デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
2節 米国加州日本移民排斥問題
3款 日米関係委員会
■綱文

第33巻 p.501-508(DK330061k) ページ画像

大正9年5月1日(1920年)

是ヨリ先四月二十四日、アメリカ合衆国カリフォルニア州中央農会専務理事千葉豊治、栄一ヲ飛鳥山邸ニ訪ヒ、排日ノ顛末及ビ在留邦人ノ農業金融事情等ヲ詳話シ、且ツソノ著述「米国ニ於ケル排日問題ノ内容及之レカ善後策私案」ヲ是日栄一ヲ通ジテ当委員会ニ提出ス。栄一之ヲ更ニ内閣総理大臣原敬ニ提出ス。


■資料

加州中央農会月報 第五巻一〇号・第三頁大正九年一〇月 日本滞在中の日誌(DK330061k-0001)
第33巻 p.501-502 ページ画像

加州中央農会月報 第五巻一〇号・第三頁大正九年一〇月
    日本滞在中の日誌
○上略
同○四月廿四日 午前八時渋沢男爵を王子の別邸に訪ひ、帰朝の目的、加州の排日顛末、在留邦人の農業的活動、金融事情等詳細に説明し男爵よりアレキサンダー氏一行と日米関係委員との間の協議内容詳細に説明せらる、此日ヴアンダリツプ氏一行横浜着、午後入京、東京駅に之れを出迎ふ。
○中略
同三十日 渋沢男爵主催ヴアンダリツプ氏一行招待昼餐会に招かれ、渋沢男爵の紹介にて昼餐前ヴアンダリツプ氏と会見、加州の邦人問題に就て語り、同氏の需めにより加州邦人農業に関する事実の英文記述を寄贈す、席上後藤男爵・阪谷男爵・金子子爵・埴原外務次官大隈信常・浅野総一郎諸氏と会談す○中略
五月一日 排日問題善後策私案を起草し、渋沢男爵を通じ日米関係委員会に提出、更に渋沢男爵より総理大臣原敬氏に提出ありたり
同二日 日米信託会社長菅原通敬・同専務今西兼二氏の招待を受け、加州邦人金融問題に就て協議す○中略
同十日 数日前米国より帰京されたる前同志社々長原田助氏を訪問、学者・宗教家を中心としたる排日緩和方法に関して懇談す、午後一
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時より同志社大学々生のため加州邦人問題に関し約二時間講述す、夕刻より海老名総長宅に開催されたる新人社京都同人会に臨む、此日東京渋沢男爵より来電あり、即夜帰京す。
同十一日 早朝日本橋区兜町渋沢男爵事務所に増田明六氏を訪問打合せをなす○下略


米国ニ於ケル排日問題ノ内容及之レカ善後策私案(其一)千葉豊治著 第一―一八頁(大正九年)(DK330061k-0002)
第33巻 p.502-508 ページ画像

米国ニ於ケル排日問題ノ内容及之レカ善後策私案(其一)千葉豊治著
                           第一―一八頁(大正九年)
                       (阪谷子爵家所蔵)
(謄写版)
 (表紙)
   米国ニ於ケル排日問題ノ内容及之レカ善後策私案(其一)
                      米国加州中央農会専務理事
                           千葉豊治

    排日問題ノ内容及之レガ善後策私案(未定稿)
第一、加州ニ於ケル排日協会ノ排日運動方針及其内容
(一)立法ニヨル排日方法
 甲、合衆国中央議会及中央政府ニ対スル決議
  一、現存日米間ノ紳士協約ヲ撤廃スルコト
  二、日本移民ノ入国ヲ絶対ニ禁止スル新法律ヲ制定スルコト
  三、写真結婚ヲ禁止スルコト
  四、米国ニ出生シタル児童ト雖トモ、其ノ両親カ共ニ市民権ヲ有セサル限リハ米国市民タラシメサル様、合衆国憲法第十四条第一節ヲ修正スルコト
  (註)排日協会ハ以上四項ノ実行方法トシテ、第一ニ賛成会員ヲ募集シ、既ニ三十万人ヲ得タリト報告シ居リ、第二ニ其ノ運動費トシテ篤志寄附ノ外ニ会員ヨリ入会ト同時ニ一弗宛ノ会費ヲ徴セリ、第三ニ他団体ト聯絡ヲ取リ既ニ賛成ノ決議ヲナシタル主ナル団体左ノ如シ
   (一)米国在郷軍人団 (二)加州労働同盟 (三)加州小農及農業労働者組合 (四)加州十四郡保護協会 (五)西部米国児孫会 (六)西部米国婦人会 (七)加州民主党委員会 (八)西米戦争在郷軍人団 (九)加州聯合婦人倶楽部、其他地方ノ商業会議所・同業組合・発展協会等ノ中排日協会幹部ニ強要セラレテ賛成ノ決議ヲナシタルモノ二十余アリ、加州外ニテモ在郷軍人団・米国児孫会等同様ノ排日決議ヲナシタルモノ少ナカラズ
 乙、日本人排斥州法制定運動
  日本人排斥協会ハ日本人ノ土地所有及農業的発展ヲ以テ加州ニ対スル威嚇トナシ、之ヲ拘束スヘキ州法ヲ制定セシムヘク、当初臨時州会ノ開催ヲ知事ニ要請シタルモ容レラレサリシヲ以テ、人民投票ヲ以テ法律ヲ制定スルコトヲ決議シタルカ、其法律案ノ内容
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左ノ如シ
  人民立法案ノ内容要点
  一、米国ニ帰化シテ市民トナル権利ヲ有セサル外国人(日本人)ノ土地所有・借地権・後見権ニ厳密ナル拘束ヲナシ得ル様、現行加州土地法ヲ修正スルコトヲ眼目トス
  二、市民トナル権利ヲ有セサル外国人(日本人)ヲ父母トシタル未成年者ノ土地所有ニ対シ、後見又ハ支配管理ノ職ニ在ル者ハ財産目録其他細目ノ報告ヲ年々ナスヘク、之ヲ怠ル場合ハ千弗以上ノ罰金カ一ケ年以下ノ禁錮ニ処スルコト
  三、加州民事訴訟法千七百五十一条ニ修正ヲ加ヘ、裁判所ニ於テ十四歳未満ノ被後見人ノ両親中後見職務履行ニ不充分ト認メタル場合ハ之@免職シ、法定ノ後見人ニ代ヘ得ル様ニナスコト
  四、合衆国ニ帰化シテ市民トナル権利ヲ有セサル外国人(日本人)ハ、条約規定ノ範囲外ニテハ、土地不動産及之ニ伴フ私権ノ取得・所有・享有・譲渡及相続ヲナスコトヲ得サラシムルコト
  五、会社団体法人ニシテ株主又ハ社員中帰化権ナキ外国人ノ存スル場合ハ、其外国ト米国トノ条約範囲及目的ヲ越エテハ、権利ノ取得・所有・譲渡・相続ヲナスコトヲ得サラシムルコト
  六、帰化権ナキ外国人(日本人)カ、加州ニ於テ農場ヲ所有シ或ハ取得スル会社団体法人ノ、発行スル株式ヲ所有シ又ハ株主トナルコトヲ禁シ、之ニ違反シタル場合ハ其財産ヲ没収シテ州ノ所有ニ帰セシムルコト
  七、帰化権ナキ外国人ノ借地権ヲ削除スル様、現行加州土地法ヲ修正スルコト
  (註)人民一般投票ニヨル立法ニハ之ヲ一般投票ニ附スル(本年十一月)九十日前ニ、現任州知事選挙ノ際投票アリタル全数ノ十分ノ一(五万五千〇九十人)ノ賛成署名ヲ得ルヲ要スルカ、現今ノ形勢ニテハ所要ノ賛成署名ヲ得ルコト容易ナルカ如シ、唯之ヲ実行スルニハ多額ノ費用ヲ要スルコト、千九百二十一年(大正十年)一月ニハ定期加州々会開カルヽヲ以テ、其間二ケ月間ノ相異ニスギサレハ人民投票ヲ見合セ、州会ニ於テ法律ヲ制定スル方可ナラント主張スル者(排日協会実行委員長チャンバー氏)モアレト、三月十三日桑港ニ開催シタル協議会ニ於テハ異説ヲ排シ、愈人民投票ヲ実行スル事ヲ議決シタリ
(二)司法及行政方面ヨリノ排日圧迫
  今回ノ排日協会ノ標榜主張ハ甚タ不公正不合理ナレトモ、其組織ト運動方法トハ極メテ整然、巧妙、積極的ニシテ、排日立法計劃ノ外、州ノ官吏及各地ノ裁判官ヲ動カシ、(一)米国生日本人ノ土地購入(二)日本人ヲ株主トシタル土地会社ノ登録認可ヲ妨害シ、(三)既ニ土地ヲ所有スル米国生日本人ノ後見者タル父母ノ召喚検挙ヲ開始シ、後見職以外ニ加州土地法ヲ潜リ土地ヲ購入シタリトノ口実ヲ捕ヘントスルカ如キ審問ヲ開始シ、其結果後見職剥奪ノ判決ヲ受ケタルモノ既ニ数件アリ、之カタメ最近既得ノ土地所有邦人農業者間ニモ非常ナル不安ヲ抱カシムルニ至レリ
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(三)経済方面ヨリノ排日圧迫
  排日協会ハ又各地ノ支部ト協力シ、地方ノ銀行ニ干渉シ、若シ米人銀行ニシテ日本人ノ土地購入又ハ農業発展ニ要スル資金ノ融通ヲナサハ、附近ノ米人取引者ヲ勧誘シ其ノ銀行ヲボイコツトスベシトノ通牒ヲ発シ、特ニ土地所有ノ日本人農業経営者多キ地方ニ於テ頻リト煽動ヲナシツヽアルヲ以テ、(一)従来日本人ノ農業金融上多大ナル便宜ヲ図リ来リタル銀行ニシテ其貸出ヲ中止スルニ至レルモノ多ク、(二)之等ノ銀行業者ハ多数人ヲ得意トスルカ故ニ排日派ノ煽動ヲ恐レ、心中日本人ニ好意ヲ有シナカラモ、表面ハ排日ニ賛成ナルカ如キ意見ヲ吐露スル様ニナリ、(三)之カ為メ本年ノ農産物収穫期ニハ邦人農業経営者中窮境ニ陥ルモノ少ナカラサル形勢ナリ
(四)言論機関ニヨル排日圧迫
  排日協会ハ以上ノ日本人排斥運動ヲ有効ナラシメントシテ
 (一)在留邦人ノ人口繁殖率及ヒ農業的発展ノ事実等ヲ針小棒大ニ捏造シ、(二)之ヲ山東問題・朝鮮問題・西比利亜問題及日本ノ軍国主義等ト結ヒ付ケ、(三)加州各地ハ勿論州外各地ノ新聞紙ニ虚構ノ報道ヲナシ、(四)更ニ各地ノ諸集会ニ委員ヲ派シテ遊説セシムル等、有ユル手段方法ヲ講シテ恐日排日ヲ広ク宣伝セシメツヽアリ、(五)其宣伝者ノ主ナル人物ハ合衆国上院議員フィーラン、排日協会長インマン、サクラメント・ビー新聞主筆マクラッチェー等ニシテ、(六)排日的捏造記事ヲ最モ多ク掲載シ絶エス排日暴論ヲナス新聞ハ、全米国ノハースト系新聞以外ニ、サクラメント・ビーノ如キ最モ甚タシキモノアリ、千九百十九年(大正八年)十月以降加州内ニ発刊スル英字新聞ニ掲載サレタル日本人排斥記事毎月五百余件ニ達ス

第二、排日防止応急善後策
(一)排日反対ノ正論ヲ喚起スルコト
 (イ)加州ニ於ケル最近ノ排日形勢ハ以上列挙セシ如ク極メテ険悪ニシテ、若シ排日派ノ煽動スル儘ニ放置傍観シタランニハ、如何ナル違憲不法非人道ナル法律案ト雖モ成立シカネマシキ形勢ニ見エ、(ロ)然レトモ一面ニ於テ排日派ノ中心トナリ居ル人物ノ不誠実ト、彼等ノ多数ガ次期ノ選挙ニ何等カノ為メニスル処アラントシテ日本人問題ヲ利用シ、虚構捏造ヲ敢テスル其ノ野心ヲ知リテ、密カニ憤慨ナシ居ル士モ少カラス、(ハ)唯之等ノ人士ハ一般ニ煽動的野心政治家等ノ相手タルヲ好マズシテ沈黙シ居ルカ故ニ、(ニ)一般住民ハ日本人問題ノ真相ヲ知ラス自己ノ利害ニ直接影響ナキ問題トシテ対岸ノ火災視シ居ルカ、(ホ)然ラサレハ排日新聞ノ捏造記事ニ誤ラレ居ル状態ナルヲ以テ、(ヘ)此際日米両国ノ親善ヲ重シトスル人士起ツテ日本人ニ関スル事実ニ基キ、(ト)排日運動者ノ虚構捏造ヲ指摘シ、(チ)徒ラニ国際紛擾ノ禍根ヲ醸成セントスル罪悪ヲ忌憚ナク論難センカ、(リ)一見険悪ニ見ユル加州ノ排日的形勢ヲ挽回シ、公正ナル輿論ヲ作興スルコト必ラスシモ不可能ト断スヘカラス、(ヌ)既ニ排日派ハ人民投票ニ訴ヘテ排日案ヲ成立セシメントナシツヽアル以上、之レニ対スル策ハ排日反対正論ヲ作興シ、人民投票ヲ不成立ナラシムヘク、一日モ早
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ク正論ヲ喚起スルコト肝要ナリ
 其ノ方法トシテ左ノ数項ハ最モ有効ニシテ早速実行シ得ヘキ方法ナリト思惟セラル
 一、国際的協会ノ支部又ハ聯絡団体ヲ在米日本人間ニモ設置シ、絶エス本国ノ同種協会又ハ団体トノ聯絡ヲトリ、米国ノ同種協会又ハ団体ト接衝セシムルコト
  (註)玆ニ国際的協会ト云フハ、目下日米親善ノ為メニ活動シツツアル日米両国ノ関係委員ノ如キ団体ハ勿論、平和協会・国際聯盟協会・帰一協会ノ如キ国際間ノ融和ヲ目的トシテ組織セラレ居ル団体ヲ指セルモノナリ
 二、在米ノ国際的協会ノ支部又ハ聯絡団体ニ於テハ、(イ)絶エス在米日本人ノ真相、特ニ米国ニ対スル貢献ヲ宣伝スヘク刊行物ヲ発行シ、広ク配布シ、(ロ)親日思想ヲ鼓吹スルト同時ニ、(ハ)米国ノ新聞雑誌ノ検閲・啓発的反駁・正誤・否認等ニ努ムル外ニ、米国ノ同種団体ト接衝シ、之ニ材料ヲ供給シ、絶エス排日防止ト親日思想ノ鼓吹ニ努メシムヘキコト
 三、現在既ニ発行セラレアル在米ノ英字新聞雑誌ヲ補助シ、之ニ在米邦人ニ関スル事実ヲ掲載スル外ニ、本国ヨリモ日本及日本人ニ関スル事実ト米国ニ対スル希望等ヲモ寄セ、広ク米人一般ニ配布通読セシムルコト
  (註)新ニ有力ナル英字新聞雑誌ヲ発刊スルコトモ必要ナレトモ既ニ人民投票等ヲ控ヘ差シ迫リ居ル此際、急ニ応セシメンニハ既存新聞雑誌ヲ利用スルコト最モ捷径ナリ、目下在米各大学在学邦人学生聯合団ノ発刊スル「ジヤパンレビユー」ト題スル英字雑誌アリ、目下財源少キカタメ拡張シ得スニアレトモ、之等ニ多少ノ補助ト共ニ本国ヨリ日米関係委員其他各方面ノ識者ノ意見等ヲ寄セ、之ヲ広ク配布セシムルカ如キハ最モ経済的ニシテ且ツ最モ手早キ方法ノ一例ナリ
 四、宗教各派聯絡シテ活動スヘキコト
 (イ)加州ノ排日形勢ハ政治・外交方面ヨリ見レハ行詰リノ観ナキニ非レトモ、宗教的方面ニハ猶ホ光明ナキニアラス、最近桑港湾附近基督新教各派ノ牧師団蹶起シ、排日反対決議文ヲ発表シ、既ニ数名ノ有力ナル牧師ノ如キハ、教壇ヨリ数回ノ排日反対ノ正論ヲ発表シ啓発ニ努メツヽアリ、人民投票防止ノ最捷径策ハ之等宗教家カ各教壇ヨリ一般加州人ニ反省ヲ促スニアリ、此際日本々国ニ於ケル内外人宗教家モ聯合協議ヲナシ、遥カ彼岸ノ宗教団ト聯絡シ、人種国籍ノ異同ヲ超越シタル人道主義・平和主義・世界同胞主義ノ見地ヨリ排日反対ノ気勢ヲ高メンカ、可ナリノ効果ヲ挙ケ得ヘシト思惟セラル
 (ロ)宗教関係ニ就テ特ニ重視スヘキ方面ハ、加州ニ於ケル加特力教ノ勢力ナリ、労働同盟員ノ多数ハ同教徒ナルハ云フ迄モナク、各地ノ市政其他ノ政治的方面ニ抜クヘカラサル勢力ヲ有ス、而モ此派ノ教徒ハ教権ヲ重ンシ、大僧正・僧正等ノ言ニ動カサルルコト大ナルヲ以テ、加州ノ排日気勢ヲ緩和センニハ、此派ノ
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僧正ヲ動カシ、其ノ声援ヲ得ルコト最モ有力ナリ、加州ニ於ケル邦人間ニテモ、既ニ久シク此点ニ着眼シ来リタレトモ、未タ有力ナル関係ヲ見ルニ至ラス、若シ在日本ノ同派関係者ヲ通シ何等カノ道開クコトヲ得ハ排日緩和上至極有効ナルヘシ
 (ハ)此ノ際排日反対ノ運動ヲ開始シタル加州ノ基督新教牧師団ノ運動ヲ有力ナラシムル為メニ、至急国際的理解力ヲ有シ、米人間ニ知己ヲ有スル宗教家ヲ米国太平洋沿岸ニ派遣シ、米人宗教家ト接衝協力セシムルコト有功ナリ
(二)来朝米人ニ正解ヲ与ヘ、排日反対ニ努力セシムルコト
  (註)既ニ加州ヨリハ加州大学前総長ホイラー博士、桑港商業会議所前会頭アレキサンダー氏等日米関係委員ノ一行来朝シ、東部ヨリハ、有力ナルヴァンダリップ氏一行ノ来朝アリ、我朝野ノ各方面ト接衝・懇談・協議ヲ重ネラレタレトモ、今後引続キ合衆国中央議会議員団・日曜学校大会関係者其他公私ノ使命ヲ帯ヒテ来朝スル者多カラントス、之等ノ来朝米人カ帰米ノ上排日防止ノ為メ多少ノ尽力ヲナサハ、排日気勢ヲ緩和スルニ有力ナルモノアルコト云フ迄モナシ、其来朝米人ニ正解ヲ与フヘキ要点左ノ如シ
 一、西部太平洋沿岸ノ日本人排斥問題ヲ重視シ、常ニ精確ナル調査研究ノ資料ヲ具備シ、之ヲ来朝米人ニ供給スヘキコト
 二、其調査研究ノ資料中ニハ、(イ)在米邦人渡来ノ歴史、(ロ)在米邦人人口及米国市民及他外国移民数トノ比較、(ハ)在米邦人ノ分布状態(特ニ米国ニ於テ都市集中ノ悪弊ニ堪ヘサラントスル此際、日本人カ主トシテ地方農園ニ定着シ居ル実情ヲ理解セシムル為メ)又(ニ)日本人ノ土地開発及産業的貢献及農産業上特殊ナル関係、(ホ)在米邦人ノ生活状態ノ向上ト米国ノ理想及風俗・習慣ニ同化セント努力シツヽアル真相等
 三、特ニ新排日土地法制定運動ニ関シテハ、現行土地法既ニ在留邦人ニ差別的待遇ヲ与フルモノニシテ、日本国民ノ甚タ遺憾トシ不満足トスル所ナルノミナラス、邦人ノ加州開発ト其産業的貢献ノ能率ヲ殺クコト大ナルモノアリト思惟セラルヽニ、今回加州排日派カ制定セントスル新排日法案ハ、日本人父母ヨリ其ノ子ノ財産所有ノ後見権ト、過半数ニ達セサル土地会社ノ株主タル権利ト、三ケ年ノ短カキ借地権ヲモ奪ヒ、全ク邦人ニ農業ノ経営ヲ為サシメス、永久ニ日本人ヲ奴隷的労働者ノ境遇ニ陥ラシメントスルモノ、移民ニ同化ヲ強要シ居ル米国ノ政策ニ矛盾シ、日本国民ニハ非常ナル不満ヲ与フルモノニシテ、米国政府及国民ガ自制之レヲ未然ニ防遏セサル以上、日米親善到底言フヘクシテ望ミ得ヘカラサルコトヲ強ク吹キ込ムヘキコト
 四、日本本国ニ関スル方面トシテハ、(イ)日本ノ人口増殖ト移殖民方針トノ関係、(ロ)日本ノ平和的理想ト軍国主義トノ関係ヲ最モ明瞭ニ説明スヘク、(ハ)特ニ対支那・対西比利亜・対朝鮮政策ニ就テハ徒ラニ時ノ政府ノ立場ヲ弁護スル態度ヲ廃シ、事実ニ基キ日米識者協力シテ、互ニ非ヲ矯正シ誤解ヲ解ク態度ニ出ツヘク、日米関
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係委員其ノ他民間ノ日米問題ニ関与スル団体及個人ハ、決シテ政府弁護ノ機関タリトノ誤解ヲ抱カシメサル様スル事肝要ナリ
 五、来朝ノ米人及米国側ノ関係者又ハ関係団体ヲシテ然ルヘキ筋ヲ通シ、排日首謀者ノ反省ヲ促スコト
  (註)加州ノ排日首謀者ハ合衆国上院議員ゼームス・フィーラン氏ニシテ、此ノ一人ニ其ノ運動ヲ中止セシムル丈ケニテモ排日気勢ヲ殺クニ可ナリノ効果アリト信ス、民主党員ナルヲ以テ大統領ウイルソン氏ヲ通シ適宜ノ方法ヲ講センカ、必ラスシモ其運動ヲ中止セシムルコト不可能ト云フヘカラス、フィーラン氏ニシテ其態度改マランカ、其他加州ノ排日派ヲ改悛セシムルコト決シテ困難ニアラス、現ニ排日派ノ幹部間ニハ最近人民投票問題ニ関シ異議者モ出来居ル次第ナリ
 六、来朝ノ米人ニ、帰米後モ排日防止其他日米親善ノ為メノ尽力ヲ継続セシメンガタメニ、絶エス通信其他ノ方法ヲ以テ注意ヲ喚起セラレタキコト
  (註)来朝中排日防止、日米親善ノタメ熱心努力セザルヘカラザルコトヲ痛切ニ感ジタリトスルモ、帰米後ハ四囲ノ事情ニ余儀ナクセラレ、何等積極的努力ヲナサヽルニ至ルコト従来有勝ノコトナリ、先般来朝セル加州ノ日米関係委員ホイラー博士・アレキサンダー氏ノ如キモ、場所柄丈ケニ其立場ニ困シ、或ハ消極的ニ傾クナキヤヲ恐ル、之レヲ常ニ積極的ナラシムル為メニハ、常ニ日本側日米関係委員幹部ヨリ聯絡、通信、注意ヲ喚起スルコト肝要ナリ
(三)日米関係調査機関ノ設置
 従来民間ノ日米国交ノ中枢トナリ来レル日米関係委員中ニ、米国特ニ西部加州方面ノ事情ニ精通スル者及国際公私法・農業政策・植民政策等ニ精通スル小壮学者又ハ実務者ヲ加エ、絶エス特種研究調査ヲナスベク、常設部門ヲ設置スルカ、然ラザレハ別ニ日米関係調査会トモ云フヘキ機関ヲ設置スルコト必要ナラン
 加州在留邦人間ニモ、日米関係調査会ヲ組織シ、材料ノ彙集供給ニ努メツヽアルヲ以テ、之レヲ補助シテ資料ノ供給ヲナサシムルコトモ一策ナラン
以上列挙ノ諸項ハ、主トシテ目下一刻ヲ争フ加州ノ排日人民投票ヲ未然ニ防止スル応急策ニ過キス、根本的日米親善策、在米邦人ノ経済的援助、将来ノ発展策及在米邦人ノ実情、排日運動ノ真相等ハ別冊トシテ参考ニ供スベシ
   ○右書ノ(其二)ニハ特ニ「加州ニ於ケル排日運動ノ再発顛末」ト題シテ左ノ各項目ニ就テ記述セリ。
    加州ニ於ケル排日運動ノ変化
    欧洲大戦中ノ親日的傾向
    大戦終了ト対日態度ノ急変
    山東問題ト加州ノ排日
    加州十四郡保護協会ト排日
    加州排日協会ノ成立
    排日運動ニ対スル加州有識者ノ態度
 - 第33巻 p.508 -ページ画像 
    宗教家ノ排日運動反対
    右モ亦(其一)ト共ニ提出シタルモノノ如ク、(其二)ニ於テハ大正九年排日イニシアテヴニ至ル事情ヲ述ベタリ。
   ○加州中央農会ハ加州ニ於ケル邦人農業者ヲ指導統一スル中央機関トナリ、農業者相互ノ利益増進ト農事一切ノ改善ヲ計ルコトヲ目的トシ、千九百八年野田音三郎等ノ主唱ニ基キテ組織セラレシモ、未ダソノ時勢ニ達セザリシタメ中途解散シタリシガ、千九百十五年一月之ヲ復興シ、在米日本人会並ニ在桑港帝国総領事館ノ援助ヲ得テ、加州各地ノ農業者中ヨリ理事十五名ヲ推薦シテ之ニ会ノ運用一切ヲ委任セシガ、翌千九百十六年三月ニ至リ専務理事トシテ千葉豊治ヲ挙ゲ、同時ニ理事ヲ二十名ニ増加セリ、千葉ハ従来日米新聞社ニ在リテ新聞業ニ従事シタル人ナリ、設立地ハ桑港ナリ。



〔参考〕(阪谷芳郎)日米関係委員会日記 大正九年(DK330061k-0003)
第33巻 p.508 ページ画像

(阪谷芳郎)日米関係委員会日記 大正九年
                  (阪谷子爵家所蔵)
    六、七 夜千葉豊治来宅(来ル八月十日ノ便船ニテ帰米予定ノ由)原田助派遣ノ件(同人布哇大学教授ニ二年ノ約アリ、又ストージ氏ヨリモ話アリ云々)在加州日本人銀行ト正金トノ関係改良ノ件、ジヤパン・レビユーノ為、資金壱万五千弗入用ノ件