デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正12年9月（1923年）

是月以降、関東大震火災ニ対シアメリカ合衆国及ビ其他ノ国ノ栄一ノ関係団体及ビ友人ヨリ、栄一ニ見舞及ビ災害救援ノ申出アリ。栄一其都度其厚意ヲ謝シ、希望ヲ回答ス。

71．　孫文

（孫文）書翰　　渋沢栄一宛（中華民国）一二年九月二一日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
渋沢栄一閣下比聞
貴国地震海嘯遂成巨災同種比鄰之邦交遊宅居之地罹玆惨変恫悼逾恒文自戦地帰来留意訊訪幸摯友良朋尚慶無恙懸情之恫差用軽減想展偉略紓宏規指顧之頃頓恢旧観特脩寸箋遥寄
侍右敬候
興居并祝
平安
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　孫文　九月廿一日
（右訳文）
謹啓、今回貴国ニ於テ地震海嘯ノ巨災突発致シ候由承知致シ、同種比鄰ノ邦土ニシテ交遊宅居セシ地区カ斯ル惨変ニ罹リタル事、寔ニ恫悼ノ情禁シ難ク候、小生戦地ヨリ帰着シ彼此聞キ合セ候処、幸ニ知己友人ノ恙ナキ事ヲ知リ幾分心痛ヲ軽減致シ候、如メシ大計画大規模ノ下ニ遠カラサル内ニ旧観恢復セラルベキ事ト存候、特ニ書面ヲ裁シ遥ニ左右ニ呈シ御近況伺上ケ、併セテ御平安ヲ祝シ候　敬具
　　九月廿一日　　　　　　　　　　　　　　　　　　孫文
　　　　渋沢子爵閣下

渋沢栄一書翰控　　孫文宛大正一二年　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　[img　図]栄一
拝復、九月二十一日付御懇書難有拝見致候、然ハ今般之災害ニ付深甚之御同情を得、且御懇篤なる御慰問に預り深謝之至に御座候、幸に国民一同聊かも元気沮喪不致して、復興に努力致居候間御省念被下度候
当日出勤致居候兜町拙者事務処は、激震の為め崩壊致候へとも、小生は微傷をも受けず脱出致、爾来何の障りも無之、当面之急務たる罹災民の救助と罹災地復興之為努力致居候、事務処は地震に引続きたる大火の為め全焼し、飛鳥山拙宅は大破損を来し関係諸事業亦多大の打撃を受け候へとも、意気衰耗等之事無之、不相変努力罷在候間、何卒御安神被下度候
右貴答旁如此御座候　敬具
　　大正十二年　月　日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　孫文閣下