公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2025.3.16
第29巻 p.216-218(DK290063k) ページ画像
明治37年4月(1904年)
栄一、転地先国府津ヨリ帰京後、肺炎ニ冒サレテ再ビ臥床、是間、和歌ヲ詠ズ。
竜門雑誌 第一九一号・第三八頁 明治三七年四月 ○故広瀬中佐の正気歌を読みて(DK290063k-0001)
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竜門雑誌 第一九一号・第三八頁 明治三七年四月
○故広瀬中佐の正気歌を読みて
栄一
かきりなき君かいさほは散りのこる
ことの葉にたにゆるゝあめつち
○四月廿四日国府津より家に帰り久しう見さりし庭に花の咲残れるを見て
栄一
立こめし青葉かくれにちり残る
花や主人をまちしなるらん
竜門雑誌 第一九六号・第一四―一六頁 明治三七年九月 ○和歌(DK290063k-0002)
第29巻 p.216-218 ページ画像PDM 1.0 DEED
竜門雑誌 第一九六号・第一四―一六頁 明治三七年九月
○和歌
栄一
○春の末つかたよりふたゝひ重き病にかゝりて日をふるまゝに、いとおとろおとろしうなりゆき、やう
- 第29巻 p.217 -ページ画像
やうはての日の近つきぬる心地するに、曾て雨夜譚に我境界を蚕にたとへて云ひつる事なと思ひ出てゝ
たまの緒のかくて絶ゆへきものそとも
知らてかふこのまゆつくりかな
○又
なかゝらぬものとはしれと玉の緒の
くりかへしつゝいく日をかへん
人々うれたみなけきつゝ歌子はかくなんなくさめける
夏引の糸打かへて千代そへん
しはしかふこのまゆこもるとも
八千代へん其の玉の緒の一ふしと
見るへき今日の繭こもりかな
中村大人もまた
いふせしといふもしはしのまゆこもり
こもりもあへす出つてふものを
○又ある時
吹風も今日は恨みし桜花
をしまれてちる時もありしを
中村大人のかへし
敷島の国の光の桜花
風も心をおかすやはあらん
とりわきてうとくなりにし老の目に
うたて涙そしたしまれぬる
君にこそけはいもつゝめ若きにも
したしまれけり袖の涙は
歌子のかく打なけきけりとなん後に聞ける
○病ひをなくさめんとて歌子かもて来ぬるうはらの花の朝露にうるほひたるをあはれと見て
おきそへし露は涙か花うはら
枝にみとりの色も見えつゝ
中村大人の評 ○以下小活字
黒主か春雨のしらへ覚えていとをかし
○日頃へてすこしおこたりさまになりぬれとしはふきいと烈しくたへかたかりける折
せく息も玉なす汗も何かあらん
病ひのあたにかちぬと思へは
こたひの御病はけにけに征露の役とも申すへく勝ちおほし給へるまては如何にいたつき給ひけん
○病の床に陸軍戦捷の報を聞て
しはらくはうめきの声を万歳に
かへてことほくかちいくさかな
血誠あふれて声となるもの一字隻言改むへからす
まちわひしほとよろこひの深きかな
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つらねてかちし我陸いくさ
何々たけそれたけの詞をうまくつゝけ給へり
○戦捷の号外を人のもて来てしめしける時
つきたつる腕を人にもたれても
いさみつゝ聞くかちいくさかな
○打ふしなからに鏡を見て
面やせてうつる鏡のおもかけは
我たにわれを見まかへにけり
実情実況鏡に見るよりも明なりといふへし
○一夜雨いと烈しうふりしきりけれは今を盛りと聞くはかりなる園の牡丹つゝしの花ともの上いと心もとなくて
ちりやらて主まつ花もあるものを
つれなくそゝく夜半の雨かな
あはれ多情なる御歌に候
○看護婦にしめす
白妙の衣の色を身にしめて
みとりにつくせあかき心を
絵事後素の語によりたる御歌いと興あり
○窓前の桐をふしとなから日々に打なかめつゝ
きりの葉のひと日ひと日にしけりゆきて
窓おほふまてなりにけるかな
実景にていとおもしろし
君かため涼しきかけや作るらん
日ことにしける窓の桐の葉
○蛙
影うつるなはしろ小田の夕月を
わかもの顔に鳴くかはつかな
その夜のさまを思ひやりつゝ
蛙鳴くなはしろ小田の夕月夜
よはたゝ歌やつゝみはてけん
○薔薇の花をよめる
ひらけ行く世はもゝ草も時にあひて
みそのに匂ふ花うはらかな
○戦捷後の満韓経営を思ひわつらひて阪谷大蔵次官に示しける
しこ草を刈りしあら野のあらき田に
つちかひいそけ我あかた人
阪谷ぬしのかへし
田をひろみかへしもあへすあかた人
君かをしへをまちわたるらし