デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
2節 米国加州日本移民排斥問題
3款 日米関係委員会
■綱文

第34巻 p.390-394(DK340041k) ページ画像

大正13年10月18日(1924年)

是日、当委員会主催アメリカ合衆国人ギルバート・
 - 第34巻 p.391 -ページ画像 
ボールズ博士歓迎晩餐会、丸ノ内東京銀行倶楽部ニ開カル。栄一出席シテ歓迎ノ辞ヲ述ブ。次イデ合衆国千九百二十四年移民法改正促進ノタメ我国ヨリ使者派遣ノ可否ヲ論ズ。


■資料

集会日時通知表 大正一三年(DK340041k-0001)
第34巻 p.391 ページ画像

集会日時通知表 大正一三年 (渋沢子爵家所蔵)
十月十五日 水 午前九時 ボールス氏来約(飛鳥山)
   ○中略。
十月十八日 土 午後五時 ボールス氏招待会(銀行クラブ)


日米関係委員会集会ニ関スル控(DK340041k-0002)
第34巻 p.391 ページ画像

日米関係委員会集会ニ関スル控 (日米関係委員会所蔵)
拝啓 時下益御清適奉賀候、然ばギルバード・ボウルス氏先般米国に在りて排日土地法阻止の為め尽力せられ居候処、此程帰朝せられ候に付ては、同氏に御来会を請ふて米国に於ける最近の状況に付御話を請ふことに致候間、来十八日午後五時丸ノ内東京銀行倶楽部へ御来駕被下候はゞ本懐の至に候、此段御案内申上候 敬具
  大正十三年十月十六日
                      渋沢栄一


日米関係委員会集会ニ関スル控(DK340041k-0003)
第34巻 p.391 ページ画像

日米関係委員会集会ニ関スル控 (日米関係委員会所蔵)
 大正十三年十月十八日午後五時、於銀行倶楽部
 ギルバート・ボールス氏招待会
               (太丸・太字は朱書)
                  ○ ボールス
                  欠 井上準之助
                  ○ 添田寿一
                  ○ 山田三良
                  ○ 頭本元貞
                  欠 串田万蔵
                  欠 小野英二郎
                  ○ 堀越善重郎
                  欠男阪谷芳郎
                  欠 団琢磨
                  ○ 主人
                  ○ 小畑久五郎
           以上八人   ○ 増田明六
                  ○欠服部文四郎


日米関係委員会集会記事摘要(DK340041k-0004)
第34巻 p.391-394 ページ画像

日米関係委員会集会記事摘要 (渋沢子爵家所蔵)
 日米関係委員会、大正十三年十月十八日午後五時、於銀行倶楽部ギルバート・ボールス博士歓迎小宴会
  出席者
   委員=渋沢子爵・添田氏・山田氏・頭本氏・堀越氏
   幹事=増田氏・小畑氏
   来賓=ギルバート・ボールス博士
 - 第34巻 p.392 -ページ画像 
渋沢子爵 簡短なる歓迎の辞を述べらる
ボールス博士 一年程前に帰国しましたのは全く静養の為めでありました、友人等が四年前に患つた私の病気を心配して呉れまして是非静養する様にとの事でありましたから、アラバマ丸に乗船しました航海中私は人種問題に関する著書を読み、引いて我が合衆国に於ける黒人問題を考へさせられました、而して日本に帰る前に白人と黒人との関係に関して明確なる判断を得度いと考えたのであります、其訳けは日本に於ても末弘博士の如き学者が已に米国人と黒人との関係を論じられたからであります
 カンザス市に開かれました National Urban league の会合に出席して、五日間黒人に関する問題の討究に傾聴して多大の刺戟を受けました、此処に二種の議論が現はれました、即ち(一)黒人は白人より全く独立して活動すること、(二)白人と協力するといふことでありました
 ワシントン市に於けるヘアリング(参考弁論)には一日も欠かさず午前十時から五時まで出席しました、而して私共は最後まで排斥移民法は通過しないであろうと考へて居りました、ギユーリツク博士の如き有識者であつても同様に考へられたのであります。サン・フランシスコとかニユー・ヨークとかいふ中央の都市に日米親善機関が備はつて居りましても、地方に斯る機関がありませんと親善の目的を達成することが困難であると思ひます
 排日条項が何故に通過したかと申しますと、排日家は機敏で且つ宣伝に大なる努力をしました、又彼等は日本人に関する暗黒面のみを高調して居ります、之に対してギユーリツク博士の如きは両方面を論じて、至極公平の議論を印刷して配布して居られますが、余り読まれない傾向があります。私は二日間も反対論者の陳述を聞きましたが、彼等が日本人に対して言ふ事を聞いて、自分が二十三年以上も滞在して居つた本国の日本人と全く異つて居て、同一の国民とは考へられませんでした
 将来の解決法如何 加州日本人問題は必ずしも絶望に非らずとの考を有つて居ります、排斥運動に反対する運動が最も健実に起つて居ります、又帰化法改正の運動、即ち個人々々の資格に応じて世界の人類(人種の差別なく)に帰化権を与ふること
   六時四十五分食堂に入る
   八時再び協議会
渋沢子爵 聯合高等委員設置の計画に関する沿革を述べられ、後憲法改正案及移民法が提出せられし頃大に憂慮に堪へざるものありしを以て、表面上当方より大震災に対して表明せられたる米国の同情並物質的援助を感謝する意味に於て、代表者を派遣し度き希望なりしが、偶々埴原大使より其無用なるを外務省を経て回答ありし故中止せりとて其経過を述べられたり、而して子爵はボールス氏に対して之に関する意見を求めらる
ボールス博士 子爵の御意見通り今後も積極的に働く必要ありと思ふ故に此決心を継続せられたし、就ては人を派遣して啓発運動を開始
 - 第34巻 p.393 -ページ画像 
するも一手段なるべし
頭本氏 私は米国人に対して従来非常に楽観的であつた為めに其反動かも知れませんが、今日となりては当方より人を派遣する余地なしと思ふ、殊に日本人が行きて移民法を改正して貰ひ度いとか、帰化法を修正せよとか言ふことは、反つて反感を煽ることゝなりは仕舞いかと恐れる
ボールス博士 余り著名な人でなく若い人を送り、自由に演説もし懇談をもせしむるがよろしからうと思ふ
堀越氏 貫目の無い人が行つた処で聴いて呉れる人はなかるべし
ボールス博士 法律で決つても、其れだからといつて問題は決して決つては居りません
堀越氏 米国では議会の決議が必ずしも国民の意向を代表するものとは限つて居りません、故に啓発の為めに人を派遣することは無益ではないと思ふ、但し大統領改選の後、共和党が勢力を得た時の事である。若し民主党が天下を取ることゝなれば、全然望がないのである、如何となれば民主党の綱領中に東洋移民排斥条項が設けられてあるからである
山田氏 日米親善の働きを継続すべきは勿論であるが、大統領選挙前には何事もなすことが出来まいと思ふ
頭本氏 今日の排斥問題を宗教家・平和運動家、及国際親善家としてでなく、日本国民の一人として考ふる時は甚だ重大なる問題なり。如何となれば米国の最高権が日本国民に対して無礼を加へたのであるから、日本国民としては何処までも憤慨の態度を執るべきであると思ふからである、然るに好々爺然として先方の親日派と提携するといふは却つて米国の有識者の侮蔑を招く訳けで他の態度を維持することが、彼の国に於ける有識者間に敬意を惹起する所以であると思ふ
堀越氏 排日論者の主張は紳士協約は効を奏せずといふにあるのであるから、此点を明瞭にして置く必要があると思ふ
山田氏 頭本氏の意見最もなり、然し此日米関係委員会は両国の親善を計るを目的とする機関であるから、必ずしも此会が頭本氏の取るべき態度を取るべき筈とは思はない、寧ろ進んで日本人が此問題に関して抱いて居る思想感情を、彼の国人に知らしむる必要があると思ふ
ボールス氏 山田氏の意見に賛成致します、而して其啓発運動は地方地方に行はれるが宜ろしいと思ふ
添田氏 反省を促すことは日本側よりなしても差支ないと思ふが、其実行は日本人が直接当るのではなく、米国人をして自発的になさしむるが順序であると思ふ、又ボールス氏の言はれた様に地方々々の有権者を啓発する必要があると思ふ、而して当面の問題は已に正当の手続を経て入国せる者に平等の待遇を与へしむる様に努めることである
渋沢子爵 日米委員会設立の趣旨より見るも、本委員会は或る意味に於て超国民的であつて、何処までも両国の親善を進展せしめるとい
 - 第34巻 p.394 -ページ画像 
ふにあるのであるから、頭本氏の如く狭く解釈せずにモー一歩進んで広く考へ度いと思ふ、然し頭を下げて願ふといふのではない、事情を知らせるのである。尚ほ進んで米国人側にも斯る事をなすべきは当然なることを覚えしむる必要がある。当方は構はんといふ態度は親切の足りない遣方ではなからうかと疑ふのである
   九時四十五分散会


(ギルバート・ボールズ)書翰 渋沢栄一宛一九二四年一〇月二二日(DK340041k-0005)
第34巻 p.394 ページ画像

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