デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
7節 其他ノ資料
3款 其他外国関係資料
■綱文

第40巻 p.534-535(DK400161k) ページ画像

昭和2年12月22日(1927年)

是日栄一、千九百二十八年度ノーベル平和賞授与適任者トシテ、ボーイ・スカウト創始者サー・ロバート・ベーデン・ポウエルヲ推薦シ、其推薦状ニ署名ス。


■資料

竜門雑誌 第四七二号・第一〇七―一〇九頁昭和三年一月 ○青淵先生説話集其他 推薦状(ノーベル平和賞)(DK400161k-0001)
第40巻 p.534-535 ページ画像

竜門雑誌  第四七二号・第一〇七―一〇九頁昭和三年一月
 ○青淵先生説話集其他
    推薦状(ノーベル平和賞)
 我等は満腔の熱誠を以て千九百二十八年度のノーベル平和賞を授与せらるべき最適任者として、スカウト運動の創始者サー・ロバート・ベンデン・ポウヱル氏を推薦す。
 スカウト運動の真精神は崇高なる人類愛に根柢を置き、国籍・宗教人種の異同を超越して真に全人類を暖かき兄弟愛によりて抱擁し、相互敬愛協力提携して恒久平和共存共栄の実を挙げんとするものなりとす、創始者に依り提唱せられてより以来玆に二十ケ年、現時国際的に相誓盟協同する国別実に四十二、其団員二百万を算するに至り、その真摯なる実行は年毎に共鳴理解を深めて驚くべき発展を示しつゝあり
 これ実にその教育法が個人的・社会的・国際的に亘りて如何に優秀なるかを雄弁に物語るものにして、然も純真にして陶冶性多き幼年期より始めて少年青年に及び、終生に亘りて一貫したる人格完成の教育を行ふが故に、常によりよき時代を憧憬し、来るべき時代の純化と人類平和の理想に向つて著々偉大なる建設をなしつゝあり。
 更に其教育は最も自由なる訓練法によりて個性の啓発・善導に努め常に新たなる独創に導くための心術両方面を具備調和するが故に、強健敦厚にして創意に富める有為有能の人材をその祖国に提供す。
 - 第40巻 p.535 -ページ画像 
 更に各国を通じて少年心理に立脚し、内容に於て一致したる誓約と心法とを自発的に遵守したる精神的集団として、特殊の団体組織による生活そのものを通じて、社会国家生活の真意義たる相互扶助・犠牲奉仕の徳性を体験涵養せしむるが故に、自覚せる祖国愛と純真なる兄弟愛より発する国際協調の真意義を如実に自得せしめ、未来に於ける争闘の絶滅を期す。
 常時連絡提携の途を講ずる外、千九百二十年以来二年毎に代表者の国際会議を開き、四年毎に団員の国際大集会を催し、盟約を同じうする兄弟愛の大理想を刻々に実現しつゝあり。
 今や我国に於ては七万の健児を擁し、平和にして強健有為なる市民として新しき時代の平和建設に奮闘努力する青少年を練成しつゝあり
 この優れたる実績に鑑み、世界平和運動の最も確実なる将来を思ひこの教育法の提唱者サー・ロバート・ベンデン・ポウヱル氏を敬重して、衷心よりノーベル平和賞を授与されんことを熱望す。
   本文推薦状の写は、昭和二年十二月二十二日午後一時頃伯爵佐野常羽氏丸の内事務所に来訪、懇切に本推薦状発送に関する手続を説明せられ、世界的の事業にして少年団関係たるに付曾て二荒伯より市内富豪よりの寄附金勧募の件を依頼し、之れが取扱中にもあれば公に本状の推薦者の一員たらん事を懇請せられ、既に外務省に於る関係の人々とも協議の由をも附言せられたるにより、直に来意に同意して本状に記名して返却せり、其推薦者の連名は予・林博太郎・小村欣一・後藤新平・新渡戸稲造・沢柳政太郎の六名なりと云ふ(青淵先生附記)
粛啓
 閣下御駐箚の瑞典国アルフレツド・ノーベル氏提供ノーベル賞金千九百二十八年度平和賞に関し申進度、曩に英国陸軍中将サー・ロバート・ベンデン・パウエル氏に依り提唱せられたるボーイ・スカウト教育法は、過去二十ケ年間公民としての青少年の心身の訓練並に国際間の四海同胞主義の実行により、著々第二国民をして共存共栄の信念を確保せしめ顕著なる発展を示したるは、畢竟人類平和に対する同氏卓見の然らしむる所にして、我国に於ける該教育法も逐年発達して其実績頗る見るべきもの有之候。
 玆に提唱者に対して敬重の意を表し、平和賞を授与せらるべき適任者と認め、別紙の通推薦状を同賞金審査委員会に提出致度、乍御手数翻訳文添付提出方何卒可然御取計の義御依頼申進度、此段得貴意候
 (外務省宛)                  敬具
 追て推薦状の義は二月一日迄に提出すべき規定に相成居候趣に付ては、差迫り甚だ恐縮の至りに候得共、右御含の上前顕宜敷御取計被下度、此段併て御依頼申進候