デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治38年1月4日（1905年）

是日栄一、東京ヲ発シ大磯ノ長生館ニ赴キ、十四日帰京ス。

渋沢栄一　日記　　明治三八年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
一月四日　晴　風ナシ
○上略　午後一時五十分新橋発汽車ニテ大磯ニ抵リ長生館ニ投宿ス、兼子及家人数名同行ス、汽車中神鞭知常氏ト種々ノ談話ヲ為ス
○下略
一月五日　快晴　軽暖
午前七時起床、室内ノ運動ヲ為シ八時朝飧ヲ畢ル、東京ヨリ携帯セシ銀行通信録ニ掲載スヘキ経済意見ノ草案ヲ一覧シ、大ニ之ヲ修正シテ東京事務所八十島親徳宛ノ書状ト共ニ之ヲ発送ス、且三重・大坂両紡績会社ヨリノ来状ヲモ封入ス
三重紡績会社伊藤伝七・大坂紡績会社佐々木清麿ヘ書状ヲ発ス、蓋シ来状ニ対スル回答ナリ
午後一時過ヨリ郊外散歩ヲ試ム、長生館ノ裏山ニ沿フテ田歩《（圃）》ヲ横リ、市街ニ出テ鴫立沢ニ抵リ三時過帰宿ス、東京帝国ホテルフレークヨリ電報アリテ、七日ニ祝賀会ヲ開ク事ヲ請ヘ来ル、即時同意ノ回答ヲ発ス四時半入浴、畢テ読書ス、夜飧後モ読書ニ消閑ス
一月六日　雨　暖気
午前七時十分起床、室内運動ヲ為ス、八時朝飧ヲ畢リテ揮毫ヲ為ス、昼飧後ハ教育勅語ヲ揮灑ス、又近時ノ戦争ト経済ト題スル訳書ヲ閲ス此日ハ朝来曇リタリシカ、十時頃ヨリ雨降リ出タシ、次第ニ大雨トナリテ、夜ニ入ルマテ歇マサリシ、気候ハ雨ノタメ暖気ヲ覚フ
夜室内運動ヲ為シ、甲子夜話ヲ読ム
一月七日　晴　風ナシ
午前七時起床、室内運動ヲ為シ、八時朝飧ヲ畢ル、昨日ト同ク揮毫ヲ試ム、十時頃横浜イリス商会ノ独人ポール氏・小束栄太郎二氏来リ、燐礦石ノ事ニ関シ来請ノ事アリ、依テ東京ニ電話ヲ通シテ、肥料会社竹田・田中二氏明日来磯ノ事ヲ照会ス、午後東京事務所八十島親徳ヨリ来状アリ、尾高次郎来状ヲ封入ス、三時過大磯市街ヲ散歩シ、四時帰寓ス、尾高次郎・野口弥三・松井吉太郎三氏ノ書状来ル、午後四時入浴後、教育勅語ヲ揮灑ス
夜甲子夜話ヲ読ム
一月八日　晴　少シク風アリ
午前七時十五分起床、室内運動後朝飧ヲ喫ス
食後又教育ノ詔ヲ書ス、十時竹田政智・田中元三郎二氏来リ、人造肥
 - 第29巻 p.504 -ページ画像 
料会社ニテ買入ヘキ燐礦石ノ事ヲ談シ、且本月ノ株主総会ニ提出スヘキ増株ニ関スル議案ヲ協議シ、燐礦ニ付テハ明日イリス商会ニ照会スヘキ事トシ、且来ル十四日午後兜町ニ重役会ヲ開ク事ヲ約ス、第一銀行佐々木氏ニ書状ヲ発シ、尾高来状ヲ封入一覧セシム、八十島親徳ニ二回ノ書状ヲ送ル、渋沢作太郎・梅浦精一二氏来訪セラル
午後四時ヨリ大磯市街ヲ散歩シ五時帰寓ス、前田青莎氏来リ岩越鉄道会社ノ重役談アリ
夜甲子夜話ヲ読ム
一月九日　晴　風寒シ
午前七時十五分起床、例ノ如ク室内ノ運動ヲ為ス、八時過朝飧ヲ畢リ日記ヲ編成ス、畢テ揮毫ヲ試ム
午後東京人造肥料会社ヨリ電話来ルヲ以テ、其回答ヲ発スル為、郵便局ニ抵リ竹田政智氏ニ電話シテ、燐石五千噸イリス商会ニ注文ノ事ヲ照会ス、畢テ市中ヲ散歩シテ、五時帰寓入浴ス
夜甲子夜話ヲ読ム
此日腹部ノ工合悪ク、為メテ《（ニ）》粥ヲ食シテ他食ヲ禁ス
一月十日　晴　風寒シ
午前七時起床、室内運動ヲ為シ朝飧ヲ畢ル
九時佐々木勇之助氏来訪ス、第一銀行株主総会ノ事ニ関シテ種々ノ協議ヲ為シ、議案及報告書ノ文章ヲ議シ且其字句ヲ修正ス、午後一時帰京ス、後又昨日ノ如ク揮毫ヲ試ム、二時過仙石貢氏来話ス、仙石氏帰リ去テ後亦少シク揮毫ヲ為シ四時頃ヨリ郊外ヲ散歩ス、五時過帰寓ス
夜甲子夜話ヲ読ム
石川島造船所平沢氏ヨリ来翰アリ、戸塚持参ス、依テ回答ヲ作リテ同人ニ托シ、并テ八十島親徳ヘ書状ヲ発ス、但同人ヨリノ二回ノ来書ニ答ヘ、且要件ヲ通知スル為メナリ
一月十一日
午前七時半起床、室内運動ヲ為ス、八時半朝飧ヲ畢ル、九時頃植村澄三郎氏来訪ス、緩話午飧ヲ共ニス、午後一時東京ヘ帰ル
佐々木清麿ヨリ大坂紡績会社当季決算ノ事ヲ通リ《（シカ）》来ル、午後四時過キ郊外ニ散歩シ高麗神社ニ詣ス、五時後帰寓ス
夜甲子夜話ヲ読ム
一月十二日　晴　風ナシ
午前七時起床、室内運動ヲ為シ、八時朝飧ヲ畢ル
九時頃ヨリ又揮毫ヲ試ム、午飧後山田堤雲来訪セラル、一時過キ市街ニ散歩シテ理髪ヲ為ス、三時帰宿ス
加藤末郎来訪、韓国興業会社ノ事業着手ノ次第ヲ聴ク、十六日東京ニテ面会ヲ約シテ去ル
大坂紡績会社山辺氏ヨリ来翰アリ、当季決算ノ事ヲ詳報セラル
梅浦夫人来ル
夜甲子夜話ヲ読ム
篤二・土屋良蔵氏等ノ書状来ル、山辺丈夫ヨリ来翰アリ
一月十三日　少シク曇　軽暖
午前七時過キ起床、室内運動ヲ為ス、八時朝飧ヲ畢ル、九時洋服ヲ着
 - 第29巻 p.505 -ページ画像 
シ徒歩シテ伊藤侯爵ヲ其邸ニ訪フモ、不在面会ヲ得ス、更ニ山県侯爵ノ別埜《（墅）》ヲ訪フ、同シク不在ナリキ、十時帰寓ス、東京深川ヘ一書ヲ送リ瓜生氏ヘノ一書ヲ封入ス、昨日ノ来書ニ回答セシナリ
加藤末郎ヨリ来翰アリ、依テ藤波主馬頭ヘノ添書ヲ封入シテ、直ニ返翰ヲ発ス
過日植村澄三郎氏ヨリ依頼セラレタル題麦酒ノ一絶ヲ賦ス（醸造芳醇別有方、盛来金粟郁余香、占春何啻蘭陵酒、勧此一杯琥珀光）
夜甲子夜話ヲ読ム
一月十四日　雨　軽暖
午前七時半起床、室内運動ヲ為シ、八時半朝飧ヲ畢ル、食後日記ヲ整理シ、且今日帰京スルニ付テ携帯物ノ整理ヲ為ス、午前十一時午飧ヲ為シ、同三十分発ノ汽車ニテ帰京ス　○下略

（八十島親徳）　日録　　明治三八年　　　（八十島親義氏所蔵）
一月四日　快晴
○上略　青淵先生凡ソ向二週間位ノ見込ニテ、本日午後一時五十分発ニテ大磯長生館ヘ避寒セラル　○下略