デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

昭和6年10月5日（1931年）

是ヨリ先、大日本紡績聯合会、中華民国水災同情会ニ寄付セシガ、右同情会ハ中国政府ヨリ寄付受領ヲ拒否セラル。因ツテ当会、大日本紡績聯合会ニ対シ、ソノ撤回サルベキ同情金ノ内、金二万円ヲ改メテ当会事業費トシテ寄付ヲ求ムルタメ、当会常務理事砂田実ヲ同聯合会ニ派遣セントス。是日栄一、砂田ニ同聯合会長阿部房次郎宛紹介状ヲ与フ。

紹介状往翰（一）　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
控
拝啓、秋冷之候益御清適奉賀候、然ば本書持参の砂田実氏は財団法人日華学会常務理事に有之、今般同会の用務を以て、貴台拝訪仕候事と相成候処、同会に付ては老生年来微力を致来、今回の義に付ても御差支無之範囲に於て、御高配被下度希望罷在候次第に御座候、就ては同氏参趨の節は御差繰御引見被下事情御聴取願上度、一書相付候義に御座候
右御紹介旁得貴意度、所労中の為乍略儀代筆如此御座候　敬具
　　昭和六年十月五日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　阿部房次郎様

財団法人日華学会書類（一）　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
 - 第36巻 p.154 -ページ画像 
（写）
謹啓
時下益御清穆奉賀上候、陳者財団法人日華学会事業費援助請願ノ件ニ関シ本会理事砂田実ヲ代理トシテ差向申候間委細御聴取ノ上御配慮願上度、此段懇願旁得貴意候　敬具
　　昭和六年十月二日
　　　　　　　　　　　　　　　財団法人日華学会
　　　　　　　　　　　　　　　　会長　侯爵細川護立
　　　大日本紡績聯合会
　　　　委員長　阿部房次郎殿
　　　　日華学会事業費御補助願
本会ハ大正七年創立以来別紙説明書ノ如ク事業ヲ経営シ来リ、最初ハ支那男子留学生ノタメニ寄宿舎ヲ新設提供シ、然ル後漸次事業ヲ拡張シ本会事務所兼会館ノ建設、寄宿舎ノ購入、留学生予備教育機関ノ設置及ビ新築等ヲ完成シ、今日ハ中華民国ニ於テ殆ンド本会ノ存在ヲ知ラサルモノナク、本会ノ施設ヲ利用スルモノ比年其ノ数ヲ増加スルニ至レリ、然ルニ本会ハ当初渋沢子爵ヨリ金参万数千円及内藤久寛氏ヨリ金壱万円ノ寄附ヲ得テ創業セラレ、其後民間有志ノ寄附金ト文部省ヨリノ補助金ニ依リテ事業ヲ継続遂行シ、大正十年ニ至リ従来ノ組織ヲ変更シテ財団法人トナシ、資源ヲ一般ノ寄附行為ニ拠ルコトヽセルモ、同十二年関東大震火災後ヨリ外務省ノ補助ヲ得テ今日ニ至リタリ然ルニ補助金額ニハ限リアリテ事業発展ニ因ル経費ノ増加ハ一般ノ寄附ニ依ルコトヽナシタルモ、近来財界ノ不況ハ其ノ目的ヲ達成スルコト非常ニ難ク経営上一層困難ヲ感シ、各方面ニ請フテ寄附ヲ得、僅カニ事業ヲ遂行シツヽアル状態ニ有之候、然ルニ本会ハ設立ノ歴史ト施設ノ関係上従来帝都ニ根拠ヲ有スル外、未ダ各地方ニ直接附属機関ノ設置ヲ見ザリシタメ、本会存在ノ認識ト事業ニ対スル理解同情ガ過去ニ於テ稍地方的ニ局限セラレシ観アルハ遺憾トスル処ニ有之、近年増加シツヽアル隣邦人士ノ各種視察団内地巡歴、並留学生ノ地方諸学校入籍ノ如キ本会ノ斡旋紹介ニ待ツモノ多ク、地方的ニモ漸次一般ノ認識ヲ促シ居候、由来御事業ノ性質上、支那ニ直接ノ利害関係ヲ有セラレ、将来一層緊密ノ度ヲ期待サルヽ貴聯合会関係諸会社ニ於カレテハ勿論、本会事業ノ主旨ニ対シ御共鳴ヲ吝マ《（衍）》ラレザル可キヲ確信致候
側聞スル処ニ依レバ今夏隣邦未曾有ノ大水害ニ際シ貴会一致非常ノ好意ヲ表顕セラレ巨額ノ同情金寄贈ヲ申出ラレ候処、不幸ニシテ今般南京政府ノ拒否ニ依リ折角ノ御同情ヲ隣邦災民ニ均霑セシメ得ザル結果ト相成候趣伝承御同様遺憾至極ニ奉存候、就テハ此際聊カ厚顔ノ誹ヲ免レザルベキモ、本会ガ微力乍ラ夙ニ善隣友交ノ誼ニ依リ日華両国ノ文化提携ニ従事シ現ニ多少ノ貢献ヲナシツヽアル実蹟ニ鑑ミラレ、今回撤回サルベキ水害同情金ノ一部ヲ本会事業ノ為メ御寄附相仰ギ申度然ラバ本邦留学中ノ子弟ヲ通ジ長江災民モ間接ニ其ノ恵沢ニ潤フコトト相成リ、此際尤モ適切ニ貴会ノ御趣旨ヲ徹底セシメ得ベキカト被存候ニ付、何卒本会ノ趣旨、事業ノ成績、経済的窮情等御考量ノ上、此
 - 第36巻 p.155 -ページ画像 
ノ際金弐万円也御寄附願上度、別紙必要書類相添ヘ奉懇願候　敬白
　　昭和六年十月二日
　　　　　　　　　　　　　　　財団法人日華学会
　　　　　　　　　　　　　　　　会長　侯爵細川護立
　　　大日本紡績聯合会
　　　　委員長　阿部房次郎殿
　　○別紙略ス。