デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治21年11月2日（1888年）

是日栄一、当委員会ニ出席シ、青物市場及ビ屠畜場ニ関スル議事ニ与ル。

東京市区改正委員会議事録　　第二巻・第九―一五丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第十四号
　　明治二十一年十一月二日午後第三時三十分開議
○上略
　　午後第五時三十分着席　　林三介休息後着席
　　　　出席十八員
○委員長曰　休息前ニ継キ、青物市場ノ議事ヲ開カン
　　　書記左ノ項ヲ朗読ス
 - 第28巻 p.74 -ページ画像 
　　　○第五　京橋水谷町青物市場　面積二千五百十坪
　　現今ノ蔬菜市場タル魚鳥市場ノ如ク不潔ナラサルモ、略同一ノ不利不便ナキ能ハス、依テ之ヲ以上ノ二箇所ニ定メ、而シテ其小市場ニ至リテハ開市ノ時間ヲ定メ、小遊園ヲ以テ之ニ応用セシムルモノトス
○四番福地曰　此坪数ニテハ狭隘ナラン
○十八番伊藤曰　三十間堀川ノ内埋築シタル一区域ヲ市場ニ充ツル調ヘナリ
○七番武藤曰　弐千五百坪ニテハ到底狭隘ナルニ依リ、責メテハ五千坪ト修正為スヘシ
○四番福地曰　如何ニモ五千坪位ナクテハ狭隘ナルニ依リ、七番ノ説ヲ賛成ス
○委員長曰　本項ノ坪数ヲ五千坪ト修正スル七番ノ説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十二人
　又曰　多数ナルヲ以テ右ニ決ス
○十八番伊藤曰　過日来ノ議事ニ於テ市区改正ノ区域モ広マリタレハ本所四ツ目ノ青物市場モ市場部内ニ加フルトシ、本項ノ次ニ四ノ橋通リニ於テ弐千坪乃至三千坪ノ市場ヲ設クルコトニ決議シ置レテハ如何
○十五番桐原曰　此理由書中（而シテ）以下ヲ（其他現在ノ市場ハ建物構造法ヲ定メテ之ヲ存ス）ト修正スヘシ、然カセハ四ツ目ノ市場ノミニ限ラス、石原・駒込・根岸・四谷等、現在青物市場モ之ヲ適用シ得テ便宜ナルヘシ
○七番武藤曰　私ハ十八番ノ説ヲ賛成ス
○二十八番渋沢曰　十五番ノ説ノ如クスルハ穏カナラサルヘシ、又十八番ハ市区改正ノ区域広マリシ故、四ツ目ノ市場ヲ存スト云ハルヽカ、若シ其精神ヨリスレバ駒込ニモ設ケサルヘカラサルニ至ラン、就テハ先刻三番ヨリ発議サレシ如ク理由書中（小遊園ノ）下ニ（又ハ其他便宜ノ場所）ノ九字ヲ挿入スル方可ナラン
○十五番桐原曰　文章ハ如何ニナルモ、現在ノ市場ニシテ営業ヲ失ハサレハ本員ハ満足ナリ
○二十二番古市曰　場所ヲ指定セサルコトヽシ、寧ロ理由書中ノ（小遊園）ノ三字ヲ（適宜ノ場所）ノ五字ニ改ムベシ
○四番福地・二番須藤並曰　二十二番ノ説ヲ賛成ス
○十九番銀林曰　場所ヲ指定シ置カスシテ、其許否ヲ本会ニ於テ其都度議定スルノ考ヘナルヤ
○二十八番渋沢曰　二十二番ノ説ハ至極ト考フルニ依リ、自説ヲ引キ二十二番ニ同意ヲ表スヘシ
○十五番桐原曰　場所ヲ指定スルハ畢竟是迄市場ノナキ所ニ設クル為メナリ、現在ノ市場ヲシテ存スル以上ハ一々之ヲ掲クルノ必要ナシ
○三番藤田曰　十九番ヨリ疑問アレトモ、嚮ニ馬車鉄路ノ敷設ヲ議定セシト一般ニテ適宜ノ場所ト明記シアレハ、実行者ニ於テ必ラス適宜ノ場所ヲ選定スルニ相違ナシ
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○委員長曰　理由書中（小遊園）ノ三字ヲ（適宜ノ場所）ノ五字ニ修正スル二十二番ノ説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十二人
　又曰　多数ナルヲ以テ右ノ修正ニ決ス
　　　書記左ノ項ヲ朗読ス
　　○屠畜場
　　　○永代新田　　　　　面積三万坪
　　現時ノ屠畜場ハ市区ニ出入ノ門戸ニシテ、外観上ニ衛生上ニ甚タ適当ナラス、故ニ之ヲ本地ニ移スニ於テハ位置適当ナルノミナラス、水路ノ便ヲ藉リ其屠肉ヲ浜町其他ノ市場ニ漕運ノ便利ヲ占ムニ由ル
○二十五番芳野曰　屠畜場一ケ所ニテハ不都合ニハアラサルヤ、曾テ地方衛生会ニ於テ之ヲ四ケ所ニ議定セシカ当時私ハ四ケ所ニテモ如何アラント考ヘ増加説ヲ提出セシニ、警視庁ニ於テ増加ヲ望マス終ニ四ケ所ニ限ルト決定セシト雖モ、屠場外ニ於テ獣畜ヲ屠殺スルヲ得サルノ規則モアレハ屠場ノ数ハ今少シ増加シ置ク方便宜ナルヘシ
○十六番長与曰　便利ノ点ヨリ考フレハ屠場ヲ数ケ所ニ設クル方可ナルヘシト雖モ、之ヲ数ケ所ニ設クルハ衛生上宜シカラス、欧米ノ大都ト雖モ屠場ハ一・二ケ所ニ過キス、審査会ニ於テハ芝若クハ品川地方ニ設クル説モアリシカ、都下ノ風上ニ設ルハ不可ナリトシ、終ニ永代新田ヲ卜サレタリ、此地ナリセハ水運ノ便モアルユヘ一ケ所ニシテ充分ナルヘシト信セリ
○四番福地曰　屠場ハ四ケ所ト限リアリテ、現在ハ二ケ所ト外ニ陸軍省専用ノ屠場アリ、都合三ケ所ト記臆セリ、而シテ屠殺ノ頭数ハ、一日四十頭乃至五十頭位ニシテ、芝ニ屠場ノアリシ頃ハ品海ニ流出スル鮮血壱里四方ニ及ヒ、満潮ニハ大川口迄押上ケ不潔ヲ極メシカ永代新田ナリセハ斯ル不都合アラサルヤ
○十六番長与曰　屠場ヲ何所ニナスモ、鮮血・腸等ハ総テ之ヲ取捨テス機械若クハ人工ヲ以テ肥料ニ製スル見込ミナリ、必竟屠場ヲ一ケ所トシ永代新田ヲ卜セシハ、鮮血等ヲ取扱フ便ヲ慮リシ為メナリ
○二十八番渋沢曰　四番ノ懸念アレトモ、鮮血等ハ已ニ人造肥料会社ニ於テ一切引受ルノ契約モアレハ、是ハ顧慮スルニ及ハス、而シテ私ハ一ケ所ニテハ実際不便ヲ感スルナラント考フ、我日本モ漸々肉食ヲ嗜ムモノ増加シテ、今日ト雖モ一日ニ五十頭以上ヲ屠殺セリ、或ハ営業的ノ議論ニ走ルカハ知ラサレトモ、屠場ヲ一ケ所ニ限リナハ専売ノ弊害ヲ生シ易カラン、衛生上トカ取締上トカノ点ヨリ論究セハ屠場ノ数少ナキ方都合宜シカルヘキモ、（モノホリー）ヲ防クニハ二ケ所トシ競争ノ念ヲ懐カシムルニ若カス、旁私ハ今一ケ所増加センコトヲ望ム
○二十番村上曰　現ニ警視庁ニ於テ許可シアル屠場ハ二ケ所ニシテ、追々屠殺ノ数増加スルノ傾キヨリ終ニ四ケ所迄ハ許スコトニナリタリ、最初屠場ヲ二ケ所ニ限リアリシ頃、一ケ所ノ屠場廃業シ一ケ所ニテ屠殺セシニ、忽チ屠殺料ヲ昂ケ為メニ獣肉ノ価格ニ騰昂ヲ来セシ実例モアレハ、二十八番ノ説ノ如ク一ケ所ニテハ将来不足ナルノ
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ミナラス、弊害モ生シ易キニ由リ、此他ニ一ケ所ヲ選定シ置クニ若カス
○十九番銀林曰　府下ノ家畜宿ナルモノハ大概白金村辺ニ在レハ、白金村ニ一ケ所屠場ヲ設クルトナシタシ、而シテ深キ理由ナクハ遠ク永代新田ニ移スニモ及マシ、新タニ屠場抔ヲ設クルト其地ニ兎角苦情ノアルモノナレハ、別ニ支障ナクハ現在地ニ据置クヘシ
○十六番長与曰　必ス一ケ所ト限ルニハアラサレトモ、米都紐育ノ如キハ一日七八百頭ヲ屠フルモ、屠畜場ハ一ケ所ニテ足リ居ルニ由リ一ケ所ニテ充分足ルヘシト考フ、又永代新田ニ選定シタルハ多クハ東北又ハ房総地方ヨリ屠牛ヲ牽キ来ルト、水運ノ便アルトノタメナリ、二十八番ハ一ケ所ニテハ（モノホリー）ノ弊害ヲ生シ易シト論弁サレシカ、屠場ノ如キハ警察上直接ノ管轄ニ属セルヲ以テ、価格迄モ取締ヲナスヘケレハ専売ノ弊ハ憂慮ナスニ及フマジ
○二十五番芳野曰　私ハ二ケ所トナス説ニ賛成ナリ、十九番ハ現在地ニ据置クヘシト云ハルヽカ、現在地ハ漸々繁昌トナルノ傾向アレハ此際更ニ選定ナス方可ナリ
○十番鬼頭曰　私モ屠場ノ数ヲ増ス説ニハ賛成ナリ、十六番ハ紐育ノ例ヲ挙ラレシカ、紐育ハ地所ノ貴キ場所ニテ、彼我同一ニハ論シ難シ、必竟今日牛肉ノ価貴キハ屠場ノ少ナキト手数ヲ要スルトニ原因セリ、一体牛肉ノ如キハ成ルヘク細民ノ需用ニ供スル様、廉価ニ販売セシムル方針ヲ採ル方衛生上利益アルナルヘシ、且屠牛ハ多ク神戸若クハ米沢地方ヨリ送リ越スニ由リ、屠畜場ハ府下ノ南ト北トニ一ケ所宛選定シ置クヘシ
○十九番銀林曰　二十五番ハ二ケ所ノ屠場ハ、何レニ選定ナス考ヘナルヤ
○二十五番芳野曰　未タ充分ニ調ヘ置カサルユヘ、或ハ不適当ノ位置ナルカハ知ラサレトモ、図面ニ就テ考フルニ千住大橋際即チ千束村辺ニ於テ選定セント欲ス
○五番田口曰　私ハ十九番ノ説ヲ賛成ス、現在ノ屠畜場ニハ家畜市場モ附属ナシ居リテ、家畜市場ハ埼玉ノ家畜市場トノ関係モアルヤニ聞ケリ、十六番ハ頻リニ原案ヲ維持ナセトモ、現ニ屠畜場一ケ所ノ頃ハ屠牛料壱頭五拾銭ナリシモ、二ケ所トナルヤ忽チ三拾銭ニ減シタリ、斯ノ如キ実例モアレハ一ケ所ニ限ルハ不可ナリ、又衛生上ヨリ考フルニ屠畜場ハ建物ノ構造等ニ依テ取締行届クヘキモ、市場ニ至テハ是等ノ取締モ付カサルユヘ、却テ市場ノ取締法ヲ講スルカ必要ナラン
○二十八番渋沢曰　五番ハ市場取締法ヲ調ヘサルヘカラスト云ハレシカ、獣肉市場ハ已ニ魚鳥市場ヲ議スル場合ニ議定ニナリシナラン
○五番田口曰　否ナ、獣肉市場ニアラス、家獣即チ牛馬ノ市場ナリ
○二十八番渋沢曰　獣畜市場ハ屠畜場附属トナスノ意見ニテ、審査会ニ於テハ其敷地ノ坪数ヲ多ク見込ミ置キタリト記臆セリ、私ハ屠畜場ニシテ決定セハ獣畜市場ニ迄立入ニ及フマシト思考セリ、而シテ只今何番カハ、屠牛ハ多ク東北若クハ房総地方ヨリ来ルト陳ヘラレシカ、実際ハ駿丹辺ヨリ多ク牽来リ、四日市或ハ神戸地方ヨリ送ル
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屠牛ハ皆船便ヲ以テセリ、左レハニヤ牛宿ハ多ク白金村ニアリ、是地理ノ然ラシムル所ナルヘシ、又審査会ニ於テ永代新田ヲ卜定シタルハ、専ラ地価ノ廉ナルト、運河ニ便ナルトノ場所ヲ選撰シタルニ因レリ、故ニ原案ハ此儘ニ存シ、今一ケ所ハ特ニ委員ヲ設ケ、白金村ニアレ千束村ニアレ、将来ノ都合ヲ深ク慮リ選定シタル上、尚其当否ヲ議スルトナシテハ如何
○二十五番芳野曰　原案ハ此儘ニ存シ、更ニ白金近傍ト千束村近傍トニ於テ適当ノ場所ヲ選定シ、都合屠畜場ヲ三ケ所ニ為サンコトヲ望ム
○二十番村上曰　二十五番ノ説ヲ賛成ス
○十九番銀林曰　家畜市場ト屠場トハ一区内ナラテハ営業上不都合ノ趣ナリ、且ツ家畜市場タル偏僻ニ設ケタランニハ営業上困難為スヘケレハ、千束村現在ノ屠畜場ヲシテ今少シ拡張スルトシ、一ケ所ハ白金村トシ、都合屠場ヲ二ケ所ト為シタシ
○委員長曰　最早決議ヲ要スヘシ、屠畜場ヲ二ケ所トスル十九番ノ意見ニ同意者ハ起立アレ
　　起立八人
　又曰　一人ノ少数ニ付、十九番ノ説ハ消滅ニ属ス、次ニ原案ヲ存シ更ニ二ケ所ヲ増ス二十五番ノ説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立八人
　又曰　是モ亦少数ニ付消滅ニ属、而シテ他ニ説ナクハ、原案ニ据ユ