デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

1章 社会事業
4節 保健団体及ビ医療施設
13款 日本住血吸虫病撲滅費寄付
■綱文

第31巻 p.174-176(DK310031k) ページ画像

大正12年12月1日(1923年)

栄一、昨十一年七月広島県地方病日本住血吸虫病撲滅費トシテ金参百円寄付セルニ対シ、是日広島県知事ヨリ表彰サル。


■資料

青淵先生公私履歴台帳(DK310031k-0001)
第31巻 p.174 ページ画像

青淵先生公私履歴台帳         (渋沢子爵家所蔵)
    賞典
大正十二年十二月一日 大正十一年七月広島県地方病日本住血吸虫病撲滅費トシテ金参百円寄付ス、仍テ褒章条例ニ依リ之ヲ表彰セラル      広島県知事



〔参考〕人体寄生虫病学 宮川米次著 蠕虫病編・第二〇〇―二〇二頁 昭和二年刊(DK310031k-0002)
第31巻 p.174-176 ページ画像

人体寄生虫病学 宮川米次著  蠕虫病編・第二〇〇―二〇二頁 昭和二年刊
    日本住血吸虫病ニ関スル研究ノ歴史的回顧
 山梨県及ビ広島県ニ於テハ本症ヲ肝脾肥大症ト称シ、之レニ関スル記載ハ可ナリ古クカラアル、山梨県ニ於テハ文久年間ニ之レニ関スル俚謡ガアル、備後ノ片山地方デハ藤井二郎好直氏ノ筆ニナル弘化4年ノ論著デ片山記ナルモノガアル。
 明治年間ニ於テ、先ヅ特種ノ寄生虫卵ヲ注意シタノハ、明治21年馬島永徳氏デアツテ、解屍ニ際シテ肝臓内ニ見出シタノデアル、山梨県ニ於テモ、明治33年以来肝脾肥大症ヲ極メテ特有ナル疾病トナシテ、研究ノ歩ヲ進メルコトニナツタ。之レヨリ先山極勝三郎氏(明治21年)ハ肝臓硬変竈中ニ一種ノ虫卵ヲ見出シ、下平用彩・村上庄太氏(明治26年)モ同様ノ所見ヲ得、金森辰次郎氏(明治31年)ハ山梨県生レノ一農婦ノ直腸壁及ビ肝臓ニ一種ノ虫卵ヲ発見シテ、之ヲ一新寄生虫ノ卵子ナルベシト主張シタ。
 広島県下ノ有病地方ニ於テモ、亦熱心ニ研究セラレタノデアル、吉田亀蔵氏ノ此方面ノ研究ハ却々ニ注意スベキモノガアル、明治36年ニハ、河西健次氏ガ臨床的立場カラ、糞便内ノ卵子ヲ検出シ、其内ニMiracidiumヲ認メ、母虫ハ吸虫類ニ属スベキモノダト発表シ、次イデ小川・島村・角田・吉田氏等ノ研究ガアル、此様ニシテ久シク人々ニヨツテ注意セラレテ居タ特種ノ形態ヲナス虫卵ノ母虫ハ、明治37年(1904年)ニ至ツテ桂田富士郎氏ニヨツテ一条ノ雄虫ヲ得、次イデ多数ノ雌雄ノ虫体ヲ得ラレタ。同年藤浪鑑氏ハ本病屍体ヨリ一条ノ雌虫ヲ得タ、桂田氏ハ虫体ノ構造ヲ精査シテ、埃及住血吸虫ニ酷似シテ居ルガ、尚ホ色々ノ点ニ於テ相違ノアルコトヲ発見セラレテ、之レニSchistosomum Japonicum日本住血吸虫トイフ名称ヲ附セラレタ、此発見ニ次イデ日本内地ニ於テハ土屋岩保氏等其他多クノ人々ニヨツテ寄生虫学及ビ臨牀学的立場カラ研究セラレテ、色々ノ新知見ヲ認メラレタ。日本以外ニ於テハ明治38年Catto氏ガ新嘉坡ニ於
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テCholeraノ為ニ斃レタ福建人ノ解屍ニヨツテ、腸間膜血管内ニ本虫ヲ発見シ、Blanchard ハ之レニSchistosomum cattioトイフ名称ヲ附シテ居ルガ、Looss氏ノ研究ニヨツテ、之レハ桂田氏等ノ発見セルモノト同一物デアツテ、先取権ニヨツテ名称ハ日本住血吸虫トナスベキヲ主張シテ、今日一般ニ認メラレテ居ル所デアル。
 此様ニシテ山梨県・広島県等デ実験セラレテヰル肝脾肥大症ハ、吸虫類ニ属スル一新寄生虫ニヨツテ惹起セラレル疾患デアルトイフコトハ明瞭ニナツタガ、玆ニ問題トナツテ来タノハ此寄生虫ガ人間ヲ襲フ場合ノ侵入経路デアル。即チ仔虫ガ飲食物ト共ニ口ヨリ侵入スルデアラウカ、十二指腸虫ノ様ニ皮膚カラスルデアラウカトイフ点デアツタ、山梨県デハ肝脾肥大症ノ病原体ハ水ヲ介シテ侵入スルモノデアルト考ヘラレ、備後ノ片山地方デハ皮膚ヨリ侵入スルモノデアルトイフ様ニ言ヒ伝ヘラレテ居タ。此問題ヲ解決スル様ナ実験的研究ヲ為シタノハ藤浪鑑・中村八太郎氏ト、他方デハ桂田富士郎・長谷川恒治氏トデアツタ、両者等ノ所見ハ期セズシテ一致シタ、即チ日本住血吸虫ハ経口的ニハ感染セズシテ何レモ経膚的ニノミ感染シタトイフノデアツテ、之レハ明治42年ノコトデアル。然ルニ経口的ニハ絶対ニ感染シナイカトイフニ、口腔粘膜及ビ食道等カラハCercariaガ善ク侵入シテ母虫ニ発育スルコトガアルコトヲ著者(1926)ニヨツテ決定スルコトガ出来タ。其翌年須田寛作・小沢真氏等ニヨツテ同様ノ所見ヲ得テ居ル、然ルニ胃及ビ腸ノ粘膜ヲ通シテハ感染ガ絶無デアルコトハ、土屋岩保氏及ビ著者ノ実験(明治43年・44年)デ明瞭ニナツタノデアル。
以上ノ様ナ諸種ノ実験的所見ガアツタガ、人体ノ皮膚ニ感染スル病源体ハ如何ナル形態ノモノカ、果シテCercariaナリヤ又ハMiracidiumノ変態シタモノナリヤハ、却々ニ決定スルコトガ出来ナカツタガ、著者ガ明治44年ニ、初メテ感染初期ノ仔虫ヲ犬ノ皮膚・未梢血液・心臓・血液内等ニ捉ヘルコトガ出来テ、其形態ヲ詳細ニ検索シテ之レハCercariaニ相違ナイト断言シタ、著者ノ発表ト時ヲ同クシテ松浦有志太郎・山本淳二氏等モ仔虫ヲ皮膚組織内ニ検出スルコトガ出来タト発表セラレタ。
 是等ノ研究ニヨツテ、日本住血吸虫ノ発育ハ、他ノ吸虫類ト同様ニ宿主体外デ、中間宿主ノ体内デ発育変態シテCercariaニナツテ後ニ始メテ終宿主ニ感染スルノデアルトイフコトガ明ラカニナツタ訳デアルガ、中間宿主ハ果シテ貝類ナリヤ、又ハ全ク他ノ生体ナリヤトイフコトハ、一般住血吸虫ノ発育史ガ全然不明デアツタ当時デハ、到底想像モ許サレナカツタノデアルガ、然シ研究者ハ河貝子又ハ之レニ近似ノ種類ノ貝類デハナカラウカトイフコトニ一致シテ、頻リニ研究検索セラレタノデアルガ、終ニ大正2年ニナツテ、宮入慶之助・鈴木稔氏ガ、一小巻貝ノ体内ニ於テ、Miracidiumガ発育スルノヲ認メ、其中ニ一新Cercariaヲ得テ、ソレヲ動物ニ実験的ニ感染サセテ、母虫即チ日本住血吸虫ヲ得、本虫ノ発育環ガ初メテ極メテ明瞭ニナツタノデアツタ、コノ一小巻貝ハ発見者ノ名誉ノ為メニ宮入貝トイヒ、学名ヲKatayamanosophora(Robson)ト呼ブノデアル。此種ノ所究及ビ発見ハ内外ノ学者ヲ刺戟シタコトハ大ナルモノガアツテ、埃及Nile河
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ノ豊原ヲ荒シテ居ル埃及住血吸虫ノ発育史ガLooss氏其他ノ人々ノ多年ノ努力ニ拘ラズ明瞭ニナラナカツタノデアルガ、邦人ノ研究業績ヲ見習フテLeiper & Atkinson氏等ハ埃及ニ於テ、Becker,Cawston & Itsurb氏等ハ南米ニ於テ夫々住血吸虫ノ中間宿主ヲ発見決定スルコトガ出来、然カモ、埃及住血吸虫ノソレハ「モノアラ貝」デアリ、Manson 氏住血吸虫ノソレハ「ヒラマキ貝」デアルコトガ明瞭ニナツテ、多年此両種ノ住血吸虫ノ異同ガ論争セラレテ居ツタノデアルガ両種ノ中間宿主ガ夫々決定セラレテ、問題ハ極メテ明快ニ解決セラレタノデアツタ、之レガ1914年ノコトデアル。又支那ニ於ケル日本住血吸虫ノ中間宿主ハ1924年Faust & Meleney氏等ノ研究ニ依ツテ Oncomelania hupensisデアルコトモ決定セラレタ。
 皮膚ニ感染シタ Cercariaガ如何ナル経路ヲ辿ツテ門脈系統ニ至ルデアラウカハ、著者ハ明治44年以来、色々ノ方面カラ研究シテ血管移行路ヲ発見シ、其後 Faust, Fullorn氏等モ亦他方面カラ同様ナ所見ニ到達シタ、即チ皮膚ニ侵入シタ幼虫ハ血行ヲ介シテ右心ニ来リ、肺臓ニ達シ、其所ヨリ再ビ左心ニ送ラレ、大循環器系統ノ媒介ニヨツテ全身ニ広マリ、次第ニ消化管壁ニ送ラレテ、終ニ門脈系統ニ達スルトイフノデアル、又皮膚ニ感染シタ Cercariaハ其部ニ皮膚炎即チ所謂「カブレ」ヲ作ルカ、ドウカトイフコトニ就テモ異論ガアルガ、著者ノ所見デハ関係ハナイ、Faust, Meleney氏等モ亦支那ニ於ケル所見デハ、関係ハナイトイフ意見ヲ発表シテ居ルガ、松浦・藤浪氏等多クノ人々ハ之レヲ以テ Cercariaガ人体ニ侵入シタ時ニ、第一ニ起ス反応炎衝デアルト見做シテ居ル、此事実ハ十二指腸虫ガ皮膚ヨリ侵入スル際ニ皮膚炎ヲ起スヤ否ヤト同ジ様ナ問題デ、却々ニ明瞭ニセラレナイ事柄デアル。
 日本住血吸虫ノ発育史ガ完全ニ明瞭ニナリ、其感染経路モ明ラカニナツテ、従ツテ其予防方針ハ略々樹立スルコトガ出来タノデアルガ、治療法ニ至ツテハ久シク完全ニ行フコトガ出来ナカツタ、偶々1918年、Christopherson氏ガ吐酒石ノ静脈内注入ニヨツテ、埃及住血吸虫ニ対シ非常ニヨイ治療成績ヲ納メルコトガ出来タコトヲ報告セラレ、之レト姉妹病デアル日本住血吸虫病ニハ果シテ如何ナル影響ガアルデアラウカヲ、先ヅ実験的ニ検索シタノガ西業求氏(1922)デ、著者ノ指導ノモトデ為シタノデアル、其成績ハ非常ニ見ルベキモノガアツタ、次イデ武藤昌知氏・川村麟也氏モ夫レト類似ノ所見ヲ認メテ居ル。其翌年著者及ビ三神三朗氏ハ吐酒石ノ「ナトリウム塩」ヲ人体ニ応用シテ顕著ナル治効ヲ納メル事ガ出来タ、Faust,Meleney氏等モ支那ニ於テ同様ノ治験ヲ認メテ居ル、玆ニ於テ初期ノ日本住血吸虫病ハ殆ンド完全ニ治癒サセルコトガ出来、又塩酸エメチン治療ノ如クニ何等ノ危険ガナイ。
 日本住血吸虫病ノ予防法 中間宿主ノ撲滅ノ為ニ、田園ニハ石炭窒素、溝渠ニハ生石灰ヲ利用スル、糞便内ノ卵子撲滅ノ為ニハ、糞尿ヲ混和シテ3週間以上貯蔵シテ後ニ肥料トシテ応用スル様ニスレバ、其中ニアル卵子ハ容易ニ糞便ノ腐敗ニヨツテ殺スコトガ出来ルトイフ事実ノ発見等ニヨツテ、可ナリ著ルシイ効果ヲ認メテ居ル。