デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

4章 道徳・宗教
4節 キリスト教団体
1款 救世軍
■綱文

第42巻 p.105-107(DK420021k) ページ画像

明治44年11月25日(1911年)

是日栄一、当軍月島労働寄宿舎開所式ニ臨ミ演説ス。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四四年(DK420021k-0001)
第42巻 p.105 ページ画像

渋沢栄一日記 明治四四年         (渋沢子爵家所蔵)
十一月二十五日 曇 軽寒
○上略午後二時月島ニ抵リ、救世軍ニ於テ新設セシ労働寄附舎開業《(宿)》ノ式ニ出席シ、一場ノ演説ヲ為ス○下略


渋沢子爵と救世軍 山室軍平稿(DK420021k-0002)
第42巻 p.105-106 ページ画像

渋沢子爵と救世軍 山室軍平稿         (財団法人竜門社所蔵)
 - 第42巻 p.106 -ページ画像 
○上略
一、同年○明治四年十一月二十五日、月島労働寄宿舎の開所式に臨み、左の演説をなされたり。
   石黒男爵がブース大将歓迎の事を言はれたるが余も亦其一人なりき。而して救世軍の事業には、断ず多大の感謝を献げ居る者なり。先日各地の事業を参観する様招待を受けたるが、大将の事業が世界各国に及べることは、英国の領土が世界の各地に跨れるが如し。凡て国家は、其国体若くは政体の如何に関らず、利用厚生の道を講ずる者にして、其結果利益も多けれど又弊害もなき能はず、即ち優勝劣敗の結果甚しき貧富の懸隔を生ずるは其一也。欧洲諸国は今や其極に達す、我日本は未だ其程には至らず、又将来に於ても甚しからざらんことを望め共、之は寧ろ余儀なき事也。
  其方面にては余も東京市養育院の事業に関係し居れど、此種の救済は偶々惰民を生ずるの恐あり、「衛生は治病に優る」が如く、防貧は救貧よりも大切なり。余は此寄宿舎の如きは、其制度の最上なるものと思ひ、此意味より其発展を祝賀す。殊に肉体上の働き丈にて生活するにては、感念が動き易し、此寄宿舎が精神上の感化を与ふるは最喜ばしきことなり。余は中央慈善協会の代表者として聊か祝意を表す。
○下略
   ○右ハ当資料編纂所ノ問合セニ対シテ昭和五年二月十一日付回答セラレタルモノナリ。欄外ニ「昭和五年二月十一日了 山室軍平」トアリ。
   ○以下本稿ニツキテハ右記ノ注記ヲ略ス。
   ○中央慈善協会会長トシテノ栄一ノ活動ニツイテハ、本資料第二十四巻・第三十巻所収「中央慈善協会」ノ条参照。


慈善 第三編第三号・第二九四頁明治四五年一月 救世軍月島労働寄宿舎開所式(DK420021k-0003)
第42巻 p.106-107 ページ画像

慈善 第三編第三号・第二九四頁明治四五年一月
○救世軍月島労働寄宿舎開所式 兼て京橋区月島に新築中なりし救世軍月島労働寄宿舎は、全部落成したるを以て、去る二十五日午後二時開所式を挙ぐるに至れり。これは東京市より特に貸与されたる二百八十五坪の敷地に、建坪二百六十余坪家屋を建築したる者にて、其建築費一万一千余円に対しては、内務大臣より下賜せられたる助成金の内より千五百円、万国本営より寄贈の四千九百十一円、三井家よりの寄附金一千円を加へ、尚万国本営より借入れたる金一千九百四十六円等を以て之に充て、尚其不足金は七百円なり。
座敷は階上階下各室十二畳敷にて、其外十畳の試験室、十四畳の病室の設けありて、優に百乃至百二十人の労働者を宿泊せしめ得る設備あり。其目的とする所は、労働者を宿泊せしめ、之を監督善導するにあり。
尚開所式の当日来賓中演説せられたるは、石黒男爵・渋沢男爵・床次内務次官等にして、石黒男爵は、壮年時代国事に尽力せらるゝ当時、神社仏閣に雨露を凌ぎし事よりして、労働寄宿舎に多大の同情を寄せる旨を語り、渋沢男爵は、近頃救世軍の事業の三・四箇所を視察して其の親切にして且つ事務的なるを深く感じたる旨を語られ、床次内務
 - 第42巻 p.107 -ページ画像 
次官は、救世軍が不幸なる同胞を肉体上のみならず、精神上より教化する事を満足に思ふ旨を述べられたり。又同日原田東京市助役は尾崎市長代理として臨席し、市長の祝辞を朗読し、山室大佐は大隈伯の書翰を朗読して閉会を告げ、終つて来会者は舎内を一巡し、茶菓の饗応を受けて散会したり。



〔参考〕救世軍二十五年戦記 山室軍平著 第四七―四八頁大正九年一一月刊(DK420021k-0004)
第42巻 p.107 ページ画像

救世軍二十五年戦記 山室軍平著 第四七―四八頁大正九年一一月刊
 ○附録 第一 救世軍の事業
    (三)労働寄宿舎の事業
「月島労働寄宿舎」は東京市京橋区月島通八丁目にあり。(電話京橋二八四〇)去る一年間の事業は左の如し
 一、前年末現在員        七一
 一、本年中の収容人員     二八三
 一、国許に帰らしめし数     七三
 一、他所へ送りたる数      五七
 一、病院に送りたる数       二
 一、無断退舎せし数       七八
 一、亡者の数           一
 一、定業に就かしめたる数    六三
 一、年末現在数         八〇
 一、日雇労働紹介延数  一四、五四七
 一、定雇稼業紹介延数   八、三九五