デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

4章 道徳・宗教
1節 儒教
13款 手写論語
■綱文

第41巻 p.289-291(DK410074k) ページ画像

昭和2年7月(1927年)

是月栄一、手写ノ論語十巻二冊ヲ玻璃版ニ複製シテ、知人ニ頒ツ。

   ○本書ハ玻璃版十巻上下二冊

     上、巻一ヨリ巻六マテ六〇枚

     下、巻七ヨリ巻一〇マデ四四枚

    装釘 和装、大サ美濃紙判、表紙康熙綴

    匡郭 四周単辺 一頁八行 一行一二字詰

    版心 晩香書屋

    題簽 論語

    奥書 大正十五年十月渋沢栄一書

    帙  縹色布地 牙籤 題簽同ジ

    (複製版刊行ニ関スル奥付ナシ)


■資料

竜門雑誌 第四八一号・第一四六頁昭和三年一〇月 尊王心厚き青淵先生 阪谷芳郎(DK410074k-0001)
第41巻 p.289 ページ画像

竜門雑誌 第四八一号・第一四六頁昭和三年一〇月
    尊王心厚き青淵先生
                      阪谷芳郎
○上略先生が夙に孔子の教を尊崇し、常に論語を愛読して之が実行に力めらるゝことは、先生の行動上最も著明の事実なり。是を以て先生の手写せられたる論語・孝経の如きは、世人之を珍宝として秘蔵せり。
○下略


(山室軍平)書翰 渋沢栄一宛昭和二年七月一〇日(DK410074k-0002)
第41巻 p.289-290 ページ画像

(山室軍平)書翰 渋沢栄一宛昭和二年七月一〇日
                     (渋沢子爵家所蔵)
粛啓
益々御清穆奉賀候、陳者此度ハ閣下御自筆の論語御印行に相成候に付一部御割愛被下真に難有厚く御礼申上候、私自身の小き所信から申候
 - 第41巻 p.290 -ページ画像 
へば、論語は基督教の経典中旧約聖書と相並ぶべきものにて、新約聖書に於ける基督の教訓と事業とは更に之を完成するものなりと此様に相心得居候、是決して論語を軽んじての申分にあらず、唯新約聖書を一段と重要視するの意に外ならず候、随つて今も折々論語を取出して之を愛誦致し居候
もとより貧弱なる書架にて実用的の書籍の外殆んど何等の所蔵無之候処、唯先年奉天にて相求め候英訳の四書一部ハ、平生から珍重し居れるものゝ一つに有之、此度拝受致候御手写の論語は之と併せて長く家宝と致度と存じ、重ね重ね御礼申上候、それにしても閣下の御高齢を以てして此の御励精を見候こと全く驚嘆の至に御座候、私共の如き閣下が志を立てゝ郷里を御立出に相成候と同じ二十四歳乃時より救世軍に身を投じ、今年秋には三十二年に達し候得共、更に三十二年の努力を以てせずしてハ、唯年月の上から申上候とも閣下に追蹤するに足り不申、今更のやうに駑鈍に鞭ち候必要を覚え申候、それにしても神の御恩寵長く久しく閣下の上にあり、又其の御一家の上にあらむことを奉祈候、無遠慮に申上ぐることを許され候得者、私は今も閣下か論語に示されたる敬天の御信念より、更に新約聖書に教へられたる天父を愛するの御経験に御進み被下候ことを日々真実を籠めて祈り居るものに候、御手写の論語を拝受して感激に堪へず、御礼旁々此様なこと迄申上候、失礼の段ハ平に御容赦奉願上候 敬具
  昭和二年七月十日
                       山室軍平
    渋沢子爵閣下


(増田義一)書翰 渋沢栄一宛(昭和二年)七月一〇日(DK410074k-0003)
第41巻 p.290 ページ画像

(増田義一)書翰 渋沢栄一宛(昭和二年)七月一〇日
                     (渋沢子爵家所蔵)
粛啓
炎熱相増し候処不相変御健祥為邦家奉大賀候、然ば過日ハ弊社創立三十周年記念之祝賀会へ御光臨被下、過分の御賞賛蒙り毎度御芳情之段衷心より深く感激罷在候、其翌日早速事務所へ伺候致候処御不在に付秘書の方へお礼の伝言を依頼して引取申候、玆に重ね又御礼申上候、却説御揮毫に係る論語印本上下二巻御恵送に預り御厚志難有奉感謝候御高齢殊に御多忙中にも拘はらず、論語全部御揮毫被遊候御熱心と御根気とには深く敬服致候、御筆跡の雄健なる一字一句御精神が籠り居実に貴重なる作品と奉存候、家宝として永久珍蔵可致、長男ハ幸ひ帝大国文科に在学致居、明年卒業之筈にて卒業論文には「義士の研究」を発表するやに申居候、此御恵送之論語を痛く喜び居候、小生之死後は長男必ず珍蔵可致候、乍他事一寸申添候、先ハ右御礼申上度如斯候
                          敬具
  七月十日                   義一拝
    渋沢子爵
      閣下


(奥山清治)書翰 渋沢栄一宛昭和二年七月一一日(DK410074k-0004)
第41巻 p.290-291 ページ画像

(奥山清治)書翰 渋沢栄一宛昭和二年七月一一日
 - 第41巻 p.291 -ページ画像 
                     (渋沢子爵家所蔵)
拝啓
向暑の砌御変りもあらせられず候こと奉大賀候、然ば去土曜貴事務所より貴写の論語一帙を寄せらる早速通覧致し候
白点なるにより読下ること困難なるもあちこち親しみのある句あり、大に記憶を新に致し候、子爵が論語に造詣深く其実践の点に於て久しく吾人の亀鑑なる処、計らざりき今眼前此事実写に接せんとは
曩には住吉百首の御恵賜をうけ今亦此貴写に接す、何等の幸ぞ感謝罷在候、子爵が去秋休戦記念日ラデイオ放送の節、聯盟生活に恕の必要を説述せられたるを聞き首肯したりしが、今回軍縮会議の近状を見て益此感を深ふす、実に恕は人類共存の基調なる哉
子爵が国際聯盟関係の諸会に於て、常に聯盟に関する無知識を口にせらるゝを耳にする小生は、過般青淵回顧録所載の子爵が帰朝後間もなく大蔵省に於て大久保卿に進言せる新知識振に想到し、其洋行帰のハイカラ(当時ソンな詞なかりしなるべし)姿がつらつき申し候、妄言小生は論語中の巧言令色鮮矣仁を信条とするものに有之候、玆に御厚礼申出ると共に小生亦論語の一句なりとも体現せんとするものなるを附記し擱筆致候 匆々不尽
  昭和二年七月十一日
                        奥山清治
    渋沢子爵殿
         坐下
   ○右ノ外、筆写論語寄贈ニ対スル礼状(八十九通)ハ「総長御筆写になる論語寄贈に対する礼状」(渋沢子爵家所蔵)中ニアリ。