デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

2章 労資協調及ビ融和事業
1節 労資協調
2款 財団法人協調会
■綱文

第31巻 p.457-464(DK310072k) ページ画像

大正7年11月9日(1918年)

是ヨリ先労働問題漸ク擡頭スルニ及ビ政府亦之ガ対策ヲ講セントス。是日栄一、内務大臣床次竹二郎ノ請ニ応ジテ其ノ意見ヲ開陳ス。次イデ貴族院議長公爵徳川家達・衆議院議長大岡育造・子爵清浦奎吾等ト屡々資本労働問題協議会ヲ開キテ、民設ノ労資協調機関ノ設立ヲ計リ、翌八年七月二十五日銀行集会所ニ都下新聞社代表者ヲ招待シテ当会設立趣意内示会ヲ開ク。


■資料

集会日時通知表 大正七年(DK310072k-0001)
第31巻 p.457 ページ画像

集会日時通知表  大正七年        (渋沢子爵家所蔵)
十一月九日(土)  午前十一時 床次内務大臣ヲ御訪問(官邸)
   ○中略。
十二月廿九日(金) 午前十時  内務大臣官邸ニ御出向ノ約


竜門雑誌 第三六七号・第八九頁 大正七年一二月 ○社会救済協議(DK310072k-0002)
第31巻 p.457 ページ画像

竜門雑誌  第三六七号・第八九頁 大正七年一二月
○社会救済協議 床次内相は、戦後に於ける労働問題並に社会救済諸政策に就て予て熱心研究中なる青淵先生の意見を聴取すべく、十一月九日午前十一時より内相官邸に青淵先生の来会を請ひ、床次内相の外小橋次官・添田地方局長・川村警保局長列席の上、先生の戦後に於ける労働諸問題及労働者対資本家の争議仲裁方法並に社会救済施設に付て意見の開陳を求め、更に先生と床次内相以下内務当局との意見の交換あり、正午過辞去せられたるが、今後も時々会見して意見の交換を行ふ筈なりと云ふ。


竜門雑誌 第三六八号・第六〇頁 大正八年一月 ○内相邸の資本労働問題協議会(DK310072k-0003)
第31巻 p.457 ページ画像

竜門雑誌  第三六八号・第六〇頁 大正八年一月
○内相邸の資本労働問題協議会 旧臘廿九日午前十時より内相官邸に開かれたる資本労働問題協議会には、清浦枢府副議長、徳川・大岡貴衆両院議長、青淵先生四氏、政府側よりは床次内相・小橋次官・内務省各局長・丸山救護課長・原田事務官出席せられ、丸山・河原田二氏は内務省の調査に基く資本労働問題に就て詳細に説明せられ、川村局長は其方針案を述べて各自意見を交換し、午後二時散会せりと云ふ。


日本労働年鑑 大正九年版 大原社会問題研究所編 第九二二頁 大正九年五月刊 協調会の成立及び労働問題解決中央機関設置の計画(DK310072k-0004)
第31巻 p.457-458 ページ画像

日本労働年鑑 大正九年版 大原社会問題研究所編
                       第九二二頁 大正九年五月刊
    協調会の成立及び労働問題解決中央機関設置の計画
 一月中旬 ○大正八年内相官邸に於て徳川家達公・清浦奎吾子・渋沢栄一男・大岡育造氏・床次内相等相会し、労働問題解決機関設置の件に就き協議を為し、結局大体次の如き基礎を立てた。先づ中央に労働問題
 - 第31巻 p.458 -ページ画像 
に関する一切の解決をなすべき一つの民設機関を設け、此機関は労働者に偏せず、資本家に組せず、純然たる第三者の立場に立ち、其目的及事業は(一)労働者の教育、並びに訓練等に努力し、其為に或は新聞雑誌の発行、講演会の開設等をなして、労働者の知識及能力の啓発増進を計り、(二)労働者関係の諸問題に就き内外の状勢を調査し、其解決の資に供し、(三)労働紹介の中央機関たる役目を為し、且各地に於ける労働紹介の機関を敏活ならしめ、(四)労働紛議に対する仲裁の労を取る為適当なる機関を設け、(五)主なる各都市に支部を置き、労働者の保護後援、其子弟の教育、住宅の周旋等の事をなさしむるにあると云ふのである。 ○下略


渋沢栄一 日記 大正八年(DK310072k-0005)
第31巻 p.458-459 ページ画像

渋沢栄一 日記  大正八年      (渋沢子爵家所蔵)
二月十一日 晴 寒
○上略 丸山鶴吉氏ハ内務大臣ノ内旨ヲ以テ来話ス、労働問題ニ係ル打合セナリ ○下略
   ○中略。
二月十八日 雨 寒
○上略 堀切善次郎氏来話ス、近日本職ヲ以テ欧米ニ赴キ視察スヘキニ付告別ノ為メ来レルナリ、依テ資本労働ノ関係、殊ニ労働界ノ沿革及現状ニ付、成ルヘク其真想ヲ調査シテ帰遺トセラレン事ヲ企望スル旨ヲ告ク
   ○中略。
三月二日
此日ハ病気ニテ起床スルヲ得ス ○中略 越テ五日ノ午後ヨリ病勢大ニ進ミテ悪寒強ク ○中略 自身ニテモ大患タルヲ自覚シ、当日以後約一週間許リハ回復ノ望ナキモノト思フテ、身後ノ処置ニ付、海外ニ於ル例ノ国際ノ関係ヨリ国内現在ノ思想界ノ不安定ナル事、経済界ノ膨脹セルヨリ其実質ノ不鞏固ナル事、道徳心ノ日ニ増シテ衰頽セル事、資本労働ノ調和不完全ナル事、社会政策ノ樹立セサルニヨリテ防貧ノ策及恤救ノ方法具備セサル事等、憂慮スヘキ案件頗ル多ク、之ニ加フルニ一家内ノ小事ニ於テモ同族ノ安寧協和ニ付テモ訓諭スヘキ事共多々アリシヲ以テ、熱度高ク苦悶ノ加ハルニ従テ種々ノ憂患胸中ニ往来シテ、時々医臥《(師)》ニ請フテ、病ヲ努メテ心事ヲ叙述シテ遺言センコトヲ要求シタルモ、医師ハ其事ノ治療ニ害アリトテ許容セザリキ ○下略
   ○中略。
五月十六日 晴 軽寒
○上略 午後三時床次内務大臣ヲ訪ヘ、労働問題ヲ談ス ○下略
   ○中略。
五月二十三日 半晴 暖
○上略 蓮沼門三氏来ル ○中略 労働問題其他思想界ノ現在将来ニ付意見ヲ交換ス ○下略
   ○中略。
六月四日 晴 軽暑
○上略
 - 第31巻 p.459 -ページ画像 
十一時床次竹次郎氏ノ案内ニテ内務大臣ノ官舎ニ抵リ、徳川公爵其他ト労働問題ニ付協議ス ○下略
   ○中略。
六月八日 曇 暑
○上略 朝飧ヲ畢リ、井上・新井ノ二職工ノ来訪ニ接シテ、労働ノ実際ニ付種々ノ談話ヲ為ス ○中略 四時過ヨリ事務所ニ抵リ、北沢新次郎氏ノ来訪アリ、労働問題ヲ談シ、鈴木文治氏ノ身上及友愛会ノ近状ヲ談ス、鈴木氏ヨリノ書状ヲ貸与ス
午後五時頃ヨリ修養団幹事諸氏来ル ○中略 労働問題ノ経過ヲ説示シ、夜十一時迄種々ノ談話アリタリ ○下略
六月九日 曇 暑
○上略 実業公論記者来リテ、労働問題ニ関スル一場ノ談話ヲ為ス ○中略 午前十時内務大臣床次氏ヲ其官邸ニ訪ヘ、労働問題ヲ談ス ○中略 十二時徳川公爵ヲ訪ヘ、労働問題ニ付協会設立ノ事ヲ協議ス ○下略
   ○中略。
六月十二日 雨 冷気
○上略 十一時半内務大臣官舎ニ抵リ、東京・大阪等六商業会議所会頭等ト会同シテ、労働問題ニ関スル談話ヲ為シ、午飧ヲ共ニス ○下略
   ○中略。
六月十四日 曇又雨 冷気
○上略 午飧後三井同族会ニ抵リ、団琢磨氏ヲ訪ヘ、労働問題及各種寄附金ノ事ヲ依頼ス、更ニ三菱会社ニ抵リ、相島像一氏《(桐島像一氏)》ニ面会シテ同様ノ事ヲ託ス ○下略
六月十五日 曇 冷気
○上略 山田延弥氏来リ、商店雑誌ニ労働問題ニ付一場ノ演説ヲ為ス、工藤十三雄・沢田日東二氏来リテ工場協会設立ノ要旨ヲ告ケ、書類ヲ示サル、谷口留五郎(前福岡県知事)来リ労働ニ関スル協会ニ付種々ノ談話ヲ為ス、蓋シ過日床次内務大臣ヨリ示サレタル為メナリ、信愛協会設立ニ付テハ尚充分ノ用意アルヘキ事ヲ注意ス ○下略
   ○中略。
七月三日 曇 暑
○上略 五時事務所ニ抵リ、添田地方局長ノ来訪アリ、資本労働問題ヲ協議ス ○下略
   ○中略。
七月八日 晴 暑
○上略 午前十一時事務所ニ抵リ、清浦子爵ト共ニ、工業倶楽部ノ幹部諸氏ト資本労働協調ノ事ニ関シテ、種々ノ協議ヲ為ス、相共ニ午飧ヲ畢リ、四時過ニ至ルモ決定ヲ得ス、更ニ会同ヲ約シテ散会ス ○下略


集会日時通知表 大正八年(DK310072k-0006)
第31巻 p.459-460 ページ画像

集会日時通知表  大正八年        (渋沢子爵家所蔵)
七月廿一日(月) 正午    協調会ニ関スル会合(銀行クラブ)
   ○中略。
七月廿五日(金) 午前十一時 協調会ノ件(銀行クラブ)
七月廿六日(土) 午前十一時 協調会ノ件(銀行クラブ)政治家招待
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   ○中略。
七月廿九日(火) 午前十一時 協調会ノ件(銀行クラブ)


竜門雑誌 第三七三号・第五五―五六頁 大正八年六月 ○労働問題凝議(DK310072k-0007)
第31巻 p.460 ページ画像

竜門雑誌  第三七三号・第五五―五六頁 大正八年六月
○労働問題凝議 六月六日の「やまと新聞」は資本労働の調和と題して左の如き記事を掲載せり、曰く
 労働問題に対する朝野各方面の態度は、最近に至りて漸く真剣となり、内務・農商務両当局は勿論、資本家・労働者を始め、学者・宗教家間に熱心攻究せられつゝある所なるが、此
 △大勢を看取 し予てより調査研究を怠らざりし実業界の長老渋沢男は、四日清浦奎吾子、徳川・大岡両院議長の三氏と内相官邸に会同、我国に於ける資本労働の調和機関設立につき凝議し、略ぼ成案を得たるを以て、近く各方面の代表者を会し大綱を決定したる上、其実行に着手する筈也と云ふ。右
 △会同の内容 に関し仄聞する所によれば、我国に於ける資本労働の関係は必ずしも欧米のそれと同様ならざるものあり、而も現状に放任せんか、日本独得の労働精神は漸く其の影を没すべきは必然、之れに代つて現はるべきは現下欧米の苦悩しつゝある労働状態なるべきを以て、此際一世の認めて以て是なりとする大方針に準拠し、此間に或る種の施設を講ずるは刻下の緊急務なるべく、如上の主旨によつて先づ
 △一千万円程度 の基金を有する財団法人を組織し、其事業としては先づ資本労働に関する各般の調査・講演・宣伝等を始め、各種社会政策的施設を講ずべく、就中該機関の中心使命とも称すべきは労働争議の仲裁にして、之に関しては本邦独得の施設を講じ、資本労働の調和、新労働精神の樹立を期し、以て国運の発展に資する筈なりと


竜門雑誌 第三七五号・第五〇―五二頁 大正八年八月 ○協調会設立趣旨内示会(DK310072k-0008)
第31巻 p.460-462 ページ画像

竜門雑誌  第三七五号・第五〇―五二頁 大正八年八月
○協調会設立趣旨内示会 徳川貴族院議長・大岡衆議院議長・清浦枢密院副議長及青淵先生四氏の発起に係る協調会は、政治家・実業家・新聞記者、各方面の有力者二百有余名の賛同を得て近く設立せらるゝ筈なるが、之れに先だち右の発起者たる四氏は、七月二十五日午前都下各新聞社代表者を丸の内銀行集会所に招待して其設立趣意を内示せり、当日大岡育造氏は旅行中にて出席せざりしも、徳川家達公・清浦子・青淵先生の三氏は出席し、先づ徳川公より設立の趣旨に就き挨拶あり、次いで青淵先生は右設立に至る迄の経過に就きて詳細なる演説ありたるが、其要旨は左の如くなりしと。
 △公明正大の態度 余等四人玆に本会を発起せるは、資本家・労働者両者の外に在りて之が協調に努めんとするに在り、労働・資本両者間の問題は日一日と重要の度を増しつゝある重大問題なれば、本会成立の後は熱誠以て之が問題を監視し、公明正大の態度を以て或は両者に勧告を加へ、一方に過ぐる所を以て他方の足らざる所を補はん事に微力を尽す所存なるが、尚ほ時には社会政策に迄も立ち入
 - 第31巻 p.461 -ページ画像 
りて尽力せん考へなり、目的は斯の如く明白なるも、果して能く吾等の微衷が世の容るゝ所となるや否や、即ち資本家よりも労働者よりも信頼を受け、本会の目的を達成し得るや否や大に危む所なり、現に本会の創立に際し資本家側よりも労働者側よりも種々雑多なる不平を聞きたるが、只余等は熱誠以て事に当らんと覚悟し居れり
 △事業の前途有望 今や我国は欧米思想の流入に依り混乱状態に陥らんとし、社会政策の必要を痛感し居れるが、滔々として流入し来る勢ひは到底日本旧来の温情主義のみを以て解決するを得ず、玆に於て本会は資本・労働の中間に立ちて各種の施設と種々の尽力を為し、将来資本家の我儘より、若くは労働者の無自覚より必ず起るべき両者の衝突を、最も公平に裁断調停せんと欲す、世上本会の発起人中に労働者側の代表者なきを理由として、本会の趣旨を怪むものあれど、本会は決して資本家の為の協調会に非ず、資本家の我儘に対しては充分監視する考へなり、尚ほ本会は徳川公の如き、清浦子爵の如き、又大岡育造氏の如き顕要の人々を以て発起したるものにて、又本会の費用に就ては畏き辺りより御下賜金を受くる希望もあり、旁本会の前途に就ては決して悲観を要せず、幸に新聞社諸彦に於ても此趣旨を諒とせられ、本会の目的達成に御尽力あらん事を望む(時事新報)
右終つて午餐を共にし、食後更に該発起人と新聞記者との間に意見の交換ありて、午後散会したる由なるが、尚当日発起人側より内示せる協調会設立趣意書及綱領は次の如しと。
    設立趣意書
 資本・労働の協調は産業発展の第一義にして、又事業界の平和を保維する所以なり、然るに両者協調の事たる、言ひ易くして行ひ難きは、之を欧米諸国の事例に徴して明なり、惟ふに我国に於ける傭主と一般労務者との関係は、幸にして未だ欧米に於けるが如く著しき反目嫉視を見るに至らずと雖も、而も輓近産業の顕著なる発展に伴ひ、紛擾又は罷業の処々に発生して事業の平和を破るあり、或は労務者自ら組合を組織して、漸く団結の勢を作らんとするの傾向あり時勢の変転と思想の動揺とは、今や徒に旧慣に拘泥して以て資本・労働の協調を期待するを許さず、須らく時代の推移、人心の帰向に察し、法規の設くべきは之を設け、国家の施設すべきは之を施設し傭主は労務者の人格を尊重して、其の労働能率増進の為に最善の力を尽し、労務者亦自ら修養鍛錬の功を積みて、其の経済的地位の向上を期し、相共に反省奮励する所なかるべからず、現時欧米諸国に於ける社会政策的施設は事頗る多岐に亘るも、其の実績必ずしも遺憾なしと謂ふべからず、即ち之を我国に施すに当ては、特に我国情民習に照して参酌按排、其の宜しきを制せざるべからざるは固より論なき所なり
 本会の設立は之に依て以て自ら一切の社会政策的事業に当らんと欲するに非す、期する所は一に利弊得失を研究調査し、以て時勢に適応する施設の実現を図らんとするに在り、刻下喫緊の案件たる労働問題の解決に関しては、先づ現時の資本労働関係如何を考察し、其
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の自ら実行すべきは之を実行し、其の政府若くは公共団体の施設を要するものは之を政府若くは公共団体に要望し、事業主の企画に待つべきものは之を当業者に勧奨し、労務者の奮励を促すべきは之を促し、中正不偏専ら時代の要求を大観し、以て健全なる社会政策の樹立を期し、傭主・労務者斉しく其の所を得、相共に戮力して社会の福利を増進するに至らんことを欲するに外ならず、故を以て本会の会員は広く之を社会の各方面に求め、必ずしも意見の異同と職業の如何とを問はず、互に胸襟を披瀝して以て資本・労働の協調に努力せんことを期す、庶幾くは時代の大勢に順応して、国家の進運に貢献するを得んか、大方の士吾人微衷の存する所を諒とし、進んで本会の成立と其の発展とに寄与せられんことを望む
    協調会綱領
 第一、目的 本会は事業者と労務者の協調を促し、社会政策的施設の調査と其の実行を促進するを目的とす
 第二、事業 本会は本部の外全国枢要の地方に支部を設置し、主として左記の事業を実行し若くは之を誘助するものとす
  一、公私の機関と連絡を取り、社会政策に関する調査研究を為し其の結果を頒布すること
  二、通俗講演・図書館等を開設して、労務者の修養啓発に資すること
  三、職業紹介事業の中央機関たるべき適当なる施設を講ずること
  四、労働紛議の仲裁和解に尽力すること
  其の他時勢の推移に応じて必要なる施設を講ずるものとす
 第三、組織 本会は会員の醵金及有志者の寄付金を基礎とする財団法人と為す
 本会に評議員会を設け、各方面の人士を網羅し、本会の事業遂行上に於ける議決機関と為す


竜門雑誌 第三七五号・第五二―五三頁 大正八年八月 ○協調会設立理由(DK310072k-0009)
第31巻 p.462-463 ページ画像

竜門雑誌  第三七五号・第五二―五三頁 大正八年八月
○協調会設立理由 左は青淵先生の談として七月二十六日の「大阪新報」に掲載せられたるものなり。
 最近労働問題は俄に勃興し来り、之れが種々複雑なる社会問題と関聯し、目下漸く
 △朝野の視聴 を惹きつゝあるが、単に此の労働問題解決法としては、其の間種々なる因襲的障害あり、日本としては直ちに之を解決せんとするのは、其の間頗る困難なる事情の伴ふことを忘れてはならぬ、吾人より見れば今日我が資本家側並に労働者側は、何れも重大なる欠点を有するものゝ如くである
 △今資本家側 の言ふ所を大体綜合するに、労働者の自覚が足りない、労働能率を大いに増進するにあらざれは、時間の短縮も賃銀の増加も到底労働者側の要求を直ちに容ることは、我が工業の為めに甚だ不利益であるが、之等の利益は従来と雖も相当労働者に対して分配せられ、決して資本家のみが之を壟断して居るのではないと云ふて居る、之に反し
 - 第31巻 p.463 -ページ画像 
 △労働者側の 言ふ所の要点は、資本家は労働者を、機械扱ひにして、事業の利益は少しも分配しない上に、労働者の解傭には聊かも仮藉する所がない、而して制度の上にも亦之を是認して居るものが尠くない、彼の治安警察法第十七条の規定の如きは、その最も顕著なる一つである、資本家に同業組合の組織を許すならば、労働者にも
 △労働組合の 組織を公許するが至当であると云ふのである、斯くの如く我が労働者側と資本家側との意見の相違は、殆んど根本的に稍大なるものがあるのであるが、今日此の好景気時に於てすら尚且此かる物議ありとせぱ、更に近く不景気の出現することあらんか、我が労働問題は果して如何の状態に陥るべきか、吾人甚だ憂慮なき能はずである、然も吾人は如何にして
 △此の問題を 最も有効に解決すべきかに就ては、未だ十分なる確信を有するまでに至らずと雖も、既に労資両者の間には如上の如き殆んど根本的に相容れざらんとする意見の相違もあることなれば、此際両者の何れに左袒するも到底国家社会の為めに有利幸福なる解決を見んとすることは
 △余程困難否 寧ろ不可能であると云ふので、吾人としては労資に対して全く第三者の位置に立つ所の協調機関を設け、之によつて両者の主張をして漸次に接近融和せしむることが最も有効な方法ではあるまいかと考へ、目下はその目的に向つて調査研究の歩を進めたる次第である云々。



〔参考〕東京朝日新聞 第一一六八一号 大正七年一二月二九日 ○今日内相の官邸で労働問題の協議 騒ぎの起らぬ内に解決すべき二方法 保存したい日本の美点=川村警保局長の談(DK310072k-0010)
第31巻 p.463-464 ページ画像

東京朝日新聞  第一一六八一号 大正七年一二月二九日
  ○今日内相の官邸で労働問題の協議
    騒ぎの起らぬ内に解決すべき二方法
    保存したい日本の美点
      =川村警保局長の談
今二十九日午前十時から床次内相官邸に於いて、朝野四五の大頭株が我国の労働問題解決に関する或る重要事項に就いて協議を重ねるさうだが、川村警保局長は、広く世界の労働問題最近の趨勢に就いて語る『英国には例の労働組合が早くから勃興して、資本家に対する為めに多数の労働者が
△堅い組合 を組織して、同階級自衛の途を講じたことは御承知の通りである、資本家と労働者との間に情誼的の関係の薄い欧洲の産業界に於ては、微力なる労働者が当時斯かる結束を余儀なくせられて、横暴なる資本家に対抗せざるを得なかつた、労働時間並に賃金に関し資本家に迫るにストライキと云ふ脅迫的又は示威的の武器を以てしたのは、あゝいふ資本家過重の社会に於ては已むを得ざるものであらう、労働組合は寧ろ
△資本家 の方から醸成したものと考へるのが至当である、其の為めに資本家も労働者自身も、共に損害を蒙つてゐる、大きく見れば国家が此の紛擾の為めにどれ丈け損をしてゐるか、測り知るべからざるものがある、何れの点から見ても不利益なる「労働組合」の組織されな
 - 第31巻 p.464 -ページ画像 
い方が、国家から云へば無論のこと、資本家にも労働者にも利益である、米国のスタンダード石油会社などは早くから玆に見るところがあり、労働者側の代表者と資本家側の
△代表者と が、労働問題に関して常々協議会を開く組織になつて居る、之れに依つて紛擾を未然に防ぐ機関としてゐる、日本の社会は欧米のと異る状態にある、資本家と労働者との間柄は欧米の様に冷淡なものではない、非常に情誼の厚い関係にあるのは一大美点で、之れは何処までも保存しなければならぬと共に、一面に於いては資本家側も労働者側も場合に依つては忍び得ざる
△苦痛をも 尚ぢつと耐へてゐる場合もないとは限らぬ、此処は十分に見てやらなければならぬ点だ、斯かる状態にある日本の労働問題は更に精しく実地に当つて調査研究する必要あると共に、欧米にある如き性質の労働組合は日本には興したくない、今言つた労働者・資本家間の協議機関と、モ一つ其の会社の利益を労働者にも分けてやる方法即ち利益を労働者にも分けてやる方法、即ち利益の分配を資本家のみに止めず、労働者にまで及ぼす方法、此の二つの方法に依つて日本の労働問題の解決が割合に楽に出来やうと思はれる、これは私一己の議論である』