デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

2部 社会公共事業

7章 軍事関係事業
3節 日露戦役
1款 帝国海事協会
■綱文

第28巻 p.467-471(DK280065k) ページ画像

明治37年8月29日(1904年)

是日当協会ニ於テ、第一回義勇艦隊創設委員会開カル。栄一之ガ委員タリ。


■資料

中外商業新報 第六七九九号 明治三七年八月三〇日 義勇艦隊創設委員会(DK280065k-0001)
第28巻 p.467-468 ページ画像

中外商業新報  第六七九九号 明治三七年八月三〇日
    義勇艦隊創設委員会
帝国海事協会にては、昨廿九日午後五時より第一回義勇艦隊創設委員会を同会楼上に於て開会し、有地理事長より有栖川総裁宮殿下より下し賜ひし左の御令旨を代読し、終つて補助船舶、即ち義勇艦隊製造期及其製艦費募集等に就き協議する所ありて散会したり
      御令旨
 海軍力の扶殖を図り、併せて航海業の促進を努めんか為め、帝国義勇艦隊を建設するは、刻下の時局に鑑み最も緊要の事業なりとす、創設委員諸子克く意を玆に致し、同心戮力本会の企劃をして成功せしめんことを期せよ
 - 第28巻 p.468 -ページ画像 
  明治三十七年八月二十五日
          帝国海事協会総裁 大勲位功四級
                      威仁親王
因に記す、昨廿九日迄に確定したる義勇艦隊創設委員は左の如し
 子爵 伊東祐亨 石本新六 磯辺包義 今井艮一 侯爵 峰須賀茂韶 林田亀太郎 早川千吉郎 原六郎 子爵 堀田正養 豊川良平 子爵 岡部長職 法学博士 奥田義人 太田峰三郎 小川䤡吉 大谷嘉兵衛 加藤正義 嘉納治五郎 金山尚志 伯爵 吉井幸蔵 子爵 谷干城 医学博士 高木兼寛 高橋新吉 高田慎蔵 武井守正 武田千代三郎 園田孝吉 添田寿一 荘田平五郎 辻新次 男爵 南郷茂光 名村泰蔵 鍋島直映 中沢彦吉 内田嘉吉 法学博士 梅謙次郎 侯爵 久我通久 山県伊三郎 山本達雄 男爵 松平正直 松岡康毅 法学博士 松波仁一郎 松尾臣善 益田孝 下条正雄 子爵 藤波言忠 男爵 船越衛 小松原英太郎 近藤廉平 近藤基樹 佐藤秀顕 子爵 榎本武揚 法学博士 寺尾亨 男爵 赤松則良 男爵 有地品之允 安立綱之 浅野総一郎 斎藤実 阪谷芳郎 鮫島武之助 斎藤孝至 肝付兼行 工学博士 三好晋六郎 三崎亀之助 男爵 渋沢栄一 工学博士 進経太 下村房次郎 伯爵 広沢金次郎 平山藤次郎 茂木綱之 男爵 千家尊福 周布公平
  ○是日ノ会合ニハ栄一出席セズ。



〔参考〕中外商業新報 第六八一〇号 明治三七年九月一一日 義勇艦隊要綱及趣旨(DK280065k-0002)
第28巻 p.468-470 ページ画像

中外商業新報  第六八一〇号 明治三七年九月一一日
    義勇艦隊要綱及趣旨
帝国義勇艦隊創設委員会は、去九日午後三時内幸町の海事協会に於て開会、有地男爵委員長として二・三の報告ありたる後議事に入り、先つ松尾臣善氏を義勇艦隊建設に関する会計監督に推薦せんとの提案に一同之を賛成承認し、以て創設委員会規程及地方委員部規則を即決し義勇艦隊船舶建造、及義金募集に関する要綱に就き審議する所あり、結局左の通り趣旨及要綱を議決し、募集手続其他のことは常務委員に一任し、事務の進行を期することに決し、散会したり
      要綱
 第一条 帝国義勇艦隊は、男女を問はす全国民の義金を以て之を建設す
 第二条 船舶の構造に関しては関係当局大臣の指示を受け之を定む
 第三条 帝国義勇艦隊船舶は総て日本帝国に於て之を製造す
  但時宜に依り適当と認むる船舶を購入することあるべし
 第四条 帝国義勇艦隊船舶の維持方法は創設委員会に於て之を定む
 第五条 義金は金一千五百万円を募集するを以て目的とす
 第六条 義金醵出者には本会理事長より総裁に具申し、左の区別に依り徽章を贈与す
  一、一人にして義金一円五十銭以上を醵出したるもの
  二、一人にして義金十五円以上を醵出したるもの
  三、一人にして義金三十円以上を醵出したるもの
  四、一人にして義金二百円以上を醵出したるもの
 - 第28巻 p.469 -ページ画像 
  五、一人にして義金九百円以上を醵出したるもの
 第七条 一人にして金三百円以上の義金を醵出する者は、本会理事長より総裁に具申し有功章を贈与す
 第八条 義金は義勇艦隊建設の目的以外に支出することを得ず
      帝国義勇艦隊建設の趣旨
 海国たる我日本の富強は主として海事の振興に須たざる可からず、我政府夙に見る所あり、年々巨費を投じて海事奨励に努めたる結果造船及航海の事業は年一年に進歩の状態にありと雖も、海事の範囲たる広且つ大なり、苟くも海事に関する凡百の事物一整之を振興し相須つて完全なる発達をなさんと欲せば、挙国の民人奮て其経営に任ぜざる可からす。
 是に於てか吾人は公共団体の我海事に必要にして、官民相応じて海事全体を振興するの一大急務なるを思ひ、同志相謀つて帝国海事協会を組織し、誓つて海国民の本分を尽さんことを期したるは、実に明治三十二年十一月にてありき、爾来五閲年、国家の為め孜々企画する所ありしが、時勢の進運は自から吾人をして一大飛躍を試むるの機運に乗ぜしめ、日露の事あるに及びて倍々船舶の不足を感じ、本年二月総会に於て戦時補助船舶(義勇艦隊)製造に努むへき事を決議せり、爾来各国の制度を参照し、実際を調査し、苦慮精考の結果、益々其感を深うするものあり、敢て天下同憂の士に訴へ、此企劃を実行せんとす。
 抑も本邦の海運事業は、日清戦役以後頓に長足の進歩をなしたりと雖も、最近の調査に依れは、総噸数千噸以上の汽船僅に百九十四艘五十二万二千八百四十二噸にして、其内逓信省の検査に依り航海奨励金下附認許の資格ありと認められたる船舶は四十五艘十九万五千四百四十五噸に過ぎず、而かも其多数は一朝事あるの日に当りて、軍国の急に趨かざる可からざるを以て、貿易・通商・殖民より、延て外交に至るまで一大頓挫を生ぜざるを得ず、其影響する所、国力発達の点に於て、長く回復す可からざる傷害を蒙るのみならず、上に記す如き僅少の船舶にては、軍事輸送すら完全に遂行すること能はざるを憾む。
 而して我海軍の現勢力は如何、軍艦不足は官民共に認むる所之れが拡張を図るべきは夙に朝野の唱ふる所なるも、新興国の日本は新たに施設経営すべき事業尠からず、為めに軍艦製造の事は十分に其目的を達するに至らずして止みしが、日露の事起りて軍艦の不足を感すること深く、戦争の前途を憂ふるものありしも、幸に我が将士の機敏にして勇敢なる、毎に攻勢を取りて敵艦隊を畏縮せしめ、数回の交戦を経て極東の海上権全く我れに帰したりと雖も、将来の日本は今日の日本にあらず、列国環視の下に行動すべき日本は、之に伴ふべき十二分の覚悟を要す、単に一国の独立を保持する上より云ふも、東洋の永久的平和を保全する上より云ふも、列強の現勢に鑑みて最も適当なる方法を択び、海軍力増進の道を講ぜざる可からず。蓋し海軍の実勢力は商船の増加を待て拡充し、航路の伸張は海軍の補導に依て其効を全ふするものなれば、完全なる海軍の発達を計ら
 - 第28巻 p.470 -ページ画像 
んと欲せば、勢ひ軍艦と商船の駢進を期せざる可からず、而かも我国に於ける刻下の事情は、力を双方に専らにすることを容さず、今後の海軍は国民自覚の力と、当局者其人を得て大に拡張せらるゝ所あるべしと雖も、尚ほ之を助長し有効ならしむる為め、戦時補助船舶(義勇艦隊)を建造し、一面海軍力の扶殖を図ると共に、一面商船の不足を補ふて通商貿易の増進を計るは、将来多大の希望を有する我日本が列国の大勢に後れざらんことを期する所以にあらずや。吾人の所謂戦時補助船舶なるものは、露国に於ける義勇艦隊及ひ英国に於ける『キユナード』汽船会社船舶の如く、平時に在ては普通の商船として交通運輸の業務を執り、一旦事あるの日に当つては直ちに国家の命令に服し、或は仮装巡洋艦として、或は各種の補助船舶として一大活動を試み、航海業の促進を図ると共に、海軍力の発現を増大ならしむるに在り、彼の英国が世界の海王として無数の船艦を有するに拘はらず、尚且つ年々巨大の補助金を投じて『キユナード』汽船の拡張を図るが如き、彼れが多年の経験に徴して、補助船舶制度の実際有効なることを認識したるに由る、又之を露国に見よ、彼れが遠く絶東の地に於て其国防・移民・商工業の進度を顕著ならしめ、兎も角も日本海陸の精鋭を此処に引受け、未曾有の大戦争を為すに至れるもの、其一半は露国義勇艦隊の活動より其経営を迅速ならしめたるに帰せざる可からず。
 斯の如きは普通の営利的事業と自から其選を異にし、平時に於ける海運事業の隆盛と、戦時及事変に於ける軍事行動の振作を目的とし利害の外に超脱し、終始一貫、公共的観念を以て専心之れが発達を計らざるべからず、従て仮装巡洋艦其他特殊の船舶は、之を一般普通の営業者に向つて到底其企劃を待つ可きにあらず、国民協力して之を経営するの至当なるを認め、本会自から進んで之れが創業の任に当らんとす、然れども其計画頗る遠大にして、挙国一致の協力を待つにあらざれば、之れが成功を期すべからず、冀くは大八洲の同胞挙つて吾人の此企画を助成せられんことを。明治三十七年九月
   ○是日ノ会合ニハ栄一出席セザルモノノ如シ。(渋沢栄一日記 明治三十七年九月九日)


〔参考〕帝国義勇艦隊建設趣旨及要綱 (一枚刷)(DK280065k-0003)
第28巻 p.470-471 ページ画像

帝国義勇艦隊建設趣旨及要綱  (一枚刷)
  令旨 ○略ス
  帝国義勇艦隊建設ノ趣旨 ○前掲ト同ジ、略ス
  要綱 ○前掲ト同ジ、略ス
  帝国義勇艦隊創設委員会規程
第一条 帝国海事協会ハ本年二月総会ノ決議ニ基キ帝国義勇艦隊ヲ建設スル為メ創設委員会ヲ設ク
第二条 創設委員会ハ本会総裁ヨリ嘱託セラレタル創設委員ヲ以テ組織ス
第三条 創設委員中ヨリ委員長一名、常務委員若干名ヲ互撰シ、常務委員中ヨリ更ニ専務委員ヲ互撰ス
第四条 理事長ハ常務委員会ノ議長トナル
 - 第28巻 p.471 -ページ画像 
第五条 創設委員会及常務委員会ノ議案ハ理事長之ヲ提出ス
 創設委員会ニ附スベキ議案ハ必ス常務委員会ノ議ヲ経ベシ
 創設委員会ノ議ヲ経タルモノハ、本会総裁ノ旨ヲ承ケ理事長之ヲ執行ス
第六条 本会理事ハ常務委員会ニ出席シ議決ニ加ハルコトヲ得
第七条 本会理事長ハ委員会ニ関スル一切ノ事務ヲ掌理ス
第八条 委員会ノ事務ハ本会幹事及書記ヲシテ取扱ハシム
  帝国義勇艦隊建設地方委員部規程
  ○略ス。
  帝国義勇艦隊創設委員 (イロハ順)
  ○中略
  男爵 渋沢栄一
  ○中略
    東京市麹町区内幸町壱丁目五番地(電話新橋二三一番)
  明治三十七年九月          帝国海事協会