デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第37巻 p.29-35(DK370004k) ページ画像

大正15年3月16日(1926年)

是日、当協会第五十九回理事会、東京銀行倶楽部ニ開カル。栄一出席シテ、国際聯盟常任理事国増員問題ヲ議ス。


■資料

国際聯盟協会書類(二) 【大正十五年三月十五日】(DK370004k-0001)
第37巻 p.29-30 ページ画像

国際聯盟協会書類(二)          (渋沢子爵家所蔵)
大正十五年三月十五日
                国際聯盟協会々長
                  子爵渋沢栄一
    渋沢会長殿
急伸
甚だ乍突然明三月十六日正午より、丸ノ内銀行倶楽部に於て緊急理事会を開催、国際聯盟臨時総会に関する件につき御協議申上度候間、万
 - 第37巻 p.30 -ページ画像 
障御繰合せ御臨席被成下度、此段御案内申上候 敬具


国際聯盟協会書類(二) 【拝啓陳者去る参月拾六日理事会議事要録別紙の通り…】(DK370004k-0002)
第37巻 p.30-31 ページ画像

国際聯盟協会書類(二)          (渋沢子爵家所蔵)
拝啓陳者去る参月拾六日理事会議事要録別紙の通り御送付申上候
  大正十五年三月十八日
                   国際聯盟協会事務局
    渋沢会長殿
(別紙)
    第五十九回理事会
                    (三月十六日正午銀行倶楽部にて)
出席者 徳川総裁、渋沢会長、阪谷・添田両副会長、穂積・田川・頭本・秋月・岡・長岡・林・内ケ崎・宮岡・山田の各理事、藤沢利喜太郎氏、加藤主事
 長岡春一氏より常任理事国増加問題に関し、従来の経過並に現状を詳細説明あり
石井子爵の妥協案は、(一)今回の総会に於ては独逸だけを常任理事国とし(二)理事会の構成を将来変更するの要あることを認め、(三)六月の理事会に於て其案を具し、九月の総会にて決定を見んとするにあり、之に対し全員の賛成を得る能はす、仏蘭西より本問題を直ちに総会に提出して解決せんとする案が出たり、其の形勢不明
藤沢利喜太郎氏 此際本協会に於て態度を表明するは時宜に適す、而して其の態度は瑞典の主張せる所に依るべし
宮岡恒太郎氏 英国・瑞典に追随するは余程考へもの
田川大吉郎氏 常任理事の増員は自然の成行であり、且当然、而して常任理事に年限を附するも可なり
頭本元貞氏 独逸以外の国を、此の際常任理事に加ふることには反対なり
林毅陸氏 電報を出すならば寧ろ欧洲の平和、引いては世界の平和に多大の貢献を齎さんとするロカルノ条約が、今回の事件により支障を生じ、聯盟其のものに破綻を生ずるは残念至極なれば、是非共円満解決を望むといふ趣旨にて打電すべきものなり
   ………………
討議の内容により分類すれば
(一)独逸を直ちに常任理事とするの可否
 独逸は先づ平会員として聯盟に加入し、然る後常任理事となるが順序なりとの論ありたるも、独逸の常任理事として聯盟加入はヴエルサイユ条約の当初より之を予想せるものにして、且此は従来の行掛り上理窟を離れた事実上の大勢であつて、今日としては論議の余地なしとの論あり
(二)波・西・伯の三国を常任理事とするに就て
 之に反対のもの必ずしも反対すべきに非ずとするもの、大勢に順応すべしとなすもの、将来の問題とすべしとするもの意見区々
(三)常任理事制度そのものゝ可非
右に就ても理事は、凡て総会に於ける選挙によるを可とせずやとの
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論あり、又実際問題として其の不可能を唱ふるものあり
(四)声明の様式
 聯盟協会聯合会に打電すべしとの案、石井子爵に宛て打電すべしとの案、石井子爵に智恵を借す意味ですべしとの案、石井子爵に我が輿論を伝達する意味ですべしとの案などあり
   決定
 問題の解決不首尾の場合には
一、「国際聯盟並に世界平和の為めに、聯盟協会理事会の議決を以て閣下の格段の御骨折を深謝す」との意味にて、石井子爵に打電のこと、首尾よく解決の時は
 「……(前文同様)……深謝し御成功を祝す」との意味にて、石井子爵に打電のこと
二、来る四月十日頃、ブラツセルに於て本問題に関する聯合会特別委員会開かるゝに就き、我が委員に対する訓電審議の為め、三月二十五日頃理事会を開くこと。



〔参考〕外交余録 石井菊次郎著 第一八九―一九九頁昭和六年五月刊(DK370004k-0003)
第37巻 p.31-35 ページ画像

外交余録 石井菊次郎著  第一八九―一九九頁昭和六年五月刊
 ○第一編第七章第三節総会と理事会
    六、理事会組織問題
 世界の視線が漸次に聯盟理事会に集まり、理事会の権威が次第に拡大したる結果は、二様の現象を呈した。其一は理事国以外の聯盟国は何れも理事会に割り込まんと欲して、運動漸く辛辣となつて来たことで、其二は已に理事会国の一として選ばれた非常任理事国は、二年若くは三年に改選の都度、落選の心配に苦しめらるるに悩み、常任理事国に昇進せんとする野心を起したことである。孰れも無理ならぬ希望ではあるが、問題は思ふたより困難であつた。
 聯盟規約第四条に、聯盟理事会は主たる同盟及聯合国(米・英・仏・伊・日の五国を指す)並他の四聯盟国の代表者を以て之を組織す、該四聯盟国は聯盟総会其裁量に依り、随時之を選定すとある。総会に於ける右四聯盟国選定法は、数年間の問題であつたが、漸く一九二六年の第七回総会に於て決定せられた。同条第二項に聯盟理事会は総会の過半数の同意あるときは、常任理事国の定員を増加し之を指定すること、及非常任理事国の定員を増加することを得、と規定してある。此等の規定を通読すれば、(一)理事会は常任理事五名に対する非常任理事を四名とし、以て常任理事側を多数と為し置くこと、(二)常任理事国定員増加の場合には、新に設けらるべき常任理事国は理事会の指定に由らしめ、総会の権能をば単に理事会の発案に対し、協賛を与ふるに止め置くこと(規約立案者の胸中では、追て独逸及露西亜が聯盟に加入すべきを予想し、其加入の場合には之を常任理事国とするの要あるを見込み、其指定を常任理事が多数を占むる理事会の掌中に置いたのである)及(三)非常任理事国定員増加の必要あるや否やを、先決するの権を理事会に収めて、問題の「イニシアチィヴ」は常に理事会に保有することの三主義が、明瞭に浮むで来るのである。
 規約の精神は右の如しとして、偖総会が開かれて見れば、其前已に
 - 第37巻 p.32 -ページ画像 
十回の会議を行ひたる理事会の内情に就き、種々の憶説観測が行はれた。小国側に行はれた憶説に依れば、理事会に於ける常任理事の権威は、非常任理事を圧するの観がある。此儘にて進まば自然常任理事専横の弊を招くの虞ありとて、之に対抗するため、鮮くも之を予防するため、非常任理事を増員するの必要ありとの説が起つた、蓋し非常任理事に増員を見れば、小国側各国は夫れだけ自国が当選する機会も増す訳であるから、誰とて之に反対するものはない、唯前述の如く問題の発議及先議権は、理事会に在りて総会にないから、増員の希望は理事会に於ける非常任理事を通じて理事会に取次がれた。初は単なる希望であつたが、多数の力は終に道徳的圧迫と化して来た。
 由来、世界の政局を左右するものは、何と言つても大国である。其大国が相互に懸け離れ、睨み合つて陰謀を交はし居つては政局が安定しないから、大国が相集つて全局を支配しようとしたのが、ナポレオン戦争の善後外交、即ち維也納会議後の欧洲協調政治であつた。協調政治は小国を全然無視したる試みであつた。小数の大国で多数の小国を無視する政治が成功する筈もなく、果然、欧洲協調政治は内部の破綻に因つて瓦解に終つたのである。この前轍に鑑み大国側に実権の大部分を握りながら、表面は国の大小強弱を問はず、各国家を全然均等の地位に置くと称して取り掛つたのが、世界大戦後の国際聯盟政治である。所が聯盟規約の如何に拘らず、大国の権威は依然として優越するの観ありて、遂に前述の如き常任理事専横論が持ち上つたのであつた。国際紛争は武力に訴へずして平和的に解決する、世界万国は全然対等であるてふ主義も目的も結構であるが、其結構なる制度の実現を可能ならしめたものは誰であるかと言はば、夫は勿論大国である。将来此主義に違反するもの現はれたる場合、之を膺懲するものは之亦大国に頼るの外はない、大国の一言一行が重きを為す所以は、方さに玆に存するので、自然の勢と視るべきではあるが、一方黄金世界を待ち焦れたる小国側として、国際聯盟成立の今後も猶ほ大国の専横を脱し克はざる事実に直面しては、失望と不安の念を禁じ能はざるものがあつた。彼等は已に隴を得て、今や望蜀の気分を以て寿府に来たのであつた。其所に大国専横論の起るは人情避け難き所であらう。今日の平和は吾人の貢献する所、今後の平和の維持も吾人の双肩に懸るとの念が胸中に充てる大国は、小国側が大国の貢献を感謝する代りに、多数を頼み、却つて其専横を叫ぶを見て心窃かに平ならず、専横は小数の大国に非ずして、却つて多数の小国側に在りと口外するものも出て来た。然し何と言つても多勢に小勢、況んや大国中には小国側の歓心を買はんと、焦るものなきに非ざる所に、大国側の弱点が現はれ、結局小国の圧迫日に加はり、大国側の譲歩は終に避く可らざる形勢となつた。
 常任理事国側から考ふれば、一方に於て理事会は成るべく小会議体に止めて、以て会議の円満迅速なる進行と機密漏洩の虞を減ずることとを期せざる可らざるも、他方に於て聯盟の初期に当り、大国に対する小国側の反感を招きてはならない、小国側の希望を多少酌量して幾分満足を与ふるの雅量を必要と感じた。玆に於て大国側が全局を達観
 - 第37巻 p.33 -ページ画像 
するに、常任理事国は目下の処英・仏・伊・日の四国であるが、米国の聯盟規約批准は遠からざるべく、独逸と露西亜も早晩加入すべく、此三国は聯盟加入と同時に常任理事国の格を与へざるを得ないから、結局、常任理事国は七個国となるべき運命に在る、左れば今日非常任理事国に二個国を増加し、現在の四個国を六個国とするも、猶理事会に於ける常任理事国、多数主義を害せざるものと謂ひ得る、鮮くも目前の不権衡は、将来米・独・露の加入に依つて是正せられ得る可能性を有す、と謂ふを妨げないと考へた。聊窮したる説明ではあるが、此説明の下に非常任理事国二個国の増加を決して、小国側に満足を供与することとした、実に一九二二年の事であつた。然るに其後数年の間米国と露国は勿論、独逸も未だ聯盟加入の機運に達せず、為めに理事会は暫く四名の常任理事と、六名の非常任理事と云ふ割合をなし、主客顛倒の観を呈した。斯くて非常任理事国増員問題は一段落を告げたが、常任理事国の栄位を狙ふ国は、未だ満足されない所から、彼等の運動は一層強烈となつて来た。
 非常任理事国中、故参者の一たる西班牙は、夙に常任理事国に昇進したき希望と野心を包蔵して居つた。曾て太陽不没であつたチヤァレス五世の大帝国時代の夢は、西人が今猶ほ忘れ難き所である。加ふるに聯盟総会が開かれて見ると、中米・南米の諸共和国はブラジルを除き十八個国、悉く西班牙と言語文化を同ふし、之を母国と視て居る所から、玆に西班牙は陰然一大勢力となりたる観を為した。第一総会に代表せられたる四十五個国中十九票を頼み得る西班牙は、図らずも聯盟の有力団体の首領たることを見出した。彼は昔の夢と今の思掛けなき勢力とが相待つて、玆に常任理事国たるの資格あるものとの自信を起したのであつた。
 西班牙が常任理事国となるなら、我国も亦之に均霑せざるを得ずとはブラジル国の主張であつた。天然の富源から論ずるも、将た国威国力の点から見ても、中南米の第一位を占むるブラジルとして亦一応の理なきにあらず、況んやアルヂャンチンが第一回総会の途中より立ち退きたる後のブラジルは、南中米を通じて無競争の覇者となつた。欧洲は三個、亜細亜が一個の常任理事国を出し居るのに、西半球より一の常任国をも出さざるは余りに甚しき不権衡ならずやとは、彼が主張の有力なる根拠であつた。彼の主張は慥かに有力で、見様によつては西班牙の夫に優るとも謂はれた。
 西班牙とブラジルとが未だ存在せざる椅子を狙つて、暗闘しつつあつた間に、世の中は進むでロカルノ条約の成立となつた。玆に又同条約の成立に貢献せることの大なるを自覚する波蘭は、其功に面し常任理事国に指定せらるるの内諾、若くは黙諾を英・仏両外相より得たりと了解し得べき事由があつた様子である。ロカルノより空手で帰国せる同国外相は、やがて聯盟に於て一種の満足を波蘭に提供せらるべきを信ず、と云ふて不満の国民を慰めたのであつた。
 斯くて未だ生れざる娘に対し、婿の候補者として西班牙・ブラジル・波蘭の三国が現はれた、猶他にも現はれさうであつた。同じく非常任国の故参たる白耳義は、世界大戦の当初、社稷を賭して聯合同盟側に
 - 第37巻 p.34 -ページ画像 
附て、奮闘したるのみならず、戦後に至つてもライン占領軍を出し、対独賠償問題に就いては有力なる估券の持主として、大使会議及最高会議に参列し、戦争善後問題に参画し来つたのである。大戦争及戦後の平和問題に斯くも縁故深き白耳義が、大戦の中立国たりし西班牙に常任理事国の椅子を横取りせられて晏如たるを得るであらうか。何と言つても国際聯盟は大戦争の賜物ではないか。果然白耳義は常任国たるを得るものは、世界五・六の大国に限らるべきものと遠慮して黙し来つたが、西班牙やブラジルや新興の波蘭にまで、此椅子が与へらるるとせば、我国も亦之を要求せざるを得ないと言ひ出した。
 総ての問題中、其問題が議事者の身上に係るものほど、解決しにくいものはない。況んや其関係議事者が多数に上り、其間互に競争するものに至つては、殆んど手の付け様がなくなるものである。曩には国際紛争の大問題にして、最高会議が持て余したるシレジア問題までも立派に解決して世界の驚嘆を博したる聯盟理事会は、今や理事会組織変更の問題に逢着し、理事会内鮮くも三個国の競争するあり、外にも虎視耽々たる波蘭の如きがある在り、知らず如何なる活劇を演ずるにやと、世間一般は至大の興味を以て、或者は昂奮を以て之を注視して居つた。
一九二六年(大正十五年)三月初旬、独逸の聯盟加入問題を議するため、臨時総会が召集せられた。独逸の聯盟加入は誰も反対するものはなかつたが、独逸の聯盟加入は次で直ちに常任理事国増員問題を伴ふことは前述の通りである。西班牙・ブラジル・波蘭等が日頃待ち構へたる常任理事に昇任するの希望を実現するの好機は、同時に到着したものと思つたのも、誠に是非なき次第であつた。
 此の難問題が理事会に横はつた時の理事会議長は復も我輩の番に廻はつて来た。我輩は約四十年の外交官生活中、此時の議長ほど骨の折れた事はなかつた。初理事会は定期に依り三月四日に之を開き、一二の討議を以て独逸の加入に関する手続を完了し、次で常任理事国定員一名増加の議を決して之を総会に諮り、其過半数の同意を経て理事会は直ちに独逸を常任理事国と指定する積りであつた。若し独逸以外の国を常任国とするの議が出たら、其時適宜の決議を為すとして兎も角三日あれば万事が纏る筈と予定し、偖は三月八日を以て臨時総会開会日と極め、一方独逸に対しては理事会及総会に於ける手続の済み次第即日聯盟に加入し、総会及理事会の議に参加し得るため三月八日までに寿府に代表者を送られたしと申込み、独逸は此非公式案内に依つて首相・外相及多数の随員を期日までに、寿府へ送つたのであつた。
 然るに一たび理事会が開かれて見ると、議論は忽ち百出して紛糾、果しは無くなつた。会議は勿論秘密会として、各理事の外事務総長一人に限られ通訳官さへも除かれた。連日の秘密会は午前・午後とも開かれ、時に晩餐後に第三回会議を開いた事もあつたが、夫にも拘らず三月八日になつても更に進捗を見ない。臨時総会の各国代表は出揃つたが、会議は開かれない。総会は例に依り理事会議長が開会を宣するのだから、我輩は議長として四方八方より、質問督促を受くること矢の如くであつた。日本と同じ旅館に乗込める独逸首相・外相等は、流
 - 第37巻 p.35 -ページ画像 
石に口外はしなかつたが、我輩としては居催促をされる様な感があつた。理事会は大車輪で討議を続けたが、論ずれば論ずるほど難境に深入するばかりであつた。抑理事会の議事は、全会一致を要し、一員のノウで全部瓦解するのだから、通過したる決議に大なる権威あらしむる代りには、決議に達するまでが困難である。今や自称常任国候補者は孰れも自国の主張に背反するの嫌ある案に対して、ノウと断言するに躊躇せざるの決心を有し、少しも遜譲の気色を見せなかつたから、難局に陥つた議事は出口を失ひ、発展の途はなくなつた。独逸が聯盟に加入し、次で常任理事国たるは何人も異議なき所であつたが、西班牙は若し同時に自国も常任理事国たるを得ずむば、聯盟を脱退するの決意あるを仄かし、ブラジルも亦西班牙と同時に常任国となるなら格別、左もなくば聯盟脱退の勢をなして来た。西・伯両国の顔を立てれば、波蘭の希望と白耳義の言分を無視する訳には行かぬ破目となつて居つた。独逸と合せて西・波・伯・白の四国を常任国とすれば、常任理事国は現在の四国から一躍九個国となり、此に今後加入を見込むべき米・露を加算すれば、十一個国となる。さうなると常任国と非常任国との権衡が取れなくなるから、自然非常任理事国も現在の六国に四五個国を加へて、十個国又は其以上とせざるを得ざるに至るは必然である。玆に於て聯盟理事会は二十余国より成る大会議体となるべく、斯くて理事会は第二の総会と化し了り、議事の迅速と円満とは望み得られざる結果となる、夫は是非共避けざる可らずとは理事会のみならず総会の輿論である。加ふるに総会側にては今次理事会討議の内情を伺ひ知つてより、今は利己の念を棄てても聯盟全体の無難を図らざるべからざるの時機到れりと為し、常任理事国は大国に限ることとし、其代りに非常任理事国の数を今一層増加して、此局を結ばしめむとの説熾んなるに至つた。
 理事会は終に、今回の会議に於て突発したる一般的理事会組織問題を議了し能はずとして、之を一の委員会に付託し、同委員会をして来る九月の総会までに報告書を提出せしむることに一決した。即ち西班牙・ブラジル・波蘭・白耳義四個国の常任理事国候補問題は、其儘半歳延期せられた訳である。此決議は我輩より理事会の名に於て、総会に提議することとなつた。勿論独逸の関する限り何国にも異議がなかつたから、規定の手続を経て其聯盟加入は承諾せられ、次で独逸は理事会の指定に依り常任理事国となつた。
 前段の決議は、西班牙の聯盟脱退を賭して為されたもので、万已むを得ざるに出でたのである。果然西班牙代表は理事会席上に於て、本国政府の電訓なりとて聯盟脱退の通告を為した。次でブラジルが此場合如何なる態度に出づべきやは、討論中何等明示は無かつたが、西班牙の宣言ありて後、ブラジルも亦脱退を宣言したのは寔に遺憾の次第であつた。斯くて聯盟は一方独逸の加入に満足を得て、他方西・伯両国を二年後に失ふの失望を買つた訳であつた。○下略