デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治22年12月2日（1889年）

是日栄一、当委員会ニ出席シ、総武鉄道中小岩上野間実地測量ノ件・東京給水工報告書及ビ東京湾築港意見ニ関スル議事ニ与リ、且ツ築港調査委員ニ指名サル。

東京市区改正委員会議事録　　第三巻・第五〇―五七丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第三十八号
　　明治二十三年十二月二日午前十一時開議
　　　　闕席　桜井勉　○外十三名氏名略
　　　　出席　十八員（四番補欠楳川忠兵衛其席ヲ充タス）
○上略
　　　書記朗読
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京市区改正委員会
　　総武鉄道線路中小岩・上野間実地測料之件ニ付、別紙之通鉄道局長官ヨリ照会有之、依テ其会議ニ付シ候条、意見申出ラルヘシ
　　右訓令ス
　　　明治二十二年十一月二十六日
　　　　　　　　　　　　　　　内務大臣　伯爵　山県有朋
　　（別紙）
　　総武鉄道会社創立委員長牧朴真ヨリ別紙図面朱線ノ場所、即小岩上野間実地測量ノ為メ仮免状下付ノ儀出願有之、然ルニ右ハ市区改正等ニ関係可有之ト被存候ニ付、其線路ノ大体ニ就キ御意見ノ有無承知致度、尤布設工事ノ方法ハ実地測量ノ上計画ヲ立タル後更ニ細目ニ渉リ御協議ニ及フ儀モ可有之ト存候得共、先以テ大体上ノ御意見至急御回答有之度、此段及御照会候也
　　　明治二十二年十一月二十一日
　　　　　　　　　　　　　　鉄道局長官　子爵　井上勝
　　　　内務大臣　伯爵　山県有朋殿
　　追テ別紙図面ハ御返却有之度候也（図面略之）
○十五番桐原曰　是ハ市区ノ体裁ニ関係アルヲ以テ諮問ニ付セラレシコトナリヤ、又ハ別ニ線路ヲ規定スルコトナリヤ
○委員長曰　従来ノ設計ニ関スルヲ以テ諮問ニ付セラレタルナリ
○二十五番芳野曰　是ハ許可セサル方ト思考セリ、如何トナレバ東京市街ニハ踏切ノ鉄道ヲ設ケサルノ考ナレハナリ、故ニ此工事ハ止ムル様ニ為シタシ
○四番梅川曰　二十五番ノ説ニ同意
○二十六番益田曰　古市君ニ望ム、欧洲都府ニ於テ市街鉄道ノ踏切トナシタル的例ヲ示サレタシ
○二十二番古市曰　一定ナラサレトモ、各都府中市内ニ架設スルモノニシテ大線路ハ踏切アルモノアレトモ、多クハ高架ナリ、独リ彼ノ「ハンブルグ」ノ如キハ、繁盛ノ市街ナルニモ拘ラス地平線ニ架設シテアリテ、縦横ニ踏切アリ、僕モ驚キ入タリ、要スルニ何処モ彼所モ必ラス高架ニ為スト云ニ非サルナリ、今二十五番ノ説ノ如キハ少シク苛酷ニ過クルニ似タリ、本線路ノ如キハ田圃ヲ貫通スル多クシテ、敢テ不可ナキカ如ク思ハルヽナリ、成程公園ヲ踏切ルハ好マシカラス、故ニ其部分ハ大川ヨリ漸次勾配ヲ取リ高架ト為スカ、或ハ線路ヲ鐘ケ淵ノ方ヘ廻スカ、何レニテモ方案アルヘシ
○二十五番芳野曰　近来ハ向島モ大ニ開ケ、田圃ヲ宅地ニ変換スルノ景況ナレハ、之ヲ踏切トナスハ好マサルナリ、又「ハンブルグ」ノ鉄道ハ幾年前ニ開ケタルヤ
○二十二番古市曰　何年ニ創リタルヤハ記臆セサレトモ、鉄道ノ創設ハ千八百年頃ナレハ、市街ノ繁盛区ニ従来地平線ノ鉄道ヲ架シタルモノナラン
○五番田口曰　地平線ニ架スルコトナレハ、此会議ニ於テハ不可トナサヽル可ラス、坂本町ヲ横断スルカ如キハ其不便尠シトセス、且本案ハ説明者ノ出席ヲ竢テ議スルコトニ為シタシ
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○二番須藤曰　線路ノ如何ヲ問ハス公園内ヲ横断スルハ甚面白カラス既ニ先頃舞子ノ浜ヲ通行セシニ、其中央ニ線路ヲ敷キ尤殺風景ヲ見ル、兎ニ角公園内ニ鉄道ヲ敷クハ好マサルナリ
○十五番桐原曰　本員モ許可セサル方然ルヘシト信セリ、総武鉄道ハ本所錦糸町ニ本社アリテ、其輸入ノ貨物ハ多ク本所・深川ニ関スルモノナレハ、大川筋ヲ迂回スルモ差支ナカラン
○六番角田曰　本案ハ只今議決センヨリハ、主任ノ弁明者出席ノ上ニ為シタシ、其市街地ニ至リテハ高架トナスヲ可トス、而シテ之ヲ布設スルト否トニ就キテハ、全市街ノ盛衰ニ関スルニヨリ容易ニ否決セサル方可ナラン、将タ後年向島ノ大公園ヲ設クル様ニナリナハ其公園ヲ横断スルハ不都合ナランカ、要スルニ延会トシ、主任者ノ説明ヲ俟テ可否ヲ決センコトヲ望ム
○二十五番芳野曰　本員ハ此線路ニ架スルハ不可ナリトナスニアリ、向島公園ノ如キ幅員狭少ナル上ニ之ヲ許ストキハ、到底公園ノ妨害タレハナリ
○十九番銀林曰　此鉄道ハ固ヨリ高架ノ設計ニ非ス、既ニ高架ナラサル上ハ市街ニ布設セシム可ラス、現ニ彼地方ハ田圃ヲ埋築シテ人家ヲ建造シツヽアルナリ、況ンヤ奥羽街道其他枢要ノ路線ヲ横切ルカ故ニ、地平線ノ鉄道ハ許可セス、高架ニ布設スルコトナラハ差支ナキ旨ヲ、鉄道局ヘ回答セラレテ可ナラン、殊ニ地平線ニ布設スルニハ土堤ヲ築カサル可ラス、然スルトキハ水利上ニ障害ヲ来タスノ虞アリトテ、郡部人民ニ於テモ已ニ苦情ヲ鳴ラシ居レハ、旁許可ナキ様ニシタシ
○五番田口曰　高架ナレハ苦シカラスト云ハ、詰リ許サヌト云ト一般ナレハ、寧ロ他ニ線路ヲ換ヘヨト云方穏当ナラン
○二十八番渋沢曰　十九番ノ説ノ如ク、高架セヨト云ハヽ到底上野ニ接続スルヲ得マシ、然レハ出来ナイコトヲセヨト謂フカ如ク、詰リ理屈ノ合ハヌコトニナレルナリ、如何ヤ
○二十二番古市曰　上野トノ接続ハ出来サルニ非サルヘシ
○十九番銀林曰　高架トナスニ如カストノ回答ニテ然ラン、結局出来ナイコトニナルヘシ
○二十八番渋沢曰　十九番ヲ賛成ス、要スルニ独リ此線路ノミナラス市街ノ繁盛ニ妨害ヲ来サヽル限リハ、鉄道ノ布設ハ許サヽルヘカラサルコトヽ信スルナリ
○二十二番古市曰　公園丈ケヲ高架ニセヨト云テ可ナラン、総テ高架ト云フハ苛酷ナリ、然スルトキハ到底鉄道ノ布設ハ望ム可ラス
○二十六番益田曰　車ノ速度ヲ定メテハ如何
○二十二番古市曰　車ノ速度ハ勿論規定スヘシト思考セリ、然レトモ高架トナスト否トハ、場所ニヨリテ許否セサル可ラス、上野以北ノ如キハ決シテ高架トナスノ必要ナキナリ
○五番田口曰　地平線ニテハ不可ナリ、高架ナレハ可ナリトノ回答ニテ然ルヘシ
○委員長曰　最早議論尽タリト認ム、依テ決ヲ取ルヘシ、二十五番ノ許可スヘカラスト云説ニ同意者ハ起立アレ
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　　起立四名
　又曰　少数ニヨリ消滅、十九番ノ高架ト為スノ説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十五名
　又曰　多数ニヨリ右ニ決ス、就テハ内務大臣ヘノ回答書ハ如何スヘキヤ
○二十六番益田曰　此場所ニハ処々妨害アルヲ以テ、高架ニ非サレハ不可ナリトノ旨意ニテ可ナラン
○十五番桐原曰　其回答ニ関シ質問シタキコトアリ、已ニ甲武鉄道ヲ東京市ニ連絡スル由ナルカ、当時改正ノ設計ニハ市内ハ高架トナスモ其余ハ高架トナサヽルコトニ定リ居レリト思考ス、然ルニ下谷鉄道ハ地平線ニ布設スルノ許可ヲ得タリト聞ク、果シテ如何ヤ
○二十五番芳野曰　私ノ知リ得ルコトヲ申述ヘン、甲武鉄道連絡ノコトハ本会ヘ諮問アリシカ、其築造方法ハ追テ議スルコトニナリ居レリ、又下谷鉄道ノ許可ニナリシハ本会ノ設ケラレサル以前ニテアリシ
○委員長曰　二十五番ノ述タル通ナリ
○十九番銀林曰　此回答文案ハ幹事ニテ取調ラレタシ
○委員長　然ラハ回答文ハ幹事ニテ取調フルコトヽシ、追テ報道スヘシ、次ニ移ル
○中略
　又曰　東京給水工報告書、及東京湾築港意見ヲ配付シ置キタルカ、此ハ重大ノ件ニ付追々御相談致スヘキ見込ナレトモ、先以テ本件ニ付将来議スヘキ方法・順序ニ関シ意見アラハ承リタシ
（東京給水工報告書及東京湾築港意見略ス）
○二十二番古市曰　東京湾築港ノ計画ニ関シテハ、曾テ各員ニ御話シ申置タルカ、此ノルノー氏ノ答案ハ関門ヲ羽田ニ設クルコト、又運河ノ方法・繋船所ノ位置等、至極可ナリト存ス
　去ナカラ其巨細ニ至リテハ、篤ト調査ヲ為サヽレハ確言スルコト能ハス、又給水工事ニ至リテハ従来ノ計画ト相違ノ廉アリ、大体ギル氏ノ意見ハバルトン氏ノ計画ヲ可ナリトシ、其重ナル点ハ給水池ヲ一ケ所ニ設クル見込ナリシヲ、ギル氏ハ支場ヲ設クル方然ルヘシトシ、即麻布・小石川ノ二ケ所ニ水溜池ヲ設ルノ方法ナリ、沈澄池・濾池等ニ至リテモ聊相違アリ、バルトン氏ハ沈澄ノ時間ヲ二十四時トシ、ギル氏ハ三十六時ト云ヘリ、旁以テ本員ノ考ニテハ此意見書ヲ既設ノ委員ニ付シ、今一応調査セシメラレンコトヲ望ム
○二十八番渋沢曰　上水収入予算及説明書ハ已ニ各員ニ配付セラレシコトナルカ、該件ニ付一応申述ヘン、此給水ニ付テハ本書ニ掲ケタル各項ノ如ク収入ヲ得ルノ見込ニシテ、即其次第ハ各項ニ説明シ置キタリ、現ニ横浜ノ適例アリシカ故ニ、其実例ニ則トリテ調査セシト雖トモ、水料ノ負担額ニ於テハ、東京市民ノ方ハ横浜市民ヨリ軽減シテ予算ヲ編成セリ、而シテ給水ノ標準ハ人口ニ拠ルカ家屋ノ坪数ニ拠ルカハ調査上ノ一問題ナリシカ、終ニ建坪ヲ標準トスルノ確実ナルニ如スト為セシカトモ、其調査タル多数ノ日月ヲ費サヽレハ
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為シ得ル能ハサルヲ以テ、第一項ハ人口ヲ根拠トシテ算定セリ、第二項共用栓ノ方ハ無論人口ニ由リ、第三項撒水用ノ分ハ道路ノ面積ニ就テ若干ノ水量ヲ要スルモノトシ、其他営業用ノ為メ水ヲ多量ニ要スルモノハ特ニ其見込ニテ調査セシナリ、馬匹ニ就テノ水量ハ其頭数ニ由リテ算出セリト雖モ、是等ノ如キ或ハ厩舎ノ建坪ニ由リ調査セシ方適当ナルモ知レス、又兵営・病院・監獄ノ如キ多人数定住スル場所、及諸官衙・会社等ノ如キ時間ヲ限リ多人数集散スル場所ハ、其建坪ニ付若干ト算定セリ、尤宮内省ノ如キ総仕切ノ見込ニテ従来下付ノ料金ヲ以テ算当ヲナシ置タリ、而シテ其総計ハ六拾四万七千六百八拾三円四拾弐銭壱厘トス、此目的ノ如ク徴収スルヲ得ハ六百万ノ資金ヲ投スルモ得失償ハサルコトナシト信セリ
○二十六番益田曰　築港ノ方案ハ数回承リタレトモ、此設計実施ニ至リ如何ナル資金ヲ要スルカ、世上ニテモ大ニ熱望シテ止マサル所ナレハ、一応伺置タシ
○委員長曰　築港ノ事ニ付テハ已ニ委員ヲ設ケシコトト思ヒシカ、未タ委員ヲ置カサル上ハ、更ニ委員ヲ設ケテ後確定ノ調査ヲ為スノ見込ナリ
○三十一番肝付曰　測量ハ本員ニ於テ十分為スヘキ見込ナリト雖トモ表面海軍省ニテ測量ヲ引受ルコト決定セサルニ由リ、更メテ委員長ヨリ照会セラレタシト存ス、而シテ築港ノ計画ハ測量済ノ上ニ非サレハ如何トモ為ス能ハサルヘシ、兎ニ角委員ヲ置カサレハ事業上ニ調査上ニ差支ヘアリ、速ニ委員ヲ設ケラレタシ
○五番田口曰　本員モ委員ヲ置カレンコトヲ希望ス
○二十二番古市曰　二十八番ノ御報告ニ対シテ一応申述ヘ置ヘシ、此収入予算ニ付テハ上水設計委員ニテ一応調査中ナレトモ、長与氏病気ノ為メ延引セリ
○委員長曰　築港調査委員ヲ指名スヘシ、五番・六番・十九番・二十二番・二十六番・二十八番・三十一番
　又曰　給水工事報告ニ関シテハ、従前ノ委員ニテ一応調査セラルヽコトニ為シタシ
○二十二番古市曰　此上水工事ノ設計ハ、多クノ人ニ意見ヲ問フ方然ルヘシト考フ、且序ニ申述ヘン、白耳義人クロース氏ナル者来朝シ居レルヲ以テ、其ノ意見ヲモ問フヘシトテ現今同氏ニ於テ調査中ニ係レリ、此意見モ遠カラス出来ル筈ナレハ、是モ併セテ委員ニ付シテ調査セシメラレタシ
○委員長曰　然スヘシ、本日ハ是ニテ散会セン
　　　于時午後零時三十分