デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
2節 米国加州日本移民排斥問題
3款 日米関係委員会
■綱文

第33巻 p.546-551(DK330068k) ページ画像

大正9年8月4日(1920年)

是日、カリフォルニア州中央農会専務理事千葉豊治、栄一ヲ兜町渋沢事務所ニ訪フ。


■資料

集会日時通知表 大正九年(DK330068k-0001)
第33巻 p.546 ページ画像

集会日時通知表 大正九年         (渋沢子爵家所蔵)
七月廿一日 水 午前十一時 千葉豊治氏兜町ニ来約
   ○中略。
八月四日 水 午後四時 千葉豊治氏・原田助氏兜町ニ来約
   ○中略。
八月九日 月 午前八時半 千葉豊治氏飛鳥山邸来約

(阪谷芳郎)日米関係委員会日記 大正九年(DK330068k-0002)
第33巻 p.546-547 ページ画像

(阪谷芳郎)日米関係委員会日記 大正九年
                     (阪谷子爵家所蔵)
 - 第33巻 p.547 -ページ画像 
○八月       四日千葉豊治来宅、将来ノ方針ニ付意見書ヲ提出ス又ジヤパン・レビユー(加藤勝治)援助ノ件、銀行ヲ住友其他買取ノ件、神崎氏八月帰朝関西学院教授ノ件等語ル、余モ将来ノ傾向ヲ説キ示ス
   ○銀行ヲ買取トハ合衆国内ニ営業スル日本人設立ノ銀行ヲ住友銀行又ハ其他ノ銀行ニテ買収スルノ意ナリ。
   ○本款大正九年六月二十四日ノ条参照。


米国加州邦人問題改善施設私案(DK330068k-0003)
第33巻 p.547-551 ページ画像

米国加州邦人問題改善施設私案
                     (阪谷子爵家所蔵)
                    (別筆)
                    九年八月四日受
    米国加州邦人問題改善施設私案    千葉豊治
 日米両国の禍根を一掃し、両国の国交を円滑親善ならしむるは、是れ実に両国の隆昌と両国民の福祉とを増進する所以にして、同時に世界の平和と文明の進歩とに資する所以なり、然るに近時米国に排日問題再発し、一部米人の偏見・誤解・曲解・離間・煽動に加ふるに、両国々情の相異等紛糾し、問題を益々混乱せしめ、殊に西部太平洋岸加州に於ては、従来差別的待遇をなし来れる加州の外人土地所有法を修正し、更らに極端なる制限を在留邦人に与へ、其の経済的発展を根底より覆滅し、在留邦人を米土より放逐せずんば止まざらんとする気勢を示し、其の勢猖獗を極め、最早両国の政府対政府の交渉のみを以てしては如何んともなし能はざる情勢とはなり来れり、然れども一部米国人が誤解・偏見の上に立つて、在留邦人に飽くまで差別的待遇を与へ、両国民の感情を阻隔せしめんとするは、啻に正義人道に悖るのみならず、両国民の平和・幸福に禍を及ほすもの甚大なるものあるが故に、此の際米国の正論に訴へ、消極的には日本及日本人に対する米国人の誤解・謬見を正し、排日運動に対する各方面の緩和を図ると同時に、積極的には広く米国人間に親日思想を鼓吹し、政治的に、経済的に、社会的に其他各方面に密接なる関係を結び、以て日本人に対する差別的待遇を改善せしめ、日米人共同提携の実を挙げしむること最も肝要なり、而かも此の希望・理想を実現せんこと一朝一夕の業に非ずして、是れが実行機関も大組織なるを要すること勿論なるが、今日の場合広汎なる大計画・大機関の実現望み得べくして行ひ難きものあるを思ふが故に、せめては問題の中心地と目され居る加州に於て、在留邦人が在住地方の米人と日常接触の間に相互の了解を図り、在住国に対する誠意の存する所と同化貢献しつゝある事実とを了解せしめ、邦人亦各自修養啓発し、経済的に、社会的に、日米人共同の実績を挙げしめんか、必ずしも局面を転換せしむること不可能と云ふべからず、唯遺憾とする所は、現在の在留邦人中社会奉仕の観念を以て在留邦人と在住地方米人との中間に立ち献身的に尽瘁せんとする人物多からず否人物必ずしもなきにあらざらんも、是れを得るの財源なく、又完然したる機関なし、近時漸く在住小数有志相図り、日米関係調査会なるものを組織し、学生の養成補助・英文冊子刊行・日米共同事業奨励等に尽力しつゝあるも、斯くの如き大問題を、日夜生業に忙殺せられ居る在留邦人にのみ期待すること不可能なるを以て、本国に於ても、是
 - 第33巻 p.548 -ページ画像 
れと目的を同ふする新機関を設置し、斯かる在留邦人の計画に対して奨励援助を与へらるることは、日米紛争解決の為め最も意義ある方法と思惟せらる
    大体の計画及実行方法
一、日本及日本人の実情紹介と、誤報及誤解の弁明・否認並びに親日思想の鼓吹
 日本及日本人の真相、特に加州に於ける在留邦人の実情に関し的確なる概念を有する米国人甚だ少なく、多くは漠然たる観察と断片的見解、不完然なる概念を築き居れるに過ぎず、従つて排日的新聞雑誌の挑発的誤報や虚報に誤られ、知らず識らずの間に日本及日本人を誤解し、其の誤解の上に驚くべき謬見を懐くに至る、是れ排日運動をして今日の如き容易ならざる問題たらしめたる有力なる一原因なり、是を以て日本及日本人の実相を普ねく米国人に知らしむる為めに、書冊の発行・巡廻講演・新聞雑誌の利用其他学者・宗教家・学生其の他の往訪・交換等一切の手段を尽し、根気よく継続繰返すこと必要なり、殊に米国新聞雑誌の論調及報道に留意し、日本人に関する誤報・虚報あらば直ちに之れを否認・訂正し、其の論調にして好ましからざる傾向を帯びるものは、其の論拠の誤まれる点を叮嚀に訂正して、正確なる判断に達せしむる為めに精力を惜まず努力せしむる必要あり、但し是れを実行するに当り、出来得る丈け既存新聞雑誌類を補助利用すること最も捷径なりとす
二、米国内各種団体との連絡提携
 米国内には団体の種類、人種的・職業的・政治的・社会的・宗教的に区別せられて居り、其の数実に枚挙に遑あらず、是等各種の団体に一々連絡をとることは、其の繁に堪えざる所なれば、其の中の有力なる団体と密接なる連絡を結ぶことは、問題の解決に向つて大なる便宜と援助とを得べし、仮令ば人種的に於ては加州の政治界・経済界に最も有力なる要素たる英・独・仏及愛蘭・伊太利・猶太人等の諸団体の幹部と絶えず連絡をとり、職業的方面に於ては労働諸団体・各地産業組合・商業会議所等に密接なる関係をとるが如き、其の他基督教諸団体・男女青年会・各婦人団体と聯絡提携、共同一致の行動をとるが如き最も有効なる方法なるべし
三、経済的方面の連絡提携
 日米貿易の一般的増進、加州に於ける日米共同投資企業計画、在留邦人間の現存の金融機関に対する日米共同増資等の外に、日米人共同産業組合の組織奨励、排日地方生産物の日本輸出計画、在留邦人と米国商人との関係を密接ならしむる等の如き、経済上より問題を解決するに最も適切なる方面なるべし
四、日米人の社会的及個人的接触
 米国人が日本人を誤解し、差別し、排斥するは不都合なりと雖も、有体に云へは日本人が自ら米国人と隔離して生活し、常に意志の疏通を計るの心得不充分なるは決して否認し得べからず、勿論言語の不充分なる為、自然同国人のみの集団をなすに至るべきものなるも、其の日常の心掛によりては今少し密接に往来し、常に胸襟を開き感情の融
 - 第33巻 p.549 -ページ画像 
和を計り得べし、故に邦人自ら一層語学の修得に勤め、社会的に、個人的に、米国人中に切り込み、各個人が各一人の友人を有する丈にても十数万の身方を得らるる勘定なれば、農業家は農業家、商業家は商業家、学生は学生、宗教家は宗教家、婦人は婦人、労働者は労働者、各種組合は組合と云ふ具合に、在留邦人挙げて米人に密接に接触せしむれば、問題の解決に極めて有力なる効果を挙げ得べし
五、在留邦人の実質改善・同化及統一
 日本人は日本人として米国に来り、日本人として米国人の間に居住し、徹頭徹尾米国人に同化せざるが故に、米国の統一と社会的秩序の為めに排斥せざるべからずと云ふが排日の最大理由なり、此の理由の依つて来る所複雑にして、米人の誤解もなきにはあらざれども、同胞側に於ても深く省み、大に改善に努めざる処なかるべからず、米国は厳然たる一個の独立国にして、其の文明には系統あり、其の社会には整然たる組織あり、思想感情より風俗習慣に至る迄苟くも他の冒すべからざるものあり、若し是れに叛く者あらば排斥せらるべきは当然なり、是れを以て在留同胞の実質改善・啓発・誘導のこと、日米問題解決上最も重要なる位置を占むることとなる、而して在留邦人の実質改善・指導統一の方針は大体左の如くなるべし
(一)在留邦人をして米国に定着し、経済的実力を涵養充実せしむる目的を以て、邦人間に米国に於ける事業経営に要する知識経験の普及を図り、永住観念と相互信用・自主自治の気風を作興すること
(二)在留邦人の生活状態を向上せしむる目的を以て、米国の精神と風俗習慣とを習得せめ、家庭居住の斉善、子女の教養、風紀・衛生・趣味・娯楽等諸般の指導をなすこと
(三)日米親善の実績を地方的に挙げしむる目的を以て、日米人の経済的共同組合及社会的共同事業の組織振興を奨励すること
(四)宗教の自由、教育の方針等は、決して干渉すべきことには非らざれども、殊更に日本人は異教徒なりとの観念を強からしめ、又日本人には二心ありとの心象を米人間に深からざらしむる様、信奉の形式教育の方針等に留意せしむること
(五)在留邦人の米国に於ける群衆居住状態に改善を加ふるの目的を以て広く新移住発展地を調査し、其の移動就職の便を図ること
(六)在留邦人間に社会奉仕の観念を鼓吹し、米人と日本人間に立ち献身的に尽力をなす人物の補助・養成をなすこと
    実行機関の設計
 以上各項に渉る目的及計画を実行するには、是れに適当したる機関の設置を要す、先づ其の機関は中心を米国の重要地に置き、其の支部を邦人の多数在住する各地に置き、別に東京には後援機関を置き、一切の施設及運動は中心機関に於て計画実行せしむべく、各支部は本部の事業を助けて一切の便宜を図り、且つ必要なる報告を本部に送り、本・支部最も密接なる連絡を保ち、整然たる組織の上に統一したる運動をなすこと理想的なれども、現在既に米国各地に日本人会・農会・商業会議所、各種宗教団体・青年会・婦人会及矯風団其の他の諸団体組織せられ居るを以て、各部分及各地方の運動は其等既存の機関に分
 - 第33巻 p.550 -ページ画像 
掌せしめ、只中央部に大体の方針を樹て監督統一する機関を設くることによりて早速実行に着手し得べし、只本部中枢機関の組織は徳望・学殖・至誠ある日米人十数名を以て実行委員となし、其の下に専務理事日米人各一名の外に若干名の助手を置き、左の如き部門に分ち、是れが監督統一及運動に関する全体の方針を定め、調査統計報告書の作製、内外提携の諸団体との連絡其の他の掌に当ることとせば、最も簡単に実現せしむることを得べし
    中枢機関の部署
幹部  監督、統一、提携団体との連絡、支部指揮、臨時的活動
    費用年一万弗乃至二万弗
第一部 教育部 専務担任日米人各一名 助手若干名
    費用年二万弗乃至三万弗
  一、日本及日本人の紹介、親日思想の鼓吹、米国新聞雑誌の啓発的反駁・正誤・否認・巡廻講演及通報
第二部 外務部 専務担任日米人各一名 助手若干
    費用年一万弗
  一、各種団体との連絡事務
第三部 商業部 専務担任日本人一名 助手若干名
    費用年三千乃至五千弗
  一、商業団体との連絡、調査、立案等
第四部 農業部 専務担任日本人一名 助手若干名
    費用年一万弗乃至一万五千弗
  一、邦人農業家の指導統一改善、日米人同業組合の奨励、農家の居住生活の改善施設
第五部 内務部 専務担任日本人一名
    費用年三千弗乃至五千弗
  一、在留同胞風紀衛生其の他の社会的改善施設
第六部 法務部 専務担任米人一名 助手若干
    費用五千弗乃至一万弗
  一、帰化権・土地法、其他日本人に関する米国各州の法律調査
 一ケ年の費用合計六万弗乃至九万五千弗
    計画実現上必要なる援助
 以上の諸計画は現存日本人会・農会・商業会議所・青年会其の他諸団体に於て或る程度迄実行せられつゝありと雖も、是等の諸団体は何づれも財源豊富ならず、各団体の責任者は団体本来の事務に鞅掌する外財政を充実せしむる責任を果さゞるべからざる境遇にあり、在留邦人社会各自の事業に腐心するもの多しと雖も、進んで公共の為めに尽瘁せんとするもの甚だ稀にして、各公共団体の責任者は常に財源充実の為めに一方ならず心労没頭しつゝあれども、所要の費額を得るを得ずして事業促進上多大の困難を感じつゝあるが故に、故国より以上の計画実現に要する経費の半額を補助なさば、加州邦人問題の改善施設一新面目を呈するに至らむ、而して故国よりの後援補助の方法左の数策あり
第一策
 - 第33巻 p.551 -ページ画像 
 加州邦人問題改善施設奨励基金として三十万弗以上五十万弗位貸与せらるる事
 (註)是れを在米の信用ある銀行会社其他の事業家に供托し、其の利子を以て以上の計画実行費の補助金となし、其の不足額は在留邦人間より維持会員を募り補充せしむる事
第二策
 既存在米の諸公共団体中以上の計画に相添ふ目的事業方針に依つて活動し居る者を物色し、奨励補助金を交附する事、其費額年三万弗以上五万弗位
 (註)在米の各団体中在米日本人会の如きは、在留邦人の証明保証料を以て財源となしつゝあるを以て、比較的財政充実に困難し居らざれども、其の他の加州邦人問題改善施設の為めに、最も重要なる方面を分担し居る加州中央農会・男女基督教青年会・矯風団・学生聯合会等の如き諸団体は、何づれも会員組織にて、小額の会費を広く募集し、是れを以て事業費に当て居るを以て、何づれの団体も執務者、財政充実の為めに困難しつゝあるが故に、是等の諸団体に適宜分配補助金を交附せば、米国在住邦人間より維持会員を募る上にも非常なる奨励となるべし
第三策
 単に在留邦人と米人との間に立ち献身的尽力をなす人物の補助・養成の目的を以て(一時的にてもよし)三万弗乃至五万弗位補助せらるる事
 (註)例令ば在加州日米関係調査会及ジヤパン・レビユウー社の共同計画に対し補助金を交附し、其の目的及計画を完成せしむるが如きは、一方に於ては日本及日本人の実情を広く米人間に宣伝する有力なる雑誌となさしむるのみならず、他方には在米各大学の学生間に英文を書く練習と、日米問題の為めに研究尽瘁する機会と訓練とを与ふることとなるべし
    (別冊日米関係調査会趣意書。日米関係調査会及ジヤンパン・レビユー誌に関する件参照)
   ○右「別刷」ニツイテハ、本款大正九年六月二十四日ノ条参照。



〔参考〕(阪谷芳郎)日米関係委員会日記 大正九年(DK330068k-0004)
第33巻 p.551 ページ画像

(阪谷芳郎)日米関係委員会日記 大正九年
                     (阪谷子爵家所蔵)
 (欄外記事)
 九月二十九日付ゼー・ビー・クラーク氏ニ発信シ、加州排日法案ニ付注意ス