デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
2節 米国加州日本移民排斥問題
3款 日米関係委員会
■綱文

第34巻 p.477-479(DK340053k) ページ画像

大正14年3月9日(1925年)

是日、当委員会主催サン・フランシスコ総領事大山卯次郎並ニハワイ総領事山崎馨一歓迎午餐会、丸ノ内東京銀行倶楽部ニ開カル。栄一、病気ニヨリ出席セズ。


■資料

日米関係委員会集会記事摘要(DK340053k-0001)
第34巻 p.477-479 ページ画像

日米関係委員会集会記事摘要 (渋沢子爵家所蔵)
 大正十四年三月九日正午、於東京銀行倶楽部、大山桑港総領事並に山崎布哇総領事歓迎午餐会
  出席者
   (賓客) 大山宇次郎氏《(大山卯次郎)》・山崎馨一氏
   (委員) 一宮鈴太郎氏・堀越善重郎氏・小野英二郎氏・添田寿一氏・頭本元貞氏・串田万蔵氏・山田三良氏・男爵古河虎之助氏・藤山雷太氏・浅野総一郎氏・男爵阪谷芳郎氏・白仁武氏
   (幹事) 服部氏・増田氏・小畑氏
藤山氏 卓上に於て両総領事に対し歓迎の辞を述べられ、両者の尽力を多として感謝の意を表せらる
大山氏 謝意を述べらる
   食後別席に於て再会
大山氏 先きにも簡短に御挨拶を致しましたが、今日私共の為めに此盛宴を御設け下さいました事を衷心より感謝致します、私は日米関係に就て申上けます、日本の旅客中桑港を通過することは危険なりとの感を抱いて居る様に聴いて居りますが、之は間違であります。米国の排斥は政治舞台に於ての所作であつて個人々々の其れではありませんです、然し又同時に日本人が米国人に好まれて居るといふことでもありませんです、移民排斥問題は人種的偏見から起つて来
 - 第34巻 p.478 -ページ画像 
たものではなく根底は一層深いのであります、米国人は一般の移民特に南欧及東欧の移民を排斥するのであります。日本移民の排斥は寧ろ其れに巻添を食つて居るのであります。排斥の首領株と懇談した事がありますが、彼は日本移民排斥は四・五年も早く出来上けりと申しました、日本の主張は欧洲移民と同等に待遇せられたいといふのであつて、穏健なる米国人等の意見も之に賛成でありますが、遺憾な事は、彼等の内に専心此方面に尽力する人のない事であります、此等の人々は地位上又は職業上其衝に当ることを避忌して居ります、殊に遺憾に堪へませぬのは政治家が旗職鮮明《(幟)》ならざることであります、在留民の状況に就て申上げますならば、先づ紳士協約協定前入国せし移民男子の平均年齢が四十三歳であつて、若し人生五十と致しますならば彼等の前途は甚だ短いものであります。然し近年に於て毎年五千三百の児童が出産します、日本系米国人の数は参万乃至参万五千人と算せられて居ります、彼等が投票権を実施するに至れば米国の政治家も彼等に相当の敬意を払ふ様になると考へられます、従つて政治問題は追々変転して社会問題となるに相違ありませんです、単に市民権を有するといふ事が社会上の関係に影響を与へませんです、学校教育は公平であり、基督教青年会は日本人に同情的であります、ジヨン・アール・モツト総幹事が本年を以て隠退せらるゝに付、記念として拾五万弗の建物を桑港日本人基督教青年会に寄附せんとの目的を以て其半額を寄附せられ、残余の七万五千弗を加州に於て募集することになつて居ります、而して桑港に於ては米国人側弐万五千弗を募集するか故に、五万弗を日本人側より募集して貰ひ度いといふ事であります、又日本人としては在留民中より弐万五千弗、本国より弐万五千弗としては如何といふ議論もありましたが、之には反対がありました、即ち在留民中に募集すべしとの意見が盛でありました、之は本国の人々にも知つて貰つて置くべき事と考へます
山崎氏 来る七月一日より十五日まで開会せらるゝ太平洋人種会議に関して一言致し度いと思ひます、本会の会合は汎太平洋協会の主催に掛るものではありません、始めの計画はハワイのY・M・C・Aが主催となりて之を開催すべしといふのでありました、而してフランク・シー・アサートン氏は之に最も重要な関係を有することゝなりました、此会合には是非日本より相当の代表者を派遣せられんことを希望致します。此会の最初の運動がY・M・C・Aによりて開始されました為めに基督教的会合と誤解されましたが、之は全くの誤解でありました、我邦外務省は原理として此会合に賛成を表して居られます、問題は如何にして出席者を選定すべきかにあると思ひます、具体案と致しましては、其頃布哇を通過する商人又は政府の役人等の参列を促すも好都合であると考へます、日系米国人に関して申上げ度いと思いますが時間が御座いませんから、此点は略します、然し大体に於て大山総領事が米国本土に於ける日系米国人に関して述べられたる所と、大差は無いといつて宜敷いと考へます
大山氏 追加としてY・M・C・Aの建物に就ては支那人に対しても
 - 第34巻 p.479 -ページ画像 
同様の提案ありしが、彼等は已に募金済となり居る由であります
    問答
頭本氏 プログラム中に朝鮮人問題とあるは如何なる意味で御座いますか
山崎氏 人種問題として朝鮮人も含まれて居ると申す意味であります
山田氏 フィリッピン人と日本人とを入変へ様との傾向あるは、果して事実で御座いますか
山崎氏 日本の労働者はフィリッピン人に比較して能率が大に上る故に、日本人を排除してまでもフィリッピン人を使役せようといふのではありません、日本人が今後入国不可能なるが故に、フィリッピン人を以て補充せようといふのであります
 目下布哇にはフィリッピン人弐万以上、日本人は壱万二千内外であります、布哇に於ける日系米国人は六万八千人と算せられて居ります
白仁氏 在留民は帰国する者か多いと聞いて居りますが、事実で御座いませうか
大山氏 帰り度いといふ希望を持つて居りますが、実行は困難であると思ひます、其理由は彼等の初一念は金を儲けて帰るといふのでありますから、其目的を達しないでは、帰り度くも帰られないのであります
山田氏 地主と小作人との関係は如何なる状態になつて居りますか
大山氏 地主と小作人との利害関係は共通でありますから、必ずしも極端に悲観すべきものでもありません、特に小作人中には背水の陣を張るといふ具合に緊張して居る者も少くはありませんです
   午後三時閉会


渋沢栄一 日記 大正一四年(DK340053k-0002)
第34巻 p.479 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正一四年 (渋沢子爵家所蔵)
三月九日 半晴 軽寒
午前八時起床、宿痾ノ発作常ナキ為メ疲労多ク且熱気平常ニ復セス、随テ気力日々衰耗ノ模様アリ、是ヲ以テ本日ノ帰京兼約ヲ電話ニテ増田ニ通シテ、欠席ノ事ヲ来賓及来会主人側ニ通知ス○下略
   ○栄一、大磯ニ滞在中。