デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治23年3月25日（1890年）

是日栄一、当委員会ニ出席シ、上水設計第二報告書ニ関スル議事ニ与リ、且ツ上水工費取調委員ニ指名サル。

東京市区改正委員会議事録　　第三巻・第八七―九五丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第四拾弐号
　　明治二十三年三月二十五日午前十一時開議
　　　　闕席　須藤時一郎　○他十二名氏名略
　　　　出席　十六員（二十九番　三十番　三十一番ハ召集セス、倉田吉嗣番外一番席ニ着ク）
○委員長曰　予テ調査委員ヨリ差出タル上水設計第二報告書ハ、各員ヘ配付シ置タレハ御熟読ニ相成シ事ナラン、本日ハ其設計ノ採否ニ就キ充分討議アリタシ
○十六番長与曰　本設計ニ関シ委員ニテ調査セシ顛末ヲ一応本員ヨリ報道スヘシ、扠此設計ニ所謂水源水質ノコトニ付テハ、更ニ調査ヲ要スヘシトノ説モアリシナレトモ、其ハ実際ヲ知ラサルノ言ニシテ此水源水質ニ関シテハ従来内外国技師等ノ踏査モアリテ、已ニ充分ノ取調ヲ尽シタリト信シ、調査会ニ於テハ其説ヲ納レサリキ、又此第二報告書ヲ呈スルニ当リ、工費ハ成ヘク節減ヲ加ヘ五百万円ト為シタリ
　給水工場ヲ一ケ所ト為シ、又ハ二・三ケ所ト為スノ利害ニ付テハ、当初専ラ討究セシ所ナリト雖トモ、費用ノ点ニ至リ已ムヲ得ス一ケト為シテ曩ニ第一報告書ヲ差出セシナリ、然レトモ此大市街ニシテ該工場ヲ一ケ所ト定ムルハ、大ニ顧慮スル所ナキニ非サルヲ以テ、寧ロ多少工費ノ増高ヲ見ルモ充分ノ設計ヲ為スニ如カストシ、ギール、パーマー両氏ノ説ノ如ク、改メテ之ヲ三ケ所ニ設置スルコトヽ為セリ
　濾池・沈澄池ノ如キハ諸氏ノ考案ヲ斟酌シ、多少改正ヲ加ヘタリ、殊ニギール氏ハ三十六時間沈澄セシムヘシトノ説ナリシモ、実際然スルニ及ハサルヲ以テ其説ヲ採ラサリシ、而シテ沈澄池ハ従前ノ設計ニ比シ少シク之ヲ縮小セシハ、則三日分ノ容量ヲ減シテ一日半分ト改メタルニ依ル
　濾池ハ、ギール氏濾過速度ニ依レハ二十四時間ニ七、七五呎ヨリ大ナルヘカラストノ説ナルモ、玉川上水ノ如キ水質佳良ナルモノハ然スルニ及ハストシ、之ヲ改メタルナリ、其他猶多少修正ヲ要セシ廉ナキニ非スト雖モ、先其至要ナル点ヲ略陳ス、請フ之ヲ諒セラレンコトヲ
○十九番銀林曰　水道改良ニ要スル材料ト価格・役員給料・地所買上代等ハ明細ノ調査出来居ルヤ
○十六番長与曰　概略ノ調査ハ為セシモ、未タ明細ノ調ヘハ為ササリシ、其調ヘハ余程ノ日子ヲ要スルコト故、本案採用ニナリシ上ハ精細調査スル積リナリ
○十九番銀林曰　此設計ハ委員諸氏カ反覆調査セラレシモノニテ、我我素人ハ別ニ意見ナケレトモ、此事業ヲ起スニハ費額確定セサレハ決議ニ差支ユヘシ、且府会撰出ノ委員諸君ニハ、他日府会ニ対シ自ラ説明ノ任ニ当ラルヽ姿ナレハ、是等取調出来居ラサルニ於テハ不都合ナラン、尤右材料ノ取調ヲ初メ費用ニ関スルコトハ其道ニ精シ
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キ人ヲ指命セラレ、設計委員ト共ニ至急調査セシメラレンコトヲ望ム
○十六番長与曰　今一ケ条申述フヘキコトアリ、本設計ハパーマー、ギール、バルトン三氏ノ設計ヲ折衷シテ以テ原料ト為セシカ、昨年白耳義人クロース氏東京ニ来遊シ来、設計ニ関シ参考ノ為メ其意見ヲ聞キ同氏ヨリモ亦意見書ヲ呈出セリ、未タ訳了スルニ至ラサルニ由リ、其意見ノ概略ヲ申述ヘシ、同氏ノ説ハ前三氏ノ意見ト異ナリ自然流下法ヲ以テ全市ニ給水スルノ計画ニシテ、高低両所ニ給水池ヲ置キ蒸気力ヲ用ヒス単ニ水力ニヨルノ方法ニシテ費用ヲ減スルノ益アルカ如シ、依テバルトン氏ニモ打合セヲ為シタリシニ、東京ノ如キハ蒸気力ヲ用ヒサルモ可ナラントノ事ナレトモ、之ヲ使用セサルモノトセハ代ユルニ大ナル水溜ヲ置キ水塔ヲ設ケ、其圧力少ナクモ八十尺乃至三十尺ヲ保ツノ装置ヲ為サヽルヘカラス、若シ之ヲ節減スルニ至ラハ破裂ノ恐アリテ頗ル不安全ナリ、又費用ヲ減スルト云フモ、此法ニ拠ルトキハ四尺以上ノ大管ヲ九英里間ニ敷設セサルヘカラス、然スルトキハ汽鑵ノ装置ヲ為スト費用ノ差果シテ如何ナランカ、故ニ設計委員ハ自然流下法ヲ取ラスシテ此第二報告書ヲ調成セシナリ
○二十四番佐藤曰　十六番ニ問フ、唯今自然流下法ト蒸気器械ニテ送水スル方法トノ説明アリ、此報告ニハ幾分カ其流下法ヲ用ユルモノナリヤ
○十六番長与曰　自然流下法ハ用ヒス、一ニ蒸気力ニ依ルノ設計ナリ
○二十五番芳野曰　設計上ノ事ハ大切ナルモ私共ハ分ラス、故ニ委員ノ調査ニ一任スル事ナルカ、唯伺タキハ此水量ハ涸水ノトキト雖モ二百万人ニ供給スルヲ得ルヤ、又ハ百五十万人位ニ給水シテ他ノ分流ヲモ止ムルモノナリヤ
○番外一番倉田曰　水源羽村ノ水量ハ、涸水ニテモ一秒ニ四百立方尺ノ水ハ流送シ来ルモノナレハ、二百万人ニ給水スルニ足ル、尤他ノ用水ハ締切ル見込ナリ
○二十五番芳野曰　四谷大木戸ノ処ニテ、涸水時ノ分量ハ如何
○番外一番倉田曰　大木戸ニテハ三十立方尺、神田川ニテハ二十五立方尺位ナリ
○二十八番渋沢曰　大体ノ設計ニ付テハ、第一報告ヨリ引続精密ナル調査アリタル事ニテ別ニ異見ナキモ、唯熟考スヘキハ費額ノ点ニシテ、収支計算上得失相償ハサルトキハ勢ヒ費額ヲ節減セサルヲ得ス随テ必要品タリトモ其物ヲ減セネハナラヌ事トナラン、故ニ一ケ年ノ収入六十四万円ノ内誠ニ二割ヲ減シ、仮ニ五拾万円ノ収入トナシ而シテ経常歳費二拾二万余円ト、之ニ臨時修繕費等ヲ加ヘ凡三拾万円トスレハ、残余ハ弐拾万円内外ナラン、惟フニ惣費額八百万円ヲ要シ、年々剰ル処ノ金額二拾万円ニ過キストセハ、蓋シ充分ナリトハ云フヘカラス、又水量ハ一人分二十四ガロンハ過分ナラン、十六ガロンニテ足レリトハパーマー氏ノ持説ナルカ、実際ニ経験セルニ十五ガロンヲ費シタリ、是ハ十軒位ノ家ニ付キ夏日試ミタルモノニテ、未タ充分ノ実験トハ参ラヌモ、要スルニ二十四ガロンハ過分ナ
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ルヘシ、扠又収入額ノ予算ニ付キ考フルニ、果シテ実収入カ増スモノトノ目的ハ立難カラン、然ラハ収支ノ点ニ於テ相償ハサルノ虞アルニヨリ、願クハ今一層費額ヲ減少センコトヲ望ム
○十六番長与曰　如何ニモ費額ハ減スルコトヲ企望スレ共、奈セン年年人口ノ増加ヲ見ルニヨリ、到底百五拾万人以下ニハ目的ヲ立テ難シ、又給水量ノ事タルギール氏ノ意見モ一人分二十四ガロンハ一日ノ最多量ヲ示シタルモノナリ、然レトモ既ニ横浜市ノ経験ニ徴スレハ実際二十ガロン以上ナリキ、故ニ調査委員ハ凡ソ二十五ガロンヲ必要ト見込タリ、又横浜ノ惣平的給水量《（均）》ハ一日一人十一人ガロン位ナレ共、他ニ多量ヲ用ユルモノアレハナリ、扠其費額ヲ減スルトノ考按ニ付テハ、差当リ山ノ手ニ布設スヘキ支管ヲ減シ、必要ニ際シ漸次布設完全ナラシムル事トセハ、幾分カ減シ得ヘキ見込ナリ
○二十八番渋沢曰　計量供給ハ却テ費用ヲ要スル故ニ、放任供給トスル方得策ナルヘシ、第二報告ニ掲クル一人分二十四ガロンハ減シ難カラン、人口二百万人モ亦減スルコト能ハサルヘシ、故ニ万止ムヲ得スンハ極メテ必要ノ場所ト、必要ナルモ急ヲ要セサル場所トヲ分チ、工事ヲ二段ニセハ原資ヲ減シ得ラルヘシ
○二十五番芳野曰　番外ニ問フ、鉄管代金第一・第二報告ニ各何程ト積リアリ、右ハ道路ノ延里数ニ標準トシ、此鉄管ノ数ヲ算出セシモノナリヤ
○番外一番倉田曰　本管ハ其布設スヘキ箇所ノ延長ニ就キ之ヲ算シ、他ハ実際ノ延里数ヨリ本管ヲ除キ之ヲ積算セリ
○二十五番芳野曰　追テ本設計ノ如ク鉄管ヲ埋布スヘキハ勿論ナレトモ、目下布設セサルモ差支ナキ場所アラン、是マテ泥水ヲ飲ミタルモノニ忽チ清水ヲ呑セネハナラヌト云フ事モアルマシ、又沈澄池ノ蓋ノ如キハ暫ク延ハスモ敢テ妨ケナカルヘク、旁以テ是等ノ費用ハ減シ得ルナルヘシ
○番外一番倉田曰　夫ハ差当リ差支モナカラン
○二十四番佐藤曰　此工事ハ大問題ナルカ、聞ク所ニ拠レハ玉川ノ水源ニテ材木ヲ伐採シタルカ為メニ、水量ヲ減セシト云フ事モアル由ナレハ、上流ノ山林ヲ買上、又小金井近傍ノ塵芥ハ水渠ニ混入セサル様、防禦ノ術ヲ第一着ニ行フコトニ為シタシ
○六番角田曰　二十八番ノ説モアレハ、設計委員ノ外、猶委員長ノ指名ヲ以テ費額ヲ取調フル為メ委員ヲ命セラルヽ様致シタシ、而シテ着手ノ緩急ヲモ審査セシメラレ、安心シテ本案ヲ議決シタキモノナリ
○十九番銀林曰　設計カ極リタル上ニテ実施ノ方案ハ猶細密ナル調査ヲ為スヘキ積ナリ、故ニ本日ハ先設計ヲ議シ、調査ハ後回ハシトシテハ如何
○二十五番芳野曰　第一・第二報告、及ギール氏ノ設計報告ヲモ閲覧シタルニ此設計ハ完全ナルモノト信セリ、唯諸君ノ説ノ如ク経費支出ノ途ニ至リテハ殆ト困却セリ、第一報告ニハ金六百八拾六万余円トアリ、附案ニハ五百八拾余万円トアリ、第二報告ニハ六百九拾万余円トアリ、又其附案ニハ六百弐拾七万余円トアリ、之ヲ実施スル
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ニ当リテハ夫程ノ費用ヲ要セス云々トモアレハ、取調委員ニハ已ニ考案ハ定リ居ルヘシ、承知シタキモノナリ
○十六番長与曰　鉄管代ノ如キ第二報告ヲ調成スル当時ハ非常ノ高価ナリシモ、昨今ハ二割モ下リタリト云フカ如キ、時々物価ノ変動モアレハ、到底確定シ難キモ、尚確実ト云フ予算ヲ定メヨトナラハ、何時ニモ其取調ヲ為スヘシ
○二十六番益田曰　高地則駿河台ノ如キハ地上ニハ送水スルモ、二階ニハ上ラヌト云フカ如キコトニテハ不完全ニ付キ、寧ロ九哩先ヨリ引水スル方可ナランカ
○十六番長与曰　高低地トモ同シク送水スル設計ナリ、故ニ供水貯池ヲ三ケ所ト為セシナリ
○委員長曰　暫時休憩ヲナスヘシ
　　　于時午後零時五分
　　　午後零時三十分着席　六番退席
○委員長曰　先刻ヨリ諸君ノ説ヲ承ハルニ、要ハ設計ト費用トヲ各別ニ議スルヤ否ヤニアリ、拙者ノ考ヘハ費用ヲ全ク別ニシテ議スルト云フニハ非サルモ、設計ト費用トハ成ル可ク別ニ議スルコトニ為シタシ、抑市区改正ノ設計タル数十年以後ノ事業ヲ予定シタルコト故其費用ニ至リテハ時勢ニ従テ消長アルハ、勿論ナレハ今此水道モ先設計ヲ議了シ、而シテ之ヲ実施スルニ当リテハ扠此経費ハ如何シテ支出スヘキヤ、又工事ノ緩急ハ如何スヘキヤト其時ニ至リ議定シテ可ナルヘシ、前ニ府会撰出委員諸君ニ申述タル次第モアルカ如ク、経費ノコトハ追テ議スルトシ、此設計モ亦道路・河川等ノ設計ヲ議定シタル如ク、今日ハ先大体ヲ議定センコトヲ望ム
○二十八番渋沢曰　了解セリ、前ニ設計ト費用トヲ混同シテ愚案ヲ述ヘタレトモ、先ツ大体ヲ議定スルノ御趣意ナラハ、此設計ニ付別ニ異見ナシ、唯水源ノ山林ヲ買入ルヽ事ハ成ル可ク速ニ実施シタシ、差タル資金ヲ要スルニモ及ハサルヘク、兎ニ角水源涵養ノ事ハ一ケ条加ヘテ然ルヘシ
○七番松田曰　本案ニ付委員長ヨリ御懇話モアリ、第二報告書ノ各条ヲ見ルニ是ニテ充分設計ハ尽セリト認ム、然レトモ此委員会ニ於テ議決セシ事ハ必ス実行セネハナラヌコトヽ承リ居ル故、市会ハ只其金ヲ出スニ汲々タルモノヽ如シ、委員長ノ御諭モアリタルコトナルカ、願クハ費額ノ取調ヲモ為シテ、後会ニ決定スル事トシ、其調査委員ヲ指命アリタシ
○二十四番佐藤曰　私ハ上水ノ改良ハ市区改正ト別物ニシテ、年々ノ特別税五拾万円ハ道路改正費ニ支出スルコトユヘ、水道ヲ改良スルニハ特別税モ亦更ニ増加スルコトナラント考フ
○二十八番渋沢曰　二十四番ノ考ヘハ、水道ヲ改良スレハ水賦金ヲ課シ、人民ノ負担ヲ増スト云フコトナランカ、夫ハ違ヘリ、抑上水ノ改良ハ人手ト時間トヲ省キ、為メニ水代ヲ取ルコトニテ、其需要者ヨリ収入スルモノナレハ、決シテ税ヲ増加スル抔ト云フ事ハナキナリ、故ニ此設計ハ道路改正ト趣ノ異ナルモノナリ、最前費用ハ別途ニ議スル御説諭アリシカ、又反覆考フルニ矢張経済モ同一ニシテ、
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猶取調ノ上議シタラハ疑問モ起ルマシト考フ
○十九番銀林曰　工費概算ノ項ヲ除キ他ハ本案ニ決シ、工費ハ今一応取調タル上議スルコトニ為シタシ
○二番藤田曰　工費概算ノ項ハ敢テ別ニセサルモ可ナリ、此設計ハ素人ニ分ルモノニアラサレハ、曩ニ道路・河川等ノ設計ヲ議セシト同様ニ議定セハ可ナラン、而シテ彼鉄管代ノ如キハ日々相場ニ昇降アリテ、恰モ株式ノ相場ト同様ナレハ、迚モ適実ノ価格ハ今日ニ極メ得ヘキニ非ス、唯経常費ニ在テハ尚減シ得ラルヘキカトモ考フレ共是亦実施ニ莅マサレハ確ト見込ノ立ヘキニアラス、今空案ニテ左右スルニハ及フマシ、又今日此案ヲ是ナリト認ル上ハ実施ニ際シ何モ角モ此通リニセネハナラヌト云フ事ハアルマシ、果シテ他日変動アルモノナラハ縦令工費ノ概算ヲ再調スルモ何ノ効ナカラン、本案ニ就テハ随分考案モ出タル様ナレハ、速ニ決ヲ取ラレンコトヲ欲ス
○七番松田曰　工費ハ猶取調フル事ト為シ其余ハ本案ニ決スル十九番ノ説ニ賛成ス
○十九番銀林曰　本案ハ内閣ニモ出スモノナレハ、工費ノ調書モ添付セサルヘカラス、然レハ自カラ世間ニ流布スヘキナリ、旁以テ精確ナル明細ノ調書モ要用ナレハ、其取調ノ済タル上議定スルコトニ為シタシ
○二十一番山中曰　成丈時価ヲ以テ費用ヲ調ヘル様ニ為シタシ、故ニ十九番ノ説ヲ賛成ス、又水源涵養ノ事ヲ一ケ条加フル二十八番ノ説ヲモ、亦本員ハ賛成ナリ
○委員長曰　十九番ノ説ニ同意者ハ起立アレ
　　　起立九名
○又曰　過半数ニ依リ、工費概算ノ項ハ再調ニ付スルコトニ決ス
○二十五番芳野曰　内閣ニ出スモノナレハ、第一・第二報告書ヲ合併シテ、一ノ草案ヲ起サハ如何
○十九番銀林曰　議決ノ趣旨ハ告示モヤラネハナラヌユヘ、公告ニ差支ヘナキ様取調アリタシ
○委員長曰　設計ニ就キテハ疑問ナキヤ、主任者ノ一人タル古市委員モ不参ナレハ、都合ニヨリ延期シテモヨシ
○十九番銀林曰　設計ニ於テハ本案ニ異議ナシ
○九番田坂曰　本案ハ人口百五十万ヲ目的トシ取調ヘラレタルモノナラン、故ニ人口百五十万ヲ超過セシトキハ、自然鉄管モ交換セサレハナラヌ訳ナルヤ
○十六番長与曰　第一報告書ニ説明アリシ如ク、東京市内ハ総テ本管ノ布設アレハ、人口増加スルモ各家屋ヘノ導水管ヲ取付ルノミナリ
○二十五番芳野曰　二十八番ノ水源涵養ノ一条ヲ加ヘル説ハ賛成ス、尤モ青梅近傍ニ止メス、猶奥マテモ土地ヲ買上、樹木ヲ植付ル方可ナラン
○十六番長与曰　私ノ説明モ素人ナレハ、古市委員出席ノ上議決スルコトニ為シタシ
○二十四番佐藤曰　四谷大木戸ヨリ九哩先ヘ鉄管ヲ敷設スル費用ト、蒸気ヲ使用スル費用トノ計算ハ如何
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○十六番長与曰　自然流方法ハ大ナル水溜ヲ設ケサルヲ得ス、故ニ費用モ多キヲ要スルナランカ、到底流下法ハ不得策トノ考案ナレハ、別ニ計算ヲモ為サス
○委員長曰　二十八番ノ水源涵養ノ一ケ条ヲ加フル説ニ、同意者起立アレ
　　総起立
　又曰　然ラハ水源涵養ノ為メ山林ヲ買入、樹木ヲ栽培保存スル事ノ一条ヲ加フルコトニ決ス、而シテ決議ハ他日ニ譲リ、他ノ議事ニ移ルトシ、工費取調委員ヲ指名スヘシ
　　七番　十九番　二十一番　二十五番　二十八番
○下略

東京市史稿　東京市役所編　　上水篇第三・第二一一―二二五頁　大正一二年六月刊
　○第二節　本記　帝都時代ノ上水（二）
　　　　上水設計第二報告付議事蹟
上水設計第二報告付議　　東京市区改正委員会議事録ニ拠レハ、明治廿三年三月廿五日ノ会議ニ於テ、調査委員提出ノ上水設計第二報告書ヲ付議シ　○中略
〔参考〕水源保護建言
　十月五日決第二十七号《（朱）》
　　委員長。幹事長。
　玉川上水々源保護之義ニ付、福山武ヨリ別紙書面差出候ニ付、可然御詮議相成度候也。
　　明治二十二年十月　東京市区改正臨時委員　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　東京市区改正委員　　　銀林綱男
　　　　東京市区改正委員長　芳川顕正殿
　謹テ、玉川水源保護ノ事ニ就キ愚見ヲ上申仕候。
　玉川現在ノ水量ハ猶ホ余裕アルガ故、一方ニハ羽村関下以東本流十余里間ヲ流レテ沿岸人民ニ無量ノ水利ヲ与ヘ、一方ニハ清流東京ニ注テ、百万ノ市民ヲ養フニ足レリト雖モ、近来沿岸古老ノ伝フル所ニ拠レハ、五・六十年以還斯川ノ水量著シク減シタリト云フ。然レトモ其原因ニ至テハ更ニ之ヲ確認スル者ナシ。依テ武ハ頃日深ク水源ニ泝テ減水ノ原因如何ヲ探究仕候ニ諸説区々タリト雖モ、其近因トスル処ハ、恐ラクハ水源近傍ノ森林濫伐ニ根底致候儀ト愚考仕候今其理由トスル処ヲ略陳セハ、元来西多摩郡青楳町以西ハ、遠ク甲武ノ国境ニ至ル迄沿岸十有余里ノ間、凡テ杉樹ノ生育ニ適セシ土地柄ナルカ故、満山殆ント杉樹ナラサルハナシ。而シテ往昔ニ在テハ尠クモ三十年以上ヲ経過スルニ非ラサレハ之ヲ採伐セサル習慣ナリシニ、近来ハ頗フル其期ヲ早メ僅ニ十二・三年乃至二十四・五年ヲ経過セハ忽チ採伐スルニ至リタルヲ以テ、自然水分ノ汲収力ヲ減シ終ニ今日ノ結果ヲ致シタルモノナランカト被存候。故ニ今ニシテ若シ之レヲ其儘ニ放棄セハ、斯川ノ水量ハ恰モ東京市民ノ蕃植ト転比例ノ有様ヲ示シテ減少シ、百年ヲ出サル内、市民ハ飲料ノ不足ヲ感スルニ至ルヤ必セリ。是ヲ以テ杉樹濫伐ノ弊ヲ矯正シテ水源ヲ保護
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スルハ、今ヤ東京市民ノ為メニ最モ必要ノ儀ト被存候。然リト雖トモ一部市民ノ為メニ、該地方森林ノ採伐期ヲ定メテ貴重ナル所有権ヲ侵害スルカ如キハ、素ヨリ為シ得ベカラサル儀ニ付、止ム無ク三五ノ主タル水源ヲ択テ、壱個所ニ付各々五十町歩乃至弐百町歩ノ山野ヲ購入シテ、東京市民ノ共有財産ト為シ、之ニ杉樹ヲ栽培シテ其成長ヲ俟ノ外、他ニ方法無之様愚考仕候。而シテ其主タル水源ト云フ可キモノハ、甲州都留郡黒川・武州西多摩郡小菅川・日原川及大丹波川ナラント被存候。尤此等ノ諸泉源ハ、孰レモ辺陬僻隅ノ土地ナルヲ以テ、壱反歩売買代価平均五円前後ノモノナリト云フ。故ニ仮リニ一個所ニ付壱百五拾町歩ツヽ購入スルモノトスルモ、僅ニ三万円以内ヲ費シテ充分其目的ヲ達スルヲ得ヘキ儀ニ付、何卒水道改良ノ御挙ト同時ニ、此儀御所分相成様致度、熱情ノ余リ、不敏ヲ顧ス別紙見取図○略《（原註）》。相添、此段御参考迄ニ具伸仕候　恐懼再拝。
　　明治二十二年九月十日　　　　　　　　　　　　福山武
　　　　上水委員　銀林綱男殿
　　　　同　　　　渋沢栄一殿　　　　　　　　　　　――公文類纂
設計調査委員長与専斎外五名ノ第一報告書提出ハ、是月廿日ニ在リ。
　東京市上水設計第二報告、別冊之通具申候也。
　　明治二十三年三月二十日
　　　　　　　　　　　上水下水設計調査委員　ダブルユー・ケー・バルトン
　　　　　　　　　　　上水下水設計調査委員　倉田吉嗣
　　　　　　　　　　　上水下水設計調査委員　永井久一郎
　　　　　　　　　　　上水下水設計調査委員　原口要
　　　　　　　　　　　上水下水設計調査委員　古市公威
　　　　　　　　　　　上水下水設計調査委員　長与専斎
　　　　東京市区改正委員長　芳川顕正殿
　曩ニ具申シタル東京上水設計第一報告ニ対シ、独逸国ベルリン府水道局長ヘンリー・ギル氏ノ意見ヲ諮詢セラレタルニ、調査委員ノ設計ト稍々相異ナル所アルヲ以テ、再ヒ審議ヲ歴テ取捨折衷シ前設計ニ多少ノ改良ヲ加ヘ、玆ニ第二報告ヲ呈ス。
　　　　　　水源及水質
　本題ニ付テハ調査委員トギル氏トノ意見略相同シ。ギル氏ハ給水量ノ充分ナルヤ否ヤニ付テ精細ナル調査ヲ要スルコト、並ニ水源ノ改良ニ就キ、水渠ノ両岸ニ於テ各一条ノ土地ヲ上水附属地トナス事、及ヒ水渠ノ全水量使用権ヲ得ル事ヲ勧告セリ。
　水量測定ノ事ハ固ヨリ必要ナリト雖モ、第一報告ヲ以テ申述セルカ如ク、人口弐百万人ニ達スルモ尚ホ充分ナルノ見込ナルカ故ニ、今日之ヲ実施スルノ要ナシ。但二百万以上ノ人口ニ昇リ、其需用ヲ見ルトキハ、漸次ニ田用水渠ヲ買上ケテ之ニ給スルヲ得ヘシ。
　水渠ノ両岸ノ土地ヲ水道附属地ト為ス事ハ委員モ賛成スル所ナリ。水渠ノ全水量使用権ヲ得ル事ハ、他日其必要ヲ見ルニ及ヒ、漸次ニ之ヲ収用スルモ敢テ支障ナカルヘシ。依テ委員ハ左ノ通リ決議ス。
　第一、多摩川ノ水ヲ全市ニ給スル事。
　第二、羽村ヲ以テ引入口ト為ス事。
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　第三、青梅市街下水ヲ多摩川ニ排出スル事ヲ防止スル事。
　第四、狭山ケ池流末ハ、水渠ヲ越ヘテ多摩川下流ヘ放流セシムルカ又ハ此池ヲ埋立テ平地ト為ス事。
　第五、羽村近傍及ヒ水渠ノ両岸ニ接シタル家ヲ撤去スル事。
　第六、東京市街ニ近キ人家稠密ナル区域ニ於テハ、水渠ニ覆蓋ヲ設クル事。
　第七、将来水渠改掘ノ敷地トシテ、現在ノ水渠ニ沿フテ土地ヲ買上クル事
　　以上ノ諸項ハ其一・二ヲ除クノ外ハ極メテ急施ヲ要スルニモ非サレハ、此設計予算ニハ之ヲ省キ、玆ニ委員ノ企望ヲ陳フルノミ。
　　　　　　給水区域及ヒ人口
　給水区域ハ、東京全市ヲ以テ標準トシ、人口百五十万ヲ目的トシ、諸般ノ計算ヲ為シタリ。配水線路区画ノ如キハ、工事設計ノ部ニ詳ナリ。
　　　　　　人口ニ対スル給水量
　第一報告ニ述ヘタル如ク、一日一人ノ給水量ヲ四立方尺、即チ二十四・九四ガロントナス事ハ、ギル氏モ同意見ナリ、但シ本量ハ一年中最多量ヲ要スル一日ノ給水量ニシテ、一時間最多ノ給水量ハ六立方尺ノ割合ナルヘキモノトス。
　　　　　　工事ノ設計
　給水ハ自然流下法ト喞水法トノ孰レニ依ルヘキヤニ付テハ、第一報告ニ述ヘタル如ク喞水法ヲ以テ適当トスル事ハギル氏モ同説ナリ。給水工場ハ、之ヲ一ケ所ニ設クルカ、又ハ数ケ所ニ分設スヘキカニ付テハ、曩ニ委員ニ於テモ頗ル論議ヲ費シ、遂ニ費用節減ノ為メ一ケ所ニ設クルノ按ヲ定メテ之ヲ呈シタレトモ、今ギル氏ノ分設按ニ付テ更ニ利害得失ヲ審議セシニ、工費ニ於テハ勿論多少ノ増額ヲ要スヘシト雖モ、高地及低地ノ給水圧力ヲ区別スルカ故ニ、喞筒機関ノ馬力ヲ減シ、且ツ給水区ニ於テ圧力均一ナルノ利益アリ、又将来人口増殖シテ二百万ニ達スルニ及ンテハ、増費ヲ要スル事少額ニシテ之ニ給水シ得ルノ便アル事ヲ発見セリ。
　故ニ工費ニ多少ノ増額アルモ、永遠ノ便益ヲ慮リ、分設法ヲ以テ前者ニ優レルモノト決定セリ。
　分設法ヲ用ユルニ付テハ、海面上二十尺ノ地ヲ境界トシテ、全市ヲ高地・低地ノ二給水区域ニ分チ、千駄ケ谷村旧戸田邸ヲ以テ全市給水ノ浄水工場トシテ、是ニ沈澄池・濾池及ヒ高地給水用ノ浄水貯池喞筒機ヲ設ケ、低地給水用ノ浄水貯池及ヒ喞筒機ハ、之レヲ麻布今井町近傍及小石川伝通院近傍ノ二ケ所ニ設クル事ハ、ギル氏ノ説ニ従ヘリ。
　　　　　　沈澄池
　沈澱法ニ付テ、ギル氏ハ欧洲ノ実験ニ依リテ、三十六時間全ク静定スルニ非サレハ、水中ノ浮游物全ク沈澱スル事能ハス、故ニ各沈澄池ニ水ヲ充満シタル後、三十六時間之ヲ静定セシメ、然ル後其底ニ接シタル処ヨリ水ヲ引キ出スモノトシ、五個ノ沈澄池ヲ設ケ、各池ノ有効容量ヲ三百四十万立方尺トセリ。
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　委員ノ撰定シタル沈澱法ハ、沈澄池一端ニ於テ池底ヨリ水ヲ引キ入ルヽト同時ニ、其他端ニ於テ水面ニ接近シタル所ヨリ之ヲ引キ出スモノニシテ、其沈澄池ハ沈澱物漸々増加シテ、其掃除ヲ要スルトキノミ之ヲ空虚トナスモノナリ。
　沈澱ノ方法及沈澱時間ハ、固ヨリ水ノ清濁浮游物ノ性質等ニ依リテ差異アルヘキナレハ、一定ノ規則ヲ以テ推ス可ラサル事ハ論ヲ俟タサルナリ。ギル氏ノ方法ニ拠ルトキハ、多額ノ工費ヲ要スルモノニシテ、我多摩川ノ如キニ在テハ別ニ其必要ナカルヘシト認メ、委員ハ姑ラク之ヲ採用セサル事ト為セリ。
　委員ハ第一報告ニ於テ、三個ノ沈澄池ヲ設ケ、其総容量ヲ一千八百万立方尺、即三日分トセリト雖トモ、費用節減ノ目的ヲ以テ沈澄池ノ容積ヲ減シ、大約九百万立方尺、即チ一日半分トシ、其数ハ尚之ヲ三個ニ分テリ。而シテ他日必要ヲ見ル場合ニ於テ之ヲ増設スルモノトセリ。
　　　　　　濾池
　濾過ノ速度ハ、ギル氏ハ毎二十四時間ニ七、七五呎ヨリ大ナル可ラストシ、委員ノ設計ハ同時間ニ八尺ヲ超過セシメサルモノトシ、平面積各七千六百八十八平方尺ノ濾池十二個ヲ設クルモノトセリ。而シテ本項モ亦水質ノ善悪ニ依リテ差異アルヘキモノニシテ、十尺或ハ十二尺ノ濾過速度ヲ用ユルノ例少ナカラス。多摩川上水ノ如キ純良ナルモノニ於テハ、或ハ其速度ヲ増加スルコトヲ得ヘシト雖モ、尚充分ノ実験ヲ経サレハ之ヲ確定シ能ハサルカ故ニ、委員ハ第一報告ニ於テハ先ツ其八個ヲ設置シ、其濾過速度ヲ十壱尺余トセリ。今ギル氏ノ意見ヲ参酌シテ暫ラク其速度ヲ十尺トシ、面積六万平方尺ノモノ十二個ヲ設ケ、内二個ヲ予備ニ充テ、他日必要ヲ見ル時ハ之ヲ増設スルモノトセリ。
　　　　　　浄水貯池及喞筒
　浄水貯池ハ、ギル氏ノ説ニ依レハ、六時間ノ給水量ヲ容ルヘキ大サトナシ、之レニ覆蓋ヲ設クルモノトセリ。委員ハ第一報告ニ於テハ三十二時間分ヲ貯フヘキモノトセリ。蓋シ三十二時間分ヲ貯フルハ過大ナルヘケレトモ、ギル氏ノ説ニ従ヒ、僅カニ六時間分ヲ貯フルハ、東京ノ如キ火災多キ地ニ於テハ過少ノ嫌アルヲ免カレス。故ニ委員ハ更ニ此容積ヲ十二時間分トシ、高地用ノ貯池二個ヲ旧戸田邸ニ、低地用ノ貯池二個宛ヲ麻布今井町及ヒ小石川伝通院ノ近傍ニ設ケ、拱形ノ覆蓋ヲ造ルヘキモノトセリ。
　喞筒ハ之ヲ三ケ所ニ分置シ、高地用ハ旧戸田邸ニ、低地用ハ麻布今井町及小石川伝通院近傍各所ニ四組宛トナシ、内一組ヲ予備トス。総計千五百馬力ナリ。
　水ヲ地面上ニ噴出セシムルノ高サハ、高低両給水区共八十尺乃至百尺ナリトス。
　　　　　　配水法
　高地ノ配水ハ、旧戸田邸浄水工場ニ於ケル喞筒ヨリ、三十六吋乃至十二吋管ヲ以テ、四谷・赤坂・麻布ノ各区、及ヒ芝・麹町・牛込・小石川・本郷・神田区ノ一部ニ給水ス。
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　低地ノ配水ハ、浄水工場ニ於ケル濾池ヨリ、四十二吋管ヲ以テ、一ハ麻布今井町ノ浄水貯池ニ、一ハ小石川伝通院近傍ノ浄水貯池ニ、自然流下法ニテ送水シ、是レヨリ喞筒ヲ以テ直ニ配水本管ニ注入シ日本橋・京橋・下谷・浅草・本所・深川ノ各区、及ヒ芝・麹町・神田・牛込・小石川ノ一部ニ給水ス。本管ノ径ハ四十二吋乃至十二吋ナリ。
　本管ノ延長合計ハ五十九哩四八、支管ノ延長合計ハ三百五十哩トス一般ニ計量供給法ヲ用ヰル事ハギル氏ノ勧告スル所ナレトモ、元来該器ハ其価高貴ノモノニシテ、現今ノ景況ニテハ各戸ニ之ヲ設ルハ蓋得策ニアラサルヘシ。故ニ只多量ノ水ヲ使用スル製造所・噴泉、其他特別営業ノ者ニ対シテハ、使用料ヲ徴収シテ之ヲ貸与シ、又ハ自費ヲ以テ之ヲ設ケシムルモノトセリ。区画計量器ハ、之ヲ各所ニ設ケテ、水ノ漏洩及ヒ各区ノ消費量ヲ計ルヘキ装置ナリ。
　沈澄池・濾池・浄水池等ノ位置、広狭及ヒ本管ノ線路等ハ、略図ヲ附シテ参照ニ便ス。
　　　　　　工費概算
　本概算ハ、第一報告ニ記スル所ト其額ヲ異ニスル所以ノモノハ、給水工場分設法ヲ採用シタルカ為メニシテ、其費額ヲ増加シタルハ免ルヘカラサル事ナリトス。然レトモ費目ノ細項ニ至テ或ハ喞筒ノ馬力ヲ減シタルカ為メ、或ハ阻水弇・消火栓ノ数ヲ減シタルカ為メ、又一・二ノ費目ニ於テハ新タニ幾分ヲ減シ得ヘキノ理ヲ発見シタル等ニヨリ、割合ニハ費用ノ増加ヲ見スシテ算定スルコトヲ得。但鉄材相場ノ非常ニ騰貴シ、大ニ予算ノ全額ヲ変シタルカ故ニ、更ニ其差ヲ記シテ紙末ニ附ス。
　一、合金六百九拾万〇四百拾五円
　　　　　内訳
　　金弐百五拾四万五千三百六拾四円　鉄管代（但シ一噸ニ付金四拾円）
　　　内径六吋長九呎　　　　　　　　弐十万五千三百五十二本
　　　同十二吋同　　　　　　　　　　壱万〇六百五十壱本
　　　同十五吋同　　　　　　　　　　四千〇八十本
　　　同十八吋長十二呎　　　　　　　弐千四百八十九本
　　　同二十一吋同　　　　　　　　　八百〇八本
　　　同二十四吋同　　　　　　　　　弐千九百三十三本
　　　同二十七吋同　　　　　　　　　千六百〇三本
　　　同三十吋同　　　　　　　　　　八百六十八本
　　　同三十六吋同　　　　　　　　　弐千八百二十九本
　　　同四十二吋同　　　　　　　　　三千六百本
　　金七万千〇四拾九円　　　　　　　阻水弇代
　　　内径六吋　　三千五百個　　同十二吋　　四拾個
　　　同十五吋　　二十個　　　　同十八吋　　拾個
　　　同二十一吋　壱個　　　　　同二十四吋　八個
　　　同二十七吋　四個　　　　　同三十吋　　壱個
　　　同三十六吋　四個　　　　　同四十二吋　四個
　　金弐千七百三拾円　　　　　　　　消火兼用共用栓七十個代（設置費共）
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　　金八万六千七百七拾五円　　　　　専用消火栓四千四百五十個代（設置費共）
　　金九千七百五拾円　　　　　　　　消火栓附属竪管五百個代
　　金壱万四千九百弐拾五円　　　　　共用栓千五百個代（設置費共）
　　金八万〇七百三拾弐円　　　　　　分水活嘴弐万〇百八十三個代
　　金拾三万三千円　　　　　　　　　沈澄池・濾池・浄水池用鉄管、阻水扉等（設置費共）
　　金弐拾八万五千円　　　　　　　　喞筒機・汽缶代、工場建築費及機械設置費共
　　金百九拾六万九千四百九拾九円　　沈澄池・濾池・浄水池築造費
　　金弐拾七万三千円　　　　　　　　浄水工場敷地買上代
　　金九拾五万円　　　　　　　　　　鉄管布設費
　　金拾五万円　　　　　　　　　　　役員給料
　　金三拾弐万八千五百九拾壱円　　　予備費
　　　外ニ
　一、金百万弐千弐百三拾六円
　　　是ハ鉄管代壱噸ニ付金四拾円ノ見込ナリシモ、目今ニ至リ俄ニ騰貴シテ壱噸金五拾五円トナリタルカ故ニ、其差ヨリ更ニ本項ノ金額ヲ要ス。
　　　　　　経常費概算
　一、金弐拾弐万九千五百円
　　　　　内訳
　　　金六万円　　　　　　　　　　　水源水路本支管及接続管ノ維持費
　　　金弐万九千七百円　　　　　　　汽機用石炭代
　　　金壱万五千円　　　　　　　　　汽関及汽缶ノ修繕費
　　　金三万千円　　　　　　　　　　貯水池濾池維持修繕掃除費
　　　金六万九千八百円　　　　　　　俸給諸給
　　　金弐万四千円　　　　　　　　　水道役所庁費○附図略《（原註）》。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　――公文類纂

法令全書　明治二三年　　内閣官報局編　刊
朕水道条例ヲ裁可シ、玆ニ之ヲ公布セシム
　御名　御璽
　　明治二十三年二月十二日
　　　　　　　　内閣総理大臣兼内務大臣　伯爵　山県有朋
法律第九号（官報二月十三日）
　　　　水道条例
第一条　水道トハ市町村ノ住民ノ需要ニ応シ給水ノ目的ヲ以テ布設スル水道ヲ云ヒ、水道用地トハ水源地・貯水地・濾水場・喞水場及水道線路ニ要スル地ヲ云フ
第二条　水道ハ市町村其公費ヲ以テスルニ非サレハ、之ヲ布設スルコトヲ得ス
第三条　市町村ニ於テ水道ヲ布設セントスルトキハ、其目論見書ニ左ノ事項ヲ詳記シ、地方長官ヲ経テ内務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
　第一　水道事務所ノ所在地
　第二　水源ノ位置河川池湖又ハ堀井ノ別其周囲ノ概況及其水量ノ概算、但図面及水質ノ分析表ヲ添フヘシ
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　第三　水道線路及水道線路ニ沿フタル地名、貯水地・濾水場・喞水場ノ位置、但図面ヲ添フヘシ
　第四　給水ノ区域、其人口及其一人一日ニ対スル平均給水量
　第五　人口増殖及多量ノ水ヲ用フル製造場等ニ対スル給水量増加ノ見込
　第六　水圧ノ概算
　第七　工事方法
　第八　起工並竣工期限
　第九　工費ノ総額其収入支出ノ方法及其予算
　第十　水料ノ等級・価格、水料徴収ノ方法及経常収支ノ概算
第四条　内務大臣ハ前条ノ図面書類ヲ審査シ、不都合ナシト認ムルトキハ水道布設ノ認可状ヲ与フヘシ
第五条　水道用地ハ国税・地方税ヲ免除ス
第六条　官有ノ土地ニシテ、水道用地ニ必要ナルモノハ之ヲ払下ケ又ハ貸付スヘシ
第七条　水管ヲ官有地又ハ公道ノ地下ニ布設セントスルトキハ、当該官庁ノ許可ヲ受クヘシ
第八条　地方長官ハ随時当該官吏又ハ技術官ヲ派遣シテ、水道工事及水質水量ヲ検査セシメ、其改築修理ヲ要シ又ハ水質不良、水量不足ナリト認ムルトキハ、地方衛生会ノ議定ヲ経、相当ノ猶予期日ヲ定メテ之カ改良ヲ市町村ニ命スヘシ
第九条　市町村ハ工事落成又ハ改築修理ヲ了リタルトキハ、地方官庁ニ届出、監査ヲ受クヘシ
第十条　水道ノ給水ヲ受クル者ハ、水質・水量ノ検査ヲ市町村長ニ請求スルコトヲ得
第十一条　家屋内ノ給水用具及本支水管ヨリ之ニ接続スル細管ハ、市町村ノ所定ニ従ヒ之ヲ設置シ、其費用ハ水道ノ給水ヲ受クル家主ノ負担トス
第十二条　市町村ノ水道掛ハ午前八時ヨリ午後五時迄ノ内ニ於テ家屋内ノ給水用具ヲ検査スルコトヲ得、但水道掛ハ其証票ヲ携帯スヘシ
第十三条　市町村長ハ水道掛ノ報告ニ依リ、家屋内ノ給水用具不完全ナリト認ムルトキハ、相当ノ猶予期日ヲ定メテ之カ修繕ヲ為サシムヘシ
　家主若シ其修繕ヲ怠ルトキハ、市町村ニ於テ之ヲ修繕シ、其費用ヲ徴収スルコトヲ得
第十四条　家主ハ家屋内給水用具ノ設置又ハ其修繕ヲ了リタルトキハ市町村ノ水道掛ニ届出ツヘシ、水道掛ハ速ニ之ヲ検査スヘシ
第十五条　市町村ハ一家専用ノ給水用具ヲ設クル能ハサルモノヽ為メニ共用給水器ヲ設クヘシ
第十六条　市町村ハ消防用ノ為メニ消火栓ヲ設置スヘシ、消火用ニ消費シタル水ハ、水料ヲ徴収スヘカラス

東京市区改正事業誌　東京市区改正委員会編
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　第二〇〇―二〇二頁　大正八年二月刊
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　○第四章　第二節　事業ノ成績
　　　　第八項　上水道
上水道改良ノ計画ハ、明治九年前後ヨリ企テラレタル者ニシテ、内務省土木局雇蘭人工師フアンドールンヲシテ調査セシメタルヲ以テ嚆矢トス、東京府ニ於テハ、明治九年九月、水道改正委員ヲ設ケテ之ヲ調査シ、十年委員松本荘一郎・渡辺孝・伊藤徹・諸橋民三・林深造ヨリ其結果ヲ報告ス、大要経費二百万円ヲ以テ、平川町三丁目ニ沈澄池、其近傍ニ濾池四箇ヲ設ケ、抽水器井・抽水汽機・高溜・管網・消防栓水栓・水摺戸等ノ諸設備ヲ為サントスルモノナリキ、明治十七年皇居御造営局、東京府ニ依嘱シテ、皇城内ニ改良水道ノ設備ヲ為サシム、是レ沈澄池・濾池等ノ設置シタル初ナリ
其市区改正事業トシテ攻究スルニ至リタルハ、明治二十一年十月十二日ノ市区改正委員会ニ於テ、衛生工師バルトン、以下数名ニ、改良水道設計ヲ嘱託シタルニ始マル、二十九日同会ハ、区債ヲ起シテ之カ工事ヲ為スノ議ヲ決スルト同時ニ、国庫補助ヲ請フノ建議ヲ為スニ決シ十二月調査嘱託バルトン外六名ヨリ第一報告ノ呈出有リ、二十三年三月二十五日ニハ、之カ第二報告ヲ付議シ、四月十八日遂ニ水道改良設計ヲ議定ス、内閣ノ認可ヲ経テ七月二十三日府告示第五十号ヲ以テ告示セラル　○中略
尋テ八月二十日ヲ以テ、市区改正委員会ニ於テ、明治二十四年度ヨリ二十八年度ニ至ル五箇年継続ノ事業トシテ実施ス可キ旨議決ス、是ニ於テ東京府ハ、是年十一月一日水道改良事務所ヲ設ケテ事業ヲ開始シタリ
十二月一日、市区改正委員会ハ浄水工場及給水工場ノ位置変換ヲ議定ス、二十六年十月二十六日水道工事起工式ヲ淀橋浄水場ニ挙ク
二十八年二月水道改良工事竣工期ヲ三十一年度マテ延期シ、三十年十一月五日ニハ、市区改正委員会ニ於テ、淀橋浄水工場敷地取拡及用地買上ヲ議定ス、遂ニ三十二年十二月十七日ヲ以テ、水道工事落成式ヲ淀橋浄水工場ニ挙ク
○下略

東京市区改正委員会議事録　　第三巻・第一六二―一六五丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第五十二号
　　明治二十三年八月九日午前十時三十分開議
○上略
○委員長曰　然ラハ給水規則ハ後ニ回ハシ、議第七十四号ヲ議セン、就テハ一応申述置ヘシ、抑モ本案ハ諸君モ知ラルヽ如ク水道改良ノ事業斯ク進歩セサリシ以前、府下有志者ニ於テ私立ノ水道会社ヲ設ケンコトヲ企図セシガ、拙者モ当時ノ法律ニ於テ別ニ規定ナキヲ以テ、此ノ如キ公共上必要ナル事業ニシテ私立会社ノ成立スルハ嘉ミスヘキコトナルニ依リ、其計画ヲ賛成シタリキ、尋テ発起者ハ外国工師パーマー氏ヲ雇入レ充分ノ調査ヲ為セシニ、折柄政府ニ於テハ斯ル公共ニ属スル事業ヲ私立会社ニ委付スルハ不可ナリトノ議アリ
 - 第28巻 p.157 -ページ画像 
テ、即チ水道事業ハ市町村ノ負担ト為スノ法令ヲ発セラレタリ、玆ニ於テ水道会社創立委員ハ其調査シタル書類ヲ悉皆本会ニ寄贈シ、本会ハ是等材料ヲ以テ水道改良設計ノ資ニ供シタリ、聞ク所ニ依レハ創立委員ハ該設計調査ノ為費消セシ金額三千余円ニ及ヘリト、尤該委員ニ於テハ当初ヨリ書類寄贈ノ為メ報酬ヲ得ルノ目的ナキコトハ明瞭ナリト雖モ、已ニ本会ニ於テ其調製シタル書類ヲ上水改良設計ノ材料ニ資シ大ナル補益アリシ以上ハ、相当ノ報酬ヲ給与スル寔ニ適宜ノ処分ナルヘシト信ス、諸君宜シク審議アランコトヲ望ム
　　　書記朗読
　　議第七十四号
　　一金弐千円
　　　本行ノ金額ハ二十三年度予備費ノ内ヨリ本会経費ニ増額シ、東京水道会社創立委員ヘ支給セントス
○二番須藤曰　創立委員等ハ此金額ニテ満足スルカハ知ラサレトモ、成ヘク三千円位ハ支給シタシ、若シ是等調査ノ書類ナク、本会ニ於テ更ニパーマー氏ニ依頼シ取調ヘシムルモノトセハ、決シテ三千円以内ニハ下ラサルヘシ、況ンヤ水道会社ノ発起ニ依テ一般市民ノ奮発心ヲ喚起セシメタル功ニ対シテモ、三千円位ハ下付シテ可ナラン
○二十二番古市曰　本員ハ二千円ニテ満足スルヤ否ヤハ知ラサレトモ該調書ナケレハ水道ノ設計ハ出来ヌト云フコトハ了解スル能ハス
○二番須藤曰　二十二番ノ説ハ間違ナラン、彼ノ設計ナケレハ本会ニ於テ水道ノ設計ハ出来ヌト云フニアラス、若シ無カリシナラハ為サネハナラヌヤモ知レヌト云フノ意ナリ
○二十四番佐藤曰　本員ハ二千円ニテ適当ナラント思考ス、横浜ノ如ク創始ノ事業ニ属スレハ格別ナレトモ、既ニ充分ノ設計ヲ為シ得ヘキ時機ニ臨ミ、彼ニ於テ調査ヲ為セシコトナレハ弐千円ニテ可ナリ
○七番松田曰　創立委員ハ最初ヨリ一己ノ営利事業トシテ起工スルノ意ナリシヤ、又ハ官庁ヨリ誘導シテ其私立ヲ促シタルヤ否ヤヲ承リタル後発議シタシ
○委員長曰　他人ハ知ラズ、拙者ハ当時府知事ノ職ニアリシヲ以テ、第一ニ此事アルヲ耳ニセリ、官庁ヨリ誘導セシコトハナキモ、水道改良ノ事業ハ可否如何ト問ハレ、拙者モ至極可ナリト思惟シ、其企図ヲ賛成セシナリ、尤モ私立会社ハ私益ヲ先ニシ公益ヲ後ニスルハ普通一般ノ情態ナレハ、詰リ其成立ノ目的ハ資本ニ対シ普通ノ利子ヲ得、会社モ亦損失ナキ計画ナリキ
○七番松田曰　二番ハ増額説ヲ出サレタレトモ、本員ハ廃案セント欲ス、如何トナレハ独リ此水道事業ノミナラス公益事業ヲ起サントスルニ当リ、斯ノ如キ時態ノ生スルナキヲ保セサレハナリ、況ンヤ法律ノ結果ニ依リ之カ目的ヲ達セサルトキハ其材料ヲ政府ニ出タシ、報酬ヲ受クルカ如キ弊ヲ醸成スヘキヲヤ、又矧ンヤ限リアル市区政正費ヲ以テ支弁スルニ於テヲヤ、故ニ私利ヲ計ル事業ニ対シ決シテ報酬ヲ与フヘキモノニアラス、且畢竟不用ニ帰セシ計画ヲ献納シタリトテ、之ニ向テ報酬ヲ為スヘキ理由アリトセンヤ（此際十六番着席）
 - 第28巻 p.158 -ページ画像 
○六番角田曰　七番ノ意見ハ実ニ公平ノ議論ニテ、論理上然ルヘキコトナリ、然シナカラ今其実況ヲ考フルニ、発起者諸氏殊ニ本会ノ委員タル渋沢君カ此調査ニ従事セシコトナレハ、本会設計ノ材料ニ資シタルハ疑フヘカラス、乃チ諸氏ノ調査アリシニ依リ本会ノ設計モ亦速カニ成レリト云フモ可ナラン、曾テ沼間氏モ是等調査ハ頼ミハセヌカ、水道改良設計上幾多ノ歩ヲ進メタル姿ナキニアラスト云ヒタルコトアリキ、故ニ其沿革上嘱托シテ調査セシメタリト云フ傾キハ免レサルナリ、又或委員ハ三千円ヲ下付セント云ハレタレトモ、畢竟其事柄ヲ利用シ報酬ヲ為スニ過キサレハ、弐千円ヲ贈与スルハ誠ニ穏当ナルヘシ
○十七番横瀬曰　七番並ニ六番ノ説モアリ、此金ヲ支出スルハ敢テ不可ナルニアラス、然レトモ本年度ノ予備費ヨリ支出スルハ止メ、二十四年度ノ予算ニ組入支出シテハ如何
○十九番銀林曰　本案ハ費用ヲ償フト云フニアラス、材料ニ資シタル報酬ヲ為スモノナレハ、十七番ハ二十四年度ト云ハレタレトモ、本年度ニ於テ支出シテ可ナラン
○十六番長与曰　本員ハ遅刻シタルニ依リ最初ノ説ハ存セス、只六番ノ説ヲ聞タルカ、本件ハ至極原案ニテ可ナリト信ス、元来本会ノ水道設計ハ濡手テ粟ノ攫取ト一般ニテ、大学ノ教師抔ニ頼ミ又古市技師始メ各位ノ考案其他種々ノ材料ヲ得、加フルニ古市技師欧洲行ニ会シ各国ノ実際ト学術トノ取調ヲ托シ、其際キール氏ニ四千マークノ報酬ヲ贈与シタルコトアレハ、即チ本案モ亦其例ニ依リ支出シ差支ナカラン、又東京水道設計ニアリテハ、此創立委員ノ調査カ第一着ナルカ故ニ、本会ノ参考ニナリタルハ相違ナキヲ以テ、多少ノ報酬シナスハ至当ナラント信ス
○委員長曰　議論尽キタリト認ムルニ由リ、決ヲ取ルヘシ、原案同意者ハ起立アリタシ
　　　起立十一名
○下略
　　　○是日栄一ノ出欠ハ不明。本資料第十五巻所収「東京水道会社」参照。