デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治25年1月13日（1892年）

是ヨリ先、昨二十四年八月、東京商工会閉鎖ニヨリ、是日ヲ以テ栄一、益田孝ト共ニ当委員会臨時委員ヲ免ゼラル。次イデ三月二十五日、東京商業会議所ノ推薦ニヨリ再ビ命ゼラル。

東京市区改正委員会議事録　　第四巻・第一七一―一七九丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第七十六号
　　明治二十四年十二月十四日午前十一時十分開議
　　　　闕席　大森鍾一　　　角田真平　　奥田義人
　　　　　　　斎藤修一郎　　加藤高明　　桐原捨三
　　　　　　　古市公威　　　田健次郎　　佐藤正興
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　　　　　　　益田孝　　　　渋沢栄一　　長与専斎
　　　　出席十四員　三十二番欠席（二十七番・二十九番・三十番・三十一番ハ召集セス、中島鋭治番外席ニ着ク）
○上略
○委員長曰　異議ナキヲ以テ原案ニ決シ、前キニ二十一番ヨリ提出セラレシ建議ニ移ル
　　　書記朗読
　　東京市区改正ノ事業ハ商工業ニ直接ノ関係アルヲ以テ、去ル二十一年十月東京府知事ハ東京商工会ニ其会員中ヨリ市区改正臨時委員タルヘキモノ二名ヲ撰ヒ申出ヘキ旨令達セラレ、商工会ハ直チニ臨時会ヲ開キ、会員渋沢栄一・益田孝ヲ撰挙シテ府知事ニ上申シ、府知事ハ之ヲ内務大臣ニ具状シ、右両名ハ同月三十一日内閣ヨリ東京市区改正臨時委員ヲ命セラレタリ
　　二十四年八月東京商工会ハ閉鎖スルニ至リタルヲ以テ、該会ヨリハ自今右委員ヲ差出難キ旨、商工会々頭ヨリ市区改正委員長ニ其旨ヲ届出タリシニ、委員長ハ左ノ通リ通牒セラレタリ
　　　東京商工会閉鎖ノ為メ、爾後本会委員差出兼候趣御届有之候ニ付、其筋ヘ上申候処別紙之通リ通知相成候間、本会委員ハ従前ノ通リ御心得有之度、此段申進候也
　　　　明治二十四年九月二十六日
　　　　　　　　　　　　東京市区改正委員長　富田鉄之助
　　　　　元東京商工会頭　渋沢栄一殿
　　　（別紙）
　　　東京市区改正臨時委員任免之儀ニ付、発第一五八号ヲ以テ上申相成候処、東京商工会ハ閉鎖相成候トモ臨時委員ノ資格ハ為メニ消滅スヘキモノニ無之、依テ該上申ニ対シテ別ニ詮議不相成候条、此段及御通知候也
　　　　明治二十四年九月二十二日　　　　　　内務大臣秘書官
　　　　　東京市区改正委員長　富田鉄之助殿
　　然ルニ東京商工会ヨリ撰出シ任命セラレタル委員ニシテ、其商工会ノ閉鎖スルニ当リテハ自カラ其資格ノ消滅セシコトハ勿論ナルニ、内務大臣ハ前記ノ如ク通牒セシメラレタリ、是本員ノ了解ニ苦ム所ナルカ故ニ、資格消滅ノ当否ヲ諸君ニ質シ、内務大臣ニ具申スル所アラントス
○二十一番山中曰　只今書記ノ朗読アリシハ、大体ノ趣意ナリ、抑東京商工会ハ其初メ明治十六年《（マヽ）》ニ商業講習所《（マヽ）》ナルモノヲ設立セシニ起因シ、後チ府知事ノ誘導ニ依リ設定シタルモノニテ、私会ノ如クシテ公会ノ如キ性質ヲ帯シモノニテ、協力ノ会議所ナリシカ、市区改正審査会ノ開設アリシトキ其委員タルヘキモノヲ選出スヘキ旨達セラレ、渋沢・益田両氏ニ該委員ノ命アリ、而シテ当時委員長ノ認許ヲ得、商工会員中特ニ相談委員七名ヲ置キ、其事ノ得失利害ヲ談議スルコトニテアリキ、後チ審査ヲ了リ二十二年八月十七日市区改正条例ヲ定メラレタルトキモ、亦商工会ヨリ委員ヲ命セラルヘキ筈ト心得居タルニ、其条例ニハ何等ノ規定モアラサリシ、然レトモ従来参列シタル縁故モアリ、事実上参列セサルヘカラサルモノナルカユ
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ヱ、商工会ヨリ其次第ヲ建議シ、終ニ本会ヘ参列スルノ慣例ヲ作リタル訳ニテ、商工会ノ筆記ノ上ニテモ明瞭ナリ、而シテ商工会ハ商業会議所ノ成立タルヲ以テ已ニ解散トナリシカ為メ、商工会々頭ハ同会撰出ニ係ル本会委員ハ其資格ナキモノト認メ委員長ヘ申出テ、委員長ヨリ尚又内務大臣ヘ具申セシニ、其具申ニ対シ只今書記ノ朗読セシ如ク内務大臣ヨリ通知セラレタルハ、実ニ意外ノコトナリキ諸君記憶セラレヨ、抑商工会ハ従来市区改正ノ為メ尽力セシコト少ナカラサルニモ拘ハラス、組織上之ヲ加ヘラレサリシユヱ、商工会ヨリ建議シ終ニ臨時委員トシテ参列スルコトニナリシナリ、然ラハ商工会閉鎖セハ無論其資格消滅ニ属スヘキニ、内務大臣秘書官ノ通知ハ全ク之レニ反対ノ結果ヲ示サレタルナリ、諸君宜シク御賢考アランコトヲ希望ス
○二十五番芳野曰　内務大臣ハ商工会ヲ代表セシムル為メ其会ヨリ撰出セシメタルモノトスレハ、該会ノ閉鎖ニ伴ヒ資格ノ消滅スヘキハ勿論ナリ
○十九番銀林曰　最初ノ手続ハ二十一番ノ述ヘラレタル通ナレトモ、内務大臣秘書官ノ通知ニ依レハ商工会ノ存廃ニ関セス臨時委員ハ矢張臨時委員ナリトノコトニテ、已ニ東京府庁モ其考ヘニテアリキ、然レトモ諸君ノ御意見モアルコトナレハ、今一応同秘書官ヘ照会スル方可ナラン
○二十五番芳野曰　今更是等ノ当否ヲ論スルモ如何ナレハ寧ロ商工会ヨリ撰挙セラレタル会員ハ自ラ辞職セラルヽ方穏当ナラント思ヘリ
○二十一番山中曰　十九番・二十五番ノ仲裁説アリシモ、果シテ秘書官ノ通牒カ間違ナラハ、其間違ヲ取消スハ内務大臣ト雖トモ当然ナリ、二十一年九月益田孝カ審査会ニ参列ノ建議ヲ為シタルヨリ、内務省ハ商工会ニ二名ヲ撰ミ申出ヘシトノコトヲ府知事ヲ経テ達セシナリ、即商工会ヨリ撰出セシメシハ東京府知事ニ非ラスシテ内務大臣ナレハ、同大臣ノ間違ヒナルハ言ヲ竢タス、故ニ辞表ヲ出ス抔トハ本員甚タ不同意ナリ
○三番渡部曰　二十一番ノ説至極尤ナリ、商工会員中ヨリトノ明文ニ拠リ撰挙セシコトナレハ、二十五番ノ辞表ヲ呈出セシムル説ノ如キハ不可ナリ、無論内務大臣ノ見解カ錯誤ナラン
○二十五番芳野曰　仲裁説トノ御論モアレト、敢テ然ラス、委員会組織中ニ資格ヲ掲ケラレサルモノハ何人タリトモ会員タラシムルヲ得ルハ、内務大臣ノ権内ニ属スルモノナレハ、臨時委員ニ資格ナト云ヘルコトハ元来之レナキモノナリ
○二十一番山中曰　資格ナキ者ナラハ、焉ンソ其決議ニ与ルヲ得ンヤ閣令及勅令ヲ以テ成立タル臨時委員ハ其資格ナキ何人ニテモ可ナリトセハ、政府ハ終ニ都合ヨキ人物ヲ撰出スルニ至リ、施テ市費ヲ濫用セラルヽニ至ラン、豈危険ナラスヤ、決シテ何人ニテモ宜シトノ謂ニ非ス、畢竟商工会員ハ商業ニモ経験アリ、又市税ノ多額ヲ負担スルモノナレハ、委員ニ加ヘラレタルモノト信ス
○二十五番芳野曰　本員ハ臨時委員ニ資格ナルモノアルヘキナシト信ス、何トナレハ閣令ニ市会議員ハ市会ニ於テ之ヲ撰定ストアリテ、
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臨時委員ハ商工会ヨリ撰出セヨトノ明文ナケレハナリ
○三番渡部曰　臨時委員ハ誰レニテモ宜シキモノナレハ、直チニ渋沢益田ノ両人ニ命シテ可ナラン、然ルニ商工会ヨリ撰出シタル以上ハ商工会閉鎖セハ自ツカラ其資格ノ消滅スヘキハ論ヲ竢タサルナリ
○五番大貫曰　建議アリシヨリ成立セシモノナレハ、商工会閉鎖セハ消滅スルカ至当ナラン、結局更メテ任命アルヘキモノナレハ、二十一番ノ説ヲ賛成ス
○九番田坂曰　本会カ臨時委員ヲ必要トスルノ理由ヲ推究セハ、自ツカラ釈然タルヘシ、即商工業ニ熟達セシ人物ヲ択フニアリシモノナリ、然ラハ府知事ヨリ商工会ヘ訓令セシハ、商工会ハ商工業ニ熟達セシ人ノ集会所ナレハ、之ヲ撰出セシムルニ至極便利ナルヲ以テナラン、若其当時商工会ナルモノナカリセハ商工局ヘテモ依頼シ、適当ノ人物ヲ撰ハシムル等ノ手続ニ及ヒシナラン、果シテ然ラハ両臨時委員ハ則商工上熟練ナル人物ナルカ故、仮令商工会閉鎖スルモ其委員ノ消滅スヘキ理由アルヘキニ非ス、内務大臣ノ所為当然ナラン
○二十一番山中曰　九番ノ如キ誤解ノ説モアレハ、曾テ商工会ヨリ建議セシ書類ヲ朗読セシメラレタシ
　　　書記朗読
○中略
○十一番古川曰　只今九番ノ議論ハ少シク誤解アルカ如シ、二十一番ノ説至当ナラント信セリ、併シ秘書官ヨリノ書面ハ委員長ヘ宛タルモノナレハ、今一応委員長ヨリ秘書官ヘ照会セラルヽ方可ナラン
○七番松田曰　曩キニ議案ノ朗読アリシトキハ少シク解シ難キ点アリシカ、追々論議アリテ初メテ分明セリ、素ト臨時委員ハ無カリシニ閣令ヲ以テ置クコトヲ追加セラレタルモノナレトモ、其撰挙法ナキヲ以テ内務大臣ハ思フ所ノ人物ヲ委員ニ奏請スルヲ得ル文法ナリ、即閣令第二条ニ其撰挙ノ資格ヲ規定シアラサレハナリ、左スレハ秘書官ノ説モ敢テ不当ニ非ルヘシト雖モ、其会ヨリ撰出セヨトアル以上ハ恰モ商工会ハ其撰挙区域トナリシモノヽ如シ、果シテ然ラハ商工会ナル撰挙区、無ニ帰セハ、其区ヨリ撰出セラレタル委員ノ存在スヘキ謂レナシ、即彼ノ甲郡カ乙郡ニ合併シタルトキ、又ハ磐梯山ノ破烈ニ際シ其村落ノ陥没シタル如キ、何レモ消滅シタル以上ハ、其ヨリ出タル委員ハ無論存在スヘキモノナラス、然レトモ内務大臣ニシテ猶ホ其非ヲ改メラレサルトキハ、二十一番ハ行政訴訟ヲ為スマテニモ至ルヘケレハ、是レハ十九番ノ説ノ如ク此旨意ヲ今一応照会スルコトニ為ス方可ナラン
○九番田坂曰　最初其手続ヲ知ラサリシ為メ、少シク心得違ヒノ点アリシナリ、今書記ノ朗読アリシヲ以テ前説ヲ更メ、十九番ノ説ニ賛成ス
○三番渡部曰　二十一番ニ問フ、其精神ハ秘書官ニ推問スルトノコトニテモ意見ナキヤ
○二十一番山中曰　内務大臣秘書官ヨリトアルヲ以テ、即内務大臣ニ向ツテ具申セント欲セシナリ、然レトモ其理由ヲ秘書官ニ推問スルニ於テハ素ヨリ異論アルナシ、但タ此儘ニ差置トキハ人民ノ権利ヲ
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伸暢スルコト能ハサルカ為メ、諸君ノ意見ヲ諮ヒ、以テ是正セシメンコトヲ希望スルニ外ナラス
○委員長曰　然ラハ委員長ノ資格ヲ以テ、本会ヨリ今一応同秘書官ヘ照会スルコトニ為スヘシ、本日ハ散会
　　　于時零時四十二分
　　　○本資料第十九巻所収「東京商工会」明治二十一年九月十三日ノ条参照。

官報　　第二五五九号　明治二五年一月一四日
　　　　叙任及辞令
　　　　　　　　　　　　　　　　　　従四位　渋沢栄一
　　（各通）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　益田孝
東京市区改正臨時委員ヲ免ス（以上一月十三日内閣）

稟申録　　商部銀行ノ部　明治二十五年　　　（東京府文庫所蔵）
明治廿五年一月十五日　　　　　第二課主任属　○氏名略
知事（印）
　内務部長（印）　　第二課長（印）　　掛首席（印）
　　　　市区改正臨時委員指定ノ義ニ付照会按
　　東京商業会議所会頭殿（親展）　　　　　　　　知事
東京市区改正委員会ニ於テ臨時委員ヲ要シ候ニ付、本市ニ御座候者にて商工業務ニ熟達シ、該委員ニ適当ト認ムル者二名貴会ヨリ至急御申出有之度、此段及御依頼候也
　（理由）　別紙訓令ニ依リ本按照会ニ及フ
（別紙）
東京市区改正委員会ニ於テ臨時委員ヲ要シ候条、商工業務ニ熟達シ該委員タルヘキ者二名ヲ指定シ、至急申出ヘシ
右訓令ス
　　明治廿五年一月十四日
　　　　　　　　　　　　　内務大臣　子爵　品川弥二郎印
　　　　東京府知事　富田鉄之助殿

稟申録　　商部銀行ノ部　明治二十五年　　　　（東京府文庫所蔵）
明治廿五年三月十八日　　　　　第二課主任属　○氏名略
知事（印）
　内務部長（印）　　第二課長（印）　　　　掛首席（印）
　　　　東京市区改正臨時委員指定ノ義ニ付上申按
　　内務大臣殿（親展）　　　　　　　　　　　　　知事
東京市区改正委員会ニ於テ臨時委員ヲ要スルニ付、該委員タルヘキ者二名ヲ指定シ、可申出旨丙第廿九号訓令ニ依リ、東京商業会議所ニ諮問シ、本市居住ノ商工業者中ニ就キ左記ノ者二名ヲ指定候条、此段上申候也
　深川区福住町四番地　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　日本橋区北島町一丁目卅六番地　　　　　　益田孝
　（理由）　前議ニ対シ別紙ノ通商業会議所会頭ヨリ申出ニ依ル
 - 第28巻 p.185 -ページ画像 
（別紙）
去一月十八日附ヲ以テ東京市区改正委員会ノ臨時委員タル可キ者二名申出候様御依頼ニ付、去三月十一日ノ臨時会ニ於テ審議ノ末、本市住居ノ商工業者中ニ就キ左記ノ両名ヲ推撰候間、此段御回報申上候也
　　　　　　　　　　　　　　　　東京商業会議所会頭
　　明治二十五年三月十七日　　　　　　　渋沢栄一印
　　　　東京府知事　富田鉄之助殿
　深川区福住町四番地　　　　　　　　　　渋沢栄一
　日本橋区北島町一丁目三十六番地　　　　益田孝

第二回東京商業会議所事務報告　　第二八頁　明治二六年四月刊
一東京市区改正臨時委員ノ候補者推薦ノ件
　明治二十五年一月十八日附ヲ以テ、富田東京府知事ヨリ東京市区改正臨時委員二名ヲ要スルニ付、本市住居ノ商工業者中ヨリ其候補者ヲ推薦アリタキ旨照会アリタリ、依テ同年三月十一日第十一回ノ臨時会議ニ於テ渋沢栄一・益田孝ノ両君ヲ推薦シ、同月十七日之ヲ同府知事ヘ申報シタリ

官報　　第二六一九号　明治二五年三月二六日
　　　　叙任及辞令
　　　　　　　　　　　　　　　　　　従四位　渋沢栄一
　　（各通）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　益田孝
東京市区改正臨時委員ヲ命ス（三月二十五日　内閣）