デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
2節 米国加州日本移民排斥問題
3款 日米関係委員会
■綱文

第34巻 p.371-375(DK340036k) ページ画像

大正13年7月4日(1924年)

是日、当委員会、丸ノ内日本倶楽部ニ開カル。栄一出席シテ、アメリカ合衆国千九百二十四年移民法通過ニヨリ、当委員会ノ存続如何ニツキ討議ヲナス。又外務大臣幣原喜重郎等ヲ招致シ、右ニ関
 - 第34巻 p.372 -ページ画像 
スル政府当局ノ見解ヲ聴取ス。


■資料

日米関係委員会往復書類 (一)(DK340036k-0001)
第34巻 p.372 ページ画像

日米関係委員会往復書類 (一) (渋沢子爵家所蔵)
拝啓、時下益御清適奉賀候、然ハ前回ノ決議ニ依リ小生等両人ニ於テ外務大臣ヲ訪問談話致タル顛末ヲ御報告致、且外務大臣ニ御出席ヲ請フテ、対米問題ニ関スル御意見ヲ聴取致度候ニ付テハ、来七月四日午後六時麹町区有楽町一ノ一日本倶楽部ヘ御来会被下度候、此段得貴意候 敬具
                日米関係委員会
  大正十三年六月三十日     常務委員 渋沢栄一
                 同 藤山雷太
    委員各位
  追申
一、尚々外務大臣ニハ目下議会開会中ノ事トテ、当日若シ急用相生シ御出席相成兼ヌル場合ハ、代人ヲ以テ御意見ヲ披陳下サル筈ニ候間添テ申上候
一、乍御手数御出席ノ有無封中端書ニテ御回示願上候


(金子竪太郎)書翰 渋沢栄一宛大正一三年七月一日(DK340036k-0002)
第34巻 p.372 ページ画像

(金子竪太郎)書翰 渋沢栄一宛大正一三年七月一日
                    (渋沢子爵家所蔵)
拝啓、御来示之趣も有之候間来四日ハ参上可仕之処、先般来枢密院之同僚及ひ小生等ハ内閣之人々ニ対し、日米問題之処分方ニ付質問致候へとも不得要領ニ而、考案も無之候事を発見致し候、就而ハ今更外相之出席有之候ても、我等之聞きたるより以上之説明ハ有之間敷と存候間、今回ハ欠席致度候、尤其説明振りニ依り御協議相成候事件相起り候得ハ、何時ニ而も出京可致候、依而当日之模様ハ何卒御垂示被下度御願申上候 匆々頓首
  七月一日                   竪太郎
    渋沢子爵閣下
                     (六・二五×二三・一)
東京市日本橋区兜町二 渋沢事務所 子爵渋沢栄一殿 急親展 (栄一鉛筆) 七月二日落手
相州葉山村 金子堅太郎


日米関係委員会集会記事摘要(DK340036k-0003)
第34巻 p.372-375 ページ画像

日米関係委員会集会記事摘要 (渋沢子爵家所蔵)
 日米関係委員会 大正十三年七月四日午後六時、於日本倶楽部開催
  出席者
  渋沢子爵・阪谷男爵・藤山氏・添田氏・山科氏・江口氏・姉崎氏頭本氏・高木八尺氏(会の招待により出席)・浅野氏・内田氏
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  幹事 服部氏・増田氏・小畑氏
  外務省側よりの賓客 幣原外務大臣・佐分利通商局長代理・赤松移民課長
渋沢子爵座長 子爵は、藤山氏と同道、総理大臣を訪問せられたる顛末を告げらる。総理大臣は簡短なる言葉を以て、政府としては抗議を継続する積りなれば、此点に関しては向後も協力せられたき旨述べられたる由。又其際列席の幣原外務大臣は、日米関係委員会の活動を多とし居るが故に、之を廃止するが如き事のなき様にと述べられし由なり。善後策に関しては、種々意見あるが如く見えしも、内容に就ては話されざりき
阪谷男爵 過般キングスレイ氏が渋沢子爵に宛てられたる書翰の内容は、吾々日本人側より見る時は立腹せざるを得ざる様なれども、米国人側より見ては至極尤もならんと思ふ所あり、而して其要領は、事は已に段落を告げたれば、此見地に立ちて適当の処置を取るを善しとすべしと言ふにあり、就ては我が日米関係委員会も、今回の移民法施行を機として、新たなる方向を取るを然るべきと考ふ、然し突然本委員会を解散するは、米国に於ける友人諸氏の誤解を招く憂あれば、委はしく事情を述べて通告すべきものと考ふ、蓋し本委員会成立の目的は、一九一三年に起れる加州の土地法を阻止せんとするにありて、終に其目的を達する事能はざりき、而して今日に於ても時局問題に関して目的を達成する事能はずして、行詰まりの状況にあるものなれば此際適当の方法を取りて解散するを能しと思ふ。言を換へて申せば、自分は退会し度しといふにあり。金子子爵の意向も、此辺に存するものには非らざるかと思はしむる節あり。
渋沢子爵 添田博士は、先きに本会を継続して積極的に働かざるべからずと言はれ、頭本氏は解散を主張せられたりき、然し前回の会合に於ては、結局大に遣るべしといふにありて、其れが為め予と藤山とが、総理大臣及外務大臣を訪問することゝなれるなり
頭本氏 本委員会を解散することに関しては、阪谷男爵と同意見なれども、其方法に於て少しく意見を異にす
添田博士 日米関係委員会の事業は、唯だ移民問題を取扱ふ為に成立したるものにあらず、極東の平和、引いては世界の平和に関するものなれば、決して解散すべきものにあらず、尚ほモー一つの理由は今日は事態甚だ穏かならざる場合なれば、本委員会の如きは最も慎重の態度を取らざるべからず、此際解散するとせば、結局過激派に降伏するものとなつて、健全なる輿論を破壊することゝなるべし、之れに反し本委員会が積極的方針に出でられるならば、米国の輿論は益日本に同情を表するものとなりて、聯合高等委員設置の如き運動を起すべき余地ありと思ふ……
頭本氏 ラセント氏外十九名よりの電報は、甚た頼み少なきものなり彼等は事爰に至りたる上は、此立場に立つて向後の策を講ずへしといふにあるものゝ如し。
江口氏 仮令へ本委員会を解散するとしても、米国の委員会の意向を確めたる後にするも、決して遅しとせざるべし。予一己人としては
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斯る事態なるか故に、尚ほ一層本委員会の活動を必要とすと考ふるなり
   八時半再び会合す
渋沢子爵 再び懇談を開始致します。先づ外務大臣の御意見を伺ふことゝ致し度う御座います
幣原外務大臣 今回米国議会を通過せる法律を、直ちに変更せしむることは不可能事と考ふ、又新たに条約を締結することは理論としては可能ならん、然し之れとても事実不可能なるべし、如何となれば上院議院は斯る新条約を容易に通過せざるべし。従つて米国政府としても条約を締結する勇気なかるべし、唯爰に一縷の望みともいふべきものは、米国に於ける輿論の七分が排日条項に反対なる点なり排日の首領株とも称すべきロツジ氏の如きは、移民法通過後は殆んど凋落の姿なり。故に輿論に望みを属して、気永く好時機を待つことなり。
 尚ほ一つ重大なる問題は、現在米国にある同胞の待遇問題なり、牛島氏の如きは、今後一人の移民来らずとも可なり。唯在留同胞に満足を与へられたしと言ひ居るなり。兎に角日本政府としても、国民としても、今後取るべき道は、人事を尽して天命を待つといふにあるのみなりと
藤山氏 大臣閣下の御意見は、従来吾々委員の唱へ来りしものなり。此際米国人をして其過失を悟らしむること最も肝要ならんと考ふれども、之には非常の努力を要すると思ふ。即ち国民の中心となるべき政府、並に国民の指導者たるものが相提携する必要ありと考ふ、阪谷男及頭本氏が、一旦本委員会を解散せよと称へらるゝは、本問題に関して新たなる熱誠を起さしめんが為なりと考ふ。
渋沢子爵 外務省に於ては、新聞紙側に対して何等かの方法を取られしや
外務大臣 別に之れぞといふ方法を取りしには非らざれども、主たる新聞には、事を成就せんとする美名の下に却つて破壊するか如きことのなかるべき様、注意せられ度き旨内意し置けるのみ。
藤山氏 商業に関して米国に滞在するものゝ待遇は、如何になるものなりや
外務大臣 此問題に就ては回答に猶予を与へられたし
頭本氏 予は委員諸君の多数と意見を異にする故、唯予一個の意見として御聴取を願ふと冒頭して、大要左の如く開陳せらる
 隠忍の態度を維持すべきは当然なるか、此大侮辱を加へられた事に対して大に覚悟せねばならぬとの意向を、国民に鼓吹する必要があると思ふ、即ち政府としては此覚悟を国民一般に抱かしめ、日米関係委員会としては、其関係向きに対して、当方の立場を明かにして暫らく活動を停止することなり
渋沢子爵 日米関係委員会設立の趣旨は、加州問題に其端を発したるものなるも、結局は日米親善を計るにあり
浅野氏 解散の如き声を放つことなく大に遣つて貰い度し
佐分利通商局長代理 在ロスアンゼルス市同胞有志よりの電報を披露
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せらる、其要点は、来る十一月を以て同胞農民中に非常なる窮乏に陥ゆるものあれば、本国より有力なる財政上の援助を得たしといふにあり
 日米関係委員会に対する米国官民の信用は、非常に大なるものあれば、此点より考へても、之を解散することは真に惜むへき次第なり
添田博士 佐分利通商局長代理の御考は、至極最《(尤)》もなり、吾々委員等は自重して進むべきと思ふ、本委員会は之れより益多事多端なるべしと思ふ
藤山氏 日米関係委員会は今日の大問題に処するに甚た微弱なり、此意味に於て本会は改造の必要ありと思ふ。本委員会は国論を指導し場合によりては政府をも指導する覚悟を有すべきと思ふ。
   十時散会