デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2017.6.14

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

3部 身辺

4章 同族会
■綱文

第29巻 p.300-302(DK290098k) ページ画像

明治24年5月17日(1891年)

是日栄一、家法ヲ作リテ同族会議ヲ興シ、之ヲシテ家政ノ要務ヲ議セシメ、且ツ同族ノ財産及ビ年年ノ出入ヲ監督セシム。又家訓三則ヲ定メテ同族ニ示ス。


■資料

青淵先生六十年史 竜門社編 第二巻・第九四五―九五〇頁 明治三三年六月再版刊(DK290098k-0001)
第29巻 p.300-302 ページ画像

青淵先生六十年史 竜門社編  第二巻・第九四五―九五〇頁 明治三三年六月再版刊
 ○第六十章 家庭
    第四節 家法及家訓
○上略
先生家ヲ治ムル法アリ、明治二十四年五月十七日家法ヲ作リ、同族ヲ集メ之ヲ示シ、爾来渋沢家ノ家政ハ此ノ家法ニ依ル可キコトヲ命セリ此ノ家法大体ノ趣旨ハ先生案ヲ立テ、其条章ハ女婿穂積陳重ノ編成ニ係ル、其要旨ハ同族会議ヲ興シ、之ヲシテ家政ノ要務ヲ議セシメ、並同族ノ財産及年々ノ出入ヲ監督セシムルニアリ、而シテ先生自ラ家法ニ依リテ家政ヲ執行シ、遵奉違ハス、以テ家法ノ重ンスヘキヲ子孫ニ示セリ
家法ノ制定アルヤ、先生同時ニ家訓三則ヲ作リ、之ヲ同族ニ示シ服膺セシム、先生ノ心ヲ子孫ノ為メ用ヰル厚シト謂フ可シ、其家訓ニ曰ク
      第一則 処世接物ノ綱領
 一 常ニ愛国忠君ノ意ヲ厚フシテ、公ニ奉スル事ヲ疎外ニス可ラス
 一 言忠信ヲ主トシ、行篤敬ヲ重ンシ、事ヲ処シ人ニ接スル必ス其意ヲ誠ニスヘシ
 一 益友ヲ近ケ損友ヲ遠ケ、苟モ己レニ諂フ者ヲ友トスヘカラス
 一 人ニ接スルニハ必ス敬意ヲ主トスヘシ、宴楽遊興ノ時ト雖モ、敬礼ヲ失フコトアルヘカラス
 一 凡ソ一事ヲ為シ一物ニ接スルニモ、必ス満身ノ精神ヲ以テスヘシ、瑣事タリトモ之ヲ苟且ニ付スヘカラス
 一 富貴ニ驕ルヘカラス、貧賤ヲ患フヘカラス、唯々智識ヲ磨キ徳行ヲ修メテ、真誠ノ幸福ヲ期スヘシ
 一 口舌ハ福禍ノ因テ生スル所ノ門ナリ、故ニ片言隻語必ス之ヲ妄ニスヘカラス
      第二則 修身斉家ノ要旨
 一 父母ハ慈ニシテ能ク其子弟ヲ教ヒ、子弟ハ孝ニシテ能ク其父母ニ事ヒ、夫ハ唱ヘ婦ハ随テ、各々其天職ヲ尽スヘシ
 一 能ク長幼ノ序ヲ守リ、互ニ相敬愛シテ、敢テ憎嫉紛争ノ事アルヘカラス
 一 勤ト倹トハ創業ノ良図守成ノ基礎タリ、常ニ之ヲ守リテ苟モ驕リ且ツ怠ルコトアルヘカラス
 一 凡ソ業務ハ正経ノモノヲ択ミテ之ニ就クヘシ、苟モ投機ノ業又
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ハ道徳上賤ムヘキ務ニ従事スヘカラス
 一 凡ソ事ヲ起スニハ先ツ其始ヲ慎ミ、既ニ之ニ処シテハ勉メテ耐忍恒久ノ念ヲ厚フシ、猥リニ之ヲ変更シ、又ハ之ヲ抛却スヘカラス
 一 慈善ハ人ノ貴ムヘキ所ノモノナリ、故ニ縁戚故旧ノ貧困ナル者ハ勉メテ之ヲ救恤スヘシ、唯々其方法ヲ鑑ミテ、之ヲシテ独立自活ノ念ヲ失ハシムヘカラス
 一 家僕奴婢ハ篤実ナル者ヲ撰フヘシ、寧ロ魯鈍ナルモ浮薄侫弁ナル者ヲ使用スヘカラス
 一 家僕奴婢ヲ遇スルニハ能ク之ヲ愛憐撫恤シテ、中心奉公ノ念ヲ厚フセシムヘシ、然レトモ恩愛ニ狎レテ僣上怠懣ノ心ヲ生セシムヘカラス
 一 冠婚葬祭ノ儀式及ヒ通常招客等ノ事アルモ、勉メテ華美ノ風ヲ避ケ、其分ニ随テ之ヲ質素ニスヘシ
 一 凡ソ同族タル者ハ、同族会議ニ於テ決議シタル事項ハ、瑣事タリトモ必ス之ニ違背スヘカラス、同族ニ関スルト一身ニ関スルトヲ問ハス、事ノ重大ナルモノハ必ス同族会議ニ於テ議決ノ後之ヲ行フヘシ
 一 毎年一月ノ同族会議ニ於テ家法朗読式ヲ行フニ際シ、同族中智識徳行アル年長者此ノ家訓ヲ朗読シ、更ニ之ヲ講演シテ、同族ハ必ス之ヲ遵守スルコトヲ誓フヘシ
      第三則 子弟教育ノ方法
 一 子弟ノ教育ハ同族ノ家道盛衰ノ関スル所ナリ、故ニ同族ノ父母ハ最モ之ヲ慎ミテ教育ノ事ヲ怠ル可ラス
 一 凡ソ生児其幼稚ノ間ハ、身体健全ニシテ品行賤シカラサル保姆ヲ撰ミテ保育セシメ、父母タル者常ニ之ヲ監督スヘシ
 一 父母タル者ハ居常其言行ヲ慎ミ、子弟ノ模範タルコトヲ務メ、且家庭ノ教育ヲ厳正ニシテ、子弟ノ性質ヲ怠惰放逸ナラシムヘカラス
 一 学校ノ教育ハ其子弟身体ノ強弱ヲ計リ、寛厳其宜ニ従テ之ヲ処スヘシ
 一 子弟満八歳ヲ超レハ、男子ハ保姆ヲ止メテ厳正ナル監督者ヲ付スヘシ
 一 凡ソ子弟ハ幼少ノ時ニ於テ世間ノ艱苦ヲ知ラシメ、独立自活ノ気象ヲ発達セシムヘシ、且男子ハ外出ノ時ハ成ルヘク歩行セシメテ其身体ノ健康ヲ保護スヘシ
 一 凡ソ子弟満十歳以上ニ達スレハ、自己ノ小費ヲ弁スル為メニ小額ノ金員ヲ給与スルヲ得ヘシト雖モ、能ク其分ニ応シテ其額ヲ定メ、之ヲシテ以テ会計ノ注意ヲ喚起セシムルコトヲ勉ムヘシ
 一 凡ソ子弟ニハ卑猥ナル文書ヲ読マシメ、卑猥ナル事物ニ接セシムヘカラス、又芸妓芸人ノ類ニ近接セシムヘカラス
 一 男子満十三歳以上ニ至ラハ、学校休課中ニ行状正シキ師友ト共ニ各地ヲ旅行セシムヘシ
 一 凡ソ男子ハ成年ニ達スルマテハ大人ト区別シテ之ヲ取扱フヘシ
 - 第29巻 p.302 -ページ画像 
且其衣服ハ必ス綿物ヲ用ヒ、器具ノ類モ勉メテ質素ヲ主トスヘシ唯々女子ハ外出又ハ来客ニ接スル等ノ事アル時ハ絹布ヲ用ユルヲ得
 一 男子ノ教育ハ勇壮活溌ニシテ常ニ敵愾ノ心ヲ存シ、能ク内外ノ学ヲ修メ、且其理ヲ講究シテ、事ニ当リテハ忠実ニ之ヲ遂クルノ気象ヲ養ハシムヘシ
 一 女子ノ教育ハ其貞潔ノ性ヲ養成シ、優美ノ質ヲ助長シ、従順周密ニシテ能ク一家ノ内政ヲ修ムルコトニ馴練セシムヘシ