正の目的を達せんことを期し、東京市参事会員安川繁成・名古屋市長志水直・鳥取市長田中政春等と謀り、選挙法改正期成全国各市聯合会を組織し、第十三議会の開くるや同志相提携して、朝野の間に奔走する所ありしが、山県首相之を容れ衆議院議員選挙法改正案を提出したり。然れども、時機未だ熟せず。貴衆両院の決議其の趣を異にし、意見衝突の結果、終に其の成立を見るに至らざりき。斎藤等深く之を遺憾とし、国民の輿論を喚起し、全国各市の聯合運動を開始し、誓て其目的を貫徹せんとし、卅二年十一月、各市聯合会事務所を開始し、推されて其の理事長と為り、芳野世経・田口卯吉と謀り、山県首相に対して、第十四議会開会の劈頭に於
 - 第27巻 p.574 -ページ画像 
て選挙法改正案を提出せんことを要望し、政府及議会・各政党・各団体に対して、左の意見書を送りたり。
 現行衆議院選挙法の改正せざる可からざるは、既往六回の総選挙と六十余回の補欠選挙の実際に照して一般輿衆の認むる所に有之。我政府も亦玆に見る所あり。大に輿論の向ふ所を察し、曾て其改正案を第十二議会に提出されたるに、不幸両院の協議に至らず。尋で第十三議会に提出せられたるに、不幸両院の協議纏らざるが為め、其改正の目的を達せずして以て今十四議会に到り申候。就ては此際特に両院議員の御高慮を煩し度。左に全国各市同志の希望を繰り返し開陳仕候。
 抑も現行選挙法の欠点たる、之を挙れば二・三にして止まらずと雖も、就中郡市の居住者、即ち農商工等各種の代表者著しく其均衡を失するの一事に若くもの無之と存候。熟ら同法の規定を案するに、農業者の居住する郡村と、商工業者の居住する市街とを合して一選挙区と為し、毫も市街と郡村との区別を設くる事なく、其之れあるは僅に東京・大阪・京都・横浜・神戸・名古屋の六市に過ぎず。従て市街の代表者即ち主として商工業者を代表せる者は是等六市選出の十七人(東京九人。大阪三人。京都二人。横浜・神戸・名古屋各一人)あるのみと申す有様に有之候。然るに今是等僅々たる代表者に対する市街居住者の数如何を顧るに、全国に於ける市の人口のみを算するに其数優に五百十六万余あり。之に町の人口を加ふれば、概ね一千六十万余の多きを超ゆるにも係らず、其有する所の議員数三百人中僅に十七人に過ぎずとは、如何にも均衡を失する次第と存候。蓋し全国の人口四千五百万に対する一千万は実に其四分の一弱に相当せるが故に、正当に其代表者を出せば三百人中七十人内外を出すを相当とす可きに、実際は僅々十七人に過ぎざるが為め、市街居住者の本業にして而も国家富強の基礎たるべき商工業の進歩発達に関する諸議案は、往々等閑に附し去らるゝ嫌なきにあらず。申す迄もなく目下国民の多数を有する郡村住居者の代表者が議院に於ても多数を制するは、固より当然の事にして、吾人同志と雖も、此点に付ては敢て異議を唱ふるものに無之候得共、唯た全国人口の四分の一弱を占むる市街居住者が、議員に於ては僅に廿分の一弱の代表者を有するに過ぎざるの一事は、各種の民をして均衡に其代表者を出さしむべしてふ代議政体の本義に適合せざるの法制にして、一日も速に改正を加へざる可らざることゝ存候。由来農は、立国の大本たり。之に重きを置くは勿論、相当の事なりと雖も、今や本邦に於ける地境民衆の現状と列国の交通発達の実勢とに鑑みれば、独り農業のみに依頼して国運の伸張を期すべきにあらず。商工業亦固より立国の大本たらずんばあらず。左れば議院に於ける代表者も自然商工業を主とせる市街地よりして多数の代表者を選出するの途を開かざるべからざるは言ふまでもなき事に有之候。就ては今回選挙法改正案提出の好機を失せず。選挙区を定むるに際して郡市の区別を立て、総て市制を敷ける地は独立の一選挙区と為し、其選挙区より少くとも各一名の代議士を選出せしめ、東京・大阪・京都、及其他の
 - 第27巻 p.575 -ページ画像 
大市よりは人口の割合に従ひて其代議士を選出せしむる事に致し度斯しても到底十分の均衡を保つに至らざるべく候得共、現行法に比し比較的公平を得るに至る可しと存じ候。或は人口二万五千乃至三四万の小市を独立の一選挙区と為し、何れも各一人の代議士を選出せしむることとせば、郡部に対して逆まに均衡を失することゝ為るべきを以て、人口五万以上乃至十万以上の市を独立の一選挙区と為すべしと説くもの有之候得共、市は元来自治制度の上に於ても他に対して已に特立の地位にあるものなれば、総べて独立の一選挙区と為すは当然の理勢なるべく、殊に人口五万乃至十万以上の市ならずは、独立の一選挙区と為さずとすれば、市街の代表者は到底幾干も選出し得られずして、都市居住者即ち農商工業者の均衡は敢て現時と相択ばざるに陥るべく、斯くては市街居住者の意思は終に議院に向て発表するの道なく、代議政体の本義をも没却せらるゝに至るべくと憂慮此事に存候。此辺の事情篤と御洞察の上、選挙区は郡市区別を立て、市は総て独立の選挙区と為し、人口適当の比例を以て、成るべく多数の代議士を市より選出し得る様御尽力被成下度。此段切に希望仕候不宣。
   明治三十二年十二月
 東京市委員  京都市委員  大阪市委員      横浜市委員
 神戸市委員  姫路市委員  佐賀市委員      長野市委員《(マヽ)》
 新潟市委員  久留米市委員 前橋市委員      水戸市委員
 福岡市委員  宇都宮市委員 奈良市委員      松山市委員
 津市委員   四日市市委員 高知市委員      名古屋市委員
 静岡市委員  高松市委員  甲府市委員      大津市委員
 徳島市委員  岐阜市委員  長野市委員《(マヽ)》 和歌山市委員
 盛岡市委員  青森市委員  赤間ケ関市委員    山形市委員
 米沢市委員  尾の道市委員 福井市委員      金沢市委員
 堺市委員   広島市委員  富山市委員      高岡市委員
 熊本市委員  岡山市委員  鳥取市委員      松江市委員
 丸亀市委員  秋田市委員  仙台市委員      弘前市委員
 鹿児島市委員 若松市委員  門司市委員
 右各市委員総代
             選挙法改正期成全国各市聯合会
 政府の第十三議会に提出したる衆議院議員選挙法改正案は、大体に於て伊藤内閣の前期議会に提出したる案と同じく、但た其の異なる所は投票の無記名制と郡部市郡共に議員選出の人口割合を高め、従て議員総数を減じて四百四十五人と定めたるとに在り。衆議院は投票方法に於て制限聯記記名の制を取り、議員と人口との割合に関して、郡市共に人口十万に付議員一人を出すの標準を定め、議員総数を四百七十人に増し、其の他二・三の修正を施して之を可決せり。其の案の貴族院に回付せらるゝや、同院は投票方法及び郡市選出議員数と人口割合とに関して概ね原案を復活せしかば、遂に両院協議会と為り、同院の議決案を取りて議題と為し、討論の結果之を否決せり。衆議院は、其の報告を受くるに及び、衆議院の議決案を以て、両院協議会の成案な
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りとし、之を可決し、更に之を貴族院に回付せしに、同院は違法の決議なりと為し、之を採決せざりしが為に、選挙法改正案は、遂に不成立に帰せしなり。
 第十四議会に提出したる衆議院議員選挙法改正案は、殆んど前期議会に提出したるものと其の内容を同くすと雖も、郡市人口と選出議員数に関し、端数取捨の標準を改め、従て議員総数を四百二十六人に減じたるを異なりと為すのみ。本案の議会に提出せらるゝや、山県首相は自ら説明の労を執り、市の選挙範囲を拡張して、商工業者の代表者を選出せしむるの必要あること、及び選挙の公正を期するが為に大選挙区、単記、無記名投票制を設くるの必要なる所以を論ぜり。議会に於て其の修正として、田口卯吉及び根本正より各一案を提出せしが、選挙区、投票方法、人口標準、投票計算方法、皆異同ありき。
 衆議院の特別委員会は、政府案・田口案・根本案の三者を審査し、(一)選挙区は、議員一人制(人口計算上、已むを得されば、二人を出す。)を取ること。(二)投票は記名とすること。(三)人口と選出議員の標準は、郡部は人口十万に付議員一人市部は人口十万未満と雖も、議員一人を出し、郡市共に人口十万以上は、四捨五入すること。此の標準に由り、議員総数を四百七十八人とすること、是れなり。本会議を開くに及び、討議の結果小選挙区、記名投票制を可決し、其他委員会の報告を是認し、人口標準に関し、郡市共に人口十万に付議員一人を出すの標準を以て議員数を定むるの議を唱ふるものありしと雖も、八十九に対する百四十三を以て之を否決し、委員会定むる所の標準に基き議員総数を四百七十八人と為すに決定せり。
 本案の貴族院に回送せらるゝや、貴族院に於ては、多大の修正を加へ、大体に於て、政府案の旧に復せり。
今ま両院議決案の要点を対照すれば左の如し。
 選挙区 衆議院案は一区一人の小選挙区制を取り、貴族院案は一府県を一選挙区とす。
 投票方法 衆議院案は記名、貴族院案は無記名。但し衆議院案は小選挙区制を取りしを以て単記聯記の論は消滅し、貴族院案は単記制を取る。
 市独立 衆議院案は人口の多寡に拘らず、悉く市を独立の選挙区とし、貴族院案は人口五万以下の市は、之を郡部の選挙区に合す。
 人口標準 衆議院案は郡市共に人口十万を以て議員選出の本位と為し、其の以上は四捨五入す。貴族院案は、市は人口十万に付議員一人、其の端数は四捨五入。郡は人口十四万に付議員一人。其の端数は六捨七入とす。
 議員総数 衆議院案は議員総数四百七十八人。貴族院案は三百三十七人。内市部四十五人。郡部二百八十一人。北海道六人。沖縄県二人。島嶼三人。
 選挙人資格 衆議院は成年以上の男子にして、直接国税五円以上を納むるを要し、貴族院案は二十五年以上の男子にして、直接国税十円以上を納むるを要す。
 被選挙人資格 衆議院案は被選人の納税を要せず。貴族院案は選挙資格と等く十円以上の直接国税を納むるを要す。
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衆議院は、貴族院の修正に同意する能はず。両院協議会を開き、結局協議の結果、左の成案を得たり。
 一 一府県は一選挙区とすること。
 二 投票は被選挙人一人を単記し、選挙人の氏名を省くこと。
 三 選挙人は、直接国税十円以上を納むる廿五歳以上の男子たること。
 四 被選挙人は三十歳以上の男子たること。
 五 人口三万以上の市を独立選挙区とすること。
 六 郡市共に人口十三万に付議員一人を出すこと。但し端数は四捨五入。
 七 議員総数は三百六十九人とすること。
 貴族院は大多数を以て之を是認し、衆議院も亦た百二十六に対する百五十一を以て、之れを可決せり。
 是に於て、多年の宿題として、毎期議会に提出せられたる衆議院議員選挙法改正案は、始めて解決し、選挙権を拡張し、市の独立を認め立法機関をして比較的完全なる組織を得せしめたるは、本期議会の一大成功にして、抑も亦各市聯合会の運動与て最も力ありと謂はざるべからず。政府は之れが裁可を奏請し、明治三十三年三月を以て之を公布せり。