デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第37巻 p.181-186(DK370038k) ページ画像

昭和2年11月12日(1927年)

是日、当協会理事会主催、国際経済会議参列員志立鉄次郎他二名及ビ随員招待帰朝歓迎午餐会、生命保険会社協会ニ開カレ。栄一出席ス。午後、当協会会員主催同歓迎茶話会、同所ニ開カレ、引続キ出席ス。


■資料

国際聯盟協会書類(三) 【(控) 昭和二年十一月五日】(DK370038k-0001)
第37巻 p.182 ページ画像

国際聯盟協会書類(三)          (渋沢子爵家所蔵)
(控)
  昭和二年十一月五日
                  国際聯盟協会々長
                      渋沢栄一
拝啓、本年五月ゼネバに開催の国際経済会議に参列の志立・上田・佐藤代表外随員諸氏は、大部分帰朝せられたるを以て、其労を謝する為め、来る十一月十二日正午丸ノ内保険協会に於て、理事会歓迎午餐会を開催致し、引続き午後二時より同所に於て協会会員主催歓迎茶話会を開催可致候に就ては、御繁用中再々の御会合にて誠に御迷惑の儀とは拝察仕候得共、御繰合御臨席の栄を得度、此段御案内申上候 敬具
 追而乍御手数御出席の有無、折返し御回報被成下度候


社団法人国際聯盟協会会務報告 昭和二年度 同協会編 第一六頁昭和三年五月刊(DK370038k-0002)
第37巻 p.182 ページ画像

社団法人国際聯盟協会会務報告 昭和二年度 同協会編
                       第一六頁昭和三年五月刊
    八 招待会
○上略
 十一月十二日 丸の内保険協会に於て国際経済会議出席の志立鉄次郎氏・佐藤寛次氏・上田貞次郎氏外随員諸氏を招待し、午餐会を開催渋沢会長外理事等十五名出席、引続き午後二時より会員主催の歓迎茶話会を開催、出席者五十余名。
○下略


国際知識 第八巻第一号・第一四一頁昭和三年一月 ○本協会ニユース(十一月中)(DK370038k-0003)
第37巻 p.182 ページ画像

国際知識 第八巻第一号・第一四一頁昭和三年一月
 ○本協会ニユース(十一月中)
十二日 経済会議代表志立鉄次郎氏等の招待午餐会を保険協会に開き続いて歓迎講演会を催した。
    講演者 志立鉄次郎氏・佐藤農学博士・乾精末教授



〔参考〕国際知識 第七巻第九号・第一三一頁昭和二年九月 ○本協会ニユース 国際聯盟協会第十一回聯合会(DK370038k-0004)
第37巻 p.182-183 ページ画像

国際知識 第七巻第九号・第一三一頁昭和二年九月
 ○本協会ニユース
    国際聯盟協会第十一回聯合会
 右は五月二十六日より同三十一日まで六日間ベルリンに開会し、本邦協会代表志立鉄次郎(首席)・福島繁太郎・古垣鉄郎・稲垣守克・乾精末・永井亜歴山の諸氏は、夫々総会の経済・政治・少数民族・内部問題・教育宣伝委員会に列席した。
 (尚総会開会前、五月二十日には聯合会の二常設委員会、二十五日には聯合会幹部会及理事会開かれ、稲垣氏出席した。)
 今回の総会に関し、独逸政府、伯林・漢堡の両市及諸新聞紙の力瘤の入れ方は大したもので、歓迎に、宣伝に、案内に頗る努むる所があつた。国会議事堂に於ける開会式にはマルクス首相の演説、独逸の聯盟協会晩餐会にはストレーゼマン外相の歓迎演説あり、伯林市庁に於ける歓迎会にては伯林市の更生を述べ、世界の協力を論ずるシヨルツ
 - 第37巻 p.183 -ページ画像 
市長の演説があつた。六月一日には漢堡市が特に一行を迎へて港の見物をさせた、蓋し同港の設備を知らしむる趣旨らしかつたとのことである。
 総会が決定した事項は、例によつて相当多数に上る見込みであるが稲垣嘱託よりの略報に依り、取り敢へず我々に直接関係のあるものを二・三摘要すれば
 (一)次の理事会は来る十月三日頃、ブルガリアのソフイアにて開くことゝなる。
 (二)分盟問題は、殆んど我協会の案と同一趣旨にて、分盟反対と決す。
 (三)国際労働機関のことを、もつと学校方面に宣伝するの要あること。
 (四)移民問題を徹底的に研究し、国際聯盟及労働機関の活動を促すこと。
 等であるが、尚外にも
 (一)各国協会に政府が補助金を出すやう、聯合会で決議しやうとしたのは、未決定の儘のこされた。
 (二)囚人取り扱ひの改善案は修正可決。
 (三)聯盟理事会の会合、年四回を三回にすることには反対の意見を表明した。
 (四)学芸協力委員会の存在及目的を学校で教育せよとか、聯盟事務局内に教育部を設けよとか、教育宣伝に関する幾多の提案は延期
 (五)少数民族問題は例によつて沸騰。
 (六)軍縮其他お座なりの決議多々ある様子なり。
 尚総会は緊急動議に依り、西班牙及ブラジルの両国が国際聯盟を脱退せざる様希望する旨宣言した。



〔参考〕財団法人啓明会第二十四回講演集 同協会編 第四―一一頁昭和三年二月刊 【国際経済会議に就て 前国際経済会議日本代表 志立鉄次郎君】(DK370038k-0005)
第37巻 p.183-186 ページ画像

財団法人啓明会第二十四回講演集 同協会編 第四―一一頁昭和三年二月刊
    国際経済会議に就て
               前国際経済会議日本代表 志立鉄次郎君
○上略
 ヨーロツパ戦争後、経済方面の最も重要なる会議は、千九百二十年にブラツセルに開かれましたる財政会議でございます、是は国際会議とは申しまするものゝ、丁度此度の経済会議と同様、政府を代表したる者の集りではなくして、各国識者の会合でありまして、意見の交換を行ひ、之に依つて各国の苦しんで居る財政並に貨幣問題の解決を図つたのであります、当時ヨーロツパ其他の諸国が最も苦んで居つたのは、財政の均衡を得ざることと貨幣の価値の下落であります、之を処理せざれは経済の基礎は立たない、此二つは経済の根底となる問題でありますが故に、国際聯盟は先づ以て之に指を染めたのでございます其集会は前に申上げたる如く、各国政府を代表したものではなく、随つて其決議を直に実行する段取りにはなりませぬでございましたが、此会議が根底となつて、爾来諸国の貨幣が安定を得、財政が整理せられることに相成つたのでありまして、今日では戦争直後に人々の心配
 - 第37巻 p.184 -ページ画像 
したるが如き、財政と貨幣の困難はなくなつて居ります、素より両者とも未だ完全の域に達したとは申せないのでありまして、貨幣で申しますと、ヨーロツパ二十七国の中で尚ほ完全に安定を得ない国が九つございます、併し其中で最も人々の心配して居る国は、イタリーとフランスでありまして、其他の国は心配する値打のない小さい国であります、要するに貨幣問題は略々実際的に安定を得て居ります、財政に於きましても、歳出・歳入の均衡を得、公債の収入を以て歳出を償ひ或は中央銀行より金を借りなくとも、年々の財政計画を立てることが出来る状態に進みました。
 然るに一般経済問題となりますと云ふと、是等財政並に貨幣問題と違ひまして、寧ろ個人的関係の深い問題でございます、其問題が多岐多様に亘りまするのみならず、頗る解決に困難な事情のある種類の問題が多いのでございまして、国際聯盟も之に指を染めて、国際的に解決を図ることには余程躊躇して居つたのであります、国際聯盟に二つの経済的委員会がございます、即ち財政委員会と経済委員会でございます、財政委員会の方に於きましては、オーストリヤ、ハンガリーの財政の根本的整理、或はギリシヤ、ボルガリヤの財政の援助と云ふ如き、頗る有益なる功績を挙げて居ります、経済委員会の方に於ては、財政委員会程勇敢でなく、部分的問題に指を染めて解決を図つて参つたのであります、例へば商業調停問題の如き、関税手続簡捷問題の如きが、其主なる仕事でありますが、どうしても国際的に経済問題を解決せざる以上は、世界の平和を維持して国際聯盟の目的を達することは困難である、仍て各国の学者・理想家中、国際経済会議の必要を唱へる者多きのみならず、実際問題としても其必要が段々迫つて居つたのであります、例へばオーストリヤ、ハンガリーの如き、従来政治的には一致を欠いて居つた国柄でありましたけれども、経済的に申しますと殆ど理想的に出来て居つた国であります、一つの経済的単位をなして居りまして、其原料の豊富なる点、鉄道水運の便利なる点、又其生産品の販路の広い点等に於て、殆ど理想的な一単位でありまして、是が一国となつて産業を進めて居つたならば、単り其本国の為めのみならず、他のヨーロッパ諸国の為にも大に便益であつたに相違ない、然るに是が瓦解しまして、一つの国が七つに分れ、其分れた国が各々高い墻壁を築いて互に相凌ぎ、他国の物資を排斥して自国生産品の販路を広めんとするのみならず、其中間を流れて居るダニユーブ河の如き、分割されたる国々が関門を設けて、他の国の通商の邪魔をする、斯う云ふことに相成りまして、殆ど戦国状態を現はして居るのであります、是等が国際経済会議の必要を促したる適切な実例の一でございます、其他の国々の状態を見ましても、之に類するものが沢山ございます、斯くの如く実際の必要と識者の理想とが次第に接近するに至り遂に一昨年の九月に国際聯盟の総会に於て、フランスの代表者に依つて国際経済会議開催の議が提案せられ、聯盟総会の可決する所なり、昨年中会議の準備に従事せられまして、本年の五月四日より愈々之を開くことゝ相成つたのでございます、是が開会の由来の大体でございます。
 - 第37巻 p.185 -ページ画像 
 其目的は何処にあるか、其由来を考へて見れば目的も自ら分る訳であります、戦争後政治的には平和を達成致しましたけれども、経済的には未だ平和の域に達して居らない、各国が出来るだけ他国の貿易を壊して、自国の製品の販路を広めむとする政策を互に取り来つて居る斯様な状態が続く間は到底平和を達成することは出来ない、現実他国の物資を排斥して、自国の産業貿易を増進することは、不可能であることを体験するに至り、各国の学者・経験家の討議に由つて、各国の執るへき経済政策の主義を協定し、世界の空気を転換せんとすることが会議の目的でありまして、即ち協同一致して今日の困難なる状態より諸国の経済界を救治し、人類全体の幸福を進めやうと云ふことに外ならぬのでございます、此目的を基調として議案が作られた訳でありまして、昨年の準備委員会に於て研究の結果、議案を作り前以て各国政府に配付せられ、各国の政府は適当と信ずる者を其国の代表者として会議に臨ましめ、個人の資格を以て自由に意見を吐露せしめた訳でありまして、即ち各国の代表者は政府が之を任命致しましたけれども政府の政策を代弁する者でなく、国家の利益と信ずる自個の意見を、自由に陳述し得る立場に居つた者であります、会議に参加したる者は各国政府の任命したる代表者の外に、国際聯盟理事会が特に指名したる経済団体の代表者、並に会議の議長が特に招待したる若干の人々であります、現今国際協調を旨とする大きな経済団体が三つあります、それはヂユネーブの国際労働局と、ローマの国際農事協会と、そしてパリーに本部の在る国際商業会議所とであります、此三つは孰れも有力な団体であり、殊に今度の経済会議の開催に与つて効ある団体でありますから、是等からの代表的人物七名と、議長招待の者若干名とが加はり、総体百九十四名の代表者が集つた訳であります。国際聯盟に属して居る国々中の四十七国、及びこれに属せざるロシヤ、米合衆国トルコの三国、都合五十国が国として参加した訳であります。
 経済会議の議題は多分皆様御承知であらうと思ひますから、申し上げる必要はないと思ひますけれども、順序と致しまして其最も重要なるものだけを申上げると、一般的問題が三つあります、第一は各国の立場から見たる主要問題、第二は現在商業工業の混乱を来せる主なる原因の解剖、第三は世界の平和に影響を来すべき経済傾向、以上の三つが一般的問題であります。それから商業・工業・農業の三部に大別せられて居ります、商業の部に於きましては、第一に通商の自由、之には輸入・輸出の禁止、並に制限撤廃問題が含まれて居ります、商業の第二の問題は、関税及通商条約であります、第三は商業及運輸事業を保護する国家的間接手段、例へば直接・間接の補助金、ダンピングに関する法制の如き問題がそれであります、次に工業の部で大きい問題は、現在の各国工業の困難なる状態の研究、其救済方法、その内には工業の合理化、工業の国際的聯絡、工業に関する調査蒐集、知識交換問題が主なる項目であります、農業の部に於ては、農業の現状、其困難の原因、国際的行動の可能性、生産組合と消費組合との連鎖、農業信用問題、植物・動物の国際的保護、農業知識交換等が主たる項目であります、是等の問題に付きまして会員は、予め配付を受けた浩翰
 - 第37巻 p.186 -ページ画像 
な資料調査書類に基き、各自研究を遂げて出掛けたのでありますが、全会員を各自の希望に従ひ、商業・工業・農業の三部に分け、更に問題に由り小委員会に分つて研究致されました、集つた者には政治家もあれば生産業者もあり、鉄道・海運等交通方面の実際家もあり、労働者の代表的人物も居りますれば、消費方面の代表的人物も居りますし農業経営者も居れば経済学者も居りますし、経済学者の中には自由貿易論者も、保護貿易論者も居るし、殆ど有りと有ゆる方面を代表する人々の集りでありました、問題が既に多岐であります上に、集つて居る人々の顔振が右様頗る多様である、其上に各国の立場よりして各々議論を致すのでありますから、其議論の一致を見ることの困難なるは想像の出来ることでございます、私の如き国際会議に不馴れの者は、果して是が纏るかと当初に於て心配致しましたが、会議の目的たる国際的共存を遂げんとする望熟の精神が、会議の進むと共に益熾盛に赴き、非常な真面目と勉強とを以て論議を尽し、遂に三週間の後結論に達して、予想以上の立派なる報告書を発表することを得たのであります。
○下略
   ○右ハ昭和二年十一月五日、日本赤十字社講堂ニテ行ハレタルモノナリ。