デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2021.9.1

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
2節 米国加州日本移民排斥問題
1款 在米日本人会
■綱文

第33巻 p.399-404(DK330021k) ページ画像

大正2年1月21日(1913年)

是ヨリ先、アメリカ合衆国カリフォルニア州議会ニ、日本人排斥ヲ目的トスル外国人土地所有法案提出セラル。当会ヨリノ来状ニ接シ、是日栄一、外務省ニ外務次官倉知鉄吉ヲ訪問シテ協議スル所アリ。二月四日再ビ外務省ヲ訪問シテ右ニ関シ次官松井慶四郎ト意見ヲ交換ス。


■資料

渋沢栄一 日記 大正二年(DK330021k-0001)
第33巻 p.399 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正二年 (渋沢子爵家所蔵)
一月二十一日 雨 寒
○上略 午後四時倉知次官○鉄吉ヲ外務省ニ訪問シ、米国日本人会ヨリノ来状ニ付協議ス○下略
一月二十二日 雨 寒
○上略 午飧後事務所ニ抵リ○中略米国ヨリノ来状ニ付増田ニ回答案ノ作成ヲ指示ス○下略
○中略。
二月四日 晴 寒
○上略 午後○中略外務省ニ抵リ、松井次官○慶四郎ニ面会シテ米国加州ニ発スル排日問題ニ対スル意見ヲ交換ス○下略
   ○外務次官ハ大正二年二月一日ニ倉知鉄吉ヨリ松井慶四郎ヘ更迭セリ。「明治大正昭和大官録」(宍戸新山編・大東新聞社刊)ニ拠ル。



〔参考〕排日問題梗概 千葉豊治編 第三六―四六頁大正二年六月刊(DK330021k-0002)
第33巻 p.399-404 ページ画像

排日問題梗概 千葉豊治編 第三六―四六頁大正二年六月刊
 ○第二篇 日本人土地所有権禁止問題
 - 第33巻 p.400 -ページ画像 
    第四章 第四十回加州議会前半期の排日案形勢
加州立法部対中央政府間の大衝突となり、今や日米両国の重大なる外交問題となりたる、加州第四十議会の外国人土地所有権禁止法制定問題も、本年○大正二年一月六日州会開会以前迄は、其前途一般に楽観せられたり。勿論前年末の総選挙の際に当りては、之を政争の具とし、本期州会には必ず土地案を通過せしむべしと選挙民に約束したるものも多かりし如くなれど、将に巴奈馬太平洋万国博覧会の開催を前途に控えては、列国に率先して賛同したる日本に対しても、多少は遠慮もあるべく、又此際の排外騒ぎは欧洲及び東部の人気も失すべければ、之れ等の関係より、仮令土地案提出せらるゝも本議に論議せられ、通過するが如きことはなかるべしと一般に予想せられたり。然るに愈々州会開会となるや、大博会社側の防遏運動も何等効を奏せず、外人土地所有権禁止法案を始め、各種の排日的法案続々として提出され、二月初旬には亜細亜人排斥法案賛成聯合決議案、上下両院を通過するに至れり。
 一、千九百十二年の総選挙と排日案 千九百十二年(大正元年)十一月大統領選挙と共に、国会議員・州会議員の選挙となるや、日本人排斥問題は又々政争の一利器とせられたり。加州の民主党が不能帰化人土地所有権禁止の条項を、其政綱中に入れたるは云ふまでもなく、共和党又タフトに与する正統派と、ローズベルトを推せる進歩派に別れ、タフト派の如きは先年の学童問題を持出し、頻りと日本人排斥を政争の具となしたる程なれば、州会議員にして本期州会には必ず排日土地案を通過せしむべく、選挙民に約束せるもの尠なからざりしが如し。
 二、日本の大博賛同と排日案 然るに一方桑港市に於ては、千九百十五年を期して巴奈馬太平洋万国大博覧会を開催することゝなり世界列国の賛同出品を勧誘せる中にも、日本は他に率先して賛同し委員を派して既に敷地をも選定したることなれば、此際濫りに排日運動を起さしむるは、日本に対する情誼に反するのみならず、内外の顰蹙を買ふ所以にして、又加州の利益と、桑港の発展を妨ぐるもの、加之曾つて大博開催地に就て、桑港がニユーオルレアンスと争ふや、加州及び大博会社代表者は、責任を以て加州の排日運動を抑圧すべく約束し、辛ふじて開設地たるの賛成を得たる事情も存する事なれば、当期州会には排日案の提出も多からざるべく、無論土地案の通過するが如きこと無かるべしとは一般に想像せられたる所なりき。然れども州会の事情に通ぜる一部識者は、大博の如何に拘らず、必ずや幾多の排日案提出せられ、論議せられ、或は通過するやも図り知るべからずと観測したり。
 三、大博会社の排日案不提出運動 然るに本年一月六日加州々会第四十議会開かるゝや、キヤミニテ、サンフオード等は、久しく主張し来りたる外人土地所有権禁止案を初め、各種の排日案を提出すべき事殆ど疑ふ余地なきに至れり。玆に於て大博会社社長ムーア、同重役モーゼー等桜府に至り、知事ジヨンソン、上下両院議院議員間を奔走し土地案の提出を見合すべく勧誘したるに、共和党両派は
 - 第33巻 p.401 -ページ画像 
其意を諒として強ゐて争ふの意なかりし如くなりしが、キヤミニテ始め民主党議員等は、既に政綱中に外国人土地所有権否認を標榜したる以上、選挙区民の公約に対しても今更排日案を撤回するが如き事あるべからず、大博覧会は唯一時的問題なれども、吾人の土地所有権禁止法案は永久に加州の土地を保護するものなりとなし、頑として応ぜず、加ふるに労働派・社会党一部の躍起組も、大博会社の哀願あるの故を以て、年来の主張を抂ぐべきにあらずと強固なる態度に出で、所詮済度すべからざる形勢なるを以て、せめては地方新聞の煽動丈けにても中止せしめんとしたる結果、桑港の各英字新聞地方の主なる新聞は全く排日案に関する記事を掲載せざることとなり、聯合通信も加州の名誉と、大博の成功を重しとし、排日案に関しては世界何れにも電報を発せざる事となり、地方選挙区民にして此際排日案を議するは加州の恥辱なりとして、地方選出議員に書を送り、反省を促せる向も少なからざりしなり。
 四、亜細亜人排斥法案賛成決議案通過 大博会社其他の排日案防遏運動も所詮効果あらざりき。一月十三日に至り民主党上院議員サンフオード、共和党進歩派上院議員バーゾール、下院議員キヤリーブラドフオード等、日本人排斥を目的としたる外人土地所有禁止法案を提出したるを筆頭とし、外国人雇傭廃止法案・外人漁業鑑札税法案・東洋人隔離学校法案・酒販売禁止法案・人頭税法案等、続々提出せらるゝあり、一月三十日には加州選出中央議会下院議員レーカーによりて数々繰返されつゝある支那人排斥法を一般東洋人に及ぼさんとする法律案に対し、加州より声援を与ふべしといふサンフオード提出の聯合決議案、突然上院本議に附せられ、賛成二十四票棄権十一票にて通過するあり、続て二月三日には下院議員シアラーによりて、サンフオード案と同一なるレーカー案通過要請聯合決議案下院に提出され、僅に一名の反対ありたるのみにて通過したり。元来レーカー案は亜細亜人排斥協会の後援によりて年々提出し来れるものなるが、其通過要請決議案の一度加州々会を通過するや、排斥協会は直ちに大活動を開始し、同五日にはオレゴン州々会にも提出せられ、難なく上下両院を通過し、華盛頓、ネバダ、アリゾナ、ニユーメキシコ、ユタ、アイダホ、コロラド等の諸州又其顰に傚はんとする形勢を示せり。
 五、華盛頓州の新土地法成立
 加州々会の土地案形勢甚だ不穏なる時に当り、北方華盛頓州々会下院に於て、二月六日を以て日本人・支那人を除外したる外国人土地所有権附与案を通過したる一事は大に加州々会議員を刺戟したり。従来華盛頓州は外人に土地所有を禁じたりしが、商業会議所・土地売買業者の運動の結果、一船外人に土地所有を許すは、華州の開発上必要なりとの説漸く勢力を占め、遂に法律案として提出せられたるものなり、然るに同州白河地方選出下院議員ヒユース等、斯くなさば日本人及支那人にも土地を所有せしむることになるを以て不可なりとし、遂に之を除外することに修正したるものにして、此案一度下院を通過するや、国務卿ノツクスは同州知事リスターに宛て、
 - 第33巻 p.402 -ページ画像 
条約上負ふ所の義務其他に就き調査する迄議事の進行を中止すべく打電し、其後知事及商業会議所等の奔走の結果、法案中より日支人の除外条項を削除し、単に住宅区域に限り一般外人に土地所有を許すことに修正し、三月十一日同州々会上院を通過したれども、之れが法律としての実施に就ては、更に州民一般の投票によりて決することとなりたり。
 六、アイホダ州新に外人土地所有権を許す
 此時に当り、更に注意を惹きたるは、アイダホ州の土地法なり。同州は従来州法二千六百九条によりて、外国人の土地所有を禁止したるが、今期の州会に於ては富源開発の為め、一般外人に土地所有を許すべしとの改正案提出せられ、三月中に両院通過、知事署名の一切手続を了し、五月一日より実施せらるゝこととなり、日本人も新に土地所有権を許与せらるゝことゝなりたり。
    第五章 第四十回加州議会後半期の排日案形勢
幾多の排日案を提出したる儘、加州々会は二月六日より一ケ月間休会することとなれり。此間亜細亜人排斥協会は州会議員及地方選挙民間に排日案通過の運動をなすべき形勢なるを以て、在留同胞官民も大博会社・商業会議所を督励し、大に防遏に努めたりしも見るべき効果なく、三月十日州会再開と同時に土地案は上下両院委員会の議に上り、各三名の特別委員附託となり、同二十三日には外人土地所有権禁止折衷案下院委員会に報告せられ、四月一日には両院聯合会を開き関係諸方面の陳情を聴き、二日大博委員との知事官房に於ける会見に於て全く大博会社の希望を排し、同十五日には外人土地所有権禁止折衷案を本議に附して通過せしめ、翌十六日には市民以外の者に漁業鑑札下附税を不公平に課する法案を本議に附して通過せしめたり。
上院に於ても二日の大博会社委員との会見後活動敏活となり、四日には下院案より更に極端なる外人土地所有禁止折衷案を起草して、委員会に報告したり。然るに此上院折衷案は下院案に比し影響する範囲広く、一般外国人にも大打撃を加ふる結果となるを以て、忽ちにして欧洲資本家の反対運動を惹起し、更に之を純然たる差別的土地所有権禁止案に修正せんとするや、国務卿の警告となり、玆に委員中一般的排外派と差別的排外派の二派に分れ暗闘始まり、法案は一時五里霧中に葬られたり。
 一、土地案上下両院特別委員選定 三月十日州会再開せられたる時には、排日案の提出せられたるもの三十三の多きに達し、同月十七日には愈上院第一回委員会を開き、サンフオード提出土地案通過に関する激烈なる論争あり、十九日更にサンフオード、バーゾールラーキンの三土地法案に就て討議の結果、三名の特別委員附託となり、特別委員としてライト、タムソン、カーテンを挙げ、更に各方面の陳情を聴きたりしが、亜細亜人排斥協会代表者の如きは虚偽捏造の報告を以て排日案の通過を主張したり。此日下院委員会も土地案に関する協議会を開き、特別委員に附託することとなり、委員としてクラーク、ブラツドフオード、サヾランドを推挙せり。
 参考 三月十日加州々会再開の当時既に提出されたる排日的諸法律
 - 第33巻 p.403 -ページ画像 
案総計三十三の内、土地所有権に関するものは上下両院に各四、漁業及之に関係あるものは上院に三、下院に四、隔離学校に関するもの上院に三、下院に六、酒類販売に関するもの上院に一、機関師免状に関するもの上院に一、下院に二、探偵及夜番に関するもの上院に一、下院に二、人頭税に関するもの上下両院に各一ありたり。
 二、亜細亜人排斥会の対土地案活動 州会休会中亜細亜人排斥会は、州会議員及び地方選挙民間に極力排日案通過の運動をなし、日本人出入国数に関する虚偽の報告書に添ふるに、外人土地所有権禁止案通過賛成意見を附して督励し、三月十日州会再開となるや、委員を桜府に派して排日案通過応援運動を開始したるが、同十六日レボア・テンプルに於て開会したる同会例会に於ては、特に州会の排日法案其他に関し、同会の態度を決定する為め協議する所あり、バーゾール提出の上院第五号案は、帰化権なき外国人に借地権を許し居るを以て、同会の綱領とする東洋人排斥の目的を達する能はずと認め、書記ヨエールに命じて同条項削除希望の旨を州会議員全体に通告せしむる事とし、同時に土地問題に関する排日案中、最も猛烈なるサンフオード案に賛成する旨を決議し、有ゆる機会を逸せず排日案通過運動を継続せり。
 三、大博委員対州会議員最後の交渉 大博会社重役は四月一日の上下両院聯合委員会に出席し、万一土地案通過せば、日本は大博賛同を取消すべきことを説明し、更に翌二日にはムーア、ヘール、スキーフ、ローウエルの諸氏、知事官房に上下両院領袖と会合し、排日案通過は日本の賛同取消となり、其結果は欧洲諸国も不賛同となるべきを以て、反省ありたき旨を陳情したれども、下院委員の如きは全く之に耳を藉さず、即日折衷案を本議に附し之れを通過せしめたるのみならず、従来態度を明瞭にせざりし知事ジヨンソンは、玆に至りて明かに土地案上下両院通過の暁は必ず署名すべきを断言し土地案が日本人に不利となるは、加州々会の責任にあらずして、日本人に市民権を附与せざる合衆国法律の罪なりと放言するに至り、大博会社も最早如何ともすべからずなれり。大博会社の外に商業会議所、其他公私の団体・会社等にして或は直接に、或は間接に、土地案通過反対運動を開始したるもの少からざりしかども、熱狂せる州会議員を動かすべく何等効果なかりしなり。於玆大博会社・商業会議所等は、全く対州会行動を中止したるが如く、其後二三の土地法成立反対決議をなしたるに止れり。
 四、折衷土地法案及漁業案の下院通過 土地法案が上下両院特別委員附託となるや、上院特別委員会はカーテンの不在其他の理由にて何等議案整理進行せざる間に、下院特別委員は迅速に折衷案を作製したり。即ち折衷案はブラドフオード、カーリー二氏の提案に基きたるものにして、三月廿三日を以て委員会に報告し、其後再三委員会と特別委員との間に往来ありたる結果、多少の修正をなし、四月二日には下院委員会を通過し、同十五日には下院本議に報告し、終日激烈なる討論ありたる後、日本国論の沸騰も、中央政府の訓電も殆んど眼中になきが如く、十五対六十の多数を以て之を通過し、
 - 第33巻 p.404 -ページ画像 
 十六日にはジヨンストンによりて提出されたる排日的漁業鑑札税増加法案を満場一致を以て通過したり。
 ○中略
 五、上院折衷案と欧洲資本家の反対 下院特別委員が敏速なる活動を開始したるに反し、上院特別委員は或は委員に故障存するの故を以て、或は各州の外人土地所有法調査中なるの故を以て、容易に折衷案を作製すべくも見えざりしが、四月一日の上下両院委員聯合会に於ける一般利害関係者の意見聴取、翌二日の知事官房に於ける大博会社重役との会見は、寧ろ各委員を刺戟したるものゝ如く、四日に至り下院案より更に極端なる折衷法案を起草したり。即ち其折衷案によれば、外国人の土地所有を一ケ年に限り、一ケ年内に市民たるの意思を発表せざるに於ては、州之を没収すべく、又既に土地を所有せるものも、三ケ月以内に処分すべく、リース権は五ケ年以上に及ぶを得ずと云ふにありたりしが、此案は市民及市民たらんとする意思を発表せる者に限り、所有権を許さんとするものなりしを以て、委員会と特別委員との間を往来しつゝある間に、欧洲資本家の激烈なる反対となり、修正に修正を加へられ、結局日本人のみ打撃を蒙るべき差別的禁止法案と変化すべき形勢となれり。此形勢を見たる国務卿ブライアンは、四月十八日を以て訓電を発し警告する所あり、玆に排日議員二派に分れ、一はトムソン、バーゾールを中心として一般外人同等制限を主張し、他はサンフオード、キヤンベルを中心として下院同様日本人のみを排斥せんと主張し、暗闘漸く激甚となり、此間土地案は如何に変化すべきか予測し難くなれり。
 △欧洲資本家の反対理由及其運動 加州の石油事業乃至鉱山事業等に多額の投資をなせる英仏資本家は、之等に対して主に抵当の形式に於て投資せるもなるが、若し抵当流れにて之を所有することになりたる場合に於て、上院折衷法案の規定に従へば、一ケ年以内に処分せざるを得ざることとなり、甚だしき不利益を蒙るに至るべきを以て、事態甚だ容易ならずとなし、其の代表者を桜府に急行せしめ、該法案の原案調査の結果、上院案の起草者トムソン氏に面会、大反対の意見を陳述せしたり。即ち該法案は日本人の受くる打撃と同様の苦痛を欧洲人に与ふるものなるのみならず、現に加州の鉱業並に石油会社の株は過半欧洲資本家の手に在るを以て、外国人により過半数の株を所有せらるゝ会社は、加州に於て土地を所有する事を得ずといふ条項により、此等の資本家は大打撃を蒙るべきを以て、彼等は事情を各本国に打電し、其不当を訴ふるや、四月十一日には欧洲列国の抗議となり、十五日土地案愈々下院を通過するや、欧洲資本家の活動益々猛烈となり、為めに上院案は行悩みの状態となれるなり。
   ○右ノ記事ノ大部ハ「日米外交史」第二一五―二一九頁(昭和七年二月刊)及ビ「日米問題実力解決策」第三〇七―三一五頁(大正五年八月刊)ニ転載セラレアリ。