デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治23年8月21日（1890年）

是日栄一、当委員会ニ出席シ、給水規則案ニ関スル議事ニ与ル。

東京市区改正委員会議事録　　第三巻・第一八三―一九四丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第五十四号
　　明治二十三年八月二十一日午前九時四十五分開議
　　　　闕席　角田真平　○外十四名氏名略
　　　　出席十七員（倉田吉嗣番外席ニ着ク）
○委員長代理芳野曰　委員長不参ニ付代理ヲ嘱セラル、本日ハ昨日ノ続キ給水規則ヲ毎章朗読シ、一章ニ付キ議スル事トスヘシ
○中略
　　　　第三章　給水工事及工費
　第十二条　給水ヲ要スルモノハ、書面ヲ以テ水道掛ニ請求スヘシ
　第十三条　水道掛ハ前項ノ請求ヲ受ケタルトキハ、実地見分ノ上工費予算書ヲ調製シ其払込期日ヲ定メ、本規則書ヲ添ヘ請求人ニ通報スヘシ
　　工事竣工スルトキハ、水道掛ハ諸費ノ実額決算書ヲ請求人ニ送附スヘシ
　第十四条　使用者給水ノ廃止ヲ要スルトキハ、少クモ十四日前ニ水道掛ニ通報スヘシ
○二十八番渋沢曰　第十三条中本規則書ヲ添ヘノ文字ハ、申込書其外雛形等ヲ別ニ製定シ置クヘキモノナレハ、削除シテ可ナラン
○十六番長与曰　雛形ヲ定ムルニセヨ、心得書ノ如キモノヲ配付スルコトニ為シテハ如何
○二十八番渋沢曰　本案ハ告示ナレハ、告示中ニ規則書ヲ添フル事ヲ掲クルニハ及フマシ
○五番大貫曰　二十八番ノ説、規則書ノ文字ヲ削ルコトニ為シテハ如何
○委員長代理芳野曰　二十八番ノ本規則書ヲ添ヘノ七文字ヲ削ルト云フ説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十六名
　又曰　多数ニ依リ刪ル事ニ決シ、他ハ異議ナキヲ以テ原案ニ決スヘシ
　　　書記朗読
　　　　第四章　水料
　第十五条　専用給水ニ係ル水料ハ、建物ノ広狭・種類及地位ノ等級ヲ準トシ、左ノ方法ヲ以テ個数ヲ算出シ、壱個ニ付一ケ年金弐拾四銭ヲ徴収スヘシ
　　　個数算出方法
　　建物ノ坪数ハ左ノ割合ヲ以テ定ム
 - 第28巻 p.169 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　坪
　　　建物平坪壱坪　　　　　　　　　　　　　　　一、〇
　　　同二階坪壱坪　　　　　　　　　　　　　　　〇、七
　　　同三階以上ノ坪壱坪　　　　　　　　　　　　〇、五
　　建物ノ種類及乗率左ノ如シ
　　　石造煉瓦土蔵造　　　　　　　　　　　　乗率一、五
　　　木造　　　　　　　　　　　　　　　　　　　一、〇
　　敷地ノ等級及乗率左ノ如シ
　　　一等地位一等ヨリ二十等マテ　　　　　　乗率二、〇
　　　二等地位二十一等ヨリ四十等マテ　　　　　　一、九
　　　三等地位四十一等ヨリ六十等マテ　　　　　　一、八
　　　四等地位六十一等ヨリ八十等マテ　　　　　　一、七
　　　五等地位八十一等ヨリ百等マテ　　　　　　　一、六
　　　六等地位百一等ヨリ百二十等マテ　　　　　　一、五
　　　七等地位百二十一等ヨリ百四十等マテ　　　　一、四
　　　八等地位百四十一等ヨリ百六十等マテ　　　　一、三
　　　九等地位百六十一等ヨリ百七十等マテ　　　　一、二
　　　十等地位百七十一等ヨリ百八十等マテ　　　　一、一
　　　十一等地位百八十一等ヨリ百九十等マテ　　　一、〇
　　個数算出ノ例、第一建物ノ坪数ヲ定メ、第二ニ建物種類ノ率ヲ乗シ、第三ニ敷地等級ノ率ヲ乗シ得ル所ヲ以テ個数ヲ定ム
　第十六条　兵営・監獄・病院及学校ノ寄宿舎等多員数住居スル場所ニ係ル給水々料ハ、第十五条ノ方法ニ依リ壱個ニ付一ケ年金四拾八銭ヲ徴収スヘシ
　第十七条　官衙・学校・劇場・寄席・会社及集会所等定住ナキ場所ニ係ル給水々料ハ、第十五条ノ方法ニ依リ壱個ニ付壱ケ年金四銭八厘ヲ徴収スヘシ
　第十八条　共用給水ニ係ル水料ハ、壱個ニ付一ケ年金八銭ヲ徴収スヘシ
　第十九条　湯屋・染物屋・西洋洗濯屋・料理屋・理髪店・旅人宿・飲食店・貸座敷ハ特別営業トシ、第十五条ノ方法ニ依リ湯屋ハ一個ニ付一ケ年金四拾八銭、染物屋・洗濯屋ハ金弐拾四銭、料理店理髪店・旅人宿・飲食店・貸座敷ハ金拾八銭ノ割増水料ヲ徴収スヘシ、但本条ノ営業ニシテ数家共用ニ係ルモノハ、第十八条ニ依リ本条金額三分ノ一ノ割増水料ヲ徴収スヘシ
　第二十条　道路撒水営業者ノ使用スル撒水々料ハ、撒水スヘキ道路壱坪ニ付壱ケ年金壱銭ヲ徴収スヘシ
　第二十一条　商業・製造等ノ為メ多量ノ水ヲ消量スルモノハ、計量給水トシテ水量壱石ニ付金六厘ヲ徴収スヘシ
　　計量給水ノ水料一ケ月金壱円ニ満サルモノモ尚ホ金壱円ヲ徴収シ消費高一ケ月八百石ニ超過スルトキハ、超過石数壱石ニ付金三厘ノ割引ヲ為スモノトス、水道掛ハ計量給水ノ消費高ヲ見積リ、水料ヲ定メテ放任給水ト為スコトアルヘシ
　第二十二条　放任給水ノ水料金ハ一ケ年度ヲ左ノ四期ニ分チ、毎期初月一日ノ現在個数ニ依リ、同月十日迄ニ之ヲ徴収スヘシ
 - 第28巻 p.170 -ページ画像 
　　　第一期四月一日ヨリ六月卅日マテ　　　第二期七月一日ヨリ九月卅日マテ
　　　第三期十月一日ヨリ十二月卅一日マテ　第四期一月一日ヨリ三月卅一日マテ
　　毎期水料金徴収ノ後給水ヲ止ムルコトアルモ水料金ヲ還付セス、又水料金ニ異動ヲ生スルモ、其期内ハ之ヲ増減セサルモノトス
　　新ニ給水スルモノハ其翌月ヨリ水料金ヲ徴収スヘシ
　第二十三条　計量給水ノ水料金徴収期ハ第二十二条ニ依ル
　　計量給水ノ水料金ハ、毎期水道掛ノ見積額ヲ以テ前納セシメ、次期ノ初メニ於テ之ヲ精算シ、残余アレハ之ヲ還附シ不足アレハ之ヲ追徴スヘシ
　第二十四条　水料金ノ割合ハ時宜ニ依リ之ヲ変更スルコトアルヘシ但増額ノ場合ニ於テハ少クモ一ケ年以前ニ之ヲ告示スヘシ
○中略
○委員長代理芳野曰　三十一番ノ説ハ賛成ナキヲ以テ、四番ノ十九等ニ分ツト云フ説ニ同意者ハ起立アリタシ
　　起立二名
　又曰　少数ニヨリ原案ニ据置クヘシ、次ニ第十六条ヨリ第十八条マテヲ議スヘシ
○三番渡部曰　多員数トアルハ、多人数ノ意ナリヤ
○十九番銀林曰　然リ、原案ハ活字ノ誤植ナリ
○五番大貫曰　第十八条ニモ矢張「十五条ノ方法ニヨリ」ノ文字ヲ入レタシ
○委員長代理芳野曰　決議ヲ採ルマテモナク挿入スルコトヽシ、次ニ第十九条ニ移ルヘシ
○二番須藤曰　本条中割増云々トアレトモ、之レハ割増トセス金額ヲ掲クルコトニ為シタシ
○二十八番渋沢曰　賛成ナリ
○七番松田曰　下宿屋ハ加ヘサルヤ
○十九番銀林曰　然リ
○委員長代理芳野曰　二番ノ説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十名
　又曰　多数ナルニ依リ二番ノ説ニ決ス
○十九番銀林曰　然ラハ割増ノ二字、並ニ第十八条ニ依リノ七字ヲ削ルヘシ
○二十八番渋沢曰　数家共用トアルヲ、共用給水ト修正シタシ
○委員長代理芳野曰　十九番並ニ二十八番ノ説ニ同意者ハ起立アリタシ
　　起立十四名
　又曰　多数ニ依リ修正説ニ決スヘシ
○二十四番佐藤曰　第二十条ハ水料ヲ徴収セス市内一般無料ニテ撒水スルコトニ為シタシ、故ニ削除シテ可ナラン
○七番松田曰　二十四番ノ説ヲ賛成ス
○十四番杉本曰　行政上ヨリ見ルトキハ格別、水道ノ経済ヨリ見レハ撒水営業者ノ使用スル撒水ニハ、水料ヲ徴収スル方得策ナラン
○十九番銀林曰　市ノ区域外ニモ撒水スル部分モアレハ、徴収スル方
 - 第28巻 p.171 -ページ画像 
可ナラン
○二十四番佐藤曰　市ノ区域外ノ場所ニモ撒水スルユヘ、水料ハ取ルヘシト云ハルヽカ、市外出火ニ用ユル水料ヲ徴収スル訳ナラハ格別ナレトモ、撒水迚モ矢張一般ノ公益ナレハ、水料ハ取ルニ及フマシ
○委員長代理芳野曰　二十四番ノ第二十条ハ削除スルト云フノ説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立二名
　又曰　少数ニヨリ原案ニ決シ、次ハ第二十四条マテヲ併セ議スヘシ
○二十八番渋沢曰　第二十二条末項新ニ給水云々トアリ、其月ハ徴収セサルヤ
○十九番銀林曰　御説ノ通リニシテ其翌月ヨリ前納セシムル見込ナリ
○委員長代理芳野曰　各条トモ異議ナケレバ原案ニ決スヘシ
　　　書記朗読
　　　　第五章　違犯者処分
　第二十五条　水道掛ハ左ノ項目ニ該当スルモノアルトキ其配水ヲ停止スルコトアルヘシ、此場合ニ於テハ予メ告知スルモノトス
　　第一　水道ニ関スル諸料金若クハ諸費用ヲ指定ノ時限内ニ払ハサル者
　　第二　故意又ハ不注意ヲ以テ給水ヲ浪費濫用スル者
　　第三　前項ノ外、此規則ニ違背ノ廉アル者
　第二十六条　前条配水ノ停止ハ、違背者其違背ノ廉ヲ釐正シ、不都合ナキニ至ル迄解除セス
○二十八番渋沢曰　停止スルコトアルヘシハ寛ナリ、停止スヘシト為シテハ如何
○三番渡部曰　停止スルコトアルヘシトアレハ、停止セサルコトモアリヤ
○十九番銀林曰　第二十五条第二項ニ掲クル如ク、故意ト不注意トアリ、其他水料ノ延滞規則違背ノ如キ必ス停止スルトセハ随分気ノ毒ナルコトモアルヘシ、夫等ハ実際斟酌スル積ナレハナリ
○委員長代理芳野曰　異議ナケレハ原案ニ決スヘシ、次ニ収入予算説明書ハ如何スヘキヤ、議スルニ及フマシト考フ
○二十四番佐藤曰　説明書ノ内、分水ハ数多アルカ其内多量ノ水ヲ引用スル分ハ分水口ニ於テ水量ヲ計リ必用ノ水ノミヲ引カシメ、成丈上水ニ多分ノ水量ヲ保タシムルコトニナシ、且千川上水ノ如キ水路ハ買上クルコトニ為シタシ
○十九番銀林曰　松田知事在職ノ当時、千川上水会社ヲ許可シタルコトアレハ、今之ヲ止ムルコトハ出来マシ、併シ其水ヲ引クコトハ難カラス
○十四番杉本曰　分水ノコト等ハ水源マテニモ関係アルコトナレハ、別ニ効用アル規則ヲ定メラレンコトヲ望ム
○二十四番佐藤曰　上水分水口ニハ随分浪費者アリ、本府管轄内ハ取締モ付ケ得ヘキカ、神奈川県管内ニ属スル分ハ猶一層ノ取締方法ヲ設ケラレタキコトナリ
○十六番長与曰　水道設計ニ関スルコトハ是ニテ完了ヲ告クルニ至レ
 - 第28巻 p.172 -ページ画像 
リ、就テハ調査委員ニ代リ一言スヘシ、抑々水道設計ノ事タル三四年、其調査ニ従事セシ以来勉メテ遺憾ナキヲ期シ、或ハ内ニパーマー、クロース両氏ノ意見ヲ聞キ、或ハ外ニギール氏ノ所見ヲ叩ク等数多ノ説ニヨリ彼此対照計較シテ反覆審議ヲ尽シ、終ニ此案ヲ調成シタリキ、今ヤ本会ノ決議ヲ経テ市会ニ移スノ域ニ達セシハ、殊ニ我々ノ欣喜ニ堪エサル処ナリ、而シテ市会ノ議ニ上ルニ当リ、尚考究審査ヲ要スルコトナキニシモアラサルヘシ、故ニ我々ニ於テハ本日ヲ以テ其職務ハ完了セシモ、将来市会ノ議事又ハ実施上ニ付キテハ我々調査委員ハ其諮問ヲ受ケ、又ハ意見ヲ述ルコトヲ得ルノ栄ヲ与ヘラレンコトヲ企望ス
○委員長代理芳野曰　本日ハ代理ナルニヨリ、十六番ノ御意見ハ委員長ニ申伝フルコトヽシ、是ニテ散会スヘシ
　　　于時正午十二時

東京市区改正委員会議事録　　第三巻　　　（東京府文庫所蔵）
　明治二十二年五月十四日鬼頭悌二郎領事ニ転任シ欠員ナリシカ、同年九月二十四日農商務省参事官原敬東京市区改正委員ヲ命セラレ、之ヲ補ハル
　同年八月三日山本謙介免セラレ、逓信省工務局長志田林三郎東京市区改正委員ヲ命セラル
　同年十月五日和田維四郎免セラレ、農商務省参事官樋田魯一東京市区改正委員ヲ命セラル
　同年十月十六日福地源一郎辞任シ、東京府市部会議員楳川忠兵衛東京市区改正委員ニ撰出セラル
　同年十二月九日武藤直中退任シ、東京府市部会議員松田秀雄東京市区改正委員ニ撰出セラル
　明治二十三年一月十七日成川尚義免セラレ、大蔵省参事官横瀬文彦東京市区改正委員ヲ命セラル
　同年一月二十八日桜井勉免セラレ、内務省地理局次長梶山鼎介東京市区改正委員ヲ命セラル
　同年同月同日舟木練太郎免セラレ、海軍大技監志道貫一東京市区改正臨時委員ヲ命セラル
　同年一月三十一日前田利充新潟県書記官ニ転任シ、村上楯朝非職命セラレ、同二月六日三等警視杉本重遠・同柳田養拙東京市区改正委員ヲ命セラル
　同年二月十二日芳野世経・沼田守一・犬養毅・須藤時一郎退任シ、東京府市部会議員芳野世経・須藤時一郎・佐藤正興・山中隣之助東京市区改正委員ニ撰出セラル
　同年五月九日志田林三郎免セラレ、逓信省郵務局次長因藤成光東京市区改正委員ヲ命セラル
　同年七月二日樋田魯一免セラレ、農商務省参事官佐野常樹東京市区改正委員ヲ命セラル
　同年八月閣令第六号ニ依リ東京府市部会撰出ノ委員消滅ニ帰シ、更ニ東京市会議員芳野世経・角田真平・松田秀雄・佐藤正興・楳川忠
 - 第28巻 p.173 -ページ画像 
兵衛・須藤時一郎・山中隣之助・桐原捨三・渡部温・大貫実東京市区改正委員ニ撰出セラル

東京市区改正委員会議事録　　第四巻・第一五二―一六四丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第七十四号
　　明治二十四年十二月一日午前十時四十五分開議
　　　　闕席　角田真平　　若宮正音　　加藤高明
　　　　　　　長与専斎　　柳田養拙　　益田孝
　　　　　　　渋沢栄一
　　　　出席二十員　三十二番欠員
　　　　　　（二十七番・二十九番・三十番・三十一番ハ召集セス、又十一番補欠古川宣誉其席　ヲ充タス○倉田吉嗣番外席ニ着ク）
○委員長曰　本日ハ第百二十三号議案水道設計中浄水工場位置変換ノ件ヨリ議スヘシ
　　　書記朗読
　　　　東京市水道浄水工場及給水工場位置ヲ変換セントスル理由
　　東京市水道改良既定ノ計画ニ於テハ、浄水工場及高地給水工場ヲ南豊島郡千駄ケ谷村ニ、低地給水工場ヲ小石川及麻布ニ設置セリ今其浄水工場及高地給水工場ヲ南豊島郡淀橋町ニ、低地給水工場ヲ本郷区元町及芝区栄町ニ移サントス、其理由左ノ如シ
　　既定ノ計画ニ於テ千駄ケ谷村ヲ撰定シタルモノハ、其位置タル四谷大木戸ヨリ僅カニ八百間ノ上流ニシテ、旧水路ニ大約二十尺ノ落差アルカ故ニ、此落差ヲ利用シ、且可成旧上水路ヲ用ヒテ市街接近ノ地ニ工場ヲ設ケ、改良費ヲ節減センコトヲ計リタルモノナリ、然ルニ目下改良工事着手ニ当テ尚精細ナル調査ヲ遂ケルニ、上水路ハ千駄ケ谷村ヨリ代田橋ニ至ルノ間甚タシク南方ニ迂回シテ、其直達路二千二百六十間ニ対シテ二千八百間ノ迂路ニ由ルモノナリ、此間ニ水面落差尚十八尺余アリ、故ニ代田橋近傍ヨリ淀橋町ニ至ル間大約二千余間新水路ヲ築造スレハ、尚此落差ヲ利用シテ沈澄池水面ヲ高メ得ルコト、千駄ケ谷村ニ於ケルヨリモ十五尺ナルコトヲ得ヘシ、蓋池水面ヲ高クスルノ利益一ニシテ足ラサルナリ、高地給水区域ニ在テハ其給水量ヲ高サ十五尺ニ汲揚スルノ喞筒力ヲ減シ、従テ給水費目中ノ首要ナルモノ即チ石炭消費高ヲ減スヘシ、又喞筒力ヲ減スルカ故ニ器械ノ原価モ従テ減却スヘシ、低地給水区域ニ在テハ其給水量ニ対スル喞筒力ヲ減シ、之ニ従フ石炭消費高及器械ノ原価ヲ減却スルカ、若此減省ヲ為サヽレハ自然流下用ニ小径ノ管ヲ用ヰルコトヲ得ヘシ、若亦両者共ニ減却ヲ為サヽレハ、之ニ対スル送水量ヲ増加シ不時多量ノ水ヲ要スル場合或ハ他年需用増加ノ場合ニ於テ容易ニ之レニ応シ得ルノ利益アルヘキナリ、要スルニ沈澄池ニ於テ水面ヲ高クシ得ルコト十五尺ナルトキハ、其利スル所ハ或ハ喞筒力即チ石炭消費高及器械原価ノ減省ト為リ、或ハ管径ノ縮少ト為リ、又水量ノ増加ト為ルヘキモ、其実効タル総需用水量ヲ高サ十五尺ニ汲揚スルノ働力ヲ減シ得ルモノナリ、又池水面ヲ高クスルニ付テ鉄管敷設ニ於ケル
 - 第28巻 p.174 -ページ画像 
困難ヲ免ルヽノ利便アリ、即チ浄水工場ヨリ低地給水工場ニ送水スルニハ自然流下法ニ依ルカ故ニ、其管ハ如何ナル場合ニ於ケルモ動水勾配線以下ニ敷設セザルヘカラス、而シテ千駄ケ谷村給水工場ニ於テハ池水面ノ高霊岸島零点上百二十七尺ニシテ、鉄管線路ノ内大久保余丁町近傍ニ於テ長サ千三百間ノ間ハ、鉄管布設ノ為メ二十尺乃至三十二尺ノ掘鑿ヲ要シ、千駄ケ谷村及青山練兵場近傍ニ於テ長二百四十間ノ間ハ二十尺ノ掘鑿ヲ為スノ困難アルヘキモ、淀橋町工場ニ於テハ池水面ノ高百四十二尺トナルヘキカ故ニ、淀橋町近傍ニ於テ長二百五十間ノ間二十尺乃至二十四尺ノ掘鑿ヲ要スルノミナレハ施工ノ難易両者ノ間大差アルヲ見ルヘシ
　　此ノ如キノ利益ハ、今日ニ於テ之ヲ取得セサレハ、他日工場竣成ノ後ニ於テハ、巨万ノ工費ヲ投シタル造営物ヲ尽ク改築スルニ非サレハ、再ヒ之レヲ得ルコト能ハサルモノナリ、故ニ仮令多少ノ増費ヲ要スルモ今日ニ於テ断然之レヲ実施シ、百年ノ長計ヲ誤ラサランコトヲ企図ス
　　浄水工場ヲ淀橋町ニ移スニ付テハ、長二千余間ノ新水路築造ノ必要アルコトハ、前ニ述ベタルガ如クナレハ、之ニ対スル工費ヲ要スルコト勿論ナレトモ、仮令工場ヲ千駄ケ谷村ニ設クルモ其上流大約千間ハ、人家ニ接近シテ多少ノ汚物ヲ投棄シ、或ハ汚水流入ノ虞ナキニ非サルカ故ニ、之ニ覆蓋ヲ設クルノ必要アリテ、之カ為メニ多少ノ工費ヲ要スヘキナリ、加之本水路ハ二百有余年前ニ単ニ地中ヲ開鑿シタル露渠ニシテ、両岸及ヒ底面ノ破損ヲ防禦スルノ工ナク両岸崩レ底面損シタル所往々之アリ、又本水路ハ沿道村落ノ灌田・飲用等ノ水ヲモ流送ス、故ニ特ニ東京市ノ為メニ一ノ新水路ヲ設ケテ本市ノ専用ト為シ、沿道ニ於テ生スル汚涜ヲ防止スルハ、他年必ラス施行セサルヘカラサルモノナレハ、玆ニ二千余間ノ新水路ヲ築造スルハ、他年改良ノ必要アル水路ヲ直ニ改良スルニ過キサルナリ、亦工場ノ諸池築設ノ為メニ掘鑿シタル土壌ハ、過半新水路ノ築堤ニ用ヰルカ故ニ、剰土ノ所置ニ於テモ一大便益ヲ得ルモノナリ、工場ヲ淀橋町ニ移スノ利益是ニ止ラス、千駄ケ谷村ノ地勢タル凹凸多クシテ或場合ニ於テ、築土ノ上ニ濾池或ハ沈澄池等ヲ築構スルノ止ムヲ得ザルナリ、築土ハ時アリテ沈下スルコトアレハ危険ノ虞ナキ能ハサルカ故ニ、其安全ヲ保ンカ為メニハ充分ノ時日ト注意トヲ要シ、施行上幾多ノ困難アルヲ免レス、淀橋町ノ地形ハ高低能ク諸池ノ配置ニ適シ築土ヲ要セサルカ故ニ、危険ノ虞ナク従テ工事ノ困難ヲ見サルヘシ
　　又低地給水工場ヲ本郷元町及芝栄町ニ移ス理由ハ、抑浄水工場ヨリ給水工場ヘ送水スル鉄管ハ給水区域ニ於テ二十四時間内ニ消費スル平均水量ヲ送ルヘキナリ、給水工場ヨリ市街ニ配水スル管ハ其区域内ニ最大ノ需要アル一日中ノ最大需要量ヲ送水シ得ヘキモノタルヘシ、故ニ送水ノ速度ヲ等フスレバ管ニ大少ノ差ナカルヘカラス、且不断平均量ヲ送水スルモノハ、之ヲ最大量ヨリ最少量ニテ不定ノ水量ヲ送ルモノニ比スレハ、給水ノ確実ナルコト大ニ優＠コトアルカ故ニ、自然流下管ハ可成之ヲ延長シ、配水管ハ可
 - 第28巻 p.175 -ページ画像 
成之ヲ短縮スルニ利アリトス、今両工場ノ移転ハ自然流下管ヲ延長シ配水管ヲ短縮スルモノナレハ、則チ給水ノ安全ヲ増加スルモノナリ、非常出火ノ如キ不時ノ需用ニ応スルコトモ亦甚タ容易ナルヘク、亦同径ノ管ヲ用ヰレハ他日需用増加ノ場合ニ於テ其幾分マテハ容易ニ之ニ応スルコトヲ得ヘシ、又移設ニ係ル各工場ハ浄水工場ヨリ鉄管敷設ノ線路甚タ便利ニシテ、且其距離殆ント相等シキカ故ニ、同大ノ管ヲ以テ同量ノ水ヲ送リ両貯水池ノ水面ヲ同高タラシメ、同一ノ器械喞筒等ヲ用ヰルヲ得ルノ便アリ、若亦両工場ニ於テ器械ニ万一ノ支障ヲ生シ其運転ヲ止ムルコトアルモ、貯水池面同一ナルカ故ニ、一時双方ヨリ自然流下法ニヨリテ、給水スルヲ得ルノ便アルモノナリ
　　今工費ノ点ニ於テ新旧設計ヲ比較スルニ、其差違ナキ費目ヲ除キ旧設計ニ要スル金八拾九万九千〇四拾八円ニ対シ、新設計ニ於テハ金九拾六万〇弐百五拾四円ヲ要ス、即チ差引金六万千弐百〇六円ノ増費ナリ、然レトモ此変更ノ為メニ生スル利益ヲ仮リニ石炭消費高ノミニテ取得スルモノトスレハ、一ケ年ノ消費減高金六千五百五十円ニシテ、之ヲ年六分ノ利子トスレハ金拾万九千百八拾参円ノ元金ニ対スルモノナリ、故ニ金拾万九千百八拾参円以内ニテ此変更ヲ為シ得レハ、其利益アルコト固ヨリ言ヲ俟タサルナリ
　　　此際五番・二十二番・二十四番着席
○二十四番佐藤曰　代田橋ヨリ新設計工場マテ三万坪ノ土地ヲ要スルトノコトナルカ、其買上代一反歩ニ付金三百円ノ予算ナレトモ実際四五拾円ナラハ買得ラルヘシ、尤予算ナレハ余分ニ之ヲ見積一反歩百円ト見込置キ可ナラン、左スレハ九拾六万余円ヲ九拾四万円トシ又差引六万ヲ四万ト修正為シタシ
○番外倉田曰　坪当リ壱円ノ見積リニハ移転料ヲモ包含スルモノナレハ、其積リニテ議セラレタシ
○三番渡部曰　二十四番ノ説ヲ賛成ス、実際一反歩ニ付百円ナレハ充分買得ラルヘシ、三百円ノ予算ハ甚過当ナリ
○二十一番山中曰　酷ニ予算ヲ減スルハ賛成スルヲ得ス、移転料迄ヲ込メ壱円ハ敢テ不当ニアラサルノミナラス、実際ノ売買一反百円位ノ価格ナルヘシ、元来近在ハ菜圃等ニ必要ナレハ、田地ヨリ畑地ノ方直段高キユヱ、折合テ弐百円ト為サハ不可ナカラン、殊ニ予算ヨリ買上ノ方騰貴シ、爾後増額ヲ請求スルカ如キハ好マシカラサルコトニ付キ、成ルヘク相当ノ算勘ヲ採ラレンコトヲ希望ス、尤市会ニ移ストキハ地代ト移転料ト各別ニ調査セラレンコトヲ欲ス
○二十四番佐藤曰　本員ハ二十一番ノ説ヲ駁スルニハ非ラサルモ、只畑地ノ比較ヲ述ヘ参考ニ供セン、府下近在ノ中小松川村辺カ第一高価ノ地所ニシテ、目黒・渋谷等ハ之レニ亜クモノナリ、此辺ノ畑地ハ八円ヨリ拾五円位ナレハ買得ラルヽ事実ナレハ、此場所ノ如キハ実際百円ノ予算ナレハ充分ナリ、併シ別ニ御賛成ナクハ敢テ主張スルニ非ラス、念ノ為メ断リ置ク
○三番渡部曰　買上地ハ畑地ノミナルヤ、又人家等モアリヤ
○十九番銀林曰　人家ハ稀ニシテ概ネ畑地ノミナリ
 - 第28巻 p.176 -ページ画像 
○二十二番古市曰　買上代価ノ高低ハ何レニテモ宜シケレトモ、最前ノ給水工場ニ充テタル敷地ノ価格一坪壱円ナレハ之ヲ標準トシ、移転料ヲ加ヘテ起算シタルモノナリ、尤其当否ハ予算ノ時ニ議セラルルコトニ為シタシ
○五番大貫曰　本員ハ別段ノ意見アルニ非サレトモ、已ニ二十一番ノ説ノ如ク一旦予算ノ定マリタル以上、後ヨリ増額スル抔ハ甚タ好マシカラサルコトユヱ、一反歩弐百円ト極メ置クコトニ同意スヘシ
○委員長曰　大体ノ工場位置変換ニ就テハ、各員ニ於テ別段異存ナキカ如シ
○二十一番山中曰　予算ハ其目的ヲ立ツルニ止マルモノナレハ、位置変換ニ付テ可否ヲ決スルヲ主眼トスヘシ、故ニ速ニ採決アランコトヲ希望ス
○委員長　二十四番ノ予算修正説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立三名
　又曰　少数ナルニ依リ消滅シ、二十一番ノ一反歩弐百円トスル説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十一名
　又曰　多数ナルヲ以テ修正説ニ決シ、直チニ修正ノ廉ヲ朗読セシムヘシ
　　　書記朗読
　　今工費ノ点ニ於テ新旧設計ヲ比較スルニ、其差異ナキ費目ヲ除キ旧設計ニ要スル金八拾九万九千円ニ対シ、新設計ニ於テハ金九拾五万円ヲ要ス、則チ差引金五万千円ノ増費ナリ、然レトモ此変更ノ為メニ生スル利益ヲ仮リニ石炭消費高ノミニテ取得スルモノトスレハ一ケ年ノ消費減高金六千五百五拾円ニシテ、之ヲ年六分ノ利子トスレハ金拾万九千百八拾参円ノ元金ニ対スルモノナリ、故ニ金五万千円ヲ以テ此変更ヲ為シ得レハ、其利益アルコト固ヨリ言ヲ俟タザルナリ
　又曰　只今朗読セシ修正ニテ異存ナキヤ、異存ナクハ可決トシ、内務大臣ヘノ上申案ハ幹事ニ於テ起草セシム、次ノ議案第百二十一号二十五年度ノ事業ニ移ルヘシ
　　此際十五番着席
　　　（参考ノ為メ第百二十一号議案等ヲ左ニ掲ク）
　　　　明治二十五年度東京市区改正事業及経費概算
　　一金参拾八万円　　　　　　　東京市区改正費
　　　　　　内訳
　　　金五千七百九拾六円六拾壱銭　　溝渠費
　　　金五拾弐円拾五銭七厘　　　　　測量費
　　　金参千参百九拾円　　　　　　　東京市区改正委員会費
　　　金八百拾四円四銭　　　　　　　東京湾築港調査費
　　　金弐拾五万円　　　　　　　　　市公債償還基金
　　　金拾万円　　　　　　　　　　　借入償還金
　　　金六千九百円　　　　　　　　　同利子
　　　金弐拾円　　　　　　　　　　　雑支出
 - 第28巻 p.177 -ページ画像 
　　　金壱万参千弐拾七円拾九銭参厘　予備費
○中略
　　議第百二十一号ノ六
　　　　明治二十五年度本会費予算内訳書
　　金参千参百九拾円　　　　　　東京市区改正委員会費
　　　　　　内訳
　　　金弐千百参拾五円弐拾銭　　　　雑費
　　　　　　内
　　　　金千百四拾円
　　　　　　但月給五拾円、参拾円、拾五円各一人
　　　　金八百円
　　　　　　但嘱托員五名分一名金百五拾円ツヽ此金七百五拾円、書記以下五拾円
　　　　金百六拾五円拾銭
　　　　　　但常置給仕一人延三百六十五日一日金拾四銭此金五拾壱円拾銭、臨時雇給仕二人延百二十日分一日金拾弐銭五厘此金拾五円、小使月手当一人金参円此金参拾六円、経師一人延二十四日一日金五拾銭此金拾弐円、雇人足賃延百八人一日金弐拾五銭此金弐拾七円、人力車賃延百二十回一回金弐拾銭此金弐拾四円
　　　　金参拾円拾銭　　　　　　　　　　旅費
　　　　　　但委員長委員日当金拾円・同汽車賃金七円弐拾銭・同車馬賃金弐円八拾銭、書記日当金四円五拾銭・同汽車賃金四円弐拾銭・同車馬賃金壱円四拾銭
　　　金千弐百五拾四円八拾銭
　　　　　　内
　　　　金参百弐拾六円参拾銭　　　　　　備品並消耗品費
　　　　　　但備品新調修繕金百弐拾八円・消耗品金百九拾八円参拾銭
　　　　金四百七拾九円　　　　　　　　　印刷費
　　　　　　但議事録金参百六拾円、議案及報告書類金五拾円、製本及表装費金五拾円、図面諸罫紙摺立料金拾九円
　　　　金弐百円
　　　　　　但翻訳料金百参拾円、謄写料金七拾円
　　　　金四拾五円
　　　　　　但郵便税金参拾五円、運搬費金拾円
　　　　金弐百四円五拾銭
　　　　　　但委員長委員賄延八百賄金弐拾五銭此金弐百円、給仕賄延九十賄一賄金五銭此金四円五拾銭
　　　書記（議第百二十一号）朗読
○二十四番佐藤曰　市区改正費ハ参拾万円ヨリ五拾万円ノ制限ナルカ水道改良ニ付テハ年々弐拾五万円其資ニ充テサルヘカラス、五拾万円ノ最高限ニ拠ルモ他ノ事業資ハ弐拾五万円ニ過キス、然ルニ二十五年度ハ参拾万円トアリテ負担ヲ減スルハ此上ナキモ、果シテ然ラ
 - 第28巻 p.178 -ページ画像 
ハ市区改正ハ施行セサル積リナリヤ
○十九番銀林曰　市区改正ノ事業ハ市債壱千万円ノ内ヨリ参百五拾万円ヲ以テ之ニ充ツルノ予定ナレハ、当分夫レニテ支弁ノ積リ、只溝渠費ニ至リテ急施ヲ要スルモノアルカ故ニ、斯ク起草セシナリ
○七番松田曰　本案ニ経費概算トアリ、矢張経費ハ本会ニ於テ議決スルモノトナスヤ
○十九番銀林曰　然リ、昨年モ議論アリシカ、前例ニ依リ本会ニ於テ取調ヘシナリ
○七番松田曰　然ラハ此議決ハ市参事会ニ移サルヽモノナリヤ
○十九番銀林曰　然リ
　　此際一番着席
○七番松田曰　本会ニ於テ経費ヲ議スルハ、市区改正条例ノ何条ニ拠ルコトナリヤ
○十九番銀林曰　条例中明文ナキモ、事業ニ随伴スル費ハ併セテ議セサルヲ得ズ、即市区改正ノ事業ナルニ拠リ条例ニ基キ議スルモノナリ、其予備費ノ如キモ矢張事業ニ対スル予備ナレハナリ
○三番渡部曰　焼失地アラバ其費用ハ如何為ス積リナルカ
○十九番銀林曰　然ルトキハ参百五拾万円ノ内ヲ以テ支弁スル積リナリ
○七番松田曰　十九番ノ説明ニ拠レハ、今度市参事会ヘ此議決ヲ移スノ手続ハ如何ナルヤ知レサレトモ、元来経費ヲ本会ニ於テ議決シ以テ他ニ通知スルカ如キハ面白カラサルナリ、否面白カラサルノミナラス権限上不都合ナリ、故ニ本員ハ事業ノ参考タル金額ヲ議スルト云フニ至リテハ、条例ニ違背スルモノナルコトヲ一一《（言カ）》シ置ク
○十五番桐原曰　償還金ノ拾万円ハ増減スルヲ得ルヤ否ヤ
○十九番銀林曰　市ノ通常経済ヨリ拾万円・八万円・五万円ノ三口ヲ借入タリシカ、当年ハ拾万円丈返還スル積リ、尤前年度ニ於テハ追徴スルモ不可ナカリシカ、賦税ノ再課ハ好マシカラサルヲ以テ、已ムヲ得ス借入タルモノナリ、之ヲ弁償スルモ尚ホ八万円ト五万円トノ借金ハ残レリ
○十五番桐原曰　本案ノ金額ニ就テハ七番ヨリ縷々述ヘラレタル処アリシカ、本員等ハ本会ハ事業ト共ニ其金額ヲ議定スル権限アリト信セリ、然ルニ先回此問題ノ出テシ時、或ル委員ハ本会ニ於テ之ヲ議定シ、市参事会・市会ハ勝手ニ増減シ得ルトノ説ナリシカ、已ニ本会ニ於テ議決シタル以上ハ、飽ク迄市会ヲ通過セシムル目的ナカルヘカラス、尤目今ハ市民モ彼是喋々スル折柄ナレハ果シテ参百五拾万円ニテ改正事業ヲ為シ得ルノ見込アレハ、此借入償却金ヲ五万円ニ減スル動議ヲ提出スヘシ
○二十五番芳野曰　本年度ハ事業ナキカ如クナレトモ事業ナキニハアラス、故ニ一々其事項ニ就キ議セラルヽ方可ナラン
○五番大貫曰　二十五番ノ説ノ如ク為シタシ
○委員長曰　時刻ナレハ休憩スヘシ
　　　于時正午十二時

 - 第28巻 p.179 -ページ画像 
　　　午後一時三十五分着席
○委員長曰　午前ニ引続キ議セラルヘシ
○四番梅川曰　午前ニハ権限上ノ議論モアリシカ、単ニ金額ヲ議スルトスルハ不同意ナレトモ、参考トシテ議スルハ差支ナシ、尤参考ナラハ寧ロ収入ヲ議スル方当然ナラン、而シテ其収入ニ関シテハ負担者ノ休戚ニモ関シ、利害ノ及フ処尠々ナラサレハ、一応其説明ヲ承リタリシ
○十九番銀林曰　収入予算書ハ今玆ニ持参セサレハ明言シ難キモ、其概算ハ河岸地料拾参万円、清酒輸入税七万八千円程ニシテ、其他ハ土地家屋ニ賦課スルモノト御承知アリタシ
○七番松田曰　強テ申スニハアラサレトモ、参拾八万円ヲ取リ上ケ其金ヲ使用スルハ何人ニテモ出来得ルコトナリ、二十四年度ニテハ家屋ニハ特別税ヲ課セス、只地租ノミニ之ヲ課シタルハ、畢竟負担重シトシテ然セルモノナリキ、此方針ヲ充分確定スルニ非レハ、参拾八万円ヲ取ルヤ否ヤヲ定ムルコトモ出来ス、若シ参拾八万円ヲ取ルトセハ、収入ヲ議シタル上ニアラサレハ不可トス、例ヘハ地租割ハ幾許、家屋割ハ幾許ト為ス等ノコトヲ議スル尤必要ナリ、又十九番ノ説ノ如ク清酒税及河岸地料等ハ一定ノ極メアレトモ、土地・家屋ニ賦課スルコトハ市民ノ休戚ニ関係スル大ナルヲ以テ充分ノ考慮ヲ要スヘキハ勿論ナリ、前年度ノ如ク仮ニ地租ノミニ賦課スルモノトスルモ、目的ノ金額ニ達セサレハ不得止家屋ニ課セサルヲ得サル結果ヲ生スヘシ、況ヤ本会ニ於テ金額ヲ議スルモ前後徹底スルコト能ハサレハ、寧ロ単ニ事業ノミヲ議スルコトニ為スニ如カス、若シ本案ヲ徹底セシメントセハ、先以テ収入ヲ示サレタル上議スルコトニ為スヘシ、然セハ即本員等ハ他ノ市税地方税等ノ権衡ヲ計較シ議スルコトヽセン
○十九番銀林曰　概略ナレハ御話申スヘシ、河岸地料ハ拾弐万八千円清酒税ハ九万参千円ニシテ、地租壱円ニ付四拾銭トスレハ拾万八千円ナルモ、其余ヲ地租ノミニ取レハ壱円ニ付七拾銭トナレリ、而シテ家屋ノ箇数ハ一千七十万箇ナレハ壱銭トシテ拾万円余、八厘トスレハ八万円余トナル故ニ、地租ニ七拾銭ヲ課スルモノトセハ家屋税ハ課セサルモ不足アルコトナシ
○七番松田曰　然ラハ二十五年度ノ特別税ハ従来ニ例ノナキ重税ヲ課スルニ至ラン、殊ニ家屋税ノ如キハ二十四年度ニ之ヲ課セサルニ、二十五年度ニ至リ更ニ徴収スルハ市政上不得策ナリ、見ヨ三十八万円ト極メル時ハ勢ヒ地租ニ七拾銭、家屋ニ壱銭ヲ課セサルヲ得ス、要スルニ課税ノ寡少ヲ希望セラルヽハ十九番・十八番モ同感ナルヘケレハ、其収入ニ由リ二十五年度ノ経費ハ何万円ト議定スルコトニ為シタシ、況ンヤ当時河岸地料ノ如キモ頗ル不廉ナリト喧伝スル折柄ナレハ、是等モ共ニ多少ノ減額ヲ要スルヲヤ、否ラサレハ条例ノ通リ単ニ事業ヲ議スルニ止メハ可ナラン
○二十五番芳野曰　左程面倒トハ思ハサリシニ、図ラサリキ議論アリトハ、抑モ本案ノ溝渠測量調査費等、即事業ナレハ之ヲ以テ議シ敢テ不可トセンヤ、其他償還金ノ如キ只懐ロ合ノ噺シタルニ過キサレ
 - 第28巻 p.180 -ページ画像 
ハ、是又差支ナキノミナラス、表面上ハ市会ニ一任スルモノナリ、尤予備費ノ如キハ事業ノ興廃ニ関スルヲ以テ、大ニ増減ヲ要スレトモ、結局六ケ敷議論ニハ及ハサルヘシ
○十五番桐原曰　七番・四番ノ御忠告ノ御深切ナルハ徹底セシカ、本年ニ限リ収入ヲ調査シテ議スルトセハ先例ニ背クノ嫌ヒアルヲ以テ市会撰出ノ委員ハ是等ノ事ヲ脳裡ニ存シテ議スレハ宜シカラン、故ニ条例ニ定メアル通リ、少ナクモ参拾万円ハ此四種ノ税ニテ支弁ヲ要スヘキモノナレハ、此四種内ニ就キ彼此収入ノ目的ヲ定ムレハ足レリ、本会ニテハ本会丈ケノ議決ヲ為シ、市会ニ於テ其金額ヲ増減セハ可ナラン
○委員長曰　逐条ニ議スルコトヽ為スヘシ
　　　書記（議第百二十一号一）朗読
○二番須藤曰　新タニ道路ヲ開設セシ所ナリヤ
○十九番銀林曰　然リ
○委員長曰　異議ナキヲ以テ原案ニ決シ、次ニ移ル
　　　書記（議第百二十一号ノ二）朗読
○五番大貫曰　「かぎ」ノ手ニナリタル所モ拵ヘサルヲ得サルヤ
○十八番伊藤曰　致方ナシ
○三番渡部曰　焼残リノ場所ハ水道布設ノ為メ来年度ニ於テ施行スル所ナリヤ如何
○十九番銀林曰　来年度ハ如何アルヘキヤ、又此通リヲ改正スルト否トハ目下未タ判然セス
○委員長曰　異議ナキヲ以テ原案ニ決ス
○二十一番山中曰　本員ハ諸君ニ訴ヘ置キタキコトアリ、其ハ別議ナラス、渋沢・益田両臨時委員ノ資格ニ付キ、内務大臣ト見解ヲ異ニシタル点ナリ、故ニ一応御考慮ヲ煩タシ、書類ハ書記ノ席ヘ回シ置キタリ
○委員長曰　本日ハ是ニテ散会トシ次ニ明後三日例刻ヨリ開会スヘシ
　　　于時零時五十五分